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電波ばく露による生物学的影響に関する評価試験及び調査 海外研究
電波ばく露による生物学的影響に関する評価試験及び調査 平成19年度 海外研究動向調査報告書 平成20年3月 総 務 省 目 次 緒言 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 1 Ⅰ 研究動向 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 2 1. 疫学研究 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 2 1.1 携帯電話の使用と頭頚部のがん ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 2 1.2 携帯電話の使用と精巣がん ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 9 1.3 職業的ばく露とがん ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 9 1.4 AM ラジオ放送電波へのばく露と小児の白血病及び脳のがん ・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 10 2. ヒト実験室研究 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 11 2.1 電磁過敏症 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 11 2.2 脳機能・認識への影響 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 12 2.3 睡眠への影響 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 14 2.4 神経行動学的影響 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 15 3. 動物研究 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 16 3.1 がん ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 16 3.2 遺伝毒性 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 17 3.3 生殖への影響 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 18 3..4 神経学的影響 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 19 4. 細胞研究 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 21 4.1 遺伝毒性 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 21 4.2 細胞の生育能力への影響 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 21 4.3 分子生合成への影響 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 22 4.4 細胞機能への影響 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 24 5. その他の研究 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 26 Ⅱ 国際機関・各国専門機関の報告書 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 28 Ⅲ 今後の研究課題 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 31 Ⅳ 参考文献 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 39 Ⅴ 参考資料 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 51 1. 世界保健期間(WHO) 基地局および無線技術に関する WHO ワークショップの討議のまとめ 2. 欧州委員会 新興・新規同定された健康リスクに関する科学委員会(SCENIHR) 電磁界のヒトの健康への影響に関する報告書 3. 欧州委員会 EMF‐NET 電磁界の生殖・生育に及ぼす影響に関する報告書 4. オランダ保健評議会 電磁界に関する年次報告書 5. スウェーデン放射線防護局 電磁界に関する独立専門委員会 電磁界と健康リスクに関する最近の研究についての年度報告書 6. アイルランド通信海洋天然資源省 電磁界の健康影響に関する専門委員会 電磁界の健康影響に関する報告書 7. 英国 移動体通信健康研究プログラム(MTHR) 最終報告書 8. フィンランド 移動体通信の健康リスク評価プログラム(HERMO) 最終報告書 9. 全米科学アカデミー 無線機器の潜在的生物学的・健康影響についての研究ニーズの同定に関する委員会報告書 緒言 電波の生体影響に関しては、過去半世紀に亘る研究蓄積があり、これらの知見に基づ き我が国の電波防護指針が制定され、国民への過剰な電波ばく露を防止している。しか し、近年急速に普及しつつある携帯電話端末や無線 LAN の使用は、一方では国民だれ もが電波の発信源を身近に有することに結びつく。これらの無線技術の発展には目覚し いものがあり、国民生活の質の向上に貢献する一方で、急速に普及し発展する無線技術 がもたらすかもしれない健康障害への懸念も存在している。この懸念は、我が国のみな らず世界の先進諸国でも同様であり、欧米を中心に、電波、特に携帯電話端末使用と健 康影響に関する研究が活発に行われている。そして、これらの研究を踏まえ、各国政府 あるいはこれに準じる機関はレビュー報告を行っている。 我が国でも 1997 年(平成 9 年)より生体電磁環境研究推進委員会を発足させ、種々 の研究を実施し、その研究結果を取りまとめて平成 18 年度末に総括報告を実施した。 しかし、当然ではあるが、国内外ではそれ以降も継続的に研究報告が行われている。そ こで、2007 年(平成 19 年)の海外の研究動向を把握し、今後の生体電磁環境研究のあ り方を検討するため、国内外における電波の生体影響に関する研究の動向調査を行った のでここに報告する。 1 Ⅰ 研究動向 本報告書では、電波の健康影響に関連する 2007 年に報告された研究動向を把握する ため、ドイツ・アーヘン大学付属病院生体電磁気相互作用研究センター(Femu)とド イツ無線通信研究協会(FGF)が共同で開設しているデータベース「EMF‐Portal」 (http://www.emf-portal.de/_index.php)を用いて文献検索を実施した。抽出された論 文のアブストラクトを検討し、主に無線通信や放送に用いられている帯域の電波 (300MHz~3GHz)の影響を調査対象とした。その結果、疫学研究 12 編、ヒト実験室 研究 16 編、動物研究 17 編、細胞研究 16 編、その他の研究 8 編が調査対象となった。 1. 疫学研究 疫学研究に関する 12 編のうち、携帯電話端末の使用と頭頚部のがんとの関連を扱っ た論文が 7 編(国際共同研究 INTERPHONE Study の一環として報告された原著論文 が 5 編、メタ分析論文が 2 編) 、携帯電話端末の使用と精巣がんとの関連を扱った論文 が 1 編、電離および非電離放射線への職業的ばく露とがんとの関連を扱った論文が 2 編、AM ラジオ放送電波のばく露と小児白血病および脳腫瘍との関連を扱った論文が 1 編であった。 1.1 携帯電話端末の使用と頭頚部のがん (1) Lahkola 等[43]は、INTERPHONE Study の一環として、デンマーク、フィンラ ンド、ノルウェー、スウェーデン、英国における、携帯電話端末の使用と神経膠腫の リスクとの関連についての症例対照研究(症例 1521/対照 3301)を実施した。全体 的な結果としては、携帯電話端末の定常的使用(週 1 回以上の頻度で 6 ヶ月以上にわ たって使用)に関連した神経膠腫のリスク上昇は認められなかった(OR(Odds Ratio、 オッズ比)=0.78;95%CI(Confidence Interval、信頼区間):0.68‐0.91)。携帯電 話端末の使用期間(0.5‐4 年、5‐9 年、10 年以上)、携帯電話端末を最初に使用し てからの年数(1.5‐4 年、5‐9 年、10 年以上)、累積通話回数(>2172 回、2172‐ 7792 回、7792 回<) 、累積使用時間(>125 時間、125‐503 時間、503 時間<)に 関するカテゴリー分類でも有意な関連は認められなかった。携帯電話端末の使用と腫 瘍の左右差(laterality)との関連については、10 年以上の携帯電話端末の使用に関 して、腫瘍発生側と同側で統計的に有意な若干のリスク上昇が認められた (OR=1.39;95%CI:1.01‐1.92)が、反対側では認められなかった(OR=0.98; 95%CI:0.71‐1.37)。この結果について Lahkola 等は、症例が腫瘍発生側と同側での 携帯電話端末の使用を過大に報告したことによる情報の偏り(information bias)の 2 影響かもしれないとしている。 (2) Klaeboe 等[40]は、INTERPHONE Study の一環として、ノルウェーにおける携 帯電話端末の使用と神経膠腫、髄膜腫、聴神経腫のリスクとの関連についての症例対 照研究(神経膠腫の症例 289、髄膜腫の症例 207、聴神経腫の症例 45、対照 358)を 実施した。全体的な結果としては、携帯電話端末の定常的使用(週 1 回以上の頻度で 6 ヶ月以上にわたって使用)に関連したリスク上昇は認められなかった(神経膠腫で は OR=0.6;95%CI:0.4‐0.9、髄膜腫では OR=0.8;95%CI:0.5‐1.1、聴神経腫では OR=0.5;95%CI:0.2‐1.0)。6 年以上の携帯電話端末の使用に関して、神経膠腫およ び聴神経腫では同様の結果が認められたが、髄膜腫でのみ例外的に OR=1.2; 95%CI:0.6‐2.2 であった。神経膠腫および聴神経腫では、定常的使用の期間、定常 的使用を開始してからの期間、累積使用時間に伴う増加傾向も見られなかった。 Klaeboe 等は、携帯電話端末の使用は神経膠腫、髄膜腫、聴神経腫のリスク上昇と関 連していないことを示していると結論付けた。 (3) Schlehofer 等[64]は、INTERPHONE Study の一環として、ドイツにおける環境 因子(携帯電話端末の使用を含む)と神経膠腫のリスクとの関連についての症例対照 研究(症例 97/対照 194)を実施した。この結果、携帯電話端末の使用に関しては、 使用歴あり(OR=0.67;95%CI:0.38‐1.19) 、使用期間 1‐4 年(OR=0.78;95%CI:0.40 ‐1.50) 、使用期間 5‐9 年(OR=0.53;95%CI:0.22‐1.27)のいずれのカテゴリー においても、リスク上昇は認められなかった。他の環境要因に関しては、継続的な騒 音(OR=2.31;95%CI:1.15‐4.66)および花粉症(OR=2.20;95%CI:1.09‐4.45) について有意なリスク上昇が認められた。 (4) Hours 等[26]は、INTERPHONE Study の一環として、フランスにおける携帯電 話端末の使用と神経膠腫、髄膜腫、聴神経腫のリスクとの関連についての症例対照研 究(神経膠腫では症例 96/対照 96、髄膜腫では症例 145/対照 145、聴神経腫では 症例 109/対照 214)を実施した。全体的な結果としては、携帯電話端末の定常的使 用とリスク上昇に関連したリスク上昇は認められなかった(神経膠腫では OR=1.15;95%CI:0.65‐2.05、髄膜腫では OR=0.74;95%CI:0.43‐1.28、聴神経腫 では OR=0.92;95%CI:0.53‐1.59) 。ただし、長期間、長時間、高頻度使用者におけ る神経膠腫のリスク上昇についての全般的な傾向が観察された。 (5) Sadetzki 等[61]は、INTERPHONE Study の一環として、イスラエルにおける携 帯電話端末の使用と耳下腺腫のリスクとの関連についての症例対照研究(良性の症例 402 人、悪性の症例 58 人、対照 1266 人)を実施した。全体的な結果としては、携 3 帯電話端末の定常的使用と耳下腺腫のリスク上昇との関連は認められなかった(耳下 腺腫全体では OR=0.87;95%CI:0.68‐1.13、良性の耳下腺腫では OR=0.85; 95%CI:0.64‐1.12、悪性の耳下腺腫では OR=1.06;95%CI:0.54‐2.10)。腫瘍発生 側と同側での使用については、累積通話回数が最大のカテゴリー(OR=1.58;95%CI: 1.11‐2.24)および累積通話時間が最大のカテゴリー(95%CI:1.11‐2.24; OR=1.49;95%CI:1.05‐2.13)において、統計的に有意なリスク上昇が認められた。 腫瘍発生側と反対側での使用に関しては、リスク上昇は認められなかった。農村部の み、および農村部と都市部の両方での使用に関しては、ほとんどのばく露尺度につい てリスク上昇が認められ、累積通話回数が最大のカテゴリーでは OR=1.81; 95%CI:1.04‐3.14、累積通話時間が最大のカテゴリーでは OR=1.96;95%CI:1.11‐ 3.44 であった。この傾向は都市部のみでの使用については見られなかった。Sadetzki 等は、本研究の結果は携帯電話端末の使用と耳下腺腫瘍との関連性を示唆するもので あり、更なる証拠が利用可能となるまで、多くの専門委員会や政府が支持している予 防的アプローチ(precautionary approach)の使用を継続するよう推奨している。 (6) Hardell 等[22]は、携帯電話端末の長期使用と脳腫瘍との関連についての複数の疫 学研究をメタ分析を実施した。この結果、腫瘍発生側と同側での 10 年以上の使用と、 聴神経腫(OR=2.4;95%CI:1.1‐5.3)および神経膠腫(OR=2.0;95%CI:1.2‐3.4) に関するリスク上昇が認められた。 (7) Kan 等[37]は、携帯電話端末の長期使用と脳腫瘍との関連についての複数の疫学 研究をメタ分析した、携帯電話端末使用者における全体的なリスク上昇は認められな かったが、10 年以上の長期使用後の脳腫瘍のリスク上昇の潜在的可能性については、 今後の研究による確認を待つ必要があると結論付けた。 なお、国際がん研究機関(IARC)は 2007 年 12 月に、INTERPHONE Study に おける既刊の国別研究の結果の中間取りまとめを発表した。この内容を表 1 に示す。 4 表 1-1 INTERPHONE Study における既刊の国別研究結果のまとめ 神経膠腫 年齢 診断年 症例/対照 OR(95%CI)/症例数 定常的使用 OR(95%CI)/症例数 使用開始から 10 年超 OR(95%CI)/症例数 使用開始から 10 年超 腫瘍と同側で使用 OR(95%CI)/症例数 使用開始から 10 年超 腫瘍と逆側で使用 デンマーク Christensen et al, 2005 20‐69 2000‐2002 低悪性度: 81/155 高悪性度: 171/330 低悪性度: 1.08(0.58‐2.00)/47 高悪性度: 0.58(0.37‐0.90)/59 低悪性度: 1.64(0.44‐6.12)/6 高悪性度: 0.48(0.19‐1.26)/8 -- -- フランス Hours et al, 2007 30‐59 2001‐2003 96/96 1.15(0.65‐2.05)/59 46 ヶ月超 1.96(0.74‐5.20)/21 -- -- ドイツ Schuz et al, 2006 30‐69 2000‐2003 366/1494 0.98(0.74‐1.29)/138 2.20(0.94‐5.11)/12 -- -- ノルウェー Klaeboe et al, 2007 19‐69 2001‐2002 289/358 0.6(0.4‐0.9)/161 6 年超 0.8(0.5‐1.2)/70 6 年超 1.3(0.8‐2.1)/39 6 年超 0.8(0.5‐1.4)/32 スウェーデン Lonn et al, 2005 20‐69 2000‐2002 371/674 0.8(0.6‐1.0)/214 0.9(0.5‐1.5)/25 1.6(0.8‐3.4)/15 0.7(0.3‐1.5)/11 英国 Hepworth et al, 2006 18‐69 2000‐2004 966/1716 0.94(0.78‐1.13)/508 0.90(0.63‐1.28)/66 -- -- 2000‐2004 1522/3301 0.78(0.68‐0.91)/867 0.95(0.74‐1.23)/143 1.39(1.01‐1.92)/77 0.98(0.71‐1.37)/67 国 名 北欧合算 Lahkola et al, 2007 5 表 1-2 INTERPHONE Study における既刊の国別研究結果のまとめ 髄膜腫 年齢 診断年 症例/対照 OR(95%CI)/症例数 定常的使用 OR(95%CI)/症例数 使用開始から 10 年超 OR(95%CI)/症例数 使用開始から 10 年超 腫瘍と同側で使用 OR(95%CI)/症例数 使用開始から 10 年超 腫瘍と逆側で使用 デンマーク Christensen et al, 2005 20‐69 2000‐2002 175/316 0.83(0.54‐1.28)/67 1.02(0.32‐3.24)/6 -- -- フランス Hours et al, 2007 30‐59 2001‐2003 145/145 0.74(0.43‐1.28)/71 46 ヶ月超 0.73(0.28‐1.91)/15 -- -- ドイツ Schuz et al, 2006 30‐69 2000‐2003 381/762 0.84(0.62‐1.13)/104 1.09(0.35‐3.37)/5 -- -- ノルウェー 19‐69 2001‐2002 207/358 0.8(0.5‐1.1)/98 6 年超 6 年超 6 年超 1.0(0.6‐1.8)/36 1.1(0.6‐2.3)/17 1.2(0.6‐2.3)/18 0.9(0.4‐1.9)/8 1.3(0.5‐3.9)/5 0.5(0.1‐1.7)/3 国 名 Klaeboe et al, 2007 スウェーデン Lonn et al, 2005 20‐69 2000‐2002 273/674 0.7(0.5‐0.9)/118 6 表 1-3 INTERPHONE Study における既刊の国別研究結果のまとめ 聴神経腫 年齢 診断年 症例/対照 OR(95%CI)/症例数 定常的使用 OR(95%CI)/症例数 使用開始から 10 年超 OR(95%CI)/症例数 使用開始から 10 年超 腫瘍と同側で使用 OR(95%CI)/症例数 使用開始から 10 年超 腫瘍と逆側で使用 デンマーク Christensen et al, 2004 20‐69 2000‐2002 106/212 0.90(0.51‐1.57)/45 0.22(0.04‐1.11)/2 -- -- フランス Hours et al, 2007 30‐59 2001‐2003 109/214 0.92(0.53‐1.59)/58 46 ヶ月超 0.66(0.28‐1.57)/14 -- -- ドイツ Schlehofer et al, 2007 30‐69 2000‐2003 97/194 0.67(0.38‐1.19)/29 --/0 -- -- 日本 Takebayashi et al, 2006 30‐69 2000‐2004 101/339 0.73(0.43‐1.23)/51 8 年超 0.79(0.24‐2.65)/4 -- -- ノルウェー Klaeboe et al, 2007 19‐69 2001‐2002 45/358 0.5(0.2‐1.0)/22 6 年超 0.5(0.2‐1.4)/8 6 年超 0.9(0.3‐2.8)/5 6 年超 0.8(0.2‐2.5)/4 スウェーデン Lonn et al, 2004 20‐69 1999‐2002 148/604 1.0(0.6‐1.5)/89 1.9(0.9‐4.1)/14 3.9(1.6‐9.5)/12 0.8(0.2‐2.9)/4 1999‐2004 678/3553 0.9(0.7‐1.1)/360 1.0(0.7‐1.5)/47 1.3(0.8‐2.0)/31 1.8(1.1‐3.1)*/23 1.0(0.6‐1.7)/20 0.9(0.5‐1.8)*/12 国 名 北欧合算 Schoemaker et al, 2005 *使用開始からの年数ではなく使用年数で分析 7 表 1-4 INTERPHONE Study における既刊の国別研究結果のまとめ 耳下腺腫 年齢 診断年 症例/対照 OR(95%CI)/症例数 定常的使用 OR(95%CI)/症例数 使用開始から 10 年超 OR(95%CI)/症例数 使用開始から 10 年超 腫瘍と同側で使用 OR(95%CI)/症例数 使用開始から 10 年超 腫瘍と逆側で使用 イスラエル Sadetzki et al, 2007 18+ 2001‐2003 全体 460/1266 良性 402/1072 悪性 58/294 全体 0.87(0.68‐1.13)/285 良性 0.85(0.64‐1.12)/252 悪性 1.06(0.54‐2.10)33 全体 0.86(0.42‐1.77)/13 全体 (定常的使用に限定) 1.45(0.82‐2.57)/13 全体 1.60(0.68‐3.72)/10 良性 1.97(0.81‐4.85)/10 全体 0.58(0.15‐2.32)/3 スウェーデン、デン マーク Lonn et al, 2006 20‐69 2000‐2002 良性 112/321 悪性 60/681 良性 0.9(0.5‐1.5)/77 悪性 0.7(0.4‐1.3)25 良性 1.4(0.5‐3.9)/7 悪性 0.4(0.1‐2.6)2 良性 2.6(0.9‐7.9)/6 悪性 0.7(0.1‐5.7)1 良性 0.3(0.0‐2.3)/1 悪性 --/0 国 名 8 1.2 携帯電話 端末 の使用と精巣がん Hardell 等[21]は、スウェーデンにおいて携帯電話端末(アナログおよびデジタ ル)およびコードレス電話の使用と、精巣がんのリスクとの関連についての症例 対照研究(精上皮腫の症例 542、精上皮腫以外の症例 346、対照 870 人)を実施 した。この結果、携帯電話端末やコードレス電話の使用が精巣がんのリスクを高 めることを示す証拠は認められなかった。 1.3 職業的ばく露とがん (1) Karipidis 等[38]は、オーストラリアにおける電離放射線、紫外線(UV)、電 波および超低周波(ELF)電磁界への職業的ばく露と、非ホジキンリンパ腫 (NHL)のリスクとの関連についての症例対照研究(症例 694/対照 694)を実 施した。電波強度については、低ばく露群(<25W/m2・年、症例 4/対照 4)で OR=1.08;95%CI:0.27‐4.35、中ばく露群(25‐175W/m2・年、症例 6/対照 3)で OR=1.89;95%CI:0.46‐7.69、高ばく露群(175‐900W/m2・年、症例 6 /対照 2)で OR=3.15;95%CI:0.63‐15.87 と、NHL のリスクとの関連は認め られなかった。 (2) Karipidis 等[39]は、オーストラリアにおける電離放射線、UV、電波および ELF 電磁界の職業的ばく露と、神経膠腫のリスクとの関連についての症例対照 研究(症例 416/対照 422)を実施した。電波強度については、低ばく露群 (<11W/m2・年、症例 4/対照 7)で OR=0.57;95%CI:0.16‐1.96、中ばく露群 (11‐52W/m2・年、症例 8/対照 4)で OR=1.80;95%CI:0.53‐6.13、高ばく 露群(>52W/m2・年、症例 6/対照 6)で OR=0.89;95%CI:0.28‐2.81 と、神 経膠腫のリスクとの関連は認められなかった。 9 1.4 AM ラジオ放送電波のばく露と小児の白血病および脳のがん Ha 等[19]は、韓国内の出力 20kW 以上の AM ラジオ放送施設の近くでの居住と、 15 歳以下の白血病および脳のがんとの関連についての症例対照研究(白血病症例 1928 人、脳のがん症例 956 人、対照 3082 人)を実施した。この結果、最も近い AM 放送施設から 2km 圏内に住む群には、20km 以遠に住む群と比較して、白血 病全体(症例 36/対照 12)についてのリスク上昇(OR=2.15;95%CI:1.00‐4.67) が認められた。また、リンパ急性白血病についてのリスク上昇が、ばく露レベル が 4 段階中 2 段階目(症例 241/対照 514、OR=1.39;95%CI:1.04‐1.86)およ び 3 段階目(症例 188/対照 515、OR=1.59;95%CI:1.19‐2.11)のばく露群に 認められた。 10 2. ヒト実験室研究 ヒト実験室研究に関する 16 編のうち、携帯電話の電波ばく露と自覚症状(いわ ゆる電磁過敏症)を扱った論文が 2 編(端末の電波関連が 1 編、基地局の電波関 連が 1 編)、脳機能・認識への影響を扱った論文が7編、睡眠への影響を扱った論 文が 4 編、神経生理学的影響を扱った論文が 3 編であった。 2.1 電磁過敏症 (1) Oftedal 等[50]は、携帯電話端末による頭痛等の症状を自覚する人々に対し、 携帯電話端末の電波により症状を生じるかどうか、また、生理学的変数に影響 を及ぼすかどうかを調べた。被験者(男性 5/女性 12、20~58 歳、平均 39 歳) の頭部から左右対称に 8.5cm 離して固定したアンテナから、GSM(Groble System for Mobile Communications)携帯電話端末の電波(902.4MHz、SAR (Specific Absorption Rate、比吸収率)最大値 1.0W/kg(1g 平均)、0.8W/kg(10g 平均))を照射した。各被験者についてばく露と偽ばく露を最大 4 回ずつ、二重 盲検法(被験者、試験者ともに内容を伏せての試験方法)で実施した。この結 果、ばく露よりも偽ばく露時に、頭痛等の症状の重さに若干の増加が見られた が、統計的に有意ではなかった。被験者は、ばく露/偽ばく露のほとんどのケ ースでばく露されたと認識していたが、実際のばく露との相関は統計的に有意 ではなかった。心拍数および血圧には、ばく露と偽ばく露で統計的有意差は見 られなかった。Oftedal 等は、実験環境が悪影響を生じるという思い込みのため、 結果的に頭痛等を誘発する nocebo 効果(ノセボ効果、偽薬によって有害作用が 現れること)の可能性を指摘している。 (2) Eltiti 等[13]は、自称電磁過敏症の人々とそうでない対照が、基地局電波の擬 似信号(GSM(900MHz および 1800MHz)では各 5mW/m2、UMTS(Universal Mobile Telecommunications System、2020MHz)では 10mW/m2)のばく露時 に、偽ばく露時と比較して健康への悪影響をより多く生じるかどうかを確認す るため、公開誘発試験(信号のオン/オフ、GSM/UMTS を知らせた上でばく 露、過敏症 56/対照 120)および二重盲検試験(過敏症 44/対照 115)を実施 した。この研究は、Zwamborn 等(2003)が報告した陽性結果を確認するため のものである。なお、Regel 等(2006)は同様の実験において、Zwamborn 等 の結果を確認できなかった。Eltiti 等の実験の結果は、公開誘発試験では、過敏 症群は偽ばく露時よりも GSM/UMTS ばく露時に安寧のレベルは有意に低く、 11 二重盲検試験では、過敏症群は偽ばく露時よりも UMTS ばく露時に感情の昂ぶ りを統計的に有意に高いと報告した。過敏症群は、対照群よりも皮膚のコンダ クタンス(電気抵抗の逆数)と心拍数が有意に高かった。電波のオン/オフ判 定の正答率は、過敏症群、対照群ともに偶然の範囲内であった。Eltiti 等は、過 敏症群は電波にばく露されることを事前に知っている公開誘発試験には安寧の レベルを低く報告することが確認されたとしている。過敏症群が二重盲検試験 で UMTS ばく露時に感情の昂ぶりを高く報告したのは、約半数(45.5%)が UMTS ばく露を二重盲検試験の最初のセッションに受けており、それが自身に どのように影響するのか判らないため、より不安になっても不思議はないとし ている。実際、その後のセッションでは感情の昂ぶりは収まっている。また、 過敏症群の皮膚のコンダクタンスが対照群よりも高かったのは、実験参加に対 するストレス反応、または自律神経系全般のアンバランスを反映しているかも しれないとしている。 2.2 脳機能・認識への影響 (1) Krause 等[41]は、携帯電話端末の電波ばく露がヒトの認識作業中の脳活性に 及ぼす影響を、左右の脳半球ごとに調べた。健康な男性被験者各 36 人の 2 群(A 群、V 群)を対象に、連続波またはパルス波(902MHz、平均出力 0.25W、SAR 最大値 1.18W/kg、約 54/80min(分))をばく露/偽ばく露した。A 群には聴覚作 業記憶タスクを、V 群には視覚作業記憶タスクを実施させ、その間の脳波を測 定した。実験は二重盲検法で、各被験者に対して各条件でのばく露を無作為順 に行った。この結果、電波ばく露時には、脳波のα波領域(8‐12Hz)におけ る控えめな反応が見られたが、この影響は変動幅が大きく、系統的でなく、従 来の研究結果とは一致していない。電波ばく露による行動学的な影響は認めら れなかった。 (2) Haarala 等[20]は、健康な男性被験者 36 人を対象に、携帯電話端末の電波ば く露(連続波またはパルス波、902MHz、平均出力 0.25W、SAR 最大値 1.18W/kg、 約 90min)が視覚認識タスクの遂行能力に及ぼす影響を、左右の脳半球ごとに 二重盲検法で調べた。この結果、ばく露条件やばく露した左右の脳半球による 遂行能力への影響に有意差は認められなかった。 (3) Vecchio 等[75]は、10 人の健康な被験者を対象に、GSM 携帯電話端末の電波 ばく露(902.4MHz、パルス波、45min、最大出力 2W)が、大脳のリズムの左 12 右の脳半球間における同期に及ぼす影響を調べた。覚醒した安静状態の被験者 の脳電図(δ 波:約 2‐4Hz、θ 波:約 4‐6Hz、α波 1:約 6‐8Hz、α波 2: 約 8‐10Hz、α波 3:約 10‐12Hz)を測定した。この結果、電波ばく露時には 偽ばく露時と比較して、前額部および側頭部におけるα波リズムの半球間のカ ップリングに変調が認められた。 (4) Terao 等[71]は、10 人の健康な被験者を対象に、携帯電話端末の電波ばく露 (800MHz、パルス波、30 min、最大出力 0.8W、SAR 平均値 0.054W/kg)が眼 球の断続性運動(saccade)の遂行能力に及ぼす短期的な影響を生じるかどうか を、二重盲検法で調べた。この結果、電波ばく露時の遂行能力に偽ばく露時と の有意差は認められなかった。 (5) Regel 等[57]は、24 人の健康な被験者を対象に、携帯電話端末の電波ばく露 (連続波またはパルス波、900MHz、30min、SAR 最大値 1W/kg)が認識遂行能 力および覚醒時の脳電図に及ぼす影響について調べた。この結果、パルス波ば く露時には反応時間の短縮と作業記憶タスクの精度向上が認められた。また、 ばく露の 30 分後のα波(10.5‐11Hz)の増強が認められた。連続波ばく露時 には影響は認めらなかった。Regel 等はこの結果について、パルス波の非熱的な 生物学的影響の証拠を示すものであるが、その根底にある生理学的メカニズム は不明であり、健康への影響との関連性については特に慎重に解釈すべきだと している。 (6) Cinel 等[10]は、168 人の健康な被験者を対象に、電波ばく露(連続波または パルス波、888MHz、40min、SAR 平均値 1.4W/kg、パルス波の SAR 最大値 11.2W/kg)が左右一方からの聴覚刺激に対する認識能力に及ぼす影響について 調べた。この結果、電波ばく露による有意な影響は認められなかった。 (7) Inomata‐Terada 等[31]は、携帯電話端末の電波ばく露(800MHz、パルス 波、30min、最大出力 800mW、SAR 平均値 0.054±0.02W/kg)による脳の運動 皮質への短期的な影響を調べるため、10 人の健康な被験者および高温に対して 神経症状を呈する多発性硬化症の患者 2 名を対象に、経頭蓋磁気刺激(TMS) に対する運動誘発電位を、電波ばく露の前後で比較した。多発性硬化症の患者 については、42℃の温水浴の前後での運動誘発電位も調べた。この結果、電波 ばく露による影響は認められなかった。 13 2.3 睡眠への影響 (1) Fritzer 等[18]は、20 人の健康な男性被験者を対象に、GSM 携帯電話端末の 電波ばく露(900MHz、パルス波、7‐9hr(時間)、1/6d(日)、最大出力 28.5W、 SAR 最大値 1W/kg)が、認識機能や睡眠(脳電図、就眠までに要する時間、REM (rapid eye movement)睡眠(眠りは深いが脳波は覚醒時のような型を示す状 態)の特徴等)に及ぼす影響を調べた。この結果、電波ばく露による有意な影 響は認められなかった。 (2) Hung 等[29]は、10 人の健康な被験者を対象に、GSM 携帯電話端末の電波 (900MHz、パルス波、30min、talk/listen/standby モードごとの SAR 平均値 0.133/0.015/0.001W/kg)のばく露による、就眠までに要する時間、脳電図、主 観的な睡眠の質への影響を調べた。この結果、listen モードの電波ばく露時お よび偽ばく露時と比較して、talk モードの電波ばく露後には就眠開始の有意な 遅滞が認められた。Hung 等は、各モードの低周波変調(2/8/217Hz)による就 眠への影響の違いを示唆している。 (3) Regel 等[58]は、15 人の健康な男性被験者を対象に、GSM 携帯電話端末の電 波ばく露(900MHz、30min、SAR 平均値 0.2/5W/kg)が、認識遂行能力、ば く露後の睡眠時の脳電図、筋電図、眼球電図、心電図に及ぼす影響を調べた。 この結果、GSM 電波ばく露は睡眠の構成(REM 睡眠と非 REM 睡眠)には影 響しなかった。非 REM 睡眠時の脳電図および認識タスク遂行能力に対しては、 ばく露量-反応のある影響が認められた。 (4) Arnetz 等[2]は、GSM 携帯電話端末の電波ばく露(884MHz、3hr、SAR 平 均値 1.4W/kg)が、自覚症状、認識機能、ばく露後の睡眠に及ぼす影響につい て調べた。被験者は男性 35 人/女性 36 人で、携帯電話端末使用に関連する自 覚症状を申告した群(SG 群)が男性 16 人/女性 22 人、申告しなかった群(NG 群)が男性 19 人/女性 14 人であった。ばく露後には、深い睡眠(第 3 段階) に達するまでの時間が長くなった(ばく露後の平均 0.37hr(SD:標準偏差 =0.33):偽ばく露後の平均 0.27hr(SD=0.12))。ばく露後には、第 4 段階の睡 眠の総量も減少した(ばく露後の平均 37.2min(SD=28):偽ばく露後の平均 45.5min(SD=28))。NG 群は偽ばく露時よりもばく露時に頭痛を多く申告した。 被験者は、偶然よりも高い頻度でばく露条件と偽ばく露を区別できなかった。 Arnetz 等はこの結果から、本実験におけるばく露条件と特定の睡眠段階におけ る睡眠の質に対する悪影響との関連を示唆している。 14 2.4 神経行動学的影響 (1) Parazzini 等[54]は、26 人の健康な被験者を対象に、GSM 携帯電話端末の電 波(900MHz、2W、SAR 最大値 0.02W/kg)へのばく露が、安静状態と起立状 態の心臓制御のメカニズムに及ぼす影響を、各状態における時間領域および周 波数領域の心拍変動(HRV)のパラメータの計算値に基づいて、二重盲検法で 評価した。この結果、電波ばく露による統計的に有意な影響は認められなかっ た。 (2) Barker 等[5]は、GSM 携帯電話端末および TETRA(Terrestrial Trunked Radio、公共保安用デジタル移動通信システム)無線端末の電波ばく露が、血圧 の急激な変化とその持続時間、交感神経系の活動の指標としての心拍変動と血 中カテコール濃度を調べた。この結果、GSM および TETRA 電波による有意な 影響は認められなかった。 (3) Irlenbusch 等[34]は、GSM 携帯電話端末の電波ばく露(902.4MHz、出力 5W、電力密度 1W/m2)が、視覚系の基礎的な特性である視覚識別閾値(visual discrimination threshold: VDThr)に及ぼす影響を調べた。この結果、VDThr への有意な影響は認められなかった。 15 3. 動物研究 動物研究に関する 17 編のうち、がんに関する論文が 6 編、遺伝毒性に関する論 文が 2 編、生殖への影響に関する論文が 4 編、神経学的影響に関する論文が 5 編 であった。 3.1 がん (1) Tillmann 等[72]は、携帯電話端末による電波の慢性的な全身ばく露(GSM: 900MHz、DCS:(Digital Communication System、GSM(900MHz)を 1800 MHz 化した携帯電話)1747MHz、パルス波、全身 SAR 最大値: 33.2/11.1/3.7mW/kg、2hr/d、5d/wk(日/週)、2yr)による、B6C3F1 マウス(合 計 1170 匹)の内分泌系、生殖系、免疫系、呼吸器系、下垂体、ハルダー腺、肺、 肝臓、副腎、子宮での発がんへの影響を調べた。この結果、電波ばく露による 腫瘍発生率の有意な上昇は認められなかった。 (2) Shirai 等[66]は、携帯電話端末による電波の慢性的な局所ばく露(CDMA: (Code Division Multiple Access)、1.95GHz、90min/d、5d/wk、104wk、脳平 均 SAR0.67 または 2.0W/kg)が、ラットの中枢神経系(CNS)における N‐エ チルニトロソ尿素(ENU)で誘導した腫瘍の成長に及ぼす影響を調べた。妊娠 した F344 ラット 100 匹に対し、妊娠 18 日目に ENU を投与し、得られた仔ラ ットを雌雄 50 匹ずつ 5 群(非処理群、ENU 単独投与群、ENU+CDMA 低ばく 露群、ENU+CDMA 高ばく露群、偽ばく露群)に無作為分類し、電波にばく露 した。この結果、CDMA ばく露群の雌のラットに脳腫瘍の増加傾向が認められ たが、統計的に有意ではなかった。全体としては、CDMA ばく露群における CNS 腫瘍の有意な増加は認められなかった。 (3) Sommer 等[67]は、携帯電話端末による電波への慢性的な全身ばく露(UMTS、 1.966GHz、最大 248d、全身平均 SAR0.4W/kg±50%)が、リンパ腫のモデル動 物である AKR/J マウス(ばく露群/偽ばく露群各 160 匹)のリンパ腫の進行に 及ぼす影響を調べた。この結果、UMTS ばく露によるリンパ腫への有意な影響 は認められなかった。リンパ腫の悪性度への影響も認められなかった。 (4) Oberto 等[49]は、GSM 携帯電話端末による電波への慢性的な全身ばく露 (900MHz、パルス波、1hr/d、18mth、全身平均 SAR4/1.5/0.5W/kg)が、Pim ‐1 トランスジェニックマウス(各群につき雌雄 50 匹ずつ)のリンパ腫発生率 に及ぼす影響を調べた。この研究は、携帯電話端末の電波ばく露による Pim‐1 16 マウスのリンパ腫発生率の上昇が認められた Repacholi 等(1997)の研究の追 試である。Oberto 等の研究では、電波ばく露による悪性病変または非悪性病変 の発生率への有意な影響は認められなかった。なお、Utterlidge 等(2003)に よる別の追試でも、Repacholi 等の結果は確認できなかった。 (5) Smith 等[69]は、GSM および DCS 携帯電話端末による電波の慢性的な全身 ばく露(GSM:902MHz、全身平均 SAR0.41/1.23/3.7W/kg;DCS:1747MHz、 全身平均 SAR0.44/1.33/4W/kg、いずれも 2hr/d、5d/wk、52/104wk)が、Han Wistar ラット(各群につき雌雄 65 匹ずつ、計 1200 匹)の発がんに及ぼす影響 を調べた。この結果、電波ばく露による悪性病変の種類、発生率、多発性、潜 伏期間への影響は何ら認められなかった。 (6) Saran 等[63]は、電離放射線による多臓器腫瘍形成の動物モデルである Patched1 ノックアウトマウスが、GSM 携帯電話端末による電波の出生直後の 全身ばく露(900MHz、0.5hr×2/d、生後 2‐6d、全身平均 SAR0.4W/kg)に対 しても敏感であるかどうかを調べた。この結果、電波ばく露による寿命短縮ま たは腫瘍形成への影響は認められなかった。 3.2 遺伝毒性 (1) Juutilainen 等[36]は、携帯電話端末による電波の慢性的な全身ばく露 (NMT:902.5MHz 連続波、全身平均 SAR1.5W/kg;GSM:902.4MHz パルス 波、全身平均 SAR0.35/0.5W/kg;D‐AMP:849MHz、全身平均 SAR0.5W/kg、 いずれも 1.5hr/d、5d/wk、78/52wk)が、雌の CBA/S マウス(各群 20 匹)の 赤血球における X 線または紫外線で誘導した小核形成頻度に及ぼす影響を調べ た。この結果、赤血球における小核形成頻度への影響は認められなかった。 (2) Brillaud 等[6]は、以前の研究(Mausset‐Bonnefont 等、2004)で認められ た、GSM 携帯電話端末の電波への急性的な局所ばく露(900MHz、脳平均 SAR6W/kg、15 min)後の星状細胞の活性化(グリア反応)を確認するため、 グリア細胞線維性酸性タンパク質(GFAP)の発現を測定して、GSM ばく露 (900MHz、脳平均 SAR6W/kg、15 min)から 2、3、6、10 日後の影響を調べ た。雄の Sprague‐Dawley ラット 48 匹を、ばく露群(9 匹×4 群)および偽ば く露群(6 匹×2)に分け、ばく露群の 4 群(E2、E3、E6、E10 群)をそれぞ ればく露から 2、3、6、10 日後に、また偽ばく露群の 2 群(S3、S10 群)をそ れぞれ偽ばく露から 3、10 日後に屠殺し、脳の部位ごとに GFAP に染まった領 17 域の面積を調べることで、電波ばく露の影響を評価した。この結果、電波ばく 露の 2 日後に、前頭皮質および線条体における GFAP 染色領域の統計的に有意 な増加が認められた。ばく露の 3 日後には、より小規模だが統計的に有意な増 加が、上記と同じ部位および小脳皮質に認められた。Brillaud 等はこれらの結 果から、星状細胞の活性化が過渡的なものであると示唆している。 3.3 生殖への影響 (1) Panagopoulos等[53]は、成熟したショウジョウバエ(各群につき雌雄各 10 匹)を、携帯電話の電波(GSM:900MHz、電力密度 0.402±0.054/0.292±0.042mW/cm2;DCS:1800MHz、0.288±0.038mW/cm2、 いずれも 6min/d、6d)にばく露した後、雌のショウジョウバエから卵管を摘出 し、胚の細胞死をDNA断片で検出した。この結果、DNA断片が検出された卵管 の数は、偽ばく露群(7.78%)に対してばく露群(39.43~63.01%)では統計的 に有意に多かった。Panagopoulos等は、この結果はばく露群で細胞死が多く生 じていたことを示すものだとしている。 (2) Panagopoulos 等[52]はまた、成熟したショウジョウバエ(各群につき雌雄各 10 匹)を、携帯電話の電波(GSM:900MHz、電力密度 0.407±0.061/0.286±0.050mW/cm2;DCS:1800MHz、0.283±0.043mW/cm2、 いずれも 6min/d、5d)にばく露した後、各群のサナギの平均値を調べた。この 結果、ばく露群のショウジョウバエに生殖能力の有意な低下が認められた。 Panagopoulos 等は、GSM の方が DCS よりも影響が強く、この差異は搬送周波 数よりも界の強度に依存するようであるとしている。 (3) Ribeiro 等[59]は、携帯電話端末による電波の慢性的な全身ばく露(GSM、 1835‐1850MHz、最大出力 1W、1hr/d、11wk)が、成熟した Wister ラット(ば く露群/偽ばく露群各 8 匹)の精巣の機能に及ぼす影響を調べた。この結果、 ばく露群と偽ばく露群との間に統計的有意差は認められなかった。 (4) Yan 等[77]は、携帯電話端末の電波ばく露(SAR1.81/0.9/1.18W/kg、3hr×2/d、 18wk)が、3 月齢の雄の Sprague‐Dawley ラットの精子細胞に及ぼす影響を 調べた。ばく露後、精子サンプルを採取し、精子の運動性、精子細胞の形状お よび総数、細胞表面癒着タンパク質の mRNA レベルを調べた。この結果、ばく 露群から採取した精子は、運動性のある精子が有意に少なく、また多数の凝集 が認められた。ばく露群の精子には、2 種類の細胞表面癒着タンパク質の mRNA 18 のアップレギュレーションが認められ、これが精子細胞の異常な癒着を生じた ものと考えられた。これらの結果から Yan 等は、携帯電話端末を生殖器の近く に保持することによる男性の生殖能力への悪影響の可能性を示唆している。 3.4 神経学的影響 (1) Meral 等[47]は、携帯電話端末による電波の急性ばく露(890‐915MHz、パ ルス波、12hr/d(standby モード 11hr45min、speaking モード 15min)、30d、 最大出力 2W、SAR0.95W/kg)が、モルモットの脳組織および血液中のマロン ジアルデヒド、グルタシオン、レチノール(ビタミン A)、ビタミン D3、トコフ ェロール(ビタミン E)のレベル、およびカタラーゼ酵素活性に及ぼす影響を 調べた。この結果、ばく露群の脳組織にはマロンジアルデヒドの上昇、グルタ シオンおよび酵素活性の低下が認められた。また、血液にはマロンジアルデヒ ド、ビタミン A、D3、E、カタラーゼ酵素活性の上昇、グルタシオンの低下が認 められた。Meral 等は、電波ばく露により脳組織に酸化ストレスが生じた可能 性を示唆している。 (2) Masuda 等[45]は、携帯電話端末による電波の急性的な局所ばく露(PDC、 1439MHz、10min オン/20min オフ、計 90min、脳平均 SAR0.6/2.4/4.8W/kg) が、頭頂部に cranial window を植え込んだ Sprague‐Dawley ラットの脳内微 小循環(血液脳関門(BBB)機能を含む)に及ぼす影響を調べた。この結果、 急性ばく露の前後で脳内微小循環のパラメータ(BBB 透過性、白血球挙動、プ ラズマ流速)に有意な変化は認められなかった。 (3) Masuda 等[46]はまた、携帯電話端末による電波の準慢性的な局所ばく露 (PDC、1439MHz、60min/d、5d/wk、4wk、脳平均 SAR2.4W/kg、全身平均 SAR0.64W/kg)が、頭頂部に cranial window を植え込んだ Sprague‐Dawley ラットの脳内微小循環に及ぼす影響を調べた。この結果、4wk のばく露後の微 小循環のパラメータに有意な変化は認められなかった。 (4) Finnie 等[16]は、GSM 携帯電話端末による電波の慢性的な全身ばく露 (900MHz、60min/d、5d/wk、104wk、SAR4W/kg)が、C57BL/6NTac マウス の脳内におけるストレス応答(c‐fos の発現)に及ぼす影響を調べた。この結 果、電波ばく露による測定可能なストレス応答は認められなかった。 (5) Kumlin 等[42]は、GSM 携帯電話端末による電波の慢性的な全身ばく露 (900MHz、2hr/d、5d/wk、5wk、全身平均 SAR0.3/3W/kg)が、Wistar ラット 19 (各群 24 匹)の脳の発育に及ぼす影響を調べた。この結果、電波ばく露による 行動学的または形態学的な悪影響、ニューロン細胞死、BBB 透過性への影響は 認められなかった。オープンフィールド試験、迷路試験、音響驚愕反応試験に おける変化も認められなかった。ばく露群に認められた水迷路試験における学 習および記憶の改善のみ、偽ばく露群との差が有意であった。 20 4. 細胞研究 細胞研究に関する 16 編のうち、遺伝毒性(DNA 損傷)に関する論文が 2 編、 細胞の生育能力(細胞増殖、アポトーシス等)への影響に関する論文が 2 編、分 子生合成(タンパク質変性、遺伝子発現、ストレス応答等)への影響に関する論 文が 8 編、細胞機能(酵素活性、イオンチャネル、シグナル変換経路等)への影 響に関する論文が 4 編であった。 4.1 遺伝毒性 (1) Speit 等[68]は、REFLEX プロジェクトで認められた電波ばく露の遺伝毒性 を確認するため、携帯電話端末の電波ばく露(1800MHz、連続波、5min オン /10min オフ、1/4/18/24hr、平均 SAR2W/kg;1800MHz、連続波、5min オン /10min オフ、4/22hr、平均 SAR1/2W/kg;1800MHz、パルス波、24hr 連続、 平均 SAR1/2W/kg)が、ヒト線維芽細胞 ES‐1 およびチャイニーズ・ハムスタ ーの線維芽細胞 V79 の DNA 単鎖切断、二重鎖切断、小核形成に及ぼす影響を 調べた。この結果、いずれの試験および細胞株においても、明確な陰性結果が 認められた。Speit 等は、REFLEX プロジェクトで報告された結果との相違の 理由は不明だとしている。 (2) Baohong 等[4]は、GSM 携帯電話端末の電波ばく露(1.8GHz、1.5/4hr、 SAR3W/kg)が、紫外線(UV‐C)で誘導したヒトリンパ球の DNA 損傷に及 ぼす影響を調べた。この結果、電波単独ばく露群における DNA 損傷の誘導には 偽ばく露群との有意差は認められなかった。1.5hr の電波と UV‐C との複合ば く露群では、UV‐C 単独ばく露群よりも DNA 損傷が有意に減少したが、4hr の電波と UV‐C との複合ばく露群では、UV‐C 単独ばく露群よりも DNA 損 傷が有意に増加した。 4.2 細胞の生育能力への影響 (1) Joubert 等[35]は、GSM 携帯電話端末の電波ばく露(900MHz、24hr、平均 SAR0.25W/kg)が、Wistar ラットの胚から摘出した皮質性ニューロンにおける アポトーシスに及ぼす影響を調べた。この結果、ばく露の直後および 24hr 後の いずれにおいても、アポトーシス発生率に統計的有意差は認められなかった。 (2) Buttiglione 等[7]は、GSM 携帯電話端末の電波ばく露(900MHz、5/15/30min、 6/24hr、電界強度の実効値 23V/m、SAR 平均値 1W/kg)が、ヒト神経芽腫 SH 21 ‐SY5Y の生育能力(細胞増殖、細胞サイクルの進展、細胞増殖およびアポトー シス関連遺伝子の発現)に及ぼす影響を調べた。この結果、24hr ばく露では、 細胞の生育能力および細胞増殖の有意な減少が認められた。5min のばく露時に egr‐1 遺伝子の発現が上昇、15min 後に最大値に達し、6hr 後にはベースライ ンのレベルまで低下した。マイトジェン活性化プロテインキナーゼ(MAPK) のサブタイプの酵素活性にも同様のパターンが認められた。24hr ばく露では、 アポトーシス阻害因子 bcl‐2 および survivin の発現の有意な減少と共に、アポ トーシスの際に典型的に見られる細胞サイクル進展の阻害が認められた。 4.3 分子生合成への影響 (1) Hirose 等[25]は、携帯電話基地局からの非熱的な電波ばく露(2.1425GHz、 連続波/W‐CDMA 波、2/24/28/48hr、SAR 平均値 80/250/800mW/kg)が、 ヒト神経膠芽腫細胞 A172 および線維芽細胞 IMR90 のストレス応答(熱ショッ クタンパク質 hsp27 のリン酸化の誘導)に及ぼす影響を調べた。この結果、基 地局レベルの SAR の電波ばく露は hsp27 のリン酸化を経路とするストレス応答 に影響しないことが示唆された。連続波または W‐CDMA 波ばく露群と偽ばく 露群との間に、リン酸化した hsp27 の発現レベルに有意差は認められなかった。 (2) Zhao T 等[80]は、GSM 携帯電話の電波ばく露(1900MHz、2hr)がマウス の脳のニューロンおよび星状細胞の細胞死シグナル経路に関連する遺伝子の発 現に及ぼす影響を調べた。この結果、ニューロンでは on および standby モード の電波ばく露時に、星状細胞では on モードの電波ばく露時にのみ、8 つの遺伝 子のアップレギュレーション(特に caspase‐2、caspase‐6)が認められた。 星状細胞では、ミトコンドリアのレベルでのシグナル変換を規制する bax 遺伝 子のアップレギュレーションも認められた。Zhao 等は、ニューロンの方が星状 細胞よりも影響を受けやすいようだとしている。 (3) Chauhan 等[8]は、携帯電話端末の電波ばく露(1.9GHz、5min オン/10min オフ、6hr、SAR 平均値 1/10W/kg)が、ヒト由来の細胞株(急性骨髄性白血病 細胞 HL‐60、単核細胞 Mono Mac 6、リンパ芽球性細胞 TK6)における各種 の生物学的プロセス(アポトーシス、細胞サイクル促進、細胞の生育能力、サ イトカイン生成等)に及ぼす影響を調べた。この結果、いずれの細胞株におい ても、電波ばく露による影響は認められなかった。 (4) Chauhan 等[9]はまた、携帯電話端末の電波ばく露(1.9GHz、24hr または 22 5min オン/10min オフ、6hr、SAR 平均値 0.1/1/10W/kg)が、ヒト神経膠芽 腫細胞 U87MG および単核細胞 Mono Mac 6 の遺伝子発現に及ぼす影響を調べ た。この結果、電波ばく露による影響は認められなかった。 (5) Zeni 等[78]は、携帯電話端末の電波(900MHz、連続波/パルス波、10/30min、 SAR 平均値 0.3/1W/kg)、および水道水の塩素消毒の際に生じる発がん性物質で ある 3‐chloro‐4‐(dichloromethyl)‐5‐hydroxy 2(5H)‐furanone(MX)に よる単独または同時ばく露が、マウス線維芽細胞 L929 における活性酸素種 (ROS)の誘導に及ぼす影響を調べた。この結果、MX 単独ばく露では ROS 形 成が統計的に有意に増加したが、電波の単独ばく露または電波と MX の同時ば く露が ROS 形成を誘導する証拠は認められなかった。 (6) Zhao R 等[79]は、GSM 携帯電話端末の電波ばく露(1800MHz、5min オン /10min オフ、24hr、SAR 平均値 2W/kg)が、Sprague‐Dawley ラットの大 脳皮質および海馬のニューロンにおける遺伝子発現に及ぼす影響を調べた。こ の結果、1200 の候補遺伝子のうち、24 個でアップレギュレーション、10 個で ダウンレギュレーションがばく露後に認められた。この結果は逆転写ポリメラ ーゼ連鎖反応法(RT‐PCR)でも確認された。 (7) Sanchez 等[62]は、GSM 携帯電話端末の電波ばく露(1800MHz、48hr、平 均 SAR2W/kg)が、ヒト表皮ケラチノサイトおよび真皮線維芽細胞細胞におけ るストレス応答(熱ショックタンパク質 hsp70、hsc70、hsp27 の発現、アポト ーシス)に及ぼす影響を調べた。この結果、電波ばく露による影響は認められ なかった。 (8) Li 等[44]は、GSM 携帯電話端末の電波ばく露(1800MHz、2hr、 SAR1/2/3.5W/kg)が、ヒト水晶体上皮細胞におけるプロテオームの変化に及ぼ す影響を調べた。この結果、1W/kg ではプロテオームの変化は認められなかっ た。2 および 3.5W/kg では、4 個のタンパク質のアップレギュレーションが認 められた。更なる分析では、熱ショックタンパク質 hsp70 およびリボ核タンパ ク質 K(特にシグナル変換や遺伝子発現に関係する RNA 結合タンパク質)のア ップレギュレーションも認められた。 23 4.4 細胞機能への影響 (1) Friedman 等[17]は、携帯電話端末の電波ばく露(875/800‐950MHz、 5/10/15/20/30min、電力密度 0.005‐0.344mW/kg)が、MAPK カスケードに及 ぼす影響について調べた。MAPK カスケード(細胞外シグナル制御キナーゼ (ERK)、JNK1‐3、p38MAPK、BMK1)は、各種の細胞外刺激の影響を緩和 し、増殖・分化・代謝・ストレス応答等の細胞プロセスを制御するシグナル変 換経路である。この結果、各種の周波数および強度に対し、ストレス関連 MAPK ではなく ERK の急激な活性化が認められた。Friedman 等は、活性酸素種(ROS) を急激に発生させる NADH オキシダーゼがプラズマ・メンブレンにおいて活性 化の第一歩を媒介することを見出した。ROS はその後、マトリックス・メタロ プロテイナーゼ(MMP)を直接刺激し、それらからヘパリン結合表皮成長因子 (Hb‐EGF)を放出させる。この因子は EGF 受容体を活性化させ、さらに ERK カスケードを活性化させる。Friedman 等はこの結果について、携帯電話端末の 電波が ERK カスケードの活性化を誘導し、結果的にその他の細胞プロセスの転 写を誘導するという分子メカニズムを初めて立証するものだとしている。 (2) Hoyto 等[27]は、携帯電話端末の電波ばく露(835MHz 連続波/835MHz パ ルス波/872MHz パルス波、2/8/24hr、SAR2.5/6W/kg)が、マウス線維芽細胞 L929 におけるオルニチンデカルボキシラーゼ(ODC)酵素活性に及ぼす影響を 調べた。この結果、SAR6W/kg でのばく露時に、ODC 活性の上昇が認められた。 培地の温度は偽ばく露群と同一であった。いずれの場合も連続波とパルス波と の間に差はなく、変調による影響は認められなかった。 (3) Hoyto 等[28]はまた、携帯電話端末の電波ばく露(872MHz パルス波/ 872MHz 連続波、2/8/24hr、SAR1.5/2.5/6W/kg)が、マウス線維芽細胞 L929、 ラット神経膠細胞 C6、ヒト神経芽腫 SH‐SY5Y における ODC 酵素活性に及ぼ す影響を更に調べた。この結果、初代細胞では電波ばく露による ODC 活性の有 意な低下が認められたが、二次細胞では本質的に電波ばく露に対する反応は認 められなかった。Hoyto 等は、初代細胞は二次細胞よりも機能が通常の組織に 近いので、この結果は非常に興味深いとしている。連続波とパルス波との間に 差はなく、変調による影響は認められなかった。 (4) Platano 等[56]は、携帯電話端末の電波ばく露(900MHz、連続波/パルス波、 90s×1/2/3、インターバル 2‐3min、SAR2W/kg)が、ラットの皮質性ニューロ ンにおける電位依存性カルシウムチャネルの透過性に及ぼす影響を調べた。こ 24 の結果、いずれのばく露条件においても、電位依存性カルシウムチャネルの透 過性に有意な影響は認められなかった。 25 5. その他の研究 前節までの分類に含まれない研究 8 編のうち、子供に対する電磁界の影響に関 する総説が 1 編、携帯電話の使用と脳腫瘍死亡率との関連についての観察研究が 1 編、携帯電話の電波ばく露とヒトの電気生理学的・神経代謝作用に及ぼす影響に 関するレビューが 1 編、携帯電話の使用と男性の生殖能力に関する観察研究・レ ビューが 3 編、基地局電波が生態系に及ぼす影響に関する観察研究が 2 編であっ た。 (1) Otto 等[51]は、子供は特に脆弱である可能性があるという観点から、電磁界 の健康影響について概観した。この結果、日常生活において遭遇する電磁界は、 恐らく子供の環境衛生における優先順位の高い問題ではないことを見出した。 また、優先順位に基づいた環境リスクの認知を確立するため、衛生専門家、オ ピニオンリーダー、一般公衆に的を絞った、より良いリスクコミュニケーショ ンが必要であると結論付けた。 (2) Roosli 等[60]は、スイスの国家死亡統計のデータから、脳腫瘍による 10 万人 あたりの死亡率を、男女別に各年齢層について調べた。1987 年以降、携帯電話 端末ユーザの脳腫瘍による死亡率が上昇していると仮定して、ばく露から死亡 までの時間差(潜伏期間)および携帯電話端末ユーザの相対リスク(RR)を変 えた 9 種のシナリオごとに死亡率の年間上昇率を想定し、実際の死亡率の時間 的変化と比較した。この結果、携帯電話端末の使用は、短期的には脳腫瘍によ る死亡率の強いリスク因子ではないことが認められた。 (3) Valentini 等[74]は、携帯電話の電波がヒトの電気生理学的・神経代謝作用に 及ぼす影響に関する過去 10 年間に発表された文献(GSM 携帯電話の類似信号 へのばく露による急性影響に関する 32 編の論文)をレビューした。この結果、 携帯電話の電波は低強度であっても、電波から ELF への復調、または ELF 成 分が、細胞膜のイオン伝達に直接干渉して脳の皮質の興奮性を変化させること により、ヒトの通常の生理学的機能に影響を及ぼしうると結論付けている。 (4) Agarwal 等[1]は、不妊治療の診療所において評価実施中の男性を対象に、携 帯電話端末の使用が精子の質の各種指標に及ぼす影響を調べた。この結果、携 帯電話端末使用は、精子の数、運動性、生育能力、通常の形態を低下させるこ とにより、男性の精子の質を低下させることを見出した。 (5) Wdowiak 等[76]は、GSM 携帯電話の使用が男性の生殖能力に影響を及ぼす かどうかを調べた。この結果、異常な形態の精子細胞の割合と、携帯電話端末 26 の電波にばく露された期間との関連が認められた。また、健全な運動能力を有 する精子細胞の割合の低下と、携帯電話端末の使用頻度との関連も認められた。 (6) Deepinder 等[12]は、携帯電話端末の使用と男性の生殖能力の低下に関する これまでの報告についてレビューした上で、携帯電話端末の電波ばく露が精巣 細胞および男性の生殖細胞系に及ぼす影響を調査するための、慎重にデザイン された研究が緊急に必要であると指摘している。 (7) Everaert 等[15]は、携帯電話基地局電波(900 および 1800MHz)の長期的 ばく露が、繁殖期のイエツバメの数に及ぼす可能性のある影響を、ベルギーの 6 つの居住地域で調査した。この結果、基地局からの電波ばく露が比較的高い場 所で、イエツバメの数が少ないことを見出した。 (8) Balmori 等[3]は、2002 年 10 月~2006 年 5 月にヴァリャドリッド(スペイ ン)の 30 地点(広場、都市公園、比較的隔離された並木道)において、イエス ズメの数を調べた。無指向性アンテナを備えた広帯域電界メータを用いて、電 波の電界強度の平均値(1MHz~3GHz、V/m)を測定した。この結果、電界強 度とスズメの密度との間に、統計的に有意な逆相関が示された。また、調査期 間を通じて、30 地点でのスズメの総数の減少傾向が示された 27 Ⅱ (1) 国際機関・各国専門機関の報告書 Valberg 等は、WHO が 2005 年 6 月にジュネーブ(スイス)で開催した「基 地局および無線技術に関するワークショップ」における討議の内容をまとめた 論文を報告した。Valberg 等は、「我々の最善の科学的理解は、基地局からの電 波ばく露による健康上の影響はなく、また典型的な携帯電話端末技術の電波レ ベルから予見される悪影響はない、ということを支持するものである」と結論 付けている。この論文の全訳を参考資料 1 として添付した。 (2) 欧州委員会 保健・消費者防護総局の「新興・新規同定された健康リスクに 関する科学委員会(SCENIHR)」は 2007 年 5 月、電磁界がヒトの健康に及ぼ す潜在的影響に関する報告書[11]をまとめた。この報告書は、「ICNIRP の限度 以下のばく露レベルでは、一貫性をもって立証されている健康影響はない」と 結論付けている。一方で、 「この評価のためのデータベースは、特に長期間の低 レベルばく露について限定的である」としており、更なる研究(例えば長期ユ ーザを対象とするコホート研究)を勧告している。この報告書のエグゼクティ ブ・サマリの翻訳を参考資料 2 として添付した。 (3) 欧州連合(EU)の第 6 次研究枠組みプログラム(FP6)の下で実施されてい る、 「 電磁界ばく露の影響:科学から公衆衛生、より安全な職場へ(EMF‐NET)」 は 2007 年 11 月、電磁界での生殖および生育への影響に関する調査報告書[14] を公表した。この報告書は、一般公衆が遭遇する低い電磁界強度へのばく露は、 生殖または出生前後の生育に有意なインパクトを及ぼさないことが文献から示 されているものの、組織の温度を数℃以上、または深部体温を 1℃以上上昇させ るような強度のばく露は、影響を生じる可能性が高いと結論付けている。この 報告書のサマリの翻訳を参考資料 3 として添付した。 (4) オランダ保健評議会(HCN)の電磁界委員会は 2007 年 2 月、電磁界に関す る年次報告書[23](2006 年版)を公表した。この報告書には、第 3 世代携帯電 話端末(UMTS)の基地局電波に類似した電波ばく露による認識遂行能力およ び安寧への影響を報告した Zwamborn 等の報告(2003)の確認実験(Regel 等、 2006)についての詳細な分析が盛り込まれている。この報告書の当該箇所の結 論の部分訳を参考資料 4 として添付した。 (5) スウェーデン放射線防護庁(SSI)の電磁界に関する独立専門家グループは 2007 年 3 月、電磁界と健康リスクに関する最近の研究についての第 4 回年次報 28 告書[70](2006 年版)を公表した。この報告書は、最近の研究の多くは、電波 の遺伝毒性作用の証拠を強めるものではなさそうであること、Zwamborn 等 (2003)の確認実験(Regel 等、2006)では、UMTS 基地局からの電波ばく露 が認識遂行能力および安寧に及ぼす影響は見られなかったこと、携帯電話端末 の使用とがんリスクに関する最近の研究は、利用可能な疫学研究の証拠につい ての従来の総合的な評価を変更するものではないこと、について言及している。 この報告書のエグゼクティブ・サマリの部分訳を参考資料 5 として添付した。 (6) アイルランド通信・海洋・天然資源省は 2007 年 3 月、電磁界の健康影響に 関する専門家グループ報告書[33]を公表した。この報告書は、「これまでのとこ ろ、携帯電話端末および基地局から発せられる電波ばく露による短期的または 長期的な健康への悪影響は何ら示されていない。電波ががんを誘発するという ことは示されていない」と結論付けている。この報告書のエグゼクティブ・サ マリの部分訳を参考資料 6 として添付した。 (7) 英国の「携帯電話と健康研究プログラム」 (MTHR)は 2007 年 9 月、最終報 告書[48]を公表した。同プログラムは、携帯電話に関する独立専門家グループ (IEGMP)の勧告に基づいて 2001 年に設置されたもので、政府と産業界が当初 予算の半分ずつを負担し、独立した管理委員会によって運営された。なお、こ の報告書の公表に際して、同プログラムの第 2 段階として MTHR2 が継続され ることも合わせて発表された。この報告書のエグゼクティブ・サマリの全訳を 参考資料 7 として添付した。 (8) フィンランド政府は 2007 年 12 月、国家研究プログラム「移動体通信の健康 リスク評価(HERMO)」の最終報告書[24]を公表した。同国の大学や研究セン ターで実施されたこのプログラムは、電磁界の健康影響に関する分野における 人々のニーズに回答し、国際的なプロジェクトを支援することを目的としてい る。WHO の研究課題に掲載された研究ニーズ、および、最近の文献のレビュー に基づいて立案された。この報告書のサマリの全訳を参考資料 8 として添付し た。 (9) 全米科学アカデミー(NAS)は 2008 年 1 月、無線機器の潜在的生物学的・ 健康影響についての研究ニーズの同定に関する最終報告書[30]を公表した。この 報告書は、米国食品医薬品局(FDA)の委託を受けて NAS が任命した専門委員 会が、電磁界の生物学的影響および健康影響に関する研究ニーズおよび知識の 欠落を同定するため、国際的なワークショップを開催し、その内容を取りまと 29 めたものである。この報告書のサマリの全訳を参考資料 9 として添付した。 30 Ⅲ 今後の研究課題 本報告書を総括する意味で、今後の研究課題について言及する。これまでに、 電波防護指針値あるいは ICNIRP のガイドライン値以下の電波ばく露に伴う健康 影響は、確認されていない。しかし、携帯電話端末が普及して未だ 10 数年であり、 長期使用に伴う健康影響については、確認できない。さらには、子供の携帯電話 端末使用という問題も、仮説の域を脱していないが、未知数の領域である。 今後の研究課題は、基本的には、前年度の報告書で紹介した、WHO が 2006 年 に提唱した研究課題を優先的に考慮すべきである。その後、添付の資料に示す如 く、これまでに複数の政府あるいはそれに準ずる機関から、電波の健康影響につ いてのレビューを行い、その報告書の中で今後取り組むべき研究課題について触 れている。そこで、本報告書の中で研究課題について言及した部分を抽出して、 下記に示した。 具体的には、WHO および米国科学アカデミーのみが健康リスク評価に求められ る包括的な研究課題を提唱している。他の評価報告書でも、前 2 者が提唱する研 究課題とほぼ重複しているので、2006 年に WHO が提唱する研究課題と 2007 年 末に米国科学アカデミーが提唱した研究課題を中心に、わが国の今後の研究課題 を検討すべきである。 31 無線周波電磁界に関する WHO の研究課題 2006 年 疫学 優先順位の高い研究ニーズ: z 携帯電話端末ユーザに関する大規模な長期間の前向きコホート研究(発症率お よび死亡率データを含む)。 z 携帯電話端末の使用に関連する小児の脳腫瘍リスクについての大規模な多国 間症例対照研究(実現可能性研究の後に実施)。 その他の研究ニーズ: z 高い職業的 RF ばく露を受ける人々についての大規模研究(既存の大規模症例 対照研究における RF 職業ばく露データの利用やコホート研究を含む)。 z 子供および若年層の携帯電話端末ユーザ、および脳腫瘍以外の全ての健康上の アウトカム(認識影響や睡眠の質への影響等)についての前向きコホート研究 z 全ての RF 発生源からの集団ばく露を特徴付けるための調査。 人および動物研究 人に関する研究 優先順位の高い研究ニーズ: z 倫理的承認が得られれば、実験室において RF 電磁界にばく露された子供の認 識および EEG への急性影響も調査すべきである。 その他の研究ニーズ: z なし、現行の人および動物研究のアウトカムを待っているところである。 32 動物研究 優先順位の高い研究ニーズ: z RF 電磁界への未成熟の動物のばく露による、CNS の成長および成熟、造血系 および免疫系の成長に及ぼす影響を調べる、機能的、形態学的、分子的エンド ポイントを用いた研究。遺伝毒性的エンドポイントも盛り込むべきである。実 験プロトコルには、出生前または出生後早期の RF ばく露を盛り込むべきであ る。 その他の研究ニーズ: z なし、進行中の動物研究のアウトカムを待っているところである。 細胞研究およびメカニズム 細胞研究 優先順位の高い研究ニーズ: z 熱ショックタンパク質(HSP)および DNA 損傷に関して最近報告されている知 見についての、低レベル(2W/kg 以下)あるいは変調または間欠信号を用い た、独立した再現研究。影響の SAR レベルおよび周波数への依存性を盛り込 むべきである。 その他の研究ニーズ: z 細胞の分化(例:骨髄での造血の際)、および、脳の薄片/培養神経を用いた 神経細胞の成長に及ぼす、RF の影響に関する研究。 メカニズム 優先順位の高い研究ニーズ: z なし、進行中の研究のアウトカムを待っているところである。 ドシメトリ 優先順位の高い研究ニーズ: z 急速に変化している、無線通信の利用および身体の様々な部位のばく露(特に 子供および胎児)のパターンについて、文書化するための研究が必要である。 これには、複数の発生源からの多重ばく露も含まれる。 33 z 様々な年齢の子供および妊婦のドシメトリック・モデルについての更なる研究。 動物および人の RF エネルギー吸収のドシメトリック・モデルの改善と、人の 体温調節反応の適切なモデル(例:内耳、頭部、眼、胴体、胚、胎児)との組 み合わせ。 その他の研究ニーズ: z 生物学的に関連のある RF ばく露の標的についての新たな洞察をもたらすか もしれない、マイクロ・ドシメトリ研究(例:細胞または亜細胞レベルでの)。 社会的問題 z 個人のリスク認知(信条の形成、および、RF ばく露と健康との関連について の認知に関する研究を含む)。 z 可能ならば、国際的な観点において、RF の適用に関連する技術、政策、リス ク・コミュニケーションおよびリスク管理戦略に対する、利害関係者および一 般公衆の信用と信頼の条件を分析する研究。 z 所謂予防的措置(precautionary measures)が公衆の懸念に及ぼすインパクト、 および、自発的または義務的政策の採用のインパクトを評価する。 z RF のリスク・コミュニケーションにおける、健康の定義(安寧)およびその 他の重要な概念が、リスク認知およびリスク管理政策において果たす役割を評 価する。 z 健康に関連する無線通信の有益な影響を定量化する。 z 様々な国々における、公衆および利害関係者の参加のためのプログラムの成功 を評価する。 34 全米科学アカデミー(NAS) 2007 年 無線機器の潜在的生物学的・健康影響に関する研究ニーズの同定 疫学 成人 z 前向きコホート研究。前向きコホート研究では、様々な結果についての評価が 可能であるが、稀にしか生じない、または非常に長い潜伏期間を経てからしか 生じないような結果については、非常に多くのサンプル数と長期的な追跡が必 要である。 z 中・高ばく露の職業的コホート。これまでの職業的研究はいずれも、適切なば く露評価に基づいたものではなかった。潜在的に高い RF ばく露を有する職業 を同定し、それを特徴付けるには、多くの作業が必要である。 子供 z 妊婦および子供についての前向きコホート研究。子供は、妊娠中は母親の無線 機器の使用を通じて潜在的に、また出生後は自身が携帯電話端末の使用者とな ってばく露される。 z 子供の携帯電話使用者と脳のがんについての症例対照研究。子供および若年層 の間で携帯電話端末が広範に使用されていること、および、脳へのばく露が比 較的高い可能性があることから、小児の脳腫瘍の進行における RF 電磁界の潜 在的影響についての調査が是認される。 人に関する研究 z 脳電図活性の変化によって同定された RF の悪影響の可能性に的を絞った実験 のニーズがある。また、被験者数を増やす必要がある。 メカニズム z RF 電磁界が神経回路網に及ぼす影響は、更なる調査が必要なトピックである。 神経回路網は敏感な生物学的標的であるという示唆がある。 z 顕微鏡レベルで生じるばく露量の評価は、更なる調査が必要なトピックである。 実験的モデルシステムにおける細胞および動物研究 z RF の作用の潜在的な生物物理学的および生化学的/分子メカニズムの同定に 的を絞った更なる実験研究は、優先順位が高いと考えられる。 35 欧州委員会 保健・消費者防護総局 SCENIHR 電磁界が人の健康に及ぼす潜在的影響 疫学 z 長期的な使用についてはデータが乏しく、ゆえに結論は不確かで暫定的なもの である。 z がん以外の疾病については、利用可能な疫学的データは非常に少ない。 z 子供の携帯電話端末使用は特に考慮すべき問題である。子供に関する利用可能 な疫学研究はない。 動物研究 z 実験モデルの妥当性や、高レベルばく露に関するデータがないといった問題が 残されている。 ドシメトリ z 個人の RF ばく露や、ばく露全体に占める個々の発生源の相対的寄与に関する 情報は不足している。 36 オランダ保健評議会(HCN) 電磁界に関する委員会 電磁界に関する年次報告書 z 電磁界への短期的ばく露による安寧への影響はないが、長期的ばく露による安 寧への影響に関する研究は実施されていない。 z 電磁界への長期的ばく露とがん等の病気の発症率との関連についての研究は 実施されているが、UMTS 信号へのばく露は扱われていない。 37 スウェーデン放射線防護庁(SSI) 電磁界と健康リスクに関する最近の研究 第 4 回年次報告書 疫学 z 長期的な使用と聴神経腫については懸念があり、更なる情報が必要である。 z 基地局の近くでの症状に関する研究では、ばく露レベルと症状の罹患率との関 連性が示された。これらの結果は、追試を行い、結論を導く前により良く理解 する必要がある。 アイルランド通信・海洋・天然資源省 電磁界の健康影響に関する専門家グループ報告書 疫学 z 子供の携帯電話端末の使用による健康への悪影響を見出した研究はないが、 WHO はこの問題について更なる研究を推奨している。 英国 移動体通信健康研究プログラム(MTHR) 最終報告書 疫学 z 長期ばく露(10 年超)が脳および神経系のがん進行のリスクを高めるかどう かを評価する研究 z 携帯電話端末ががん、あるいはアルツハイマー病やパーキンソン病といったそ の他の疾病(これらは全く研究されていない)について成人でのコホート調査。 z 電波ばく露が子供に及ぼす影響に関する研究 38 Ⅳ 参考文献 1) Agarwal A, Deepinder F, Sharma RK, Ranga G, Li J. 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Neurosci Lett 2007;412(1):34-8 50 Ⅴ 参 考 51 資 料 参考資料 1 参考資料 1 ワークショップ報告:基地局および無線ネットワーク-無線周波数(RF: Radio Frequency)ばく露と健康上の結果 Valberg PA, van Deventer TE, Repacholi MH 53 電波はいろいろな種類(モールス信号、ラジオ、TV、携帯電話)による情報交 換に長い間利用されている。そして、ますます多くの人々は携帯電話技術に依存し ており、特に、携帯電話端末は人体近傍で使用され、また多くの人々に対して広範 なサービスを提供するために数多くの基地局アンテナが必要とされていることから、 電波ばく露に関連する健康上の懸念が生じている。WHO は、携帯電話の健康問題 に関する現状について議論するための専門ワークショップを開催した。本稿は、同 ワークショップが扱った幾つかの重要な点について言及している。電波の健康影響 に関しては、携帯電話ユーザおよび電波作業従事者についての疫学研究や、携帯電 話の電波をばく露した動物を用いた実験、携帯電話電波の電界強度や変調方式の影 響に関する生物物理学的考察を通じて調査されてきた。要約すると、これらの個別 の科学的調査からは、現行の国際基準よりも低いレベルの電波ばく露によって健康 への悪影響が生じるということに対する証拠はほとんど得られていない。更に、人々 はラジオや TV 放送電波に 50 年以上もばく露されてきたが、健康への悪影響の証 拠はほとんどない。不確かさはあるものの、現在の科学的データは、携帯電話端末 および基地局からの電波レベルでの一般公衆へのばく露は、ヒトの健康に対して悪 影響を及ぼすことはなさそうであるという結論と一致している。 膨大な通信ネットワークが世界中を相互に結んでおり、その中に占める携帯電 話ネットワークの割合はますます高まっている。無線技術からの電波はどこにで も存在するものになっている。携帯電話(電話または電話システムの構築および 運用)は、14 億人以上の人々、あるいは世界人口の約 20%を中継している。人々 はしばしば、常に存在する電磁界(「電磁スモッグ」と呼ぶ人々もいる)に誰もが 取り囲まれているということを思い起こさせられるので、様々な電波放射源から の低レベルの慢性的なばく露による健康影響の可能性について、一部の人々また はグループが懸念を示すのは驚くことではない。世界保健機関(WHO)は国際電 磁界プロジェクトの一環として、この懸念への対処を支援するため、電波の健康 影響に関する科学の現状について議論することを目的とした「基地局および無線 ネットワークに関するワークショップ」を開催した。 電波は、モールス信号、ラジオ、TV 等の異なる種類の無線放送に長い間用いら れている。無線波のスペクトルは、AM ラジオの 0.5MHz からレーダ帯域の 30,000MHz にまたがる。電波放射機器は、家庭、オフィス、学校でますます一般 的になっている。表 1 は、現代の日常生活の環境において電波に寄与している放 55 射源の例である。それぞれの放射源からの実際の電波レベルは、ばく露の詳細な 場所(即ちアンテナからの距離)に依存するので、「ばく露の潜在性」の欄には、 その放射源が遍在的(U)か、より局所的(L)かを示した。また、環境中の電波 レベルに対して特に寄与度が大きい放射源には(+)を付した。 携帯電話がますます普及していることに加えて、家庭、学校、職場、公的空間で の無線インターネット接続(例:WiFi)も拡大し続けている。”WiFi” は ”Wireless Fidelity” の略で、一般的には無線ローカルエリア・ネットワーク(WLAN)を支援す る何らかの無線技術を意味する。WiFiの典型的な周波数は2.4GHzで、データ伝送 速度は1~50Mbpsである。”WiMAX” は、WiFiの長距離版である。携帯電話技術は 今や、どこにいる消費者に対しても、音声、テキスト、画像、音楽、およびその他 のデータを送信する能力を有しているが、これには電波信号を用いた情報の中継の ための広範な固定アンテナ(基地局)のネットワークに依存している。携帯電話端 末の使用の増加(都市部では多数のマイクロセルまたはピコセルを要する)、市場 の競争(より多くの事業者のサービス提供を可能にする)、新たな技術開発(例: 3G(「第3世代」携帯電話技術の略))に伴い、必要とされる基地局の数も増えてい る。3Gに関連するサービスでは、音声データ(通話)および非音声データ(例:情 報のダウンロード、Eメールやインスタント・メッセージの送受信)の伝送が可能 である。 とりわけ携帯電話端末は人体のすぐ近くで利用されること、および多数の基地局 アンテナが必要とされることから、一般公衆、規制当局者、科学者は、急成長する 携帯電話技術による健康影響の可能性について、疑問を呈している。消費者のいる 場所における基地局から生じる電波レベルは、携帯電話端末の使用により生じる電 波レベルよりも遥かに低いが、基地局からのばく露は連続的であることから一般公 衆の懸念が生じている。 56 表1 日常的な環境中の電波に寄与している典型的な放射源 放射源 周波数(MHz) ばく露の 潜在性 民生用AMラジオ 0.5~1.7 U+ 電離層研究プログラム(例:HAARP) 2.8~10 L 民生用FMラジオ 88~108 U+ 民生用VHF TV(アナログおよびデジタル) 54~88、174~216 U+ 民生用UHF TV(アナログおよびデジタル) 512~700 U+ 船舶無線、測位、誘導システム(例:LORAN) 0.003~0.30 L レーダ(航空、船舶、警察) 10,000~33,000 L ミリ波レーダ(気象、軍用) ~100,000 L 衛星通信(全地球測位システム(GPS)、軍用) 220~400 U 衛星通信(TV) 4,000~6,000 U アマチュア無線、国際短波放送 ~50 U 携帯電話(アナログ) 806~890 U 携帯電話(GSM:アジア、欧州) 890~960 U 携帯電話(デジタル) 1850~1990 U 緊急用無線(ポケベル、航空、船舶、救急、警察) 900~950 U 固定マイクロ波リンク(コンピュータ、TV、電話、軍用) 30,000~ L コードレス電話、乳幼児モニタ、無線玩具、テレメトリ 27~60、900、 L 2400、5800 コンピュータ無線接続、電波タグ(例:Bluetooth、WiFi) ~1,900、~2,500、 L ~5,700 リモコン、照明調整装置、ドア開閉装置、盗難防止装置 広帯域 L 電子レンジ、温熱治療装置(ジアテルミ) 2,450 L+ 産業・科学・医療用(ISM)バンドのデータリンク ~2,400、~5,400 L 電波ノイズ(雷、太陽フレア、蛍光灯、ネオン、点火用火花、 広帯域 U 送電線からのコロナ放電) U:遍在的な放射源、L:局所的な放射源、+:特に寄与度の大きい放射源 電波ばく露レベル 表2に示すように、電波放射源(またはアンテナ)からの実効放射電力(ERP)で示 される、利用可能な電磁エネルギーの総量は、放射源の種類によって様々である。 比較のため、電球(可視光線)の例を示しているが、そのエネルギーは主に赤外線 および可視光線の帯域である。電波放射源の出力の強さを考慮すると、携帯電話端 末基地局は最も低いレベルと言える。 57 表2 各種の電磁波放射源からのおおよその放射電力強度 放射源 電力(W) 携帯電話端末 ~0.6W 電球1個(可視光線および赤外線) 100W アマチュア無線アンテナ1基 1,000W 携帯電話基地局アンテナアレイ 1,200W 典型的なAMラジオ放送設備 50,000W 典型的なFMラジオ放送設備 100,000W 典型的なTV放送設備 1,000,000W 電波ばく露は通常、単位面積あたりのエネルギー束(W/m2)で示される。この代 わりに、電界強度(V/m)で表わすこともできる。これらの数値は、アンテナ(ま たは電波放射源)からの距離が波長の数倍以上離れた場所を考える場合、互いに数 学的に関連するものとなる。即ち、単位面積あたりのエネルギー束(S)は電界強 度(E)の二乗に比例する: S{W/m2}=[E{V/m}] 2/[377{V2/W}] [1] 例えば、1W/m2の電波エネルギーは19.4V/mに等しく、10W/m2は61.4V/mに等し い。 (潜在的健康影響に関する)電波エネルギー束は、人々がその電波エネルギーを受 け止める地点における表面積あたりの電力(W/m2)で測定される。これに関する エネルギー束の比較(電波、非電波の両方の放射源を含む)を表3に示す。携帯電 話周波数において最大限許容される電波強度よりも強いエネルギー束レベルの電磁 波(可視光線、赤外線)が普通に存在することがわかる。実際、我々の身体表面は、 「暗視カメラ」で容易に見ることができるだけの赤外線を放射している。我々の身 体は、その十分な温度のため、マイクロ波帯域の電波エネルギー(上限が30~300GHz、 0.003W/m2)も放射している。 表3はまた、携帯電話および基地局からの電磁エネルギーの量は、一般的な電磁 エネルギー放射源、特に電波の発生源よりも極めて小さいことを示している。 家庭およびオフィス環境では、様々な電波エネルギー放射源が利用されている。 表4に、家庭およびオフィス環境における典型的な機器からの周波数帯域および最 大出力を示す。最大出力は、調査した装置の出力の最大値を意味する。これらの周 波数帯域における国際非電離放射線防護委員会(ICNIRP、1998)の一般公衆に対 する電界の許容ばく露レベルは、約30~60V/mである。 58 表3 様々な電磁エネルギー放射源からのエネルギー量 放射源 エネルギー束(W/m2) 電界(V/m) 昼間の太陽光 a 1370 1500Wの電気ヒータから1mの地点 b 480 37℃の黒体表面からの放射(λmax=~10μm) c 520 電子レンジ、電波漏洩基準 50 100Wの電球から1mの地点 d 8 携帯電話(2GHz)公衆ばく露のガイドライン e 10 61 携帯電話(850MHz)公衆ばく露のガイドライン e 4.3 40 携帯電話基地局の近くでの電波レベル(計算値) 0.05 4.3 140 都市部での平均的電波レベル、TV・ラジオ f 0.4~0.7 都市部での平均的電波レベル、携帯電話 f 0.1~0.3 a:地球の大気に到達する太陽エネルギーの平均値は、太陽定数=1370W/m2と定義されて いる。 b:長さ1mの発熱体の後ろにある反射板が発熱体の正面向きに反円筒状に1500Wのエネル ギーを放射、半径1mの放射面の表面積を3.14m2と仮定すると、1500W/3.14m2= 477W/m2となる。 c: ウィーンの法則から、絶対温度Tの物体から放射される出力の波長λは、λ=2898/T (μm) である。ステファン-ボルツマンの法則から、絶対温度Tの黒体からのエネルギー束Φ 4 2) は、Φ=σT(W/m である。ここで、σはステファン-ボルツマン定数(5.67×10-8W/(m2K4)) である。 d:球面状の放射を仮定すると、半径1mの球面の表面積は4πr2=12.6m2。よって、 100W/12.6m2=8W/m2。 e: ICNIRPの一般公衆のばく露に対する参考レベル(ICNIRP、1998) f: Anglesio et al. 2001 特定の電波放射源が懸念の対象となっている場合、目立たない他の放射源の方が ばく露に対する寄与がより大きいことがしばしばあることが、点測定データから示 されている。また、ばく露には非常に幅があり、基地局からの距離が同等であって も、反射や回折、マルチパス信号の相互干渉等の物理的プロセスによる局所的な環 境による電波信号への影響が劇的に大きいことも、こうしたデータから示されてい る。 59 表4 屋内用電波通信技術の種類およびレベル 技術 電波帯域(MHz) 最大出力 20cmの位置 (mW) での最大電界 (V/m) デジタル強化型コードレス電話(DECT) 1880~1900 250 11.5 周辺機器の無線相互接続(Bluetooth) 2402~2480 100 3.1 無線LAN(IEEE 802.11b/g) 2400~2484 100 3.9 無線LAN(IEEE 802.11a/h) 5250~5350 200 3.9 5470~5725 PC周辺機器の無線接続 27~2400 10 <1.5 ベイビーモニタ 27~2400 500 8.5 900~1800 -- 0.1~1.0 住宅近くの携帯電話基地局からの電波 a IEEE:米国電気電子工学学会 a:携帯電話基地局の近傍(<200m)における典型的な電界レベル(Coray et al. 2002) 基地局アンテナに関連する職業的な電波ばく露の評価には、 「遵守境界」を用いる ことができる。この境界の外側にいる作業者の電波ばく露が、関連する安全基準を 遵守するのに十分低いと定義される。これに該当する遵守境界の大きさおよび形状 は、周波数、アンテナの種類、アンテナの出力によって異なる。出力25Wの典型的 な基地局アンテナの場合、遵守境界は直径3mの円筒状で、高さは当該アンテナの高 さ+約0.5mである。この円筒面は放射体の背後0.1m~正面2.9mに位置する。この 擬似的な空間内では、電波信号がICNIRPの職業ばく露基準を超えるかもしれない が、この円筒の外側では、いかなる距離でも電波レベルは安全と考えられているレ ベルよりも十分に低い。なお、「樹脂シーラー」等の職業における電波レベルは、 基地局の極近傍よりも高いと考えられる。 基地局および無線技術からの電波レベルは一般に、装置からの距離と共に減少す る(指向性アンテナアレイでは、地上レベルでの電波の最大値はアンテナの基礎か ら50~300mの距離で生じる)ことが、測定調査および理論的予測で示されている。 つまり、アンテナからの距離が大きいほど電波は低い。基地局および消費者向け無 線機器からの典型的な公衆ばく露条件下では、電波エネルギー束は公衆に対する国 際的な電波ガイドラインの100分の1以下である。ただし、基地局アンテナ素子に非 常に近づく職業ばく露条件下(例:運用中のアンテナの保守作業時)、または無線 LANおよびBluetooth送信機の極近傍では、一般公衆に対する電波吸収の限度値を 超える可能性がある。ゆえに、通常の運用条件下では、これらの装置は国際的な限 60 度値を遵守しているということを担保する必要がある。基地局からの電波への職業 ばく露以外の場合、たいていの状況では、個人の電波ばく露全体に占める基地局の 寄与は非常に小さい。 (Bluetoothは、一般にPC周辺機器間のデジタル無線通信(例: PC、電子手帳(PDA)、携帯電話、プリンタ、デジタルカメラ等の間のデジタル強化 型コードレス通信)に用いられる用語である。Bluetoothの名称は、10世紀のデン マーク国王であるハーラル青歯王に由来する。彼の外交手法は、敵対勢力を合意に 導くことであった。Bluetooth技術の発明者は、この名称が異なる機器間の相互通 信を可能にする技術にふさわしいと考えた。) 電波の影響のメカニズム、および電波変調の役割 携帯電話の無線波は、電波搬送波の周波数および/または振幅の変更パターンを 意味する「変調」によって電磁波に符号化された情報を伝送する。携帯電話技術の 進歩に伴い、変調パターンはますます複雑になっており、高周波変調電波は純粋な 正弦電波よりも潜在的健康影響が大きいかもしれないのではないかという疑問が生 じている。変調が電波とイオン、分子、細胞、組織との間に予期せぬ相互作用を生 じる(即ち、非変調電波とは相互作用が大きく異なる)ことはなさそうであると結 論付けるには、基礎物理学を全てのシステム(特に生物学)に適用可能かどうかに よる。 変調は電波信号に周波数の広がりを導入するが、正味の電波信号の帯域幅は一般 に、中心の搬送周波数に対して極僅かなものに留まる。このことは、変調波の最も 代表的な周波数帯は(高周波の)電波搬送波で、(低周波の)変調パターンではな いことを意味する。電波信号の出力は変調周波数に従って段階的に変化するが、送 信される電波スペクトルには変調周波数の電磁波は含まれていない。表5に、幾つ かの典型的な電波放射源の帯域幅、搬送波、変調の深さの特徴を示す。 表5に示されているように、潜在的な生物学的有意性のパラメータには、信号の 周波数要素(変調周波数と搬送波周波数の比率)、振幅の最大値と平均値の比率、 電波(搬送波)の中心周波数、変調周波数(0~10kHzが典型的)が含まれる。 61 表5 異なる利用技術における電波の変調の特徴 技術 典型的な変調方式 帯域幅/搬送波 の周波数の比率 振幅の 最大値/平均値 適用例および 搬送周波数 AM放送 振幅 ~2 FMラジオ/ TV 移動体通信 周波数 非常に小さい、 <<1 非常に小さい、 <<1 非常に小さい、 <<1 レーダ パルス 程々、<1 100 UWB、 広スペクトル 短いパルス 大きい、~1 100 AMラジオ、 ~0.001GHz FMラジオ、 ~0.1GHz UMTS、TETRA、 GSM、TDMA、 CDMA、 0.4GHz~2GHz 空港レーダ、 ~4GHz 軍用機器、 2~20GHz パルスおよび周波数 ~1 ~10 実験動物における腫瘍形成研究では、電波変調の生物学低影響に関する幾つかの 知見が提示されている。Elderは最近、携帯電話に適用可能な周波数帯の電波ばく 露後の齧歯類の腫瘍形成アッセイについて報告した36編の文献をレビューした (Elder 私信。これらの研究はWHOの電磁界データベースに登録されている)。表6に、動 物の腫瘍形成研究について、電波の変調方式で分類したElderの調査結果の要旨を 示す。ここでは、周波数、変調、出力レベルごとに個別の試験としてカウントして いるので、36編の文献で68件の試験を実施したことになっている。実験動物は主に マウスとラットで、電波周波数は435~9400MHzの範囲である。 表6は、否定的結果が優勢であることを示しており、またElderは、より最近の良 いデザインの研究は全て陰性であることを見出した。7件の陽性の結果については、 ばく露量反応、一貫性、再現性といった妥当性の判断基準を完全に満たすかどうか 結論を下すことができないとしている。68件の試験について有意レベルp<0.05で 検定を行う場合、単に偶然によって陽性の結果が3件か4件生じることが予測される ということに留意すべきである。これらのデータには、変調電波が非変調電波より も潜在的可能性があるという考えを支持する傾向はない。というのは、p<0.05を 満たした(陽性の7件のうち)3件は15件の非変調電波(連続波)について見られた (20%)が、残りの4件は63件の変調電波について見られた(6%)。全体として、様々 な周波数および変調方式の電波に長期間(最大で寿命の長さである2年間)ばく露 された動物における証拠の重みから、変調電波は腫瘍成長のリスクを上昇させない ことが示唆されている。 62 表6 周波数(MHz) 動物モデルの腫瘍形成試験に用いた変調方式 変調方式 試験回数 腫瘍発生への影響 増加 増加なし 800~9400 CW 15 3 12 915 AM 5 0 5 836~903 FM 4 0 4 435~2450 PW 3 1 2 848、1763 CDMA 5 0 5 849 DAMPS 1 0 1 836 FDMA 1 0 1 900~902 GSM 22 3 19 836~1500 TDMA 9 0 9 1616 イリジウム 2 0 2 5680 UWB 1 0 1 68 7 61 合計 生体組織は全てのシステムを司る同一の物理法則に従っているので、電波の生物 学的影響における変調の役割を調べる上で中心となるのは、メカニズムの検討であ る。物理学は化学の基礎を成し、化学は生物学の基礎を成し、生物学は医学の基礎 を成している。ゆえに、この階層構造によって複雑さが増すとしても、下の階層に おいて妥当であることが示された基礎的法則には上の階層でも従わなければならな い。最も基礎となるのは、実験および内部の一貫性を通じて徹底的に検証されてい る物理法則である。電波の基礎的原理、即ち電磁気学に関するマクスウェルの法則 は、時空間において不変であると認識されており、電磁界と物体との相互作用に関 する記述の精度は、事実上全ての技術の基礎を成している。継続的な挑戦にもかか わらず、例外は一つも見つかっていない。同様に、物理学は、化学、生物学、技術、 医学を取り巻く複雑系においても妥当であることが示されている。単純な保存則(例: エネルギー、運動、電荷、運動量)は普遍的に適用可能であり、生物学も例外では ない。 何らかの生物学的相互作用のメカニズムが、変調電波信号と非変調電波信号の違 いを区別できるためには、(a)中心となる電波周波数の変化を検出し、これに反応す るのに十分な速さを有しているか、または(b)変調周波数で生じる電波出力の変化に 敏感でなければならない。(a)に関しては、高周波電波を整調する、または帯域幅を 63 識別する能力を有する生物学的構造が必要だが、科学者はこれを同定できていない。 (b)に関しては、信号の出力変化に対して敏感であるためには、低出力レベルで非線 形の生物学的構造(例:電波を「整流する」)が必要であるが、生物学者や解剖学 者はそのような構造を同定していない。仮に生物学的構造によって「整流」が生じ たとしても、極僅かな変調電波出力が、現行の電波ばく露基準以下の「非熱的」レ ベルで、生物学的システムに対してどのように有害な影響を生じるのかを予想する のは依然として困難である。生体システムは相当な熱出力、全体的な熱的慣性、効 果的な温度調整を有している。非線形反応(例:細胞膜の破断)に依存する非熱的 メカニズムは、電波電界の閾値が高い。電気穿孔を生じる電波レベルは、それ自体 が有害な組織の過熱を生じる。 電波エネルギーがヒトや動物の生理学的機能を変化させたり、機能障害を起こし たり、疾病の原因となるには、荷電粒子に作用する電界および磁界によって生じる 物理的な力が、分子、化学反応、細胞膜、生物学的構造を変化させるようなメカニ ズムが存在しなければならない。電波は化学的ではなく物理的因子であり、それが 健康への悪影響につながるプロセスを開始するということの生物学的妥当性を評価 しなければならない。電波による相互作用を生じさせる因果律の連鎖の最初の物理 的ステップを以下に示す。 電波⇒物質(物理学)⇒分子(化学)⇒組織(生物学)⇒疾病 図1に、より詳細なプロセスを示す。生体組織における生物学的プロセスには、 (イ オン、分子、タンパク質、細胞膜の)電荷との間の多くの相互作用が含まれる。ゆ えに、電波(固定された、または運動する電荷に力を作用させる電波)へのばく露 が生物学的機能を改変する潜在的可能性を有しているかもしれないということは、 明らかにありうる。電波がヒトの疾病を誘発する、または悪化させるには、電波の 電界が最初の形質導入ステップの引き金を引かなければならず、また疾病につなが る連続的なステップのカスケードを始めなければならない。図1に示すように、因 果の連鎖はヒトの電波ばく露から始まる。電波がこの最初のステップを完了させる には、生物学的分子(または構造)の大きさ、形状、電荷、化学的状態、エネルギ ーを変化させるような方法で、これらと相互作用することになる。この最初の「形 質導入」ステップでは、電波エネルギーの一部の吸収が生じなければならない。こ れがなければ影響は生じない。 図1は、形質導入後に生物学的影響(および可能性のある健康への悪影響)が観 64 察されるには、分子、細胞、組織レベルでの事象の連続が必要であることを示して いる。各ステップは様々な終点につながる可能性があり、因果律の連鎖を更に進む ことができるのは特定の結果のみである。図1の右上にある「疾病に向かう進展」 に至るのは、数多くの結果うち僅か1つに過ぎず、そこに辿り着くには直前のステ ップにおいて特定の引き金が必要である。この因果律の連鎖には、前のステップに おいて生じた弱い信号が通常の変動の範囲内に収まるので、この点より先の因果律 の連鎖には進まないような点が複数ある。 図1 ばく露から疾病につながる因果律の連鎖には多くのステップがあり、それぞれが次の ステップの引き金を引くこともあれば、引かないこともある。電波と分子、細胞構造、組 織との相互作用では、形質導入のメカニズムが、因果律の連鎖の最初の相関として重要で ある。定義により、電波は荷電粒子に力を及ぼすことができる。 低レベル(非熱レベル)の電波については当初、このメカニズムまたは形質導入 ステップは集中的な科学的調査の対象とされてこなかった。高レベルのパルス状マ イクロ波について良く知られている「聴覚作用」でさえ、僅かな熱的ゆらぎに基づ くものであり、時間平均の熱入力は皆無である。人体の健康と生育能力は基本的に、 大規模分子(例:タンパク質、核酸、炭水化物、脂質)の正常な構造と機能に依存 しているので、提案されている電波のメカニズムはいずれも、電波がこれらの分子 の正常な合成、機能、劣化とどのように相互作用するのか、またはこれらを改変す るのかを予測する必要がある。電波の相互作用のメカニズムからは、振幅、周波数、 開始時間、ばく露の間欠性、振幅および周波数の均一性/不均一性、ばく露時間、 高調波、偏波、等に関するばく露の効果の閾値が予測される。更に、このメカニズ ムを理解すれば、子供は成人よりも電波に対してより効果的に反応するかもしれな 65 いという可能性に対処することになる。ただし、我々の現在の理解では、この仮説 は確認されていない。 細胞レベルでタンパク質の構造を改変する作用が知られている内発的な力の程度 が測定されており、これは電波によって生じる力と比較するための根拠に用いるこ とができる。よって、生物学的システムに対して観察可能な力を生じるためのメカ ニズム上の制約は、電波信号から生じる電界の力を、生体システムにおける分子に よって通常発生する(または検出される)力に対して格付けすることで識別できる。 携帯電話に対して許容されている比吸収率(SAR)の最大レベルである2W/kg(組 織10g平均)に相当する組織中の電界強度を用いれば、関連する体内電界は1GHz で~45V/mと推定できる。この電界強度による生体影響の可能性を評価する際に有 益な単位は「ピコニュートン」である。これは、1ニュートン(N)の力の1兆分の1 (10-12)である。水1cm3(質量は1g)の重さは~0.01Nである。大きさが約10μmの ヒトの細胞の質量は10-9g程度であろうから、(大気中の)重さは約10-11N、または 10pNである。不均衡な電荷(正または負)を100個有するタンパク質の分子を考え ると、この分子に働く45V/mの力は最大で~0.0007pNと計算できる。これは、タン パク質分子の機能を改変することが知られている最も小さい力の1万分の1以下であ る。例えば、細胞膜に取り込まれている100個の電荷を有するタンパク質に働く電 気的な力は約160pNである。これは、通常の安静時の細胞膜電位(7nmで~70mV) から生じる電界によるものである。つまり、典型的な細胞膜電圧は細胞膜タンパク 質に対して強い電界力を生じることになる。これは、細胞膜タンパク質の機能(例: イオンチャネルの開閉)を改変することが知られている。1万分の1以下の力は、影 響がないと予測できる。 電磁界と生体との生物物理学的相互作用(熱、光子、力)の可能性の程度につい て調べた結果から、現行の安全限度で許容されている変調電波ばく露条件下では、 電波変調に特有の傷害性が見落とされていることはなさそうだということが示され ている(携帯電話技術に関連するどのパルスよりもはるかに強力な、極めて短時間 の高強度パルスの形の電波についての例外の可能性はある)。確立されている基準 よりも低い電波レベルについては(変調であろうとなかろうと)、それによって生 体システムに生物学的影響が生じるような、再現可能なもっともらしいメカニズム は科学的研究で同定されていない。ガイドラインのレベルには安全係数が盛り込ま れているので、電波が許容可能なレベルを若干上回ったとしても、吸収される熱エ ネルギーは身体が適応可能な範囲内であり、疾病につながることはなさそうである。 66 携帯電話電波が身体と相互作用を生じる可能性のあるメカニズムの考察では、変 調電波が悪影響を生じるような方法は示されていない。 電波の健康影響の可能性に関する証拠の方向性 がん ほとんどの細胞研究では、DNAへの影響はないことが示されており、また動物研 究の結果を含む生物学的データでは、全体として電波ばく露によるがんのリスク上 昇は示されていない。基地局電波に関連するばく露レベルは本質的に、何らかの生 物学的影響が観察されているレベルと比較して非常に低いということは、安心させ るものである。ただし、幾つかの生物学的実験では、電波の相互作用についての新 たな可能性が示唆され続けているので、更なる科学的研究が必要である。新たな化 学物質や薬品を提案する場合を考えれば、大半の電波研究の質では、当局による登 録のための受理を得られないだろうということが指摘されている。 進行中の「INTERPHONE」共同研究は、携帯電話とがんに関する複数の拠点で の包括的研究である。これは、WHOのがん専門機関である国際がん研究機関(IARC) が調整し、13カ国の研究者が共通のプロトコルを用いて参加している。 INTERPHONEのプロトコルは、調査対象地域に居住している30~59歳の人々の頭 頚部腫瘍と携帯電話の使用に関する、地域集団ベースの症例対照研究である。ばく 露評価は個人の携帯電話の使用記録に基づいており、信頼できるものである。研究 に参加する全ての拠点から集められたデータをプールしているので、本研究は統計 的に強力である。 例えば、6つの地域集団ベースの、プロトコルを共有した、北欧4カ国および英国 における症例対照研究で、携帯電話の使用に関連する聴神経腫のリスクが評価され ている。この著者らは、全ての携帯電話またはアナログ/デジタル別の使用期間、 生涯の累積使用時間または通話回数と、リスクとの間には関連性はなかったと結論 付けた。INTERPHONEの最近の結果は、日本(Takebayashi等、2006)およびド イツ(Berg等、2006;Schuz等、2006)における脳腫瘍または聴神経腫のリスクは ないことを報告している。 携帯電話ユーザに関しては他にも、特に脳腫瘍(および、それほど多くないが、 その他のがんや症状)についての研究がある。今日までのこうした研究の結果では、 電波ばく露と何らかの健康への悪影響との間の因果関係に関して、一貫性のある、 または説得力のある証拠は得られていない(Ahlbom等、2006;Ahlbom等、2004; 67 Lonn等、2005)。2006年に公表された英国における4年間の研究では、定期的な長 期間の携帯電話の使用と、最も一般的な種類の脳腫瘍である神経膠腫との間には、 相関はないことが示された(Hepworth等、2006)。ドイツの研究では、長期間のユ ーザにおける神経膠腫のリスク上昇が見られたが、これは統計的に有意ではなかっ た。この著者らは、全体として、携帯電話ユーザにおける神経膠腫または髄膜腫の リスク上昇は観察されなかったと結論付けた(Schuz等、2006)。 もう1つのアプローチとして、疾病の罹患率についての時間的傾向と、携帯電話 の使用についての時間的傾向を比較する方法が用いられている。例えば、イングラ ンドおよびウェールズにおける聴神経腫の罹患率の傾向は、携帯電話の使用の傾向 に対して遅れがなく、相関していることが示されている(Nelson等、2006)。聴神 経腫の罹患率の上昇は、携帯電話の普及率よりも時間的に早いか、または平行して いるので、報告と診断の変化を反映しているものと思われる。また、その時間的傾 向は、電波ばく露が役割を果たしている場合に予想されるものと逆である。 潜在的ながんリスクに関する幾つかの疫学研究では、民間放送の送信タワーとの 近接度が、電波ばく露の指標に用いられている。ただし、個人の電波ばく露は必ず しも距離と関連しない。これらの疫学研究ではいずれも、送信設備からの電波ばく 露ががんまたはその他の健康影響のリスクを上昇させるという、確たる証拠は示さ れていない(Jauchem、2003の要約を参照)。電波放送設備および携帯電話基地局 の周囲におけるがんの「集積性」についての報告が、一般公衆の懸念を高めている が、地域集団におけるがんの分布は本質的にランダムであることから、そのような 集積性が現れても統計的には驚くことではない。また、基地局はどこにでもあるこ とから、既に存在しているがんの集積性の近くに基地局があるということが起こり うると予想される。ゆえに、地域集団におけるがんやその他の疾病の分布が環境要 因とどのように関連しているのか、ということに関する信頼しうる科学的証拠は、 INTERPHONEのような慎重に計画・実行された疫学研究によって得られる。 がん以外の健康影響 循環機能に関連する変化が幾つか報告されているが、これらの知見は、放送局の オペレータにおける知見である(Vangelova等、2006)。証拠の重みと、基地局から のばく露レベルは非常に低いことから、そのようなばく露により健康への何らかの 悪影響が生じるという証拠はない(Feychting、2005;Feychting等、2005)。 68 潜在的な神経学的および行動学的影響 ボランティア被験者についての実験研究では、携帯電話に関連する低レベルの電 波ばく露が脳の機能および行動に影響を及ぼしうるかどうかが調べられている。電 波ばく露に対するものと仮定されている反応の報告には、様々な種類の不特定の症 状が含まれる。最も多く報告されている症状は、不眠、疲労感、目眩、消化不良、 集中困難です。概して、良く管理・実施された二重盲検研究では、これらの症状は 電波ばく露と相関していないことが示されている。また、これらの症状は既に存在 する状況、例えば、電波ばく露そのものではなく、認知上の電波の健康影響につい ての不安から生じるストレス応答によるものかもしれないという徴候が幾つかある。 これまでのところ、ほんの些細な過渡的影響しか報告されておらず、健康に対して 何らかの意味合いがあるかどうかは依然として不明で、ありそうにない(Cosquer 他、2005)。これらの研究で用いられたばく露は、携帯電話の使用による頭部への ばく露に類似したものであり、基地局からの一般公衆のばく露に関連する、より低 い電波レベルに関するものではない。 電磁過敏症に関する証拠のレビューが実施されている(Fox、2006a)。包括的な 系統的検索により、電磁界の存在に対して潜在的に過敏な人々についての、盲検法 または二重盲検法での適切な誘発研究が同定された。メタ分析の結果、「過敏な」 参加者には、電磁界を感知する能力が高いという証拠は見られなかった。つまり、 弱い電磁界は神経学的症状の原因となる因子ではなさそうであると結論付けられた (Rubin等、2005;Rubin等、2006a;2006b)。電磁過敏症の患者と通常の患者の血 液細胞の違いの可能性についての調査では、GSM携帯電話からの電波に対するリン パ球の反応に違いは見られなかった(Markova等、2005)。他の研究者も同様に、 「数少ない利用可能な研究に基づけば、安寧の低下と携帯電話からの放射へのばく 露との関連性については、確たる証拠はない」と結論付けている(Seitz等、2005)。 ただし、 「過敏症反応」に苦しむ人々の窮状を認識することは重要である。WHO は最近、基地局およびその他の電磁界放射機器からの電波に関連付けた不特定の症 状を報告する人々についてのファクトシートを発行した。詳細はWHO(2005)で 見つけられる。更に、英国のE. Foxが、電磁過敏症反応の可能性について分析を続 けており、この知見は2006年の後半に報告される見込みである(Fox、2006b)。 電波の健康影響のまとめ 蓄積された証拠からは、基地局およびローカル無線ネットワークから生じる信号 69 による、短期的または長期的な健康への悪影響の存在は確立されていない。実際、 電波ばく露強度(W/m2)が同程度ならば、体に吸収される電波エネルギーは、FM ラジオ/TVの周波数(100MHz前後)は携帯電話基地局の周波数(1~2GHz前後) の約5倍である。ラジオやTV放送局は50年以上運用されており、健康統計では悪影 響は何ら示されていないということは、安心させるものである。 各国および国際的な電波ガイドラインの策定 携帯電話周波数における健康影響に関するICNIRPのガイドラインは、約40~ 60V/m(4.3~10W/m2)である(ICNIRP、1998)。このICNIRPガイドラインは幅 広く受け入れられており(世界中で30カ国以上)、また例えば、カナダ保健省(1999)、 米国(米国規格協会(ANSI)/米国電気電子学会(IEEE)、2006;米連邦通信委員会 (FCC)、2006)、英国(放射線防護庁(NRPB)/保健防護庁(HPA)、2004a;2004b)、 オーストラリア(放射線防護・原子力安全庁(ARPANSA)、2002)の基準と一致して いる。ただし、利用可能な科学的証拠に基づいて個別に正当化することなく、より 厳しいガイドラインを採用している国や地域も一部にある。以下に、携帯電話周波 数におけるこれらのより厳しいガイドラインの例を、ICNIRPのレベルと比較する。 ・ ICNIRPガイドライン :40~60V/mまたは4.3~10W/m2 ・ 「イタリアばく露限度」 :6V/m ・ 「パリ憲章」 :2V/m、24時間平均、屋内 ・ 「ザルツブルク防護値」 :1W/m2 ・ 「スイス規制」 :4~5V/m、全出力 しばしば地域的な電波ガイドラインの原動力となるのは、確立された健康影響そ のものではなく、むしろリスク認知である(Siegrist等、2005)。これに関しては、 所謂「予防原則(Precautionary Principle)」、即ち「後悔するより安全第一」がし ばしば引き合いに出される。この原則の説明の1つは、「これらのリスクが現実であ ること、またはその深刻さが明確になるまで待つことなく、防護的な措置を講じる」 というものである。電波レベルに対して「防護的措置」をどのように適用するかに ついての表現の1つは、以下のようなものである。 「ここに提案する(電波の)基準は、サービス対象またはプロセス要件を達成す る際に、その他のリスクを持ち込まず、また適度の費用で容易に達成可能ならば、 不必要または偶発的なばく露を最小限にすることは一般に賢明である、というこ 70 とも推奨する。(ARPANSA、2001)」 「適度の費用」という用語は、ある種のコスト便益分析をほのめかしている。所 謂「予防原則」の適切な適用には、何らかの「防護的措置」の時間・労力・費用・ リスクを、同程度の他の公的リスクに対する社会の支出と釣合わせるような政策が 必要である。ただし、科学的研究で「明白なリスク」を定量的に確立ができない場 合、そのような計算を実施することは問題である。 所謂「予防的限度値(precautionary limits)」の根拠が提示できない場合に、恣 意的な限度値や過剰な安全係数を推進することには、理由のない不安ベースの熟慮 を欠いた行為のために、論理的な科学にベースの政策に対する信頼性が損なわれる という危険性が潜んでいる。そのような行為は、安心感を与えるどころか、懸念を 引き起こし、不当な不安を増幅し、公衆衛生上の便益がほとんどあるいは全くない 分野に乏しいリソースを割くことになりそうである(Barnett等、2006;Wiedemann およびSchutz、2005)。科学的手法には、避けられない不確かさやその他の制約は あるものの、環境と生物との相互作用を理解するために必要な、世界はいかに機能 しており、我々はいかに自然法則に依存しているのかということに関する最善の情 報源は、依然として科学である。 安心させる科学的証拠にもかかわらず、携帯電話からの電波ばく露によるリスク はありそうで、それは深刻であるかもしれないと認知する人々もいる。人々の不安 について幾つかの理由が提案されている。これには、新たな未確認の科学的研究に ついてのメディア報道が、不確かな感覚と、未知または未発見の傷害性があるかも しれないという認知を導いている、というものもある。リスク認知は一枚岩のよう な概念として理解することはできない。むしろ、「リスク」をコミュニケートする ことは特異な挑戦である。というのは、一般の人々には克服が困難な3つの要素(複 雑さ、不確かさ、曖昧さ)に主に焦点を当てているためである(Renn、2004;2006)。 容易なリスクコミュニケーションに対する最初の障壁は、複雑さである。日常生 活においては、人々は因果関係を単純なものと認知する。リスクについての最も科 学的な評価では、因果関係の評定は非常に複雑である。原因と影響は明白ではなく、 関連性の可能性を判りにくくする数多くの干渉変数が存在する。しばしば、定量的 手法の能力や、「悪魔は細部に宿る」という事実の認識が求められる。大多数の科 学者は、携帯電話の電波による健康影響はありそうにない(ただし不可能ではない) ということに合意しているものの、一般の人々はしばしば、「人々の目を曇らせる」 ために複雑さが用いられると仮定する。 71 リスクを説明する上での第2の障壁は、不確かさである。大半のリスクは仮定的 な要素を有しており、xという要素がyという悪影響を引き起こす(引き起こしてい る)ということを、確信をもって言うことはできない。例えば、がんのような疾病 が何によって「引き起こされたか」について、科学は決定的な声明を示すことはほ とんどできない。リスクコミュニケーションの意味では、一般の人々に異なる種類 の不確かさを伝えることは、大きな挑戦である。人々は不確かさを、悪い科学やま ずいリスク評価を示すものと誤解している。一般の人々はたいてい、不確かさに直 面すると、「後悔するより安全第一」という単純な戦略に訴える。 コミュニケーションを難しくするリスクの第3の要素は、曖昧さである。曖昧さ とは、健康に対する潜在的脅威に関連する深刻さについて、異なるまたは対立する 解釈や観点が存在するという意味である。科学的解釈に曖昧な要素があるというだ けでなく、曖昧さはリスクの適切な値、優先順位、仮定、倫理、分布、生活の質に 関するパラメータの選択にも関連して生じる。「論争する専門家」に相対した時、 一般の人々はしばしば、提示されている2つの観点の真中が正しい解釈だと仮定す る。これは、一般の人々は周縁の見解を認識する能力が限定的なためである。 リスクコミュニケーションにおけるこれらの問題に対処するためには、科学的合 意に関する正確な情報と教育へのアクセスを人々に提供する必要がある。第一に、 複雑さに対する解決策は、ある技術の単純な禁止ではない。むしろ、科学的調査は 有害な影響について検証することができるが、あるものが安全であるということを 立証することは不可能だということを認識しなければならない。この非対称の関係 をコミュニケートすることは難しいが、1つのアプローチとしては、絶対的安全性 は、何らかの社会的活動(例:公共交通、食料供給、医療行為、処方薬)に課すこ とができる、または課せられる要件ではないということを、人々に気付かせること である。第二に、科学は安全係数を盛り込むことで不確かさを扱っている。つまり、 安全ガイドラインは「良い」と「悪い」の間に境界線を引くのではなく、適切な安 全裕度を盛り込むことで、ばく露ガイドラインを超えたとしても、悪影響が予測さ れる事態には至らない。第三に、曖昧さを扱う際に、科学的合意は必ずしも、それ ぞれの意見の真中にあるわけではないということについて、一般の人々を教育する 必要がある。仮説上のリスクは、科学的・世俗的な世界において、そのような事実 に反する、超自然的な、空想的な説明パターンは正当ではない、ということを認識 する必要がある。疾病の犠牲者と共感する人間の本質的能力は賞賛すべきだが、こ れに関連して、説明できない疾病の責めを近くにある環境要因に負わせたいという 72 願望は、間違った方向に導かれたものである。つまり、個人が疾病を発症した場合、 また、問題となっている疾病の原因が何かを特定するための考えがほとんどない場 合、そのような無知はどういうわけか、電波または電磁界といった「未知の」リス クに焦点を当てることに賛成する証拠に思えてくるのである。しかしながら、この ような知識の欠如は証拠ではない。 恐らく、リスクコミュニケーションの最も重要な要素は、電波基準はこれまでも 精査されており、また今後も精査の対象であり続けるということを、一般の人々に 保証することである。大勢の科学者、医師、および様々な専門分野の公衆衛生専門 家が、進行中のリスク評価作業において、既存のデータを吟味し、新たなデータに 寄与している。ヒトのがんの大部分は、避けられない環境因子へのばく露(例:ウ ィルス、食事、生活習慣、日光、バックグラウンドの放射線)または生命そのもの に内在するプロセス(例:遺伝的不安定性、DNAの複製エラー、内発性ホルモン、 食物代謝によるフリーラジカルや突然変異原の生成、微生物に対する防衛のための 反応性化学物質の生成)によるものであると考えられる(Gotay、2005;Henderson 等、1991;McKean‐Cowdin等、2000;Wogan等、2004)。科学的リスク評価で は、基礎となるこれらの自然のプロセスに対し、対象となるばく露がリスクを上昇 させる能力を比較する。 無線技術からの潜在的健康影響に関するまとめ 上述の通り、我々の最善の科学的理解は、基地局からの電波ばく露による健康 上の影響はなく、また典型的な携帯電話技術の電波レベルから予見される悪影響 はない、ということを支持するものである。この観点は、WHO ワークショップ「基 地局および無線ネットワーク」の結論だけでなく、無線技術の安全性に関する他 の多くの公衆衛生レビューとも一致するものの、ほとんどの公衆衛生当局は「更 なる研究」の継続を望んでいる。これら一流のコンセンサス・グループによる結 論のうちの幾つかを以下に示す。 国際非電離放射線防護委員会(ICNIRP、1998)は、電波帯域を含む電磁界ば く露からの健康影響を防護するためのガイドラインを策定した。この ICNIRP ガ イドラインは、30 カ国以上に採用されている。一部の国々は、ICNIRP が推奨す る限度値よりも有意に低い携帯電話基地局からの電波放射を制限する基準を制定 している。そのような追加的な制限は、既知の健康影響に基づくものではなく、 所謂「予防的措置(precautionary measure)」または「合理的に達成可能な限り 73 低く(as low as reasonably achievable: ALARA)」するための措置となりがちで、 そのような措置は、基地局からの送信を高品質のサービスの提供に必要とされる よりも強くしてはならないことを要求している。 英国では、幾つかのグループが電波の潜在的健康影響を評価している。非電離 放射線に関する諮問グループ(AGNIR、2003)は、携帯電話に関する独立専門家 グループ(IEGMP、2000 年)の報告を改訂し、「基地局の近くに住むことによる ばく露は極めて低く、証拠は全体として、それによって健康にリスクを及ぼすこ とはありそうにないことを示している」と結論付けた。 英国放射線防護庁(NRPB、2004a)も、電波エネルギーが潜在的に健康影響を 誘発しうるのは、ばく露レベルが国際的な限度値を大幅に越える場合に限られる と結論付けた。彼らは、英国における電磁界のばく露制限を ICNIRP ガイドライ ンに基づくものとすべきだと勧告した。 携帯電話技術に関する保健防護庁の個別のレビュー(HPA/NRPB、2004b)で は、「携帯電話システムが健康にダメージを与えることを示す確たる証拠はない」 ものの、携帯電話技術の利用に対して「予防的アプローチ(precautionary approach)」の是認を続けるとしている。 オランダ保健評議会は、携帯電話からの電磁界による潜在的リスクに関する報 告書(HCN、2002 年)を作成した。同報告は、 「現時点での科学的知見によれば、 携帯電話からの電磁界は健康上の傷害性を生じない」と結論付けた。更に、同レ ビュー委員会は、 「 本報告で考察した非熱作用に関する科学的情報は、予防原則や、 局所的ばく露に対して更に低い SAR 限度値を適用することの根拠を提示していな い」としている。同評議会の 2005 年版の報告(HCN、2005 年)では、「本委員 会は、・・・基地局の近傍に住むこととがんの発症率との間に相関が見つかったとい う主張に同意しない」と結論付けた。 オーストラリア放射線防護・原子力安全庁は、「基地局と通信タワーについて: 健康影響はあるのか?」と題するファクトシート(ARPANSA、2003a)を作成し た。この中で ARPANSA は、「国および国際的な科学的見解は、携帯電話基地局 または通信タワーの近くに住むことと関連する電波放射が健康リスクを及ぼすこ とを示す具体的な証拠はない、というものである」と結論付けた。ARPANSA は また、子供に対する潜在的リスクを評価し(ARPANSA、2003b)、 「証拠は全体と して、基地局の近くではばく露レベルは ARPANSA の基準よりも遥かに低く、そ こに住む人々(子供を含む)に対する健康リスクを示していない」と結論付けた。 74 カナダ王立学会は、 「無線機器からの電波の潜在的健康リスクに関する専門家パ ネル」を設置しており、その報告の最新版(RSC、2004)は、 「過去 2 年間に公表 された専門機関のレビューはいずれも、電波に関連する健康への悪影響について の明確な証拠はないと結論付けている」としている。 米国保健物理学会(放射線の安全性に関する専門学会)は、携帯電話基地局タ ワーが近隣住民や学生に対して潜在的な健康ハザードを生じうると信じる根拠は ないとしている(HPS、2006)。 現時点では、電波エネルギーへの過剰ばく露によって生じることが確立されて いる影響は、組織の加熱に関するものだけである。電波エネルギーはどの周波数 でも、ある程度は生体組織に吸収されるが、国際的に受け入れられている限度値 (有意な加熱を生じない)よりも低いばく露レベルで健康に悪影響が生じること を示す利用可能なデータはない。要約すると、最近の研究またはレビューには、 携帯電話および基地局に関する電波ばく露の許容レベルが健康に悪影響を生じる と結論付けたものはない。 科学者は一般に、基地局またはその他の無線技術からの非常に低い電波信号に 関する研究には高い優先順位を与えていないが、知識の欠落は依然として存在す る。この欠落を補うための研究についての勧告は、WHO の研究課題に示されてい る。 75 76 参考資料 2 参考資料 2 電磁界が人の健康に及ぼす潜在的影響 欧州委員会 保健・消費者防護総局 新興・新規同定された健康リスクに関する科学委員会(SCENIHR) 77 エグゼクティブ・サマリ 毒性学、環境毒性、環境に関する科学委員会(CSTEE)は 2001 年、 「 電磁界(EMF)、 電波、マイクロ波が健康に及ぼす潜在的影響」に関する提言をまとめた。SCENIHR は、この提言を改訂し、人の健康に対するリスクの評価に影響を及ぼしうる新た な情報を継続的にモニタすることを求められた。この改訂版の準備にあたり、前 回の提言以降に公表された科学的データをレビューし、それが前回の提言におけ る結論に及ぼす影響を評価した。この提言の主な焦点は、確立されている生物学 的メカニズムよりも低いばく露レベル、特に、そのような低レベルでの長期的ば く露において、健康影響が生じうるかどうかである。今回の提言は、周波数に応 じて分けられている。環境影響に関する議論には個別の節を設けている。 電波 2001 年の提言の採択以降、低強度電波へのばく露による潜在的健康影響に関す る、疫学、動物、細胞研究を含む膨大な研究が実施されている。 疫学的証拠のバランスから、10 年未満の携帯電話端末使用は脳腫瘍または聴神 経腫のリスク上昇を生じないことが示されている。長期的な使用についてはデー タが乏しく、ゆえに結論は不確かで暫定的なものである。ただし、利用可能なデ ータから、長期ユーザの脳腫瘍については、関連性の証拠が幾つかある聴神経腫 を除いて、リスク上昇はないことが示されている。ガン以外の疾病については、 利用可能な疫学的データは非常に少ない。 子供の携帯電話端末使用は特に考慮すべき問題である。データはないものの、 子供または若年層は成人よりも電波ばく露に対して感受性が高いかもしれない。 また、今日の子供は、累積ばく露が上の世代よりも多くなる。これまでのところ、 子供に関する利用可能な疫学研究はない。 電波ばく露が自覚症状または安寧に影響を及ぼすことは、明確には示されてい ない。 神経学的影響および生殖影響に関する研究では、1998 年に制定された ICNIRP の限度以下のばく露レベルにおける健康リスクは何ら同定されていない。 動物研究では、電波ががんを生じたり、既知の発がん因子の影響を強めたり、 移植した腫瘍の成長を加速するという証拠は示されていない。実験モデルの妥当 79 性や、高レベルばく露に関するデータがないといった問題が残されている。 細胞研究では、非熱レベルの電波ばく露が細胞に影響を及ぼすという一貫した 徴候は示されていない。 技術の進展は非常に速く、電波ばく露の発生源はますます一般的になっている。 しかしながら、個人の電波ばく露や、ばく露全体に占める個々の発生源の相対的 寄与に関する情報は不足している。 結論として、ICNIRP が 1998 年に制定した限度以下のばく露レベルでは、一貫 性をもって立証されている健康影響はない。ただし、この評価のためのデータベ ースは、特に長期間の低レベルばく露について限定的である。 80 参考資料 3 参考資料 3 電磁界の生殖 および 生育への影響 欧州委員会 電磁界ばく露の影響:科学から公衆衛生、より安全な職場へ(EMF‐ NET) 81 サマリ EMF‐NET の主な目的は、欧州委員会が出資、または他の国や国際的な枠組み の下で実施された電磁界の影響に関する進行中の研究の結果を照合し、欧州連合お よびその他の利害関係者による政策上の選択肢の立案に対する助言を提供すること である。EMF‐NET はまた、現行の研究プロジェクトについては優先順位、知識 の欠落、結果の観点から、新興技術については電磁界ばく露の健康上の意味合いに 関する適切な情報を提供するための観察を行う。こうした情報は、公衆衛生・消費 者保護、職場における保健衛生、欧州の競争力、環境問題を網羅する政策上の選択 肢の策定に資するものである。 本報告は、EMF‐NET の作業分類(work package: WP)2:実験室研究のうち、 WP2.2:電波研究を扱っている。WP2 の目的は、第一に、電磁界ががんまたはがん 以外の結末に対する影響に関する最近の実験室研究の結果を収集し、これを批判的 にレビューすること、第二に、電磁界からの防護のための政策策定に対して適切な 情報を提供することである。本報告は、低レベル電波ばく露が動物の生殖および生 育に及ぼす影響の評価を扱っている。 WP2 の全体的な目的を支援し、本報告を政策決定者・リスクコミュニケーション 関係者にとって有用なものとするために、電磁界に関連する影響についての証拠の 強さに基づく IARC の発がん性分類に類似した 4 段階の分類(十分な(sufficient) 証拠、限定的な(limited)証拠、不十分な(inadequate)証拠)、影響がないこと を示唆する(suggesting lack of effects)証拠)を用いて評価を実施した。 一般に、電波が生殖および生育に及ぼす影響を調べるのに用いられる実験手法は 、質・量の面で他の環境因子に関するものと同一であり、得られる結果には信頼性 がある。ばく露ガイドラインよりも十分に高い電磁界強度では、吸収される電波エ ネルギーは悪影響につながる可能性のある組織の温度上昇を生じることが知られて いる。ただし、ガイドラインよりも十分に低い、日常的な環境で遭遇するレベルの 電磁界強度では、加熱は無視し得る。しかしながら、一般公衆が懸念しているのは 、そのようなばく露レベルである。温度上昇を伴わずに影響を生じる様々な非熱的 な相互作用が仮定されているが、それらは十分には確立されておらず、そのメカニ ズムは推測に留まっている。電磁界に関連する影響の可能性を検証し、相互作用の メカニズムを明らかにするため、電波と薬物およびその他の化学的因子との複合ば く露の影響に関する研究が幾つか実施されている。 全体として、一般公衆が遭遇する低い電磁界強度へのばく露は、生殖または出生 83 前後の生育に有意なインパクトを及ぼさないことが、文献から示されている。ただ し、組織の温度を数℃以上、または深部体温を 1℃以上上昇させるような強度のば く露は、影響を生じる可能性が高い。強い電波での妊娠した動物への長期ばく露は、 異常高熱状態の温度および持続時間に依存する様々な悪影響を生じる。その範囲は、 僅かな行動学的変化から、胎児の成育遅滞、形態学的な変化、子宮内での死亡まで 様々である。同様に、哺乳類の精巣の温度は、通常は身体の他の部位よりも数℃低 く、 (電波またはその他の発生源による)熱へのばく露は一時的な不妊を生じ得る。 電波と他の因子への複合ばく露による相乗効果が生じるかどうかは、余り明確では ない。異常高熱状態を生じるレベルの電波を用いた場合にのみ、複雑な相互作用が 生じるかもしれないことが、実験結果から示唆されている。評価のまとめを表 1 に 示す。 表1 低レベル電波ばく露による動物の生殖および生育への影響に関する証拠の強さ 結末 影響の証拠 生殖および出生前の生育 精巣の機能 異常高温なしの場合、影響なしを示唆する証拠 異常高温ありの場合、影響ありの十分な証拠 最近の数件の研究は概ねこの結論を支持 胚および胎児の生存(自然流産) 異常高温なしの場合、影響なしを示唆する証拠 異常高温ありの場合、影響ありの十分な証拠 最近の研究なし 奇形 異常高温なしの場合、影響なしを示唆する証拠 異常高温ありの場合、影響ありの十分な証拠 哺乳類については最近の研究なし 誕生および生育 体重および成長 異常高温なしの場合、影響なしを示唆する証拠 異常高温ありの場合、影響ありの十分な証拠 最近の 1 編の研究はこの結論を支持 成熟の指標および行動への影響 出生前および出生後初期のばく露に伴う異常高温なし の場合:影響なし示唆する証拠 最近の 2 編の研究はこの結論を強化 幼若動物のばく露後の影響について不十分な証拠 催奇形性物質との複合ばく露 生殖および生育 異常高温ありの場合、影響ありの限定的な証拠 最近の数件の研究はこの結論を強化 異常高温なしの場合、影響ありの不十分な証拠 84 参考資料 4 参考資料 4 電磁界に関する年次報告書(抜粋) オランダ保健評議会(HCN)電磁界に関する委員会 85 UMTS の影響の可能性に関する研究 結論 ・ 実験研究では短期的ばく露の影響は示されなかった スイスでの研究は、改善されたデザインを用いて TNO(オランダ応用科学研究 機構)の研究を再現するために実施されたものであるが、TNO の知見は確認され なかった。スイスでの研究は TNO の研究者らの経験に基づいて実施されたので、 そのデザインは TNO 研究よりも良く、より包括的であり、従ってその結果は TNO 研究よりも重みがある。 これらの研究結果に基づけば、これまでのところ、UMTS 信号への 45 分間の ばく露の最中または直後に健康への悪影響が生じると推測する理由はない。その ような影響の唯一の証拠は TNO 研究に由来するものであるが、デザインが改善さ れたスイスでの研究では立証されなかった。 同様に、スイスでの研究では、ばく露が 6 週間の研究期間を通じて安寧に何ら かの影響を及ぼすことも示されなかった。ばく露後に何らかの影響が生じるかど うかについては、TNO 研究でもスイスでの研究でも調べられていない。 今のところ、安寧への影響を扱った利用可能な情報源は、これら 2 編の研究だ けである。他にも幾つかの再現研究が、世界中で実施されている。これらはスイ スでの研究よりも遅れて開始されたので、結果が得られるまでには暫くかかると 予想される。これらの研究結果により、UMTS ばく露が短期的な健康影響を生じ るかどうかについて、更なる知見が示されるであろう。 認識機能への影響がないという、TNO 研究およびスイスでの研究から得られた 知見は、視覚的認知に関する限りにおいては、Schmid 等の研究によって確認され ている。 ・ 長期的ばく露に関する間接的データのみ TNO 研究およびスイスでの研究では、短期的なばく露が調べられた。結果的に、 これらの研究は、居住環境または労働環境における UMTS アンテナの存在の結果 として生じる日常生活中の長期的なばく露または連続的ばく露による影響の可能 性についての情報は、何ら提示していない。そのような状況は実験室では調べる ことはできない。しかしながら、今のところ、放射源が何であれ、電磁界への長 期的ばく露による安寧への影響に関する研究は実施されていない。 87 電磁界への長期的ばく露とがん等の病気の発症率との関連についての研究は実 施されているが、UMTS 信号へのばく露は扱われていない。この種の研究は、ば く露が長期間にわたって生じる場合にのみ可能であるが、UMTS 技術が登場して からの期間は比較的短い。更に長期間が経過するまでは、ラジオ/TV 放送設備 等の他の放射源からのばく露に関する研究に由来する、長期的影響についての情 報に依存せざるを得ない。保健評議会は、年次報告書(2005 年版)において、こ の種の研究についての包括的なレビューを提示し、現時点での科学的知見に基づ けば、電波への長期的なばく露の結果としての長期的な影響は何ら同定できない、 と結論付けている。UMTS に関しては状況が異なると推測する理由はない。 88 参考資料 5 参考資料 5 電磁界と健康リスクに関する最近の研究 第 4 回年次報告書(2006 年版) スウェーデン放射線防護庁(SSI)電磁界に関する独立専門家グループ 89 エグゼクティブ・サマリ 電波 ・ 遺伝毒性に関する最近の研究 電波が多くの異なる遺伝毒性エンドポイントに及ぼす影響が、in vitro および in vivo の両方で広範なばく露レベルを用いて評価されており、ほとんどの研究では 影響は報告されていない。本報告でレビューした最も新しい研究は、電波の遺伝 毒性作用についての証拠を強めるものではなさそうである。電波にばく露した培 養細胞における DNA 鎖切断の増加を報告した REFLEX プロジェクトの結果につ いては、結論を導き出すことができるようになる前に、より良く理解する必要が ある。 ・ ヒトを対象とした実験室研究 携帯電話の電波が認識機能に及ぼす影響に関する研究の結果は一貫していない が、認識機能に及ぼす単一の明確な影響は同定できていない。ただし、全体とし ては、最近出版された多くの良くできた研究では、数年前のより小規模で手法上 見劣りする研究において報告された陽性の知見は確認されていない。 最も新しい誘発電位または事象関連電位に関する良くできた研究では、携帯電 話の電波放射による影響はないことが示されている。 TNO 研究の追試では、UMTS に類似した基地局電波放射が認識成績および安寧 に及ぼす影響は見られなかった。 「電波に過敏な」人々と「過敏でない」人々との違いは、自律神経系に強く影響 される幾つかの生理学的パラメータで見ることができるが、これらのエンドポイ ントは携帯電話の電波放射には影響されない。加えて、電波に過敏だと自称する 人々は、過敏でない人々と比較して非常に高い率で、頭痛、吐き気、目眩および その他の症状を携帯電話の使用中に経験すると報告している。しかしながら、こ のことは、電波ばく露が実際のものか擬似的なものかには依存しておらず、その ような影響を意識的に予想することを反映しているのかもしれない。 ・ メカニズム 現行のばく露ガイドラインは、組織の加熱による影響(熱作用)に基づいてい る。一般に「非熱的」と見なされているレベルのばく露については、生物学的影 91 響に関する幾つかのメカニズムの仮説が検討されている。こうした仮説の 1 つは、 非熱的電波の影響は究極的には熱受容体の活性化の結果である、としている。こ れらの熱受容体は、温血動物の身体表面やその他の多くの部位(脳や脊髄を含む) にある。 もう 1 つの仮説は、変調電波信号の「復調」が生じる可能性があると示唆する ものである。 しかしながら、非線形であるがゆえに復調が可能であることが既知の生物学的 構造としては、細胞膜が唯一かつもっともありそうなのものであるが、これが変 調できるのは約 1MHz 以下だけである。細胞のその他の非線形要素を検出する実 験の結果が待たれるところだが、携帯電話に用いられている周波数帯においては、 復調は生物学的に有意ではないというコンセンサスが依然としてある。 ・ 最近の疫学研究 携帯電話の使用とがんリスクに関する最近公表された研究は、疫学研究からの 利用可能な証拠についての以前の全体的評価を変更するものではない。特に、デ ンマークにおけるコホート研究の拡大追跡版は、この結論を変更するものではな い。現在利用可能な証拠から、成人の脳腫瘍については、10 年以下の携帯電話の 使用との間には関連性はないことが示唆されている。 より長期の潜伏期間についても、証拠の大多数は関連性を否定するものである が、データは依然として少ない。携帯電話の短期的な使用と聴神経腫についても、 結論は同じである。ただし、長期的な使用と聴神経腫については懸念があり、更 なる情報が必要である。基地局の近くでの症状に関する研究では、ばく露レベル と症状の罹患率との関連性が示された。これらの結果には追試を行い、結論を導 く前により良く理解する必要がある。 ・ 研究の優先順位 WHO の電磁界プログラム、および、より最近では EMF‐NET および欧州委員 会の科学委員会(SCENIHR)が示しているように、全ての電磁界周波数において、 重要な研究ニーズが依然として残されている。スウェーデン政府は、SSI が管理 する研究に対して 1000 万クローナを更に拠出すると発表した。この資金で放射線 防護の全ての分野の研究をカバーしなければならないが、SSI は電磁界を優先分 野に指定している。独立専門家グループはこれを非常に前向きに見ており、SSI に対し、電磁界研究に実際に用いられる利用可能な資金の割合を特定するよう推 奨している。 92 参考資料 6 参考資料 6 電磁界の健康影響に関する専門家グループ報告書 アイルランド通信・海洋・天然資源省 93 エグゼクティブ・サマリ 電波 交通事故 携帯電話の使用と関連する健康への悪影響として確立されている唯一のものは、 ハンズフリーであろうとなかろうと、自動車運転中に携帯電話を使用することに よる交通事故の増加である。 電波は組織の加熱によって人体に作用する。 電波による健康影響は、ばく露限度に関する国際的ガイドラインによって制限 されている。通常の環境中に見られる電波は、有意な加熱を生じない。作用の非 熱的メカニズムが観察されているが、健康上の何らかの影響を生じるものは示さ れていない。 これまでのところ、携帯電話および基地局から発せられる電波信号へのばく露 による短期的または長期的な健康影響は見つかっていない。電波信号ががんを生 じることは示されていない。ただし、子供や若年層にがん以外の何らかの些細な 影響を生じるかどうかについては、研究が進行中である。この研究の結果を適正 に考慮する必要がある。 マストの立地 マストの立地の際には、最大の電波強度はアンテナから幾らか離れた場所に生 じる。マストを子供が集まる場所や病院から離すことが示唆されているが、携帯 電話ネットワークを効率的に運用するには、最低限の信号強度が必要であること を理解すべきである。このことは、マストの位置とは無関係である。マストを最 低条件に及ばない場所に設置した場合、これを補うためにマストおよび携帯電話 機の両方からの電波信号がより強くなる。正味の結果は、そうしたエリアでは人々 がばく露する電波レベルがより高くなるが、それでもそのレベルは依然として安 全である。WHO が最近公表したファクトシートでは、基地局および無線技術から の電波信号は健康に影響するには弱すぎるということを示している。 子供の携帯電話の使用 子供の携帯電話の使用が健康に対して傷害性を有するということを示唆する利 95 用可能なデータはない。ただし、スウェーデンおよび英国では、当局が、使用を 最小限にする(本質的な通話に限る)、またはばく露を最小限にする(ハンズフリ ー・キットを用いる)ことによる所謂「予防的アプローチ」を勧告している。オ ランダでは、子供の携帯電話の使用は問題とは見なされていない。子供の携帯電 話の使用による健康への悪影響を見出した研究はないが、WHO はこの問題につ いて更なる研究を推奨している。 電磁過敏症(EHS) EHS は、電磁界ばく露のせいにされる、頭痛、不眠症、抑うつ、皮膚および眼 の不調といった自覚症状の集合である。EHS の人々の症状は現実で、彼らを衰弱 させるものであり、適切な治療が必要である。電磁界ばく露と EHS の症状の発症 率との間の相関は確立されていない。WHO は最近、この問題についての詳細なフ ァクトシートを発表している。 子供や高齢者は電磁界に対してより敏感か? 現時点では、子供、病気の成人、高齢者が、健康な成人よりも電磁界ばく露に 対して敏感であるということを示す科学的証拠はない。ただし、ICNIRP の国際 的ガイドラインには、この可能性を考慮して、ばく露限度に対する 5 倍の追加的 な安全係数が盛り込まれている。子供は成人よりも敏感かどうかを決定するため に開催された WHO の最近のワークショップでは、2 歳以上の子供が成人よりも敏 感であるということはなさそうであり、また、現行の ICNIRP ガイドラインは電 磁界ばく露から子供を十分に防護しているようであると結論付けられた。 リスク認知 個人のリスク認知、および、そのリスクを受け入れるか拒否するかの決定には、 多くの要因が影響している。しかしながら、非常に重要な要因の 1 つは、リスク へのばく露が自発的か非自発的かである。WHO が 2002 年に公表した報告に、人々 はリスクをどのように認知するか、電磁界問題についてのより良いコミュニケー ションの方法、この問題を管理するための方法が、より詳細に示されている。 96 参考資料 7 参考資料 7 英国 移動体通信健康研究プログラム(MTHR) 最終報告書 97 エグゼクティブ・サマリ 本報告は、英国の携帯電話と健康研究(MTHR)プログラムの進捗をまとめた ものである。本プログラムは、携帯電話に関する独立専門家グループ(IEGMP) の勧告に基づいて 2001 年に設置された。当初の予算は 736 万ポンドで、政府と 業界が半分ずつ負担することを基本とした。その後、更に 880 万ポンドの寄付が 集められた。いかなる出資機関も本プログラムの成果に影響を及ぼすことができ ないようにするため、独立したプログラム管理委員会が運営した。本委員会には、 IEGMP のメンバー数人と、幅広い専門性を持ったスペシャリストが加わった。海 外からも世界保健機関(WHO)の代表を含む 4 人が参加した。当初の座長は William Stewart 卿が務め、その後 2002 年に Lawrie Challis 教授が引き継いだ。 本プログラムが支援した研究プロジェクト 28 件のうち、最初のものは 2001 年 末に始まった。現時点で 23 件の研究が完了しており、その結果の多くは査読付き 科学専門誌に発表されている(これまでに 23 編)。本報告は、これらの研究につ いてまとめており、世界の他の場所で進行中の研究と関連付けている。未発表の プロジェクトの進捗に関する情報も提示している。更なる詳細については、MTHR のウェブサイトwww.mthr.org.ukで入手可能である。本委員会は、本プログラム が助成した研究の成果を評価した上で、将来の研究についての優先順位を同定し た。これらは、本プログラムの第 2 段階であるMTHR2 によって支援される。 脳および神経系のがん MTHR プログラムは、携帯電話の使用と脳および神経系のがんのリスクに関す る、多くの国々が参加する大規模疫学調査における英国の担当部分に貢献してき た。英国における結果 、および北欧の国々とのプール分析の結果からは、短期的 なばく露(10 年未満)についての疫学的関連性は示されなかった。ただし、より 長期的なばく露期間についての状況は明白ではないので、本委員会は、この分野 には更なる研究の必要性があると同定した。 脳機能 脳機能についての一連のボランティア研究としては、これまでで最大規模の研 究を実施した。反応時間、記憶、血圧の変化といった、電波ばく露に対して生じ る可能性のある反応を網羅した。しかしながら、これらの研究ではいずれも、脳 機能が電波ばく露によって影響を受けることは示されなかった。本委員会は、現 99 時点では成人に対する更なる研究は必要ないと結論付けた。 電気過敏症 本プログラムは、電気過敏症(electrical hypersensitivity)に関するこれまで で最も大規模で最も厳格な研究を支援してきた。これらの研究では、被害者が感 じる不快な症状が携帯電話または基地局からの信号によるばく露の結果であると いう仮説に対して、説得力のある支持は示されなかった。本委員会は、携帯電話 と電気過敏症との関連についての更なる研究の必要性があるとは信じていないが、 緊急サービスに利用されている TETRA 無線および基地局からの信号が特定の懸 念を生じていることを認識しており、本プログラムの第 2 段階の一部として、こ の分野における更なる研究を支援するつもりである。 生物学的メカニズム 本プログラムは、IEGMP 報告で同定された、可能性のある 2 種類の細胞への影 響(ストレスタンパク質の生成、カルシウム信号伝達)の調査のための研究を支 援した。ストレスタンパク質の生成について、非常に慎重に実施された研究では、 以前に観察された影響は恐らく熱によるものであろうということが示された。本 委員会は、このことと、最近公表された研究に照らして、これらの現象について の更なる研究は必要ないと考える。細胞への確固たる影響についての説得力のあ る新たな証拠がないことから、本委員会は、この分野における更なる研究への支 援は提案しない。 基地局 本プログラムは、マイクロセルおよびピコセル基地局からのばく露についての 更なる調査を支援してきた。この調査では、ばく露は弱いということについての 更なる安心が提示されたが、これらの設備の極近傍におけるばく露は、マクロセ ル設備から地上レベルで等距離の位置でのばく露よりも強いかもしれないことが 明らかにされた。本プログラムはまた、個人ばく露データ記録装置の評価に関す る重要な作業も支援してきた。このことから、基地局からのばく露によるリスク についての疫学調査を可能にするかもしれないばく露評価の新たなアプローチが 提示される見込みがある。本委員会は、個人ばく露データ記録装置の更なる開発 と応用に関する作業が、世界のどこかで現在進行中であることを認識している。 ゆえに、現時点ではこの分野における追加的な作業のための助成は提案しないが、 100 開発状況のレビューを続ける。 リスクコミュニケーション リスコミュニケーションの分野において本プログラムが支援した作業では、政 府による所謂「予防的助言」に対する人々の反応は大幅に異なり、事前の態度と 信念の複雑なネットワークに影響されることが明らかにされた。このことは、公 衆への予防的助言の浸透が限定的であるという知見を説明できるようになるかも しれず、また、政策決定者はリスクコミュニケーションについての代替的な戦略 を採用する必要があるかもしれないことを示唆している。本委員会は、この分野 は十分に理解されておらず、系統的な調査に適用するために、更なる追加的研究 の必要があると信じている。 携帯電話と運転 携帯電話の使用が自動車運転の遂行能力を低下させ、事故のリスクを高めると いうことは、十分に確立されている。本プログラムによる新たなボランティア研 究では、この遂行能力の低下がその他の車内攪乱因子(同乗者との会話、空調操 作等)によるものよりも強調されるという証拠は提示されなかった。ただし、携 帯電話の使用はその他の因子よりも多くの認識リソースを費やすかもしれないと いう示唆が示された。 研究の勧告 本プログラムでは、我々の知識には埋める必要がある欠落があることが強調さ れた。携帯電話の信号への 10 年未満のばく露と脳および神経系のがんとの間に関 連性がないことは、勇気づけられるものである。しかしながら、がんを生じる事 象から 10~15 年経つまでにがんの症状が検出可能となることは稀であり、また、 携帯電話を長期間使用している人は少ないことから、携帯電話ががん、あるいは アルツハイマー病やパーキンソン病といったその他の疾病(これらは全く研究さ れていない)につながるかどうかを、確信を持って述べるには時期尚早である。 もう 1 つの欠落は、電波ばく露が子供に及ぼす影響に関するものである。鉛やタ バコの煙、紫外線、電離放射線といった環境因子に対する子供の反応は、成人と は異なる、あるいは成人よりも強いかもしれない。ゆえに、同じことが携帯電話 信号へのばく露についても言えるかもしれない。これまでのところ、このことに ついての研究は非常に少ない。 101 これらの 2 つの問題(成人についてのコホート調査、子供についての研究)が、 最近告知された本プログラムの延長版(MTHR2)において主に優先されるもので ある。MTHR2 に対しては、約 600 万ポンドの助成が既に認められている。この 助成も、政府および業界が等しく負担する。本報告は、更なる作業が計画されて いるその他の分野について述べている。 全体的な結論 MTHR プログラムは、携帯電話技術の広範な利用に関連する健康リスクの可能 性について、以前の評価で同定された不確かさを解決するために設置された。本 プログラムが支援した研究、および、これまでに発表されている研究はいずれも、 携帯電話からの電波ばく露が生物学的影響または健康への悪影響が生じることを 立証していない。安心させられることに、携帯電話の短期使用(10 年未満)と、 脳および神経系のがんとの間に疫学的関連性は見つからなかった。ボランティア を対象とした研究では、携帯電話または TETRA 無線(緊急サービス用)から発 せられる信号のばく露によって脳の機能が影響を受けることを示す証拠は得られ なかった。同様に、電気過敏症に関する研究では、被害者が感じる不快感は携帯 電話または基地局からの信号のばく露によって生じるという仮説に対する説得力 のある支持は得られなかった。非常に注意を払った研究では、以前報告された細 胞への影響は恐らく熱によるものであろうということが示唆された。 本プログラムはまた、基地局からの放射の測定も支援した。これらの測定では、 ばく露は弱いことが確認されている。ただし、マイクロセル設備の極近傍でのば く露は、より大型のマクロセル設備から地上レベルで等距離の位置でのばく露よ りも若干強いかもしれないことが示された。リスクコミュニケーションに関する 研究では、予防的助言の一般公衆への浸透は限定的であること、および、政策決 定者はこの分野にメッセージを伝えるために異なる戦略を採用する必要があるか もしれないことが示された。最後に、本プログラムで支援した研究では、自動車 運転中の携帯電話の使用は、ハンズフリー装置の使用に関わらず、遂行能力を低 下させ、事故のリスクを高めるという、以前の観察結果が確認された。ただし、 この研究では、遂行能力の低下は他の車内攪乱因子と同等であった。 本委員会は、IEGMP が提起した懸念の多くは本プログラム等によって軽減され たが、幾つかは依然として残されていると認識している。ゆえに、それらに対処 するために更なるプログラムを提案する。優先順位の高いものには、長期ばく露 102 (10 年超)が脳および神経系のがん進行のリスクを高めるかどうかを評価する研 究が含まれる。加えて、携帯電話信号への子供のばく露が、異なる総合的症状と 関連しているかどうかを評価するための研究も、優先順位が高いと考えられる。 103 104 参考資料 8 参考資料 8 HERMO-フィンランド研究プログラム 移動体通信の健康リスク評価プログラム 105 最終報告書 サマリ HERMO(移動体通信の健康リスク評価)は、1994 年以降にフィンランドで実 施された一連の国家研究プログラムの 1 つである。フィンランドの大学および研 究機関によって実施されたこのプログラムは、電磁界の健康影響の分野における 人々のニーズに回答し、国際的なプロジェクトを支援することを目的としたもの である。HERMO プログラムの計画立案は、WHO の研究課題および最近の文献 レビューに提示された研究ニーズに基づいている。 HERMO 研究プログラムの目的は以下の通りである。 ・ 電波が神経系および感覚器官に及ぼす急性および慢性影響について調べるこ と。電波が子供に及ぼす影響について調べること。 ・ 携帯電話の使用とがんに関する疫学調査における誤差の元について調べるこ と。 ・ ドシメトリを改善し、本プロジェクトにおける生物学的研究に対するドシメ トリックな支援を提供すること。 ・ 金属製インプラント周辺での電波のドシメトリについて調べること。 ・ 電波に関するリスクコミュニケーションのための素材を提供すること。 ・ 振幅変調の生物学的関連性について調べること。 培養細胞、実験動物、ボランティア被験者、理論的モデリングにおける研究では、 健康への悪影響の証拠は示されなかった。ただし、興味深い生物学的影響が幾つか 見られた。 本プログラムは、クオピオ大学がコーディネートした。13 の小プロジェクトにつ いて責任を負う他の参加者は、チュルク大学、ヘルシンキ大学、フィンランド職業 衛生研究所、テンペラ工科大学、放射線・原子力安全庁(STUK)、フィンランド技 術研究センター(VTT)である。 本プロジェクトの総費用は約 1900 万ユーロで、うち 80%超は政府の資金源から、 残りは携帯電話製造会社およびネットワーク事業者から拠出された(フィンランド 研究革新向け歳出庁:46%、大学および研究機関:37%、ノキア、ソネラ、エリー ザ、フィンネット:17%)。 107 108 参考資料 9 参考資料 9 無線機器の潜在的生物学的・健康影響に関する研究ニーズの同定 全米科学アカデミー(NAS)無線機器の潜在的生物学的・健康影響につい ての研究ニーズの同定に関する委員会 109 報告書 サマリ 近年、無線通信機器の使用が急増しており、これらの機器の使用により生じる 可能性のある生物学的影響またはヒトの健康への影響を調査するために多数の研 究が実施されてきた。より焦点を絞ったイニシアティブの下、米国保健福祉省の 食品医薬品局(FDA)は全米アカデミーに対し、無線通信機器からの電波エネル ギーのばく露による生物学的影響および健康への悪影響に関する研究ニーズと知 識の欠落を同定するため、国内および国際的な専門家を集めたワークショップを 開催するよう要請した。この任務を遂行するため、全米アカデミーはワークショ ップを立案する 7 人の委員会を任命した 1 。このワークショップ後、委員会には、 研究ニーズおよび現在の知識における欠落を同定すると委員会が判断したワーク ショップでの発表および討議に基づく報告書の作成が求められた。委員会の任務 には、健康影響の評価、または同定された研究ニーズをどのように満たすかにつ いての勧告の作成は含まれなかった。 要請されたワークショップは 2007 年 8 月 7~9 日に開催された。ワークショッ プは、研究ニーズと知識の欠落を同定するため、以下の 5 つのセクションで構成 された。 ・ ドシメトリおよびばく露 ・ 疫学 ・ ヒト実験室研究 ・ メカニズム ・ 動物および細胞生物学 ワークショップの 3 日目の午前に開かれた 6 つ目のセッションでは、全体的な 論点が導入され、ワークショップ発表者およびその他の関心のある団体から研究 ニーズと欠落についての要求が示された。 委員会は、無線通信機器の潜在的な生物学的影響および健康への悪影響に関連 する研究ニーズおよび欠落について発表するため、9 ヶ国から専門家を招聘した。 ワークショップの前およびその場で、研究ニーズおよび欠落に関連した書面も提 出された。 本報告書では、ワークショップの発表および討議セッションについての同委員 会の評価の後に、委員会による研究ニーズおよび欠落の同定を示している。 1 無線通信機器の潜在的生物学的または健康悪影響についての研究ニーズの同定に関する委員会。 111 研究ニーズおよび欠落 本報告書の目的のため、委員会は「研究ニーズ」を、電波エネルギーがヒトに 及ぼす潜在的悪影響についての我々の理解を増進させる研究と定義している。 「研 究の欠落」は、潜在的な価値のある科学的データが現時点では欠如しているが、 その欠落は埋まりつつあり、更なる研究ニーズについて判断を下す前に結果を待 つ必要がある、あるいは、その欠落は現時点では優先順位が高いものではない、 と委員会が判断した研究分野と定義している。 可能な限り、短・中・長期的な研究機会を以下のように特徴付けた。 「研究ニー ズ」は、委員会が短期的な研究機会と判断したものである。現在埋められつつあ る「研究の欠落」は、現行の研究の成果次第で、中期的な研究機会とされるかも しれない。健康上の懸念を直接扱うにあたり、優先順位が低いと定義された「研 究の欠落」は、長期的な研究機会の可能性を形成している。 研究ニーズおよび欠落に関する委員会の判断の要約版を、ワークショップの最 初の 2 日間における 5 つのセッションの順序に従い、以下に示す。研究ニーズお よび欠落の詳細については、本報告書の本文を参照されたい。 ドシメトリおよびばく露 研究ニーズ 1. 個人用無線機器(例:携帯電話、無線パーソナルコンピュータ(PC))およ び基地局アンテナからの電波の両方について、若年層、子供、妊婦、胎児の ばく露を特徴付けるニーズがある。これには、ばく露の勾配や変動、機器の 使用環境、その他の発生源からのばく露、複数のばく露、複数の周波数が含 まれる。 2. 無線ネットワークは非常に急速に構築されており、更に多くの基地局が設 置されている。典型的な複数要素の基地局アンテナについての放射電磁界、 および、アンテナの近傍および地上レベルで日中のピーク時間帯に測定を実 施して最大放射電力条件を特徴付けることは、重要な研究ニーズである。 3. ハンドヘルド型携帯電話およびテキストメッセージ機器用の発展型アンテ ナの使用により、身体にもたらされる様々なパターンの比吸収率(SAR)を 特徴付けるニーズが生じている。このデータは将来の疫学研究において利用 できる。 4. 複数要素の新たな基地局アンテナの近傍での運転要員の電波ばく露は不明 112 であり、高い可能性がある。このばく露を特徴付けるニーズがある。また、 様々な身長の男性および女性についての現実的な解剖学的モデルを用いた、 ドシメトリ的な吸収電力の計算のニーズがある。 研究の欠落 研究が進行中のもの 1. 現時点で、子供や身長が低い人々についての幾つかのドシメトリック・モデ ルが利用可能であるが、携帯電話、無線 PC、および基地局のばく露に特有の SAR 分布の特徴付けに利用するため、複数の身長の男女、および様々な年齢 の子供についてのモデルの更なる開発において研究の欠落が残されている。 優先順位が低いと判断されたもの 2. 現在、金属製の装飾品および体内植え込み医療機器の極近傍における局所 SAR の集中についての知識は極僅かであるか、比較的少ない。 3. ヒト実験室研究に関するばく露システムを改善する必要がある(ヒト実験室 研究用の次世代のばく露システムの設計のための、信頼性があり、精密なば く露評価を含む)。更に、ばく露の特徴付けにおいて、場所に依存する電磁界 強度を考慮する必要がある。複数の独立した研究者が結果を検証することが 極めて重要である。これにより、システム間、および実験室間の比較のため の、信頼性があり、精密なばく露評価が利用可能となる。 4. 急速に変化する電磁界ばく露強度の特徴付けおよび文書化のため、適切に 選択した米国の人口集団のサンプルにおいて、調査を更新する必要がある。 これにより、多数の新たな携帯電話および基地局、ラジオおよび TV 放送局、 およびその他の各種通信機器を考慮した、人口集団全体についてのばく露レ ベルに関する我々の知識が改善されるだろう。これには、測定時の場所(屋 内と屋外環境との違い等)および活動に関する情報と合わせた個人ばく露の 測定調査が含まれる。 113 疫学 委員会は、特に子供に関する、幾つかの疫学研究について重要な研究ニーズを 同定した。 成人 研究ニーズ 1. 前向きコホート研究。前向きコホート研究では、様々な結果についての評 価が可能であるが、稀にしか生じない、または非常に長い潜伏期間を経てか らしか生じないような結果については、非常に多くのサンプル数と長期的な 追跡が必要である。 2. 中・高ばく露の職業的コホート。これまでの職業的研究はいずれも、適切 なばく露評価に基づいたものではなかった。潜在的に高い電波ばく露を有す る職業を同定し、それを特徴付けるには、多くの作業が必要である。 研究の欠落 優先順位が低いと判断されたもの 1. 稀な疾病についての集団内症例対照研究。 2. 主観的な結果についての観察研究。 子供 研究ニーズ 1. 妊婦および子供についての前向きコホート研究。子供は、妊娠中は母親の 無線機器の使用を通じて潜在的に、また出生後は自身が携帯電話の使用者と なってばく露される。 2. 子供の携帯電話使用者と脳のがんについての症例対照研究。子供および若 年層の間で携帯電話が広範に使用されていること、および、脳へのばく露が 比較的高い可能性があることから、小児の脳腫瘍の進行における電波の潜在 的影響についての調査が是認される。 114 研究の欠落 研究が進行中のもの 1. 全ての主要な固定電波ばく露源(基地局、AM、FM、TV アンテナ、および その他の発生源)を考慮して改善されたばく露評価を用いた、小児がんにつ いての症例対照研究。 ヒト実験室研究 研究ニーズ ヒト実験室研究については、重要な研究ニーズが幾つかある。同一条件の再 現実験データがないので、 1. 脳電図活性の変化によって同定された電波の悪影響の可能性に的を絞った 実験のニーズがある。また、被験者数を増やす必要がある。 研究の欠落 研究が進行中のもの 1. 電波への長期的ばく露の際に生じる神経生理学的影響については、利用可能 な情報はほとんどまたは全くない。 2. 恒例のボランティアにおける電波ばく露のリスクは十分には探究されていな い。 3. 認識実行機能の変化によって同定された電波の悪影響の可能性に的を絞った 実験について、継続的なニーズがある。 優先順位が低いと判断されたもの 4. 携帯電話と補聴器および内耳インプラントとの相互作用により生じる潜在的 な健康上の意味合いを調べるため、ヒトボランティア研究を実施する必要が ある。 115 メカニズム 研究ニーズ 1. 電波が神経回路網に及ぼす影響は、更なる調査が必要なトピックである。 神経回路網は敏感な生物学的標的であるという示唆がある。 2. 顕微鏡レベルで生じるばく露量の評価は、更なる調査が必要なトピックで ある。 研究の欠落 研究が進行中のもの 1. 電磁界に誘導された分子の変化を表現する、ソフトウェアに基づく非線形の 細胞モデルを用いて、理論的にモデル化できるメカニズム。復調の影響につ ながる可能性のある非線形の生物学的メカニズムが存在するかどうかは、現 時点では不明である。この疑問を扱った進行中の研究が幾つかある。 優先順位が低いと判断されたもの 1. 低レベルの電波ばく露が細胞の熱受容体の刺激を通じて影響の引き金を引く ことができるかどうかについては不明である。 2. 電磁界が細胞膜を通じたイオンおよび分子の輸送に及ぼす影響に関しては、 知識が不足している。 実験的モデルシステムにおけるインビボおよびインビトロ研究 研究ニーズ 1. 電波の作用の潜在的な生物物理学的および生化学的/分子メカニズムの同 定に的を絞った更なる実験研究は、優先順位が高いと考えられる。 研究の欠落 研究が進行中のもの 1. 進行中の幾つかの大規模研究が完了すれば、データセット全体を統合・評価 する「証拠の重み」分析が実施可能となる。その時点で、標準的に繁殖させ た実験動物について更なる発がん性研究を実施することの価値に関して、合 理的で、情報が与えられた上での決定が可能となる。 116 2. 遺伝的処理を受けた動物の使用は、実験室研究の感度を高め、微弱な影響が 検出できるかもしれない。また特に、疾病の因果関係における電波とその他 の因子との間の相互作用の可能性を評価するのに適しているかもしれない。 3. 電波の作用の標的と仮定されている組織(例えば脳)における、がんの多 段階モデル系を用いた更なる研究によって、電波とがんについてのデータベ ース全体が補強されるであろう。 4. 遺伝毒性研究では、電波の潜在的な健康影響を同定することに失敗している が、実験動物を用いた電波の慢性毒性/発がん性に関する進行中のバイオア ッセイのいずれか、または、遺伝的処理を受けた動物モデルを用いた今後の 研究のいずれかにおいて、発がん性の証拠が同定されれば、更なる遺伝毒性 研究が是認されるかもしれない。 5. 潜在的に重要ながん関連の幾つかのエンドポイントについては、非常に少数 の研究しか実施されておらず、本報告書の本文で同定している。 6. がん関連のエンドポイントに加えて、電波ばく露の健康影響の可能性の完全 な評価を支援するための知識が必要とされる毒性学の他の幾つかの分野にお いて、データの欠落が存在する。この欠落については本報告書の本文で同定 している。 117 118