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並列CAEシステムADVENTUREClusterの開発

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並列CAEシステムADVENTUREClusterの開発
日本機械学会誌 2003. 4 Vol. 106 No. 1013
297
並列CAEシステムADVENTUREClusterの開発
■並列処理
並列処理が実用段階に達している.
(ADVC)はADVENTUREをベース
並列計算用ノードとしてPentium 4な
あり,設計現場の新しい大規模CAE
ど安価で高性能なCPUと,高性能なノ
のニーズにこたえようとしている.
ード間インタコネクトが普及してきて
ADVCは,① プレ処理システムに
いるし,並列処理通信(この通信手続
CADカーネルを実装,② メッシュ生
きをメッセージパッシングと呼ぶ)ラ
成機能の大幅な強化,③ 新しく開発
イブラリ規格MPI(Message-Passing
した高速な弾性静解析ソルバ(CGCG
Interface)が世界標準となり,SCore
法),④ 弾塑性解析の機能の充実,⑤
などの並列環境が整備されてきた.ク
CGCG法の反復処理を前処理に用いた
ラスタ型(分散メモリ型)のコンピュ
固有値解析機能(CGCGPI法),⑥ 各
ータは,民間需要にも間もなくこたえ
種要素の対応,⑦ ユーザインタフェ
られるようになるだろう.
ースの充実,⑧ 可視化処理,ポスト
■ADVENTURE
処理の大幅な強化などの点で,
文部科学省・日本学術振興会・未来
図1 自動車用ガソリンエンジンのメッシュ分割
にした商用の並列構造解析システムで
図2 自動車用ガソリンエンジンの固有値解
析の結果(7次モード)
ADVENTUREから,商用版として大
開拓推進事業 ADVENTUREプロジェ
きく進化している.
クト(1997年8月∼2002年3月)は,ク
ラスタ型並列処理に基づく計算力学シ
■ADVENTUREClusterによ
る自動車用エンジンの振動解析
ステムADVENTUREを2002年3月,フ
ADVCがカバーする領域のうち,本
リーソフトとして公開した.ADVEN-
稿では,自動車用直列4気筒ガソリン
素で分割した後,各コンポーネントの
TUREは,プレ処理システム,ソルバ,
エンジンの大規模振動解析について紹
ボルト締結部をばね要素によって結合
ポスト処理システムからなり,構造解
介する.
したもので,全体の自由度は約779万
析,電磁場解析,最適化モジュールな
自動車の設計においては,CAEは,
である.従来のCAEでは解析困難な大
どを有する.ADVENTUREシステム
強度,衝突,振動騒音解析などを対象
きさだろう.本モデルをADVCの新開
の各モジュールのソースコードはその
に,非常に重要な役目を担っている.
発固有値解析ソルバで解いた.NEC
ウェブサイトからダウンロードでき
振動騒音問題はNVH(Noise, Vibra-
HPCエンジニアリングセンタの協力の
る.ダウンロード登録者は2002年11月
tion and Harshness)とも呼ばれ,低
下で,Pentium III 36ノード36CPUクラ
10日現在,635人に達した.大規模解
い周波数域の振動から,数百ヘルツの
スタマシンを用い,18モードを求める
析や高速処理が必要なことは多くの技
振動とそれによる室内こもり音などを
のに計算時間は約5時間だった.図2
術者の共通の認識だろう.
評価の対象にする.近年,自動車エン
に,この中から,第7次(剛体モード
ADVENTUREでは領域分割型の並
ジン騒音の低減のため,特に大規模モ
を除く最低次モード)の振動モード
列処理を行っている.分割された各領
デルを使用したエンジン振動・騒音の
(固有ベクトル)を示す.このモードで
域がプロセッサ単位で処理され,境界
高精度の予測が不可欠になってきつつ
は,長さ方向を軸としてエンジン全体
部分ではメッセージパッシングによっ
ある.エンジン主要部品は,複雑な形
がよじれるような動きを示している.
てデータを共有する.各並列処理モジ
状をした薄肉鋳物である.従来の手法
■まとめ
ュールは領域分割を含む共通のデータ
では,細かなリブやボス,穴などは簡
(株)アライドエンジニアリングと
フォーマットを有し拡張性やモジュー
易化したり無視したりしており,精度
マツダ(株)では,本解析を含む一連
ル間の連携も考慮されている.
面から低周波域しか予測できなかった
の解析を行い,大規模並列構造解析の
■ADVENTURECluster
が,ADVCでは詳細な形状表現が可能
実用化を目指している.今後,大規模
である.
クラスタコンピューティングが,自動
CAEの歴史は長い.設計現場での
CAEとなると,ADVENTUREの機能
図1はエンジンの主要部品の一部を
車などの設計に変革をもたらすように
だけでは扱えない複雑な現象の処理,
アセンブルしたメッシュである.ブロ
これまでの解析資産をどうするのか,
ック,クラッチハウジング,ギアケー
(原稿受付 2002年11月18日)
CADとの連携の問題など,多くの問
スのCADファイルをADVCプレ処理シ
〔秋葉 博 (株)アライドエンジニア
題に直面する.ADVENTURECluster
ステムにインポートし,4面体2次要
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なるだろう.
リング,栗栖 徹 マツダ(株)〕
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