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議事録 - ライフサイエンスの広場

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議事録 - ライフサイエンスの広場
科学技術・学術審議会
研究計画・評価分科会
ライフサイエンス委員会
生命動態システム科学戦略作業部会(第 2 回)
議事録
1.
日時
平成 23 年 4 月 14 日(木曜日)10 時 00 分~12 時 12 分
2.
場所
文部科学省 3 階
3.
出席者
(委
2 特別会議室
員)末松主査、石野委員、大島委員、金子委員、川上委員
近藤委員、笹井委員、塩見委員、高木委員、豊島委員
松田委員、柳田委員、山岸委員、若槻委員
(事務局)倉持局長、戸渡審議官、石井課長
井上室長、藤吉室長、釜井課長補佐
(説明者)洪主任研究員
4.
議事
(1)第 1 回の議論の論点整理
(2)今後の生命動態システム科学について
・「システム生命科学の進め方-幹細胞をプラットフォームとして-」
(米国国立衛生研究所
洪主任研究員)
・「実測データに立脚する細胞内情報伝達系のモデル構築について」
(松田委員)
・「生命動態システム科学推進に資する原子座標ダイナミクス研究」
(若槻委員)
・「生命はシステムとして理解できるか?」
(近藤委員、補足説明)
(3)その他
・自由討論
5. 配付資料
資料 1
第 1 回の議論の論点整理
資料 2-1
洪主任研究員
資料 2-2
松田委員
説明資料
資料 2-3
若槻委員
説明資料
資料 2-4
近藤委員
説明資料
説明資料
1
6.議事
【末松主査】
定刻になりましたので、始めさせていただく前に、初めに、3 月 11 日に
発生いたしました東北地方太平洋沖地震でお亡くなりになられた方々に深く哀悼の意を表
しますとともに、ご遺族と被害に遭われた方々にこの作業部会としてもお見舞いを申し上
げたいと思いますので、よろしくお願いいたします。
それでは、これから第 2 回の生命動態システム科学戦略作業部会を開催させていただき
ます。この会議は、当初 3 月 16 日の開催でございましたけれども、今般の大震災の影響で
本日に延期をさせていただくことになり、申しわけございませんでした。
本日は、ご多忙のところをお集まりいただきまして、まことにありがとうございます。
きょうは、小椋委員と宮園委員がご欠席でございます。それから、金子委員は少しおくれ
て来られるということで、事前に連絡をいただいておるところでございます。
それでは、議事を始めるに当たりまして、議事と配付資料の確認に入らせていただきま
す。釜井補佐のほうから、よろしくお願いいたします。
【釜井課長補佐】
事務局でございますけれども、本日の議事について、ご説明いたし
ます。お手元の議事次第でお配りさせていただいておりますとおり、本日の議事につきま
しては、第 1 回の議論を踏まえた論点整理、今後の生命動態システム科学について、こち
らは、関係の委員、それから NIH の洪主任研究員のほうから、ご説明をいただくこととし
ております。
それから、本日の資料でございますけれども、資料 1 及び資料 2-1 から 2-4 まででご
ざいます。なお、委員の皆様に対しましては、近藤委員のほうからご指摘がございまして、
資料 2-4-1、2-4-2 については事前にお配りさせていただいておりまして、近藤委員の
ほうからもコメイントをいただく予定でございます。なお、メイン席には、机上資料とい
たしまして、ライフサイエンス委員会の報告書ですとか、学術会議のアクションプランの
ほうを置かせていただいております。
以上でございます。欠けているものがございましたら、事務局までお申しつけください。
【末松主査】
どうもありがとうございました。
今のご説明で何か、欠けているものとか、ご質問ございませんでしょうか。
もしなければ議事のほうに入らせていただきますけれども、前回行われました作業部会
での委員からの主な意見について、資料 1 に論点整理をしたものがございますので、それ
をもとに簡単にご説明をいただければと思います。よろしくお願いします。
【釜井課長補佐】
それでは、資料 1 に基づきまして、第 1 回生命動態システム科学戦
略作業部会の論点の整理のほうを簡単にご説明いたします。こちらにつきましては、事務
局のほうで、第 1 回の議論、委員の皆様方からいただいたコメイントをまとめたものでご
ざいます。順を追って、説明させていただきます。
第 1 回における議論のポイントといたしましては、生命動態システム科学推進に当たっ
て何が課題となっているのかという点、あるいは、拠点ですとか最先端の研究設備との連
2
携ですとか、人材育成とか、主に 3 点の内容だったと承知しております。
まず、課題についてですけれども、生命動態システム科学という概念を達成して動的な
生命現象の理解と制御を実現するために、先端計測、in silico(計算機上)モデリング、in vitro
(試験管内)再構成の 3 つの要素を組み合わせて、1 つのサイクルとしてどのようにうまく
機能させるかが、そもそもの課題となるであろうと。
続きまして、遺伝子レベルの小さいレベルから器官までの階層を越えたシステム解析や
シミュレーションの連携が重要であり、その階層間を越えた連携を行うには計測技術やツ
ール開発も必要であると。
続いて、日本が世界を牽引していくためには、in vitro 再構成系でオリジナリティーを発
揮することが不可欠であり、そのためには先端計測やモデリングを開発することも重要で
はないかと。
続きまして、生命現象への理解が不足していると、いくら計測しても数式が立てられず、
どのようにパラメーターを設定したらいいのかわからない。生命、計算の両方を理解でき
る人材が必要ではないかということでございます。
続きまして、集めたデータを戦略的にどのように活用していくかが、モデル化に際して
重要であると。
最後の○でございますが、これまで計測に基づいたデータドリブンのモデル化がうまく
機能しておらず、今後、スーパーコンピュータ等を活用することによってデータドリブン
の研究の進展が期待されると。
課題については、大体そのようなところかと存じます。
続きまして、研究拠点整備と最先端研究施設・設備との連携ということでございますが、
既に行われております最先端研究開発戦略的強化費補助金による設備・施設、それから、
理化学研究所生命システム研究センター(QBiC)といった中核機関により、計測技術と計
算の両面からオールジャパンの体制での研究支援・推進を行うことが必要ではないかと。
続きまして、生命動態システム科学の推進に当たっても、SPring-8 ですとか、フォトン
ファクトリー、あるいは XFEL といった、日本の誇る最先端の研究施設・設備を活用して
いくことが重要である。
最後の○でございますが、医療応用や開発した計測機器の産業化等の出口を目指すには、
民間企業との連携も当然必要になってくると。
最後の項目でございまして、人材育成ですが、生命動態システム科学を戦略的に推進す
るために、学部レベル、遅くても大学院レベルに対する教育や育成が必要である。
続きまして、融合領域を牽引する人材の重要性や、それらの人材を育成する教育システ
ムの導入が必要であると。例えばの話として、第 1 回におきましては、ダブルメインター
制ですとか、一定期間ごとに指導教官をかえて研究キャリアを積む制度が必要ではないか
という指摘がございました。
続きまして、2 つ以上の領域に通じた人材を育成する際にも、もともとの自分の専門性に
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強みがあるように育てることが重要ではないかと。
最後の○でございますが、生命動態システム科学の分野で優秀な若い研究者を集め世界
を牽引する人材を育成するには、生命動態システム科学という分野が将来的にどの程度役
に立って関連のポジションができるかという、いわゆる待遇面、キャリアの点でございま
すが、そういったところを発信していくことも重要ではないかと、そういう指摘がござい
ました。
以上でございます。
【末松主査】
どうもありがとうございました。
ただいまの説明について何か、委員の先生方からご質問、ご意見ございますでしょうか。
震災の前の記録ですので、リセットボタンが押されてしまってなかなか、皆さんのご意見、
わりと集約されているとは思うんですけれども、何かお気づきの点がありましたらまた後
でも結構ですので、この論点整理を行った資料にさらに、今回と、それから次回になると
思いますが、委員の先生方、あるいは外部の方からのお話を伺いながらこれをブラッシュ
アップして、過去に出された提言も踏まえてライフサイエンス委員会のほうに上げていく
というのがこの部会のミッションでございますので、よろしくお願いいたします。
きょうは、最後に自由討議を設けておりますので、続きはまたそちらで伺わせていただ
くことにしまして、先に進めさせていただきたいと思います。
それでは、今後の生命動態システム科学について、議題(2)ということで入らせていた
だきます。前回の第 1 回の作業部会では、ご存じのように、笹井委員と柳田委員からこれ
までの生命動態システム科学に関する取り組みについてご説明をいただいたことは、ご記
憶かと思います。JST の研究開発戦略センターから、これまでの国際的な状況についても、
ご説明をいただきました。先ほど事務局のほうから整理させていただいた資料 1 の幾つか
の論点がございましたけれども、こういったものを米国の研究フィールドでご活躍されて
いる方のご意見もぜひリアルタイムに聞いていきたいというふうに考えまして、私のほう
の判断で、大分無理を申し上げて、きょうは米国国立衛生研究所(NIH)から洪実先生に
お越しいただきました。先生でなくてもたくさんの研究者がこのフィールドにはいらっし
ゃるわけですけれども、日本の研究事情と米国の研究事情、いろいろ非常にお詳しいので、
来ていただいたわけでございます。先生は、老化研究所、発生ゲノム学の研究室の主任研
究員をされています。資料 2-1 にまとめのプリントもつくってきていただいておりますの
で、パワーポイントを見ていただきながら、プレゼンテーションをしていただきたいと思
います。その後、3 名の委員から、特に各委員のご専門の領域から見てどうかということも
意見をきょうは伺っていきたいと考えておりまして、松田委員と若槻委員には 15 分プレゼ
ンテーションと 5 分のディスカッションということでやっていただきまして、その後、事
前にお配りした資料、これは近藤委員のほうからいただいておりまして、5分間で補足説
明をしていただくというふうに、つなげさせていただきます。洪主任研究員には 30 分のプ
レゼンテーションと 15 分のディスカッションということで進めさせていただきたいと思い
4
ます。
それでは、早速、洪先生のほうから、「システム生命科学の進め方-幹細胞をプラットフ
ォームとして-」ということで、ご発表をお願いしたいと思います。よろしくお願いしま
す。
【洪主任研究員】
末松先生、ありがとうございます。今ご紹介にあずかりました、NIH
から来ました洪実と申します。米国の状況を説明してほしいという話が多分あったんだと
思うんですが、私、前回の資料を読ませていただきましたら、JST の福士さんが来てかな
り詳しい海外情報の話はされたようなので、そういうことをリピートするよりは、むしろ
私自身がどういう考えでこういう分野の仕事を進めてきたのかという話をしたほうが、ケ
ーススタディーとして見ていただければいいかなというふうに考えて、きょうはそういう
ふうな話をさせていただきます。
あと、おそらく皆さん、私のことをご存じないと思いますので、なぜ私がシステムバイ
オロジーの話で出てくるのかというのをちょっとご説明しますと、私は、最初の 10 年ぐら
いは日本でずっと研究をしておりまして、それから米国で 20 年、研究を続けております。
日本でも、米国でも、大学と、政府の研究所と、そしてちょっと会社もありますけれども、
経験をしてきました。私の出発点は、これは 30 年ぐらい前になりますが、これは私の汚い
字ですけれども、私が書いたノートなんですが、要するに、受精卵がどんどん発生してい
くというときに、ポテンシャルが下がっていくように見えると。これを遺伝子のネットワ
ークで説明できないかというのをずっと考えていたんですね。遺伝子のネットワークの安
定性と可変性ということで、細胞分化の安定性と可変性ということ、また、発生のポテン
シャルの変化ということを説明できないかというのが、メインのテーマだったわけです。
そのころ、そう考えると、全遺伝子ネットワークの構造と動態をモデル化するためには
何が必要かというのをずっと考えまして、ネットワークというのはおそらくこんなふうに
なっているだろうと。この 1 つ 1 つのノードは遺伝子だと考えてください。幾つかの問題
点に気がつきまして、1 つは、最小のユニット、つまり転写調節因子が特定の遺伝子を調節
するという、転写調節因子 A が遺伝子 B を活性化するという状態を記述する式というのが
ない。よく考えると、1 細胞内での遺伝子の発現レベルをはかって、それをモデル化しない
といけないというのに気がついたわけですね。これが 1 つ目の問題。
2 番目に、こういうふうなブラックボックスになっているネットワークの全体を解明する
というときに、方法論としては、1 つの転写調節因子、これがカスケードのようになってい
るとすると、その 1 つを、perturbation といいますか、日本語ではどうも摂動と言うらし
いですけれども、perturbation をかけまして、そしてすべての遺伝子の発現レベルがどう
いうふうに変化するかというのを測定しなきゃいけないと。それをするために、30 年前で
すけど、技術もありませんので、まず考えたのが、全遺伝子のカタログ化を行う。そのた
めに、均一化 cDNA ライブラリというのと、大規模 cDNA の塩基配列決定という仕事をず
っと進めました。それを全部集めて、今で言いますとマイクロアレイといいますか、パン
5
プロッティングと呼んでいたんですけれども、全遺伝子の発現アレイをつくろうと。これ
がちょうど古沢発生遺伝子プロジェクトという JST の ERATO のプロジェクトで取り上げ
ていただけることになりまして、いよいよこれを始めたわけですね。
1 つ目の問題点は、実験をいろいろやっている途中でだんだんわかってきたのは、1 つ 1
つの細胞、遺伝子で言いますと、遺伝子発現というのは stochastic(確率的)に動いている
ということがわかったんですね。その実験編と、それを説明するために、コンピュータで
モデリングとコンピュータシミュレーションをやりました。Stochastic models for gene
action というのを発表して、その後、レビューも書いて、いろんな形で、これがどういう
ふうに細胞の組織のバウンダリーを決めたりするのかというのを、役立っているかという
のを考えていたわけですね。当時は、今の話は全然相手にされませんで、受けもよくなか
ったんですが、ここ 10 年ぐらい、こういうのがどうも大事だというのがみんなわかってき
たみたいで、たくさん論文も出ていますし、レビューも出ておりますが、例えばこういう
ところに、ランダムテレグラフモデルというのは私がつけた名前じゃないですけれども、
ランダムテレグラフモデルというのは私が始めた仕事だとか、あと、パイオニアリングワ
ークというようなことで、いろいろサイテーションされるようになってきました。これは、
形としては、実験をしてコンピュータシミュレーションをしてモデルをつくるというので、
まさに先生方が議論されてこられたシステムバイオロジーのやり方だと思うんですけれど
も。
それから、この分野に関して私は手をつけてないんですけれども、2 番目の全遺伝子の
cDNA カタログをつくるというのは、これはほぼ 20 年近くずっとやっていまして、これは
90 年に出した均一化 cDNA ライブラリの仕事から始まって、いろんな組織で cDNA ライブ
ラリをつくって発現を調べるというのをやってきました。特に私たちは、非常に難しい組
織、初期胚とか幹細胞であるとかに集中してやってきたわけです。
それをする過程で、こういう仕事はまあまあお金を使いますので、自分の趣味でこうい
うのをやるというわけにはいきませんので、当然、こういう仕事をしますと、リソースと
してほかの研究者の皆さんが使っていただけるようなものがいろいろ出ています。その 1
つが、cDNA のクローンでありますとか、塩基配列情報でありますとか、それから、私の
ラボでつくった cDNA のクローンのセットとか、アジレントのマイクロアレイとか、そう
いうのが出てきたわけですね。
それから、こういう仕事は、当然ですけれども、インフォマティクスといいますか、情
報工学のほうが大変重要になってきます。大量のデータをとにかく処理していかないとい
けない。そういうわけで、この 20 年ぐらい、マイクロアレイのデータ解析のツールですと
か、いろんなソフトウエアとかを開発してきたわけです。こういうのはすべて、パブリッ
クでオープンにしております。ですから、無料で使えるようになっていると。
時間もないんですけれども、これをずっとやってきて、私が得意に思っている図を二、
三枚出してみたいと思います。これは、2004 年に出した論文の一部なんですけれども、着
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床前胚、受精卵がどんどん発生していくときの過程を、鳥瞰図といいますか、これは遺伝
子の数をそれぞれ、約 1 万 2,000 個の遺伝子をあらわしていますが、発現のレベルの変化
をあらわしているんですね。こういうふうに山みたいに出てくるのは、発現のピークがこ
ういうふうにグループであらわれるというのがわかる。鳥瞰図のように、遺伝子発現の動
態ですね、時々刻々変わっていくのを見ることができると。
それからこれは、今度は幹細胞、ES 細胞がいろんな方向に細胞が分化していくときに、
そういう細胞をデー・バイ・デーでとらえまして、それをマイクロアレイで全解析をする。
それを principal component(主成分)解析という方法でビジュアライズすると、こういう
ふうになる。そうしますと、未分化の ES 細胞というのはトップに来ますし、そして、哺乳
類で一番最初の細胞分化の、僕はこれを lineage trajectory と呼んでいますけれども、
trajectory(軌道)のようにあらわすことができるんですね。
こういうふうに図ができますと、なぜ fibroblast とか分化した細胞を未分化のものに変え
るのが難しいかというのが、何となくイメージとしてつかめてまいります。これができる
ようになったのが山中先生の iPS ですけれども、これは、マウスの fibroblast が iPS 化す
ると、こういうふうに上に上がってきて ES と同じようになると。これも非常にわかりやす
いと思います。
ここから本題なんですが、というわけで、私はずっとこういう形の分野の仕事をしてま
いりまして、人材育成の話とか、いろいろ出ているみたいですけれども、なかなか難しい
のは、こういう仕事をしていると、どこの学会にも属してないですね。要するに、どこに
行っても何かフィットしない。僕のことをコンピュータ・サイエンティストだと思ってい
る人もいるんですね。全然違う、私はずっと実験をやってきましたから。ところが、実験
をやっている人から言わせるとコンピュータ・サイエンティストだと言うし、コンピュー
タの人のほうから見ると、これは実験しか知らないやつだというようなわけで、どこに行
ってもぴったり当てはまらないと。それがまさに、システムバイオロジーのいい点でもあ
り、問題点でもあると思うんですね。これは皆さんの議論を踏まえて、システムバイオロ
ジーとはどういうものか、生命科学とは何か、これは私見ですけれども、幾つか挙げまし
た。一番最後の定義がおそらく一番ナローな定義で、おそらく皆さんはコンピュータによ
る生物現象のモデリング、シミュレーション(予測)というのがシステムズバイオロジー
だろうと。それに対して、生命の数理的理解を目指すというのはものすごくブロードです
から、多分これが一番大きな定義づけで、その中に、学際的な仕事である、それから、構
造と動態を理解することが大事なので、perturbation をかけるというのがキーなんですね。
このときにちょっと遺伝学者と考え方が違うのは、皆さんご存じのように、遺伝子破壊、
ノックアウトマウスというのがございますね。あれは完全に遺伝子の機能を破壊してしま
いますからいろんな condensation が起こりまして、実際その遺伝子が何をしていたかとい
うのがわかりにくいことが多いんですね。そういうことで、このシステムズバイオロジー
でやる perturbation というのは、もっとマイナーな perturbation であるべきだろうと。遺
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伝子破壊とか、ドラスチックなことをやらない。それもいいんですけれども、それ以外の
ものが入ってくるだろうと。
それから、細部に目を配りながら全体像を見るという、これは、「木を見て森を見ず」と
いう言葉がありますけれども、以前の分子生物学は 1 つの遺伝子を見て全体像が見えてい
ませんでしたから、全部の遺伝子というのをいつも考えながらやると。それから、遺伝子
を出発点として個体システムのすべての階層を研究して、理解したいと。ここで遺伝子を
出発点とするというのは、遺伝子というのは数が決まっているんです。2 万から 3 万ぐらい
ですね。ですから、それぞれの遺伝子をこうやって解析していくと、システマチックにや
っていくと、どのぐらいやれたかというのがわかるんですね。ところが、それ以外のもの
をシステム解析しようとすると、全体像が見えませんから、自分がどの辺までやれている
のか、何が見えているのか、わかりにくい。だから、やっぱり遺伝子を中心としなければ
いけないだろうと。
そういうことを踏まえて、この会議のためにいろいろノートをとりまして、いろいろ頭
の中で考えて、これを進めるにはどうしたらいいのかというのをずっと書いたんですけれ
ども、これはちょっと話が細かいですから出しませんが、数理モデルに向いたような生物
材料、数理モデルように向いたようなデータフォーマットを出していくというのは、一つ
大事なことだと思いますね。データが出てくると、アトラクティブなデータがあれば、多
分、数理科学、数学の人、物理の人、ダイナミカルシステムズをやっていた人、コンピュ
ータサイエンスの人、みんな入ってくると思うんですね。ところが、今のところそういう
人たちが見たときに、アトラクティブなデータベース、データがないというのが多分、ど
んどん入ってこない理由だと思います。そういうのをやっていかなきゃいけないだろうと。
それで、いろんな考え方があると思いますけれども、私は、先ほどから話しているよう
なことを踏まえて、システムバイオロジーのプラットフォームとして何か共通のプラット
フォームがあると、研究の進展を早め、また、研究者間での相乗作用が生まれやすいんじ
ゃないかと。共通プラットフォームの一案として私が考えておりますのは、2 万から 3 万あ
る遺伝子の中で、大体 2,000 個ぐらいが転写調節因子という転写を調節する因子なんです
ね。それを単独または組み合わせで自由にコントロールできるような幹細胞(ES または
iPS)のセットをまずつくったらどうかなと。それを研究者が利用できるようにする、あと、
共同研究を強制しない、自由に使っていいと、自由に使って自由に発表してくださいとい
うふうにすれば、みんな使うと思うんですね。そして、発表後はデータをデータベース化
して、統合する。そうすると、数理科学の人たちも使いやすいであろうと。
具体的にどういうことかといいますと、系の摂動(perturbation)をかけてその反応を見
るということですけれども、これは 1 個の遺伝子を、転写調節因子を過剰発現させて、細
胞の変化を見ていくと。このプラットフォームは、transcription factor、こういうもので
すね。カスケードがあるとして、この transcription factor(転写調節因子)を、これだけ
ちょっと上げてやると。そうすると、その下流がどうなるかというのが見れるだろうと。
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と同時に、時々刻々と細胞が変化していくわけですね。これは神経と書きましたけれど、
神経になるのもあるだろうと。別の transcription factor を入れますと、筋肉になるのもあ
るだろう。というようなことを、こういう系をつくったらどうかと。そういうのができま
すと、読み出しが、状態をいろんな形で測定できます。全遺伝子の発現レベルももちろん
簡単にはかれますし、あと、miRNA のプロファイリングとか、プロテオミクス、シグナリ
ング、それからエピジェネティクスですね。DNA のメチレーションとか、ヒストンのモデ
ィフィケーション、それから、分子の局在の変化、動態、あとメタボロミクスという、そ
れぞれのところでどういう small molecule がつくられて出てきているかというのをはかる
というのも、一つの方法だと思いますね。こういうのが出てくると大きなデータベースが
できて、それができると、数理解析、モデリング、シミュレーションということに入って
いくと。それをこのまま、またこれにフィードバックすることができると考えるわけです
ね。こういう系が一たんできるといろんなことができますが、発現解析もできますけれど
も、あと、さっき言いました遺伝子を導入するときに、うまいぐあいにタグをつけておき
ますと、そのタグを使ってタンパクのコンプレックスを落としてくることができますから、
それぞれのタンパク、転写調節因子がどういうタンパクと一緒にグループでくっついてい
るかというのを、マススペックというか、質量分析器で見ることができます。これは実は
非常によく動いています。あと、チップシーケンシングという、ちょっと細かいですけれ
ども、このファクターがどういう DNA にバインド(結合)しているかというのも、見るこ
とができますね。マウスができるし、あと、ハイスループットのオーガンの形成ができる
だろうと。
ここで、パイロットプロジェクトとして私の研究室でやっていた仕事をもう少し紹介し
たいと思います。系としては、これは理研の丹羽先生のところでつくられた系を使わせて
いただいているんですけれども、転写調節因子それぞれをマーカーと一緒にある特定のと
ころに入れて、そういう細胞をたくさんつくるということですね。ゴールとしては、1,500
から 2,000 あると言われる転写調節因子の 10%ぐらい、150~200 遺伝子ぐらいやりたいな
と。10%やったら全体像の大体見当がつくんじゃないかなというのが、一つのゴールだっ
たんですね。これが遺伝子レベルで仕事をするということのアドバンテージだと思います。
これは Cdx2 という特定の転写調節因子の例ですけれども、内在性の遺伝子がありますね、
2 つコピー。それから、外から入れたコピーがあります。このコピーの発現を上げると、も
ともとなかったのが、DOXY(ドキシサイクリン)を除くと、ひゅっと上がると。これが発
現が出て、これの上に足すわけですね。そうすると、この系は 1 週間ぐらいたつと、トロ
ホブラストという細胞に分化していきます。
こういう系を使って、遺伝子ネットワークをどうやって解析するのかと、どうやって
Cdx2 が調節している遺伝子を探すかということですね。これはマイクロアレイをやります。
遺伝子発現解析をやりますと、こういうふうに Cdx2 というのをちょっと上げてやると、
2,000 個ぐらいの遺伝子がアップレギュレーションされますし、1,700 個ぐらいがダウンレ
9
ギュレーションされるという、こういうのがわかってくるわけですね。ここで大事なこと
は、こういうシステムズバイオロジーをやるときに系のマニュピレーションをするという
ときには、1 個の遺伝子を変えるというのが大事なんですね。入力がたくさんあるといろん
なことが起こりますから、最終的にリードアウトでいろんなことを読み取っても、何が原
因でそれが起こったのか、わからないんですね。ですから、perturbation をかけるときに
は、特定の遺伝子、1 個しか動かさない。この場合には Cdx2 というのしか動かしてないわ
けですね、この細胞の中で。そして、全体の遺伝子の発現のレベルを見ているわけです。
そうすると、こういうふうに単純に Cdx2 というのが、いろんな遺伝子にくっついて発現を
上げる、いろんな遺伝子にくっついて発現を下げるというイメージがわいてきますね。
2,000 個、1,700 個。
ところが、話はそんな簡単じゃなくて、当然ですけれども、この Cdx2 が調節している遺
伝子、この遺伝子たちが調節している遺伝子、これが調節している遺伝子というので、全
部これに入ってきます。ですから、これを分けていかないといけないんですね。それをす
るのに、こういうプラットフォームがありますと、さっき言いましたようにチップシーケ
ンシングということができますから、転写調節因子がどういう DNA に結合しているかとい
うのがわかって、いろいろ組み合わせてデータ解析、これはかなり sophisticated なデータ
解析ですけれどもやりますと、実は 330 個ぐらいの遺伝子がプライマリー(直接)の下流
のターゲットだというのがわかるんですね。残りは二次・三次的に調節されているもので
あると。それから、抑制されていたほうは、実は直接結合して抑制している遺伝子という
のは見つからなかったと。これは molecular biology としても非常におもしろいんですが、
時間の関係で話しませんけれども、これは、この後随分詳しい解析をして、メカニズムが
大分わかりました。あと、この系はタンパクのコンプレックスがとれると言いましたね。
タグが入っていますので、タンパクのコンプレックスを落としてくることができる。そし
て、そのタンパクのコンプレックスをマススペックにそのままかけると、どういうタンパ
クがくっついていたかというのがわかる。これも詳しくは言いませんけれども、この場合
は NuRD コンプレックスというクロマチンのサプレッションのコンプレックスだったんで
すが、こういうことができる。
今お見せしたのは 1 つの遺伝子の例です。わかりますか。1 つの遺伝子の例です。転写調
節因子の例です。今、145 個の遺伝子のこういうラインができています。この 145 個の転
写調節因子が全部同じような状態になっているんですね。そこで、さっき言ったのを全部
やるのは今のところ不可能ですからマイクロアレイの発現解析だけやったんですけれども、
これはデータ解析がものすごくチャレンジングで、マイクロアレイのデータだけでも、
1,000 近いマイクロアレイのデータですね。それを全部同時に解析しないといけない。コン
ピュータのレベルでも大変ですけれども、データをどうやって読んでいくかですね。さっ
きまでの話は 1 個の遺伝子についての話ですから、従来の molecular biology の考えで大分
やれる。ところが、このレベルまで来ると、どうやって解析していいのかわからないんで
10
すね。いろんなことをやりましたけれども、1 つは、手短に 54 個の細胞のラインの話をし
ますね。これは Cdx2 の例です。これは、さっき言いましたように、この細胞の中でこの遺
伝子だけいじくったんです。ほかのことは何もしていない。Cdx2 だけ上げてやる。そうす
ると、これだけの遺伝子がばっと変わったわけですね。それと同じようなことを全部の、
出てきた 56 個の遺伝子で見ると、こういうふうにパターンが出てきます、スャッタープロ
ットで見ると。おもしろいことに、ある遺伝子は同じようにすごくドラスチックに変化が
あるのに、別の遺伝子はほとんど変化がないんですね。何もしてない遺伝子もある。これ
はなぜでしょうか。解析方法としていろいろあるんですが、これは一つの例ですけれども、
これは私がインパクトグラムと呼んでいるものですが、これそれぞれは、さっき言った転
写調節因子それぞれを変更したマイクロアレイのデータですね、細胞の。こちら側に来る
と、もともと遺伝子が endogenous に発現していますので、overexpression してもインパ
クトとしては大体 2 倍ぐらいの誘導しかかかっていない。こちら側に来ると、もともと発
現してない遺伝子ですから、同じぐらいの誘導レベルでも何百倍というインパクトがある
んですね。だから、こっちのほうがインパクトが高いと。そうすると、イメージとして、
水に石を投げたときのことを考えていただくと、小さな石を投げたときにはさざ波しか立
たない、大きな石を投げると波がわーっと立つだろう。それと同じで、インパクトが小さ
いとあまり、下流の遺伝子がわーっと変わるというのはないんです。インパクトが大きく
なると、こういうふうにどんどん発現のブロードなレベルが変わってくるわけですね。
ところが、よく見ると、アウトライヤーといって、これに合ってないのがあります。こ
れは何だといって見てみると、Klf4、Sox2、Oct4 という遺伝子ですから、これは実は iPS
をつくるときの 4 ファクターなんですね。Myc はここにいますけれども。そうしますと、
iPS というとんでもないことができるためにはこういう転写調節因子が、細胞にちょっと上
げてやっただけで、細胞にものすごくインパクトがあるということですね、トランスクリ
プトーム全体で見たときに。これは非常におもしろいことだと思います。こういう解析も
できるだろうと。
それから、これはややこしい図ですけれども、手短に言いますと、今度はマイクロアレ
イのデータを、それぞれのデータを、今まで知られているすべてのマイクロアレイのデー
タと比べるんですね。それで、今まで知られているどの組織とか細胞と一番似ているかと
いうのをグローバルに見るわけです。そうすると、これはそれを見た図ですけれども、幾
つかおもしろい例を示します。これは Myod という筋肉を誘導すると言われている転写調
節因子ですけれども、あと Mef2c というのもそうですね。筋肉系の遺伝子ですね。これは、
ES 細胞でさっき MyoD をちょっと上げただけでマイクロアレイのデータをとりましたね。
一番似ているのは、やっぱりハートとかマッスルなんですね。神経とか、ああいうのには
似ていない。というような見方で、2 番目は造血系ですね。それから、胎盤系、これは神経、
そして、これは胎盤系というふうにして、こういうふうにデータを見ていきますと、転写
調節因子を 1 個いじくっただけで、トランスクリプトームがすごく変わる。その変わった
11
状態というのは、実はたった 2 日目にはかっただけなんですけれども、その細胞がどうい
う方向に分化していくのかというのを指し示しているということなわけですね。これも非
常におもしろいと思います。形態的には、1 週間ぐらい誘導をかけ続けると、確かに、幹細
胞、胎児性幹細胞、いろんな細胞に分化していきます。見たらわかりますね。全然違うも
のができてきている。
例えば、この例ですけれども、これは Rxra(retinoid X receptor alha)という遺伝子で
すが、これは細胞が粒々っとした細胞に変わっています。これと Gata3 というのは似てい
ますよね。この Gata というのは実は primitive endoderm を誘導するというのはわかって
いるんですけれども、Rxra というのがエンドダームを誘導するというのは知られていない。
でも、これから言うとエンドダームだろうと。
あと、さっきのマイクロアレイのデータでも、これは primitive endoderm だったんです
ね。それをもう少し調べてみると、これはテラトーマをつくらせてみると、実際、こうい
う primitive な yolk sac というのができまして、これは primitive endoderm から由来して
いるものなんですね、もうちょっと複雑ですけれども。ES からできてきた臓器(オーガン)
というのは、ナチュラルに存在しているものとほとんど同じです、こういうふうに。これ
は自然界にあるものですね。そんなふうにして転写調節因子をいじくってマイクロアレイ
をやったり形態を見るというだけで、いろんな方向に分化していくようなものが見れると
いうことですね。
今度は、それにエクストラで、環境因子を変えると、さらなる摂動(perturbation)をか
けることができると。これは同じことをしていますけれども、全然違うふうに見えますね。
これはレチノイン酸をかけた状態なんですけれども、Pou5f1(Oct4)を誘導かけている、
かけてないで、全然違う細胞ができていますね。ですから、さっきの系をさらに
perturbation かけることができる。
もう 1 つ、これはさらなるアイデアですけれども、こうやって考えていくと、この 1 つ 1
つの細胞というのは、イメージとしてはレゴのピースみたいなものですね。ですから、こ
の ES のクローン 1 というのは、さっき言った転写調節因子 1 番というのを欠いた状態。ど
んどん、時々刻々と変わっていきますね。ということは、レゴのピースでも色と形と機能
が時々刻々と変わっていくような、不思議なレゴのピースを見ているわけですよ。そうす
ると、そのレゴのピースを組み合わせたらどうか。そうすると、1 つの ES のクローンでこ
うなっていく、別のクローンでこうなっていくというのを一緒に co-culture したらどうな
るか。例えば、これはライガンドというのをつくっている。こっちはリセプターをつくる
と、当然、途中で反応しますから、シグナリングが伝わって、今まで、ほんとうだったら
何もなかったらこっちに行くのが、方向が変わっていくと思うんですね。
というふうにして、これはほとんど無限のコンビネーションをつくり出すことができる。
こういうのは多分、エンジニアリングをやっている人とかに話すると、喜ぶと思うんです
よ。molecular biology ストとか発生学者は多分こういうのが嫌いなんですね、自然界の話
12
とちょっとずれますから。だけど、エンジニアリングの人は多分、こういうのがおもしろ
いんじゃないかな。これは、時間をずらせることもできるし、幾つ組み合わせるかという
こともあるわけでしょう。さっき言ったようにマイクロアレイでリードアウトをとること
もできるし、さっきのことが全部入ってくるわけですね。そうすると、これはオール・ア
ゲインスト・オールでコンビネーションをやったらどうかと。全部で 2,000 個の ES 細胞が
ありますね。それぞれ違う転写調節因子が入っている。2,000 個の ES 細胞、転写調節因子
が入っている。これをまぜたらどうなるか、オール・アゲインスト・オールで。そうする
と、こういうのができると思うんですよ。これは 1 つの細胞ですね。これは別の細胞です
ね。まぜると、ウェルの中でも微小環境は違うと思うんですよ。例えば、これは赤が 1 個
で周りがグリーン、これはグリーンが 1 個で周りが赤、そうすると、微小環境が違います
から、1 個のウェルの中でも、10、20 という別のコンビネーションが出てくる。そうする
と、細胞ってこういうふうにいろんなのに分化してきますね、これは一例ですけれども。
こういうのをシステマチックにやったらどうかなあと。例えばこれ、細胞ができると、ま
ぜ合わせができる。これはロボットを使ったりしてできますから、その後、誘導をかけた
りなんかしまして、人間が顕微鏡で写真を撮るのは無理ですから、ロボットを使って顕微
鏡写真を撮る。これは 100 ミリオンと書いてありますけれども、これはちょっと計算が間
違っていまして、これで言うと、これの何百倍という数の蛍光顕微鏡のイメージが出てく
るはずですね。そうすると、このイメージだけで 1 個何メガバイトというのをストレージ
するだけでも大変だし、オーガナイズするだけでも大変ですけれども、それをどう解析す
るか。これは人間が一々全部見ていたのではしようがないので、最近、アメリカではイメ
ージインフォマティクスという言葉がはやり出していて、これはコンピュータを使って自
動解析しようと。このイメージを全部分類しちゃうわけですね、自動的に。例えば、こい
つらのイメージはグループだ、このイメージはグループだというようなことができるわけ
ですね。そういうことをしていってコンビネーションがおもしろいのが見つかれば、さっ
き言ったようにピンポイントでこれとこれのコンビネーションだとこういう細胞ができて
くるというのがわかってくれば、戻っていってこれとこれを取り出して、もっと詳しいこ
とを調べることができる。つまり、解析・再現性のある臓器構築・細胞構築というのの系
がこういうふうにしてできるわけですね。自然界にあるのを解析するのと違って、自分た
ちが既にマニュピレーションをかけていますから、非常にコントロールしやすい。何が起
こっているかというのがわかっていますから、システムズバイオロジーとしてはいいんじ
ゃないかと。
これはサマリーですけれども、こういう共通プラットフォームができると非常におもし
ろいのではないかなと。今まで先生方がずっと討議されてこられたような 1 分子モレキュ
ールの細胞内での動態とか、そういうのも、こういうのがあると、意外とその上に乗っか
ってやっていくことができると。そうすると、いろんな違うタイプの細胞でモレキュール
の動き方が違うとか、そういうのがわかるはずなんですね。例えば、ES 細胞はクロマチン
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がフリーだからヒストンもタンパクもすごくフリーにスイッチングしているというのが、
最近、イメージングのテクニックが進歩してわかるようになってきましたけれども、細胞、
筋肉になっていたらどうなんだ。そうすると、筋肉とかは染色体ががちがちしていますか
ら、タンパクは動かないんですね。そういうのが最近わかるようになってきている。だけ
ど、そういうのも、こういうプラットフォームがあると研究が一気に進むというふうに思
うわけですね。
そういうことで、こういうのができるといいのではないかと。システムズバイオロジー
というのをやるプラットフォームになるのではないかと。もう一ついいのは、胎児性幹細
胞というのは、皆さんご存じのように、我々はみんな希望を持っていますから、胎児性幹
細胞でいろんな臓器とかできるようになると、将来、再生医療とか、そういう方法で患者
さんを救ったりすることができるだろうと。僕は「崇高な目的」と書きましたけれども、
そういう大きな目的に対しても、こういうアプローチをすれば、みんなを説得できると思
うんですね。例えば特定の系で、これはおもしろいからやりたいというのはいいんですけ
れども、やっぱりこういうのも視点として持っていないと、アメリカではよくタックスペ
イヤー(税金を払っている人たち)のことをもっと気にしろと言うんですけれども、税金
を払って研究を支援してくれている国民が納得して、この研究だったらもっとお金を出し
てくださいというふうに言えるような方向に持っていけるんじゃないかなということです
ね。
ということで、最後に、今お話ししたのは、私の研究室で、最初の 10 年ぐらいは日本で
やっていた仕事ですし、それから 20 年ぐらいはアメリカでやっていた仕事ですけれども、
アメリカの国家戦略じゃないかとか、そういうことは考えないでください。これはあくま
で、私個人の考えですし、私個人の仕事です。NIH 全体がどう考えているか知りませんが、
少なくともこういうのを NIH 全体でやろうとかというアイデアは今のところ出ていません
ので、これはアメリカの国家戦略じゃないかとか、そういうふうにはとらないでください。
僕は、日本はいろんな意味でこういう技術が進んでいますから、幹細胞のほうも日本は世
界一ですから、そういう意味ではこういうふうなことを頭に置いてシステムズバイオロジ
ーというのをやっていくといいのではないかなというふうに考えます。
以上です。
【末松主査】
どうもありがとうございました。
ちょうど時間になりましたけれども、15 分間の質疑応答。きょうは学会じゃないんです
けれども、個別の質問でも結構です。
先生に特にお話をいただいた理由は、先生からいただいた資料 2-1 のところで、「シス
テム生命科学をどう進めるか(私見)」のところにもまさに書いていただいたんですけれど
も、先生の研究は今まで情報や論文だけじゃなくてデータベースとかウェットバイオロジ
ーのリソースを完全にオープンにアベイラブルにしてたくさんの研究者に使ってもらうと
いうところが終始一貫しているというスタイルだったので、この部会で先生のご意見を伺
14
うのは非常に役に立つのではないかと思ってお話していただいたという、そういう経緯が
ございます。
どうぞ委員の先生方からご自由に、具体的な内容でも、それから戦略に関することでも
結構ですが、何かご質問ございませんでしょうか。
どうぞ。
【金子委員】
金子と申します。理論物理だか、複雑系の数理だか、あまりよくわから
ない分野なんですけれど、きょうの話はめちゃくちゃ感動して、途中で数理の人にアトラ
クトするようなデータという話をして、こういうのがあってほしいなということをいろい
ろ言い続けていたら、まさにそのピクチャーを示されていて、ほんとうにこういうのを進
めていただけたら、生命動態システムは、僕としては 100%満足なんじゃないかというくら
いなんですけれど。
で、1 つだけちょっと質問なんですが、これは僕がやっている研究ともちょっと関係する
んですけど、一番最初に、ポテンシャルの、こういうのを期待したいと。ポテンシャルと
いう場合には、何かもうちょっとマクロな量かなとも思うんですね。マクロ、物理の熱力
学とか、そういう側から来ているところもあって。そうすると、今のようなピクチャーか
らそこはどういうふうにつながるとお考えでしょうか。
【洪主任研究員】
それは非常に難しい、それこそ先生ご専門で、ポテンシャルの話は
先生が論文を書かれていますから私も拝見させていただいていますけれども、非常に難し
い問題です。ただ、最近、ポテンシャルの話も、先生のも含めて、いろいろモデルが出て
きていますけれども、僕の感じでは、遺伝子レベルで話が出てこないと、何となく納得し
た気にならないんですね。遺伝子がどういうふうにネットワークで、ネットワークがどう
変化していくからポテンシャルが下がっていくんだというのを知りたい。じゃあ、遺伝子
のつながりぐあいで押したり引いたりしているので、ポテンシャルという概念を考えるこ
とができるのか。それは、僕も、数学じゃないですけれども、そっちのほうに強い人と議
論をしたりするときには、おまえが言っていることはおかしいと言うんですね。要するに、
ネットワークって、いろんなネットワークがありますね。それぞれが安定状態にあるとし
ますね。1 つのネットワークの安定状態から別のネットワークの安定状態というのは、数学
者にしてみれば、ポテンシャルも何もないんですね。当然それは、自由に、フリーに行け
るものなんですね。ところが生物は、それぞれのネットワークはポテンシャルがあるわけ
ですよ。高い、低いがあるんですね。それをどうやって考えるか。そういう意味では、僕
自身は、そこはキーのポイントは、多分、生物が実際にやっている遺伝子の環境の変化で
すね。それは、同時にいろんなパラメーターを変えるんじゃなくて、特定のパラメーター
しかいじれないようにできているんじゃないか。特定の遺伝子しか、ですね。そうすると、
僕らもシミュレーションをちょっとしたことがあるんですけれども、1 個の遺伝子しかマニ
ュピレーションしないとすると、いきやすさというのは、すごく変化が出てくるんですね。
確率的に、こういうパターンは全然要らない、こういうパターンは要るというのが出てき
15
ますから、いきやすいやつは勾配が低い、下にあるというふうに考えていくと、先生がし
ておられたポテンシャルみたいなのも話として結びついていくんじゃないかなと。ただ、
データが足りないです。これは、さっき言いましたように、こういう系をつくって、マイ
クロアレイをもっと徹底的にやる。miRNA、そういうことを徹底的にやって、実際、遺伝
子が全体でどういうふうに動いていくのか、発現が変わっていくのかというデータがあれ
ば、先生がデータを見られたら、これはこういうふうに考えたらポテンシャルが説明でき
るというのが多分出てくると、僕は思うんです。今はデータがないので、ちょっと難しい
と思いますね。
【金子委員】
一番最初にゆらぎの話とかされましたけど、きょうの摂動してどう応答
するかという。物理だと、摂動での応答の度合いとゆらぎというのが関係するみたいな、
それはアインシュタイン以来の関係式があったりするんですけれど、何かそういう見方で
きょうの摂動での応答と最初のゆらぎの、例えば浅いポテンシャルだとたくさん揺らいで、
深いポテンシャルだとあまり揺らがないみたいなイメージがありますね。そうすると、そ
ういう形で例えばステムセルからどう落ちていくとだんだん深くなっていくみたいなゆら
ぎが変わっていくとか、そういう可能性というのは……。
【洪主任研究員】
ありますね。僕は、それはいいポイントだと思います。そういうふ
うに考えるといいような気がしますね、確かに。ありがとうございます。
【末松主査】
ほか、いかがでしょうか。どうぞ、笹井先生。
【笹井委員】
今の金子先生とのご議論の中で、摂動反応性とゆらぎの問題、ちょうど
先生が出されたデータの逆で、反応するほうの遺伝子にとってどういうインパクトがある
のかというのの変化というのがある意味エピジェネティックな状態を示すんだろうと思い
ますし、きょう非常に強くメッセージとして受けたのは、摂動というものがいわゆる遺伝
学的なノックアウトとかとは違って動的な摂動であるということが非常に重要で、そうじ
ゃないと結局定性的なところを越えないんだろうということを強くメッセージとして受け
ました。
それで、こうした摂動というもの、今までわりと、計測のほうについて先端化しようと
か、あるいはそこからのデータを定量解析にどう持っていくかという議論はこのフィール
ドでも多かったんですが、摂動のほうの体系化というのが改めて必要だと感じるんですけ
れども、ES 細胞の場合は確かに、ES 細胞の分化系だけではなくて、マウスに戻すことも
できますし、非常にいいシステムだと思うんですが、摂動技術ということに対して、アメ
リカを代表されてないというおっしゃり方をされたんですけれども、学会、世界的なやつ
の中で見られて、体系的な取り組みというのがされているようなことというのは、もしも
例をご存じでしたら、お教えいただきたいと思います。
【洪主任研究員】
それはいろいろあると思いますが、NIH が研究費を出すときに、そ
れぞれの研究者が自分で考えてこういうのをやりたいというプロポーザルを出すのと、
NIH のほうから、リクエスト・フォー・アプリケーション(RFA)と言って、こういう分
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野で研究をしてくださいという、研究のマネジメイントをしているほうからばーっと書い
て出てくるのがあるんですよ。その RFA の中の 1 つに、つい最近あったのは、LINCS と
いうプログラムがありまして、それは何かというと、やはり perturbation をかけるという。
彼らは名前までつけちゃって、perturbation をかける主体ですね。最初のポイントのやつ
をパーターバジェンって、名前つけちゃったんですね。辞書で引いても、出てないです。
僕も、昔これをやっているときに、何か名前が要るなというので、何としたらいいんだろ
うと思っていたんですけど、アメリカ人はふっと思いついて、パーターバジェンと言うん
ですね。パーターブかけるもとであると。それを大々的にやって、マイクロアレイなり何
なりのリードアウトのデータと一緒にデータベース化してくださいというのが出ています。
それは年間 6 億円ぐらいかな?
1 つか 2 つのグループがそれに当たるという感じのが出て
います。
それは具体的には何をイメージしているかというと、ちょっとこれと違うんですけれど
も、彼らがイメージしているのは、まず shRNA で片っ端から何かつぶしたりしてマイクロ
アレイをやる。そのパターンがわかりますね。今度は、いろんなドラッグ(薬)をかけて、
同じことをやるんです。マイクロアレイで見る。そのデータを全部集めておいて、パター
ンを比べるわけですね。そうすると、A という薬をかけて、A という薬がパーターバジェン
になっているときに変わる変化のパターンに一番似ているのが例えばある遺伝子をノック
ダウンしたやつだということになると、実はこのドラッグが一番効いているのはここじゃ
ないかということが推測できるんですね。そういう形のドラッグ・ディベロプメイント絡
みのアイデアでパーターバジェン、摂動をかける側をいろいろ変えたらどうかというのが
出ています。ただ、それ以上のところはないと思いますね。shRNA とか、片っ端から遺伝
子をノックダウンしていろいろというのは、スクリーニングとか、今盛んに論文に出てい
ますけれども、それはほとんどすべてフェノタイプを見ています。つまり、セルサイクル
が変わる遺伝子を見つけたいというので、全部の遺伝子をノックダウンかけて、変わって
きたやつだけとってきて調べる。ところが、僕がここで言っているのは、数理の人から見
たら、それって多分意味ないんですよね。マイクロアレイのデータがない。片っ端から遺
伝子を変えたときに、全部マイクロアレイのデータがそろってないと、モデリングとかシ
ミュレーションのしようがないんですね。だから、モデリングとかシミュレーションを頭
に置いた上で perturbation というのをすごく考えているというのは、今のところないと思
います。
【笹井委員】
ありがとうございました。
【末松主査】
どうぞ。
【石野委員】
石野です。すばらしいアイデアを聞かせていただいて、どうもありがと
うございます。
今、笹井先生が聞かれたこととも多分関連するんだと思うんですけど、ちょっと確認も
含めてなんですが、NIH はこういった仕事を進めてないということでしたけれども、例え
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ばシステム生物学という名前ではどんどん各大学につくっていて、多分、transcription
factor の発現をシステムで見るとか、ノックアウトをするというのは、今進めていますよね。
だから、摂動という意味のアイデアはそこに含まれてないという意味でおっしゃったとい
うことですね。
【洪主任研究員】
そうですね。ですから、さっき笹井先生もおっしゃったけど、ちょ
っとイメージが違うと思うんですね。遺伝学者というのはみんな、こういう実験が嫌いな
んですよ。こういう perturbation のかけ方というのは嫌いなんですね。だから、こういう
のは、論文を出そうとすると、通らないんです。みんな、ノックアウトをしろとか、ノッ
クダウンをちゃんとやれとか、何か細かいことを言ってきます。微妙に何かをいじくった
というのは、嫌いなんです。だけど、システムの解析というと、ほんとうは一番大事なの
は、ちょっといじくったときにどうなるかなんですね。近藤先生がみんなに送ったあれに
出ていたみたいに、例えば、ジャンボジェットのピースを、エクイップメイントを見てい
くというので、それを見ていくとシステムズバイオロジーじゃないかという話がありまし
たよね。そのときに、例えばエンジンがかからなくなるスイッチがあったとして、そのス
イッチを取り除いて、飛行機が飛ばなくなったと。じゃあこれはものすごいクリティカル
な element じゃないかというのは多分、議論としては合ってないですよね。ノックアウト
というのはまさにそれをやっている。羽根をとっちゃったらどうなるかということですね。
それじゃなくて、微妙にそういうのをいじくったときに系全体がどうなるかというのを見
ないと、システムというのは多分見えてこない。ブラックボックスの中身というのは。そ
ういうことがあると、僕は思います。
先生が今おっしゃりかけていた、アメリカでシステムズバイオロジーってみんなやって
いるんじゃないかというのがあると思いますけれども、それは内容をよく見ると、例えば、
最近、これも NIH で、イミュノロジーの分野で、インフェクションとかイミューンリアク
ションでシステムズバイオロジーをやってくださいという RFA が出ています。ここに来る
前にいろいろ調べたら出てきたので、これは何だろうと思って見ていたら、内容はやっぱ
り、マイクロアレイをやってくださいとか、そういうことをいろいろやって全体像を見た
上で、特定の遺伝子に絞り込んで感染とかイミュノロジーで大事な遺伝子が見つかったら、
ノックアウトをつくったりして調べてくださいというふうなことが書いてあるんですね。
そこにモデリングする人も入ってくださいということが書いてあるけれども、そうすると
やっぱり、先生方がこの会議で話されているようなこととはちょっと違うんじゃないです
かね。それは、従来の molecular biology の中の一部として、immunology をやっている人
がマイクロアレイをやればシステムズバイオロジーなのかというのがあるわけですよ。実
際、よくそういう議論も出てきて、おもしろいのは、幹細胞をやっている人でも、最近、
私はシステムズバイオロジーを始めましたとかって言うんですよ。何をやっているんだろ
うと聞くと、マイクロアレイを始めましたと。マイクロアレイをやるというのは、グロー
バルな expression profiling そのものはシステムズバイオロジーではないですから、概念的
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にも。でもやっぱり、ほとんどの研究者のイメージとしては、システムズバイオロジーと
いうのはそういうものだととらえている可能性がありますね。
【石野委員】
どうもありがとうございました。多分、近藤先生なんかがいろいろと本
に書かれているように、この言葉自体の定義が全然フォーカスされてないということがや
っぱり問題になっているんですね。だから、この会議で、摂動があるか、ないかというの
は、すごく大きなポイントになっているんだと思いました。
【末松主査】
大変重要なご指摘、ありがとうございます。
じゃあ、柳田先生。
【柳田委員】
大変興味深いというかインプレッシブなお話で、先生がこういう研究を
やらなくちゃいけないということで QBiC というシステムというか拠点をつくらせていた
だいて、まさに先生が提案されたことをやる拠点になっているわけなんですけど、今、ち
ょっとお話しされたところで、人材育成というか、この分野、いろんなところで QBiC を
立ち上げましたよって言うと、医学部の先生、バイオロジーの先生、ほんとうはそういう
ことをやりたいんだけど、人がいません、公募してもほとんど来ませんということで、今、
ちょっとおもしろい話で、摂動とノックアウトの、某大阪大学の免疫フロンティアという
ところがありまして、そこに大変偉いリーダーがいるんですけど、彼も実は非常にこうい
うことをやりたいと思っているんだけど、じゃあ下の学生はやるかというと、研究者はや
るかというと、
「柳田さん、ゼロイチじゃないと『Nature』に載らないから、彼らはやりま
せんよ」と。まさにそうなんですよ。先生おっしゃるように、perturbation じゃ何が変わ
ったかわからないので、結論が出ない。でも、そういうことはやらなくちゃいけないとい
うので、まさにこういうことをやらなくちゃいけないというので、生物学者だけじゃなく
て情報の人が要りますよねという話をしたときに、実は私のバックグラウンドは情報のエ
ンジニアリングですから、情報工学の人も同じような問題にぶつかっているんですよ。イ
ンターネットであるとか、非常にネットワークが複雑になってきて、階層性を持っていて、
その非常に複雑なネットワークシステムをいかにロバストに――また近藤さんにしかられ
るけど、でも、彼らはそれをロバストと定義されていますから、ロバストで省エネである。
ものすごくエネルギーを使うんですよ、デジタルには。先生が最後におっしゃったんだけ
ど、perturbation を 1 個与えてパターンを見るという、そこはいいんですが、でも、もう
ちょっと進んでいくと、やっぱり組み合わせ爆発が起きますよね。それと全く同じことが
情報科学でやっていて、一緒にやろう。だから、密に話をすると――セーフティーイノベ
ーションというのが今度始まるんですか。よく知りませんが、ライフイノベーション、グ
リーンイノベーションの次はセーフティーイノベーションらしいですけど、社会ネットワ
ークの脆弱さをいかにロバストなものにするかと。ああいう問題が起きても、社会システ
ムが混乱を起こさない。インフルエンザなんかも一緒ですけど、最も安定した複雑システ
ムというのは生物システムなんですよ。それを研究することでそういう、野依先生が提案
すると言っていましたが、セーフティーイノベーションという社会システム。だから、先
19
生がおっしゃるように、やっぱりグローバルなものにしなくちゃいけない。で、近藤さん
の言うシステムバイオロジーというのはこういうものだというのを私たちがみんなに言っ
ていかないと、情報工学の人も、遺伝子解析そのものですよと言ってもだれも来ないので、
やっぱりそういうことをしていかないといけないんじゃないか。きょうは、ほんとうにそ
ういう意味で興味深いお話、ありがとうございました。
【末松主査】
よろしいですか。どうもありがとうございました。
じゃあ、最後に短いコメイントをお願いします。
【大島委員】
きょうは非常に興味深く聞かせていただきました。私は工学の分野です
のでシステム生命科学とは少し違った質問になりますが、二点ほどお伺いしたいと思いま
す。最後におっしゃっていたイメージインフォマティクスということについてですが、私
の研究分野でも、臓器の形から血行力学的にそれがどのように進展するかを、簡単なパラ
メーター化することによって、病気にどう結びつけるかということを、医用画像を用いて
行っています。そのときに、今問題になっているのは、例えば画像の誤差をどのように定
量的な評価の中に入れるかということと、パラメーターの選択です。ネットワーク構造も
複雑なので、すべてが変わったりすることがあります。このようなことをどのように対処
していらっしゃるのかをお聞きしたいと思います。もう一点の質問は、どのような分野の
方が先生の研究においてイメージインフォマティクスにかかわっていらっしゃるかという
ことです。多分、分野としてかなり違いますが、どのような方がどのような形でこういう
研究に入られて一緒に連携されているかということも興味がありますので、教えていただ
ければと思います。
【洪主任研究員】
イメージインフォマティクスというのは、僕のグループの中じゃな
くて、うちの隣の隣の研究室の人たちがやっている仕事で、かなり有名な仕事なんですけ
れども、OME(Open Microscopy Environment)というのをつくっていた人たちの中の一
部なんですが、画像解析で分類したり認識したりするというのは昔からあって、よくある
のがイェール大学の何とかパターンってありますよね。1 人の人が笑ったり、眼鏡をかけた
りとか、いろんなことをして、影がついていたりという画像がいろいろあって、別の人の
顔が幾つかイメージがあって、泣いたり笑ったりしている顔があって、それをコンピュー
タに読み込ませて、コンピュータが同じ人であるというふうに分類するかどうかというの
がありますね。そういうのは認知論とかコンピュータサイエンスのほうで随分やられてい
るみたいなんですけれども、僕らが一緒にやっている人たちは、それをさらに推し進めて、
顕微鏡イメージでありますとか、細胞のイメージであるとか、それこそ先生がおっしゃっ
た医療データですね。例えば、ひざの関節の X 線写真を、どういうふうになったらオステ
オアースライティス(骨関節症)が起こるのかというのを、例えば画像診断だけコンピュ
ータにやらせて、10 年ぐらい前でもこの人は骨関節症になるよというのを予想できるかと
いうようなことをやるんですね。それでかなり精度のあるデータを出しているんですよ。
僕の仕事じゃないのでしゃべってもあれですけれども、それはどういうことをやってい
20
るかというと、画像イメージからありとあらゆるパラメーターを引っ張り出すんですね。
それを、僕もよく知らない、数学の何百とある、トランスフォーメーションする方法があ
りますよね。それを使ってパラメーターを全部出して、それをマトリックスみたいに考え
て、それでまずトレーニングセットをつくっておいて、教え込ませるんですね。そういう
アルゴリズムがあるんですよ、彼らがつくった。それを使って新しい画像を読み込ませる
と、人間が何もしなくてもコンピュータが自動的に、これはこのタイプだというのを九十
何%の確率で言うんですよ。そういうのが既に出てきています。僕はいつも見ていますけ
れども、すごいですね。そういうのがあると、診断とか、そういう方向にもこれから行く
でしょうし、さっき僕がちょっと見せた細胞が分化したりとかっていうのも、写真を撮っ
て、人間が何万枚というイメージは見れないですよ。いくら大学院生にこれで PhD を撮ら
せると言っても、多分やらないでしょう、朝から晩まで。そういうのはコンピュータがや
る。それをコンピュータが全部分類して、このタイプ、このタイプ、このタイプと。そう
すると、笹井先生の仕事じゃないですけれども、このタイプだったらレティナ(網膜)に
なっていくとか、神経になっていくとか、そういうことがある程度わかってくるはずなん
ですね。そういうことを言っています。
で、バックグラウンドとしては、コンピュータサイエンスとセルバイオロジーとかをや
っていたような人たちです。両方同時にやっていたような人ですね。趣味でプログラマー
だったとか、そういう人がやっていますね。セルバイオロジストだけれども、趣味でずっ
とコンピュータサイエンスというかプログラミングをやっていましたというような人がや
っています。
【末松主査】
じゃあ、ここで一回切らせていただきたいと思います。
先生、どうもありがとうございました。
【洪主任研究員】
【末松主査】
ありがとうございました。
それでは、続きまして松田委員から、「実測データに立脚する細胞内情報
伝達系のモデル構築について」とのご発表をお願いしたいと思います。発表が 15 分で、そ
の後、5 分のディスカッションということになっております。よろしくお願いいたします。
【松田委員】
それでは、始めさせていただきます。私の主張は非常にシンプルで、生
命動態システム科学の基盤となる計測科学の振興がぜひとも今後必要だ、ということです。
まず、なぜ生命動態システム科学を今始めなければいけないということ、その問題点、
それから、私たちが今どういうアプローチをしているかについてお話をさせていただいて、
最後に、結論をお話しさせていただきたいと思います。
まず、なぜ今やらなければいけないかということについてです。いろんな理由はあると
思うんですけど、先ほど洪先生もお話になられたように、タックスペイヤーにわかりやす
い話をするというのはとても大事だと思います。一つの具体例として、私がこれからお話
しするのは、癌の診断、もしくは治療のために、生命動態システム科学の振興が非常に大
事だということです。
21
ご存じのように、今、日本人の約半数は癌で死ぬ時代です。この癌の治療法について、
これからお話ししたいと思います。
まず、現在の癌治療がどうなっているかをお話しします。これは肺癌の組織です。皆さ
ん、あまり見たことないと思いますけど、こういうふうに肺の真ん中に大きな腫瘍ができ
て、最後は亡くなってしまう。今どういうふうに診断・治療が行われているかというと、
原則的に癌の治療というのはここから組織を取ってきて、それを、病理医が顕微鏡で見て、
これは癌だなと診断をつけるところから始まります。単に癌だなと診断をつけるだけでは
なくて、
肺からとったのなら肺癌だろうと皆さん思うかもしれないけど、そんなことは
なくて、肝臓癌が肺に転移したり、あるいは大腸癌が肺に転移したり、いろんなものを鑑
別する必要があります。それから、癌の標本を見て、これはいいやつ・悪いやつという表
現をよく使いますけれども、いわゆる分化してあまり早くは増殖しないやつ、それから未
分化でどんどん増殖して、転移するやつ、そういうような癌の性状を病理医が診断して、
それを臨床医にお話をするわけです。そうすると、臨床医は今までの経験の中で、こうい
うタイプの癌にはこういう薬が効いた、こういうタイプの癌の人には早く手術したほうが
いいとか、そういう知識を持っていて、それに基づいて治療をしていくわけですね。
さて、癌という病気は実は、エイズであるとか、インフルエンザであるとかの感染症な
どとは根本的に大きく違います。何が違うかというと、感染症の場合は大体、原因は 1 つ
です。だから、エイズなら、HIV に対する抗ウイルス薬を使えば、それは絶対どの人にも
効きます。それに対して癌という病気は、皆さん一人一人で違う。ここにいる人間の半分
は癌にかかるわけですけど、私の癌とあなたにできる癌というのは確実に違います。それ
は、幾つかの遺伝子がおかしくなって初めて 1 つの癌になってくるので、その組み合わせ
がみな同じということはほとんどないからです。今、個別医療ということがよく言われて
いるのはなぜかというと、個人個人の癌によって、この異常をきたしている遺伝子が異な
るために、それに応じて治療法を変えていかないといけないからです。経験に基づく治療
をやっていると言いましたけれども、残念ながら今の抗癌剤の治療というのは、経験に基
づいて、「当たるも八卦、当たらぬも八卦」に近い場合が多いわけです。
今後どのように癌治療が進んでいくでしょうか。まず、癌組織からとってきた DNA を全
部シーケンスしてしまうという時代が近々来ます。全部シーケンスしてしまうと、私の癌
細胞の中には、約 2 万 5,000 個の遺伝子があるわけですけど、2 万 5,000 個のうちの何個の
遺伝子がおかしくなっていて、何個ぐらいの遺伝子は発現パターンがおかしくなっていて
と、そういう情報がだーっと出てきます。ですから、その膨大な情報からどういう治療が
適切かということを何とか見つけてこなければいけないわけですね。この状況ではまず間
違いなく、これまでの治療のように、いわゆる名医という人がいて、私の勘ではこれが効
きますよみたいなことは絶対あり得ません。必ずコンピュータにその情報を放り込んで、
アウトプットとして出てきて、あなたの癌にはこの薬をこういうタイミングでやるのが一
番いいという、そういう情報が出てくる時代になるわけであります。
22
じゃあ、ここでコンピュータが何をするかです。2 つの可能性があります。1 つは、治験
データを膨大量蓄積しておいて、そのデータと遺伝子の全配列を決めたデータをマッチン
グさせて、この患者の DNA データはこれに一番近いからこのタイプの癌だろうという情報
を持ってくるのが一つのアイデアです。これは、今、いわゆる SNP 解析とかでどんどん蓄
積しているデータが、まさしくここに相当します。しかしながら、これは実は膨大な時間
と金がかかります。いわゆる治験データを積み重ねていかなきゃいけないんですけど、治
験というのはものすごくお金がかかるものなんですね。もう 1 つの問題は、癌には、しば
しば非常にまれな種類の癌というのがあります。まれな癌もたくさんの種類がありますか
ら、皆さんがまれな癌になる確率は結構高いわけですね。そういう場合には、コンピュー
タから、それは情報が少ないから回答できませんという結果が出てくるわけですね。それ
は非常に困る。
そこで、コンピュータを使うもう一つの方法です。これから可能性が高くなるのではな
いかと期待しているのは、シミュレーションモデルをつくって、それによって癌の治療法
を予測していく手法であります。癌の研究というのは、ここ四半世紀、ものすごい勢いで
進んできました。その膨大な知識を集めて、癌のシミュレーションモデルを何とかつくり
たい。それができれば、たとえ初めて遭遇するような治療でも、そのシミュレーションモ
デルに、私の場合はこれとこれとこの遺伝子がおかしいよとデータを入れてやると、ぽん
と答えで出てきて、多分この薬が効くだろうという答えが出てくるわけです。我々はそう
いうことを十数年前に夢見まして、研究を始めました。その話をこれからします。
これが 1 個の癌細胞だとしますと、細胞がありまして、核があって、その中にいろんな
分子があって、たくさんのネットワークをつくっています。正常な細胞はこのネットワー
クが正しく動いて、増殖していくわけですけれども、癌になると、この中の幾つか、ちょ
っと字が小さくて 1 つ 1 つお話しできませんが、どれかがおかしくなると、普通の細胞と
違って、無限にふえ始め、浸潤し、転移し、癌になるわけであります。ですから、この現
象をコンピュータ上で再現することができれば、いろんなことが予測できようになるだろ
うというわけなんです。
じゃあどうやって再現するかですけれども、こういうタンパク質の情報伝達系というの
は原則的に、タンパク-タンパクの相互作用と拡散と、そういうものの連鎖反応でありま
すので、微分方程式で記載してモデル化することはそんなに難しいことではありません。
問題は、それをどういう情報に基づいてやるかというところになります。ここで、生物学
というウェットの系と、情報学というドライの系と、その 2 つの分野が融合しなければい
けないというところが、一番の問題点になるわけです。残念ながらその両方を自由に使い
こなせるバイリンガルの研究者というのはまだあまり育ってなくて、これから育てていか
なければいけないわけです。しかも現在は、システム生物学者と実験生物学者がけんかを
しているような状況であります。私のような実験生物学者が一生懸命 10 個や 20 個のタン
パク質のデータを集めてモデルをつくると、システム生物学者の人は、そういう原始的な
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モデルでは何もおもしろくないといって、全然興味を持ってくれない。一方、システム生
物学者のモデルはどうかというと、確かに 100 個も 200 個もいろんなパラメーターがあっ
て非常に精巧なモデルをつくっているんですけど、よくよく見ると、実際にはありそうも
ないよねというようなことを結構やっている、そういう状況であります。この両者を何と
か仲よくさせていくことが、生命動態システム科学の発展には非常に大事だと思っている
わけです。
これは例えば 2002 年に出てきた有名な論文です。こういう複雑なモデルをいわゆる情報
系の研究者の方々がつくった。13 分子と 62 反応あります。今にしてみれば少ないですけど、
こういうものをつくって、こんな複雑なモデルができましたよという論文が出ました。す
ごいなと思って私もデータを見たわけですが、13 分子あるうちの分子数でさえ、13 個のう
ちの 7 個ぐらいは、エスティメーションと書いてあり、つまり、適当に入れましたという
ことなんですね。我々実験屋としては、そういうモデルを見てしまうと、それぐらい調べ
ろよと思ってしまう。もちろんタンパクの分子数を数えるレベルでこの程度だから、分子
間の相互作用とか、拡散係数とか、もっと難しいデータについては、こんなものだろうと
適当にやっているわけです。そういうモデルを作ってこられても、やはり我々実験屋とし
てはなかなか承服しがたいものがあるというわけです。
このようなことを踏まえて、我々の戦略は、実測データをとって、それに基づいて、抗
癌剤の開発、あるいは治療にどれを使ったらいいかというのを予測するための定量的細胞
シミュレーターをつくるということです。夢はもちろん、抗癌剤の創薬と癌の征圧であり、
これは、国民の皆様方にも非常にわかりやすいテーマではないかと思っています。
研究のロードマップとしましては、ステップ 1 としましては、モデルをつくるために必
要なパラメーターを集めるための技術開発。ステップ 2 としては、それをどんどん横に広
げてパラメーターを集め、ステップ 3 では、最終的にモデルをつくるということです。
もうちょっと詳しい話をさせていただきます。これまで 20 年ぐらい生物学はものすごい
勢いで進んできましたけど、そのドライビングフォースが分子生物学と生化学であったこ
とは、皆さん同意されると思います。これらの学問は、本質的に細胞を物として扱います
ので、必ず最後は細胞を溶かします。この手法だと残念ながら、細胞内で分子がどう動い
ているかのパラメーターはまず得ることができません。それに対して、我々は光を使う。
これが一番のキーポイントだろうというふうに考えています。光を使って、生細胞からパ
ラメーターを集める。それからもう 1 つ、洪先生もおっしゃられたように、perturbation
を加えるということが大事ですので、perturbation も光でやれば、生きている細胞で自分
の興味のある分子を自在のタイムスケールで動かすことができ、詳しいパラメータを得る
ことができます。
例えば、これはうちのラボでやっている、タンパク質リン酸化酵素の活性をはかるバイ
オセンサーを発現させた細胞です。ここに細胞がたくさん見えています、核が見えている
細胞が見えていますけど、赤いのは活性が高いところで、青いのは活性が低いところです。
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17 時間、18 時間、19 時間、数日間にわたってこうやって観測していきますと、それぞれ
の細胞の活性がこうやってゆらぎながらどんどんふえていくというような情報をとること
ができます。こういう画像データを先ほど先生がおっしゃられたようにデータベース化し
て、パラメーターを集めていくことができます。
もう 1 つは perturbation ですね。これも、今、光を使う方法が非常に注目を集めていま
す。例えばこれなんかは、細胞質から細胞膜に光を当てた瞬間に、分子が膜に行って、ま
た戻ってということを、自在にコントロールできます。タイムスケールが出ていますけど、
1 分間に 1 回ぐらいぽんぽんと、好きに物を動かすことができます。物が動いただけじゃお
もしろくなくて、こうやって物が動くと、当然、タンパク質、細胞の中で分子の活性が変
わります。それを見るのがこっちで、これは ras という有名な癌遺伝子ですけど、癌遺伝子
産物の活性を上げたり、下げたり、上げたり、下げたりということを自在にすることがで
きます。ですから、先ほど洪先生が言われたような perturbation の実験を自由なタイムス
ケールでやって、それによっていろんなパラメーターを集めてくるということも、こうい
う光を使ってできるようになってまいりました。
最後に結論をお話しします。1 つは、情報科学の研究者に要求したいことは、みんなが使
うためにはどういう規格のものをパラメーターとして貯めていかなければいけないかとい
う、標準化あるいは規格化という作業です。これは、やはり情報系の人が相談して、何ら
かのデータベースを最初につくる必要があると思います。そういうののデータベース化は
ですね、例えば DNA のデータベースとか、タンパク質のデータベースというのはもはや確
立したものがあるわけですけれども、それと同じような、この細胞には何個のタンパク質
が存在する、あるいは何とかという酵素はどれぐらいの酵素活性を持っているといったよ
うな、そういうデータベースをつくる作業というのは絶対必要で、そのための標準化が必
要だと考えています。
もう 1 つは、実験科学者に、計測科学の重要性を再認識していただきたい。先ほど柳田
先生もおっしゃられていましたけど、ちょこちょこっとした変化なんかはなかなか
『Nature』に出ない。全くそのとおりです。今、
『Nature』とか『Science』とかに出る論
文というのは、何か新しいのを見つけました、何か新しい分子を見つけてみたら何か知ら
ない活性がありましたというのです。物の量をはかった、分子の活性をちゃんときっちり
はかれるようになりましたというような計測を主体とする研究はあまり評価されないです。
これはずっとこうだったわけではないんです。皆さん、考えてみてください。1980 年代だ
ったら、DNA の配列を決めただけで『Nature』に論文が出ていたんですよ。あれは、DNA
配列を決めるということは将来の研究にすごく大事だということをウェットな科学者が共
通に常識として持っていたからだと思うんです。これからは、分子の量をきっちり決める、
分子の活性をきっちり決める、そういうことが将来の生物学にとっても大事だということ
を研究者が認識するということが大事です。このことが、生命動態システム科学を将来発
展させていくためのベースとして非常に大事なのではないかと、私は思っています。この
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二つを提言とさせていただきたいと思います。
以上です。
【末松主査】
どうもありがとうございました。
松田委員のご発表に、ご質問等ございますか。どうぞ。
【笹井委員】
洪先生も松田先生もおっしゃっていたように、こういう幅広い領域の集
結をするためには、出口論というか、例えば、理論の人も、計測の人も、実験の人も、医
学の人も、共通しておもしろい、あるいは重要だと思うものというのを幾つか旗印で上げ
るのはすごく重要で、本質的にバイオロジーとしておもしろいということももちろん忘れ
ちゃいけないと思うんですが、テーマとして。そのときに、癌というのは先ほどの洪先生
の幹細胞とか発生とかのある意味裏返しみたいなところがありますよね。同じような方法
論であったり、あるいは、うまく発生できなかったのが悪く発生しちゃったのが癌みたい
なところがあるので、その意味では非常にいろんな意味でつなげていくプラットフォーム
になるんじゃないかと思います。
それで、先ほどの洪先生の話とのつながりとしては、松田先生がおっしゃっているよう
に、パラメーターをばちっと決めて、モデルをがちっと決めると、そういうことがものす
ごく大事だというのは私もほんとうにそのとおりだと思うんですが、もう 1 つ、治療とい
う出口論から見たときの perturbation ということで、ある意味、抗癌剤というのは非常に
強い perturbation ですよね、システムに対する。先ほど洪先生もおっしゃっていたように、
今までのノックアウトとかいろんな研究というのはシステムが破綻した後の残骸を見てい
るみたいなところがあって、破綻していくまでの経過であったり、破綻しないで何とか戻
すところであったりするところが、一番重要じゃないかと思うんですね。特に抗癌剤の場
合、まだ効かない癌というのが幾つもある。グリオブラストーマを含めていろんなものが
あるときに、それは実証の中でむちゃむちゃ抗癌剤をかけたら死ぬわけですよね。だから、
どこかで破綻を起こす・起こさないというものの見きわめみたいなものがあると思うんで
すが、そういうところに抗癌剤に対するシステムが崩壊しないまでの変化みたいなものを、
例えば先生のお仕事とか、あるいは関連したお仕事の中でアプローチしていくようなこと
で、生体の中で例えば幾つかの抗癌剤をうまいこと組み合わせることで設計して破綻に持
っていくと。そういうふうなアプローチというのはどんなふうにお考えでしょうか。
【松田委員】
そうですね。複数の抗癌剤を使うというアプローチは、例えばハーバー
ドの Settleman の研究室などで一生懸命やっていて、そのためにはそれぞれのターゲット
分子に対するモニター系をそろえておいて、96 ウェルでやるような、そういうアッセイ系
が必要でありますし、それはまさしく我々の考えているところです。もちろんモデルで予
測できてこれとこれを使うというふうにねらい撃ちできればいいですけど、どちらが先に
進んでいくかはわからないです。
【笹井委員】
ただ、システムとして考えたときは、抗癌剤で死なないということはあ
る意味どこかでテンパった状態で、でも何とか踏みとどまっているということですよね。
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いわば俵に足がかかってテンパっちゃっている状態というのをシステム的に見ることがで
きれば、そこをもう一押しすれば、ばらっと壊していける。そこがなかなか実験的なだけ
ではわからないものを、例えば先生のようなアプローチと崩壊していくようなところのモ
ニタニングを一緒に見ることでわからないのかなあと。例えば、ゆらぎがテンパった状態
だとぐーっと減っていくだろうとか、そういうふうなことというのは、システム的に見て
初めて見えることってあるんじゃないかと思うんですが。
【松田委員】
それは全くおっしゃるとおりだと思います。そのためにはある程度、ほ
んとうの癌細胞をかなりフェイスフルにリプロデュースできるような、そういうモデルが
できて初めてできることなので、もうちょっと時間がかかるかなとは思っていますけど。
【末松主査】
ありがとうございました。
それでは、松田委員、どうもありがとうございました。
続いて、いろいろな階層がございますので若槻委員のほうからの話も興味深いところな
んですけれども、「生命動態システム科学推進に資する原子座標ダイナミクス研究」という
ことで、15 分、5 分でお願いいたします。よろしくお願いします。
【若槻委員】
若槻です。おはようございます。時間をいただきまして、ありがとうご
ざいます。私の話は、きょうのお二方の話に比べますと、かなり原子レベル、原子座標の
レベルでのお話でございます。ですが、それが生命動態全体を考えたときにいかに研究に
使っていけるか、むしろ必要であるかということを、少し申し上げたいと思います。
この図はよくごらんになるかと思いますけれども、有核細胞の中を眺めていくと、いろ
んなものがたくさんある。遺伝子の話、それからタンパク質の話が今ありましたけれども、
これはもちろん漫画ではありますが、これだけ込み入って、かつダイナミックに動いてい
る、これをシステムとして理解する必要がある。タンパク-タンパクの interaction を考え
る上でも、実際に何がどこにあるか、どこにあるかという情報も非常に重要ではないかと
思います。私たち構造生物学を考えている者からいたしますと、究極の目標、これが 3 年、
5 年で解決できると思ってはいないんですけれども、リアルタイムで in situ で生体をつく
っている素子の原子座標のダイナミクスを見ていきたいということであります。もちろん
漫画としては、私たちが実際に構造解析をして行っています、例えばこれはサイトキネシ
スのときに動くモータータンパク質の interaction の構造解析みたいなものをしたわけです
けれども、実際に細胞の中でこういうことが起こっているときに原子レベルでどこでどう
いう interaction が起こっているかということを知っていく必要があるだろうということで
あります。これはサイトキネシスの最後のときに膜をここにたくさん供給する必要がある
わけですが、それをリサイクリングエンドソームが持ってくると。そこで働いている SGPTs
のコンプレックスの構造ですけれども、ですから、システム全体を考えるときに、こうい
う 1 つ 1 つのタンパク質の顔、形、その変化を追っていく必要があるのではないかと思い
ます。そういうものがここに、ちょっと漫画で恐縮ですけれども、どうやって動いている
か、ダイナミクスにももちろん関係してくるんだと思います。
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こういうことをする上で、今、松田先生のお話にもありましたけれども、計測技術が極
めて重要と、私たちも考えております。既にこの図でもいろんな階層が出てきております
けれども、私たちの場合は放射光という X 線のほうに使うわけですけれども、そういうも
のでどこまで積めるかということをちょっとご紹介させていただきたいと思います。
前回、柳田先生のお話で、この 3 つのコンポーネントをぐるぐる回すという話がござい
ました。先端計測、in silico の再構成、in vivo の再構成ということでご提言があったわけ
ですけれども、それを進めていく上で、どの 1 つをとっても、原子座標の情報、そのダイ
ナミクスの情報は非常に重要だろうと思って、きょうの話は、私だけではなくて、京都大
学の岩田想先生、東京大学の濡木理先生、それから大阪大学蛋白質研究所の高木先生たち
と常日ごろいろいろディスカッションしていることを少しお話しさせていただきたいと思
います。
最初に、幾つかございますけれども、左のほうにありますのは、やはり新技術というこ
とで、X 線自由電子レーザーを使って研究をどういうふうに進められるかという話と、それ
から、実際にもうたくさんある構造解析、物理学的な手法をどうやって組み合わせていく
かという話、それから、右のほうに行きますと、実際にそういうものを使って、化学反応
を見たり、細胞機能をファンクションしている場で分子がどう動いているかということを
アプローチしていく等でございます。
その具体例がここに書いてありますけれども、先ほど松田先生のお話にもありましたフ
レッドですけれども、実際にほんとうにいい蛍光マーカーをつくろうと思ったら、やはり
ターゲットになるタンパク質の構造を見て、どこに何をつけたらいいかということを知る
ことが必要ですので、まず、そういう非常にベーシックなレベルのコントリビューション。
それから、実際の構造、スタティックの一部を幾つかとってくるわけですけれども、それ
を使ってシミュレーション。これは、スパコン、ペタコンを使う上でやはり基本となるデ
ータとなると思いますし、こういうデータをもとに改変する、シンセティックバイオロジ
ーにもつながるものだと思いますが、例えばリボソームを改変することで生命の再構成と
いうような話にもつながると思います。
ちょっとこれは字が多くて申しわけありませんけれども、今申し上げました、どちらか
というと新技術で、ほんとうに究極の構造解析、組み合わせの解析、それから、実際にど
ういうふうに細胞まで構造が変わっていくかというようなこと、反応を見るということを
考えていきたいと思います。
まず最初に、ナノクリスタル、結晶構造解析が構造解析をやる上で一つのメインストリ
ームでありますけれども、ここに、大きな結晶から、小さい、ほとんど見えない結晶まで
かいてあります。現在のところ、大体数ミクロンから 10 ミクロンぐらいのところまで、
Spring-8、フォトンファクトリーでも解析ができるようになってきました。ところが、結
晶化が難しいような系に関しましては、ほとんど見えないような、ミクロまでいかないよ
うな結晶というようなものもございます。それを解決する方法として、最近、私たちが注
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目していますのは、播磨で開発されています X 線自由電子レーザーであります。そういう
ものを使いますと、今まで 10 の 6 乗個から 9 乗個ないと形が原子レベルでわからなかった
ものを、数十から数千、ですから 3 けたから 6 けた上げてしまおうということがあります。
先行した研究は残念ながらアメリカ、ヨーロッパでされておりまして、つい最近、ナノク
リスタルの構造解析で論文が出ました。これはどういうことをするかといいますと、簡単
にご説明いたしますが、ナノ結晶をインクジェットでもって供給する。大体、これはメガ
ヘルツで出します。ところが、X 線のほうは現在のところ 100 ヘルツで、ちょっとそこは
差がありますけれども、少なくともここで同期をさせることで当てて回折像を撮って、こ
れが実際に論文に出た例でございますが、非常に複雑な膜タンパク質、この場合はフォト
システム I の結晶構造解析、これは 8~7 オングストロームですけれども、行われたという
ことで、去年の夏ぐらいにこのデータが出始めたときに、全世界の数千人いる結晶構造の
タンパクの結晶学者がとんでもなく驚いた話です。これをよくよく考えますと、実はそん
なに難しい話ではなかったということかもしれません。なので、ここでもう一度ご提案、
考えてみたらと思ったわけであります。
その話ですけれども、ナノ結晶というのはとにかく、今まで 10 の 6 乗とか、9 乗とか、
12 乗なんていう数を集めなきゃいけかった結晶構造解析を 3 けたでよくする、画期的な話
だと思われます。非常に難しいと思っていたのが、可能になりつつあるということであり
ます。XFEL というのは自由電子レーザーですけれども、副産物と思っていたような人た
ちからすると、これはそんなに重要ではないと思われていたんですが、実は、構造を、特
にシステム生命動態というようなことを考えたときにはこれは非常に重要かなと思って、
ご紹介させていただいている次第です。
実際には、今、世界で 3 つの施設が先行して動いておりまして、一番最初に動いている
のは、スタンフォード大学の LCLS というものです。それからドイツでは、数年後を目指
して、今、建設が行われております。それから播磨では、新しく名前がついた、SACLA と
いう名前ですけれども、そこでつくられているのが、ことし自由電子レーザーのビームが
出始めて、来年度から供用が始まるとお聞きしていますけれども、そこを使うということ
も可能になってきたということです。
アメリカの例ですけれども、実はアメリカとヨーロッパの合同チームでして、先ほどの
『Nature』の論文には 60 人以上の名前が出ておりまして、ここに書いてあるような、ほん
とうにごった煮でございます。ところが、こういう形、どっちかというとオープンフォー
ムで全世界から集まって実験をするということで、ここまでのことができたのかなと思い
ます。実際には、研究者の人口が数人だったところから、多分、数年間で数百人から千人
ぐらいになるのではないかと、私は思っております。実際に既に、この方法を最終的にと
ことんまでやっていくとしたら、現在、1 日当たり数十とか百個ぐらいしか決められないも
のが、8,000 個で、かつナノ結晶です。結晶化のプロセスをかなりすっ飛ばしてしまったも
のについてもできるだろということで、1 月にバークレーでありました会議には、既にアメ
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リカの製薬会社の方々が参加して、これを将来どうやっていくかというような議論もされ
ています。
今までの放射光と違うのは、基本的に Diffract & destroy、壊れる前にとにかく撮ってし
まうというのがエッセンスであります。こういうことをしますと先ほど出しましたような
フォトシステム I みたいな結晶構造解析ができそうだということになっていますし、全く新
しい方法論としては、位相を決めなきゃいけないんですが、構造解析をするときに位相を
決めることが必要ですが、こういうことが可能になるとか、それから、ダイナミクスとい
うことで言いますと、先ほどからいろいろダイナミクスの話も出ておりますが、これはイ
ンクジェットで出してきますので、X 線を当てる手前のところで励起光を当てれば、ぽんと
perturbation を与えて、その結果として起こる構造変化を見ることができる。もちろん、
このタイミングは自在に変えることができます。ということで、これはレーザー光を出し
ていますけれども、例えばテラヘルツみたいなのを与えれば、特定のケミカルボンドだけ
に perturbation を与えるというようなことも可能と思われるますし、私たちはそういうこ
とが重要かなと思っています。
先ほどバイオインフォマティクスという話が出ておりましたけれども、私たちのところ
もやはり、イメージを撮って 3 次元のイメージに持っていきますので、非常に重要な分野
であります。これは、私の知り合いが少ししております、多様体解析ということを使って、
今までほとんど不可能だと思っていたことが可能になりつつある。これはシミュレーショ
ンでございますけれども、先ほどもありましたように、100 万とか、この場合は 1 万ですが、
1 万というような、この場合にはランダムシーケンスをとってきて、あるノイズレベルがあ
るとすると、それを多様体解析でクラシファイする。ただクラシファイするだけではなく
て、時系列までもつなげてしまうということで、ランダムにこうなって非常にノイズがあ
ってよくわからないようなものを、こういうふうに 3 次元で、かつリアルタイムのムービ
ーまで持っていける。今まであればタンパク質の構造解析の人たちが全然一緒には仕事を
してなかった人たちが入っていくという、多分、生命動態を考える上でもこういうような
異分野の方の協力関係が重要かなと思います。こういうことが X 線自由電子レーザーで可
能ということで、これはやはり日本でも生命動態の中でも少し議論をしていただいていく
というのは、可能ではないかと思います。
もう 1 つ、少し戻りまして、構造生物の分野では実にいろいろな手法がございます。イ
メージング、それから、結晶構造解析、NMR 等ございますけれども、システムバイオロジ
ー、もしくは生命動態ということで言いますと、分解能の高いところから低いところ、そ
れから、ダイナミクスで言うと静的なものから動的なもの、それから、天然度、in vitro、
in situ というようなことがありますけれども、実は、こういう研究をしている方々は、階
層構造は意識してはいながら、なかなか全体としてここまでのものをシームレスにつなげ
るというようなことは、行われてきてなかったと思います。これはやっぱりシステム生命
動態の中の一つのベースをなす分野としては、下のほうの階層を越えてつなげていくとき
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に重要ではないかと思います。実際に、例えば、もうお話がありましたけれども、蛍光と
電子顕微鏡をつなげるとか、X 線で散乱実験と NMR をつなげるとか、X 線と電子線をつな
げるというような、どっちかというとペアワイズのものを今度は先ほどの図のように全体
の 3 次元の中でつなげていって、生命動態で行われるような研究のベースとなるデータを、
実測値を出していくということがあるかなと思います。
実際にどんなことが想定できるかということで、これはどっちかというと外層になりま
すけれども、例えばこれは F1F0ATPase ですが、実際にこの大きさのもので動いている像
を撮ってきた人というのはまだだれもいないわけですけれども、こういうものを可能にし
ていくような技術開発をする、かつ、それを使って生命動態の中のコンポーネントについ
ての動態を出していく。膜タンパク質に関しましても、非常に大きなターゲットでござい
ますけれども、GPCR をはじめ、1 回だけ膜貫通しているようなシグナル伝達系の多くの受
容体に関しても、やはりこういうアプローチをしていく必要があると思います。
それから、きょうは、遺伝子の話、タンパクの話がたくさん出てきましたけれども、生
命動態全体を考える上では、どこに何があるかということを考えるコンポーネントの一部
としては、やはり脂質とか糖鎖とかっていう、それぞれ分かれてはいろんなネットワーク
があると思いますけれども、こういうものはやはりきちっと生命動態全体の中に入ってい
く必要があるかなと思います。
ちょっと時間が押していますので簡単にさせていただきますが、ほかのいろいろな、遺
伝情報の関係で言えばヌクレオソームの構造解析、これも非常にダイナミックにあるもの
で、エピジェネティクスの中心にもなると思いますけれども、こういうもののベースをダ
イナミクスまで考えていくことが重要かと思います。
最後に、反応場ということで、これは in silico の計算につなげていくときのもう一つの
重要な点かと思いますけれども、こういうふうに酵素反応を原子レベルで見てそのダイナ
ミクスまで迫ろうというわけですが、実際にそういうことがスナップショットでもできて
くれば、モレキュラーダイナミクス、前回、柳田先生からご紹介がありましたけれども、
ミリセカンドぐらいまでできるような環境をつくっていく上で実際に極めて重要なファン
クションを持っているようなもの、タンパク質群、複合体群の原子レベルの座標をそこに
取り込んでいくことで出てくる出口としても、非常にインパクトの高いものにつなげてい
ける可能性があるのかなと思われます。ここに出ていますのは、そのほか、例えば光合成
だとか、実際に化学反応、エンザイモロジーを行うようなことを原子レベルでしていくと
いうことでございます。
最後に、まとめのページではございませんけれども、もとに戻って考えてみますと、こ
ういうふうに計測技術をとことんまで推し進めていく、それからコンビネーションをして
いくということの話と、それから、実際に生命動態システム科学で対象となっていくよう
なものについて、反応を見ていく、それから実際に機能をその場で見るようなことにつな
げることが重要じゃないかと思います。
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簡単ですが、以上です。
【末松主査】
どうもありがとうございました。
若槻先生のほうに何か、スペシフィックな質問……。どうぞ、川上委員。
【川上委員】
今、我々が非常に興味を持っているのが 2 つありまして、1 つが、GPCR
をはじめとした膜タンパクとアッセンブリーというところ、もう 1 つがエピゲノムのとこ
ろなんですね。その 2 つで共通して創薬の場で我々が実際にやっているというのは、原子
座標に基づいた分子設計といったところに日々努力していて、そこはケミストリーの場な
んですけれども、これまでターゲットタンパク研究プロジェクトというものがあったんで
すが、その中で膜タンパクの構造解析がうまくいっているかというと、我々が期待したよ
うにはいってないというのが私自身の判断で、そこのところというのは非常に重要で、原
子座標をそういったところで出してもらうということで、我々がそれを応用してやってい
くということになるんです。それにつながる。まさに若槻先生がおっしゃっているのはそ
のとおりなんですけれども、じゃあ XFEL でそういった原子座標を出すスコープがあるか
というと、僕はないと思うんですね。
それはなぜかというと、J-PARC のときにも感じたんですけれども、XFEL も物理をやっ
ている方が装置をつくるという意味でやられていると。我々のようなケミストリーをやっ
ている場、またはバイオロジーをやっているところの意見がほんとうに反映されているの
か。例えば、1 分子の構造を見ますといって、ぼやーっとした構造が見えたから何か意味が
あるのかというと、私は意味ないと思うんですね。我々が今使っているのは、回折構造の
結果である原子座標。だったら、そこに応用するとかっていう、そういう切りかえとかと
いうのが全然、多分これまで物理屋さんばかりで議論をしていたからだと思うんですけれ
ども、そういったものになってしまっているというふうに思うんですね。
私自身、製薬協から派遣されてきているんですけれども、この生命動態システム研究と
いうのは、そこのところにきちんと情報を提供して、我々の産業のほうに使えるような、
そういったものをぜひ目指してほしい。若槻さんがおっしゃっていたようなこういうもの
をぜひ取り入れていただければ、我々は非常に日々なれているところなので、全く新しい
ものというのはなかなか根づくのは大変だと思うんですけれども、こういったものが今な
いものでその延長線上にあるということは非常にうれしいと思うので、ぜひこういったも
のを進めていただければというふうに思います。
【末松主査】
どうもありがとうございました。
どうぞ、一言。
【若槻委員】
自由電子レーザーの最終目標が何かというのは世界的にもいろいろな議
論がありまして、これは、バイオロジーだけではなくて、物理、化学でいろんな議論があ
ります。きょう私がお話ししましたのは、先ほど申しましたけど、途中経過という話をい
たしましたが、最終目標は、今、川上先生がおっしゃられたように 1 分子で、そこでどの
ぐらいの分解能、先ほどの高分解能・低分解能でどこまで高分解能が出るかというのは、
32
現在既に数十人規模で、この分野でとにかく最先端の方々が研究をされています。
一方、きょうの話は、解析整備がしっかりしておりまして、結晶であると。ただし、結
晶構造解析としても、とにかく極限を目指しています。結晶構造解析と 1 分子の違いは、
結晶であるがゆえに、アベレージのどこでするかということですが、結晶の場でしている
ということであります。特に GPCR みたいなものは、3 次元結晶でも、最近、特に岩田さ
んたちの研究で数もそろそろ出始めていると思いますけれども、この技術を出していくと、
とにかくリピディック・キュービック・フェーズみたいな新しい方法でなかなかいいデー
タがとれないものが、ものすごい勢いでデータをとっていく技術をこれで私たちはひょっ
としたらつかめるかもしれないんですね。そこにも書きましたけれども、実際、成功例は
出ていますが、私自身、やらなきゃいけないことがたくさん、自分でもできればと思いつ
つ、なかなかできていませんけれども、技術開発としては山ほどあります。これは日本で
得意な方もたくさんおられますし、外国の方との共同研究ということもあると思いますが、
申し上げたいことは、ここに来て、特に SACLA という装置が動き始めるところで、これを
使わない手はないというふうに思う次第です。どうやってやっていくか、どういう技術開
発が必要かというのは、実はまだまだ、ここに書いてある方々も全部はつかみ切れてない
と、そういう状況。だから、黎明期で、こういう測定技術がコンタミリークをするときと
いうのは何回かあるんだと思うんですけれども、今、私たちはこれを手にする、世界的に
そういうタイミングに来たかなというふうに思っています。
【末松主査】
どうもありがとうございました。
それでは、次に進めさせていただきたいと思います。若槻先生、ありがとうございまし
た。
資料 2-4-1、資料 2-4-2 というところで、事前に委員の先生方にお送りした資料で
す。ごく手短に、近藤先生のほうからコメイントやご指摘をいただければと思います。よ
ろしくお願いします。
【近藤委員】
近藤です。最初に洪さんの発表を見て、一番最初のグルココルチコイド
レセプターの発表のときに僕が質問をしたのを覚えていらっしゃいますでしょうか。僕は
あのときエストロゲンで全く同じ研究をしていまして、先にやられちゃって、やめてチュ
ーリングに転向したという。あれはぶれてないなという感じが見れて、よかったです。
かなりおちゃらけたような文書をお配りいたしまして申しわけなかったんですけれども、
でも、内容的には別にふざけているつもりはなくて、要するに、表に出てしまうので、読
ませたい人は僕が批判したい人たちなわけで、その人たちは当然、気分悪いから読まない
わけじゃないですか。それでも読ませるにはどうしたらいいかというのでああいう文書に
なったということだと、ご理解ください。
生命動態システムという言葉が出てきたときに、システムバイオロジーだけでもわから
なかったのにますますわからない言葉になって、これはどうしたものかなあと。タックス
ペイヤーに対する説明責任があるという話がありましたけれども、結局、インパクトのあ
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る言葉を一生懸命探して、それで財務省の役人を納得させて何かお金取ってきて、それで
巨大プロジェクトを動かすと別にそんなに大したサイエンティフィックな発見をしなくて
も何となく偉くなれるみたいな、そういうビジネスモデルというのができちゃうと、それ
は、わかっていてやっている人はいいんですけれども、若い世代に結構悪影響があって、
ここから先はオフレコで、聞かなかったことにしてほしいんですが、最近、若い世代でも、
じゃあ自分たちで新しい言葉をつくろうという、多分そういう意識で自分たちで学会をつ
くり上げて、定量生物学と言うんですけど、定量すること自体はすごくいいことです、も
ちろん。だけど、彼らの言っていることはシステムバイオロジーと全く区別がつかなくて、
なおかつ、最近わけわからなくなって、今週号の『実験学』には、その定量生物学という
のが目指すところは、あらゆる技術を使って総力を挙げて生命の複雑さを解明することだ
と。結局、カテゴリーとしての意味がなくなっちゃっているわけですね。だから、自分た
ちがほんとうは一番ちゃんとした科学的業績を上げなきゃいけないときに、わけのわから
ん学会運営に、ほとんど意味のない学会運営に精力を注いじゃっているわけで、それは一
つ前の我々の世代がちょっと言葉をもてあそんできたなと。僕も言葉をもてあそぶのが実
はとても得意なので反省しているんですけれども、ちょっとやり過ぎた感があるなという
ので、言葉に関しては極めて、何が生命動態システムであるのか、何がそうでないのか。
私は動態に興味があると言われちゃったら、これは生命動態システムの研究じゃありませ
んよって言えないじゃないですか、なかなか。それではカテゴリーとしての意味がないの
であって、そこはちゃんと考えなきゃいけないなというふうに、非常に強く思いました。
ですから、現状のまま生命動態システムというのが表に出て、それで大きな予算がついた
りすると、また何かわけわからないことをやっているよと思う人が多いかなと思って、こ
この中のことをイメージして書いたんですけど、どうせだったら外に出そうと思って、オ
ープンな文書として書きました。
もう 1 つ、これはちょっとまともなというか、内部のことなんですが、シミュレーショ
ンとか数理解析というのがどうしてもキーになるんですけど、これに関して、僕はその言
葉が出てくると非常に違和感を感じまして、まず、実験系の人たちは、要するに要素の数
がふえることによって起きるカオスをなめているという気がします。情報系の人たちは、
生命のわけのわからなさを全然理解していないと。両方やっている身からすると、要する
にたくさんの要素をたくさん矢印かいて、どんなに正確に計測したところでどうせ計算な
んかできないと、僕は確信します。なぜならば、矢印かいたって、細胞の中にいるわけだ
から、AtT がふえたら全部のものが変わりますよね。そういうのを全部入れ込むことは不
可能だし、RNAi のことだってちょっと前まで全然知らなかったわけじゃないですか。だか
ら、まだまだわかってないんですよ。でも、計測をどんどんしていったりとか、計測技術
を磨いていくことというのは、もちろん価値があるんです。ただし、最終的にわかってく
るのは、何か一つの分子なり、あるいは数個の組み合わせで何かはっきりしたことが言え
るとか、多分そういうことであって、ものすごく複雑なシステムを計算しなきゃわからな
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いようなことはどうせできない。計算しなくてもある程度わかるようなことしか計算では
できないというのが、僕が両方をさんざんやってきたところで確信していることです。だ
から、そこのところをほとんどの方は、情報のほうもそうです、生命系のほうの人もそう
です、そこはかなり僕がいつも聞いていてとても違和感があるところで、それをできると
言われてやられると、そんなことできなるわけないよとしか思えない。だからこそ教育が
必要だというのもあるんですが、じゃあそれをだれがどう教育するかというのも、ちょっ
とよくわからないんですけど。
じゃあどうしたらいいかということなんですけど、一つ、あまり変な暴走を避けるとい
う意味で僕が考えているのは、何がわかったら、何ができたら、それを理解したというふ
うに思えるかということをちゃんと意識することが大事だなというふうに思います。これ
からまたかなり不穏当なことを言いますけど、僕がかなり嫌いなのは、丸ごと思想という
のが一番嫌いです。なぜかというと、丸ごと何々した、丸ごと何々したというのを、それ
だけで価値のあることのように言うからです。でもそれは、例えば丸ごとシミュレーショ
ンできたところで、そのシミュレーションがなければ発見できなかった何かを見つけない
限り、それは価値じゃないわけですよ。でも、丸ごとやるためには、ものすごく計測する
ことがある、マイクロアレイを何万枚やらなきゃいけない、金くれというのは、僕はおか
しいと思います。これは多分ゲノム以来の思想なんですけれども、とにかく全部やって、
たくさんやって、データを集めてということそのものに価値があるというのは――価値が
ないことはないです、もちろん。僕もゲノムデータには非常にお世話になっています。だ
けど、そこはかなり気をつけて、暴走させてはいけないなというふうに思いますね。だか
ら……。
【末松主査】
よろしいでしょうか。(笑)どうもありがとうございました。
ちょっとこちらの不手際もありまして自由ディスカッションの時間が大分なくなってき
たんですけれども、少しだけ時間を延長させていただきたいと思いますが、近藤先生のご
意見もごもっともなんですけれども、ちょっとプログラムの順番を間違えたかなと反省し
ております。僕は、暴走を避けるほうよりも停滞を避けるほうが今は重要じゃないかと思
っておりまして、これをしっかりと方向性を決めるためにそれぞれのフィールドの先生方
からご意見をいただくというのが、2 回目と3回目の一部というふうに位置づけております。
先生方から最後にフリーディスカッションで少しご意見をいただく前に、きょう幾つか
論点があったと思うんです。先ほど川上委員からもご指摘がありましたけれども、お金を
取るためのというんじゃなくて、しっかりと出口を出そう、これは繰り返しいろんなグラ
ントで言われるんですけれども、特定のフィールドの非常にスペシフィックな技術がほか
のフィールドの人たちときちんとかみ合ってアウトカムを出すようにするというのは、こ
ういう厳しい世の中に、第 1 回目と第 2 回目の間にはすさまじい大きな断層ができたわけ
ですから、そこは徹底的に厳しくいかないともうほんとうにこのフィールドは見放される
ということに関しては、皆さんご異論はないと思います。
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一方で、洪先生のハンドアウトの資料 2-1 にも、これはほんとうにストライクゾーンで
書いてあったんですけれども、最後のアウトカムのところが、情報、論文だけじゃなくて、
物が人類の財産として残るような方向性というのも、これもやっぱりしっかりと掲げてい
かないとこのフィールドはつぶれてしまうんじゃないかというふうに思います。そのため
のいろんなメソドロジーが原子レベルから個体レベルまであるんだということに関しても、
おそらく皆さんご異存はないんじゃないかと思います。それはよろしいですよね。
その上で先生方から、きょう何人かの先生方からいただいたご意見の中から集約できる
コンセンサスを固めて 2 回目のミーティング、それから次回もありますので、そういった
ものをまとめてライフサイエンス委員会のほうに上げられる共通理念というのを固めてい
きたいと思います。
先生方のほうから、どういう切り口でも結構ですので追加のご発言があればぜひお願い
したいと思いますが、いかがでしょうか。
じゃあ、笹井先生、お願いします。
【笹井委員】
近藤先生がおっしゃっているのは大変当を得ていると思いますのは、シ
ステム生物学のためのシステム生物学とか、そういうことをやって、あるいはシミュレー
ションのためのシミュレーションをやって自己満足的になるというのは本来のこういう目
的と一番違うところで、洪先生もおっしゃっているように、結局、システム解析しないと
わからないおもしろい系を理解したい、あるいは操作したいという思いからこういうもの
が出なかったら、あるところで詰まってしまう。ましてや幅広い領域から人が入ってくる
なんていうことは、あり得ないと思うんですね。ただ、何でもかんでもありというわけに
はいかないだろうから、やはりある程度の旗印みたいな、パイロットケースみたいなもの
をこういったところでする戦略を決めて、それがどう発展していくかというのは、10 年~
20 年先にいろんな形でライフサイエンスのところで出ていくだろうと思うんですね。そう
いったところのおもしろい、システム解析しなくてもわかるような系についてやる必要も
ないし、そこを徹底して細かくやってもしようがない。システム解析しないとハンドリン
グできないような、例えば抗癌剤が何で in vivo では効かないのかとか、そんな話でもいい
のかもしれませんけれども、何か不思議だなと思うことで、ただしシステム解析が可能な
ぐらい切り出せる系を、うまいこと知恵を絞って日本で集約的にやれるものが見つかって
いったらいいなと思います。
以上です。
【末松主査】
ありがとうございます。
柳田先生、どうぞ。
【柳田委員】
システム動態生命科学というと必ずシミュレーションが出てきて、近藤
さんが今言われたんですけど、何か共通の認識を持っていたほうがいいと思うんですが、
私もエンジニアリングサイドにいると、シミュレーションをやらずに実験しているところ
って、ほとんど生命科学だけですよね。普通のところは、シミュレーションなんて、わざ
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わざ言わない。実験ですよ。実験といったって、網羅的にといったって、条件を変えたり、
いろんなことを全部、パラメーターの条件を変えて実験データを得るということは不可能
なので、それをサポートするためのシミュレーションであって、何かシミュレーションを
すると丸ごと全部わかるというふうには言ってないので、一応コンピュータの統括をやら
されていますので、その辺はちゃんと共通の認識としてとらえておいたほうがいいと思い
ますね。
きのうも理研の話をして、理研の話で申しわけありませんけど、フィールドオリエンテ
ッドでないから、課題オリエンテッドにすべきであると。それも要するに interdisciplinary
にやれということになるんですけど、課題をきちっと立てて、どういう分野の人たちが入
るべきであると。そういうシステムをつくって、私たちはこの問題についてやっていくと
いう形にきちっと。じゃあシステム生命科学の課題は何かをきちっとするということが、
近藤さんの言った答えにもなるし、どういうストラテジーを立てればいいかというのもわ
かってくるんじゃないかと思います。
で、QBiC は何するのっていうことなんですが、ちょっと物理っぽいですけど、一番の問
題はやっぱり、組み合わせ爆発が起こるような非常に動的なシステムをいかに数個のエッ
センシャルなパラメーターに落とし込んで、非常に省エネで、ロバストと言ったらしから
れるけど、ロバストに制御する仕組みを調べる。先生おっしゃるように、ずっとやるとパ
ラメーターがどんどんふえたら何のことかわからないので、多分、細胞は 1 ピコニュート
ンのエネルギーしか使っていませんから、1 ピコニュートン、情報科学の立場からすると、
そこで扱っている情報量なんてものすごく少ないはずなんですね、steady state では。
steady state にあるときはきっとパラメーターは二、三個で、大体、二、三個しか制御でき
ませんよ。二、三個とは言わない、数個ですね。それを見つけるということをやってホー
ルセルを理解するというのが私たちの立場で、それが課題。それをやれば癌も全部わかる
だろうというような、20 年後の話ですけど。
【末松主査】
20 年後といわず、10 年後ぐらいにしてもらいたいですけどね。
【柳田委員】
10 年後で頑張ります。
【末松主査】
ほか、いかがでしょう。どうぞ、洪先生。
【洪主任研究員】
さっきの近藤先生の話とあれなんですけれども、実験というか研究
のテーマを考えてやるときに僕がいつも思うのは、昔、「一粒で二度おいしい」という、そ
ういう言葉がありましたでしょう。僕は日本を離れて 20 年たっていますから最近は何がは
やっているか知りませんけれども、僕は「一粒で二度おいしい」というのが研究にも当て
はまると思うんですよ。何か 1 つのことをやる。そのときに、自分は仮説を持っているか
ら、この仮説を証明するためにできるだけのことをやるという研究が、ジェネラルには一
番認められている研究なんですね。だけど、そうじゃなくて、1 つのことをやるときに、そ
こでやっている過程で出てくるものなり考え方なりというのが何度も何度もおいしいよう
な研究のデザインをするというのがこれから大事じゃないかなって、僕は思いますね。
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末松先生がさっきおっしゃいましたように、だんだんリソースが限られてきている。こ
れは世界中そうです。アメリカでも今、とにかく congress のほうは研究費を削減したくて
しようがないんですよ。だけど、唯一 NIH は研究費の削減があまりひどくいかないのは、
健康ということだからなんですね。それ以外の理由の研究というのは、今、全部削られて
います。ことしの予算で、例えば、NASAとか、物理系とか、ああいうのは全部、予算
が削られています。NIH だけ、ちょっとしか削られてないんですね。理由は、健康のため
のインスティチュートですから、みんなが健康で長寿で暮らせるようなことを研究すると
いうのが大きな目的になるので研究が許されているような状況ですね。リソースが限られ
てくると、全員の研究者が頭の中で一粒で何度でもおいしいような研究を心がけるという
のは、僕は大事だと思うんですよ。それが 1 つ。
それから、さっきカオスの複雑さがどうのこうのという話がありましたが、僕はむしろ、
生命というのは、1 つ 1 つの element は stochastic なんですけれども、それが全体に組み
合わさると deterministic に動くんですよ。僕は、
そこが一番キーポイントだと思いますね。
カオスは反対なんですよ。ミニマムな element は deterministic なのに、わーっとくっつき
合わせると stochastic に動いちゃって、とんでもないことが起こるという話でしょう。僕、
生命は逆だと思いますよ。発生でも何でも、非常に形どおりにいくでしょう。だけど、1 つ
1 つの element は stochastic なんですよ。その辺は、昔、フォン・ノイマンとか、あの辺
がかなりやっていますよね。フォン・ノイマンは、そういうのをどうしたら信頼度の低い
素子で信頼度の高いものをつくるかというような議論まで、論文があります。彼の結論は
簡単で、重複度を入れればいいということですね。redundancy を入れろということなんで
すけれども、生命はかなりそれをやっていますよね。遺伝子をノックアウトしても何も起
こらない遺伝子がかなりあるというのは、やっぱり重複性がかなり入っている。それはロ
バストネスということだと思うんですけれども、そういう観点は大事だと思いますね。た
だ……。
【近藤委員】
全く同じなんですよ。素子としてほんとうは発散しちゃいそうなのに何
で発散しないかというところを考えるところが大事だよと言いたかったんです。
【洪主任研究員】
【末松主査】
すみません、ちょっと外れましたね。
いや、外れてないです。非常に重要なご指摘だと思います。
ほか、いかがですか。金子先生。
【金子委員】
僕、大自由度カオスとかいうのをやっていたんですけど、それはわりと
おもしろかったのは、1 個 1 個、カオスの素子をたくさん集めて相互作用させると、今度、
マクロなパターンでは集団としてわりと秩序だったものができるとか、安定した構造がで
きるとか、そういう数理的な仕組みがいろいろわかってきて、それで、そういうことの視
点から細胞分化とかそういうことが見えないかなと。例えば細胞分化で細胞の種類が何対
何対何になるとか、そういう安定性がありますよね。そういう個々の細胞間との相互作用
との絡みで決まるような仕組みというのは何かそういうのと関係しているかなという。
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【末松主査】
どうもありがとうございました。
余震も起きましたのであれなんですけれども、きょうはどうもありがとうございました。
きょうの時点ではうまくまとまらないにしても、最後のところで非常にいい議論をしてい
ただいたんじゃないかと思います。1 回目のときのお二人の先生方のお話も、それからきょ
うの、1 回目にご参加されていなかった洪先生のお話も、非常に共通の哲学が最後にいぶり
出されたので、大変よかったんじゃないかと思います。そこの方向性は間違いなくて、そ
れで全部の異分野の人たちがそれぞれの切り口で共通に興味を持てるような研究リソース
をつくって、それをまた次の世代の人が見たときにどんどんそれが利用できるようなオー
プンリソースをつくるような研究構築をすれば、このフィールドは十分生きていく、生き
ていくどころか、どんどん発展するだろうというのが、きょうの共通の概念じゃなかった
かと思います。どうもありがとうございました。
3回目のときも、何人かの先生にお話しいただくんでしたね。釜井さん、そうでしたね。
【釜井課長補佐】
次回は 5 月 9 日 13 時から予定しておりますが、事務局として発表の
ご要望がありましたら受け付けて、議事次第については、主査とご相談の上、ご連絡させ
ていただきます。
【末松主査】
ぜひよろしくお願いします。stochastic から deterministic に議論が行く
といいと思っておりますので、よろしくお願いいたします。
あと、事務局のほうから何かございますか。
【釜井課長補佐】
本日の議事録につきましてですけれども、事務局で案を作成し、委
員の皆様にお諮りした上で、主査のご確認も得て、公開する手続をとりたいと思います。
次回は、先ほど申し上げましたとおり、5 月 9 日月曜日の 13 時から予定しております。
議事次第等につきましては、追ってご連絡いたします。
以上でございます。
【末松主査】
時間が少しオーバーしましたけれども、本日はどうもありがとうござい
ました。またよろしくお願いいたします。
――
了
――
39
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