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図書館におけるプライバシー保護の現在

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図書館におけるプライバシー保護の現在
第 7 分科会 図書館の自由
図書館におけるプライバシー保護の現在
報
告
図書館の自由・この一年
西河内靖泰(日本図書館協会図書館の自由委員会委員長)
基調報告
図書館と個人情報保護法―特別法は必要か?
鈴木正朝(新潟大学法学部教授)
分科会概要
2015 年8月「図書館でのプライバシーに関する IFLA 宣言」が採択され,図書館でのデータの安全保
護,情報管理,過度なデータ収集への危惧など,図書館の原則を確認しています。また,同年 12 月には米
国情報標準化機構(NISO)が「NISO プライバシー原則」を公表するなど世界的にも技術の急速な進歩に
対応するための図書館のプライバシー保護について関心が高まっています。
本分科会では,情報セキュリティ問題に造詣が深く,政府の IT 総合戦略本部「パーソナルデータに関
する検討会」委員として個人情報保護法改正にも関わった新潟大学の鈴木正朝氏を講師にお迎えし,個人
情報とプライバシーの概念を整理し,さらに一歩進んだプライバシー保護について,図書館コンピュータ
システムの中でのデータの利活用から派生する諸問題を含め考えます。
□報告:図書館の自由・この一年
西河内靖泰(日本図書館協会図書館の自由委員会委員長,広島女学院大学)
一年間の図書館の自由に関する事例をふりかえり,自由委員会の論議と対応を報告します。主な報告事
例としては,神戸高校旧蔵書貸出記録流出について,神戸連続児童殺傷事件加害者手記『絶歌』をめぐる
その後の状況,カルチュア・コンビニエンス・クラブ(CCC)の運営する図書館で問題になった資料収集
についてなどを予定しています。
□ 基調講演:「図書館と個人情報保護法-特別法は必要か?」
鈴木正朝(新潟大学法学部教授)
2015 年に個人情報保護法が改正され,個人情報の定義を明確化しつつ,特定個人がわからないよう情報
を匿名化加工したものについて,適切な規律の下での有用性を確保することとしています。私立図書館は
この法,国立大学図書館は行政機関および独立行政法人等の個人情報保護法,公立図書館は各地方自治体
条例と,設置主体によりばらばらの規律のもとで個人情報を取り扱うことになります。この中で匿名加工
情報はどう扱われていくのか今後の動向に注目する必要があります。
鈴木正朝氏には,図書館の保有する利用情報は,個人情報保護法体系に位置づけたままで良いのか,特
別法検討の必要性についてもお話しいただきます。
〈主な著書〉
『ニッポンの個人情報「個人を特定する情報が個人情報である」と信じているすべての方へ』翔泳社
共著
1 / 第 7 分科会 図書館の自由
2015
『プライバシー・個人情報保護の新課題』商事法務
める時,使う時のルール』ダイヤモンド社
2010 共著『個人情報保護法の基礎知識
情報を集
2010
□研究討議
基調講演と報告をふまえて,図書館利用者のプライバシー保護に関して求められていることは何か,ガ
イドラインを作成するにあたっての留意点や考え方について意見交換をします。
□パネル展示
図書館の自由展示パネル『なんでも読める・自由に読める』
「図書館の自由」にかかわるさまざまな資料をわかりやすく提示するパネルを展示します。このパネル
は,図書館員や利用者に「図書館の自由に関する宣言」などについて知っていただくことを目的としていま
す。図書館の研修会などで利用の希望があれば貸出していますので,この機会にぜひご覧ください。
(伊沢ユキエ:日本図書館協会図書館の自由委員会,横浜市磯子図書館)
2 / 第 7 分科会 図書館の自由
報
告
図書館の自由・この一年
西河内靖泰(日本図書館協会図書館の自由委員会委員長)
2015 年 10 月から 2016 年 9 月の事例について報告する。
1
資料収集をめぐる問題
■選書のあり方
2015 年 10 月,CCC の管理運営する海老名市立図書館ではリニューアル開館の直前に市議会で不適切
な蔵書があると指摘され,教育長が点検し蔵書をから排除することが報道された。また,2016 年 3 月に開
館した多賀城図書館について,不適切な選書がなされているとの批判が起きている。
選書の責任はどこにあるのか(図書館長,指定管理者,教育委員会,首長)
,適切な選書はどうあるべき
か。
◎「CCC の運営する図書館(通称「TSUTAYA 図書館」
)に関する問題についての声明」
2015 年 12 月 2 日
図書館問題研究会常任委員会
◎図書館セミナー「図書館の運営を考える-武雄市図書館と海老名市立図書館の選書から見えること」
2016 年 2 月 13 日
JLA 政策企画委員会主催
■神戸児童連続殺傷加害者手記『絶歌』その後
『絶歌』については,犯罪被害者遺族から「出版するな,販売するな,蔵書とするな」という要望に対
し,各地の議会,教育委員会,図書館協議会で議題となり選書のあり方について論議が広がった。青少年
条例の有害図書指定を求める請願や撤去を求める請願も出ている。
2015 年 12 月 21 日,兵庫県三木市議会で「猟奇的殺人事件加害者による手記の撤去についての請願」
が採択された。同市図書館は閉架の措置を取り予約者のみに提供することで閲覧を制限し,選書基準を改
訂して犯罪被害者の求めない資料を収集しない資料とする,とした。
選書基準で収集しないものとして,わいせつ,青少年条例で指定されたもののほかに犯罪被害者の云々
という条項が入ることについてどう考えるか。
2
資料提供をめぐる問題
■改定児童ポルノ法による所持の制限
児童買春・児童ポルノ禁止法で定める児童ポルノ単純所持への罰則規定が 2015 年 7 月 15 日に施行され
た。これを受けて,雑誌専門図書館の大宅壮一文庫では,利用制限(複写の制限)を開始した。
■蔵書への異議申立
学校図書館の蔵書について教員から人権上問題があると指摘された。福祉プラザ情報室で所蔵するまん
が『ヘルプマン』について,子どもも閲覧できるとして利用者から抗議があった。公共図書館で郷土資料
として収集した市内にある会社の社内報について,利用者から慶弔関係のお知らせに個人名が掲載されて
いるが問題ではないかとの指摘があった。などの相談を委員会で受けた。
慰安婦について記述のある本の閉架を求める請願が6月に川崎市議会にあった。
3 / 第 7 分科会 図書館の自由
3
資料回収・出版差止
・『日経ウーマン』2015 年 4 月号
コーラン写真誤掲載
・学研まんがシリーズ『スポーツナビゲーターのひみつ』(学研,2014 年 9 月)
2015 年 8 月に「改訂版
送付と旧版ご返送のお願い」を図書館に送付。誤り部分を明示し,改訂版を発行しているよい事例。
・『世界の音楽なんでも事典』(岩崎書店,2015 年 9 月)
・『宗教学大図鑑』(三省堂,2015 年 6 月)
1 月に回収・交換の依頼。複数の誤植。
2 月に回収と「切替処理」後再納品の依頼。編集上の不
備。
・『やがて,警官は微睡る』(双葉社,単行本 2013 年 2 月,文庫 2016 年 2 月)
5 月に回収と「切替処
理」後再納品の依頼。職業名
・『日本会議の研究』
(扶桑社,2016 年 4 月)
日本会議が版元に出版停止を求める。
・『ダーリンは 70 歳・高須帝国の逆襲』(西原理恵子・高須克弥共著
小学館,2016 年 5 月) 著者が書
き直しを拒否して絶版,5 月末に書店に回収依頼。
・『江戸諸国四十七景
名所絵を旅する』(講談社,2016 年 4 月)
7 月に回収交換の告知。
・「全国部落調査」復刻出版予告について,横浜地裁が 3 月に出版差止め仮処分決定。
4
図書館利用者のプライバシーについて
■神戸高校旧蔵書貸出記録流出
2015 年 10 月 5 日,
『神戸新聞』夕刊「村上春樹さん
早熟な読書家」の記事で,村上氏が在学していた
県立高校の本から同氏の貸出記録が出てきたことが報じられた。
◎神戸高校旧蔵書貸出記録流出について(調査報告)
2016 年 11 月 30 日
JLA図書館の自由委員会
◎村上春樹氏の高校時代の学校図書館貸出記録が神戸新聞に公表されたことに関する見解
2015 年 10 月 18 日
学校図書館問題研究会
■『週刊少年ジャンプ』2015 年 11 月 16 日号掲載の「斉木楠雄の Ψ 難
第 170χ 図書室の Ψ 難」におけ
る利用者のプライバシーにかかわる描写について
2015年12月21日
学校図書館問題研究会申入れ
■諸外国のプライバシーに関する文書
・国際図書館連盟(IFLA)図書館におけるプライバシーに関する声明
2015年8月14日
・全米情報基準機構(NISO),図書館などにおける利用者のデジタルプライバシーについての原則
2015
年 12 月 10 日
・国際図書館連盟(IFLA),
「忘れられる権利」に関する声明
2016 年 2 月 25 日
・アメリカ図書館協会(ALA)知的自由部 「電子環境における利用者データ保護に関する戦略を提供す
る新図書館プライバシー・ガイドライン」
2016 年 8 月 1 日
■マイナンバーカードの図書館利用
マイナンバーカードの交付が開始され,いくつかの自治体で図書館カードとして利用している。将来カ
4 / 第 7 分科会 図書館の自由
ード発行が有料となることはないか,利用の抑制を招かないか,経費が他の図書館費目に影響しないか注
視したい。
総務省から 2016 年 9 月 16 日付「マイナンバーカードを活用した住民サービスの向上と地域活性化の検
討について(依頼)」が出ており,「マイキープラットフォーム」の実証実験が計画されているが,貸出履
歴情報は保有しないことを前提としたうえでも,読書の秘密を侵害する恐れがないか,今後に注目する必
要がある。
■読書通帳・読書手帳
データを印字するために利用者の貸出データを別のサーバに移転する方式がある。読書通帳を望まない
利用者のデータ移転や保有する期間,そもそも移転してよいかなど,個人情報管理の観点から検討が必要
である。
■リライトカード
氏名と利用資料が同時に表示され,返却しても次の貸出をしないとそのままの表示される事例がある。
紛失時に読書の秘密が漏れることになる。
■国立国会図書館サーチ詳細画面 url に位置情報表示
国立国会図書館サーチをスマートフォン等で検索し,書誌詳細画面を開くと,url に位置情報(緯度・経
度)が含まれる場合があり,SNS やブログにこの url を投稿すると,意図せずして検索した場所を公開す
ることになることを,2016 年 10 月に NDL が注意喚起した。カーリルで近隣図書館の所蔵と連携するた
めの仕様だが,一時的に連携を停止している。
5
その他
■入館の制限について
障害者差別解消法が 2016 年 4 月に施行された。これを待つまでもなく,地方自治法 244 条で「正当な
理由がない限り,住民が公の施設を利用することを拒んではならない。」「不当な差別的取扱いをしてはな
らない。」と定めている。公共図書館で入館の制限について条例や利用規則に規定する自治体があるが,
「・・・おそれのある場合」など,過大になっていないか点検してほしい。
『賃金と社会保障』1583 号(2013 年 4 月上旬)に,東京地方裁判所判決(平成 24 年 11 月 2 日)で「専
ら原告が…精神障害者保健福祉手帳の交付を受けたことを理由としてインターネットカフェの入店拒否に
及んだ行為は公序良俗に反する違法な差別行為であり,不法行為を構成する…として店舗を営業する会社
および店長に対する損害賠償請求が認容された事案。
」が所収されている。
■登録申込書の記載事項について
多賀城市図書館に「利用申込書の性別欄廃止と図書館利用券に通称名使用の要望」が寄せられ,2016年
2月市議会で質疑があり,現状どおりとするとの答弁であった。
在日外国人,夫婦別姓,性同一性障害などさまざまな立場の利用者を差別・排除することにならないか。
5 / 第 7 分科会 図書館の自由
■北斗市立図書館で市民グループのチラシ配布拒否
山梨県北斗市の図書館が,市が推進する「中部横断自動車道」の建設反対派の「ニュース」掲示を拒否
したとの報道があった(朝日新聞全国版 8 月 18 日)
。表現の自由の場としての図書館の役割を考える問
題
■捜査機関等からの照会への対応
刑事訴訟法第 197 条第 2 項に基づく捜査関係事項照会で複写申込書の提供を求められたとき,個人情
報保護条例で規定する「要注意情報」にあたるので外部提供はできない,と自治体法務部門が判断した事
例がある。
弁護士法 23 条の 2 に基づく照会文書への対応についての相談があった。考え方は刑事訴訟法に基づく場
合と同様で,正当な理由(図書館は利用者の秘密を守る)により提供を拒否することができる。
6 / 第 7 分科会 図書館の自由
基調報告
図書館と個人情報保護法―特別法は必要か?
鈴木正朝(新潟大学法学部教授)
平成 27 年に個人情報保護法が改正され,私立の図書館の個人情報はその新たな規律に服することにな
る。また,本年5月 20 日には,行政機関及び独立行政法人等の個人情報保護法が改正され,行政機関及び
国立大学図書館などがその規律に服することになる。
しかし,多くの都道府県市区町村立の図書館は,それぞれの自治体の制定している個人情報保護条例の
規律の下で個人情報を取り扱っていかなければならない。
同じ図書館情報であっても,個人情報としての管理のあり方は,それぞればらばらの 2000 近くのルー
ルによって規律されることになる。
今後,匿名加工情報,非識別加工情報が個人情報保護条例にどこまで浸透していくのか,今後の改正の
動向を見ていかざるを得ないが,はたして利用者情報が,どの程度,匿名加工やオープンデータ政策の対
象情報としていけばいいのか,その前提となる一定のデータ量を蓄積することを含めて,その対応方針は
固まっているのであろうか。
利用者情報をこうした個人情報保護法体系の中に位置づけたままでいいかどうか,その特別法を検討す
る必要性などを検討してみたい。
第 102 回全国図書館大会ホームページ 掲載原稿
URL:http://jla-rally.info/tokyo102th/
2016 年 9 月 21 日 作成
2016 年 10 月 12 日 更新
7 / 第 7 分科会 図書館の自由
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