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1 税務訴訟資料 第258号-58(順号10916) 大阪高等裁判所 平成
税務訴訟資料 大阪高等裁判所 第258号-58(順号10916) 平成●●年(○○)第●●号 贈与税更正処分等取消請求控訴事件 国側当事者・茨木税務署長 平成20年3月12日棄却・確定 判 (1) 示 事 項 納税者は、更正処分のうち申告に係る納付すべき税額を超えない部分について、その取消しを求 める訴えの利益を有しないというべきであるから、本件における訴えのうち、申告に係る納付すべき 税額を超えない部分の取消請求に係る部分については、不適法として、却下された事例(原審判決引 用) (2) 相続税法7条(贈与又は遺贈により取得したものとみなす場合―低額譲受)の趣旨及び「時価」 の判断基準(原審判決引用) (3) 売買契約時における各土地の時価(相続税法7条にいう時価)は、課税庁の鑑定とおりであると 認められるところ、売買契約における各土地の売買代金の合計額は時価の合計額の2分の1にも満た ない上、各売買契約は、母からその法定相続人である子(納税者)に対して母所有の土地を譲渡する ものであり、しかも、その決済方法は、譲渡人である母の銀行からの借入金を譲受人である納税者が 引き受け、譲渡人に対する仮払金と相殺するなどとされていることなどにかんがみると、各土地の譲 受けは、相続税法7条(贈与又は遺贈により取得したものとみなす場合―低額譲受)にいう「著しく 低い価額の対価で財産の譲渡を受けた場合」に該当するものというべきであり、納税者は、各土地の 時価と売買代金との差額に相当する金額について、これを母から贈与により取得したものとして、贈 与税の納税義務を負うというべきであるとされた事例(原審判決引用) (4) 納税者の母は、納税者に対し、別件土地が市の名義であると説明しないまま、本件売買契約を締 結したものであり、別件土地の所有権移転登記を受けられなければ、他の土地等を購入することはな かったから、内容証明郵便により、民法563条2項(権利の一部が他人に属する場合の売主の担保 責任)に基づいて、本件売買契約を解除したのであって、同契約を贈与とみなして課税することはで きないとの納税者の主張が、①納税者の母及び父は、多数の不動産を取得、賃貸、賃借して賃貸マン ション等を経営する会社を経営していたこと、②納税者の父及び母は、行政指導に基づく開発寄附金 の負担軽減のために、別件土地を分筆した上で市に寄附し、その所有権移転登記まで経由したこと、 ③別件土地は所有権移転登記が経由されず、かつ納税者がこれを問題にした形跡がないこと、④納税 者は、本件売買契約の不動産として別件土地以外の土地等の鑑定評価は依頼したが、別件土地は評価 対象にしなかったこと、⑤本件各処分に係る異議申立書の理由欄には、別件土地の地番は記載されて いなかったこと、⑥本件売買契約の締結後に提起された別件訴訟において、別件土地が納税者の母の 所有にかかることを前提に納税者に譲渡された旨の主張立証がなされた形跡がないこと、⑦本件訴訟 の原審の審理において、納税者が別件土地を母から売買で取得した旨の主張立証がなされていないこ と等の事実に照らせば、納税者とその母との間の不動産売買契約の対象に別件土地が含まれていたこ とを認めることはできないから、本件売買契約は、売買の目的である権利の一部が他人に属する場合 (民法563条1項(権利の一部が他人に属する場合における売主の担保責任))に該当せず、同条 2項に基づく解除をすることができないとして排斥された事例 (5) 不動産鑑定評価基準は、貸家及びその敷地の鑑定評価額について、実際実質賃料に基づく純収益 1 を還元して得た収益価格を標準とし、積算価格及び比準価格を比較考量して決定するとするところ、 納税者の行った鑑定1は、取引事例比較法については取引事例の収集が困難であったとして採用せず、 また、収益価格をもって鑑定評価額としたものであり、収益価格と積算価格の乖離が約2倍もあった にもかかわらず、積算価格は収益価格の土地・建物への個別の配分比率を定めるについてのみ参考と されたにすぎず、積算価格・比準価格を比較考量して鑑定評価額を決したと言い難く、自らが採用し た評価方法に正確に準拠したものと直ちに言えないとされた事例 (6) 納税者の行った鑑定2は、土地につき取引事例比較を行い、無道路地減価をせず、建物につき観 察減価法を併用した点で妥当であるが、積算価格は収益価格の土地・建物への個別の配分比率を定め るについてのみ参考とされたにすぎない点で納税者の行った鑑定1と同旨の疑問が残るとされた事 例 (7) 課税庁が行った鑑定は、対象地の更地価格を求めるに当たり、比準価格、公示価格、収益価格を 参酌したもので、収益価格を求めるに当たっては土地残余法により、賃貸経費は更地化に際しての費 用も考慮したもので、その額も納税者の母の不動産所得用青色申告決算書上の1年当たり費目毎平均 額と比べて特に過大とも過小ともいえないものであるし、更地価格からの貸家建付地減価率20%は、 評価通達上の減価率と一致するなど適切なものといえるものとされた事例 (8) 課税庁が行った鑑定は、個々の物件の特性を十分に勘案していない評価通達が定める方法に準拠 したものである上、同鑑定が参酌したとする収益還元法は、更地価格を算定するための収益還元法で あり、現に存在する建物を前提として計算されたものではなく、本件建物の撤去費用や賃借人の立退 費用等、更地化に伴う減額要因を何ら考慮していないとの納税者の主張が、同鑑定は単に評価通達に 依拠したといえるものではないし、その収益還元法の適用は、土地残余法により収益価格を算出した もので不動産鑑定評価基準に拠ったものとして妥当でないとはいえず、空室等による損失相当額や建 物等の取壊費用積立金を経費として考慮した上で算出したものであるから、更地化に伴う減額要因を 何ら考慮していないとはいえないとして排斥された事例 (9) 納税者ら当事者は、各土地の売買契約を締結するに際し、税務署からみなし贈与と指摘されるこ とのないよう、不動産鑑定士による鑑定評価額を時価であると認識して売買代金額の合意をしたので あるから、売買契約当時、契約当事者が全く予定していなかったみなし贈与税の納税義務が発生する ことは、売買契約にとっては要素の錯誤となり、売買契約は無効であるとの納税者の主張が、納税者 が依頼した不動産鑑定士による鑑定評価額は、その方法、判断過程及び内容に合理性を欠くところが 多く、各売買契約の締結に先立って、各売買契約の目的不動産の正常価格ないし限定価格を鑑定評価 するために作成されたものであるかについて合理的な疑問が存するから、納税者らが、各売買契約の 締結に当たり各土地の売買代金額が時価(客観的交換価値)とかい離するものではなく相続税法7条 の規定によるみなし贈与の課税の対象となるものではないとの認識を有し、かつ当該認識(動機)を 表示して各売買契約を締結した事実を証拠上認めるのは困難であり、さらに、納税者は時価と売買代 金額との差額に相当する経済的利益を現実に享受していたということができ、納税者が主張するよう な錯誤無効が国税通則法23条2項各号にいずれの事由にも該当しないことをも併せ考えると、少な くとも各土地の取得に係る贈与税の法定申告期限の経過後においては、各売買契約の錯誤無効を主張 して贈与税の課税を免れることは許されないとして排斥された事例(原審判決引用) (10) 各売買契約は覚書による合意解除によりそ及的に無効となったから、贈与税の課税要件を満たさ ないとの納税者の主張が、覚書が各売買契約の効力をその締結時にさかのぼって消滅させる趣旨の合 意であるとしても、覚書が各土地の取得に係る贈与税の法定申告期限の経過後に課税庁の職員から各 2 土地の取得が相続税法7条に規定する低額譲渡に該当する旨の指摘を受けて贈与税の課税を免れる ために作成されたものであることは明らかであるところ、国税通則法23条2項3号、同施行令6条 1項2号が、当該国税の法定申告期限後に、その申告、更正又は決定に係る課税標準等又は税額等の 計算の基礎となった事実に係る契約が、解除権の行使によって解除され、若しくは当該契約の成立後 生じたやむを得ない事情によって解除され、又は取り消されたときに限って、2か月以内に更正の請 求をすることができる旨規定している趣旨にもかんがみると、納税者が覚書による各売買契約の効力 のそ及的消滅を主張して贈与税の課税を免れることは許されないとして排斥された事例(原審判決引 用) 判 決 要 旨 (1) 省略 (2) 相続税法7条の規定は、贈与税は、相続税の補完税として、贈与により無償で取得した財産の価 額を対象として課される税であるところ、法律行為としての贈与契約によらずに、時価より著しく低 い対価で財産の譲渡を受けた場合についても、経済的にみれば当該対価と時価との差額について実質 的に贈与があったということができ、他方で、贈与税の課税原因を法律行為としての贈与契約に限定 した場合には、時価より著しく低い価額の対価で財産の譲渡を受けることによって、容易に贈与税の 負担を回避するとともに、将来的に相続税の負担の軽減を図ることができることにもなるから、租税 負担の公平の見地に照らし、時価より著しく低い価額の対価で財産の譲渡を受けた場合には、当事者 の贈与の意思ないし租税回避目的の有無のいかんを問わず、当該対価と当該財産の譲渡があった時に おける当該財産の時価との差額に相当する金額を当該財産を譲渡した者から贈与により取得したも のとみなして贈与税の課税の対象とする趣旨のものと解される。このような同条の規定の趣旨からす れば、同条にいう時価とは、自由な経済取引の下で成立すると認められる取引価額(すなわち、客観 的交換価値)をいうと解され、時価より著しく低い価額の対価に該当するか否かについては、時価と 当該対価とのかい離の程度、当該財産の譲受の事情、譲渡当事者間の関係等を勘案し、社会通念に従 って判断すべきであるとされた事例 (3)~(10) 省略 (第一審・大阪地方裁判所 平成●●年(○○)第●●号、平成18年11月17日判決、本資料25 6号-315・順号10575) 判 決 控訴人(1審原告) 甲 同訴訟代理人弁護士 松下 被控訴人(1審被告) 茨木税務署長 繁生 桜井 真次朗 同指定代理人 山﨑 英司 同 山内 勝 同 服部 正行 同 諫武政典 主 1 文 本件控訴を棄却する。 3 2 控訴費用は控訴人の負担とする。 事実及び理由 第1 控訴の趣旨 1 原判決を取り消す。 2 被控訴人が平成14年5月10日付でした控訴人の平成11年分の贈与税の更正処 分のうち9427万0800円を超える部分及び無申告加算税賦課決定処分のうち1 411万3500円を超える部分をいずれも取り消す。 3 第2 訴訟費用は、第1、2審とも被控訴人の負担とする。 1 事案の概要 本件は、控訴人がその母である乙(以下「乙」という。)が所有していた原判決別紙 物件目録記載の土地建物(以下「本件不動産」という。)を買い受けたところ、被控訴 人が、上記売買が相続税法7条の著しく低い価額の対価で財産の譲渡を受けた場合に該 当するとして、売買時における本件不動産中の土地の時価であるとする額と売買代金と の差額に相当する額を乙から贈与により取得したものとみなして、控訴人に対し、平成 14年5月10日付で控訴人の平成11年分の贈与税の更正処分及び無申告加算税賦 課決定処分(以下それぞれ「本件更正処分」、「本件賦課決定処分」といい、総称して「本 件各処分」という。)をしたため、控訴人がその取消を求めた事案である。 原審は、控訴人の請求のうち、本件更正処分中納付すべき税額18万0700円を超 えない部分(控訴人の平成12年7月24日付申告の贈与税額)の取消を求める部分を 却下し、その余を棄却したため、これを不服とする控訴人が前記第1の限度で本件控訴 を提起した。 2 法令の定め、前提事実、争点及び争点に関する当事者の主張は、以下の当審での補充 主張(本件売買契約2に基づく土地の譲受が相続税法7条の著しく低い価額の対価で財 産の譲渡を受けた場合に当たるか)を付加する他は、原判決「事実及び理由」第2・2 ないし4のとおりであるからこれを引用するものとする。 そして、Q鑑定士による不動産鑑定評価書である甲43、47(甲43の公租公課額 と還元利回りを改め、評価額を改めたもの)を「控訴人鑑定1」(評価額9321万円) と、R鑑定士による不動産鑑定評価書である甲57を「控訴人鑑定2」(評価額925 4万円)と、これを総称して「控訴人各鑑定」といい(鑑定書の価格時点はいずれも平 成11年10月29日である。) 、「被告鑑定2」を「被控訴人鑑定」(評価額1億860 0万円)というほか、略語は原判決の用法による。 〔控訴人〕 (1) 本件3の土地についての本件売買契約2の民法563条2項による法定解除権の 行使(当審新主張・争点④) ア 本件売買契約2は法定解除されたから、控訴人に贈与税を賦課できない。 (ア) 本件3の土地及び所在・交野市(以下「市」という。)、地目・宅地、地積・ 104.96㎡の土地(以下「別件土地」という。分筆前は一体地であった。) を所有していた乙は、夫の戊と共に賃貸マンション(本件建物)を建設すること を計画し、戊が市と事前に協議し、市ないし大阪府がH駅再開発に伴う道路拡幅 4 を計画しており、道路に接する細長い土地を市に寄付することが建築確認に必要 不可欠と理解してその旨乙に説明し、乙は別件土地を分筆して、昭和60年12 月4日、道路拡幅に供することに限定して別件土地を市に寄附し、本件3の土地 上に本件建物を建設した(甲23~25)。 しかし、道路拡幅は進行せず、別件土地の近辺ではセットバック(道路拡幅の ために接道部分の土地を市に提供すること)のないまま建物が建設されたところ、 市の担当者は道路を拡幅しないと言い出したため、戊は別件土地の名義を戻すよ う要求し(甲29)、かかる説明を受けた乙は市が土地を返還すると信じていた。 そのため乙は、控訴人に対し、別件土地が市の名義であると説明しないまま、 平成11年10月30日付で本件売買契約2を締結し、本件3の土地、別件土地 及び本件建物を譲渡した。 (イ) 控訴人は、本件建物の敷地が本件3の土地と別件土地の2筆であること、別 件土地が市名義であることを知らず、戊・乙を信頼して登記手続を任せ、本件各 処分後の異議申立や審査請求も戊に任せていた。被控訴人に対する平成14年7 月5日付異議申立書の理由欄に「992.93㎡」と記載したところ(甲14)、 これは本件3の土地と別件土地の面積を合算したものであり、本件売買契約2の 対象に別件土地が含まれるのは明らかである。 乙は、市から別件土地の登記名義を戻すことを拒否されたため、所有権移転登 記手続請求訴訟を提起して(大阪地裁平成●●年(○ ○)第● ●号、甲15、以 下「別件訴訟」という。)、その旨を控訴人に説明し、控訴人は上記契約に市名義 の土地が含まれていることを初めて知った。 (ウ) 別件訴訟は平成18年12月21日に乙敗訴で確定し(甲36)、乙は控訴 人に別件土地の所有権を移転できないところ、市名義の同土地が存在するため、 本件3の土地は建築基準法上の無道路地になる(甲26、27、43)。 控訴人は、別件土地の所有権移転登記を受けられなければ、本件3の土地と本 件建物を購入することはなかったから、平成19年2月20日付内容証明郵便 (甲37、38)により、民法563条2項に基づいて、本件売買契約2を解除 したものであり、同契約を贈与とみなして課税することはできない。 イ 被控訴人に対する反論 (ア) 売買対象に関する控訴人主張に実質的な変遷はない。 控訴人が、原審で別件土地を売買対象として主張しなかったのは、乙から現地 で説明を受けた土地が全て売買対象であると思っており厳密に検討しなかった こと、本件訴訟の具体的な進行を戊に任せており、売買対象に現地で見た別件土 地も含まれると思っていたからである。原審で敗訴したため、控訴人が訴状別紙 物件目録や鑑定書(原告鑑定2)を確認した結果、これらに別件土地が記載され ていないことを初めて認識した。 (イ) 別件土地が本件売買契約2に含まれていなければ、本件3の土地及び本件建 物の使用、収益に支障が生じ、また、通常人であれば、別件土地が他人名義であ ることを知っていれば、本件売買契約2を締結しない。 大阪府住宅まちづくり部建築指導室長は、本件3の土地につき、現在の状況が 5 続く限りは建築基準法42条1項1号規定の道路に接していると判断すると回 答し、交野市長は、別件土地につき、現時点においては一般の通行の用に供する ことを妨げる計画、土地の権利の移転及び管理を移管する予定はないと回答した ものであり(甲51~54)、別件土地が市名義であれば、本件3の土地が将来 も接道土地であるか不明である。 別件土地は、本件3の土地が接道土地であるかを決する重要な土地であるにも 関わらず、将来の状況が不安定な土地である上、本件3の土地との面積比は約1 対8と少なくない位置を占めるから、売買代金約1億8000万円の取引におい て、かかる事実を知りながら購入する者はいない。 (ウ) 控訴人は、両親が経営する不動産賃貸業等を営む法人の取締役又は監査役で あるが、医師として忙しいため、法人の業務、本件各売買契約の手続、本件・別 件訴訟の詳細を認識しておらず、不動産の登記簿も見ておらず、別件土地が既に 処分されていたことを知らなかった。 (エ) 市の担当者であった企画部長は、戊に対し、府道の拡幅計画を臭わせながら 建物の建築時にセットバックさせると道路が広がると説明し、戊は、拡幅計画が あると騙されて信じて、別件土地の名義を市に移したものである。戊が市から明 示的に道路の拡幅計画があると説明されたとは主張しておらず、その主張に矛盾 はない。 (2) ア 本件売買契約2の対価の相当性(争点①) 控訴人各鑑定の鑑定評価方法が適切であること (ア) 本件3の土地は、本件建物の敷地(貸家建付地)であるところ、不動産鑑定 評価基準によれば、貸家及びその敷地の鑑定評価額については「実際実質賃料に 基づく純収益を還元して得た収益価格を標準とし、積算価格及び比準価格を比較 考慮して決定する」とされている。貸家建付地の時価は収益価格を標準として算 定すべきである(甲40~42)。 貸家建付地と貸家の経済的価値は、土地建物が一体となって効用を発揮するこ とにより形成されるものであり、本件同様、一体として売買されるのが通常の取 引形態であり、貸家建付地の評価方法は、土地建物一体の全体価格を評価した上 で、土地・建物部分への各適正配分を計算する方法が、最も素直で合理的であり、 かかる方法により算定された価格が時価を合理的に反映する。 不動産鑑定評価基準には、上記配分方法についての規定はないが、不動産鑑定 業界、会計業界等において最も一般的な方法として採用されている、積算価格に おける土地・建物の構成比を採用するのが相当である。 (イ) 被控訴人は、控訴人鑑定1が積算価格、比準価格を参酌していないと主張す るが、貸家及びその敷地の鑑定評価は、収益価格を標準とし、積算価格及び比準 価格を比較考量して決定するものであり、標準はあくまで収益価格であり、近時 は取引事例比較法(比準価格)を適用しないのが実務上一般的である。また、控 訴人鑑定1は、収益価格と積算価格を比較考量し、両者の間に相当の格差がある 理由を検討した上で、本件建物が賃貸マンションであることから収益価格をもっ て評価額としたものであり、積算価格を参酌している。 6 (ウ) 被控訴人は、貸家及びその敷地の取引は、収益価格のみによってなされてい るとはいえないと主張するが、控訴人の本件3の土地の取得目的は、従前同様、 本件建物と共に収益物件として利用することにあり、収益還元法で評価するのは 当然である。建物購入時既に取壊予定であるとか、老朽化している場合を除き、 賃貸建物及び敷地は収益物件として利用されるのが通常であり、不確定な遠い未 来の更地化を考慮して土地の売買価格を決めるのは、実際上考え難い。 被控訴人鑑定は、本件3の土地を更地評価しながら、本件建物の撤去費用や賃 借人の立退費用等、更地化に伴う減額要因を何ら考慮しておらず、妥当でない。 イ 被控訴人の主張する鑑定方法(被控訴人鑑定)が不合理であること (ア) 被控訴人鑑定は、本件3の土地価格を評価通達(相続税財産評価に関する基 本通達・昭和39年4月25日付国税庁長官通達)に準拠し、更地価格に貸家建 付地の減価率を乗じる方法で算定しているが、失当である。 被控訴人鑑定は、標準価格の査定において収益還元法を適用して求めた価格を 参酌したとするが、そこでの収益還元法というのは「対象地が更地であるものと して、最有効使用の賃貸用建物の建設を想定して総収益を算定し、これにより土 地及び建物に帰属する純収益をまず求め、当該純収益から建物に帰属する部分を 控除した残余の純収益を土地の還元利回りで還元して、評価対象地の収益価格を 計算する」という方法であり、更地価格を算定するための収益還元法であって、 現に存在する建物を前提として計算したものではなく、実際に貸家建付地が売買 される際に一般的に行われている前記アの方法とは異なる。 貸家建付地と貸家を一体購入する者は、一体の収益性に着眼しており更地にす る意図はないから、貸家建付地を更地として評価するのは妥当でない。被控訴人 鑑定は、評価通達に基づいたものであるが、同通達は課税評価における基本的な 取扱いを定めたものであり、個々の物件の特性等を十分に勘案していない。東京 地裁平成15年8月28日判決も、評価通達が定める評価方法を画一的に適用す ることにより、明らかに財産の客観的交換価値と乖離した結果を導くこととなる ため、実質的な租税負担の公平を著しく害し、法の趣旨及び評価通達の趣旨に反 することとなるなど、通達に定める方式によらないことが正当として是認される ような特別の事情がある場合には、他の合理的な評価方法によることが許される と判示する(甲45)。収益還元法によらない被控訴人鑑定は、上記判示の場合 に該当し、評価通達の方法の他の合理的な評価方法である前記アによる評価がな されるべきである。 貸家建付地の鑑定評価において、評価通達を基本として評価する場合もあるよ うであるが、大都市及びその近郊において収益物件を収益物件として売買する場 合は、収益性に着目して売買価格が決まるから、かかる場合に同通達により評価 するのは妥当でない。 (イ) 被控訴人は、被控訴人鑑定は本件3の土地を部分評価したと主張するが、不 動産鑑定評価における部分鑑定評価とは、「不動産が土地及び建物等の結合によ り構成されている場合において、その状態を所与として、その不動産の構成部分 を鑑定評価の対象とすること」(甲39・13~14頁)であり、土地の部分評 7 価であっても、土地だけでなく一体としての土地建物を十分に斟酌して評価する 必要があり、被控訴人の主張する部分評価は、不動産鑑定評価基準に規定されて いない。 貸家建付地については、一体としての建物の要因が影響するものであり、土地 の部分評価においては建物の現況の十分な斟酌が必要不可欠であるところ、まず 土地の更地価格を求め、これを基に貸家建付地の価格を求める部分評価において は、建物の状況を評価に適正に反映することは極めて困難である。貸家建付地の 評価は、一体としての貸家と敷地の価格を求めて、その配分額を求める手法が適 切である。 ウ 控訴人鑑定1の評価額が本件3の土地の時価として合理的であること (ア) 控訴人鑑定1は、前記アの方法により本件3の土地の時価を鑑定したもので あり妥当である。同鑑定は、評価通達に拠った被控訴人鑑定と異なり、個々の物 件の特性を十分に勘案しており、時価すなわち客観的な交換価値であるところの 不特定多数の当事者間の自由な取引において通常成立すると認められる価額を より良く表したものである。 本件売買契約2の締結当時の本件3の土地の時価は、同鑑定のとおり9321 万円である。同契約における本件3の土地の対価が8439万円であったのに対 し、その時価は9321万円であったから、著しく低い価格の売買に該当しない。 控訴人鑑定1とは別の鑑定人による控訴人鑑定2においても、本件3の土地は 9254万円と評価されており、控訴人鑑定1は妥当である。 (イ) 被控訴人は、控訴人鑑定1の土地建物の収益価格が土地の更地価格(積算価 格)に及ばず、土地価格が路線価格に比べて安いことを不合理と主張するが、土 地建物一体の価格は、建物の状態によって大きく左右され、収益性が劣る貸家及 びその敷地については、一体価格が土地の更地価格より安くても不合理ではない。 土地上に築年数が極めて古く収益性が劣る建物がある場合は、更地化することを 想定した評価が行われ、一体としての評価額は更地価格より安くなり、S(甲5 8、大阪市内の遊園地)のように、過剰投資にもかかわらず収益性が劣り、賃借 人がいるため更地化できない物件は更に安くなる。賃料を上げれば収益性は高ま るが、新規の賃借人が集まらず、従来の賃借人が退去するおそれがあるから上げ られないなど、本件3の土地とSは共通点がある。 被控訴人は、控訴人鑑定1の無道路地減額を論難するが、本件3の土地が府道 に接していないことは客観的事実であるから、鑑定評価においてこれを考慮する のは当然である。 被控訴人は、控訴人鑑定1の修繕費が実態を無視していると主張するが、建物 再調達原価に連動させて固定費的に捉える方法を採用して再調達原価の1.1% を計上したものであり妥当である。長期修繕計画について建物再調達原価に基づ き厳密な検討を経て行なわれる不動産証券化の案件においても、同様の計上がな されている。 (ウ) 被控訴人は、控訴人鑑定1が賃料を不当に低く見積っていると主張するが、 本件建物は、賃料が下落傾向にあった上、従来の入居者の賃料は据え置かれ、入 8 居者の退去に伴い新規の入居者の賃料は安くなるから、かかる賃料下落を考慮し たにすぎない。 被控訴人は、控訴人鑑定1が実態と乖離した費目・金額を計上していると主張 するが、維持管理費等は、一般的な賃貸マンションの水準を基に査定したもので ある。賃料の額にかかわらず、建物に必要な維持管理の内容は変わらず、経費が 安くなるものではない。 (エ) 被控訴人は、控訴人鑑定1が公租公課額の訂正に伴い、還元利回りを7%(甲 43)から8%(甲47)に変更したことにより収益価格を低く抑えたと主張す るが、当初の7%は、粗利回り水準を勘案しつつ査定したものであるが、公租公 課額を訂正した結果、7%では粗利が過度に低くなるため8%に変更したもので あり、合理的な理由がある。 (オ) 被控訴人は、控訴人鑑定1が建物の減価要因を考慮せず、敷地部分の評価が 不当に抑えられていると主張するが、賃貸マンション等収益物件においては、借 家人がいた方が収益性が高いので、建物の積算価格の算定にあたり借家権価格を 減価するのは合理的ではなく、かかる手法を取らないのが一般的である。また、 控訴人鑑定1においても、経年相応の建物減価がなされたところ、この他に観察 減価を行おうとすれば、土地の減価も検討しなければならなくなるが、観察減価 や一体減価は恣意性が入りやすいことから、経年減価のみを行ったものである。 〔被控訴人〕 (1) ア 本件売買契約2の解除について 本件売買契約2の対象に別件土地は含まれておらず、同契約は一部他人物売買に 該当しないから、民法563条2項の要件に該当しない。 控訴人は、原審では本件売買契約2により別件土地を取得したと主張しておらず、 当審で主張が変遷した理由につき合理的な理由を示していないこと、原告鑑定2に おいて本件3の土地のみを鑑定の対象として依頼し、別件土地を対象としていない ことによれば、本件売買契約2の契約書(甲12)の記載にかかわらず、当事者の 意思としては、別件土地は契約対象に含まれていなかったものである。 控訴人は、平成16年1月に本件訴訟を提起したところ、平成17年3月に乙が 別件訴訟を提起して別件土地の所有権を争っていたのであるから、租税不服申立手 続や原審の推移の中で事案を把握していたはずであり、原判決後に初めて別件土地 が本件訴訟の対象とされていないことに気が付いたというのは不自然である。 不動産鑑定士が鑑定対象の確認をおろそかにすることはあり得ず、原審鑑定2に おいて、本件売買契約2の対象不動産に別件土地が含まれていないことは、控訴人 が同土地を除いて鑑定を依頼したからに他ならない。 イ 別件土地が本件売買契約2の対象であったとしても、通常人が買主となった場合 において、売買当時の事情を標準に判断して、別件土地の他の残存部分のみでは買 い受けなかったとの事情はない。 民法563条2項にいう「残存する部分のみであれば買主がこれを買い受けなか ったとき」とは、売買契約当時の事情を標準に判断すべきであり、買主が買わなか ったであろうとの事情は、通常人たる買主を標準として、契約の性質や目的から客 9 観的に認め得るものでなければならないところ、別件土地は市が所有する公共空地 (歩道等)であり建築基準法上の道路の一部として扱われており、別件訴訟の判決 によれば、別件土地は、南側において全面的に府道に接し、北側において全面的に 本件3の土地に接する長方形の土地であるところ、現況は下水道マンホールがある 他は何も設置されておらず、本件建物からの人や車の出入りが可能で、一般人も通 行可能であり(乙19)、大阪府の回答によれば、別件土地が、南側の府道と併せ て通行に供されていること、市により管理されていることを理由に、本件3の土地 は南側において道路に接するものとして扱われているなど(乙20、21)、通常 人であれば本件3の土地及び本件建物を買い受けなかったであろう客観的事情が 存在したとはいえない。市が乙から別件土地の寄附を受けた経緯は、元々府道に接 する別件土地と本件3の土地を一体として所有していた乙が、本件3の土地上に建 物を建築するため市と事前に協議した結果、開発指導要綱に基づく行政指導により 進入路部分となる別件土地を寄附させることで、公共下水道負担を減額するととも に、別件土地を公共空地(歩道等)として利用できるように図ったものであり(乙 19)、かかる経緯からすれば、市が本件3の土地の利用に著しい制限を加える別 件土地の利用策を採ることはあり得ない。 本件3の土地は面積約888㎡、本件建物は鉄筋コンクリート造6階建の賃貸マ ンションであり、別件土地の使用状況からすれば、別件土地が本件売買契約2に含 まれていなくとも、本件3の土地及び本件建物の使用、収益に支障が生ずるもので はなく、通常人が本件3の土地及び本件建物を買い受けなかったであろう客観的事 実が存在したとはいえない。 ウ 別件土地が本件売買契約2の対象であったとしても、控訴人は、契約時点におい て、別件土地が市所有であることを知っていた。 民法563条2項により契約を解除できるのは善意の買主であるところ、控訴人 は、両親が経営する不動産賃貸業等を営む法人の取締役又は監査役であった者であ り(乙12、13)、自ら多額の不動産収入を得ているばかりか、本件売買契約2 以前にも多数回にわたって不動産鑑定評価の依頼等をしており(甲9)、不動産取 引の知識を相当有していた上、本件3の土地及び本件建物を約1億8000万円で 購入しており、高額の不動産購入にあたっては登記簿の確認が常識であるから、契 約時点で、本件3の土地及び別件土地の登記簿を確認したか、乙らから聞くなどし て、別件土地が市所有であることを当然知っていたはずである。 本件3の土地の面積は、別件土地の分筆により、992㎡から887㎡に変わっ ており、本件3の土地の登記簿を見れば、別件土地が別に既に処分されていたこと を認識できた。 エ 控訴人主張は別件訴訟における裁判所の認定と矛盾している。 戊は、別件訴訟の証人尋問において、道路の拡幅計画が実際に存在していたと信 じていたとまで証言はしておらず(甲30・14頁)、同判決では、乙が、別件土 地が道路の拡幅計画に伴う府道拡幅に供されることに関して誤信があったとは認 定されていないから(甲30・14頁、甲35・5頁)、控訴人主張は、戊の証言 や判決の認定と矛盾する。 10 (2) ア 本件売買契約2の対価の相当性について 被控訴人鑑定が不動産鑑定評価基準に準拠した合理的なものであること (ア) 被控訴人鑑定は、貸家及びその敷地のうちの敷地部分(貸家建付地)の鑑定 にあたり、まず更地価格を求め、これに貸家建付地としての減価を考慮して評価 額を決定する方法を取ったものである。 被控訴人鑑定は、貸家及びその敷地の鑑定評価手法である、実際実質賃料に基 づく収益価格を標準とする鑑定評価手法(乙8の1・59頁)を採用していない が、その理由は、控訴人・被控訴人間で本件建物の価額に争いがないことから、 本件3の土地の部分鑑定評価(乙8の1・20頁)を行ったところ、不動産鑑定 評価基準上、貸家建付地に関する評価方法が具体的に規定されていないため、基 準上別に定める建付地の評価方法に基づく部分鑑定評価方法を採用した。 不動産鑑定評価基準において、建付地は、建物と結合して有機的にその効用を 発揮しているため、その鑑定評価は建物と一体として継続使用することが合理的 である場合において、その敷地について部分鑑定評価をするとされ(乙8の1・ 53頁)、建付地とは、自用の建物の敷地部分となっている土地であり、貸家建 付地(建物が土地所有者に使用されていない場合)は、基準上特に規定はないが、 実務上、部分鑑定評価が予定されている(乙28・246~247頁)。評価実 務においては、自用地である建付地に準じて部分評価を行うこともあり、部分評 価は、貸家建付地の評価手法の一つであり合理的である。 更地や建付地の鑑定評価と自用の建物及びその敷地の鑑定評価は、いずれも比 準価格、積算価格及び収益価格を関連づけて決定するものであり(乙8の1・5 2~53、58~59頁)、他方、貸家及びその敷地につき、建物が敷地の経済 的価値に即応する適正な賃料が徴収されている場合における敷地部分の価格は、 自用の建物及びその敷地の敷地部分の価格と概ね等しいと考えられるから(乙1 8・281頁)、結局、本件3の土地の更地としての鑑定評価額を求め、これに 貸家建付地としての減価(建付地減価)を行い評価額を決定することは、貸家及 びその敷地のうちの敷地部分の評価額を求めることと等しく、評価方法に合理性 がある。 被控訴人鑑定は、依頼条件及び目的の制約がある中で、自己の調査分析能力の 範囲内で価格形成要因を推定した上で、当該専門家の判断(乙8の1・3~5頁) により部分鑑定評価を行うこととし、原則的な評価方式である原価方式、比較方 式及び収益方式の三方式を併用して(同48~49頁)、本件3の土地の更地価 格を算出したものである。 (イ) 被控訴人鑑定において、貸家建付地の減価率を20%と査定したのは合理的 である。 借家権が土地価格に内在する権利として扱われるのは、市街地再開発事業に伴 う借家権の補償と、競売にあたり最低売却価額を決定するときであるところ、従 前大阪近郊で実施された市街地再開発事業で住宅用途地の借家権割合を20% としたものが多く見られたこと、最低売却価格決定の際の評価書において貸家及 びその敷地の敷地部分の評価段階で、借家人による占有減価として10~20% 11 の減価をしたものが見られたことから、F鑑定士は、本件3の土地の建付減価を するに際し、減価率を20%とした。 イ 控訴人の主張する鑑定方法(控訴人各鑑定)が不合理であること (ア) 本件3の土地の鑑定評価にあたり、控訴人主張の収益還元法にこだわる必要 はない。 貸家と貸家建付地が別に売却される場合は、貸家建付地の使用権(借地権)を 定めた上で取引されるのが一般的であるが、本件では控訴人が本件3の土地及び 本件建物を共に買い受けており、土地の評価にあたって、本件建物にかかる借地 権を考慮する必要はなく、本件3の土地の鑑定評価手法を決定するに当たり、借 地権の付着を前提とすべきではない。 不動産鑑定評価基準に規定する実際実質賃料に基づく収益還元法は、あくまで も貸家及びその敷地の価格、つまり貸家とその敷地を一体として全体価格を評価 する場合に標準とされる手法であって、貸家建付地のみの評価が実際実質賃料に 基づく収益還元法のみによらなければならないものではない。 (イ) 土地建物一体の収益価格を求めた後に、土地・建物に案分する方法は不合理 である。 不動産鑑定評価基準は、貸家及びその敷地の評価額は、実際実質賃料に基づく 純収益を還元して得た収益価格を標準として、積算価格及び比準価格を比較考量 して決定するとするから(乙8の1・59頁)、収益価格は、土地建物が一体と して効用をなしている複合不動産たる賃貸物件が将来生み出す利益を基として 算定する価格であり、その価格は本来不可分なものであり、土地と建物に配分す る必要はなく、配分する場合はその基準を何に求めるかが困難である。また、貸 家及びその敷地全体を評価する場合は、貸家自体の収益性が全体の価格を大きく 左右することから(乙18・281頁)、実際実質賃料に基づく収益価格を標準 とした評価を重視するにしても、敷地のみの部分鑑定評価を行う場合は、貸家及 び敷地全体の収益価格を算出し、その内訳価格として評価することに拘る必要は ない。 控訴人各鑑定は、収益価格をもって正常価格とした上で、これを土地・建物の 積算価格比を基に案分するが、かかる方法は合理的でない。収益還元法は土地建 物一体の評価手法であり、収益価格の土地・建物への配分を想定していないし、 一般に鑑定評価においては、積算価格の金額も反映させて、正常価格が決定され るところ、上記鑑定は積算価格等による調整を行わず、収益価格を正常価格とし、 収益価格そのものを積算価格の比率で案分しており、その理論的根拠は見い出し 難い。土地建物一体の収益価格を正常価格とした場合は、収益還元法の限界によ り、貸家建付地の価格が適正に評価されない場合が生ずる。 (ウ) 不動産鑑定評価基準は、原価方式、比較方式及び収益方式を併用すべきとし、 貸家及びその敷地については、収益価格を標準とし、積算価格及び比準価格を比 較考量して決定するとするところ、控訴人鑑定1は収益還元法のみで評価額を算 出し、土地建物一体としての積算価格は、貸家建付地と建物の価格を配分する際 の割合算出に用いられているにすぎず、積算価格、比準価格を参酌していない。 12 収益還元法のみで鑑定評価額を算出するのは一般的でない。TやUは、収益還 元法で算定した鑑定価格に近い金額で多数の不動産を取得したが(甲40・76 ~100頁、甲41・3頁)、両社は不動産投資信託のために不動産を取得・運 営することのみを目的として創られた法人であり(乙29~32)、収益還元価 格を基に相当の分配利回りが確保できると判断した高収益で建付減価のない物 件で譲渡金額の折り合いがついたものを取得しているから、収益還元法で算定し た鑑定価格で取得して売却しているが、不動産鑑定評価基準においても積算価格 及び比準価格を比較考量して決定するとされていること、不動産の取得目的や利 用法は多岐にわたること等からすれば、貸家及びその敷地の取引が収益価格のみ によってされているとはいえない。 現行の不動産鑑定評価基準(平成15年1月1日施行)によれば、鑑定評価に より求める価格は、基本的に正常価格(市場価値を表示する適正な価格)であり、 投資目的や民事再生等による売却を前提とする特定価格とは明確に区別されて いるところ(甲39・14~15頁)、収益価格は、投資家の投資判断要素や不 良債権の処分価格として重視されてきた経緯があり(乙38~40)、特定価格 の算定になじむものであって、収益還元法のみにより算出された価格は正常価格 とは認め難い。 ウ 控訴人各鑑定の評価額が時価として著しく不合理であること (ア) 控訴人鑑定1によれば、本件3の土地及び本件建物の積算価格は3億980 0万円であり、その内訳は土地1億7751万円、建物2億2049万円とされ るところ(甲43・19頁)、実際実質賃料に基づく収益価格は、土地・建物を 合算しても1億7200万円(同16頁)にすぎず、原価法で試算した場合の本 件3の土地のみの評価額にすら及ばず不合理である。本件3の土地の鑑定評価額 7671万円は約8万6000円/㎡であり、当該土地の路線価格23万500 0円(乙23)と比べても不合理である。 かかる不合理は、本件3の土地が無道路地でないにもかかわらず、無道路地と して5%減額をしていることや、後記(イ)ないし(オ)のとおりの実態を無視した 意図的な価格誘導による。なお、破綻したSの鑑定評価額と比較することは不当 である。同事例は、収支の悪化、赤字の常態化から経営破綻し、収益性がゼロと なった物件で、建物の特殊性から取壊費用が極めて高額なため、現状有姿の場合 の鑑定評価額が大幅に減算された特殊な事例である(乙34)。 (イ) 控訴人鑑定1の土地・建物に帰属する純収益の算定方法は適正でない。 賃料収入の計上額が適正でない。控訴人鑑定1(甲43・16頁)は、収益価 格を求める際に本件建物の月額賃料を1室あたり8万5000円としたが、平成 11年10月分(本件売買契約2締結時)の1室当たり平均賃料は、8万971 4円(188万4000円÷21名。甲49、50)であり、同建物がH駅前の 築13年(当時)の物件で、特に収益性が劣る状況もないから、実際の賃料より も不当に低い見積である。また、還元利回りや月額支払賃料等、収益価格算定の 基礎とした数値の根拠資料を明らかにするよう求めた被控訴人の求釈明に対し、 控訴人は、Q鑑定士の釈明書(甲48)と月別家賃等の明細(甲49、50)を 13 提出したが、原資料は賃貸借契約書の写しを一部提出したのみである上(12戸 分・甲60~71)、甲63、65、68、71を除いて控訴人鑑定1・2のレ ントロール(収入金額等一覧表、甲43・13頁、甲57・12頁)の基準時で ある平成11年10月時点を含んでいないため、充分に検証できない。控訴人か ら示された断片的な資料では、各鑑定が基礎とした貸室賃料や年額支払賃料の設 定が適正であったといえない。 費用の計上額も適正でない。控訴人鑑定1の総収益に占める総費用の割合は4 0.5%に上るところ、一般に、賃貸ビルの経費率が概ね20~40%の間に収 まる傾向にあるとされるから(乙33・89頁)、本件建物は収益が相当悪化し た物件ということになるが、このような収益物件において、月額賃料の改定もな しに、高額な維持管理費144万円、運営管理委託料約112万円、大規模修繕 積立金約458万円、テナント募集費用等約93万円を計上することはあり得な い。本件建物につき実際に支払われた費用(乙の確定申告書添付の本件建物以外 の賃貸物件も含む不動産所得用青色申告決算書の平成8年~11年分の修繕費 の1年当たり平均額は203万円、広告宣伝費の平均額は49万円、管理費は0 円である〔乙47〕)に比べて極めて高額な費用を想定して計上したことの合理 的な説明はない。 (ウ) 収益還元法には、収益価格に直接の影響を及ぼす還元利回りを適正に算出す るのが困難であるという問題点が存するところ(乙41)、控訴人鑑定1におけ る還元利回り7%(甲43・16頁)ないし8%(甲47・2頁)の設定は不合 理である。すなわち、控訴人鑑定1は平成19年2月28日に作成されたところ、 相当遡った時点における鑑定を行うに際しては、価格時点に近い時点の鑑定に必 要な要因・資料の収集に相当配慮されるべきであるのに(乙42・4~5頁、乙 43・3~4頁)、これが果たされていない。また、財団法人V研究所作成の全 国賃料統計によれば、価格時点である平成11年当時の大阪圏の共同住宅市場に おける粗利回りは5%であるし、償却前純賃料利回りは3.7%である(乙45・ 21、29頁)。 控訴人鑑定1は還元利回りにつき、当初7%としたものの、被控訴人の指摘を 受けた公租公課額の訂正に伴い8%に変更したが、これは訂正前の同鑑定が公租 公課等を775万円とし(実際は309万0554円)、経費率を一般的な鑑定 評価と比べると高率な57%に設定していたが(甲43・31頁)、公租公課額 の訂正に伴って土地建物に帰属する純収益が約1207万円から約1673万 円に大幅に増加したため、収益価格をより低く抑えるために利回りを引き上げた にすぎない。 (エ) 土地・建物の内訳価格の算定が適正でない。控訴人鑑定1における本件建物 の積算価格には借家権価格や観察減価などの減価要素が盛り込まれておらず、配 分される建物価格が過大であり、敷地部分がより低く抑えられている。 観察減価は、適正な積算価格を算出するために再調達価格から減価額を控除す る修正方法であり、不動産鑑定評価基準は、減価修正として、耐用年数に基づく 方法と観察減価法を原則として併用するものと定めているから(乙8の1・33 14 頁)、控訴人鑑定1が観察減価を行っていないのは不合理である。建物及びその 敷地としての一体減価は、建物と敷地の不適応や地域との経済的不適応がある場 合に行うものであり(乙46・253頁)、本件3の土地及び本件建物にかかる 要素はないから、一体減価を検討せざるを得なくなることを理由に観察減価を行 わないとすることはできない。 (オ) 控訴人鑑定1の土地の積算価格は1億7751万円であるが、収益価格を基 とした評価額はその半分にすぎず、積算価格と収益価格は大きく乖離するが、不 動産鑑定評価基準は、不動産の取引価格の上昇が著しいときはその価格(比準価 格)と収益価格との乖離が増大することを想定しており、比準価格に対して収益 価格を検証手段として用いて正常価格を導出するよう定めるが(乙8の1・36 頁)、平成11年当時の地価は下落しており(乙48、49)、比準価格を重視し た積算価格と収益価格の間に著しい乖離は生じない。控訴人鑑定1にかかる乖離 が生じたのは、前記のように、積算価格や収益価格の算出過程に不合理な点が多 数あるからであって、収益価格のみをもって意図的に低い鑑定評価額を導き出そ うとしたからである。 (カ) 控訴人鑑定2の鑑定価格も、控訴人鑑定1と同様の問題があり、適正でない。 第3 【判示(1)】 1 当裁判所の判断 本案前の争点については、原判決「事実及び理由」第3・1のとおりであるからこれ を引用する。 2 本件各売買契約に基づく本件各土地の譲受けが相続税法7条にいう著しく低い価額 の対価で財産の譲渡を受けた場合に当たるか(争点①) 【判示(2) ・(3)】 原判決「事実及び理由」第3・2のとおりであるからこれを引用する。但し、45頁 25行目「建付地価格」を「建付地減価」に改める。 この点に関する控訴人の当審での補充主張(本件3の土地について)につき、以下検 討する。 (1) ア 本件売買契約2の解除 前記前提事実、証拠(〔以下、書証は枝番を含む。〕甲1、2、4、9、12~3 8、44、51~56、乙2、3、12、13、19~21、27)及び弁論の全 趣旨によれば、本件売買契約2に関して、以下の事実が認められる。 (ア) 戊は控訴人の父、乙は控訴人の母である。乙は本件3の土地(分筆前は別件 土地を含む)及び本件建物を所有していた。 A(株式会社A)は、不動産貸付業務、不動産売買業務、宅地造成・分譲業務、 スーパーマーケットの経営等を目的とする株式会社であり、戊が代表取締役、乙 及び控訴人らが取締役を務めていた(乙12) 。 O株式会社は、不動産貸付業務等を目的とする株式会社であり、乙が代表取締 役、戊が取締役、控訴人が取締役ないし監査役を務めていた(乙13)。 戊及び乙は、多数のスーパーマーケット店舗、賃貸マンション、パチンコ店等 を経営する上記各会社、株式会社W等を経営している(甲20)。 (イ) 戊及び乙は、乙が所有する本件3の土地上に賃貸マンション(本件建物)を 建設することを計画し、昭和58年ころ市に事前協議を申し入れ、市は、開発指 15 導要綱、同施行基準、開発事業に伴う地域施設の整備に関する負担基準に基づく 行政指導により、開発寄附金の負担軽減のために、本件3の土地のうち公共空地 とする土地を市に寄附することを提案し、戊及び乙はこれに応じることとした。 乙は、別件土地を分筆して、昭和60年12月4日付で市に寄附し、昭和61 年1月7日所有権移転登記が経由された(甲23)。 別件土地は、南側において全面的に府道X線に接し、北方において全面的に本 件3の土地に接する長方形の土地であり、現況は、下水道マンホールがある他は 設置物はなく、本件建物からの人や車の出入りが可能であり、一般人も通行可能 である(甲26~28) 。 乙は、昭和61年7月31日、本件3の土地上に本件建物を新築し、同年8月 27日所有権保存登記を経由した(甲24、25)。なお、本件建物の新築にあ たり、本件3の土地が建築基準法上の無道路地として扱われた形跡はない。 (ウ) 控訴人は、乙との間で、平成11年10月30日付で、土地建物を合計1億 8099万9000円(内訳・土地8439万9000円、建物9200万円、 消費税460万円)で買い受ける旨の不動産売買契約書(甲12)を作成した(本 件売買契約2)。売買対象として「物件の表示」欄に、本件3の土地、別件土地、 本件建物が記載されている。なお、土地代金については内訳の記載はない。 控訴人は、同年11月4日、本件3の土地及び本件建物につき、上記売買を原 因とする所有権移転登記手続をした。別件土地については同登記手続は取られな かったが、控訴人がこれに直ちに異議を述べた形跡はない。 控訴人は、本件各売買契約(本件売買契約1~3)の売買代金総計2億817 6万円の支払について、乙のB銀行からの借入金1億0076万1000円を控 訴人において引き受けるほか、乙に対する仮払金1億6017万4275円と相 殺するなどの方法で決済した。 (エ) 乙は、平成12年3月15日、本件各売買契約の譲渡所得を記載した平成1 1年分の所得税の確定申告書を枚方税務署長に提出した。 控訴人は、本件1及び2の土地及び本件建物の賃料収入の不動産所得を記載し た平成12年分以降の各年分の所得税の確定申告書を被控訴人に提出した。 被控訴人は、控訴人について平成11年中に戊からの金銭の無償借入の利息相 当分の経済的利益の受贈が認められたとして、控訴人に対し平成11年分の贈与 税の申告書の提出の慫慂を行い、控訴人は、平成12年7月24日、財産を取得 した日を平成11年12月31日、課税価格を230万5000円、納付すべき 税額を18万0700円とする贈与税の期限後申告書を提出した。被控訴人は、 これに対し、平成12年7月27日付で税額を2万7000円とする無申告加算 税賦課決定処分をした。 (オ) 控訴人は、D鑑定士に本件3の土地及び本件建物の鑑定評価を依頼し(別件 土地は評価対象とされていない。) 、同鑑定士は、評価時点を平成11年9月30 日、評価実施日を平成12年12月12日として、本件3の土地を7547万7 000円、本件建物を8035万円、合計1億5582万7000円と評価して、 同月15日付鑑定書(甲4・原告鑑定2)を作成して、控訴人に交付した。’ 16 同鑑定士は、本件3の土地を南側6m舗装市道に接面していると分析している ところ(甲4・2頁イ、ウ)、その理由につき、別件土地が市に寄附された旨登 記されていたところ、将来市道として登記されるか否かは不明であるが、本件建 物の建設許可の協力金であるため道路幅員は通常の6m市道とし、通行可能なも のとして鑑定評価したと説明する(甲9・21頁)。 (カ) 被控訴人の職員は、平成12年10月ころ、控訴人に対し税務調査を開始し、 その調査結果に基づき、平成14年3月20日、本件各土地の売買価額1億85 16万円に対し本件各土地の取得時の時価が4億3530万円であると認めら れるから、本件各売買契約に基づく本件各土地の取得は相続税法7条に規定する 低額譲受に該当する旨指摘した。 控訴人は、同月29日、乙との間で、本件不動産の名義を乙に戻すとともに本 件各売買契約をなかったものとする旨の覚書(本件覚書)を作成し、平成11年 10月30日から平成13年12月末までの収益、費用及び代金決済を平成14 年3月29日付で処理すること、控訴人が契約している賃貸借契約については速 やかに乙名義に戻すことを約した。 本件覚書に基づき、本件売買契約2にかかる本件3の土地及び本件建物につい て、上記同日付で、錯誤を原因とする控訴人名義の所有権移転登記の抹消登記手 続をした。 控訴人は、上記同日、本件各売買契約に基づく売買代金の支払に代えて引き受 けたB銀行からの借入金を乙に戻すほか、同人に対する仮払金の額を増額するな どの方法により、上記売買代金の返還を受けた。 控訴人と乙は、上記同日、本件覚書に基づき、本件不動産中の賃貸物件(本件 賃貸物件)の賃貸借契約にかかる本件各売買契約の契約締結時から本件覚書締結 時までの間の収益及び費用につき、控訴人が受け取った本件賃貸物件の賃貸借契 約にかかる賃料については、控訴人の乙からの仮受金の額を増額し、控訴人が支 払った租税公課、支払手数料等の費用については、控訴人の乙からの仮受金の額 を減額し又は控訴人の乙に対する仮払金の額を増額して、精算した。 控訴人と乙は、本件賃貸物件にかかる賃借人との賃貸借契約について、上記同 日以降控訴人名義の口座に入金された賃料を乙名義の口座に振り替えるととも に、平成14年10月11日までに、賃貸人を控訴人から乙に変更し、賃借人か らの賃料の払込口座を控訴人から乙に変更した。 被控訴人は、控訴人に対し、同年5月10日付で、控訴人の平成11年分の贈 与税について、課税価格を2億5244万5000円、納付すべき税額を1億6 539万1500円とする更正処分(本件更正処分)をするとともに、税額を2 478万1500円とする無申告加算税賦課決定処分(本件賦課決定処分)をし た。 控訴人は、平成14年7月5日、被控訴人に対し、本件各処分について異議申 立てをしたが、被控訴人は、同年10月3日付でこれを棄却する旨決定をした。 なお、上記異議申立書(甲14)の理由欄に、平成11年10月30日の土地売 買の対象として「交野市 992.73㎡」との記載があり、この面積は本件3 17 の土地・別件土地を合算した面積である(73は93の誤記と思われる。)。 控訴人は、平成14年10月30日、国税不服審判所長に対し、本件各処分に ついて審査請求をしたが、同所長は、平成15年10月21日付で審査請求を棄 却する旨裁決をした。 控訴人は、平成16年1月22日に本件訴訟を提起したところ、原審は平成1 8年3月17日に口頭弁論を終結し、同年11月17日に請求を棄却する旨判決 をした。なお、本件訴訟(原審)の審理において、控訴人が別件土地を乙から売 買で取得した旨の主張立証はなされていない。 (キ) 乙は、平成17年3月3日、市に対して、大阪地裁に別件土地につき真正な 登記名義回復を原因とする所有権移転登記手続等を求める訴訟(別件訴訟)を提 起した(甲15)。なお、乙が、同訴訟の審理において、別件土地につき控訴人 と売買契約を締結した旨を主張立証した形跡はない。 大阪地裁は、平成18年3月24日、戊は府道の拡幅計画があるとの説明まで はなかったと思うとして同計画が存在していたとまで証言していないなど、戊な いし乙において別件土地が府道拡幅に供されることを前提として寄附をしたと は考えられず、その旨の誤信があったと認めることはできないなどと判断して、 請求棄却判決をした(甲30)。 乙は、同年4月7日控訴を提起したが、大阪高裁は、同年11月30日控訴棄 却判決をし(甲35)、同判決は同年12月21日確定した(甲36) 。 (ク) 控訴人は、別件土地の所有権移転登記を受けられなければ、本件売買契約2 を締結することはなかったとして、乙に対し、平成19年2月21日到達の内容 証明郵便により、民法563条2項に基づく同契約解除の意思表示をした(甲3 7、38)。 (ケ) 乙は、平成18年11月21日、大阪府建築都市部建築指導室審査指導課に、 本件3の土地につき建築基準法43条1項の規定による許可にかかる事前協議 を申し入れ、南側の別件土地が道路と合わせて通行の用に供されていること、同 土地が市によって管理されていることから、本件3の土地が同法42条1項1号 に規定される道路に接していると判断されるとの回答を得た(乙21)。 大阪府住宅まちづくり部建築指導室長は、大阪国税局長の照会に対し、平成1 9年3月1日付で、別件土地は市道路管理者により管理されており府道と合わせ て一般の通行の用に供しており、本件3の土地は南側で道路に接していると取り 扱っている旨回答した(乙20)。また、同室は、弁護士法23条による照会に 対し、本件3の土地は府道に接道しているのと同様に取り扱っており、現在の状 況が続く限りは建築基準法42条1項1号規定の道路に接していると判断する 旨回答した(甲51、52)。 交野市長は、弁護士法23条による照会に対し、別件土地は市が管理し、公共 空地として供しているもので、府道が供用されている現時点においては一般の通 行の用に供することを妨げる計画はなく、土地の権利の移転及び管理を移管する 予定はない旨回答した(甲53、54)。 イ 控訴人は、平成11年10月30日付売買契約に本件3の土地及び本件建物のみ 18 ならず別件土地が含まれていたと主張し、甲12~14、37、44にこれに沿う 記載がある。 【判示(4)】 しかし、前記認定事実のとおり、本件3の土地(分筆前は別件土地を含む)及び 本件建物を所有していた乙、及びその夫の戊は、多数の不動産を取得、賃貸、賃借 してスーパーマーケット、賃貸マンション、パチンコ店等を経営する会社を経営し ていたこと、戊及び乙は、本件3の土地上に本件建物を建設するにあたり、市との 事前協議の中で行政指導に基づく開発寄附金の負担軽減のために、別件土地を分筆 した上で市に寄附し、その所有権移転登記まで経由したこと、本件売買契約2の契 約書に対象物件として本件3の土地及び本件建物の他に別件土地が記載されたも のの、本件3の土地及び本件建物については契約後直ちに控訴人に対する所有権移 転登記が経由されたのに、別件土地については経由されず、かつ控訴人がこれを問 題にした形跡がないこと、控訴人は、本件売買契約2にかかる不動産としてD鑑定 士に本件3の土地及び本件建物の鑑定評価を依頼したが、別件土地は評価対象とし なかったこと、控訴人の本件各処分についての異議申立書の理由欄に、本件売買契 約2の対象として「交野市 992.93㎡」との趣旨の記載があり、この面積は 本件3の土地・別件土地を合算した面積であるが、契約書には本件3の土地(40 10-4)、別件土地(4010-14)の双方の地番が記載されていたにもかか わらず、異議申立書には分筆後の本件3の土地の地番のみが記載されたものである こと、本件売買契約2の締結後に提起された別件訴訟において、別件土地が乙の所 有にかかることを前提に控訴人に譲渡された旨の主張立証がなされた形跡がない こと、本件訴訟の原審の審理において、控訴人が別件土地を乙から売買で取得した 旨の主張立証がなされていないこと等の事実に照らせば、前記証拠により控訴人・ 乙間の不動産売買契約の対象に別件土地が含まれていたことを認めることはでき ず、他にこれを認めるに足りる証拠はないから、同契約は売買の目的である権利の 一部が他人に属する場合(民法563条1項)に該当せず、同条2項に基づく解除 をすることはできない。 ウ 仮に、別件土地が同契約の対象に含まれていたとしても、前記認定事実のとおり、 別件土地は市が管理して公共空地として府道と合わせて一般の通行の用に供され ており本件建物からの人や車の出入りも可能であること、乙が平成18年11月に した建築基準法43条1項の規定による許可にかかる事前協議申入れにおいても、 本件3の土地は同法42条1項1号に規定される道路に接していると判断される と回答されたこと、大阪府及び市も同様の認識を有していること、大阪府は上記の 現状が続く限り本件3の土地を道路に接していると判断するとしていること、市は 現時点で別件土地を一般の通行の用に供することを妨げる計画はなく土地の権利 の移転及び管理を移管する予定はないとしていること等が認められ、また、乙が市 に道路を寄附するに至った経緯や現況からすると、市が現況を著しく制限し、本件 3の土地が建築基準法上の道路に接しないような状況を殊更に作出することはお よそ考え難く、かかるおそれを認めさせるに足りる具体的事情もないから、別件土 地の位置及び面積を考慮しても、別件土地が本件売買契約2に含まれていなければ、 本件3の土地及び本件建物の使用、収益に支障が生じるなど、買主が本件3の土地 19 及び本件建物を買い受けなかったであろうとの状況が存在するとは認められず、他 にこれを認めるに足りる証拠はない。 エ したがって、別件土地が本件売買契約2に含まれているとはいえず、仮に含まれ ているとしても、同契約締結に支障となるようなことがあるとはいえないから、民 法563条1項、2項に基づく解除をすることはできず、これを理由に本件各処分 を取り消すことはできない。 (2) ア 本件売買契約2の対価の相当性 前記前提事実、前記(1)、証拠(甲4、9、39~41、43、46~50、5 7、60~76、乙3、6、8、18、22~26、28~33、35~49)及 び弁論の全趣旨によれば、本件3の土地に関して、以下の事実が認められる。 (ア) 本件3の土地及び本件建物の状況(本件売買契約2の締結時) 本件3の土地は、昭和61年7月ころ建築された鉄筋コンクリート造ルーフィ ング葺6階建共同住宅・車庫(賃貸マンション・本件建物)の敷地として利用さ れていたもので、貸家建付地に当たる。 本件建物(P)は、1階部分を車庫とし、2階ないし6階部分を各階3LDK それぞれ5戸ずつ総計25戸として賃貸に供する賃貸共同住宅として使用され ていた。 本件3の土地の近隣地域は、本件3の土地を中心に北80m、南75m、東8 0m及び西90mの範囲内に位置する近隣商業地域であり、市の西部のJR片町 線H駅から東方約180m(道路距離)に位置し、中小規模小売店舗、共同住宅、 戸建住宅、駐車場等が立ち並び、幅員約5mの舗装道路が標準的であり、指定建 蔽率80%、指定容積率300%であり、準防火地域、第3種高度地区の指定が されている。 本件3の土地は、間口約38m、奥行約24mで、面積887.97㎡のほぼ 長方形の土地であり、その南側が舗装道路(府道X線)に接面しているものと取 り扱われる。 平成10、11年の大阪圏の住宅地の地価は下落傾向にあった。 なお、本件売買契約2の対象であった本件建物の売買価格が相続税法7条の低 額譲受に該当するとは扱われなかったことから、控訴人各鑑定、被控訴人鑑定は、 本件3の土地のみの部分鑑定評価を行った。 (イ) 不動産鑑定評価基準(平成2年改正〔乙8の1〕、平成14年改正〔甲39〕) の内容 不動産が土地及び建物等の結合により構成される場合において、その状態を所 与として、不動産の構成部分を鑑定評価の対象とすることを部分鑑定評価という (乙8の1・20頁)。 不動産の鑑定評価により求める価格は、基本的には正常価格であるが、鑑定評 価の依頼目的及び条件に応じて、限定価格、特定価格又は特殊価格を求める場合 がある。正常価格とは、市場性を有する不動産について、現実の社会経済情勢の 下で合理的と考えられる条件を満たす市場で形成されるであろう市場価値を表 示する適正な価格をいう。特定価格とは、市場性を有する不動産について、法令 20 等による社会的要請を背景とする評価目的の下で、正常価格の前提となる諸条件 を満たさない場合(資産の流動化に関する法律又は投資信託及び投資法人に関す る法律に基づく評価目的の下で、投資家に示すための投資採算価値を表す価格を 求める場合とか民事再生法、会社更生法に基づく特定の価格を求める場合等)に おける不動産の経済価値を適正に表示する価格をいう(甲39・14~15頁)。 原価法は、価格時点における対象不動産の再調達原価を求め、これに減価修正 を行って対象不動産の試算価格(積算価格)を求める手法である。減価修正の方 法は、耐用年数に基づく方法と、観察減価法(対象不動産の維持管理の状態、補 修の状況等その実態を調査することにより減価額を直接求める方法)があり、原 則として併用する(乙8の1・29、33、34頁)。 取引事例比較法は、取引事例を収集して適切な事例の選択を行い、これにかか る取引価格に必要に応じて事情補正及び時点修正を行い、かつ地域要因の比較及 び個別的要因の比較を行って求めた価格を比較考量し、これによって対象不動産 の試算価格(比準価格)を求める手法である(乙8の1・33頁)。 収益還元法(直接還元法)は、不動産が将来生み出すであろうと期待される純 収益の原価の総和を求めるものであり、純収益を還元利回りで還元して対象不動 産の試算価格(収益価格)を求める手法である。賃貸用不動産又は一般企業用不 動産の価格を求める場合に特に有効である。市場における土地の取引価格の上昇 が著しいときは、その価格と収益価格との乖離が増大するので、先走りがちな取 引価格に対する有力な検証手段として、この手法が活用されるべきである。還元 利回りは、最も一般的と思われる投資の利回りを標準とし、その投資対象との関 連において有する当該不動産の個別性(投資対象としての危険性、流動性、管理 の困難性、資産としての安全性等)を総合的に比較考量して求める(乙8の1・ 36、38頁)。 更地の鑑定評価額は、更地並びに自用の建物及びその敷地の取引事例に基づく 比準価格並びに土地残余法による収益価格を関連づけて決定する。再調達原価が 把握できる場合は、積算価格をも関連づけて決定すべきである(乙8の1・52 頁)。 土地残余法とは、不動産が敷地と建物その他の償却資産との結合により構成さ れている場合において、収益還元法以外の手法によって敷地と建物その他の償却 資産のいずれか一方の価格を求めることができるときに、当該不動産に基づく純 収益から建物その他の償却資産又は敷地に帰属する純収益を控除した残余の純 収益を還元利回りで還元する方法である(乙8の1・39頁)。 建付地は、建物等と結合して有機的にその効用を発揮しているため、建物等と 密接な関連を持つものであり、建付地の鑑定評価は、建物等と一体として継続使 用することが合理的である場合において、その敷地について部分鑑定評価するも のである。建付地の鑑定評価額は、原則として更地としての鑑定評価額を限度と し、配分法に基づく比準価格及び土地残余法による収益価格を関連づけて決定す るものとする。この場合において、当該建付地の更地としての最有効使用との格 差、更地化の難易の程度等敷地と建物等との関連性を考慮すべきである(乙8の 21 1・53頁) 。 底地の価格は、借地権の付着している宅地について、借地権の価格との相互関 連において賃貸人に帰属する経済的利益を貨幣額で表示したものである。底地の 鑑定評価額は、実際支払賃料に基づく純収益を還元して得た収益価格及び比準価 格を関連づけて決定する(乙8の1・56頁) 。 貸家及びその敷地の鑑定評価額は、実際実質賃料(売主が既に受領した一時金 のうち売買等に当たって買主に承継されない部分がある場合には、当該部分の運 用益及び償却額を含まない)に基づく純収益を還元して得た収益価格を標準とし、 積算価格及び比準価格を比較考量して決定する(乙8の1・59頁) 。 (ウ) 評価通達26(貸家建付地の評価)の内容 貸家(評価通達94の借家権の目的となっている家屋)の敷地の用に供されて いる宅地(貸家建付地)の価額は、その宅地の自用地としての価額から、その宅 地の自用地としての価額に評価通達27(借地権の評価)の定めによるその宅地 にかかる借地権割合(本件3の土地については50%)と評価通達94(借家権 の評価)に定める借家権割合(本件3の土地については40%)と賃貸割合(そ の貸家にかかる各独立部分〔構造上区分された数個の部分の各部分〕がある場合 にその各独立部分の賃貸の状況に基づいて、当該家屋の各独立部分の床面積の合 計のうち課税時期において賃貸されている各独立部分の床面積の合計を当該家 屋の各独立部分の床面積の合計で除して計算した割合)の相乗積を乗じて計算し た価額を控除した価額によって評価する。 (エ) 収益還元法に関連する知見等 修繕費の計上については、従来は建物等の用途、構造、品等を考慮して建物建 築費(再調達原価)の1%とされていたが、この比率は高いとの見解もある。家 賃の水準に応じて修繕を行う実態があることに鑑み、修繕費の賃料に対する割合 を求めると、三大圏の堅固住宅施設については6%(建築費1%相当額の賃料に 対する比率は8%)となる(乙25)。 賃貸ビルの経費率は概ね20~40%の間に収まる傾向にある(乙33)。 不動産投資信託のために不動産を取得・運営することを目的として設立された 法人であるT及びU(乙29~32)は、収益還元法による鑑定価格に近い価額 で多数の不動産を取得していた(甲40・76~100頁、甲41・3頁)。 収益を還元する利回りの設定が間違っていると、評価額は非常に大きく変わっ てしまうおそれがあり、利回りデータが十分に蓄積・公開されておらず、その分 析・検討も十分にされていないため、収益還元法の適用にはなお多くの課題があ る(乙41・46~47頁)。 国土交通省・不動産鑑定評価基準運用上の留意事項によれば、還元利回りは、 市場の実勢を反映した利回りとして求める必要があり、還元対象となる純収益の 変動予想を含むから、それらの予想を的確に行い、還元利回りに反映させる必要 があり、これを求める方法を例示すると、類似の不動産の取引事例との比較から 求める方法、借入金と自己資金にかかる還元利回りから求める方法、土地と建物 等にかかる還元利回りから求める方法、割引率との関係から求める方法、借入金 22 償還余裕率の活用による方法がある(乙42・15~16頁)。 財団法人V研究所(乙44)作成の全国賃料統計(平成11年9月末現在)に よれば、同年当時の大阪圏の共同住宅市場における粗利回りは5%、償却前純賃 料利回りは3.7%である(乙45・21、29頁)。 (オ) 部分評価に関係する知見等 建付地とは、①現に建物等の用に供されている宅地であること、②建物等の所 有権と敷地の所有者が同一人でその所有者により使用されていること、③当該敷 地に賃借権等の使用収益を制限する権利の付着していないことを要件とする。② を満たさない場合、すなわち貸家及びその敷地の敷地部分(貸家建付地)につい ては、不動産鑑定評価基準に特に規定はないが、実務上鑑定評価を求められる場 合がある(乙28・246~247頁)。 (カ) 本件建物の賃料収入及び経費額に関する客観的状況 控訴人が提出した平成10年1月から平成11年12月までの本件建物の家 賃等の一覧表(甲49、50)によれば、平成11年10月分(本件売買契約2 締結時)の1室当たり平均賃料は8万9714円(188万4000円÷21室) であり、空室率は16%(4/25室)である。なお、かかる賃料額の裏付けと しての賃貸借契約書は、4室分しか提出されていない(甲63、65、68、7 1)。但し、本件建物の室料を増額する際には、賃借人に増額請求書を送付し、 増額後の賃料の振込を確認すれば、あえて増額の覚書等を交わすなどはされてい なかった(甲72、73)。 乙の確定申告書添付の本件建物以外の賃貸物件も含む不動産所得用青色申告 決算書の平成8年~11年分の各費目の1年当たり平均額は、賃貸料1億450 5万8072円、雑収入1446万7674円、租税公課1382万7573円、 損害保険料154万7625円、修繕費203万2818円、広告宣伝費48万 5237円等であり、管理費は計上されていない(乙47)。 (キ) 原告鑑定2(甲4)の内容 対象地の更地価格の決定において、収益価格につき幅員5mの市道沿いの標準 画地の純収益を8202円/㎡とし、還元利回り4.5%として、更地収益価格 を18万2000円/㎡と算定する。そして、比準価格は26万5000円/㎡、 地価公示価格による価格は23万7000円/㎡とし、これらを勘案して更地の 標準価格を25万5000円/㎡とした上で、規模大減価20%、市場性減価1 6%、相乗積減価34%の補正をして更地価格を16万8000円/㎡とし、3 0%の建付減価をして、対象地の建付地価格を11万8000円/㎡とする(1 億0478万円)。 本件建物の再調達原価を18万2000円/㎡とし、耐用年数に基づく方法と 観察減価法を併用して物理的、機能的、経済的要因による減価率を30%として、 建物の積算価格を1億3375万4000円と決定する(土地建物合計2億38 53万4000円)。 控除方式による価格として、上記建付地価格11万8000円から借家権割合 28%を控除して、貸家建付地価格を8万5000円/㎡(7547万7000 23 円)と算定し、上記建物積算価格から借家権割合40%を控除して建物価格を8 035万円と算定する(合計1億5582万7000円) 。 貸家及びその敷地の収益価格につき、総収益を2724万0669円(年額支 払賃料2340万円〔月額賃料195万円〕等)、総費用を1264万6053 円(減価償却費743万0787円、修繕費123万6033円、維持管理費8 1万7220円、損害保険料22万2924円、公租公課293万9089円) と算定し、土地建物の純収益1459万4616円を還元利回り9.5%で還元 して、土地建物の収益価格を1億5362万8000円と決定する。 控除方式による価格と収益価格の差は極めて少ないところ、賃料等を再吟味す ると収益価格は採用する総合還元利回りによって差が生ずるため、控除方式によ る価格7547万7000円をもって対象地の鑑定評価とする。 イ 上記認定事実を基に、以下検討する。 (ア) 本件3の土地の鑑定評価方法について 本件3の土地は、賃貸マンションである本件建物の敷地として貸家建付地に該 当し、本件建物の売買価格は相続税法7条の低額譲受に該当するとは扱われなか ったことから、控訴人各鑑定、被控訴人鑑定は、本件3の土地のみの部分鑑定評 価を行ったものである。 不動産鑑定評価基準上は、貸家及びその敷地のうち、敷地(貸家建付地)のみ の部分鑑定評価の方法につき規定していない。同基準上は、建付地(自己所有建 物の敷地)については、建物等と結合して有機的にその効用を発揮しているため 建物等と密接な関連を持つものであり、建付地の鑑定評価は、建物等と一体とし て継続使用することが合理的である場合において、その敷地について部分鑑定評 価するものであり、建付地の鑑定評価額は、原則として更地としての鑑定評価額 を限度とし、配分法に基づく比準価格及び土地残余法による収益価格を関連づけ て決定するものとし、当該建付地の更地としての最有効使用との格差、更地化の 難易の程度等敷地と建物等との関連性を考慮すべきとされる。また、貸家及びそ の敷地の鑑定評価額は、実際実質賃料に基づく純収益を還元して得た収益価格を 標準とし、積算価格及び比準価格を比較考量して決定するとされる。 さらに、評価通達上は、貸家建付地の価額は、宅地の自用地としての価額から、 宅地の自用地としての価額に借地権割合(本件3の土地については50%)と借 家権割合(本件3の土地については40%)と賃貸割合の相乗積を乗じて計算し た価額を控除した価額によって評価することとされている。 以上によれば、本件3の土地の鑑定評価方法につき、被控訴人鑑定が拠った方 法(不動産鑑定評価基準上の建付地の評価を求める方法により、対象地の更地価 格を求め、これに貸家建付地としての減価を考慮して評価額を決定する方法)と、 控訴人各鑑定が拠った方法(同基準上の貸家及びその敷地全体としての評価額を 求める方法により、土地に配分されるべき内訳価格を求める方法)のいずれかが 優先すると直ちに決することはできず、いずれの方法によるかは不動産鑑定士と しての専門的知見に基づく裁量の範囲内というのが相当であって、いずれの鑑定 評価額を採用すべきかは、双方の鑑定が拠った方法に基づく評価手順を具体的に 24 検討していずれが自らが採用した方法に準拠したもので客観的に信用性が高い ものであるかを決するのが相当であるといえる。以下各鑑定の評価手順を検討す る。 (イ) a 控訴人鑑定1について 控訴人鑑定1(甲43)の内容 対象地は、近隣地域においては元本と果実の相関関係が希薄になっている感 があるため賃貸マンションより分譲マンションの敷地が最有効利用であると ころ、対象地上の本件建物は空室率16%で、維持管理の状態が劣り、価格時 点後の修繕費も大きくなることが予想され、貸家及びその敷地としての市場競 争力はやや劣ると判断され、収益性に難を有する賃貸マンションであるが、現 況借家人付きであり、未だ経済的残存耐用年数も有ることに鑑みれば、現況の まま賃貸マンションとして継続することが最有効利用である。 対象地は貸家建付地であり、貸家建付地はあくまでも土地建物一体としての 売買が行われる際にその構成部分として売買対象になるにすぎず、買主が着目 するのは一体としての収益性であり、更地としての土地価格や建物の現存価値 等は次位的な視点となることからすれば、貸家及びその敷地としての評価額を 求め、この価格のうち土地に配分されるべき内訳価格を求めるとの手順を踏む ことが妥当である。なお、取引事例比較法の適用については、規範性を有する 取引事例の収集が困難であったため割愛する。貸家及びその敷地の価格を土 地・建物に配分するにあたっては、不動産鑑定業界、会計業界等において最も 一般的な方法である積算価格での土地・建物の構成比を採用することが現実の 不動産市場の実態を反映するものとして妥当である。 標準画地価格の比準価格を25万5000円/㎡とし、対象地の画地規模が 大きいことから10%、対象地が建築基準法上の無道路地であることから5% の減価をして(対象個性率85.5/100)、標準画地からのアプローチ価 格を21万8000円/㎡とし、また、開発適地の事例に基づく比準価格を2 0万円/㎡、開発法による価格を19万4000円/㎡とし、対象地の更地価 格を20万円/㎡(1億7759万円)とする。また、本件建物の再調達原価 を17万円/㎡(4億1645万円)とする。そして、土地につき減価せず、 建物につき耐用年数に基づく方法で1億9616万円を減価し、観察減価をせ ず、土地建物一体としての減価をせず、土地建物一体としての積算価格を3億 9800万円とする(土地の積算価格比44.6%、建物の積算価格比55. 4%を乗じて土地の積算価格を1億7751万円、建物の積算価格を2億20 49万円とする。)。 収益還元法につき、土地建物の総収益を2809万9620円(貸室賃料収 入年額2295万5000円〔1室当たり8万5000円、空室率10%〕等)、 総費用を1602万8160円(維持管理費144万円〔月額12万円〕、運 営管理委託料112万3985円〔総収益の4%〕、公租公課775万円、損 害保険料20万8225円〔再調達原価の0.05%〕、大規模修繕費年間積 立額458万0950円〔再調達原価の1.1%〕、テナント募集費用等92 25 万5000円〔年間20%のテナント入れ替わりを想定〕)と算定し、残余の 純収益1207万1460円を還元利回り7%で還元して、土地建物の収益価 格を1億7200万円とする。 貸家及びその敷地の積算価格と収益価格の間の相当の格差は、近隣地域が元 本と果実の相関関係が希薄になっている地域であること、積算価格の査定にお いてコストアプローチに徹した立場を取ることから対象不動産の賃貸借状 況・不動産売買市場における評価等が反映されていないことに起因するもので あるところ、収益価格こそが本件の価格形成過程を忠実に反映した規範性の高 い価格であるから、収益価格をもって土地建物の評価額(正常価格)とし、土 地・建物の構成価格比を乗じて、対象地の鑑定評価額を7671万円とする。 鑑定士は、還元利回りの設定は、価格時点における市場実態に鑑み、精通者 (鑑定実務者、公認会計士兼不動産鑑定士)からの聴取により市場全体の粗利 回り状況を把握し、価格時点付近に業務として評価を行った物件における還元 利回り等も斟酌の上で行ったとする(甲48、74、76)。 b 甲47による訂正 実際の公租公課は309万0554円(乙24参照)であるとの被控訴人か らの指摘を受けた後、公租公課額が判明したとしてこれを訂正し(土地建物の 総費用は1136万8714円で控除後の残余の純収益は1673万090 6円)、還元利回り7%では粗利が過度に低くなることから8%に変更すると し(土地建物の収益価格は2億0900万円)、土地建物の積算価格比を乗じ て、対象地の鑑定評価額を9321万円に変更する。 c 【判示(5)】 検討 不動産鑑定評価基準は、貸家及びその敷地の鑑定評価額は、実際実質賃料に 基づく純収益を還元して得た収益価格を標準とし、積算価格及び比準価格を比 較考量して決定するとするところ、控訴人鑑定1は、取引事例比較法は取引事 例の収集が困難であったとして採用せず、また、収益価格をもって鑑定評価額 としたものであり、収益価格と積算価格の乖離が約2倍もあったにもかかわら ず、積算価格は結局のところ収益価格の土地・建物への個別の配分比率を定め るについてのみ参考とされたにすぎず、積算価格・比準価格を比較考量して鑑 定評価額を決したと言い難く、自らが採用した評価方法に正確に準拠したもの と直ちには言えない。この点、控訴人は、近時は取引事例比較法を適用しない のが実務上一般的であると主張するが、不動産鑑定評価基準の記載に照らして も、これを直ちに認めるに足りない。また、控訴人は、収益価格と積算価格の 間に相当の格差がある理由を検討した上で収益価格をもって評価額としたか ら積算価格を参酌したと主張するが、上記の疑問を覆すものではない。不動産 投資信託のために不動産を取得・運営することを目的として設立された法人が 収益還元法で算定した鑑定価格に近い金額で不動産を取得した事例があるに しても、本件3の土地の売買当事者である控訴人と乙の身分関係や実際の現金 の動きがほとんどない代金の決済方法、本件売買契約2の売買代金の設定にお いて本件建物の賃料額や経費額が考慮されたかが明らかでないこと等に照ら 26 せば、同契約において収益価格のみを基に売買代金を決定したとは認め難いし、 控訴人提出の原告鑑定2においてすら、収益価格は採用する還元利回りによっ て差が生ずるため控除方式による価格をもって対象地の鑑定評価とするとさ れたこと等に照らしても、本件3の土地が収益物件である本件建物の敷地であ るからといって、その鑑定評価額を収益価格に一致させるのが相当であるとは いえない。 また、国土交通省・不動産鑑定評価基準運用上の留意事項によれば、還元利 回りは市場の実勢を反映した利回りとして求める必要があり、還元対象となる 純収益の変動予想を含むから、それらの予想を的確に行い還元利回りに反映さ せる必要があり、これを求める方法には類似の不動産の取引事例との比較から 求める方法等があるとするところ、Q鑑定士は、精通者からの聴取により市場 全体の粗利回り状況を把握し、価格時点付近に業務として評価を行った物件に おける還元利回り等も斟酌の上で還元利回りを設定したとするが、その聴取や 同鑑定人が評価を行った他の物件の状況及び還元利回りの具体的内容は明ら かでないこと、財団法人V研究所の全国賃料統計によれば平成11年当時の大 阪圏の共同住宅市場における粗利回りは5%とされ、算出手法にもよるが還元 利回りは粗利回りより低いことがあること、実際の公租公課が鑑定書で計上し た額の半額以下であるとの被控訴人の指摘を受けて鑑定評価額を再計算する に際して、還元利回りを7%から8%に変更し、その理由を粗利が過度に低く なるからと説明するが、還元利回りを増やすと土地の鑑定評価額は減ることか らすると了解可能な説明とは言い難く、公租公課(賃貸経費)の減額に伴い鑑 定評価額が増えることを避けるため、還元利回りを増やしたとの疑問を払拭で きない。 そして、収益価格の算定にあたり、控訴人鑑定1は、賃料を1室あたり8万 5000円、維持管理費144万円、運営管理委託料112万3985円、大 規模修繕費年間積立額458万0950円(再調達原価の1.1%)等とした が、控訴人が提出した本件建物の家賃一覧表によれば平成11年10月分の1 室当たり平均賃料は約9万円であること、同月分の賃料額の記載のある賃貸借 契約書は4室分しか提出されていないこと、修繕費を建物建築費(再調達原価) の1%とするのは高いとの専門家の見解があること、本件建物の他にも賃貸物 件を所有していた乙の不動産所得用青色申告決算書の平成8年~11年分の 1年当たり費目毎平均額は、修繕費が203万2818円、広告宣伝費が48 万5237円等であり、管理委託料等は計上されていないこと等からすれば、 賃貸経費を過大に算出した疑問を払拭できない。 さらに、積算価格を求めるに際しての減価につき、控訴人鑑定1は、本件3 の土地につき無道路地減価を行い、また、本件建物につき観察減価法を適用し ていないが、前記(1)の認定・説示に照らせば、本件建物が建築基準法上の道 路に接していないものとして減価するのは相当でないこと、不動産鑑定評価基 準上、原価法の建物減価修正の方法は、耐用年数に基づく方法と観察減価法を 原則として併用するとされること等からすれば、土地につき不適切な減価を行 27 い、建物につき適切な減価を行わなかったと評価すべきである。 (ウ) a 控訴人鑑定2について 控訴人鑑定2(甲57)の内容 対象地の最有効利用は現行用途(賃貸マンションの敷地)であり、取引事例 による比準価格を22万9000円/㎡、開発法による価格を21万7000 円/㎡として、公示価格(公示地 )を勘案して、対象地の更地価格 を22万5000円/㎡(1億9979万円)とし、建付減価10%をして、 土地の積算価格を1億7981万円(構成比45.8%)とする。また、本件 建物の再調達原価を17万円/㎡(4億1645万円)、建物につき耐用年数 に基づく方法と観察減価法(10%)を併用して、土地建物一体としての減価 は行わず、建物の積算価格を2億1239万円(構成比54.2%)とする。 収益還元法につき、土地建物の総収益を3181万5986円(貸室賃料収 入年額2668万8000円〔1室当たり8万5000円〕等)、総費用を1 363万1694円(修繕費95万4480円〔総収益の3%〕、維持管理費 133万4400円〔年額支払賃料の5%〕、公租公課309万0554円、 損害保険料20万8225円〔再調達原価の0.05%〕、空室等による損失 相当額346万3085円〔空室率12%〕、大規模修繕費年間積立額458 万0950円〔再調達原価×1.1%〕)と算定し、残余の純収益1818万 4292円を還元利回り9%で還元して、土地建物の収益価格を2億0205 万円とする。なお、還元利回りの査定につき、対象不動産の属する地域の地域 性、対象地上建物の個別性を考慮し、価格時点以降の不動産賃貸借市場の動向 等も勘案して9%と査定したとする。 収益は実額をベースに求めたものであり、費用も実額あるいは実証的データ により査定したものであり、還元利回りも対象地及び地上建物の地域性・個別 性を考慮し、賃料水準の下落傾向など不動産賃貸市場の動向を初めとする市場 の実勢を反映させたものであって、収益価格の信頼性は高く、また、対象地上 建物は現に賃借人が入居する賃貸マンション(収益物件)であり、当該貸家及 びその敷地にかかる市場参加者はその収益性に着目するのが一般的であり、対 象地上建物にかかる賃料徴収権を中心として価格が形成されるから、収益価格 をもって土地建物の評価額(正常価格)とし、土地・建物の構成価格比を乗じ て、対象地の鑑定評価額を9254万円とする。 b 検討 【判示(6)】 控訴人鑑定2は、控訴人鑑定1と異なり、土地につき取引事例比較を行い、 無道路地減価をせず、建物につき観察減価法を併用した点で妥当であるが、他 方、積算価格は収益価格の土地・建物への個別の配分比率を定めるについての み参考とされたにすぎない点、還元利回りの具体的設定方法が必ずしも明らか でない点で同鑑定と同旨の疑問が残る。 (エ) a 被控訴人鑑定について 被控訴人鑑定(乙6)の内容 対象地は、敷地全体を中層共同住宅地として利用することが最有効使用であ 28 る。 対象地の評価は、貸家及びその敷地の敷地部分(貸家建付地)の評価を求め るものであるところ、まず対象地の更地価格を求め、これに貸家建付地として の減価を考慮して評価額を決定する方法に拠ることとする。近隣地域の標準的 使用は舗装道路沿いで1画地の規模が170㎡程度の中層共同住宅の敷地で あり、標準的使用の敷地の標準価格を取引事例比較法を適用して求めた価格 (24万6000円~31万2000円/㎡)、公示価格(公示地の土地)を 規準とした価格(26万7000円/㎡)及び収益還元法を適用して求めた価 格(18万6000円/㎡)を比較検討し、取引の実態を反映する取引事例比 較法を適用して求めた価格を重視し、公示価格を規準とした価格を比較考量し、 収益還元法を適用して求めた価格を参酌して、27万5000円/㎡と査定し た上、対象地が規模大であることによる減価率を5%とし、対象地にかかる個 別的要因による格差修正率を95%と査定して、対象地の更地価格を26万1 000円/㎡とし、土地面積を乗じた2億3200万円と査定し、その上で、 貸家建付地の減価率を20%と査定し、建付地価格を1億8600万円と試算 し、当該価格をもって本件3の土地の鑑定評価額と決定する。 なお、被控訴人鑑定は、収益価格につき、対象地が更地であるものとして、 最有効使用の賃貸用建物の建設を想定して総収益を4085万6369円(年 額支払賃料3671万7000円〔月額賃料305万9750円〕等)、総費 用を1027万3532円(修繕費245万1382円、維持管理費110万 1510円、公租公課371万8992円、損害保険料36万5925円、空 室等による損失相当額226万9798円、建物等の取壊費用の積立金36万 5925円)と算定し、土地及び建物の純収益3058万2837円から、建 物に帰属する部分を控除した残余の純収益742万0236円を還元利回り 4.5%で還元して、対象地の上記の収益価格(18万6000円/㎡)を求 めたものである。 b 【判示(7)】 検討 被控訴人鑑定は、対象地の更地価格を求めるに当たり、比準価格、公示価格、 収益価格を参酌したもので、収益価格を求めるに当たっては土地残余法により、 賃貸経費は更地化に際しての費用も考慮したもので、その額も乙の不動産所得 用青色申告決算書上の1年当たり費目毎平均額と比べて特に過大とも過小と もいえないものである。また、更地価格からの貸家建付地減価率20%は、評 価通達上の減価率と一致するなど適切なものといえるものである。この点、控 【判示(8)】 訴人は、被控訴人鑑定は、個々の物件の特性等を十分に勘案していない評価通 達が定める方法に準拠したものである上、同鑑定が参酌したとする収益還元法 は、更地価格を算定するための収益還元法であり、現に存在する建物を前提と して計算されたものではなく、本件建物の撤去費用や賃借人の立退費用等、更 地化に伴う減額要因を何ら考慮していないなどと主張するが、同鑑定は、上記 のとおりの評価手順に拠ったもので単に評価通達に依拠したといえるもので はないし、その収益還元法の適用は、土地残余法により収益価格を算出したも 29 ので不動産鑑定評価基準に拠ったものとして妥当でないとはいえず、空室等に よる損失相当額や建物等の取壊費用積立金を経費として考慮した上で算出し たものであるから、更地化に伴う減額要因を何ら考慮していないといえるもの でもないなど、その主張はいずれも直ちには採用できない。 (オ) したがって、控訴人各鑑定、被控訴人鑑定を比較検討すると、被控訴人鑑定 が自らが採用した方法に準拠したもので客観的に信用性が高いものであるとい える。仮に、本件3の土地の部分鑑定評価の手法として控訴人各鑑定が採用した 方法が方法論としてより適切というべきものであるとしても、かかる方法に拠っ た評価手順には前記のとおり不適切な点があるものである。 よって、被控訴人鑑定の評価額1億8600万円をもって、本件売買契約2締 結当時の本件3の土地の時価と認めるのが相当である。 ウ 以上によれば、本件売買契約2における土地代金8439万9000円は、上記 時価の半分にも満たないから、同契約に基づく本件3の土地の譲受は相続税法7条 の「著しく低い価額の対価で財産の譲渡を受けた場合」に該当するというべきであ る。 3 本件各売買契約が錯誤により無効であるから贈与により財産を取得した場合に当た らないということができるか(争点②) 【判示(9)】 原判決「事実及び理由」第3・3のとおりであるからこれを引用する。 4 本件各売買契約が合意解除されたことを理由に贈与により財産を取得した場合に当 たらないということができるか(争点③) 【判示(10)】 原判決「事実及び理由」第3・4のとおりであるからこれを引用する。 第4 結論 その他、当事者提出の各準備書面記載の主張に照らして全証拠を改めて精査しても、以 上の認定、判断を覆すほどのものはない。 よって、主文のとおり判決する。 (当審口頭弁論終結日 平成20年1月23日) 大阪高等裁判所第8民事部 裁判長裁判官 若林 諒 裁判官 小野 洋一 裁判官 菊地 浩明 30