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2004年8月号 - 鹿児島大学法文学部

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2004年8月号 - 鹿児島大学法文学部
ISSN-1348-8872
二1M≦!i§/|;
沮研究調査レビュー
島喚社会の持続的発展のために
奄美地域市町村の地方交付税の推移
アリモドキゾウムシの根絶に向けて
皆村武一著「戦後奄美経済社会論」を体験的に読む
書評:環境問題と地域の自立的発展神田嘉延編著高文堂出版社
祖島喚スケッチ
沖縄にて奄美を考えたこと
奄美ニユーズレター鹿児島大学2004年8月
N0.9
}
研究者の開発プロジェクトと『奄美ニューズレター」
「島喚圏開発のグランドデザイン」プロジェクト代表
山田誠
私たちは,新しい島蝋開発の方式を作りだす目的で研究プロジェクトを組織した。このプロ
ジェクトは,進め方もこれまでの学術研究にはないスタイルをとる。「奄美ニューズレター」は
そのスタイルの特徴を集約的に表現している。
学術組織の研究者が新開発方式を具体的に提示できるまでには解決すべき難問が山積みされ
ている。実際の開発方式は,総合的でいくつもの要因と多様な関係者がぶつかり合うプロセス
を経て生み出される。自己を専門領域に閉じ込めることで業績を築いてきた研究者たちは,こ
こで,複雑に絡み合った未整理の「生きた現実」と出合う。今までとは違った対象を前に,お
互いにかなり異質な発想をする集団が,どうやって新方式創出の成功にたどり着くかは,まっ
たく雲をつかむような話である。何よりも,このプロジェクトにあっては,少なくとも各々の
研究者がプロジェクト対象の広がりと研究の進展具合を絶えずインプットして,自己の位置を
確認する作業が研究の一部として欠かせないのは確かである。とはいえ,己の知的関心を追い
求める研究者が自主的に結成した集団において,この作業を遂行するのはきわめて困難といえ
る。当プロジェクトの場合,参加メンバーが順次,「奄美ニューズレター」に登場することで,
この難点を克服できている。
次ぎに,開発方式という課題の性格に即してみれば,専門分化し,分析的手法に特化してい
る学術研究は,この種のテーマと相性が悪い。というのも,提示される開発方式は,実際の事
業の成否でもって評価を受ける。事例的な事業プランは,高いリスクが伴う市場テストまでの
長い過程を経て評価に値する事業となる。その際,現場で事業化のプロセスを中心的に担うの
は研究者ではなく,地域の人々である。奄美群島のケースでは,地元に大掛かりな学術研究機
関が立地しておらず,研究者集団と地元の人々の間には越えがたい「距離」が横たわっている。
専門情報の不足と実践上でのリスクに対処する知識の欠如という性格の異なる壁が,事業化に
とって双方の障害となっている。この点に関しては,島蝋の側から実践に伴うリスク情報が提
供され,専門的な関連情報とともに編集された本誌が,参加研究者と地域の人々の間に広く浸
透するならば,事業化局面の行く手をさえぎる2つの壁は,大きく突き崩されるはずである。
私たちの意図が達成される保証はどこにもない。だが,出版事業にまったく素人の研究者た
ちが月刊の研究雑誌を刊行するという無謀な企画の背後には,こうした意図が込められている。
発刊された「奄美ニューズレター」は,この間にあれこれの失敗を経験しながら,使命にふさ
わしい内容を盛り込んだ情報誌に成長しつつあると自負している。研究メンバーおよび地域の
方々の積極的な投稿を得て,鹿児島大学と奄美群島の発展に関心抱く方々の間の架け橋になる
新しいタイプの情報誌として広く認められる日が近いことを夢見ている。
奄美ニューズレター
N0.92004年8月号
目次
■研究調査レビュー
島蝋社会の持続的発展のために
皆村武一(鹿児島大学法文学部)
1
奄美地域市町村の地方交付税の推移
朴源(鹿児島大学法文学部)
7
アリモドキゾウムシの根絶に向けて
津田勝男(鹿児島大学農学部)
-13
皆村武一箸「戦後奄美経済社会論』を体験的に読む
前利潔(知名町役場)
17
書評:環境問題と地域の自立的発展
神田嘉延編著高文堂出版社
高橋正弘(財団法人地球環境戦略研究機関)21
■島唄スケッチ
沖縄にて奄美を考えたこと
花井,恒三(奄美群島広域事務組合・
奄美群島観光連盟事務局長)
23
■ち一びし
中村直子「種子島小浜遺跡発掘調査報告」をめぐって
第8回研究会報告(山本)
2S
奄美ニューズレター
NO92004年8月号
■研究調査レビュー
島蝋社会の持続的発展のために
皆村武一(鹿児島大学法文学部)
はじめに
富(生物種,森林,海洋資源,淡水資源)が
地球全体で,土壌劣化と汚染が急速に進ん
30%以上消失したとしている。その消失を
でいる。アフリカや中国で砂漠化が進み,東
金額に換算すると,年間約1兆ドル(約120兆
南アジアで熱帯雨林が消滅しつつある。中南
円)にも及ぶという3)。
米でも土地が侵食され,地域住民の生活が貧
英国エセックス大学のジュレス・プリテイ
しくなっている。世界の陸地の4分の1で砂
教授の研究チームが1996年に見積もった英
漠化が進行しつつある。この面積は日本の国
国の近代化農業がもたらす環境コストについ
士の百倍にあたり9億人が影響を受ける')。
て計算をしている。彼らは,近代化農業が環
地球の陸地面積は,約130億ha(内陸の河川
境とヒトの健康にもたらすコストを計算でき
や湖沼の面積をのぞく)。このうち約90億ha
る限り取り上げて,貨幣価値での見積もりを
が農地,草地,森林などの植物生育面積(F
行った。それによると,英国における近代農
AO1994年統計)。水産物を除く人類の食糧
業によって生じる社会的コストは控えめに見
はここから得られる。土壌劣化の重要な原因
積もって,年間23億4000万ポンド(1ポンド
は,畑の過剰耕作,樹木の過剰伐採,家畜の
=196円で計算すると,4586億円)であると
過剰放牧,農業活動にある。発展途上国では
した。これは英国の全農家の所得を上回るも
人口増加による土地の過剰使用および商品経
のであった。そのほかに,貨幣に換算できな
済の進展によるものであり,先進国では生産
い損失もかなりあるという。哺乳類や鳥類の
性をあげるための士地の過剰使用や化学肥
減少や,自然景観や農村景観の喪失によって,
料・農薬の多用,あるいは産業廃棄物による
人間の心の癒しの場を失ったということであ
ものである2)。
る4)。
1998年10月,世界自然保護基金(WWF)
土壌の劣化・汚染は,海洋の劣化・汚染に
は,地球環境の現状を調査し,「生きている地
導く。そして地球環境の劣化・汚染をも招く
球」というレポートを公表した。それによる
のである。土地(自然)のもつ自然回復力,
と,1970-95年の25年間で,地球の自然の
浄化作用を超える収奪をやめなければならな
1)
地球の環境問題については,谷山鉄郎著「地球環境保全概論」東京大学出版会,1991年,を参照されたい。
2)
現在の世界人口は約60億人,主食である穀物やいも類を生産するのは主に農地(13億ha)であり,単純
に計算すると農地20aで1人の人間の食料を生産していることになる。日本の水田ではlOa当たり約
500kgの米が生産される。日本人の米消費量は年間約70kg弱,1日あたり食料摂取熱量約2600calの4分
の1を占め,20aの水田では20人以上の米需要を充たすことができる(藤川鉄馬編著「地球の土壌劣化
に立ち向かう」大蔵省印刷局,1998)。
3)
加藤三郎箸「「循環社会」創造の条件」,25年間で最も多く消失したのは淡水資源(50%),森林資源は10%
の減少である。
4)
鶯谷いづみ箸「自然再生一持続可能な生態系のために-」中公新書,2004年6月,pp80-83
1
N0.92004年8月号
奄美ニューズレター
展によって,森林資源や土地収奪が急速に進
い。
展し,環境破壊を引き起こすようになった,
農林水産業が中心をなす島蝋社会において
は,農地の過剰使用は,土地の自然回復力や
と言われている。井上真著「焼畑と熱帯雨林
浄化作用を低下させ,循環的・持続的発展を
一カリマンタンの伝統的焼畑システムの変容
阻害するであろう。また,化学肥料や農薬の
一」によれば,「熱帯のほとんどの地域におい
多用は土壌を劣化させる。農林水産物は人間
て,焼畑農業は太古の昔から営々として繰り
や動植物が毎曰食べたり,飲んだり,吸収し
返されてきた。その多くは,開墾・作付けの
たりするものである。したがって,生態系や
過程で表土を撹乱せず,それによって土壌の
人体に悪影響を及ぼす。環境保全型農林水産
侵食を最小化し,森林の再生を最大化するよ
業の振興が求められているゆえんである。
うな技術を伝統的に確立していた。すなわち
焼畑は,自然のリズムにもとづく土地の回復
と文化・社会的特性のバランスの上に成り
キーワード
土壌の劣化,過剰使用,商品経済の進展,
立ってきた農法であった。焼畑農業が熱帯雨
伝統的・自給自足的な生業経済(サブシス
林消失の原因として,一国の,あるいは熱帯
テンス),産業廃棄物,農村開発,域際収支,
地域全体にわたる社会問題となったのは,焼
連作障害,大量生産・大量消費,化学肥料,
畑農業の持つ長い歴史の中でも,ほんのつい
農薬,環境破壊,地産地消
最近のことである。しかも,正しい理解にも
とづかない主張が目についた。」と述べている
6)
1.自給自足経済から商品経済への移行
0
中世西欧における三圃式農業や伝統社会に
1981年,FAO/UNEP,近年の熱帯アジア
おける焼畑移動農業,そしてまたわが国の江
における熱帯林減少の49%が焼畑によるも
戸時代における農業は,循環的・持続的な農
のであるという事実を公表した。なぜ,近年,
業形態の1つであった5)。生産性は低かった
焼畑が熱帯雨林減少の大きな原因となったの
が,多品種少量生産であった。人口増加,商
であろうか。井上氏によれば,東南アジア島
品経済化,化学肥料・農薬の登場がこれらの
蝋部においては,林道開設に始まる商業的木
農業形態を変え,高生産』性と少品種大量生
材伐採や盗伐などさまざまな要因による劣化
産・大量消費を可能にした。焼畑農業は,森
を経たあと,林道沿いに侵入した人々による
林資源を焼却し,環境破壊的であるといわれ
非伝統的焼畑の跡地という形で森林消失に至
ているが,伝統社会における焼畑農業は,循
るケースが多いためであるという7)。
南太平洋島蝋国・ソロモン諸島国(1978年
環的・持続的農業であったが,商品経済の発
5)
江戸時代の環境保全型システムについては,農文協編「江戸時代にみる日本型環境保全の源流」農文協刊,
2002年9月,を参照されたい。
6)
井上真著「焼畑と熱帯雨林一カリマンタンの伝統的焼畑システムの変容」弘文堂,1995,pl
7)
井上前掲書,p2・谷山鉄郎氏も,伝統的な小規模の焼き畑は熱帯林を消滅させるものではなかった。む
しろ,森林の更新となって,焼畑後放棄した土地を数年で草原化し,次いで潅木が侵入し熱帯林が形成さ
れる。しかし,近年の人口の急激な増加によって,持続可能な焼畑農耕から,熱帯林の形成以前の草原期
の焼畑に変わり,回転が早くなりすぎた。東南アジアの熱帯林の減少は,日本の商業材としての輸入のた
めに大型トレラーの通る道を巨大なブルトーザーで押し倒して造成し,熱帯林を伐採するところに最大
の原因がある,と指摘している(谷山鉄郎著「地球環境保全概論」東京大学出版会,1991年,p26
2
奄美ニューズレター
No.92004年8月号
7月イギリスより独立)の経済形態は,伝統
することによって,生産量を増加させ,商品
的.自給自足的な生業経済(サブシステンス)
としての交換価値(安全性よりも高く売れる
と,西洋との接触以後,その影響下に形成さ
商品の生産)を高めているのである。国別の
れた貨幣経済システムが併存する,いわゆる
耕地面積あたり農薬使用量(有効成分/kni)
二重経済である。前者は焼畑によるタロイモ,
をみてみると,日本が世界第1位で,1.5トン,
ヤムイモ,キャッサバなどの根菜類(主食)
2位韓国1.29トン,3位オランダ,1.06トン,
の栽培や,ベラ,ブダイ,ヒメジ,ニザダイ
4位ベルギー0.92トン,5位ニユージランド
などのリーフ・フィッシュ,アジ,イワシ,
0.85トンで,以下,27位まで先進国が続き,
カマス,サヨリなどのリーフ周辺表層で遊泳
南の発展途上国は27位までのランキングに
する浮魚類の漁獲を中心とする。サブシステ
1国も入っていない9)。なお,1998年「農薬
ムに依存する人々は,全人口約33万人のうち
要覧」旧本植物防疫協会発行)によると,曰
約90%を占め,彼らが所有する土地面積は総
本全体の農薬出荷量は38万6597トンで,耕
地面積499万3920haで,10アールあたり
陸地面積の約88%にのぼる。後者はホニア
ラを中心にした商業経済である。輸入食料,
衣料,食器,灯油ランプ,ビーチサンダル,洗
剤,コプラ,木材等が貨幣による売買が行わ
荷量は1万422トン,10アール当たり7.78kg
れている8)。近年,急速に後者が前者の領域
(lklIiあたり7.74t)である。この数値的な
に浸透し,サブシステンス経済を駆逐しつつ
違いについて,河村宏氏によると,「農薬要
ある。この島蝿国が約5000年以上にわたっ
覧」にある統計数値から,活性成分消費量(有
て人々が居住し,美しい自然をのこすことが
効成分)=原体生産量+原体輸入量一原体輸
できたのは,サブシステンス経済(持続可能
出量=約7万トンとなり,耕地面積1k、iあた
な経済)を維持してきたことによるものであ
り1.5トンとなるとのことである'0)。
7.74kg(1k㎡あたり7.74t)となっている。鹿
児島県の耕地面積は13万4000haで,農薬出
り,商品経済の発展にともなう農村社会の
「開発」は,この小島蝋国(100以上の小島
2.奄美における食料品自給率の低下
蝿からなり,全部あわせても四国の1.5倍程
島唄は,交通運輸手段が未発達な時代には
度)を急速に変容させ,サブシステンス経済
部門から排出された労働力は,都市部または
その自然的・社会的条件からして,一般的に
自己完結的・自給自足的経済システムであっ
外国に流出していくであろう。また,人口の
た。島民の生活物資を生産するために,乏し
増加にともなう食料品等の生産を増加させる
い生産要素をできるだけ多くの部門に配分し,
ために耕地面積の拡大・利用率の上昇,化
学肥料や農薬の使用はサブシステンス経済の
より多くの生産物を生産しなければならな
かった。生産物は販売・交換の目的のために
維持を困難にした。逆にいえば,経済の発展
生産されるのではないので,交換価値(市場
や人口増加によってサブシステンス経済の維
でより高く売れること)よりも使用価値(使っ
持が困難になったわけである。
て満足がいくかどうかということ)が重視さ
近代農法は,化学肥料と農薬を大量に投下
8)
れた。
関根久雄「農村社会と「開発」秋道智弥・関根久雄・田井竜一編「ソロモン諸島の生活誌」明石書店,
1996,p306
9)
河村宏・辻万千子著「暮らしの中の農薬汚染」岩波ブックレットNO619
10)
http://home.e06.itscom・net/chemiweb/ladybugs/kiji/tl4707htm
3
奄美ニューズレター
N0.92004年8月号
島唄は自己完結的といってもすべての必要
交易は奄美群島に多くの物資,財貨,’情報,
品が供給されるのではなく,島の外に不足品
文化をもたらした。稲,麦,粟,豆類,サツ
を求めなければならなかったし,また,人口
マイモ,サトウキビ,タバコ,モウソウチク,
増加や交通運輸手段の発達によって外部市場
ボンタン等の農作物をもたらし,気候風土に
との交易をもたらす。交易による生産物(商
適した作物は広く栽培され,島民の生活を支
品)の売買は,価格や品質の競争を通じて優
えてきた。1909(明治42)年の『鹿児島県大
勝劣敗をもたらす。商品の生産者は,生産物
島郡統計書」は,「本郡は温帯地に属し,気候
の使用価値よりも交換価値を重視するように
すこぶる温暖,霜雪をみるが如きは殆ど稀有
なる。その結果として,一方では,交換価値
にして,むしろ皆無といふべきも不可なり。
の高いものの生産に生産要素を振り向けるよ
稀に降霞を見ることあるのみ。而して暑気を
うになり,他方では,生産物が有用・有害か,
感ずる期間は内地に比し,殆ど倍せるを以っ
あるいは生産のために使用される化学肥料や
て動植物の発育甚だ良好なり。然れども本郡
農薬が有害かはそれほど問題にされない。
は四時に渉りて暴風雨多く,為に農作物は勿
以下において,交易の発達(それは商品経
論,家屋船舶の被害を見ること少なからず。」
済の発展を意味する)と奄美農業の変化につ
と記している。
1909年の大島郡内の米の生産量は66,487
いてみてみよう。
表1.大島郡の主要な農作物の作付面積及び収穫高の推移
1909(明治42)年
作付面積(町)
1960(昭和35)年
収穫高(石)
うるち米
3,319
49,786
もち米
344
3,578
陸稲
11
100
3,637
53,464
大麦
755
小麦
565
裸麦
573
3,900
計
計
大
2000(平成12)年
作付面積(町) 収穫高(トン) 作付面積(町) 収穫高(トン)
6,255
18,152
22.0
71.0
5,500
0
0
3,623
0
0
0
0
389
1,893
13,023
0
0
」巳.
615
2,700
0
0
626
0
0
0
0
543
小
」己
129
腕
」己
59
298
蚕
ロ
152
944
0
0
6
60
1,614
20,560
ーユヒー
馬鈴薯
粟
雑穀1,252
1,289
505
2,745
0
0
落花生
76
1,831
0
0
甘藷(員)
7,174
34,674,663
0
0
里芋(員)
111
626,280
337
2,955
自給蔬菜
4,955
87,410
1,350
22,878
643
8,569
4,550
273,046
9,220
393,742
花卉類
437
120,073
果樹
671
3,160
甘蕨(員)
耕作面積
4,809
45,970,355
17,128
16,478
(出典)『鹿児島県大島郡統計書』明治42年
4
15,365
奄美ニューズレター
N0.92004年8月号
石,移入量は82,557石で,郡内の米の消費量
しながら,1959年2月,政府による国内甘味
(収穫量+移入量)は149,044石(1石=150
資源の自給力強化総合対策が打ち出されるに
キロで換算すると,22,357トン)となる。消
及んで,サトウキビ耕作面積は急増するに
費量に対する収穫量の割合(自給率)は44.6%
至ったのである。
となる。郡民1人当たりの米の消費量は117
当時の奄美農業は,堆肥に依存していたが,
キロで,全国平均の140キロの83.6%である。
その堆肥生産も減少傾向(牛馬,豚,山羊,
麦の収穫量は13,023石で,移入量は2,510
ニワトリの飼育減少等による)をたどり,地
石である。麦の自給率は83.8%である。豆類
力培養もなされないまま,極端な収奪栽培が
残りは甘藷(サツマイモ)を食していたから,
行われるようになった。名瀬市が行った4集
食料の移入は僅少にとどまった。大豆の収穫
落の調査でも農家はほとんど無肥料栽培を
高4,568石,移入量8,338石で,自給率は
行っていた'')。
35.4%である。農産物の中で移入額の大きい
高度経済成長は,一方では,本土から大量
のは,米123万円,豆類83万円,茶80万円で
の消費財や資本財を奄美にもたらし,他方に
ある。肥料は家畜等の排泄物を中心とした堆
おいては,農業人口の減少と農業生産の停滞
肥が中心で,金肥は魚粉,骨粉,配合肥料が
をもたらした。農作物は少数の商品作物に絞
わずかながら使用されていた。
り込まれ,化学肥料や農薬の大量投与と機械
1909年の総移出額は199万3千円,総移入
の導入によって生産↓性を増加させた。土地の
額は225万2千円で,25万9千円の移入超過
劣化と環境汚染によって生態系の破壊が進ん
である。しかしながら,第2次世界大戦前の
だ。輪作体制の確立と有機肥料(堆肥)の増
奄美の貿易収支は概ね黒字であった。また,
産が推進されることになった。
租税の面でも,群島外への収納額が群島外か
2000年には,甘蒔(サトウキビ)作付面積
らの受取額を上回っていたのである。
が9,220町歩で,全耕地面積の60%を占め,
1960年の農作物の作付面積及び生産量を
次いで,馬鈴薯1,614町歩,果樹と花卉1,100
みてみると,米の作付面積(一期作と二期作)
町歩である。この3種類の農作物で77.7%を
は6,226町歩,生産量18,152トンで1909年に
占めている。商品作物への特化が著しく進ん
比べて,作付面積は72%,生産量は82%増加
できたことを意味している。これらの作物は
した。米の1人当たり消費量を130キロとす
換金作物(サトウキビは加工され粗糖の形で),
れば,奄美の総消費量は25,543トンで,自給
として本土に出荷され,現金を稼いでいる。
率は71%となる。主食は甘蕨から米に変わ
花卉類は沖永良部島ではサトウキビを凌いで
りつつあり,甘藷の作付面積は減少傾向をた
第1位の生産額を誇っている。ただ,花卉類
どり,5,000町歩を割り込んでいる。粟,大豆,
の需要は景気や流行に左右されること,また
大麦,陸稲の栽培が奄美からほぼ消え去って
近年は,海外(オランダやマレーシア,ベト
しまった。これらの作物は移入に依存するこ
ナム,中国などのアジア諸国)からの大量・
とになった。サトウキビ作付面積は4,550町
安価な輸入品との競争を余儀なくされ,苦戦
歩で,まだ戦前水準に回復していない。しか
を強いられている。
11)
鹿児島県名瀬市「問題別の調査報告書一名瀬市における農林漁業実態調査一」1958年3月
12)
農地を少数作物の栽培に振り向けることは,輪作,休耕体系を壊し,また,土壌養分のバランスを損なう
ことになり土壌劣化の原因の1つである。また,水田の畑化は,河川や水質源の管理をおろそかにし,生
態系や海洋資源の貧弱化を招いていると考えられる。
5
N0.92004年8月号
奄美ニューズレター
すでに1960年代に小麦や大豆・小豆等・粟
等の豆類・雑穀も生産されなくなった。自家
用野菜,タペオカ,ニンニク,パパイヤ,島
ミカンも消滅または激減した。また,食料の
一部としての役割と家畜の飼料としての役割
を果たしていた甘藷の栽培もなくなってし
まった。農産物の加工品である味噌,醤油,
漬物,菓子類も生産も少なくなった。かつて
群島内で賄われていた植物性タンパク質(大
豆・その他豆類)・動物」性タンパク質(牛・
豚・鶏・山羊の肉)や魚介類もほとんどが郡
外から移入されるようになった。肉屋やスー
パーの店頭に並んでいる肉類はほとんどが移
入品である。1980年代には米の生産もなく
なった。農機具や肥料・農薬も移入品である。
燃料(石油・ガソリン)は勿論のこと,米,
野菜をはじめ飲料水(ペットボトル)まで移
入されるようになっている12)。
以上のようなことは,生産部門における比
較優位'性に基づく専門特化,消費生活の高度
化にともなうもので,島蝋にかぎらず,全国
的に見られる減少であるが,持続的経済発展
の観点からみると,将来に不安を感ぜざるを
えないのである。平成に入って,国や県,市
町村でも「環境にやさしい農業の取り組み」
が推進されている。その中心をなすのが化学
肥料・農薬の使用量の削減である。次号にお
いて,和泊町における環境保全型農業への取
り組みについて紹介することにする。
6
奄美ニューズレター
NO92004年8月号
■研究調査レビュー
奄美地域市町村の地方交付税の推移
朴源(鹿児島大学法文学部)
1はじめに
額」にではなく「収入見込額」に上記の一定
地方交付税をめぐる状況は,最近かなり厳
比率を乗じることになっているからである。
しくなった。その主な理由としては,長引く
このようにして得られた合算額に,前年度
不況により国の財政状況が深刻になったこと,
以前における交付税でまだ交付していない部
分権化の流れで,いわゆる「三位一体改革」
分があればそれを加算し,また,前年度以前
の枠組みの中に地方交付税の総額の抑制が盛
において交付すべきであった金額を超えて交
り込まれていること,市町村合併を進める手
付した部分があればそれを減額して,毎年度
段として地方交付税が利用されていることな
分として交付される。
どが考えられよう。
ところで,最近の長引く不況により特に法
小稿の目的は,奄美諸島14市町村の地方交
人税収の落込みが激しく,それによって地方
付税(主として,普通交付税)の最近の推移
交付税の総額も減少し続けている。このよう
概観し,その傾向を比較することにある。そ
な事態に配慮するために地方交付税の総額
のためにはまず,国全体における地方交付税
に特例を設ける改正が行われた。つまり,地
の総額の決定メカニズムと,その推移を確認
方交付税法附則第3条の2が1999年に追加
しておくのが有益であろう。
され,法人税の交付税率が,「当分の間」,
32/100ではなく35.8/100(ただし,1999年
2地方交付税の総額
度は32.5/100)になったのである。
地方交付税の総額は,表lに示されている
第2は,いわゆる「入口ベース」の総額が
ように大まかにいって3つの局面を経て決
決定される局面である。地方交付税は,国の
定される。最初は,いわゆる「法定率分」が
一般会計から交付税及び譲与税配付金特別会
決定される局面である。この局面はまず,国
計(以下,「交付税特別会計」と略す)に繰り
税5税の一定比率(これは,「交付税率」とも
入れられ,そこから各地方団体に交付される。
いわれる)を地方交付税の総額として規定す
2003年度当初予算では,一般会計から特別
ることから始まる。つまり,地方交付税法第
会計に繰り入れられる際に上記の「法定5
6条第1項において,所得税・法人税・酒税
税分」に次のようなものが加算された。
の収入額の32/100,消費税の収入額の
すなわち,通常収支に係る国負担借入金の
29.5/100,そしてたばこ税の収入額25/100
利子相当額の加算額1684億円(地方交付税法
をもって地方交付税とすることが定められて
附則第4条の2第2項),』恒久的減税に係る
いるのである。
国負担借入金の利子相当額の加算額420億円
この総額と,毎年度分として交付される地
(同第3項),通常の法定加算額37億円(同第
方交付税の総額(地方交付税法第6条第2項)
6項),国庫補助負担金の見直しに係る国負
との間には,若干のズレがある。というのは,
担借入金の利子相当額の加算額4億円(同第
その年度の「収入額」がまだ確定していない
4項),配当所得課税の見直しに伴う特例加
段階で地方交付税が交付されるので,「収入
算額224億円,臨時財政対策のための特例加
7
奄美ニューズレター
N0.92004年8月号
算額5兆5416億円がそれである。これらを
第3は,いわゆる「出口ベース」の総額が
前述の「法定5税分」に加算した「入口ベー
決定される局面である。一般会計から交付税
ス」の地方交付税の総額は16兆3926億円で,
特別会計に繰り入れられた金額(「入口ベー
2002年度当初予算に比べ,2846億円の増と
ス」)が交付税特別会計より各団体に交付され
なっている。
る金額(「出口ベース」)と一致するわけでは
表1地方交付税総額の算定基礎
(単位:億円)
2002年度
2003年度
2004年度
所得税収入見込額
158,310
138,100
137,780
法人税収入見込額
111,740
91,140
94,070
酒税収入見込額
17,350
17,330
15,880
消費税収入見込額
98,250
94,890
95,630
8,480
9,170
8,980
所得税収入見込額の32/100
50,659
44,192
44,090
法人税収入見込額の35.8/100
40,003
32,628
33,677
5,552
5,546
5,082
消費税収入見込額の29.5/10O
28,984
27,993
28,211
たばこ税収入見込額の25/100
2,120
2,293
2,245
127,318
112,651
113,304
-870
-6,509
-1,744
126,448
106,142
111,560
34,632
57,785
42,326
161,080
163,927
153,886
0
1
35,649
19,515
17,755
-391
‐799
-799
-5,689
-6,150
-6,382
4,800
4,200
4,400
地方交付税
195,449
180,693
168,861
普通交付税
183,722
169,851
158,729
特別交付税
11,727
10,842
10132
地方特例交付金
9,036
10,062
11,048
臨時財政対策債
32,261
58,696
41,905
項目
1.法定率分
たばこ税収入見込額
酒税収入見込額の32/100
計
精算分
法定率分
2一般会計
一般会計加算額
一般会計繰入
3.特別会計
返還金
特別会計借入金
借入金償還額
借入金等利子充当分
剰余金の活用
4.参考
(資料)地方交付税制度研究会編『地方交付税のあらまし」各年度版。
8
奄美ニューズレター
N0.92004年8月号
ない。何故なら,不足分を補うために交付
特に,2002年度と2003年度の減少率が大
税特別会計が独自に借入などを行っているか
きく,それぞれ,-5.7%,-6.0%になってい
らである。これが「交付税特別会計借入金」で,
る(表2)。この原因は色々あるが,ここでは,
2003年度当初予算では1兆9515億円になっ
段階補正の見直しだけ指摘しておこう。段階
た。
補正とは,地方団体の人口(普通交付税の基
この借入(地方交付税総額の加算要因)以
準財政需要額の測定単位)が多ければ多いほ
外に,2003年度当初予算では,次のような措
ど,いわゆる「規模の経済」が働き,行政サー
置が「出口ベース」で行われた。すなわち,
ビスの-人当たり(測定単位当たり)費用が
交付税特別会計借入金償還額(2002年度補正
割安になるとの考え方から設けられている。
対策に係る部分)799億円と借入金の利子支
逆に,人口が少い場合は,いわゆる「規模
払額6150億円が控除され,交付税特別会計
の不経済」が働くので,単位当たり費用は割
における剰余金4200億円が加算された。こ
高になる。段階補正はこのように,人口規模
のようにして決定された2003年度当初予算
の小さい団体の基準財政需要額を相対的に大
の「出口ベース」の総額は18兆693億円で,
きく見積り,従ってより多くの普通交付税が
2002年度当初予算に比べると7.5%の減と
交付されるように働く機能を持っている。と
なっている。
ころが,2002年度から3年間,この段階補正
(市町村分)が見直されることになった。そ
3奄美地域の地方交付税
の理由は,小規模団体であっても,職員の兼
名瀬市と大島郡内の14市町村の地方交付
務や外部委託等により,合理的・効率的に行
税の推移は,最後の付表にまとめられている。
財政運営を行っている団体があり,そのよう
その表から,14市町村全体の普通交付税の総
な実態を反映するためであると説明されてい
額の推移を観察してみると,1995年度から
る。
2000年度までは一貫して増加しているが,
見直しの具体的な手法であるが,割増率を,
2001年以降は3年連続で減少していること
全団体の平均ではなく,「より効率的な財政
が分かる。
運営を行っている」とされる上位2/3の団体
表2奄美地域14市町村の普通交付税の伸び率の推移
977776666655531
率575115541086454
度比一一一一一一一一一一一一一一一
3
年
●●●●●●
386978
544332
論仙城利界検名泊用瀬和鴻萠郷
●●●●●●●●
●●●●●●●●●
777319394
222221100
11794717
99877665
●●●●●
61774
64333
市町町町村村町町町
瀬論界名和検仙鴻城
名与喜知大字伊徳天
9
団与伊天笠喜宇知和住全名大徳瀬龍
率844480145563240
龍郷町
伊仙町
天城町
徳之島町
住用村
笠利町
与論町
宇検村
全体-5.7
喜界町
知名町
大和村
和泊町
瀬戸内町
名瀬市
(資料)付表奄美地域14市町村の地方交付税の推移
Ⅲ体町町町町町村町町村体市村町町町
0
度比24000000000L225
年
川体町村町町町村町市町村体町町町町
界用仙鴻利検城瀬論和郷肋名泊
団喜住伊徳笠宇天名与大全龍瀬知和
Tff竺琵蒼了;f岨崖~軍
瀬戸内町
龍郷町
住用村
和泊町
笠利町
全体-2.8
(単位:%)
N0.92004年8月号
奄美ニューズレター
の平均を基礎として算定されるようになった。
もっとも減少幅が大きいのは与論町(-
これにより,3年間の合計で約2000億円が減
16.2%)で,これに伊仙町(-15.9%)と住
少するが,個別団体別の減少額は人口規模に
用村(-15.5%)が続いている。逆に,もっ
よって異なり,表3の通りである。
とも減少幅が小さいのは名瀬市(-10.5%)で,
これに大和村(-11.4%)と知名町(-11.3%)
さて,表2では,14市町村の普通交付税の
が続いている。
各年度の伸び率が,低い団体から順に並べら
れている。それによれば,2001年度から
この結果は,先に述べた団体補正の見直し
2003年度までの伸び率が,奄美全体の伸び
率を一貫して下回っている団体は,住用村と
と完全に一致するものではない。これは,団
体補正の見直しのほかに単位費用の変更や
笠利町の2団体で,逆に一貫して上回ってい
留保財源比率の引上が働いているためであろ
る団体は,名瀬市と大和村の2団体である。
う。さらに個々の市町村の特殊な事情も大
そこで,3カ年度の累積的な減少額をみる
きく反映されていると思われるが,小稿では
ために表4では,2003年度分の普通交付税
が2000年度分のそれにくらべどの程度減少
そこまで立ち入れなかった。これに関しては,
したのかを示している。
論じてみたい。
2004年度分の地方交付税が確定されてから,
14市町村全体で約-13%減少したが,
表4普通交付税の伸び率
表3段階補正の見直しによる影響額
(単位:千円,%)
(単位:人,円)
団体人ロ
一団体当
り減額分
一人当
減額分
市町村
2000年度
2003年度
伸び率
与論町
2,212,962
1,854,903
-16.18
1,000
8,000,000
8,000
伊仙町
2,960,050
2,488,417
-15.93
4,000
18,000,000
4,500
住用村
1,533,049
1,296,160
-15.45
8,000
17,000,000
2,125
笠利町
2,748,520
2,324,920
-15.41
12,000
17,000,000
1,417
天城町
2,832,007
2,415,798
-14.70
20,000
17,000,000
850
喜界町
3,084,078
2,662,651
-13.66
30,000
10,000,000
333
龍郷町
2,322,249
2,014,702
-13.24
42430042
36844430
-13.16
徳之島町
3,512,895
3,061,080
-12.86
和泊町
2,950,557
2,573,123
-12.79
字検村
1,720,851
1,501,159
-’2.77
瀬戸内町
4,674,414
4,087,792
-12.55
知名町
2,790,639
2,443,217
-12.45
大和村
1,760,509
1,560,599
-11.36
名瀬市
7,327,262
6,559,909
-10.47
総額
(資料)付表奄美地域14市町村の地方交付税の推移
10
奄美ニューズレター
N0.92004年8月号
付表奄美地域14市町村
コード
46207
46523
46524
46525
46526
46527
46528
46529
46530
46531
46532
46533
46534
46535
il
名瀬市
大和村
宇検村
瀬戸内町
住用村
龍郷町
笠利町
喜界町
徳之島町
天城町
伊仙町
和泊町
知名町
与論町
1991年度
1992年度
6,545,569
5,879,745
1993年度
1994年度
7,709,008
7,306,799
6,762,934
7,222,396
7,013,409
6,664,308
6,113,152
6,560,129
665,824
695,599
642,491
649,782
662,267
1,579,470
1,790,903
1,701,426
1,691,704
1,722,874
1,463,180
1,670,493
1,574,359
1,569,038
1,593,010
1995年度
116,290
120,410
127,067
122,666
129,864
1,594,133
1,952,652
1,797,808
1,798,650
1,811,419
1,425,838
1,776,537
1,618,437
1,630,879
1,633,850
168,295
176,115
179,371
167,771
177,569
4,258,754
4,625,746
4,668,378
4,297,251
4,334,935
4,018,795
4,379,768
4,417,044
4,059,421
4,085,704
239,959
245,978
251,334
237,830
249,231
1,346,747
1,573,855
1,583,852
1,472,619
1,559,715
1,242,303
1,464,006
1,471,946
1,365,615
1,447,211
104,444
109,849
111,906
107,004
112,504
2,018,949
2,330,875
2,299,813
2,149,625
2,246,748
1,901,050
2,208,956
2,175,238
2,032,850
2,125,074
117,899
121,919
124,575
116,775
121,674
2,438,453
2,796,767
2,736,649
2,570,251
2,692,080
2,257,314
2,609,218
2,545,543
2,394,247
2,509,976
181,139
187,549
191,106
176,004
182,104
2,764,316
3,220,515
3,218,752
3,030,084
3,100,577
2,603,433
3,054,613
3,040,694
2,862,326
2,924,821
160,883
165,902
178,058
167,758
175,756
3,001,331
3,419,696
3,453,913
3,407,429
3,325,204
2,843,487
3,258,847
3,281,104
3,249,023
3,166,698
157,844
160,849
172,809
158,406
158,506
2,433,486
2,683,682
2,750,059
2,674,432
2,791,182
2,320921
2,568,098
2,626,320
2,558,798
2,669,946
112,565
115,584
123,739
115,634
121,236
2,735,223
2,960,412
2,985,579
2,939,826
2,988,510
2,640,679
2,864,963
2,888,273
2,847,422
2,897,806
94,544
95,449
97,306
92,404
90,704
2,326,614
2,703,315
2,677,448
2,603,824
2,666,028
2,176,655
2,547,838
2,512,916
2,449,796
2,504,199
149,959
155,477
164,532
154,028
161,829
2,376,164
2,720,370
2,615,735
2,555,757
2,685,917
2,222,544
2,561,729
2,450,036
2,394,760
2,518,920
153,620
158,641
165,699
160,997
166,997
1,934,932
2,148,637
2,197,000
2,152,115
2,229,602
1,782,256
1,991,942
2,037,249
2,000,364
2,070,253
152,676
156,695
159,751
151,751
159,349
37,354,141
42,636,433
41,993,211
40,106,501
41,377,187
34,778,200
39,970,417
39,303,467
37,527,691
38,707,597
2,575,941
2,666,016
2,689,744
2,578,810
2,669,590
11
奄美ニューズレター
NO92004年8月号
の地方交付税の推移
(単位:千円)
1996年度1997年度1998年度1999年度2000年度2001年度2002年度2003年度
7,500,186
7,589,306
7,801,111
8,211,208
8,275,309
8,027,526
7,807,221
7,366,077
6,787,265
6,849,745
7,003,914
7,295,148
7,327,262
7,134,428
6,941,061
6,559,909
712,921
739,561
797,197
916,060
948,047
893098
866,160
806,168
1,954,974
1,904,980
1,820,881
1,728,782
1,789,323
1,853,520
1,874,510
1,934,615
1,647,362
1,702,320
1,708,170
1,751,222
1,760,509
1,724,734
1,648,190
1,560,599
141,961
151,200
166,340
183,393
194,465
180,246
172,691
168,183
1,870,670
1,895,519
1,917,863
1,970,744
1,979,082
1,928,431
1,840,025
1,731,360
1,676,404
1,687,719
1,698,232
1,721,154
1,720,851
1,689,235
1,598,854
1,501,159
194,266
207,800
219,631
249,590
258,231
239,196
241,171
230,201
4,515,810
4,636,525
4,795,418
4,942,566
5,060,794
4,742,670
4,571,287
4,400,260
4,246,076
4,360,125
4,464,233
4,569,441
4,674,414
4,386,790
4,230,348
4,087,792
269,734
276,400
331,185
373,125
386,380
355,880
340,939
312,468
1,636,317
1,683,489
1,698,185
1,722,933
1,709,837
1,642,060
1,538,136
1,444,257
1,513,413
1,552,189
1,552,497
1,554,686
1,533,049
1,477,818
1,375,682
1,296,160
122,904
131,300
145,688
168,247
176,788
164,242
162,454
148,097
2,333,239
2,383,633
2,461,183
2,470,068
2,508,219
2,402,611
2,206,795
2,159,955
2,199,368
2,246,533
2,306,243
2,292,605
2,322,249
2,230,369
2,043,589
2,014,702
133,871
137,100
154,940
177,463
185,970
172,242
163,206
145,253
2,839,728
2,909,257
2,966,136
3,015,729
3,014,382
2,904,556
2,743,971
2,554,997
2,640,824
2,704,757
2,752,105
2,757,970
2,748,520
2,658,592
2,491,103
2,324,920
198,904
204,500
214,031
257,759
265,862
245,964
252,868
230,077
3,187,897
3,239,898
3,390,001
3,455,178
3,381,492
3,279,142
3,133,061
2,921,042
2,996,945
3,038,498
3,130,568
3,169,887
3,084,078
3,004,350
2,852,449
2,662,651
190,952
201,400
259,433
285,291
297,414
274,792
280,612
258,391
3,531,167
3,638,543
3,677,838
3,729,014
3,723,446
3,673,846
3,432,910
3,245,990
3,368,661
3,476,043
3,500,330
3,525,610
3,512,895
3,481,885
3,225,730
3,061,080
162,506
162,500
177,508
203,404
210,551
191,961
207,180
184,910
2,828,280
2,897,147
2,947,012
2,991,375
3,001,138
2,977,929
2,761,046
2,565,392
2,698,441
2,766,947
2,802,540
2,828,302
2,832,007
2,822,042
2,597,053
2,415,798
169,131
155,887
163,993
149,594
129,839
130200
144,472
163,073
3,047,758
3,082,044
3,081,660
3,099,001
3,087,735
3,038,328
2,800,111
2,598,536
2,953,354
2,985,044
2,972,624
2,971,255
2,960,050
2,922,025
2,679,156
2,488,417
94,404
97,000
109,036
127,746
127,685
116,303
120,955
110,119
2,839,976
2,974,504
2,943,466
2,994,492
3,154,845
3,034,615
2,931,582
2,761,728
2,664,044
2,795,504
2,766,098
2,802,745
2,950,557
2,845,260
2,737,403
2,573,123
175,932
179,000
177,368
191,747
204,288
189,355
194,179
188,605
2,783,025
2,832,951
2,792,456
2,908,640
2,983,278
2,906,117
2,783,885
2,617,274
2,601,428
2,650,751
2,624,029
2,722,524
2,790,639
2,727,561
2,601,496
2,443,217
181,597
182,200
168,427
186,116
192,639
178,556
182,389
174,057
2,321,024
2,358,920
2,349,395
2,400,201
2,424,734
2,351,282
2,234,674
3,744,259
2,147,572
2,181,720
2,174,635
2,201,622
2,212,962
2,154,863
2,030,738
1,854,903
173,452
177,200
174,760
198,579
211,772
196,419
203,936
1,889,356
43,024,400
43,975,256
44,696,234
45,845,764
46,259,265
44,814,093
42,605,585
41,839,909
40,141,157
40,997,895
41,456,218
42,164,171
42,430,042
41,259,952
39,052,852
36,844,430
2,883,243
2,977,361
3,240,016
3,681,593
3,829,223
3,554,141
3,552,733
4,995,479
12
奄美ニューズレター
N0.92004年8月号
■研究調査レビュー
アリモドキゾウムシの根絶に向けて
津田勝男(鹿児島大学農学部)
1.はじめに
から地面の割れ目を伝って地下に潜り,塊根
サツマイモは根菜類ではジャガイモ,
を加害する。
キャッサバに次ぐ世界第3位の栽培面積があ
アリモドキゾウムシは「植物防疫法」で「特
る。高温適応性が強く栽培も容易で,収量も
殊病害虫」に指定され,国内における特定地
多いうえに栄養価が高いにもかかわらず栽培
域(発生地域)からの移動・持ち出しが制限
は拡大していない。この阻害要因は害虫,特
されている。沖縄県全域,奄美群島,小笠原
にアリモドキゾウムシおよびイモゾウムシで
諸島,トカラ列島からサツマイモはもちろん
ある。これらの害虫に食害されたイモは苦味
のこと,ヨウサイ(エンサイ)やアサガオ,
物質を産生するため,生食はもちろん飼料,
グンバイヒルガオなどの生葉や地下部の持ち
加工原料にも利用できない。食料難に苦しむ
出しは規制されている。奄美大島や沖縄の空
発展途上国でサツマイモの普及が進まないの
港や港では「病害虫のまん延防止にご協力く
はゾウムシの被害によるところが大きい。こ
ださい」というポスターが貼られ,パンフ
れらの被害を防ぐためには頻繁な農薬散布が
レットも配布されている。植物防疫法は「輸
必要であるが,それでも十分な効果は得られ
出入植物及び国内植物を検疫し,並びに植物
ていない。また,頻繁な農薬散布は生態系の
に有害な動植物を駆除し,及びこの蔓延を防
攪乱など環境に対する悪影響が懸念される。
止し,もって農業生産の安全及び助長を図る
一方,農薬に代わる方法として,フェロモン
こと」を目的としており,違反した場合には
の利用,不妊虫放飼による遺伝的防除が試み
厳しい罰則が規定されている。一般の害虫に
られている。本研究では,これらの脱農薬型
対しては,その虫を防除するか否かは個人の
の新しい害虫防除法について,その有効』性を
裁量の範囲にあるが,防除しないと周囲に多
評価し安全かつ安定した食料生産の確立をは
大な悪影響を及ぼす可能性がある害虫に対し
かる。
ては法令により強制的に防除が行われる。こ
のような厳しい規制や啓発活動にもかかわら
2.アリモドキゾウムシ
ず,本土に持ち込まれる例がある。平成9年
成虫は体長7ミリ程度で,一見するとアリ
に鹿児島市内でアリモドキゾウムシが発生し
に似ていることから「アリモドキ」ゾウムシと
大騒ぎになったのは記'億に新しい。これは奄
いう名がつけられている。良く見ると青藍色
美大島からの宅配便により被害イモが持ち込
をした美しい甲虫であるが,美麗昆虫と言う
まれたものであった。この時は早速撲滅のた
より世界的な大害虫として有名である。熱
めに「緊急防除」の処置が取られ,発生地の半
帯・亜熱帯地方に分布し,日本ではトカラ列
径1キロ内の地域にある寄主植物は全て処分
島の口之島以南の奄美群島および沖縄県全域
された。地域内にあった幼稚園ではサツマイ
に分布する。サツマイモの他,グンバイヒル
モは処分され,園児達が楽しみにしていた
ガオやノアサガオなどのヒルガオ科植物に寄
「イモ掘り」が出来なくなった例がある。こ
生している。サツマイモでは主に苗の植え口
のようにアリモドキゾウムシはおそろしい大
13
N0.92004年8月号
奄美ニューズレター
れらの施設を引き継ぐ形でこの事業が開始さ
害虫として根絶が求められている。
れた。ちなみにウリミバエはウリ類や果菜類
の害虫で以前は特殊病害虫に指定されていた
3.不妊虫放飼法
昆虫に紫外線やβ(ベータ)線,γ(ガン
が,両県の努力により根絶に成功した。沖縄
マ)線,X(エックス)線を放射すると不妊
産のニガウリ(ゴーヤ)をこちらでも手に入
化(生殖能力を無くす)することが可能である。
れることが出来るのはウリミバエを根絶でき
また,ある種の化学物質を食べさせても不妊
たからである。不妊虫放飼においては,野外
になることが知られている。このことを利用
に棲息する健全虫よりも多い数の不妊虫を放
して不妊化した雄成虫(不妊虫)を大量に生
飼する必要がある。このため,きわめて多数
産して野外に放つ。彼らは野外の雌成虫と交
の不妊虫を生産しなければならない。ウリミ
尾するが,不妊虫と交尾した雌成虫は正常な
バエの根絶事業で蓄積された技術や研究実績
卵を産むことが出来なくなる。この操作(放
はそのままアリモドキゾウムシに応用できる
飼)を続けていくと野外個体群は減少し,最
部分もあったが,アリモドキゾウムシ特有の
終的には絶滅に至る。このような筋書きを成
問題点も数多く残されている。
功させるためには,①雄の行動範囲が広く,
4.喜界島における根絶実証事業の経過
広範囲の雌と交尾すること,②雌は1回しか
交尾しないこと,逆に③雄は多数の雌と交尾
奄美大島の北東部に位置する喜界島で不妊
できること,④不妊雄は精子が異常なだけで,
虫放飼によるアリモドキゾウムシの根絶実証
野外の健全雄と同等の競争力(雌の奪い合い)
事業が行われている。不妊虫の大量増殖技術
を有すること,⑤地域的に隔離されていて他
の確立を図るとともに実際に不妊虫を放飼す
の地域から健全虫が侵入してこないこと,⑥
る場合の現場の問題点を抽出するためである。
対象となる昆虫は大量に飼育することができ
ここでの根絶が成功すれば,規模を拡大する
ることなどが条件となる。アリモドキゾウム
ことにより奄美地域全体での根絶も可能とな
シは,雄の行動範囲が広く,一晩に少なくと
る。さらに世界的な規模での食糧不足解消の
も100mは移動できることが知られており,
可能性も見えてくる。
多数の雌と交尾する。一方,雌の移動力は小
喜界島は奄美大島本島の東北端,北緯28度
さく,1回しか交尾しない。このように①か
19分,東経130度00分の地点にあり,鹿児島
ら③の条件を満たしている。鹿児島県と沖縄
から380km,名瀬市から69kmの洋上にある。
県では不妊虫放飼法によるアリモドキゾウム
総面積5,687haのおよそ3分の1が耕地で,
シの根絶が試みられている。残された問題は
林野は約l0kniである。長径14km,短径7.75
適正な不妊化処理技術と放飼方法,大量飼育
kmのほぼ楕円形の島で,周囲48.6kmである。
技術などであるが,これらの問題を解決でき
概して平坦な島であるが,中央部には丘陵が
れば根絶が可能である。不妊化処理について
ある。この島の南部に位置する上嘉鉄地区
はコバルルト60によるガンマ線の照射が有
(280ha)が実証地区に設定された。放飼は
効である。コバルト60は原子番号27の鉄族
平成6年10月から開始され,平成7年12月
に属する金属元素の人工放射』性核種の-つで
までは毎週7万頭を,平成8年1月からは毎
あり,使用にあたっては特殊な施設を必要と
週10万頭を放飼している。平成8年4月か
する。また,大規模な飼育施設も必要である。
ら放飼方法を改良し,地区内で寄主植物が平
鹿児島県と沖縄県では過去に不妊虫放飼法で
均的に分布する地域32haを重点地区に,そ
ウリミバエの根絶に成功した実績があり,こ
の周囲248haを一般地区に設定した。さらに
14
奄美ニューズレター
N0.92004年8月号
実証地区の外側には侵入防止帯を設けた。こ
できないが,大きな手がかりを得たことにな
こではフェロモン剤を使った特別な防除が行
る反面,ヤギのことまでは考慮していなかっ
われている。重点地区では,寄主植物上に10
た反省にもなった。事業を行うに当たっては,
頭/㎡から30頭/㎡の密度で放飼を続けた。
地域住民の方々の理解を得ること,さらに皆
総放飼数は30万頭/週以上となり多い時には
さんの生活様式を十分に理解することが重要
80万頭/週に達した。このような集中的な放
であることを痛感させられた。
飼を続けた結果,アリモドキゾウムシの個体
数は減少し,フェロモントラップによる調査
5.アリモドキゾウムシの大量飼育
では放飼3年目には放飼開始時の100分の1
前述のとおり,不妊虫放飼ではきわめて大
程度まで低下した。実証事業は順調に進展し
量の虫を飼育する必要がある。鹿児島県では
ていると思われた。しかし,その後は少ない
青果用サツマイモ(Mサイズ:約2009)を
ながらも発生が認められている。不妊虫放飼
用い,プラスチック製容器(40×30×15cm)
では防除が成功した場合には理論の上では発
で飼育している。飼育方法については,イモ
生がゼロにならなくてはならない。ある程度
の品種や大きさ,1容器当たりのイモの量,
の効果が認められるのに根絶へ至らないこと
生産(飼育する)虫の数などについて種々の
に対し専門家は首をひねるばかりであった。
検討がなされた。その結果,生産頭数は当初
根絶に至らない原因として①周囲から野生虫
は5万頭/週だったものが,平成10年には56
(健全虫)が侵入している,②放飼した不妊
万頭/週に,さらに平成12年には83万頭/週に
虫が機能していない,③重点地区内に未発見
達した。この後,より大きく,元気な虫を生
の発生場所があるなどが考えられた。①につ
産するために飼育方法が改良された。平成
いては侵入防止帯での防除の徹底,②につい
16年度の生産目標は,不妊虫放飼用43万頭/
ては虫質劣化の防止,③については調査の徹
週と累代飼育用7万頭/週の合計50万頭/週
底などの対策が採られた。それでも発生は続
になっている。おおまかな飼育方法は以下の
く,何故なのか?平成15年になって思いもか
とおりである。先ず,容器に1,6009分のサ
けない事実が明らかになった。ある時,放飼
ツマイモ(8個程度)と1,800頭の母虫を入れ
担当者が重点地区内でサツマイモの茎を積ん
て産卵させる。産卵後24~25曰目にイモを
だ軽トラックを見つけ,不審に思い追跡した
不妊虫用と累代用に振り分ける。累代用はそ
ところヤギ小屋に行き着いたそうである。そ
のまま成虫まで飼育して次世代を産卵させる。
こではヤギの餌としてサツマイモの茎が与え
一方,不妊虫用は産卵後27~28曰目に不妊
られていた。アリモドキゾウムシが食入した
化施設でコバルト60を照射される。不妊虫
茎が苦味物質を産生するか否かは不明である
は照射後6~13曰目に回収され,空路喜界島
が,奄美ではサツマイモの茎をヤギの餌とし
へ運ばれて野外に放飼される。この大量飼育
て与えるのは普通のことである。重点地区外
に必要なサツマイモは307kg/週になる。こ
のアリモドキゾウムシの発生地域からヤギの
のように生餌(青果用サツマイモ)を用いた
餌として「アリモドキゾウムシ入りの茎」が運
アリモドキゾウムシの大量飼育については,
び込まれている可能性が考えられた。実際に
飼育体系がほぼ確立し,生産目標に沿った実
これまでに何故かアリモドキゾウムシの発生
績が上がっている。
が認められた地点のそばにはいずれもヤギ小
屋があることが判明した。このことがなかな
か根絶に至らないことの原因であるとは断言
15
奄美ニューズレター
N0.92004年8月号
保管管理などの経費負担も大きい。また,生
餌では年間を通じて安定した品質を維持する
ことが難しい。このため,人工飼料の開発が
蕊:..;i露騨:、
求められている。鹿児島大学農学部害虫学研
i蕊iiilii篝!;:|織鰄iiiiii:il}雲霞蕊
究室は,平成13年より鹿児島県との共同で人
工飼料の開発に取り組んでいる。人工飼料は
サツマイモの購入にかかる種々の経費を節減
できる他,不妊処理の効率化も期待できる。
これまでに様々な試作品を調製したが,基礎
的な知見を得る程度にとどまっており完成に
至っていない。本研究では試作品を調製して
【アリモドキゾウムシ大量増殖施設】
も実際の飼育は奄美大島の共同研究者に委ね
大量の飼育容器がならんでいる
ざるをえない。前述したとおり,アリモドキ
ゾウムシは特殊病害虫に指定されており,こ
ちらの研究室に持ち込むことが出来ない。研
究がなかなか進まず,もどかしい思いをして
いる。本来なら現地に居を構えて自分の目で
虫の反応を確認したいところであるが…。
【飼育中のアリモドキゾウムシ】
6.人工飼料の開発
鹿児島県では喜界島全体での根絶を目指し
て飼育規模拡大のための施設整備を進めてい
る。ちなみに整備後の生産目標は225万頭/
週となっている。この目標の達成は可能であ
ると考えられるが,このための餌の確保が懸
念される。飼育に用いられるサツマイモは地
元の喜界島はもちろん奄美地域では生産でき
ない。地元のイモは野生のアリモドキゾウム
シが食入しているからである。このため,地
域外で生産されたイモを購入しなければなら
ないが,青果用としてもっとも需要が高いM
サイズのイモは価格も高い,さらに輸送費や
16
奄美ニューズレター
NO92004年8月号
■研究調査レビュー
皆村武一箸「戦後奄美経済社会論」を体験的に読む
前利潔(知名町役場)
池田勇人首相が所得倍増計画を打ち出した
感じた。同時に子供の頃のシマ空間が大き
1960年,私は沖永良部島に生まれた。63年,
く変貌していることに気がついた。
皆村教授は沖永良部高校を卒業し,鹿児島大
「開発」とは,いったい何のためにあるのか,
学に入学。皆村教授は,初めて島を離れ,鹿
という疑問がわいてきた。その疑問に対する
児島港に着いたとき,おびただしい物資が島
手がかりとなったのが,呰村教授が「奄美近
向けに積まれていたのを目にし,「島は自給
代経済社会論」を出版したあと,精力的に発
自足社会だと思っていただけに驚いた。この
表していた戦後奄美経済社会について論じた
物を買うお金はどこから出ているのだろう」
論文である。本書は,それらの論文を加筆・
と疑問に思ったことが,経済学の道を志すこ
修正したうえで,体系的にまとめている。
とにつながった,という(南曰本新聞「かお」
本書から,私が小学校から高校時代を過ご
欄,98年1月4曰)。そのまなざしは,本書
した60年代から70年代にかけての奄美経済
の基底に流れているテーマでもある。
社会の姿をまとめてみる。日本「復帰」(53
私が沖永良部島という「世界」しか知らな
年)から10年が過ぎた60年代前半になると,
かった60年代から70年代,皆村教授は国際
米の生産量は郡民消費量の7割を自給できる
経済学の研究者としての道を歩みながら,故
までに回復していた。当時は,農作物の大部
郷である沖永良部島の,そして奄美の島々の
分を,サトウキビ,甘藷,米で占めていた。
経済社会の変容を,みつめていたはずだ。
60年代半ば頃まで,海,山,田畑の産物と
学生生活を終えて(83年),島に帰ると,
いった地域資源に恵まれ,生活物資の自給率
「開発」が進んだ島の姿にとまどいを覚えた。
はかなり高かった。
子供の頃,よく遊んだ砂浜は,海岸防災林造
60年代は,復興事業による公共投資,そし
成事業の名のもとに造られた護岸によって,
て曰本経済の高度成長の影響が奄美にも及び,
とても砂浜と呼べる姿ではなくなっていた。
奄美社会の近代化が著しく進展した時代でも
集落を下っていくと共同墓地がある。墓地と
ある。週に3~4回程度,1,000トン未満の
いっても,墓正月(1月16曰),墓盆(8月
船が就航していた航路が,65年頃には1,500
15日)には一族がその墓地に集まり,先祖を
トン級の船がほぼ毎日そして航空機も就航
迎えて宴を開くなど,島の人にとってはまる
するようになった。70年代に入ると,5,000
で花見をする公園みたいな場所だ。その墓地
トン級の船の時代となる。復興・振興事業に
からアダン林をくぐりぬけると,まつ白な砂
浜があり,その向こうにはサンゴ礁のイノー
よる雇用機会の増加社会保障や政府の財政
移転等による,賃金や所得の上昇は,奄美の
(内海)が広がっていた。集落,墓地,アダ
人々の消費水準を高め,整備された交通網を
ン林,砂浜,イノーは一体となって,シマ空
使って,食料品をはじめ大量の生活物資が移
間を形成していた。ところが,護岸によって,
集落とイノーは切断されてしまった。はじめ
入されるようになった。
てこの光景を見たときは,さすがにめまいを
の生産調整は,奄美諸島の農業及び就業形態
61年の大型製糖工場の操業と,69年の米
17
N0.92004年8月号
奄美ニューズレター
家庭内で消費するためのものだ。
に大きな変化をもたらした。大型製糖工場の
進出によって,農業部門に相対的過剰な労働
69年,沖永良部空港が開港。子供の私に
力が形成され,その一部は大型製糖工場,土
とっては,本土との物理的な距離よりも,精
木建設業,サービス業に吸収されたものの,
神的な距離を縮めてくれたような気がする。
その多くは島外へ,激しい人口流出となって
その年,「真夜中のギター」でレコード大賞新
現れた。食料事情の改善とサトウキビ生産奨
人賞を受賞した沖永良部出身の歌手,千賀か
励によって甘藷耕作面積が減少し,サトウキ
ほるが,空港に降り立ったときのことを鮮明
ビ耕作面積が増加した。69年以降の米の生
に覚えている。テレビで見る「世界」が,曰
産調整によって,水田も大幅に減少した。こ
のまえにあらわれたのである。そして,それ
れまで自給的状態にあった米は移入に依存す
まで船で運ばれ,2,3曰遅れで届いていた新
るようになり,80年代に入ると,水田はほと
聞が,飛行機で運ばれるようになり,その曰
んど姿を消してしまった。
の内に届くようになった。
この時代の私の記1億をかさねてみたい。小
中学校,高校時代の記1億には,牧歌的なも
学生の頃は,まだ集落に小型動力の製糖工場
のはほとんどない。高校生になると,ロック
と,水田があった。小型製糖工場では,黒砂
糖(含蜜糖)をつくっていた。製糖期になると,
バンドを結成し,卒業間近まで,バンド活動
できたての黒糖の甘い香りが漂ってきた。そ
頃だが,ほとんど関心がなかった。学生生活
の小型製糖工場も,いつのまにか操業をやめ,
を終えて島に帰ってきたときに,子供の頃の
廃屋になっていた。小学校からの帰り道には,
原風景にある水田がなくなったことの喪失感
水田地帯が広がっていた。水田地帯の用水路
に気づいた。皆村教授は「水田の消滅は奄美
に笹舟を流しながら,家路についた。寝床に
の経済社会のみならず,環境に及ぼした影響
つくと,水田地帯から,カエルの大合唱が聞
は甚大といわざるをえない」と書く。
をしていた。水田が消えていったのは,その
こえてきた。70年代に入ると,いつのまにか
本書のサブタイトルは「開発と自立のジレ
水田がなくなり,カエルを見ることも少なく
ンマ」となっている。奄美において,「開発と
なった。皆村教授が,「いまの島の子供たち
自立」の問題をジレンマとして受けとめてい
に,籾殻を見せても,それが何なのかわから
る人は,どれぐらいいるのだろうか。
90年代初めのゴルフ場開発をめぐる議論
ない」と言っていたことを思い出した。
公務員の家庭で,祖父母,両親,7人兄弟と
の中で,開発推進派は「ゴルフ場ができれば
いう大家族の中で育った。黒豚とヤギも飼っ
観光客(宿泊客)が増え,地元農産物への需
ていた。搾ったヤギの乳を,親戚の家に配る
要が伸びる」と主張した。地元農産物の供給
のが僕の役目。子ヤギとは,楽しく遊んだ。
体制がどれだけあるのか,ということは問わ
母は,ソテツの実(ヤナブ)から味噌をつくっ
れない。保徳選挙が激しかったころ,某代議
ていた。小学校の運動会でも,玉入れ競争の
士は国政報告会の場で,奄美の人々が納めて
玉は,自給(ソテツの実)だった。春には山
いる税金の何十倍もの予算を獲得しているこ
に行きタケノコを取り,塩漬けにして,一
年中食卓に出ていた。母は,タコ獲り名人で
とを訴えた。私はその代議士に「その予算
で実施される公共事業の所得効果はどれだけ
もあった。サンゴ礁のイノー(内海)に行くと,
ですか」と質問をしたが,答えることができ
あっというまに,タコだけではなく,ウナギ
なかった。
や魚介類を獲った。子豚と小ヤギは島内消費
本書によると,奄美における投資乗数効果
用に出荷されていたみたいだが,それ以外は
(所得効果)は「0.2以下」である。開放度
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奄美ニューズレター
N0.92004年8月号
(外部依存度)が高い奄美経済においては,
いく」ためには,「奄美の価値を再認識」する
建設資材や賃金によって購入される食料品や
ことが必要だと説く。これまでの開発の目的
その他の関連物資のほとんどが郡外から購入
は,格差是正であった。格差是正論は,「本土
されているので,1,000億円の公共投資が
並み」という言葉に象徴されるように価値
あっても,郡内では200億円の所得効果しか
基準を「本土(日本)」に置く。価値基準を
もたらさないという。農産物の供給体制につ
「本土旧本)」ではなく「奄美」に置きなお
いては,名瀬中央青果市場への島内からの野
せば,格差是正論では「負」として認識され
菜の搬入量は約半分であるが,直接鹿児島や
ていたものが,「正」として再認識されること
産地から直移入している大型小売店(ダイ
もある。
エー等)の存在を考慮にいれると,「名瀬市の
ゴルフ場開発をめぐって,推進派から「ア
青果物の自給率は20%程度になる」と分析し
マミノクロウサギは百害あって一利なし」と
ている。
いう主張があった。アマミノクロウサギは,
「(経済的)自立」というと,「自給自足」と
「負」として認識されている。ところが,世
いう誤解もある。「自給自足」は「ほとんど不
界自然遺産という視点からみると,それは
可能」であり,島喚は「他地域との相互依存
「正」として再認識されることになる。もっ
関係をもたなければ存続できない宿命」にあ
とも,世界自然遺産に対する奄美側の受けと
る,ということを確認しておく必要がある。
め方をみると,これまでの価値基準の置き方
問題は,外部依存を強めつつあることだ。大
を転換させているわけではない。国によって
島紬やサトウキビなどの産業が,比較優位`性
を失いつつある現在,新たな比較優位産業ま
評価された奄美の「価値」を,無批判的にう
たは生産資源を創出しなければ奄美経済は衰
フ場開発を,「価値」あるものとしてうけ入れ
退を余儀なくされるだろうと,皆村教授は言
た精神構造と,まったくかわっていない。
け入れているにすぎない。奄美におけるゴル
う。
私自身の経験を紹介しよう。20代の頃ま
黒糖焼酎は,移出用製造品としても,そし
では,ロックとクラシックばかりを聴いてい
てまた郡内消費用製造品としても大きな経済
た。島唄に価値を見いだすことはできなかっ
的効果をもっていると,皆村教授は指摘する。
た。島で,ベンチャーズ,ウィーン.フィル
黒糖焼酎は酒税法において奄美地域だけに認
メンバーによる弦楽合奏団,ワルシャワ室内
められたものだが,原料となる黒糖の大部分
オーケストラなどの公演も実現してきた。し
を沖縄及び外国から移入している,という現
かし,ロックとクラッシクだけでは満たされ
実がある。そのことを,ほとんどの島の人は
知らない。含蜜糖(黒糖)をつくっていた小
ない自分に気づくようになった。96年,当時
の自治省の外郭団体「地域創造」の助成を受
型製糖工場から,分蜜糖をつくる大型製糖工
けるかたちで,島唄のメロディーと沖永良部
場への転換という国策が背景にある。「黒糖
島の創世神話を素材にした,ワルシャワ室内
焼酎の原料となる奄美産の黒糖(含蜜糖)に
オーケストラによるクラシックCDを企画制
対する補助金を沖縄並にし,原料の黒糖を地
作した。波の音と,湧き水の音も収録した。
元」で供給できる制度が必要だ。戦後の糖業
いまではそのときどきの気分にあわせて,島
政策,そして黒糖焼酎については第8章で詳
唄,ロック,クラシックを聴く。島唄の価値
しく論じられている。
がわかるようになったからこそ,ロックもク
「あとがき」において,「開発と自立のジレ
ラシックもさらに楽しく聴くことができるよ
ンマを克服し,開発と生態系の調和を図って
うになった。今度は,三線と波の音,湧き水
19
奄美ニューズレター
No.92004年8月号
の音だけでCDを制作してみたい。
奄美自身に価値基準を置きなおして,「本
土旧本)」を,そして「世界」を再認識する
と,新たな可能性がみえてくるはずだ。そこ
から,「開発と自立のジレンマ」を克服するた
めの道が開けてくると思う。
CD「沖永良部の交響詩創世神話“島建シン
ゴ"」(東芝EM株)の湧き水の音を収録した「瀬
利覚集落のホー(湧き水)」
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奄美ニューズレター
NO92004年8月号
■研究調査レビュー
書評:環境問題と地域の自立的発展
神田嘉延編著高文堂出版社
高橋正弘(財団法人地球環境戦略研究機関)
私は学生の頃から,曰本国内の僻地や離島
ルタナティブを探ろう,ということである。
をよく旅をしてまわってきた。北海道の東部
本書は,まず僻地や離島という地理的に特殊
に位置する根室や知床半島,小笠原の父島や
な問題を抱えた地域において,発展,経済,
母島,日本海に浮かぶ小さな島々など,各地
環境,住民の学習といった課題のそれぞれに
の自然を堪能し満喫するために,これまで何
ついて,丁寧なフィールド調査を行ない,そ
度となく訪問してきた。とりわけ沖縄県の与
こで得られた事実や事例をふんだんに取り入
那国島が私のもっとも好きな土地で,与那国
れながら,課題へのアプローチに取り組んだ
には必ず毎年訪問することにしている。初め
力作である。とりわけ奄美大島や沖永良部島,
て与那国を訪問したのが確か1991年のこと
沖縄の読谷村や北海道の浜中町などの事例に
で,そのころの与那国はまだ道路の整備が完
ついて,地域の実態を見つめる過程で,それ
了しておらず,島を一周する道路は途中で途
らの地域独自の課題や問題点を開発と環境の
切れ,まだ完成していなかった。多くの道路
視点から抽出し,新たな地域づくりのあり方
が未舗装で,バイクなどで島を回るのに苦労
を紹介する,という方法で考察をおこなって
したことを覚えている。それでも,与那国の
いる。
持つ自然,特に野鳥や昆虫などには無条件に
都市部や発展途上国において,開発や環境
心引かれて,はるばる曰本最西端のこの島へ
保護への取り組みをどのように導入するか,
の訪問を積み重ねてきた。現在では与那国を
といった議論は今曰とても多く目にすること
一周する道路が完成し,レンタカーなどで実
ができるけれども,先進国曰本の中にある僻
に極めて快適に島中をドライブすることがで
地や島喚部が,このような問題に直面し,そ
きる。その分,ナマの自然は少しずつ減って
のため困難な解決への模索を行なっていると
きているような気がする。いたるところで農
いうことを,事例から解き明かしている点に
地改良工事がすすめられている。そしてそれ
本書は高い評価を獲得することができるであ
らの土地はさとうきび畑となっていく。そう
ろうと考える。ついつい私たちが見落としが
いった背景にあるのが実は沖縄振興特別措置
ちな僻地や離島地域であるが,それを取り上
法なのだ,ということが本書を読んでようや
げてそこでの困難を明らかにし,その解決へ
く理解することができた。
の道筋をつけた研究として,大変興味深い研
さて,本書が主として扱っているメッセー
究書であった。
ジは,僻地や離島といっても,それらの地域
本書を読んで,ウォーラステインによる世
の課題は全体的な経済や環境の変化と切り離
界システム論を思い出した。世界システム論
して存在する訳ではないし,また市場メカニ
によると,資本主義的世界経済は「中心一準
ズムを利用して開発を進めたり環境保全対策
周辺一周辺」の三層構造がその基本要素と
を行ったりしても,離島や僻地においてはそ
なっている。そしてその枠組みで世界を分類
の効果はあまり期待できない,そのため僻地
すると,欧米が「中心」に,欧米以外の先進
や離島ならではの開発と環境保全のためのオ
国や比較的豊かな開発途上国が「準周辺」に,
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No.92004年8月号
奄美ニューズレター
開発途上国が「周辺」に,そして太平洋島蝋
まうという悪循環に陥っていってしまうこと
国などが「周辺」のさらに最底辺に位置付け
になる。そこで,内発的発展や自立的発展と
られるということになる。地理的に見て広い
いう考え方が現れる。僻地や離島が他の地域
エリアに散在している島喚国などが資本主義
とも連携して多様』性をもちつつ発展していく
の利益の波の最も遠いところに位置しており,
ということが,これからの開発のあり方を考
人口や土地面積からも市場の規模が実際かな
える上で重要である。
り小さいため,発展への大きな困難を押し付
しかしながら,僻地や離島などは,本土の
けられているということが太平洋諸国の実態
持つ論理とは異なるそれらの土地独自の論理
である。世界システム論の「周辺」そしてさ
を持ち,本土の思考回路と断絶している部分
らに「辺境」に位置付けられている国々の開
もある。そして,その断絶した僻地や島蝋部
発が非常に遅れていることは,それらの国の
ならではの思考,すなわち生活や環境への適
経済の実態を見れば明らかである。
応の知恵によって,中央の考える発展への道
筋とは異なった,オルタナティブな開発や環
この「中心一準周辺一周辺」の三層構造は,
ややミクロ化して曰本国内に当てはめること
境保全の方策を新たに示していくことができ
が可能であろう。世界システムの枠組みを曰
る。そういった僻地や離島独自の思考やその
本に適応してみると,東京や大阪などの大都
風土のもとで得られてきた地域の知恵を,丁
市を「中心」とした曰本における資本主義的
寧に取り上げて扱うことで,今日の開発問題
経済のシステムは,曰本本土の工業ベルト地
の解決の一助とすることができるであろう。
帯などの「準周辺」を経て,僻地や島蝋部を
そういえば,私がなぜ僻地や離島に心惹か
「周辺」と位置づけ,中央突出型の経済シス
れるかも,その土地ならではの自然の在り方
テムを築いていることが理解できる。実際に
や生活のスタイルを見聞きしたり体験したり
沖縄県の平均所得は全国で最も低い。つまり
できることが楽しかったからである。僻地や
日本の僻地や離島が置かれている状況は,世
離島を旅していると,毎回必ず感嘆するよう
界システム論において太平洋島唄国などが置
な自然や人との出会いがある。それが旅をす
かれている状況と全く同様である。
る楽しみの最も大きなところであった。曰本
本書で「農村の人々の暮らしを守るには,
の国内では,「中心」もしくは「準中心」で生
多国籍企業の支配する国際的競争から地域が
活を構えている私が,「周辺」に行くことを楽
自立していくことが求められる。国家施策が,
しみにして繰り返しているということは,ま
多国籍企業の国際的競争を推進しているなか
さしく「周辺」で簗かれ守られてきた知恵を,
では,国家からの自立も重要であるが,国家
「中心」へと移転していく作業の-且を担っ
からの自立を志向すれば,補助金行政のルー
ていたわけである。開発の問題や環境保全は,
トにのらない(70頁)」と指摘されているよ
中央政府や地方政府だけで解決できるもので
うに,僻地や離島においては,それぞれの地
域が抱えている経常的な財政難から,中央政
はない。それぞれの土地に住む住民が,それ
ぞれで努力していく必要がある。それらの努
府が行う援助や政府事業による収入に多く
力や努力へのアイデアが広く共有されれば,
を依存するという歪んだ経済構造をもち,結
なお一層開発や環境の課題の解決につながっ
局その依存体質を引きずってしまうことにな
ていくであろう。本書は,そういったことを
る。そのことが,地域独自の自立への道を阻
明確に意識することの端緒となる研究である。
害し,中央依存体質を作り,望まない開発,
望まない環境破壊をもたらすことになってし
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奄美ニューズレター
NOL92004年8月号
■島喚スケッチ
沖縄にて奄美を考えたこと
花井恒三(奄美群島広域事務組合・奄美群島観光連盟事務局長)
<はじめに>
る。
甲子園球場で,鹿児島県代表と沖縄県代表
平成11年度から,両県の支援により,鹿児
が対戦するとき,地元の応援が真っ二つに割
島県の南端と沖縄県の北端が交流をすすめる
れる土地柄の奄美…。
ことが両県の交流に寄与し,併せてこの地域
それは,島津氏の征縄役を境にそれ以前
が琉球王朝,それ以降が薩摩藩に所属した歴
が両県の中心軸を形成するポジションを得る,
との趣旨で「奄美・やんばる広域圏交流推進
史と,近年の交流も常に北(本土)と南(沖
協議会」が発足した。会長職及び事務局は,
縄)の双方にウイングを拡げて交流してきた
双方の広域行政組織である奄美群島広域事務
奄美の特異'性によるものなのだろう。
組合と沖縄北部広域市町村圏事務組合とが2
沖縄の方たちが奄美を訪問されるとき,次
年交代で担当することになっている。
のような話をたびたび聞く。
これまで,設立シンポジウム,行政視察交
「沖縄の昔が,今,奄美にある。」「沖縄にな
流,議長視察交流,民間団体視察交流,共同
くて奄美にあるもの,それは,島全体が森で
観光物産展(於前橋市),共同ホームページ開
入り江が多く海峡を持っている。それに
設,児童・生徒による「交流探検隊」及び
リュウキュウマツとソテツが豊富に残ってい
「音楽祭」交流,青年層の洋上研修「クルー
ジングネットワーク形成事業」,人材育成事
業「移動かりゆし塾」及び「奄美TIDA(ティ
る。」
これらの話の延長線上に,私は,奄美のモ
チーフを次のように語っている。
ダ)ネシア塾」の開催,やんばる産業祭及び
「沖縄は太く生きる島,奄美は細く長く生
つつじ祭りへの奄美側の参加,などの実績を
きる島」「沖縄の奥座敷奄美,奄美の奥座敷加
積んできた。
計呂麻島,その大奥が与路島・請島」「奄美は
奄美側のやんばる圏域での視察先は,これ
沖縄っぽいけど沖縄でない。本土っぽいけど
まで,マルチメディア館,コールセンター,
海洋博記念公園,亜熱帯植物園,美ら島水族
本土でない,融合の魅力」
大学にたとえると,「総合大学の強みが沖
館,野生生物保護センター,フライト農業,
教育旅行&エコツアー受入施設,道の駅,名
桜大学,プロ野球誘致施設,リュウキュウア
縄で,単価大学の強みが奄美」
「温帯文化と温泉文化に慣れ親しんだ曰本
人が対極の亜熱帯・海水(洋)文化を沖縄で
ユ育苗施設,オリオンビールエ場,博物館,
味わい,その10人に1人のもっと奥を極めた
美術館,など数多くの施設と運営されている
い人のフィールドが奄美」
方々との交流をすすめてきた。
今回は,万国津梁館,国立沖縄工業高等専
く県際交流>
門学校,鍾乳洞酒蔵,スローフードレストラ
先月(7月),私は数年ぶりに県際交流で沖
ン,タラソ沖縄(タラソテラピー施設),体験
縄を訪問させてもらった。県際交流とは,奄
美群島と沖縄北部広域圏との交流のことであ
型観光施設むら咲むら,などを視察・交流し
た。
23
奄美ニューズレター
NO92004年8月号
また,この機会をとらえて,帰路の那覇市
満足度(自給率や物々交換,相互扶助シス
では,沖縄奄美会との懇親会交流も恒例行事
テム)の高い島の美学を観光の「売り」と
となっている。
し,そのためのシナリオとコンセプトをま
このほか,当協議会の活動が刺激となって,
とめ,曰本が忘れかけてきている儒教美学
市町村間の個別交流をはじめ,やんばる圏が
がいまなお流れている奄美の文化水準の深
事業導入した,「(奄美との)広域連携による
さを味わってもらうことで来訪者に生きる
自律型経済圏形成事業」を通じた,青年たち
力を与える,そのようなモチーフの島にな
のワークショップ交流,道の島・美の交流展,
れたら,と考えている。
奄美青年グループの「沖縄かりゆし塾」参加,
従って,これからの奄美は,意識して生
名桜大学生の奄美ゼミ・奄美まつり参加,復
涯学習人口や定年力人口,福祉人口の産業
帰っ子交流,沖縄のマスコミ(新聞・雑誌・
人口への参入を図り,有償ボランティア,
テレビ・ラジオ)による奄美特集,奄美での
NPO等の活動によるスキ間産業の創出を
オリオンビールまつりやオリオンベースボー
促すことが肝要であると考える。
ル奄美地区代表決定戦など,波及効果は測り
このことが,奄美が得意としてきている
知れないものがある。
「文化産業」や「産業文化」に磨きがかか
特に近年,奄美から名桜大学及び高専へ
り,「現金収入は高くなくても経済満足度
の進学する学生も増えており,喜ばしい限り
の高い,アイランドテラピー(島でいやす)
である。
の王者」としての道を歩んでいけるものだ
以上,今回は,県際交流に限って紹介した
と信じている。
が,那覇市をはじめとした,やんばる圏域以
外の地域との交流も数多く,市町村や団体等
2.観光客が那覇市から日帰り海水浴コース
で行け,ダイビング客に人気のあるクラマ
によって個別にすすめられている。
諸島を見てみたいと,久米島,渡嘉敷島,
く沖縄にて奄美を考えたこと>
座間味島の3島を訪れたが,いずれの島も,
L年508万人の観光客を迎える沖縄,那覇
村営フェリーのほかに,定期高速船を保有
市内の主要施設を訪れる際のタクシー料金
し,那覇市とそれぞれの島を結び,観光客
は,たいていワンメーター(450円)か,
を運んでいるさまには圧倒された。建造費
どんなに行っても千円台で,2千円を超え
は1億5千万ぐらいかと尋ねると,その2
るところはまずない。(タクシー料金への
~3倍ぐらいとの答え,どの事業費を活用
助成制度があると聞いた。)
したのだろう,と思った。種子島・屋久島
や甑島に走っている高速船とほぼ類似のタ
ビジネスホテルも居酒屋も,カラオケ
イプであった。
ボックスも,皆,安価であるし,沖縄料理
もスローフードに限りなく工夫されている。
奄美では,不定期の高速船と多くの海上
奄美群島の10倍を越える観光客を受入
タクシーが利用されているが,近年は小回
れ,「観光産業」に特化している沖縄ならで
りのきく,島間高速船の必要'性がうたわれ
はの光景で,ウーンとうなるばかりであっ
ている矢先,よい体験となった。
その一方では,奄美で現在保有されてい
た。
それでは,奄美観光はどうすればよいの
る高速船や海上タクシー,それに,観光面
でシステム化されていない遊漁船など,観
か?私は,次のように考えている。
奄美は格安満足度で行くのでなく,経済
光商品の提案と受入体制のシステム化の工
24
奄美ニューズレター
N0.92004年8月号
夫次第では,個人ツーリズム,体験型ツー
憩施設利用がセットで5百円の合計千円,
リズムに需要の高い奄美の受入キャパは十
とワンセットになっており,上手な運営が
分にあり,高速船の新規導入より現行体制
なされていた。また,海水浴場付近でビー
の工夫が先決,とも感じた。
チパラソル等のレンタルをしているおば
ちゃんたちの目もお金の目をしておらず,
3.久米島は,県立海洋深層水研究所と民営
沖縄の原風景に出会えた感じで,ホッとし
工場が有名であるが,新たにタラソテラ
た。
ピー施設をオープンした。私も,1回入浴
渡嘉敷島は,座間味島と共に,沖縄戦で
しただけで,皮膚のできもののかゆみが入
集団自決のあった島で,港の待合室と博物
浴後なくなった。海洋深層水を地下から汲
館が併設されており,待合時間を利用して,
み上げて利用しているが,他の健康関連施
その島の歴史を知る観光客の利便に応えて
設との連動』性がなく,自己完結型の施設と
いた。奄美も,各島の港や空港の待合室に
なっていたため,運営は大変だろうなと
将来,当該市町村の博物館や歴史民俗資料
思った。沖縄本島の,もっと規模の大きな
館の分室(展示室)を整備して,文化性を
タラソ施設も,その施設のみの自己完結型
高めていくことが知的観光の島へとつな
であった。
がっていくものと考えた。
奄美でつくる場合は,宿泊施設や医療施
設,他の健康増進施設(リハビリ,トレー
ニングなどエクササイズ),本モノの海中
での運動療法や砂浜タラソ利用も含めた
トータルプログラムの開発と,セラピー系
マンパワー(セラピスト)の確保など,可
能な限りの総合力が発揮された施設間のリ
ンクが必要だと感じた。
【渡嘉敷島の海水浴場】
雛
5.座間味島は,奄美の加計呂麻島周辺の
島々がコンパクトに近づき合ったような抜
群のロケーションで,那覇市から高速船で
50分程度の近さにあり,人気スポットの程
がよく理解できた。
Il Il1Il l量l墨il l l lIlIl l l l l l l ilil lilil 1liIi l篝i l il l i篝|鑿臺il Ji i jli i li1lmi i mlinLJi(hlH
【久米島の沖縄県海洋深層水研究所】
6.モノづくりで驚いたのは,沖縄産品自動
販売機にあったウコンの高価格飲料のボト
4.渡嘉敷島の海水浴場は,冷水シャワーで
ルに,「沖縄県工業技術センター共同開発」
なく,温水シャワー施設があった。港から
と記されたラベルを見たときだった。色々
海水浴場までの往復バス代が5百円,海水
な仕掛けをするものだと思った。
浴場の温水シャワーとコインロッカー,体
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奄美ニューズレター
No.92004年8月号
.「沖縄県推奨優良県産品ガイド」(沖縄県)
7.それではここで,数年ぶりの沖縄訪問
だっただけに,多くの書籍やパンフ,チラ
.「糸満観光農園」
シを入手してきたが,これからの奄美の生
.「やんばる自然塾(エコツアー)」
きる方向とマッチングするテーマに絞って
.「沖縄を食す!元祖スローフード」
紹介しよう。
・うたあしび「歌・楽座」
.「沖縄スタイル……移住計画」
。「沖縄スタイル……沖縄で暮らす~東京・
.「沖縄の物流革命」
大阪で堪能する沖縄料理~」
.「沖縄は,いま,ブランド王国へ」(NPO
法人チャンプルツーリズム協会)
.「琉球王朝秘伝・発酵うこん」
.「夢みる南国エステ」
.「沖縄が自然学校」(沖縄自然学校ネット
.「沖縄の潮干狩とキャンプ場マップ」
ワーク)
.「沖縄・元祖スロー王国」
.「沖縄・海遊び」
.「沖縄・名作の舞台」
.「はじめての奄美」(日本トランスオー
.「高等学校琉球・沖縄史」(沖縄歴史教育
シャン航空機内誌)
.「沖縄ロングスティ」
研究会)
.「沖縄県産品通信販売カタログ」(わした
.「高等学校琉球・沖縄の歴史と文化」(沖
ショップ)」
縄歴史教育研究会)
.「沖縄・ビーチガイド」
.「沖縄で癒す」
.「沖縄・世界遺産マップ」(側沖縄観光コ
.「沖縄アウトレットモールあしびな」
ンベンションビューロー)
追記……これらのほか,「スポーツ合宿」「ア
.「沖縄観光情報ファイル美ら島」((財)沖縄
イランドキャンパス」「教育観光」「大型クルー
観光コンベンションビューロー)
.「沖縄台風対策マニュアル(空便利用者
ジング船誘致」「視察研修」「農業観光」など,
編)(㈱沖縄観光コンベンションビュー
奄美でも今曰的課題となっている図書・パン
ロー)
フ等さがしたが見当たらなかった。これらは,
奄美が先例となる』情報誌を作成しようと考え
.「日帰り離島めぐり」((財)沖縄観光コンベ
ンションビューロー)
ている。
.「沖縄フィルムコミッション」((助沖縄観
くまとめ>
光コンベンションビューロー)
「沖縄は観光で行くところ。奄美は住んで
.「南国リゾートウェブイング」((助沖縄観
みたい落ち着いた島」とは,Iターン希望者
光コンベンションビューロー)
からよく聞くことばである。沖縄では,明曰
.「気をつけよう海のキケン生物」(沖縄県
現金を持たなければ生きていけない雰囲気が
福祉保健部)
.「かりゆしウェアテキスタイルデザイン
あったが,帰路の奄美空港から名瀬市へ向か
うバスの中から身近に感じる奄美の山々に抱
コンテスト」(主催沖縄県)
.「のんびり沖縄(ロングスティプラン)」
かれると,ひょっとしたら奄美では明日現金
持たなくても,この野山の草でも食べて生き
(27泊28曰プランほか)
ていけそうな雰囲気を感じることだった。
.「医食同源」(ウェルネスチャイナ心彩身)
いま我が国は,沖縄をアジア・太平洋の
.「東村やま学校うみ学校」(東村エコツー
ポータル(玄関口)と位置づけ施策展開をす
リズム協会)
26
奄美ニューズレター
N0.92004年8月号
すめているが,沖縄がその役割を担うために
がて奄美が「知的観光の島」にグレードアッ
は,沖縄観光がこれまでヨロン島を必要とし
プできるかどうかにかかってくると思う。
てきたように,今後は,「昔の沖縄が残ってい
エッ,「沖縄のあの人」は男』性だった?それ
る」奄美全体をとり込んで沖縄の多様』性を発
とも女』性だった?……ウフフフ,内緒ヨ
揮する時代に入った。
そのためには,奄美が沖縄に同化するので
はなく,奄美は沖縄の奥座敷としての位置を
キープすることにより,奄美・沖縄が「交流」
の時代から,「ソフトの連携軸」へと移行する
時代に入ったことを再認識できた旅だった。
従って,奄美群島振興開発特別措置法(通
称,奄振法)とその計画も,「沖縄」と「離
島」のそれの中間の位置を占めつづけること
が国益に叶う道であることを主張しつづけた
いと思う。
くおわりに>
私が今回の沖縄の旅で得られた満足度は,
以上のように理屈っぽいものの見方・考え方・
世界解釈ではない。「沖縄には会いたい人が
いる!!あの人に会える11」との願いが叶えら
れた満足度の方が大きかった。沖縄で会える
人がいて,時間つぶしの空間を共有できて,
視野を拡げられた満足度が旅の効果を高めた
のだった。
奄美は本年度から,当組合が事業主体と
なって,奄美群島振興開発事業により,「奄美
ミュージアム事業」がスタートした。文字ど
おり奄美群島民一人一人が「奄美には会いた
い人がいる。あの人に会いたい11」と指名さ
れる島の構成員になろう。また,出会う方た
ちには,奄美の魅力を語れる博物館員(学芸
員)に皆がなろう,という人材と産業間の
マッチングを目指す事業だ。
交流人口や半定住人口の満足度の最大の要
素は「人と人との交流」満足度にかかってい
ると言われて久しいが,奄美は「男はつらい
よ」のトラさんが千人,さくらが一万人いる
トラさんピラミット型人材豊富な島である。
「奄美ミュージアム推進事業」の成否が,や
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奄美ニューズレター
No.92004年8月号
北方向で,顔は西側を向いている。これら2
■ち一びし
つの遺構は同一層であり,埋葬姿勢も類似す
○中村直子「種子島小浜遺跡発掘
調査報告」をめぐって
る可能'性が高いことがわかった。また,
1997年調査の埋葬遺構とも埋葬姿勢など類
-第8回定例研究会報告
似点が多く,同時期の可能,性が高いと推定で
きる。
今月号では,7月の定例研究会でご報告い
今後,人骨の放射'性年代測定などを用い,
ただいた中村直子先生(法文学部人文学科・
詳細な遺構の年代を決定していく予定である。
埋蔵文化財調査室)の「種子島小浜遺跡発掘
(中村直子)
調査報告」についてご紹介します。
「壹見麦硬|
廟害婁冒I
研究会出席メンバーの多くが,考古学につ
種子島は,弥生.古墳時代並行期の埋葬遺
いて専門外でしたので,意見交換というより
跡が砂丘上に見つかっており,人骨の残りも
中村先生への質問という形で会が進められま
よいことから,考古学・形質人類学上重要な
した。ということで,Q&Aの形で会の模様
地域として注目されている。筆者ら調査団は,
をご紹介します。
今年4月に小浜遺跡で埋葬人骨を発見し,そ
Q種子島には埋葬遺跡しかないのですか。o
の発掘調査を行った。
遺跡は,西之表市伊関浜走に所在する。調
A弥生・古墳時代並行期の遺跡については
査は,平成16年6月6曰~13曰に実施した。
埋葬遺跡しか発見されていない。層の中に
遺跡の立地は砂丘地である。この遺跡は,
土器が入っているという状態の遺跡もある
1997年に熊本大学を中心とする調査団が発
が,それだと住居跡等が出てこないので詳
掘調査を行い,3体の埋葬人骨を確認してい
細なことはわからない。
る。副葬品などは出土していないが,埋葬遺
Q埋葬遺跡は砂丘以外の場所では見つかっ
構と同一層から上能野式土器が出土している
ことから,古墳時代並行期と位置づけている。
ていないのですか。
A現在のところ弥生・古墳時代並行期につ
今回発掘調査を行ったのは,その地点から
南に約50m離れた地点である。調査目的は,
いては,砂丘以外の場所で埋蔵遺跡は発見
発見した埋葬人骨(1号墓)の発掘調査であっ
されていない。山間部でも遺跡は出ている
たが,埋葬人骨から南西に2m離れた砂丘壁
が,もっと古い時期(旧石器時代や縄文時
面に覆石墓(2号墓)を確認した。これらは
代)の居住跡の遺跡で,墓は発見されてい
いずれも同一層に含まれるものである。
ない。砂だと人骨も残りやすく,また発掘
1号墓は士塘墓であるが,検出面が表土に
もしやすいが,士に埋められた骨は残りに
近く,その上層は掘削されていたため,覆石
くい(土壌の中には微生物がたくさんいて
墓であった可能性もある。埋葬姿勢は,横臥
腐る速度が早い)。
屈葬で頭位は北西,顔は西側を向いていた。
またきつい屈葬姿勢であった。人骨は30歳
Q人が住んでいた場所と墓は遠いのですか。
前後の男`性である。副葬品・装身具はなかっ
A小浜遺跡は砂丘にあり,近くに居住でき
るような場所はない。詳細については今の
た。その他の遺物も出土しなかった。
2号墓は壁面観察のみの所見だが,頭位は
ところ不明である。
28
奄美ニューズレター
NO92004年8月号
前から頭を変形させる風習があったのでは,
Q縄文時代と弥生時代では,住居と墓の関
と言われていた。ただ,変形させるのに
係が異なると言われていますが。
A一般的にはそう言われているが地域に
使ったと思われる道具は出土していない。
よっていろいろなパターンがある。相対的
インカ文明でも頭を変形させる風習があっ
にいうと縄文時代の方が集落と墓は近いよ
た。
うだが,その中でも墓と居住は分けている
方が多いようだ。弥生時代の場合もいろい
Q人々の間に階層性は進んでいなかったの
ろなパターンがある。小浜では墓と居住区
でしょうか。
はある程度離れていたと推定している。
Aなんらか階層はあったと思うが,古墳文
化に見るような複雑な階級'性,階層'性はそ
Q種子島に鉄器や夜光貝は入っていたので
れほど発達していなかったと思う。
すか。
A鉄製の釣り針が1点出土している。鉄器
Q種子島の他の遺跡では,二次葬(集骨)
がどの程度普及していたかは不明だが,
が確認されたということですが,なぜ小浜
入ってはいただろう。ただ,そんなに普及
だけ屈葬なのですか。
していたとは思えない。夜光貝も出土して
A種子島の遺跡では,広田遺跡(で見られ
る集骨)の方が特異である。種子島では小
いる。
浜以外の遺跡でも屈葬が見られる。そうい
Q屈葬にはどんな意味があるのでしょうか。
う意味では小浜遺跡の方が普通と言えるか
Aどういう意味があるのか不明である。悪
もしれない。
霊が出ないように行ったという説もある。
屈葬といっても様々なパターンがある。
Q種子島の北と南では地域差はあるのです
か。
Q古墳時代における南九州と種子島の交流,
A遺跡の時期の特定が必要であり,それが
関係についてお聞きしたい。
はっきりしないと何とも言えない。
A弥生末期,古墳前期,南九州と種子島の
間に交流があった痕跡がある。ただ,種子
次回の定例研究会につきましては,8月は
島の文化圏は鹿児島とは別であり,物は
お休みして,9月1曰に開催いたします。報
入っていたが,風習は独特である。種子島
告者は北村良介先生です。
は南西諸島と西北九州の交流のポイント
だった可能性がある。人の移住について言
○曰時:9月1日(水曜)
うと,広田遺跡から中国(人)が種子島に
午後6時~午後7時30分
渡来したとの指摘もあるが,その可能性は
○場所:法文学部2号館3階会議室
低いと思う。考古学的には立証できていな
○報告者:北村良介先生(工学部)
い。
○報告題目:「鹿児島県内の士の保水・透水・
圧縮・せん断特`性一降雨に伴
Q小浜遺跡の人骨から,頭部を人為的に変
う地盤の力学特'性の変化一」
形させる風習があったことが推測される,
というお話しでしたが・・・
(研究会事務担当/山本一哉/法文学部)
A人骨を見ると,扁平に変形している。以
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No.92004年8月号
奄美ニューズレター
おける利子の取扱い」『経済学研究』(九州大学経済学会,
定例研究会での配付資料(研究会の模様
2003年)
はIcレコーダーで録音し,電子ファイル
の形で保存しております)や今後の研究会
■津田勝男(つだかつお)
の開催予定等につきましては,研究会事務
担当の北崎浩嗣(O99-285-7592)もし
①1957年・長崎県
くは山本一哉(O99-285-7595)までお
②鹿児島大学農学部生物生産学科病害虫制御学講座助教
問い合わせ下さい.
授
③害虫学,昆虫病理学
④『チャバネアオカメムシから分離されたウイスル様病
原体の'性状」日本応用動物昆虫学会誌,1997年
○執筆者紹介
『人工飼料によるコブノメイガの飼育」日本応用動物昆
①生年・出身地,②所属,③専門領域,④研究業績,⑤
虫学会誌,2000年
奄美と関係した活動
の順番で掲載しております。
「ThebiogeographyoftheinsectfaunaoftheUlithiislands,Micronesia」KagoshimaUniversity
■皆村武一(みなむらたけいち)
ResearchCenterforthePacificIslandsOccasionalPap-
①1945年・鹿児島県沖永良部島
ersNo.39,2003年
②法文学部経済情報学科国際協力講座
⑤アリモドキゾウムシ人工飼料開発研究会で鹿児島県と
③イタリアおよび日本経済の比較研究,伝統社会の研究,
共同研究を実施中
奄美経済の研究
④著書
■前利潔(まえとしきよし)
『奄美近代経済社会論』(晃洋書房,1988年)
『戦後日本の形成と発展』(日本経済評論社,1995年)
①1960年・沖永良部島知名町
『戦後奄美経済社会論」(日本経済評論社,2003年)
②知名町役場
③奄美経済史,奄美論
■朴源(バクウォン)WonPark
④「奄美自立への試論」(共著『滅びゆく鹿児島』1995年),
「無国籍の奄美」(『論座』2003年8月号)
①1964年・韓国
「奄美と沖縄,ヤポネシア論の受容の仕方」(共著『地
②法文学部経済情報学科地域計画講座
域と出版~南方新社の十年を巡って~」2004年)
③財政学
⑤沖永良部郷土研究会会員,日本島蝿学会会員
④「開発財政をめぐる国と地方」『鹿児島における開発政
策と地方財政』(鹿児島県地方自治研究所,2001年),
■花井’恒三(はないこうぞう)
「地方消費税:回顧と展望」『自治研かごしま」NOL79
(鹿児島県地方自治研究所,2003年),「付加価値税に
①1947年
30
奄美ニューズレター
No.92004年8月号
②奄美群島広域事務組合・奄美群島観光連盟,(財)奄美
広域中小企業勤労者福祉サービスセンター各事務局長
⑤http://WWW,amami・orjp(広域行政),
http:"www.minc・nejp/amami/(奄美群島観光連盟・奄
美群島体験交流観光プログラム・奄美群島特産品カタ
ログ),
httpWWww、15.synapse/neZjp/amamifUkki/(奄美群島日
本復帰50周年)
TELO997(52)6032
FAXO997(52)9618
31
○編集後記
■表紙の写真は,左からアヤマル岬,金作原原生林,笠利崎灯台です。
StephenCother先生(法文学部)よりご提供いただきました。ありがとう
ございました。また,Cother先生のご助力のもと,裏表紙レイアウトをリ
ニューアルいたしました。仕上がりはいかがでしょうか。読者の皆様に気に
入っていただければ幸甚です。さらに,Cother先生には,先月号より,裏表
紙の英文目次へのネイティブチェックもお願いしております。
このように,プロジェクトメンバー以外の方々からも様々な面でご協力い
ただきながら,本誌の刊行は続いております。今後もレイアウトや文字の見
やすさ等に気を配り,全体的に完成度の高い冊子を目指していきたいと思い
ます。(1)
舜
塗
/ノロ.
/』し
.》》』
抄/・ゴ
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露
・アノ
》
ゴキク
例二J・
キ
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一舜
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挿
》〉汚く》餌平炉z密〉一生存〈十..;』卸〉泄午年(吟.》少守〉》‐〉ず.》〈』〉屯」/昨‐〉嚴乍町沙・屯亟公年.』〉胆7分れ綾〉〈鍔?〉・年》汗』》『〉》『か.蠕牛〉〃〉』々〈〈ズ》‐,》・的》〉れぞ〈》嫁宅〈(...“〉》牝曲れ“〉》徴〈‐|ザ佇北密くみ》・〉・〈一蠕卒密》》〈》〉‐‐》〈》.》〉〃〉〈》》》かくみ》》》〉..〈壬{}〃』‐・ず〉〉》み》平が”〈哺知〉〉主〈好》,汗一》》年密嚴〉》』》が..γれむ.〉副》蠕尹〈.‐〉・〉〉・》罰》》屯〉》,,鈩埣”..〉w妙〈〈年/》』〉》〃〈北』鍔一存〉〈+『必キハギ》作〉〉・行シガヤ〃』}〉》〉{行〈知愁評〃》行》〉》々(』》ん〃》“一一』『洋一年〈〆で〃〃{〃『洋宅年』》)》・洋一}必一ヤヤル究〆》〉》』{〃『亜マキーダ,一十“》一〆
は子プと行て現でる,
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訓蹴淵朔枇b価仔恢胴式井号
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新録美良と取‘か師回い、。
Ⅲ臓穏淋励肌乢加憾謝ヌジ丘
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ンポジ開て定‘な,め企・
ポジウ催現し歴が一丁ま画体・
シンポ‘し予業え場進るへ』
開シンがとを産ま会をけ・
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公はシすめ半い踏,業だ・・
たにのまじ後し●も時作た》》
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にと・を町時のご目一〈中を》》({》
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曰会す究泊催立の,を心丑
引盛ま研和開・[曰らは局関刀
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年以れエ定し農方9
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予定ロにいは地すよ多群率
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鍔腱溝〉〈(独一》謬溌桿稔溌寛蕊蕊篭稔(〉葱〉移鋭〉溺愛〉(』〉斡溌豚{へ〈(惑稼や《壕診→餐溌〈影』感蕊一一憧》諺→溌嫁一義〉滋懲蕊鐵凝懲謬霧溌篭溺鯵彰溌)蕊亀織{擁
印刷南日本共同印刷株式会社
発行鹿児島大学
AMAMINewsLetter
奄美ニューズレター
編集責任者萩野誠
研究責任者山田誠
》
”〆.‐
。
>;がブ錘騨霞騨シ;露蕊鋒鐙禽
淳蕊‘摩鐸:::鋒fズゲ
第2回シンポジウムは沖永良部・和泊町で
VOlume9
August2004
■ResearchReview
1
AimingattheSustainableDevelopmentoflsland
Comm1Inities
MinamuraTakeichi(FacultyofLEH)
7
RecentTrendsinLocalAllocationTaxesinthe
AI1mmilslands
WonPark(FacultyofLEH)
13
IrialEradicationoftheSweetPotatoWeevil,qノノas
/b7mjca7iizLs(Ftzb7ijcijms),usingtheSterile-insect
ReleaseMethod
TsudaKatsuo(FacultyofAgriculture)
17
SocZoeco7zomjcDeueノOpmc〃tj〃theAmamZISJα"ds
CU/ife7WWII(MinamuraTakeichi)
ReviewedbyMaetoshiKiyoshi(China-cholbwn
Hall)
21
E"ui7o〃me〃tαノP7o6/emsa7zdAILto"omolLs
CommuJzjtDノDeueJOpme7zt(KandaYbshinobu)
ReviewedbyTakahashiMasahiro
(InstitutefbrG1obalEnvironmentalStrategies)
■AmnmiSketch
23ConsideringtheAmamilslandsbasedonthe
OkinawanExperience
HanaiKouzou(Director,BroaderArea
AdministrationofAmamilslands)
gInfoTmRtion
KACOSHlMAUNlVERSlTY
ISSN-1348-8872
$…晒し
Fly UP