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本文ファイル - 長崎大学 学術研究成果リポジトリ

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本文ファイル - 長崎大学 学術研究成果リポジトリ
NAOSITE: Nagasaki University's Academic Output SITE
Title
低密度ポリエチレン(LDPE)の生分解菌の探索と生分解誘引剤の添加
効果に関する研究
Author(s)
渡邊, 智子
Citation
(2008-09-10)
Issue Date
2008-09-10
URL
http://hdl.handle.net/10069/20168
Right
This document is downloaded at: 2017-03-28T16:32:32Z
http://naosite.lb.nagasaki-u.ac.jp
低密度ポリエチレン(LDPE)の生分解菌の探索と
生分解誘引剤の添加効果に関する研究
2008 年 7 月
長崎大学大学院生産科学研究科
渡邊智子
-目
次-
第1章 緒 論
1.1 本研究の目的
頁
1
1
1.2 高分子材料の劣化と生分解
1.2.1 ポリエチレンの酸化劣化とその機構
(1) 熱酸化劣化
(2) 光による劣化
(3) 微生物劣化
1.2.2 汎用プラスチックと生分解プラスチックの市場動向
(1) 市場規模
(2) 実用化されている用途
(3) その他の実用化分野
4
4
4
6
8
9
9
12
12
1.3 本研究に関する既往の研究
1.3.1 難分解性プラスチックの生分解
(1) ポリエステル
(2) ポリウレタン
(3) ナイロン
(4) ポリオレフィン,ビニルポリマー
1.3.2 ポリエチレンの生分解に関する既往の研究
1.3.3 生分解性プラスチックの評価
(1) OECD テストガイドラインをもとにした標準試験法
(2) 国際規格 ISO の制定
1.4 生分解の評価技術
1.4.1 生分解プラスチックの実際の評価手法
(1) 室内試験法 JIS K 6950
(2) 土壌埋設試験(フィールド試験)とその注意点
(3) 促進試験
(4) 分解部の分析評価
1.4.2 生分解プラスチックの分析手法
(1) 走査型電子顕微鏡 (SEM)
(2) 顕微フーリエ変換赤外分光法 (Microscope -FT-IR)
(3) 高温ゲルパーメーションクロマトグラフィー(GPC)
13
13
13
14
15
16
19
21
21
21
25
25
25
26
29
31
34
34
34
34
1.5
35
本研究の概要
文
献
第 2 章 32 年以上埋設された LDPE と他ポリマー成形品の生分解挙動
2.1 緒言
37
42
42
2.2 実験
2.2.1 試料
(1)サンプリング場所
(2)試料の種類
(3)試料埋没期間
2.2.2 土壌の化学分析と土壌の菌数測定および微生物の同定
(1)土壌の化学分析
(2)土壌微生物の菌数測定および同定
(3)機器分析
42
42
42
42
45
46
46
46
46
2.3 結果と考察
2.3.1 サンプリング場所の土壌状態
2.3.2 外観観察と重量変化
2.3.3 顕微鏡 FT-IR と X 線光電子分光装置(XPS)による酸化劣化度
の測定
2.3.4 分子量の変化
2.3.5 LDPE の生分解機構の推定
2.3.6 自然界(畑,庭,野原)に散乱している LDPE フィルムの生分
解
47
47
49
52
2.4
66
文
要約
献
第3章
LDPE 分解菌の特定
3.1 緒言
3.2 実験
3.2.1 LDPE 分解菌分離用試料
(1) 土壌及び分解途上 LDPE フィルムの採取
(2) 分離源培養液の作成
3.2.2 分離培地
3.2.3 集積振とう培養法による一次選別試験
3.2.4 微生物の LDPE 分解能の評価
57
61
64
67
68
68
69
69
69
69
70
71
73
3.2.5 微生物の純粋分離と属の同定
3.2.6 LDPE 分解能を有する微生物の取得
3.2.7 バシラス属の種の同定
74
74
75
3.3 結果と考察
3.3.1 微生物の LDPE 分解能の評価
3.3.2 微生物の純粋分離と属の同定
3.3.3 LDPE 分解能を有する微生物の取得
3.3.4 バシラス属の種の同定
3.3.5 LDPE 分解能力の再確認
75
75
78
81
81
83
3.4 要約
85
文
85
献
第 4 章 生分解誘引剤の開発とその有効性の評価
4.1 緒言
87
87
4.2 生分解誘引剤の配合設計
4.2.1 生分解に及ぼす化学的因子
(1) でんぷんの効果
(2) 有機金属化合物(Fe,Al 等)の効果
(3) 酸化オイルの効果
89
89
89
90
94
4.3 生分解誘引剤の長期評価
4.3.1 実験
4.3.2 長期土壌埋設用ベースポリマーの選択
4.3.3 埋設土壌および埋設期間
4.3.4 生分解状況の評価
(1) 目視,デジタルマイクロスコープおよび SEM による外観観察
(2) 重量測定による分解度の算出
(3) 高温 GPC による分子量および分子量分布測定
(4) 顕微 FT-IR による官能基の同定
96
96
96
97
98
98
98
98
99
4.4 結果と考察
4.4.1 土壌埋設試料の外観
4.4.2 試料の表面および断面の形態
4.4.3 重量変化と分解速度
4.4.4 分子量および分子量分布の変化
100
100
101
107
108
4.4.5 顕微 FT-IR による官能基の同定
110
4.5 要約
112
文
113
第5章
献
総
謝辞
<付 録>
論文リスト
括
115
119
120
120
第1章
1.1
緒
論
本研究の目的
ポリエチレン(Polyethylene:以下 PE と称する)の特徴として,耐食性,耐薬品
性,電気絶縁性,可とう性等に優れ,なおかつ廉価でもあり,燃焼時にハロゲンを
含むような有害なガスを発生しないことが挙げられ,安全,安定な高分子材料とし
て食品包装用にも多用されている身近なプラスチックで,世界で最も普及した合成
高分子として定着し,工業的にも,生活必需品としても,かけがえのない重要な材
料といっても過言ではない.
PE は,1933 年に I.C.I.社の高圧有機合成研究室において合成されたのが最初で
ある 1).エチレンを微量な酸素の存在下 1000 気圧という高圧にすることで重合す
るもので,高圧法 PE または低密度 PE(Low Density Polyethylene:LDPE)と呼ば
れる.メチル基やエチル基の枝分かれの多い分子構造を示し,透明で柔らかく現在
もポリ袋等として広く用いられている.その後,遷移金属触媒であるチーグラー・
ナッター触媒を用いた合成法が検討され,1950 年代にこの方法で PE が合成され
た 1).この方法では,分岐が非常に少ない直鎖状 PE が生成し,高密度 PE(High
Density Polyethylene:HDPE)と称され,LDPE とは異なり不透明で硬く脆い性
質を示すため,ビールケース等強度が要求される用途に用いられている.現在では,
エチレンとα-オレフィンを共重合することによって分岐鎖を少量導入し,直鎖状
PE でありながら LDPE のようにしなやかな直鎖状低密度 PE(Linear Low Density
Polyethylene:LLDPE)や中密度 PE(Medium Density Polyethylene:MDPE)と
称される樹脂が開発され,それぞれ用途に合わせた使用が成されている.
しかし,“生あるものは必ず死す”,“形あるものは必ず壊れる”という諺の通りの
運命があり,特に PE は有機材料であるため,他ポリマーと比べ非常に安定とはい
え劣化を考慮する必要がある.PE の劣化に関するこれまでの研究は,紫外線劣化,
熱劣化,低温破壊,クリープ,疲労劣化,環境応力破壊劣化,放射線劣化等,物理
的要因,化学的要因等であり,生物的な要因についてはほとんど研究されていない.
この理由としては,PE をはじめとして合成高分子はポリビニルアルコール
(Polyvinyl Alcohol:PVA)等の一部の高分子,あるいは低分子量の合成高分子を除
き,微生物には分解されない,永遠に腐らない分子構造であるという強い固定観念
があったためと考えられる.近年,環境保全という一昔前の地域限定の公害を超越
1
した地球環境という概念の中で,さまざまな生分解プラスチックが誕生し,それと
あいまってか,従来から使用されている汎用プラスチックの生分解性についても少
しずつ注目され,論議され始めている 2).世界の PE の生分解性の詳細な研究につ
いては,現在 Albertsson らの HDPE に関するもの 3~6)と,大武らの LDPE に関す
るもの
7~18)が中心であり,他は非常に少ないのが現状である.大武らの研究は,
阪神大震災以来,ガス会社では MDPE を土壌埋設用ガス配管材料としての使用を
進めているが,30 年以上長期土壌との接触を余儀なくされるため,ガス管の微生
物劣化という観点から注視されている.
ところで,最も高い生産量を誇る難分解性汎用プラスチック LDPE が,現在市
場に流れている生分解性プラスチック同様の生分解性をある条件下で示すとした
ら,地球環境保護に対する関心が世界中に高まる中,地球環境保全に非常に大きな
役割を果たす一助になると考えられる.この LDPE に対し JIS Z 2911 に規定され
ているカビ抵抗性試験を実施すると,多量に酸化防止剤を添加された場合を除いて,
ほとんどの供試 LDPE にカビが繁殖する事実からも分解環境条件さえ整えば,分
解の可能性は十分あると考えられる.特に,現在上市されている生分解プラスチッ
クは,他の汎用ポリマーと比べて単価が数倍も高いことから市場への浸透は極めて
低く,生分解プラスチック普及の妨げの大きな要因となっているのが実情で,どん
なにすばらしい製品でもコストを無視できない厳しいマーケット事情があり,もし
LDPE の生分解促進化が可能であればコストの面でも優位な材料になると考えら
れる.
本研究では,LDPE の生分解挙動とその分解メカニズムを把握するために,野山,
畑等でのフィールド調査を実施し,32 年以上土壌に埋没していた LDPE 成形品を
採取して詳細な分析を行い,生分解機構を提案する.また,畑に鋤き込まれて土壌
に埋没して生分解を生じている LDPE 製農業用マルチフィルムとその付着土壌等
を採取し,集積振とう培養により LDPE を特異的に分解する能力を有する菌を探
索,同定する.さらに,生分解メカニズム解析データを基に,LDPE の生分解を促
進するための生分解誘引剤を選択し,生分解誘引剤添加 LDPE フィルムを微生物
活性な土壌に 13 年という長期間埋設し,生分解誘引剤の有効性を評価することを
目的とした.
2
これら一連の LDPE の研究は,生分解プラスチックばかりではなく,土壌に接
するさまざまな成形品の信頼性,耐久性等の評価にもつながり,工業材料に対して
も,極めて有益な研究になるものと考えられる.
3
1.2
高分子材料の劣化と生分解
汎用樹脂は,成形加工時より僅かずつ劣化が生じ,実際の使用中に劣化が進行す
る.劣化の開始としては,熱,光,化学薬品,放射線,機械的応力,微生物などが
挙げられ,酸素,水分が加わると劣化は著しく促進される.
PE の劣化の特徴としては,酸素や水分などによる劣化の促進が PE 成形品の非
晶部分の量と関係が深く,酸素の拡散浸透速度が律速となる.また,分子鎖の切断
と同時に,特に酸素存在下では架橋結合が生成されることより,分子鎖の運動を大
きく阻害し,溶解性,流動性,加工性などを低下させる.
生分解の過程は,微生物が樹脂表面に導かれる条件が整っているかどうかによる.
劣化により酸化活性点が生じると,微生物攻撃にさらされやすくなる.また,カル
ボニル基などの親水基が増加すると,PE のような疎水性高分子でも水分吸着性を
示すようになり,微生物活動に必要な水分が得られる.生分解は通常の酸化劣化と
相乗して進行するため,その劣化について述べる.
1.2.1
ポリエチレンの酸化劣化とその機構
(1) 熱酸化劣化
PE は融解しないような低温においても,ゆるやかに酸化反応が進行し,その結
果として分子の切断や架橋と共にアルコール,アルデヒド,カルボン酸,ケトンな
どの酸化物が生成される.酸化劣化は,必ずラジカルの生成から開始され,その生
成が熱によるのか,光か放射線かの差異があるにすぎない.ここでは酸化反応の基
本的メカニズムを Figure 1.119)に示す.ラジカル同士の停止による架橋や分子の開
裂による分子量の低下の他に,アルコール(-OH),アルデヒド(-CHO),カルボン酸
(-COOH),ケトン(>C=O),エステル(-COOR),ヒドロペルオキシド(-ROOH)など
の酸素を有する官能基が生成する.
また,PE の融点以下の熱酸化劣化挙動を調べるために,LDPE を 100°C のオー
ブンで 200 日間処理した場合は,架橋によるゲルの生成とともに,分解も生じ,
平均分子量が低下し,分子量分布の幅(Mw / Mn)が狭くなる 20).
4
○
Initiation reaction
RH
○
heat
RH・(excitation) or
R・ + ・H
Chain reaction
R・ + O2 → ROO・
RH +
ROO・→R・+ROOH
ROOH → RO・+・OH
2ROOH → RO・+ROO・+H2
ROOR→2RO・
RH+RO・ → R・+ROH
HO・+RH → H2O+R・
○
Chain scission
O・
O
R-C-R’
→
R-C-R”
R”
+
R’・
Ketone (R”=R)
Aldehyde (R”=H)
O
O
R-C-H
+R”
R-C・
O
+O2
R-C-OO・
+R”H
-R”・
-R”H
○
O
Termination
R・ + R・ → R-R Molecular enlargement
R・+
ROO・→ ROOR
ROO・+・ROO・ → ROOR + O2
R’-CH2-O・+RO・ → R’-CHO + ROH
Aldehyde
Figure 1.1
Alcohol
Reaction scheme of oixidation.19)
5
R-C-OOH
Peracid
(2) 光による劣化
PE の光劣化は,上述の熱酸化劣化と基本的には同じである.光劣化は,光エネ
ルギーの吸収により開始される.屋外暴露の場合は,雨や風などの光以外の影響を
受ける.さらに,光エネルギーの浸透から考えて劣化が極表面付近に限定されるこ
とが特徴として挙げられる.高分子材料は,多くの場合,光エネルギーを吸収し得
る官能基を分子構造中に有するが,可視光領域(約 380nm 以上の波長)に吸収が
ほとんどないことから,UV 領域の光による影響が支配的となる.Figure1.2 に波
長,エネルギー,ポリマーの結合解離エネルギーの関係について示す 21).C-C, C-H,
-OH などの化学結合を持つ化合物は,波長 200nm 以下の光を吸収し,カルボニル
基 (>C=O) や共役二重結合は,波長 200nm~300nm の間に吸収の極大が存在す
る.300nm の光エネルギーは 95 kcal/mol に相当するので,PE の C-H 解離エネ
ルギーに近く,この光エネルギーより解離エネルギーの小さい C-O,分岐のメチ
レンの C-H などの切断が可能である.波長が 360nm 以上の場合,PE は分子量
がほとんど変化せず,劣化も少ない 22).
サンシャインウェザーメーターで光を照射した PE のメルトフローレ-ト,不溶
解部分などの測定により,分子切断および架橋が同時に起こることが分かっている
23).GPC
測定による分子量および分子量分布の変化を検討した結果,紫外線吸収
剤を含まない PE では初期の段階で架橋し,その後分子鎖切断が支配的になる.一
方,紫外線吸収剤を含有する PE では,分子鎖切断が優先する 24).
屋外暴露による劣化は,太陽光による光酸化劣化とともに様々な要因が劣化に関
与するため複雑である.Figure1.3 に耐候性に影響する諸因子について示す 25).
6
100000 50000 33333 25000 20000 16666 14287 12500
ν(cm-1)
λ(μm) 10-3 10-1 100
200
300
400
500
緑
黄
橙
赤
(橙)
(赤)
(紫)
(青)
(青緑)
近紫外
800
とび色 (緑)
青
可視線
(機)
遠紫外
700
紫
紫外線
γ線 X線
600
103~105 106~107
赤外線
( カッコ内は透過光 )
eV
12.4
6.2
4.1
3.1
2.5
2.1
1.8
1.55
(kcal/mole)
286
143
95
72
57
48
41
35
O-H
C-H
C-C C-Cl
C-I
N-N
O-O
83.1
57.4
38.0
33.2
結合解離エネルギー
(kcal/mole)
110.6 98.8
78.5
マイクロ波
通常のポリマーが敏感に
反応する光の波長領域
PE,PP
(300nm)
PET
(285nm)
PC
(280nm)
エステル系PU
(270nm)
Figure 1.2
最大劣化を引き起こす
各ポリマーの例
PVC
(320nm)
Relationship between wavelength and degradation.21)
Heat
Sun
Light
PS
(318nm)
Moisture
Chemicals
Atmospheric
Temperature
Rain, Snow
Temperature
Humidity
Change
Dew
Radiation
Temperature
Bacteria
Surfactant
Filler
Pigment
Deterioration
Wave length
Mist
O2
O3
Air
Figure 1.3
Wind
NOx
External Stress
SOx
Internal Strain
Air
Pollution
Mechanical
Stress
Electrical
Stress
Various factors affecting weathering25).
7
(3) 微生物劣化
微生物劣化,分解は,微生物が活動するのに適した条件が十分に整い,高分子材
料表面に取り付いた微生物が体内にもつ様々な種類の酵素を生成し,それらの酵素
が高分子材料表面に吸着して生じる.微生物は吸水性の官能基や可塑剤を優先的に
攻撃し,材料を劣化させる.微生物の活動には水分が必要であるため,極性プラス
チックであるポリアミド樹脂(PA),ポリウレタン樹脂(PU),ポリビニルアルコー
ル(PVA)は,オレフィン系プラスチックに代表される疎水性プラスチックに比べ,
微生物劣化を受けやすい傾向にある.疎水性プラスチックは微生物活動に必要な水
分の供給がないため,微生物に対する抵抗性は極めて高いといわれてきた
26).各
種ポリマーの常態吸湿率について Table 1.1 に示す.
Table 1.1
Moisture content of various polymers at the normal condition.
Polymers
Moisture content(%)
Nylon 6 (PA6)
4.0
Nylon 66 (PA66)
2.5
Nylon 12 (PA12)
0.75
Polyoxymethylene (POM)
0.22
Polycarbonate (PC)
0.2
Polybutylene terephthalate
(PBT)
Polyimide (PI)
0.07
2.5
Polymethyl methacrylate
1.2
(PMMA)
Polyvinylalcohol (PVA)
10.0
Silicone(1 liquid LTV)
0.1
Polyethylene (LDPE)
below 0.1
8
1.2.2
汎用プラスチックと生分解プラスチックの市場動向
(1) 市場規模
合成プラスチックの生産量は,2004 年度においては世界で約 2 億 2400 万トン
に達したとされ 27),セルロース(100 億トン/年),キチンに次いで大量に存在する
ポリマー素材となっている.世界の生産量のうち米国では約 26%,ドイツでは約
8%,日本で約 6.5%が生産され,この 3 カ国で世界の約 4 割を占める 27)
(Figure 1.4).
近年ではアジアで地域の生産量が増加している.2007 年度の日本における合成プ
ラスチックの生産量は 1,420 万トン (Figure 1.5) で,その主な用途は,建材,包
装資材向けで併せて約 60%であり,金属,無機化合物と並ぶ社会の基盤を構成す
る素材となっている. Figure 1.6 に示すように,日本の合成プラスチック生産量
は,拡大傾向にある.これら合成プラスチックの種類は,汎用プラスチックである
ポリエチレン(PE),ポリプロピレン(PP),ポリ塩化ビニル(PVC),ポリスチ
レン(PS)をはじめとして,ポリエステル系やポリカーボネートなどがあり,エ
ンジニアリングプラスチックを含めると 100 種類を越える.
ウレタンフォーム
1.7%
アフリカ ・中東
5.5%
フェノール樹脂
2.1%
その他 3 .5 %
日本 6 .5%
東欧 5.5 %
その他
(熱硬化性樹脂)
5.2%
その他西欧
2 .0 %
ポリエチレン
22.8%
その他
(熱可塑性樹脂)
13.5%
イタリア
2 .0 %
イギリス
2 .0 %
ABS樹脂
3.9%
アジア 2 9 .0 %
スペイン
2 .0 %
P ET樹脂
4.9%
ベネルックス
5 .0 %
フランス
3 .0 %
熱硬化 その他
樹脂
性樹脂
1.0%
9 .0 %
2007年
生産量
1,420万トン
熱可塑
性樹脂
90.0%
ポリプロピレン
21.7%
ポリスチレン
7.6%
北米 26 .0 %
塩化ビニル樹脂
15.2%
ドイツ 8.0%
Figure 1.4
その他樹脂 1.4%
Production of plastics
Figure 1.5
in the world27).
Production of plastics
in Japan27).
9
16000
14000
The rest of plastics
Production(kt)
12000
PC
10000
ABS
8000
PET
6000
PS
PVC
4000
PP
2000
PE
0
1975
1980
Figure 1.6
1985
1990
Year
1995
2000
2004
Change of production of plastics in Japan.
一方,生分解プラスチックの生産量は,内外調査機関および生分解性プラスチッ
ク研究会の推計結果を総合すると 2002 年では全世界で 7~8 万トンまで拡大した
と考えられる.拡大要因の第一は,カーギル・ダウ社が 2001 年 11 月にポリ乳酸
(PLA)の年 14 万トン製造設備を稼動し始め,2002 年 4 月から本格供給に移っ
たことが背景にある.日本では島津製作所が PLA 系の「ラクティ TM」を上市して
いたが,2002 年トヨタ自動車に譲渡した
28) .2001
年から 2002 年にかけて
Novamont 社(伊)および BASF 社(独)は相次いで,でんぷん系の「Mater-BiTM」お
よび脂肪族ポリエステル系の「EcoflexTM」製造設備の増設を発表している.日本
の生分解性プラスチックメーカーである昭和高分子も「ビオノーレ
TM」製造設備
の倍増体制への移行を示している.このようにして,生分解性プラスチックを構成
する硬質樹脂(PLA 系),軟質樹脂(PBS 系),でんぷん系樹脂いずれも大規模生
産設備により供給される体制が整えられつつある 29).
米国では緩衝材,コンポストバッグ,食品容器用途が,EU ではコンポストバッ
グ,食品容器向けが中心となっている. Table 1.2 に国内外で実用展開されている
生分解性プラスチックと製造企業,生産能力の一覧を示す.
10
Table 1.2
Manufacturing company and capability at home and abroad of
biodegradable plastics29).
生産能力
将来構想
(t/y)
(t/y)
三菱ガス化学
10
1000
PHBH
カネカ
パイロットプラント
エステル化でんぷん
コーンポール
日本コーンスターチ
パイロットプラント
酢酸セルロース(CA)
セルグリーン CA-BNE
ダイセル化学工業
ドロン CC
アイセロ化学
系統
ポリマー名称
微生物
ポリ-3-ヒドロキシブチ
生産系
レート[P(3HB)]
商品名
製造企業
ビオグリーン
ポリ(3-ヒドロキシブチ
レート/3-ヒドロキシヘ
キサノエート)(PHBH)
天然物系
キトサン/セルロース
/でんぷん
でんぷん/化学合成系
生分解プラスチック
化学合成系
ポリ乳酸(PLA)
Novamont(国内ケミテッ
Mater-Bi
ク)
パイロットプラント
20,000
プラコーン
日本食品化工
NatureWorks
Nature Works(NW)
140,000
レイシア
三井化学
NW と事業提携
パイロットプラント
プラメート
大日本インキ化学工業
パイロットプラント
バイロエコール
東洋紡
パイロットプラント
エコプラスチック U’z
トヨタ自動車
1,000
4,500
ポリカプロラクトン
TONE
Dow
(PCL)
セルグリーン PH
ダイセル化学工業
セルグリーン CBS
ダイセル化学工業
1,000
ポリ(カプロラクトン/
ブチレンサクシネート)
100,000
(PCLBS)
ポリブチレンサクシネ
ート(PBS)
ポリ(ブチレンサクシネ
ート/アジペート)
(PBSA)
3,000
GS Pla
三菱化学
ビオノーレ#1000
昭和高分子
ビオノーレ#3000
昭和高分子
Enpol 4000
Ire Chemical
8,000
ユーペック
三菱ガス化学
パイロットプラント
Biomax
DuPont
90,000
グリーンエコペット
帝人
パイロットプラント
30,000
6,000
50,000
ポリ(ブチレンサクシネ
ート/カーボネート)
(PEC)
ポリ(エチレンテレフタ
レート/サクシネート)
(PETS)
ポリ(テトラメチレンア
ジペート/テレフタレー
Eastman Chemicals
EasterBio
⇒Novamont
ト)(PTMAT)
ポリ(ブチレンアジペー
ト/テレフタレート)
(PBAT)
8,000
Ecoflex
BASF
15,000
Enpol 8000
Ire Chemical
8,000
ルナーレ SE
日本触媒
パイロットプラント
エタナコール
宇部興産
パイロットプラント
ポリエチレンサクシネ
ート(PES)
ポリ(エチレンサクシネ
ート/アジペート)
(PESA)
ポリエチレンセバケー
ト
ポリビニルアルコール
(PVA)
ポリグリコール酸
(PGA)
クラレポバール等
クラレ
ゴーセノール等
日本合成化学工業
ドロン VA
アイセロ化学
J-POVAL
日本酢ビ・ポバール
―
呉羽化学
11
200,000
パイロットプラント
30,000
50,000
(2) 実用化されている用途
生分解性プラスチックは,使用するときには従来のプラスチックと同様に扱え,
廃棄されたときには自然界に存在する微生物などによって最終的に水と二酸化炭
素にまで分解されるプラスチックである.したがってその用途は,自然界で使われ
る分野,回収やリサイクルの難しい分野,リサイクルに掛かる費用やエネルギーが
大きな分野となる.環境適合性資材として化粧品の容器から始まり,文房具(シャ
ープペンシル,ボールペン,書類挟み)
,かみそりの柄,各種容器,道路標識,包
装用クッション材,各種農業用資材としてマルチフィルム,土嚢,移植用ポットな
どと用途は広がり,加工法の開発進展とともに市場を広げつつある.さらに食品包
装・容器への PLA の承認により,食品容器・包装資材への展開もなされ,2005
年の愛知万博会場では,PLA が各種食器類の主材として導入された.しかし,現
実には,開発当初よりはかなり価格が低下したものの,汎用プラスチックと比べ 2
~3 倍高いため,一般には受け入れ難くなっているのが実情である.
一方,医療分野においては,手術用縫合糸として,PGA(ポリグリコール酸),PLA
が使用されている.生体に埋め込んだ場合,PGA は約 3 ヵ月,PLA は約 12 ヵ月
でそれぞれ人体に無害なグリコール酸と乳酸に分解され,代謝サイクルの中で二酸
化炭素と水に分解され体外に排出される.
(3)その他の実用化分野
わが国では,2000 年に制定された環境型社会構築基本法を根幹とする多くの取
り組みが進められてきた.2002 年バイオテクノロジー戦略大綱により,バイオマ
スを原材料とする資材,生分解性を持つ資材の重要性が強調され,環境負荷低減に
資する製品の普及促進が図られている.コンポスト化を目的とした生ゴミ袋も応用
事例の一つであり,北海道富良野市と近隣 4 町村で,好気的コンポスト処理共同事
業が行われている.主材として脂肪族ポリエステル系,PCL 系,変性でんぷん系
などが使用され,PLA,紙粉,でんぷん,無機充填剤などが添加されている.また,
窓付き封筒の窓部分に植物原料の PLA フィルムを使したものは,自然界に散逸し
ても一定期間が経過すれば,紙と同様に自然に戻るとして,環境配慮の認識が高い
企業,公共団体で採用されている.最近では,エネルギーや CO2 を低減する材料
として,長期に耐久性を求められる家電・電子機器の筐体,自動車の内装部品の射
出成形部材としても注目され,PLA を中心に商品開発が進められている.
12
1.3
本研究に関する既往の研究
1.3.1
難分解性プラスチックの生分解
多糖類,タンパク質,核酸などの天然高分子は,一般に微生物によって容易に分
解され,無機化される.しかし,合成プラスチックは,もともと天然高分子の代替
品として開発されたものであるが,その化学構造は天然高分子とは全く異なるため,
微生物によって分解され難く,物理的,化学的にも強靭,安定であるため,自然界
の物質循環系には入り難い.さらに,工業材料としての優れた性質により,大量に
製造,使用されるため,いったん廃棄されると,その安定性ゆえに環境中に蓄積し,
環境の景観を損なうだけでなく,生態系の調和を乱し環境悪化につながる可能性を
有していると言われている.
微生物の合成プラスチックに対する作用についての研究は,このような環境問題
が認識される以前は,プラスチック製品に添加されている可塑剤などを利用して微
生物が生育し製品の品質が劣化する,いわゆる微生物劣化現象について,その原因,
防止策を明らかにする目的で行われた.そのため,これらの研究では試験法に定め
られたカビや劣化した製品から分離した微生物を用いるのが通常で,積極的に合成
高分子を分解する微生物を探索することは行われなかった.
一方,合成プラスチック廃棄物の問題が顕在化してからは,分解微生物を探索し
微生物処理技術を開発することや,合成プラスチックの微生物分解性を明らかにす
ることを目的とした研究が積極的に展開されるようになってきた.これまでに,数
種の合成プラスチックについては,分子量数千から数万のものを分解して生育する
微生物が見出されている.
本節では汎用合成プラスチックの微生物分解に関する研究について,既存の成果
と研究を概説する.
(1) ポリエステル
これまでに,種々の脂肪族ポリエステルが微生物によって分解されることが見出
され,これらのうち,ポリカプロラクトン[-C-(CH2)5-CO-]n,ポリエチレン
アジペート[-C-(CH2)2-OOC-(CH2)4-CO-]n は微生物によって完全に分解さ
れることが明らかにされている 30).
ポリカプロラクトン(PCL)フィルムにはカビがよく生成し,土中に PCL を
13
埋めておくと分解されてしまう 30).平均分子量 25,000 の PCL を完全に分解する
Penicillium 属のカビが,PCL を炭素源とする集積培養法によって得られている 31).
PCL の分解産物としてε-ヒドロキシカプロン酸がこのカビの培養液に蓄積するこ
とにより,PCL の分解はエステル結合の加水分解によって起こると推測されてい
る.また,このカビは PCL 以外の種々の脂肪族ポリエステルにも生成するが,脂
環式,芳香族ポリエステルには生育しない.
また,ポリエチレンアジペート(PEA)分解菌としても Penicillium 属のカビが
見出されている 32).このカビは,平均分子量 3,000 の PEA(2g/L)を 5 日間で完
全に分解し,PEA のほか種々の脂肪族ポリエステルにも生育する.分解産物とし
て培養液から,アジピン酸,エチレングリコールが検出されている.このカビの
PEA 分解酵素は培養液中に生産される菌体外酵素であり,誘導的に生産される.
この酵素が精製され,その分解性を調べたところ,脂肪族ポリエステル類の他,脂
環式ポリエステルであるポリシクロヘキサンジメタノールアジペートも分解する
が,芳香族ポリエステル類には活性を示さない
33).この酵素はさらに,植物油,
トリグリセド,脂肪酸メチルエステル類も分解することにより,一種のリパーゼで
あると考えられている.
また,Rhizopus delemar34)やその他の微生物起源のリパーゼ,ブタ肝臓エス
テラーゼ 35)によっても,脂肪族ポリエステルが分解されることが確認されている.
さらにプロテアーゼであるキモトリプシンによっても,ある種のポリエステルが分
解される 36).また活性汚泥 37)や,細菌のエネルギー貯蔵物質であるポリ-β-ヒド
ロキシ酪酸を分解する微生物 38)によって脂肪族ポリエステルが分解されることも
報告されている.これらのことから,脂肪族ポリエステルは微生物の分解作用を受
けやすいといえる.しかし,繊維,フィルムなどに広く用いられているポリエチレ
ンテレフタレートのような芳香族ポリエステル類については,現在までに分解微生
物は見出されていない.
(2) ポリウレタン
ポリウレタン製品が微生物劣化を受けることは,古くから認められてきている
39).市販の製品に存在する添加剤の影響を避け,微生物分解性を評価するために
種々のポリウレタンを合成し,分解性をカビの生育試験によって調べた例が報告さ
14
れている
40).その結果によると一般的にポリエステル型のポリウレタンは分解さ
れ易く,ポリエーテル型やグリコール型のものは分解されにくい.グリコール型の
ものではウレタン結合間に,ある程度の長さの直鎖メチレン鎖が存在するものが分
解を受けやすく,側鎖が存在すると分解され難くなる傾向が認められている.また,
ポリウレタンの合成に用いるジイソシアネートの種類によっても分解性が異なる
ことが認められている.
古川らは,易分解性ポリウレタンの研究において,ポリウレタンをオリゴラクチ
ド末端 PTMG(ポリオキシテトラメチレングリコール)と 4,4’-ジフェニルメタン
ジイソシアネートと 1,4 ブタンジオールから合成し,コンポスト中での分解挙動を
機械特性,表面状態,重量減少などについて,コントロールの PTMG ベースポリ
ウレタンと比較評価した
41).その結果,オリゴラクチドを組み込んだ新規ポリウ
レタンは分解が容易であることを見出した.
さらに,古川らは,分解後は必須アミノ酸であるリジンになるリジンイソシアナ
ートとポリオールに脂肪族ポリエステル,植物由来ひまし油を用いてポリウレタン
を合成し,分解への化学構造の影響及び分解特徴の研究を行っている 42).
(3) ナイロン
高分子量のナイロンを分解する微生物は見出されていないが,6-ナイロン[-NH
-(CH2)5-CO-]n の低重合体である 6-アミノヘキサン酸オリゴマーを分解する細
菌 と し て Corynebacterium aurantiacum43 ) の ほ か , Flavobacterium44 ),
Achromobacter45 ) 属 細 菌 が 見 出 さ れ て い る . 分 解 菌 Corynebacterium
aurantiacum は環状の 2 量体には生育せず,3~5 量体の環状及び 2~4 量体の直
鎖オリゴマーを分解して生成する
43).この細菌は
2 種のオリゴマー分解酵素を有
する 46).一種類めの酵素は,環状オリゴマー(3~5 量体)を開環し,かつ生成す
る直鎖オリゴマーを 2 量体単位で分解する加水分解酵素であり,直鎖及び環状 2
量体には作用しない.他方の酵素は,環状オリゴマーには作用しないが,直鎖オリ
ゴマーを単量体単位で加水分解し,6-アミノヘキサン酸を精製する.
Flavobacterium 属の分解菌 44,47)は前述の細菌と異なり,環状 2 量体を資化でき,
そのほか 6 量体までの直鎖オリゴマーに生育できる.この細菌も二種の分解酵素を
有している.一種類めの酵素は環状 2 量体を開環して直鎖の 2 量体を生成するが,
15
直鎖オリゴマーには作用しない加水分解酵素である
48).もう一方の酵素は,前述
の細菌の分解酵素と同様に,環状 2 量体には作用しないが,種々の直鎖オリゴマー
を分子鎖末端(アミノ末端)から分解し,6-アミノヘキサン酸を生成する加水分解
酵素である
49).したがって,環状の
2 量体の分解は,これらの酵素によって以下
のように進行する.
NH-(CH2)5-CO
H2N-(CH2)5-COOH
2H2N-(CH2)5-COOH
CO-(CH2)5-NH
6-アミノヘキサン酸
6-アミノヘキサン酸直鎖 2 量体
6-アミノヘキサン酸
環状 2 量体
Decomposition of cyclic dimer
(4) ポリオレフィン,ビニルポリマー
主鎖が炭素結合だけで構成されているプラスチック類,合成ゴム類,水溶性高分
子などは,種々のものが多量に生産され使用されている.これらのうち,ポリビニ
ルアルコールは特に低分子量のものは微生物によって容易に分解され,その他数種
のものについてはオリゴマーを分解する微生物が見出されている 50,51).
(a) ポリブタジエン
平均分子量 650 および 2,350 の 1,4-ポリブタジエン(PB)のオリゴマーをそれ
ぞれ分解して生育する Acinetobacter 属
52)および
Moraxella 属
53)細菌が見出さ
れているが,これらはそれぞれ高分子量の PB には生育しない.後者の細菌を用い
た研究では,培地中に懸濁された PB オリゴマー粒子径が生育速度に大きな影響を
及ぼすことが認められ,下記のポリイソプレンオリゴマー分解菌の場合と同様に
1,4-ポリブタジエンに存在する 1,2-結合部分が分解を阻害することが推定されてい
る.
16
CH2-CH-
CH
CH2
(-CH2-CH=CH-CH2-)n
1,4-ポリブタジエン
1,2-結合構造
Structural formula of polybutadiene
(b) ポリイソプレン
天然ゴムは少なくとも十数万の分子量を有する cis-1,4-ポリイソプレン(PI)で
あるが,加硫していないものでは微生物の分解を受けることや,土中に埋めておく
と完全に分解されてしまうことが古くから知られている
54).しかし,天然ゴムと
本質的には同様の構造をもつ合成の cis-1,4-PI では,天然物にはない 3,4-結合のイ
ソプレン単位が一般に数%存在し,それが微生物分解性に大きな影響を与えること
が,オリゴマー分解菌の研究で指摘されている 55).
このオリゴマー分解菌は,平均分子量 950 の合成 cis-1,4-PI(3,4-結合,約 10%)
を分解して生育することができ,重量減少で約 60%の分解を示す.しかし,平均
分子量 2,500 のものにはほとんど生育することができない.ゲルパーメーションク
ロマトグラフィー(GPC)で分子量 1,000 までのものは分解されることが確認されて
いる 55).分解残渣を調べると,3,4-結合の存在割合が元の試料よりもかなり高くな
っていた.すなわち,この細菌は 1,4-結合で構成されている部分を分解できるが,
3,4-結合部分は分解できず,そこで分解が止まると推察される.この細菌が高分子
量成分に生育できないのもそのためであると考えられている.
CH3
H
CH3
-CH-CH2-
C=C
-CH2
CH2-
n
Cis-1,4-ポリイソプレン
C-CH3
CH
CH2
CH2
3,4-結合構造
Structural formula of polyisoprene
17
-CH2-C-
2
1,2-結合構造
なお,Nocardia 属細菌による天然ゴムの分解では,cis-1,4-PI 鎖は次のように分
解される 56).
CH3
CH3
CH3
-CH2-C=CH-CH2-CH2-C=CH-CH2-CH2-C=CH-CH2-
↓O2
CH3
CH3
H
CH3
O=C-CH2-CH2-C=CH-CH2-
-CH2-C=CH-CH2-CH2-C=O
Decomposition of cis-1,4- polyisoprene
(c) ポリスチレン
ポリスチレンを分解する微生物は,現在のところ見出されていない.土壌や活性
汚泥中で,14C で標識したポリスチレンからの 14CO2 の遊離を測定する方法によっ
て微生物分解性を検討した結果が報告されているが,長期の実験によってもポリス
チレンはほとんど分解されていない 57,58).ただ,2 量体である 1,3 ジフェニルブタ
ン
57)や
1,3-ジフェニル-1-ブテン
59)が微生物によって分解されることが報告
されている.
18
1.3.2
ポリエチレンの生分解に関する既往の研究
高分子量 PE の生分解性に関する詳細な研究は,Albertsson らの HDPE に関す
るもの
3~6)と大武,渡邊らの
LDPE によるもの
7~18)が中心で,他者の研究は非常
に少ない.東京ガス(株)では,大武らの 32~37 年間長期土壌埋没 LDPE の微生物
分解に関する研究に注目し,土壌に数十年という長期間埋設して使用される
MDPE 製ガス管の劣化評価を大武らの研究をもとに,生物活性が高い条件下(好
気性活性汚泥浸漬,嫌気性活性汚泥浸漬,カビ培養培地静置)で処理し,引張破断
応力,引張破断ひずみ,
FT-IR スペクトルの変化で評価している 60).5 種類の MDPE
をパイプのままで処理すると,好気性活性汚泥浸漬,嫌気性活性汚泥浸漬ともに引
張破断応力,引張破断ひずみの低下は極僅かであるが,MDPE パイプより作成し
たフィルムで処理を行うと,原料の種類により好気性活性汚泥浸漬よりも嫌気性活
性汚泥浸漬において引張破断ひずみの低下が顕著に認められる.また,カビを接種
した MDPE パイプより作成したフィルムは,カビを接種せずに培地のみに静置し
た場合と比較すると,フィルム表面にカビの繁殖と黄変が認められ,引張破断応力
はわずかな低下傾向を示している.Figure 1.9 に MDPE パイプより作製したフィ
ルムのカビ培養培地静置処理期間と引張破断応力の変化の例を示す.
45
Tensile strength (MPa)
cultivation on fungi agar
40
cultivation on agar only
35
30
25
20
-2
0
2
4
6
8
10
12
14
Treatment period (months)
Figure 1.9
Relationship between tensile strength and treatment period of
the cultivation on fungi agar60).
PE の微生物劣化に関する初期の研究は,固体培地上に PE 試験片を置き,カビ
あるいは微生物を接種してその後の劣化状況を調べる方法を取っているものが多
19
い.この方法は,試験期間が約 1 週間から 3 ヶ月と比較的短いため,試験結果を早
く得ることができる.1961 年 Jen-Hou らは,炭素を 20 個程度含む分子量 300~
400 の n-パラフィンを比較試料とし,培地上に試料をのせて微生物を接種し増殖を
比較した.その結果,PE は n-パラフィンと比較して微生物の増殖は少なく,特に
分子量 5000 以上のものにおける微生物の増殖は極めて少ないということを示した
61).1972
年 Potts らは,分子量 170~620 の直鎖状 PE を培地上で微生物により培
養した後,微生物分解状況を調査した結果,分子量 451 以下のものは非常によく
分解されるが,これよりも高分子量のものは分解されにくいとした 62).また,PE
上の微生物の成長は,高分子鎖に生育したものではなく,分子量 500 以下の分子
鎖を分解したため,あるいは添加物に生育するため等であり,高分子量成分での生
分解に対して否定的な報告がなされている 63).
日本では,多くの PE 製品でカビや微生物の増殖が見られ
64~75),分子量
1000
程度のオリゴマーでは,微生物分解が可能であることが,確認されているが,通常
の成形品レベルの高分子領域では,非分解性ポリマーであるといわれてきた 76).
1970 年代後半になると Albertsson らは,HDPE の分解,劣化診断にラジオア
イソトープ技術を用いて感度良く微量な変化を捉えることに成功した.14C でラベ
ルした HDPE を土壌に 2 年間埋設し,14CO2 の放出量から HDPE 分解量の算出を
試みた.800 日間の埋設でラベルした炭素のうち CO2 としての放出量は,0.2%の
重量減少に相当することを確認している
3,4).この量は,PE
の生分解が n-パラフ
ィンの場合と同様に炭化水素鎖末端からの酵素的酸化によって生じるとするなら
ば,ほぼ PE の末端量に相当し,分子量を問わず末端が等しい確率で酸化されるこ
とを示唆している.さらに引き続いて起こる酸化の過程で生じると考えられるカル
ボニル基や炭素―炭素二重結合の量の経時変化の測定から,PE の劣化には通常の
酸化反応とは異なる微生物分解が関与していると主張している
5,6) .しかし,
Albertsson らが述べているように,酸化劣化と微生物分解には相乗効果があり,
微生物分解の機構は単純なものではなく通常酸化との複合機構として捉えなけれ
ばならない.
20
1.3.3
生分解性プラスチックの評価
生分解プラスチックの分析方法として,これまで使われている規格化された評
価方法について述べる.
(1) OECD テストガイドラインをもとにした標準試験法
「化学物質の審査及び製造等の規制に関する法律(化審法)」で行われている
化学物質一般の分解性の評価方法である修正 MITI 法(Ⅰ),(Ⅱ)を応用した方法
がある 77,78).この方法をもとに,高分子の分解性試験方法が JIS K 6950:1994
「プラスチック-活性汚泥による好気的生分解度試験方法」として制定された.
これは,馴化していない活性汚泥を用いて好気的条件下,閉鎖系酸素消費量測定
装置を使用して生物化学的酸素要求量を測定し,分解度を算出する方法である.
OECD テストガイドラインを Table 1.5 に示す.
(2) 国際規格 ISO の制定
1999 年に国際規格となった ISO14851,14852 は,微生物源として活性汚泥,
土壌,コンポストの懸濁液いずれかを用いる.ISO14851 は酸素消費量の測定,
ISO14852 は発生する二酸化炭素の量を測定することにより分解度を求める方法
である.また,ISO14855 はコンポスト中での分解度を求める方法で,発生する二
酸化炭素の量を測定することにより分解度を求める.評価条件の一覧を Table 1.6,
1.7,1.8 に示す.生分解度評価法,微生物源,好気分解か嫌気分解かなどの組み合
わせで分類される.試験方法は,試料の親水性や,製品として使用され最終的に生
分解するフィールドから選定され,水産利用資材の場合は ISO14851(JIS K6950),
食品容器の場合は ISO14855(JIS K6953)がそれぞれ推奨される.
21
Table 1.5 OECD test guidelines.
No.
分類
昜分解性
ガイドライン
評価方法
301A
DOC Die-Away 法
301B
修正 Sturm 法
301C
修正 MITI 法(Ⅰ)
酸素消費量
301D
Close Bottle 法
溶存酸素量
301E
修正 OECD スクリーニング法
溶存有機炭素量
301F
Manometric Respiromet
酸素消費量
302A
修正 SCAS 法(Ⅱ)
溶存有機炭素量
溶存有機炭素量
二酸化炭素発生
量
溶存有機炭素量
302B
Zahn-Wellens/EMPA 法
化学的酸素消費
本質的分解性
量
酸素消費量
302C
修正 MITI 法(Ⅱ)
全有機炭素量
直接定量
シミュレーション試験
Table1.6
303A
ISO
OECD
Treatment
Coupled Units Test
生分解性試験方法の
規格
崩壊性試験方法の
規格
ISO14855
ISO14851
ISO14852
ISO16929
ISO14855
ASTMD6400
欧州
EN13432
Products made of
Compostable materials
生分解性プラスチック
D5338(=ISO14852)
D6002
EN14046(=ISO14855)
JIS K6950(=ISO14851)
JIS K6951(=ISO14852)
JIS K6952(=ISO14855)
EN14045
JIS K6952(=
ISO14855)
(財)日本環境協会 生分解性プラスチック製品 WG 資料:1-5
22
環境毒性試験
TG201
TG202
TG203
TG207
TG208
OECD301C
アメリカ
日本
Sewage
Standard test methods of biodegradability plastics.
生分解性プラスチック
製品の規格
ドイツ
Aerobic
※USA
ASTM 6400
Standard Specification for Compostable Plastics
コンポスト可能なプラスチックの標準規格
ASTM D 5338
(=ISO 14852)
Standard Test Method for Determinig Aerobaic Biodegradation of
Plastic Materials Under Controlled Composting Conditions
制御されたコンポスト化条件におけるプラスチックの好気的な生物分
解性に関する標準方法
ATSM D 6002
Standard
Guide
for
Assessing
the
Compostability
of
Environmentally Degradable Plastics
環境負荷がない分解性プラスチックの生分解評価に関する標準ガイド
※EU
EN 13432
Packing-Requirements for packing recoverable through composting and
biodegradation-Test scheme and evaluation criteria for the final
acceptance of packing
包装‐コンポストによる埋立及び生分解の要求-テストスキームと包装の
最終受入れの評価基準
EN 14046
(=ISO 14855)
Packaging-Evaluation of the ultimate aerobic biodegradability and
disintegration of packaging materials iunder controlled composting
conditions-Method by analysis of released carbon dioxide
包装-制御されたコンポスト化条件下における包装材料の好気的究極生分
解度及び崩壊度の評価・発生二酸化炭素量の測定による方法
EN 14045
Packaging-Evaluation of the disintegration of packaging materials in
practical oriented tests under defined compositing conditions
包装・制御されたコンポスト化条件下における実用向き試験での包装材料
の崩壊度の評価
Table 1.7 Aerobaic and anaerobaic degradation of test method by JIS and ISO.
分解条件
好気的分解
嫌気的分解
分解度評価法
酵素消費量
CO2 発生量
汚泥
ISO 14851
ISO 14852
水系
JIS K 6950
JIS K 6951
CH4,CO2 発生量
分解環境
ISO 14853
ISO 14855
コンポスト
JIS K 6953
ISO 14985
埋立地
土壌
ISO 17556
23
Table 1.8
Comparison of test condition at various examinations of JIS.
ISO14851
ISO14852
ISO14855
(JIS K6950)
(JIS K6951)
(JIS K6953)
好気/嫌気
好気
水系/固相系
水系
固相系
微生物源
活性汚泥 or コンポスト抽出液 or 土壌抽出液
コンポスト(水分含
量:50~55%)
25±2 (℃)
温度
58±2 (℃)
生分解度評価法
酸素消費量
二酸化炭素発生量
二酸化炭素発生量
試験期間
プラトーに達するまで
プラトーに達するまで
プラトーに達するまで
(最大 180 日)
(最大 180 日)
(最大 180 日)
粉体
粉体
粉体,フィルム
(必要量:数mg)
(必要量:数mg)
(必要量:約 40g)
試料材料
JIS K 6950 :2000 - ISO 14851:1999
プラスチック-水系培養液中の好気的究極生分解度の求め方 -閉鎖呼吸計を用いる
酸素消費量の測定による方法
JIS K 6951:2000 - ISO 14852:1999
プラスチック-水系培養液中の好気的究極生分解度の求め方 -発生二酸化炭素量の
測定による方法
JIS K 6953:2000 - ISO 14855:1999
プラスチック-制御されたコンポスト条件での好気的究極生分解度及び崩壊度の求
め方
-発生二酸化炭素量の測定による方法-
24
1.4
1.4.1
生分解の評価技術
生分解プラスチックの実際の評価手法
評価試験方法は,室内評価法とフィールド評価法に大別される.再現性の点では
室内法が優れているが,実際に生分解性プラスチックを使用するのは屋外であり,
雨,風,温度,土壌,の種類等,自然界の因子に左右されるため,実情に沿った評
価方法が実際には望ましいと考えられる.事実,様々な生分解プラスチックの評価
試験を土壌埋設法で行ったが,メーカーのいう分解速度を確認した例は少ない.お
そらく,メーカーが実施した土壌埋設法と条件が異なっているものと考えられる.
Figure1.107)は低密度ポリエチレン(LDPE)フィルムの 1 年間の土壌埋設結果であ
るが,同じ時期に埋設したものでも,土壌の種類によって分解に及ぼす影響は大き
く異なるため注意を要する.
Residual rate of elongation at
break (%)
110
100
90
△sand
▲andosol
80
○coppice soil
●compost
70
0
3
6
9
12
Treatment period (months)
Figure 1.10
Change of mechanical property of LDPE film.
Influence of four types burial soil7).
(1) 室内試験法
JIS K 6950
1.3.3 で述べたように,生分解プラスチックの評価方法は,JIS K 6950:1994
において「プラスチック-活性汚泥による好気的生分解度試験方法」として広く知
られているところである.この規格はプラスチックの活性汚泥による生分解度を試
験する方法について規定するもので,試験対象とするプラスチックと混合した活性
25
汚泥を撹拌培養し,培養液の生物学的酸素消費量およびプラスチックの残存量から
生分解度を求める.本 JIS の位置付けは,OECD テストガイドラインとして採択
されている易分解性試験は“生分解および馴化に対し非常に限られた機会しか与え
ない試験であり,この試験で分解性が認められる化学物質は環境中で容易に性分解
されると予想される試験”と定義されている(詳細は JIS K 6950 を参照).
(2) 土壌埋設試験(フィールド試験)とその注意点
(a) 土壌
埋設試験を行う場合,どのような種類の土壌を使用するかを明確にする必要があ
る.微生物は,田,畑,山等の場所によって土壌の組成や菌相が異なる.また,同
じ場所でも季節によって変化する.さらに土壌の組成は同じであっても地表面から
の深さにより菌相は異なる
17).そのため,処理条件を明確にし,生分解に直接影
響を与える微生物の種類と量を把握する必要があり,当然ながら微生物の存在に影
響を与える土壌組成物についても把握しなければならない.これらの土壌の化学分
析方法,微生物の菌数測定および同定法について以下に示す.
(b) 土壌の化学分析法
活酸性=pH (H2O)
潜酸性=pH (KCl) :土の pH 試験方法(土質工学会基準)
含水比=110°C 炉乾燥
:土の含水量試験方法(JIS A 1023)
有機物=強熱減量(700°C 電気炉)
:土の有機物含有量試験方法
(土質工学会基準)
無機物=強熱残渣(土質工学会基準)
(c) 土壌微生物の菌数測定および同定
直接法:土をよくすりつぶし,ホモジナイザーを用いて水中に懸濁させ,土壌懸
濁液を寒天溶液で一定容積に希釈し,その一部を血球計算盤に取り,厚さ 0.1mm
の土壌懸濁液のフィルムを作製する.フィルムの乾燥後,染色して光学顕微鏡で細
菌数や糸状菌菌糸の長さを測定する 79).
希釈平板法:Figure 1.1180)に示すように,土の懸濁液を薄めていき,その都度
26
1mL を平板の寒天培地にとり,細菌,放線菌は 28°C で 1~2 週間,糸状菌は 25°C
で 3~5 日間培養してコロニーの数を数える.計算方法は土 30g(うち水分 10g)
を 6 回薄めた寒天培地に 40 個の細菌コロニーがあったとすると,次のようになる.
乾土 1g 当りの細菌数=40 個×106×30g/20g=6×107 個
通常の土壌微生物の菌数測定および同定は次の方法で行っている.土壌微生物を
リン酸緩衝液により抽出し,細菌は標準寒天培地で 35°C で 48 時間,嫌気性菌は
嫌気ジャーを用いた嫌気培養法で 35°C で 48 時間,特に芽胞形成亜硫酸還元嫌気
性菌はクロストリジア培地で 35°C で 48 時間,真菌がポテトデキストロース寒天
培地で 25°C×7 日間培養し,新鮮土 1g 当りの菌数を測定する.同定はバージーズ
マニュアルに基づいて行う.Table1.9,1.10,1.11 に山土と堆肥の測定データを示
す.このデータでは生菌および嫌気性菌は山土よりも堆肥の方に多く,微生物活性
の活発な土壌であることがわかる 7).菌の同定データでは山土,堆肥とも同じよう
な菌相を示している.しかし菌種を細かく同定すると少なくとも 24 種以上は存在
する.
25 頁の Figure 1.10 に 50μm 厚の LDPE フィルムを砂,黒ぼく土,平山山林土
壌,堆肥に 1 年間埋設したときの引張伸びの変化を示す.伸び率の低下は微生物活
動の活発な土壌ほど顕著になるが,微生物がほとんど存在しない砂では低下がゼロ
である.生分解プラスチックの土壌埋設試験では,土壌の選択がいかに重要かがこ
のデータからも十分理解できる.土壌埋設試験は,実情に即した方法であるが,再
現性が低いといわれている.しかし,埋設土壌と埋設時季(冬と夏では分解速度は
相当異なる)を一致させることによって再現性を高められる.時間的余裕があれば,
四季の影響を受ける 1 年間埋設試験を行うのが理想である.
10ml
10ml
10ml
10ml
10ml
30g
Soil
Sterilized water
Step in dilution
Multiple dilution
270ml
90ml
90ml
90ml
90ml
90ml
Primary
second
third
fourth
fifth
sixth
10
102
103
104
105
106
Figure 1.11
Make the dilution liquid 80) .
27
Table 1.9
Chemical analysis of soil.
Forest soil
Compost
Active pH (pH)
4.7
7.4
Substitutive pH (pH)
4.3
6.3
Moisture content (%)
79.0
157.2
Water content (%)
44.1
61.0
Organic matter (%)
10.9
13.9
Inorganic matter (%)
45.0
25.1
Indicated in % per fresh soil.
Table 1.10
The number of microorganisms in soil.
Forest soil
Compost
Viable cell /g
1.8×106
8.4×107
Unaerobes
8.7×103
1.0×106
1.8×103
1.8×105
1.2×104
2.0×104
Clostridia
Mold
/g
/g
/g
Indicated in numbers per fresh soil.
Table 1.11
Identification of microorganisms in soil.
Forest soil
Compost
Clostridium sp.
Clostridium sp.
Bacillus cereus ver mycoides
Proteus .sp
Aspergillus sp.
Bacillus sp.
Penicillium sp.
Penicillium sp.
(d) 埋設試料の形状と成形時の加工条件
生分解は,前述したように,微生物の体内より酵素が代謝され,その酵素反応に
よって酸化分解もしくは加水分解がもたらされる基質と酵素の表面反応である.そ
のため,試料の厚みが厚いほど分解時間が遅くなる.従って,短時間での評価をし
なければならないときは薄い形状を選択し,再現性を得るため,一定厚み,一定形
状での試料を準備する.また,結晶化度に影響を与える成形加工条件も一定で行う
ことが望ましい.これは結晶化度の大小が分解性に影響を与えるためである.
28
(3) 促進試験
生分解の場合,光や熱劣化分解とは異なり微生物→酵素の代謝→酵素と基質との
反応→低分子化→微生物が餌として体内に取り入れる→CO2,H2O になるという複
雑な過程をとるため,結果が現れるまでに長時間を要するのが特徴である.しかし,
これでは一連の開発→評価→改良→再評価のサイクルが遅くなる.光・熱劣化分解
でも,サンシャインウェザーメーターや,ギヤーオーブン等の促進手段があるよう
に,生分解でも促進試験があっても不思議ではない,以下に 3 種類の促進試験につ
いて示す.
(a) 土壌より単離した特定分解菌を用いる法(西山 81))
セルロース,キトサン系プラスチックは土壌中で完全分解されるが,分解時間が
使用上の課題になるため,次のような分解促進評価を行っている.試料を分解する
微生物を土壌より採取(Pseudomonas sp. H-14,以下 H-14 と称す)し,純粋培
養した H-14 菌を Figure 1.12 に示すようにし,一定条件下で振とう培養してフィ
ルムが微細片になるまでの日数を測定する.ガラスビーズはフィルムに軽い機械的
衝撃を与えるためであり,キトサンは菌の増殖とキトナーゼの分泌を促すためであ
る.この手段は実際の場合の 10 倍の促進率といわれている.しかし本法は,評価
対象試料の分解菌が判明している場合に限ってのみ有効である.
Sterilize
120℃
Silicone cap
Test tube
Liguid agar 5ml
Chitosan
KH2PO4
pH 6
Inoculation of bacteria
H-14 bacteria
Shaking cultivation
28℃
Test piece
Glass beads
0.3g
6~8mesh
Figure 1.12
Acceleration test method by resolution bacteria of chitosan81).
29
(b) ゴミ処理式微生物促進試験(I.C.I.社 82))
Figure 1.13 に示す装置の中に,埋立地に廃棄されるような物質をつめ,さらに
評価試験サンプルのプラスチックを 10%つめ,水分量を 50%と多くし,分解試験
を行う.この装置では下から出る水を循環し,試験を促進できるシステムになって
いる.
Analysis
Test piece
Figure 1.13
Landfills model by I.C.I. company82).
(c) ゴミ処理装置の促進試験(大武 13),Griffin83))
Figure 1.14 に示すような生ゴミ処理装置を作製,生ゴミと評価プラスチックを
投入し,プラスチックの生分解促進化を試みている.これは,たとえば LDPE の
崩壊の最初の段階では生ゴミから出たパルチミン酸,ステアリン酸,オレイン酸等
が評価プラスチックに移行し拡散するが,これらの物質は微生物に対する親和性も
高く促進化の一要因になる.また Griffin らは,自動酸化による過酸化物の生成が
促されるため生分解が促進化すると述べている
83).このような装置は手近な材料
で簡単にでき,すぐにでも評価がスタートできるため便利である.
Sheet
Rice straw
Sample
Kitchen dust
Pump
Air
Pip
Figure 1.14
The accelerated testing method of biodedradaion13).
30
(4) 分解部の分析評価
生分解プラスチックの分析評価には種類にもよるが大別して次に示す 3 段階が
考えられる.そして各段階によって分析評価もそれぞれ異なる.
(a) 劣化
分解の初期段階であり,一般のプラスチックにも通常生じる現象である.LDPE
の場合,外観上の形態変化は認められないものの,実体顕微鏡,生物顕微鏡,SEM
等で,プラスチックのエッジ部分に酵素反応による溶解初期の(微生物により浸食
された)ミクロな空孔が観察される.また,生物顕微鏡とラクトフェノールコット
ンブルーを用いた染色法は,簡便に微生物の存在を確かめられる方法である
84).
微生物の代謝する酵素には糖質が存在するが,この糖質とコットンブルーが反応す
ると鮮やかなブルーに変色する.すなわち,変色した部分は活発な微生物活動が行
われていることになる.この現象は,200~300 倍の通常の生物顕微鏡で容易に観
察することができる.ラクトフェノールコットンブルー液の調製は,コットンブル
ーをあらかじめ蒸留水に溶解し,その後フェノール,グリセリン,乳酸を加える.
保存は褐色びんに入れ,冷暗所に置けば,長期にわたって使用可能である.
FT-IR 測定,引張強度,伸びによっても劣化の進行が把握できるが,特に FT-IR
は劣化,分解メカニズムを把握するのに役立つ.生分解部では,通常の劣化では検
出されない主鎖中の-C=C-(1640cm-1)や OH 基(3400cm-1)等が出現し,光劣
化ではこれらは現れず C=O(1715cm-1)が出現する 10).また,結晶性ポリマーで
は DSC による融点の変化を測定しても劣化が把握できる 7).
(b) 崩壊
この状態は外観上の形態変化が少しずつ認められるようになり,さらに試料自体
がもろくなる.分子量は部分的に変化を始めている.CO2 も発生し始めているが,
実際に CO2 を検出するのは難しいところでもある.(a) 劣化の項で示した分析を行
うとすべての現象はより顕著に検出される.
(c) 分解
初期形状が消滅しつつあり,分子量分布も低分子側にシフトする.CO2 の発生も
十分観察される.GC-MS や HPLC 等によって低分子量生成物の分析も可能となる.
CO2 の発生は,プラスチック成形の前のモノマーの状態において 14C でラベリング
して,分解で発生する CO2 を
14C
シンチレーションカウンターで測定する手段も
31
ある.LDPE の生分解時に発生する CO2 の測定結果を Figure 1.15 に示した 85).
これは,アメリカ全域 20 ヵ所から採取してきた活性汚泥中で,無添加 LDPE 粉末
及び,でんぷんや有機金属等を添加した LDPE 二種類の生分解性を測定したもの
であるが,重合時にラベリングした LDPE が CO2 に分解している様子をシンチレ
ーションカウンターで追跡している.
以上の劣化,崩壊,分解各段階の一般的な生分解評価フローチャートを Figure
1.16 に示した.
Cumulative CO 2 (dpm/g)
140
Biodegradation inducing agent added LDPE
120
LDPE
100
80
60
40
20
0
0
10
20
30
40
50
Treatment period (days)
Figure 1.15
Relationship between incidence of CO2 measured by scintillation
counter and treatment period85).
32
処理試料
外観,重量
表面状態分析
劣化
物性(引張強度,伸び,引き裂強度,
突き刺強度,破壊強度)
光学顕微鏡, SEM
(外観)
FT-IR 表面の状態分析
(カルボニル,エステル,末端二重結合,
カルボン酸)
EPMA,ESCA 表面の状態分析
(有機金属元素,ATP元素)
崩壊
重量
目視,光学顕微鏡,SEM
(外観)
GPC,比粘度
(分子量,分子量分布)
TOF-MS
(表面の分子量変化)
DSC,X線回折
(結晶化度)
分解
CO2,BOD
重量
GC-MS,LC-MS
(資化される前の最終生成物)
分解微生物の探索
(集積培養)
判定
Figure 1.16
General method flowchart of evaluation of biodegradation plastics.
33
1.4.2
生分解プラスチックの分析手法
本研究で多用した機器分析手法である,走査型電子顕微鏡(SEM),顕微鏡フーリ
エ変換赤外分光法(FT-IR),高温ゲルパーメーションクロマトグラフィー(GPC)に
ついて概説する.
(1) 走査型電子顕微鏡 (Scanning Electron Microscope : SEM)
SEM は焦点深度が深く,立体的で鮮明な画像を観察することが可能である.一
般には観察される視野幅の半分に相当する深さまで焦点が合った像が得られ,ター
ゲットとなる観察部のほとんどを同一視野に捉えられる.
本研究の場合,長期間の土壌埋設により微生物分解が生じた LDPE を 10,000 倍
以上の高倍率で観察すると,LDPE が表面から激しく分解が進行している様子,分
解菌のコロニーや分解菌体が分解酵素を代謝している様子,分解初期においては
LDPE 表面に分解菌の体形をフィルム表面に写し出す酵素分解跡(ボディーマー
ク)が観察される.
(2) 顕 微 フ ー リ エ 変 換 赤 外 分 光 法 (Microscope-Fourier Transform Infrared
Spectroscopy : Microscope -FT-IR)
本研究においては,顕微反射法を用いて,土壌埋設前後の LDPE フィルム表面
の官能基の変化を追跡した.
微生物分解が生じた LDPE では,主鎖中の炭素-炭素二重結合伸縮振動
(1640cm-1),アルコール由来の-OH 変角振動 (1080cm-1),通常の-OH 伸縮振動
(3400cm-1)などの増加が確認される.
(3) 高 温 ゲ ル パ ー メ ー シ ョ ン ク ロ マ ト グ ラ フ ィ ー (Gel Permeation
Chromatography : GPC)
本研究においては生分解誘引剤添加高分子量 LDPE フィルムが微生物の関与し
た劣化・分解によって土壌埋設 13 年という比較的短期間で間で分子量が低下する
現象を分子量及び分子量分布より検証した.
34
1.5
本研究の概要
本研究では,LDPE の生分解挙動と分解メカニズムを解明し,LDPE を特異的
に分解する能力を有する菌を単離,同定した.さらに,LDPE の生分解を促進する
ための生分解誘引剤を開発し,生分解誘引剤添加 LDPE フィルムを長期間土壌に
埋設して生分解誘引剤の有効性を評価した.
第1章では,本研究の目的を明らかにし,その背景や既往の研究,LDPE の劣化
要因とその機構,生分解性プラスチックの市場動向,用いた LDPE の生分解の証
拠となる分析手法の代表的なものについて述べた.
第 2 章では,32~37 年間土壌中に埋没していた LDPE 成形品,PVC,PS,UF
を分析し,PVC,PS,UF は 30 年以上微生物活性な土壌に埋没していても,ほと
んど微生物劣化を生ずることはないが,LDPE は土壌に接していた部分では白化し,
重量減少を伴う著しい劣化を示すことを明らかにした.厚みのある LDPE 成形品
の分子量および分子量分布を測定した表面部分と空気に影響されない中心部分を
比較すると,土壌接触表面部分では数平均分子量の低下と分子量分布の低分子側へ
のテーリング現象が認められ,FT-IR スペクトルによる表面分析より,LDPE は土
壌接触部と非接触部との間に酸化劣化の機構に明白な差があり,後者の場合,酸化
生成物はほとんどカルボン酸,ケトンで,前者ではカルボニル基に由来する吸収が
減少し,その分炭素‐炭素二重結合による吸収が増加した.土壌非接触部では通常
の酸化劣化が生じているのに対し,土壌接触部分では劣化が酸化劣化と微生物分解
との複合機構で進行すると結論づけた.微生物の存在下では通常の酸化で起こるア
ルコキシラジカルのβ開裂のほかに,γ開裂によって末端ビニル基と揮発生成物を
生じる機構が存在することが示唆された.以上の結果は,一般に微生物分解しない
といわれている高分子量 LDPE でさえも,微生物活性な土壌中に数十年という長
期間埋没していれば,微生物が関与した酸化分解によって低分子化することを示し
ている.また,微生物分解の加速には,通常の酸化反応を促進して活性点を増やし
微生物がより分解し易くなる条件を作ることが不可欠であることも明らかとなっ
た.また LDPE が酸化劣化をすることは親水基すなわち
C=O 等の極性基が生成
するために土壌からの水分吸着性が強まり,より微生物が活動し易い環境下に置か
れることを明らかにした.
第 3 章では,LDPE の分解能を有する微生物の単離・同定をフィールドで採取
35
した分解途上の LDPE フィルムと,その付着土壌を用いて行ない,その結果,LDPE
を特異的に分解する微生物として,
・ バシラス・サーキュランス(Bacillus circulans)
・ バシラス・ブレーブス(Bacillus brevies)
・ バシラス・スフェリカス(Bacillus sphaericus)
の 3 種類を集積振とう培養法により同定した.これらは稲ワラに付着している納豆
菌の一種であり土壌中に常在する.廃棄され日光に暴露されて光劣化した後の
LDPE フィルム等の成形品は,分子鎖中に親水基を生成させ,雨や土壌中の水分を
劣化したフィルム表面上に吸着する.この結果,フィルム表面と微生物との間に親
和性が増し,微生物が繁殖しやすい環境下になり,土壌中の微生物が徐々に LDPE
フィルム表面に誘引され,微生物によりゆっくりとではあるが,分解が進行するこ
とを明らかにした.
第 4 章では,第 2 章で明らかにした LDPE の生分解メカニズムをベースに,LDPE
の生分解促進化を計り,実用に耐えられる物性と生分解速度を有するでんぷん,有
機金属化合物,酸化オイルを主成分とした生分解誘引剤を開発した.生分解誘引剤
添加 LDPE フィルムは厚さ 30μm を有しているものの 13 年間の土壌埋設では,微
生物分解が進行し,フィルム全体が著しい白化現象を生じて微細な空孔が生成し,
破片化する.採取された試料は埋設当初の一部分のみであり,多くの部分が消失し
ていたことから,残存していたフィルムは,土壌との接触状況,菌相の分布の違い
などにより分解の進行が比較的遅かった部分である.フィルム断面の SEM 観察か
ら,生分解誘引剤の存在している部分を中心に分解が進行し,13 年間で土壌接触
部における数平均分子量が非接触部と比べると約 13%低下するとともに,通常の
酸化劣化で生じるカルボニル基(ケトンおよびカルボン酸)の生成と同時に主鎖中
の-C=C- ,アルコール由来の-OH の生成等 LDPE の生分解特有の顕著な現象を示
していることを明らかにした.一方,土壌非接触部では添加した酸化植物油による
通常の劣化現象のカルボニル基の生成のみが顕著に出現し,すなわち,土壌に接触
している部分と非接触部分では,酸化劣化の機構に明白な差異がある.このことか
ら,生分解誘引剤を含んだ LDPE フィルムは比較的短期間で,30 年間以上微生物
活性な土壌に埋没していた LDPE フィルムと同様の劣化・分解挙動をたどる.生
分解誘引剤を添加した LDPE は他の生分解プラスチックと比べ,その分解スピー
36
ドは遅いものの,分解が著しく促進され,土壌埋設時の条件さえ整えば十分に分解
することを明らかにした.
第 5 章では,本研究の総括を行った.
[ 文
献 ]
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会誌,66,504 (1993)
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会誌,66,756 (1993)
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40
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41
第2章
2.1
32 年以上埋設された LDPE と他ポリマー成形品の生分解挙動
緒
言
PE の生分解機構を解明するためには,その予想される分解速度から考えて,少
なくとも数十年にわたる長期の,土壌成分と菌も把握した土壌を用いた埋設試験を
行う必要があるが,これは事実上不可能である.そのかわりに数十年間の埋設期間
と土壌内容が明白で,かつ埋設深さが適当で水分,空気が十分供給されていたこと
が確認されている試料が入手できれば PE の微生物分解と劣化に関する新しい知
見が得られるであろう.偶然にも比較的生物活性な土壌中に 32~37 年間埋没して
いたことが確認されている低密度ポリエチレン(LDPE),ポリ塩化ビニル(PVC),
ポリスチレン(PS),尿素樹脂(UF)の 4 種類の成形品を入手した 1).LDPE 以外のこ
れらのポリマーには状態変化は認められないが,LDPE については白化現象をとも
なう分解と考えられる大きな変化が認められた.これらの埋没していた土壌組成,
微生物数,4 種類のプラスチックの生分解性,特に LDPE の生分解について調査
した.
2.2
2.2.1
実
験
試料
(1)サンプリング場所
試料は,茨城県下館市の一般家庭土壌中より採取した.採取深さは地表面より
10cm 近傍と地表面より 40~60cm 近傍の 2 水準よりサンプリングした.採取地表
面は低木や雑草に覆われているが,太陽光は充分に当たる場所であった.
(2)試料の種類
LDPE 試料として,地上面からの深さが 10cm 近傍で採取した①ジュース袋
(Figure 2.1),②帯状に結ばれた試料(Figure 2.2),③破片化した試料(Figure 2.3)
と,深さ 50cm 近傍で採取した比較的状態変化の少ない④マヨネーズ容器(Figure
2.4)を採取した.さらに,自然界に散乱している LDPE 試料として,畑に鋤き込ま
れて一部が土壌に埋没していた⑤農業用マルチフィルム(Figure 2.5)を採取した.
採取した LDPE 試料は合計 5 種類である.コントロールとして酸化防止剤を含ま
ない日本石油化学製 LDPE F31N のインフレーション成形フィルムを用いた.そ
42
の他の汎用樹脂として,ポリ塩化ビニル(PVC)製電線,ポリスチレン(PS)製キャッ
プ,尿素樹脂(UF)製容器のフタを分析した.評価に用いた試料のポリマー同定に
ついては,IR,PGC,DSC 分析により行った.
Figure 2.1
Appearance of Triangular film bag for juice .
(a)
(b)
Figure 2.2
Appearance of (a) Tied film.
43
(b) Opened one of film (a).
Figure 2.3
Figure 2.4
Appearance of
LDPE fragments.
Appearance of LDPE mayonnaise bottle.
LDPE mulch film
Figure 2.5
Appearance of agricultural mulch film.
44
(3)試料埋没期間
調査した試料の埋没期間は次の二つの理由により 32~37 年と決定した.採取場
所での土壌中へのゴミ廃棄は,昭和 30 年の廃棄地への住居新築時より,同 35 年
の市役所ゴミ回収事業開始まで続けられていた.さらに採取された試料の中に,
50cm 近傍に埋設し状態変化が少なく印刷の比較的明瞭な“味の素 25g”の PE 袋が
存在したため(Figure 2.6),この袋の製造年代の鑑定を味の素㈱に依頼したところ,
昭和 30~35 年の間に製造したものと判明した.また,同時に採取された PVC 電
線表面の印刷製造年(Figure 2.7)より 32 年以上埋没していたと判断した.
Figure 2.6
PE pouch made in 1955 ~ 1960.
Figure 2.7
Electric cable : PVC
45
2.2.2 土壌の化学分析と土壌の菌数測定および微生物の同定
試料が埋没していた庭土壌は,32 年以上使用状況に変化はなかった.埋没条件
を明確にし,生分解に直接影響を与える微生物の種類と量の現状を把握するために,
地上面より 10cm 近傍と,40~60cm 近傍の 2 ヵ所の土壌について行った.
(1)土壌の化学分析
土壌の化学分析は,第 1 章で述べた方法で行った.分析方法を Table 2.1 にまと
めて示す.
Table 2.1
Method of chemical analysis of garden soil.
Active acidity
:pH(H2O)
Method of Test for pH of Soils.
Latent acidity
:pH(KCl)
(The standard of soil engineering society)
Moisture Content
:Drying apparatus at 110°C.
Method of Test for Moisture Content of Soils.
Organic matters
(JIS A 1023)
:Ignition loss(Electric furnece at 700°C)
Method of Test for Organic matters of Soils.
(The standard of soil engineering society)
Inorganic matters
:Ignition residue.
(The standard of soil engineering society)
(2)土壌微生物の菌数測定および同定
土壌微生物をリン酸緩衝液により抽出し,細菌は標準寒天培地で 35°C で 48 時
間,特に芽胞形成亜硫酸還元嫌気性菌はクロストリジア培地で 35°C で 48 時間,
真菌はポテトデキストロース寒天培地で 25°C で 7 日間培養し,新鮮土 1g 当たり
の菌数を測定した.同定は,バージスマニュアル法に基づいて行った.
(3) 機器分析
顕微 FT-IR 分析は,バイオ・ラッドラボラトリーズ社製 DIGILAB FTS-60 と付
属の赤外顕微鏡 UMA-300 を用いて表面反射法で行った.SEM 観察は,日本電子
製 JSM –T300,加速電圧 10 kV,高真空モードで行った.X 線光電子分光装置
(XPS)による分析は,島津製作所製 ESCA-1000 で行った.
46
2.3 結果と考察
2.3.1
サンプリング場所の土壌状態
茨城県下における一般家庭の庭土壌より採取.採取の深さは地表面より 10cm 近
傍の 2 水準とした.土壌の化学分析結果を Table 2.2 と 2.3 に示す.この結果,10cm
近傍と 40~60cm 深さで差はほとんど認められないが,10cm 近傍は水分がやや少
ない傾向が見られた.また,pH が両者とも中性に近いことから細菌の活動に非常
に適しているものと考えられる.土壌微生物の菌数測定結果を Table 2.4 に示す.
この結果,10cm 近傍では好気性菌リッチではあるが,全体には両者とも同じよう
な菌数である.これは,市販のでんぷん等を添加された LDPE の評価時に用いた
堆肥土壌と同じような状態であった 2).そのため,採取された試料は生ゴミと一緒
に廃棄されたためか,偶然にも微生物活動の良好な状態であったことが示唆される.
また,主な菌の同定結果を,菌数の多い順に Table 2.5 に示す。この結果,10cm
近傍と 40~60cm 深さの両者ではほぼ同じ菌相を示すが,真菌,細菌ともに検出さ
れた種類は 10cm 近傍の土壌に多く、地表面に近い方が,微生物活動が活発である
と考えられる.
採取深さ 50cm 近傍では,劣化による試料の状態変化が少なく Table 2.4 に示すよ
うに好気性菌も比較的少ない.一方,10cm 近傍では試料の状態変化が大きく,好
気性菌も多く微生物活性な土壌であることを確認した.実験に供した試料は一部を
除き 10cm 近傍で採取したものを用いた.
Table 2.2
Analysis of garden soil by X-ray diffraction.
JCPDS
Rerative
Card No.
intensity
SiO2(α-Quartz)
33-1161
(+)
NaAlSi2O8(Albite)
20-554
(+)
CaAl2Si2O8(Anorthite)
12-301
+
CaMg3(Co3)2(Dolomite)
36-426
(+)
(Mg,Fe,Al)6(Si,Al)4O10(OH)8(Clinochlore)
16-362
(+)
Kal2(Si3Al)O10(OH,F)2(Muscovite)
6-263
(+)
Identified materials
47
Ca2Mg5SiO22(OH)2(Tremolite)
13-437
Relative intensity:++++ Very-strong
Table 2.3
+++Strong
(+)
++Medium +Weak
(+)Very-weak
Chemical analysis of garden soil.
Depth of
Depth of
0~10cm
40~60cm
pH(H2O)
7.4
7.5
pH(KCl)
5.7
5.9
Items
Moistrure content
%
34.0
37.9
Water content
%
25.4
27.5
Organic Matter
%
6.1
8.1
Inorganic matter
%
38.5
64.4
Indicated in % per fresh soil 1g.
Table 2.4
The number of microorganism in garden soil. (Number / g)
Depth of 10~20cm
Depth of 40~60cm
Viable cell
7.6×106
1.9×106
Anaerobes
4.8×105
2.3×106
Clostridia
2.5×105
3.2×105
Eumycetes
2.2×105
4.7×104
Item
Indicated in numbers per fresh soil 1g.
48
Table 2.5
Identification of microorganiasm in garden soil.
Depth of 0~10cm
Molds
Depth of 40~60cm
Aspergillus niger
Aspergillus niger
Fusarium sp.
Penicillium sp.
Penicillium sp.
Candida sp.
Bacteriums
Clostridium sp.
Clostridium sp.
Bacillus cereus
Bacillus cereus
Bacillus cereus
subsp. mycoides
sub sp. mycoides
Bacillus subtilis
2.3.2
外観観察と重量変化
(1) PVC,PS,UF
地表より 10cm 近傍で採取した PVC,PS および UF は肉眼による形状の崩れ,
表面の荒れは認められず,変退色でも土壌に接触していた外側と,外側を削り取っ
た土壌非接触部との差は認められない.また,位相差顕微鏡観察の結果,これら 3
種類のポリマー成形品は肌荒れや空孔,菌糸などの存在は皆無であった.ただし,
PVC においては,顕微鏡 FT-IR 測定の結果より,表面近傍でフタル酸エステル系
可塑剤が減少し(1725cm-1 など),3400cm-1 付近の水酸基のわずかな増加が見ら
れることから,若干の劣化を呈していることが確認された.PVC 製電線の表面と
内部の FT-IR スペクトルを Figure 2.8 に示す.
49
0.26
1725
Absorbance
0.22
0.18
0.14
0.10
(b)
0.06
(a)
ーOH
0.02
3500
3000
2500
2000
1800
1600
1400
1200
1000
800
Wavenumber/cm⁻¹
Figure 2.8
FT-IR microscope spectra of PVC cable.
(a) Surface
(b) Inside
(2) LDPE
LDPE 試料は,ジュース袋(Figure 2.1),帯状に結ばれた試料[Figure 2.2 (a)],
フィルムの表裏とも土壌に接触して破片化した試料(Figure 2.3)の 3 種類を深さ
10cm 近傍から採取した.LDPE はすべての試料で白色化現象を呈し,地表より
10cm 近傍に埋没していた試料は,顕著な形状の崩れや多数の空孔の存在が認めら
れた.一方,深さ 40~60cm 近傍で採取されたマヨネーズ容器(Figure 2.4)は白
色化しているものの明らかに状態変化が少ない.また,ジュース袋の内側は土壌と
の非接触部であり,貫通した空孔が生じた部分の周辺を除いて光沢も認められる.
Figure 2.2 (b)のように帯状に結ばれた試料を広げて観察すると,フィルム同士が
重なり表裏とも土壌に接触しなかった部分では,透明性や光沢度を有している.一
方,Figure 2.3 に示したフィルムの表裏とも土壌に接触していた試料では,小さな
もので数ミリほどに破片化され,初期の形状をとどめていない.以上 3 点の異な
った LDPE 成形フィルムについての光学顕微鏡観察では,白色化部分にはいずれ
も貫通した空孔(20~200μmφ)と菌糸の存在が確認された.これらの空孔は形
状と大きさからみて明らかに昆虫食によって生じたものではない.
50
Figure 2.9 に示すように,破片化した試料表面の SEM 観察では,通常の酸化劣化状態
と異なるハチの巣状の崩壊形態が認められ,徐々にポリマーの分解が進行していること
が示唆される.
帯状に結ばれた試料の分解が進行している部分と土壌に接触せず新品同様の状態を保
った部分を参照試料とした場合の重量変化を測定すると,Table 2.6 に示すように重量減
少率は 15~18%にも達する.これは,大変大きな値であるが,重量減少は微生物分解の
最終生成物である CO2 や H2O の発生によるもの以外に,微生物分解やそれに付随して起
こる通常の酸化劣化の際に,分子鎖の崩壊と再配列に伴う試料の脆弱化によるマクロな
PE 切片の脱落などもすべて含んだものである.従って,純粋な微生物分解によっておこ
る重量減少は全体の一部と思われるが,透明部との大きな違いからわかるように,好気
的条件下で土壌に十分接触していれば PE フィルムの細片化が微生物分解で促進されて
いる可能性が大きい.
Hypha
Allover
whitened
parts were formed
Trace of
numbers of voids.
degradation
10μm
Figure 2.9
SEM micrograph of hypha grown on film surface.
51
Table 2.6
Comparison of the weight between clear and whitened parts.
Indicated in weight per 1cm2.
Average
2.3.3
Tied film
Tied film
Clear part
Whitened part
(mg)
(mg)
2.99
2.41
3.03
2.59
3.03
2.46
3.00
2.57
3.01
2.51
3.0
2.5
顕微 FT-IR と X 線光電子分光装置(XPS)による酸化劣化度の測定
Figure 2.10 に帯状に結ばれた試料の白色部及び透明部の FT-IR スペクトルを示
す.白色部,透明部とも部位によって様々な劣化状態にあり定量的に比較を行うに
は注意を要するが,Figure 2.10 からわかるように二つの部分には明白な違いが見
られる.すなわち,透明部では 1715cm-1 付近にカルボニル基(ケトン及びカルボ
ン酸)の強い吸収が存在するが,白色部では相対的に劣化が進行しているのにもか
かわらずこの吸収が弱く,代りに 1640~1650cm-1 に非共役の-C=C-伸縮振動の吸
収が現れている.-CH=CH2 二重結合に由来する C-H 面外変角振動の吸収(905cm-1
付近)も白色部のみに観察される.すなわち,白色部では劣化によって分子鎖末端
を中心に炭素-炭素二重結合が生じている.二重結合に由来する吸収は透明部では
ほとんど観察されていない.また,1740cm-1 付近のエステルカルボニルの吸収は
透明部,白色部を問わず肩として観察されるが,いわゆるカルボニル指標
{1740cm-1(C=O) / 1470cm-1(C-H)}で比較すると透明部の方がはるかに大きい.
3600cm-1 付近にはヒドロペルオキシドに基づく-OH 伸縮振動の吸収が見られる.
一方,通常の -OH 伸縮振動(3400cm-1 付近)の吸収は白色部のほうが大きく,か
つアルコール由来の-OH 変角振動(1080cm-1 付近)も白色部で大きくなっている.
以上の結果をまとめると,透明部ではカルボン酸(またはケトン)の生成が顕著で
あるのに対し,白色部ではヒドロキシル基,炭素‐炭素二重結合の生成に特徴が見
52
られる.Table 2.7 に FT-IR 測定結果をまとめて示した.参照試料として平山山林
土壌に 28 ヵ月間埋設した LDPE の結果についてもあわせて記した.参照試料と比
較すると帯状に結ばれた試料では白色部のみならず透明部でもかなり劣化が進行
している.
3.5
3.0
-OH
-CH=CH2
905
1.5
1080
Whitened
part/outside
-OH
1715
1640
2.0
-C=CC=O
3600
3400
Absorbance
2.5
(a)
1.0
Clear part
0.5
(b)
0.0
4000
3500
3000
2500
2000
1800
1600
1400
1200
Wavenumber/cm-1
Figure 2.10
FT-IR microscope spectra of tied film.
(a) Whitened part/outside
53
(b)Clear part
1000
800
54
LDPE 31N:
concealed in
coppice soil
for 28 months
(b)clear part
Tied film
(a)whitened
part ; outside
Tied film
Sample
<1×10⁻²
2.3×10⁻¹
1.7×10⁻¹
1715cm⁻¹/1470cm⁻¹
Absorbance ratio
(Carboxlic acid)
<1×10⁻²
2×10⁻²
1.8×10⁻¹
1640cm⁻¹/1470cm⁻¹
Absorbance ratio
(-C=C-)
<1×10⁻²
7×10⁻²
6×10⁻²
1740cm⁻¹/1470cm⁻¹
Absorbance ratio
(Ester)
<1×10⁻²
1.9×10⁻¹
1.4×10⁻¹
1720cm⁻¹/1470cm⁻¹
Absorbance ratio
(Ketone)
<3×10⁻²
8×10⁻²
1.1×10⁻¹
3600cm⁻¹
Absorbance
(OOH)
Table 2.7 Analysis by FT-IR microscope : Tied film.
<1×10⁻²
6×10⁻²
2.1×10⁻¹
3400cm⁻¹
Absorbance
(OH)
Albertsson ら 3,4)は 10 年間土壌埋設を行った細片化 PE の IR 分析から通常の酸
化劣化と微生物分解の大きな違いは後者では 909~915cm-1 に末端二重結合(ビニ
ル基)が見られるのに対し,前者では全く見られないことであると述べている,直
鎖パラフィンの微生物分解について提案されている末端の外因性酸化とそれに続
くβ酸化機構では二重結合は生成しない.したがって,二重結合の生成は PE 鎖に
沿って酸化反応が生じ,その分解にも微生物が関与するためと考えることができる.
事実 Albertsson は,PE に対する光劣化後の微生物代謝から生じる CO2 ガス発生
の増大を確認している 4).また,帯状に結ばれた試料の非常に激しく劣化している
白色部のエチルエーテル抽出残留物,エチルエーテル抽出よりも高分子量の成分を
除去したヘキサン抽出残留物には,微生物分解の特徴である-C=C-結合が顕著にみ
られた.一方,抽出物には-C=C-結合がほとんど存在しないことから-C=C-は微生
物分解の最終生成物でなく中間性生物と考えられる 5).このような推論に基づけば,
本研究の帯状に結ばれた試料の透明部,白色部はそれぞれ通常の酸化分解および微
生物分解に対応するものと思われる.しかし,前述したように微生物分解のみが単
独の要因として劣化が進行していくことはあり得ず,白色部といえども通常の酸化
分 解 と 微 生 物 分 解 と の 複 合 機 構 と み な す の が 妥 当 で あ る . Figure 2.10 と
Albertsson3)らのデータとを比較すると,IR のカルボニル吸収に大きな違いがみら
れる.Albertsson らは微生物分解の場合には 1740cm-1 付近のエステルカルボニル
の吸収が 1715cm-1 付近のカルボン酸またはケトンの吸収よりもかなり強いが,通
常の酸化分解ではこれが逆転することを見出している.一方,Figure 2.10 では
Table 2.7 からわかるように,カルボニルの各特性吸収の相対強度は透明部,白色
部とも大きな差がない.したがって,この実験結果より PE 鎖末端以外でも起こる
酸化および鎖切断の初期過程は同じで,白色部では透明部と共に酸化反応が起って
いることが分かる.それに引き続き,白色部では生成したカルボニル基の一部を炭
素-炭素二重結合に変換する過程が生じていると考えられる.
さらに XPS による極表面分析を行うと Table 2.8 からわかるように,参照の未
劣化 LDPE に比べて多量の炭素‐酸素結合あるいはカルボニル基の存在が示唆さ
れた.この結果は,試料表面では激しい酸化劣化の進行を示し,その傾向は試料の
内側よりも直接土壌と接触している試料外側で著しい.この程度の激しい劣化が進
行すれば,当然低分子物質の揮散や高分子鎖の再配列や結晶化に伴うマクロ的な試
55
料の脱落が生じ,すでに示した重量減少につながる.
Table 2.8
Surface analysis by XPS binding energy [eV] (Peak area %).
Sample
LDPE F31N
Triangular
Triangular
Comtrol
pouch of juice : inside
pouch of juice : out side
Atomic
Element
Viding energy
Atomic
%
C
285.0 eV:C-C
Atomic
Viding energy
97.3
Viding energy
%
285.0 eV(81.3%)
:C-C
77.3
%
285.0 eV(69.3%)
:C-C
286.6 eV(11.0%)
:C-O-
286.6 eV(20.2%)
:C-O-
288.0 eV(7.7%)
:C-C-O-
288.0 eV(10.5%)
:C-C-O-
O
O
531.6 eV:Unk
2.7
532.7 eV:
(96.2%)
:C-O-
59.5
O
14.6
532.8eV:
(100%)
:C-O-
C=O
25.3
C=O
531.4 eV:
(3.8%)
:Unk
N
N.D. a)
―
400.2 eV(89.7%)
:-C-NH2
2.9
400.2 eV(84.5%)
:-C-NH2
O
3.5
O
401.8 eV(6.2%)
:Unk
401.7 eV(15.5%)
:Unk
398.4 eV(4.1%)
:Unk
Si
N.D. a)
―
102.8 eV(100%)
:SiO2
2.2
103.1 eV(100%)
:SiO2
6.4
Al
N.D. a)
―
75.0 eV(60%)
:Al2O3
1.5
74.8 eV(100%)
:Al2O3
4.6
73.8 eV(4.0%)
:Al-N
a)
Ca
N.D. a)
―
347.7 eV(100%)
:Unk
0.8
348.0 eV(100%)
:Unk
0.7
S
N.D. a)
―
169.2 eV(100%)
:Unk
0.7
N.D.a)
―
N.D. denotes no detection.
Table 2.8 から XPS では,酸化によって生ずるアルコール,アルデヒド,ケトン,
エステル,カルボン酸などが存在することが分かる.また,かなりの量のアミド結
合由来の窒素の存在が確認された.このアミド結合は付着した微生物に由来するペ
プチド結合によるものであると考えられる.また,帯状に結ばれた試料,破片化し
56
た試料の XPS 分析から白色部のみに微量の P 元素が検出された.しかし,透明部
から P は検出されなかった.微生物細胞内ではアデノシン三リン酸(ATP)やニ
コチンアミドアデニンヌクレオチドリン酸(NADP)が生産され,これらはいずれ
も P を含むため,P の存在は試料の近辺で微生物活動が行われていたことを示唆し
ている.
2.3.4
分子量の変化
(a) GPC による分子量,分子量分布
深さ 50cm 近傍で採取した比較的状態変化の少ないマヨネーズ容器は,Figure
2.11 に示すように首の部分が厚く,その厚さは約 2mm であり,首の部分では劣化
の進行が表面のみにとどまっていることが期待される.そこで Figure 2.10 に示す
ように表面から内部へ厚さ方向の異なる位置からサンプリングをし,数平均分子量
(Mn),重量平均分子量(Mw)および分子量分布を GPC により求めた.特に酵素分
解型では表面のみが分解され内部ではそのままであることから試料 A は極表面層
だけを削りサンプリングした.分子量分布図を Figure 2.12 に,Mn,Mw と PDI
値を Table 2.9 に示す.表面層から採取した試料 A は中心部の試料 C に比べ Mn
は約半分に,また Mw は約 2/3 に減少している.また,表面層直下の試料 B の分
子量も試料 A のそれとほとんど同じであった.分子量分布曲線を見ると,C に比
べ A,B では分子量 103 前後の低分子量成分がかなり増加しているのに対し,C に
おいて顕著に見られる分子量 106 前後の高分子量成分が B,A と表層になるにつれ
減少している.つまり,この程度の厚い試料では微生物活性な土壌中での酸化劣化
は表面近傍の薄い層内に限られるものと推定される.
さて,厚み方向の中心部の試料 C で観測された分子量は,通常用いられている
インフレーション成形用の LDPE の分子量とほぼ同じである.これは,C が表面
から(あるいは裏面から)約 1mm の深さにあるために,30 年以上経過しても通
常の酸化劣化や微生物が関与した劣化の促進を受けずに,初期の分子量および分子
量分布を保っていることを示唆している.30 年以上経過しているにも関わらず,
微生物による劣化,および通常の酸化劣化が拡散律速型で表面層近傍に限られてい
ることは興味深い.LDPE の土壌中での酸化劣化の速度は空気中の酸化劣化に比べ
て大きいとはいえ,反応速度の絶対値からいえば極めて遅い反応である.LDPE の
57
酸素の拡散係数はそれほど小さな値ではないから,酸化劣化が拡散律速型になるの
は酸素拡散のためではなく,土壌と接触した表面及びその近傍における酵素反応に
基づくためと思われる.このような反応として,土壌中の金属イオンによるヒドロ
ペルオキシドの接触的な分解と,微生物が関与した LDPE 自身の酸化分解が考え
られる
6,7).ところで伊予田 8)は,50°C
と 100°C でで 400 日の熱処理を施した場
合の LDPE 分子量の変化を GPC で追跡している.50°C という条件では酸化劣化
はほぼ自然劣化の形で進行しているものと思われる.その結果,Mw の低下が起こ
るが Mn の低下は生じず,分子量分布幅の狭小化が認められている.一方,100°C
の処理においては Mn が低下し,同時にゲル化も認められる.これらの結果と本研
究で得られた結果には明らかな差異が存在する.すなわち,微生物が関与している
と考えられる劣化では,低分子化が顕著に見られ,Mn が低下するとともに分子量
分布が広がる.一方,通常の酸化では,高温処理の場合を除き,逆に Mn は低下せ
ず分子量分布が狭くなることが特徴的である.
(A)
(B)
(C)
Sampling part of mayonnaise bottle for molecular weight
Figure 2.11
measurement.
(A)
Whitened part on the extreme surface
(B)
Thin section just under the surface
(C)
Central part
58
1.
Whitened part on the extreme surface
Thin section just under the surface
Central part
dw/d (logM)
.8
(A)
(B)
(C)
.6
.4
.2
(B)
(A)
(C)
0.
3
4
5
6
7
Log M
Figure 2.12
Table 2.9
GPC molecular weight distribution of samples (A), (B) and (C).
(A)
Whitened part on the extreme surface
(B)
Thin section just under the surface.
(C)
Central part
Molecular weight measurement of sample (A), (B) and (C).
Sample
(A)Whitened part on the
PDI
Number average
Weight average
molecular weight
molecular weight
Mn
Mw
Mw/Mn
1.25×104
1.03×105
8.20
1.29×104
1.20×105
9.28
2.05×104
1.45×105
7.10
extreme surface
(B)Thin section just under
the surface.
(C)Central part
(b) ヘキサン抽出後の空孔先端部の比較観察
上述した結果がもし微生物による表面反応であると結論づけられるならば,微生
物によって侵食されたと推定される空孔,まだ貫通はしていない空孔断面の先端部
では微生物の活発な酵素反応によって低分子化が進行しているため,n-ヘキサン抽
59
出後ではその部分は溶解除去されることが予想される.もし,そうであれば PE の
空孔出現はあきらかに低分子化の結果生じたと考えてよい.そこで,帯状に結ばれ
た試料のまだ貫通していない空孔断面先端部抽出前後の SEM による比較観察を行
った.結果の Figure 2.13(抽出前,抽出後)は同一場所を撮影したものである.
また,Figure 2.14 も同様に抽出前後を示したものである.抽出後の断面壁はやや
荒れている様子がみられ,これは n-ヘキサンによる膨潤,再乾燥の結果と考えら
れる.抽出後の空孔を先端部内壁はポリマーが除去されている様子(白矢印)が確
認された.このため.空孔出現は微生物の影響下の低分子化による崩壊や分解の結
果生じたものと考えられる.
(b)
(a)
Figure 2.13 (a) Before extracting LDPE film section. (×3500)
(b) After extracting by n-hexane LDPE film section. (×3500)
(a)
(b)
Figure 2.14 (a)Before extracting LDPE film section. (×2000)
(b) After extracting by n-hexane LDPE film section. (×2000)
60
2.3.5
LDPE の生分解機構の推定 9)
今まで述べてきた結果から可能な反応機構について考えられるスキームを
Figure 2. 15,2.16 に示す.PE の微生物分解には通常いわれている末端の外因性
酵素酸化とそれに引き続くβ酸化の過程のほかに,通常の酸化反応で誘発される主
鎖の内因性酸化反応が考えられる.帯状に結ばれた試料透明部の IR スペクトルに
おけるカルボニル基の特性吸収帯は,Adams10)が LDPE を 138°C で酸化劣化させ
たときの吸収とほぼ同一の吸収スペクトルを示している.したがって,土壌に接触
していない部分に微生物の関与はないものと考えてよい.IR スペクトル上のカル
ボニル基の吸収は,カルボン酸,ケトンが大半でエステルもわずかに認められる.
この場合の反応機構は Figure 2.15 に示すように通常の酸化機構でヒドロペルオキ
シドが生成し,その分解でケトンが生成する 10).
アルコキシラジカル 5 は分解してアルデヒド 7 を与え,その酸化によりカルボン
酸 12 またはエステル 13 が生成する.エステル 13 は,ケトンの過酸酸化によって
も生成する
10).アルキルラジカル
8 からは炭素‐炭素二重結合が生成する可能性
があるが,空気中での酸化では生成量が少ない.これは透明部のスペクトルに
1640cm-1 付近の二重結合の吸収がほとんどないことに合致する.なお,中間体 10
からのみ生成するγ‐ラクトンのカルボニルの吸収(1790cm-1)が Figure 2.10 (b)
透明部の IR スペクトルにみられることから,10 の存在が示唆される.
CH2 CH2 CH2
O2
1
CH2 CH2 CH2
O2
CH2
2
CH
O
RH
CH2
O
3
CH2 CH
O
CH2
+ R
OH
4
Figure 2. 15
CH2 CH
CH2
+ OH .
-H
CH2 C
O
O
5
6
Normal oxidation mechanism.
61
CH2
β開裂
CH2 CH
O
O
5
7
CH2 CH
ROH
CH2 C
-H
CH2 CH + CH2
CH2
CH2 CH2 C
OOH
O2
CH2 C
8
CH2 C
O
O
O
O
9
-OH
CH2 C
O
O
10
11
O
H
CH2 C
OH
O
12
OR
O
13
Figure 2. 16
CH2 CH
CH2
The continuation of oxidative degradation.
CH2 CH
O
CH3
+ CH2
Figure 2. 17
-H
Acetone + CH2 CH
14
O
5
CH
The oxidation mechanism by biodegradation.
さて,アルコキシラジカル 5 の分解は次の機構でも起こりうる.Figure 2. 17 は
光分解における NorrishⅡ型機構に相当するものである.PE の光酸化では
11)NorrishⅡ型の分解により
1640cm-1 付近に炭素‐炭素二重結合の吸収が現れる.
つまり,帯状に結ばれた試料の白色部では Figure 2. 17 の機構によって末端ビニル
基が生成したものと思われる.ビニル基の生成が微生物分解の特徴であるが,これ
は末端の外因的な酸化過程で生じたものではなく,上記の機構によって進行する.
光照射を行わないときには不可能である Figure 2.17 のような分解機構が微生物の
存在下で可能になったものと考えられる.このように考えると,通常酸化も微生物
分解も反応の途中までは全く同じ機構で起こり,アルコキシラジカル(またはケト
ン)の分解機構に差があるだけとみなされる.
白色部のスペクトルでは二重結合の生成とともに全カルボニルの吸収強度が透
62
明部に比べて激減している.Figure 2. 16 のβ開裂では揮発生成物は得られず実験
事実を説明できない.また,Figure 2. 17 ではメチルケトン誘導体が生成するが,
これが過酸酸化されれば酢酸エステルが生成する(Figure 2. 18)10).
白色部,透明部のエチルエーテル抽出物を GC-MS 分析にかけた結果,白色部の
みから酢酸エステルが検出された.この結果も Figure 2. 17 のような分解機構の存
在とそれに対する微生物の関与を示唆している.
以上のことから,LDPE が微生物活性な土壌に埋没すると,劣化の初期段階では
通常の酸化劣化と同じ機構でヒドロペルオキシドの生成,分解により反応が進行し,
微生物の存在下で炭素‐炭素二重結合の生成とともに,アセトンなどの揮発物質が
生成し分解が進行していくと考えられる.
O
CH3 C
RC
OOH
O
O
O
Figure 2. 18
CH3 C
The continuation of biodegradation.
また,LDPE の酸化劣化が進行すると親水基すなわち
C=O 等の極性基が生成
するために土壌からの水分吸着性が強まり,より微生物が活動し易い環境下に置か
れることになる. Table 2.10 に各種ポリマーの 100μm フィルムでの未劣化の状
態と光劣化後の水分吸着率を示した.
63
Table 2.10
Water absorption rate for irradiation of high pressure mercury
lamp in high humidity. (90%RH)
Before
After 20 hr
treatment
irradiation
(%)
(%)
0.1 below(under)
0.2
0.1 below(under)
0.8
Polyester Urethane
0.3
3.7
Polyether
0.1
0.6
0.1
0.3
Polymer
Epoxy resin : novolak type
LDPE
( Low Density Polyethylene)
Urethane
EVA
(Ethylene Vinylacetate Copolymer )
2.3.6
自然界(畑,庭,野原)に散乱している LDPE フィルムの生分解
畑,庭,野原にあるゴミ捨て場などの土壌中に散乱する LDPE フィルムを採取
し,生分解状況を観察分析した.その結果,いずれのフィルムも土壌に埋没してい
た部分では損傷の大小はあるものの一様に白色化がみられ,微生物分解に特徴的な
あばた状の無数の空孔も生じていた.外観を Figure 2.5 に示した白色化した農業
用マルチフィルムの損傷を生じている部分をラクトフェノールコットンブルーで
染色し,光学顕微鏡観察をしたところ,分解部位では微生物コロニーの存在が確認
された(Figure 2.19).さらに,顕微鏡 FT-IR でも生分解の特徴である主鎖中の
-C=C-二重結合の存在とヒドロペルオキシド(3600cm-1 ),通常の-OH 伸縮振動
(3400cm-1 付近),アルコールに由来する-OH 変角振動(1080cm-1 付近)の吸収
の著しい増加を確認した.一方,土壌に埋没していない透明部では光劣化を生じて
カルボニル基(1715cm-1)の増加が認められる部分,ほとんど変化無しの部分な
ど,約 30cm2 の小さなフィルム破片にさまざまな劣化状態を示す結果が得られた.
以上を要約すると,回収されずに畑,庭,野原などの自然界に散乱している LDPE
フィルムが土壌に埋没した場合は,日光,雨などによる通常の酸化劣化と微生物の
作用による劣化が相乗的に生じ,予想より比較的速く生分解していくと考えられる.
64
Void
Void
Colony of
microorganisms
Figure 2.19
Microscope photograph of the agricultural mulch film surface.
After stained with lactphenol cotton blue fluid.
65
2.4
要
約
LDPE の生分解挙動とその分解メカニズムを把握することを目的として,32~
37 年間土壌中に埋没していた LDPE 成形品,PVC,PS,UF を採取して,詳細な
分析を行った.その結果,次の事項が判明した.
(1) LDPE は土壌に接していた部分では白化し,重量減少を伴う著しい劣化現象を
示す.しかし,土壌中でも深部に埋没していたものでは劣化,分解がかなり抑えら
れる.
(2) PVC,PS,UF は 30 年以上微生物活性な土壌に埋没していても,ほとんど微
生物劣化を生ずることはない.
(3) 厚みのある LDPE 成形品の表面部分と空気に影響されない中心部分の分子量
および分子量分布を測定して比較すると,土壌接触表面部分では数平均分子量の低
下と分子量分布の低分子側へのテーリング現象が認められた.この結果は表面のみ
生ずる酵素反応と一致する.
(4) FT-IR スペクトルによる表面分析より,LDPE は土壌接触部と非接触部との間
に酸化劣化の機構に明白な差があり,後者の場合,酸化生成物は,ほとんどカルボ
ン酸,ケトンで,前者ではカルボニル基に由来する吸収が減少し,その分炭素‐炭
素二重結合による吸収が増加する.
(5) 土壌非接触部では通常の酸化劣化が生じているのに対し,土壌接触部分では劣
化が酸化劣化と微生物分解との複合機構で進行する.微生物の存在下では,通常の
酸化で起こるアルコキシラジカルのβ開裂のほかに,γ開裂によって末端ビニル基
と揮発生成物を生じる機構が存在することが示唆された.
以上の結果は,一般に微生物分解しないといわれている高分子量 LDPE でさえ
も,微生物活性な土壌中に数十年という長期間埋没していれば,微生物が関与した
酸化分解によって低分子化することを示している.また,微生物分解の加速には,
通常の酸化反応を促進して活性点を増やし微生物がより分解し易くなる条件を作
ることが不可欠であることも明らかとなった.
66
[ 文
献 ]
1)大武義人,小林智子,浅部仁志,矢吹増男,小野勝道:日本ゴム協誌,66, 266
(1993)
2)大武義人,五味洋子,小林智子,伊藤茂樹,百武健一郎,矢吹増男:日本ゴム
協会誌,64, 677 (1991)
3) Albertsson, A-C. : Polym. Degrad .Stab., 18, 73 (1987)
4) Albertsson, A-C. : J. Appl. Polym .Sci., 35, 1289 (1998)
5)大武義人,小林智子,伊藤茂樹,浅部仁志,矢吹増男,小野勝道:日本ゴム協
会誌,67, 448 (1994)
6)大武義人,小林智子,浅部仁志,矢吹増男,小野勝道:日本ゴム協会誌,66, 266
(1993)
7)大武義人,小林智子,五味洋子,伊藤茂樹,矢吹増男:日本ゴム協会誌,64, 688
(1991)
8) 伊予田亨:大阪工業技術試験所季報,29, 7 (1978)
9) 大武義人,小林智子,伊藤茂樹,浅部仁志,矢吹増男,小野勝道:日本ゴム協
会誌,66, 504 (1993)
10) Adams, J. H.: J. Polym. Sci., Part A-1, 8, 1077 (1970)
11) Adams, J. H. : J. Polym. Sci., Part A-1, 8, 1279 (1970)
67
第3章
3.1 緒
LDPE 分解菌の特定
言
第 2 章では,低密度ポリエチレン(LDPE)が条件さえ整っていれば非常にゆっく
りではあるが,ポリ塩化ビニルやポリスチレン等の他の汎用プラスチックとは異な
り十分生分解性を示すことを,さまざまな角度より捕え突き止めた 1~15).例えば,
畑等で使用後,すき込まれて数年経過した LDPE 製マルチフィルムは,生分解特
有の微生物の酵素分解によって生じた微細な空孔の存在によりフィルム全体が著
しい白化現象を呈する.この分解部分の顕微 FT-IR 分析を行うと,通常の光劣化
や熱劣化で生ずるカルボニル基(1715 cm-1)の生成はほとんど見られず,主鎖中の炭
素-炭素二重結合(1640 cm-1),アルコール由来の-OH 変角振動(1080 cm-1),通常
の-OH 伸縮振動(3400 cm-1)の吸収ピークが確認される 10).これらの吸収ピークの
出現は,一部加水分解を伴う主鎖切断を示唆している 4,6).また,32 年以上土壌に
埋没していたマヨネーズボトル成形品において土壌と接触していた表面部分と土
壌非接触部分を比較すると土壌接触部では分子量の低下と分子量分布が低分子側
に大きくテーリングする現象が認められている 5).更に,土壌に接触していた白色
化している部分,すなわち分解部位を走査型電子顕微鏡(SEM)にて観察すると
LDPE を基質とした分解菌と考えられるコロニーの存在が認められる 3,15).これら
激しく部分的に分解している成形品をフッ酸で洗浄し,夾雑物を取り除き,詳細に
観察すると長さ 1~2 μm,幅 0.5~1 μm ほどの酵素による分解で生じた空孔が多
数観察される
11,15).また,分解の初期段階で,微生物の細胞分裂の際に
LDPE フ
ィルム表面に微生物の体型そのものを写し出す酵素分解によるボディーマークが
認められた 11).これらの観察結果は微生物が LDPE を直接分解している証拠とな
るものである.
本章では,LDPE を特異的に分解する能力を有する微生物を少なくとも 2 千種
以上存在する一般環境下の土壌菌から特定化するために,集積振とう培養法により
LDPE の極めてゆっくりとした分解速度を考慮して,約 6 か月にわたる単離・同
定試験を行った.更にそれらの菌について,6 週間屋外暴露により光劣化させた
LDPE フィルムを基質とする分解性について確認し,LDPE 分解菌を同定するこ
とを目的とした 16).
68
3.2 実
験
3.2.1 LDPE 分解菌分離用試料
(1) 土壌及び分解途上 LDPE フィルムの採取
栃木県野木町の畑に散在する LDPE 製マルチ用フィルムを採取し,種々分析調
査を行ったところ微生物分解特有の現象を示していた
10).そこで,LDPE
分解菌
分離用試料として,気温の上昇により LDPE 分解菌の活動が活発になり始める 4
月に,栃木県野木町のごみ集積場 2 ヵ所及び畑 1 ヵ所から生分解を生じている
LDPE に付着した土壌及びその周囲の土壌を採取した.3 種類の土壌をそれぞれ分
離源 D,E,F とし,生分解を生じている LDPE フィルムのうち 2 種をそれぞれ分離
源 G,H とした.
(2) 分離源培養液の作成
土壌中の LDPE 分解菌を増殖させて分離源とするために,畑に鋤きこまれて
生分解を生じている LDPE 製マルチ用フィルム付着土壌及びその周囲の土壌を畑
ごとに 3 ヵ所から採取した.採取した土壌 10g と酸化防止剤を含まない日本石油
化学株式会社製 LDPE-F31N ブロー成形フィルムを 3 ヵ月間屋外暴露により光劣
化させた後、冷凍粉砕した微粉末(数平均分子量:15,400,重量平均分子量:88,800)
1g をそれぞれ混和して,普通寒天培地上にて,30 °C で 18 ヵ月間培養した.用い
た寒天培地は Table 3.1 に示す好気性細菌の培養に用いられる基本的な固体培地で
ある.これら 3 ヵ所の畑から採取した土壌を培養したものをそれぞれ分離源 A,B,C
とした.分離源のリストを Table 3.2 にまとめて示す.
Table 3.1
Composition of broth agar.
Ingredient
Amount
Meat extract
10 g
Peptone
10 g
NaCl
5g
Agar
20 g
1000 mL
Deionized water
pH was adjusted to 7.2
69
Table 3.2
Isolation sources list.
Code
Isolation source mediums
A*
The broth of the soil adherent to LDPE mulch films.
B*
The broth of the soil adherent to LDPE mulch films.
C*
The broth of the soil adherent to LDPE mulch films.
D
The soil in a field of vegetable.
E
The soil in the refuse dump.
F
The soil in the refuse dump.
G
The LDPE mulch films in a refuse dump.
The films in the process of degradation.
H
The LDPE mulch films in a field of vegetable.
The films in the process of degradation.
*A, B & C were prepared by cultivating the field soil in Nogi Town, Tochigi
Prefecture, Japan for 18 months.
3.2.2 分離培地
LDPE を唯一の炭素源とするために,3.2.1.2.で述べた LDPE 微粉末を培地に添
加した(以下「LDPE 培地」という).微生物の生育に必要不可欠な窒素源,ミネ
ラル源等は通常用いられている硫酸アンモニウム,塩化ナトリウム等を適宜選択し
た液体培地を作製した.LDPE 培地の組成を Table 3.3 に示す.
70
Table 3.3
Composition of LDPE agar.
Ingredient
Amount
(NH4)2SO4
1.0 g
KH2PO4
0.2 g
K2HPO4
1.6 g
MgSO4・7H2O
0.2 g
NaCl
0.1 g
CaCl2・2H2O
0.02 g
FeSO4・7H2O
0.01 g
Na2MoO4・2H2O
0.5 mg
Na2WO4・2H2O
0.5 mg
MnSO4
0.5 mg
Calcium pantothenate
0.4 mg
Inositol
2.0 mg
Niacin
0.4 mg
p-Aminobenzoic acid
0.2 mg
Pyridoxine hydrochloride
0.4 mg
Thiamine
0.4 mg
Riboflavin
0.4 mg
Biotin
2.0 μg
Vitamin B12
0.5 μg
Light-degraded LDPE film
1.0 g
(after pulverizing it into fine powder)
1000 mL
Deionized water
pH was adjusted to 7.5
3.2.3 集積振とう培養法による一次選別試験
多種多様な微生物の混合系から特定の微生物のみを増殖させて単離する方法で
ある集積振とう培養を行った.高圧滅菌した 500 mL 容振とうフラスコに,LDPE
を除く Table 3.3 に示した培地をろ過滅菌し,無菌的に 100 mL 入れた後,屋外暴
71
露 LDPE の冷凍粉砕微粉末を 0.1 g 加えて LDPE 培地を調製した。これに,栃木
県野木町の畑土壌を 18 ヵ月間培養した分離源 A,B,C の培養液をそれぞれ 10 mL
ずつ植菌した.生分解を生じている LDPE フィルムに付着及び周囲の土壌である
分離源 D,E,F については,土壌をそれぞれ 3 g ずつ投入した.ごみ集積場と畑から
採取した生分解を生じている LDPE フィルムである分離源 G,H については,2
~3 cm 角のフィルムをそれぞれ投入した.振とう培養は 25°C にて行い,3~4 週
間後に培養液 10 mL を採取し,新鮮培地に継代した.以後継代は 4 回行い LDPE
を分解する有用細菌を集積した.Figure 3.1 に一連の集積振とう培養法による一次
選別試験法を示した.
分離用試料
唯一の炭素源として
LDPEを用いる液体培地
振とう培養
(菌が増殖するまで)
LDPE液体培地
に継代(n次培養)
分解菌の集積培養
(菌が集積するまで)
寒天平板法
にて純粋分離
Figure 3.1
Isolation method of LDPE degrading microbes.
(Enriched cultivation)
72
3.2.4 微生物の LDPE 分解能の評価
集積振とう培養中の微生物が LDPE に対する分解能を有するか否かの評価を行
った.評価には集積振とう培養液中の LDPE 微粉末を用いた.LDPE 微粉末は,
集積振とう培養液 30 mL をワットマンろ紙 No.1 にてろ別し,周辺に付着している
タンパク質を除去するため,以下に示すような細菌溶解酵素で処理した.酵素反応
は,N-アセチルムラミダーゼ,アクロモペプチダーゼ,リゾチームを十分量添加
して 37°C で 3 時間行い,更にプロテナーゼを十分量添加し,37 °C で 16 時間反
応させ,これを精製水洗浄,ドデシル硫酸ナトリウムに 10 分間反応させてろ過洗
浄,37°C で乾燥後評価に供した.分解活性の評価は,顕微 FT-IR(バイオ・ラッド
ラボラトリーズ社製 DIGILAB FTS-60 と付属の赤外顕微鏡 UMA-300A)を用い
て表面反射法,分解能 8.0 cm-1,スキャン回数 256 回で分析し,1080 cm-1 付近に
検出されるアルコール由来の-OH 変角振動を確認した.更に SEM(日本電子製
JSM T-300)を用いて試料表面へ Au スパッタリングを実施後,加速電圧 10kV,
高真空モードにて倍率 10,000 倍での観察による酵素分解跡(ボディーマーク)の有
無確認を行った.
処理後の LDPE 微粉末の酵素分解跡(ボディーマーク)の有無確認のために参照
として用いた、分解の初期段階に特徴的なボディーマーク
11)(長期間土壌の埋没
により白色化した LDPE フィルム表面の SEM 観察により認められた)を Figure
3.2 に示す.
Figure 3.2
Body marks on the back side of LDPE buried in soil.
73
3.2.5 微生物の純粋分離と属の同定
3.2.3 の LDPE 分解能を有する微生物の一次選別試験において LDPE 分解能の
確認された系について微生物の純粋分離を行った.培地には,Table3.3 の LDPE
培地に寒天を 15 g 添加して調製した,LDPE 寒天培地を用いた.また,集積培養
後でも万が一カビの混入があり得ることを考慮して,抗カビ剤であるナイスタチン
(明治製菓株式会社製ポリエンマクロライド系抗生物質製剤)を 100 U/mL 添加し
た LDPE-N 寒天培地も並列して調製した.純粋分離用サンプル C,E,H は 4 代目の
集積培養液を 103~107 倍まで 5 段階希釈し,LDPE 寒天培地及び LDPE-N 寒天培
地に塗抹した.28°C で 2 週間培養を行い,形成されたコロニーから白金耳にて釣
菌し,再度 LDPE 寒天培地及び LDPE-N 寒天培地で培養する操作を繰り返して分
離を行った.LDPE 分解能の評価は 3.2.4 に示した方法で行った.更に,二次選別
試験としてコロニーの形態や性状などの特徴を明瞭に発現させるため,Table 3.1
に示した普通寒天培地上に生育させて区分した.培養は 28 °C で 72 時間行い,出
現したコロニーを,コロニー特有の表面性状,成熟コロニーの色調などの特徴によ
る区分,及び菌体形態を生物顕微鏡にて観察し,同一と考えられる菌株を集約した.
得られた二次分離株を Bergey’s Manual of Determinative Bacteriology 第 8 版 17)
に従って属の同定を目的として菌学的性質を形態,生育状態,生理学的性質,炭水
化物の利用,酵素活性の有無の確認によって検索した.
3.2.6 LDPE 分解能を有する微生物の取得
3.2.5 で得た菌株について以下の 2 方法で植菌し,実際に LDPE を分解するかど
うかを確認するための資化試験を行った.第一の方法は,平板培地上に生育してい
る 1 コロニーを釣菌し,LDPE 液体培地に植菌する.第二の方法は,普通寒天培
地で対数増殖期まで増殖させた菌体を無菌的に遠心洗浄し,集菌した大量の菌体を
LDPE 液体培地に植菌する.これら植菌したものを 28 °C,120 spm(ストローク/
分)で振とうし,4 週間菌体と LDPE とを反応させた.その後 2.4 と同様に顕微 FT-IR
測定による-C=C-の検出と SEM 観察によるボディーマークの有無確認で分解能の
評価を行った.
74
3.2.7 バシラス属の種の同定
3.2.5 の菌学的性質の確認により,バシラス属と同定された菌株について更に,
生化学的性状から種の同定を進めるため,市販のバシラス生化学性状研究用キット
である日本ビオメリュー・バイテック社製,アピ 50CHB 及びアピ 20 を用いて確
認した.まず各菌を普通寒天培地上で純粋培養した後,コロニーをかき取り,滅菌
生理食塩液 1 mL に浮遊させ,濃厚な菌浮遊液を調製した.これを更に滅菌生理食
塩液で希釈し,アピ 50CHB 培地及びアピ 20 培地に分注した.その後 30 °C で培
養し,24 時間及び 48 時間経過後,菌が炭水化物を利用して発酵する際に生じる酸
の生産によって変化する培地(指示薬)の色から判定を行った.
3.3 結果と考察
3.3.1 微生物の LDPE 分解能の評価
第 2 章で述べたように,長期間土壌に埋没していた帯状に結ばれた LDPE フィ
ルムの顕微 FT-IR スペクトル(Figure 2.10)は,土壌に接触していた白色部におい
て,主鎖中の-C=C- (1640 cm-1),アルコール由来の-OH 変角振動(1080 cm-1),-OH
伸縮振動(3400 cm-1)の顕著な増加が認められる.
分離源 E(ゴミ集積場土壌)を集積培養した LDPE 粉末の顕微 FT-IR 分析におい
て,微生物分解に特徴的な-OH の存在を示す 1080 cm-1 付近の顕著な増加が確認さ
れた(Figure 3.3).分離源 C(マルチフィルム周辺土壌の培養液),分離源 E,及び分
離源 H(生分解を生じている LDPE フィルム) を集積培養した LDPE 粉末表面の
SEM 観察により,分解跡と考えられる Figure 3.2 と形状の酷似したボディーマー
クが観察された.分解現象が強く現れた順は E>C>H であった.Figure 3.4 に最も
現象が顕著に現れた E 系における SEM 観察写真を示す.Figure 3.4 a は LDPE
粉末表面に認められた菌体,酵素処理後の LDPE 粉体表面にはボディーマークが
観察された(Figure 3.4 b).ボディーマークは長さ 4~5 μm,幅 1 μm であり,菌
体のサイズと近似していた。
75
0.8
-OH
1080
Absorbance
0.6
0.4
(a)
0.2
(b)
4000
3500
3000
2500
2000
1800
1600
1400
1200
1000
800
Wavenumber/cm-1
Figure 3.3
FT-IR microscope spectra of LDPE after enrichment cultivation.
a)
LDPE powder after enrichment cultivation of code E.
b)
LDPE film before enrichment cultivation which was degraded outdoor
exposure for three months.
76
a)
Microbes
b)
Figure 3.4
Body marks
SEM images of the LDPE film by separated microbes code E.
a) Microbes attached to LDPE powder before cleaning.
b) LDPE powder after cleaning by enzyme.
77
3.3.2 微生物の純粋分離と属の同定
LDPE 分解能を有する微生物の一次選別試験において LDPE 分解能の確認され
た C 系,E 系,H 系について微生物の純粋分離を行った結果,分離源 C からは LDPE
寒天培地分離株 26 株及び LDPE-N 寒天培地分離株 29 株が,分離源 E からは LDPE
寒天培地分離株 11 株及び LDPE-N 寒天培地分離株 45 株が,分離源 H からは LDPE
寒天培地分離株 27 株及び LDPE-N 寒天培地分離株 37 株が一次分離株として選別
された.一次分離株合計 175 株は,LDPE 寒天培地上に生育したすべてのコロニ
ーを釣菌したものであり,それらコロニーの特徴を観察したところ,表面性状や形
態、コロニーの色調が非常に類似しているものがあった.そこで,LDPE 寒天培地
が貧栄養培地であり,コロニーの形態や性状などの特徴が明りょうに発現しない可
能性があることを考慮して,特徴が十分に発現しやすい普通寒天培地上に生育させ
て区分することとした.二次選別試験の結果,175 株について同一と考えられる菌
株を集約し,二次分離株として 21 株を得た.Bergey’s Manual of Determinative
Bacteriology 第 8 版に従って菌学的性質を形態,生育状態,生理学的性質,炭水
化物の利用,酵素活性の有無の確認によって検索した.検索の結果,ボルデテラ属
(Bordetella)細菌 1 株,ナイセリア属(Neisseria)細菌 2 株,モラキセラ属(Moraxella)
細菌 3 株,フラボバクテリウム属(Flavobacterium)細菌 2 株,アシネートバクター
属(Acinetobacter)細菌 1 株,及びバシラス属(Bacillus)細菌 3 株を同定した.菌株
No.14,No.19,No.20 に関する菌学的性質を Table 3.4~Table 3.8 に示す.
Table 3.4
Test items
Quality of mycology
(Morphology).
Sample code
No.19
No.14
No.20
without gloss and
smooth
without gloss and
rough
gloss and smooth
flesh color
orange color
yellow brown
long and thick rods
short rods
rods
Motility
-
±
-
Endospore forming
+
+
+
Form of endospore
ellipse and sphere
ellipse and sphere
sphere
+
+
+
end or semi-end
end or semi-end
end
Formation of colony surface
Tone of maturation colony
Formation of germ
Bulking
Position of endospore
- : Negative, + : Positive, ± : Both detective
78
Table 3.5
Quality of mycology
(Growth).
Sample code
Test items
No.14
No.19
No.20
Aerobic growth
+
+
+
Anaerobic growth
-
-
-
Growth of broth agar
+
+
+
Growth of Mac Conkey’s agar
-
-
-
Gelatin liquefaction test
-
-
-
Litmus milk test
-
-
-
- : Negative, + : Positive
Table 3.6
Quality of mycology
(Physiology ).
Sample code
Test items
No.14
No.19
No.20
Gram stain
+
+
+
Catalase test
+
+
+
Oxidase test
-
+
-
Glucose (product of acid)
+
+
+
Glucose (product of gas)
-
-
-
Glucose (F / O / -)
-
O
O
Properties of acid-fast
-
-
-
Voges – Proskauer test
+
-
+
Nitrate reduction test
+
-
++
Hydrolysis of starch
+
-
+
Hydrogen sulfide test
-
-
-
Indole test
+
-
+
Deoxyribonuclease test
-
-
-
Urease test
+
++
±
- : Negative, + : Positive, ± : Both detective, ++ : Positive strongly,
F : Glucose fermentative
79
O : Glucose oxidative
Table 3.7
Quality of mycology
(Resolution of carbohydrate).
Sample code
Test items
No.14
No.19
No.20
Pentose
D-Xylose
-
+
-
Methyl pentose
L-Xylose
-
-
-
Galactose
+
-
-
D-Glucose
+
+
-
Maltose
+
-
-
Lactose
+
-
-
Sucrose
+
-
-
Raffinose
+
-
-
Polysaccharide soluble starch
+
-
+
Glycoside
Aesculin
+
+
+
Mannitol
+
+
-
Sorbitol
+
+
-
Inositol
+
+
-
Hexose
Disaccharide
Trisaccharide
Alcohol
- : Negative, + : Positive
Table 3.8
Quality of mycology
(Activity of enzyme).
Sample code
Test items
No.14
No.19
No.20
β-Galactosidase
+
-
-
Arginine dehydrodase
-
-
-
Lysine decarboxylase
-
-
-
Ornithine decarboxylase
-
-
-
Urease
+
++
±
Deoxyribonuclease
-
-
-
Tryptophane aminase
-
-
-
- : Negative, + : Positive, ± : Both detective, ++ : Positive strongly
80
3.3.3 LDPE 分解能を有する微生物の取得
3.2 で得られた 21 株(菌株 No.1~No.21)について,実際に LDPE を分解する
かどうかを確認するための資化試験を行った.その結果,分解能が高いと判断され
る 3 株(菌株 No.14,No.19,No.20)が得られた.No.14 株,No.19 株,及び No.20
株は,いずれも 3.2 にて確認した菌学的性質が,グラム陽性で芽胞形成する好気性
の桿菌であり,3 株いずれもバシラス属と同定された菌株である.
3.3.4 バシラス属の種の同定
バシラス属と同定された No.14 株,No.19 株,及び No.20 株について更に,生
化学的性状から種の同定を進めるため,市販のバシラス生化学性状研究用キットを
用いて判定を行った.結果を Table 3.9 に示す.判定試験の結果,No.14 株はバシ
ラス・サーキュランス(Bacillus circulans),No.19 株はバシラス・ブレーブス
(Bacillus brevies),No.20 株はバシラス・スフェリカス(Bacillus sphaericus)と同
定された.これら 3 株は,平成 9 年 9 月 3 日付けで工業技術院生命工学技術研究
所に寄託した.受託番号はそれぞれ FERM P-16400,FERM P-16401 及び FERM
P-16402 である 18).同定された LDPE 分解菌を Table 3.10 にまとめて示す。
81
Table 3.9
Quality of mycology
Test items
Glycerol
Erythritol
D-Arabinose
L-Arabinose
Ribose
D-Xylose
L-Xylose
Adonitol
β-Methyl-D-xyloide
Galactose
D-Glucose
D-Fructose
D-Mannose
L-Sorbose
Rhamnose
Dulcitol
Inositol
Mannitol
Sorbitol
α-Methyl-D-mannoside
α-Methyl-D-glucoside
N-Acetylglucosamine
Amigdalin
Arubutin
Aesculin
Salicin
Cellobiose
Maltose
Lactose
Meribiose
Sucrose
Trehalose
Inulin
Melezitose
Raffinose
Amidone
Glycogen
Xylitol
Gentibiose
D-Turanose
D-Lyxose
D-Tagatose
D-Fucose
L-Fucose
D-Arabitol
L- Arabitol
Gluconate
2-Ketogluconate
5-Ketogluconate
(Resolution of carbohydrate / oxidation).
Sample code
No.14
-
-
-
-
-
-
-
-
-
+
+
+
-
-
-
-
+
+
+
-
-
-
-
-
+
-
-
+
+
+
+
-
-
+
+
-
-
-
-
+
-
-
-
-
+
-
+
-
+
- : Negative, + : Positive
82
No.19
-
-
-
-
-
+
-
-
-
-
+
+
-
-
-
-
+
+
+
-
-
-
-
-
+
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
+
-
+
-
-
No.20
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
+
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
+
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
+
-
+
-
-
Table 3.10
Identified microbes using LDPE as a sole source of carbon.
Sample code
3.3.5
Identified microbes
Deposit code
No.14
Bacillus circulans
FERM P-16400
No.19
Bacillus brevies
FERM P-16401
No.20
Bacillus sphaericus
FERM P-16402
LDPE 分解能力の再確認
3.4 で同定された 3 株について LDPE に対する資化試験を行った.普通液体培地
で対数増殖期まで増殖させた菌体を無菌的に遠心,洗浄し,集菌した大量の菌体を,
屋外暴露により 6 週間劣化させた LDPE フィルムの砕片化したものを添加した
LDPE 液体培地に植菌した.これを 28°C で激しく振とうし,菌体と LDPE とを
反応させた.なお 2 週間ごとに培地の半量を交換し,無機塩等の不足による分解反
応の低下を防止した.培養液から LDPE を 1 ヵ月後,3 ヵ月後に採取し,3.2.4 と
同様に分解活性を評価した.いずれの LDPE からも分解を示す菌のボディーマー
クが確認され,特に No.14 の菌株で顕著であった.バシラス・サーキュランス No.14
の菌株により分解された LDPE の SEM 観察写真を Figure 3.5 に示す.バシラス・
サーキュランス No.14 株の周囲の LDPE フィルム表面が分解されている様子が確
認された.また,偶然にも成形時の金型による微細なダイラインが,同じ視野の
LDPE フィルム表面に観察された.このことから,投入した高分子量の LDPE 成
形フィルム表面をバシラス・サーキュランス No.14 株が資化している決定的な証
拠となった.したがって,以上の SEM による分解状態の観察結果は,LDPE フィ
ルムが微生物により分解されることを十分に裏付ける証拠となるものである.
83
Body marks
B. circulans
Film section
Trace
B. circulans
Figure 3.5 SEM images of the LDPE film by cultivation of Bacillus circulans
No.14.
a) Body marks after cleaning LDPE film.
b) Microbes attached to LDPE film before cleaning.
c) Traces of degradation around a microbe and extruder die line.
84
3.4 要
約
LDPE 分解能を有する微生物の単離・同定を目的として,分解途上の LDPE フ
ィルムをフィールドで採取したものと,その付着土壌を用いた集積振とう培養を行
った.その結果,LDPE を特異的に分解する微生物として,
・ バシラス・サーキュランス(Bacillus circulans)
・ バシラス・ブレーブス(Bacillus brevies)
・ バシラス・スフェリカス(Bacillus sphaericus)
の 3 種類を同定した.これらは稲ワラに付着している納豆菌の一種であり土壌中に
常在する.したがって,これらの菌は我々の生活圏の周囲に散在し,特にイネ等を
栽培する我国では全国に分布しているもので決して特別な菌ではないと考えられ
る.廃棄され日光に暴露されて光劣化した後の LDPE フィルム等の成形品は,分
子鎖中に親水基を生成させ,雨や土壌中の水分を劣化したフィルム表面上に吸着す
る.この結果,フィルム表面と微生物との間に親和性が増し,微生物が繁殖しやす
い環境下になり,土壌中の微生物が徐々に LDPE フィルム表面に誘引され,微生
物によりゆっくりとではあるが,分解が進行するものと考えられる.また,バシラ
ス菌は強い耐熱性菌であり,現在の温暖化傾向にある夏の高温下でも十分耐えられ
るものと考えられる.
[ 文
献 ]
1) 大武義人,五味洋子,小林智子,伊藤茂樹,百武健一郎,矢吹増男:日本ゴム
協会誌,64,677 (1991)
2) 大武義人,小林智子,五味洋子,伊藤茂樹,百武健一郎,矢吹増男:日本ゴム
協会誌,64,688 (1991)
3) 大武義人,小林智子,伊藤茂樹,山本愉香,矢吹増男,浅部仁志,小野勝道:
日本ゴム協会誌,66,266 (1993)
4) 大武義人,小林智子,伊藤茂樹,浅部仁志,矢吹増男,小野勝道:日本ゴム協
会誌,66,504 (1993)
85
5) 大武義人,小林智子,伊藤茂樹,浅部仁志,矢吹増男,小野勝道:日本ゴム協
会誌,66,756 (1993)
6) 大武義人,小林智子,伊藤茂樹,浅部仁志,矢吹増男,小野勝道:日本ゴム協
会誌,67,448 (1994)
7) 大武義人,小林智子,伊藤茂樹,浅部仁志,矢吹増男,村上信直,小野勝道:
日本ゴム協会誌,67,636 (1994)
8) 大武義人,小林智子,伊藤茂樹,浅部仁志,矢吹増男,村上信直,小野勝道:
日本ゴム協会誌,67,698 (1994)
9) 大武義人,小林智子,伊藤茂樹,浅部仁志,矢吹増男,村上信直,小野勝道:
日本ゴム協会誌,68,551 (1995)
10) 大武義人,小林智子,伊藤茂樹,浅部仁志,矢吹増男,村上信直,小野勝道:
日本ゴム協会誌,68,808 (1995)
11) Ohtake, Y., Kobayashi, T., Asabe, H. Murakami, N., Ono, K.: J. Appl. Polym.
Sci., 56, 1789 (1995)
12) 大武義人,小林智子,浅部仁志,矢吹増男,村上信直,小野勝道:日本化学会
誌,4,325 (1996)
13) 大武義人,小林智子,浅部仁志,矢吹増男,村上信直,小野勝道:日本化学会
誌,10,853 (1996)
14) Ohtake, Y., Kobayashi, T., Asabe, H., Murakami, N., Ono, K.: J. Appl. Polym.
Sci., 70, 1643 (1998)
15) Ohtake, Y., Kobayashi, T., Asabe, H., Murakami, N.: Polym. Degrad. Stab.,
60, 79 (1998)
16) Watanabe, T., Ohtake, Y., Asabe, H., Murakami, N., Furukawa, M.: J. Appl.
Polym. Sci., (2008) 印刷中
17) Buchanan, R. E., Gibbons, N. E. Eds. : “Bergey’s Manual of Determinative
Bacteriology (8th ed.)”, Williams and Wilkins, Baltimore
(1974)
18) 大武義人,白神浩一,浅部仁志,小山文夫,牧野英典,大村浩,長井富美子,
村上信直,廣瀬朗,奥田清明,高川慎司:特公平 11-155562 (1999)
86
第4章
生分解誘引剤の開発とその有効性の評価
4.1 緒
言
第 2 章では,LDPE の生分解挙動と分解メカニズムを解明するために,32~37
年間土壌中に埋没していた LDPE 成形品,PVC,PS,UF を分析・調査した.PVC,
PS,UF は 32 年以上微生物活性な土壌に埋没していても,ほとんど微生物劣化を
生ずることはないが,LDPE は土壌に接していた部分では白化し,重量減少を伴う
著しい劣化を示す.また,LDPE は土壌接触部と非接触部との間に酸化劣化の機構
に明白な差があり,土壌接触部分では劣化が酸化劣化と微生物分解との複合機構で
進行する.さらに,微生物分解の加速には,通常の酸化反応を促進して活性点を増
やし微生物がより分解し易くなる条件を作ることが不可欠であることも明らかと
なった.
第 3 章では,分解途上の LDPE マルチフィルムおよび,マルチフィルムに付着
した土壌から,LDPE を特異的に分解する能力を有する微生物を集積振とう培養法
により単離・同定を行い,Bacillus circulans,Bacillus brevies,Bacillus sphaericus
の 3 種類を同定した 1).
本章では,第 2 章で明らかにした LDPE の生分解メカニズムをベースに,実用
に耐えられる力学物性と生分解速度を有する LDPE の生分解を促進するための添
加剤(生分解誘引剤)を提案し,さらに,1993 年から土壌埋設試験を行っている
生分解誘引剤マスターバッチ配合 LDPE フィルム試料 2)について,土壌埋設 3 年
及び 13 年間の長期にわたる生分解進行状態を調べ,生分解誘引剤の有効性を評価
することを目的とした.
これまで,でんぷん等を添加した市販 LDPE(商品名:エコスター,ECOSTER
INTERNATIONAL 社製)の土壌埋設処理による生分解性評価を行ってきた.研
究で得られた結果について以下に簡単にまとめる.
①エコスターを添加したポリオレフィン,特に LDPE を土壌埋設すると,添加さ
れたでんぷんが消失するだけでなく,同時にポリマーの劣化も進行することが確認
された 3).ポリマーの劣化は,同じポリオレフィンでも結晶性が低いポリマーほど
速やかに進行し,例えば PP<HDPE<L-LDPE<LDPE の順に劣化しやすくなる
4).このことから,一般に説明されている“でんぷん入りプラスチックスはでんぷん
87
のみが消費され,その結果機械的にボロボロになるだけでポリマー部にはダメージ
を与えない”という従来の定説とは異なる結論が得られた.
②土壌埋設による LDPE の酸化劣化部には,土壌中の Fe,Al などの元素の集中が
生じることを確認しており,これら金属化合物は,ポリマーの劣化初期に発生する
ヒドロペルオキシドをレドックス反応により接触分解し,フリーラジカルの生成を
促進化していると考察した 5).しかし,この微生物分解は一旦,酸化劣化した LDPE
が分解にふさわしい環境下に入ることによって,ゆっくりと進行するものの,分解
が開始するまでの環境条件,すなわちポリマーと微生物との親和性が生ずるまでの
期間は,他の生分解プラスチックと比べて非常に遅い.
③一般に使用されている通常の PE の分解速度を単に重量変化で換算すると,厚さ
60μm のフィルムの場合,32~37 年間の劣化で約 15%減と非常に遅く,劣化が定
常的に進行するとすればすべて分解するには約 200 年もかかると推定された.し
かしながら,空気中での酸化分解の劣化時間をアレニウスの式を用いた小沢理論で
計算すると約 1,000 年となり,劣化速度の絶対値が小さいとはいっても微生物が
PE に及ぼす影響は非常に大きいものと考えざるを得ない.以上の①~③より,PE
は難分解性ポリマーといえども,他の汎用ポリマーよりは微生物の影響を受けやす
く,条件さえ整えば通常の劣化分解より速やかに進行していくことを確信した.し
かし,その分解速度は極めてゆっくりであるため,生分解プラスチックスとして用
いるには不適当である.そこで,PE をベースポリマーとした生分解プラスチック
スを実用化するには分解を促進する成分を投入して分解速度を速める,即ち添加剤
としての“分解誘引剤”の開発が必要不可欠であるという考えに至った 6,7).これは,
従来からの定説ではポリオレフィンの微生物分解は exogeneous な攻撃より開始さ
れ 8),そのため末端濃度が高い程に攻撃されるチャンスは増加するが,逆に高分子
量となると末端濃度は減少し,攻撃されるチャンスは少なくなり低分子化するまで
に長時間を要することになる.しかし,分子鎖の途中,途中に酸化活性点を設けれ
ば微生物分解は endogeneous にも起こり得ると考えられる.
そこで我々は,これまでの調査研究から得た情報をもとに従来のエコスター2)よ
りも微生物劣化分解を速める添加剤(生分解誘引剤)の探索を試み,それらを添加
した,新しいでんぷん等生分解誘引剤配合 LDPE の評価を行った.
88
4.2
生分解誘引剤の配合設計
これまで研究を進めてきた市販のでんぷん等添加 LDPE(エコスター)の土壌埋
設評価の結果より,LDPE の生分解を促進する因子をまとめると,(1)でんぷん,
(2)有機金属化合物,(3)酸化オイルが挙げられる.従来のエコスターよりもさらに
LDPE の生分解促進効果を有する,新しい生分解誘引剤添加 LDPE フィルムの組
成を Table4.1 に示す.また,添加した生分解因子の効果について以下に述べる.
Table 4.1
Composition of biodegradation-induced agents-added LDPE.
Weight %
Compounding agents
LDPE F31N* (Base polymer)
84.6
Starch ( Induction of microbes )
Vegetable oil ( Accelerator of oxidative degradation )
Calcium oxide ( Agent of soak up water)
Metal compounds (e.g. Iron stearate. Accelerator of oxidative
degradation )
Oxidized wax ( Accelerator of oxidative degradation )
8.6
1.2
1.6
3.0
1.0
* Produced by NIPPON Petrochemicals co., Ltd. (Melt index=2, Mw=8.8×104)
4.2.1 生分解に及ぼす化学的因子
(1) でんぷんの効果
植物由来のもので微生物に優しい添加剤として,でんぷんを選択した.でんぷん
は土壌中の微生物から分泌されるアミラーゼ等により短期間で速やかに分解され
る.例えば,でんぷんが PE 膜に覆われていても,厚さが 5~8μm 程度であれば分
解酵素はでんぷんに浸透する.そのため,でんぷんの消失は引き続き生ずる種々の
微生物関与のための先駆けとなり,添加された諸誘引剤の効果を増進させる.直接
の効果としてはミクロボイド生成による機械的強度の低下,ボイド生成によって生
ずる表面積拡大に伴う土壌への接触面の増大,ボイド存在による毛細管現象により
物理的に水分が吸収され微生物生存に好ましい環境になること,アミラーゼを生成
する Aspergillus 属,Bacillus 属等ばかりでなく PE を分解する可能性のある他の
89
微生物の誘引などがある.しかし,でんぷんそのものはポリマーの劣化,分解には
直接寄与することはない.例えば,LDPE にでんぷんのみを 5%,10%添加し,無
添加 LDPE と土壌埋設処理 4 ヵ月後の微生物の影響について比較を行ったところ,
でんぷんによる影響は認められなかった.一方,Albertsson は同じく LDPE にで
んぷんのみを添加し,UV 照射後でんぷん量とポリマーの関係について調べ,でん
ぷん添加量の多いほどポリマーの劣化を示すカルボニル基の量が増えることを報
告している 9).しかし,この場合はでんぷんより UV の影響が大きく,次いででん
ぷんの消失に伴う機械的効果が寄与したものと考えられ,単に添加したでんぷんが
直接ポリマーの劣化に寄与していることは考え難い.なお,でんぷんはシランカッ
プリング処理を施して,ポリマーとでんぷんとの親和性を高め馴染みを良くし,で
んぷんを添加した割にはさほど強度が低下せぬようにした.
(2) 有機金属化合物(Fe,Al 等)の効果
エコスターの土壌埋設評価時,激しい劣化部には Fe,Al 等の元素が集中し,特
にフィルムを貫通する空孔の周辺で著しいことが EPMA 測定で確認された 4).こ
れは,平山山林で採取された LDPE フィルムでも,32~37 年間埋没していた LDPE
フィルムでも同様の現象が認められた
10).この現象は,ポリマーの劣化初期に発
生するヒドロペルオキシドを Fe,Al 等の金属塩がレドックス反応にて接触分解し,
フリーラジカル生成を促進しているものと考えられた.例えば,Fe の場合,次の
ように分解ラジカルを生成することになる.
ROOH+Fe2+→RO・+(:OH)-+Fe3+
ROOH+Fe3+→ROO・+H++Fe2+
また,レドックス反応は,Figure 4.1 に示すように金属種によって酸素吸収速度
はそれぞれ異なる
11).つまり,これらの金属元素は生分解の初期段階において重
要な働きをすると考えられる.さて,土壌中には生物体が微生物によって分解され,
また再合成されてできた腐植物質が含まれている.腐植にはいろいろな成分がある
が,一種の高分子電解質として負に帯電し,土壌中の各種金属イオンを吸着する能
力をもつ 12).したがって,劣化した PE の表面では土壌中から容易に金属イオンが
供給され,上述のレドックス反応が起こりやすい.そこでもし,有機酸の金属塩を
90
ポリマーへ直接添加すれば,レドックス反応を自己触媒的に高める効果があると考
えられる.また,Fe-dithiocarbamate 等の有機金属塩の添加により,UV 照射に
よってカルボニルの顕著な増加が認められることが報告されているので
13),使用
Absorption amount of O2(O2ml/g polymer)
後屋外に廃棄された際の太陽暴露時の光吸収剤としての効果も十分期待できる.
Mn
Cu Fe
Cr
Co
V
50
Ni
Ti Ag Zn Cd
Pure
40
30
20
10
0
0
Figure 4.1
50
100
Time (min.)
150
200
Relationship between absorption amount of O2 and
treatment time at 125 °C. 11)
Various metal stearate 0.5 wt% added PP.
実際に LDPE が分解している様子を SEM にて観察したところ,微生物から菌体
外へ酵素を含む糖類を代謝し LDPE を分解している様子が認められた(Figure 4.2).
この酵素を含む代謝物部分を SEM 観察と同一視野で EPMA にて元素分析を行
うと,Figure 4.3 に示すように酵素を構成するタンパク質の存在を示す N,P 以外
に Cu,Fe が多量に含まれていることが確認された.すなわち,LDPE 分解菌は金
属イオンを分解酵素に含ませ,ポリマーをレドックス反応も絡ませて分解促進化を
図ることを心得ていたと思われる.なお,これらが微生物の有する酵素である根拠
は,EPMA 分析の前に 48 時間のフッ化水素酸浸漬処理を行い,土壌由来の金属類
等,糖類で覆われている酵素由来の物質以外全て消失しているためである.
以上のいくつかの理由により,生分解誘引剤として有機金属類を添加するに至っ
た.
91
LDPE degrading microbes
10μm
Magnification
LDPE degrading microbes
1μm
LDPE degrading microbes
Metabolic
matter
1μm
Figure 4.2
SEM image of LDPE degrading microbes and metabolizing
enzyme.
92
Metabolic matter
(a) SEM
(b) Fe
10μm
(d) N
(C) Cu
(e) O
Figure 4.3
(f) P
EPMA analysis of adhesional matter in the vicinity of
Biodegraded part.(×2000)
(a) : SEM image.
(b)~(f) : Elementary mapping image.
93
(3) 酸化オイルの効果
劣化に影響する要因を分けて評価するために,LDPE(日本石油化学製)に①で
んぷん 8.6%,オイル 1.2%,②でんぷんのみ 8.6%,③オイルのみ 1.2%添加したも
のと,④無添加 LDPE の 4 種類の試料を作成し,MIL F8261A(微生物抵抗性試
験)に準拠した,ホットポットテストを行った.ホットポットテストは,堆肥,山
林土と少量の砂をメッシュ No.4 で篩ったベッドを作り,各試料を埋設した.処理
温度は 40 °C,60 °C,80 °C の 3 水準とし,エアレーションは行わず,9 週間静置
した.その結果,添加剤のポリマーに対する劣化促進効果には,でんぷんよりもオ
イル(大豆油等の食用油)の存在が大きな影響を及ぼしていることが確認された
14).これは,劣化進行しやすいオイルが,劣化と同時にラジカルを発生し,周囲の
ポリマーに影響を及ぼしているためである.同様な例は他にもあり,酸化の進んだ
植物油をゴムのプロセスオイルとして添加すると初期物性は良好であるが,その後
数ヵ月でゴムの激しい劣化が始まることが経験的に知られている.Figure 4.3 は実
際に LDPE にでんぷん 5%,オイル 1%添加したものと,LDPE にでんぷんのみを
添加したものの 2 種類のフィルムを 80 °C のギヤーオーブンにて熱処理後,酸化開
始温度の比較を示したものである.LDPE へのオイルの直接添加は難しいが,でん
ぷんの存在下では比較的均一な混練が可能であったため,でんぷんも同時に添加し
た.Figure 4.3 に示すように,オイル添加 LDPE は無添加 LDPE よりも劣化の進
行を示す酸化開始温度
15,16,17) の低下が起こっていることが確認された.次に,
LDPE に添加するオイルをあらかじめ酸化させた場合の影響を調べた.これは添加
オイルがポリマーに対し影響を及ぼし始めるまでの時間を省略することを目的と
した.酸化オイルは市販サラダ油を 180 °C にて 2,4,8 時間空気中で熱処理して
調整した.結果を Figure 4.4 に示す.酸化の進んだオイルを添加するほどポリマ
ーの劣化は著しく進行する.このように,オイルの添加は LDPE の劣化促進に効
果があり,さらに効果を増大させるには酸化オイルを用いればよいことが明確にな
った.
94
Initial oxidation temperature (℃)
220
215
Control LDPE
210
Oil addedLDPE
205
0
2
4
6
8
10
Aging time at 80 ℃ (weeks)
Figure 4.4
Relationship between initial oxidation temperature
and aging time.
Initial oxidation temperature (℃)
220
215
C
210
0
2
4
6
205
200
0
2
4
6
8
10
Aging time at 80 ℃ (Weeks)
Figure 4.5
Relationship between initial oxidation temperature
of oil added LDPE and aging time.
C:control LDPE
0:no treatment oil added LDPE
2*:180℃×2 hours
4*:180℃×4 hours
6*:180℃×6 hours
95
*:Treatment hours of oil at 180℃
そこで,これらの生分解促進因子の有効性を評価するために,シランカップリン
グ処理でんぷん,有機金属化合物,酸化植物油などの生分解誘引剤マスターバッチ
を開発し,LDPE に添加したフィルムを作製し,土壌埋設試験を実施した.1 年間
の埋設試験の結果,短期間でありながら,部分的ではあるものの微生物分解するこ
とを見いだし 2),実用的な速度で LDPE を微生物分解させるためには,分解促進
効果をもつ添加剤の配合が不可欠であることを提唱した.
これ以後多くの研究者が研究に取り組み,ポリ乳酸
18),ポリカプロラクトン,
エチレン-アクリル酸共重合体 19),バナナデンプン 20),ポリ(β-ヒドロキシブチ
レート)21)等を分解誘引剤として報告している.Jakubowicz らは,酸化促進剤と
してステアリン酸マンガンを含む熱酸化劣化ポリエチレンフィルムの好気的生分
解度を求めるために,コンポスト条件下で処理し,二酸化炭素発生量で評価してい
る
22).また,Khabbaz
らは,分解可能マルチフィルムを設計するために,LDPE
へ酸化促進剤としてステアリン酸マンガン,スチレン-ブタジエンゴムあるいは天
然ゴムを添加して酸化劣化度を評価している 23).
上述したように多くの生分解誘引剤が研究されているが,長期土壌埋設試験後の
生分解挙動経過についての報告は皆無である.以下では,生分解誘引剤マスターバ
ッチ配合 LDPE フィルムについて,3 年及び 13 年間の長期にわたる土壌埋設試験
を行い生分解誘引剤の有効性について評価した.
4.3 生分解誘引剤の長期評価
4.3.1 実
験
4.3.2 長期土壌埋設用ベースポリマーの選択
ベースポリマーの LDPE は,以下の点を考慮して選択した.先に述べたように,
結晶性の低いポリマー程,微生物によるダメージを受けやすく
3,4),非晶部は,酸
素拡散が結晶部に比べ容易であるため,微生物分解を含めた酸化反応が進行しやす
い.また,非晶部が多いほど,分子末端が非晶部に存在する確率も高くなり,それ
だけ exogeneous な分解が起こりやすくなる.ポリマー鎖末端からの微生物分解反
応
8)を進行させるために,メルトインデックス(MI)が比較的高い
LDPE(日本
石油化学株式会社製 LDPE-F31N;MI=2;重量平均分子量 88,000)を用いた.
また,生分解誘引剤によるポリマーの酸化劣化の進行を早めるために,微生物分解
96
も基本的には酸化劣化であるので,ポリマーとして酸化防止剤を全く含まないもの
とした.酸化防止剤の大部分は微生物の嫌う化学構造を有しているのもその理由の
一つである.これに生分解誘引剤マスターバッチを 20wt%添加し,厚さ 30μm の
インフレーション成形フィルムを調製した.
4.3.3 埋設土壌および埋設期間
調製したフィルムを,土壌の組成(Table 4.2),微生物の種類と量(Table 4.3,
4.4)が把握されている微生物活性な堆肥土壌 3)に 1993 年 4 月から 1996 年 5 月ま
での 3 年間および,2006 年 4 月までの 13 年間埋設した.また,比較試料として
生分解誘引剤無添加 LDPE フィルムを同様に埋設した.試料の詳細が分かるよう
にフィルムの一辺をアルミニウムテープで覆い,試料名を記入し,更に切り込みを
入れて採取時に判別できるようにした.LDPE を分解する好気性菌が多く分布して
いる深さ 10 cm から 20 cm の比較的浅い位置に埋設し,また Bacillus 菌が多く付
着し,なおかつ地表面の乾燥を防ぐために無農薬にて栽培した稲ワラを埋設土壌に
被せた.
Table 4.2
Chemical analysis of compost soil.
Active pH
7.4
Substitutive pH
6.3
157.2
Moisture content (%)
Water content (%)
61.0
Organic matter (%)
13.9
Inorganic matter (%)
25.1
Indicated in % per fresh soil.
Table 4.3
The number of microorganisms in compost soil.
Viable cell /g
8.4×107
Unaerobes
1.0×106
Clostridia
Mold
/g
/g
1.8×105
/g
2.0×104
Indicated in numbers per fresh soil.
97
Table 4.4
Microorganisms identified in compost soil.
Clostridium sp.
Proteus .sp
Bacillus sp.
Penicillium sp.
4.3.4 生分解状況の評価
(1) 目視,デジタルマイクロスコープおよび SEM による外観観察
生分解状況の外観観察は,目視,デジタルマイクロスコープ(キーエンス製 VH
-8000)で行った.さらに,フッ化水素酸に 48 時間浸漬後,蒸留水で洗浄し,室
温で真空乾燥させた試料を用いて SEM(日本電子製 JSM - 5610LV,加速電圧 10
kV,高真空モードにて倍率 150~10,000 倍)観察により,分解状況や酵素分解跡,
すなわち微生物による酵素分解の際に微生物の体内に保有されている酵素が細胞
壁を通して体外に代謝され,菌体の形状をフィルム表面に写し出すボディーマーク
の有無を確認した.
(2) 重量測定による分解度の算出
測定試料には,付着した土壌成分を除去するために,蒸留水中で超音波照射後,
1/10 希釈のフッ化水素酸に 48 時間浸漬処理,再び蒸留水洗浄,室温で 48 時間真
空乾燥後,シリカゲルを入れたデシケータ中に保管して用いた.土壌埋設期間 3
年,13 年の厚さ 30 μm の生分解誘引剤添加フィルムが破片状であったため直径
10mm の円形に打ち抜いた試料を,単位面積当たりの重量測定による分解度の算
出に使用した.比較試料には土壌埋設期間 13 年の厚さ 30 μm の無添加 LDPE フ
ィルムを用いた.測定はそれぞれ 3 か所ずつ行った.
(3) 高温 GPC による分子量および分子量分布測定
高温 GPC にはウォーターズ社製 Alliance GPCV-2000 を用いて検出器 RI,カラ
ム TSKgel GMH6-HT(内径 7.8 mm,長さ 30 cm)4 本,溶離液 o-ジクロロベン
98
ゼン,流速 1.0 mL/分,カラム温度 135°C の条件で、較正試料として単分散ポリス
チレンを使用し測定した.重量測定と同様にフッ化水素酸浸漬処理を行い,蒸留水
洗浄,室温で 48 時間真空乾燥した試料を o-ジクロロベンゼン(0.5 mg/mL)に
135 °C で溶解し 1 μm ガラスフィルターで高温ろ過後,測定に供した.
(4) 顕微 FT-IR による官能基の同定
バイオ・ラッドラボラトリーズ社製 DIGILAB FTS-6000 と付属の赤外顕微鏡
UMA-500 を用いて顕微 ATR 法(ATR プリズムにはゲルマニウム結晶を使用)
,分
解能 8.0 cm-1,スキャン回数 256 回で分析し,主鎖中の炭素-炭素二重結合(1640
cm-1),通常の酸化劣化で生じる 1720 cm-1 付近のカルボニル基(ケトンおよびカル
ボン酸),アルコール由来の-OH 変角振動(1080 cm-1),通常の-OH 伸縮振動(3400
cm-1)の吸収 5,24)を確認した.
顕微 FT-IR 分析用試料には,重量測定と同様にフッ化水素酸浸漬処理で土壌成
分を除去後,分解途上のフィルムに付着している微生物から代謝された酵素等を除
去するため,Lysis Buffer (4 % (w/v) CHAPS { 3 - (3 - cholamidopropyl)
dimethylammonio -1- propanesulfonate } ,
2 M チオウレア,
8 M ウレア,
10 mM トリス- 塩酸緩衝液 pH 8.8)に 18 時間室温浸漬,超音波照射後,蒸留水
で洗浄,更にタンパク質分解酵素溶液(トリプシン 1.0 mg + 50 mM 炭酸アンモ
ニウム 10 ml)に 37 °C,48 時間浸漬,蒸留水で洗浄,室温で 48 時間真空乾燥後
の試料を用いた.
99
4.4 結果と考察 25,26)
4.4.1 土壌埋設試料の外観
Figure 4.6 に 3 年間埋設生分解誘引剤添加フィルムの外観とデジタルマイクロ
スコープによる写真を示す.形状は,ほぼ初期のままでありながらも表面は,生分
解の進行により白色化した部分と分解が全く進行せずに透明な状態を保った部分
が認められる.
(a)
Clear part
Whitened part
10cm
Magnification
(c)
(b)
100μm
Figure 4.6
Magnification
100μm
Appearance of biodegradation-inducing agents-added LDPE film
buried in soil for 3 years.
(a) Appearance of film buried in soil for 3 years.
(b) Observation of whitened part using digital microscope.
(c) Observation of clear part using digital microscope.
100
Figure 4.7 に 13 年間埋設した生分解誘引剤添加フィルムの外観を示す.出土し
たのは埋設当初のフィルムの一部分のみであり,多くの部分が分解消失していた.
Figure 4.7 に見られるように全体が白色を呈し,多数の微細な空孔と,脆弱化が認
められ一部は破片化し,埋設時の形状を保っていない.一方,アルミニウムテープ
に覆われて土壌に接触していなかった部分は,初期の形状を保っていた.残存部分
は,分解菌の分布等の状況差異のために分解進行が遅かった部分と考えられる.こ
れらの結果は,生分解誘引剤添加が LDPE の生分解に非常に有効であることを如
実に示している.
4.4.2 試料の表面および断面の形態
生分解誘引剤添加未処理のフィルムの SEM による表面観察写真を Figure4.8(a)
に,3 年間埋設フィルムの白色部の表面観察写真を Figure 4.8(b),(c)に示す.生
分解誘引剤添加未処理のフィルムの表面観察写真(Figure 4.8 (a))には所々に粒
状の凹凸が見られる.3 年間埋設生分解誘引剤添加フィルムの白色部表面(Figure
4.8 (b),(c))には糸状菌が付着し,表面の荒れや多数の空孔が認められる. 3 年
間埋設試料の透明部および白色部の断面写真を Figure 4.9(a),(b) にそれぞれ示す.
断面は,透明部でほとんどダメージが認められないのに対して,白色部では添加剤
が一部消失してフィルム内部まで分解が進行している.13 年間埋設生分解誘引剤
添加フィルムを洗浄せずに観察すると,Figure 4.10(a)に見られるようにフィルム
表面の分解途上の部位において,その形状から Bacillus 属と考えられるコロニー
が多数観察され,更にフッ化水素酸浸漬処理および蒸留水洗浄後に再度観察すると,
微生物の体型をフィルム表面に写し出すボディーマークが Figure 4.10(b)のよう
に明瞭に認められ,分解途上の状況が観察された.Figure 4.11.1,4.11.2 に埋設前
と 13 年間埋設後の生分解誘引剤添加フィルムの表面,断面および試料ステージを
30 °傾け観察した状態を示す.添加した生分解誘引剤,特に澱粉存在部を起点とし
て,その周囲に分解が拡大され,部分的にポリマーの欠損も見られる.
以上の SEM 観察結果より,分解初期においては,生分解誘引剤,特にでんぷん
の存在部分を中心に糸状菌が繁殖し,生分解誘引剤消失により空隙が生じ,フィル
ム表面積が拡大する.添加された酸化植物油等の働きで LDPE の劣化がすでに進
行しているために,微生物に対する親和性も良好となり更に酵素分解が加速される.
101
(a)
(b)
Aluminum tape
Biodegradation
-inducing
agents-added
LDPE film
(b)
Aluminum tape
Biodegradation
-inducing
agents-added
LDPE film
(c)
Magnification
(d)
200μm
Figure 4.7
Magnification
200μm
Appearance of biodegradation -inducing agents-added LDPE film
buried in soil for 13 years.
(a) Appearance of film and aluminum tape before burial.
(b) Appearance of film and aluminum tape buried in soil for 13 years.
(c) Observation of the surface uncontacted with soil using digital microscope.
(d) Observation of the surface buried in soil using digital microscope.
102
フィルム全体が一様に分解せずに,不均一に進行していることから,添加剤の有無,
フィルムと土壌の接触状況や接触土壌の成分,微生物の分布状況によるコロニーの
有無などにより分解の進行速度が影響され,不均一に分解は進行するものの確実に
分解していることが明らかとなった.
Starch
(a)×500
Magnification
Hypha
(b)×500
50 μm
Magnification
Hypha
(c)×2000
10 μm
Figure 4.8 SEM images of biodegradation-inducing agents-added LDPE film
surface.
(a) Untreated
(b), (c) Buried in soil for 3 years.
103
Cross-section
Trace of
degradation
Surface
(a) ×1500
Surface
Grain of starch
Cross-section
(b) ×1500
Figure 4.9
SEM images of biodegradation-inducing agents-added
LDPE film cross-section buried in soil for 3 years.
(a) Whitened part
(b) Clear part
104
Bacillus genus
(a) ×10000
Decomposed
part
Body marks
(b) ×10000
Figure 4.10 SEM images of biodegradation-inducing agents-added LDPE film
surface buried in soil for 13 years (×10,000).
(a) LDPE compound film surface. The colonies of Bacillus genus.
(b) The LDPE compound film surface washed by HF-aqueous solution. The
body marks of Bacillus genus on film surface.
105
(a) LDPE film surface (untreated).
(b) LDPE film surface buried in soil
×1500
for 13 years. ×1500
Film surface
Film section
(c)
LDPE
film
cross-section
(d) LDPE film cross-section buried in
(untreated). ×1500
Figure 4.11.1
soil for 13 years. (d) ×1500
SEM images of biodegradation-inducing agents-added LDPE
film surface and film cross-section and edge part of the film.
106
(e)
Edge
part
of
the
film
(f) Edge part of the film buried in soil
(untreated)*. ×150
Figure 4.11.2
for 13 years*.×150
SEM images of biodegradation-inducing agents-added LDPE
film surface and film cross-section and edge part of the film.
*Sample stage was tilt 30 degree so that the surface and cross- section can be
observed simultaneously.
4.4.3
重量変化と分解速度
Table 4.5 に重量変化と分解度を示す.生分解誘引剤添加フィルムの 13 年間土壌
埋設による重量減少率は約 43%であることから,単純算出では 100%分解するに
は約 30 年かかることになる.一方,無添加フィルムの 13 年間土壌埋設による重
量減少率は約 5%であることから,100%分解するには約 260 年かかる計算になる.
この分解度の算出は,土壌埋設試験後に残存していた限定された部位に基づいてお
り,フィルム表面の脆弱化崩壊による物理的な消失も一部含まれるが,LDPE に生
分解誘引剤を添加することにより生分解が促進され,劣化・分解速度が著しく増す
ことが明らかになった.更には,分解の進行とともにフィルム表面の荒れが生じ,
これら凹凸の生成により表面積が増大することから分解はさらに加速的に進行す
るものと考えられる.
107
Table 4.5
Comparison of the dry weight between untreated and buried in
compost soil.
Weight
No.1
No.2
No.3
Average
mg
mg
mg
mg
Additive - free LDPE / untreated
1.71
1.70
1.67
1.69
0
Additive - free LDPE buried in
1.61
1.59
1.62
1.61
5
3.91
3.89
3.90
3.90
0
3.90
3.88
3.89
3.89
0
3.76
3.77
3.66
3.73
4
2.20
2.26
2.21
2.22
43
Samples
loss rate
%
soil for 13 years
Biodegradation inducing agents
added LDPE
/ Untreated
Buried in soil for 3 years / clear
part
Buried in soil for 3 years /
whitened part
Buried in soil for 13 years
4.4.4
分子量および分子量分布の変化
測定試料には 13 年間埋設生分解誘引剤添加フィルムの,アルミニウムテープに
覆われて土壌に接触していなかった部分と土壌に接触していた部分(Figure 4.6(b),
(c))を用いた.分子量分布曲線を Figure 4.12 に,数平均分子量 Mn,重量平均分
子量 Mw,分子量分布幅の指標である分散指数 PDI 値を Table 4.6 に示す.土壌接
触部が非接触部に比べて Figure 4.12 に示す分子量分布曲線は特に低分子量側にシ
フトしている.土壌接触部では Mn,Mw ともに低下し,PDI 値が増加し分子量分
布幅が広がっていることを示している.これは,LDPE の屋外暴露などの通常の酸
化劣化において,分子切断による低分子化現象と架橋反応による高分子化現象
4)
を同時に示すこととは異なる分子量変化の挙動である.従って,生分解誘引剤添加
高分子量 LDPE フィルムが微生物の関与した劣化・分解によって 13 年間という比
較的短期間で分子量が低下することが明らかである.しかし意外に分子量の低下は
108
少ない.これは,生分解が酵素反応でポリマーの表面もしくはその近傍に限定され
て分解が生じているが,測定に供するサンプリングはどうしても未分解部も採取す
るために分子量の低下率が希釈されてしまうためと考えられる.
1.25
dw / d (logM)
1.00
(a) contacted with soil
(b) uncontacted with soil
0.75
0.50
0.25
0.00
2
3
4
5
6
7
8
Log M
Figure 4.12
GPC chromatograms of samples buried in soil for 13 years.
(a) Contacted with soil
(b) Uncontacted with soil
Table 4.6 Molecular weight of biodegradation-induced agents-added LDPE
buried in soil for 13 years.
Number averaged
Weight averaged
PDI
Mn
Mw
Mw/Mn
Uncontacted with soil
1.77×104
7.96×104
4.5
Contacted with soil
1.54×104
7.78×104
5.0
Samples
109
4.4.5 顕微 FT-IR による官能基の同定
生分解誘引剤添加フィルムの埋設前および 3 年間土壌埋設により白色化した部
分[Figure 4.6(a)]の顕微 FT-IR スペクトルを Figure 4.14 に示す.添加された酸化
植物油のエステルのカルボニル基に起因する 1745cm-1 付近の吸収は,土壌中で分
解もしくはフィルム表面より揮散するため,土壌埋設処理 3 か月までに減少し,そ
の後ポリマーの酸化劣化に伴うカルボニル基の増加による吸収が顕著になる 2).
3 年間の埋設により,通常の酸化劣化で生じる 1715 cm-1 付近のカルボニル基(ケ
トンおよびカルボン酸)の生成と同時に主鎖中の-C=C- (1640 cm-1),アルコール由
来の-OH 変角振動(1080 cm-1),-OH 伸縮振動(3400 cm-1)の顕著な増加が認められ
た.13 年間土壌埋設生分解誘引剤添加フィルムの土壌接触部と非接触部(Figure
4.13)における顕微 FT-IR スペクトルを Figure 4.15 に示す.測定試料は,GPC 測
定に用いた同じものである.13 年間埋設土壌接触部では,3 年間埋設試料で検出
された各官能基が更に顕著に検出されたのに対して,土壌非接触部では酸化植物油
で通常の酸化劣化が加速化されているためにカルボニル基(1715cm-1)の生成の
みが顕著に現れている.これらの結果より,生分解誘引剤添加 LDPE フィルムは,
土壌に接触していた部分と接触していない部分では,酸化劣化の機構に明白な差が
あることが明らかである.土壌に接触していた部分は,32 年間以上微生物活性な
土壌に埋没していた LDPE フィルムと同様の劣化・分解挙動 5)をたどることが明
らかになった。即ち,土壌に接触していない部分では通常の酸化劣化が生じるのに
対して,土壌に接触している部分では,劣化・分解が酸化劣化と微生物分解との複
合機構で進行する.また,これらの微生物分解は,32 年間埋設していて LDPE フ
ィルムと同じ劣化,分解機構で進行してくることも同時に確認された.
Uncontacted
with
covered by aluminum
Contacted with soil
Figure 4.12
FT-IR measurement parts of LDPE film.
110
soil
.30
.20
-C=CC=O
-OH
1715
1640
.10
(a)
.05
-OH
1080
.15
3400
Absorbance
.25
(b)
.00
3500
3000
2500
2000
1800
1600
1400
1200
1000
800
Wavenumber/cm-1
Figure 4.14
Microscope FT-IR spectra of film surface.
(a) Buried in soil for 3 years / whitened part
(b) Untreated
.25
-C=CC=O
.10
.05
.00
-OH
1715
1640
-OH
1080
.15
3400
Absorbance
.20
(a)
(b)
3500
3000
2500
2000
1800
1600
1400
1200
1000
800
Wavenumber/cm-1
Figure 4.15 Microscope FT-IR spectra of film surface buried in soil for 13 years.
(a) Contacted with soil
(b) Uncontacted with soil
111
4.5 要
約
これまで調査してきた LDPE の生分解メカニズムをベースに, LDPE の生分解
を促進するための添加剤(生分解誘引剤)を提案し,さらに,13 年間の長期にわ
たる土壌埋設試験を行い生分解誘引剤の有効性を評価した.
LDPE の生分解を促進する因子である,でんぷん,有機金属化合物,酸化オイル
などが挙げられ,これらの生分解誘引剤マスターバッチ添加 LDPE フィルムを作
製した.
生分解誘引剤添加 LDPE フィルムは 13 年間の土壌埋設で,微生物分解が進行し,
フィルム全体が著しい白化現象を生じて微細な空孔が生成し破片化する.採取され
た試料は埋設当初の一部分のみであり,多くの部分が消失していたことから,残存
していたフィルムは,土壌との接触状況,菌相の分布の違いなどにより分解の進行
が比較的遅かった部分と考えられる.
フィルム断面の SEM 観察から,生分解誘引剤の存在している部分を中心に分解
が進行し,13 年間で土壌接触部における数平均分子量が非接触部と比べると約
13%低下するとともに,通常の酸化劣化で生じるカルボニル基(ケトンおよびカル
ボン酸)の生成と同時に主鎖中の-C=C- ,アルコール由来の-OH の顕著な増加が
認められる.一方,土壌非接触部では添加した酸化植物油による通常の劣化現象の
カルボニル基の生成のみが顕著に出現している.すなわち,土壌に接触している部
分と非接触部分では,酸化劣化の機構に明白な差異がある.このことから,生分解
誘引剤を含んだ LDPE フィルムは比較的短期間で,32 年間以上微生物活性な土壌
に埋没していた LDPE フィルム 2)と同様の劣化・分解挙動をたどることが判明し
た.さらに,通常使用されている LDPE フィルムは,32 年以上微生物活性な土壌
に接触して埋設されると破片化するが,生分解誘引剤添加 LDPE フィルムは,わ
ずか 13 年間の埋設期間で破片化することから,その生分解促進効果は非常に有効
である.
生分解誘引剤を添加した LDPE は他の生分解プラスチックと比べると,その分
解スピードは遅いものの,生分解誘引剤無添加 LDPE フィルムと比べ,分解が著
しく促進され,土壌埋設時の条件さえ整えば十分に分解することを明らかにした.
112
[ 文
献 ]
1) 渡邊智子,大武義人,浅部仁志,村上信直,小山文夫,大村浩,古川睦久:日
本ゴム協会誌,80,409(2007)
2) 大武義人,小林智子,伊藤茂樹,浅部仁志,矢吹増男,村上信直,小野勝道:
日本ゴム協会誌,67,698 (1994)
3) 大武義人,五味洋子,小林智子,伊藤茂樹,百武健一郎,矢吹増男:日本ゴム
協会誌,64,677 (1991)
4) 大武義人,小林智子,五味洋子,伊藤茂樹,百武健一郎,矢吹増男:日本ゴム
協会誌,64,688 (1991)
5) 大武義人,小林智子,伊藤茂樹,浅部仁志,矢吹増男,小野勝道:日本ゴム協
会誌,66,504 (1993)
6) 大武義人,小林智子ら:高分子学会第 42 回高分子討論会講演要旨集,42,3775
(1993)
7) Kobayashi, T., Ohtake, Y.: The 3rd IUMRS international conference on
advanced materials abstracts, k-33 (1993)
8) 大武義人,小林智子,伊藤茂樹,浅部仁志,矢吹増男,村上信直,小野勝道:
日本ゴム協会誌,67,636 (1994)
9)
Albertsson,A-C.,
Karlsson,S.:
Macromol.
Chem.
Macromol.
Symp.,
48/49,395-402 (1991)
10) 大武義人,小林智子ら:高分子学会第 41 回高分子討論会講演要旨集,41,3186
(1992)
11) 大澤善次郎:高分子の劣化と安定化,p.109 (1992)
12) 酒井清文:繊維学会誌,47,No.9 (1991)
13) Scott, G.: Polym. Deg. and Stab., 29, 135-154 (1990)
14) 大武義人,小林智子ら:日本ゴム協会第 4 回エラストマー討論会講演要旨集,
p.88 (1990)
15) 大武義人:高分子材料の事故原因究明と PL 法,p.147,アグネ技術センター
(1999)
16) 小林智子,五味洋子,伊藤茂樹,大武義人:日本ゴム協会 1990 年年次大会講
演要旨集,p.26 (1990)
113
17) 小林智子,五味洋子,伊藤茂樹,百武健一郎,大武義人:日本ゴム協会 1991
年年次大会講演要旨集,p.48 (1991)
18) Machado, A.V., Moura, I., Duarte, F.M., Botelho, G., Nogueira, R., Brito,
A.G.: Int. Polym. Process., 22, 512 (2007)
19) Nath, M., Shenoy, M.A., Kale, D.D.: J. Polym. Mater., 24, 163 (2007)
20) Tarres,A.V., Zamudio-Flares,P.B., Salgado- Delgado,R., Bello-Perez,L.A.: J.
Appl. Polym. Sci., 106, 3994 (2007)
21) Rosa, D. S., Gaboardi, F., Duedes, C.G.F., Calil, M.R. : Journal of Materials
Science, 42, 8093 (2007)
22) Jakubowicz, I. :Polymer Degrad. Stab., 80, 39 (2003)
23) Khabbaz, F., Albertsson, A.C.: J. Appl. Polym. Sci., 79, 2309 (2001)
24) Ohtake, Y., Kobayashi, T., Asabe, H., Murakami, N., Ono, K.: J. Appl. Polym.
Sci., 56, 1789 (1995)
25) 渡邊智子,柳谷奈津子,大武義人,古川睦久:日本ゴム協会 2007 年年次大会
講演要旨集,p.58 (2007)
26) 渡邊智子,大武義人,浅部仁志,小山文夫,村上信直,古川睦久:日本ゴム協
会誌,81,204 (2008)
114
第5章
総
括
本研究の主要な結果をもとに総括する.
第1章では,本研究の目的を述べるとともに,その背景や既往の研究,高分子材
料の劣化要因とその機構,生分解性プラスチックの市場動向,用いた分析手法にな
どについて述べた.
第 2 章では,32~37 年間土壌中に埋没していた LDPE 成形品,PVC,PS,UF
を分析し,次の結果が得られた.PVC,PS,UF は 30 年以上微生物活性な土壌に
埋没していても,ほとんど微生物劣化を生ずることはない.一方,LDPE は土壌に
接していた部分は重量減少を伴う著しい劣化を示していた.厚みのある LDPE 成
形品の GPC による分子量および分子量分布を測定,FT-IR スペクトルによる表面
分析より,土壌非接触部では通常の酸化劣化が生じているのに対し,土壌接触部分
では酸化劣化と微生物分解との複合機構で劣化が進行すると結論づけた.微生物の
存在下では通常の酸化で起こるアルコキシラジカルのβ開裂のほかに,γ開裂によ
って末端ビニル基と揮発生成物を生じる機構が存在することが示唆された.これら
の結果は,一般に微生物分解しないといわれている高分子量 LDPE でさえも,活
性な土壌中に数十年という長期間埋設しておけば,微生物が関与した酸化分解によ
って低分子化することを示している.また,微生物分解の加速には,通常の酸化反
応を促進して活性点を増やすことが不可欠である.すなわち,LDPE の生分解反応
の進行は,通常生じる光,熱等による酸化劣化反応と生分解反応が同時に進行する
ことを明らかにした.
第 3 章では,LDPE を特異的に分解する能力を有する微生物を約 6 ヵ月にわた
る集積振とう培養法により単離・同定を行い,それらの菌について,6 週間屋外暴
露により光劣化をさせた LDPE フィルムを基質とする分解性について確認し,
LDPE を特異的に分解する微生物として,バシラス・サーキュランス(Bacillus
circulans),バシラス・ブレーブス(Bacillus brevies),バシラス・スフェリカス
(Bacillus sphaericus)の 3 種類を同定した.これらは納豆菌の一種であり土壌中に
115
常在する.したがって,これらの菌は我々の周囲に散在し,特にイネ等を栽培する
我国では全国に分布しているものと考えられる.廃棄された LDPE フィルムは,
日光に暴露されて光劣化した後に微生物の存在等の分解条件さえ整えば,速やかに
分解が進行する機会があると考えられる.
第 4 章では,本来の LDPE の有する物性機能を使用時失われない範囲で適量添
加,生分解性を促進化し,ポリマーとの親和性を高めるシランカップリング処理を
施したでんぷん,ポリマーの劣化を促進する酸化植物油などの生分解誘引剤を配合
したマスターバッチを提案した.生分解誘引剤マスターバッチ添加 LDPE フィル
ムについて,13 年間土壌埋設試験を実施し,土壌埋設 3 年及び 13 年間の長期にわ
たる生分解進行状態を調査した.
その結果,生分解誘引剤添加 LDPE フィルムは,13 年間の土壌埋設により微生
物分解が進行し,フィルム表面全体に微細な空孔が生成,そのため光を乱反射させ
微生物分解特有の白化現象を呈し破片化する.フィルム断面の SEM 観察から,生
分解誘引剤の存在部分を中心に分解が進行して,13 年間で土壌接触部における数
平均分子量が非接触部と比べると約 13%低下するとともに,通常の酸化劣化で生
じるカルボニル基(ケトンおよびカルボン酸)の生成と同時に主鎖中の-C=C- ,
アルコール由来の-OH の顕著な増加が認められる.一方,土壌非接触部では添加
した酸化植物油による通常の劣化現象のカルボニル基の生成のみが顕著に出現し
ている.すなわち,土壌に接触している部分と非接触部分では,酸化劣化の機構に
明白な差異がある.このことから,30 年間以上微生物活性な土壌に埋没していた
LDPE フィルムと同様の劣化・分解挙動をたどることが判明した.通常使用されて
いる LDPE フィルムは,30 年以上という長期間微生物活性な土壌に接触して埋設
されると破片化するが,生分解誘引剤添加 LDPE フィルムは,わずか 13 年間の埋
設で破片化することから,その生分解促進効果は非常に有効といえる.
生分解誘引剤を添加した LDPE は他の生分解プラスチックと比べ,その分解速
度は遅いものの,通常の LDPE と比べ生分解が著しく促進され,土壌埋設時の環
境条件さえ整えば十分に分解することを明らかにした.
116
以上の 2~4 章に示した結果より,LDPE の生分解機構は次のように考えられる.
LDPE
フィルム
光等による通常の
酸化劣化,親水基
の付加,土壌中か
らの水分吸着
生分解誘引剤等
による微生物,
特にバシラス菌
の付着
主鎖中に二重結合の生成.
分子末端ばかりでなく,主鎖
中の二重結合部付近からの主
鎖切断
低分子化
(酢酸エステル
など)
分解酵素代謝
フィルム表面か
らの生分解開始
CO2,H2Oの生成
汎用プラスチックの中で最も廉価で高い生産量を誇る PE が,現在市場に流れて
いる生分解性プラスチック同様の生分解性を示すと,地球環境保護に対する関心が
世界中に高まる中,地球環境保全に非常に大きな役割を果たす一助になる.これら
を他の生分解プラスチックと比べ極めて安価で実現化するのが,本研究で得られた
生分解誘引剤マスターバッチである.また,でんぷん等が入った LDPE は生分解
プラスチックではなく,崩壊型プラスチックと云われてきたが,本研究でも明らか
なように,他の生分解プラスチックと比べ,分解には時間を要するが,完全分解型
生分解プラスチックと呼べるものと考えられる.
廃棄物として大量に放出される PE を本生分解性促進化技術により,自然界の物
質循環系の負荷を低減して,今後のプラスチック処理技術革新につながるよう期待
したい.
また,土壌埋設されている LDPE 製水道管,MDPE 製ガス管等は阪神大震災以
来耐震性に優れているという理由で広く使用されてきているが,これらさまざまな
ライフラインパイプの長期間(40 年間)における耐久性等に深くかかわる微生物
劣化の影響,対策等の我々身近での工業的分野での品質管理,品質保証等の研究に
対しても十分役立つものと考えられる.
すでに,多量に使用され産業経済システムの中に組み込まれてしまっている汎用
117
プラスチックを全て微生物分解可能なポリマーに置き換えることは不可能に近い.
また,それだけの時間的余裕もない.我々が今すぐやらねばならない事は,むしろ
既存の材料生産システムおよび成形加工システムをそのまま利用できるポリマー
に微生物分解性を付与することであろうと思われる.
118
謝辞
本研究は 2006 年 4 月から 2008 年5月まで長崎大学大学院
生産科学研究科に
おいて行ったものである.
本研究を遂行するにあたり,多大なご指導,ご助言を賜りました,長崎大学大学
院生産科学研究科物質科学専攻
古川睦久教授に心より感謝の意を表します.
本論文を完成するにあたり,有益な助言を頂きました,長崎大学大学院生産科学
研究科物質科学専攻
羽坂雅之教授,内山休男教授,及び海洋生産科学専攻
原研
治教授に厚く御礼申し上げます.
本研究の機会を賜りました,財団法人化学物質評価研究機構
近藤雅臣理事長,
細川幹夫専務理事に厚く御礼申し上げます.
本研究の機会を賜り,さらに懇切なご指導,ご助言を賜りました,財団法人化学
物質評価研究機構
高分子センター長
大武義人理事に深く感謝申し上げます.
2008 年 7 月
長崎大学大学院
生産科学研究科
物質科学専攻
渡邊智子
119
<付録>
・論文リスト
本論文に関する論文
(1)大武義人,小林智子,浅部仁志,矢吹増男,村上信直,小野勝道;「 32
年 以 上 土壌埋没したポリエチレンの生分解挙動とその機構」,日本化学
会 誌 , No.4,pp. 325-332(1996 年 4 月)
(第 2 章)
(2)Ohtake, Y.; Kobayashi, T.; Asabe, H.; Murakami, N.; Ono, K.:「Oxidative
Degradation and Molecular Weight Change of LDPE Buried under Bioactive
Soil for 32-37 Years」, J. Appl. Polym. Sci., Vol.70, pp.1643-1647 (1998)
(第 2 章)
(3)大武義人,小林智子,浅部仁志,矢吹増男,村上信直,小野勝道;「自然界で
の低密度ポリエチレンの生分解挙動に学ぶ生分解誘引剤の開発と土木分野への
応用」,日本化学会誌,No.10,pp. 853-860(1996年10月)
(第2章)
(4)Ohtake, Y.; Kobayashi, T.; Asabe, H.; Murakami, N.:「Studies on
biodegradation of LDPE - observation of LDPE films scattered in agricultural
fields or in garden soil」, Polymer Degradation and Stability, Vol. 60, pp.79-84
(1998)
(第4章)
(5)渡邊智子,大武義人,浅部仁志,村上信直,小山文夫,大村浩,古川睦久;
「低
密度ポリエチレン分解能を有する微生物の同定」,日本ゴム協会誌,80(11),
pp.409-415(2007 年 11 月)
(第 3 章)
(6)渡邊智子,大武義人,浅部仁志,小山文夫,村上信直,古川睦久;「生
分 解 誘 引剤を添加した低密度ポリエチレンの長期土壌埋設 13 年間による
生 分 解 挙動」,日本ゴム協会誌,81(6),pp.204-210( 2008 年 6 月)
(第 4 章)
(7)Watanabe, T.; Ohtake, Y.; Asabe, H.; Murakami, N.; Furukawa, M.:
「 Biodegradability and Degrading Microbes of Low-Density
Polyethylene」 , J. Appl. Polym. Sci .,
(第 3 章)
120
(2008)
印刷中
本論文の基礎となる論文
(8) 大武義人,五味洋子,小林智子,伊藤茂樹,百武健一郎,矢吹増男;「生分解
可能澱粉添加プラスチックの土壌埋設による評価研究(第 1 報)処理条件と形態
観察を中心とした評価」,日本ゴム協会誌,64(11),pp.677-687 (1991 年 11 月)
(9) 大武義人,小林智子,五味洋子,伊藤茂樹,百武健一郎,矢吹増男;「生分解
可能澱粉添加プラスチックの土壌埋設による評価研究(第 2 報)劣化メカニズム
解析」,日本ゴム協会誌,64(11),pp.688-698 (1991 年 11 月)
(10) 大武義人,小林智子,伊藤茂樹,山本愉香,矢吹増男,浅部仁志,小野勝道;
「32 年以上土壌埋没 LDPE,PS,PVC,UF の生分解性の検討」,日本ゴム協会
誌,66(4),pp.266 -275 (1993 年 4 月)
(11) 大武義人,小林智子,伊藤茂樹,浅部仁志,矢吹増男,小野勝道;「32~37
年間土壌埋没 LDPE の生分解性の検討,劣化メカニズム」,日本ゴム協会誌,66(7),
pp.504-512 (1993 年 7 月)
(12) 大武義人,小林智子,伊藤茂樹,浅部仁志,矢吹増男,小野勝道「32~37 年
間生物活性な土壌中に埋没していた LDPE の酸化劣化と分子量変化」,日本ゴム
協会誌,66(10),pp.756-761 (1993 年 10 月)
(13) 大武義人,小林智子,伊藤茂樹,浅部仁志,矢吹増男,小野勝道;
「LDPE の
高分子量成分に対する微生物の影響」,日本ゴム協会誌,67(6),pp.448-455 (1994
年 6 月)
(14) 大武義人,小林智子,伊藤茂樹,浅部仁志,矢吹増男,村上信直,小野勝道;
「生分解誘引剤を添加した LDPE の生ゴミ処理による劣化分解促進方法の研究」,
日本ゴム協会誌,67(9),pp.636-644 (1994 年 9 月)
(15) 大武義人,小林智子,伊藤茂樹,浅部仁志,矢吹増男,村上信直,小野勝道;
「生分解誘引剤を含有する LDPE の開発と生分解性評価研究」,日本ゴム協会誌,
67(10),pp.698-706 (1994 年 10 月)
(16) 大武義人,小林智子,伊藤茂樹,浅部仁志,矢吹増男,村上信直,小野勝道;
「低密度ポリエチレン(LDPE)の熱酸化劣化と微生物分解に及ぼすジクミルペル
オキシド(DCP)の添加効果」,日本ゴム協会誌,68(8),pp.551-558 (1995 年 8 月)
(17) 大 武 義人,小林智子,伊藤茂樹,浅部仁志,矢吹増男,村上信直,小
121
野 勝 道 ; 「 自 然 界 に お け る LDPE 生 分 解 性 の フ ィ ー ル ド サ ー ベ イ 」 ,
日 本 ゴ ム協会誌,68(11),pp.808-813 (1995 年 11 月)
(18)Ohtake, Y.; Kobayashi, T.; Asabe, H.; Murakami, N.; Ono, K.:
「 Biodegradation of Low-Density Polyethylene, Polystyrene,
Polyvinyl Chloride, and Urea Formaldehyde Resin Buried Under
Soil for Over 32 Years」, J. Appl. Polym. Sci ., Vol.56,pp.1789-1796
(1995)
・口頭発表
平成元年 5 月
平成 2 年 5 月
日本ゴム協会年次大会「熱分析手法による加硫ゴムの劣化度評価」
日本ゴム協会年次大会「熱分析手法による加硫ゴムの評価に関する研究
Ⅵ」
平成 2 年 12 月
日本ゴム協会エラストマー討論会「生分解可能改良澱粉ブレンドプラス
チックの劣化メカニズム解明の研究」
平成 3 年 5 月
日本ゴム協会年次大会「熱分析手法によるポリオレフィンの劣化評価に
関する研究」
平成 4 年 5 月
日本ゴム協会年次大会「LDPE を中心としてポリオレフィンの生分解性
Ⅱ-30 年土壌埋設試料の評価-」
平成 4 年 5 月
高分子学会年次大会「低密度ポリエチレンの生分解性Ⅰ-平山山林土壌に
おける生分解性の評価-」
平成 4 年 12 月
日本ゴム協会エラストマー討論会「生分解誘引剤を添加した低密度ポリ
エチレンの生分解性の検討」
平成 5 年 5 月
平成 5 年 12 月
日本ゴム協会年次大会「LDPE の生分解性-特に分子量分布について-」
日本ゴム協会エラストマー討論会「LDPE の高分子量成分に対する微生
物の影響」
平成 6 年 5 月
日本ゴム協会年次大会「生分解誘引剤を添加した LDPE の生分解性の検
討Ⅱ-DCP の添加効果-」
平成 6 年 12 月
日本ゴム協会エラストマー討論会「DCP を添加した LDPE の生分解性
とそのメカニズム」
平成 6 年 5 月
高分子学会年次大会「生分解誘引剤を添加した LDPE の生分解性の検討
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Ⅱ-DCP の添加効果-」
平成 7 年 5 月
日本ゴム協会年次大会「生分解誘引剤添加 EVA の生分解性Ⅰ」
平成 7 年 5 月
高分子学会年次大会「生分解誘引剤を添加した LDPE の生分解性の検討
Ⅲ-DCP 添加が光分解性と生分解性に及ぼす効果-」
平成 5 年 8 月
IUMRS「先端材料」に関する国際会議エコマテリアルシンポジウム
「Study of Biodegradability of LDPE to which a Biodegradation
Inducing Agent has been Added」
平成7年 10 月
IRC 国際ゴム技術会議「Estimation of the Biodegradability of LDPE
Compounded with DCP and its Biodegradation Mechanism」
平成 19 年 5 月
日本ゴム協会年次大会「低密度ポリエチレンの長期土壌埋設による生分
解挙動」
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