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米国における教育への IT活用とクラウドコンピューティング

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米国における教育への IT活用とクラウドコンピューティング
No.140
米国における教育への
IT 活用とクラウドコンピューティング
サンフランシスコ事務所
金堀 宏宣
米 国では、教 育 分 野における I T 活 用が日 本よりも進んでおり、大 学、高 校、小 中 学 校 等の教 育 機 関、企
業などが様々な取 組みを行っている。
米 国の有 名 大 学が展 開する「 M O O C(ムーク)1」と呼ばれるオンライン型の大 規 模 講 義は日 本でもその動
向が注目されており、小中学校においてもダブレット端末や教育ソフトを使った教育が一般的に行われている。
米 国で教 育 分 野における I T 導 入が進む背 景には、ネットワークに接 続できる環 境さえ整っていれば、ど
の端 末からでもサービスを受けられるクラウドコンピューティング2の活 用が進んでいるからである。
クラウドコンピューティングを活 用しながら、地 域の I T 資 源を最 大 限に取り込み、教 育 機 関と企 業、行
政が一 体となった横 断 的な取 組みを行うことができれば、これまでにない魅 力 的な教 育 環 境を提 供すること
ができるのではないか。
e d X(エデックス)
などのオンライン講座が挙げられる。
1 オンライン型の大規模講義
「ムーク」の利用状況について、コーセラを例に見て
米国では、教育分野における I T 活用の面で、大学等
みると、2012 年4月の立ち上げ以降、世界中から 80 校
の教育機関、企業などが様々な取組みを行っている。そ
を超える大学がコーセラのサイトを利用して授業を配信
の 代表的 な 例 と し て、 米国 の 有名大学 に お い て は、
している。インターネット環境と電子端末があれば、誰
「M O O C(ムーク)
」と呼ばれるオンライン型の大規模講
でもどこでも無料で大学の講義が受講できるということ
義が注目を集めている。
もあり、登録学生数は、僅か1年半で延べ 1,700 万人に
「ムーク」は、世界中どこからでも大学の講義をオン
達し、学生の出身国は 190 カ国となるなど、凄まじい勢
ラインで、かつ無料で受けられるというのが最大の特長
いで拡大している(2013 年9月現在)
。
である。その代表格として、スタンフォード大学のコン
また、モンゴル在住の高校生が、
「ムーク」の利用を
ピューターサイエンス分野の教授によって立ち上げられ
きっかけに、憧れのマサチューセッツ工科大学に授業料
た ベン チャー企業 の C o u r s e r a(コーセラ)や、米 グー
免除の優遇を受けて進学した事例がある。これは、モン
グルの自動走行車の開発者でもあるセバスティアン・
ゴル在住の高校生が、同大の講義を「ムーク」
を通して受
スラン氏が中心となって設立されたベンチャー企業の
講し、驚くほど優秀な成績を残したことから実現したも
U d a c i t y(ユーダ シティ)
、マ サ チューセッツ 工科大学
のである。大学側から見ると、
「ムーク」
により、世界中か
とハーバード大学を中心に 20を超える世界トップクラス
ら優秀な学生を発掘することが可能になったともいえる。
の大学で構成される非営利組織によって運営されている
さらに「ムーク」の利用により、オンライン上で同じ
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500 以上の講義が選べるコーセラのサイト(出所:同社サイト)
分野に興味を持つ学習者が集うコミュニティが形成さ
とで、新しい学びの場が提供され、これまでの大学のあ
れ、その中で様々な議論ができるようになり、利用者の
り方を大きく変える新たな潮流が生まれている。
学習意欲が向上するといったメリットも特徴の一つと
2 教育現場で使われる IT
なっている。
一方で、実際に大学に通いながら受講する講義と異な
米国の公立の小中学校では、地域によって普及状況に
り、オンラインで簡単に受講登録ができることから、途
ばらつきはあるものの、タブレット端末を使った授業が
中で受講を断念する受講者が多く、オンライン受講者の
行われている。また、児童の自宅学習用に教育用アプリ
理解度が相対的に低くなるなどの課題もある。そもそも
ケーションが使用され、先生と親はサイトに登録するだ
大学の単位として認められる仕組みが整っていない等の
けで、子供の学習時間やその学習による到達レベルなど
根本的な問題もあるが、教育と I T が掛け合わされるこ
を簡単に時系列で確認することができるようになってい
図1:タブレット型端末の普及率(米国18 歳以上)
出所:P e w r e s e a r c h c e n t e r’s I n t e r n e t & A m e r i c a n l i f e p r o j e c t
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る。勿論、日本の学校と同じように紙媒体による宿題も
I T 活用が進んでいる要因の一つとして、クラウドコン
あるが、電子端末を使った教育が、学校での授業および
ピューティングの利用が進んでいることが挙げられる。
家庭での宿題の一部として組み込まれているのである。
クラウドコンピューティングの発達により、これまで手
先に述べたように、普及には地域差があるものの、今
元のコンピューターの中に保存されていたデータは、完
年6月には米アップルがロサンゼルスの公立学校から約
全に端末から離れたところで維持管理されるようにな
29億円分のタブレット端末受注に成功したと報じられる
り、必要な時に必要なソフトウエアやストレージなどの
など、米国の学校では、授業に使用するタブレット型端
サービスを利用することができるようになった。そのた
末の普及が急速に進んでいる。参考までに、米国におけ
め、様々なサービスを効率的に利用できるようになり、
る 18 才以上のタブレット型端末の普及率は、2013 年5
かつ、初期費用や保守管理費が格段に安くなることによ
月現在で 34 %となっている(図1)
。一方、日本の世帯
り、コストの面でもメリットを享受できるようになった
普及率は、米国の半分にも達していないが、2012 年末
ことが、教育現場等での I T 活用を促進している。
に 15.3% となり、前年末の 8.5% から大きく伸びている
11 月にシリコンバレーで開催されたクラウドコン
(総務省調査)
。日本でも米国同様に今後もタブレット端
ピューティングエキスポでは、出展企業が約 70 社にも
末の普及が進んでいくものと見込まれ、近い将来、日本
及び、会場は熱気に溢れていた(写真1)
。既に日本市
の小中学校の教育現場でも、ノートや教科書に加えて、
場に展開している米ベンチャー企業に話を聞いたとこ
タブレット端末が導入される日が来るものと思われる。
ろ、
「クラウドコンピューティング導入の最大の障害と
なっているのは、セキュリティとデータ保護である。そ
3 クラウドコンピューティングが IT 活用を加速
のため、全く新しいセキュリティを組み込んだサービス
先に紹介したオンライン型大規模講義や教育現場での
を武器に、日本でも顧客開拓を進めていく」と意気込ん
タブレット端末導入のように、米国の教育分野において
でいた。日本において、これからクラウドコンピュー
写真1:クラウドコンピューティングエキスポ会場
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ティングを活用した教育サービスを取り入れようとする
もし仮に、地元の I T 企業が開発したサービスを、そ
企業や学校においては、セキュリティの問題は慎重に議
の地域の学校に試験的に使ってもらい、企業と学校が連
論されるべきものであり、簡単に導入を決断できるもの
携し、より良いサービスに作り上げていくという取組み
ではないと思われるが、これからますます教育分野にお
を進めることができれば、学校側は教育現場のニーズに
けるクラウドコンピューティング導入の流れが止まるこ
マッチした最先端の I T 技術を教育現場に取り入れるこ
とはないと思われる。
とができ、他方、企業側は、教育現場の意見を聞きなが
らニーズにあったサービス開発を進めることができるた
4 クラウドで教育ビジネスを拡大
め、双方にとってのメリットは大きくなる。
教育現場への I T 導入について、特に小・中学校、高
県内においても、クラウドコンピューティングを活用
校では、児童・生徒の情報端末への依存、有害サイトへ
しながら、地域の I T 資源を最大限に取り込み、教育機
のアクセス、学習効果に対する不安、教員への I T 教育
関と企業、行政が一体となった横断的な取組みを行うこ
など解決すべき課題はあるものの、I T 導入により音声
とができれば、これまでにない魅力的な教育環境を提供
や映像などを交えた臨場感のある授業が実現できるな
することができるものと考えられる。
ど、その効果も認められているところである。
また、ビジネスの面から見ると、教育関連サービス
をクラウドコンピューティングで提供することにより、
1
M a s s i v e l y O n l i n e O p e n C o u r s e s の 略 で、 イ ン
ターネットを通じた公開オンライン講座のこと。
サービスを提供する企業側にとっては、開発コストを抑
えることができ、インターネットを介して顧客を開拓す
2
ネットワーク上に存在するサーバーから提供される情
ることも可能となる。一方、サービスを利用する学校等
報処理サービス。主にインターネットを介して、デー
にとっては、クラウドコンピューティングの活用により
タの格納やアプリケーションなどのサービスが利用で
導入コストが軽減されるとともに、保守管理の手間もか
きる。利用者はネットワークに繋がれた環境があれば、
からないため、比較的容易に教育現場に I T を導入する
どの端末からでもサービスを利用できる。
ことができるといったメリットがある。
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