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1 1) はじめに 1‐1) 検出器について ここで議論する検出器は高

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1 1) はじめに 1‐1) 検出器について ここで議論する検出器は高
1)
はじめに
1‐1)
検出器について
ここで議論する検出器は高エネルギー物理学実験や原子核実験に使用する、いわ
ゆる粒子検出器である。まずすべての検出器は電流出力であると考えて差し支えない。そ
してまたその電荷が非常に速いインパルス波形で出力されるものがほとんどである。例外
は、たとえばタリウムをドープした NaI、CsI など(τ~1μS)
。MWPC や Drift chamber
などは 1/t テールを引いた電流パルスである。
アンプの入力インピーダンスと検出器容量によってその信号の電荷パルス幅が決
まることになるが、高い時間分解能や速い読み出しが要求されてきたために速くパルスシ
ェーピングする必要がある場合が多くなってきた。出力信号幅自身が 100nS 以下の非常に
短い場合が多い。信号を出来るだけ速く、低ノイズで読み出すには、入力電荷を出来るだ
け多くアンプに集めて増幅し、さらに信号が含む周波数帯域を狭め、外来ノイズは当然の
ことながら、増幅する素子の発生するノイズまでも極力小さくするようにアンプ系を組ま
なければならない。そのためには信号を増幅する素子の発生するノイズを充分に理解し、
検出器に合わせたアンプ系を組まねばならない。
1‐2)
フロントエンドエレクトロニクスの都合
検出器から電荷は、ある幅を持ったインパルス状の波形であることが多い。検出
器の信号増幅の観点からは同じ波形で増幅することが、S/N 上有利であると考えられる。し
かしインパルスはすべての周波数帯域を含んでおり、増幅器の性質を考えると必ずしも同
じ波形が有利かどうかはわからない。信号増幅の点においては、増幅器と計測器の双方の
都合が考慮される。すなわちタイミングを重視する検出器の場合には、ノイズ特性を犠牲
にしても速いパルスシェーピングを必要とし、波高測定が重要な検出器の場合には、速度
を犠牲にしても波高の揺らぎを最小にするようなアンプ系が必要である。このため如何に
高速で低ノイズアンプを作り、信号増幅を行うかという技術開発が 1960 年ころから(トラ
ンジスターが開発され、自由に使えるようになったころ)始まり、1980 年ごろまでには、
タイムドメインでのノイズ解析が数多くおこなわれて、ほぼ理論的な体系ができあがった。
したがってノイズ理論は完成して、すべてがわかっており、いわゆる Low noise
preamplifier についてはすべて理論どおりであり、問題はまったくないと思われている。
しかし実際にアンプを作って動作させてみると、ノイズが理論にあうのは本当に
狭い範囲だけであることが良くわかる。常温ではバイポーラアンプの比較的遅いシェーピ
ング時間の時と、低温時の、特定の JFET チャージアンプのノイズについては比較的良い
一致が見られるが、それ以外ではあまり良い一致はない。バイポーラアンプでは速い信号
1
に対してはパラレルノイズが数倍にも増加しており、またトランジスターパラメーターの
一部であるベース広がり抵抗 rbb’もかわってしまうような現象がおきている。JFET にいた
っては並列ノイズが理論とあわないのはゲートリーク電流によるものであろうという予測
だけで、それ以上の追求はなされていない。しかしゲートリークとしては明らかに、あま
りに量が多すぎるという気がするのである。また素子依存性が多くあるのも不可解である。
すなわち Low noise preamplifier のノイズ理論は、
ある特定の状態でのみ成立し、
それ以外は傾向がわかる程度の物であり、完全に理解されているという認識とはかけ離れ
ている。それはバイポーラトランジスターだけに限らず FET(Junction 及び MOS)にも
同様の現象がおきている。ここではその具体的例については時間の都合上、逐一あげるこ
とは出来ない。したがっていまだにノイズについては系統的な研究が必要であり、より低
ノイズ、高速に出来る余地が残されている。
にもかかわらずこれらについての研究がほとんどなされていないだけでなく、逆
に使いこなすことの出来る人たちが非常に減少しているのが実情である。
1‐3)
現状
現在の日本で、一級品のチャージアンプを最初から設計できる人は何人いるであ
ろうか?特に若い人の中にやろうという人がほとんどいない。思いつくのは 40 歳代の数人
か、あとは 50 歳を超えた数人の人たちばかりである。それくらい現状は厳しい物がある。
ひとつの理由が、今の日本ではアナログ回路設計が一部の熟練者によるテクニカ
ルなものであるかのように考えられ、必ずしも誰にでも出来る物ではないように思われて
いるところがあるからであろう。しかしそれは大きな間違いである。一級品のチャージア
ンプは凝り性の町の回路設計屋や、家電製品の設計屋に出来る物ではない。むしろトラン
ジスターの性能を細かく測定し、様々な物質のリーク電流や誘電吸収についての研究を重
ねた後にできるものである。同様に様々な回路形式を試作、検討できるだけの余裕もなけ
ればならない。したがって大企業の研究所や、基礎研究を行っている共同利用研究所のよ
うなところで開発されるべきものであるといって差し支えなかろう。
もうひとつの理由は、いわゆる割合小さな規模の業者が取り扱っているので、業
者に頼めば出来ると考えられているからかもしれない。しかし業者の大半は開発された物
をただ取り扱っているだけの場合が多く、設計まで出来る業者はほとんどない。またチャ
ージアンプは生き物といってよく、その性能も時代によって、わずかではあるかもしれな
いが進化をしてゆく物である。
1‐4)
今回のセミナーの目的
このセミナーでは特に放射線検出器用プリアンプリファイヤーを対象とした、ト
2
ランジスターアンプの動作原理とアナログ信号処理の考え方、そのノイズ理論の紹介を行
う。これで皆さんの中の何人かでも興味を持っていただいて、アナログ信号処理の重要さ
と難しさ、及びその面白さを理解していただいて、単なる熟練者が行う特殊技術ではなく、
研究対象となる学問の一部であることの認識を持っていただければ幸いだ。
2)
回路モデルと素子について
回路素子にはいわゆる能動素子と受動素子とがある。受動素子は抵抗、キャパシ
ター、インダクター、トランスフォーマーなどがある。私は個人的にダイオードをこれに
加えたい。能動素子にはバイポーラトランジスター(BJT)
、Field effective transistor(FET)
、
ダイアック、トライアックなどがあるが、ここでは BJT と FET だけを対象とする。
アナログ回路をなかなか理解できないのは信号の伝播が目に見えないことが大き
な理由として挙げられるかもしれない。もし目に見える回路がイメージできれば、より高
い理解が可能であり、それを基にして設計できるようになれる可能性がある。そこで回路
モデルとして水回路を選んだ。水の圧力が電気の電圧に相当し、水量が電流に相当する。
したがって回路図を描く時にもそのことに注意をしなければならない。重要なこ
とは、電位の高いほうを上にして描くことである。そして上から水が流れるように配置す
れば、理解がしやすいことと、実際に配線するときに配線がしやすいのである。また信号
の流れは左から右へ、電源は右から左へと描く。電源は多くの場合出力側から(あるいは
回路の横から)とられる場合が多いからである。
2‐1)
周辺素子
スイッチは水道栓であり、電源は大きな桶に水を入れ、
高い場所に持ち上げた物である。電圧は水面の高さで表される。
配線はチューブで行い、断線はピンチコックでチューブをはさ
んでとめることに相当する。パイプを切断すると水は流れ出す
が、電線を切ってもそこから電子が流れ出すなどと言うことは
電源とスイッチ
ないので、その点が大きな違いである。
2‐2)
受動素子
水回路において、抵抗は細いチューブに相当する。
高い抵抗はチューブの断面積が小さく、また長さも長い。ま
たすべての配線自体がいくばくかの抵抗を持っていて、大電
流時にそれが問題になることも似通っている。当然並列、直
3
抵抗の水モデル
列に対して抵抗の式が成り立つ。抵抗は水の流れる勢いを細
いパイプによって妨げ、水の持つ運動エネルギーを失わせる
損失を有する素子である。
キャパシターはある面積を持った、二つのおわん上
の器をゴムの膜で仕切って合わせたような物で近似できる。
容量の大きなキャパシターは面積が大きく、ゴムの弾力も弱
い。また容量の小さなキャパシターについてはその逆である
キャパシターの水モデル
と言える。いずれにせよ入力された圧力に比例する水量(電
荷量)を溜めることは出来るが、膜を通して水を(電荷を)
直流的に通すことは出来ない。しかもキャパシター自身が、
抵抗と違ってエネルギーを消費することはない。しかも溜ま
る電荷と結果の電圧を考えるとエネルギーを貯める素子とい
うことが出来て、そのエネルギー量は E=QV/2 であらわされ
る。ここで Q はキャパシターに溜まる電荷量であり、V はそ
の結果キャパシターの両端にあらわれる電圧である。
1/2 のフ
インダクターの水モデル
ァクターは放電によって電圧が変化することが考慮された結
果になっている。
インダクターは重い質量のついた水車に相当する。
水を流して水車を動かそうとしてもなかなか動かない。しか
しいったん動き始めたら止まりにくいものであるような素子
である。これもキャパシター同様、エネルギーを蓄積する素
子であって、そのエネルギーは E=1/2LI2であらわされる。
これも重い物質の運動エネルギーがmv2/2 であるのと非常に
良く似ている。ここで I はインダクターに流れる電流である。
ダイオードの水モデル
L はインダクタンスだが、水車の Moment of inertia(慣性モ
ーメント)に相当する。
ダイオードは水の逆流防止に使用されるチェックバ
ルブである。弁を押すのに必要な電圧がおよそ 0.7V であり、
電流によってあまり大きく電圧が変わらないものである。も
ちろんいろいろな種類のダイオードが現実に存在し、おのお
のの性質はかなり違う物があるが、とりあえずはこのモデル
の物がいわゆる通常使用されるダイオードとしてかまわない。
ツェナーD の水モデル
ツェナーダイオードは通常のダイオードに安全弁が
ついた物で、逆方向に圧力が大きくかかった場合に安全弁が開き、水を大量に流すことの
出来るものであると考えてよい。安全弁が開く圧力をツェナー電圧と呼び、2.2V から 30V
くらいまでおよそ 10%ステップで選ぶことが出来るようになっている。電流の変化に比較
4
して電圧の変化は非常に小さく、しかも比較的
重い差動ギヤ
水ポンプ
安定しているので、定電圧ダイオードとも呼ば
れる。安定化電源を作る用途によく使用される
水ポンプ
物である。
受動素子の中でもっとも理解が難しい
のがトランスフォーマーである。トランスフォ
ーマーのモデルは自動車の駆動輪に使用されて
いる差動ギヤ(Differential gear)の車輪が取り
付くところに水のポンプを取り付け、差動ギヤ
に重い質量のついた物である。一次側と二次側
の巻き線比はポンプの回転あたりに送り出す水
の量の比で表される。当然一回転に多くの水量
をだせるポンプは送り出せる圧力は小さくなる
し、その逆も成り立つ。
トランスフォーマーの水モデル
たとえば二次側の水流をとめておいて一次側に水を流そうとすると差動ギヤ本体
が回転を始めるので大きなインダクタンス(一次インダクタンス)に見える。そして一次
側に電圧源とスイッチそして一次側の電流を制御するための抵抗を通して GND へ落とす。
二次側に適当な抵抗を取り付け、一次側のスイッチを入れると直ちに二次側に圧力がかか
り水流が起こる。しかししばらくすると重い差動ギヤ本体が回転を始め、徐々に二次側の
電流は減少して行き、最終的には二次側には電流が流れなくなる。そしてトランス自体に
エネルギーが蓄積される。この差動ギヤ本体が回転を始める前にスイッチを切ることによ
ってパルス状の波形を一次側から二次側に伝達できる。これがパルストランスである。ま
た交流電流に対しては差動ギヤが大きく回転する前に電流の方向が変わるし、実効的にト
ランスはエネルギーを消費しないので、ロスなく一次側から二次側にエネルギーを伝えら
れる。当然電圧増幅やインピーダンス変換も出来るし、電気的絶縁はなされている。
問題:トランスのセンタータップはどのようにあらわされるだろうか?
これら以外にも同軸ケーブルのようなトランスミッションラインのモデルも出来
るし、したがってインピーダンスマッチングの概念もこれらのモデルから出てくるのであ
るが、これらについては、今回は時間の都合上、残念ながら紹介できない。
2‐3)
受動素子を使用した回路
例1
ステップアップレギュレーター
5
電源にインダクターをつなぎ、出口にダイ
オード通してキャパシターをつないでおく。インダ
クターの出力は同時に GND へスイッチを通してつ
ないでおく。スイッチを入れるとゆっくりインダク
ターが回り始め、かなり勢いがついたところでスイ
ッチを切る。そうすると行き場を失った水はダイオ
ードを通してキャパシタンスにためられる。キャパ
シタンスの容量があまり大きくなければ、圧力はか
なり高い値になる。これがステップアップレギュレ
ーターである。インダクターの持つエネルギーがキ
ャパシタンスの持つエネルギーと等しいとおくこと
によって一度のスイッチングで発生する電圧を計算
ステップアップレギュレーター
できる。
例2
ステップダウンレギュレーター
電源にスイッチを取り付け、スイッチの出
力をインダクターとダイオードにつなぐ、そしてダ
イオードの入り口を GND につないでおいて、イン
ダクターのもう一方の端子をキャパシターにつなぐ。
スイッチを入れるとインダクターがゆっくり回転を
始め、水の移動に伴いキャパシターの圧力が上がっ
てゆく。ほしい圧力になったときにスイッチを切る
と、インダクターはダイオードを通して GND から
水をくみ上げ、キャパシターに充電をする。これに
よりスイッチを通して流れた水の量よりも多くの水
ステップダウンレギュレーター
がキャパシターにたまり、結果として低電圧で大電流が取り出せたことになる。これがス
テップダウンレギュレーターである。ダイオードはフライホイールダイオードと呼ばれる。
問題:反転レギュレーターはどうすればよいか。
2‐4)
電源フィルター
すべての電子回路を動作させるときには、電源
装置から定電圧を供給することが多い。そのときには電
源コードを引き回すことになるので、大きなインダクタ
6
電源フィルター
ンスを電源と電子回路の間に作ることになる。また電源装置は大電流を取り扱うことが多
いので、どんな条件でも電源が発振したり、不安定になったりしないよう反応速度が抑え
てある物である。したがって電子回路が電流を消費して電源の電圧が変化したとしても、
すぐに電源電圧が回復するとは限らない。そのため電子回路基板には必ず消費電流に応じ
た電源フィルターを取り付ける必要がある。また本当に精度の必要なときにはレギュレー
ターを取り付けることもある。電源フィルターとしては LC フィルターをよく使用する。
2‐5)
アクティブ素子
バイポーラ NPN トランジスターのモデルは
水のバルブをピストンで押してあけるようなものであ
る。水が流れ込む口がコレクターであり、ピストンを
押すための口がベースで、結果として水が流れてきた
ところがエミッターである。ピストンはばねでいつも
は弁が閉じていてベース圧力がエミッター圧力とばね
圧分を超えると弁が開きコレクターから水がエミッタ
バイポーラ NPN トランジスター
ーに流れてきてエミッターの圧力を押し上げ、結果と
して外部回路によって決まる、ある特定の水流の位置に弁が制御される。
このばねの強さはトランジスターの種類
やコレクター電圧(VC)に寄らずほぼ一定で電圧
に直すと 0.7~0.8V である。そしてコレクターの
圧力がベース圧力よりも充分に高く、弁が適当な
ところで制御されている限り、コレクターの水流
とエミッターの水流はほぼ等しいと考えてよい。
しかしコレクターの圧力が下がってしまってベー
ス圧力のほうが高くなるような状態だと弁は開き
きりになり、しかもベースからエミッターに電流
が流れるようになる。これが飽和状態である。こ
うなるとベース圧力を下げても弁はすぐには閉じ
BJT の VBE-IC1)
ずにしばらくは水が流れ続ける。この時間が蓄積
時間(Storage time)である。
この素子をそのままステップアップレギュレーターのスイッチに使用して、スイ
ッチング時間の制御を、出力電圧を見ながら行えば高圧発生器を作ることが出来る。簡単
で安価に出来るので、このコイルをトランスにかえて作った高圧発生器がブラウン管の電
子銃に使用されている高圧発生器である(フライバックレギュレーターと呼ばれている)。
7
MOSFET 例
BJFET 例
FET の水モデル
N チャンネル FET はバイポーラ NPN ト
ランジスターのモデルと同じであるが、この弁から
の漏れがまったくなくなった物で、コレクターがド
レインに、ベースがゲートにエミッターがソースに
MOS 及び JFET の VGS-ID 特性1)
相当する。バイポーラトランジスターとの違いはピ
ストンを押しているばねが比較的強いことで、したがって FET を動作させるためのゲー
ト・ソース間の圧力差は一定と言うわけに行かず、広い範囲で変化する。また弁の開く圧
力が JFET では負電圧であること、MOS トランジスターの場合はプロセスにより違う(1
V 近辺が多いが)
。
しかし幸いにも多くの場合アナログ回路に MOSFET や JFET を使用した場合、
スイッチとして使用しない限り、とりあえずはゲート・ソース間の電圧は一定と考えてよ
い場合が多いので、0次近似的にはゲート・ソース間電圧の違うバイポーラトランジスタ
ーとして設計する。
以上が素子の水モデルである。これを第0次近似として動作の理解の助けとして
いただきたい。動作がわからなくなれば実際に水回路を描いて想像をしてみていただきた
い。今後は電子回路素子としてとりあつかう。
3)
インピーダンスのあらわし方
ダイオードを除く各受動素子はその両端にかけられた電圧に対して流れる電流が
8
存在し、したがって抵抗値というものが定義できる。しかしロスがないインダクタンスや
キャパシタンスは抵抗のように一定でなく、素子の両端の電圧、電流は時間とともに変化
をする。またロスもないので単純な抵抗では表せない。これをあらわす方法がイマジナリ
ー抵抗(実数の場合も含めてインピーダンスと総称する)である。周波数領域ではフーリ
エ変換を用いて、インダクタンスはjωL、キャパシタンスは1/jωC である。
これは周波数領域で使用されるインピーダンスであるが、ラプラス領域ではイン
ダクタンスは SL、キャパシタンスは1/CS となる。S はリアル、イマジナリー両方を含ん
だ、周波数のディメンジョンを持ったパラメーターである。したがってこれは周波数領域
も含んでいるので今後はこのインピーダンスを用いることにする。
またアンプのゲインは dB(デシベル)で表すこともある。これは G(dB)=20logG(倍)
で定義される。
すなわち 20dB は 10 倍のアンプ、-6dB は 0.5 倍のアッテネーターである。
4)
周波数フィルター
前述の受動素子を2つ組み合わせて回路を
作り、伝達関数を単位インパルス入力に対する出力
電圧と定義する。入力量は特に値を決める必要はな
いがネットチャージが存在することと、重要なのは
その波形であるということである。
4-1) C と R によるフィルター。
抵抗とキャパシターを使用したロウパス
フィルターを組んでみる。この回路のインパルス入
力に対する出力を伝達関数と呼び、それは
T(S)=
1
CRS+1
であらわされる。これはインパルス入力に対して時
R-C 積分の周波数特性
定数 CR で指数関数的に下がる波形を意味している。
これは入力から素子の順に抵抗とキャパシターが入っているので、R-C フィルターと呼ん
でいる。
また R と C を入れ替えると微分回路が出来る。伝達関数も同様に計算できる(C
-R フィルター)
。
T(S)=
CRS
CRS+1
= 1-
9
1
CRS+1
となる。これはさらに
右のように書き換え
られて、したがってイ
ンパルスから積分波
形を引き算した波形
になる。C-R フィル
ターはインパルス反応よりむしろステップ関数を入力
したときの波形が R-C 積分のインパルス波形と同じ
になることのほうがわかりやすい。このことから T(S) =
C-R 微分の周波数特性
S が数学的微分に相当することがわかる。
4‐1)
LC 周波数フィルター
L と C とを直列につないで GND に落とし、他方に適当な抵抗をつないで信号入
力すると周波数f=1/2π√LC の部分を取り除くノッチフィルターが出来る。フィルター
の Q-value は入力抵抗と L 及び C の値で決ま
る。また LC を並列接続して片方を GND に落
とし、他方から比較的大きな抵抗を介して信号
を入力すると今度は周波数f=1/2π√LC の
成分のみ取り出すフィルターが出来る。この性
質を利用したものが AM ラジオである。電波
をアンテナで取り込み、とりあえずこのフィル
ターで選択した周波数の成分のみを取り出す。
そしてその後、ミキサーで周波数変換を行い狭
帯域フィルターと自動ゲイン制御アンプをと
おって検波、そしてスピーカーを鳴らすための
パワーアンプに入力され、そして音声として
我々の耳に入ってくるのである。
このようにキャパシターやインダク
ターをうまく利用するとさまざまな動作をさせる回路が出来るのである。これにアクティ
ブ素子を組み合わせるとほぼ作れる回路の種類は無限に広がる。
5)
NPN トランジスターの動作
NPN トランジスターの性質として、ベース・エミッター間の電位差が0.7~0.
10
8V であることと、コレクター電流(IC)とエミッター電流(IE)がほぼ等しいと言うこと
が上げられることは前で述べたとおりである。これをコレクターに1kΩ、エミッターに
も1kΩの抵抗を取り付け、
それぞれを電源と GND へつ
なぐ。
そしてベース電圧(VB)を上
げていったらエミッター電
圧(VE)と VC はどのように
変化するであろうか?
VE はベース電位が 0.7V を越
え始めると上昇を始める。
VE が上昇するとエミッター
トランジスターの動作 RE=RC=1kΩにする
についている抵抗に電流が
流れ始める。その電流はすべ
てコレクターから供給されるので、コレクターの電位も電源よりも少し下がる。その下が
る割合は VE の上昇する割合とまったく同じである。これを、電源電圧を変えて同じことを
やってみよう。するとエミッターの電位はまったく変わらず、コレクターの電位変化のみ
が電源電位の変化分だけ平行移動していることがわかる。このことから、コレクターは非
常に高い抵抗を持っており、ほぼ電流源として扱ってよいということがわかる。さらにベ
ース電位をあげてゆくとコレクターと VE が一致し、ベース電位につれて逆にコレクター電
位も上昇してゆく。これはトランジスターが飽和状態になり、ベースから電流が流れ込ん
でいる状態である。ベース電位を2本の抵抗を使って一定の電圧(およそ2V 程度)に保っ
ておいて、キャパシターを通してベースにパルス信号を送ると何が起こるであろうか?エ
ミッターからは同位相でほぼ同じ波高のパルス信号が、コレクターからは逆位相でほぼ同
じ波高のパルス信号が得られるであろう。これをシグナルスプリッター回路という。
VB をさらに上昇させると
VE と VC とが一致することになる。
この状態は水ポンプのバルブがあ
ききった状態で、すなわちコレクタ
ーとエミッターが完全に導通状態
になっているになっているとかん
がえられる。この状態を飽和状態
(Saturation)という。こうなると
ベース電位を上昇させてもコレク
ターからの電荷の供給はないので
MOSFET の動作 RD=RS=1kΩにする
ベースから電流が供給されること
11
となり、ただのダイオードになってしまう。
今度は MOSFET で同じことをやってみよう。そうすると電位の低いところではバ
イポーラトランジスターと同じような振る舞いを示す。また同じようにゲート電圧を上昇
させてゆくとバイポーラトランジスターと同様、ソース電圧とドレイン電圧が一致する点
にいたる。ここで水ポンプのバルブがあききった状態になる。しかし MOSFET はゲートか
らソース、ドレインへの電流の流れ込みがないのでドレインとソースが同電位になった時
点でゲート電圧の上昇に無関係に一定になる。これが MOSFET をスイッチとして非常に良
く使用する理由であろう。
バイポーラトランジスターに返って、今度はコレクターに、より大きな抵抗(例
えば 3kΩ)を取り付けて同じ事を行ったらどうなるであろうか?同じコレクター電流であ
っても抵抗による電位変化は1kΩの場合の3倍になる。これをまたベース電位を今度は
1.1V くらいに保ってキャパシターを通して
ベースにパルスを送るとどうなるであろう
か?エミッターは以前と同じであるが、コレ
クターはパルス波高がおよそ3倍に増幅さ
れている。これがトランジスターによる電圧
増幅作用である。ベース電位を信号増幅に都
合の良い適当な電圧に保つことをトランジ
スターにバイアスを掛けると言う。
同 じ こ と が や は り MOSFET や
JFET でも起こる。ただひとつ違うのは横軸
の0V の位置が違っており、MOSFET の場
合グラフがバイポーラトランジスターに比
トランジスターの電圧増幅作用
べて若干右により、JFET の場合は大きく左
によるということである。
6)
アンプの構成
増幅された信号はそのままではインピーダンスが高
く大きな負荷(すなわち小さい抵抗)をドライブできない。ト
ランジスターのエミッターはベースと同じように変化をする
が、エミッターから出力される電流はほとんどコレクターから
供給されることを思い出せば、ベースはエミッターに取り付け
た抵抗をほとんど感じていないことが想像できる。そこで増幅
された信号をもうひとつのトランジスターのベースにつない
でみる。コレクターは電源に、エミッターは3kΩ程度の抵抗
12
アンプの構成
で GND につなぐ。そしてエミッターから信号を取り出すと充分に小さい抵抗もドライブで
きるようになる。これをバッファーあるいは電圧フォロワーと言う。特にバイポーラトラ
ンジスターに限ってエミッターフォロワーと呼んでいる(FET の場合はソースフォロワー)
。
このように、アンプは信号を増幅する電圧増幅ステージと増幅された信号を、低
インピーダンスドライブを可能にする電力増幅ステージのくみあわせで出来ている。例外
はひとつのトランジスターでアンプを構成している物がある。特に RF アンプと称するもの
の一部にエミッター接地型で、コレクター出力のものがあるが、これはトランジスターの
電流増幅率をそのまま利用した物である。高周波に特有な典型的アンプであって、一般的
なアンプとは違い、特に増幅率が多少変化してもかまわない場合に使われる物で、計測用
に使用することはほとんどない。したがってここでは紹介しない。
電圧増幅段としては、先ほどの例で増幅率を大きくするためにエミッターに取り
付けてある抵抗を取り去り、ベース入力でコレクター出
力のエミッター接地と、ベースを動かす代わりに一定電
圧に固定してエミッター側から入力し、コレクターから
出力するベース接地があり、使用する目的によって選択
する。
ここで取り上げたアンプは電圧増幅段の数が
一つであるので、一段アンプと呼ぶ。もちろん二段アン
プ、三段アンプも存在するが、検出器用プリアンプに限
っては一段アンプがもっとも多く使用されている。した
ゲインの高い電圧増幅段
7)
がってこれから以後の議論は一段アンプを前提とする。
PNP トランジスターの動作。
PNP トランジスターは NPN トランジスタ
ーに C 変換(チャージ変換)と P 変換(パリティ変
換)を施した物である。前述の1kΩの抵抗をエミッ
ターとコレクターに取り付けた例を取ると、すべての
電圧をプラスからマイナスへ、トランジスターの矢印
を外向きから内向きへと変換し、回路図は上下を入れ
替えた物になる。
NPN→PNP 変換
またグラフは第一象限にあるグラフを 180℃回転して第三象限へ持っていった物
である。したがって NPN トランジスターのエミッターが電流を出すことが出来るのに対し
て PNP トランジスターは電流を引き込むことが出来る。コレクターは逆に電流を流し出す
ことが出来、その抵抗も NPN トランジスター同様、非常に高い。このように NPN トラン
13
ジスターと動作は同じようであるが電気的に逆の性質を持っており、これをコンプリメン
タリー(相補的)と呼んでいる。そして特に性質の似た
トランジスターの一対をコンプリメンタリー・ペアーと
呼んで販売がなされている(現在はほとんどなくなった
が)
。実際に NPN では出来ないことを PNP で出来たり
して、相補い合うペアーであることは間違いない。ただ
し細かく見ると決して電気的には同じではない。どちら
かといえば NPN トランジスターの性能が高いのである。
これはホールと電子のモビリティの違いによるもので
あるので、根本的な問題である。しかし最初はそのよう
な CP 非保存について気にする必要はない。
NPN、PNP の入出力特性
8)
トランジスターの特性
典型的 NPN トランジス
ターを例にとってその電気的特性
をより詳しく見てみる。PNP トラ
ンジスターも基本的には同じであ
る。まずベース・エミッター間の
電圧(VBE)とコレクター電流(IC)
との関係を、周囲温度を変えてとってみる。するとまず IC ∝ exp(‐VBE) であることが
わかる。また温度の変化によってグラフが平行移動していることもわかる。この VBE の値
自身はトランジスターによって多少の差
があるが、傾き自体はトランジスターに
よる個性はほとんどない。このグラフか
らトランジスターのエミッターには IC に
依存した抵抗(re)がついていると考えて
も良い。その値は
re = 25.5(mV)/IC(mA)
で表される。これは Shockley の
VBE とコレクター電流(IC)との関係
ダイオードの式をトランジスターに直し
た Ebers-Moll モデルから得られる。Ebers-Moll モデルでは
IC = IS(exp(qVBE/kT)-1)
14
で与えられる。ここで IS は飽和電流と呼び VBE に逆電圧をかけたときにコレクターに流れ
る逆電流に相当しており、nA 以下の非常に小さい値であると同時に温度依存性を持ってい
る。qは電子の電荷、kはボルツマン定数である。そして注意しなくてはならないのは
Ebers-Moll モデルからは VBE の温度依存性は出てこないということである。
コレクター電流として1mA 流せばおよそ 25.5Ωの抵抗がエミッターについてい
ると考えてよいということである。これは室温のエネルギーが 0.0255 電子ボルトというこ
ととまったく同じことである。
モデルではベースに流れる電流はただ非常に小さいと言ったが、実際は直流電流
増幅率(hfe)により流れる電流が決まる。IC = IB×hfe であらわされて、hfe の値はトラン
ジスターにより 20 から 4000 くらいまでいろいろ変わるが、典型的な値として 100 をとっ
ておけばよかろう。すなわち前回路でエミッターに取り付けた1kΩはベースから見ると
およそ 100kΩに見えていたことになる。
VBE の温度係数は-2.1mV/℃
である。hfe 以外のパラメーターは物理の
基本的な現象から起こっているものであ
り、従ってトランジスターの種類にほとん
どよらず一定である。
トランジスターのエミッターを
直接 GND へ接続して、ベースへ微小な電
流を流すと、コレクターには hfe 倍の電流
が流れる。このコレクター電流を、VC を
変化させてとって見ると、ベース電流(IB)
が一定であればコレクター電流もほぼ一
トランジスターの Early 効果1)
定であるが、ほんの少し右肩上がりで、直
線に近いことがわかる。この直線を IC = 0 の線
と交わる点を取ると IB にほぼ依存せず一定の値
Early 電圧
をとることがわかる。この電圧をアーリー電圧
と呼び、その電圧はほぼ-100V である。このこ
とからトランジスターに1mA コレクター電流
を流したときのコレクター抵抗が 100kΩにな
ることがわかる。この値は最近の高速低圧トラ
ンジスターではかなり小さくなっている(NEC
の UHS0 プロセスでは-20V 程度)
。
すべてのトランジスターは各端子間に容量を持っている。ベースエミッター(ゲ
ートソース)間は Ciss、コレクターエミッター(ドレインソース)間は Co、ベースコレク
15
ター(ゲートドレイン)間は Cre で表されてい
る(Coss、Crss 又は Ccという書き方もある)。
値はトランジスターにより大きく変わるが、
似たような性能であれば、一般的に FET のほ
うがバイポーラトランジスターに比較して 1
桁近く大きいのが普通である。
また JFET や MOSFET はその製造
法や構造に大きく影響を受けるので、バイポ
トランジスターの寄生容量
ーラトランジスターの VBE の温度係数などに見られるような標準値と言うような物は存在
しない。したがって回路設計の勉強をするのならバイポーラトランジスターから始めるの
がやさしくてよい。
問題:室温が 0.0255(1/40)電子ボルトであることは自然現象の何から知ることが出来る
か。
9)
トランジスター2 素子以上を使用した基礎回路
典型的なトランジスター回路には何種類かのものがあってそれをここで紹介する。
その多くは二つ以上のトランジスターを利用した物である。それらの多くは主としてトラ
ンジスターの持つ温度係数を見えなくしたり、単体では達成できないものを補ったりする
ためのものが多い。それらは以下のものがある。
1)
差動アンプ
:主として入力段に使用される。
2)
電流源とカレントミラー
:電圧増幅段やバイアスに使用される。
3)
ダーリントン
:バッファー回路に使用される。
4)
プッシュプル
:アンプの出力段に使用される。
5)
カスコード接続
:電圧増幅段のミラー効果を除去する。
厳密な意味ではカスコード接続は、基礎回路とはいえないかもしれない。しかし
一段増幅アンプにはほとんどつき物のようになってしまっているので、あえて今回はミラ
ー効果を含めてここで紹介する。
9‐1)
差動アンプ
ベース・エミッター間の電圧は個体差による差も多少あるが、大きな物は温度に
よる変化が上げられる。パルスによる信号検出であれば、パルスの上下の電位差を測定す
16
れば測定可能であるが、DC 的な信号を発生する検出器(たとえば温度や剛体のひずみなど)
の場合は電位差を精度良く測定することが重要になる。これを行うことが出来るのが差動
アンプである。バイポーラトランジスターのパラメーターのほとんどが物理現象から決ま
っているため個体差が原理的に小さいことを利用して 2 つの
トランジスターを同じ条件におく。片方に増幅したい信号を
入力し、もう片方を基準電位(多くの場合0V)につないで
その電位差を取り出すようにしたのが差動アンプである。
差動アンプの基本はベース入力でエミッターに大き
な抵抗を取り付け(電流源が理想的)、コレクターにも比較的
小さな抵抗を取り付けた回路を 2 つ作り、その両方のエミッ
ターに信号増幅するための小さい抵抗を渡すのである。一方
を0V につなぎ他方に信号入力を行うと 0V 入力のトランジ
スターのエミッターは-0.7V であり、他方のエミッターは入
力電圧(VI)-0.7V である。すると入力電圧がエミッターに
差動アンプの基本回路
渡した抵抗により電流に変換され、それがコレクター電
流の変化となってコレクター電圧に影響を与える。コレ
クター抵抗を RC とおき、トランジスターに定常的に流
れている電流を IC とする。エミッターに渡した抵抗を
RE と置くと、小さな入力電圧ΔVI に対して信号電流Δ
II は
ΔII = ΔVI /(2・re + RE)
であらわされる。これは両方のコレクター電流となって
コレクター抵抗を通して電圧の変化ΔVO = RC×ΔII
に直される。結果として両方のコレクターに±ΔVC が
典型的差動アンプ
出力され、その中にはベース・エミッター間の電圧で
ある 0.7V は入ってこない。この回路をテブナンの定理
で書き直した物が良く見られる差動アンプの回路であ
る。入力に対する出力の関数は VI = 0V を軸にして対
称になる。ところが VI が非常に大きくなるとコレクタ
ー電圧がエミッター電圧にくっつき、エミッター電圧
と一緒になって上昇してゆくのである。
今度は両方のトランジスターのベースを一緒
差動ゲイン
につないで電圧を変化させてみよう。すると差動アンプであるならば動かないはずのコレ
クターが実際は動いてしまう。これは現在差動アンプの電流を決めているのが抵抗である
からで、これは次に紹介する定電流源で解決される。差動入力のゲインを Gdif とおき同相
入力のゲインを Gcmn とおくと同相除去比(CMRR)が 20log(Gdif /Gcmn)であらわされる。
17
もちろんこれは高ければ高いほうが良い。
差動アンプは多くのオペアンプの入力段や
電圧比較器(Voltage comparator)に使用されている。
そしてそのバイアス電流は CMRR を高くとるために
トランジスターのコレクターを利用した電流源で与
えられている場合が多い。
同相ゲイン
9‐2)
電流源とカレントミラー
定電流源を作るのに一つの考え方はベー
スに抵抗 2 本を利用してバイアスを掛け、エミッタ
ーに取り付けた抵抗によって決まる電流が、コレク
ターから流れるということを利用して定電流源を
得ることが出来るという考え方である。しかしベー
ス電圧一定ではトランジスターの温度変化によっ
てコレクター電流が変化してしまう。これを補正す
るために、定電流として使用しているトランジスターを使用して補正を加えた物がいわゆ
るカレントミラーである。トランジスター2 つを利用して同じ抵抗、電流を流し、同じ条件
に近い状態を作り、そのベースバイアスを電流源用のトランジスターのベースに掛けるこ
とによってほぼ同じ条件で二つのトランジスターを動作させている
と考えることができる。すなわち一方の電流を他方に鏡のように映
すことが出来る。これがカレントミラーの意味である。
もうひとつの考え方として定電流源用トランジスターのエ
ミッターを一定の電圧に保つためにもうひとつトランジスターを追
加する考え方がある。それは定電流源用トランジスターのエミッタ
ーにもうひとつトランジスターのベースをつなぎ、エミッターを
GND へ、そしてコレクターを定電源用トランジスターのベースにつ
ないで、さらにそのベースに電流を流すようにする。そうすると定
電流トランジスターのエミッターが 0.7V を切ると追加したトラン
ジスターがスイッチオフとなり、定電流用トランジスターのコレクターの電圧が上昇する。
それにしたがって定電流用トランジスターのベース電圧が上昇する。結果として定電流用
トランジスターの、エミッター抵抗の両端の電圧が 0.7V になるように追加したトランジス
ターが制御することになる。これもひとつの定電流源の形である。
この回路はエミッターに取り付けた抵抗だけで電流値が決まり、したがってダイ
ナミックに変化できない代わりにトランジスターによる制御で電流値は非常に良く一定に
制御される。欠点は変化させることができないことに加え、明白な温度依存性を持つと言
18
うことである。以後はこれら電流源を、円を二つ並べたような記号で表す
ことにする。
この二つの欠点は前回の回路とこの回路を結びつけることによ
って同時に解決できる。すなわち電流を決める抵抗の変わりにダイオード
を使用すれば電流値も変えることが出来て、温度依存性も小さくなる。こ
れがウイルソンミラーと呼ばれる回路である。このウイルソンミラーにさ
らに修正を加えたのが修正ウイルソンミラーと呼
ばれる物である。バイポーラトランジスターではこ
れが最上のミラー回路になる。その理由はアーリー
効果の原因は、同じベース電流でもコレクター電圧
の変化により電流増幅率(IC/IB)が変化すること
によるものである。エミッター電流が固定されてい
るのでアーリー効果は、直接は現れないが、ベース
電流の変化分だけはどうしてもコレクター電流の
変化が現れることによる。
同じ回路が MOSFET でも可能である。し
かし MOSFET の場合はこの階層を重ねることにより、より性能は上昇する。それは
MOSFET も場合にもアーリー効果と同じような影響があるが、これは電流増幅率の変化に
よる物ではないからである。
トランジスターのアーリー効果による電流変化を減ずる方法としてもうひとつ効
果的な方法がエミッターに抵抗を取り付ける方法である。これはトランジスターの IC を固
定する方法として通常のミラーに追加すると非常に効果が高い。それに加えて VBE のばら
つきを減ずる効果もある。
問題:なぜエミッターに抵抗を取り
付けるとアーリー効果を減ずること
が出来るのか?
9‐3)
ダーリントン接続
いろいろなミラーや電流源
電圧フォロワーとしてコレクターを電源につなぎ、ベースに抵抗をつないである
程度の電流を流し、ベース入力、エミッター出力のエミッターフォロワーを挙げたが、出
力の付加抵抗はたかだか電流増幅率倍にしかならない。したがって同軸ケーブルなどのよ
うなインピーダンスの小さな付加をドライブするときに電圧増幅段のゲインに影響を与え
かねない。これを回避する方法としてエミッターフォロワーを 2 つ直列に接続して使用す
る。これをダーリントン接続と言う。電流増幅率は実効的に 2 乗倍され、非常に高い電流
19
増幅率となる。
しかし MOSFET の場合はあまり必要がない。それ
はゲートに電流が流れ込まないからである。しかし
たまに FET のダーリントンが見られるが、これはパ
ワーFET をドライブする方法として(入力容量があ
まりに大きいから速度が低下するので)、プリドライ
バーとしてダーリントン接続を見かけることがある。
ダーリントンは小信号用トランジスターと
電力用トランジスターとを組み合わせることが多い。
PNP と NPN
そして NPN と NPN、PNP と PNP と言うように組
み合わせるのが一般的であるが、負荷がさほどに
大きくないときには PNP と NPN、またはその逆
接続をすることもある。これは特に電源電圧とダ
イナミックレンジ、あるいは温度特性を考えて選
IGBT
択するのである。
また ASIC ではあまり用いられないが、
FET とバイポーラトランジスターの組み合わせ
FET と BJT との組み合わせ
も出来る。これは大電力を扱う場合に特に有効である。大電力の場合はベース電流といえ
ども、無視できないからである。実際にそういう構造をしたトランジスターが電力用とし
て存在する(IGBT = Insulated Gate Bipolar Transistor)
。
9‐4)
プッシュプル回路
NPN エミッターフォロワーを出力段として使用した場
合、電流を流しだすことが出来ても引くことは出来ない。また
PNP エミッターフォロワーはその逆である。これらをコンプリ
メンタリーペアーで組み合わせ、うまくバイアスをかけて使用す
ることで、出力が電流を出したり引いたり出来るようになる。そ
のように組み合わせたものをプッシュプル接続と言う。いわゆる
オペアンプの出力としてよく使用されているし、最近はどのよう
な場合でも、どちらのトランジスターもカットオフされないよう
な工夫がなされていたり、ほぼ電源電圧ぎりぎりまで使えるよう
にした回路も存在したりする。またオーディオ用としても使用さ
プッシュプル回路
れているが、計測用に使用されることはめったにない。したがってここでは簡単に紹介を
するにとどめる。詳しいことが知りたい人はその手の本を参照していただきたい。
プッシュプルは、以前はコンプリメンタリープッシュプルと呼ばれていた。その
20
動作バイアスにより A 級から D 級に分類
される。アナログ回路で波形をそのまま伝
送するために使用されるものは A 級から
B 級である。また A 級と B 級の両方を兼
ね備えた AB 級という回路も存在する。
C、
D 級は主として MOSFET を利用したスイ
ッチング回路である。C と D とは信号増
C 級プッシュプル
幅法のちがいである(D は PWM)
。また
TTL 論理回路の出力には NPN だけで構成された準コンプリメン
タリープッシュプルと呼ばれる回路が使用されている。
A 級プッシュプルはもともと PNP、NPN トランジスタ
ー単体でもトランジスターがスイッチオフしないように充分に
電流を流した物を両方つないでプッシュプル回路としたもので
ある。信号が最大限に振れたときに流れる電流を NPN、PNP ト
ランジスターに常に流しておくので消費電力は非常に多く、大電
力には使用しにくい。しかしトランジスターが常に ON なのでひ
ずみの小さい、線形性の良い増幅が出来る。そのため高級オーデ
準コンプリメンタリ
ィオ装置に昔から使用されている。
ープッシュプル
B 級プッシュプルは単純に NPN、
PNP トランジスターのベースをつなぎ、
エミッターをつないでプッシュプルとし
た物である。この形では必ず片方あるいは
両方のトランジスターがスイッチオフに
なってしまう。負荷が大きいときは特に入
力が0V 付近で非線形性が強く、線形回路
に使用するのは難しい。しかし回路は単純
B 級プッシュプル
であるので、あまり線形性や速度を求めな
いモータードライバーやコイルドライバー、さまざまなロジックドライバーなどに使用さ
れる。
A 級は消費電力が大きく B 級は非線形である。この両方の良いところだけを取り
出そうとしたのが AB 級プッシュプルである。すなわち A 級プッシュプルのバイアスを浅
く掛けてトランジスターに流れる定常電流を少なくしたものである。出力電流がトランジ
スターのバイアス電流以内であるときは A 級動作をし、それを超えるような電流になると
片方のトランジスターがオフになり、B 級動作になる。A 級と B 級が両方共存するので AB
級プッシュプルとよばれる。計測にはこのタイプの物が最も向いている。バイアスのかけ
方は非常に簡単でベース間に 2 つのダイオードをつないで電流を流しておくだけである。
21
そしてエミッターに電流制限用の小さな抵
抗を入れておく必要がある。
A級
A 級及び AB 級のプッシュプルは、
B級
バイアスをかけるためのダイオードを熱的
にトランジスターに接続し、消費電力に応じ
たヒートシンクを取り付けることが重要で
ある。さもないと温度上昇によって VBE が低
B級
下し、それによりさらにトランジスターの消
費電力が増加して、更なる VBE の低下を招き、
最終的には焼損する可能性がある。これを熱
AB 級プッシュプル
暴走と呼ぶ。
9‐5)
ミラー効果とカスコード接続
ゲインが G 倍のエミッター接地の電圧ゲインステージを考えてみる。ベース電圧
がΔVI 上昇するとコレクター電圧は GΔVI 下降する。したがって
エミッター接地トランジスターに付随する Cre の両端の電圧変化は
(1+G)ΔVI となり、ゲインが高ければより多くの電荷を注入しな
いとコレクターの電圧は下がってこない。すなわち入力からみれば
Cre が(1+G)倍されたことと同等である。もしも入力源のインピー
ダンスが非常に高い場合は信号が大きな時定数で積分されたよう
になる。これをミラー効果と呼ぶ。この性質を利用して積分する回
路をミラー積分回路と呼ぶ。
この効果を出さないようにするために、トランジスターのコレクターにもうひと
つベース接地アンプを取り付けた回路をカスコード接続という。カスコード接続には 2 つ
の接続法があって、同じタイプのトランジスターを 2 つつなぐものと、NPN に対して PNP
を接続して信号の方向を折り曲げてしまうものが
ある(Folded cascode)
。いずれにせよ信号入力に
よってトランジスターのコレクターが大きく揺れ
ないようにすることによって、入力インピーダン
スがキャパシティブでなく、高いインピーダンス
を保つことが出来るようになる。と同時に Folded
cascode はアンプのダイナミックレンジを変えて、
広げることの出来る一つの方法である。
10)
カスコード接続の種類
低増幅率差動アンプ。
22
アンプが電圧増幅
段と電力増幅段の組み合わ
せからなっていることは、既
に述べた。ここでは増幅率が
5 倍の差動アンプを設計して
みよう。電源は±6V と仮定
をして、まず差動アンプのお
のおののトランジスターに
1mA ずつ電流を流すよう
にしてみよう。そのバイアス
電流はカレントミラーで作
最も簡単な 5 倍差動アンプ
ってみる。片方に2mA 流れ
るようにバイアスしたトラ
ンジスターのベースを定電流源用トランジスターのベースにつなげばよい。そして電圧増
幅された信号をエミッターフォロワーで受けて AB 級プッシュプルへつなぐ。アンプのダイ
ナミックレンジを大きくするために差動アンプの出力を+3V にバイアスする。そのために
はコレクター抵抗は 3kΩを取り付ける必要がある。
するとゲインを決めるエミッターに渡す抵抗は合計で 600Ωであればゲイン 5 倍
になる。よって RE + re = 300Ωであれば良く、1mA の電流に対して re はおよそ 25
Ωだから RE = 275Ωで良いこととなる。また次段のエミッターフォロワーにもとりあえ
ず1mA 流す。入力が0V のときにプッシュプル出力が0V であるようにするにはエミッタ
ーフォロワーから約 1.6V 下げてプッシュプルをつなぐ必要がある。これを、ダイオード 2
つ使って調整をして動作をさせてみよう。差動アンプの片側を GND へつないで他方から入
力するとちゃんと 5 倍になっていることがわかる。入力を反対にすると出力が反転するこ
ともわかる。これが最も簡単な差動アンプである。正入力に対して出力が正に出てくるほ
うが+入力で負に出てくるほうが-入力である。
このアンプに出力から R2 という抵抗を-入力につな
ぎ、そして-入力を R1 という抵抗で GND へ落としてみよう。
そしてたとえば 100mV のステップ関数を+入力へ入力する
と何が起こるであろうか?出力電圧を VO とおくと-入力の
電圧 V-は V-=VO×R1/(R1+R2)であらわされる。このアンプ
は+入力と-入力の差をとって 5 倍するアンプであるからし
たがって VO=(100mV-VO×R1/(R1+R2))×5、これをとい
非反転増幅器
て VO=500mV×(R1+R2)/(6R1+R2)が得られる。仮に R1=R2 とおくと VO=143mV がえら
れる。このときには-入力は約 71mV 振れている計算になる。ゲインを G とおいて入力 VI
23
に対しては
VO=VI・(R1+R2)・G/(R2+R1(G+1))
となる。ここで G≫1とおくとこの式は VO=VI・(R1+R2)/R1 となって G に無関係となる。
これが負帰還(Negative feedback)である。アンプのゲインや直線性を精度良く保つのは
非常に難しいが、負帰還をかければゲイン、直線性共に非
常に安定に保つことが出来るのである。フィードバックを
かけて下げたゲインをクローズドループゲイン、G をオー
プンループゲインとよぶ。
今度は正入力を GND へつなぎ、GND へつないで
いた R1 から入力してみよう。今度は反転した出力が得られ
る。今度は V-=VO-R2・(VO-VI)/(R1+R2)となる。VO=
反転増幅器
-G・V-であるので、したがって VO=-VI・R2・G/((1+G)・R1+R2)となる。G≫1とおく
ことによって VO=-VI・R2/R1 が得られる。このとき V-=0V となる。この状態を仮想接
地(Imaginary ground)という。これはあくまで G が大きいので V-の振れる値が非常に
小さいということに過ぎないことを注意していただきたい。実際オシロスコープで-入力
をあたってみると、オープンループゲインが下がった高周波では確かに振れているのであ
る。したがって出来るだけ高いオープンループゲインのアンプを作ることが安定で精度の
良いアンプシステムを構築する上で重要であることがわかる。
11)
高オープンループゲインアンプ
11‐1)
トランスコンダクタンスアンプ
差動アンプのオープンループゲインを高くするため
に RE を小さくしても re をなくすることは出来ない。オープン
ループを上げるもうひとつの方法は両方の入力電圧が同じと
きに同じコレクター電流が流れていることを利用して、カレン
トミラーを負荷抵抗の変わりに取り付けることである。適当に
設計すると入力電圧に対して、バッファ入力ではほとんど電流
トランスコンダクタンス
アンプ例
出力と考えてよいくらいに高いゲインを得ることが出来る。このアンプを、入力電圧を電
流に変換して出力していると考えられるのでトランスコンダクタンスアンプと呼んでいる。
11‐2)
高オープンループゲインアンプ
すなわちアンプは、電圧増幅段はトランスコンダクタンスアンプと負荷抵抗の組
み合わせであり、その負荷抵抗にバッファ回路がつくと近似してもかまわないことになる。
24
そしてその負荷抵抗も特定の目的がないかぎり、素子の持つ入出力インピーダンスで決ま
ることが多い。たとえば高周波ではたとえ1pF であっても1MHzでは 100kΩ程度であ
る。実際は数 pF 程度は自然についてしまうので、コレクター抵抗と比較して充分に低抵抗
といえる。したがってゲインを決める負荷抵抗は純抵抗とキャパシタンスが並列になって
GND に落ちていると考えるこ
とが出来る。
すると入力から出
力の伝達関数が定義できて、
そ
れは F=gm×Zlord であらわさ
れる。ここで gm は入力段の電
圧を電流に直すファクターで
バイポーラトランジスターに
よる差動アンプであれば
0.5/(re+RE)であらわされる値
である。
これはトランスコンダ
クタンスであり、
ちょうど抵抗
分の1のディメンジョンを持
っている。したがって F はア
ンプのゲインに相当する。
こうして得た高い電
差動入力高オープンループゲインアンプ
圧ゲインを高い入力インピーダンスのバッファへ入力する。オペアンプの場合はエミッタ
ーフォロワーの後ろに AB 級プッシュプルステージを取り付けたものが多い。このようにし
てオープンループゲインとして 80dB(電圧ゲインにして 10000 倍)以上を取れるようにし
ている。
11‐3)
高ゲインアンプとフィードバックアンプ
このような非常に高いゲインを持ったアンプ
にフィードバックをかけて使用するときに周波数特性
がどうなるか、あるいは時間領域でどのような波形に
なるかがもっとも気になることである。これはフーリ
エ変換をした周波数領域と、それを含んだラプラス変
換をしたラプラス領域で議論が出来る。オープンルー
プの伝達関数は F(s)=gm×ZL であらわされる。ここ
で ZL は負荷インピーダンスで、キャパシタンスと負荷
高ゲインアンプの周波数特性
抵抗の並列であると近似しても良い。高周波ではキャ
パシタンスがドミナントになる。この抵抗とキャパシタンスで決まる時定数(あるいは周
25
波数)のところで周波数特性がフラットから-6db/oct で高周波に向かって下がってゆく特
性になる。この曲がり角の周波数をドミナントポールと呼んでいる。さてここで問題にし
ている領域ではキャパシタンスがドミナントであると考えてよい。したがって ZL=1/CS
とおく。このアンプの伝達関数は近似的に F(S)
=gm/CS とあらわされる。
アンプに対して+入力を GND へつなぎ、
出力から-入力へ R2 を、そして-入力から信号
入力へ R1 の抵抗を入れてクローズドループアン
プとしたらどうなるであろうか。低ゲインアンプ
のときの式に代入してみる。VO=-VI・R2・G/((1
+G)・R1+R2)であるので、書き直すと F(S)=-
R2・gm/CS/((1+gm/CS)・R1+R2)であらわされる。これを書き下すと
F(S) = -
R2
R1
1
CS(
R1+R2
gm・R1
)+1
となる。この式を受動素子の R-C 積分回路と比較してみると、低周波領域でのゲインが-
(R1+R2)/gm/R1 になっていることがあげら
R2/R1 になっていることと、積分時定数が C・
れる。gmと C はアンプに固有の値であるのでこれは変更できない。高速でかつ高いゲイ
ンを一段のアンプで求めることは出来ないことがわかる。
クローズドループゲインを高くとるため R1 ≫R2 とおくと時定数τ≒C・gm×
R2/R1 となる。オープンループでのゲインが 1 倍になるときの時定数は C/gm であるのでこ
れと比較すると R2/R1 倍に長くなっていることがわかる。ひとつのアンプで利得を高く取れ
ば自然と帯域幅は狭くなり、帯域幅を大きく取りたければ利得は小さくなる。利得と帯域
幅の積はほぼ一定で、このアンプの場合fT=gm/2πC であらわされる。fT をトランジシ
ョン周波数あるいは利得帯域幅積と呼び、反転と非反転で多少違うが、利得をとった場合
に最大どれくらいの周波数帯域になるかの目安になるものである。
ステップ関数に対する出力波形は受動素子の R
-C 積分回路とまったく同じで、符号がマイナスになっ
ているので従って波形は反転する。それでは-入力の端
子での波形はどのようになるであろうか。それは入力波
形と出力波形とから容易に推測できる。すなわち入力が
ステップ関数に対して出力はゆっくりとした積分波形
であるので当然-入力はいったんステップ関数で変化
高 Gopen 反転アンプ
する。アンプリチュードは入力抵抗とフィードバック抵抗で分割された値になる。しかし
時間がたつとアンプのゲインが充分高くなり、イマジナリーGND になる。すなわち反転増
26
幅器の-入力はステップ関数入力に対していったんは電圧が振れ、次第に0V に戻るような
動作をする。したがってまるでインダクタンスのように見えるのである。これが粒子検出
器のプリアンプに反転アンプが一時期あまり使用されなかった理由でもあろう。インダク
タンスはキャパシタンスとカップルして発振しやすいからである。しかし必ずしもそれは
正しくない。その理由は後でわかる。
問題:アンプのゲインを F(S)=gm/CS であると仮定して、-入力の波形を計算せよ。
11‐4)
発振と位相補償
これまではアンプのゲインがひとつのキャパシタンスと大きな抵抗値で決まって
おり、したがってどのような条件でも安定に動作すると仮定してきた。このドミナントポ
ールの周波数は通常非常に低く、我々が使用する周波数に
比較して何桁も低い周波数である。しかし実際のアンプに
はそれ以外にもたくさんの信号を積分してしまうポールが
存在する。その理由はトランジスター自身がベースに信号
を入力してもすぐにエミッター、あるいはコレクターに信
号が現れるわけではないからである。またカレントミラー
なども素子の容量やインダクタンスなどによってディレイ
が現れることがある。これらは周波数特性に余分な折れ曲
がりとしてあらわれる。すなわち一回以上の積分がその点
で加えられているのである。2 番目のポールをセ
2nd 及び高次ポール
カンドポール(Second pole)
、それ以上をハイヤ
ーポール(Higher pole)と呼ぶ。そのようにた
くさんのポールを持ったアンプにインパルスを
入力すると高周波のポールに行くに従って信号
が積分された波形になり、高次ポールは出力の立
拡大図
ち上がり際のゆがみとしてあらわれる。そういう
アンプにフィードバックをかければどのようにな
るであろうか。
数式的にはクローズドループアンプの伝
達関数を作り上げ、その分母=0とおいたときに、
その解が完全にイマジナリーである場合には発振
するといえる。しかしそれではイメージがわかな
高次ポールの時間領域での波形
い。入力されてから信号が出始めるまでのディレイ時間を td とおいてそのタイムスライス
でフィードバックをかけた信号がどのようになるかを考えてみよう。
27
簡単のために 1 倍ゲインを取ったと仮定する。
また信号のディレイはすべてバッファー段で起こると
いう仮定をする。そのタイムスライスの時間中に電圧
ステージは 2 倍のゲインを得ると仮定をする。そして
ステップ関数で信号ΔVI が入ると次のステップでゲイ
ンステージが 2ΔVI になる。しかし出力段はもう 1 ク
ロック遅れて出力をするのでゲインステージはさらに
4ΔVI になる。そうなったときに初めて出力段が 2Δ
VI を出力する。すると今度は-入力のほうがΔVI だけ
高いのでゲインステージは次のクロックで 2ΔVI だけ
アンプの発振(ゲイン 2 倍)
下げる。しかしバッファは電圧段の後を追うので、4ΔVI を出力する。すると-入力はゲ
インステージの動作に関係なく 4ΔVI になるので、ゲインステージはさらに 6ΔVI 下げる。
このように次第に振幅が大きくなっていってついに
発振に至るのである。
これはゲインステージのゲインが 0.75 倍
の時にはリンギングは起こすが発振にはいたらない。
すなわちアンプのオープンループゲインカーブが、
欲しいクローズループゲインに相当するところ以下
の周波数で余分なポールを持っていなければ、その
ようなことはおきない。オープンループゲインのシ
ングルポール近似が出来ればよいのである(ゲイン
カーブがひとつのキャパシタンスで決まっているよ
アンプの発振(ゲイン 0.75 倍)
うに見えればよい)
。
発振やリンギングを起こ
しているアンプはどうすれば安定
化できるのであろうか。
それはトランスコンダク
タンスアンプの出力(すなわち電圧
増幅段)に余分なキャパシタンスを
加えて、欲しい周波数でのオープン
ループゲインを下げることである。
また 2nd ポールがはっきりしてい
る場合にはポール・ゼロ・キャンセ
ル補償が出来る。すなわち位相補償
いろいろな位相補償
用キャパシターの変わりにキャパ
シターと抵抗の直列回路を入れ、ゲインカーブが変わる周波数以上で直列の抵抗成分が効
28
くように調整すればよい。そのほかにも入力信号をバッファーして、その出力を利用する
フィードフォワード位相補償という方法もある。
11-5)スルーレート
アンプの位相補償をするために電圧増幅段(トラン
スコンダクタンスアンプの出力)にキャパシターを入れると、
ドミナントポールが低周波に移動すると同時にアンプが最
も速く出力電圧を変化させられる率が低下する。この値をス
ルーレート(Slew rate)と読んでおり、単位は V/μS で表
Band width limit
されることが多い。トランスコンダクタンスアンプが出すこ
との出来る最大電流は差動アンプであれば差動アンプへの
バイアス電流である。これを Imax とおき位相補償用キャパ
シターを Cc とおくと、スルーレート(Slew rate)=Imax/Cc
であらわされる。例えば 0.5mA の電流と 10pF のキャパシ
ターであればスルーレートは 50V/μS となる。出力信号の変
Slew rate limit
化率がこの値以下であれば出力信号の波形ひずみはないが、この値を超えると信号の立ち
上がりや立下り時間が電圧に比例をして長くなるような現象が起こる。信号の立ち上がり
や立ち下がり時間が、小信号時は帯域幅で決まっており、これを Band width limit と呼ぶ
のに対して、大信号時はスルーレートで決まるので Slew rate limit と呼んでいる。
11‐6)電圧帰還と電流帰還
これまでは出力電圧をフィードバックする際
に抵抗分割(あるいはキャパシターなど)でマイナス
入力に対し、電圧を供給する形でフィードバックをか
けた。こういうタイプのアンプを電圧帰還アンプとい
う。これに対して電流で帰還をかけるタイプのアンプ
がある。これを電流帰還型アンプ(Current feedback
amplifier)と呼んでいる。これは初段のトランジスタ
ーのエミッター抵抗 R1 に流れる電流が変化したときに、出力からの電流がそのすべての電
流変化を打ち消すように構成された回路である。そうするとまるで通常の電圧帰還回路と
同じように、フィードバックの抵抗比によってクローズドループゲインが決まるのである。
これは一見電圧帰還と同じように見えるが電圧を帰還しているわけではなく、あくまでも
初段のトランジスターのエミッターに対して電流を帰還した結果、出力電圧変化が起きた
のである。市販の電流帰還アンプの概念回路図を示す。
29
このアンプは-入力に取り付けた抵抗によって
+入力の電圧を電流に変換をし、それを電流ミラーでバ
ッファーアンプへ接続する。出力電圧はカレントミラー
からの電流とバッファーの入力インピーダンスで変換し
て出力する。したがってオープンループゲインは-入力
に取り付けた抵抗とバッファーの入力インピーダンスに
よって決まっている。
このタイプのアンプの特徴はオープンループゲ
インを自由に変えられる代わりに、フィードバックにキ
ャパシター等を使用して積分アンプを組むことができな
いということである。しかし必要なクローズドループゲインに応じてオープンループゲイ
ンを選ぶことが出来るのでクローズドループゲインに関係なく同じ周波数帯域を得ること
が出来る。またゲインステージに流れる電流を、-入力に取り付ける抵抗に小さな値を選
ぶことによって大きく出来るのでスルーレートも選ぶことが出来る。したがってフィード
バック抵抗に小さな値の抵抗を使用すること
によって非常に高いスルーレートを得ること
が出来るのである。
-入力に Rg を取り付け、出力から-
入力へ Rf を取り付ける。そしてトランスコン
ダクタンスアンプの出力インピーダンスを ZL
とおくと、オープンループゲイン(Gopen)=
)
ZL/ (Rg// Rf)となる。VO=Gopen(V+-V’
ここで V’は出力電圧と Rf、Rg そして GND
とが作る等価電圧であり、これは電圧増幅アン
プの V-と同じ値になる。これをとくと VO=ZL(Rg+ Rf)/(Rf+ ZL)V+ が得られる。ZL
≫Rf とおけば、Gclose=(Rf+Rg)/Rg という電圧帰還と同じ結果が得られる。このときにフィ
ードバック量が Gopen/ Gclose=(Rf+GL)/Rf となって、Rg に依らない。Rf を 1 倍ゲインのと
きに最良の値を求めておけば、周波数帯域がクロースドループゲインに依らず一定になる
ので、例えば可変ゲインアンプなどに最適のアンプとなる。
11‐7) 検出器の発振
荷電粒子検出器である MWPC や Drift chamber のプリアンプが発振するのもフィ
ードバックアンプの発信とまったく同じ原理である。プリアンプのゲインが高く、しかも
高速な場合にはその増幅された信号が出力ケーブルなどを通して再度 chamber に遅れて入
力される(多くの場合空中を通って)それが再度アンプで増幅されて発振にいたるのであ
30
る。プリアンプ単体で発振しているものを除けば、chamber の発振は出力の取り出し法と
ケーブル回りの処理が悪い場合がほとんどで、アンプのせいではない場合が多い。ためし
に出力ケーブルをはずして出力ケーブルを電圧スイングしなくしてみればよい。ほとんど
の場合、発振が止まるはずである。
シールドケーブルを過信している例も見受けられる。
ケーブルシールドは静電的な電圧変動などは遮蔽してくれる
が、磁気的なものの遮蔽能力はあまりない。またパルス上の
電流に対してもシールドに誘導電流が流れ、それがために発
振するケースもある。シールドといえども電線である以上、
インダクタンスがあるのである。
また電源ケーブルを通して発振を起こす場合もある。
電源ケーブルも信号に従って電流が流れており、したがって
電位変化を起こしているからである。
チェンバーの発振はあってもフォトチューブの発振
は聞いたことがない。ゲインはおそらくフォトチューブのほ
うが高いのに、なぜかというこの理由を考えれば原因はおの
ずとわかるはずである。
検出器の発振は残念ながら位相補償というわけには
行かない。チャンネルが多く難しい上に、仮に位相補償が出
来たとしたら、アンプの速度自身も非常に遅くなり、使えな
くなってしまうからである。発振を防ぐためには chamber の
センスワイヤーからプリアンプの出力が見えなくなればよいのである。このため、ケーブ
ルをまとめてケーブルトレイに入れてケーブルトレイ自身を検出器のフレーム GND へつ
なぐ等の処置が必要になる。発振のほとんどはケーブル処理により治まる。最も効果が高
いのはチェンバー側でデーター処理をしてしまって結果のみを光などで転送する方法であ
ろう。
問題:フォトチューブの信号増幅率は 103 から 105 倍である。しかしフォトチューブが発振
したという話を聞いたことがない。チェンバーなどよりも増幅率が高いはずなのになぜ発
振しないのか?
問題:プロポーショナルカウンター(チューブ)も発振しにくいといわれている。同じワ
イヤーを使用しているのになぜ発振しにくいのか。
31
12)
放射線検出器用プリアンプ
放射線検出器からの出力はインパ
ルスに近く、しかも実質的に電荷を有してい
る。また多くの場合、検出器は容量性であり、
検出器からの電荷を可能な限り集め、低雑音で増幅することがプリアンプに必要な条件で
ある。そのためには、入力インピーダンスが非常に低く、いったん電荷を積分して貯めら
れるようなアンプが要求される。また入力インピーダンスがインダクティブであると検出
器のキャパシタンスと共振を発振する恐れがあるので、入力インピーダンスについても充
分な配慮がなされねばならない。
ここでは可能なプリアンプのタイプを紹介し、そのノイズ特性について議論をす
る。放射線検出器を電気的にキャパシターと信号電流源が並列になっていると考えてみる。
高速読み出しのためには入力インピーダンスは低くなくてはならない。また初段のトラン
ジスターが電圧性のノイズを発生していれば、そのノイズは CD を通して微分電流として流
れ、測定すべき電荷に対して揺らぎを与える。またアンプに取り付けた抵抗からは熱雑音
により揺らぎが生じる。これらのすべての事柄を最適化することがアンプ系の設計にとっ
て必要なことである。
12‐1) 素子が発生するノイズ。
受動素子も能動素子も雑音を生じる。電気的にロスのある物はノイズを発生する
と考えて差し支えない。キャパシタンスは我々のレベルではノイズを発生しない。インダ
クタンスも磁気ノイズがあることで知られているが、我々の用途にあまり必要でないので
ここでは省く(以前液体アルゴン読み出しにトランスフォーマーカップリングが使用され
たことがある)
。我々にとって大きな影響を持つノイズには三種類ある。
1)熱雑音
:抵抗成分が温度にきれいをして発生するもの。
2)ショットノイズ :電子がポテンシャル障壁を乗り越えて流れる際に発生するもの。
3)1/f ノイズ
:素子の接触部等で発生するパワースペクトルが 1/f に比例するもの。
熱雑音はすべての抵抗素子が発生するノイズである。またトランジスター内の抵
抗分ももちろん発生している。また FET の動作は導体チャンネル幅の制御によって抵抗値
を変化させて動作させているので、これも熱雑音である。抵抗が発生するノイズの量とス
ペクトルは黒体放射(Black-body radiation)と同じであると考えてよかろう。常温のエネ
ルギーはおよそ 1/40 電子ボルトである。これは周波数に直すと 1014Hz 程度になる。我々
が取り扱う周波数はせいぜい 109Hz であるので、充分に赤外近似が出来る。したがって1
32
自由度に対し周波数あたり 1/2kT を分配するという等
分配則(Rayleigh Jeans の放射式)が良く合う領域で
ある。抵抗値を R とし、R の値を持つトランスミッシ
ョンラインを考えると、その中に立つ定在波の進行方
向が 2 つあり、それぞれに 2 つの自由度がある。した
がって抵抗 R が発生する熱雑音は周波数あたり 2kT に
なる。
したがってノイズ電流密度
〈in2〉=4kT/R(/Hz)
となる。ファクター2が掛かっているのはスペクトル
抵抗の熱雑音モデル
密度の定義により二乗平均値の 2 倍とされているから
である。抵抗雑音が電圧源としてみなされる場合には〈en2〉=4kTR となる。また周波数
スペクトルは当然フラットである。バイポーラトランジスターの場合にはベース広がり抵
)やエミッター抵抗などが問題になる。
抗(rbb’
ショットノイズはダイオードやバイポーラトランジスターのジャンクション結合
部分であらわれる。電子やホールがポテンシャル障壁を乗り越えて移動するときの個数分
布はポアソン分布に従う。真空管を想像されると理解がしやすいのではなかろうか。たと
えば単位時間当たり平均n個移動すると、その分散はnである。したがって電流スペクト
ル密度は〈in2〉=2qi であらわされる。バイポーラトランジスターのベース電流のノイ
ズはそのまま i = iB として求められるが、コレクター電流のノイズについてはその揺らぎ
がエミッターにたどり着き、
エミッター抵抗 re によって VBE
の変化として現れる。したがってベース接地アンプのエミ
ッター電圧の揺らぎは〈ΔVE2〉=2qIC×re とあらわされ
る。この式はさらに Ebers-Moll モデルを利用して書き直す
ことが出来て2kT×re と表すことが出来る。
1/fノイズは MOS トランジスターで問題になる
場合もあるが、特に低周波でない限り最近はあまり問題に
ならない。
12‐2) 等価雑音電荷(Equivalent Noise Charge)
信号を測定するときに、その波高を記録する。したがって信号波高に対するピー
ク電圧の揺らぎ(ベースラインの揺らぎも同じ)
を出来るだけ小さくしたいのである。ノイズは電
流性、電圧性を問わずインパルス状であり、ラン
ダムであると仮定をする。そしてノイズはすべて
入力換算をする。したがって検出器の容量に対し
て直列に電圧性のノイズ(Series noise)en が、並
33
シリーズノイズとパラレルノイズ
列に電流性のノイズ(Parallel noise)in が入ると考えてよい。
in は信号と同じ性質を持っているが、en は検出器容量 CD で微分された波形に変換
される。したがって測定された電荷に対する影響はそれぞれ違う。in(en)を等価雑音電流
(電圧)と呼ぶ。そしてそれらが与えるノイズ電荷量を入力換算した物を等価雑音電荷
(Equivalent Noise Charge)とよぶ。多くの場合ノイズ電荷は等価電子数で表される場合
が多い。
初段がバイポーラトランジスターの場合は電流ノイズと電圧ノイズは相補的であ
り、両方を同時に少なくすることは出来ない。最適条件を探すのが重要である。その代わ
りに回路形式で比較的小さく出来るように選ぶことは出来る。
FET の場合には電流ノイズよりも電圧ノイズが重要になる。
FET は速度、
ノイズ、
消費電力の最適化がもっとも設計者を悩ませる部分であろう。
12‐3) 重み関数(Weighting function)
信号の波高を測定するときにそのピークを
測定するが、信号と同時に入ってきた電流性のノイ
ズは 100%信号に影響を与える。しかし時間がずれ
て入ってきたノイズは影響が小さくなる。時間のず
れにより与えられる影響を表したものを重み関数と
呼び、アンプのインパルス反応のピーク時間を 0 と
おいて、そのときの重み関数の値を1として時間的
に逆にした物である。記号で W(t)と書く。時間 t か
ら t+dt の間に入った並列ノイズの影響の二乗平均
は W(t)2dt となる。一方、直列ノイズの影響は重み
関数を時間微分した物に相当する。そしてノイズ電
荷量は検出器の容量に比例する。したがって直列ノ
インパルス反応と重み関数
イズは W’(t)2dt に CD2 をかけたものになる。これか
ら等価雑音電荷が計算できて、
ENCP2 =
ENCS2 =
1
2
1
2
〈in2〉∫W(t)2dt
(Parallel noise)
〈en2〉CD2∫W’(t)2dt
(Series noise)
が得られる。積分範囲は重み関数が存在する領域である。これから推測できることはパル
ス波形を時間的にゆっくり変化させて、ピークを中心として対称な波形で、しかも幅を狭
くした物がもっともノイズ的に有効だが、そんな都合の良い波形はない。最良な波形は t<
34
0 で exp(t/τ)、t>0 で exp(-t/τ)のよう
な関数である。これをカスプ波形と呼ぶ。現
実にはこのような波形は作れないので、それ
に似た波形を作り出すことになる。三角波や
ガウス波形がその例である。カスプ波形と比
較して ENC2の比で、三角波が 1.156 倍、
ガウス波形が 1.25 倍の影響である。しかし
カスプ波形
ノイズの改善量が 10%にしては三角波に波
形整形をするのが大変難しいので現在は回路が簡単なガウス波形にすることが多い。
12‐4) プリアンプ回路
考えられるプリアンプはとして考えられるのは3種類であろう。それらは
1)
ベース接地エミッター入力。
2)
エミッター(ソース)接地、フィードバックタイプ。
3)
エミッターフォロワー。
1)ベース接地のタイプには定常的にエミッター電流を流しておいてエミッターに信号を
入力する。信号電流はコレクターに取り付けた抵抗によって電圧に変換される。これ
にさまざまな回路を付け加えたとしても結局のところノイズの大半は初段のトランジ
スターによって決まっていることが明白であろう。ただしベース接地アンプの場合は
2段目のエミッターフォロワーのベース電流もノイズ源となる。
2)エミッター(ソース)接地アンプはフィードバックをかけて入力インピーダンスを下
げることが出来る。フィードバックのかけ方によっては入力インピーダンスがインダ
クティブになる恐れがある。インダクティブになると検出器のキャパシタンスと LC 共
振回路を作って、発振する恐れがある。
3)エミッターフォロワーをプリアンプとして研究した論文は存在するが、使用した例は
ない。理由は入力インピーダンスが高いことと、したがって高速読み出しが出来ない
という理由である。また出力電圧が検出器容量に
強く依存しており、したがって特定の目的がない
限り使用されることのないものであるので、ここ
での議論はしない。
問題
エミッターフォロワーをプリアンプとして選
んだ場合にノイズ源は何で、どのように発生し、どう
35
いう場合に使用可能となるか考えよ。
12‐5) ベース接地アンプ
ベース接地アンプのパラレルノイズ源は定電流をエミッターに流すためのエミッ
ター抵抗とコレクター抵抗の熱雑音、さらに IE=IC+IB であるので、初段のベース電流と、
2 段目のエミッターフォロワーのベース電流がショットノイズとして挙げられる。そしてシ
リーズノイズ源はコレクターのショットノイズとベース広がり抵抗である。したがってベ
ース接地プリアンプの等価雑音電荷は次の式で表される 2)。
1
ENCP2 = (2q(IB1+IB2)+4kT(
2
1
1
+
))∫W(t)2dt
RE
RC
1
ENCS2 = kT(2re+4rbb’)CD2∫W’(t)2dt
2
ここで IB1、IB2 は初段及び二段目のトランジスターのベ
ース電流であり、RE、RC はそれぞれ初段のトランジス
ターに取り付けたエミッター抵抗及びコレクター抵抗
である。シリーズノイズの最初の項はコレクター電流の
ショットノイズであり、二項目はベース広がり抵抗によ
る熱雑音である。シリーズノイズを下げるためには re
+2rbb を小さくすることである。そのためには IC を増
やさねばならない。ところが逆にパラレルノイズを下げ
るためにはベース電流を減らさねばならない。これは結
果としてコレクター電流を減少させることであり、お互
ベース接地アンプ
いに相反する。
このアンプの入力インピーダンスは ZIN = re+rbb’/hfe であらわされる。当然、電
流増幅率は周波数によって変化し、得に高周波では急激に低下をするので、たとえベース
接地といえども入力インピーダンスはインダクティブになる可能性を持っている。そして
エミッターに入力された電荷はすべてコレクターに流れて、RC で電圧に変換されて出力さ
れる。しかしトランジスターのキャパシタンス成分により積分されて指数関数的な波形に
なる。伝達関数(すなわちゲイン)を求めると
T(S) =
RC
CORCS+1
であらわされる。ここで CO はベース接地のトランジスターのコレクターについているキャ
パシタンスである。
36
12‐6) エミッター接地アンプ
エミッター接地アンプのノイズはシリーズノイズについてはベース接地と同じで
あるがパラレルノイズについてはフィードバックが掛かっていることによってアンプ内部
の抵抗によらない。初段のトランジスターの IB とフィードバック抵抗 Rf だけによって決ま
っている。
ENCP2 =
ENCS2 =
1
2
(2qIB1+4kT
1
Rf
)∫W(t)2dt
1
kT(2re+4rbb’)CD2∫W’(t)2dt
2
そして入力インピーダンスは ZIN = re・CO/Cf であらわされ、抵抗性のインピーダンスで
ある。そして伝達関数は
T(S) =
Rf
CfRfS+1
で与えられる。ここで CO はオープンループゲインを決
めているキャパシタンスである。周波数が高くなってト
ランジスターのゲインがなくなるような周波数での入
力インピーダンスは、初段のトランジスターがなくなっ
たと考えれば Cf そのものが入力インピーダンスとなり、
したがってキャパシティブインピーダンスになるはず
である。よって決してインダクティブになることはない
ことがわかる。また信号のディケイ時間は CfRfになる。
エミッター接地アンプ
これからわかるようにシリーズノイズを下げるためには re+2rbb を小さくするこ
とであるのはベース接地と同じである。コレクター電流を注意深く選択しなければならな
いのはベース接地と同じである。
したがって最適値が検出器によっておのおの違うということである。しかしいず
れにせよベース接地の場合は RC、RE を、そしてエミッター接地の場合は Rfを大きくとら
なければ低ノイズにならないことがわかる。そうするとプリアンプの出力は自然と長いテ
ールを引いた波形にならざるを得ないことがわかる。さらにノイズ的にはエミッター接地
のほうが非常に有利であることがわかる。
12‐7) FET 入力チャージアンプ
37
FET はバイポーラトランジスターと違ってショ
ットノイズでなく熱雑音である。式は次で与えられる。
ENCS2 =
ENCP2 =
2
3
1
2
( 2kT ) (Ci+CD)2∫W’(t)2dt
gm
(2qIG+4kT
1
Rf
)∫W(t)2dt
ここで Ci は FET の入力容量である。gmは FET のトラ
ンスコンダクタンス、IG はゲートリーク電流である。これ
FET 入力チャージアンプ
はショットノイズの一種と考えてよかろう。シリーズノイ
ズのファクター2/3 はチャンネル抵抗をトランスコンダクタンスに変換するときにつくフ
ァクターである。入力インピーダンスは ZIN = CO/(Cf・gm)であらわされ、トランスファー
ファンクションはエミッター接地と同じである。
13)
波形整形の方法(ガウス積分)
低ノイズを達成するためには DC ゲインを決める抵抗(RC あるいは RF)が充分に
大きくないと低ノイズにならない。このためプリアンプから出る波形はインパルスを積分
した波形で、立ち上がりが非常に速く、そしてゆっくりとした指数関数的なテールを持つ
波形になる。このような波形を自
分の望むような波形にするために
は波形整形をしなければならない。
たとえばガウス波形にするために
は高次のポアソン関数にする必要
波形整形回路ブロック図
がある。まず PZC でチャージアン
プなどの出力を短い時定数直し、その後、同じ時定数で多数回積分したような関数にすれ
ばよい。そしてそ最後にベースライン再生回路を経て出力されるのが通常の信号処理系で
ある。
まずプリアンプの信号をほしい時定数のテー
ルを持つ信号に変換する必要がある。それがポール・ゼ
ロ・キャンセレーション回路である。通常プリアンプの
テールはノイズを減少させるため長くなっている。この
長いテールを短くするには短い時定数の C-R 微分回
路を用いればよい。しかし単純なキャパシタンスと抵抗
とを直列につないで微分したのでは信号の後ろ部分に
ポール・ゼロ・キャンセ
アンダーシュートを生じてしまう。これに、元の信号を
レーション回路例
38
減衰させて足し算をすればアンダーシュートなしに信号が短くなる。この微分回路をポー
ル・ゼロ・キャンセレーション回路と呼ぶ。この回路のトランスファーファンクションを
求めてみると
T(S) =
CR1S+1
R2
CR1//R2S+1
R1+R2
ここで R1//R2 は R1と R2の並列抵抗であり、したがって R1R2/(R1+R2)であらわされる。
よって分子の時定数に比較して分母の時定数が短いことがわかる。これをプリアンプの後
ろに取り付けると伝達関数は
T(S) =
Rf
CR1S+1
R2
CfRfS+1 CR1//R2S+1
R1+R2
となる。ここで CfRf=CR1 となるように CR1 を選ぶと時定数が CfRfから CR1//R2 へ変
換される。CR1//R2=τとおいて、τをほしい時定数にし、同じ時定数で R-C 積分を(n
-1)回行うと、アンプの増幅率を G とおくと、
T(S) = G
1
(τS+1)n
が得られる。これを時間領域に直すと、インパルスに対するアンプの応答関数が得られて、
F(t) = G
(t/τ)n・e‐t/τ
n!
が得られる。これはポアソン関数である。したがってnを大きくすることによってガウス
関数に近づく。よって同じ時定数で多数回積分する回路をガウス積分回路と呼び、(C-R)
(R-C)n-1 とあらわす。
R-C 積分時定数はシェーピング時間とは、2.1 倍の関係にある。したがって積分
時定数 1μS の場合のシェーピング時間はおよそ 2.1μS ということである。これはτm との
関係でついた因子であろう。実際 2.1 倍するとピーキング時間に近い値にはなるが、そのも
のにはならない。
13‐1) バイポーラアンプと JFET アンプとの違い
同じ様な回路形式を使ってバイポーラアンプと JFET アンプのノイズ比較をして
みよう。使用するのはエミッター接地型フィードバックアンプとソース接地型チャージア
ンプである。いずれも現在入手可能なもっとも良いトランジスターを利用したと仮定する。
まずバイポーラトランジスターのパラメーターとして rbb’=15Ω、hfe=100、コレ
39
クター電流として 0.5mA、Cf=1pF、Rf=100kΩを選ぶ。Rf をあまり大きく取れないのは
初段のトランジスターのベース電流が3μA 必要であり、それは Rf を通して出力から供給
される。この Rf による電圧降下が 100kΩ抵抗で既に 300mV となり、これ以上大きくする
とhfe のばらつきによって出力電圧がダイナミックレンジを越える恐れがあるからである。
JFET のパラメーターとして Ciss=12pF 、gm=10mS、Cf=1pF、Rf=1GΩを選
ぶ。ただし 10mS のトランスコンダクタンスを得るにはドレイン電流としておよそ 1mA
と、バイポーラトランジスターの4倍程度流さなけ
ればならない。
重み関数は左右対称な三角波を仮定すると
∫W(t)2dt=2τ
m
/3、∫W’(t)2dt=2/τmが得られる。
ここでτmは重み関数がピークに達する時間である。
そしてすべてのパラメーターを入力して計算すると、
バイポーラアンプについては
〈ENCP〉2 =2.28q2×1013τm
〈ENCS〉2 =2.5q2×1019CD2/τm
JFET については
重み関数
2
〈ENCP〉
=2.1q2×108τ
m
〈ENCS〉2 =4.1q2×1019(CD+Ciss)2/τm
等価雑音電荷v.s.シェーピング時間
等価雑音電荷(電子)
100000
BJT ノイズコーナー周波数
JFET ノイズコーナー周波数
10000
BJT並列
BJT直列
JFET並列
JFET直列
1000
100
10
1
0.001
0.01
0.1
1
シェーピング時間 (μS)
40
10
が得られる。ここでqは電子の電荷である。これを見てわかるのはバイポーラトランジス
ターのパラレルノイズが如何に多いかということである。ここで ENCP2=ENCS2とおいて
ノイズが最小になる最適な時定数とそのときのノイズ電荷を見てみる。仮に CD=10pF と
おくと、バイポーラアンプの場合はτm=10.5nS となり、そのときの ENC は 708 等価電
子が得られる。これは実験値と比較しても比較的良い一致が得られる。
JFET アンプの場合はτm=9.7μS のときが最適時定数であり、そのときの ENC
の計算値は 64 等価電子が得られる。通常常識的な値として ENC は 200 等価電子程度であ
り、使用する材料などを充分に吟味してもせいぜい 180 等価電子程度である。したがって、
JFET については少なくとも常温では計算値と実験値とはまったく一致しない。ただしこの
モデルでは JFET のゲートリーク電流等については考慮されていない。
しかしリーク電流が~nA あったところでノイズに寄与するのはわずかであり、し
かもそんなに電流が流れる JFET を今まで取り扱ったことはない。これは原因のわからな
い過剰ノイズである。
ただ、傾向としてバイポーラトランジスターが高速パルスの増幅に向いているこ
とと、JFET プリアンプを低速にすると非常に低ノイズになることがわかると思う。この素
子の使い分けをすることと、素子が選べない場合には最適パラメーターを選択することが
重要である。JFET チャージアンプについては定性的にはわかっているが、定量的にはわか
らないことが多いのである。
この ENCS=ENCP の時定数に相当する周波数をコーナー周波数と呼んでいる。当
然検出器容量 CD によっているが、大雑把にバイポーラトランジスターは 100nS 以下、
JFET は 1μS 以上と考えてよい。
MOSFET についても以前は1/fノイズが多いといわれていた。しかし単体の素子
を見る限り(したがって IC の素子はわからないが)チャージアンプとして充分使用に耐え
るレベルに来ているように思える素子がたくさんある。
問題
放射線検出器用プリアンプに差動アンプを使用した例がないのはなぜか?
問題
世の中にはトランスコンダクタンス1S(シーメンス)の MOSFET が存在する。
それがプリアンプの初段の素子として使用されないのはなぜか?
41
14)
回路設計
さてバイポーラトランジスターと FET の役目は良く理解されたと思う。ここでは
様々なアンプの実際の設計をやってみたいと思う。パラメーターや時定数に関してはノイ
ズの計算の時にとったパラメーターをスケールしても良い。バイポーラアンプではベース
接地とエミッター接地がある。ベース接地は回路選択の余地はあまりないが、エミッター
接地はいくつか目的に応じて考えられるのでその具体的な設計を紹介する。使用するトラ
ンジスターについてはアンプを低ノイズにするために rbb’の値をせめて re 程度のものを選
ぶべきであろう。
14‐1) ベース接地プリアンプ。
ドリフトチェンバーなどに利用される高速アンプの一種であるが、ノイズの点か
らはエミッター接地プリアンプと比較して不利である。あえて言えば高入力容量の検出器
を高速に読み出すためのアンプに向いているかもしれない。また可能性として電流帰還回
路がベース接地アンプの使用範囲を広げる手段として残されているが、現在積極的に使用
はされていないようである。
いろいろな回路があるが、標準的なのはベースを GND へつなぎ、エミッターから
RE を-電源(-V)へつなぎ、これで初段のトランジスターのコレクター電流を決定する。
コレクター抵抗は出来るだけ大きいほうが良いのであるが、電源電圧によって制限される。
まずベース接地プリアンプは並列ノイズが多いので電源電圧を大きくとって、し
かもコレクター電流をなるべく小さくとる必要がある。ここでは電源として±8V を選んで
みよう。そしてコレクター電流を 0.3mA にとってみる。すると RE は(8-0.7)V/0.3mA≒
24kΩときまる。
次はコレクター電圧をいくらにする
かであるが、せめて 2V くらいのダイナミッ
クレンジはほしいと思う。もちろんコレクタ
ーキャパシタンスとの兼ね合いであるが、こ
れを仮に1pF とおけば、入力電荷のレンジ
は 2pC になる。これでよければ ASIC の場合
はキャパシタンスを取り付けるなどの調整が
必要であるが、ディスクリートの場合はまっ
たく問題はない。すると RC はすぐに計算で
きて(8-2)V/0.3mA=20kΩになる。これが
設計したベース接地プリアンプ
電流―電圧変換部分なのですぐにエミッターフォロワーにつなぐ。
したがってエミッターフォロワーのエミッター電位はおよそ 1.3V である。このス
42
テージに電流を多く流すと並列ノイズになるので初段よりも少ない 0.2mA 流すことにする。
すると二段目のエミッターから-8V へ 47kΩでつなぐことになる。
出力段は充分に 50Ωケーブルをドライブできるようにしたいので、ダーリントン
接続にする。ダーリントンの、最初のトランジスターのベース電流は並列ノイズ源になる
のでコレクター電流は初段と同じ 0.2mA としておいて出力段に1mA 流そう。これでおよ
そ出力インピーダンスが 25Ω付近になるのでバックターミネーションのため 24Ωをたして
おく。すると最初のトランジスターのベース電圧は 2V であるからエミッターは 1.3V、そ
して最終トランジスターのエミッター電圧は 0.6V 程度である。したがってバイアス電流用
の抵抗が計算できてそれぞれ 47kΩ、8.2kΩ(正確には 8.6kΩであるが、E24 にその値が
ないので)が得られる。
このアンプの消費電力
は±8V に合計 1.5mA の電流を
流すので 24mW が得られる。そ
の大半は最終段のトランジスタ
ーである。
ドライバーは電力を消
費するのである。
次に例をひとつ挙げる。
こ の プ リ ア ン プは 1985 年 に
NIM に発表された論文 3)に出て
いたもので、そこではワイヤー
高レート用ベース接地プリアンプ
チ ェ ン バ ー が several 107 s
-1cm-2 で動作できたとある。日本でも中性
初段出力
K 中間子
希崩壊の実験、KEK E162 のドリフトチェンバーが
ビーム中心付近でワイヤーあたり 1MHzであった。
中性子ヒットが多かったので、直接比較は出来ない
が KEK E162 のおよそ 1 桁以上高い値である。
プリアンプ
+6V、-12V の電源で初段のベース電圧を
PZC 後
GND から 24kΩの抵抗と-12V から 27kΩの抵抗
をつないでバイアスを掛ける。したがってベースバ
イアスは-5.6V 程度である。エミッター抵抗を 18
kΩにするとおよそエミッター電流として 0.3mA
1/ttail 用
流れる。コレクターに 27kΩを取り付けるとトラン
PZC 後
ジスターのコレクター電圧は-1.56V になる。この
出力にコレクターを GND につないだダーリントン
接続を取り付け、最終出力段に 3mA 流す。ただし
43
出力パルス波形
出力抵抗は受ける側に取り付けることにする。通常こんなことをすると最低でも 50mW は
消費するが、このプリアンプはわずか 18mW ですんでいる。これは検出器側の消費電力を
ほぼ極限まで削った芸術的なベース接地プリアンプである。X 線に対するプリアンプ出力は
シェーパーアンプでおよそテールからテールまで 15nS のパルス幅にまで縮められ、読み
出し回路に送られている。
14‐2) エミッター接地アンプ
エミッター接地アンプにはいくつか回路
が考えられる。大きく分けてカスコード接続とする
か、ノンカスコード接続とするかという選択である。
またカスコード接続の場合も通常のカスコード接
続か、折り曲げたカスコード接続(Folded cascode)
とするかという選択がある。まずノンカスコードか
ら。
エミッター接地アンプのコレクターにエ
ミッターフォロワーを取り付ける。後段のインピー
ダンスが高いのならばこのままでよいが、ケーブル
ドライブするのならダーリントン接続として出力
部分から抵抗とキャパシタンスで入力へフィード
エミッター接地アンプ
バックを掛ける。ただ出来るだけセカンドポ
ールの影響を避けたいのでキャパシタンスだ
けダーリントンの初段からフィードバックを
かけると良い。オープンループを高く取るに
はいくつか方法があるが、もっとも簡単なの
が定電流負荷である。PNP トランジスターを
電流ミラーに組んで電流源として使用しても
良かろう。ここに流す電流がすなわち初段の
トランジスターのコレクター電流になると考
えてよい。
エミッター接地アンプの特徴はベー
ス接地と比較してゲインを決める Rf とコレ
クター電流とが自由に選べることである。さ
らに単一電源で動作させられるので消費電力
カスコードアンプ
的にも非常に有利である。欠点は初段のトランジスターの Cre が Cf と並列になるので、ゲ
インが計算よりも小さくなる恐れがある。よって初段のトランジスターパラメーターに充
44
分注意が必要である。よってゲインはあまり高く取れない。またダイナミックレンジが負
電荷方向のみになるので正電荷出力の検出器には極端にダイナミックレンジが小さくなる。
初段のトランジスターの Cre が Cf と並列に入る事はカスコード接続により解決で
きる。入力段のトランジスターのコレクターにカスコード用トランジスターのエミッター
をつなぎ、ベースにバイアス電圧をかける。そして負荷を PNP トランジスターの電流ミラ
ーを使用して、ダーリントンを出力に使用する。こうすることによりゲインはほぼ Cf によ
って決まるように出来る。
出力バイアスはおよそ 0.8V 付近であり、したがってダーリントンのベース電圧は
およそ 2.2V 程度になるのでカスコードトランジスターのベース電圧の選択が難しい。入力
段、カスコード段の両方のトランジスターともに飽和しないようにするとカスコードトラ
ンジスターのベース電圧としてはほとんど1点になる。すなわち 1.8V 付近である。ダイナ
ミックレンジはノンカスコードアンプと
比較してさらにダイナミックレンジが縮
まる結果となる。
これらをまとめて解決できるの
が折り曲げカスコード(Folded cascode)
である。通常の NPN エミッター接地回路
のコレクターに PNP トランジスターのエ
ミッターをつなぎ、ベースにバイアスを掛
ける。そして電源から PNP トランジスタ
ーのエミッターに抵抗をつなぐと初段の
コレクター電流と PNP トランジスターの
エミッター電流とを足し算した電流が、電
源と PNP トランジスターのエミッター電
圧及び取り付けた抵抗によってきめられ
フォールデッドカスコードアンプ
る。
PNP トランジスターのコレクターに負荷回路をつけ、バッファを取り付けて出力
からフィードバックをかける。初段の NPN トランジスターのコレクター電流は全電流から
PNP トランジスターの負荷回路の電流を引き算して求めることが出来る。PNP トランジス
ターのコレクター負荷は電流源が良く使用される。しかも負電源が使えるのでダイナミッ
クレンジが広げることが出来る。また初段のトランジスター、負荷の電流源共に独立に変
えられるのでオープンループゲインを広い範囲で自由に取れる。すなわち極端に高いオー
プンループゲインも設計しだいで可能となる。
いずれのエミッター接地アンプもカスコード電圧、Cf、Rf、などは使用する目的に
応じて選択すればよいが、目的が小さな信号を増幅することであるのであまりに大きな Cf
や小さな Rf を使用するのは好ましくない。
45
フォールデッドカスコードアンプは必ずしも良いことばかりがあるわけではない。
そのように自由な設計が可能な変わりに信号の伝播ルートにベース接地アンプという信号
を遅らせる可能性があるものが入っていることである。これは高次ポールの原因になる。
したがってよく位相補償用キャパシターが必要になる。実際に高周波フィードバックアン
プでカスコード接続されている物はまったくない。オペアンプの中でも超高周波用アンプ
としてはカスコードアンプが採用されている例はない。したがって高速ドリフトチェンバ
ーやフォトチューブ読み出しのプリアンプとしてはこのタイプは向いていない。比較的遅
くても良いフォトダイオード読み出しや、波形サンプリングをするタイプのドリフトチェ
ンバーなどには良い選択であろう。
14‐3) FET 入力チャージアンプ
バイポーラアンプの範囲を外れるが JFET と MOSFET を使用したプリアンプを
紹介しよう。基本的回路はエミッター接地、フォールデッドカスコードアンプである。違
いはゲートソース間電圧の違いである。エミッター接地フォールデッドカスコードアンプ
と設計法はまったく同じである。唯一の違いはゲート電流が不要であることである。した
がって Rf を大きくすることができ、パラレルノイズフリーに出来る可能性があることであ
る。さらに MOSFET の場合にはエンハンスメントモードであるので単一電源に出来る可能
性がある。
JFET チャージアンプの魅力はその低ノイズにある。動作モードはディプリッショ
ンモードになる(すなわち、VGS<0V で動作する)ので電源は±電源が必要であるが、容
易に 200 等価電子以下に出来るのである。これは低ノイズを重視する用途に最も向いてい
る。
もっとも低ノイズになる FET
パラメーターは、実は実験的にしかよく
わからない。調べた結果はドレイン電圧
として5V 付近は問題がなく、最適とは
いえないかもしれないが充分な性能を
出す環境であるといえる。これを基準に
して FET 入力チャージアンプを設計し
てみよう。
JFET 入力チャージアンプには
ある程度の電源電圧が必要である。した
がってこんかいは±8V で設計をする。
ソース接地としてカスコードトランジ
FET 入力チャージアンプ
スターのベースに+4.3V 程度のバイア
46
スを掛け、負荷を電流源とする。FET に3mA、負荷に 0.3mA 流す。出力段をダーリント
ン接続として、初段に 0.3mA、出力段に 3mA 流しておこう。ダーリントンの電流源は電
源電圧が大きいので抵抗でも良い。電源はこのまま±12V にしても問題は無く動作する。
MOSFET 入力チャージアンプも同じように設計してみる。パラメーターは JFET
とまったく同じにしてみよう。ただ MOSFET の特徴である単電源に出来る長所を生かすた
め に 出 力 段 は
MOSFET 一 段 に し
て、ドレイン電流 3
mA を定電流源にし
てみよう。もうひと
つは出力段をダーリ
ントンにして JFET
と同じパラメーター
にしたもので設計し
てみる。負電源がな
いのでダーリントン
の負荷を電流源にし
ておく。
MOSFET 入力チャージアンプ
14‐4) パルスシェーパーアンプの設計
パルス波形整形回路は PZC 回路とその後に続く積分回路部分、そしてベースライ
ンリストアラーに分けることが出来ることは以前に紹介をした。具体的な設計については
その速度によって様々である。たとえば時定数 1μS のパルス波形整形であれば市販のオペ
アンプを使用した回路で充分であるが、時定数 100nS 以下になり始めるとディスクリート
トランジスターでなくては出来ない領域になる。
また PZC 回路も当然のことであるが、キャンセルできる時定数の範囲にもよって
回路自体が変わる。したがって一般的な議論は難しいので、ここでは比較的遅い信号の場
合のパルスシェーピング法と、たとえば高速ドリフトチェンバーなどのような用途に目的
を限って議論をすることにする。
14-5) PZC 回路
まず PZC 回路は紹介した原理回路そ
のものを直接使用可能である。ただゼロ時定数
を広い範囲で調整できるように可変抵抗を使
47
電圧モード PZC
用して、アッテネーションを調節することによってより広い範囲での応用が可能となる。
回路構成もあえて分ければ、電圧モードの PZC と電流モードの PZC とがある。いわゆる
汎用シェーパーアンプではその混在型のようになっているが、ここではわかりやすく2種
類に分けて紹介をする。
電圧モードでは入力から C1 と R1(アッテネーターを含む)を並列接続して R2 で
GND へ落とし、R2 から出力を高いインピーダンスで取ると伝達関数は
T(S)=
CR1S+1
R2
CR1//R2S+1
R1+R2
であらわされる。ゼロをかえるには R1 の値を調整する可変抵抗を変化させればよい。こう
することによりゼロを CR1 から無限大(すなわち完全微分)まで可変できる。このタイプ
の PZC はパルスが短くなった後すぐに速いタイミングパルスを出すのに都合の良いことで
ある。その代わりに速いアンプが必要とされる。
電流モードは特に反転積分回路に直接入力できるので便利である。回路はキャパ
シタンス C と抵抗 R2 の直列回路と抵抗 R1 とを並列接続することによって得られる。伝達
関数は
T(S)=
1
C(R1+R2)S+1
R1
CR2S+1
で得られる。電圧を電流に変換するので抵
抗分の1のディメンジョンがついている。
これも R1 の可変抵抗を変化させることに
電流モード PZC
より変えられる。タイミング信号が必要なければ次段のアンプは高速アンプが必ずしも必
要ないので、これは非常に使いやすい PZC である。
14‐6) 低速信号用積分回路
信号がμS 程度の遅い信号であれば、オ
ペアンプでシェーパーアンプを構築できる。反転
積分では入力を R-C 積分した後にフィードバッ
ク積分を行うとひとつのオペアンプで 2 回積分で
きることになる。ゲインは入力抵抗 R1、R2 とフ
反転 2 回積分回路
ィードバック抵抗 R3 との比で決めることが出来る。伝達関数は
T(S)=
R3
(R1+R2)
1
(τ1S+1) (τ2S+1)
48
であらわされる。τ1=R1//R2C1、τ2=R3C2 である。τ1=τ2 とすることによって2階の
ポアソン関数になる。
反転積分回路ではもうひとつ
のタイプがある。それはバッファー回路
が別に取り付けられる場合に使用でき
るもので、オペアンプの出力からキャパ
シターC1 で入力へフィードバックを掛
け、出力に R2-C2 積分を行ってバッフ
電流入力 2 回積分アンプ
ァーへ入力する。そのバッファーの出力
から R1 でフィードバックを 2 重に掛ける。こうするとこの回路だけで 2 回積分できること
になる。伝達関数は
T(S)=
R1
τ1τ2S2+τ1S+1
が得られる。そこでτ1=2τ、τ1=τ/2 とおくとこれは二次のポアソン関数になる。
非反転積分はクローズドループゲインが
決まったアンプに抵抗 2 本(R1、R2)を直列につ
ないでアンプに入力する。そしてその入力をキャ
パシタンス C2 で GND へつなぐ。アンプの出力か
らキャパシタンス C1 で 2 本の抵抗の接続点にフィ
ードバックをかけると非反転積分回路が出来上が
る。伝達関数は
T(S)=
G
τ1τ2S2+(τ2+R1C2+(1-G)τ1)S+1
非反転 2 回積分アンプ
となる。これは簡単には因数分解できないし、G の値によっては非常に厄介なパラメータ
ー選定になる。ただ 1 倍の時にはこの式は簡単になり、さらに C1=C2=C とおくことによ
って簡単になって
T(S)=
1
(τ1S+1) (τ2S+1)
が得られる。当然τ1=τ2 とおくことによって
二次のポアソンになる。よって非反転型積分回
路は 1 倍ゲインのときに限ると使用しやすい。
49
ゲイン1倍2回積分アンプ
14‐7) 高速信号用積分回路
高速信号積分にはこれといった標準回路のようなものはなく、信号に応じてデザ
イナーが自身で設計をするというのが
通例である。しかしそれでは何の手がか
りもなくなってしまうのでいくつか例
を挙げる。出来ればプリアンプの出力バ
イアス電圧に対応した回路が望ましい
のでエミッター接地アンプにはエミッ
ター接地型積分回路が望ましい。すると
自然と反転増幅、電流モードの PZC が
適当であることがわかる。プリアンプと
高速 2 回反転積分
まったく同じ回路形式で、出力段をダー
リントンにする前に間に R-C 積分回路を取り付け、出力から抵抗でフィードバックを掛け
る。こうすることにより 2 次の積分が出来る。シェーピング時定数を 20nS にとるために、
積分時定数を9nS としてみよう。
この場合にはパラメーターが本当に
考えたとおりになっているのかどう
かを少しパラメーターサーチをして
調整をしたほうが良い。この回路に
限らずすべての高速アンプ回路は必
高速非反転積分回路
ずパラメーターサーチが必要である。
またトランジスターの re を利用した積分回路もある。これはベース接地アンプを
多数直列に並べてコレクターにキャパシタンスを取り付け、高速積分を行う物である 4)。流
す電流で積分時定数が変えられ
る面白い物であるが、高い電圧
が必要であることと、波高値に
よって積分時定数が変わること
が問題になる可能性がある。
バイアス電圧が合わな
い場合がよくあると思うが、そ
のときにはレベルシフトが必要
となる。ひとつの方法として回
電流帰還によるレベルシフトの例。
路の出力段を利用した、電流帰
右は PZC を追加した。
還回路によるアンプ及びレベル
シフト回路を示す。最終段のエミッターフォロワーのコレクターに抵抗を取り付け、PNP
50
トランジスターのエミッター接地アンプをつなぐ。これにはミラー補償を取り付けておい
て定電流負荷で出力トランジスターにつなぐ。出力トランジスターのエミッターから抵抗
によって最終段と考えていたトランジスターのエミッターへフィードバックをかける。こ
うすることにより 0.7V 付近であったバイアス電圧を高い電圧に、しかも信号増幅しながら
出来ることになる。これに積分回路を加えても良いかもしれない。またこの回路を使用し
て追加的な PZC が可能である。ワイヤチェンバーなどの長いテールを持つ信号処理にむい
ているかもしれない。
ドリフトチェンバーの場合には積分をしないで PZC だけで直接ディスクリミネー
ターへ入力をするケースがある。もちろんこれもひとつの考え方であろう。積分はアンプ
の速度で行われていると考えても良いかもしれない。
いずれにせよ高速信号処理にはあまり標準的なもの
はなく、設計者のカットアンドトライで動作させてい
るという状態であるのが現状といってよかろう。
14‐8) ベースライン再生(BLR)
特に高いカウントレートにおける、AC カッ
プルによるベースラインシフトを防ぐ目的の回路で
あるが、1/fノイズによる影響も取り除くことも出
ダブルダイオード BLR
来る。二つのタイプに分けることが出来る。パッシブ
リストアラーとアクティブリストアラーである。
パッシブリストアラーはダブルダイオード
リストアラーともよばれ、2 つのダイオードのアノー
一方のカソードを GND
ドをつないでそこに 2ID 流し、
へ、もう一方のカソードに ID 流して AC カップルされ
た信号を入力する。すると信号の波高値が±0.7V 以
AC カップル小信号時
パッシブ BLR の入出力特性
BLR 小信号時
51
BLR 大信号時
AC カップル大信号時
BLR 高レート
AC カップル高レート
AC カップル波形。小信号時と大信号時
BLR 波形。小信号時は時定数の短い微分
の波形が同じで、レートが高いとベース
波形で大信号時は長くなっている。レート
ラインがシフトする。
が高くてもベースラインシフトは小さい。
下のときは信号の波高値に応じてキャパシターに流れる電流が変化し、ダイオードの抵抗
値×2 と AC カップル用キャパシターで決まる時定数で微分をしたようになる。いわゆる C
-R フィルターの役目を果たす。しかし±0.7V を越えるとキャパシターに流れる電流は一
定の電流 ID になり、抵抗値としては非常に高い値に相当する。
したがって C-R フィルターの周波数としては非常に低い値に相当し、波高値によってフィ
ルター周波数が変わる。こうすることにより、低レベルのノイズを低減したり、ゆっくり
としたベースラインシフトを抑えたりすることが出来る。
この能力をオペアンプやトランジスタースイッチ等を使用して向上させたものを
アクティブリストアラーと呼んでいる。いろいろなタイプがあって、すべてを紹介するわ
けにはいかない。ここでは Amplified diode と現在考えられる決定版の原理回路を紹介する。
Amplified diode はダイオードのフォワード電圧分を縮める目的である。決定版はパッシブ
リストアラーのダイオードの抵抗値をアンプで下げ、さらにある程度の波高値に達したら
定電流を切るタイプのリストアラーであり、現在ではこれがもっとも性能が高い物である。
これはトランスコンダクタンスアンプと電流スイッチ及び 2 つの電圧比較器によって構成
されている
5)。信号の極性が
1 方向と決まっている場合には電圧比較器を 1 つ取り除くこ
52
Amplified diode と入出力特性
決定版 BLR と入出力特性
とが可能である。
しかし多チャンネルになった場合にはスペースや消費電力の問題などがあるので
今でもダブルダイオードリストアラーが使用されることが多い。ASIC の場合には大きなキ
ャパシターを使用してベースラインリストアラーを組むことが出来ないことと、いずれに
せよ DC カップルアンプというわけにはいかないので何がしかのベースライン安定化回路
が必要になる。そのときには単にフィードバックをかけて DC 的な安定化をするのでなく
ベースラインリストアラーの機能を持たせた回路を組むことになる。
またコライダーのような、ビームタイムがはっきりしている場合にはビームでゲ
ートを掛けて安定化させる Time variant stabilizer がいろいろな意味でよい場合が多い。
これで検出器用プリアンプのアナログ部分の回路設計について、ほぼすべてにつ
いて基礎部分の解説が終了した。これを基にして自分たちに必要な部分を付け加え、不要
な部分を取り除いてほとんどのアンプが設計製作できると思う。ただ最近盛んな CMOS を
利用したアンプについては CMOS 特有の回路などがある。CMOS を利用した回路とバイポ
53
ーラトランジスターを使用した回路で回路形式が違うのはその素子のサイズの違いにある。
抵抗のサイズは非常に大きいことが面積を小さくする上で不利になるので、これを極力避
けることが回路の差になっているようである。これについてはそれらに関する参考書など
を参考にしていただきたい。
15)
アンプのテスト
出来上がったアンプ
の性能をどのようにしてテス
トしたらよいのか、
その方法を
ここで簡単に紹介する。
アンプ
のゲインや波形、
ノイズなどを
テストするにはアンプにイン
アンプテストセットアップ例
パルス状の電荷を注入する必
要がある。アンプに電荷を注入するには小さな容量のキャパシターを通してステップ関数
波形を与える方法がもっとも簡単である。電荷注入用キャパシターを 1pF に選べば、ほと
んどすべてのプリアンプにとって、入力インピーダンスは充分に小さいので、電荷注入は
インパルス状であると考えて差し支えない。そして
入力にソケットを取り付け、入力容量を変えられる
ようにする。シリーズノイズは容量に比例して増大
するので、入力容量によりノイズがどのように変化
するのかを測定することによってシリーズノイズ
とパラレルノイズとを分けることが出来る。パラレ
ルノイズのあらわし方は入力容量 0pF のときの
ENC という形で、そしてシリーズノイズは ENC/
pF という形で表すことが多い。
ノイズの測定法は上記のセットアップで
シリーズ及びパラレルノイズ
非常に小さな電荷をアンプに加える(例えば 1pF で 10mV ステップ関数、したがって 10
fC 入力)そしてシェーパーアンプの出力の揺らぎを測定すればよい。もっとも良いのはデ
ィジタルオシロスコープのヒストグラムモードで波高のピークでの揺らぎの r.m.s.値を調
べるのが最適であるが、簡単にはオシロスコープの r.m.s.値の測定モードが最も簡単である。
例えば 10fC 入力でシェーパーアンプの出力が Vout であり、チャージ入力をしないときのベ
ースライン変動がΔV であったと仮定するならば、等価雑音電荷量は次のように表される。
ENC(等価電子)= 入力電荷×
ΔV
Vout×1.6×10-19
54
このときに重要なのは充分に低ノイズの電源を使用することはもちろんであるが、測定シ
ステムを充分にシールドすることである。アンプすべてを導電性の箱に収め。その箱とア
ンプ系のグラウンドをつないで外界からのノイズを遮断することである。特に FET 入力チ
ャージアンプの場合にはノイズ量が少ないので充分な注意を払う必要がある。またパルス
ジェネレーターの出力にもノイズがある場合があるので、必ずアッテネーターで充分に波
高を落として使用する必要がある。
それとシステムの持つ固有のノイズも前もって測定しておかねばならない。また
アンプに電荷を注入するためにケーブルを引き回すと、それにより生じるグラウンドルー
プによってノイズが増大したり、高速アンプの場合には発振したりするので注意が必要で
ある。
16)
最後に
最近は信号のディジタル処理が当たり前のように言われ、コンピュータによる制
御や VHDL のような物の発展が目覚しい。それに比較するとアナログ信号処理は依然とし
て数 10 年前から何も変化していない、と思う人たちも多いであろう。ディジタル素子の目
覚しい発展は事実であるが、だからといって検出器の信号をいきなりディジタル処理回路
につなぐことは出来ない。その間には必ずアナログ回路が介在するのである。また VHDL
などの発展が目覚しいといえども、論理回路の考え方はここ数 10 年間、何も変わっていな
い。ただ素子が変わっただけである。開発ツールが便利になり、容易にシーケンスコント
ロールが出来るようにはなった。しかしそのような意味からはディジタル回路も何も変わ
ってはいないのである。素子の性能の点から言えばアナログ素子にも多少の進展はあるし、
ビデオアンプなどの速度向上もすばらしい物がある。
また高精度フィードバックシステム(例えば精密温度制御などのような)などで
は決してディジタルコントロールは使用されていない。それは本当に高精度が必要なとき
にはアナログ回路でしか対応が出来ないからである。また高速制御も同じことが言える。
計測の世界では、アナログ回路とディジタル回路はお互いの弱点を補い合う関係
であって、どちらかが衰退すれば必ず両方が同時に衰退してゆく関係にあるのである。
17)
謝辞
このセミナーで一人でも多くのアナログ回路を開発する人が増えてくれれば本当
にありがたいことです。そういう人たちとネットワークを作り、情報交換などを出来れば
幸いと考えています。
このセミナーは KEK、素粒子原子核研究所及び測定器開発室のサポートにより開
催された。またセミナーで使用された CAD システムは東京大学の VDEC によりサポート
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されている。またセミナーの対象になった回路には VDEC でサポートされたシステムによ
り完成できた IC も入っており、各大学や研究所のサポートにより試作、完成されたものが
多くはいっている。今回のセミナー開催に対して VDEC をはじめ、上記の多くの大学、研
究所が協力をしていただいたことにこの場を借りて感謝いたします。またエレクトロニク
スグループのメンバー、及び林栄精器の方々にも多くの迷惑をおかけしました。この場を
借りて感謝いたします。そして時間ぎりぎりまで基板と部品の袋つめを行ってくれた富士
ダイヤモンドの武田泰雄さんにも感謝いたします。このセミナーは筆者にとって大変な価
値をもたらしてくれました。この話を持ちかけてくれた同じグループの田中准教授に感謝
いたします。
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18)
参考文献
電子回路の総合的な勉強には Horowitz and Hill “The art of electronics”, Cambridge
University Press が良い。
ノイズの研究については M. Morii et al.(1988)KEK Internal87-14 にベース接地アンプ
の詳しい解析があり、参考になる。
1)サンヨー‘90‐‘91 半導体データブック。
2)A.Hrisoho NIM 185 (1981) 207-213
P.D’Angelo et al. NIM 193 (1982)533-538
3)J.Fisher et al. NIM A238 (1985) 249-264
4)R.A.Boie et al. NIM 100 (1972) 493-504
5)Bertolaccini et al. NIM 100,(1972)349
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