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8月号
I S S N 0914−3157
2012 .
8月号
2012年8月5日発行
︵毎月1回5日発行︶
通巻 号
昭和 年7月 日第三種郵便物認可
405
ほんのしるべ
61
15
世界の本屋さん
vol.8
イタリア・シエナの書店
セネッセ書店
すレンガ色の街の真ん中にカンポ
エナの街はある。中世の面影を残
くトスカーナの田園風景の中にシ
る。オリーブの木とブドウ畑が続
う途中に、トスカーナ地方が広が
フィレンツェからローマに向か
はない。世界遺産に関係した写真
二十坪、二階十坪と大きい書店で
列と工夫の多い書店である。一階
店頭のウインドウも平面、立体陳
て、 回 廊 の 妙 を 見 る 思 い で あ る。
の二階が回廊式の売場になってい
階の小綺麗な店だ。イタリア特有
ノセ事務所
能勢
仁
広場がある。この広場は世界遺産
集、美術書が多く陳列されていた。
レジは一階だけである。
従 業 員 は 男 性 二 名、 女 性 二 名 で、
に指定されている。
セネッセ書店は城壁に囲まれた
街の中心にある書店である。一・二
(表紙題字・陳舜臣)
8月
なだらかに広がった景色の端はそのま
ま遠くの山裾の稜線に連なっている。そ
の隙間を埋め尽くした向日葵畑はまるで
世界の本屋さん8
﹁書標﹂歳時記
月
1
著書を語る
○ ﹁主婦と労働のもつれ﹂ 村上
潔
2
書標・書評
﹃ナタリー﹄ほか
特集
中国古典のチカラ
今月のおすすめ
学
科
書
学
天文の棚より ①
然
科
学
自
科
学
会
文 学 ・ 文 芸
※表示価格はすべて税込価格です。
本屋うらばなし
﹁私を支えてくれるもの﹂
童
地 図 ・ 旅 行 書
児
書
芸
社
術
孔子と﹃論語﹄と儒教を読む
文
コ ン ピ ュ ー タ
医
人
書
文 庫 ・ 新 書
用
16
穏やかに凪いだ緑色の湾にも見えた。
水面には数えきれない大輪の花が浮い
ている。まだ眩むほどの陽光がいっぱい
に降り注いで、花たちは競い合うように
してその太陽を見上げている。
実
18
往復書簡をはじめませんか
インフォメーション
21
24
25
−1−
8
語 学 ・ 辞 典
23
26
27
22
28
浅倉卓弥著
﹃向日葵の迷路﹄︵幻冬舎文庫︶より
15
4
17
6
20
24
30
484
著書を語る
○
︱︱
﹃主婦と労働のもつれ﹄
﹁人は女に生まれるのではない、
女になるのだ﹂という、
有名な言葉があります。なるほど、至言でありましょう。
た だ 私 は、 そ れ に 引 き つ け て、 ひ と つ 余 計 な こ と を
考えついてしまうのです。
﹁人は主婦になるのではない、主婦に生まれるのだ﹂。
なにをばかなことを、と思われるでしょうか。でもこ
れは、けっして悪ふざけで言っているのではないのです。
一 人 の 自 立 し た 女 性 が、 二 五 歳 や 三 〇 歳 に な っ て、
突 然 主 婦 に な る︵ さ れ て し ま う ︶ の で は あ り ま せ ん。
近代以降の社会においては、︿女﹀という枠内に割り振
ら れ た 存 在 は、 社 会 に 捕 捉 さ れ て し ま っ た 時 点 で す で
に︿主婦﹀なのです。﹁自立した女性﹂というモデル自
体が虚構だ、と言ってしまってよいかもしれません。
︿主婦性﹀とは、一部の主婦業をする女性たちのみが
も つ 特 性 で は あ り ま せ ん。︿ 主 婦 的 状 況 ﹀ と は、︿ 女 ﹀
総体に課せられる抑圧と、︿女﹀をとりまく諸力によっ
て構成される全体状況を指します。ですから、﹁主婦を
一人の女性として解放しなければ﹂などという無意味
な課題は、設定するべきではないでしょう。
村上
潔
また、やっかいなことに、主婦性は、より始原的な︿お
んな﹀性と少なからず重なりあう要素としてあります。
したがって、近代を否定する云々という話ですっきりで
きるわけでもないのです。なんとももどかしい問題です。
七 〇 年 代・ 八 〇 年 代 の 一 部 の︵ ウ ー マ ン ︶ リ ブ の 女
た ち や、 ま た そ れ 以 前 の 一 部 の 女 性 思 想 家 た ち は、 そ
の こ と を は っ き り と わ か っ て い ま し た。 だ か ら、 そ の
困 難 さ を ス タ ー ト ラ イ ン に し て、 な ん と か︿ 女 た ち ﹀
の独自の存在のありかたを現前化させようと模索しま
した。でもそうした貴重な営みは、悲しいことに︱︱﹁自
立 し た 女 性 が ⋮⋮﹂ と い う 物 言 い の 裏 で ︱︱ ほ と ん ど
忘 れ ら れ て し ま い ま し た。 い や、 も し か し た ら 最 初 か
ら知られなかったのかもしれません。よくある話です。
それが、﹁女たちが⋮⋮﹂という問題の立てかたを誰
も が ほ と ん ど し な く な っ た 現 在 に な っ て、 皮 肉 に も、
こ の︿ お ん な ﹀ 性 と 主 婦 性 の 本 当 の 意 味 が、 広 く リ ア
ルに直感的に理解されるようになったのかもしれない、
そ う 感 じ る よ う に な り ま し た。 何 が 嘘 で、 何 に 踊 ら さ
れ て き た の か、 女 た ち が し っ か り と 把 握 し 始 め た。 自
−2−
484
分 た ち の 力 は 何 に 規 定 さ れ て い て、 そ の な か で 自 ら の
力 を 行 使 す る と は ど う い う 行 為・ 形 態 を 意 味 す る の か
を、明確に認識し始めたのです。そして、労働・消費・
家庭など、生命・生活にまつわる諸要因の価値体系を、
共同で、大胆に変化させようとしている。
それは﹁ ・ ﹂
︵矢部史郎﹃3・ の思想﹄
︹以文社︺
︶
以降の状況と言ってよいのかもしれませんし、
﹁女性の
貧困﹂の主体的問題化︵二〇〇八年︶以降、と捉えたほ
うがよいのかもしれませんが、いずれにせよ、この国家
と世界的な資本の枠組みが、
︿女﹀という存在をどうし
ようとしているのか、完全に露呈してしまった。多くの
女たちはそれを感じとった。その土壌のうえでは、働い
ていようがいまいが、子育てしていようがいまいが、自
らの主婦的状況をどう自律的に生き直すのか、自らの主
婦性をどう転用するのかが課題となります。主婦という
身分であるかないかで何かを分け、別々の路線を走らせ
ようとする、無駄で不正義な﹁公共事業﹂に心を惑わさ
れるような前提条件は、もうとっくに失われているので
す。その事実が、やっと目に見えるようになった。
多くの女性が企業社会で働く︵ようになる︶ことで喜
ぶのは、労働力をタダ同然で使いたい人たちと、女にモ
ノを買わせて儲けたい人たちと、より多くの税金をとり
たい国家です。自らの主婦性・主婦的状況を自覚的に生
きる土台とする女が増えるということは、そうしたシス
テムを揺るがす要因となります。なぜなら、主婦性を何
にも動員しないかたちで、主婦的状況を自律的に生きる
3
12
12
女たちの実践というのは、これまで社会がほとんど経験
したことのない出来事だからです。上記のシステムは、
主婦性を市場に動員し、主婦的状況を個々の女の内に押
し込めることで成り立ってきました。主婦性を自ら︵=
女たち︶のために用い、主婦的状況を﹁開いて﹂いく流
れは、それとまったく逆のものです。
﹁3・ ﹂以降は、
確実に、そうした実践が︵全国各地で︶増えていますし、
増えていきます。したがって、未知の変化が起こります。
で は、 ど の よ う な こ と が 起 こ る の で し ょ う か。 こ れ
ま で、 社 会 に お け る﹁ 女 性 の 働 き か た ﹂ に つ い て さ ん
ざ ん も の を 言 っ て き た よ う な 人 た ち に は、 何 も わ か り
ません。いちばん先を見通しているのは、当事者の︿主
婦 ﹀ た ち で す。 そ れ は た し か で す。 そ し て そ れ は、 ま
ちがっても、嘆くべき状況ではないでしょう。
﹁ 人 は 主 婦 に な る の で は な い、 主 婦 に 生 ま れ る の
だ ﹂ ︱︱ 主 婦 に 生 ま れ て し ま っ た の な ら、 徹 底 的 に 主
婦として生きてやりましょう。
12
『主婦と労働のもつれ』
洛北出版・3,360 円
−3−
﹃ナタリー﹄
事故でなくしてしまう。心を開くことのでき
あることを暴いた。
ことを至上目的とした、欺瞞に満ちた話法で
初めて出会った二人が、目で、次に言葉で、
早川書房・一七八五円
し、 細 や か な 感 情 を 掬 い 取 る 見 事 な 筆 致 に
小説の刊行はある種の読者の乾きを充分に癒
ては誰も語らなくなってしまった昨今、この
し︵あるいは無視され︶
、率直な感情につい
から出た田中角栄が、田舎の非知識人によっ
とする同じ穴の体制派である。むしろ自民党
守/革新﹂は、双方とも都会の知識人を中心
所謂﹁五十五年体制﹂の対立構造をなす﹁保
界有数の原子力発電国であるのか、その政治
した﹁原子力ムラ﹂の人々が幅をきかせる世
続編にあたる本書では、なぜ日本が、そう
なくなったナタリーですが、不器用で、しか
しとびきりのユーモアをもったマルキュスが
彼女を変えていきます。
そして時間をともにすることで恋をする。か
よって、閉じかけていた扉をもう一度開いて
﹁デリカシーというのは、相手に深く配慮
愛小説です。
の断章とくすぐるようなユーモアで描いた恋
その終わり、そして新たな恋の訪れを一一六
至って私たちは恋が愛情へと熟していくのを
の こ れ ま で を 追 体 験 す る の で す が、 こ こ に
タリーの思い出の場所をたどりながら、彼女
もフランス的な楽観主義で楽しいです︶
、ナ
は恋の逃避行へと出かけ︵この辺り、いかに
さて、物語の終盤、ナタリーとマルキュス
狂している﹂ことだ、と安冨は言う。アメリ
ヴ ェ ル サ イ ユ 条 約 以 来、
﹁世界そのものが発
更にその大きな背景は、第一次世界大戦↓
で、いずれにしても原発は有意義だったのだ。
ては田舎にお金を落としてくれるという点
との関係や安全保障の面で、非体制派にとっ
したと言えるが、体制派にとってはアメリカ
的背景が、明らかにされる。
つて私たちはそうやって恋に落ちたことがあ
て構成される非体制派を率いて体制派と対峙
デリケートな恋物語が書店の棚から姿を消
り、またそんな風に恋に落ちるとは思ってい
くれるはずです。
ダヴィド・フェンキノス著
なかったのです。﹃ナタリー﹄
は恋の始まりと、
するということ、相手のいうことに耳を傾け
見 る こ と に な り ま す。 や さ し く、 急 が せ ず。
カ、ロシア等が地球を何回も破滅させる核兵
装目的で保持されている﹂というのは誰もが
て い る 現 状 は、
﹁発狂している﹂とでも考え
器を持ち、更に多くの国が原子力発電を行っ
︵傑︶
著者のダヴィド・フェンキノスは巻末のイ
愛情は二人をひとつに結ぶのです。
るということ、
決して急がせないということ﹂
ンタヴューにこう答えています。本書の原題
はデリカシーという意味のフランス語。現代
安冨 歩著
明石書店・一六八〇円
今年一月に上梓した
﹃原発危機と東大話法﹄
知る﹁ないしょ話﹂だからだ。
お、
﹁ 東 大 話 法 ﹂ は 言 う。﹁ 原 子 力 発 電 所 は、
福島第一原発壊滅という事態を受けてな
な い と 辻 褄 が 合 わ な い。
﹁原発は潜在的核武
︵ 明 石 書 店・ 一 六 八 〇 円 ︶ で、 安 冨 は、 さ ま
﹃幻影からの脱出﹄
ざまな﹁原子力ムラ﹂の人々の言説から﹁東
の恋愛で、ドラマにではなく、繊細な心の動
控えめで読書の好きな主人公ナタリーはフ
大話法﹂を炙り出し、それが﹁立場﹂を守る
きに焦点をあてたものとしては、まさに本質
ランソワという恋人と出会い、幸せな日々を
をついたタイトルではないでしょうか。
送ります。しかし、ある日突然フランソワを
−4−
ンドイメージを何よりも破壊しているという
ントロピー処理資源と、日本という国のブラ
れは、原発が、日本が最も誇るべき豊富なエ
日本みたいに資源のない国では必要﹂と。そ
その批判者たる論壇のみならず、読者ひとり
論・試論やそれにまつわる論点が、為政者や
後の日本社会のありようについて、著者の私
継げばよいか﹂として、商店街を鍵とした今
書き直したというのだから、これは本当に好
かも一二〇枚もの作品をキャンバスに改めて
ンジョイしながらこの作品を描いたそう。し
が大好きで、ほぼ趣味と言っていいくらいエ
二 の﹁ 黒 船 屋 ﹂ を モ チ ー フ に し た 画 が あ る。
この本に描かれている作品の中に、竹久夢
きではないと成し得ない作業だろう。
文章のテンポがよく、論旨も明確で読みや
その名も﹁黒鼠屋﹂
。夢二の作品は着物姿の女
いる。
ひとりに対して、しっかりと投げかけられて
︵フ︶
事実に気がつかない、救いがたい欺瞞なので
ある。
﹃商店街はなぜ滅びるのか﹄
性が黒猫を抱いている。という設定だが、
﹁黒
う作品。これには評論家、キティーフィール
すい。著者の個人史にも触れられているあと
ドも﹁我々がネズミをペットとして飼う最大
鼠屋﹂は着物姿の猫が黒鼠を抱いているとい
﹁あのころの商店街﹂に素朴な哀愁を感じる
の試練は、空腹になると無性に食べたくなる
がきを含め、読後感は﹁とっつきにくい教養
の道〟という表現を一見すると、
﹁ありがち
方 は も ち ろ ん、
﹁ショッピングモール育ち﹂
という誘惑に打ち勝たなければならない。
﹂と、
新書﹂
のイメージを払拭させるものでもある。
なショッピングモール批判とふるきよき商店
の若い方にこそ是非読んでもらいたい一冊。
新
光文社新書・七七七円
雅史著
書 名 の〝 な ぜ 滅 び る の か 〟
、 副 題 の〝 再 生
街礼賛の本かな?﹂と思ってしまうかもしれ
作品集でもなく、単に絵画を猫で表現しただ
葉がぴったりのこの本。ただの猫のイラスト
猫好きのための西洋美術概論。そういう言
ら美術を学びたい人にも、ちょっと変わった
とか、すでに美術に精通した人でも、これか
楽しい。﹁これ本当はなんていう作品だっけ。
﹂
にもじっている。そこがまた猫好きとしては
品名から画家の名前まですべて猫であるよう
あくまでパロディなので、言葉も猫語、作
この本の楽しさを引き出してくれている。
どこまでも猫主体のユーモアあふれる解説が、
︵苞︶
﹃キャット・アート﹄
ない。社会学という学問には、世に偏在する
所謂﹁神話﹂の神話性を分析し解体し提示し
てくれる一面があるが、この本は商店街にま
商店街の興りと繁栄そして衰退にいたるま
けではない。きちんと時代を踏み、架空の評
入門書だと思って手に取ってもらいたい。
求龍堂・二三一〇円
での変遷が、日本の社会・政治・経済史の中
論家︵猫︶のキティーフィールドが補足説明
シュー・ヤマモト著
でも特に流通・小売・貿易・地域社会・家族
をしてくれる、ちょっとユニークな美術本。
この本に文章を寄せた山下氏も書いていた
神
= 話の神
といったその変遷に直接にかかわる部分とと
が、今回はほぼ西洋美術の作品。ぜひ日本美
つわるそのような俗っぽい見方
もに丁寧に書かれていく。その中で引用され
若くして日本を離れ、海外で創作活動にあ
術版も制作していただきたい。
話性を暴いてくれる。
る当時の新聞記事や要人の発言、それらに対
たった著者は、この作品たちを仕事として描
︵花︶
き始めたわけではないという。著者自身、猫
ハ イ ラ イ ト は 第 五 章、﹁ 商 店 街 の 何 を 引 き
する批判はそれだけでも興味深い。
−5−
報を得ることができるようになった。人
なくとも、書物を紐解くことによって情
書物が誕生した。その時、その場所にい
録する方法が創り出されたことによって
人類は文字というものを発明した。記
なにが書いてあるのであろうか。
人 物 だ っ た の か 知 ら な い。﹃ 論 語 ﹄ に は
はなにかわからない。孔子とはどういう
あまりにも漠然すぎて、そもそも儒教と
値 観 に 影 響 を 与 え 続 け て い る。 し か し、
よくも悪くも儒教は私たちの生活や価
******
は時間と空間を超えて知識を伝達する手
有史以来、数々の書物が著されてきた。
段を手に入れたのである。
古代中国・白熱教室の時代
なかには数百年以上の時を超えて、現在
もなお読まれ続けているロングセラーも
孔子という人物はどのような時代を生
話はいきなり脱線するが、二年前に大
きたのであろう。
ある。古典と呼ばれる書物である。古典
は多くの人達に多大な影響を与えてき
きなセンセーショナルを巻き起こしたマ
た。その影響は政治であったり、文化で
の﹁正義﹂の話をしよう﹄や講義録もベ
あったり、様々な形で結実し、歴史を作
ストセラーになったので、読まれた方も
イケル・サンデルのハーバード白熱教室。
儒教や﹃論語﹄は、日本に大きな影響
多いと思う。様々な立場、多様な考え方
その講義をもとに執筆された﹃これから
を与え続けている。江戸時代、寺子屋で
が議論を交わす様子は、非常にエキサイ
り上げてきた。たとえば﹃論語﹄はその
は、 文 学 を 学 ぶ た め に﹃ 唐 詩 選 ﹄、 中 国
代表格だといえるだろう。
の 歴 史 を 学 ぶ た め に﹃ 十 八 史 略 ﹄、 そ し
ティングであった。
を読む。﹁温故知新﹂
﹁敬遠﹂
﹁不惑﹂など、
教 に つ い て 学 び、 漢 文 の 授 業 で﹃ 論 語 ﹄
た。中国思想の基礎が確立された諸子百
家たちが出現して激しい議論を繰り広げ
世紀から三世紀の時期。多種多様な思想
世に春秋・戦国時代と呼ばれる紀元前六
古代中国にもそんな時代があった。後
て道徳を学ぶために﹃論語﹄が読まれて
日常やスピーチなどで使われる言葉は
きた。現在でも、歴史の授業で孔子や儒
﹃論語﹄から生まれた故事成語である。
−6−
ことができるだろう。
を読めば、その白熱した雰囲気を感じる
学入門
︵マガジンマ
東洋の哲人たち﹄
ガジン・一八〇〇円︶の諸子百家の項目
家の時代である。飲茶著﹃史上最強の哲
回り、自分たちの思想を売り込んでいっ
な意見を求め続けた。諸子百家は諸国を
よう、少しでも富国強兵に結びつく有用
し、支配していく。諸侯は滅ぼされない
強い国が弱い国を力によって攻め滅ぼ
という思想家たちが生まれたのである。
なった。
﹁俺の力で天下を変えてやる ! ﹂
力さえあれば立身出世が望める時代と
度という社会秩序が崩壊したことで、実
況は非常に不安定だった。従来の封建制
もお行儀がよすぎたのである。
らの説く思想は乱世において、あまりに
でしまう。これが乱世の現実だった。彼
襄公自身も負傷し、その傷がもとで死ん
はどうなったのだろう。大敗を喫した上、
終えて陣形を整えるまで待っていた襄公
高く評価している。さて、敵軍が渡河を
儒家系の人らはこういった襄公の姿勢を
る も の で は な い ﹂ と 取 り 合 わ な か っ た。
公は﹁君子は人の難儀につけこんだりす
楚の方が強かったのである。しかし、襄
えればわかりやすい。つまり﹁いろいろ
う 抽 象 表 現。﹁ 家 ﹂ は﹁ 学 派 ﹂ と 読 み 替
具体的な数字ではなく﹁たくさん﹂とい
ら い の イ メ ー ジ で よ い だ ろ う。﹁ 百 ﹂ は
る。﹁ 子 ﹂ は 日 本 語 で い え ば﹁ 先 生 ﹂ く
ろもろの、いろいろな﹂という意味であ
諸子百家とは何か。﹁諸﹂というのは﹁も
ある。宋の襄公が盟約を破った楚と戦争
なぜであろう? 宋襄の仁というものが
家 は 思 想 界 で は マ イ ノ リ テ ィ で あ っ た。
しれないが、当時、孔子の学派である儒
さて、後世への影響を見ると意外かも
時代に孔子は生まれ、駆け抜けていった。
勢に似ていたからかもしれない。そんな
代日本が諸子百家の登場を促した社会情
ルの白熱教室がブームとなったのも、現
た。再就職活動でもあったのだ。サンデ
くのであった。
り、活発な思想活動は急激に衰退してい
坑儒に代表される強力な思想統制によ
台であった戦乱が終わったことと、焚書
下統一によって終焉を迎える。活動の舞
思想であった。どちらも戦乱に疲れた民
想︶や防衛以外の戦争を否定した墨子の
を愛するように他者全員を愛する博愛思
た道家系統の楊朱の思想や、兼愛︵自ら
のは、自分自身の為に生きることを説い
当時の思想界でマジョリティであった
たのである。実は彼らの中には国を滅ぼ
な思想家先生とたくさんの学派が活躍し
を行った。川を挟んだかたちで対峙する
の敵軍を攻撃しようと進言する者がい
だろうか。諸子百家は後漢の斑固﹃漢書﹄
さて、ではどのような学派があったの
しかし、諸子百家の時代も始皇帝の天
た。国力・軍事力で比較すれば圧倒的に
−7−
され、失業した者たちも多く含まれてい
た時代﹂ということである。多様な思想
両軍。渡河中で陣形もままならない状態
衆から支持を集めていたのである。
を花にたとえて﹁百花斉放︵たくさんの
思想史上は黄金期であったが、社会状
国思想史の黄金時代である。
花 が 一 斉 に 開 い た ︶﹂ と も 表 現 さ れ る 中
『史上最強の哲学入門
東洋の哲人たち』
を加えることも多い。
に代表される軍事戦略系学派である兵家
に挙げる十家の小説家を除いて、﹃孫子﹄
ち く ま 学 芸 文 庫・ 一 六 八 〇 円 な ど ︶。 次
よい︵小竹武夫訳﹃漢書︿3﹀志︵下︶﹄
るので興味がある方は一読してみるのも
ることが多い。現代語訳も出版されてい
芸文志の九流十家の分類がベースとされ
もよい。量は少ないながらも、他の書籍
然、はじめから順番に読み進めていって
を 検 索 し て 読 ん で も 差 し 支 え な い。 当
こ ろ か ら、 ま た は 索 引 か ら 目 的 の 箇 所
項目は独立しているため、興味のあると
景︶という四章仕立ての構成である。各
名言、諸子の人物、戦いの歴史︵歴史背
学 派 の 歴 史、 主 要 人 物、 評 価 ︶、 諸 子 の
︵諸子百家とはなにか︶、諸学の概要︵諸
読 み 物 と い っ て よ い。 諸 子 百 家 の 歴 史
となっているが、内容は索引の充実した
スメの一冊である。タイトルこそ﹁事典﹂
修館書店・五六七〇円︶は初心者にオス
張 る が 江 連 隆 著﹃ 諸 子 百 家 の 事 典 ﹄︵ 大
割いて解説しているのも珍しい。隠れた
公孫龍子などにも比較的多くの紙面を
非常に優れている。墨家の墨子や名家の
古いのが難点ではあるが、入門書として
書内で紹介されている参考文献がやや
みやすい。初版が一九七八年のため、本
分けてまとめられているため非常に読
解説を敢えて軽視している。学派ごとに
でも触れているように、こうした著作物
る。森三樹三郎著﹃中国思想史
︵レ
上﹄
グルス文庫・八四〇円︶は、その前書き
いたるため記述が煩雑になりがちであ
紙面を割く。しばしば一字一句の解説に
そうした著作物を解説するのに多くの
め、 諸 子 百 家 関 連 の 書 籍 は ど う し て も、
学学派。
道
家⋮⋮小国寡民、無為自然の思想。
陰陽家⋮⋮陰陽五行説など中国古代の科
養う。
儒
家⋮⋮王 道 思 想。 礼 に よ っ て 徳 を
では名前すら出されないことも珍しく
あった儒教も、秦の天下統一と楚漢戦争
春秋戦国時代当時はマイノリティで
名著である。
は 稀 有 で あ り、 非 常 に 評 価 で き る。 こ
として採用され、その地位を確固たるも
代に至ると、王朝による統治の社会秩序
のにしてきた。中国思想を語る上でひと
︵ 項 羽 と 劉 邦 の 戦 い ︶ を 経 て、 泰 平 の 時
五 郎 編 著﹃ 史 記 の 事 典 ﹄︵ 大 修 館 書 店・
れ一冊あれば諸子百家の基本事項はす
七五六〇円︶も備えれば、先秦時代の政
べ て 網 羅 で き る。 蛇 足 で は あ る が 青 木
れている点は、一般向けの出版物として
ない農家についても漏れなく概説がさ
法
家⋮⋮法による統治を主張。
名
家⋮⋮中国史上でほとんど唯一の論
理学派。
墨
家⋮⋮博愛と非戦︵専守防衛︶思想。
縦横家⋮⋮外交戦術思想。
雑
家⋮⋮諸子百家思想の総合を目指す。
農
家⋮⋮農業を第一とする思想。
小説家⋮⋮巷間の噂話・流行を集める。
る。﹁ 聖 人 ﹂ と な っ た 孔 子 像 を 明 確 に 否
つのテーマとなるものが政治的庇護を
定した諸子百家をまとめた入門書が、浅
受けた儒教の影響を克服することであ
諸子百家はそれぞれ膨大な著作物を
治・思想・文化・制度など網羅できるの
遺している。それらが基本資料となるた
で、そちらもオススメである。
書籍は多く出版されているが、諸子百家
さて、個々の学派や人物を取り上げた
全体を扱った入門書は案外少ない。値は
−8−
していなかったという、かなりインパク
心となる教説である礼ですら十分理解
んだ産物であるとし、孔子も実はその中
るように、儒教は孔子の挫折と妄想が産
ので是非重版してほしい ! ︶にみられ
状態が続いているが非常に面白い本な
の著作である﹃儒教
ルサンチマンの宗
教 ﹄︵ 平 凡 社 新 書・ 長 ら く 出 版 社 品 切 れ
に関する著作を世に送り出している。そ
九四五円︶である。氏は多くの中国思想
野裕一著﹃諸子百家﹄
︵講談社学術文庫・
によいものである。
め、こうした著作から受ける刺激は非常
分野だけに固着すると視野が狭くなるた
いにだされることもしばしば。ひとつの
どの西洋哲学・法学思想が解説の引き合
レミー・ベンサムやトマス・ホッブスな
る。また、著者が法学者であるため、ジェ
先に挙げた二冊と比べると読み応えがあ
かりと原文が引用・参照されているため、
あった思想家たちをまとめている。しっ
イルで儒家を中心に中国古代の主流で
扱われているのは﹁ノート﹂というスタ
る。﹃マンガ孔子の思想﹄︵講談社+α 文庫・
を執った解説は、軽妙で一読の価値があ
の。中国古典に造詣が深い野末陳平が筆
湾で描かれたものを日本語に訳したも
メである。もともと、このシリーズは台
庫のマンガ中国の思想シリーズはオスス
リーズなど一般向けの入門書も多い。
るので簡単に読むことができる。図解シ
る。幸い、関連書籍も多数出版されてい
諸子百家は多くの著作物を遺してい
諸子百家たちの思想
中国思想の専門家ではないが長尾龍一
で読みやすい。
サブタイトルが表すように、記述も平易
うな、さながらキャッチコピーのような
命 家・ 孟 子 ﹂﹁ 兼 愛 の 戦 士・ 墨 子 ﹂ の よ
取 り 上 げ て 解 説 し て い る。﹁ 失 敗 し た 革
諸子百家の中から代表的な人物を十名
ブ タ イ ト ル が﹁ 受 命 な き 聖 人 ﹂ で あ る。
だ ろ う ︶。 本 書 で 孔 子 の 項 目 に 掲 げ た サ
も出している点は考慮する必要はある
著者は反儒家である墨家に関する書籍
に、新たな目標を自分自身で探し出すこ
たい人は、充実した参考文献を手がかり
に理解を深めたい・知的好奇心を満たし
代までの思想を手軽に概観できる。さら
が、上巻だけで春秋戦国時代から隋唐時
く読むことができる。下巻は未刊である
め、必要な部分だけでも挫折することな
れぞれ十頁程度でまとめあげているた
利国編﹃中国思想史
上﹄︵ぺりかん社・
三六七〇円︶である。代表的な人物をそ
の思想史を概観するのに便利なのが日原
諸子百家の時代にとどまらず、その後
非子の思想﹄
︵ 同・ 七 二 〇 円 ︶ と、 諸 子
た韓非子を取り上げた﹃マンガ孫子・韓
しめ、その政治思想に大きな影響を与え
の人物と会えたら死んでもよい﹂と言わ
と、法家思想を大成し始皇帝をして﹁こ
日本でも有名な兵家の代表格である孫子
描く﹃マンガ老荘の思想﹄
︵同・七二〇円︶
、
家の二大巨頭である老子と荘子の思想を
大学・中庸の思想﹄
︵同・七一四円︶
、道
﹃大学﹄
﹃中庸﹄を解説した﹃マンガ孟子・
亜聖︵聖人である孔子に次ぐ︶と称され
七二〇円︶を筆頭に、孔子の学統を継ぎ、
数ある入門書の中でも、講談社+α 文
ト の あ る 立 場 を 明 確 に し て い る︵ た だ、
著﹃古代中国思想ノート﹄︵慈学社出版・
とができる。
百家だけでも充実のラインナップであ
る孟子と、儒家における重要経典である
二八三五円︶も非常にコンパクトに諸学
派がまとめられている好著である。取り
−9−
世説新語の思想﹄
︵同・七三五円︶
、
﹃マン
る。諸子百家以外にも﹃マンガ菜根譚・
た墨家がないところが非常に残念ではあ
る。欲をいえば、
当時もっとも権勢を誇っ
三〇四五円︶に活き活きと描かれている。
岳南著﹃孫子兵法発掘物語﹄︵岩波書店・
史料によりひっくり返った。その顛末は
なりつつあった。しかし、これが新出土
いう人物の著作であるとする説が主流と
い。基礎史料の充実は研究の助けとなる
訳注叢書の続刊に寄せられる期待は大き
リーズをスタートさせた馬王堆出土文献
る。池田知久著﹃老子
甲本・乙本﹄︵東
方書店・六七二〇円︶を第一弾としてシ
ある。このことが、書物のハードルを高
思想には難解な専門用語がつきもので
あると便利な用語集・字引
る可能性に期待したい。
にも、研究が活性化され、謎が解明され
ため、発掘調査によって直接的・間接的
ガ禅の思想﹄
︵同・八一九円︶などがある。
コマ割りや作風︵なんとなく昭和の四コ
マ漫画を感じさせる︶は日本のものとか
なり違うため、はじめは馴染めないかも
しれないが、不思議なことにいつの間に
か身近なものに感じられてくる。どれも
入門書としてよい。
ハードルを飛び越えるためにも、あると
め て い る 大 き な 原 因 の ひ と つ だ。 そ の
孫子に限らず、従来通説とされていた
便利なものが用語集や字引類である。
遺物が発見・発掘がされている。その影
は、加速する開発に伴い、新たな遺跡・
飛躍的な経済成長を遂げている中国で
新出土史料の影響
書店・二七三〇円︶から、その様子を垣
湯浅邦弘編﹃諸子百家︿再発見﹀﹄︵岩波
り 上 げ て、 新 史 料 を 解 説 し た 浅 野 裕 一、
が購入した上博楚簡︵湖北省︶などを取
されて市場に流出したものを上海博物館
を発掘した郭店楚墓︵湖北省︶や、盗掘
中国思想専用の字引として長らく研究
限の用語知識を押さえるのに最適である。
国の思想もまとめられており、必要最低
等学校の倫理の学習参考書だ。当然、中
八〇〇円︶である。哲学・宗教を扱う高
理用語集﹄
︵ 山 川 出 版 社・ 小 寺 聡 編・
ある﹃孫子﹄という兵法書がある。実は
説を加えたものが日本でも出版されてい
ある馬王堆漢墓の出土史料も、翻訳・解
湖南省で発見された戦国時代の墳墓で
出版・六八二五円︶がある。記述は平易
は、 日 原 利 国 編﹃ 中 国 思 想 辞 典 ﹄︵ 研 文
− 10 −
絶版・希少となってしまっている名著
も 諸 子 百 家 関 連 の 書 籍 が 充 実 し て お り、
諸子百家思想の書き換えは加速してい
の受け皿となっている講談社学術文庫に
どれも一〇〇〇円台で入手できるのは非
る。一九九〇年代に、様々な未発見史料
響は諸子百家の研究にも及んでいる。例
間見ることができるだろう。
この書物の著者は謎に包まれており、長
で、項目もコンパクトにまとめられてい
らく論争が繰り広げられてきた。孫臏と
者や学生たちにも愛用されているものに
えば、現在でもビジネス書などで人気の
値段も手頃で、
意外に便利なものが﹃倫
常にありがたいことである。
『孫子兵法発掘物語』
土遺物・研究成果がアップデートされる
一九八四年とかなり古いため、最新の出
る た め、 大 変 使 い や す い が、 初 版 が
れて﹁迷い犬のようなおじさん﹂といわ
り、戦乱に巻き込まれて弟子たちとはぐ
われて包囲されたり、飢え死にしかけた
て三ヶ月も夢中になったり、悪党に間違
妹 本 で あ る﹃ 諸 子 百 家 の 事 典 ﹄ と 同 様、
館書店・五四六〇円︶は、先にあげた姉
うになる。
孔子の思想をより立体的に理解できるよ
学・思想事典﹄︵岩波書店・一四七〇〇円︶
君臨しつづけている廣松渉他編﹃岩波哲
思想・哲学に関する事典の最高峰として
て く る。 こ う し た 言 葉 を 調 べ る の に は、
など、抽象的な概念を表す用語がよくで
をいくつか紹介してみたいと思う。
い。人物・孔子にアプローチできる書籍
持っていたイメージが変わるかもしれな
人﹂像に疑問を持ってみると、これまで
く。先に挙げた浅野裕一氏のように﹁聖
間くさいエピソードが多いことに気がつ
実際に彼の生涯を紐解いてみると、人
語﹄の全登場人物集は、圧巻である。こ
ている。特に本書以外にみられない﹃論
点つきの原文︶と、充実した索引もつい
平 易 で 読 み や す い。﹃ 論 語 ﹄ の 全 文︵ 訓
ろ一般向けの印象を受けるほど、記述も
る。値段は高めだが、専門家よりもむし
読み物としても使える優れた事典であ
江 連 隆 著﹃ 論 語 と 孔 子 の 事 典 ﹄︵ 大 修
ことを待ちたい。
れたり⋮⋮。
や、溝口雄三他編﹃中国思想文化事典﹄︵東
中 国 思 想 に 頻 出 す る﹁ 道 ﹂﹁ 天 ﹂﹁ 徳 ﹂
京大学出版会・七一四〇円︶などが高い
は奇跡の類いは起こしていない。歴史書
持っていた。一方の孔子はというと、実
こしてきた。いわば人智を超えた能力を
ストやブッダなどは、数多くの奇跡を起
いが、ひとつ決定的な違いがある。キリ
大きな影響を与えたことは議論を俟たな
られることがある。彼らが世界の歴史に
として、キリストやブッダと並べて論じ
しばしば、孔子は東西の聖賢の代表格
偉大なる凡人・孔子
こ と で、 彼 ら の 思 想 と の 対 比 を 通 し て、
る立場にある老荘、韓非子も併せて読む
孔子の学統を継ぐ孟子や、儒家と対立す
い。他のマンガ中国思想シリーズ、特に
廉価な文庫本という点もポイントが高
有名な箇所も扱っている。コンパクトで
ばれる高弟たちとのエピソード、論語の
孔子の生涯だけではなく、孔門十哲と呼
ン ガ 中 国 の 思 想 シ リ ー ズ の 一 冊 で あ る。
七二〇円︶である。講談社+α 文庫のマ
﹃マンガ孔子の思想﹄︵講談社+α 文庫・
りお勧めなのが先にも挙げた蔡志忠作画
早く孔子という人物を知りたい人にやは
歴史書の現代語訳ではなく、手っ取り
としては、緑川佑介著﹃孔子の一生と論
実際の漢文に触れることができる入門書
るのにはよい。
るため、孔子という人物の生涯を概観す
おいては問題があるが、記述が平易であ
るため、歴史的事実に基づくという点に
若干、著者の憶測や推測に頼る記述があ
の一生﹄
︵栄光出版・一五七五円︶である。
ることができるのが三戸岡道夫著﹃孔子
押さえることができる好著である。
や﹃論語﹄に関する基本的な事項を全て
れ一冊さえ持っていれば孔子とその周縁
支持を受け続けている。
などに記録されている孔子の姿は﹁勉強
孔 子 と﹃ 論 語 ﹄ に つ い て 学 び な が ら、
小説を読むようにして孔子の一生を見
好きなおじさん﹂である。音楽にはまっ
− 11 −
て学んだ﹂という、ふたつの満足感・達
あるため、﹁漢文を読んだ﹂﹁孔子につい
に押さえておくべきポイントを集約して
孔子のひととなりや思想を理解するため
け 聞 く と 漢 文 の 学 習 参 考 書 の よ う だ が、
代語訳と解説という構成である。ここだ
る。書き下し文に返り点つきの原文、現
から有名な箇所を紹介する形となってい
前半が孔子の生涯、後半が﹃論語﹄の中
語 ﹄︵ 明 治 書 院・ 一 五 七 五 円 ︶ が よ い。
して重宝されているシリーズであるので
もっともスタンダードな基礎テキストと
まり、現在も続刊を世に送り続けている。
大系は、昭和三十五年の﹃論語﹄にはじ
きる、ほぼ唯一のものである。新釈漢文
一般の出版物として比較的容易に入手で
がある。現在、﹃史記﹄の原文・注釈本で、
記7 世家 下﹄︵明治書院・八一九〇円︶
欲しいという人には新釈漢文大系の﹃史
原文・書き下し文と詳細な語釈・注釈が
現代語訳だけでは物足りない、やはり
読をオススメしたい。
性格や歴史を知りたい人には是非とも一
であるので、﹃論語﹄の中身だけではなく、
は 珍 し い。﹃ 論 語 ﹄ の 履 歴 書 と い え る 本
されているが、こうしたスタイルのもの
冊である。現代語訳や解説本は多く出版
スポットを当てた書物誕生シリーズの一
にどのように読まれてきたかという点に
橋本秀美著﹃論語
心の鏡﹄︵岩波書店・
二二〇五円︶は、書物の誕生過程と、人々
読まれ続けているのであろう。
一二六〇円︶、﹃史記5 列伝1﹄︵ちくま
訳﹃史記4 世家 下﹄︵ちくま学芸文庫・
波文庫・九〇三円︶、﹃史記列伝
1﹄︵岩
波文庫・八四〇円︶や、小竹文夫・武夫
者である小川環樹訳﹃史記世家
︵岩
中﹄
物理学賞で有名な湯川秀樹の実弟で漢学
であれば文庫本のものがよい。ノーベル
かく現代語訳だけ読めればよいというの
いるので手軽に読むことができる。とに
幸い、多くの現代日本語訳が出版されて
ある孔子の言行は、私たちと同じ世界の
い。超能力者ではない、偉大なる凡人で
れほど難しいことはあまり書かれていな
である。読んでみるとわかるのだが、そ
た ﹂ と い う も の を 集 め た も の が﹃ 論 語 ﹄
ん な 会 話 を し た ﹂﹁ こ ん な こ と を な さ れ
先 生 は こ ん な こ と を お っ し ゃ っ た ﹂﹁ こ
が 集 ま り、 亡 き 師 を 偲 ん で は﹁ あ の 時、
いたものではなく、孔子の死後、弟子達
れ 続 け て い る。﹃ 論 語 ﹄ は 孔 子 自 身 が 書
毎 年、﹃ 論 語 ﹄ に 関 す る 書 籍 は 出 版 さ
孔子と弟子のエピソード集﹃論語﹄
どの本も原文、書き下し、現代語訳、解
﹃論語﹄︵岩波文庫・八八二円︶であろう。
くの人に読まれ続けているのは金谷治訳
り組んでいる。なかでももっとも長く多
何人もの高名な漢文学者が現代語訳に取
一 四 一 八 円 ︶、 宮 崎 市 定 訳﹃ 論 語
現代
語訳﹄
︵岩波現代文庫・一三六五円︶など、
人 訳﹃ 論 語 新 釈 ﹄︵ 講 談 社 学 術 文 庫・
︵講談社学術文庫・一三一三円︶、宇野哲
要 な も の を 挙 げ れ ば 加 地 伸 行 訳﹃ 論 語 ﹄
語﹄も多数出版されている。いくつか主
さて、漢文の専門家が現代語訳した﹃論
えかけ、共感を生み、二五〇〇年もの間、
成感をもたらせてくれるだろう。
信頼性も高い。
孔子に関する記録がまとめられている
学芸文庫・一二六〇円︶がある。どちら
ものである。それ故に、私たちの心に訴
歴史書といえば司馬遷の﹃史記﹄である。
の訳も安定感があり、長年読み継がれて
新釈漢文大系でも記念すべき第一巻と
説という構成となっている。
きた訳本である。
− 12 −
も 小 間 切 れ の 話 を ま と め た も の な の で、
ディアとしての地位を確立した。
﹃論語﹄
い ま や 短 文 で つ ぶ や き を 綴 る Twitter
に代表されるミニブログはひとつのメ
され続けているロングセラーである。
現在も本格的に﹃論語﹄を読む人達に愛
ため解釈が古い部分はあるが、初版以来、
い。一九六〇年に発刊されたものである
景が充実しており、情報量は圧倒的に多
のものと比べると、特に語釈・解説や背
八八二〇円︶が発刊されている。文庫本
文 庫 本︵ 講 談 社 学 術 文 庫・ 一 〇 五 〇 円 ︶
の人間くささを存分に味わえる。同書は
ングセラーを紡いだ、孔子とその弟子達
み て 欲 し い。﹃ 論 語 ﹄ と い う 世 界 的 な ロ
まった人は、是非とも本書を手にとって
ため、原文や現代語訳を前に挫折してし
されている。無理なく読むことができる
る。一九六六年に初版が出て以来、知る
語﹄を学び続けた小説家が描く物語であ
一五七五円︶である。生涯をかけて﹃論
湖 人 著﹃ 論 語 物 語 ﹄︵ ま ど か 出 版・
でみたいという人にオススメなのが下村
しまうが、小説や物語仕立てならば読ん
原文や単なる現代語訳では尻込みして
どのように影響を与えていくのだろうか。
を与えてきたのか。そして、これからは
たい。儒教は、これまでどのような影響
さて、最後に儒教について触れておき
これまでの儒教・これからの儒教
激をもらえることだろう。
きてしまったときに出会えば、新たな刺
定型化した﹃論語﹄の読み方・解釈に飽
けを読んでもかなり勉強になる。従来の
ひとつひとつのエピソードは Twitter
の
ように非常に短い。
﹁
﹃論語﹄は二五〇〇
にも収録されているが内容に大差はない
これまでの儒教と、これからの儒教⋮⋮。
気軽さという点では白眉の一冊である。
年 前 の Twitter
﹂という発想から生まれ
た現代の﹃論語﹄訳が牧野武文﹃論語なう﹄
ので、どちらを選ぶかは個々の好みでよ
し て 吉 田 賢 抗 訳﹃ 論 語 ﹄︵ 明 治 書 院・
︵マイナビ新書・八七二円︶である。もと
いだろう。
だが、わかりやすい日本語訳でブームと
語訳は﹁なう語訳﹂と呼ばれているよう
てまとめてある。こうした現代風の日本
り上げては、脱線を交えて軽妙に解説し
る。著者自身が気になるセンテンスを取
て行われた講義を書籍化したものであ
三一五〇円︶などが面白い。六回にわたっ
ば 一 海 知 義 著﹃ 論 語 語 論 ﹄︵ 藤 原 書 店・
ひとあじ違った﹃論語﹄の書籍といえ
いるためだ。その﹁幅﹂を儒教の特徴で
説としてまとめあげることを困難にして
歴史と、儒教が持つ﹁幅﹂がひとつの概
論じた概説書は意外と少ない。長すぎる
教。ところが意外にも儒教全体について
空間に大きな影響を与え続けている儒
上の時間と、日本を含む東アジアという
紀元前の中国で生まれ、二五〇〇年以
なっている﹁超訳﹂とはまた違った味が
ていく。脱線・コラムが豊富で、そこだ
人ぞ知る好著として多くの人に支持・愛
もとは﹁孔子なう﹂
︵ @KongziNow
︶とい
うアカウントで現代語訳をツイートした
ある。一見ふざけた訳にも見えるが、押
もので評判のよかったものに解説を加え
さえるべきポイントは外していないため、
− 13 −
『論語語論』
げたものが土田健次郎著﹃儒教入門﹄
︵東
論述するという困難極まりない目標を掲
あり、可能性であるとして、儒教全般を
た土田健次郎編﹃ 世紀に儒教を問う﹄︵早
解く﹂での講義・質疑をもとに編集され
孔子学院が、公開セミナー﹁儒教を読み
いるからである。しかし同時に、私たち
るのは、実際はそれが失われてしまって
多い。盛んに道徳や正義の意義が叫ばれ
教について勉強しようと考えている大学
は、是非とも手に取ってみて欲しい。儒
格的に儒教を勉強したいと考えている人
本では物足りなさを感じている人や、本
事典のような使い方もできる。ハウツー
引をうまく利用すればちょっとした儒教
通読して内容を理解した上で、巻末の索
きれば儒教の全体像は通観できる。一度、
難易度を高めてしまっているが、精読で
た参考文献・研究論文が初学者に対する
なりに骨太である。本文中に織り込まれ
タイトルは﹁入門﹂といいながらもそれ
をベースとして書かれている。そのため
講義を行ってきた。本書はその講義メモ
者は大学で長年にわたり﹁儒教概論﹂の
京大学出版会・二七三〇円︶である。著
円︶が出版されている。今後も早稲田大
二弾の書籍である永冨青地編﹃儒教
そ
の可能性﹄
︵早稲田大学出版部・三一五〇
ナー﹁儒教を読み解く﹂をもとにした第
ることができる。本書につづき公開セミ
踏み出そうとしている様子がうかがい見
たように、儒教もまた新たなステップを
イケル・サンデルが白熱教室で議論を行っ
家が意見を戦わせたように、現代ではマ
もしれない。かつて混沌の時代に諸子百
からの儒教﹂の姿を見ることができるか
と併せて読み込むことができれば、
﹁これ
度 は 高 め で あ る が、 前 掲 の﹃ 儒 教 入 門 ﹄
華なメンバーが講義を行っている。難易
儒教研究者である杜維明氏など、実に豪
成果をまとめたものであろう。世界的な
稲田大学出版部・二九九〇円︶は、その
想 ⋮⋮ 中 で も 孔 子 と﹃ 論 語 ﹄、 儒 教 を 中
のの、中国古代に花開いた諸子百家の思
今回はいささかまとまりに欠けるも
できるのである。
り所としたり、道標としたりすることが
の遺産を、自らの姿と相照らし、心の拠
とき、そして日々を生きるときに、彼ら
笑うとき、怒るとき、苦しむとき、喜ぶ
れた。私たちは、同じように、泣くとき、
して、人生で学んだことを書き遺してく
笑い、怒り、苦しみ、喜び、生きた。そ
ちと同じ人間である。同じように、泣き、
典の中から探し出すこともできる。
ントや、困難を乗り切るための指針を古
く、個人個人がよりよく生きるためのヒ
る。道徳や正義という大げさな次元でな
がそれらを求めているということでもあ
心に、関連する書籍を紹介させていただ
古典を紡いだ彼らも、今を生きる私た
生などには特にオススメしたい。儒教が
学孔子学院の活動に注目したい。
いた。拙い本稿が、人生に影響を与える
め、少しでもお手伝いができれば幸甚の
ような古典に出会うきっかけ作りのた
温故知新ではないが、先人達が遺した
極みである。 ︵ロフト名古屋店 佐藤︶
******
ど の よ う な 道 を 歩 ん で き た か。﹁ こ れ ま
での儒教﹂を知るためには最適である。
二五〇〇年もの時を経て、これから儒
の意義が再検討される昨今、儒教を再評
偉大なる遺産である古典から学ぶことは
教はどうなるのであろうか。道徳や正義
価する動きも起こっている。早稲田大学
− 14 −
21
コンピュータ
チューリングを読む
チャールズ・ペゾルド著
学習しようというひと、一度挫折してし
アンチョコを書籍化したもの。これから
ン認識と機械学習﹂読書会から生まれた
る。本書はサイボウズ・ラボの﹁パター
るとなかなか手ごわいツワモノでもあ
巻八一九〇円︶なのだが、いざ読むとな
も、貴方がプログラマならわかっている
て? し か し そ れ が い か に 難 し い こ と か
そんなことはいわれるまでもないっ
す い コ ー ド を 書 く よ う 心 が け ま し ょ う。
すいコード﹂だ。読みやすく、理解しや
タ イ ト ル を 直 訳 し て み よ う。﹁ 読 み や
本書にはその﹁読みやすいコード﹂を
はずだ。
ゲームクリエイターロングインタビュー
雑誌﹃コンティニュー﹄に掲載された
書くためのヒントが、惜しげもなく紹介
﹁チューリングマシン﹂﹁チューリング
トップページのロ
二 十 三 日 に は google
ゴがチューリングマシンへと変わった。
を加筆・修正、さらに新規取材分もくわ
一〇五〇円
まったひと。どちらの方にも、ぜひ。
暗黒通信団
テスト﹂の名はどこかで耳にしたことが
えた、熱き一冊。﹁パックマン﹂の岩谷徹、
上のユーザ同士でコミュニケー
SNS
ションしながらプレイするソーシャル
著
DeNA
を支える技術
Mobage
二五二〇円
オライリー・ジャパン
されている。
あっても、アラン・チューリング本人が
てゆけ﹂の桝田省治と、ゲーム業界の兄
﹁ゼビウス﹂の遠藤雅伸、﹁俺の屍を越え
ゲームの流儀
どんな人物だったか、くわしく知る人は
まだ五年しか経っていないというのだか
二九一九円
− 15 −
井田哲雄他訳
今年はアラン・チュー
リ ン グ 生 誕 一 ○ ○ 年。 誕 生 日 の 六 月
多くないだろう。彼の来歴を追いながら、
ゲーム。急成長を続ける分野だが、日本
ら、驚くほかない。
で は じ め て 提 供 さ れ た の は 二 ○ ○ 七 年、
ず、ゲーマー諸氏は必読すべし。
ライトなプレイにヘビーなトラ
フ ィ ッ ク。 ゲ ー ム と い う 体 験・ ビ ジ ネ
スを根底から覆したソーシャルゲーム
二三一〇円
リーダブルコード
技術評論社
は、 ど ん な 技 術 に よ っ て 支 え ら れ て い
より良いコードを書くための
シンプルで実践的なテクニック
・ Trevor Foucher
著
Dustin Boswell
るのか。
太田出版
ゲームの、その舞台裏。元・現役を問わ
あのころぼくらが夢中でやったあの
貴たちが当時をふりかえる。
三一五〇円
その業績をわかりやすく紹介している。
日経BP社
パターン認識と機械学習の学習
ベイズ理論に挫折しないための数学
機 械 学 習 ﹄︵ 丸 善・ 上 巻 六 八 二 五 円、 下
として挙げられるのが﹃パターン認識と
に利用されている機械学習。定番教科書
自動レコメンド機能など、様々な分野
光成滋生著
コンピュータ
興味深かったが、意外にも﹁伊東さんの
建築の中に入るとほっとします﹂と中沢
氏。宗教建築は、自然と近いような、全
一三六五円
分楽しく過ごしているだろう。
飛鳥新社
気象を操作したいと
願った人間の歴史
ジェイムズ・ロジャー・フレミング著
自 然 科 学
く対極にあるような不思議なものが多い
ているようだ。途中、建築史家・藤森照
ので、その辺りの共通点に、好意を感じ
星座がもっと見たくなる
鬼澤
忍訳
み、 様 々 な 試 み が 繰 り 返 さ れ た。 し か
進んだ科学技術は気候エンジニアを生
人 間 が 気 象 を 支 配 す る 時 代 の 到 来。
信も参加し、二人の言葉をつないでより
一八九〇円
家の中でのかくれんぼでもスキマをたく
ば 子 ど も の 頃 は 体 の 小 さ さ を 活 か し て、
キマを見つけるかが重要なのだが、思え
秘密基地を作る上で、いかに日常にス
ず、雹やハリケーンを撃つ大砲は北京五
降雨のための﹁雲の種まき﹂のみなら
師を科学史家として冷静に分析する。
に先立つ無数の夢想家・敗北者・ぺてん
られない滑稽な英雄たち、現代の科学者
言された目標からはほど遠い成果しか得
著者は気象に立ち向かう人々を批判的
し、⋮⋮。
介されている。お馴染みの十二星座から
さん見つけて隠れたものだ。押し入れに
輪での雲砲撃のように今も健在だ。温暖
に捉える。人類の救済を標榜しながら商
紹介されているので、自分の星座の神話
ただ入るだけではすぐ見つかるので、中
化を解決する地球工学の空想、妄想が地
業的・軍事的側面を持つことが多く、公
から調べてみてもいい。表紙のカバーを
の布団の間に潜り込んで外から見えない
球汚染を続ける口実になっているという
尾方孝弘著
のりたけイラスト
タイトル通り内容は秘密基地の作り方
めくると中にはあの動物が隠れている。
ように・間に挟まってるのがバレないよ
事実に絶望する。この闇を晴らす技術は
のオンパレード !
秘密基地の作り方
筑摩書房
おもしろい対談となっている。
星座の物語と見つけ方
駒井仁南子著
高橋ユミ挿絵
カラフルな星が表紙のかわいい本に目
を奪われる。好評既刊﹃星空がもっと好
きになる﹄︵誠文堂新光社・一四七〇円︶
の著者、駒井仁南子さんの最新刊。
星座にまつわる物語と季節の星座の物
一四七〇円
うに布団もピッタリくっつけるなど完璧
語が、見開きでかわいい挿絵とともに紹
建築の大転換
に隠れるように工夫していた。家の中だ
誰も生み出し得まい。
学者の中沢新一の建築対談。
建築家・伊東豊雄と、宗教学者・人類
誠文堂新光社
伊東豊雄・中沢新一著
けでも基地になるスキマがあっちこっち
三三六〇円
伊東豊雄の建築は近未来的なものが多
あることに気付ける人ならば、普段も多
紀伊國屋書店
いので、宗教学者はそれをどう見るのか
− 16 −
自然科学
医
学
精神疾患の脳科学講義
クルマ社会において無くなることのない
交通事故。そして日々増え続ける交通事
故 被 害 者 と そ の 家 族。 身 体 的、 精 神 的、
一八九〇円
これから解剖学を学ぶ方にも最適な一冊。
エヌ・ティー・エス
.大島一太の
7日でわかる心不全
心臓の働きが不十分な結果起きた体の状
る 心 不 全 患 者。 心 不 全 は 病 名 で は な く、
高齢化や生活習慣病により増加してい
大島一太著
助事例等を紹介、執筆者や編者である協
態をあらわす症候名。急性心不全は、迅
書
社会的に大きなダメージを受けた被害者
に、医療ソーシャルワーカーはどう関わ
り、何をすべきか。本書では交通事故に
精神疾患の原因・症状と脳の間には密
会がこの一冊に込めた気持ちまで伝わっ
速な対応が生死の鍵を握る。放置してい
よる障害の基礎知識、法律に関して、援
接な関係があることは事実であるが、﹁脳
てきそうな、良質なテキストに仕上がっ
功刀
浩著
科学﹂や﹁神経科学﹂だけで精神疾患を
る と 命 の 危 険 性 も 出 て く る 慢 性 心 不 全。
ている。
二一〇〇円
捉えることは不可能である。しかし精神
疾患を脳科学で考えるのは無意味ではな
経過は様々である。本書は、心不全の種
心不全となる病気は複雑で、原因・病態・
類・診断・検査・治療について明瞭に解
晃洋書房
骨肉腱え問
く、近年長足の進歩著しいこれらの分野
によって、精神疾患についてもずいぶん
好評のNTS﹃骨単﹄
﹃肉単﹄単シリー
この1冊で極める不明熱の診断学
説する。豊富な臨床経験に基づいた一冊。
解剖学問題集︹運動器編︺
ズの問題集。解剖学は、膨大な用語、紛
不明熱。ただ熱があるだけなのか、は
安部みき子他著
と﹁部分的﹂に明らかになっている。高
﹁ 金 閣 寺 炎 上 僧 ﹂ の 発 病 過 程、 生 活 習 慣
らわしい言葉、難しい漢字などで苦手に
次 脳 機 能 障 害 と し て 捉 え た 統 合 失 調 症、
の 観 点 か ら み た 最 新 の 精 神 栄 養 学 ︱︱。
している人が多い。単に丸暗記するので
二八〇〇円
医学・脳科学〝非〟専門家による全十二
日総研出版
回︵十二章︶の講義は、どれも読み易く、
たまた他に α
+ の 症 状 が あ る の か。 こ
の患者さんをこのまま帰してしまって良
理解していくことが重要である。本書は、
﹁ 不 明 ﹂ で 思 考 停 止 す る 前 に、 よ ー く
いのか?
はなく、自分の体の構造を理論的に捉え
三一五〇円
最も理解しにくい運動器編の問題集。難
読んで、ボロボロになるまで使って頂き
易度別、色塗り問題など多種多様な出題
形式で楽しく学習できる様に工夫されて
たい一冊。
文光堂
四二〇〇円
いる。解剖学の理解度を確認したい方や
− 17 −
Dr
読み応えのあるものになっている。
金剛出版
交通事故被害者の生活支援
近年減少の傾向があるものの、現代の
日本医療社会福祉協会編
医学書
社 会 科 学
日本の地域間格差
橘木俊詔・浦川邦夫著
経 済 学 者 で あ る 両 名 が、 現 代 日 本 の
な経済不況を終わらせるためにはどう
クルーグマンの新著は現在の世界的
こ の 問 題。 解 決 は 困 難 だ が、 諸 外 国 を
つもの原因が複合的に絡み合い生じた
済 の グ ロ ー バ ル 化 や 東 日 本 大 震 災、 幾
容。バブル崩壊やリーマンショック、経
東京と地方の格差を浮き彫りにした内
こ十数年の間に急速に進んでしまった
済成長をすることがかけ離れていること
べながら、幸せに地域で暮らすことと経
地域を事例に都道府県の経済統計を見比
いう意図を打ち出している。
との関係を、地域の視点から見直そうと
イナーとの対談である。経済成長と幸せ
藻谷浩介・山崎
亮著
地域経済の専門家とコミュニティデザ
藻谷浩介さん、
経済成長がなければ
僕たちは幸せに
なれないのでしょうか?
す れ ば い い の か、 と い う テ ー マ。 と は
参考に富士山型ではなく、多極型の八ヶ
東 京 一 極 集 中 構 造 に 挑 む。 大 規 模 な ア
い っ て も、 主 に ア メ リ カ 経 済 の 政 策 に
岳方式という道筋を提言してくれてい
ンケート調査や様々な統計をもとに、こ
つ い て の 考 察 で あ る が、 本 書 の 主 張 は
る。 道 州 制 と も 関 連 が あ り、 地 味 だ が
さっさと不況を終わらせろ
実 に 明 快 だ。 つ ま り、 も っ と 政 府 支 出
ポール・クルーグマン著
を 増 や す べ き だ と い う こ と。 そ れ が 雇
貴重な良書。
一四七〇円
条件に現金給付を行う社会保障政策で
べての人に最低限の所得保障として、無
ベーシックインカム︵BI︶とは、す
萱野稔人編著
﹁競争﹂と﹁平等﹂のセーフティーネット
ベーシックインカムは
究極の社会保障か
学芸出版社
題し、豊かな文化の形成を提唱している。
の節目という面白い時を生きている﹂と
そして、エピローグを﹁僕たちは時代
を指摘している。
島根県海士町や鹿児島などの具体的な
用を創出し完全雇用へ繋がるというこ
日本評論社
二六二五円
と だ。 オ バ マ 政 権 の 失 敗 は、 そ う し た
財政拡大政策を効果が上がらないうち
に 止 め て し ま い、 財 政 赤 字 を 気 に し て
構造改革に目を向けてしまったことだ
と述べる。
﹁この不況はとてもすばやく終えられ
るし、そうすべき﹂本当にそんなことが
可能なのか? ケインズ理論を軸に、テ
一七八五円
ンポの良い主張が展開される。
早川書房
− 18 −
社会科学
た 雑 誌﹃ POSSE vol.8
﹄ のB I 特 集 が 加
筆 修 正 さ れ ま と め ら れ た も の だ。 B I
あ る。 本 書 は、 二 〇 一 〇 年 に 発 売 さ れ
みごたえがある。
トと関連が深いと論じたりしていて、読
下流意識の高まりが﹁もしドラ﹂のヒッ
人が非正規雇用になった現実と、人々の
てくれる。豪快なキャラクターと関西弁
な質問︵悩み相談︶にも必ず即座に答え
はポジティブで、とてもシンプル。どん
そんな彼の、人生を変える二十五の教え
での独特な言い回しもあいまって、人々
も人も金も集まってきて、まさにカリス
を魅了する兄貴のまわりには、自然と物
マ的存在だ。内容がほぼ実話というのも
二三一〇円
良い戦略、悪い戦略
海鳥社
の 概 説 か ら 始 ま り、 前 半 は 導 入 賛 成 派
の 論 者 の 論 考、 後 半 は 反 対 派 の 論 考 が
リチャード・P・ルメルト著
掲載されている。BIを実現すれば、他
の 社 会 保 障 や 雇 用、 格 差 問 題 な ど に ポ
著 者 は 戦 略 論 の 第 一 人 者 で あ り、 本 書
一六八〇円
ジティブな影響があるかのような議論
凄い。
は 一 般 向 け に 書 か れ た も の と し て は、
世界一を獲った富士通の流儀
挑む力
日 本 で の 知 名 度 は あ ま り 高 く な い が、
準 の 主 張 が あ る。 本 書 の よ う な 構 成 で
I の 議 論 に は、 多 様 な 視 点、 多 様 な 水
初めての著作である。大勢の人が﹁戦略﹂
に は 疑 問 を 禁 じ 得 な い が、 そ も そ も B
あ れ ば、 そ れ を 比 較 し な が ら 検 討 す る
と称するものは単なる目標設定である
離 し て い る。 良 い 戦 略 と は、﹁ 何 を や る
の 日 本 企 業﹁ 富 士 通 ﹂。 本 書 は、 富 士 通
信技術︶サービスにおいては世界最大級
片瀬京子・田島
篤共著
社会インフラを支えるICT︵情報通
− 19 −
ダイヤモンド社
ことも容易だ。
か﹂を示すだけでなく、
﹁なぜやるのか﹂
のスーパーコンピューター﹁京﹂をはじ
こ と が 多 く、 本 物 の﹁ 良 い 戦 略 ﹂ と 乖
﹁ ど う や る の か ﹂ を 示 す も の で あ る。 本
めとする八つのプロジェクトのリー
一六八〇円
書 は、 良 い 戦 略 と 悪 い 戦 略 の 違 い を 示
ダーたちへのインタヴュー集である。そ
堀之内出版
し、 良 い 戦 略 を 立 て る 手 助 け を し て く
﹁もしドラ﹂現象を読む
江上
哲著
著者はマーケティングが専門の大学教
れる。
れる。
日経BP社
一四七〇円
界を変える原動力になることが期待さ
る﹁挑む力﹂であり、日本を、そして世
こから見出せるのは、挑戦して成し遂げ
授。売上げ二百万部のベストセラー﹃も
二一〇〇円
一転、
バリで大富豪に成りあがった兄貴。
貧乏で苦労した大阪での幼少時代から
兄貴︵丸尾孝俊︶著
大富豪アニキの教え
日本経済新聞出版社
し高校野球の女子マネージャーがドラッ
カーの﹃マネジメント﹄を読んだら﹄を
批判した大胆な一冊。約六割が三十代以
下の読者層だった﹁もしドラ﹂は、若い
容だと分析している。労働者の三人に一
人間関係の希薄化等に悪影響を及ぼす内
彼 ら の 学 習 へ の 取 り 組 み 方 や 階 層 意 識、
社会科学
人 文 科 学
関祖衡の軌跡
笠井一弘著
江戸時代の地誌学者・関祖衡は、著者・
成立時代ともに不詳とされる地誌﹁人国
レオンという人物が有力だという。ミュ
については諸説あるが、モーゼス・デ・
ムードと並ぶ宗教書とされている。作者
なったのは明治以降のこと。過去をひも
が、 一 般 の 民 家 に 瓦 が 葺 か れ る よ う に
ことは、今となってはごく普通のことだ
る。一軒家を建てる際、屋根に瓦を葺く
山崎信二著
本書は、瓦の歴史を追っ
た世にも珍しい瓦についての研究書であ
瓦が語る日本史
ラーによる﹁ゾーハル﹂の解説も併録さ
とくと、瓦は仏堂や城といった公的に重
主義︵カバラー︶において中心的書物で
れており、カバラーの源流について知り
要とされる建物にしか葺かれなかったと
あり、カバリストにとっては聖書やタル
たい読者にとってはうってつけの一冊。
吉川弘文館
が語る瓦と日本の歴史。
三三六〇円
いう。瓦を見れば日本が見える。瓦博士
五六七〇円
イエスはいかにして
神となったか
法政大学出版会
フレデリック・ルノワール著
記﹂を要約し、それに国別で人情・風俗・
人国記﹂を刊行する。関祖衡は並河誠所
地理などを加え、リメイク版として﹁新
や 河 合 曾 良 と も 交 流 が あ っ た ら し い が、
三位一体論や両性説の成立を経て、次
が山積みしていて、何かと暗い話題が目
教育の豊かさ
学校のチカラ
第に信仰の対象となったイエス。イエス
立つ。本書で著者は、学校や教育のあり
谷口きみ子訳
い。あらゆる史料を丁寧に読み込み、め
の生涯や彼を取りまく世界情勢を背景
その人物像は未だ明らかになっていな
くるめく論理を展開。歴史書か、はたま
に、神とイエスの関係を論じた一冊。
番組の司会や執筆活動を行うベストセ
の宗教誌の編集長を勤める傍ら、ラジオ
著者であるルノワール氏は、フランス
つか紹介することで、あえて可能性を示
と真剣に向き合っている教育現場をいく
ポリシーを貫き、児童生徒ひとりひとり
方を批判するのではなく、取材によって、
現在、日本の学校教育には多くの問題
た推理小説か。今まで誰も書き得なかっ
瀬川正仁著
た、謎解き関祖衡。
ラー作家である。日本でも今年六月から
神戸新聞総合出版センター
ゾーハル
そうとしている。健康学園・児童自立支
一六八〇円
カバラーの聖典
岩波書店
一七八五円
ち返る教師達は、生徒の目を輝かせる。
援施設、夜間中学等で、教育の原点に立
二七三〇円
七 月 に か け 三 冊 が 邦 訳 刊 行 さ れ る な ど、
春秋社
勢いのあるルノワール、注目の新刊。
エルンスト・ミュラー編訳
石丸昭二訳
十三世紀、スペインにおいて出現した
伝 承 テ キ ス ト﹁ ゾ ー ハ ル ﹂。 ユ ダ ヤ 神 秘
− 20 −
人文科学
のではないかと想像してしまう。
通勤電車に乗り、気になることがあれば
色だが。ごく一般的な社会人と変わらず、
家のハイブリッドワーカーという点は異
日常が綴られている。昼はOL、夜は作
宰治の﹃人間失格﹄が私のことと多くの
語に漂うものに私は共感してしまう。太
はっきりとしたものではないのだが、物
たい。特に誰に共感するとかそういった
ら感じられるのは、共感であると断言し
無慈悲だったりするが、それでもそこか
そ ん な 物 語 は と き に 残 酷 で、 悲 惨 で、
とだろう。
インターネットで検索し、有給取れない
人が感じるように、きっとこの物語も自
しかし、このエッセイには実に平凡な
な ぁ、 と つ ぶ や く。﹁ 普 通 ﹂ の 積 み 重 ね
分の物語として読む人が多いのではない
文学・文芸
ひと癖ある店主たちが変わったものを
のエッセイでありながら、著者の小説の
かなと思う。そうであってほしい。それ
小川洋子著
最果てアーケード
扱う店が集った小さなアーケードと、そ
﹁リアルさ﹂の源が書かれていると強く
一三六五円
くらいこの物語が自分の分身のように大
の大家である少女のお話。
﹁死﹂のにおい
一五七五円
感じさせられる。
講談社
好きだ。
新潮社
囲気が漂うが、読んでみるとその奥底に
語の筋だけみるとミステリーのような雰
調べどんどん引き込まれていく。と、物
た。主人公の﹁僕﹂はその事件のことを
入りになった一家殺人事件の遺児であっ
がいていいのか、いやもうもはやドイル
るオススメ作品 ! こんなにバカな探偵
ティーシュが出たが、これは本気で笑え
映画﹁シャーロック・ホームズ
シャ
ドウゲーム﹂公開に合わせて数あるパス
平山雄一訳
エリス・パーカー・バトラー著
通信教育探偵ファイロ・ガッブ
は普段決して人前に晒されることのない
は関係なくユーモア小説の極みとして読
やりたいことは二度寝だけ
津村記久子著
− 21 −
がするのだけれど、とてもやさしい想い
を伝える物語たち。漫画の原作として書
迷宮
き下ろされた物語だが、小川洋子さんの
言葉だけで味わう分、コミック版とはま
中村文則著
一五七五円
コミック版の方もあわせて読んでほしい。
人間の深く暗い闇がこれでもかというく
ある女性と知り合い、その女性は迷宮
た違った魅力がある。まだ新人である漫
作家という職業のイメージは、人それ
ら い 存 在 し て い る。 ミ ス テ リ ー か と お
画家・有永イネさんの才能が感じられる
ぞれではあると思うが、少なくとも﹃庶
講談社
民的﹄ではないと思う。まして芥川賞作
二四一五円
んで頂きたい一冊である。
国書刊行会
もって読んでいたら、きっと最終的に全
く違うところへ連れていかれてしまうこ
家 と も な れ ば、﹁ 先 生 ﹂ と ま わ り か ら 呼
ばれ、そこそこ派手な生活を送っている
文学 ・ 文芸
い不法占拠でもしてそうに思ってしまう
世界は謎に包まれている。ついつい怪し
て陰惨すぎるのだが、ちょっとハードな
には大興奮 ! 現実にあったら恐ろしく
戦前のガード下は個性も様々。新橋や
が強いのだが、新人作家さんとしては十
オススメだ。若干エンターティメント性
いる。間違いなく最近の若手では一番の
文庫・新書
ミステリー好きにはたまらない。
ドビュッシーが万人ウケなら確実にこ
が、無論きちんとした不動産物件で所有
有楽町にあの立派過ぎる旧万世橋駅の高
分な満足感を得られる。良いミステリー
の作品はミステリー好きウケである。ス
者は鉄道会社。番地もちゃんと付いてい
架橋は煉瓦好きが耽溺する逸物だ。ただ
作家最近いないよね、なんて言ってる方、
ピード感にあふれ、後一ページ⋮⋮と思
巨大建造物としてのダムを﹁鑑賞﹂す
し 後 者 は 上 に 高 層 ビ ル を 建 築 中 で、
て橋脚に団地のように番号が振ってあ
るための写真集が文庫化された。﹃ダム﹄
二 〇 一 二 年 春 現 在 見 る こ と は 叶 わ な い。
一読の価値あり !
る。そこは店舗や事務所、住宅を始め倉
は 東 日 本、﹃ ダ ム2﹄ は 西 日 本 の ダ ム を
高度成長後ウラ町転じてホテルや保育
いつつ気付けば最後まで読んでしまって
紹介している。ダムのデザインにはふた
園、銭湯にアトリエなど明るいオモテ化
シャーロック・ホームズ最強クイズ
ダム
ダム2
つとして同じものはない、と著者は言う。
が 図 ら れ た。﹃ 高 架 下 建 築 ﹄︵ 洋 泉 社・
庫や駐車・駐輪場など用途も様々だ。
まずダムに﹁デザイン﹂がある、という
一五七五円︶ともども連れてアンダーグ
萩原雅紀著
ことが驚きだったのだが、解説を読みな
ジョン・ワトスン著
クイズが出され
るとどうしても解きたくなるのが人間の
六三〇円
がらそれぞれのダムの写真を見ると、な
ラウンドに足を踏み入れ﹁上を向いて歩
宝島社文庫
んとダムとは個性的であるのだろうとい
スン博士の推理力を鍛えるために出され
八一九円
うことに気づく。
性。それがあの名探偵シャーロック・ホー
た、という設定の推理力を試される数々
ムズから出されるとなると尚更だ。ワト
の難問・珍問が繰り出される。数学や英
各七三〇円
こう﹂。
祥伝社新書
MF文庫
﹃さよならドビュッシー﹄︵宝島社文庫・
中山七里著
国に関する知識を問われるものまでタイ
連続殺人鬼カエル男
五九〇円︶という大傑作で﹁このミステ
小林一郎著
鉄道と都市の近代史
リーがすごい ! ﹂大賞に輝いた中山七
プは色々。どれくらい解けるかな?
﹁ガード下﹂の誕生
ガード下。何て昭和歌謡な響きだろう。
里 さ ん が、 同 じ 賞 に こ の 作 品 で も 応 募。
七六〇円
オッサンの屯する赤提灯がすぐ思い浮か
前人未到のどちらも最終選考に残る筆力
扶桑社ミステリー
ぶが、あの騒音と振動の中猥雑に生きる
− 22 −
文庫・新書
芸
術
ザ・ローリングストーンズ
今現在世界中を覆っているポップカル
プの時代﹂が一体何だったのか、そして
語の光景の数々は、二十世紀という﹁ポッ
常の光景の中に浮かぶ﹁浮遊少女﹂の姿
して切り取りたかったのではないか。日
上がる﹂瞬間を、具体的なビジュアルと
われた私達が、生活の中で一瞬﹁浮かび
二三一〇円
それを踏まえたこれからの二十一世紀が
青幻舎
し絵であるかのようだ。
一体どういうものになるのかということ
四六二〇円
は、想像力に希望を託す私達自身のうつ
ヤマハミュージックメディア
を、それを観る私達に考えさせてくれる。
バットモービル大全
チャーの殆どが、一九六〇年代にその基
礎を形作られたと言っても過言では無い。
化が、イギリスやアメリカから次々と送り
ラン︵悪役︶達を相手に、過去に傷を抱
暗雲渦巻くゴッサム・シティに蔓延るヴィ
永 遠 の ダ ー ク ヒ ー ロ ー、 バ ッ ト マ ン。
マーク・コッタ・ヴァズ著
出 さ れ、世 界 中 の 若 者 た ち の 心 を 虜 に し
ローとして、今現在も絶大な人気を誇る
翳りを持った異色のアメリカン・ヒー
えた闇の英雄として、彼は戦い続ける。
新しい世代によって生み出された消費文
ファッション、映画、アート、そして音楽。
本日の浮遊
た。そして、ポップカルチャーの中核たる
位置を占める﹁ロック・ミュージック﹂の
代表格としてビートルズらと共に登場し、
このキャラクターの愛車である﹁バット・
モービル﹂について、マニアックにまと
今なお現役のバンドとして活躍し続けて
めた一冊が、この﹃バットモービル大全﹄。
点での最新の映画版であるクリスト
林ナツミ著
私達は、常に﹁浮かんで
いる﹂ことはできない。物理的にも、精
ファー・ノーラン監督﹁ダークナイト・
い る 超 人 的 な グ ル ー プ が、 言 わ ず と 知 れ
がら、日々の人生を辿り続けている。た
ライジング﹂に登場するヴァージョンま
オリジナルであるコミック版から、現時
だ同時に、想像の世界の中では、誰もが
で、徹底的に蒐集・網羅されたデータに
神的にも、この世界には﹁重力﹂という
現在に至るまでの彼らの姿を収めた写真
空中に﹁浮かぶ﹂ことができる。だから
ものが、ある。誰もが地面に足をつけな
が、大量に収録されている。これ一冊で、
我々は本を読み、映画を観て、音楽を聴
本書には、六〇年代のデビュー当時から
五十年間にわたる彼らの歴史を、ビジュア
たこのローリング・ストーンズである。
ル的に総ざらいすることができると言える
三一五〇円
圧倒される。
小学館集英社プロダクション
き、そして写真を鑑賞する。
だ ろ う。 ロ ッ ク の、 そ し て ポ ッ プ カ ル
林ナツミは、そのように﹁重力﹂に捉
− 23 −
50
チャーの生き証人である彼らの歴史と物
芸術
いいことづくしのお酢レシピ
前沢リカ著
この酢豚に惚れた。黒酢による深い色
装備・各種補給物資の流れ全体を司るこ
の兵站業務にスポットライトを当てたの
てから流し込むビールは美味であるに違
男気が溢れる酢豚。この酢豚をほおばっ
プルなんて入ってない。シンプルで潔い、
が違ってくる。軍事活動のビジネスライ
択肢があり、それぞれのコストとリスク
にプールさせるのか、といった様々な選
に基地を作り、補給が必要な機体をそこ
も、前線まで輸送するのか、いっそ新た
例えば燃料の補給ひとつ取ってみて
が本書である。
いない。前沢氏は下北沢で和食料理店﹁七
クなところに気づかせてくれる好著。
実
用
書
地図・旅行書
ロンドントレジャーハント
草 ﹂ を 営 む。﹁ 野 菜 は お い し い。 野 菜 は
と照り具合。具は豚ロースのみ、パイナッ
&ロンドンからの小さな旅
美 し い。﹂ と い う 思 い と 日 本 料 理 の﹁ 五
小出真朱と @wondernunothc
マンガ家の著者による、寝ている娘さ
ロンドンオリンピックも開催され、イ
楠本まき著
ギリス本発売ラッシュな中、マニアック
味五色五法﹂の考え方とで氏の料理は作
ん を 基 に し た﹁ 寝 ぞ う ア ー ト ﹂。 ツ イ ッ
ねぞうアートの本
お酢をほどよく使ったレシピの数々。サ
ターにアップされていたものが一冊にま
二四一五円
なロンドンガイドが発売された。著者は
られる。前沢氏のプライベートレシピを
潮書房光人社
東京とロンドンの二都暮らしをしている
収録した書。
ラダ、カポナータ、スペアリブと干しい
とまった。
食欲が減退しがちなこの季節に最適な、
漫画家の楠本まきさん。ロンドンを知り
が始まる。いつも鞄に入っているカメラ
ちじくの煮込み、ちまき、さくらんぼの
つくした彼女だからできる素敵な宝探し
やスケッチブックに描かれたイラストや
ピクルス、そして酢豚。是非ご賞味あれ。
ぶんか社
一二〇〇円
ので、ぜひ試して頂きたい。
ていて、楽しくなる。コツも載っている
が驚き。どの作品も温かい目線で作られ
りのものと娘さんだけで作られているの
る日は酒場で腕ずもう⋮⋮すべて身の回
まう写真ばかり。ある日は画伯、またあ
ページをめくれば思わずふきだしてし
淡々とした文章が心地良い。ガイドだけ
一〇五〇円
ることのない﹁兵站﹂という概念。人員・
部隊の華々しさに比べてあまり注目され
ミリタリーという分野において、戦闘
井上孝司著
現代ミリタリー・
ロジスティクス入門
成美堂出版
ではなくお薦めのイギリス映画やアフタ
ヌーン・ティーの説明も載っている。ロ
ンドンへ行く予定が無い人にも是非読ん
Z﹄
でもらいたい。ベーシックなロンドンを
一八九〇円
旅したい方には前作﹃ロンドンA
もお薦め。
祥伝社
to
− 24 −
実用書/地図・旅行書
語学・辞典
自分の知らない国の言葉であれば、詩的に
と上手く表現したいという悩みをお持ちの
一七八五円
方にお勧めの一冊。
英語ビジネスコミュニケーション術
異文化摩擦を解消する
ベレ出版
聞こえることもあるかもしれない。著者は
このことを﹁登場人物の言葉や声を体験す
る﹂と書いている。
この本では﹁ベルリン・天使の詩﹂や﹁ブ
ニケーションがとれないという人は意外と
リキの太鼓﹂など現代ドイツ映画を代表す
いくつかの台詞、作品の背景を解説してい
多いのではないだろうか。その大きな原因
英語でドラマを楽しもう !
英語でドラマ、といえばお馴染みのテレ
る。それは﹁言葉﹂に絞って映画をより深
として、相手の言語文化に対する理解不全
英語は話せるのに外国人と上手くコミュ
ビドラマが第一に挙げられるが、こちらは
く理解していくアプローチである。未見の
が挙げられる。言語は相手の立場や状況に
山久瀬洋二、アンセル・シンプソン著
なんとラジオドラマ。カナダで実際に放送
作品を観たくなるのはもちろんのこと、す
応 じ て 使 い 分 け ら れ る べ き ツ ー ル で あ り、
る三十本を取り上げ、各作品のストーリー、
さ れ た コ メ デ ィ で、 当 然 映 像 も な け れ ば、
でに観た作品もまた見直したくなるだろう。
文法や表現、日常の動作や状態、感想や印
具体的には、文の組み立て方から始まり、
不慣れでも、外国人との誤解なき信頼関係
心構えを身につけることで、たとえ英語に
知り、日本人だからこそ注意すべき言動や
本 書 は、 単 に ビ ジ ネ ス で 使 え る 英 語 フ
象を表現する仕方など。巻末には中国人が
アイビーシーパブリッシング 一四七〇円
を築くことができるだろう。
書 い た 五、六 行 の 日 記 が 例 と し て 掲 げ ら れ
ている。会話で自分の言いたいことをもっ
− 25 −
HMアーカイブ編集部︵企画・構成︶
小説の朗読でもないので地の文もない。会
言えることだけで無理に伝えようとして
も、相手にしてみれば表面だけは自分たち
の言葉で話しているが、全く状況に合って
いない表現や態度として映り、意図せぬ戸
大学で一∼二年学んだ初中級者を対象とし
レ ー ズ を 紹 介 す る だ け で は な く、 実 践 的 な
中 国 語 を 半 年 く ら い 学 ん だ 入 門 者 か ら、
下出宣子・王
凌著
日記を書いて身につける中国語
東洋書店
一九九五円
話だけを聴いて場の状況や人物の立場を把
握しなければならないのだが、ニュースの
よ う に 起 承 転 結 が 明 確 で は な く、 話 の 大 筋
を外れたやりとりも頻出するので、聞き流
英語を後戻りせずに理解できなければなら
ている。日々の行動をメモするところから
英語圏的コミュニケーション術を伝授して
してストーリーを追うには、聴こえてきた
ない。相当手ごわい教材なのだが、時事英
始めて、経験を通して得られた印象や考え
くれる。ネイティブにとっての当たり前を
惑いを増やすばかりなのだ。
語やDJ のトークには飽きてしまったとい
げていく構成となっている。
を簡潔に書けるよう、表現の幅を徐々に広
一七六四円
う方は、ぜひ挑戦してみてほしい。
アルク
映画に学ぶドイツ語
に残っていることはないだろうか。それが
山口裕之著
映画を見て、それを後で思
い返す時、その映画の台詞の音の感触が耳
語学・辞典
児
童
書
る日は、アーヤは選ばれないよう、寄り
海を渡ったサムライ魂
ジョン万次郎
アーヤは魔女に、手が足りないからとこ
の十年ほどを中心に描いています。万次
して生活した後、日本に帰ってくるまで
漂流し、アメリカで﹁ジョン・マン﹂と
か の 有 名 な ジ ョ ン 万 次 郎 の 物 語 で す。
マーギー・プロイス著
目 を し て 変 な 顔 を し て い ま し た。 し か
し、今回は風変わりなふたりがアーヤを
きつかわれます。それでもアーヤは知恵
郎の人一倍強い好奇心と物怖じしない性
選 ん で 連 れ て 帰 り ま す。 魔 女 で し た。
と忍耐で魔女と対決。楽しい生活を手に
!
おーなみ
こなみ
ざぶん
長野ヒデ子作
格は、彼の運命を切り開いていきました。
万次郎の﹁冒険﹂は、まさに﹁事実は小
一八九〇円
元気でいっぱいおてんば少女の乙葉
一七八五円
します。
空へのぼる
徳間書店
西村繁男絵
絵本作家長野ヒデ子のうたあそびえほ
んシリーズの最新刊。
説よりも奇なり﹂です。
は、 学 校 で の﹁ い の ち の 授 業 ﹂ で い の
集英社
辺ではしゃぐ姿が画面いっぱいに広がり
シャーム/バーイー/ウルヴェーティ
八束澄子著
ます。夏休みの思い出がぎゅっとつまっ
ち の 誕 生 の 不 思 議 さ や 尊 さ を 学 び ま す。
青木恵都訳
﹁おーなみ
こなみ﹂のうたに合わせ
て、真っ黒に日焼けした子どもたちが海
た絵本です。ぜひ口ずさみながら楽しん
そ の 矢 先、 姉・ 桐 子 の 妊 娠 が 発 覚。 過
でずっと胸に秘めていた思いと正面か
れが自分の生まれてきた意味やこれま
家によって描かれた様々な精霊の木は
新鮮にうつりました。ゴンド族出身の画
ような木は想像したこともなく、とても
する精霊の宿る木。文化の違いか、この
インドのゴンド族の昔ばなしに登場
夜の木
でもらいたいです。
ら 向 き 合 う こ と に な り ま す。 泣 い た り、
見慣れない異様な形の枝や根を繊細な
去 に 両 親 に 捨 て ら れ た 姉 妹 は、 そ れ ぞ
笑ったり、ケンカしたり、支えあったり、
一三六五円
ダイアナ・ウィン・ジョーンズ作
不器用に一生懸命力いっぱい生きてい
佼成出版社
田中薫子訳
アーヤと魔女
佐竹美保絵
二九四〇円
線で表現されています。そのアンバラン
タムラ堂
力的です。
スな美しさと独特の世界観が本当に魅
一三六五円
る一冊。
講談社
く 二 人。 い の ち の き ら め き、 希 望 が 光
身よりのない子たちが暮らす﹁聖モー
ウォード子どもの家﹂でアーヤは楽しく
暮らしていました。子どもをひきとって
育てたい人たちが子どもたちを見にく
− 26 −
児童書
II N
N FF O
O RR M
MA
A TT II O
ON
N
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− 27 −
だいています。
惜しいほどの楽しい時間を過ごさせていた
話題は多岐にのぼり、毎回、帰るのが名残
あ る と か ︶、 は た ま た 旅 や 鉄 道 の こ と な ど
読んではまった京都の清明神社はご利益が
ラウマだとか、夢枕獏さんの﹃陰陽師﹄を
に見た渥美清さん主演の﹃八つ墓村﹄がト
飯嶋さんの唯一の現代モノ﹃汝ふたたび故
私にとって個人的に思い入れ深い小説です。
夢中になって読んだ覚えがあるこの作品は、
プルーフ本の形で手にした記憶があります︶
者さんよりいただき、
︵当時まだ珍しかった
学生アルバイトをしていた時に、担当編集
励まされるものがあります。今の編集部で
女性に出会って、緩やかに人生が好転して
しい生活をしています。そんな珊瑚がある
グルマザーで、明日の生活も心配なほど苦
郷へ帰れず﹄にも私の大好きな短編が収録
その会で千葉の書店員さんが、先の東日
いくというお話なのですが、作中に出てく
ラ ス ト ラ イ ヴ が あ り ま し た こ と は、 以 前、
︵ と は 言 っ て も、 お い し い お 酒 を 嗜 む、 と
先週、不定期でお仕事の会合をしている
それにもまして幸吉の真っ直ぐな生き方に
だ幸吉が放つひと言にぐっとくるのですが、
幸吉の生き様を描いた小説です。空を飛ん
代に、大空を飛ぶことに人生を掛けた鳥人・
人が空を飛ぶことなど考えられなかった時
いうのが本来の目的︶東京と千葉の書店員
心を打たれ、悪政に立ち向かう人達の姿に
今日はもう一冊、どうしても書きたい小
た時にプレゼントしますね。
説がありました。学生時代から愛読してい
る梨木香歩さんの待望の最新作﹃雪と珊瑚
と﹄です。主人公の珊瑚は二十一歳のシン
− 28 −
されています。今度、石本さんにお会いし
この往復書簡でお伝えしましたね。そして
本大震災の後、
﹁今こそこの本を売らなくて
る食べ物が本当にほっこりとおいしそう
石本秀一さま
今日は閏秒のため、ふだんよりも一秒長い
和 一 さ ん の﹃ 始 祖 鳥 記 ﹄ で し た。 舞 台 は、
は ! ﹂と思ったと話されていたのが、飯嶋
くわくしましたが、石本さんはいかがお過
さんとお会いしてきました。今旬の小説か
ごしでしたか?
ら影響受けたミステリや映画︵中学生の時
『雪と珊瑚と』
(角川書店・1,575 円)
今年は閏日があり、その日は東京事変の
一日でした。天体好きとしては、このたっ
『始祖鳥記』
(小学館文庫・730 円)
災厄続きで夢も希望も持てない暗い天明期。
た一秒がとても特別なように感じられ、わ
第6回
関わる人々を描いた連作短編集でした。そ
は、虐待を受けている子どもたちとそれに
この物語の主人公・珊瑚は育児放棄とい
飯嶋和一さんといえば﹃雷電本紀﹄とい
のタイトルは物語の中だけではなく、同じ
うかたちの虐待を受けて育った女性でした。
う 相 撲 を 題 材 に し た も の が あ り ま し た ね。
ように傷ついている多くの子どもたちへ向
れ﹁マイ座布団﹂で原色の派手な色のもの
この本や﹃始祖鳥記﹄、本屋大賞にノミネー
けられた、やさしい思いの込められたこと
で、誰かのために煮物やスープなどのあっ
︵ い つ も、 ホ ー ル ケ ー キ を ど れ だ け 食 べ た
ト さ れ た﹃ 黄 金 旅 風 ﹄﹃ 出 星 前 夜 ﹄ な ど、
ばだと感じました。ゲラをいただいて今読
最近読んだ中脇初枝さんの﹃きみはいい子﹄
かを想像して、残りの一年がどれくらいな
飯嶋さんの著作にはページ数が多くてずっ
んでいるのは、
AID︵非配偶者間人工授精︶
が多いなど、実際に会場に行かないと見え
の か 体 感 し て い ま す ︶。 今 年 は あ と 何 度 名
しりと重い、そしてそれは本の外観だけで
で産んだ子どもを育てている女性が主人公
たかいものをお料理したい気分になってき
古屋に伺う機会をつくれるでしょうか。こ
なく内容も人間の生きざまを骨太に書き記
の小説。偶然ですが、親子というものを考
ないことがとても興味深かったです。
の往復書簡が終わりますのが寂しいです
した物語で、読むのにエネルギーが必要な
早いもので今年も半分が終わりました
が、またお会いできますのを心待ちにして
も の が 多 い と い う 印 象 が あ り ま す。﹃ 汝 ふ
ますよ。
います。次こそはゆったりと飲みたいもの
ですよ。上の娘︵中学生︶は反抗期で言う
です。いよいよ夏本番、くれぐれもお身体
ことをききませんが⋮⋮︵涙︶
。くららさん
うちは特に変わったことのない平凡な親子
にあったし、僕もPOPで使ったことがあ
の﹁タマネギスープ﹂
︵これは簡単そうなの
えさせる物語を続けて読んでいます。ん?
りますが﹁飯嶋和一にハズレなし ! ﹂です。
で 作 っ て み よ う と 思 う ︶ で も 飲 ま せ れ ば、
たたび故郷へ帰れず﹄は現代小説なのです
梨木香歩さんを久しぶりに読んだ﹃雪と
に気をつけてくださいね。
珊瑚と﹄、大感動ということはないですが、
ね。読むのが楽しみです。どれかの本の帯
◀復・石本◀◀
七月一日
小学館
松田美穂
▶▶往・松田▶
暑い日が続いています。どうやら梅雨も
松田美穂さま
少しはやさしくなってくれるでしょうか?
がっていく相撲自体も楽しめましたが、行
観戦でした。結びの一番に向かって盛り上
名古屋場所へ行ってきました。初めての生
今日は相撲好きのアルバイト君の誘いで
い ち い ね え、 あ あ、 ち ゃ ー ち ぇ ね え ﹂、 読
す。そして最後の行の雪ちゃんのことば﹁お
しくて美味しそうな料理の印象と重なりま
や﹁タマネギスープ﹂をはじめとしたやさ
は作中でくららさんが作る﹁おかずケーキ﹂
の乾杯は、よく冷えたビールでどうですか?
ることができてホッとしています。終了祝い
ことかと不 安 でしたが、なんとか無 事 終 え
が とうございました。始める前はどうなる
かと思いますが、半年間のおつきあいあり
本業の締切に追われ、大変な時もあった
じんわりと心あたたまる作品でした。それ
司や呼出しなど多くの人が手際よく働くこ
み終えた人の多くは、涙を流しながら微笑
明けたようですね。
とによって滞りなく進行されていくさま
んでいたのではないでしょうか?
七月十七日
ロフト名古屋店
石本秀一
や、土俵下に控える力士の座布団がそれぞ
− 29 −
象がわかる手帳である。二〇一二年八月
九四五円︶をご紹介。一年間の天文の事
て は な ら な い﹃ 天 文 手 帳 ﹄
︵ 地 人 書 館・
書だが、身近な話題と、月と暦の話が多
山忠興著・一八九〇円︶は天文学の入門
をしておこう。﹃空と月と暦﹄︵丸善・米
らない、という星図音痴女子。少し勉強
この本をおもしろいと思った方は天文
天文の棚より
の 文 学、 天 文 学 好 き に な る 素 質 が あ る。
いところが特徴で、こういう本は意外に
売 し て い る が、 毎 年 十 一 月 に 出 る の で
文筆家としても有名な天文学者に野尻抱
は﹁十二日深夜にペルセウス座星群が極
二〇一三年の手帳をご検討ください。そ
影がいるが、今夜は野尻二世とも言われ
ない。
今年は五月に金環日食があり、天文の
も そ も 暦 は 天 文 学 か ら な る も の だ か ら、
大﹂だそうだ。東の空に流れ星が見られ
棚は大いに賑わった。とは言え、天体観
天文手帳を使うのが一番なのではないか
るかもしれない。二〇一二年用もまだ販
測は通常夜のもの。今夜は天文の棚をご
F.カミンズ著・二二〇五円︶は、幼い
が2つあったなら﹄︵東京書籍・ニール・
月 が 一 つ じ ゃ な か っ た ら? ﹃ も し も 月
月の意外な明るさに驚かされる。そんな
暑くて寝苦しい夜、窓を開けてみると
する。蛍光塗料が光って、暗闇でも見や
見﹄
︵ 三 省 堂・ 一 〇 五 〇 円 ︶ を お す す め
際に夜、外に持ち出すには﹃光る星座早
ちょっとサイズがかわいすぎるので、実
星座早見盤も付いている。付いているが、
と思うのだが、いかがだろう。かわいい
だ。﹃星めぐり歳時記﹄︵じゃこめてい出
とりとした日常を覗き見るのもいいもの
書房・二九四〇円︶がある。天文屋のしっ
一 〇 五 〇 円 ︶ と﹃ 天 文 屋 渡 世 ﹄
︵みすず
ないが﹃天文台日記﹄︵中公ビブリオ文庫・
残念ながら今お売りできる本はほとんど
ていた、石田五郎の本をおすすめしたい。
紹介する。
子の﹁なんでなんで﹂攻撃の様な問いに
すい。
そもそもこの星座早見の見方もわか
光る金星を見上げていたのだろうか。
ゑけ 神ぎや
金ままき
∼
と力強い。細い三日月とピカっと一つ
ゑけ あがる
三日月や
ゑけ 神ぎや
金まゆみ
ゑけ あがる あか星や
﹁おもろさうし﹂から始まる。
歌を紹介する。五〇〇年前の沖縄の歌集
版・一五七五円︶は星を詠んだ古今の詩
真剣に挑む、もしももしもから始まるサ
イエンスノンフィクション。このスケー
ルの大きなもしもの世界の地球には、新
しい名前がつけられ、ささやかなドラマ
が始まる。SFの始まりのようにドキド
キし、本当に月の二つある世界で生きる
自分を想像してしまう。前作の﹃もしも
月 が な か っ た ら ﹄︵ 同・ 二 三 一 〇 円 ︶ と
次は、本ではないけれど天文棚になく
併せてどうぞ。
『空と月と暦』
− 30 −
❶
のぞく宇宙の神秘 DVD BOOK
﹄︵宝島社・
一四〇〇円︶は、ハッブルがとらえた宇
まずは、大ヒット﹃ハッブル望遠鏡で
きどきがとまらない。ああ、何も知らな
う。知りたい怖い、知りたい怖い、のど
ているだけのような気がしてきてしま
ず日は昇る、という毎日は、偶然が重なっ
地球があって、生物がいて、毎日変わら
わ く し て 眠 れ な く な る。 し か し な が ら、
を読めば、知れば知るほど面白くてわく
く大平さんに感服する。
舞われるのだが、その度にのりきってい
んなに、と思うほど機械のトラブルに見
ナレッジ・一六八〇円︶では、なんでこ
﹃プラネタリウムを作りました﹄︵エクス
ネタリウムを生み出した大平貴之さんの
る。今や二二〇〇万の星を投影するプラ
そろそろ天文棚の主役、美しい宇宙の
宙の画像がたっぷり一六〇分DVDに収
かったら。
写真集をご紹介しよう。
録されている。﹃宇宙﹄︵河出書房新社・
最後に、今、最もおすすめする本を。﹃冥
ニコラス・チータム著・三九九〇円︶は
小久保英一郎著・二一〇〇円︶は宇宙の
宙の地図﹄︵朝日新聞出版社・観山正見、
た、 天 文 台 長 は 愛 犬 チ ロ、 と い う 肩 書
勤 め て、 仲 間 と 白 河 に 天 文 台 を つ く っ
藤 井 旭 さ ん は、 美 大 を 卒 業 後 饅 頭 屋 に
説図鑑﹄
︵ポプラ社・一七六四円︶の著者、
星 の 神 話 を 生 み 出 し た。﹃ 星 の 神 話・ 伝
どもの誕生、とプライベートと平行して
側を赤裸々に暴くのだが、本人の結婚子
イク・ブラウンが、すったもんだした裏
王星を追放した張本人である天文学者マ
ぜこんなことになってしまったのか、冥
されてしまったかわいそうな冥王星。な
一六八〇円︶は、二〇〇六年惑星を追放
王 星 を 殺 し た の は 私 で す ﹄︵ 飛 鳥 新 社・
スケールをわかりやすく演出。読者を三
き か ら 想 像 す る に、 き っ と 気 の い い お
何 も 知 ら な か っ た 大 昔 の 人 た ち は、
鷹の天文台から、あっという間に宇宙に
じ さ ん。︵ 藤 井 先 生 す み ま せ ん、 世 界 的
書かれ、笑いあり涙ありの一冊だ。
いる。土星の環まで見えるそうだ。いや、
二八八〇円︶なんていうものも販売して
− 31 −
写 真 が な ん と い っ て も 素 晴 ら し い。﹃ 宇
放り出してくれる。
天文写真家ということも存じておりま
その美しさとはうらはらに宇宙のこと
土 星 の 環 よ り﹁ 組 立 ﹂ に 反 応 し た 男 子、
『冥王星を殺したのは
私です』
す。︶ 本 は イ ラ ス ト が 豊 富 で 手 に と り や
す い も の が 多 く、 夏 休 み 親 子 で 読 む の
に最適だ。
倍 ﹄︵ 星 の 手 帖 社・
お子様と星座観察をされるときは
は知れば知るほど、怖くなってくる。そ
立派なプラネタリアンになる素質があ
﹃ 組 立天体望遠鏡
し﹄︵宝島社・佐藤勝彦著・一四七〇円︶
35
ん な と き は、﹃ 眠 れ な く な る 宇 宙 の は な
『ハッブル望遠鏡でのぞく
宇宙の神秘 DVD BOOK』
本にまつわるエッセイ、など本に関するもの。最近読んでおも
☆読者の皆様の投稿を募集しています。最近読まれた本の感想文、
しろかった本、感動した本、考えさせられた本を教えて下さい。
四〇〇字∼六〇〇字程度で、おすすめの本のタイトル、出版社、
掲載分には二千円の図書カードを差し上げます。なお、原稿はお
いつも﹁書標﹂をご愛読いただきましてあ
りがとうございます。本誌定期購読料は以
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る。選手たちのすさまじいま
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真っ最中。四年に一度の聖典
は、 ロ ン ド ン オ リ ン ピ ッ ク
今号が発行される八月五日
編集後記
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住所、氏名、年齢、職業を明記の上、お送り下さい。
〒
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返しいたしませんのでご了承下さい。
│
ジュンク堂書店﹁書標﹂編集室係
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│
︵茉︶
れていますようにと願う。
− 32 −
☆尚、本誌掲載と同時に、ホームページにも掲載させていただきます。
〒
1710022
ᛩ
Ⓜ
൐
㓸
1710022
私を
支えてくれるもの
私 は、 三 月 に 閉 店 し た 新 宿 店 に い ま
まいました。
とが出来ないままのお別れになってし
客 様 と は、 ど こ に 行 く の か も 伝 え る こ
る の が 閉 店 間 際 だ っ た た め、 多 く の お
て い ま し た。 た だ、 次 の 異 動 先 が 決 ま
は な く て も、 そ の た び に 元 気 を も ら っ
り ま せ ん で し た が、 お 店 が 決 ま っ て す
残 念 な が ら、 そ の お 店 へ の 配 属 に は な
そ こ に 来 て 下 さ い と 書 い て あ り ま し た。
た ︶ 自 分 の 近 く の 店 舗 名 が あ げ て あ り、
で す。︵ 実 際 に は お 母 様 の ア ド レ ス で し
彼女からメールアドレスをもらったの
好きだった場所がなくなることはもち
をスタートさせた感じです。
ら 三 ヶ 月 ち ょ っ と、 や っ と 新 し い 生 活
三 週 間 の 新 規 店 へ の 応 援 出 張。 閉 店 か
怒 涛 の 日 々 を 乗 り 越 え た と 思 っ た ら、
思 う ほ ど あ っ と い う 間 で し た。 そ ん な
思い返しても夢だったんじゃないかと
うときに感想を聞くのがとても楽しみ
る く ら い 本 の 趣 味 が 似 て い て、 次 に 会
四 年 生 に な る 彼 女 と 私 は、 び っ く り す
家 族 で 来 て く れ る よ う に な り ま し た。
年 く ら い し て、 体 調 が 良 く な っ た の か、
た こ と が 出 会 い の き っ か け で し た。 一
を選んでいたお父さんのお手伝いをし
た そ う で す。 そ ん な 彼 女 の た め に、 本
女は身体が弱く、家にいることが多かっ
特 に 印 象 的 だ っ た 女 の 子 が い ま す。 彼
せ に 子 供 が 苦 手 な 私 の、 た ぶ ん、 一 番
年 生 に な っ た 彼 女 は、 児 童 書 担 当 の く
こ の 感 覚 を 忘 れ な い よ う に し た い。 五
ん て う れ し い こ と な ん で し ょ う ⋮⋮ !
お 客 様 が 会 い に 来 て く だ さ る っ て、 な
会えたことがどれだけ心強かったか
だ ら け で し た。 だ か ら、 彼 女 に 再 び 出
え と い う よ り 転 校 生 に 近 く、 正 直 不 安
新 し い 場 所 で の ス タ ー ト は、 ク ラ ス 替
過 ご し て い ま す。 私 に と っ て も 久 々 の
た彼女のために本を選ぶ幸せな時間を
653- 6500013 0021
︵K︶
!
!
あ れ か ら 三 ヶ 月。 新 し い お 店 で、 ま
ろ ん、 交 流 を 深 め て い た お 客 様 と 会 え
で し た。 新 宿 店 の 閉 店 が 決 ま る と い つ
ぐにメールで連絡をしたのです。
な く な っ て し ま っ た こ と で す。 年 に 四
もより頻繁に足を運んでくれるように
小さな読書友達です。
よ く 来 て く だ さ っ た お 客 様 の 中 で も、
回、 必 ず 親 戚 の 子 供 達 の た め に 丁 寧 に
な り、 そ の た び に ど こ に 行 く の か 尋 ね
し た。 最 後 の め ま ぐ る し い 日 々 は、 今
本 を 選 ん で い か れ た 素 敵 な お ば さ ま。
ら れ ま し た。 そ ん な 閉 店 間 際 の あ る 日、
│
│
閉 店 で と て も つ ら か っ た こ と は、 大
会社帰りに娘のために絵本を買いに来
一〇〇一
五二一二
て く れ た 若 い お 父 さ ん。 毎 日 会 う こ と
TEL TEL
二〇一二年八月五日発行
﹁書
﹂ 第 号
ほんのしるべ
頒価五十円︵本体四十八円︶
標
編集・発行人
工
藤
恭
孝
神戸市中央区三宮町一の六の十八
︵〇七八︶三九二
発 行 所
㈱ジュンク堂書店 〒
印 刷 所
︵〇七八︶五七五
㈱七
旺
社
〒 神戸市長田区一番町二丁目一
405
ほんのしるべ﹂ 昭和 年8月 日第三種郵便物認可
2012年8月5日
毎月1回
5日発行
通巻第 号
﹁書標 61
15
405
頒 価 五十円︵本体
四十八円︶
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