...

自閉症,PTSD,側坐核,ドーパミン

by user

on
Category: Documents
18

views

Report

Comments

Transcript

自閉症,PTSD,側坐核,ドーパミン
第 12 章
情動と脳内報酬系
扁桃体,自閉症,PTSD,側坐核,ドーパミン,覚せい剤
Ⅰ
情動
情動とは−行動あるいは表情を通して客観的に捉えられる「喜怒哀楽」に関する脳の活動
①対象物の認知
②意識的に認知できる内的な感情:情動の主観的体験
③動機付け:対象物が快刺激であれば接近しようという動機が起こる
④自律神経系やホルモン系を介した生理的反応
⑤相手とのコミュニケーション:表情などにより,相手に自分の気持ちを伝える,相手の気持ちを理
解する
cf. 感情−「喜怒哀楽」についての主観的な体験
1.
情動行動:快および不快情動により引き起こされる行動
快刺激→接近行動→欲求が満たされる−快感
不快刺激(外敵・危険・困難)→攻撃行動・逃避行動→欲求が満たされない−不安,欲求不満,怒り
2.
大脳辺縁系−大脳皮質の内側面,視床下部を含む脳幹の頭端部を環状に取り巻く皮質領域
内嗅皮質−海馬−中隔核−扁桃体−帯状回−脳弓−乳頭体
中脳腹側被蓋野−側坐核・(前頭前野)
Ⅱ
扁桃体
1. 動物実験による知見
a)ネコ扁桃体電気刺激−逃避行動や攻撃行動 標図 7-14
弱い電気刺激→唸り声,頭部を下げた姿勢,瞳孔散大,立毛
強い電気刺激→大きな唸り声,ヒッシング( しっ という唸り声),攻撃や逃避行動
b)扁桃体を含む側頭葉の両側破壊−情動反応が低下
Klüver-Bucy 症候群:①視覚失認症・精神盲(同じものを何度も手にとって調べ回す),②口唇傾向,
③性行動の亢進,④情動反応の低下
「サルがヘビを怖がらなくなる」,「ネズミがネコに近づいていく」
ラットで Conditioned fear response 条件性恐怖反応*が起こらなくなる
音・光の条件刺激提示後に電気ショックなどの嫌悪刺激を与える操作を繰り返す→ すくみ反応 ,
脱糞,血圧上昇,corticosterone 増加などの情動反応が起こる
c)サル扁桃体「顔ニューロン」の反応−社会的認知機能
新奇なものに対する反応も
入門図 12-2,3
図1
d)サル扁桃体ニューロンの反応−好感・嫌悪反応
オレンジやリンゴなどの好ましい物,あるいはクモやヘビなどの嫌いな物に反応し,しかも好きな
ものほどあるいはきらいなものほど強く反応
(この細胞は石ころなど自分にとって意味のないものには反応しない)
自分にとって好ましいものでも,好きなスイカやきらいなクモだけにしか反応しない細胞も
2. ヒトに関する知見
a)扁桃体電気刺激により,怒りや恐れの感情が起こる
b)扁桃体を含む側頭葉の両側破壊−Klüver-Bucy 症候群
c)扁桃体の両側破壊−ウルバッハ・ビーテ病(表情から相手の感情を読みとれない)
d)自閉症:社会性・対人関係障害,言語・コミュニケーション障害,興味・関心・行動の著しい偏り
①表情照合課題の障害(表情から情動を読みとれない),②特定の情動(怒り・嫌悪)の認知障害,
③表情照合課題時に左扁桃体の血流低下
自閉症患者では扁桃体に解剖学的異常(幼少期に扁桃体を含む側頭葉内側部の損傷?)
自閉症とミラーニューロン

サルの腹側運動前野に行為の実行・意図の理解に関わるニューロン「ミラーニューロン」図 1,2,3

ヒトの運動前野のミラーニューロンは、随意運動の実行中、他者の行為の観察中、μ波(脳波)
を抑制

自閉症患者では、他社の行為の観察中に見られたμ波の抑制がおこらない(図 4)
自閉症の場合、感覚野と扁桃体、あるいは扁桃体と前頭連合野の連絡障害のため、仔細な出来事や
対象物に対して極端な感情的反応を見せる
d)PTSD(posttraumtic stress disorder 心的外傷後ストレス障害)−再体験症状・過覚醒症状・回避症状
扁桃体・海馬の関与?
強いストレス−グルココルチコイドを介して海馬の体積を縮小
☞扁桃体は,対象物が自己にとって有害なのか有益なのかを評価する(生物学的価値評価),他者の
心(情動)の推測と行動の予測を行う(社会的認知) 図 2
Ⅱ
脳内報酬系
1.
ラットの脳内自己刺激実験 Olds & Milner 1954 図 74
60 Hz,50 mA,0.25 秒の電流による自己刺激 5000 回/時間
中脳腹側被蓋野から視床下部外側野を通り,嗅結節,側坐核,前頭前野を結ぶ「内側前脳束」
快中枢・脳内報酬系 や図 12-13
NAd 性,DA 性線維が走行
2.
不快中枢・罰系
中脳中心灰白質の背部と被蓋の背内側部−自己刺激を回避する部位
ACh 性線維が走行
Ⅲ
薬物依存
1. 薬物依存の行動薬理額
a)薬物自己投与実験と比率累進法(留置カテーテル法によるサルの)図 9-3-1,9-3-5
依存性薬物の精神依存性の強さ 図 9-3-2
b)薬物弁別実験
c)条件性場所指向法
Ⅵ
1.
薬物依存の神経化学的メカニズム
中脳腹側被蓋野−側坐核 DA 神経系 図 4
依存性薬物は,直接あるいは間接的に中脳腹側被蓋野−側坐核 DA 神経系を興奮させる
側坐核の DA 神経終末のシナプス間隙における DA 濃度を増加

覚せい剤(メタンフェタミン・アンフェタミン):DA トランスポーターを介する DA 放出

コカイン:DA トランスポーターを介する DA 再取り込み阻害

アルコール・モルヒネ:腹側被蓋野 DA ニューロンを抑制する GABA ニューロンの GIRK チャネル開
口→K+流出→GABA ニューロン過分極→DA ニューロン脱分極
2
Ⅴ
依存性薬物 表 9-1-3
1.麻薬性鎮痛薬;アヘン製剤{モルフィネ(ヘロイン),コデイン},ペチジン
2.中枢興奮薬;覚醒剤(アンフェタミン,メタンフェタミン),コカイン
3.鎮静・抗不安薬・睡眠薬・静脈麻酔薬;バルビタール,メプロバメート,ジアゼパム,ニトラゼパム,
(アルコール)
4.麻酔薬;エーテル,有機溶剤(シンナー),笑気
5.幻覚剤;LSD-25,THC
6.その他;カフェイン,ニコチン
Ⅵ
薬物依存症の6症候
1.精神依存;薬物が引き起こす「精神および身体の発揚」,
「多幸感」
「快感」などの,薬理作用(強化因子)
を追体験するために,さらにその薬物を反復摂取したいという欲求が生じること
2.身体依存;断薬あるいは減量により体内の薬物濃度があるレベル以下になって薬理作用が減弱すると,
様々な身体症状が出現する.これを退薬症候,離脱症候,「禁断症状」といい,そのような体の状態を身
体依存.
3. 精神病
1)急性中毒性精神病
2)慢性中毒性精神病
4.耐性;薬物の反復投与によりその作用が次第に弱くなる現象.その結果,薬物投与量が増大する.
4 .逆耐性;覚醒剤やコカインの場合,ある作用(妄想型分裂病様,全身性痙攣など)は反復投与により感
受性が増大する.(フラッシュバック現象)
5.慢性作用による症候;アルコール性肝障害,アルコール性痴呆,覚醒剤・コカイン精神病
6.薬物乱用に起因する事件,事故;凶悪犯罪(殺人,強盗,強姦),暴行・傷害,窃盗,中毒死および自殺.
自制心の喪失(怠業・失業,家庭崩壊,借金)
7. 若者に対するアルコールの影響
Ⅶ
乱用,依存,中毒
乱用;
「医学的常識を故意に逸脱した用途あるいは用法のもとに,悪いと知りながら薬物を大量摂取する行為」
(WHO1969年テクニカルレポート)
例) オウムのチオペンタール,スポーツ選手のドーピング
依存;生体と薬物の相互作用によって生じた精神的または身体的状態.薬物の向精神作用(精神・身体の高
揚,多幸感,快感,幻覚)を体験するため,または退薬による苦痛から逃れるために,薬物を摂取への強
迫観念によって,絶えずあるいは周期的に自己投与を行う.
中毒;化学物質によってもたらされる精神的あるいは身体的障害で,医療行為を必要とされるもの.CF. ニ
コチン「中毒」とタバコ依存症:嘔吐,腹痛,振戦,痙攣,呼吸興奮,呼吸麻痺
急性アルコール中毒(コンパ,眼球震盪)とアルコール依存症
Ⅷ
乱用はなぜ起こるか?図 9-2-2
1.薬物の特性;摂取した人に何らかの満足感,多幸感を与え,再びその薬物を摂取したいという欲求を起
こさせる作用を持つ.
2.乱用する人の側の要因(薬物を摂取した人,すべてが薬物依存に陥るわけではない)
3.社会的要因;乱用薬物の供給者や乱用者がいる,「ブーム」と言う言葉でマスコミが煽情する
日本の覚せい剤乱用は,終戦後,軍隊が保有していたものを政府が市中に流通させたことによる
3
Fly UP