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WHO Health and Ageing

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WHO Health and Ageing
高瀬優子・富永貴公・栗原亜里沙・佐藤仁美・張明順 共訳
Health
and Aging
A
Discussion
Paper
この文書は2002年第2回高齢化に関する国連総会の準備中の、健康的で活動的な加齢
(アクティブ・エイジング)に関する詳しい情報に基く議論に貢献することを意図してい
る。この文書の第一版は議論のための文書として発行されるであろう。ご意見や付加部分
については次の e−メールアドレスにご連絡頂きたい:[email protected]
この文書の最終版と『アクティブ・エイジング;証拠から行動へ』と題される補足的モノ
グラフがマドリッドにおける第2回高齢化に関する国連総会(2002年4月)への寄稿
として、続いて発行される予定である。両発行は WHO(健康促進、非伝染性疾病予防と監督
部局)とヘルスカナダとの協同の結果である。
目次
1.世界規模の高齢化:勝利と難題
この文書の目的と使用法
人口革命
2.人口の高齢化が課す難題
難題No.1:発展途上国における急速な高齢化
難題No.2:障害、そして病気の二重苦
難題No.3:時代遅れのパラダイムを変革すること
難題No.4:高齢化の女性化
難題No.5:倫理と不公正
3.アクティブ・エイジング:概念と理論的根拠
4.アクティブ・エイジングの決定要因とは:その根拠の理解
全てを覆い尽くす要因:ジェンダーと文化
医療・福祉サービス
経済要因:収入、労働、社会的保護
身体的状態に関する要因
個人的要因
行動様式に関する要因
社会環境における要因
5.対策
部門間の共通政策目標
国際対話の重要性
6.参考文献(省略)
高齢とは何歳か?
この文書の目的のために、「高齢」者とは60歳以上の女性と男性とする。これは60歳
以上の人のほとんどが高い生活水準、健康を享受している先進地域では「若い」と思われ
るかもしれない。しかしながら、健康的な老後へと導くような、人生の早い時期における
利益を持ってこなかった人々が住む途上国においては、60歳は高齢の現実的な表現のよ
うである。さらに60歳以上はすべての国連の人口統計計画で「高齢」を表すのに現在使
われている。同時に年代順の年齢が、常に加齢に伴う変化の最良の目印であるとは限らな
いことを認識しておくことが大切である。各個人の健康状態の違いで同年の高齢者は多様
になりうる。政策決定者は「高齢」の人口に関しての政策を作成する時、両方の要因を考
慮する必要がある。
この原本は、ヘルスカナダ(カナダ健康省)の後援の下、WHO での6ヶ月に基づき、コ
ンサルタントである Peggy
Kalache と Irene
Edwards によって用意された。この文書の準備過程は Alex
Hoskins によって指導され、Ingrid
Keller(WHO、健康促進、非伝
染性疾病予防と監督部局)によって援助された。
1.世界規模の高齢化:勝利と難題
全体として見れば、高齢化の問題など全く問題ではない。それは文明の大勝利の悲観的な
見方にすぎない…Notestein,1954
人口高齢化は人類の大勝利の一つである。そして我々の最大の難題の一つでもある。21
世紀、グローバルな高齢化はあらゆる国に増大する経済的、社会的要求を課すであろう。
同時に高齢者は我々の生活の社会経済構造に重要な貢献をなす貴重な、しばしば無視され
る資源を供給する。
人口高齢化は政策決定者に気にかかる質問をもたらす。少ない就業者が高齢者の必要を支
えられるのか?高齢者の多さが医療(健康管理)や社会保障システムを崩壊させないか?
どのように高齢者が自立し、活動的であり続けることを手助けできるか?介助が必要な高
齢者の世話をするにあたって、家族と国の役割の最も良いバランスをどうやってとるか?
どのようにしたら高齢者の知恵、経験そして才能をうまく活かせるか?人々がより長く生
きる今日、高齢者の生活の質をどのように改善できるか?
この文書はこれらの質問や他の高齢化に関する懸念を扱うために作成されている。これは
すべてのレべルの政府の政策決定者、非政府セクター、私企業セクターに向けられている。
世界保健機構(WHO)は国や地域や国際的組織が高齢者の健康、自立、生産性を高める
「アクティブ・エイジング」政策や計画を制定するなら我々は安心して歳をとれる、と提
案する。計画し、行動に移す時は今である。すべての国、しかしとりわけ途上国において、
高齢者が健康で経済的に活動的であり続けることを助ける方策は必要不可欠なものであり、
贅沢なものではない。
それらの政策は高齢者の実際のニーズ、選好、許容量に基くべきである。そしてまた人
生の早い時期の経験の影響を認識し、未来の高齢者のニーズを妥協させないようなライフ
コース(一生涯の課程)という考え方をとる必要がある。
この文書の目的と利用法
この文書は高齢化に関する政策や計画をまとめている政策決定者間の議論や行動を促進
するために作成されている。
・パート1では、特に途上国での、60歳以上人口の急激な世界的伸びを記述する。
・パート2では5つの鍵となる挑戦について議論する。
・パート3では政策や計画の組織立ての一つの目的としての「アクティブ・エイジング」
の概念や理論的根拠を探る。アクティブ・エイジングは、健康と自立、生産性、保護と
いう3本の柱でなりたっている。
・パート4では個人や人々が自立、生産性そして歳をとってからの積極的な生活の質を楽
しむのを決定する要因についての証拠を手短に述べる。
・パート5では鍵となる政策提案のための政策の枠組や具体的な提案を提供する。それら
は2002年に開催される第2回高齢化に関する国連総会のために展開されている行動
のための国家や国際的な計画と容易に統合できる。
人口革命
世界的に、60歳以上人口の割合は他のどの年齢集団よりも急激に増加している。197
0年∼2025年で、高齢者人口の伸びは約8億7000万人、380%と予想されている。
2025年には、60歳以上の人口は計約12億人になる。
この年齢分布の変化は世界のより発展した地域と最もよく関係している。認識されていな
いことは、低開発国での人口高齢化の速さと重要性である。すでにほとんどの高齢者が途
上国に住んでいる。その数は先進国よりはるかに急速に上昇していくであろう。2025
年までに約8億4000万人の60歳以上の高齢者が途上国に住むと見積もられている。
これは全世界の高齢者の70%に相当する。
1995~2020年で、ヨーロッパと北米では就業者人口の割合が62%から58%に
減少し、60歳以上人口が全人口の 4 分の1を占めるであろう。国別に見ると、最も高齢
化が進んでいるのがイタリアで2000年に60歳以上人口が全人口の24%を占めてい
る。(下記、表1参照)日本や他のヨーロッパの国々も同様に高い。
いくつかのアフリカの国々(エイズによる)や新しい独立国(心臓血管病や暴力による死)
での平均余命の停滞にもかかわらず、出産率の低下と長命の増加が世界人口の継続的「グ
レー化(高齢化)」を確実にする。出産率の急激な減少は世界中で観察されている。202
0年までに121の国で合計特殊出生率が人口置き換え水準(一人の女性が2.1人の子
どもを産む平均出産率)を下回る。1975年はレベル以下の国は22ヶ国だった。現在
では68カ国である。
子どもや若い人々の人口が減少し60歳以上の割合が増えることで、1995年の三角
の人口ピラミッドは2025年にはより円筒(シリンダー)のようなものになるであろう。
(図1参照※省略、原文参照)
表1.2000年と2050年の
60歳以上人口の比率
国名
2000
イタリア
24%
ドイツ
23%
日本
23%
スペイン
22%
チェコ
18%
アメリカ
16%
中国
10%
タイ
9%
ブラジル
8%
インド
8%
インドネシア 7%
メキシコ
7%
2050
41%
35%
38%
43%
41%
28%
30%
30%
21%
21%
22%
24%
引用:国連,1998
(高瀬
優子)
2.人口の高齢化が課す難題
人口の高齢化が課す難題は世界規模、国家レヴェル、地域レヴェルのものである。それ
らを克服することは、革新的な計画と本質的な政策転換を必要とする。たいていがいまだ
高齢化に関する包括的な政策を持たない発展途上国では、最大の難題に直面するかもしれ
ない。
難題
№1:発展途上国における急速な高齢化
2000 年においては 60 歳以上の 62%が未開発国に住んでおり、2050 年までにこれは 80%
に増加する(あるいは図2参照)。世界の高齢者の多数が(最も多い東アジアと中国を含む)
アジアに住んでいる。世界の最も高齢な人びとについて、アジアの占める割合は増加し、
ヨーロッパは 25 年の間に減少するだろう(図 3 参照)。
発展途上国における社会経済的な発展は、急速な高齢化のスピードに対応してこなかっ
た。例えば高齢者の割合が 7%から 14%になるのにフランスは 114 年かかったが、中国は
27 年でそれを達成した。先進国は人口が高齢化する以前に豊かになったが、途上国は物質
的な豊かさが生じる前に高齢化している。
途上国における急速な高齢化は、労働力のパターンや移動と同じく家族の構造、役割の
劇的な変化を伴っている。都市化、職を求める若者たちの都市への流出、家族の縮小、女
性の公的な職場への参入の増大というのは、必要なときに高齢者が介護を受けることがで
きないことを示す。
難題
№2:障害、そして病気の二重苦
国が高齢化すると、生活と労働の事情が変化するのと並行して、病気のパターンにおけ
る移行は不可避的なものである。これらの移行は発展途上国にもっとも厳しく打撃を与え
る。
たとえこれらの国々が出産による伝染病、栄養失調や合併症と苦闘していたとしても、
非伝染性の病気の急速な成長に直面する。この“病気の二重苦”はすでに乏しい資源を逼
迫させる。伝染病から非伝染性の病気への移行は発展途上の国々でいち早く生じており、
そして心臓病、がんと機能低下のような慢性的な疾患が即死や障害の原因となっている。
この傾向は次の世紀を通じて徐々に拡大するだろう。1995 年には、発展途上国と新たに工
業化した国々における世界規模の病気の 51%は非伝染性の病気、精神的な健康不良とけが
によるものである。2020 年までに、これらの病気は 70%まで上昇するだろう(図 4 参照)。
政策決定者と寄付者は伝染病の制御と根絶に資源を費やし続けるべきである、というこ
とに疑う余地はない。しかし、慢性的な病気の強力な拡大をくい止めるのに役立つような
政策、計画、中間支援を実施することが重要である。地域に根ざした開発、健康促進、病
気の回避、生産性の増大に焦点を当てるそれらは、比較的お金はかからないが、まったく
関心を払われてこなかった。栄養失調と貧困に焦点を当てるその他の長期的な政策は伝染
病と非伝染性の病気の双方を減少させるのに役立つだろう。
開発途上国と先進国の双方において、慢性的な病気は重大で損失の大きい病気の原因で
あり、生活の質を低減した。高齢者の自立は、身体的、もしくは精神的な障害が入浴、食
事、トイレの使用、部屋の移動のような基本的な“日常生活の活動”(ADLS)と買い物と
食事の準備といった“日常生活の手段となる活動”(IADLS)を行なうことを困難にすると
き、脅かされる。主要な障害を経験する可能性は高齢者になれば増大する。意義深いこと
に、80 歳を超えた高齢者は 60 歳以上の人口において最も早く成長する年齢集団である。
しかし、加齢に関わる障害は回避したり、遅らせたりすることができる。例えば、アメ
リカ合衆国、イングランド、スウェーデン、そして他の先進国において、特定の年齢での
障害の割合がこの 20 年間で低下している。世界中で人口が長寿化するにつれて、高齢者に
おける障害を回避したり軽減したりする政策と計画が発展途上国と先進国の双方で緊急に
必要とされている。
加齢に関するライフコースの見方によって,ここの多様性が年をとるにつれて増大する傾
向があり、高齢者が単一の同質的な集団ではないことを認識する。支援の環境を整え、健
康的な選択を促進する干渉は人生の全ての段階で重要である。
ライフコースの見方によって、成長と開発を増進し、病気を回避し、可能な限り高い受
容能力を確保するように方向付ける人生の初期において活動を支援する。成人期において、
干渉は最適に機能するよう支援し、発病を回避、取り消す、あるいは遅らせるために求め
られる。高齢期において、活動は自立を維持すること、病気を回避し遅らせること、さま
ざまな程度の疾患、もしくは障害を抱える高齢者のために人生の質を改善することに焦点
が当てられる必要がある(図 5 参照)。
この分野における決定を見るひとつの有効な方法は、できないことの代わりにできるこ
とについて考えることである。役に立たなくなるプロセスは高齢者の要求を増大させ、孤
立と依存に導く。役に立つようになるプロセスは機能を取り戻させ、社会の全ての面に高
齢者の参加を拡大する。
セクターの多様性は障害を回避し、障害を抱える人々が社会参加できるようにする“エ
イジ・フレンドリー”な政策を策定することができる。例えば、市政は安全な歩行と適切
な移動のシステムのためにとても明るい道を提供しえる。レクリエイションの福祉は高齢
者が自分の移動性を維持し、もしくは移動するのに必要な足の強度を回復する訓練のプロ
グラマーを提供する。教育のセクターは生涯学習と識字教育のプログラマーを提供しえる。
社会福祉は補聴器、もしくは聴力に困難を抱える高齢者が他者と意思疎通を維持すること
ができるように手話に関する教育を与えることができる。健康のセクターは白内障の手術
とインフルエンザの予防接種のような費用効率の高い手段と同様に、役に立たせるリハビ
リテーションのプログラマーを提供しえる。政府と国際機関は高齢者が収入を得て、開発
活動に参加し続けることができるように、職場環境を変える企画とビジネスを提供しえる。
研究者は薬や健康と同様に、能力と障害を査定し、政策決定者により広い環境における
重要な役に立つようになるプロセスについて、後押しする証拠を与えるために用いられる
手段をよりよく定義し、一般化することが必要である。これらの分析には、注意深い関心
がジェンダーの差異に払われなければならない。
適切な調査に対する支援は、未開発国においてもっとも緊急に求められる。最近、低所
得、中所得の国々は世界の人口の 85%、病気の 92%を抱えているが、世界の健康調査の
10%しか費やされていない(WHO、2000)。
難題
№3:時代遅れのパラダイムを変革すること
伝統的に、高齢は疾患、依存、生産性の欠如と関連する。この時代遅れのパラダイムに
おいて蓄積されている政策と計画は現実を反映していない。実際に、たいていの人びとは
加齢による変化を受け入れ、自立をかなりの高齢まで維持している。発展途上国において
は特に、彼らは賃労働と不払い労働に従事し続けている(賃労働については図 6 参照)。全
ての国々では、高齢者のボランティア活動は社会に重要な貢献をしている。
加齢に伴う発病と機能低下はどの年齢でも回避、もしくは遅らせることができる。例え
ば、高齢期における身体活動と禁煙の緩やかな増加でさえ、顕著に心臓病の危険を軽減す
ることができる。(激しい農作業を軽労働に変えるような)職場環境と(高齢者が道を渡る
ためにより長い時間を与える信号のような)地域社会における“エイジ・フレンドリー”
な変化によって、障害を抱える高齢者は自立し、生産的であり続けることができる。
いまや、高齢者を開発の受益者であるのと同様に加齢を融合する社会における活動的な
参加者、活動的な貢献者として捉えるような、新しいパラダイムの時代である。このパラ
ダイムは、信頼の重要性、家族構成員と世代間の支援を認める世代間アプローチをとる。
それは“全ての年齢のための社会”という点を強調する。それは 1999 年の国連高齢者国際
年における中心的な焦点である。またそれは、学習は子どもと若者のもの、労働は中年の
もの、退職は高齢者のものといった伝統的な見方に挑戦する。新しいパラダイムは、全て
の年齢の学習を支援し、人々がライフコースに渡って異なる時期に介護を行なう役割を担
うために、労働市場に参入、もしくは離脱することを認める計画を求める。このアプロー
チによって世代間の調和を支援し、高齢者に対して増加する保障を提供するだろう。
難題
№4:高齢化の女性化
世界のたいていの地域で女性は男性より長寿である。例えば、60 歳以上に関して 1995
年のヨーロッパでは 1000 人の女性に対して 657 人の男性が存在した。先進国全体では、
1000 人の女性高齢者に対して 893 人の男性高齢者が存在した(図 7 参照)。女性はブラジ
ルと南アフリカでは 75 歳以上の人口の 3 分の2近くを構成する。女性は長寿という有利な
点を持っているのだが、男性よりも家庭内暴力、教育、収入、食料、有意義な仕事、健康
管理、遺産、社会保障、政治的な権力へのアクセスにおける差別を男性よりも体験しやす
い。これらの累積する不利な点は、女性が男性よりもより貧しく、高齢期における障害に
苦しみやすいことを意味している。彼女らが二番手の地位にあるがゆえに、高齢の女性の
健康はしばしば軽視、無視される。
また、女性は障害と多重の健康の問題が一般的である高齢まで生きる可能性が男性より
も高い。80 歳以上では、世界の平均は 1000 人の女性に対して男性 550 人以下である。先
進国では、80 歳以上の女性は 2 倍以上男性よりも数で勝る(図 8 における日本の例を参照)。
女性の長い平均寿命とより若い女性と結婚する、もし死別したら再婚するという男性の
傾向ゆえに、配偶者と死別した女性はそのような男性を全ての国において数で勝る。例え
ば、経済的な過渡期にある東欧の国々では、70 歳以上の女性の 70%以上が配偶者と死別し
ている(Botev、1999)。
単身の女性高齢者は貧困と社会的な孤立にかなり無防備である。いくつかの文化では、埋
葬の権利と相続に関して降格し、否定的な態度と行動によって配偶者と死別した女性から
財産と所有物、彼女らの健康と自立を、いくつかの場合にはまさに命を奪う。
家族の介護者としての女性の伝統的な役割は、また、彼女らの高齢期における貧困と悪
い健康状態を増加させるのに貢献する。彼女らの介護の責任を遂行するために賃労働を辞
める女性もいる。常時支払われない介護の役割、子ども、高齢の両親、病気の配偶者、孫
の世話に従事するため、賃労働へのアクセスをもたない。このように、家族の介護の供給
は介護する女性の後の人生における経済的な保障と健康の損害によって達成されている。
恐らく、どのように介護が女性の人生と健康に影響しているのか、ということの最も劇
的な事例はHIVとエイズがかなり横行している国々における最近の状況である。数多く
の研究は、たいていのエイズにかかった成人した子どもが家に戻って死んでいることを明
らかにしている。妻、母親、叔母、姉妹、従姉妹、祖母は介護の大部分を担う。そして多
くの場合、これらの女性は孤児になった孫の世話をする。
難題
№5:倫理と不公正
人口が高齢化すると、一連の倫理的な考慮が前面に現れる。それらは死を不当に促進す
る、もしくは遅らせることに関連する資源の分配、干渉の選択、長期にわたる介護に結び
ついた遺伝的な調査と操作、多くのジレンマ、貧困者、役に立たない高齢者の人権に関わ
る。全高齢者の自助、倫理的な決定と人権の是認は、高齢化に関するいかなる計画におい
ても中心的な戦略でなければならない。
高齢者の除外と貧困化は先進国と途上国双方における構造的な不公正の産物である。ジ
ェンダーや人種に基づくものと同様に、教育、雇用、健康管理へのアクセスにおける人生
の初期に経験する不公正は、高齢期における地位とウェル・ビーイングに対する批判的な
態度を持つ。貧しい高齢者にとって、これらの初期の経験の結果は健康福祉、融資制度、
収入をもたらす活動、意思決定からのさらなる除外を通じて悪化する。
多くの場合、高齢者が尊厳と自立を達成し、介護を受け入れ、市民的な事柄に参加する
ための方法は彼らにとって直接手に入るものではない。これらの状況は、僻地、闘争、も
しくは人道主義的な惨事の状況にある高齢者にとってより悪い。
女性は家族の存続とウェル・ビーイングにかなり貢献しているが、普遍的に貧困と除外
の点で不利である。開発の主導権に高齢の女性が参加することを保証するには特別な努力
が必要である。
世界の全ての地域で、相対的な富と貧困、ジェンダー、資産の所有権、職業へのアクセ
ス、資源の統制は社会経済的な地位の重要な要因である。最近の世界銀行のデータによれ
ば、多くの途上国では人口の半数以上が一日当たり2ドル以下の購買力しか持たずに生活
している(表2参照)。
社会経済的な地位と健康は親密に関連していることはよく知られている。どこにおいて
も、全ての年齢の貧困者はより障害に苦しみ、より早く死ぬし、まさに貧困者が最も苦し
んでいる。社会経済的な階段を昇るにつれて、人々はより長く、より健康的に生きる
(Wilkinson、1996)。
ここ数年間で、富者と貧困者の間にあるギャップとそれに続く健康上の不公平は世界の
全ての部分で増大してきている。この問題に対する対処の失敗は、個々の社会と全ての年
齢の人々にとってと同様に世界経済と社会秩序にとって深刻な結果をもたらす。
(冨永
貴公)
3.アクティブ・エイジング:概念と理論的根拠
もし加齢が積極的な経験であるならば、長生きするには、自立や健康、生産性、保護の
ための機会が続く事が伴わなければならない。WHO はこのビジョンの達成のための過程を
表すために“アクティブ・エイジング”ということばを使っている。
アクティブ・エイジングとは、老年期において、健康な生活の期待を拡げ、生産
性や生活の質の向上のために、ライフコースを通じて身体的、社会的、精神的な
健康の機会を最も効果的にする過程である。
“アクティブ・エイジング”は1990年代の後期に WHO で採択された。“ヘルシー・
エイジング”よりも包括的なメッセージを含んでおり、個人や人口の高齢化にどのように
影響を与えているかというヘルス・ケアに加えて、要因や分野が理解されている。他の国
際的組織、学会、政治的団体(G8、経済協力開発機構、国際労働機構、ヨーロッパ共同体
を含む)も、主に社会的で生産的な活動や意味ある仕事において関係性が継続するという
考えを表すために、“アクティブ・エイジング”を使っている。
このように、“アクティブ”ということばは、身体的な活動能力を指すだけではなく、社
会的、経済的、精神的、文化的、市民的な事柄において関係性が続くことを意味している。
病気や障害のために身体的制限がある高齢者も家族や仲間、地域社会や国に対して、積極
的に貢献し続けることができる。
日常生活について、調整し、対処し、決定する能力、つまり、自立を維持することは、
個人と政策立案者にとって最も重要な目的となる。自立を可能にするような健康はアクテ
ィブ・エイジングの経験を促進する上で重要になってくる。
政策や計画発展におけるアクティブ・エイジングのアプローチは個人の高齢化と人口の
高齢化の全ての難題に取り組む可能性を持っている。つまり、高齢者が援助が必要なとき
に、十分な保護やケアを供給していると同時に、アクティブ・エイジングは高齢者の自立
や健康、生産性の可能性を最も効果的にする。潜在的に、健康、労働市場、雇用、教育、
社会的政策がアクティブ・エイジングを支えているとき、
・ 人生の生産性の高い段階で早くに死んでしまう成人の数は減少する。
・ 慢性疾患と結びついた障害と苦痛を持つ高齢者の数は減少する。
・ 自立を保ち、質の高い生活を楽しむことができる高齢者の数は増加する。
・ 有償、無償の労働や国内や家庭内の生活における社会の経済的、また、重要な社会的、
文化的、政治的側面に生産的に貢献することができる高齢者の数は増加する。
・ 費用がかかる医療やケア・サービスが必要となってくる高齢者の数は減少する。
アクティブ・エイジングのアプローチは高齢者の人権、また、自立、参加、尊厳、ケア、
自己実現という国連の信念に基づいている。またそれは、戦略上の計画を“needs-based”
アプローチ(高齢者が受け身の存在だと考える)から生活のあらゆる側面において機会や
扱いの公平性を高齢者にも保証するという権利である“ rights-based”アプローチへと変更
している。そして、それは政策的過程における高齢者の参加に対する責任を支える。
アクティブ・エイジングの政策と計画は、人生の見通しと世代間の連帯を支えている。
今日の子どもは明日の祖母もしくは祖父である。彼らが祖父母として楽しむであろう生活
の質は、彼らが人生の初期に経験した脅威や機会に基づいているだろう。高齢者とその孫
世代は、世代間の相互依存的な社会の契約において明らかに関連している。
ケアにおける生産性を高め、費用を減らすという観点から、アクティブ・エイジングを
促進する政策や計画を制定する経済的な理由がある。障害のない人は、仕事を継続するこ
とを妨げられることはほとんどない。障害のない人は医療やケア・サービスをほとんど必
要としない。確かに、合衆国では1982年から1994年の間に障害の発生率が減少し
たために、ナーシング・ホームのサービス費用だけで浮いた費用は1994年には、17
3億ドルと見積もられた。(Snger,Manton 1998)
障害を治療するよりも、それを防ぐ方が遙かに費用が下がる。例えば、適度な身体活動
を促進するために必要な1ドルの投資が、医療費用だけで3.2ドルの節約になると見積
もられている。(U.S Center for Disease Control and WHO,1999)この同様の介入はまた、
社会的な相互作用を促進し、それは高齢者の精神的、心理的健康と強く関係している。
*アクティブ・エイジング:ヘルス部門の役割
アクティブ・エイジングを促進するために、ヘルス政策と計画は以下のことをする必要がある
・ 特に、貧しい人々や追いやられている人々に対して、過度の障害を減らす。
・ 主要な障害の原因と関連している危険要因を減らし、ライフコースを通じて健康や幸福を
保護する要因を増加させる。
・ 健康促進、障害防止、費用効果の供給、公平で整った長期的ケアを強調する一時的なヘル
ス・ケア・システムを発展させる。
・ 健康やアクティブ・エイジングの広範囲な決定要因における積極的な変化に影響するよう
な他の機関(教育、家庭、職場)を擁護し、共同する。
4.アクティブ・エイジングの決定要因とは?
根拠の理解
健康と生産性は個人や家族、国家を取り巻く様々な要因や“決定要因”に基づいている。
アクティブ・エイジングの決定要因を理解することで、それが作用する政策や計画を描く
ことができる。
全てを覆い尽くす要因:ジェンダーと文化
ジェンダーと文化は、他の全ての決定要因に影響しているため、アクティブ・エイジン
グの“全てを覆い尽くす”決定要因となっている。ジェンダーは、社会的地位や高齢者が
どのようにヘルス・ケアや意味のある仕事や栄養のある食事にアクセスしているかといっ
た要因に強い影響を与えている。文化的価値と伝統は、与えられた社会がどのように高齢
者を見なしているかということを大部分決定し、若い世代と一緒に暮らしているかどうか
は、好みの問題となる。文化的要因もまた、個人の行動や健康に影響し得る。例えば、地
中海の国々の伝統的な食事は、一部の非伝染病から保護する効果がある(WHO/Tufts)。堅
実な政策は、多様な政策の選択権の適性を考慮し、また、それらがどのように異なった人
口集団の健康に影響しているかということを考慮する事を通じて、ジェンダーと文化をレ
ンズのようなものとして使用している。
図9.アクティブ・エイジングの決定要因
ジェンダー
社会的要因
アクティブ・
エイジングの
個人的要因
決定要因
医療・福祉サービス
身体的環境に
おける要因
経済的要因
行動要因
文化
医療・福祉サービス
アクティブ・エイジングを促進するために、医療サービスは健康の促進や障害防止、主
要なケアに対する平等なアクセス権、長期的ケアに対する均衡のとれたアプローチを強調
するようなライフコースの見通しをすることが必要である。医療・福祉サービスは、統合
されたものであり、公平であり、また、費用効果があるものでなければならない。
健康促進とは、自らの健康をコントロールし、改善していく過程である。疾病予防活動
とは非伝染病やけがを防止し、うまく処理していくこと(第一段階の予防)と、慢性病の
早期発見によって防止すること(第二段階の予防)を含む活動である。これらの活動は、
障害の苦痛や費用とといったリスクを減らす。
長期的ケアは WHO によって定義されてきた。これは“インフォーマルな介護者(家族、
友人と/もしくは近所の人々)と/もしくは専門家(ヘルス・ソーシャル・サービス)に
よって担われている活動の形態であり、自分自身のケアを全てできない人に対して、その
人の好みに応じて、できる限り最大限にその人の自立や参加、自己実現、人間の尊厳を尊
重しながら、可能な限り最も質の高い生活を維持できるように援助することである。”
このように、長期的なケアはインフォーマルとフォーマルなサポート形態を含んでいる。
後者の方は広い範囲の地域社会、公衆衛生、ハウジング、ナーシング・ホーム、ホスピス
などでの施設のケアと同様なプライマリー・ケア、緩和ケアやリハビリテーション・サー
ビス、疾病や障害の原因をくい止める治療も含まれるかもしれない。また、精神保健サー
ビスも長期的なケアにおいて必要不可欠であるべきである。特に高齢者における鬱病など
の診断上の精神的病気は増加していると理解されている。しかしながら、高齢者の自殺率
は、より一層の把握と行動が必要であることを示唆している。
健康政策における最大の挑戦は、自己ケアのサポート(高齢者が自分自身で身の回りの
ことをすること)、インフォーマルなサポート(家族や友人の助けによって高齢者をケアす
ること)とフォーマルなサポート(医療・福祉サービス)の間の均衡の妥協点を見いだす
ことである。
世界中において、家族(主に女性)や近隣の人々が介護の必要な高齢者に対して、大部
分のサポートやケアを行っている。一部の政策立案者たちはフォーマルなケア・サービス
の供給によって家族の機能が減少してしまうのではないかと心配している。しかしながら、
調査によればこのような事実はない。適切なフォーマルなサービスが提供されているとき
は、インフォーマルなケアも重要なパートナーであり続ける。(WHO,1999)
大部分の人々は、高齢者のケアするための最も適した場所が家であることに同意してい
る。しかし、介護者(しばしば高齢者自身であるのだが)が、自分自身病気にならずに、
ケアを供給し続けるならば、サポートされなければならない。訪問看護婦、ホーム・ケア、
ピア・サポート・プログラム、リハビリテーション・サービス、補助具、レスパイト・サ
ービスやアダルト・デイ・ケアは全てインフォーマルな援助者が高齢者をケアし続けるの
を可能にする重要なサービスである。サポートの他の形態としては、トレーニング、社会
的安全補償、また、家族が不自由な高齢者をケアできるように住宅を改修することやケア
の費用を援助するための支払いが含まれる。
専門の援助者も、高齢者の力を把握し、高齢者が病気もしくは衰弱しているときに、ど
のような些細な自立さえも維持できるような力をつけるケアができるように、トレーニン
グや実践を行う必要である。専門家による横柄な態度は、サービスを必要とする高齢者の
自尊心や自立に悪影響を与えかねない。
アクセスの平等と費用の効果はヘルス・システムを考える上で重要になる。多くの国で
は、貧しい高齢者や地方に住んでいる高齢者は、必要なサービスをアクセスするのに制限
があるか、又はアクセスできないでいる。多くの地域における第一次的なヘルス・ケア・
サービスのための公的なサポートの減少は、経済的負担と高齢者やその家族における世代
間の負担を増大させてきた。
医療・福祉サービスが利用しやすく、アクセスしやすいとき、それらは、しばしば断片
化されて不調和な二重性とギャップを産み出すなものとなる。その結果、ケア・サービス
の供給の非効率性とコストの高いテクノロジーの不適切な利用とが結びついたこれらの要
因は、ヘルス・ケアの費用を拡大した主要な原因となったのであり、高齢者人口自体の拡
大ではなかった。
高齢者におけるヘルス・ケア費用の大部分は、人生の最後の数年間に起こる。;むしろ、
これらの費用はかなりの高齢の集団では漸減される。もし、人々が当初見込まれていたよ
りも障害もほとんどなく、長生きするならば、“ヘルス・ケア費用の爆発的増加”といった
悲惨な予測は、起こりそうにない。
*全世界の高齢者に影響している主要な慢性的健康状態
・ 心臓欠陥病(冠状動脈心臓病など)
・ 高血圧
・ 発作
・ 糖尿病
・ ガン;
・ 慢性肺障害
・ 筋肉状態(関節炎など)
・ 精神的健康状態(痴呆や鬱病など)
・ 失明、視覚障害
経済 的要因 : 収 入 、 労 働 、 社 会 的 保 護
経済環境における3つの要因がアクティブ・エイジングに特に重要な影響を与えている。
:収入、仕事、社会的保護
収入
多くの高齢者(特に一人暮らしの女性や地方に住んでいる高齢者)は、確実で十分な収入
がない。この事は彼らの健康や自立にマイナスの影響を与える。最も影響を受けやすいの
は、財産もなく、貯金もほとんど、もしくは全くなく、年金や生活保護費もない、または、
収入が低く、不確かである家族の一員である人々である。子どもや家族のいない人々はホ
ームレスになったり、貧困に陥る危険性がある。このようなことから、アクティブ・エイ
ジングの政策は、貧困を減らし、収入を生む活動において高齢者を巻き込んでいく機会を
増やすために、より広範囲の計画を統合する必要がある。
労働
世界の全ての地域において、高齢者が有償、無償、また、ボランタリーな仕事ができる
ような活動的かつ生産的な貢献をサポートする必要があるという認識が高まりつつある。
先進国では、高齢者をより長く働かせることで得られる可能性のある利益が、十分に理
解されていない。発展途上国では、高齢者は高齢期に入っても、当然のように経済的活動
に組み込まれているようだ。しかしながら、産業化と労働市場の変化は特に地方に住む高
齢者の伝統的な仕事の大部分を脅かしている。開発計画は、高齢者が収入を生む機会への、
融資制度や完全な参加の資格があるということを保証する必要がある。
しかし、有償の仕事だけに集中することは、高齢者がインフォーマルな分野(小さい規
模や自営業の活動、家庭内の労働)や家庭で無償の労働を行う価値ある貢献を無視しがち
である。発展途上国でも先進国においても、高齢者はしばしば若い世代が外で働くことが
できるようにするために家事や子どもの世話に対して重要な役割を果たしている。
全ての国において、技術や経験を持つ一部の高齢者は学校や、地域社会、宗教施設、会
社、健康、政治的組織においてボランティアとして活動している。このような活動は、高
齢者が自分たちの地域社会や国家に重要な貢献をしていると同時に、高齢者の社会的接触
や精神的な健康を増進することによって、高齢者がボランティア・ワークの利益を得るも
のとして奨励されるべきである。
*考えてみよう…
・ 調査では、収入の低い高齢者は、高収入の人々の3分の1しか高い機能水準を持って
いないようであることを示している。(Guralnick,Kaplan/1989)
・ 失業率が高くなれば、若い人々に職を与えるために、高齢者の雇用が減る傾向にある。
しかし、調査によると、早期退職によって失業者のために新しい仕事を空けることは、
効果的な解決とはなっていないということが分かっている。(OECD/1998)
・ 全ての世代で無償の労働を行っている国々では、調査によると、その貢献は国内総生
産の8∼14%を占めると見積もられている。(United Nations Volunteers/1999)
社会的保護
世界中において、家族が援助の必要な高齢者のサポートの大部分を担っている。しかし
ながら、社会が発展するにつれて何世代かが一緒に住む習慣が減少し始め、国々では、自
分で稼いで生活できない、また、一人で暮らしていたり、衰弱している高齢者のための社
会的保護を供給する仕組みを発展させるよう要求する声が高まっている。発展途上国では、
援助を必要とする高齢者は家族のサポートやインフォーマルなサービス提供、個人的な貯
金に依存している傾向がある。社会的な保険制度は最小限にとどまっており、場合によっ
ては、あまり保護を必要としないようなエリート階層に収入を再配分することがある。し
かしながら、いくつかの国々、南アフリカやナミビアのような貧しい国は、国の高齢者年
金がある。これらの給付金は、高齢者はもちろん、全家庭の収入の主要な財源となってい
る。
これらの小規模な年金から得られる資金は、家族の食料を買うためや、子どもを学校に
行かすため、また、農業技術における投資、全家庭の生存のために使用されている。
先進国において、社会的保護とは老齢年金、現物支給、企業年金、公的扶助、貯蓄奨励
計画、強制的貯蓄資金、障害・健康・失業者保険計画が含まれるだろう。近年、先進国に
おける政策改正では、高齢者の安全のための国家的サポートと個人的サポートを組み合わ
せ、生産性、長期雇用、段階的定年制度を推進するといった年金制度とは異なったシステ
ムを支持してきた。
社会的保護と経済的目標の供給に対する均衡のとれたアプローチは、進んで計画する社
会が成長する余裕があることを示唆している。持続的な経済的発展と効果的な労働市場政
策は、実のところ、統計学上の老化そのものよりも社会的保護を供給するための国家の能
力に劇的な影響を与えている。目標は、調和のたれた世代交代を促進する一方で、高齢者
の技術や経験を理解し、利用し、また、高齢者が十分な生活水準で生活できるよう保証し
ていくことである。
(栗原
亜里沙)
身体的状態に関する要因
高齢者が安心して年を重ねる為の身体的状況は、自立しているか、誰か他の人に依存し
ているのかにより異なる可能性がある。例えばご近所や地元の交通機関や公園まで安全に
歩いていける高齢者は、おそらく身体的、社会的により行動的であるだろう。一方安全で
はなく、汚染されている地区で生活している高齢者はおそらく外出しないだろう。それゆ
え孤独でうつ気味になりがちである。また元気がなくなり、次から次に問題が増えていく。
特に田舎に住む高齢者に関しては、それなりの考慮がされるべきである。なぜなら病気
の種類が異なるし、そこでは十分なサポートをほとんど受けることが出来ないからである。
都市化や仕事を探して若者が移り住んでいったりすると、高齢者はサポートの手段のほと
んどなく、健康や社会福祉のサービスを身近に受けることが出来ない田舎に孤立させられ
るかもしれない。また農業を続けられない高齢者もいる。彼らには自分たちの生計を立て
て、農産物の価値を損ねないために融資制度や新しい技術を身に付けるための訓練を受け
られるようなサポートが必要である。
高齢者にとって安全で快適な住居に住むことは、より良い生活を送るために非常に重要
なことである。近しい家族やサービス、交通手段を含みどこに住むかは、社会と積極的に
関わるかまたは孤立していくかの間の差を意味していると言えるだろう。
世界的に見て一人暮らしの高齢者(特に女性)は増加している傾向にある。高齢者の女
性は、豊かな国においても、多くの場合貧しく快適ではなくかつ(または)危険でもある
ような保護施設での生活を強いられていることもある。多くの発展途上国においては、ス
ラム街等で生活する高齢者の人口が急速に増加している。それは若い家族と一緒に生活す
るために高齢者が都市部に移り住んでいることによるものである。このような新しいとこ
ろで生活する高齢者は、社会的孤立や健康を損ねるといった高い危険にさらされている。
何か危機や衝突が起こったとき、定住していない高齢者は特に被害を受けやすい。彼ら
は難民キャンプまで歩いていくことが出来ないのである。たとえたどり着いたとしても、
住むところや食料を十分手に入れるのはとても難しい。特に高齢の未亡人にとっては、財
産分与のシステムが男性優位であるがゆえ、特に被害を受けやすい。
*考えてみよう
・ 約60%の高齢者が田舎で生活している(UN,1998)。
・ 交通事故によるけがの割合は、他の世代よりも高齢者の方が高い傾向がある (Lilley
etal,1995)。
多くの先進国においては、高齢者のために老人ホームではなく介護以外のサポートサー
ビスを含む施設(生活支援施設)に対する政策が重要とされている。研究結果によるとそ
のような施設で生活する人びとは、老人ホームで生活する人びとと同じくらいの障害を持
っている傾向にある。そしてこのような施設の利用は費用の面において効率的であり、不
適切な老人ホームにとって代わるものである(Gnaedinger,1999)。
高齢者の身体的状況における危険要素として、衰弱やけがが考えられる。こけたり、や
けど、交通事故に夜けがは日常的のものである。そのような高齢者のけがに対する保障は
若者よりも重要なものとなる。例えば、同程度のけがであったとしても、高齢者では後遺
症が残り、入院が長引き、リハビリの期間が長期になり、死に結びつく危険性も高いこと
などが考えられる。しかしけがの多くは予防できるものである。けがを“事故”とする典
型的な考え方は、今まで社会福祉の分野が歴史的にそのような考えを信じてきた結果なの
である。
個人的要因
生物的なもの、遺伝子的なもの、適応力は、人間がいかに元気に年をとるかに関する 3
つの大きな個人的な要因である。年をとるにつれ伴う老化のプロセスやその個人差の変化
は、重要なものになる。例えばうまく年をとっている 70 歳の人の身体的な状態は、通常の
30 歳の人と同じである可能性があるのだ。
年をとる過程において、いくつか認知能力(反応するまでにかかる時間、覚えるのにか
かる時間や記憶力のような能力)は次第に衰えていく。しかし、これらの能力の低下は、
本来持っている知恵や知識、経験によって補われるのだ。このような認知能力の衰えは、
加齢によるというよりもむしろ習慣になっていること(運動をやめること)、行動様式によ
る要因(飲酒など)、心理的要因(無気力になったり、自信をなくしたり、孤独になったり、
憂うつになること)によって引き起こされるものである。
慢性の病気(糖尿病、心臓病、アルツハイマー病やある種の癌など)に関して、遺伝子
的な要因が影響しているかどうかには個人差がみられる。多くの人びとにとっては加齢に
ともに起こる日常的な病気や能力の低下の多くは、遺伝子的ものによるのと同じように、
個々の行動やうまく適応していく能力、心理的・社会的・経済的な環境に大きく左右され
るのである。
60才をこえてうまく適応した生活を送っていくためには、臨機応変にあわせていく、
適応していく能力が要求される。多くの人びとは高齢期において抵抗し続ける。しかし高
齢者にとってもうまくやっていく能力というものは若者と大きな違いがあるわけではない。
衰えや変化に対してうまく適応していく高齢者は、自分をうまくコントロール出来るし、
前向きな姿勢やうまく物事をやっていく能力に自信(自己統制力)を持っている。
行動様式に関する要因
加齢に関する神話の1つに、高齢者は健康的な生活様式を身に付ける能力が低下すると
いうことがある。また高齢期における十分な運動、健康的な食事、禁煙、禁酒、医薬品に
ついて賢明になることは、病気や機能低下を防止し、長命につながり、生活の質を向上さ
せる可能性を持っていると信じられている。
身体活動について
定期的で適度な身体活動は、機能低下を遅らせ、健康な高齢者にとっても慢性疾患を持
っている高齢者にとっても慢性疾患の危険を減らす可能性がある。このことは精神的な健
康を改善し、社会との関わりを促すものである。身体的活動は、高齢者がより長いあいだ
自立した日常生活を持続するということを手助けするであろう。高齢者は身体的に健康で
あるということは経済的な面からみても有益なことである。活動的な高齢者は医療費があ
まりかかっていない(WHO,1998a)。
このような利点がいるにもかかわらず、多くの国において高齢者は身体をあまり動かさ
ないようにさせている。低収入の人や少数民族集団や障害を持っている高齢者は、ほとん
ど行動的ではない傾向にある。政策や計画は高齢者が運動するように、またそのような機
会を増やしていくよう進めていく必要がある。ウォーキングのために安全な場所を提供す
ることは、高齢者が自分たちで組織し、行動していくような適切な地域的な身体活動をサ
ポートするのと同じくらい特に重要なことである。専門的な意見としては、“何もしないこ
とから何かするようになろう”そして身体的なリハビリテーションのプログラム、つまり
高齢者が日常生活に戻れるように手助けするプログラムは効率の面とコストの面の両方に
おいて有効であると言われている。
しかし発展途上国においては全く逆で、非常に激しい労働や致命傷やけがを引き起こし
てしまうような仕事に高齢者が従事している場合が多くみられる。このような国において
は健康促進の政策として繰り返しの多い、危険を伴う激しい労働からの解放とけがや事故
を引き起こすような仕事における危険な労働の調整をすすめていく努力が必要である。
健康 的 な 食 事 に つ い て
高齢者の栄養失調は、(少し発展してきた国の多くにおける)栄養失調と(多くの先進国
や発展へと変化している国、急激に都市化を進めてきた国、そして伝染病がなくなりつつ
ある国における)カロリーの過大摂取の両方が含まれる。栄養失調は食事や歯がなくなる
こと、社会的経済支援や緊急事態、の制限や栄養学的な知識や情報が不足、質素な食事(e.
g.高カロリーの食事)、病気や医薬品の服用、社会的孤立、そして認知能力や身体的な障害
(食事を買ってきて用意することができなくなること)、身体行動の欠落などによって引き
起こされる。
カロリーの過大摂取は高齢者の反省疾患や障害の危険を増加させている。病的な肥満や
高脂肪の食事は糖尿病、心臓血管の病気、高血圧、関節炎、ある種の癌と強い関連がある。
カルシウムビタミンDの不足は、高齢者の骨密度を低下させ、特に女性の高齢者にとっ
て骨折を増加させる危険がある。そのことは医療費がかかり、衰弱を引き起こす。
喫煙について
中高年の喫煙家は重度の障害を持っている煙草を吸わない人と比較して、喫煙に関連す
る病気によって早死にする傾向がある。喫煙は、医薬品の効用にも影響を及ぼすかもしれ
ない。間接的な喫煙は、高齢者、特にぜんそくやその他呼吸器系疾患に苦しむ高齢者、の
健康にマイナスの影響を与えている。
多くの喫煙家は若い時に煙草を吸い始め、すぐにニコチンの虜になっていく。それゆえ
に子どもや若者が煙草を吸わないように勧めることは、煙草を制限するために有効な手段
である。同様に、成人に対しても課税や広告の制限といった広範囲における運動を通して、
喫煙家を減らし、あらゆる年代においても禁煙を勧めていくことが重要である。
煙草をやめるのに遅すぎることなど決してない。高齢期において、煙草をやめることは
心臓病や心臓発作、肺癌の危険を減少させる。
*考えてみよう
・ 定期的で適度な身体活動は、心臓病の気のある人が心臓疾患で死亡する危険性を 25%
から 20%にまで減少させる(Merz and
Forrester,1997)。このことは実際心臓病
や慢性疾患に関する病気を和らげるかもしれない(U. S
Preventive
Services
Task Force,1996)。
・ 年をとるとある種の栄養素を摂取することが困難になってくる。エネルギーの必要性も
基礎代謝の低下により減少する。だから高齢者が多種の栄養価の高い食品、つまり文化
的に受け容れられてきたものであり適当な価格で手に入るもの、を食べることが非常に
重要になってくる。
・ 研究結果によると、煙草を制限することで発展途上国や今現在発展している国において
は大きな経済的な影響がみられるそうだ。例えば中国においては、低く見積もっても
10%煙草にかける税を上げると 5%にまで消費量は減少する。そして全体的な利益は
5%まで増やすことができる。この利益を、中国における貧しい人々の健康に関するケ
アサービスを行なうことのために活用することが重要になってくる(World Bank,
1999)。
アルコールについて
高齢者は若者と比較して多くお酒を飲んでいるというわけではない。しかし加齢に伴う
新陳代謝の変化はアルコールに関する病気、つまり栄養失調や肝疾患や消化性潰瘍などを
含む病気に影響を及ぼしている。高齢者がアルコールと薬を混合することによって痴呆に
なったり、潜在的な危険要素を呼び起こすことと同様、こけたり、けがをしたりする危険
性も高い。そのような理由により、アルコールに関する対処サービスは若者同様高齢者に
も与えられるべきである。
最近の WHO 論文によると、45 才以上の人々についてアルコールを 1 日一杯までという
低いレベルで飲んでいる人に関しては、心臓病や心臓発作になりにくいという。しかし全
体の死亡率から見ると心臓病で亡くなった人の多くは 1 日一杯以上の飲酒を行なっていた
人の方が、心臓病による死亡の危険性が高く、影響を受けていると言える(Jernigan
et
at.,2000)。
医薬品について
高齢者は慢性疾患を持っており、若者よりも薬を服用する場合が多い。当たり前のよう
に医者によって処方されている。多くの国において低収入の高齢者は、医療保険にお金を
ほとんど、全くかけることができない。そのため薬なしですごすか、収入のほとんどを薬
代に費やしている。
一方豊かな国においては、薬が高齢者、特に高齢女性に処方されすぎていることが問題
になっている。薬に関連する病気が進行し、それに頼りすぎると個人的に不安を感じたり、
回避できない入院という深刻な結果になる(Gurwitz
and
Avorn,1991)。
年を重ねるにつれ、日常的に服用する薬や慢性疾患、痛みの緩和、生活の質を向上する
ための処置のための薬への要求が増えていく。このことについては、本当に必要な、安全
な薬品を増やすことそして現在ある、または新しい薬品をより適量、そしてより適度な価
格で提供できるように努力していく必要を迫られている。この取り組みには政府、保健士、
伝統的な医者、医薬業界、高齢者の代表が組織する組合などが協力するべきである。
社会環境における要因
社会的サポート、教育や生涯学習の機会、暴力や虐待からの保護などのキーとなる要因
は社会環境にある。つまり高齢者の健康促進や自立そして生産力といった要因である。孤
独、社会的孤立、リテラシーや教育の不足、高齢者に対する虐待そして何らかの衝突に身
の危険をさらすことは高齢者が障害を持ち、早死にする危険性を増加させる。
社会的支援について
家族、友達、近所の人、職場仲間そして地域におけるグループとの関わりは、あらゆる
年代において不可欠なものである。高齢者にとってそのことは特に重要となる。なぜなら
他の世代と比較して、高齢者は愛する人や友達を失いがちであり、孤独、社会的孤立そし
てより狭い社会での有能性に関して傷つきやすい。高齢期における社会的孤立は、身体的・
精神的の両方の能力を低下させ、健康をそこねるような行動、つまり過剰なアルコール摂
取や身体活動を行なわなくなるという行動を増加させることと結びつく。多くの社会にお
いて高齢の男性は女性よりも社会的ネットワークが狭い。しかし多くの文化において未亡
人は、構造的に社会の流れから締め出され、地域社会から拒絶されている。
裁判官、非政府組織、私的な組織や健康や社会の専門家は、伝統的な社会、高齢者のた
めの地域のグループ、ボランティア、近所の人の手助け、精神的な来訪仲間、家族の介護
者、世代間の問題や広範囲におけるケアマネージメントを支援することで、高齢者の社会
ネットワークを育成する手助けができるであろう。
教育とリテラシーについて
教育とリテラシーのレベルが低いということは、雇用機会が減るということと同様、高
齢者が障害を持つことや死に至る危険を増加することと関連している。早い段階での教育
と生涯学習の機会を組み合わせることは、高齢者に適応力や自立を保つために必要な認識
能力や自信を与える。
研究によると高齢の労働者の雇用問題は、年をとっているということではなく彼らの低
いリテラシーの能力に関連しているという。もし高齢者十分意味ある仕事をし、労働を続
けたなら、仕事場で学び続け、地域社会での生涯学習の機会が必要となる( OECD,1998)。
若者のように高齢者にも新しい科学技術、農業、電子伝達などの新しい技術に関する訓
練が必要である。高齢者が自分で学習ができるように、実用的で物理的な考慮(大きなコ
ンピューターの画面にすることのようなこと)を増やすことで、視覚的、聴覚的、また覚
えやすいようにかたちを変えていく補償ができるであろう。高齢者は創造的で流動的なま
まなのである。彼らの経験や知恵は職場や地域社会での問題解決に役立つであろう。異世
代間における学習は、文化的価値を伝え、そしてあらゆる世代の価値観を広めていく。研
究によると高齢者とともに学習したことのある若者は、より積極的で現実的に高齢期を捉
える姿勢を持っているということだ。
暴力と虐待について
高齢者は戦争や紛争の時、その身が危険にさらされることが多い。平和な時にでも、弱
く一人暮らしをしている高齢者は特に、泥棒、強盗などの見知らぬ人によって犯罪に巻き
込まれ傷つきやすい。しかし高齢者、とくに高齢女性に対する暴力の多くは、被害者の身
近な人間である家族やケアーしている介護士による“老人虐待”である。国際的な老人虐
待防止のネットワークによると、老人虐待は一度きりまたは繰り返し行なわれるものと、
信頼関係があるため行為としてはっきり成立していないものとがある。そしてそこには高
齢者の苦痛や痛みによって世話をしていかなければいけないという予測が存在していると
いう。老人虐待には無視することと同様、身体的、性別的、心理的そして経済的なものが
含まれる。あらゆる国において老人虐待はよく知られているが、見えないところで行なわ
れている。老人虐待は、人権侵害であり,けが、病気、生産力の損失、孤独、そしてうつの
大きな原因となっている。
家庭内や社会における高齢者への暴力は正義、年金、労働、そして社会の発展に関連す
る問題である。これらの暴力に対して抗議し、なくしていくためには公的な機関、法的な
機関、健康や社会サービスの専門家、宗教団体、労働者の代表、支持する組織、そして高
齢者自身を含む多層的で多方面にわたるアプローチが必要である。このような問題を公に
知ってもらう努力、そしてジェンダー的な違いや異なる立場にいる人の価値観の転換を勧
めていく努力を続けることもまた必要である。
*考えてみよう
・ 日本において社会的接触がかけていると報告された高齢者は、より高いレベルの社会的
サポートを受けた人と比較して 3 年以内に死亡した割合が 1.5 倍であった。またアメリ
カでの研究では、高いレベルの社会的サポート(特に家族によるサポート)を受けた高
齢者は、腰の外科手術から回復する傾向や、慢性疾患とうまく付き合っている傾向があ
る(WHO,forthcoming)。
・ 世界的にみて、リテラシーの割合について男女差がみられる。1995 年、あまり発展し
ていない国々においてリテラシーが欠落している割合は、成人男性が 20%であるのと
比較して成人女性は 31%であった(WHO,1998b)。
・ 多くの国において、リテラシーの欠落の割合を高くしているのは高齢の男女であり、彼
らは低いレベルの教育しか受けていない傾向にある。
・ 老人虐待はあらゆる経済的レベルの家庭内で起こっている。あらゆる犯罪や搾取が増え
がちである、経済的混乱を経験した社会や組織化されていない社会において、老人虐待
はひどいものとなりがちである。
(佐藤
仁美)
5.対策
人口の高齢化は世界的な現象であり、国際的、民族的、地方及び地域での取り組みを強
く要求する。ますます密接につながって行く世界において、世界のどの地域であろうとも、
疾病パターンの人口統計による急速な変化に対処できないと、いたるところで社会継続的
かつ政治的影響がもたらされるだろう。私達はそれぞれ、個人レベルで、日ごとに年を取
っていく。高齢化およびに高齢者への共同アプローチは、最終的に、私達自分、子供達、
そして孫達が人生の晩年を如何に経験するかを決めることになるのである。
本政策枠組みでは、3 本 の 基 本 的 な 柱 へ の 取 り 組 みを必要とする:
・健康と自立
慢性疾患と機能低下に対する危険要素(環境と行動の両側面)が低く、
保護の要素が高ければ、人々は長期にわたり質の高い生活を続け、高齢者は健康で、自分
自身の生活をうまく営むことができる。したがって高額医療や介護サービスを必要とする
高齢者は少数となる。
図10.アクティブ・エイジングのための政策枠組み
高齢者のための国連原則
アクティブ・エイジングの決定要因
行動政策の柱
生産力
保護
健康と自立
政策ゴール: アクティブ・エイジング
アクティブ・エイジングのための政策枠組みは、高 齢 者 の た め の 国 連 原 則 (外側の円)
を手引きとする。これらは、自立、参加、介護、自己実現、そして尊厳である。決議は、
アクティブ・エイジングの 決 定 要 因 が、個人と集団の加齢の仕方に対し、どのように影
響するかについての理解に基づいて成されている(19ページ、図3参照)。健康と自立、
生産力、ならびに保護からなる3分野で、これらの決定要因に対応する政策的措置が求
められる。
生産力
労働市場、雇用、教育、保健、社会政策・プログラムが、高齢者の能力、ニー
ズ、趣向に応じて、かれらの社会、経済、文化、精神活動への全面参加を支援する。高齢
者は引き続き、有償・無償の活動で、社会に生産的貢献をすることができる。
保護
政策・プログラムは保健、社会、財政、身体安全面での高齢者のニーズと権利
に対応して、高齢者が、自分で自分を守ることが出来なくなった場合に、かれらに保護、
尊厳、そして介護を保障する。 またその介護を行う家族は、愛心で高齢者を介護する努
力に該当する支援を受けることができる。
部門間の共通政策目標
アクティブ・エイジングを達成するには、保健・社会サービス、教育、雇用、労働、財
政、社会保障、住宅供給、交通、司法、農村・都市開発を含んださまざまな部門間での共
同取り組みが必要となる。
すべての政策は、世代間の連帯を支持し、高齢世代における
男女性差や属するグループ間の格差などを無くすための明確な目標を含んで取り立てなけ
ればならない。
貧しい、または社会の主流から取り残されたり、農村部に暮らす高齢者
に関しては、特別な注意を払う。
主要政策提案
1.主要疾患に関する危険要因の蔓延を削減し、ライフ・コースを通じて健康と福祉を
守るための要素を普及する。
・文化的に適切で地域住民ベースでの、高齢男女のための身体活動用ガイドラインを作る。
身体的に活発でいられるための、快適で利用しやすくてかつ手頃な機会(例:安全な遊
歩道や公園)を提供し、定期的、適度な身体活動を指導できる同輩高齢者のリーダーや
グループを支援する。
・教育と政策手段として使用可能な、文化的に適切で地域住民ベースの、高齢男女のため
の健康食に関するガイドラインを作る。各種情報の提供(高齢者に必要な栄養素に特定
した情報を含む)と、高齢者の口腔衛生を向上させるための健康食政策と、介入を通し
て、老後における改善された食事療法と健康体重管理を支援する。
・地域、民族、国際レベルで、タバコ製品のマーケティングの管理と、喫煙を制御するた
めの包括的な措置を取り、高齢者が禁煙を支援する。
・高齢者による飲酒、薬物療法、ならびに他の薬物の乱用を解決し、不適切な処方乱用慣
習をなくすための政策とその実践に取り組む。
・保健、社会サービスのプロが、前向きな自己管理と健康的なライフスタイルについて、
高齢者に助言と指導ができるよう、刺激(インセンティブ)と訓練と教育を行う。
・地域社会の強化、相互扶助グループ、伝統的社会、同輩間の援助、近隣訪問、家族介護
などの支援によって、社会的疎外のリスクを減らす。
・高齢者に応じて、現実的なゴールを設定し、高齢者が自己実現感と自信感を持てるよう
に援助しながら、彼らの能力を十分に活かす。
・高齢期における精神衛生の重要性を認識し、守るように支援する。
・HIV/AIDS の蔓延を軽減するための予防と教育の取り組みに、高齢者を含める。
2.保健福祉、病気予防、費用対効果の合理性、公平で尊厳のある長期ケアの提供を旨
にする保健と社会サービスシステムを作る。
・高齢者の力と貢献を認める一次医療(プライマリー・ヘルス・ケア)と長期医療モデル
が可能になるよう、保健と社会サービスワーカーを育成する。
・保健と社会サービスシステムにおける年齢差別をなくす。
・先端技術(例:遠隔治療)とローテク(例:地域社会密着の福祉計画)、農村や孤立した
地域での一次医療、長期ケアの利用における不公平を無くす。
・受益者負担金制の廃止、ならびに公平な介護保険制度を実施することで、貧しい高齢者
も公平に介護利用にアクセスするようにする。
・一次医療と社会サービスの連携を図り、さらに改善する。
・公共と民間部門間の提携を活性化し、政府、市民社会、非営利部門のあらゆるレベルを
含めた長期エアへの包括的アプローチを提供する。
研修、一時療養、年金、金融助成
金、在宅ケア介護サービス等の構想を通して、インフォーマルな介護者を支援する。
・滞在型介護施設に、高質の基準と、良い刺激を与えられる環境を確保する。肉体的疾病
だけではなく、痴呆やその他の精神衛生上の問題を抱える高齢者に必要なサービスを提
供する。
・すべての人に、自身の文化的価値が尊重され、認められた死を迎える権利を保障する。
・できることなら、自分のすきな場所と人々に囲まれ、苦痛を感じないながら死ぬことが
可能となる政策を図る。
・伝統医学、補完医学に精通している高齢の治療家を支援し、彼らの教師としての役割を
奨励し、認める。
3 .と り わ け 社 会 の 主 流 か ら 取 り 残 さ れ た 集 団 に お け る 重 度 障 害 者 の 負 担 を 軽 減 さ せ る 、
・高齢者の健康状態を改善し、障害や早死を減らすための、性差にも着眼した目標を設定
する。
・障害の徴候や悪化を防ぐに役に立つ、「高齢者の取り扱いやすい」基準と環境を作る。
・環境に変化を与え、リハビリ・サービスを提供、効果的な補助器具(例:矯正眼鏡)を
提供することで、障害者の自立を支援する。
・高齢歩行者の保護、通行の安全確保、転倒防止計画の実施、屋内の障害物除去、安全に
関するアドバイスなどによって、怪我を予防する。
・障害を減らす効果的で、費用対効果の高い治療(例:白内障手術、人工股関節)を、低
所得高齢者がもっと利用できるようにする。
・必需ながら手に入れられない薬物、安全で必須な薬物治療を高齢者がもっと手ごろな価
格で利用できるようにする。
・自立を妨げるバリアを取り除き、地域社会、家族生活に全面参加できるよう高齢者を支
援する。高齢者のためのさまざまなハウジングオプションを開発する。
4.社会のあらゆる側面で、高齢者のアクティブな参加を支援する。
・貧困を無くすめの社会開発構想の企画、施行、評価、および他の高齢者の権利に影響を
与える政治的措置に、高齢者を含める。
高齢者が、若年者と同様、開発補助金、所得
増加プロジェクト、融資などを利用できるようにする。
・個人のニーズ、趣向、能力に応じて、高齢者が他の年齢グループと同じ割合で、有意義
な事業に参加できる労働市場、雇用政策と計画を制定する(例:年齢差別の廃止、高齢
労働者残留)。
・多様な年金制度、より柔軟な退職選択肢(例:漸進的な退職、または部分退職)、高齢者
の生産力を促す年金改革を行う。
・ライフ・コースを通じて、教育、就労、介護責任に専心する期間により柔軟性を与える。
・非公式な部門でのボランティアや家庭での介護における、高齢男女の貢献を認める。
・ボランティア活動の意義を認め、特に健康や交通手段の不利でボランティア活動が制限
される高齢者に、ボランティア活動に参加できる機会や方便を与える。
・高齢者のための、生涯学習と能力開発とりわけ情報技術の提供を支援する教育訓練の政
策、プログラムを作る。
・学校で世代間活動を行い、若年者達にアクティブ・エイジングについて教える。
・高齢者のための教育情報とともに、アクティブ・エイジングに関する現実的かつ肯定的
なイメージを持つメディアと連携する。
5.とりわけ多難なときに高齢者に保護を提供することで、健康を改善し、自立を高める。
・ 高齢者の HIV/AIDS への関連性を認め、死を目前にした家族や親を亡くした孫の世話をする高齢者に、
必要な財政ならびに介護支援を提供する。
・ 高齢労働者を怪我から守るための職業安全基準と、高齢者が引き続き生産性を高めながら安全に働ける
公式・非公式の作業環境の改善を図る。
・ 痴呆、ボケ状態の高齢者でも個人的意思決定の権利があることを認める。
・ 生活の質(クォリティ・オブ・ライフ)を高めるための社会保護構想とともに、貧しく孤独な高齢者の
ための社会的安全ネット対策を支援する。
・ 危険な医療・治療から高齢消費者を守る。
・ 安全で適切な、とりわけ紛争や危機の際の避難施設(シェルター)に対する、高齢者の権利とニーズを
認める。家賃補助、協同住宅構想、住宅改築援助などを通じて、必要なときに、高齢者のための住宅供
給を支援する(独居者の場合には特別な注意を払う)。
・ 非常事態の際、高齢者を保護する必要性を認知し、それに従って行動する(例:歩けない人のための移
動手段を救援センターと連携する)。 非常時のあとの復旧作業で高齢者のできる貢献を認め、彼らを復
旧構想に含める。
・ 戦時中、高齢者に対する犯罪が起こることを認識し、加害者を裁判にかける。
・ 財産の窃盗、健康を脅かす埋葬儀式やその他の有害な慣習から、未亡人を保護するための法律を制定す
る。
・ 老人虐待(肉体的、心理的、財政的、ならびに無視)を犯罪として取り扱い、犯罪者の摘発を奨励する。
法律執行官、保健と社会サービス業者、精神的指導者、高齢者保護団体・グループに訓練を義務させ、
よりよく老人虐待に対処する。
・ 公共情報や宣伝キャンペーンを通じて、老人虐待(特に、高齢女性、未亡人に対する家庭内暴力)の不
当性を自覚させる。
ここに、高齢者とともにメディアや若者も含める。
6.研究を進め、知識を共有する。
・ 政界、公開討論会、ラジオやテレビ番組などメディア手段での対談、討論、論争を通じて、「アクティブ・
エイジング」という概念を明確にし、世間一般に広げる。
・ 人口の高齢化に関する政策制定のための関連情報を収集、分析できるよう、発展途上国を援助する。
・ アクティブ・エイジングの様々な決定要因や、それらがどのように相互作用するかに関連した証拠、高
齢者を理解するためのライフ・コース・アプローチ、アクティブ・エイジングをもたらす要因などにつ
いての、具体的で成功した政策とプログラムに関する詳細な分析を、印刷物メディアで出版する。
・ アクティブ・エイジングに関する研究計画表を作成する取り組みに、高齢者をアドバイザーと調査者と
して招き入れる。
・ 政策立案者、メディア、高齢者グループそして一般社会もわかりやすく、使いやすい高齢化に関する信
憑性のある研究活動の結果を発表する。
国際対話の重要性
高齢者問題国際計画の発足とともに、1982年の高齢化に関する国連総会は、高齢化する世界によっ
て突きつけられた難題を自明した上で、転換点として特筆された。2002年4月には、スペインのマド
リッドで第2回高齢化に関する国連総会が開催される。
会議は、高齢者問題の国際計画改案を採択する
予定である。
WHO(世界保健機構)は、高齢化、健康問題に関する世界戦略の発展に、討論のための枠組みを提供し、
そのプロセスを支援することに臨んでいる。
本文書に挙げられた枠組みが、各国または世界が高齢者の健康と自立、生産力と保護を達成するための
政策制定を促進できるよう願う。この枠組みは、国家間の経験交流を促進し、活動改訂計画、保健福祉に
関する政策制定に力になれるよう作られている。この枠組みに関するご提案、ご意見をどうぞ。
スイス
20 Avenue Appia, CH -1211 Gen eva 27
世界保健機構
健康増進、非伝染性疾病予防監視部
f a x : + 4 1 -2 2 -791 4839
email: [email protected]
(張
明順
訳)
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