...

MRI | 自治体チャンネル(2006年11月) | キー

by user

on
Category: Documents
19

views

Report

Comments

Transcript

MRI | 自治体チャンネル(2006年11月) | キー
キーパーソンに聞く
自立と共生のグループリビング
「個」の尊重と長屋のおつき合い感覚と
西條 節子
NPO法人 COCO湘南 理事長 氏
聞き手: 三菱総合研究所 社会情報通信研究本部 主席研究員 田渕 雪子、
本誌編集部、三菱総合研究所研修生 花谷 禎昭
自治体チャンネル+
神奈川県藤沢市にある小田急線湘南台の駅から徒歩12分、木造 2 階建ての「COCO湘南台」は、
周りの家々にすっかりとけ込んでいた。NPO法人COCO湘南が運営する高齢者生き活きグルー
プリビング「COCO湘南台」は、10人の高齢者による“自立と共生”の暮らしだ。加齢に伴う不
安や孤独を、共に生活することで助け合いながら、健康の持続と自立を図る。発起人は、NPO
法人COCO湘南 理事長 西條節子氏。ご自身も「COCO湘南台」に住み、コーディネーターを担う。
現在、このNPO法人が運営する同様の施設は 3 つ。全国的な広がりもみせつつあり、日本自転
車振興会も、普及のための補助事業を始めている。
グループリビングという暮らしを開発し、実践してきた西條氏に、そこに込められた想いを伺っ
た。
設計家、看護師、主婦…など、一人ひとりが経
本誌 グループリビングをつくろうと思った
験豊富で、異なる知識、ノウハウを持っていま
10
きっかけを教えてください。
した。研究会を始めたのが1996年、98年には提
18 西條 節子(以下、西條)
40代に藤沢市議会
案書をまとめ、99年 4 月に「COCO湘南台」が
議員となり、その間・その後、海外の福祉先進
スタートし、その後さらに 2 か所開設しました。
諸国に学びに行くようになりました。海外の高
3 か所あると住み替えができる。ご夫婦が別々
齢者が自分で生き方を選び、生き生きしていた
に住んで時々会うことで、恋人のような体験を
のに対し、その頃の日本では、当時は呆けたら
もう一度できれば、熟年離婚対策にもなるで
どうしよう、同居してうまくいくのかなどと
しょ(笑)。
平成
●自らが暮らしを豊かにするグループリビング
年
月号
11
いった不安が渦巻いていました。なぜこんなに
も違うのかと感じたのがきっかけです。日本の
●「個」を尊重する部屋づくり
高齢者は、行政任せにしたり、家族に遠慮した
本誌 個室を起点にした共同生活がグループリ
りして自立度は低いように感じました。
ビングの 1 つの特徴ですね。個室の広さは、す
このような状況を目の当たりにしつつ、私も
べて25m2(約15帖)で統一されていますが。
60歳を過ぎ友人と暮らしていて、自分はどのよ
西條 研究会で、まず、私達の老後をどう暮ら
うな暮らしをしていきたいのかを考えるように
したいかを話し合って、住居を考えました。そ
なりました。ならば、自分の経済状態にあった
の時、「家族と同居の高齢者は、『 6 帖一間』が
できる限りの望む暮らしを自分でつくってしま
一般的とよく聞くけど、どうして?」と、みん
おう!言ってみれば、自分も含めモルモットを
なで話していました。シンプルでいいので、自
10人くらい集めてあちこちに発信していこうと。
分の荷物を持ってこられる広さの、自分の部屋
そこで、まずは研究会をつくりました。こう
が欲しい、と。
いう時、ただの仲良し仲間が集まってもダメ。
理想の生活に、実際に建物や共益費にかかる
集まってくれたのは、40代から70代、男性 7 人、
費用と入居者の可能な費用負担とを照らし合わ
女性 9 人のメンバーで、経済の専門家、発明家、
せていくと、限界もみえてきました。その中で
さいじょう・せつこ
現在、COCO湘南台の生活者でありコーディネーター。
1928年長崎県生まれ。日本赤十字専門学校(現看護大)卒。
神奈川県立藤沢高校教諭を経て、藤沢市議会議員 6 期24
年を務める。知的障害(児)者の親達とともに藤沢に福祉
の輪を広げ、社会福祉法人藤沢育成会へ。同会前理事長。
著書に、『福祉の食卓―旅に学び、旅に遊ぶ』
(みづき書房、
1999年)、『10人10色の虹のマーチ 高齢者グループリビ
ング〔COCO湘南台〕』(生活思想社、2000年)あり。
〈NPO法人 COCO湘南のあゆみ〉
1996年 5 月:バリアフリー高齢者住宅研究会が発足
1998年 4 月:提案書『
「自立と共生」バリアフリー
グループリビング 暮らしの実験 COCO湘南』完成
この間、NPO法人の認定を取得
1999年 4 月:神奈川県藤沢市に「COCO湘南台」開設
2003年 7 月:神奈川県海老名市に「COCOありま」開設
2006年 4 月:神奈川県藤沢市高倉に「COCOたかくら」開設
西條氏のパートナーであり、同居人?(犬)のルル▶
も、絶対譲れないものは、トイレ、ミニキッチ
〈COCO湘南台〉平面図
ン、洗面所となり、その広さを確保すると、年
金の範囲内で、自分の持てる空間は 25m2くら
い、と落ち着きました。
みんなには、恋人を泊めてもいいのよって
言ってるの(笑)
。別途、来訪者向けのゲスト
ルームもありますけどね。
本誌 都会と地方では、個室主義の受け止め方
平成
が違いませんか。
西條 私の中では、
「個室」が基本だと思って
年
18 います。都会でも地方でも個人を尊重していく
月号
11
ことはあらゆるケースにおいて基本でしょう。
ここには、全盲の方、車椅子の方もいますし、
私自身も身体障害者です。しかし、全員個室で
庭
す。いくつになってもその歳なりの個人のプラ
イバシーとお色気もあり、羞恥心もありますよ。
他方、共用スペースも大事だと考えています。
お腹が急に痛くなった、ということがあれば、
昔の長屋みたいに、みんな、どうした…と出番
となります。
最近、「バスメイト」と「ベルメイト」を始
めました。加齢してくると、お風呂は一人では
危ないこともあるので、 2 、 3 人で一緒に入る。
具合が悪くなれば、ベッドとトイレにあるボタ
ンを押すと近くの部屋の人に連絡できる、とい
うものです。やはり高齢になれば、危険なこと、
気をつけなければいけないこともでてきます。
個人のプライバシーを大事にしつつ、加齢によ
る不安をお互いに助け合っていけばよいと思い
ます。「自立と共生」の心意気です。
設計者:最上 真理子氏
木造 2 階建て
面積 敷地:913㎡
建物:484.20㎡
個室:25.06㎡
資料:NPO法人 COCO湘南
COCO湘南台の連絡先
〒252-0804 藤沢市湘南台7-32-2
FAX:0466-42-5767
E-mail:[email protected]
回、夕食後に生活者10人で、ミーティングをし
ます。日常の細かいことから、何でも率直に話
し合う時間をつくっています。共有スペースを
うまくつくれば、毎日の暮らしの中で、自然の
コミュニティができるようになっていきます。
コミュニティづくりというと、麻雀大会とか○
○大会とか、イベント中心に発想することが多
いでしょ。そういうつくられたものではなく、
リビング・食堂は、天井を高くとり天窓にしているので、とても開
放的。サロンコンサートはここで。
リビングの広さ、廊下の広さなどの空間的な環
境の影響があれば、自然にコミュニティがとれ
るようになりますし、心豊かになれますね。
個室、コミュニティ、外の地域と 3 つの場所
があり、まさに“くらし”の家でしょう。
●10人10色のアイデアを活かす
本誌 入居者はどのように決めるのでしょうか。
自治体チャンネル+
西條 COCO湘南台の時には、当初からの研究
会に参加してきた私ともう一人、またオブザー
ミーティングでの決定事項。生活のルールは一つひとつ生活者の
話し合いで決める。
平成
年
月号
11
残りの方を公募し、まずは年齢構成を考えまし
た。同じ年代ばかりにならないようにして、入
12
18 バーの 3 名の入居がすでに決まっていました。
本誌 グループリビングは家庭のようなもので
居当時、男性 1 名を含む60代から80代までの方
もあり、長屋のようなものでもあるんですね。
が住み始めました。年齢に幅があると、全員が
同時に高齢化することもありませんし、学び合
●環境がつくるコミュニティ
うことができます。食事やミーティングなどに
本誌 共用スペースも広くとっていますね。
も参加しやすいようです。
西條 例えば、大浴室は、裸のつきあいという
COCO湘南台でも他の 2 か所でも、入居者募
コミュニティの空間としても、役立っています。
集にあたって、説明会、懇談会を積み重ね、個
夕食(調理は外部委託)は、 2 階の共用の食
人相談の機会をつくり、気になることなどを聞
堂で全員で食べ、朝食は朝寝坊できるよう自由、
いて、丁寧に検討しました。一人ひとりの異な
お昼は委託先のお弁当を食べても、自分で作っ
る質問は、みんなも考えていることかもしれま
てもいいとしています。 1 日 1 回のみんなでの
せんから。こちらの考えも説明し、合わなくて
夕食、というのが何より楽しみになっているよ
やめていく方もいますので、自ずと数は調整さ
うです。他所でみる50人の食事は静かだけれど、
れました。最後に入居予定者同士で懇親会をし
ここではとてもにぎやか。10人だと 3 つくらい
て、お互いの好みを話し合ったりすると、だん
の小さなコミュニティが自然にできあがる。こ
だん打ち解けていきますね。私は、頭と心を使っ
れも、10人にした理由の一つです。つまり、孤
て入居者の方の判断をしていますが、最後は独
立する人はありませんね。
断と偏見かな(笑)。
COCO湘南台では、 2 階に食堂、 1 階にお風
通常、有料老人ホームでは、建物のハコがで
呂を置いているので、上下どちらにも行かない
きてから入居者を募集しますが、私達は、ハコ
といけません。建物の中でもかなり動くことに
がまだできていないうちから説明会を行い、入
なりますし、人と顔を合わせます。また、月 1
居者は建設段階にも関わります。このプロセス
西條 まず、自助は、年金などを使って、自分
えるでしょう。
でできる範囲で、持てる知識や経験を活かして、
本誌 各グループリビングでは、そこに住んで
他人を煩わせず、工夫で楽しむことで、このよ
いる生活者の中から生活者間の調整役として
うなことは、たくさんあります。
コーディネーターを一人決め、西條さんもその
次に、共助は、地域の資源、ネットワークを
お一人ですね。この役割が大事だと感じます。
用いて共生することです。ホームヘルパー、食
西條 とても大事です。コーディネーターには、
事や掃除担当のサービス、近所の人もそうで
聞く耳を持ち、人の話を受け入れられることが
しょう。ここでサロンコンサートを開くなど、
必要だと思います。さりげなく裏方ができる人
私達が火付け役となって、地域を巻き込んでい
がいいですね。私自身はカウンセラーの経験が
ます。地域にも役立たねば…。
あるので、それも少しは活かされているのかも
公助は、まずお金、と普通はなりますね。も
しれません。私がこの方は向いていると判断し
ちろん補助金も重要です。ただ、グループリビ
た方でも、当てがはずれることがありますよ。
ングの場合、建てた後に維持費がかかってきま
高齢者といって一括りにされがちですが、生
す。その時に、みんなの家賃を上げることはな
まれ育った環境が異なれば、考えも異なります
かなかできません。
し、障害がある人もいます。だから私は、
グルー
そこで、固定資産税、自動車税、あるいは上
プリビングの「10人」という単位にこだわった
下水道料を減免するという、公助の方法もある
のです。10人までなら、一人ひとりきっちりと
のではないでしょうか。また、市街化調整区域
違いを認め合った運営ができる。
文字通りの
「10
の利用が社会福祉法人では可能ですが、NPO
人10色」です。個人のプライバシーや尊厳など
にも広げてくれると、用地探しの幅がぐっと広
も含め、日々の具体例を勉強しながら、 3 年く
がります。一人ひとりに 1 万円の商品券を配る
13
らいごとにコーディネーターが代わるようにし
という発想ではなく、運営しやすい環境をつく
18 ています。私はなかなか代わってもらえないの
るといった、もっと根本的な部分での発想の転
ですけど(笑)。今後の私の役割としては、NPO
換が必要だと感じます。
法人COCO湘南の運営委員会を総括しながら、
今、介護保険の財政難がいわれていますが、
コーディネーター、ライフサポーターの人材育
グループリビングでは、みんなと顔を合わせバ
成を細やかにやっていきたいですね。
ランスのとれた食事などいただくと、認知症防
本誌 西條さんは自助、共助、公助のバランス
しょう。自助、共助、公助がバランスよくあれ
を重視されています。この点について、お聞か
ば、こういった経済効果にもつながりますよ。
せください。
インタビューを終えて
(花谷 禎昭 三菱総合研究所研修生、派遣元:福岡銀行)
高齢社会を迎えた日本。現在、年金問題から介護の問題等さまざまな問題が起きている。その中において、
老後どのような生き方をするか、という問題は非常に重要なものではないだろうか。私自身にとってはま
だ先のことではあるが、自分の老後について今から不安に感じることもあるし、両親等
身近な人達のことも考えると決して無関係な問題とはいえないと思う。
そんな中、今回お話を聞いたグループリビングという暮らし方、そしてその基本にあ
る「自立と共生」という考えは、一つの解決策を示唆しているように思える。このよう
な生き方を含め、高齢者の方がより自主的、前向きに多種多様な生き方を選択できるよ
うな世の中にすることが、高齢社会において老後でも活躍できる機会を増やし、活気あ
る社会にしていくためには必要ではないかと感じた。
11
月号
すれば、介護保険などの公的負担は相当減るで
年
●発想の転換でますます元気に
平成
止や身体面でも介護予防になるでしょう。そう
自治体チャンネル+
は、入居するまでの自己決定のプロセスともい
Fly UP