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米国の生命保険ダイレクト販売
ニッセイ基礎研究所 2013-10-08 保険・年金 米国生保市場定点観測(7) フォーカス 米国の生命保険ダイレクト販売 -件数シェアでは一定の地位、小口契約の販売が中心- 松岡 博司 (03)3512-1782 [email protected] 保険研究部 主任研究員 ダイレクト販売とは、テレビ・ラジオCM、新聞広告、ダイレクトメール等を販売促進手段として 用い、郵便、電話(コールセンター)等を通じて顧客とコンタクトし契約手続が行われる通信販売、 および近年話題になることが多いインターネット販売を包含する販売手法である。 以下、生命保険(死亡保障商品)分野における状況に的を絞って、米国生保市場におけるダイレク ト販売の状況を見る。 1――個人生命保険市場におけるダイレクト販売の状況 1|3つの指標で見たダイレクト販売の販売シェア グラフ 1 の左側は、販売された契約から得られる保険料の年換算額(年換算保険料) 、販売された 契約の件数(件数) 、販売された契約の死亡保険金額の総額(保険金総額)という3つの数値を基準指 標として、米国の個人生命保険市場における販売チャネル毎の販売シェアをみたものである。 グラフ 1 米国個人生命保険販売におけるチャネル別販売シェア 【販売された契約の各種指標を基準にとったシェア(2012 年) 】 【ダイレクト販売のチャネルシェアの推移】 (%) 7% 4% 15% 4% 5% その他(銀行等を含む) ダイレクト販売 20 19% 47% 49% 25 19% 販売契約件数で見たシェア 独立(乗合)エージェント 15 25% 10 40% 41% 44% 年換算保険料 件数 保険金総額 専属エージェント 5% 販売契約の保険金総額で見たシェア 4% 販売契約からの年換算保険料 で見たシェア 5 0 基準と する 指標 01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 (資料)リムラ”U.S. Individual Life Insurance Yearbook 2012”より作成 1| |保険・年金フォーカス 2013-10-08|Copyright ©2013 NLI Research Institute All rights reserved 11 12 ダイレクト販売のシェアは、年換算保険料を指標にとった場合には 4%、保険金総額を指標にとっ た場合には 5%と小さいが、販売件数を指標にとった場合には 19%と、かなりの大きさになる。 グラフ1の右側のグラフは、上記の 3 つの指標を基準にとったダイレクト販売のシェアの推移であ る。年換算保険料、保険金総額におけるダイレクト販売のシェアはほとんど変化がないのに対し、販 売件数を基準とするシェアは 2001 年の 11%から 19%へとほぼ倍増している。 ちなみに、このデータは、米国の代表的な生命保険マーケティングの調査機関であるリムラが行っ た生保会社を対象とする調査結果である。2012 年の調査には 80 の生保会社(グループ)が参加して いる。リムラによれば上位会社が参加しているので、調査参加 80 社(グループ)の実績が、1,000 を 超える生保会社が存在する米国生保市場全体の実績に占める割合(カバー率)は、年換算保険料で 85%、 保険金総額で 85%、販売件数で 65%ということである。 リムラの調査に参加した 80 社(グループ)のうち、16 社(グループ)がダイレクト販売を行って いると回答しているが、この中にはダイレクト販売専業の会社はない。 2|個人生命保険販売におけるダイレクト販売の特徴(2012 年) もう少し、リムラの生保会社調査結果を使って、ダイレクト販売に関するデータを見てみたい。 (1)販売されている商品種類 グラフ2は、ダイレクト販売で販売されている商品種類を販売件数の構成比で見たものである。比 較対象として、わが国の営業職員にもっとも近いチャネルであるエージェンシービルディングと銀行 の状況を付した。 ダイレクト販売においては、終身保険が全体件数の 76%、定期保険が 23%を占め、この 2 つの商品で ほとんどすべてという状況である。米国生保業界で大きな位置づけを占めるユニバーサルライフがダ イレクト販売を通じて売られている例はほとんどない。 終身保険市場においては、ダイレクト販売の件数ベースの販売シェアが 30%と、かなりのものとな っている。 グラフ2 ダイレクト販売等の販売商品種類(2012 年販売件数の商品種類別占率) 45% 終身保険 57% 76% 定期保険 37% 3% 23% 変額ユニバーサルラ イフ 23% 1% 15% 19% エ-ジェンシー ビルディング 銀行 ユニバーサルライフ 1% ダイレクト (資料)リムラ”U.S. Individual Life Insurance Sales, Fourth Quarter 2012”より作成 2| |保険・年金フォーカス 2013-10-08|Copyright ©2013 NLI Research Institute All rights reserved (2)小口契約の販売 グラフ3は、ダイレクト販売、エージェンシービルディング、銀行で販売された保険契約の大きさ を、左は1件あたりの平均保険金額(死亡保険金額) 、右側は1件あたりの平均保険料(契約者が生保 会社に支払う掛け金)で見たものである。 3つのチャネルの全契約平均の部分を見ると、ダイレクト販売で販売された保険契約が小さいもの であることが分かる。特に、ダイレクト販売において、その販売件数の 4 分の 3 を占める終身保険の 1件あたりの保険金額が 1 万ドル(100 万円程度) 、保険料が 307 ドル(3 万円程度)と小さいことが 目を引く。ダイレクト販売で販売されている終身保険の多くが、わが国でも販売されている小口で引 受が保証されている形の終身保険と同様のものであることが想像される。 グラフ3 ダイレクト販売等の販売契約の大きさ(2012 年) 【販売契約平均保険金額】 【販売契約平均保険料】 (ドル) (万ドル) 12,000 70 63 60 9,370 9,608 10,000 54 50 8,000 43 6,458 40 31 29 30 6,000 31 24 23 20 2,000 8 10 2,628 16 15 13 3,867 3,610 4,000 1,987 7 1 674 307 418 4,171 2,229 926 536 0 0 ダイレクト エ-ジェンシー ビルディング ユニバーサルライフ 変額ユニバーサルライフ 銀行 定期保険 終身保険 全契約平均 ダイレクト エ-ジェンシー ビルディング 銀行 ユニバーサルライフ 変額ユニバーサルライフ 定期保険 終身保険 全契約平均 (資料)リムラ”U.S. Individual Life Insurance Sales, Fourth Quarter 2012”より作成 2――消費者調査の結果から見たダイレクト販売 ここまで見てきたのは、リムラが生保会社を対象に行った調査の結果を用いたものであるが、リム ラの調査結果には、消費者を対象に行ったものもある。以下、その一つとしてリムラが 2011 年に行 った、生命保険購入者・非購入者調査の結果から、生命保険購入者がどのような経路で生命保険に加 入したかという調査の結果を紹介したい。 この調査結果(次ページグラフ4)では、郵便・電話を通じたダイレクト販売により加入したとす る購入者の割合が 25%、インターネットを通じて加入したとする購入者の割合が 10%と、先に見たダ イレクト販売のシェアよりも大きな数値が示されている。 これは、生保会社の側と消費者の側に、どのようなチャネルを通じて販売したか(加入したか)に ついての認識の相違があること、購入者調査は個人生命保険だけでなく団体生命保険も対象に入れて いること等によるものかと思われる。 グラフ4の右側に、インターネットを通じて加入したとする 10%部分の購入者についての具体的な 3| |保険・年金フォーカス 2013-10-08|Copyright ©2013 NLI Research Institute All rights reserved 加入形態を記してある。これを見ると、本当にインターネット販売と言えそうなのは、 「オンライン上 で契約手続を完了し、オンライン上で提出した 4%」と「オンライン上で契約申込みを完了し、印刷 して郵送した1%」のあわせて 5%である。いろいろな認識の相違があるのではないかと思われる。 グラフ4 生命保険への加入経路 インターネットを通じて加入した 10%の内訳 職域で 10% 郵便・電話による ダイレクト販売 を通じて 25% 4% オンライン上で契約手続を完了し、オンライン上で提出した 1% オンライン上で契約手続を完了し、印刷して郵送した 生命保険会社の代理人 または ファイナンシャル アドバイザー との対面販売 により 55% 2% オンライン上で契約手続を開始し、電話で完了した インターネット を通じて 10% 1% オンライン上で契約手続を開始し、人にあって完了した 2% 手順がどうであったか覚えていない (資料)リムラ“To Buy or Not to Buy Life Insurance Buyer and Nonbuyer Differences (2012)”より グラフ5は、同じ調査結果から、購入者をさらに階層別に細分化して、加入経路の状況を見たもの である。購入者の年齢階層別に見た左側のグラフからは、年齢が高くなるほど、 「郵便・電話によるダ イレクト販売を通じて」加入した割合が多くなるようである一方、 「インターネットを通じて」加入し た割合は年齢が若いほど高いという傾向が見て取れ、 購入者の年齢階層別に見た右側のグラフからは、 総じて年収の低い方が、 「郵便・電話によるダイレクト販売を通じて」加入した割合が多くなる傾向が あるように見受けられる。先に、ダイレクト販売において、小口の終身保険が多く販売されている傾 向が見て取れたことと符合しているようだ。 グラフ5 購入者属性別の加入経路構成比 【購入者の年齢階層別の状況】 65歳以上 52% 55歳~64歳 34% 56% 45歳~54歳 【購入者の世帯年収階層別の状況】 9% 10% 27% 49% 5% 29% 7% 10% 12% 8% 12% 12% 11% 10万ドル~149,999ドル 8万ドル~99,999ドル 5万~74,999ドル 35歳~44歳 60% 20% 55% 18歳~24歳 55% 0% 10% 20% 30% 生保会社の代理人または ファイナンシャルアドバイザー との対面販売により 22% 11% 40% 50% 郵便・電話による ダイレクト販売を通じて 60% 70% インターネット を通じて 80% 90% 職域で 100% 10% 20% 30% 生保会社の代理人または ファイナンシャルアドバイザー との対面販売により 40% |保険・年金フォーカス 2013-10-08|Copyright ©2013 NLI Research Institute 50% 60% 郵便・電話による ダイレクト販売を通じて (資料)リムラ“Understanding Life Insurance Buyers and Nonbuyers (2012)”より 4| 12% 9% 13% All rights reserved 12% 7% 12% 32% 49% 0% 12% 27% 54% 3.5万ドル未満 17% 17% 26% 52% 35,000~49,999ドル 25歳~34歳 19% 57% 10% 11% 19% 60% 70% 80% インターネット を通じて 90% 7% 100% 職域で 3――さいごに 米国の生保業界においては、如何にして中流層にコンタクトを取り生命保険を販売するかが、重大 な課題として存在する。主力チャネルであるエージェントの目は富裕層に向きがちである。先に使用 したリムラの購入者・非購入者調査の主眼の一つも、なぜ生命保険が購入されないのかを解き明かす ことにあった。 その観点から見れば、グラフ5の右側のグラフが示すように、ダイレクト販売は、中流層や高齢層 にコンタクトする上では、たいへん有効な販売チャネルである。膨大な会員数を有する高齢者団体A ARPが、会員向けに選定商品を推奨する事業では、高齢者を詐欺等の被害から守るため、ダイレク ト販売しか認めないという取扱いを行っている例もある。 こうした事情を勘案すると、米国においては、わが国における以上に、生命保険分野においてダイ レクト販売が普及していそうに思われるが、総じて言えば、米国生保分野におけるダイレクト販売の 状況は、わが国における状況とかなり似ているように思われる。またインターネット販売に特化した 生保会社が存在するわが国の状況は、 当該分野においては、 米国よりも先を行っているようでもある。 ただし、ダイレクト販売とは位置づけられないが、生命保険に加入する前にインターネット上の価 格比較サイトや生保会社の見積もりページを使って、オンライン上で事前調査をしてからエージェン ト等にコンタクトを取るということは、米国でも普通に行われており、消費者とのコンタクト機会の 増加を目的とするインターネット活用を含め、広い意味でのダイレクト販売、ダイレクトサービスの 動向については、当定点観測においても、今後も取り上げていきたいと思う。 5| |保険・年金フォーカス 2013-10-08|Copyright ©2013 NLI Research Institute All rights reserved