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平成20年度戦略的基盤技術高度化支援事業 「無線動作機能を内蔵回路

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平成20年度戦略的基盤技術高度化支援事業 「無線動作機能を内蔵回路
18-06
平成20年度戦略的基盤技術高度化支援事業
「無線動作機能を内蔵回路で形成するプリント配線板の開発」
研究開発成果等報告書
平成21年
11月
委託者
独立行政法人中小企業基盤整備機構
委託先
株式会社ワイケーシー
18-06_1
目
次
1.研究開発の背景・研究目的及び目標 ....................................................................... 3
(1)
研究開発の背景 .................................................................................................. 3
(2)
研究開発の目的及び目標 .................................................................................... 3
(3)
実施内容 ............................................................................................................. 4
2.研究体制 ................................................................................................................. 5
(1)
管理体制 ............................................................................................................. 5
(2)
研究体制 ............................................................................................................. 5
(3)
アドバイザー ..................................................................................................... 6
3.成果概要 ................................................................................................................. 7
4.本プロジェクト連絡窓口
第2章
株式会社ワイケーシー
(担当;三宅) ..................... 7
本論 .................................................................................................................... 8
1.現状近距離無線インターフェース用無線回路内蔵基板及び無線モジュールの開発・
実用化 ............................................................................................................................ 8
(1)
基板の最適化(開発項目①-1) ...................................................................... 8
(2)
プリント基板内蔵無線要素回路の開発 ............................................................... 9
(3)
ブルートゥース用無線モジュールの開発.......................................................... 10
(4)
低歪み高効率 F 級 GaN FET 電力増幅器の開発 ............................................... 13
2.次世代超高速近距離無線インターフェース(ウルトラワイドバンド(UWB)
)用プ
リント基板内蔵全差動無線回路モジュールの研究・開発・実用化 .............................. 15
(1)
超広帯域無線要素回路の開発 ........................................................................... 15
(2)
UWB 無線モジュールの開発 ............................................................................ 17
(3)
UWB モジュール用 MMIC の開発 ................................................................... 19
(4)
広帯域アンテナのダイバシティの研究 ............................................................. 21
3.プリント基板内蔵高速ディジタル回路の波形歪を抑制する配線・回路の研究、開発、
実用化 .......................................................................................................................... 22
(1)
多線路間の干渉、ビア・線路間の干渉による信号品質の制御技術の開発 ........ 23
(2)
抵抗プロセス、イコライザの開発 .................................................................... 23
第3章
全体総括 ........................................................................................................... 25
1.研究開発の成果と評価 .......................................................................................... 25
2.課題と今後の事業化展開 ...................................................................................... 26
付録 ................................................................................................................................ 28
1.参考文献 ............................................................................................................... 28
2.専門用語の解説 .................................................................................................... 28
18-06_2
第1章
研究開発の概要
1.研究開発の背景・研究目的及び目標
(1)
研究開発の背景
中小ものづくり高度化指針に基づき、複数 LSI チップのワンパッケージ化に伴う半導
体パッケージ基板の高機能化を目的に 3 次元実装技術、エンベッディド実装技術(部品
内蔵基板技術)に関する開発を行う。
(2)
研究開発の目的及び目標
従来、無線回路はセラミック部品をプリント基板上に実装して構成されていた。本
研究開発では無線回路機能をプリント基板の配線で実現することで、LSI の下に 3 次
元的に無線回路を構成し、部品が不要な小型無線回路/モジュールを開発・実用化す
ることを目標とする。
そのために、第1に低損失基板材料を用いセラミックと同等のマイクロ波性能を達
成する。従来はプリント基板材料の損失が大きかったため回路損失が大きく実用にな
らなかったが、最近開発の進んでいる低損失基板材料を評価するとともに最適な基板
構成を見出し、これを用いてセラミックと同等のマイクロ波性能を達成する。
第2に、配線で構成した無線要素回路・無線集積回路を小型かつ高設計精度に実現
する。そのため、最も高精度な分布定数線路理論に基づいた設計を行い、マイクロ波
帯でも高い設計精度を維持する。分布定数回路は回路サイズが大きめになる欠点があ
るので小型化技術を開発する。同時に、設計精度に課題があるものの小型化に有利な
集中定数型回路について、高精度設計手法を開発する。無線回路は複数の回路を集積
したものとなるため、要素回路の高い設計精度を生かし回路集積も高精度に行う。さ
らに、基板に内蔵された回路は実装にともなう接続点がなく、そこでの高周波信号の
反射・減衰がないという特徴を生かし設計精度を著しく高める。
第3に、新構造の無線受動要素回路、能動 MMIC を開発する。特に次世代無線技術
と期待される超広帯域無線技術(UWB)のアンテナ、フィルタ等の無線受動要素回路
は 3.1GHz から 10.6GHz と高周波かつ広帯域であるため、従来の構造では実現が困難
であり、理論限界の考察をもとに新構造の素子の研究を行い、UWB 無線で使用できる
広帯域素子を実現する。また能動素子としては、超広帯域増幅器、広帯域システムで
重要となる群遅延補償 MMIC を開発する。
第4に、高速ディジタル回路の信号波形歪を低減する手法の開発を行う。高速の無
線伝送を行うには高性能無線回路とともに、歪みの少ない高速ディジタル回路が必要
となる。そのために、線路間干渉・損失の少ないビア構成等の配線設計を行い、高周
波でも信号の減衰の少ない配線を設計する。その場合でも回路の導体損失・誘電体損
失とも高周波になると増大するため、周波数とともに減衰が減少し前記損失を補償す
る基板内蔵イコライザを開発する。
第5に、上記で開発した無線回路内蔵基板を用いてLSIを搭載した通信のできる
18-06_3
小型・高性能無線モジュールを開発する。無線システムとしては、既に普及している
ブルートゥースに加え、次世代 UWB 無線を対象とする。また高出力モジュールにも
対応できるよう、高効率かつ低歪み増幅器の開発を行う。
(3)
実施内容
①
既存近距離無線インターフェース用無線回路内蔵基板・無線モジュールの開発・
実用化
①-1.基板の最適化
(目標) 比誘電率
10以上
誘電正接
0.002以下の開発実用化
① -2.アンテナ、フィルタ、バラン等の開発
①-3.LSIを基板に実装するプロセス開発
① -4.上記1~3を集積したモジュールの開発
(①-2,①-3、①-4の目標)
無線回路内蔵基板の開発と、それを用いたサイズ 33mmx13mm 以下のモジュ
ールを開発する。また高出力モジュール用として、高効率・低歪み増幅器を開
発する。
②
次世代超高速近距離無線インターフェース(ウルトラワイドバンド(UWB))用
プリント基板内蔵全差動無線回路モジュールの研究・開発・実用化
②-1.広帯域アンテナならびに広帯域帯域通過フィルタの開発
②-2.広帯域なアンテナ、フィルタの集積プロセスの開発
②-3.広帯域モジュール実装技術の研究
② -4.上記1~3を集積したフルバンド UWB 全差動無線モジュールの開発
及び UWB 用 MMIC の開発
(②-1,2,3,4の目標)
フルバンド UWB 用のLSIを搭載したモジュールの開発、実用化
②-5.広帯域アンテナのダイバシティの研究
③
プリント基板内蔵高速ディジタル回路の波形歪を抑制する配線・回路の研究、開
発、
実用化
③-1.多線路間の干渉、ビア・線路間の干渉による信号品質の制御技術の開発
(目標)
線路間干渉、ビアとの干渉の解析、シミュレーション手法の確立
③-2.抵抗プロセスの開発、実用化
(目標)
抵抗プロセス実用化 抵抗 25Ω~300Ω
③-3.高周波損失を補償するイコライザ回路のプリント基板内蔵技術の開発、実
用化
(目標)
5GHz までの高速ディジタル信号を等化できるイコライザの開発
18-06_4
④
プロジェクトの 管 理 ・ 運 営
2.研究体制
(1)
管理体制
事業管理者
株式会社ワイケーシー
氏
名
〒208-0023
東京都武蔵村山市伊奈平 1-32
実施内容(番号)
所属・役職
小村
英夫
代表取締役社長
④
宮川
みな子
取締役
④
稲留
美記
管理部
④
三宅
隆
補助員
④
総括研究代表者(PL)
所属・役職
株式会社ワイケーシー開発技術部部長
氏
名
斉藤
昭
副総括研究代表者(SL)
所属・役職
(2)
電気通信大学情報通信工学科教授
氏
名
本城
研究体制
株式会社ワイケーシー
氏
斉藤
趙
名
昭
川東
〒208-0023
東京都武蔵村山市伊奈平 1-32
所属・役職
実施内容(番号)
開発技術部部長
①~④
開発技術部研究員
①、②
大橋
祐二
開発技術部研究員
①、②、③
中島
新八
開発技術部研究員
①
張
昊
開発技術部研究員
①、③
狄
占林
開発技術部研究員
①
董
偉
開発技術部研究員
②、③
高橋
孝司
製造部部長
①、②、③
石神
康夫
製造部課長
①、②、③
18-06_5
和彦
国立大学法人電気通信大学(再委託先)
〒182-8585
氏
(3)
名
東京都調布市調布ヶ丘1丁目5番1号
所属・役職
実施内容
本城
和彦
電気通信大学情報通信工学科教授
②
高山
洋一郎
電気通信大学AWCC特任教授
①
備考
④
アドバイザー
氏
名
所属・役職
矢部
初男
電気通信大学名誉教授
唐沢
好男
電気通信大学教授
中嶋
信生
電気通信大学教授
石垣
功
アルプス電気(株)商品開発部マネージャ
18-06_6
備考
3.成果概要
第1の目標の現状近距離無線インターフェース用無線回路内蔵基板及び無線モジュ-
ルの開発・実用化に関しては、フィルタ、バラン、アンテナ、インダクタ,コンデンサを
配線を用いて基板に内蔵したブルートゥース用無線回路内蔵基板を世界で初めて開発した。
要素回路は、高誘電率薄層樹脂基板、設計の難しい集中定数型回路、広帯域回路の特徴を
生かし小型化し基板に内蔵した。その基板にLSI等を実装し通信のできるモジュールの
開発を行い、LSIメーカが提供しているモジュールより良好な特性を得た。また現実的
な事務室での伝送実験でも、部屋のすべての場所で最大速度(0.7MBPS)の 80%以上の伝
送速度が確認でき実用に耐える性能であることを実証した。すべての無線回路を配線で内
蔵したモジュールの報告は世界で初めてである。また、高出力版への対応として、理論効
率 100%の F 級増幅回路の課題となっていた歪み特性を、ダイオードを用いた歪み補償技
術で改善し、低歪・高効率増幅器を開発した。
第2の目標の次世代超高速無線技術(UWB)用の無線回路内蔵基板及びモジュ-ルに関
しても、内蔵基板及びモジュ-ルを開発し、伝送実験で 56MBPS と高い伝送速度を確認
した。基板内蔵受動要素回路に関しては、アンテナの帯域幅とサイズの従来理論限界がブ
レイクスルーできることを、世界で初めて理論・実験で実証した。また能動素子に関して
も、世界トップクラスの低雑音・低消費超広帯域電力増幅器 MMIC、インパルス方式で機
器性能を左右する群遅延補償回路付き広帯域増幅器 MMIC を開発した。
第3の目標の、高速ディジタル回路の波形歪を抑制する配線・回路の開発に関しては、
ディジタル回路における歪みの原因となる多線路間干渉、ビアでの信号反射抑制方法の解
析を理論的・実験的に行い、その抑制方法を示した。また、基板内蔵抵抗プロセスを開発
し、これを用いて回路全体の損失の周波数依存性を平坦化し、ディジタル信号歪みを補償
するイコライザの開発を行った。
4.本プロジェクト連絡窓口
連絡先
tel
株式会社ワイケーシー
042-560-3511
fax
(担当;三宅)
042-560-3516e-mail
18-06_7
[email protected]
第2章
本論
1.現状近距離無線インターフェース用無線回路内蔵基板及び無線モジュールの開発・実用
化
この項では、既に普及しているブルートゥース等の比較的狭帯域な近距離無線用のモジ
ュールを、無線回路内蔵基板を用いて開発・実用化した結果を示す。
(1)
基板の最適化(開発項目①-1)
使用する樹脂基板については、小型化のためには高誘電率材料が、マイクロ波回路を
低損失にするためには低誘電正接の材料が必要となる。近年開発が進んでいる高誘電
率・低損失基板を評価するため長さの異なるマイクロストリップ線路を用いて誘電率、
誘電正接の評価を行った[1]。図 2-1-1 に、住友化学と共同開発を行った高誘電液晶ポ
リマ基板の評価パターン及び評価結果を示す。実測値では実効比誘電率が求まり、材料
の比誘電率はシミュレータを用いて換算した。図の特性では、2GHz における比誘電率は
12.1 となり目標とした 10 以上が実現できた。また誘電正接は、目標の 0.002 には届か
なかったものの、0.004 と通常の樹脂基板(FR-4:0.02)の 1/5 の値が得られた。
マイクロストリップ線路
液晶ポリマ
厚さ1mm
図2-1-1
誘電率、誘電正接評価パターンと評価結果
本プロジェクトの目標であるモジュールの小型化・高性能化・低コスト化という観点
からは、材料特性とともに基板構成の選択が重要となる。ここでは損失の少ないディジ
タル回路は低コストの FR-4 上に配置し、損失が問題となる無線回路は最上層に積層し
た 25μの薄い高誘電率低損失基板上に配置した。このような薄い基板を上層に付加して
も、他の層に配置されたディジタル回路の線路インピーダンスには影響は少ないため、
ディジタル回路の設計を修正する必要はほとんどないという特長がある。また、薄くか
つ高誘電率の基板は、集中定数型回路の容量を大幅に小型化でき、また誘電正接が小さ
いことは損失低減に有効である。さらに薄い基板は、広帯域回路の設計にも有利であり、
2-2項の UWB 無線回路の作成も容易となる。同時に、狭帯域のシステムに対しても、
広い帯域の下限周波数で用いることで、回路の小型化が可能となる。(2-1-2項参
照)
18-06_8
(2)
プリント基板内蔵無線要素回路の開発
基板に内蔵する無線要素回路として、帯域通過フィルタならびにバランが必要であり、
小型高性能な新素子の開発を行った。フィルタサイズの抜本的縮小のためには集中定数
型のフィルタが有利である。コムラインフィルタは小型かつ高性能なフィルタとして知
られているが、これをすべて集中定数回路で構成する方法を理論的に解析し、図 2-2-2
に示す回路構成が減衰極を両側に有する帯域通過コムラインフィルタ特性の必要十分
条件であること、また伝達関数の極、及び零点を解析的に導出し設計手法を明らかにし
た。フィルタの減衰極の位置ωp、減衰零点ωzは以下の式で与えられる[2]。
[ C 1 ( L1 − M 2 ) + 2 ML2 ( C 1 + C 2 )] ± [ C 1 ( L1 − M 2 ) + 2 ML2 ( C 1 + C 2 )] 2 − 4 M 2 ( 2C 1 + C 2 )C 2 L2
2
ωp =
2
2
2 M ( 2C 1 + C 2 )C 2 L2
2
2
3
2
2
f ( x ) = x ( L1 − M )Y0 ( 2C1 + C 2 )C 2 L2 + x { 2( L1 − M 2 )Y0 ( C1 + C 2 ) L2 − ( 2C1 + C 2 )C 2 {( L1 + L2 )2 − M 2 )}
2
2
2
2
x = −ω Z
− x{ 2( C1 + C 2 )( L1 + L2 ) − 2C1 M − ( L1 − M 2 )Y0 } − 1 = 0
2
2
2
GND
c2
C2
L2
c1
L2
L1
M
L1
無線回路
配置
Cond1
LCP 0.025mm
Cond2
R1551(PP) 0.06mm
Cond3
R1566(コア) 0.2mm
Cond4
R1551(PP) 0.1mm
Cond5
R1566(コア) 0.2mm
Cond6(Ground)
GND
図2―1―2
コムラインフィルタを
図2-1-3
試作した基板構造
集中定数回路のみで実現した回路
集中定数型回路の容量を小型化するため、基板構成は図 2-1-3 に示すように、25μと
非常に薄い高誘電率液晶ポリマ(比誘電率
7.6、誘電正接
0.002)を FR-4 の最上層
に配置し、液晶ポリマの両側にフィルタパターンを作製した。集中定数型回路を高精度
に設計する手法としては、(1)寄生成分も含む結合線路コンポーネントを作製、(2)そのコ
ンポーネントのパラメタを最適化
という手法を用い高精度に目標性能を実現する手
法を開発した。この手法で設計したフィルタパターンならびに性能(実測値)を図 2-1-4
に示す。サイズ 4mmx1.5mm と小型で、かつ挿入損失は 1dB 以下であり良好な性能で
ある。
18-06_9
Sij(dB)
測定パッド
フィルタ
0
-5
-10
-15
-20
-25
-30
-35
-40
0
0.5
1
2
4.5
5
周波数(GHz)
測定パッド
b)特性
(a)擬似集中定数コムラインフィルタ
サイズ
1.5
m e as_S1 1
m e as_S2 1
sim _S1 1
sim _S2 1
2.5 3 3.5 4
4.0mmx1.5mm
図2-1-4
meas:実測値
sim:シミュレーション値
試作した擬似集中定数コムラインフィルタ
バランに関しては、モジュールの要求から分布定数型のマーシャントバランを用いる
必要があったため、薄い基板の特徴を生かし、広帯域化バランの帯域の下限周波数を使
用することで小型化した。通常マーシャントバランは線路全長がλ(使用周波数の波長)
/2を要するが、この手法で全線路長λ/4で実現でき 1/2 のサイズに小型化した。製
作したバランのパターン並びに特性を図 2-1-5 に示す。性能も挿入損失は 1dB 以下であ
り良好である。
平衡測定パッド
挿入損失
(dB)
バラン
不平衡
周波数
測定パッド
パターン
3.9mmx2.7mm
図2-1-5
(3)
性能
黄緑
(GHz)
シミュレーション
赤、青
実測値(2サンプル)
試作したマーシャントバラン
ブルートゥース用無線モジュールの開発
以上述べたフィルタ、バランを内蔵した基板を用いて、ブルートゥース用無線モジュ
ールの開発を行った。CSR 社の BlueCore シリーズ IC を使用し USB をインターフェー
スとする無線が送受信できるモジュールを試作評価した。サイズの目標は 13mm×
18-06_10
33mm とした。基板構成は図 2-1-3 に示した 6 層板である。図 2-1-6 はモジュールの無
線回路部を示し、フィルタ、バラン以外にインダクタ、コンデンサもパターンで構成し
基板に内蔵した。また試作した基板の写真、実装後の写真もあわせて示す。実装した部
品は、ブルートゥース LSI、フラシュメモリ、クリスタルであり、この実装したモジュ
ールにファームウェアをインスト-ルすることで無線動作を行うモジュールを開発し
た。
12mm
アンテナ
アンテナ
34
mm
フィルタ
バラン
整合回路(L,C)
内蔵した無線回路のパターン
図2-1-6
基板の写真
実装後写真
ブルートゥース無線回路内蔵基板の内蔵回路
モジュール特性をプロトコルアナライザ(アンリツ製 Bluetooth
Tester)を用いて
評価した。通信特性の評価の状況及び、モジュールの総合特性となる送信電力を変えた
場合のフレームエラーレート(誤り率)を図 2-1-7 に示す。CSR の供給するモジュール
と比べても、試作した 4 サンプルとも、より小さな電力で同じエラーレートが得られて
おり、CSR のモジュールより受信感度が優れていることがわかる。これは開発した無線
回路が、CSR が使用している部品よりも損失が小さいことを示しており、内蔵した回路
の有効性が実証された。
18-06_11
エ ラーレ ート(%)
2.5GHz 帯
ダイポールアンテナ
開発した
BT モジュール
100
90
80
70
60
50
40
30
20
10
0
-40
CSR
YKC_1
YKC_2
YKC_3
YKC_4
-45
-50
-55
-60
-65
-70
-75
送信電力(dBm)
図2-1-7
通信特性の評価
次に開発したモジュールを用いて、現実的な環境での伝送特性評価を行った。評価し
た場所は電通大内のYKCオフィスで、部屋の大きさは、横 6m、縦 7m、天井までの
高さは 3.6mで、中央には大きな金属製の棚があり、伝播環境としてはあまりよくない
と考えられる。伝送速度の評価は 3.0M バイト(24.1M ビット)のファイル転送速度で
評価した。送信側のモジュールの位置は固定し、受信側のモジュールを部屋の各位置に
移動し伝送速度を評価した。その結果を図 2-1-8 に示す。直接送信モジュールが見渡せ
る下側の部屋の領域では、伝送時間はすべて 34 秒で一定であり、伝送速度は 709kps
の上限速度で伝送された。一方金属の棚が障害となり直接見渡せない、部屋の上側の領
域でも、若干伝送速度は落ちるものの、最悪でも 40 秒で伝送でき(600kbps)良好な伝
送特性が得られた。無線回路内蔵基板を用いた無線モジュールで、実用上問題ない特性
が得られ、実用化が実証できたといえる。なおアンテナ、フィルタ、バラン等の無線回
路を基板に内蔵した無線モジュールの開発は世界初である。
18-06_12
40sec
35sec
35sec
38sec
金 属 製 ロ ッ カー
34sec
壁
50cm
金属製棚 長さ
350cm
窓
高さ180cm
伝送モジュール
34sec
34sec
34sec
34sec
34sec
図2-1-8
34sec
34sec
実用環境における開発したモジュールの伝送速度
各場所の時間は3M バイトのファイルを伝送するために要した時間を示す
34秒は709kbpsに相当する。
(4)
低歪み高効率 F 級 GaN FET 電力増幅器の開発
ブルートゥースモジュールには遠方への伝送が可能な高出力版があり、これへの対応
として、高効率・低歪み増幅器の検討を行った。回路は理論効率 100%のF級増幅回路
を用い、従来課題となっていた歪特性の改善を図り、F 級 GaN FET 電力増幅器の歪を
反対方向の歪を持つダイオードリニアライザで補償する MMIC を設計した[3]。補償範
囲拡大を目指し、2 つの独立にバイアスが制御できるダイオードを使用している。その
回路図並びに試作したGaAsMMIC の写真を図 2-1-9 に示す。
18-06_13
試作したリニアライザ MMIC の写真
回路図
図2-1―9
バイアス独立制御形2ダイオードリニアライザ
図 2-1-10 には試作したリニアライザと GaNF級増幅器とを集積したモジュールの写
真と、リニアライザ無/1 ダイドードのリニアライザ/2 ダイオードのリニアライザに
ついて歪特性の比較を示す。出力 0dBm から 10dBm にわたり、リニアライザを用いる
ことで歪(IMD3 )が低減されており、ダイオードを 2 個にしたものはさらに歪が改善
されていることがわかる。入出力電力特性に関しては、リニアライザによる損失のため
に利得が 3dB 程度低下し付加電力効率が若干低下したが,ドレイン効率の劣化は見られ
ず,高電力効率特性を維持している。
リニアライザなし
ダイオード 1
ダイオード2個
試作した増幅器の写真
図2-1-10
特性
リニアライザ付 1.9GHz 帯 F 級 GaN HEMT 電力増幅器
従来,F 級電力増幅器は高効率であるが歪特性が良くないため,その応用に課題があ
ったが,本技術のダイオードリニアライザにより,その用途を拡大する可能性を開くこ
とができた。
18-06_14
2.次世代超高速近距離無線インターフェース(ウルトラワイドバンド(UWB))用プリン
ト基板内蔵全差動無線回路モジュールの研究・開発・実用化
この項では、広い帯域幅(3.1GHz から 10.6GHz)を生かし圧倒的な低消費電力と高速
伝送が可能な次世代無線技術 UWB に対応できる、無線回路内蔵基板を用いた無線モジュ
ールの開発・実用化について示す。伝送速度の理論限界(C)は、消費電力(P)・帯域幅
(W)
・雑音(N)を用いて、下記に示すシャノンの伝送容量によって与えられ、帯域幅に
は比例、電力には log の依存性をもつため、広い帯域幅が使用できることは、速度向上、
消費電力低減に圧倒的に有利といえる。
シャノンの伝送容量:
(1)
C = W log 2 ( 1 + P / N )
超広帯域無線要素回路の開発
広い帯域が使用できることは、伝送速度・消費電力にとっては有利であるが、このよ
うな広帯域回路を実現することは非常に難しい。そこで、UWB に対応できるフィルタ、
アンテナ用に、新規構造を検討した。
まず、フィルタに関しては4本の線路を用いた差動型フィルタを開発し、最大比帯域
幅 180%の超広帯域フィルタを開発した[4],[5]。図 2-2-1 にその構造と特性を示す。 ま
た UWB の帯域をカバーしかつ帯域外の遮断特性を改善するため、図 2-2-2 に示した、
高域通過フィルタ(HPF)、低域通過フィルタ(LPF)を集積した、UWB 用帯域通過フ
ィルタを開発した。
S21(dB)
Ground
Ground
1
0
-1
-2
-3
-4
-5
-6
-7
-8
-9
0
-5
-10
-15
-20
-25
-30
-35
-40
-45
-50
0
4結合線路フィルタの構造
図2-2-1
Sim S21
Sim S11
Sim S22
2
4
6
8
10
Frequency(GHz)
12
特性
4本の線路を用いた差動帯域通過フィルタ
18-06_15
14
S11,S22(dB)
Meas S21
Meas S11
Meas S22
S1 1 ,S2 2 ,S2 1 ( dB )
0
-5
-10
-15
-20
-25
-30
LPF+HPF
W/O LPF
With LPF
0
2
4
6
8 10 12 14 16 18 20
Frequency(GHz)
図2-2-2
0
-5
-10
-15
-20
-25
-30
-35
-40
-45
-50
S11meas
S22meas
S21meas
0
2
4
UWB 用超広帯域フィルタ
S11sim
S22sim
S21sim
6
8
10
周波数(GHz)
12
14
次にアンテナに関しては、自己補対アンテナをもとに UWB モジュール用に小型化を
図った。広帯域アンテナの最小サイズは 1948 年に Chu が解析し[6]、(波長)/(2π)
とされていたが、厳密な理論限界の解析を行い、この限界は整合回路を最適化すること
でブレイクスルーできることを明らかにした。また実験的にも小型アンテナの設計試作
を行い、従来理論限界を下回るサイズのアンテナを開発し、上記理論限界の解析の正し
さを実証した[7]。開発したアンテナと理論限界の関係を図 2-2-3 に示す。
10mm
Frac. BW (Meas.)
min. F (Meas.)
Max. F (Meas.)
3
30
2.5
25
2
20
実測値
1.5
1
15
比帯域幅の上限(理論)
0.5
5
0
0
0
開発したアンテナの写真
図2-2-3
10
0.5
1
1.5
Antenna Size (cm)
2
比帯域幅の理論限界(上限)と実測値の比較
小型化の理論限界を打破した小型広帯域アンテナ
18-06_16
Max./Min. F (GHz)
Frac. BW (Cal.)
min. F .(Cal.)
max. F (Cal.)
Frac. BW
S21(dB)
LPF
また理論限界サイズ以下のアンテナを低コストに実現するため、従来の FR-4 材料を
用いても実現できる構造を理論的、実験的に解析し、シャントインダクタをアンテナ導
体間に設けることでこれが実現できることを明らかにした[8]。開発したアンテナとその
特性を、図 2-2-4 に示す。
円形ループ
0
1 - t u r n spi r al
-5
S1 1 ( dB)
20mm
-10
-15
-20
-25
1-
turn
spiral 付
-30
自己補対アンテナ
図2-2-4
(2)
0 1 2
3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15
周波数 (GHz)
低コスト FR-4 材料上に作製した小型広帯域アンテナの写真と特性
UWB 無線モジュールの開発
UWB の通信方式は、広帯域な周波数を用いる通信方式としても新規なものであり、
標準化は未了で現在2つの方式で開発が進められている。1つはインパルスラジオ方
式と呼ばれ、時間領域で見ると非常に短いパルスの位置や位相を信号とする方式で、
もう1つはマルチバンド OFDM 方式と呼ばれ、使用できる広い帯域をいくつかに分け、
個々の帯域では従来の OFDM の技術を用いた方式がある。本開発では、2 つの方式の
いずれにも対応できるように、両方式のモジュールについて検討を行った。
まずマルチバンド OFDM については、既に述べた広帯域アンテナの技術を用いてA
社と共同開発したモジュールを図 2-2-5 に、伝送速度の評価を図 2-2-6 に示す。伝送速
度の評価では、最大 56MBPS と高速な特性が得られた。また今回開発したアンテナを
用いたモジュールのほうが、他社のアンテナを用いたものより遠距離まで最高速度が
保たれ、他社比較でも良好な結果が得られた。このモジュールを用いて、通常の環境
(本城研輪講室)で伝速度の位置依存性を評価した結果を図 2-2-7 に示すが、概ね
50MBPS 以上の伝送速度が得られた。
18-06_17
アンテナサイズ
図2-2-5
36x31mm
アンテナサイズ
26x25mm
開発したマルチバンド OFDM 方式 UWB モジュール
60
55
開発した
伝送速度(Mbps)
50
モジュール
受信モジュール
45
40
35
T社
YKC1
YKC2
30
25
20
(市販品)
15
10
10
100
1000
距離(cm)
伝送特性評価の写真
モジュール間距離と伝送速度
図2-2-6
伝送特性の評価
机 1.2mx3m
50-51
Mbps
55-56
Mbps
窓
49-50
Mbps
49-51
Mbps
図2-2-7
ホスト
55-56
Mbps
50-51
Mbps
51-52
Mbps
ドア
50-51
Mbps
現実的な室内環境における伝送速度の評価
インパルスラジオ方式については、日本の UWB 高域バンド(7.25GHz~10.25GHz)
用の、フィルタ内蔵基板を用いたモジュールをG社と共同で開発した。図 2-2-8 に開発
した基板と実装後の写真を示す。内蔵フィルタに関しては、今回のシステムの帯域は比
較的狭いこと、またサイズをできるだけ小さくする必要があったことから、2-1.項
で述べた集中定数型コムラインフィルタを用いた。図 2-2-9 は 1GHz から 11GHz にわ
たる信号の出力を示す。白で示した点が法令で定められた規格でこれらの点より下側に
18-06_18
信号出力は抑えられている必要があるが、インパルス発生器から出力された信号(青)
は低域側で大幅にこれを超えている。しかしフィルタ後の信号(黄色)は法令規格を満
たしており、フィルタによって不要信号が法令を遵守できるよう制御できている。
無線回路内蔵基板
図2-2-8
図2-2-9
(3)
左の基板を用いた無線モジュール
インパルスラジオ方式の無線モジュール
基板内蔵フィルタによる不要信号の除去
UWB モジュール用 MMIC の開発
この項では、UWB 用の超広帯域低雑音増幅器 MMIC、及びインパルスラジオ方式で
重要となる群遅延平坦化 MMIC の開発に関して述べる。
まず UWB 全帯域(3.1GHz~10.6GHz)で使用できる低消費電力低雑音 MMIC を
InGaP/GaAs 化合物半導体を用いて開発した[9]。図 2-2-10 に、開発した MMIC の写真
とその特性を示す。最大利得は 14.1dB、3dB 帯域 1.1GHz―10.6GHz と UWB 帯域全域
をカバーする特性が得られた。また雑音指数は帯域内で 2.9~3.7dB と良好な値を得た。
このときの消費電力は 15.9mW である。この性能を世界の他の報告と比較したものを図
2-2-11 に示すが、一般に NF と消費電力はトレードオフの関係にあることを考慮すると、
今回開発した MMIC は、総合的には世界トップレベルの UWB 受信用 MMIC であると
いえる。
18-06_19
チップ写真
利得の周波数依存性
図2-2-10
図2-2-11
開発した UWB 用超広帯域低雑音増幅器 MMIC
今回開発した UWB 受信用 MMIC 増幅器の他機関発表データとの比較
インパルスラジオ方式では、広い帯域を用いることで時間領域における超短パルスを
実現するが、群遅延が帯域内で異なると、パルスが歪み伝送特性が損なわれてしまう。
この対策として群遅延を平坦化する回路を付加した、群遅延補償付 MMIC 増幅器の開発
も図った。
群遅延を平坦化する方法としては、右手・左手伝送系を用いた群遅延補償[10]、及び
負群遅延回路を用いた群遅延補償[11]の2つの方法を提案した。図 2-2-12 には、右手・
左手伝送系を用いた群遅延補償回路付差動増幅器 MMIC を示す。群遅延特性は 2.3GHz
から 9.3GHz の帯域で、15.1ps から 5.2ps と約 60%低減することができており、帯域内
の利得減少は 2dB 以内に留まっており良好な特性が得られている。
18-06_20
群遅延平坦化
チップ写真
2.05mm×1.04mm
図2-2-12
右手・左手系伝送系を用いた群遅延補償回路付 MMIC 増幅器
第2の負群遅延回路を用いた群遅延補償付増幅器 MMIC を図 2-2-13 に示す。利得平
坦性を保った状態で群遅延特性の分散は 38.5ps から 7.9ps と 75%低減できており、特
に低域側での群遅延平坦化特性に優れていることが分る。
群遅延平坦化
チップ写真
2.05mm×1.04mm
図2-2-13
(4)
特性
負群遅延回路を用いた群遅延補償付増幅器 MMIC
広帯域アンテナのダイバシティの研究
送信された電波は、空間伝播の途中で反射等を繰り返すと偏波が回転してしまう。こ
の場合、受信アンテナでは両方の偏波を受信できるようにしておくと、どちらかの偏波
が受信できるため受信エラーを抑制することができ、これを偏波ダイバシティという。
ここでは、UWB 無線でも使用可能な広帯域ダイバシティアンテナの検討を行った。
2つのダイポールアンテナを直交させて配置させると、2つの偏波を両方受信すること
ができるが、さらに位相を 90 度ずらす線路を付加することでリアクティブエネルギが
打ち消され広帯域化できる可能性が報告されており[12]、この手法を検討した [13]。図
2-2-14 に開発した両偏波広帯域アンテナの写真と特性を示す。左側のパターンは位相線
路が同方向に配置されたもので、右のパターンは位相線路が反対方向に配置されている。
位相線路が同方向に配置されたパターンで、右図の青で示したように、反射損失が大幅
に抑制され広帯域な特性が実現された。
18-06_21
反射損失(dB)
0
位相線路
-5
-10
-15
-20
同方向
反対方向
線路なし
-25
-30
0
2
4
6
8
10 12 14 16 18 20
周波数(GHz)
位相線路が同方向
位相線路がが反対方向
図2-2-14
位相線路付きX型ダイポールアンテナ
3.プリント基板内蔵高速ディジタル回路の波形歪を抑制する配線・回路の研究、開発、
実用化
高速無線伝送を行うには高速のディジタル信号処理も併せて必要なため、ディジタル信
号を歪み少なく伝送する回路を基板に内蔵する必要があり、その検討を行った結果を本項
で示す。ここでは、線路間干渉、ビアによる信号反射抑制の対策、また広帯域信号内で高
周波になるほど損失が増大するため発生する波形歪みを補償するため、高周波になるほど
損失が低減されるイコライザの開発について示す。
18-06_22
(1)
多線路間の干渉、ビア・線路間の干渉による信号品質の制御技術の開発
多線路間での結合を評価し、通常の(非等方性媒質中)線路では、偶奇モードの位相
差がπとなる近傍で大きな forward coupling が生じること、等方性媒質中ではこの結合
は生じず、干渉を抑制するにはストリップ線路構造が有利であることを解析式、シミュ
レーション、実測で示した。またこれは差動信号を用いることでも改善できることも示
した。
また、ビアによる信号反射抑制については、3 次元シミュレータで解析し、図 2-3-1
に示すように、信号線のビアに沿って接地側にもビアを並行に配置することで反射係数
を-30dB以下に抑制できる構造を明らかにした。
反射損失を抑制できる構造
(3次元シミュレータ)
図2-3-1
(2)
反射損失
負群遅延回路を用いた群遅延補償付増幅器 MMIC
抵抗プロセス、イコライザの開発
イコライザは、通常は制御された値の容量と抵抗の並列回路として実現されるが、プ
リント基板のプロセスでは制御された抵抗を作成するプロセスはないため、抵抗付きの
銅箔を用いて制御された抵抗を作成するプロセスの開発を行った。図 2-3-2 に抵抗の構
造と、このプロセスで作製した抵抗値の評価結果を示す。抵抗の設計値は 50Ω/100Ω
/150Ω/200Ω/300Ω/400Ω/500Ωの7種類のパターンを評価し、アンダーカットで
寸法が細くなったため、抵抗値は設計値より 6.7%高いものの概ね設計通りの値が得られ
た。バラツキは標準偏差で 7~9%であり、面内でバラツキがやや大きいため、短時間でエ
ッチングできるエッチング液、エッチング条件の最適化の検討を行ったが量産的には課
題があり今後改善の予定である。
18-06_23
銅箔
抵抗層
樹脂基板
抵抗の構造
試作した抵抗(黒い部分が抵抗
600
実測値(Ω)
500
400
y = 1.0674x
300
200
100
0
0
100
200
300
400
500
抵抗設計値(Ω)
図2-3-2
プリント基板内蔵抵抗とその抵抗値
この抵抗を用いてイコライザを設計した結果を図 2-3-3 に示す。イコライザは容量と抵
抗の並列回路で構成され、低周波では抵抗にすべて電流が流れ損失が大きいが、高周波
になり容量のインピーダンスが下がるにつれて抵抗に流れる電流が小さくなり損失が低
減される。実測値では、低周波では損失 4.5dB、周波数が高くなるにつれ損失が低減さ
れ 5GHz では 0.6dB と小さくなっている。他の回路は周波数とともに損失が増大するた
め全体の損失は平坦化され、歪が低減される。
R
C
挿入損失(dB)
イコライザ
0
-0.5
-1
-1.5
-2
-2.5
-3
-3.5
-4
-4.5
-5
0
-5
-10
-15
S21(dB)
S11(dB)
S22(dB)
-25
0
試作したイコライザの写真
図2-3-3
(b)
-20
1
2
3
4
5
6
周波数(GHz)
7
試作したイコライザの特性(実測値)
試作したイコライザの写真と特性
18-06_24
8
9
10
第3章
全体総括
1.研究開発の成果と評価
表 3-1 に目標に対する成果の達成度を示す。
第1の目標の現状近距離無線インターフェース用無線回路内蔵基板及び無線モジュ-
ルの開発・実用化に関しては、フィルタ、バラン、アンテナ、部品のL,Cを基板に配線
を用いて内蔵した無線回路内蔵基板を開発し、その基板に LSI 等を実装し通信のできるモ
ジュールの開発実用化が完了した。内蔵無線要素回路に関しては、設計の難しい集中定数
型回路、広帯域回路の特徴を生かし小型化が実現できた。性能的にも、LSI メーカが提供
しているモジュールより良好な特性が得られた。また必ずしも良好とは言えない現実的な
事務室での伝送実験でも、部屋のすべての場所で最大速度(0.7MBPS)の 80%以上の伝送
速度が確認でき実用に耐える性能であることが確認できた。すべての無線回路を配線で内
蔵したモジュールの報告は世界で初めてである。また、高出力版への対応として、理論効
率は 100%のF級増幅回路の歪特性を改善する検討を行い、ダイオードを用いた歪補償技
術の確立を理論・実験両面で進め実用可能であることを実証した。
第2の目標の次世代 UWB 用無線回路内蔵基板及び無線モジュ-ルの開発・実用化に関
しても、マルチバンド OFDM 方式のモジュールで伝送実験を行い、56MBPS と高速の伝
送速度を確認した。またインパルスラジオ方式のモジュールでは、小型広帯域フィルタを
内蔵した無線回路内蔵基板を開発した。基板内蔵要素回路に関しては、超広帯域アンテナ
の理論解析から従来言われていた帯域幅とアンテナサイズの理論限界が整合回路を最適化
することでブレイクスルーできることを世界で初めて示し、また実験的にも従来言われて
いた限界を凌ぐ小型アンテナを開発することで実証した。また UWB 用の超広帯域 MMIC
に関しても、世界トップクラスの低雑音・低消費電力・超広帯域の電力増幅器の開発、イ
ンパルス方式で機器の性能を左右する群遅延補償回路付広帯域増幅器を開発した。
第3の目標の、プリント基板内蔵高速ディジタル回路の波形歪を抑制する配線・回路
の研究、開発、実用化に関しては、ディジタル回路の歪みの原因となる多線路間干渉、
ビアでの信号反射抑制方法の解析を理論的、実験的に行いその抑制方法を示した。これ
らの成果は第1、第2のモジュール開発の配線設計で有効に利用された。また通常の回
路は周波数が高くなるにつれて損失が増大し波形歪みの原因となるが、高周波になるほ
ど損失を低減させ歪みを補償するするイコライザの開発を行った。イコライザでは抵抗
を使用するがプリント基板では通常制御された抵抗はないため、基板内蔵抵抗プロセス
の開発も行った。プロセスの量産性改善のため、新規抵抗エッチング液の検討を行った
が、予備検討では良好な結果が得られたものの、量産性課題が残り、継続して開発を行
う。
18-06_25
以上の成果を目標と比較して自己評価した達成度を、表3-1に示す。
表 3-1
目標に対する成果達成度
項目
①現状近距離無線インターフェース用無線回路内蔵
基板及び無線モジュールの開発・実用化
①-1 高誘電率低損失の基板の開発、実用化
①
②
①-2 アンテナ、フィルタ、バラン、回路集積、ならび
にそのプロセスの研究・開発・実用化
①-3 LSIの直下に無線回路を積層集積するプロセス
の研究・開発・実用化
①-4.プリント基板内蔵無線モジュールの開
発・実用化
②次世代超高速近距離無線インターフェース用プリ
ント基板内蔵無線回路モジュールの研究・開発・実
用化
②-1 プリント基板回路として機能を内蔵された、広
帯域小型自己補対アンテナならびに広帯域・急峻遮断
小型帯域通過フィルタの開発
②-2 広帯域な自己補対アンテナ、フィルタの集積
技術の研究・開発・実用化
②-3 無線回路、LSIの3次元的接続点の反射を抑
制する技術の研究
②-4 UWB全差動無線モジュールの開発、実用化
②-5 自己補対UWBアンテナのダイバーシ
ティの研究
③ プリント基板内蔵高速ディジタル回路の波形歪
を抑制する配線・回路の開発実用化
③
③-1 多線路間の干渉、ビアとの干渉を考慮したイ
ンピーダンス制御線路の開発、実用化
③-2 プリント基板内蔵抵抗プロセスの開発実用化
③-3 高周波損失を補償するイコライザ回路のプリ
ント基板内蔵技術の開発実用化
目標
判定
無線回路内蔵小型モジュールの
総合
開発
比誘電率10以上 誘電正接 0.0
02以下
小型マイクロ波回路の開発と低
損失基板とLSIが搭載された
FR-4基板を積層集積する技
術を実用化する
プリント基板内蔵無線モジュー
ルアンテナ、フィルタ、バラ
ン、LSI集積の開発
無線回路内蔵UWB無線モ
ジュールの開発
総合
UWB全帯域をカバーする差動
アンテナ、フィルタ集積回路の
開発
UWB用アンテナとフィルタを
20mmx10mm以内に集積
フルバンドUWB用のLSIを
搭載したモジュールの開発、実
用化
UWB無線におけるダイバーシ
ティの効果、アンテナへの要求
を明確化
ディジタル配線の高精度化と高
周波損失の補償方法の開発実用
化
線路間干渉、ビアとの干渉の解
析、シミュレーション手法の確
立
抵抗プロセス実用化 抵抗 2
5Ω~300Ω
5GHzまでの高速ディジタル
信号を等化できるイコライザの
開発
○ 90%
△ 70%
○ 100%
○ 90%
○ 90%
○ 100%
○ 90%
○ 90%
○ 90%
○ 85%
総合
○ 100%
△ 70%
○ 80%
2.課題と今後の事業化展開
課題として残った抵抗プロセスの量産性改善に関しては、基礎的な条件出しと並行して、
ユーザーに紹介して市場を評価しながら量産設備の投資の可否を判断する。
事業化に関しては、開発と並行して、JPCA、ワイヤレスジャパン等の展示会、顧客
訪問等で、開発技術の紹介、ニーズの把握に努めてきた。無線システムが多くの機器に搭
載されて来ており、市場は膨大であるが、実際に受注を確保してゆくにはYKC独自のコ
ンピテンスが必要であり、以下のような方策を事業化のために策定した。
18-06_26
(1)
無線回路は設計・製造とも比較的難しい面があり、お客様は確実にできることを
まず求め、次に新しい価値を求める。お客様との実績はないことを踏まえると、無
線回路の仕事を仕上げた実績が次善で、今回の開発で達成したモジュール全体を開
発した実績を示し、大手モジュールメーカが手を出さない少量のカスタム機器用モ
ジュールのマーケットを確保する。
(2)
販売量を増やすには、部品の販売が有利であり、顧客からは重要な価値と概ね共
通に考えられている、とにかく小型化、またUWB等の新しいニーズに対応する新
規デバイスを訴求する。そのために、今回開発した、小型アンテナ、広帯域回路を
示し、顧客の要求にカスタマイズした製品も高い設計精度で短期に実現できること
を説明し受注を拡大する。
上記の方針に基づき、本研究開発の成果を生かして拡販活動を行っており、以下
のような試作案件があるので、これらを量産につなげられるよう進めるとともに、
更なる拡販活動を進める。無線回路全体に関しては、ブルートゥース機器メーカ(W
社)と協力してモジュール開発を進めてきたが、今回の成果を示し無線回路内蔵基
板を用いたブルートゥースモジュールの拡販を進め2010年度に実用化を図る。
またこれらの成果をもとにさらに他の大手モジュールメーカへ2011年度から水
平展開を図る。
また無線回路をプリント基板に内蔵した測定器の開発、製品化の商談が進んでお
り、これを2012年度からの量産につなげてゆく。
個別部品に関しては、ブルートゥース/WiFi用の小型アンテナをC計算機と
共同開発しており、これを2010年度からの量産に結びつける。また 2 社とUW
Bモジュール用基板内蔵部品の開発を進めておりこれらを量産につなげてゆく。現
状では数量は少ないもののこれらの実績をさらに水平展開して受注の拡大を図る。
18-06_27
付録
1.参考文献
[1] IEEE MTT-S seminar Karl J. Bois, “Complex Permittivity of Printed Circuit Boards using
Planar Transmission Lines,”
[2] 特願 2008-189787
June, 2007
“集中定数型フィルタ” 斉藤昭, 本城和彦
[3] A. Ando, Y. Takayama, T. Yoshida, R. Ishikawa, and K. Honjo, “A High-Efficiency Class-F
GaN HEMT Power Amplifier with Diode Predistortion Linearizer,” IEICE Techical Report,
ED2008-222, pp. 135-139, Jan., 2009
[4] A. Saitou, Kyoung-Pyo Ahn, H. Aoki, K. Honjo, and K. Watanabe, “Ultra -Wideband,
Differential-Mode Bandpass Filters with Four Coupled Lines Embedded in Self-complementary
Antennas," IEICE Trans. Electron., vol. E90-C, p.p. 1524-1531, July, 2007
[5] 斉藤昭,安炅彪,本城和彦,渡部貢市,“急峻な遮断特性を有する差動フィルタを内
蔵した UWB 用自己補対アンテナ,”信学会総合大会,B-1-119, p. 119, Mar., 2006
[6] L J. Chu, “Physical Limitations of Omni-Directional Antennas,” J. Appl. Phys., 19, pp.
1163-1175, 1948
[7]
Akira Saitou, Kazuhiro Aoki, Kazuhiko Honjo, and Koichi Watanabe, "Design
Considerations on the Minimum Size of Broadband Antennas for UWB Applications," IEEE
Trans. on Microwave Theory and Techniques, Vol. 56, p.p. 15- 21, Jan., 2008
[8] Akira Saitou, Yuji Ohhashi, Kazuhiko Honjo, and Kouji Takahashi, ”Miniaturized
Ultra-Wideband Self -Complementary Antennas Using Shunted Spiral Inductors, “IEEE
MTT-S Int. Microwave Symp. Dig., pp. 1211-1214, June, 2008
[9] Ryo Ishikawa, Takuya Abe, Kazuhiko Honjo, Masao Shimada,” InGaP/GaAs HBT MMIC
Amplifier with Low Power Consumption and Low Noise Characteristics for Full-Band UWB
Receiver Systems,” IEICE Trans. on Electron., vol.E91-C, No.11, pp.1828 –1831, Nov. 2008
[10] Kenji Murase, Ryo Ishikawa, and Kazuhiko Honjo,” Group Delay Equalized MMIC Amplifier
for UWB Based on Right/Left-Handed Transmission Line Design Approach,” IET Microwaves,
Antennas & Propagation, vol.3, No.6, pp. 967-973, Sept. 2009
[11] Kyoung-Pyo Ahn, Ryo Ishikawa, and Kazuhiko Honjo,” Group Delay Equalized UWB
InGaP/GaAs HBT MMIC Amplifier Using Negative Group Delay Circuits,” IEEE Transactions
on Microwave Theory and Techniques, vol. 57, No.9, pp. 2139-2147, Sept 2009
[12] Dale M. Grimes and Craig A. Grimes, “Bandwidth and Q of Antennas Radiating TE and TM
Modes,” IEEE trans. Electromagnetic Compatibility, Vol. 37, No. 2, pp. 217-226, May 1995
[13] K. Aoki, A. Saitou, K. Honjo, “Microwave Wideband Characteristics of Perpendicular Dipole
Antennas with Phase Shift Lines” IEEE APMC Dig., p.p. 1-4, Dec., 2008
2.専門用語の解説
18-06_28
専門用語
解
説
分布定数回路理論
線路にはインダクタンスがあり,線路と周囲との間にはキャパシタンスを
と集中定数回路理
持つ。これらのL,Cはして存在するため,高周波特性を厳密に表現する
論
ために、線路をL,Cが分布した回路として表現したものを分布定数線路
という。回路パターンの構成要素(線路)を上記モデルに従い設計する手
法を分布定数回路理論、一方(仮想の)単独のL,Cを構成要素として設
計する手法を集中定数回路理論という。分布定数回路理論はより正確であ
るが、一般にサイズが大きい。一方集中定数理論は高周波では精度が悪い
が、L,Cは小型に作れるのでサイズが小さいという特徴がある。
ウルトラワイドバ
2 0 02 年 に米 FC C が認 可し た 、超 広 帯域 (3.1GHz~10.6GHz)を 使用 す
ン ド( UWB)無 線 技
る 近 距離 無 線方 式で 、高速 かつ 低 消費 電力 が 可能 である 。他 無線 シス テ
術
ム と 周波 数 が重 なる が 、雑 音 レベ ル以 下 の低 出力 で ある た め他 シ ステ ム
に は 影響 し ない とさ れ 認可 され た。日 本 で も 2 0 0 6 年 8 月 に 認 可 さ
れた。
自己補対
虫明康人元東北大教授が考案した日本発の超広帯域アンテナの構
アンテナ
造。アンテナの金属部と金属のない部分が合同になる構造で、入力
インピーダンスはすべての周波数で一定になる。実際には無限の大
きさにしないと実現できないが有限の大きさでも、広帯域になるこ
とが確認されている。
イコライザ
高速ディジタル信号(広帯域信号)が線路を伝送すると高周波の成分はよ
り大きな減衰を受ける。この場合、ディジタル信号で用いられる方形パル
スは、波形が方形からくずれてしまい信号を正確には伝送できなくなる。
高周波で減衰が逆に小さくなる回路をイコライザと呼び、高周波で大きく
なる他回路の損失を補償し、損失が使用帯域で一定とすることで歪みを抑
制する。イコライザは、コンデンサと抵抗の並列回路で構成できる。
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