...

開発とビジネス~真のBOPビジネスとは何か? BOPビジネスを

by user

on
Category: Documents
4

views

Report

Comments

Transcript

開発とビジネス~真のBOPビジネスとは何か? BOPビジネスを
第 5 回定例会
2013 年 1 月 30 日(水) 14:30~17:30
早稲田奉仕園 リバティホール
「開発とビジネス」
~真の BOP ビジネスとは何か? BOP ビジネスを超えて!~
Ⅰ.はじめに (10 分)
14:30~14:40
開会あいさつ
〔司会〕門田瑠衣子氏/エイズ孤児支援 NGO・PLAS 代表理
事、連携ネットコアメンバー
新規参加者自己紹介
Ⅱ.「質の高い連携」定義、チェックリスト最終版 (10 分)
14:40~14:50
前回案からの修正点、完成版公開時期等
事務局
Ⅲ.開発とビジネス (80 分)
14:50~16:10
1.基調講演
「開発・貧困削減とビジネス-民間企業と NGO の役割を考
佐藤寛氏/JETRO アジア経済研究所 研究企画部長
える-」 (30 分、Q&A 含む)
休憩(10 分)
2.問題提起(各 20 分 Q&A 含む)
①「実践から見えてきた BOP ビジネスの課題と今後の展望」
武田勝彦氏/(公財)ケア・インターナショナル ジャパン 常
務理事兼事務局長
②「NGO と企業の連携はどうあるべきか?」
平野光隆氏/(㈱)電通 ビジネス統括局 戦略企画室 局次
長
Ⅳ.グループディスカッション/まとめ(75 分)
16:10~17:25
6~7 名×7 グループ(30 分×2 回+全体共有 15 分)
ファシリテーター:佐藤氏
グループファシリテーター:コアメンバー+事務局
まとめ
佐藤氏
Ⅴ.おわりに
17:25~17:30
・メンバーからの報告
・次回日程等
事務局
1
開催レポート
Ⅲ.開発とビジネス
1. 基調講演
「開発・貧困削減とビジネス-民間企業と NGO の役割を考える-」
佐藤寛氏/JETRO アジア経済研究所 研究企画部長
<ビジネスと開発の相互接近>
30 年途上国研究に携わっているが、30 年前に途上国に行くと開発援助の人は開発援助のことしか考えておら
ず、ビジネスの人はビジネスのことしか考えておらず同じ国にいてもまったく別々の世界で活動していた。その
両者が 1990 年代半ば以降相互に接近し、2000 年代になるとそれがより顕著になってきた。この相互接近には理
由がある。
◆開発側:戦後 1950 年代から援助をかれこれ 50 年以上やっているにも関わらず、いつまで経っても同じ様なプ
ロジェクトばかりで、そもそも援助には「効果がないのではないか?やり方がまずいのではないか?」という批
判がさまざまなところから寄せられ始めた。2015 年までに貧困を解決すると言うミレニアム開発目標(MDGs)
が設定され、多くの国際機関、先進国政府、財団、NGO が様々な努力をしてそれなりの効果は出ているものの、
ビジネスの視点がないからお金の使い方の効率が悪い。それは既存の援助の仕方、チャリティーや無償援助のや
り方に欠陥があるからではないかという意見がある。他方には、ジェフリー・サックスが言っているように「や
り方が悪いのではない。お金をつぎ込めばいい、お金が足りていないのだ」という意見もある。いずれにしても
開発業界だけでは対処できない。ビジネスマインドをもって、効率よくお金を使う方法を学ばなければならない
ということと、チャリティーや ODA の資金では足りない時にどこから持ってくるべきかを考えたとき、それは
ビジネスセクター、民間セクターしかない。こうして開発側がビジネス側に近寄っていく。
◆ビジネス側:グローバル化、市場経済化、貿易自由化がどんどん進み、こうした動きに批判する人も多少いる
が、企業の活動は留まることがなく拡大している。と同時に、大企業になればなるほど CSR が問われるように
なっている。さらに、どんどんグローバル化が進むことによってバリューチェーンが伸び、自分たちの下請けが
さらに下請けに頼んでおり、最終製品の原料やパーツが世界中のあちこちから集められ、どこが出所なのかよく
分からなくなっている。こうしたバリューチェーンが伸びていく先の多くは途上国である。途上国では賃金や原
材料費が安いかもしれないが、労働環境などに問題があったり環境配慮が出来ていなかったりという問題が潜ん
でいる。企業としては自身のバリューチェーンの途中にこうした問題があることが NGO などに指摘されると評
判に関わり、ボイコットなどによって売り上げが落ちるというリスクがある。そこで企業自身のリスク対策に加
え、CSR の影響もあって「社会的配慮」に近づいた。その時に環境配慮と貧困削減という開発の世界の利他性が
もっとも消費者に受け入れられやすい。そこで企業の側も開発側に近づいて行った。これが現在の開発とビジネ
スの相互接近の背景である。
<BOP ビジネスについて>
基本的に BOP の定義とは、年間所得の 1 人当たり 3,000 ドル以下の層であり、この層をターゲットにしたビジ
ネスが BOP ビジネスである。
「貧乏人から搾取するビジネスなのではないか?」と言う人もいるが、そうしたい
わゆる「貧困ビジネス」とは違う。世界人口の 7 割は BOP 層であるにも関わらず、今までは最上層の 3 パーセ
ント、あるいは中流まで含めて3割の層しかほとんどのグローバル企業は見てこなかった。経済ピラミッドの上
2
層では競争が激しく、さらに日本もそうであるが、先進国の人口は減少局面に入りマーケットが縮小してきてい
る。このようなことから先進国企業も低所得者層を将来市場として取り込むことが必要であり、利は薄いかもし
れないが、数が多いから儲かるはずである。これが、日本企業による BOP ビジネスを経産省がプッシュする理
由である。この層を対象に商品を販売することで、この層の人々の生活が消費を通じて豊かになる(これを BOP
ビジネスバージョン 1 と呼ぶ)
、さらにビジネスをする時にバリューチェーンの中に生産者・流通者として貧困
層が入ることにより所得が上がる(これを BOP ビジネスバージョン2と呼ぶ)。このことにより、ピラミッドの
下の人たちが、だんだんと中間層に上昇して行く、これが BOP ビジネスの究極目標と言える。
2005 年にプラハラードが書いた「ネクスト・マーケット」や、2007 年に IFC が出版した「次なる 40 億人」は
途上国における BOP ビジネスの成功例集である。こうした事例を通じて、貧困層には金がない、先進国企業の
商売の相手ではない、というのは思い込みで誤った考え方であると指摘され、貧困層も十分に消費者・顧客にな
り得るということが発見された。貧困層は定義によれば金がないが、本当に金がないのだろうか?途上国の青空
市場を考えてみよう。その国の一人当たり GNP が 500 ドルだとしても、その 500 ドルは公式統計のものである。
青空市場は多くの人がやってきて小さいお金が動いているがここで動いている金はインフォーマルセクターと
言われるもので、これは統計には入っていない。これまでインフォーマルセクターをビッグビジネスは見ていな
かったが、そこには巨大なマーケットがある。もうひとつは、出稼ぎしている家族から送られてくる金の存在。
従来出稼送金にはあまり銀行は使われないので統計には入ってこない。こうして田舎ではお金はあるが、使う場
所がないという状況になっている(出稼ぎ御殿に、お土産で持ち帰った電化製品が溢れていることはある)。こ
のことから、BOP 層も本来マーケットになれるはずである。
しかし実際にはマーケットになっていないのはなぜか?それは BOP ペナルティーがあるからである。すなわ
ち BOP 層は BOP 層であるがゆえに生活コストが高いということ。例えば、乳飲み子を抱えているお母さんがバ
ングラディッシュのダッカと田舎にいたと仮定する。ダッカのお母さんが粉ミルクを買おうとしたら歩いて近く
のスーパーに行くか、運賃の安い公共バスに乗って買い物に行く。そこでは競争が激しくいろいろな種類の粉ミ
ルクが売られている。商品の回転が速いので新鮮な粉ミルクが簡単に手に入る。ところが同じ収入レベルのお母
さんが田舎にいる場合は、村には粉ミルクが売られておらず、お金と時間をかけてリキシャ(乗り物)に乗って
買いに行かなければならない。行った先の町には小さな万屋しかなく、粉ミルクを買う人は少ないので在庫はな
く、古いもの、品質が悪いものが置かれている。すなわちアクセスが悪いところに住んでいるがゆえに、企業の
マーケティング努力の範囲外に住んでいるがゆえに、高くて品質の悪いものを苦労して買うという事態が起きて
いる。これがそもそも BOP ペナルティーである。
このペナルティーの、
「交通網がない」
、
「アクセスが悪い」というのは同時に開発課題でもある。そこで開発
援助では道路作りや、マイクロファイナンスを進める。しかしビジネスにおいても、この BOP ペナルティーが
なくなれば自分たちのマーケットが広がり売り上げが出る、それならばビジネス活動の一環としてこの BOP ペ
ナルティーを減らす工夫がありうる。ここで BOP ペナルティーが軸になり、ビジネスと開発が接点を結ぶ。こ
の BOP ペナルティー解消に共に取り組むというのが BOP ビジネスの核心となる部分である。逆にこのように、
ビジネスと開発が結びつく「接点」のない「貧困層ビジネス」は BOP ビジネスとは言えない、と私は考えてい
る。
ビジネスによる BOP ペナルティーの解消の代表例は味の素の小袋による販売である。小袋(1 回分)を 0.5 ぺ
ソで販売する。近くの町に行けば 1 キロ入りの袋が半分の単価で買え、明らかに町で買った方が安い。しかし貧
3
困層は 1 日の日銭が安く、まとめて買う余裕がない。ここではアクセスという課題を企業の側が小袋にすること
によって乗り越えさせた。BOP ペナルティーを企業が払拭した。これによって貧困層は小銭が入れば 1 回ごとに
美味しい食事を食べられ、企業側は儲かる。これが Win-Win の関係である。他にもインドでのユニリーバの活動
や、グラミン銀行など、BOP ビジネスの BOP ペナルティーを解消しつつ行った例もある。
今まで私たちは貧困削減と言うと所得向上を目指していたが、所得向上がしなくても、消費という側面からも
貧困削減ができるというはの大きな発見。たとえ所得があがらなくても貧困削減効果はあり、収入が変わらなく
ても今までよりも、より安く手に入るようになれば、あるいは値段が変わらなくてもアクセスが良くなれば、交
通費等が浮き、浮いた分を別のことに使えるので所得向上と同じだけの効果がある。
ここにおいて企業が BOP ペナルティーを軽減しようとするときに、BOP 層の生活実態と生活ニーズを把握し
ている NGO の存在が注目されることになる。経産省やジェトロは 2009 年からこの BOP ビジネスを日本の企業
に広めようとしているが、大企業は乗っかってくるが、中小企業は乗っかってこない。日本の中小企業は途上国
の状況、マーケットが分らないと言うので JICA とジェトロは官民連携で途上国のマーケット情報を提供しよう
としている。ここにおいて NGO も活躍の機会があると考えられる。
Q&A
Q:フェアトレードが貧困削減につながるか?という研究をされていたということでそのことに関して教えてほ
しい。
A:フェアトレード団体は、
「フェアトレードは援助ではなくて、ビジネスなので効果も持続的だし貧困削減に寄
与する」というが、援助と本質的には大きな違いはない。もともとの「オルタナティブ・トレード」運動は、
現在の市場経済主導の貿易はフェアじゃないと言う認識の下にオルタナティブな交易の形としてフェアトレ
ードを開始した。そういう取り組みで貿易の仕組みを変えられれば、フェアトレードは根本的な貧困削減効果
はある。しかし、現在の主流のフェアトレードはラベルを付与することによって消費者に対して途上国の貧困
問題を伝え、
「生産者のためになる」という付加価値をつけてコーズリレーテッド・マーケティング(物語りつ
き販売)をしている点は、確かに単なる募金とは異なるイノベーションといえる。他方生産者に対して通常の
市場価格よりもより多くの対価を払い、また社会開発の原資を提供したりする。このマーケットメカニズム+
アルファの部分は基本的に援助である。また、その対象が選ばれた特定の生産者である点も援助と同じ。つま
りフェアトレードは援助と同じに意味がある、援助と同じ程度にしか意味がないということであると考える。
しかし、援助の財源として国連でもでもチャリティーでもない、「お買い物で協力」という流れが出来たのは
よいことである。
Q:BOP ビジネスにおいて、BOP 層の人たちに手が届くまでにはたいへんなお金がかかり、ある程度企業体力が
なければ難しい印象があるが、どう考えるか?
A:BOP ビジネスは CSR ではない。ビジネススタイルの中に BOP ペナルティーを減らすことを取り込めないこ
とには、フィランソロフィーである。体力とかに関係なく、物を売りたい時に BOP 層も巻き込まなくてはい
けないという必然性がある場合、BOP 層を取り込むために BOP ペナルティーを乗り越えなければならないと
いう考え方。それが美しい BOP ビジネスのあり方であると思う。BOP ビジネスは普通のビジネスよりも体力
がある企業しか出来ないか?というとそうではないと思う。
4
Q:BOP 元年が 2009 年でまだあまりたってないが、事例はあふれている。しかしこれらはビジネスとして採算
性を持っているのか、開発効果として BOP 層に裨益しているのか?その検証はどういう形で誰がおこなって
いるのか?
A:企業がそのビジネス単体で儲かるということは難しい。例えば、ダノンとグラミン銀行が組んで BOP ビジネ
スとして行っている事業は儲かってない。しかし、グラミンと組んでやったという価値が生まれる。しかし実
際のところは、単体で儲かっているかどうかは企業秘密なので評価出来ない。評価の方法として、今あるもの
はオックスファムの Poverty Foot Print などがある。NGO と企業が組んで、実際にどれほど貧困削減効果がある
のかということが分かるように作られている。
2.問題提起
①「実践から見えてきた BOP ビジネスの課題と今後の展望」
武田勝彦氏/(公財)ケア・インターナショナル ジャパン
常務理事兼事務局長
実はケアは BOP ビジネスに積極的に入っていったわけではなく、BOP ビジネスには慎重であった。本日は、
我々が味の素とガーナで行っていることやケア全体の事例を含めてお話しして行きたい。
<ケア・インターナショナル ジャパンの特徴>
① 貧困解決に向けて活動している国際 NGO
② アライアンス系 NGO と呼ばれ、途上国 70 箇所に事務所があり支援を行っているグローバルな国際 NGO
③ ジェンダーに配慮した活動に最も重きを置いて、女性・女の子にフォーカスして支援している NGO
<ケア・バングデッシュのケース>
マルチステークホルダーの視点から切り口を変えて話したい。もともとこの事業はバータ社(Bata)との連携
事業から始まり、セールスレディーが貧困層にバータ社の商品を持って売り歩くシステムを開発したとこから始
まった。ケアはその中で啓発を行い、貧困層に向けての流通システムを作った。ここにさらに入ってくるのがユ
ニリーバ社とキック社(Kik)
(ドイツの繊維会社)である。複数の企業が入り、いろいろな商品を入れたマルチ
バスケットを持ち歩いてセールスレディーが売る。これは非常に成功している。マルチバスケットの良いところ
は、コストをシェアできることである。1 社でやると大変だが、他社とコストをシェアすることで、非常に効率
よくでき、継続してできている。しかし、一つ問題がある。
「ケアはコミッションをもらい続けていいのだろう
か?」という思いや「我々は NGO なのでミッションがあるが、この事業の行きつくところは開発支援をする NGO
の範囲を超えてしまうのではないか?」という思いである。そのため、ケアが 51%、ダノン社が 49%出資して
別の株式会社を作った。まさにソーシャル・エンタープライズが進んでいる。
<ケア・ガーナのケース>
アクターがマルチな例である。これは先述したバングラデシュのケースをアフリカでも試みようとしたプロジ
ェクトである。特徴として、アクターが非常に多く、コミュニケーションが難しいものであった。まずは、味の
素、ガーナ大学とアメリカの財団である INF (International Nutrition Foundation)で商品開発を行う。ケアの側は、
日本事務所・バングラデシュ事務所・アメリカ事務所、それからガーナ事務所が入る。このようにマルチでやら
5
なければできなかったことではある。さらに、これが成功すればどんどん拡大していき、その際に、人に説明す
るのに数値が必要ということでアクターが増えた。開発支援効果はどうだったのか、ビジネスとしてはどうだっ
たのか、という BOP ビジネスの効果を、きちんと測定するために、スイスの栄養関係の財団ゲイン(GAIN: Global
Alliance for Improved Nutrition)というところに入ってもらい、モニタリングを実施した。加えて、連携先や資金
元として現地政府の保健局やアメリカの国際開発庁(USAID)や JICA も関わった。このように非常にマルチな
アクターがいる中で話を進めた。
<課題>
この 2 つの事例から 5 つのことが課題として挙がった。
① コミュニケーション(用語・持続性)の面における、相互理解の不足
○用語…言葉の意味合いの違い。例えば、NGO からするとプロジェクトだが、味の素などの企業からすると調
査やフィージブル・スタディーと言われる。開発支援団体が使うフィージブル・スタディーと企業が使
うものとではかなり意味合いが異なる。また、スケジュールプランの立て方、そこで使う用語にも相違
が見られる。用語と概念が合わず、プロジェクトが始まったにも関わらず、出だしに戻らなければなら
ないこともあった。
○持続性…NGO はサステナビリティを重要視しているが、そこにおいても、企業がどのくらいの年数で考えて
いるかに相違がある。
② 時間管理の難しさ
企業側も時間が長くかかることは分ってはいるが、製品を作るのと事業を開始するタイミングが合わなければ
ならないのに、時間通りにできなかったりする。「製品をこのコミュニティの人たちに販売しましょう」という
運びになっているのに、工場の建設や、原料の輸入が間に合わず、机上の話のタイミングとどんどん違ってくる。
NGO はコミュニティを待たせてしまうことになり、信頼関係が危うくなる。また、企業のスピードは早いが、
NGO はコミュニティに近いところでやっており、ガーナの保健局の認可が遅れるということも起こった。外部
的要因の影響が非常にあり、なかなか予定通りに物事を進めることは難しい。
③ 役員の理解不足(企業と NGO 共に)
役員の説得がうまくいっていないことが多い。経営者が賛成すれば予算がつくが、日本の企業は新たな試みへ
の経営判断に時間がかかる。役員の理解があるとないとでは、資金やスピード感が違うので、相談に来る企業に
はまず初めにそのことを聞くようにしている。同様に NGO 側の役員も説得しなくてはいけないこともある。
④ リソース不足(資金・専門性)
。特に資金不足。
欧米企業は経営判断が早く予算もつくので 1 社でできるが、日本では味の素のケースのようにマルチでやらな
ければならない課題がある。専門性の問題もよく出てくる。専門性も企業が持っているものと、NGO が持って
いるものとがぴったり合っていれば良いが、穴があり、他のアクターを入れなければならない。ガーナのケース
では、NGO は開発のモニタリングはできる。企業は通常のビジネスのモニタリングはできる。しかし、BOP ビ
ジネスのモニタリングはできないのでゲインを必要とした。このように、他者のリソースが必要である。
⑤ マルチパートナーの難しさ(同じ事業目的でも異なる手法、合意形成)
関係するステークホルダーがマルチすぎてコミュニケーションが難しかった。
6
<提案>
上記の課題を踏まえ、提案が 2 つある。
① 交流機会の創出
相互理解に向けて、特定の業界/分野毎の企業&NGO の交流機会を創出することが必要。
→これにより、マッチングが進むと考える。
② マルチパートナー
予算/専門性不足を補うとともに、様々なリスクを分散させるためにも、複数企業と複数 NGO 間でのビジネスモ
デル構築が必要
日本の場合はこれが良いのではないか?と考える。
最後に、パートナーシップ。つまり、担当者同士の信頼関係。これさえあれば、かなりの確率で成功するという
ことを覚えておいて欲しい。
Q&A
Q:ガーナのケースの場合、現地にも事務所がある中で日本事務所の役割はなにか?
A:調整役。現地事務所(ケア・ガーナ)では企業連携が進んでおらず担当者もいない。テクニカルな調整を日
本事務所が行う。
Q:交流機会の創出において、特定の業界/分野毎の企業&NGO 交流機会を創出とあったが、わざわざ特定にする
意味はなにか?
A: 同じ業種・セクターでないと、話がかみ合わないことが実体験としてある。(たとえば、水と衛生など)
②「NGO と企業の連携はどうあるべきか?」
平野光隆氏/(㈱)電通 ビジネス統括局 戦略企画室 局次長
私自身、従来より NGO・NPO、企業とも両者と関わってきた中で、疑問に思ってきたことを、本日は皆さんと
一緒にケースステディーを通して考えてみたい。
○ ケース A
A 社は製品を作る工場があるバングラデシュでの児童労働が問題となり、製品の不買運動が起こった。同じく
バングラデシュに生産工場を持つ競合社の B 社は、NGO と組んでバングラデシュの児童労働に反対するフォー
ラムを開く事で、自社の正当性をアピールする事にした。B 社は電通にフォーラムの運営・設営を予算も納期も
厳しい中、委託した。電通のスタッフは予算も時間も無い中、徹夜を重ねて準備をし、徹夜で設営をしていた鳶
が足を踏み外して天井から落下し、亡くなる事故が起きてしまった。
○ ケース B
C 社に比べて環境イメージで大きく劣るという調査の結果を見た競合 D 社のトップは、環境活動の強化という
号令をかけ、ある NGO と組み、世界の水資源の保護を打ち出して活動していく事になった。年末の役員会で、
急遽元旦に新聞広告を出す事になった。徹夜を重ねて何とか元旦の締め切りに間に合わせたが、電通の下で制作
7
を請け負ったデザイン・プロダクションでは、デザイナーの負荷が増大し、過労死してしまった。
○ ケース C
E 社の CSR 担当者は、会社の経費削減の中、CSR がどう会社の業績に結び付くかを説明するのに苦慮してい
た。そんな中、ある NGO よりフェアトレードチョコを販売しないか?という相談があった。NGO サイドでフェ
アトレードカカオの生産ルートがあるので、その原料を使ってチョコを作って販売しないかというもので、これ
こそが本業を通じた CSR 活動で、会社の業績に貢献するとして、製造・販売する事にした。しかし、商品には
味をまろやかにする為にパームオイルが使われており、商品が売れれば売れるほど、インドネシアの植生の破壊
と先住民族の生活を圧迫する事となった。
<NGO に質問>
この話は、日常的に企業と NGO が組んだときに起きる話であるが、何をどうすればよかったのか?そもそも、
このような進め方でよかったのか?というところを考えたい。なぜ企業と連帯したかったのか?それは企業と組
むことで、お金が入り大きな活動ができるからか?しかし、企業と組むことで、NGO にとって大切なモニタリ
ング機能が失われてはいないか?他の社会課題に目をつぶってはいないか?NGO のファンドレイズ担当は、企
業向け営業担当なのか?ファンドレイズ担当は広くお金を取ってくる担当であって、企業との連携案件をとって
くるものなのか?
<企業に質問>
何のために NGO と組むのか?NGO と組むとイメージがいいからか?CSR 先進企業に見えるからか?NGO と
組むことが免罪符となり、他の NGO からの追求がなくなり、他の社会課題への取り組み不足を隠せるからでは
ないか?競合企業と差別化できるからか?どこまで社会課題に真剣に取り組む気があるのか?トップから現場
までが社会課題を認識し、やろうとしているのか?(CSR 担当は非常に苦労しているが、社長がわかってくれな
いというのはよくある話。)社会課題に取り組む事が格好つけではなくて本当にメリットにつながっているの
か?CSR レポートでいい評価を得たいからではないのか?
<企業と NGO の連携について質問>
もともと目的は、企業は売上・利益の増大、NGO は社会課題の解決。これらは、補完する関係にもあるとは
思うが、相反することでもあると思う。しかし、実際には企業と NGO が接近している。企業はソーシャル課題
の解決を行い、NGO は企業化している。この背景にあるものは、企業は社会の要請として ISO26000 等、社会課
題に向かっていないと責められる、イメージが悪い、ということがある。それは売上向上のためではないのか?
NGO は NGO 同士の差別化が必要であり、大きな成果を上げないと寄付も集まらない、という心理があるのでは
ないか?このような中で、どのように連携するのか?
そもそも企業は利益の追求(=独占)や、富の集中(=格差の増大)を目指して活動している。それに対して、
NGO は格差をなくしたい、富は分配しましょう、地球を壊すのはやめましょう、という社会を目指して活動し
ている。両者の目指すものは違うのではないか?目指すものは同じでも手法は違うのではないか?ではどうした
らいいのか?NGO の企業にない長所として、直接支援、アドボカシー、モニタリング(企業や行政の観察役と
しての)があるが、連帯を目指すあまり、NGO の機能が鈍っていないか疑問がある。また、企業は NGO と組む
ことによって、NGO を取り込もうとしていないか?これで、NGO と企業の健全な連携が図れるのか?というの
8
が今日の問題提起である。
私の考える、企業と NGO の連携の仕方は企業と NGO 同士の理想の社会に向けたコミュニケーションである。
NGO は社会課題の解決によって理想の社会を目指す。企業はよい製品やサービスを提供することで理想の社会
を目指す。この両者は、理想の社会を目指して意見交換する。例えば、NGO が企業に対して「こんなに CO2 を
出す商品を売る必要はないのではないか?」等と、牽制し合い話し合いながら社会課題に向け、時に連携し合う
ことが大切なのではないか?と考える。
Q&A
Q:NGO と企業を対峙的にとらえているが、国や政府などのガバメントの 3 者でとらえなければいけないと思う。
なぜガバメントに触れなかったのか?
A:講演の依頼を受けた時に、企業と NGO の連携を進めていきたいとおっしゃっていたが、むやみやたらにお互
いが近寄っていくのが本当にいいのか、という疑問が心の中にあった。このことに関して今日は、腹を割って
話したい、「こう思うのですがいかがでしょうか?」ということを話してみたいと思った。また行政、企業の
足りないところを補うのが NGO ともいえる。
正直、NGO と企業の立場が対等だとは思えず、企業は NGO を下に見ているところがあると思う。「俺たちの
お金があるからお前たちは活動できているんだろう」という思いがあると思う。本来、志がある部分が重なっ
て活動しているのに、そのことが企業の人はわかっているのかなと思うことがある。
Q:日本の企業は、間に広告代理店の人が入ってくる場合が多いが、なぜか?役割がわかれば、NGO 側も接しや
すくなると思う。
A:企業側の商品を売る部署といつも一緒にいる何でも屋が代理店。これは日本独特であり、海外はプロジェク
トベースのコンペがある。そして、ビジネスである以上マーケティングがいる。日本において、マーケティン
グは代理店が強い。ユニリーバの手洗いのやり方の紙芝居をして回ったのは、現場で動いているのは、代理店。
あと、代理店は翻訳者としての役割もあると思う。NGO のやっていることを企業に上手く伝える。企業のや
っていることを NGO に上手く伝える。代理店はいろいろな社風、言語体系を持つ企業と日ごろ接しているの
で、多様なやり方を知っている。代理店が翻訳している意味は大きい。
Ⅳ.グループディスカッション/まとめ
○グループワーク テーマ①
★企業が逆立ちしても NGO にしかできないことは?
NGO が逆立ちしても企業にしかできないことは?
○グループワークでの各グループでの発表
<企業が逆立ちしてもできないことは?>
・利益を蔑(ないがしろ)にした活動。
・NGO のように利益がないのに長期的に活動するようなサステナビリティのある活動。
・BOP ビジネスは先行投資だが、社会課題が分らない、情報に鈍感である、社会課題を肌感覚で理解できない。
・ビジネスに関係ない現場の情報を得ること(リスクに関する情報が心配)。
・初期段階におけるコミュニティとの関係性。
9
<NGO が逆立ちしてもできないことは?>
・ ミッションを度外視した活動。
・ モノ、サービスの提供。ヒト・モノ・カネの規模の大きさ。
・ 企業の持つ専門性、マーケティングのノウハウ。
・ 持続的開発、社会課題を無視した事業。
・ 戦略・専門性やミッションにはずれること。
・ 開発目標が達成された時点で、プロジェクト終了。
佐藤:NGO は企業に比べ、サステナブルな活動ができるといった意見があったが、他のグループでは NGO は目
標・ミッションが終わってしまうとそれ以上活動できない、という意見が出ている。なぜこの問いを出した
か。相対的には企業にとっては地道な情報収集の活動はコストが高すぎる。NGO にとっては専門性を持っ
た人はコストが高すぎる。お互いにコストの安いものを求めて補い合うなら必要なものが明らかである。
NGO は儲からない事業でも続けられるが、ミッション性がなければいけない。対して、企業は儲かればミ
ッションは関係ない。そこに違いがある。ここにおいて、本当にお互いの譲れないものはあるのか?このこ
とを確認しないとパートナーシップは難しいと考えた。
グループワーク
テーマ②
★企業・NGO がお互いのポリシーに影響を与えられるか?
・ できる場合は初期の段階から NGO・企業・その他アクターが相談し合えるような信頼関係を築けている時が
ある。よくある話だが、代理店が入っていて、大枠を作っていて、
「この部分だけ NGO さんお願いします」
というものはできないと考える。
・ 付き合いの長さや、連携であげた実績によってはトップを動かせ、ポリシーに影響を与えられるのではない
か。
・ 企業が NGO に影響を与えられることはある。ポリシーの言葉の範囲が少し不明確だったが、ミッションに
影響を与えることはできると考えた。企業側へは、ポリシーをミッション・企業理念・社是と訳したので無
理だという結論になった。年間計画、行動のレベルで影響を与えることは可能だと思う。
・ 基本的にお金の動きということで、企業から NGO の働きかけはあっても、NGO から企業へはないのではな
いか。お金によって上下関係があるのではないか。ただし、企業の CSR 部門ではなく、経営企画部(企業の
トップマネージメント)や株主総会などで、企業自体がその活動のコミットメントに対してプレッシャーを
かければ、NGO が企業に影響を与えうることもあるという話になった。
・ NGO 同士が同じミッションを共有して手をつなぎ、企業と連携をしていくことによって影響を与えることが
できるのではないかと考えた。
・ NGO が企業を巻き込むことは可能だと思う。企業として耳を傾けるのは、消費者である市民。その市民を巻
き込むことができる力があるのは NGO。お客様を巻き込める力を使ってミッションに影響を与えられる。企
業が NGO のポリシー=ミッションに影響を与えられるかというと、それは理念であると思うので難しいが、
その下の段階の、アプローチ方法や方針・やり方、マネージメント方法やアカウンタビリティに関しては、
影響を与えられると考えた。
10
佐藤:影響を与えられないというところもあったが、例えば、企業が NGO と組むときにどういう風に相手に影
響を与えようと思うのか?下請けにしようとしているのか?「NGO はどう企業に影響を与えられるか」
というのと「企業から金をとってこよう」というのは違う。
NGO の本来のミッションとしてアドボカシーがあるのならば、そのアドボカシーによって何らかのプレ
ッシャーを企業に与え、企業が「クライアント」から「パートナー」に降りてくれば、NGO のビジネス
モデルとしていいと思う。あとは NGO が連帯すると交渉力を増すということが必要。例えば、ACE が森
永と連携しているが、チョコレート以外、チョコレートのカカオ以外に影響を与えられるか、ということ
を考えると、できると思う。
平野:グループワーク
テーマ②に関しては、NGO の天下だと思っていたので、NGO の皆さんにもっと元気を
出してほしい。20 年前だったら企業はこのようなところに来ない。企業がなぜ、この場に来ているかとい
うと、ISO26000 や CSR、グローバル・コンパクトや MDGs など、国際 NGO が働きかけた結果できあが
ったものがあるからである。その一翼である NGO の皆さんが、
「グループワーク テーマ②こそ NGO の
天下だ」といってもらえないのが残念。私が夢として持っているのは、企業と NGO が組んだときに NGO
がミッションとして持っていたものよりもっと大きなものに気がついて、他の NGO と組んでもっと大き
いことをやろうとか、もっと根本的なことを変えないとこの問題は解決しないと思い、
「ポリシーが変わ
るとか、多少ミッションが変わる」ということがあって欲しい。
武田:今日の企業と NGO の話はゾウとアリ程の大きさの違いがある。日本の NGO はもっと頑張らなければいけ
ない。海外の企業は人道支援部隊を持っているところもある中で、NGO のやっているような事もできる
はずである。NGO はそれに対抗するだけの能力を持たなくてはいけない。NGO も何団体かで連携するこ
とを考えないと日本はつぶれてしまうと思う。
以上
11
Fly UP