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株式会社タカトリ
株 式 会 社 タ カ ト リ 独 自 技 新術 事を 業糧 をに 開 拓 発を進めていたのが、現在の主力製品 員一人ひとりのベンチャー精神を鍛え であるマルチワイヤーソーです。 上げながら、新たな事業の開拓を目指 ワイヤーソーとは、シリコン、水晶、 セラミックなどの半導体材料を薄くス いずれは材料加工で培った技術力を ライスし、ウェーハと呼ばれる電子部 ベースに、次世代型のエネルギー産業 品の元となる材料に加工する装置で に関わりたいです。 「こんなシステム す。カセットテープのテープのように をつくりたい」と私が物理的に困難な 1960 年∼ ロールに巻き付けたワイヤーを、もう ロマンを語るため、社員はいささか 一方のロールに巻き取る間にワイヤー 困っているようですが、無謀な物事に 64 年、商号を株式会社タカトリ機械 製作所に変更、新社屋竣工。 で物を切ります。そのワイヤーを何重 挑戦するなかで、新しい技術の種を見 にも巻き付けて、一度にたくさん切れ つけ、育ててくれるよう願っています。 る仕組みのものをマルチワイヤーソー 地域に寄せる思い と呼びます。ゆで卵を切る調理器具と 髙 鳥 王 昌 会長 繊維機械で 世界のトップに 私が機械製造に本格的に目覚めたの 同じような仕事をするわけです。 時代とともに、電子部品の材料も 雇用の 90 %以上を奈良県内、資材調 パワー半導体などに使われるサファイ 達の 95 %を近畿圏内で賄う地域密着 の名を世界に広めた、思い出深い製品 ア、シリコンカーバイド(SiC) 、ガリウ 型の企業でもあります。 のひとつです。 ムナイトライド(GaN)の需要が高まっ 研究開発や販路拡大の面では国際的 成長分野への進出 ていますが、これらは非常に硬い素材 なネットワークも必要不可欠ですが、 であるため、従来型のマルチワイヤー わが社を育ててくれた奈良県を中心と ソーでは切断加工が困難でした。 した近畿全体の振興に貢献すること は、25 歳のとき、前職の経験を活か 1983 年、私は半導体機器分野への進 出を表明しました。当時は「ラインク そこで私たちは、ダイヤワイヤーを す。奈良県工業試験場を間借りしてい ローザ―」をはじめとする繊維機械で 往復走行させながらローラーを揺動 電子部品製造機器分野への参入にあ たこともあって、修繕以外の機械に関 業績を伸ばしていたものの、繊維不況 させる独自技術を搭載したマルチワイ たっては、繊維・精密・一般産業の設 する相談を持ちかけられることが増 の到来が危惧されていたころ。設備投 ヤーソーを開発し、高硬度な材料を薄 計・製造・加工業者に集結いただき「奈 え、みなさんの声をもとに機械の開発 資が止まってからでは遅過ぎると判断 く、精度よく、なおかつ高い生産性を 良県ハイテク工業団地協同組合」を設 や製造に取り組み始めたのです。 し、次なる事業を考えたときに成長過 得られるようにしたのです。この揺動機 立し、技術力を補完しあう連携体制を 程の半導体機器に目が留まったのです。 構には、自動糸巻き機や自動ワイヤー 取ってきました。また、近年では地元 ずいぶん畑違いの業界に乗り出した 巻き機といった、わが社が手がけてき の奈良県工業技術センターとタッグを 十分な利益も得られました。人の思い ものだと驚かれるかもしれませんが、 た機械のノウハウが活かされています。 組み、マルチワイヤーソー事業におけ つかない機械の開発に創造の喜びを感 わが社の信念は「世の中にないもの、 新事業創出に向けて る技術開発を進めるなど、地域のネッ じた私は、その後もオリジナルの機械 新しいもの、他社が取り組まないもの の開発をつづけ、 会社を設立しました。 をつくる」ことなので、新しい成長分 独自の揺動機構によるマルチワイ 繊維機械を主軸としたのは、繊維が 野への進出はむしろ必然といえます。 ヤーソーは、 サファイア、シリコンカー される企業でありつづけるためにも、 わが社は今後も「創造と開拓」の精神 主力事業の成長過程にあるなかで新 バイド(SiC) 、ガリウムナイトライド てきたのは、ユーザーニーズを先取り における成長分野でもあったからで 分野進出に踏み切ることは、経営資源 (GaN)の加工市場で世界シェア 90% した「世界にない、新しいものづくり」。 す。業界の動向を観察しつつ、潜在的 の乏しい中小企業にとって大変難しい 以上を獲得し、会社全体の売上高も 繊維機械から電子部品製造機器へと に必要とされているものを、私たちが 選択ですが、企業理念にしたがって前 昨年度(2011 年 9 月期)は 85 億円、 先回りしてつくり出そうと、様々な繊 へ進む決断を下したことに間違いはな 対前期比 182%と大幅に伸びました。 維機械を手がけました。とくに 1972 かったと確信しています。 年に開発したパンティストッキングの マルチワイヤーソーで 2 度目の世界一 として揺るぎない信頼を得ている。 地元雇用や産学公連携にも積極的に 取り組み、 総力を挙げて新たな可 能 股上自動縫製機「ラインクローザ―」 は、股上部分の縫製にかかっていたコ しかし、こうした現状を楽観しては いられません。さらなる事業展開に向 けて、研究開発・販路開拓の双方で最 適なパートナーを見つけ、協力関係を ストを大幅に減らす画期的なマシンと 1980 年代から 90 年代にかけて、わ 築いていくことがますます重要になっ して、 国内のみならず、世界各国で引っ が社の主力事業は、繊維機械から半動 ていくでしょう。国内外の研究機関と 性に挑み続けるタカトリという企業につ 張りだこになり、売上げも 100 億を 体および液晶ディスプレイ製造装置へ の連携、あるいは競争的資金(委託費、 いて、創業者の髙鳥王昌会長が語る。 超える急成長を遂げました。タカトリ と徐々に移行します。その間に研究開 補助金等)の活用を積極的に行い、社 18 も、 大事な使命と考えているからです。 生産性向上に貢献するヒット作となり、 地域の基幹産業であり、当時の産業界 み出し、社会に貢献する機械メーカー 輸出するグローバル企業である一方、 進化します。なかでも LED の基盤や 創 業 以 来、 株 式 会 社タカトリが 貫い も世 界 一 のシェアを占める製 品を生 わが社は製品の 70 %以上を海外へ して機械修繕業を始めてからのことで なかでも吉野葛粉砕機は、吉野葛の 移 行した新旧の主力事 業で、いずれ していきたいと考えています。 Corporate History トワークを活かした事業にも力を入れ ています。世界からも地元からも信頼 で歩みつづけます。 P ro f i l e 髙鳥王昌(たかとりおうしょう)会長 1939 年(大正 14)新潟県生まれ。戦後、 メリヤス機械の修繕業に従事し機械工の技 術を習得。独立後、機械開発・製造で成果 を上げ、1956 年(昭和 31 年)に株式会社 髙鳥機械製作所(現・株式会社タカトリ) を設立。股上自動縫製機に代表される世 界初の繊維機械を多数開発し、1982 年よ り参入した電子部品製造機器分野において は新機構のマルチワイヤーソーの開発に成 功。世界シェアをほぼ独占する高い技術力 を誇る企業に育て上げた。2009 年(平成 21 年)代表取締役会長に就任。 1956 年∼ 56 年、株式会社髙鳥機械製作所を設 立。繊維機械の製造・販売を開始。 1970 年 72 年、パンティストッキング股上自動 縫製機ラインクローザ―を開発。海 外代理店と契約を行い、本格的輸出 を開始。 1980 年∼ 82 年、 半 導 体 機 器 分 野 に 進 出。86 年、全自動ウェーハ表面保護テープ貼 り機・剥がし機の ATM・ATRM を開 発。商号を株式会社タカトリに変更。 87 年、「 奈 良 県 ハイテク工 業 団 地 協 同組合」を設立。89 年、アパレル裁断 システム TAC、液晶機器の TAB 圧着 機を開発。 1990 年∼ 90 年、 マル チワイヤ ーソー を開 発。 橿 原 事 業 所 新 社 屋 竣 工( 現・ 本 社 )。 94 年、本社を奈良県橿原市新堂町に 移転。98 年、本社工場増築竣工。 2000 年∼ 01 年、大阪証券取引所二部市場に指 定。05 年、 設 立 50 周 年 を 期 に 企 業 理念改訂。06 年、戦略的コア技術と して「7 つのコア技術」を明確化、技 術ス ロ ーガン を設 定する。07 年、 環 境 マネジメントシステム の 国 際 規 格 「ISO14001 :2004 」 を 認 証 取 得。 08 年、株式会社エムテーシー(半導 体 用フォトマス ク製 造 関 連 装 置 の 製 造・販売)を関連会社化するとともに、 業務提携を締結。ウインテスト株式会社 (CCD 等 撮 像 素 子 およ び FPD の 検 査装置の開発・販売)を関連会社化す 「も るとともに、 業務提携を締結。09 年、 のづくり中小企業製品開発等支援事業 補助金」 (中行企業庁)に採択される。 2010 年∼ 10 年、 「低炭素社会を実現する新材料 パワー半導体プロジェクト (NEDO)」 (経済産業省)に参加。「戦略的基盤 技術高度化支援事業」(近畿経済産業 局)の採択。「第 3 回奈良県ビジネス 大賞」(奈良県)最優秀賞を受賞。マ ルチワイヤーソー展示場「スライシン グラボ」を設置する。11 年、「地域イ ノベーション戦略支援プログラム」 (文 部科学省)に参画。「2011 KANSAI モノ作り元気企業 100 社」(近畿経済 産業局)に選ばれる。「第 4 回ものづ くり日本大賞」(経済産業省)特別賞 を 受 賞。12 年、12 月 本 社 新 工 場 増 築竣工予定。 19 株式会社タカトリ 高精度のカッティング技術を確立 世界初・日本初 ナンバーワン性能 トップシェア グリーンイノベーションの切り札として LEDや新材料パワー半導体が世界規 技術等概要 あらゆる硬脆性素材を 高精度かつ大量にスライス加工 揺動機構によるマルチワイヤーソー インゴットと呼ばれる半導体材料の塊に、ダイヤモンドを固 着させた鋼製ワイヤーを高速で押しつけて走らせながら、高 模で市場拡大をつづけるなか、それらの元になる材料の安定供給は至上命題 です。そんなニーズに株式会社タカトリのマルチワイヤーソーが応えます。 精度かつ大量のウェーハにスライス加工する装置です。とく マルチワイヤーソー に、サファイア、シリコンカーバイド、ガリウムナイトライドと いった市場拡大を続ける難加工素材に性能を発揮し、世界で 90%以上のシェアを獲得。現在 11 モデルを展開しています。 難加工素材の 材料化をレベルアップ 省エネ・創エネ効果に優れた LED 【特徴 1】 やパワー半導体の普及が進むにつ 【特徴 2】 独自技術の「揺動機構」を採用 「固定砥粒方式」をいち早く導入 マルチワイヤーソーで採用している揺動機構は、ワイ マルチワイヤーソーの性能を高めたもうひとつの切断方 ヤーを円弧状に揺らしながら角度をつけて切る、タカト 式が、ダイヤモンドを固着させたワイヤーを用いる固定 リ独自の技術です。その発想の原点は、従来手がけた自 砥粒方式です。接触部に油性砥液を噴射する遊離砥粒方 動糸巻き機や自動ワイヤー 式に比べて、加工時間を大 巻き機の仕組みにありまし 幅に短縮できます。タカト た。高速回転に揺れをプラ リはこの方式をいち早く スすることで、サファイア 実用化し、スライス加工の をはじめとした難加工素材 生産性向上を実現しまし を攻略しました。 た。 れて、素材であるサファイアやシ リコンカーバイドをいかに高精度 かつ高効率に切断加工し、材料化 するかが課題となりました。とい うのも、それらの新素材は非常に 硬いのが特徴で、従来の方式では 質・量ともに対応しきれなかった のです。 株式会社タカトリは、その課題を 克服すべく、繊維機械製造で培っ 揺動機構 装置外観 た技術にヒントを得た、揺動機構 による世界初のマルチワイヤー ここに 注目 背 景 独自性 今後の事業展開 1980 年代の繊維不況を機に、半導体 業界へ参入。半導体機器、液晶機器に 続いて着手したのが、半導体の元にな る材料に目を向けたワイヤーソー事業 です。LED やパワー半導体という次世 代半導体材料の市場拡大を予見し、素 材の特性に適したマルチワイヤーソー の開発に取り組みました。LED 用のサ ファイア加工においては独自技術で業界 トップに定着しています。 タカトリのマルチワイヤーソーには、素 材をワイヤーの下から上へ押し入れる アップタイプと、反対に上から下へ押 し入れるダウンタイプの 2 通りがありま す。いずれを選択するかは加工材料に よって概ね決まりますが、あらゆる硬脆 性素材に合わせて加工条件を設定でき るフレキシブル性も特長のひとつです。 社内にはお客様や開発スタッフがテスト カットを行えるスライシングラボも設け ています。 マルチワイヤーソーのスライス加工技術 の高度化に向けて、加工技術の改善に よるコストダウン、パワー半導体の開発 促進と早期実用化などのテーマに、国 内外の研究機関とも連携を図りながら 取り組んでいきたいと考えています。 ワイヤーを往復走行させるローラーごと円弧状に揺らします。ノコギリを使うと ソーを開発。難加工材料を高精度 きに角度をつけるのと同じように、ワイヤーがワーク(素材)に点接触に近い状態 かつ大量にスライス加工する技術 で接するので、接触部の荷重が高まり、高硬度な素材をスムーズに切断できます。 を世界に先駆けて確立しました。 世界シェア 90%以上を獲得 揺動機構のマルチワイヤーソーは、 サファイア、シリコンカーバイド、 製品化の流れ インゴット スライス加工 ウェーハ パワー半導体 LED ガリウムナイトライドの加工市場 で世界シェアの 90%以上を占める スライシングラボ ベストセラー製品です。加工困難 なトレンドの新素材を精巧に、大 量に加工できる性能が高く評価さ 会社概要・基本情報(2012 年 1 月現在) 業務概要 れています。 「第 3 回奈良県ビジネ 所在地 〒 634 -8580 奈良県橿原市新堂町 313 番地の 1 従業員数 約 200 名 半導体および液晶関連機器、ワイヤーソー、 ス大賞」最優秀賞(2010 年/奈良 繊維機器の製造販売。 U R L http://www.takatori-g.co.jp T E L 0744 -24 -6608(代表) F A X 0744 -24 -8352 資 本 金 9 億 6323 万円(2011 年 3 月) 県) 、 「第 4 回ものづくり日本大賞」 代表者名 代表取締役会長 髙鳥王昌 20 設 立 1956 年 特別賞(2011 年/経済産業省)の マルチワイヤーソーは、鉱物を精製したインゴットと呼ばれる個体から、半 導体などの材料のもとになるウェーハをつくる間のスライス加工に用いる装 置です。サファイア、シリコンカーバイド、ガリウムナイトライドの加工部 門で株式会社タカトリは世界トップシェアを得ており、それらを利用する LED やパワー半導体の普及により需要拡大が期待されています。 受賞も成果のひとつです。 21