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第II部 一般会計予算編成過程の分析

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第II部 一般会計予算編成過程の分析
第II部
一般会計予算編成過程の分析
第3章
一般会計予算編成過程の実態分析
上述のようなアメリカにおける財政的意思決定理論の展開に比して,わが
国においてはこのような分析の行われた例はほとんどない。そこで,第3章
ではわが国の一般会計予算を対象として予算編成の実態を分析し,意思決定
行動仮説を構築する。
§1. 概
(1)
要
予算編成における増分主義的傾向
わが国の予算編成においても,多くの側面で増分主義的傾向が支配的と思
われる1)。これを示唆するいくつかの観察事例をあげてみよう。
(i)
庁費,旅費等の一般行政費については,標準予算の慣行が広く行われ
ている。これは,前年度の予算額に単価補正等最小限の修正をほどこすの
みで,各年度の予算をほぼ機械的に決定する方式である。
(ii)
人件費:公務員数はほぼ不変にとどめられ2),給与水準については前
年度のレベルを所与として人事院が民間給与との比較で引上げ率を勧告す
る。したがって,人件費に関する予算上の裁量は,実施時期の決定を除け
注 1)キャンベル(Campbell, J.C.)
〔5〕は,日本の予算関係者とのインタビューか
ら,ウィルダフスキィの指摘した予算編成上の「増分主義」が日本でも支配的で
あるとしている。
キャンベルはさらに,日本の場合の特徴として,省庁間あるいは経費項目間の
「バランス」が重視されることをあげ,それが次の機能を果たしているとしてい
る。
(i) 計算の補助手段としての機能:予算額の決定に必要な情報や基準が存在し
ないとき等に,意思決定者の負担を軽くする。
(ii) 戦略としての機能:ある経費水準を,国家的必要性によって正当化するの
でなく,他の経費との比較によって正当化する。これは要求の際にも査定の
際にも用いられる。
2)昭和44年の「総定員法」施行以降は,国家公務員数の総数にはほとんど変化が
ない。それ以前においては,公務員数の増加率は毎年度3%程度でほぼ一定であ
る。
− 57 −
ば,きわめて限られていると思われる。
(iii)
社会保障:年金保険に典型的にみられるように社会保障制度の多く
は継続的な性格をもっており,制度の基本的な変更は困難である。したが
って,各年度の社会保障費の大部分が,現行制度での給付水準や保険料あ
るいは医療費単価を物価修正することで決定され,制度改善によるものは
漸変的にとどまると思われる。
(iv)
歳入面での最大の政策決定は所得税減税規模の決定であるが,これ
も歳出規模との関連で決定されるというより,むしろ課税最低限を前年度
をベースとして物価補正することで定まる部分が大部分を占めると思われ
る。
(v)
公共事業費については,上記(i)∼(iii)の諸経費のように事業内
容そのものが制度的に前年度実績に大きく制約されることはないが,しか
し,公共事業費総額の決定に関してしばしば前年度をベースとした「伸び
率」が問題とされる。これは公共事業費も増分主義的決定と無関係ではな
いことを示唆している。
(vi)
昭和35年度以降,各省庁の要求額に対して財政当局は一つのガイド
ラインとしてシーリングを設けているが(表3−1),これは中味を問わず,
各省庁一律に前年度比増加率を提示するものである。
(単位 %)
表3−1 概算要求のシーリングの推移
年度 シーリング
36 50(48)
37 50(41)
備
考
年度 シーリング
シーリング提示のはじ 46 25(23)
まり
47 25(22.1)
48 25(28.1)
38 50(38)
39
40
41
42
50(34.9)
30(26)
30(26)
30(28)
43 25(24)
44 25(22)
45 25(22)
1. 出所 国の予算
49
50
51
52
25(22.4)
15
15
10(15)
備
沖縄復帰関係費は別枠
但し重要施策で限度期限
が間に合わぬものは別枠
一般行政費 10%
そ の 他 15%
53 13.5
2. ( )内は概算要求実績増加率
− 58 −
考
第3章 一般会計予算編成過程の実態分析
(vii)
実際に各経費別の予算の推移をみても,その増加率は安定的である
ことがみてとれる(付録II参照)。
(2)
意思決定の主体
わが国の場合には予算の政府案と議決予算の間に差がなく,むしろ政府案
決定までに〔要求限度提示−要求−査定−復活要求−二次査定〕というよう
に,財政当局と各省庁の間での交渉プロセスがあり,利害集団の政治的圧力
等もこの段階で作用する。したがって,アメリカにおける分析のように行政
府と議会との間のプロセスを分析することは意味がなく,むしろ各省と財政
当局の間の交渉過程を分析することが重要であると思われる。しかし,この
過程は公開の過程ではなく,データ的にも,要求限度に縛られた各省庁別要
求額と大蔵原案しか存在しない。そこで,以下では編成のプロセスは問題と
せず,最終的な決定を政府全体の意思決定であると考え,全体としての意思
決定ルールを探索しようとする。
(3)
経費の分類とデータ
一般的な経済変数とは異なり,ここで対象とする財政データは,年度デー
タを細分してデータのサイズを大きくすることができない。したがって,デ
ータのサイズを大きくするという観点からは,データ期間をできる限り長く
とった方がよい。しかし,それには次のような問題がある。
(i)
データによっては,年度の古いものは入手不可能であるし,入手でき
ても継続性などの点で問題がある。
(ii)
昭和20年代以前と現在とでは,財政制度や構造にかなりの変化があ
る。
そこで,ここでは,データの期間として,昭和20年代後半から最近年度ま
での約20年間をとった。したがって,われわれは,戦後日本の財政構造を分
析の対象とすることになる。なお,戦前の期間をも含めて超長期の財政構造
を分析するのはそれなりの興味があるが,それは別の機会に行うこととした
い。
歳入および歳出は,
①
当初予算ベース
− 59 −
②
補正後予算ベース
③
決算ベース
のいずれかによってみることができる。これらのうち,②と③とは計数的に
大きな差はないが,①と②とではかなりの差がある。それは高度成長期にお
いては,当初予算で税収をやや低めに見積り,年度内に発生する自然増収を
財源として補正予算で人件費や食糧管理費などを増額改訂するというパタン
がほぼ恒常的にとられてきたためである。そこで,次の3つのアプローチが
考えられる。
a
○
当初予算ベースの計数を当初の経済見通しの計数等によって説明す
る。
決算ベース(または補正後ベース)の計数を国民所得統計の実績値等
b
○
によって説明する。
c
○
当初予算→補正予算→決算の流れを,見通し→実績見込み→実績によ
って説明する。
a のアプローチの欠点としては,
○
ア
予備費の最終的な使途が分からないこと,
イ
公共事業等によって年度内に景気調整策が行われた場合,その分析
ができないこと,
ウ
人件費,食糧管理費等についての分析にバイアスが生ずること,
エ
一般に,当初の経済見通しに意図的なバイアスがある場合には,真
の意思決定が分析できないこと,
b のアプローチをとることで解消される
などがあげられる。これらの点は○
b の欠点として,年度開始前に行った決定と年度中の経済情勢の
が,他方,○
変化に応じて受動的に行った決定とを識別できないことがあげられる。以下,
b
実態分析においては,当初および決算を中心に検討し,第4章のモデルは○
c のアプローチで当初予算お
のアプローチで決算ベース,第5章のモデルは○
よび補正後予算を用いている。
次に歳入,歳出の分類方法について検討しよう。これは,一見ささいな問
題のようにも思われるが,実は分析結果の有効性に大きな影響を与える。
− 60 −
第3章 一般会計予算編成過程の実態分析
そして,いかなる分類を採用すべきかは,いうまでもなく,問題意識のい
かんによって異なる。歳入の分類方法は問題意識の差異によってさほどは影
響されないが,歳出の分類は問題意識によって大きく異なる。例えば財政の
景気調整機能に関心があるなら,国民所得統計におけるような分類(財貨サ
ービス経常購入,政府固定資本形成,移転支出等)を用いるべきであろうし,
また,重点的施策の変遷に関心があるなら,施策分野別の分類(たとえ社会
保障,文教,防衛,等々)を用いるべきであろう。そこで以下では,ば,主
として歳出分類の考え方について検討する。
われわれの分析の目的は,歳入,歳出に関する意思決定メカニズムを明ら
かにすることにあるから,異なるメカニズムを識別しうるような分類を採用
する必要がある。もちろん,いかなる費目といかなる費目のメカニズムが異
なるかは,分析結果をまって初めて明らかにされる事柄であるから,ある程
度の試行錯誤は不可避であるが,およその見当としては,経費の決定メカニ
ズムは,施策の目的(または施策の分野:たとえば,社会保障,社会資本整
備,防衛,教育,等々)と,支出の形態(例えば,給与,施設費,庁費,
等々)によって識別しうると考えられよう。したがって,われわれの分析に
おける経費分類の一応の理想形として,施策の目的(または施策の分野)と
支出形態によるクロス分類を考えることができる。
各年度の予算書または決算書から,この分類に従ったデータを作成するこ
とは,原理的には不可能ではない。しかし,これはきわめて膨大な作業量を
要する。そこで現実問題としては,既存の分類統計にかなりの程度依存せざ
るを得ない。一般会計歳出予算に関し,現在利用可能な統計としては,所管
別分類,使途別分類,主要経費別分類,目的別分類,使途別・所管別分類が
ある3)。これらの統計はそれぞれ異なる問題意識を背景として作成されてい
るが,われわれの目的に完全に合致するものはない。
そこで,ここでは,次の方法によることとした(算出法の詳細とデータは
補論Iを参照)。
注 3)この他に,国民所得統計における中央一般政府支出が一般会計支出についてあ
る程度の情報を与える。なお,各統計の詳細は補論Iを参照。
− 61 −
(i)
施策の目的(または施策の分野)と支出形態との間にはかなりの対応
がある(例えば,社会資本整備のほとんどは施設建設費,防衛のほとんど
は人件費と物件費)と考えられるので,基本的には主要経費別分類に従う
経費区分を行う。
ただし,継続性をもたせるため,ある程度の組みかえを行う。
(ii)
主要経費別分類の「その他の事項経費」の内容が明確でないことも
考え,「人件費」,「物件費」の項目を設ける(これらの定義および算出法
は補論Iを参照)。
(iii)
予算の全体像の把握を目的とし,できるだけあらい分類による。し
たがって,
①
主要経費別分類の大項目による。このため,特に社会保障関係費では,
生活保護,年金,医療などかなり性質の異なる経費が一括されることに
なるが,適宜,必要に応じて内訳も検討することとした。なお,主要経
費別分類における「社会保障関係費」と「恩給関係費」を一括してここ
では「社会保障費」とする4)。
②
人件費,物件費の区分を設けたことにもかんがみ,主要経費別分類に
おける「文教及び科学振興費」「防衛関係費」は特記しない。
③
主要経費別分類における「食糧管理費」「経済協力費」「中小企業対策
費」等は民間経済活動に対する補助的経費と考え,「その他経費」とし
て一括し,細分化しない。
(iv)
分類各項間の重複を排除したり,すべての歳出を何らかの項目でカ
バーすることは必ずしも必要ではないが,予算規模自体の決定についても
興味があるので,ここでの分類は「重複なくかつ全体をカバーする」もの
とする。
(v)
歳入は,「所得税」「法人税」「間接税」の3項目に分類する。さまざ
まな税外収入は「間接税」に含めて考える5)。
注 4)これを主要経費別分類に却ける「社会保障関係費」と区別するためには「社会
保障費等」と呼ぶべきであろうが,一般的文脈のなかで「等」のついた項目が表
われると誤読される危険があるため,ここではあえて「等」をおとす。
5)
(注4)と同じ理由で「等」をつけない。
− 62 −
第3章 一般会計予算編成過程の実態分析
以下この分類に即して経費の制度,動向を分析し,その決定方式を検討す
る。
§2. 税収にかかわる意思決定
(1)
増減税の概要
税収にかかわる意思決定は増減税としてあらわれる。
増減税の額は,各年度の当初予算における税収見込額(税制改正前)と税
制改正後の税収見込額との差額である。税制改正は,1月1日を期して行わ
ず,年の途中に行われることが多いので,増減税額には初年度ベースと平
年度ベースの2種類ある。ただし増減税の典型である所得税の課税最低限や
税率引上げは,49年度までは4月1日からの改正が常であったが,50年度か
らは1月1日をもって改正がなされこの区別はなくなった。以下で対象とす
表3−2 増減(△)税額の推移
増減計
所得税 所得税+
年度 (A)+(B)+(C)
相続税 法人税
(A)
(B)
(A)
30
31
32
33
34
35
36
37
38
39
40
41
42
43
44
45
△
△
△
△
△
△
△
△
△
△
△
△
△
△
△
395
0.3
720
261
133
58
648
987
499
836
813
2,090
803
550
1,503
1,768
△
△
△
△
△
△
△
△
△
△
△
△
△
△
△
344
151
951
51
309
0
611
433
591
655
571
1,344
901
1,051
1,507
2,431
△
△
△
△
△
△
△
△
△
△
△
△
△
△
△
344
151
951
71
309
0
611
447
591
682
573
1,394
910
1,051
1,507
2,431
46
47
48
49
50
△ 1,674 △ 1,693
(△2,530) (△2,530)
48 △ 246 △ 276
△ 3,355 △ 3,191 △ 3,338
△10,020 △14,810 △14,810
51
△
△
1,387
2,050
1.890
△
2,390
0
△
3,010
0
△
49
△
88
71
135
15
0
△
△
△
△
△
187
0
49
321
274
376
58
0
8
610
間接税
(C)
△
1
△
62
160
56
160
58
△
△
△
13
306
24
2,110
10
150
(単位:億円)
△
151
539
44
167
34
(A)
5.6
40.2
△ 2.0
△ 11.0
0
(B)
△
2.5
△
4.0
2.3
4.1
0.4
0
△
△
16.1
8.4
△ 9.0
△ 8.1
△ 5.5
△
△
△
△
△
3.2
0
0.6
3.2
2.6
320
165
500
4
53
12.4
7.3
△ 6.8
△ 7.5
△ 10.0
293
5.6
(△6.9)
△ 0.8
△ 7.2
△ 28.5
1.2
0.07
3.5
4.3
0
0.02
0.3
18
41
2,680
950
1,740
注 ( )内は46年度,年内減税額(平年度分)で外書
− 63 −
当初予算額に占める
シェア(%)
△
△
△
△
△
(C)
△
0.03
△
1.2
2.8
0.9
2.3
0.8
△
1.6
4.9
0.6
1.6
0.3
4.7
0.5
0
0.04
2.5
2.0
1.0
2.4
△ 0.02
0.2
0.05
1.0
△
△
0.06
0.1
6.1
1.8
3.1
るのは,当初予算の決定であるから,特にことわりのない限り全て初年度分
である。
昭和30年代以降の増減税の推移を,所得税,法人税,間接税別にみると
(表3−2,図3−1),概略,次のようなことがいえよう。
i)全体でみると,50年度までは若干の例外(31,35年度は財政のひっ迫,
47年度は前年度に年内減税を実施済のため,きわめて少額の増減税を行
う)を除いて,所得税減税を基調とする減税措置がとられてきた。
ii)増減税の規模は,所得税が最も大きく,当初予算に占める比率でみると
(表3−2),所得税が最大40%にも達するのに対し,法人税,間接税のそ
れは高々6%程度である。
iii)所得税は,35,51年度を除いて減税措置がとられている。法人税は,40
年代前半までは減税,それ以降は増税基調に転じている。間接税は,基本
的に増税基調にある。
(2)
税目別の推移
図3−1 増減税額の推移
− 64 −
第3章 一般会計予算編成過程の実態分析
i)所得税(表3−3参照)
昭和30年度以降,不況期を除き,毎年度ある程度の自然増収が見込まれた
ので,定常的には課税最低限の引上げにより,また2∼4年おきに所得水準の
向上に伴う税率の累進度の高まりを是正するため税率の引下げを行うことに
より,減税措置がとられてきた。このことは,基本的には租税負担率をでき
るだけ低い水準に維持する政策によるものと考えられる(図3−2)。
定常的なルールと異なる決定が行われたと考えられる年度には,次の3通
りが考えられる。
ア)景気が正常で,税収の伸びが大きく見込まれるときは,税率の変更を
含む大幅な減税(32,36,37,44,45,49の各年度)。36年度と37年度
および44年度と45年度は急激な税率変更を行わず2年がかりで実施した
と考えられる。
イ)不況打開のための有効需要喚起策としての税率変更を含む大幅減税
(41,46年度の補正)。
ウ)景気抑制の場合(33年度)と,財源難の場合(35,51年度)に減税が
図3−2 租税負担の国民所得に対する比率
(注) 51年度及び52年度は実績見込および見通しによる。
− 65 −
表3−3 所
年 度
当初予算
得
減
主 税 局
試
算
減 税 額
減
課税最低限
30
2,699
△
344
31
2,623
△
151
△
151
32
2,301
△
951
△
344
33
2,448
△
51
△
51
34
2,719
△
309
△
266
35
3,309
36
3,663
37
4,979
38
6,361
△
39
7,723
40
0
611
(注1)
(△ 218)
△ 433
税
税
手
税
率 そ
△
△
0
税
の
段
の 他
0
0
748
+ 141
0
0
112
+
0
69
0
△
397
△
234
+
20
△
241
△
196
+
5
591
△
277
0
△
314
△
655
△
649
0
△
6
9,891
△
571
△
802
0
41
10,440
△
1,344
△
843
42
11,784
△
901
△
1,157
+
76
+ 179
43
14,658
△
1,050
△
1,122
+
73
0
44
19,006
△
1,507
△
1,202
△
301
45
23,055
△
2,431
△
1,471
△
990
46
28,328
△
△
1,666
0
△
8
47
34,014
(△1,280)
0
(△1,250)
0
△
(0)
246
0
△
41
2,020
△
310
△
1,674
(注2)
(△2,530)
△ 246
△
445
+ 231
△
△
55
4
+30
48
42,419
△
3,191
△
3,150
49
47,590
△
14,810
△
12,480
50
66,050
△
2,390
△
2,480
0
51
64,010
0
0
0
0
52
73,480
3,080
0
0
0
△
△
+
90
(注1) 道府県への委譲に伴う税収減であり,外書。
(注2)46年度の年度内減税(初年度分1,650億円)の平年度分であり,内訳は,初
− 66 −
第3章 一般会計予算編成過程の実態分析
収
の
内
推
(単位:億円)
訳
税
源
移
減 税 額
決
当初予算
目
泉 申
算 額
%
12.7
2,787
0
5.8
3,049
△
118
41.3
2,518
40
△
11
2.1
2,593
269
△
41
11.4
2,781
0
0
3,906
310
△
151
△
833
△
△
考
告
42
△
備
△
0
所得税率変更
短期利子税率→10%
貯蓄控除制度創設
所得税率変更
長期利子税率→10%
△
484
△
127
16.7
4,959
所得税率変更
△
355
△
78
8.7
5,796
同
△
574
△
17
9.3
6,907
利子・配当税率10→5%
△
559
△
96
8.5
8,374
△
209
△
362
5.8
9,704
△
1,096
△
249
12.9
10,841
所得税率変更
△
800
△
101
7.6
12,896
配当税率10.15%→15.20%
△
991
△
60
7.2
16,131
所得税率変更
△
1,251
△
256
7.9
20,056
同
上
△
1,892
△
539
10.5
24,282
同
上
△
1,446
△
228
5.9
28,892
補正で所得税率変更
△
136
△
110
0.7
37,261
△
2,967
△
224
7.5
53,323
△
13,500
△
1,310
31.1
53,505
△
1,830
△
560
3.6
54,823
0
0
0
62,125
0
0
4.2
0
年度分の内訳をもとに推計。いずれも外書である。
− 67 −
上
利子税率5→10%
配当税率5→10.15%
所得税率変更
ゼロあるいはほとんどなされない。
なお,所得税の減税のうち,前述の措置によらないものでは,利子,配当
税率の変更が主要なものであるが,貯蓄等の奨励のため税率を引下げた38年
度以外はほぼ増税基調で推移している。ただし,47,49年度には,老人,寡
婦,住宅対策等のための減税措置がとられている。
ii)法人税(表3−4参照)
戦後,法人税率は昭和25年度のシャウプ税制によって35%と定められたの
であるが,27年度に朝鮮動乱により企業が異常な高収益をあげたため,42%
と一挙に7%引上げられた。その後は,30年度に40%に引下げられたのを始め
として,一貫して税率が引下げられてきた。その根拠となった考え方は,企
業の経営基盤の強化にある。なお,租税特別措置の合理化努力が恒常的にな
されてきたため,税率引下げがなされないで,結果的に法人税増税となって
いる年もある。なお,41年度の税率引下げは,不況対策の一環として行われ
たものである。
45年度に至って,公私両部門における資源配分論,財源論,景気調整論等
の見地から,担税力が高まった大企業の税率を引上げることとなった。この
措置は当初2年間の臨時措置とされたが,46年8月の税調「長期税制のあり方
の答申」において,法人税の負担水準維持が打ち出されたためそのまま継続
し,49,50の両年度においても,企業の担税力の高まりに応じた税率引上げ
がなされた。
iii)間接税(表3−5参照)
昭和30年代の間接税の増減税は,道路整備の目的税たる揮発油税のほぼ1
年おき(32,34,36,39年度)の増税が主たるものであった。ただし,37
年度に酒税,物品税の大幅減税がなされているが,これは,36,37年度と続
く大幅自然増収の1部を還元する性格のものと考えられる。
40年代に入ると,種々の性格をもった増減税が行われた。まず,41年度に
は,景気回復策の一還として物品税減税が行われた。さらに,43年度には国債
減額等,財政引き締めの一環として,従量税のため実質税率が低下しつつあ
った酒税の増税が行われた。40年代後半に入ると,46年8月の税調答申にみ
− 68 −
第3章 一般会計予算編成過程の実態分析
表3−4 法
人 税 収
の 推 移
年
32
3,096 + 71
33
3,311
34
3,408 + 15
35
4,389
36
5,782
37
7,000
0
0
7,804
38
7,605 + 49
0.6
8,629
度
31
法 人 税 率(%)
決算額
備
考
同 左
増減 シェア (億円) 基 本 税 率 軽 減 税 率
税額 (%)
留保分 配当分 留保分 配当分
%
%
%
%
〔25〕
35
〔27.1〕
42
―
―
42
〔30.1〕
30.10
40
35
1,948 △ 49 △ 2.5
1,921
40
35
所得税減税財源
2,191 + 88
4.0
2,598
捻出
30
当初予算額(億円)
△
135
2.3
△
0
△
187
4.1
3,641
〔33.4〕
3,083
38
0.4
3,906
0
△
3.2
5,734
〔36.4〕
7,143
39
10,150
△
321
△
3.2
40
10,357
△
275
△
2.6
41
8,947
△
376
△
4.7
9,754〔39.4〕
〔40.4〕
9,271
37
〔41.1〕
10,317
35
42
11,790
△
58
△
0.5
13,080
43
14,765
0
0
15,919
44
18,580 +
8
0.04
45
24,203 + 610
2.5
46
28,715 + 13
0.05
25,565
47
25,917 + 306
1.2
29,922
35,384 + 24
+
49 49,280 2,110
*(2,060)
50 63,470 + 10
*( 200)
51 46,280 + 150
0.07
48
52
58,130 + 270
38
24
26
22
45,180
〔49.5〕
28
3.5 58,161
40
〔50.5〕
(1,374)
0.02 42,653
30
( 289)
0.3 48,209
注 ( )は会社臨時特別税で内数。
〔 〕は税率変更の年月。
− 69 −
前年度の増税の
33 補てん
28
20,087
〔45.5〕
25,672 36.75
0.5
33
31
28
表3−5 間
接 税 収
の 推 移
当 初 予 算 額(億円)
30
決算額
(億円)
同左シェ
増減税額
ア (%)
3,102 △
1
△ 0.03
5,010
31
5,097 +
62
1.2
32
5,722 + 160
2.8
33
6,284
34
6,955 + 160
2.3
35
7,719 +
36
9,432 + 151
8,805 関税+58
1.6 10,703 揮発油税+154
4.9 11,136 酒税△309,物品税△172
年度
△
56
△
58
5,608 関税+62
6,077 揮発油税+128,印紙収入+30
6,612 酒税△56
7,932 揮発油税+193
0.8
37
10,865
38
11,682 +
39
13,555 + 167
40
15,226 +
41
15,973
42
(△ 475)
17,277 + 165
43
21,013 + 500
44
23,669
45
26,422 +
46
30,096 + 293
47
(△ 258)
31,651 + 18
48
35,560
49
43,650 +2,680
50
51,940 + 950
6.1 45,857 揮発油税+990,印紙収入+990,重
量税+790
1.8 48,551 酒税+1,070
51
56,589 +1,740
3.1 59,144 揮発油税+6,240,重量税+500
△
△
△
△
539
0.9
主たる増減税税目及び増減税額
△
0.6 12,575 関税+44
1.6 14,141 揮発油税+182
44
34
320
4
△
1.0 18,346 印紙収入+151(原重油関税の特会へ
の振替△475)
2.4 21,292 酒税+450
△ 0.02
24,566 印紙収入△4
0.2 27,870 物品税+53
1.0 28,546 重量税+302
53
41
0.3 14,985 物品税+25
2.0 16,646 物品税△287
0.06 33,939 航空機燃料税+48,(原重油関税の特
会への振替△258)
△ 0.1
39,732 物品税△307,有価証券取引税+302
られるように,間接税はその地位の低下をくいとめ,その充実をはかるべき
ことが旨とされるようになり,自動車関係諸税,酒税,印紙収入などによる
増税の傾向が顕著となった。ただし,47,48の両年度は,それほど財源が窮
迫していなかったこともあって増税措置はとられていない。
(3)
増減税決定のメカニズム
(1),(2)の考察を踏まえると,増減税の決定は主として財源の余裕度および
景気の局面からなされると考えられる。このほか前年度までにどのような政
策がとられたかも1つの要因である。また,国債が発行されるようになった
− 70 −
第3章 一般会計予算編成過程の実態分析
表3−6 増減税に関する主要トピック
年度
30
31
32
33
34
35
36
予
算
措
置
税調中長期答申等
所得税減税の財源捻出のため,法人税,関税の増 31. 12 臨時税制調査
税を行う。
会答申
1,900億円余りの自然増収見込を背景に大幅減税
を行う。
経済に与える刺激的影響を避けるため,大幅減税 33. 12 臨時税調委員
を避ける。法人税は前年度の特別措置合理化によ
懇 談会意 見と
る負担増を埋め合わせるため減税。
りまとめ
財源難および災害対策等の財政需要に応ずるた
め,減税は見送り。
37
38
39
40
41
39. 12 長期答申
長期答申のうち,利子配当課税強化が生かされ
ず,大幅減税となる。
有効需要喚起のため戦後最大の減税。
42
43
44
45
46
47
48
49
50
51
...
国債減額等財政の引き締めのため,酒税,たばこ 43. 7 長期答申
定価の引き上げをはかる。
44年度,45年度で長期答申に示された減税目標を
達成。
所得税減税の必要性,国債減額の必要度に鑑み,
法人税の引き上げをはかる。
46. 8 長期答申
46年度年内補正により,景気浮揚策として所得税
減税を行い,47年度当初はほぼ増減税ゼロとす
る。
巨額の自然増収見込に対応して,大幅な所得税減
税を行う。
財源難のため,所得税減税を行わない。
52
52. 10 中期答申
41年度以降は,国債発行高(前年度より増額するか減額するか)も財源余裕
度に影響を与え増減税を決定する大きな要因となっていると考えられる。
財源の余裕度として対前年度増加財源の前年度当初予算規模に対する比率
で考えると(図 3− 3参照,基礎データ等は表3− 7,表 3− 8参照),財源
に余裕があるとき減税幅が大きいことがうかがえる(32,33,36,37,
− 71 −
表3−7 当初予算増加財源の内訳
(単位:億円)
(B)
対前年度予算
(A)
減 税 後
減税後 規模増加財源
年
および
公債増 公債追 比率 (%)
租税及ひ 税 外 前年度 減 税 前 減税額
剰余金
度 印紙収入
増加財源
加後増
自然増収 収入増 受け入 追加財源
(B)
加財源 (A)
れ増
30
31
32
33
360
519
1,922
1,051
5
27
190
811
434
1,745
2,008
△
34
1,086
( 221)
94 △ 197
1,204
35
2,096
208 △ 637
1,446
36
3,930
204
4,479
△
57 △
13 △
147
△
395
0
720
261
434
1,025
1,747
4.4
16.9
17.7
4.4
9.9
15.4
△
133
1,071
9.2
8.2
58
1,504
10.2
10.6
3,831
28.5
24.4
△
648
48)
987
499
836
813
4,740
4,233
4,055
4,026
29.6
19.5
17.2
14.9
24.3
17.4
14.2
12.4
△
2,090
3.7
17.9
700 6,366
16.1
14.8
△
550
1,503
1,768
10,275 △1,600 8,675
10,710 △1,500 9,210
12,702 △ 600 12,102
21.9
21.0
21.5
17.5
15.8
18.0
△
1,387
14,645
0 14,645
20.2
18.4
5,333 15,200 20,533
5.9
21.8
24,265 3,900 28,165
29,953 △1,800 28,153
24.1
28.0
24.6
19.7
43,419 △1,600 41,894
26.6
24.5
△
(△221)
344
△
(△
37
38
39
40
4,807
3,131
6,826
4,647
229
739
225 1,376
△ 69 △1,866
256 △ 64
5,775
4,732
4,891
4,839
41
1,190
806 △ 644
1,352
377 △
(△ 475)
6,944 △ 803
42
7,353
43
44
45
9,476
11,905
13,771
853
496
551 △ 243
743 △ 44
10,825
12,213
14,470
46
14,965
339
16,032
△
〔8,262〕
47
5,732 △ 226
48
49
25,656
36,854
32
728
37
762 1,202
762 2,357
〔42,330〕
50
37,830 5,290 2,424
△
△
△
△
△
(△ 258)
5,543 〔2,482〕
48
27,620
39,973
3,355
△10,020
△
0
738 7,300 6,562
△
5,666
〔△6,550〕
45,544
△
2,050
51 △20,100 2,219 △6,687 △24,568
1,890 △22,678 52,750 30,072 △11.5 14.1
52
29,060 2,515
408 31,983 △ 1,850 30,133 12,050 42,183 13.2 17.4
(注)(1) 税外収入増の( )は,経済基盤強化基金によるもので,外書。
(2) 〔 〕は,47年度については,46年年内減税分(平年度2,530億円)を追加,
50年度は,49→50年度の平年度化額4,500億円を追加
(3) 減税額の( )は,税源振替分であり,外書。
− 72 −
第3章 一般会計予算編成過程の実態分析
表3-8 当 初 予 算 歳 入 内 訳
(単位:億円)
現行法によ
年度 る租税印紙 減 税 額
歳 入 計
租
税 税外収入 前年度剰余 公
収入見込
債
印紙収入
金受け入れ
うち
(A)
(B) (A)−(B)
一般財源
( 204)
30
8,143
△ 395
7,749
1,758
408
0
9,915
( 157)
31
8,267
0
8,267
1,701
381
0
10,349
(
96)
32
10,189
△ 720
9,469
1,714
191
0
11,374
( 436)
33
10,520
△ 261
10,259
1,860
1,002
0
13,121
( 330)
34
11,346
△ 133
11,212
2,175
805
0
14,192
(
79)
35
13,309
58 13,366
2,162
168
0
15,696
( 219)
36
17,297
△ 648
16,649
2,366
512
0
19,527
(外 △ 48)
( 498)
37
21,456
△ 987
20,421
2,596
1,251
0
24,268
( 1,067)
38
23,552
△ 499
23,053
2,820
2,627
0
28,500
( 362)
39
29,879
△ 836
29,043
2,750
761
0
32,554
( 520)
40
33,690
△ 813
32,877
3,007
697
0
36,580
(
0)
41
34,067
△2,090
31,977
3,813
53
7,300
43,143
(外 △ 475)
(
8)
42
39,330
△ 803
38,052
3,436
21
8,000
49,509
( 114)
43
47,529
△ 550
46,979
4,289
517
6,400
58,185
( 114)
44
58,884
△1,503
57,381
4,840
274
4,900
67,395
(
77)
45
71,152
△1,768
69,384
5,583
230
4,300
79,497
( 349)
46
84,349
△1,387
82,963
5,922
958
4,300
94,143
(外 △ 258)
( 366)
47
88,695
48 88,485
5,696
995
19,500
114,676
( 907)
48
114,141
△3,355 110,786
6,458
2,196
23,400
142,840
( 1,429)
49
147,640 △ 10,020 137,620
7,220
4.554
21,600
170,994
( 5,514)
50
175,450 △ 2,050 173,400 12,510
6,978
20,000
212,888
(
0)
51
153,300
1,890 155,190 14,729
291
72,750
242,960
(
0)
52
184,250
1,850 182,400 17,244
699
84,800
285,143
(注) ( )は,税源振替分であり,外書。37年度は,所得税の税源配分218億円と
入場税の譲与廃止分170億円の差額,42年度及び47年度は,原重油関税の特
別会計への振替分。
− 73 −
図3−3 前年度予算規模(当初歳入)に対する増加財源比率の推移
44,45,48,49の各年度)。ただし,法人税,間接税について個別にみると,
30年代中頃までは所得税と同様なパターンを示したが,それほど余裕がなか
った39,40年度に法人税減税を行ったり,42年度以降は,財源余裕があった
にもかかわらず,法人税,間接税ともほぼ一貫して増税基調にあることは,
上記(財源,景気)以外の要因を考える必要があることを示唆している。
なお,43年度のように,比較的財政に余裕があるにもかかわらず,財政引
き締め策をとり,間接税増税を行っている年もある。
以下では,最も政策的意図を表わしていると考えられる所得税減税に関し
てさらに詳細に検討する。
(4)
所
得
税
i)所得税制の概要
所得税は,納税義務者である個人の所得に対して一定の算出方法に基づき
課税される。具体的には,まず,主として担税力の異なるのを理由として,
課税標準たる所得を,利子所得,配当所得,不動産所得,事業所得,給与所
得,退職所得,山林所得,譲渡所得,一時所得,雑所得の10種類に分類し,
− 74 −
第3章 一般会計予算編成過程の実態分析
原則として,それらを合計して総所得金額を算出する。次にこれから所得控
除1)を行って,課税所得金額を算出する。そして,この課税所得金額に対し
て税率が適用され税額が算出される(さらに一部の所得について,税額控除
が行われる)
(表3−9)。
所得税に関する大きな意思決定はその増減税にかかわるものである。
所得税増減税(以下所得税減税という。増税は符号で区別)は,次の3つ
に大別される(図3−4参照)。
ア)課税最低限の変更によるもの
イ)税率の変更によるもの
ウ)その他(主として利子,配当税制の変更)
課税最低限は,表3−10に示すように一貫して引き上げられてきている。
図3−4 所得税減説の推移
注 1)所得控除とは税率適用前に課税標準たる所得から控除される金額で,現在,基
礎控除をはじめ,14種類の所得控除が認められている。これに対して,税額算出
後一定の税を控除する場合を,税額控除という。
− 75 −
表3−9 所
〔課税標準〕
① 総
所
得
金
得
税
の
算
出
法
〔所得控除〕
額
①
雑
②
医
損
控
①
課税総所得金額
{利子+配当+不動産+事業
③ 社 会 保 険 料 控 除
②
課税事業所得等の金額
+給与+雑+譲渡(短期)}+
④
小規模共済等掛金控除
{譲渡(長期)+一時}× 2
⑤
生 命 保 険 料 控 除
措置法適用の土地等
⑨
損 害 保 険 料 控 除
課税総所得金額
に係る事業所得等の金額
⑦
寄
附
金
控
除
課税退職所得金額
⑧
障
害
者
控
除
除後の
⑨
老
年
者
控
除
i 短期譲渡所得金額
⑩
寡
ii 長期譲渡所得金額
⑪
勤
②
費
除
除
1
療
〔課税所得金額〕
控
1
5
課税山林所船額× ×税率×5=税額
③
i 課税短期譲渡所得金額
×税率=税額
③
措置法適用の特別控
−
婦
労
控
学
偶
者
生
除
控
控
=
ii 課税長期譲渡所得金額
税額控除
④
課税山林所得金額
除
配当控除,外国税額控除,租税特別措置
除
法上の税額控除
④
山林所得の金額
⑫
配
⑤
退職所得の金額
⑬
扶
養
控
除
⑭
基
礎
控
除
⑤
課税退職所得金額
(51年度)
− 76 −
第3章 一般会計予算編成過程の実態分析
表3−10 課 税 最 低 限 の 推 移
年
前年度との見 1 人 当
給与所得者
実
績
経済見通し 見通 + 通しと実績の り現金
し
乖離
標準世帯課 同左初
年度分
給与総
税最低限
CPI 1 人 当 り 現 CPI 雇 用 者 1 CPI 1 人 当 り
(千円) 伸び率 伸び 金給与総額 伸び 人当り所 伸び 所得の伸 額(毎
勤 統
(毎勤統計)
得の伸び
び
初年 平年 (%)
計)
(%) 伸び(%) (%) (%) (%) (%) (千円)
度分 度分
30
205 213
― △ 1.3
― △ 1.7
―
―
―
220
度
31
32
33
34
35
36
37
38
39
40
41
42
43
44
45
213
244
250
280
290
325
345
377
418
474
537
633
721
801
880
227
250
250
290
290
325
352
385
427
491
553
660
741
820
900
0.0
7.5
0.0
12.0
0.0
12.1
6.2
7.1
8.6
11.0
9.4
14.5
9.2
8.1
7.3
46
47
48
49
50
51
52
(注)
963
1,037
1,121
1,507
1,830
1,830
2,015
984
1,037
1,149
1,707
1,830
1,830
2,015
7.0
0.0
8.1
31.2
7.2
0.0
10.0
1.3
2.5
0.4
1.8
3.8
6.2
6.7
6.6
4.6
6.4
4.7
4.2
4.9
6.4
7.3
6.9
4.4
3.3
6.4
7.3
12.4
9.4
11.1
10.3
8.8
11.2
12.4
13.3
16.3
17.4
5.7
5.2
16.1
21.8
10.4
8.8
7.6
14.0
16.1
22.3
27.7
11.5
12.8
△
S.46当初
初年度分
(注) 46年度の課税最低限は, 963→
移している。
△
0.0
0.4
0.2
0.5
1.1
1.1
2.8
2.8
4.2
4.5
5.5
4.5
4.8
5.0
4.8
―
―
2.2
2.6
4.3
7.6
6.3
6.8
8.9
8.7
8.7
9.0
9.8
10.7
14.0
0.6
1.6
1.9
0.3
2.5
3.8
7.8
6.8
7.9
5.1
8.3
3.6
4.5
5.1
6.5
―
―
―
3.7
8.1
10.6
11.1
9.9
13.2
10.1
8.8
11.5
13.2
14.2
19.6
236
246
254
270
290
326
356
396
437
475
528
594
673
782
918
5.5
5.3
5.5
9.6
11.8
8.8
8.4
14.2
11.8
14.8
16.6
17.1
11.8
11.6
7.9
5.6
5.5
20.1
23.9
7.4
8.4
17.6
11.6
19.1
24.1
28.2
6.2
12.6
1,047
1,216
1,487
1,899
2,188
2,390
同
平年度分
984→
S. 46補正 同
初年度分
平年度分
1,003→
1,037千円と推
また,税率は,課税最低限の引上げに伴う最低税率の調整を行った42,43年
度を除いて,減税の方向で変更が行われてきている(図3−5)。
ii)課税最低限の決定ルール
所得税の課税最低限を具体的にいかに定めるべきかについては,税制調査
会の答申のなかでいくつかの所論がみられる。
− 77 −
図3−5 所 得 税 率 の 推 移
(注)表示金額以下ならば対応する税率が適用される。
例えば,昭和32年度税制改正の答申においては,「課税最低限をいくらに
定めるべきかという問題を解決するにあたっては,一方において,所得税が
最低生活費に食い込むことを避けるべきであるという要請,税務執行の適正
化を期するためには,納税人員は税務当局の執行能力の限界内に留まるべき
であるという要請があるが,他方,国の財政に寄与することを身をもって意
識しながら納めるような税(すなわち所得税)が,なるべく多くの人によっ
て負担されることが望ましいという事情もあるから,これら両面の要請を合
わせ考え,財政需要ともにらみあわせて,適当な金額を定める必要があろ
う。」と述べている。
同様のことは昭和35年12月の「税制調査会第一次答申およびその審議の内
容と経過の説明」,あるいは,昭和39年12月の「『今後における我が国の社会,
経済の進展に即応する基本的な租税制度のあり方』についての答申およびそ
の審議の内容と経過の説明」(いわゆる,「長期税制の答申」)にも述べられ
ている。
課税最低限は,①納税者の最低生活費の確保,②税務行政執行能力に留ま
る範囲での最大の納税人員の確保,③財政需要,という三つの要請に合うよ
− 78 −
第3章 一般会計予算編成過程の実態分析
うに定められているといえよう。ここでは①と③をとりあげ,それらについ
て次のように考える。
a
○
「納税者の最低生活費の確保」は,前年度の課税最低限に,何らかのイ
ンフレーターを乗じたものによって表わされると考える。これは,課税最
低限に関する増分主義的決定である。
インフレーターとして何を,また,どの時点のものをとるべきかは,ア
プリオリには分らない。インフレーターとして,最も常識的に考えられる
のは,消費者物価,または,一人当り所得の上昇率である。また税制改正
に関する意思決定は,通常12月に行われ,その時点において財政当局が確
定的な数値として利用できるのは,その年度の実績見込みであるという点
からは,説明変数として前年度のインフレーターをとるべきであろう。し
かし,年度内減税が行われた年度もあったことを考えると,当年度をとる
ことも考えられる。
b
○
「財政需要に応じる歳入の確保」という要請に関しては,まず財政需要
は,景気動向には,さほど影響されないが,租税収入は景気の変動にきわ
めて敏感に感応する(税収の伸び率は好況期に高まり,不況期に低下す
る)ことに注意する必要がある。
したがって,減税額が歳入の動向とどのように関連しているかをみる必
図3−6 課税最低限の推移
− 79 −
要がある。課税最低限の実質引上げ率と景気動向との関係をみると,図3
−6(前年度の物価でデフレート)のようになる。
この図をみると,40年度以前は,景気の山(増収期)に実質課税最低限
を引上げ,景気の谷に変化させないという動きを示している。したがっ
て,自然増収の大小によって課税最低限の引上げ幅を決定していたと思われ
注 2)昭和39年税制調査会答申抜萃
1. 一般税制部会の審議結果の報告(39.10.9)
(別紙)一般税制部会の審議結果
1. 税負担水準のあり方
(1) 今後における税負担水準のあり方を考えるに当たっては,国民経済にお
ける公共部門のあるべき比重の面と,標準世帯の総合税負担の面との両面
から検討することが必要である。
この場合,公共投資,社会保障などを中心に今後財政の果たすべき役割
を増大させることの必要性は認められるが,その反面,民間部門の経済活
動の発展と国民生活の向上をはることもあわせて配慮すべきであると認め
た。
(2) 従来税負担水準のあり方についての基準として用いてきた国民所得に対
する租税負担率については,税収面からの最適予算の規模を示すとともに
国民の税負担感を集約的に反映する指標としての意味を有し,その趣旨と
するところは決して不当ではない。しかし,この比率を用いる場合には,1
人当たり国民所得水準との関連が十分考慮されないうらみがあり,また,
租税負担率を算定する際の計数のとり方についても検討の余地がある等
種々問題があるので,この際これと異なる基準を立てることが望ましいと
認めた。
(3) 税負担水準を直截的,計数的に示す基準として,少なくとも毎年度の自
然増収のうちその20%程度を減税に当てることが適当であるという基礎問
題小委員会報告の考え方については,この程度の減税割合では租税負担率
が上昇することとなる等の理由から減税割合はもっと高い方が望ましいと
する意見があった。この問題については,種々の角度から検討した結果,
次のような点にかえりみ,おおむね小委員会報告は妥当なものと考えるが,
財政の効率化に一層努力を傾注することにより国民負担の軽減を図ること
が望ましいと認めた。
(イ) 上記考え方における減税割合20%は初年度減税の割合であり,長期
的に考えた場合には,減税の平年度化をおりこめば減税割合は実質的に
は25%程度となること。
(ロ) 上記の割合程度の減税を実施すれば,国民所得に対する租税負担率
の上昇は極めて僅かと見込まれ,所得水準の上昇を考慮すればこの程度
の負担率の上昇はやむをえないものと認められること
− 80 −
第3章 一般会計予算編成過程の実態分析
る。それを裏付けるように35年の税調の答申では,所得税の負担が重いの
で,自然増収をもって減税するようにと述べ,さらに39年の同答申2)では
初年度ベースで自然増収の20%程度を減税に当てることが適当であると,
そのメドまで示している。
その後の推移をみると,名目的には,50年度まで一貫して課税最低限を
引上げており,実質的にも変動はあるものの好況期には引上げがはかられ
ている。ただ問題となるのは不況期(40年度,46年度,49年度)に比較的
表3−11 課税最低限の実質化
年
度
30
Pのバリエーション
GP2
GP0
GW0
GP1
GW1
CPI 見
通し+ 所 得
CPI
所 得
CPI
前年度 見通し
初年度 初年度 見通し
乖離分
―
―
―
―
―
実
績
GW2
所得見
通し+
前年度 初年度分 平年度分
乖離分
―
205
213
31
210
220
213
214
―
―
213
227
32
228
238
226
230
―
―
244
250
33
255
258
250
254
254
―
250
250
34
249
256
251
251
255
257
280
290
35
293
303
292
295
299
308
290
290
36
297
305
292
298
307
313
325
325
37
340
355
332
344
340
352
345
352
38
370
377
359
370
370
378
377
385
39
404
417
397
408
411
423
418
427
40
442
460
441
443
455
459
474
491
41
518
523
511
522
523
523
537
553
42
572
600
572
568
590
601
633
660
43
681
721
684
682
709
725
721
741
44
768
815
769
769
800
820
801
820
45
861
920
850
860
906
940
880
900
46
949
1,017
937
953
996
1,019
963
984
47
1,026
1,086
1,023
1,025
1,071
1,070
1,037
1,037
48
1,078
1.162
1,080
1,080
1,152
1,186
1,121
1,149
49
1,287
1,341
1,232
1,322
1,292
1,356
1,507
1,707
50
1,985
2,062
1,856
2,013
1,920
2,068
1,830
1,830
51
2,023
2,041
1,991
1,965
2,040
1,943
1,830
1,830
52
1,991
2,065
1,984
1,984
2,042
2,061
2,015
2,015
− 81 −
実質課税最低限の伸びが大きく,好況期の48年度にそれ程大きくないとい
うことである。これを個々にみると,40年度は,当初,負担率の軽減のた
め課税最低限が引上げられたが,その後の不況が深刻化したため,結果的
に不況期の減税というパタンになったと思われる。
46年度(年度内減税)は,景気浮揚のためと説明されている。48年度は,
額としては大きな減税を行ったが,消費者物価上昇率が当初見通しの5.5%
から実績で16%3)となったため,実質ベースでみると,それ程大きな減税
にならなかったものである。なお,49年度は,不況の年であるが景気浮揚
という観点とは別の理由で大幅な課税最低限の引上げが行われた。すなわ
ち,48年度から続くインフレの影響をうけ,課税最低限が実質的にマイナ
スの伸びになるため,48年度の「目減り」分と49年度の物価上昇率の見込
み(9.6%)を織り込んで引上げたものと推察される。
課税最低限のデフレーターとして何が適当であるかを検討するためにデフ
レーターとして表3−11に掲げる6種類を検討した。
§3. 国債発行額
一般会計における国債は財政法第4条第1項但書により,公共事業費,貸付
金,出資金の範囲内で発行することができる。昭和30年代はこの規定にもか
かわらず,高度成長に伴う順調な税収を背景に均衡財政主義がとられてき
た。しかし,昭和40年度にいたり,予想を上回る景気後退から年度中に歳入
欠陥が生ずることが明らかとなり,補正予算で戦後初の一般会計債が発行さ
れた。これは年度中でもあり,特例法による発行となった。41年度以降は当
初より,建設公債原則による国債発行が組み込まれている。
昭和40年度以降の当初予算における公債発行予定額の推移は表3−12の
とおりである。これによると,昭和41,42年度においては,ほぼ建設公債
限度いっぱいまでの発行が予定されているが(すきま率4.6,8.0%),その後
46年度までは積極的に公債依存度の引下げが行われている。しかし,景気後
退が著しくなった46年度補正で景気回復を目途として国債が増発され依存度
注 3)人口5万以上の都市の消費者物価指数。
− 82 −
第3章 一般会計予算編成過程の実態分析
表3−12 公債発行予定額の推移
項目
年度
41
(単位 億円,%)
当初国債発行 公 債 発 行
当初予算総額 予 定 額 対 象 件 数
公債依存度
すきま率
(A)
(B)/(A)
(C)−(B)/(A)
(B)
(C)
43,142
7,300
7,650
16.9
4.6
42
49,509
8,000
8,696
16.2
8.0
43
58,185
6,400
8,975
10.9
28.7
44
67,395
4,900
10,388
7.2
52.8
45
79,497
4,300
12,139
5.4
64.6
46
94,143
4,300
14,278
4.5
69.9
47
114,676
19,500
21,130
17.0
7.7
48
142,840
23,400
29,265
16.4
20.0
49
170,994
21,600
29,678
12.6
27.2
50
212,888
20.000
30,524
9.4
34.5
35,524
29.9
( 0.8)
44,416
29.7
( 0.3)
60,747
32.0
( 0.4)
72,750
51
242,960
(37,500)
84,800
52
285,143
(40,500)
109,850
53
342,950
(49,350)
注) 1)公債発行対象経費は,
「財政法」第4条第1項但書の規定により発行される
いわゆる「建設国債」の枠を示す。
2)当初国債発行予定額の下段( )内は特例公債分を示す。
3)すきま率( )内は特例公債分を除いた計数である。
は12.6%に上昇した。景気回復,国民福祉の向上をスローガンとした47年度
において,再び建設公債限度いっぱいの発行額が予定され(すきま率7.7%),
公債依存度も17.0%と上昇したが,その後48∼50年度においてやはり公債依
存度の引下げが行われている。
しかし,49年度以降の大幅な景気後退から厳しい財政状況をむかえた50年
度補正において,特例公債が発行されたことを一つのエポックとして,51年
度以降においては当初においてすでに建設公債だけでは歳入不足を賄えず,
特例公債の発行が予定されるにいたっている。
以上国債発行の推移を概観したが,これから次のような点を指摘すること
ができる。
(i)
30年代には,財政法第4条第1項但書の規定があるにもかかわらず,
− 83 −
「公債を発行しない(均衡財政原則)」ことが財政収支の基準となってい
た。
(ii)
41,47年度の財政危機においては,「財政法」第4条第1項但書の規
定による建設公債限度が国債発行の一つの許容基準として意識されてい
る。
(iii)
51年度以降においては,特例公債も含め,公債依存度30%水準が国
債発行の許容水準となったが,53年度において,その水準が破られている。
(53年度公債依存度32%)1)
(iv)
(i)
,
(ii)
,
(iii)より国債発行の許容水準の変更は41,51,53年度に
おいて行われたと考えられるが,これらはいずれも,前年度の補正予算に
おいて異例の国債発行がなされたことを契機としていると考えられる。
(v)
財政状況がそれほど厳しくない年度においては,積極的に公債依存度
を下げようとする決定を行っている。依存度でみた場合は42∼46年度,48
∼50年度,発行額ベースでみた場合は43∼45年度,49∼50年度がこれに
あたる。
(v)で指摘したように,国債の減額については,当初予算において一つ
の重要な意思決定がなされており,これを他の諸経費と同様に一種の支出項
目と考え政策的に決定されるものとして定式化することが適当と考えられる。
§4. 地方交付税交付金
(1)制度の概要とデータ
(i)
地方交付税交付金制度は,地方公共団体間の財政力の不均衡を国が調
整し,適正な行政水準を維持するため,国税として徴収した所得税,法人税,
酒税の一定割合を地方交付税及び譲与税特別会計に繰入れ,この会計から地
方公共団体に交付する制度である。この割合は,昭和41年度以降32%で変化
がない(表3−13参照)。
これを前提とする限り,原則として地方交付税交付金の額には,裁量的な
注 1)53年度当初の公債依存度は5月分税収の年度所属区分の改正を行わない場合は
約37%となる。
− 84 −
第3章 一般会計予算編成過程の実態分析
部分はなく次式により定義的に決定される。
(地方交付税交付金)=(地方交付税率)×(国税三税収入)
………①
補正予算においても,国税3税の年度内自然増収に見合う額が計上され
る。
(ii)
しかし, t 年度の税収額は, t 年度補正予算作成時には確定しない
ため,補正予算作成時点での税収見込額と実際の収納額との差に対応する部
分は( t +2)年度で精算される(§11「剰余金について」参照)。
また,年度によっては,特例的な額が支出されることもある。すなわち,
一般会計主要経費別分類における地方交付税交付金額は,次式によって表わ
されるものであり,上式による原則的な値との間には若干の差がある。
⎛ t 年度
⎞ ⎛ t 年度
⎞ ⎛ t 年度
⎞
⎜
⎟ ⎜
⎟ ⎜
⎟ ⎛ (t − 2)年度
⎞
地方交付
=
地方交付
×
国税三税
⎜
⎟ ⎜
⎟ ⎜
⎟+⎜ 地方交付税率 ⎟
⎠
⎟ ⎝
⎜ 税交付金 ⎟ ⎜ 税率
⎟ ⎜ 収入
⎠
⎝
⎠ ⎝
⎠ ⎝
⎧ ⎛ (t − 2)年度
⎞ ⎛ (t − 2)年度
⎞⎫
⎟ ⎜
⎪⎜
⎟⎪
× ⎨ ⎜ 国税三税収入 ⎟ − ⎜ 国税三税収入 ⎟ ⎬
⎟ ⎜ 補正後計数 ⎟ ⎪
⎪ ⎜⎝ 決算係数
⎠ ⎝
⎠⎭
⎩
+(特例交付金)+(特例措置) ························ ②
上式の第2項は( t −2)年度の精算分であり,第3項の特例交付金は,臨時
地方特例交付金および臨時沖縄特例交付金である。第4項は,昭和43年度以
降,景気動向,地方財政の状況等を勘案して地方交付税の年度間調整を図る
ため行われた特別措置である。1)
ただし,決算計数は上記の②式から後年度の精算分,つまり
( t 年度地方交付税率)×{( t 年度国税三税決算計数)−(同補正後計数)}
が差引かれたものとなる。
(2)
地方交付税交付金の意思決定ルール
上記のような制度の下で地方交付税交付金に関する意思決定は次の二つの
方法によっている。
注 1)上記の特例措置のほかに,地方交付税及び譲与金特別会計において地方交付税
の年度間調整が行われており,したがって地方公共団体への交付金は一般会計か
らの繰入額とは一致しない。その差は上記特別会計による資金運用部資金の借入
れや返済である。
− 85 −
(i)
(ii)
地方交付税率の変更
特例交付金および特例措置
地方交付税率の推移は表3−13のとおりであり,30年代を通じて一貫して
引上げられてきたが,41年度に32%に引上げられて以来現在まで変更はな
い。税率の変更にあたっては,所得税等の減税見合を交付税率で補塡するよ
う要求する自治省と,それを査定する大蔵省との間にかなりの議論が行われ
表3−13 地 方 交 付 税 率 の 推 移
年
度
交 付 税 率
(%)
30
22.0
31
32
33
34
25.0
26.0
27.5
28.5
35
37
(*28.8)
28.5
(*28.8)
28.5
28.9
38
39
40
41
42
43
44
45
46
47
48
49
50
51
52
28.9
28.9
29.5
32.0
32.0
32.0
32.0
32.0
32.0
32.0
32.0
32.0
32.0
32.0
32.0
36
引 上 げ 幅
(%)
―
3.0%
1.0%
1.5%
1.0%
(0.3)
―
―
自治省要求
(%)
―
大 蔵 省 案
(%)
―
3.0%以上
3.05
1.5
1.0
3.0
1.0
0
0.5
0.67
0.3
―
―
0.4%
0.4
0.4
(実質は0.1%)
―
―
―
―
―
―
0.5
0.6%
1.5
2.16
2.5%
5.5
(他に特例240億)
―
―
―
―
―
△ 1.5
―
―
△ 1.5
―
―
―
―
―
―
―
(地方税減税見合)
―
―
―
―
―
―
―
―
―
―
―
―
―
―
―
―
※35,36年度は特例交付金として0.3%を上乗せしており,実質交付税率は( )と
なる。
− 86 −
第3章 一般会計予算編成過程の実態分析
てきたが,決定にあたっては政治的調整が行われるのが常であった。
特例交付金は,税収の落込みによる地方交付税の落込みを,後年度の地方
交付税額を規定する税率の引上げによらずに平準化する目的で交付するもの
である。またこれには,沖縄返還に伴い,47年度以降交付された臨時沖縄特
例交付金を含んでいる。
特例措置は,景気対策としてあるいは国債減額との絡みで年度間調整とし
て交付あるいは減額される。
表3−14 特例交付金と特例措置
(単位:億円)
年 度
30
特 例 交 付 金
特
例
措
置
補正 160
当初
31
32
33
34
35
30
5
36
37
4
37
2
38
39
40
41
414
42
120
51
43
−450(後3年間で均等増)
44
+150 −310
45
46
528 +10
47
* 1415
+300
48
*
388
+300
49
*
321
−1679(52∼55に加算)
50
*
209
51
220
636
52
− 87 −
§5.国
(1)
債
費
制度の概要
一般会計主要経費別分類における国債費は,一般会計の負担に属する国債
および借入金についての
(i)
(ii)
(iii)
債務償還費
利子および割引料
事務取扱費
から成る1)(表3−15)。
これらの経費の内容と推移は表3−15に示すとおりである。一般会計に計
上された国債費は,国債整理基金特別会計へ繰入れられ,この特別会計で国
債等の償還,利払いが行われる。
注 1)内国債のほとんどは「一般会計の負担に属する国債」である。また,外貨債と
借入金の一部にも一般会計の負担に属するものがあるが,これは,きわめて少額
である。したがって,国債費は事実上,内国債をその対象としていると考えて良
い。
内国債には,
(i)普通国債,
(ii)交付国債,
(iii)出資国債があり,その性格
は以下のとおりである。
(i) 普通国債
いわゆる旧債と新債とがあり,旧債は「財政法」施行(昭和23年度)前に発行
された国債,新債は以後に発行された国債である。新債は,さらに次の2種類に
分けられる。
① 建設国債(
「財政法」第4条第1項但書の規定によって)41年度以降発行さ
れた国債
② 特例債(
「昭和40年度における財政処理の特別措置に関する法律」によっ
て)40年度に発行された赤字国債。50∼53年度についても「昭和50∼53年
度の公債の発行の特例に関する法律」によって発行された。
(ii) 交付国債
財源調達のためでなく,現金の支払いに代えて交付する形式の国債である。遺
族国庫債券,引揚者国庫債券などがある。
(iii) 出資国債
国際機関等に対して出資を行う場合,現金に代えて国債で出資するために発行
したものであり,一般会計の負担に属するものとして国際復興開発銀行(世銀)
などに対するものがある。なお,国際通貨基金に対するものは,45年度に一般会
計から「外国為替資金特別会計」へ移管されている。
− 88 −
第3章 一般会計予算編成過程の実態分析
表3−15 国債および借入金の負担会計別内訳
50年3月末
(単位:億円)
一般会計
I 内
特別会計
計
102,003
―
104,795
97,992
―
97,992
債
6
―
6
(ロ) 六 分 半 利 国 庫 債 券
44,852
―
44,852
(ハ) 七
分
21,321
―
21,321
(ニ) 7
3/
18,887
―
18,887
(ホ) 八
分
12,926
―
12,926
2,401
―
2,401
券
1
―
1
券
0
―
0
(ハ) 特 別 給 付 金 国 庫 債 券
3
―
3
(ニ) 特 別 弔 慰 金 国 庫 債 券
43
―
43
(ホ) 農 地 被 買 収 者 国 庫 債 券
121
―
121
(ヘ) 第 2 回 特 別 給 付 金 国 庫 債 券
29
―
29
(ト) 第 3 回 特 別 給 付 金 国 庫 債 券
0
―
0
(チ) 引 揚 者 特 別 交 付 金 国 庫 債 券
428
―
428
(リ) 第 4 回 特 別 給 付 金 国 庫 債 券
1,754
―
1,754
(ヌ) 第 5 回 特 別 給 付 金 国 庫 債 券
22
―
22
(ル) 第 2 回 特 別 弔 慰 金 国 庫 債 券
―
―
―
4,402
―
4,402
国
1 普
債
通
国
(イ) 三
2 交
分
国
4
利
族
庫
債
国
債
庫
債
券
券
券
債
者
国
公
庫
国
揚
資
利
国
国
(イ) 遺
3 出
半
利
付
(ロ) 引
債
庫
国
債
庫
債
債
(イ) 国際通貨基金通貨代用証券国際開
発協会
(ロ) 通貨代用国庫債券アジア開発銀行
―
2,792
2,492
680
―
680
(ハ) 通貨代用国庫債券アジア開発銀行
249
―
249
(ニ) 特別基金拠出国庫債券アフリカ開
発基金
(ホ) 通 貨 代 用 国 庫 債 券
653
―
653
28
―
28
83
279
362
II 外
貨
債
III 国
債
計
102,086
3,071
105,157
IV 借
入
金
451
13,280
13,731
―
―
―
―
38,206
38,206
102,537
54,557
157,094
V 一
時
VI 短
借
期
入
証
金
券
総
計
出所) 「国債統計年報」
− 89 −
国債費の決定については,制度面からの制約が強いため,この分析におい
ては制度式として扱うこととする。
(i)
債務償還費
債務償還については,昭和40年代初頭までは,国債残高が相対的に少なく
交付公債等を除いては国債の新規発行がなく,かつ,一般会計剰余金が相当
多額に発生しているため,財政法第6条による剰余金繰入れが主体となって
いた。定率繰入れの制度(繰入れ率116/10,000の1/3)は存在したが,特例法等
による停止の状態にあり,予算繰入れの規定も設けられていたが,国債の償
還に支障を生じる事態はほとんど発生せず,同規定が用いられたのは32年度
のみであった。
40年度補正予算における特例債以降本格的な公債発行という事態を迎え,
旧来の減債制度の再検討が行われ,現在は次の三つの方法により償還から行
われている。
①
定率繰入れ(「国債整理基金特別会計法」第2条2項,43年改正)
前年度首国債残高の1.6%相当額の繰入れが義務づけられている 2 )。これ
は,建設国債で取得した資産の耐用年数を60年とみなして,毎年度1/60(す
なわち1.6%)ずつを債務償還費として計上し,償還期限には10年満期ならば
50/
60
に相当する額を借換える形式をとっているためである。
②
財政法第6条繰入れ
一般会計における決算上の剰余金の2分の1を下らない額の繰入れが義務づ
けられている3)。
③
予算繰入れ
必要ある場合に,一般会計からの予算措置による繰入れを行うことができ
るとされている。
注 2)定率繰入れについては,普通国債及び外貨債だけが対象となり(割賦償還制)
,
交付国債,出資国債,借入金は対象とならない。交付国債,出資国債の償還財源
としては,財政法弟6条繰入れ,予算繰入れがあるが,実際は,予算繰入れによ
る財源を充当していると見られる。
3)40,41,50年度においては,特例措置として剰余金の1/5が繰入れられている。
− 90 −
第3章 一般会計予算編成過程の実態分析
(ii)
①
利子及び割引料
内国債利子
普通国債及び交付国債の一部(遺族国庫債券,引揚者国庫債券)に係る利
子
②
外貨債利子
③
借入金利子
④
大蔵省証券割引料
これらのうち,対象債務の構成から,内国債利子のウエイトが大きい(表
3−18参照)
。
なお,新規発行される国債について発行と利払いの対応関係は,表3−16
のようになっているので,仮りに発行が年間平均的に行われるとすると,新
規発行国債利子(年額)の約1/4が発行年度に計上されることとなる4)。
表3−16 国債の発行と利払いの関係
国 債 発 行 月
第1回目利払い(半期分) 第2回目利払い(半期分)
t 年 度( 4∼ 6月)
t 年 度
11
月
(t + 1) 年度
5
月
t 年 度( 7∼ 9月)
t 年 度
2
月
(t + 1) 年度
8
月
t 年 度(10∼12月)
(t + 1) 年度
5
月
(t + 1) 年度
11
月
t 年 度( 1∼ 3月)
(t + 1) 年度
8
月
(t + 1) 年度
2
月
(iii)
事務取扱費
国債証券の製造費,国債の発行,償還,利払いの取扱い手数料及び一般運
営経常費である。
過去の推移を見ると,国債残高の増加に比例して増大している(表3−18
参照)。以上見てきた国債費の内訳を国債および借入金の種類別にクロスさ
せると,表3−17のようになる。
注 4)40年度において,利子及び割引料の一般会計からの繰入れ額は補正予算でゼロ
とされた。この年度の利子及び割引料の財源は「国債整理基金特別会計」におけ
る短期証券運用益でまかなわれている。国債費は特別会計へ繰入れられる経費で
あるため,本来一般会計に計上されるべき金額が,このように計上されないケー
スもある。したがって,特別会計での支払利子と一般会計からの繰入れ額とは必
ずしも一致しないことに注意する必要がある。
− 91 −
表3−18 国
債
費
〔上段 当初, 中段
年
度
国債費計
債 務
償還費
財政法
第 6条
繰入れ
定 率
繰入れ
31
385
157
―
157
32
362
352
137
〃
―
96
〃
33
672
666
436
〃
―
34
554
542
330
〃
35
274
265
36
予 算
繰入れ
借入金
償 還
利 子
及 び
割引料
内国債
利 子
―
229
100
41
〃
―
224
215
108
116
436
〃
―
―
233
228
131
120
―
330
〃
―
―
222
210
120
〃
79
〃
―
79
〃
―
―
194
185
115
117
408
398
219
〃
―
219
〃
―
―
126
177
116
119
37
685
673
498
〃
―
498
〃
―
―
186
174
141
136
38
1,161
1,146
1,067
〃
―
1,067
〃
―
―
91
75
66
64
39
455
450
362
〃
―
362
〃
―
―
92
87
72
〃
40
220
120
130
〃
―
130
〃
―
―
86
―
63
―
489
47
398
333
41
423
〃
―
〃
―
―
335
288
42
1,153
1,064
1,052
216
〃
〃
41
〃
〃
8
〃
〃
167
〃
〃
―
886
802
795
809
776
〃
43
2,013
1,928
〃
693
〃
〃
149
〃
〃
114
〃
〃
430
〃
〃
―
1,274
1,199
〃
1,225
1,196
〃
44
2,788
2,757
2,753
1,219
〃
〃
264
〃
〃
114
〃
〃
842
〃
〃
―
1,532
1,503
〃
1,510
1,487
1,488
45
2,904
2,875
2,870
1,079
〃
〃
336
〃
〃
77
〃
〃
666
〃
〃
―
1,798
1,764
〃
1,777
1,748
〃
46
3,193
3,224
3,206
1,133
〃
〃
400
〃
〃
349
〃
〃
384
〃
〃
―
2,031
〃
2,013
2,004
〃
2,000
47
4,554
4,564
4,543
1,302
〃
〃
451
〃
〃
366
〃
〃
480
〃
〃
5
〃
〃
3,140
〃
3,130
3,046
〃
3,124
47
− 92 −
第3章 一般会計予算編成過程の実態分析
の
推
移
補正, 下段 決算〕
外貨債
利 子
借入金
利 子
大蔵省
証 券
割引料
(単位 億円)
事 務
取扱費
関
連
年 度 末
普通国債 一般会計
発 行 高 負担内国
債残高
デ
ー
タ
前年度首 金
利(%)
定率繰入
れ対象国
年度前
年度平均 半平均
債残高
124
―
3
2
―
―
―
―
―
113
99
―
3
0
2
0
―
―
―
―
―
99
108
3
0
2
―
―
3,948
―
―
―
96
90
6
0
2
―
―
4,545
―
―
―
73
68
―
6
0
2
1
―
4,430
―
―
―
64
58
6
0
2
―
―
4,326
―
―
―
39
38
6
0
1
―
―
4,099
―
―
―
19
11
―
6
0
3
4
―
4,208
―
―
―
14
〃
―
6
2
2
2
―
4,299
―
―
―
―
11
―
5
―
2,590
1,972
6,850
―
6.5
6.5
54
45
―
42
41
7,300
〃
6,656
14,186
―
6.5
6.5
―
68
18
6
49
45
40
8,100
7,310
7,094
21,518
4,625
6.5
6.5
―
42
2
〃
45
36
〃
6,400
4,777
4,621
26,717
11,319
6.5
6.5
―
17
11
10
37
35
30
4,900
4,500
4,126
30,744
18,480
6.5
6.5
―
17
12
〃
32
〃
27
4,300
3,800
3,472
32,960
22,973
6.5
6.5
4
〃
2
―
23
〃
11
29
60
〃
4,300
12,200
11,871
43,841
27,002
6.5
6.5
4
〃
3
5
〃
3
85
〃
―
112
122
110
19,500
23,100
19,500
62,309
30,479
6.625
6.75
12
11
5
9
8
13
7
6
〃
5
〃
〃
4
〃
〃
− 93 −
表3−18 (つづき)
年
2,426
〃
〃
49
8,622
8,506
8,470
2,743
〃
〃
866
〃
〃
1,429
〃
〃
441
〃
〃
7
〃
〃
5,747
5,634
5,608
5,716
5,603
〃
50
10,394
11,024
〃
2,940
〃
3,224
1,225
〃
〃
1,378
〃
〃
330
〃
614
7
〃
〃
7,335
7,785
7,518
7,304
7,434
7,433
51
16,647
18,430
2,956
5,125
1,555
〃
203
2,372
1,191
〃
7
〃
13,288
12,896
12,986
12,575
52
23,487
3,683
2,401
0
1,275
7
19,316
18,972
度
48
7,045
6,882
6,849
財政法
利 子
予 算 借入金
内国債
第 6条
及 び
繰入れ 償 還
利 子
繰入れ
割引料
4,456
4,481
7
881
907
631
4,318
4,344
〃
〃
〃
〃
4,314
4,320
〃
〃
〃
〃
国債費計
債 務
償還費
定 率
繰入れ
表3−17 国
債
国債及び借入金等
内国債
普 通 国 債
務
償
債 費 の
内 訳
還
利 子 及 び 割 引 料
費
事 務
財政法 予 算 借入金 内国債 外貨債 借入金 大蔵省
定 率第
証 券 取扱費
繰 入 繰 6条
入 繰 入 償 還 利 子 利 子 利 子 割引料
○
○
○
○
交 付 国 債
○
○
○
○
出 資 国 債
○
○
○
○
外
貨
債
借
入
金
○
○
○
○
○
一 時 借 入 金
短期証券のうち大蔵
省証券
(2)
○
○
○
○
○
○
○
国債費における裁量
したがって国債費は過去および当年度の公債の発行額を与えれば,ほぼ制
度的に決定されてしまう。
ただし,債務償還費で述べた「予算繰入れ」の制度は,国債整理基金特別
会計法第2条の3に基づいており,その趣旨は①,②によっては国債の償還
に支障を生ずる場合に対応するというものである。しかし,実際には,定率
繰入れ対象とならない割賦償還制交付国債および出資国債等の毎年度の償還
− 94 −
第3章 一般会計予算編成過程の実態分析
外貨債
利 子
借入金
利 子
大蔵省
証 券
割引料
事 務
取扱費
関
連
年 度 末
普通国債 一般会計
発 行 高 負担内国
債残高
デ
ー
タ
前年度首 金
利(%)
定率繰入
れ対象国
年度平均 年度前
債残高
半平均
3
〃
〃
4
〃
3
18
〃
―
138
112
102
23,400
18,100
17,662
79,967
41,743
7.0
6.75
3
〃
〃
3
〃
2
25
〃
―
133
129
120
21,600
〃
〃
102,003
60,193
7.875
7.75
3
〃
〃
3
〃
2
25
345
80
119
299
282
20,000
54,800
52,805
―
77,424
8.0
8.0
3
〃
2
3
315
〃
402
409
72,750
73,750
―
98,075
8.0
8.0
2
2
340
488
84,850
―
―
―
がその内容となっており,裁量的性格(一般財源に余裕があるときに基金に
積んでおき,苦しいときはあまり繰入れない)をもって繰入れがなされたこ
とはない。
裁量分という意味では,財政法第6条に基づく一般会計剰余金の繰入れ率
の変更分が該当するであろう。表にみるように,繰入れ率は通常年度は1/2で
あるが,財政が若しかった40,41,50年度においては 1/5とされた。また,
52年度(実施は51年度補正)には繰入れ率が1となったが,これは50年度補
正予算以降の特例公債発行の増加に対して当面は剰余金の繰入れ率を上げる
ことで対処しようとするものである。
§6. 人
件
(1)
要
概
費
この分析における経費区分は,原則的に主要経費別分類にしたがっている
が,人件費と後述する物件費については,主要経費別分類にはない項目を設
定している(人件費を設定した理由,データ作成の方法等については,補論I
を参照)。
人件費の範囲は,おおむね一般会計使途別分類における「職員給与」およ
び「その他の給与」であるが,特別会計への繰入れ分等について所要の修正
− 95 −
図3−7 人件費の増加率の推移(当初予算)
を行っている。
まず,伸び率の推移をみると,図3−7のとおりであり,かなり安定した動
きを示している。後述する他経費との比較で見ても,人件費は社会保障費と
ともに伸び率が安定的な経費であるといえる。ただ,40年代後半の伸び率が
高くなっているが,これにはインフレーションの影響がある。そこで,賃金
上昇率( w& )を差し引いた伸び率で見ると,この点は修正され,この時期を
も含めて安定した動きになる。したがって,人件費については,賃金上昇率
を差引いた部分について,きわめて強い増分主義的決定が行われているもの
と考えることができる。
公務員数の決定が増分主義的である(すなわち公務員数を毎年度全面的に
再検討するのでなく,前年度からの増減について微調整を行うにとどまるた
め,公務員数は毎年度ほぼ一定で大きな変動は示さない)ことの反映であろ
う。
ただし,これをより仔細に見ると,次の二点が観察される。
(i)
昭和36,47,50の各年度の伸び率が,大局的傾向からはずれている。
これは,次の要因に基づくものである。
36年度
大都市での過剰収容学級の解消のための教職員標準定数制度の
実施に伴う義務教育国庫負担金の増加
50年度
いわゆる人材確保法に伴う教員給与の改善
上記の政策的変更は,後に述べるように,税収の変化が一定のタイム・ラ
− 96 −
第3章 一般会計予算編成過程の実態分析
グを伴って影響したと解釈しうる。
(ii)
人件費の大局的な伸びについて,41年度を境に構造変化がみられる。
すなわち,(人件費伸び率)−(賃金伸び率)が30年代には,ほぼ5%程度で
あったが,41年度以降,ほぼ0%程度となっている。
(iii)
人件費(決算)と他の指標との単相関係数を見ると表3−19のとおり
であり,人件費と普通歳入(特に前年度のもの)との高い相関が認められる。
この原因としては,次の2点が考えられる。第一は,財源面からの影響
である。すなわち,前年度の税収増加が大きいと財政当局の査定がある程
度ゆるくなることが考えられる。第二に,公務員ベアの目安となる民間の
ベアが前年度の景気を反映して決定される面が強く,したがって,好況
(税の大幅増加)の翌年は,民間ベアが高く,公務員ベアも高くなる,と
いう関係が考えられる。
なお,相関係数の観察からは,自己相関もかなり高く,前述した増分主
義的メカニズムの存在を裏付けている。(ここでの単相関係数は,名目値
に関するものであって,賃金上昇率をデフレートしたものでないので,伸
び率の観察において想定したほど高い自己相関は示さない。)
表3−19 人件費の単相関係数(決算ベース)
伸
び
率
増
加
率
GNP
比
1期 2期 当期 1期 2期 当期 1期 2期
ラグ ラグ
ラグ ラグ
ラグ ラグ
― .166 .092
― .679 .767
― .710 .290
当期
自
己
普
通 歳 入
.097
.672
.223
.348
.977
.690
.022
.728
.841
P
.583
.375
.366
.865
.913
.753
―
―
―
社 会 保 障 費
.667
.454
.202
.917
.804
.744
.443
.457
.201
G
N
公 共 事 業 費
△
.093 △ .328
.484
.514
.211
.757 △ .174 △ .171
.055
物
△
.128
.185
.625
.761
.820
.073
.083 △ .027 △ .140
.710
.814
.734 △ .300 △ .141 △ .025
件
費
そ の 他 経 費
(2)
.147
.447
.248
人件費における意思決定
人件費に関する意思決定は,給与水準改定の決定と定員の増減に関する決
定に分割することができる。前者は主として補正予算においてなされ,後者
は当初予算においてなされる。
− 97 −
ここで定義した人件費にかかる定員の推移は表3−20に示すとおりであり,
若干の例外年度を除いては殆んど毎年度1%程度の伸びで一定している。そこ
で,以下では,給与水準の改訂に分析を絞ることとした。
給与水準の改訂に関しては,人事院勧告1)が最も重要な要因となっている。
勧告の内容とその実施状況は,表3−21に示すとおりである。
この表で明らかなように,政府の実施状況は35年度で6ヵ月の繰上げを
し,その後39年度以降漸次1ヵ月つつ繰上げをし,47年度に完全実施となっ
注 1)人事院勧告の概要
(イ) 法的根拠と沿革
人事院勧告の法的根拠は,国家公務員法第28条と「一般職の職員の給与に関
する法律」
(給与法)の第2条である。
また,その沿革をたどれば,昭和23年11月に当時の臨時人事委員会が内閣
総理大臣に対して行ったものが最初であり,以後給与勧告は毎年行われてきて
いる。
公務員の給与は,生計費と民間給与とを基礎として検討されているが,当初
生計費重視に始まった検討方式は,漸次,民間給与との比較に重点を置く方向
に変化している。
(ロ) 決 定 方 法
・公務員給与の調査
公務員の給与については,毎年1月15日現在で,給与法の適用を受ける常勤
職員全員を対象として,
「国家公務員給与等実態調査」が実施されている。
・民間給与の調査
民間給与については,毎年「職種別民間給与実態調査」を実施している。対
象は,企業規模100人以上で,かつ,事業所規模50人以上の事業所であり,毎
年1月から2月にかけて全国の各税務署に調査員を派遣し,該当全事業所の名
称,所在地,従業員数などを把握している。このようにして母集団を確定し,
次いで事業所を都道府県,産業,規模などを基準にグループ化し,経費,労力
等を考慮して定めた抽出率を用いて無作為に抽出する。
・官民給与の比較
以上,官民における調査に基づき,仕事の種類,責任の度合,在勤する地
域,資格,学歴など給与決定の要因別に官民それぞれをグループに分類し,そ
の中をさらに年齢別に分け,これらの条件を等しくするもの同士について比較
した結果を総合する。つまり,官民給与比較の基本算式は(一般に公務員基準
のラスパイレス算式と呼ばれているものであるが)
,
∑ P1Q0 で与えられる
∑ P0Q0
この場合, P0 :公務員の給与, P1 :民間の給与, Q0 :公務員の数である。
− 98 −
第3章 一般会計予算編成過程の実態分析
年度
31
表3−20 本分析の人件費における予算定員推移
(単位
国立学校
1
計
一般会計
義務教育
特
会
(C)×
(A)+(B)+(C)
(A)
(C)
2
(B)
532,049
―
546,226
272,613
804,662
人 %)
対前年
度伸び
率
―
32
541,104
―
545,377
272,688
813,792
1.1
33
571,047
―
548,333
274,166
845,213
3.9
34
588,378
―
553,871
276,935
865,313
2.4
35
597,630
―
561,868
280,934
878,564
1.5
36
616,672
―
574,782
287,391
904,063
2.9
37
634,505
―
580,376
290,188
924,693
2.3
38
641,722
―
579,747
289,873
931,595
0.7
39
559,231
87,526
584,548
292,274
939,031
0.8
40
561,899
91,276
583,042
291,976
945,151
0.7
41
563,027
95,183
582,953
291,376
949,586
0.5
42
566,191
101,563
582,683
291,341
959,095
1.0
43
564,337
104,276
582,713
291,356
959,969
0.1
44
570,608
106,020
578,625
289,312
965,940
0.6
45
569,245
107,291
590,791
295,395
971,931
0.6
46
568,865
108,366
596,697
298,348
975,579
0.4
47
576,322
110,212
603,688
301,844
988,378
1.3
48
578,112
111,675
619,687
309,843
999,630
1.1
49
577,479
113,134
637,349
318,674
1,009,287
1.0
50
578,250
115,096
652,673
326,336
1,019,682
1.0
51
578,199
117,374
665,376
332,688
1,028,261
0.8
52
578,481
119,972
679,022
339,511
1,037,964
0.9
ている。
また,35年度には,それまでの民間給与調査月を3月から4月に変更したこ
ともあって,その前後の年度に比較して大幅な勧告となっている。
ところで,人事院勧告は財政状況からは独立なものであり,また,それを
説明することはここでの目的ではないので,人事院勧告を与えた場合の人件
費の決まり方を考える。
人事院勧告自体は外生的なものと考えられるが,それをどの程度実施する
かは予算担当者の決定によるものである。実際,勧告の実施率が大きく高ま
った35年度は年度内自然増収の大きかった年である。またその後の実施率の
− 99 −
表3−21 人事院勧告の内容と実施状況
年 度
31
32
33
34
35
36
37
38
39
40
41
42
43
44
45
46
47
48
49
50
51
52
期末,勤勉
給与改善率 期末,勤勉 手当を上昇 計 (C) 政
府 初 年 度
手当月数勧
(%)(A)
率に換算し (A)+(B) 実 施 月 ベ ー ス
告(ヶ月)
実 施 率
たもの (B)
5.8
0.15
1.05
6.85 翌4月
0
―
1.84
3.32
12.5
7.3
9.3
7.5
8.5
7.2
6.9
7.9
8.0
10.2
12.67
11.74
10.68
15.39
29.64
10.85
6.94
6.92
△
0.15
0.25
0.1
0.1
0.4
0.3
0.2
0.3
0.1
―
0.1
―
0.1
0.2
0.1
―
―
0.4
―
0.2カ月
―
△
1.04
1.72
0.68
0.67
2.67
1.95
1.27
1.89
0.62
―
0.61
―
0.61
1.21
0.60
―
―
2.38
―
1.17
―
1.04
3.56
4.00
13.17
9.97
11.25
8.77
10.39
7.82
6.90
8.51
8.0
10.81
13.88
12.34
10.68
15.39
32.02
10.85
5.77
6.92
〃
〃
〃
10月
〃
〃
〃
9月
〃
〃
8月
7月
6月
5月
〃
4月
〃
〃
〃
〃
〃
0
0
0
6.92
4.98
5.95
5.02
6.22
4.82
4.025
5.27
6.0
9.11
12.82
11.36
10.68
15.39
32.02
10.85
5.77
6.92
高まりも高度成長に伴う自然増収の増大を背景としていると考えられる。同
様に,40年度41年度と財源状況の悪化した年には実施率は低くなっている。
これらのことから勧告の実施率には財政的意思決定が行われていると考えら
れよう。
次に人事院勧告と実施率以外の人件費に関する意思決定を検討しよう。
まず当初予算については,前年度の補正予算との差は定員増減,定期昇
給,退職金原資の増,共済組合整理原資の増,前年度人事院勧告の平年度化
分,前年度定員増減の平年度化分から成っている。このうち人事院勧告の
平年度化分は,4月実施となった47年度以後は初年度分=平年度分であるか
ら存在しない。また43年度より綜合予算主義を採用したことにより,年度途
− 100 −
第3章 一般会計予算編成過程の実態分析
中の勧告に備えて5%の改善費を計上している。(ただし,経費別にはこの分
は43年度は予備費,44年度以降は人件費に計上されている。)
定員の増減は,前述のように近年はほぼ横這いであり特別な決定が行われ
ているとは思われない。
補正予算においては当初に比べ人事院勧告によるべースアップ分が計上さ
れるが,43年度以降は当初予算に計上した5%の給与改善費を控除した額が
計上される。
§7. 社 会 保 障 費
(1)
概
要
ここでいう社会保障費は,一般会計主要経費別分類の社会保障関係費のほ
か,恩給関係費が含まれている。また,社会保障関係費の中には,生活保護
費,社会保険費,社会福祉費,失業対策費,保健衛生対策費が含まれている。
それらの推移をみると表3−22のとおりである。
この表から明らかなように,一般的にいえば,社会保障の重点は生活保
護,恩給,失業対策から,社会保険,社会福祉に移ってきたことがわかる。
このことから社会保険,社会福祉とその他の社会保障費とは必ずしも同一に
は論じられない。そこで,各経費につき,制度変更の推移をみることが必要
である。以下,その詳細を述べるが,大略は表3−23に示すとおりである。
表3−22 社 会 保 障 費 の 推 移
(単位 億円 %)
30 年 度
35 年 度
40 年 度
45 年 度
50 年 度
52 年 度
金額 構成
金額 構成
金額 構成
金額 構成
金額 構成
金額 構成
比
比
比
比
比
比
生活保護
335 18.2 446 14.3 1,059 15.5 2.172 15.1 5.348 11.4 7,227 10.5
社会福祉
90
社会保険
124
保健衛生
209 11.3 269
8.6 930 13.6 1,406
9.8 2.738
5.8 3,243
4.7
失業対策
285 15.5 307
9.9 667
5.9 1.737
3.7 2,807
4.1
恩
802 43.5 1,313 42.2 1,652 24.1 2,990 20.7 7,558 16.2 11,620 17.0
給
計
4.8 132
4.2 432
6.3 1.110
7.7 6,169 13.2 9,580 14.0
6.7 649 20.8 2,095 30.7 5,875 40.8 23,277 49.7 34,062 49.7
9.8
845
1,845 100.0 3,116 100.0 6.835 100.0 14,398 100.0 46,827 100.0 68,539 100.0
− 101 −
表3−23 社 会 保 障 制 度 の 概 要
制 度
対象人員の推移
生活保護 概ね漸減
37,38年度産炭地
区を対象に若干の増
基準の改善状況
主要な制度改正
毎年改善。保護基準の
改善は雇用者賃金伸び
を上廻る。
社会福祉 老人を中心に
毎年改善。基準改定は 47年度より,70才以上
概ね漸増(とくに,47 生活保護基準の改定に の老人医療費無料化
年度以降顕著)
準ずる。
社会保険 国民皆保険,国民皆年 ○医療保険:診療単位 34年:福祉年金支給開
金により適用者,給付
は毎年改善。給付率
始。
対象人員とも増加。老
の引上げについて
年4月:国民皆保
は,健保が38年,国 36険,国民皆年金。
人人口の増加および制
度の成熟により,給付
民健保が38年,43年
対象人員は近年著増。
に行われている。
48年:医療保険,年金
保険ともに基準改善,
○年金保険:40年1万
(医療保険:高額医
円年金,44年2万円
療費支給制度,年金
年金,48年5万円年
保険:5万円年金,
金 , 51 年 9 万 円 年
物価スライド制)
金。福祉年金につい
ては概ね毎年改善。
48年からは物価にス
ライドして改善。
保健衛生 結核病のり患率,死亡 毎年改善。
対象
率の減少により対象人
員は漸減
失業対策 概ね漸減。
毎年改善。基準改定は 46年:特定地域開発就
雇用者賃金伸びを上廻
労事業
る。
50年:失業保険制度か
ら雇用保険制度に切
替え
恩給関係 概ね漸減
毎年改善。生活保護基 各種共済組合の発足に
準と同様,最低保障額 より文官恩給から分離
支給基準とも,雇用者 31年公共企業体等共
賃金伸びを上廻る。
済組合
34年国家公務員共済
組合
37年地方公務員共済
組合
(1)
生 活 保 護 費
この経費は「生活保護法」に基づき,地方公共団体が行う各種扶助に必要
な経費,事務費および保護施設の運営費に対する国の補助ならびに生活保護
指導監査職員の設置に要する国の委託費である。
生活保護の種類は,生活扶助,教育扶助,医療扶助,出産扶助,生業扶助
および葬祭扶助があり,原則として現物給付である医療扶助を除いて,その
− 102 −
第3章 一般会計予算編成過程の実態分析
他の扶助は金銭給付である。
保護の基準は,要保護者の年齢別,性別,世帯構成別,地域別等を考慮し
て最低限度の生活の需要を満たすに十分であり,かつこれを越えないものと
して厚生大臣が定めることとなっており,要保護者の収入等をもって満たす
ことのできない不足分が保護として補われる。
被保護人員および保護基準の推移を示せば表3−24のとおりである。
被保護人員については,概ね漸減しており,ここ20年間に約3割の減とな
っている。一方,保護基準は年々改善されてきており,一般勤労者1人当り
に対比して,被保護者1人当りどの程度の消費水準にするかについてみると,
表3−24 被保護人員の推移と保護基準の推移
(A)
(B)
一般勤労世
被 保 護 被 保 護 同 指 数 生活扶助に 被保護世帯
年度 世
帯 人
員 31年: おける保護 1人当り消 帯 1 人 当 A/B
(%)
(4世帯)
( 4人)
100 基準額(円) 費支出(円) り消費支出
(東京,円)
31
632
1,825
100.0
8,234
2,679
6,475
41.4
32
33
34
35
36
37
38
39
40
41
42
43
44
45
46
47
48
49
50
584
581
603
606
609
624
649
642
644
657
662
659
661
658
669
703
696
689
708
1,649
1,615
1,664
1,642
1,640
1,674
1,745
1,675
1,599
1,570
1,521
1,450
1,399
1,344
1,325
1,381
1,346
1,312
1,349
90.4
88.5
91.2
90.0
89.9
91.7
95.6
91.8
87.6
86.0
83.3
79.5
76.7
73.6
72.6
75.7
73.8
71.9
73.9
8,850
9,071
9,346
9,621
10,344
12,213
14,289
16,147
18,204
20,662
23,451
26,500
29,945
34,137
38,916
44,364
50,575
60,690
74,952
2,878
3,047
3,116
3,437
4,275
4,984
5,883
6,528
7,351
8,277
9,360
10,202
11,487
12,648
14,335
15,935
19,657
24,705
28,421
7,241
7,670
7,971
9,039
10,295
11,203
13,291
13,876
14,636
16,006
18,017
19,376
21,731
24,639
26,957
30,527
35,128
43,788
49,071
39.7
39.7
39.7
38.0
41.5
44.5
44.3
47.1
50.2
51.7
52.0
52.7
52.9
51.3
53.2
53.2
56.0
56.4
57.9
(注) 保護基準は,35年まで東京都標準5人世帯,それ以降は東京都標準4人世帯
出所「国の予算」各年度版,大蔵省編
− 103 −
昭和50年には約58%となっており,31年の41%に比し大幅に改善されたとい
える。そのことは保護基準は雇用者1人当り賃金伸び率以上に,引上げられ
てきたことを示している。
(ii)
社 会 福 祉 費
この経費は,社会福祉のための基本的な法律でありいわゆる福祉七法と称
される「児童福祉法」「身体障害者福祉法」「精神薄弱者福祉法」「老人福祉
法」「母子福祉法」「母子保健法」および「生活保護法」のうち「生活保護
法」以外の法律に基づく施策を行う経費である。またこの他に,婦人保護費,
世帯更生貸付補助金および各種の社会福祉施設の設備費等が含まれている。
従来この経費の中心は児童保護費であったが,徐々に老人福祉費のウエイ
トが高まってきた。とくに最近年次においてそれが顕著であるが,これは47
年度において国が70才以上の老人医療費を無料化したことによる。
(iii)
社 会 保 険 費
社会保険は,疾病,失業,老齢,廃疾,死亡等の所得喪失原因に対し,保
険制度をもって社会保障給付を行うことを目的とするもので,防貧策の中心
をなす制度であり,戦後の社会保障の充実は一般的にいえば社会保険の充実
をもってなされてきたといえる。
この経費に含まれるものとしては,医療保険としての政府管掌健康保険,
健康保険組合,日雇労働者健康保険,国民健康保険,年金保険としての厚生
年金,国民年金,農業者年金,総合保険としての船員保険,児童手当であ
る。
(ア) 医
療
保
険
業務上以外の事由による疾病,負傷等の所得喪失原因となる保険事故に対
し,経済的負担の平均化を図るため,保険料を徴収することにより,一定の
医療給付および現金給付を行うとともに,疾病予防,健康保持等を行う制度
である。
医療保険には,被用者を対象とし,政府が保険者となって事業の運営にあ
たっている政府管掌健康保険,同じく被用者を対象としているが一定規模以
上の事業所が設立した組合が保険者となっている健康保険組合,日雇労働者
− 104 −
第3章 一般会計予算編成過程の実態分析
を対象とする日雇労働者健康保険,および,被用者以外の一般国民を対象と
した国民健康保険がある。生活保護を受ける場合等特別な場合を除いて,国
民はいずれかの制度の適用を受けることになっており,これがいわゆる国民
皆保険である。
(イ) 年
金
保
険
老齢,退職,廃疾,死亡等の所得喪失原因となる保険事故の発生に際し,
被保険者またはその遺族に対して一定の年金等を給付する制度である。
これには,大別して一般被用者を対象とする厚生保険と被用者以外の一
般国民を対象とする国民年金があり,経営主体はいずれも政府である。給付
は,老齢給付,障害給付,遺族給付があり,加入年数やその他の条件により
細かく給付基準が決められている。年金保険としては他に農業者年金があ
る。
年金保険も医療年金同様,国民はすべていずれかの制度を受ける建前とな
っており,これがいわゆる国民皆年金である。
(ウ) 総合保険,児童手当
船員保険は,医療給付,年金給付をあわせ行う総合保険である(国家公務
員共済組合も総合保険であるが,この経費には含まれない)。
児童手当は,18才未満の児童を3人以上養育している者に対して,義務教
育終了前の第3子以降の児童につき支給されるものである。
社会保険費の主な制度改正を示せば,表3−25のとおりである。
これらの表から明らかなように,社会保険については,34年から36年の国
民皆保険,皆年金の目的のための諸施策の導入,48年の福祉元年のスローガ
ンに基づく制度の充実が目立っている。
(エ) 保健衛生対策費
この経費は,国民の健康を保持増進するための施策に要する経費であり,
結核医療費,原爆障害対策費等が含まれる。
社会保障費に占める保健対策費のウエイトは漸減してきている。これは全
般的な公衆衛生の向上,予防対策の進展,治療法の飛躍的な進歩により国民
病と称された結核病のり患率,死亡率の大幅な減少による。
− 105 −
表3−25 社会保険の主要制度改善の推移
年 度
事
34
福祉年金支給開始(11月)
36
国民皆保険(4月)
項
国民皆年金(拠出制国民年金制度発足)(4月)
38
国民健康保険世帯主の給付率引上げ(5割→7割)(10月)
40
年金給付水準引上げ(1万円年金)(厚生年金40年5月,国民年金42年1月)
41
厚生年金基金制度創設(10月)
43
国民健康保険世帯員の給付率引上げ(5割→7割)(10月)
44
年金給付水準引上げ(2万円年金)(厚生年金44年11月,国民年金45年7月)
45
国民年金付加年金制度創設(10月)
農業者年金基金制度創設(46年1月)
46
児童手当創設(47年1月)
48
健康保険被扶養者の給付率引上げ(5割→7割)及び高額療養費支給制度創
設(10月)
年金給付水準引上げ(5万円年金)及び物価スライド制導入
(厚生年金48年11月,国民年金49年1月)
福祉手当制度創設(10月)
50
51
年金給付水準引上げ(9万円年金),寡婦加算制度及び遺族・障害年金の通
算制度の導入)
(厚生年金8月,国民年金9月)
(備考) この他,福祉年金については,毎年給付額の引上げ等の改善が図られてい
る。
(オ) 失 業 対 策 費
この経費は,失業期間中における暫定的な生活の安定と労働力の保全とを
図ろうとするための経費であり,失業対策事業費,特定地域開発就労事業費,
職業転換事業費および雇用保険国庫負担金の4種類の経費から成っている。
まず,失業対策事業については,24年に戦後の多数の失業者の発生に対処
するため「緊急失業対策法」に基づき実施され,今日に及んでいるが,その
後対象者が固定化する傾向を示してきたためさまざまな制度の刷新改善が行
われ,最盛期には350千人に達していた対象者は,51年9月末では,115千人
に減少している。
特定地域開発就労事業は,雇用の機会が乏しく,中高年齢者である失業者
の就職が著しく困難な特定の地域について実施するもので,46年10月に開始
− 106 −
第3章 一般会計予算編成過程の実態分析
され,52年度で5,000人が吸収されている。
職業転換対策事業は,求職者の就職促進を図るために行う諸事業であり,
41年度に統合創設されたものである。
雇用保険国庫負担金は,50年度に従来の失業保険制度から切り替えられた
雇用保険制度による失業給付のうちの求職者給付に必要な給付費の一部と,
事務費の一部を負担するもので,一般会計から労働保険特別会計雇用勘定に
繰り入れられる。
以上簡単に制度を述べたが,失業対策費は30年代半ば以降の高度成長によ
り失業者が大幅に減少したことにより,社会保障費に占めるウエイトは年々
低下してきている。
(カ) 恩 給 関 係 費
恩給は大正12年公務員に共通する統一的制度として制定され,昭和8年の
大改正を経て,大平洋戦争終了までは文官,軍人を通ずる公務員の年金制度
として存続した。太平洋戦争終結後,21年2月旧軍人に対する恩給は,戦傷
病者に対するものを除き停止されたが,戦後の混乱が落ち着くに従い,戦争
による傷病者および死亡者の遺族等に対しなんらかの措置をすべきだという
考えが強まり,昭和27年に単に文官や軍人のみでなく軍属等も含め,広く公
務または公務に準ずる理由で負傷した者,死亡した者の遺族を援護するため
「戦傷病者戦没者遺族等援護法」が制定された。
一方「援護法」が生存している旧軍人には支給されないことから,旧軍人
等から戦前の恩給法に基づく恩給の復活を望む声も強く,昭和28年「恩給
法」を一部改正して再発足させることとなり,援護法は以後恩給の対象とな
らない軍属や準軍属を主体とする制度となった。
その後,文官については,戦後の新しい公務員制度に即応し,官吏と雇用
人の区分ごとに異なる年金制度を統合する必要があること,および新しい年
金制度は保険理論に基づいて健全な財政基礎のうえに再建することが要請さ
れたことから,公共企業体等共済組合(31年),国家公務員共済組合(34年)お
よび地方公務員共済組合(37年)が発足し,国,地方を通じ恩給制度は過去の
制度となった。したがって,現在恩給制度の適用を受けるのは,旧軍人及び
− 107 −
その遺族のほかは,原則として共済組合発足前に退職した文官および遺族で
ある(共済組合発足後の文官で,共済組合発足前の在職期間を有する場合は
その期間を恩給期間として特別な取扱いをしている)。
恩給年額の調整は,消費者物価の上昇,公務員給与等を勘案して毎年増額
決定が行われている。
(2)
社会保障費の推移
社会保障費の伸び率の推移は,図3−8に示されている。これによれば,
社会保障費の伸び率はきわめて安定しており,物価上昇率(ここでは,消費
者物価上昇率)を差し引いた伸び率でみると,さらに安定した動きを示して
いる。単相関係数を見ても(表3−26),社会保障費の自己相関の度合いは,
本分析における歳出経費中で最も高く,増分主義的メカニズムが典型的に働
いていることを示している。これは社会保障の個々の制度が継続的性格をも
図3−8 社会保障費の伸び率の推移
表3−26 社会保障費の単相関係数(決算ベース)
伸
び
率
増
加
率
GNP 比
1期 2期 当期 1期 2期 当期 1期 2期
ラグ ラグ
ラグ ラグ
ラグ ラグ
― .617 .530
― .957 .924
― .944 .738
当期
自
己
普
通 歳 入
.015
.439
.245
.160
.896
.852 △ .109
.562
.536
―
―
G
N
P
.270
.745
.374
.831
.952
.891
―
人
件
費
.667
.527
.294
.917
.888
.919
.443
.137 △ .352
.179 △ .039
.411
.396
.470
.528
.255
.325
.179
.049
.371
.738
.780
.880 △ .497 △ .534 △ .554
.212
.178 △ .224
.538
.907
.833
公 共 事 業 費
物
件
△
費
そ の 他 経 費
△
− 108 −
.591
.667
.458
.646
第3章 一般会計予算編成過程の実態分析
ち,制度の漸変的拡充ないしは物価上昇に応じた支出増はあっても,既存施
策を改廃することがきわめて困難であることによると思われる。
さて,伸び率の動向をみると,47年度を境として大きな変化がみられる。
すなわち,46年度まではほぼ16∼17%程度で安定していた伸び率が,47年度
19.9%,48年度28.5%,49年度34.3%,50年度34.8%と30%前後の伸びとなっ
ている。
これは一つには,この間の異常インフレによるものであるが,物価上昇率
を差引いた伸び率でも47年度以降,一段と高くなっており,ここでなんらか
の構造変化があったものと思われる。
§8. 公 共 事 業 費
(1)
公共事業費の概要
一般会計予算主要経費別分類において「公共事業関係費」として計上され
ているものは,道路整備事業費(全体の約1/3を占める),治山治水事業費,
農業基盤整備費,生活環境施設整備費,住宅対策費,港湾漁港空港整備事業
費,災害復旧事業費等である1)。これらのほとんどは,一般会計からいった
ん特別会計に繰入れられ,そこから支出される。また,一般会計から直接支
出されると特別会計経由で支出されるとを問わず,支出額のかなりの部分
は,地方公共団体に対する補助金である(住宅対策費は,ほとんど全額が公
営住宅建設の補助金,道路整備事業は約1/2が補助金)。
(2)
データの観察と意思決定方式の想定
公共事業費の伸び率の推移は,図3−9に示すとおりである。これから,次
のことが指摘できる。
(i)
(ii)
年度ごとの伸び率変動が他の経費に比べてかなり激しいこと。
実質値でみても伸び率変動の大きさは変わらないこと。
公共事業費の伸び率の変動は,景気変動と関連があり,概して,不況期に
注 1)ここでの当初ベースの公共事業費には51年度および53年度において計上された
公共事業等予備費を含んでいる。
− 109 −
伸び率が高く,好況期に伸び率が低くなっている。GNP比や歳出増加額に占
める構成比などの指標で見ても,この傾向は確認できる。したがって,公共
事業費の決定に際しては景気調整という観点からの裁量がかなり強く働いて
いると解釈できよう。
伸び率変動をより仔細に観察すると,当初では47,48年度,補正後では47
年度が特異なポイントとなっている。48年度の伸び率は32.2%と,この分析
の対象期間中(31∼50年度)で最も高く,景気変動との関連を考慮しても,
大局的傾向をはずれている。
なお,49年度は,前年度と同額となっており,全体の変動から見ても落ち
込みが大きいが,これは,48年度の伸び率が高かったことの影響もある。
GNP比で見ると48年度がやはり特異点である。
48年度については,国際通貨問題を背景として従来の循環的景気調整とは
異なる性格の景気調整が行われたことによるものと考えられる2)。
なお,公共事業費に関する他の指標として単相関係数を見ると,自己相
関,普通歳入との相関,他経費との相関とも歳出経費のうちで最も低く,し
かも有意なものは認められない。これは,公共事業費が他の経費と異なり景
気調整的な要請からかなり激しい変動を示すためと思われる。
以上から公共事業費の決定ルールとして次の二つのルールが考えられる。
(i)
公共事業費は,他の諸経費とは異なり増分主義的には決定されておら
ず,長期的には「社会資本整備」という要請から,短期的には景気調整の
観点から弾力的に動かされている。
(ii)
公共事業費についても他の経費と同様,当然的な部分がまず増分主義
注 2)47年度当初予算における公共事業費は,前年度比29.0%増とすでにかなり高か
ったが,補正予算で,さらに約5,000億円が追加された。47年度の当初予算編成
段階では,46年不況下での景気停滞が続く中で,通貨調整の実現もあって,景気
の先行きに懸念が持たれていた。この点から景気回復が財政の大きな課題であっ
た。さらに「社会資本の整備」という要請も公共事業費拡充の大きな理由として
あげられた。
補正予算での追加理由としても,社会資本の充実と国際収支の均衡回復とがあ
げられている。このように47年度における公共事業費の大幅増加の背景には,従
来の循環的景気調整以外の要因が強く働いていたのである。
− 110 −
第3章 一般会計予算編成過程の実態分析
図3−9 公共事業費の伸び率の推移
的に決定され,限界的な部分が景気調整によって裁量的に動かされている
と考える。
§9. 物
件
費
物件費の範囲は,概ね一般会計の使途別分類における「旅費」,「物件費」,
「施設費」の合計であり,特別会計への繰入れ分について所要の修正を行っ
ている。
物件費の伸び率は,図3−10に示すとおりである。伸び率変動は,比較的
大きく,物価上昇(ここでは,消費者物価上昇率)を差し引いた伸び率でも,
この傾向は変わらない。これは,次の理由によるものと思われる。
(i)
ここでいう物件費は使途別分類による「旅費」,「物件費」,「施設費」
から成っているが,それぞれの伸び率をみると,「旅費」,「物件費」につ
いては,変動が小さいものの「施設費」の変動はかなり大きい。「施設
費」は,公共事業費と似た決定が行われるためであろう(施設費を公共事
業費に含めず物件費に含めた理由は補論Iを参照)。
− 111 −
(ii)
物価上昇率として,消費者物価上昇率を用いているが,消費者物価
上昇率は,物件費に関わるデフレーターとして,必ずしも適切ではない。
物価上昇率を差し引いた実質伸び率の変動を見るにはより適切な指標が必
要である。
一方,単相関係数を見ると,自己相関があると認められる(表3−27)。
他経費と比較すれば,自己相関の度合いは,社会保障費ほど高くはないも
のの,人件費やその他経費と同程度である。また,表3−27からは,その
他経費との相関が高く見えるが,物件費とその他の経費の各年度の伸び率
を比較すれば,有意な関係は認められない。
以上から,決定メカニズムとしての増分主義的傾向は支配的ではないも
のの,ある程度存在するものと判断される。
なお,物件費について歳出総額に占める構成比,GNP比などの指標を見
ると,傾向的に低下を示している。これは物件費は他の経費と異なり,毎
図3−10 物件費の増加率(当初ベース)
表3−27 物件費の単相関係数(決算ベース)
伸
び
率
増
加
率
GNP
比
1期 2期 当期 1期 2期 当期 1期 2期
ラグ ラグ
ラグ ラグ
ラグ ラグ
― △ .299 △ .275
― .665 .595
― .871 .778
当期
自
己
普
通 歳 入
△
.201 △ .062
.308
.277
.578
.482 △ .051 △ .098
.275
G
N
P
△
.145 △ .347 △ .108
.729
.727
.508
―
―
―
人
件
費
△
.128
.447
.707
.823
.293
.374
.625
.707
.484
社 会 保 障 費
.179 △ .052
.104
.738
.679
.350 △ .497 △ .501 △ .523
公 共 事 業 費
.365
.044
.101
.529
.748
.290 △ .366 △ .425 △ .389
.793
.398
.065
.448
.753
.478 △ .926 △ .833 △ .868
そ の 他 経 費
△
− 112 −
第3章 一般会計予算編成過程の実態分析
度物価上昇分に見合う程度の上積みを行うにとどまっているためと見られ
る。
§10. そ の 他 経 費
(1)
その他経費の概要
「その他経費」は歳出総額から他の経費を控除したものと定義した。した
がって,他の経費が一部推計を用いていること,性質別分類と主要経費別分
類を併用したことによるひずみ等がすべてこの経費に集約されてしまい,明
確にその内訳を確定することは困難である。その主たる内訳は表3−31に掲
げている。
内容は,食糧管理費,中小企業対策費,産投出資,国鉄への補助金など,
民間および政府関係企業の経済活動への補助金的性格をもった経費が大部分
を占めている(補論I参照)。その他経費を細分化してみれば,各々は異なっ
た意思決定ルールに従っているのであるが,ここでは一括して分析する。
(2)
データの観察と意思決定方式の想定
まず,その他経費の伸び率を見ると図3−11のとおりであり,変動がきわ
めて大きい。
伸び率の変動が大きいのは,主として食糧管理費の動きを反映したもので
図3−11 その他経費の増加率(当初ベース)
− 113 −
表3−28 そ
経
―
―
1
1
2
2
3
3
3
5
5
5
4
4
4
3
3
3
3
3
―
―
―
50
0
0
230
497
572
125
440
569
596
781
936
803
697
758
663
653
―
―
0
3
0
0
7
15
13
2
7
9
6
7
7
5
3
3
2
1
662
713
711
784
876
1,065
1,396
995
1,464
2,194
1,516
1,774
2,329
2,980
3,954
4,781
6,407
7,780
9,629
11,576
―
―
41
56
68
54
46
30
34
51
26
28
26
29
32
32
34
34
33
32
構成比
− 114 −
―
―
―
―
82
31
76
22
53
26
47
46
47
91
50
118
50
166
46
218
50
293
50
348
47
382
40
431
41
503
39
579
41
697
41
803
41 1,021
39 1,278
投以外
食管産
―
―
1,424
1,069
683
931
1,413
1,657
2,131
2,005
2,895
3,172
4,161
4,073
4,989
5,807
7,700
9,249
11,743
13,753
構成比
―
―
―
―
―
―
―
―
―
―
―
―
0
0
1
2
6
7
7
7
(単位:億円,%)
以 外
食 管
経 費
その他
―
―
―
―
―
―
―
―
―
―
―
―
54
85
122
308
1,134
1,699
2,106
2,684
構成比
構成比
―
―
―
―
8
19
23
16
24
25
23
20
28
29
31
31
27
24
24
25
経 費
事 項
その他
国 鉄
―
―
―
―
112
390
710
535
1,026
1,096
1,319
1,287
2,464
3,001
3,830
4,636
5,208
5,409
7,132
9,086
構成比
構成比
―
―
1
2
3
2
4
2
2
3
4
5
5
9
7
6
6
5
5
5
産 投
食 管
―
―
28
38
45
58
139
86
107
129
251
365
481
955
928
1,011
1,152
1,258
1,660
1.767
訳(当初予算)
構成比
構成比
―
―
15
20
34
29
24
30
22
24
21
22
18
19
18
19
18
20
20
22
内
企 業
中 小
協力
興経済
貿易振
237
310
270
282
443
576
734
991
944
1,069
1,232
1,421
1,640
1,919
2,177
2,778
3,558
4,602
5,940
7,944
費
構成比
構成比
―
―
100
100
100
100
100
100
100
100
100
100
100
100
100
100
100
100
100
100
他
技術
び科学
文教及
―
―
1,722
1,389
1,283
1,955
2,996
3,269
4,208
4,299
5,697
6,235
8,800
10,033
12,046
14,540
18,752
22,247
28,581
35,234
構成比
合 計
年 度
31
32
33
34
35
36
37
38
39
40
41
42
43
44
45
46
47
48
49
50
の
― ―
― ―
― ―
― ―
1,722 100 1,772 100
1,339 100 1,339 96
1,171 91 1,171 91
1,565 80 1,565 80
2,286 76 2,056 68
2,734 83 2,237 68
3,182 75 2,610 62
3,203 74 3,078 71
4,378 76 3,938 69
4,948 79 4,379 70
6,336 72 5,740 65
7,032 70 6,251 62
8,216 68 7,280 60
9,904 68 9,101 62
13,544 72 12,847 68
16,838 75 16,080 72
21,449 75 20,786 72
26,148 74 25,495 72
第3章 一般会計予算編成過程の実態分析
ある。食糧管理費は,その他経費の約3割を占めており,その伸び率の変動
は激しい。その他経費の決定メカニズムを考える場合,食糧管理費の特殊な
変動を考慮することが必要である。
また,その他経費の伸び率の変動は,公共事業費とほぼ逆の動きを示して
いる。すなわち,景気上昇期には上昇し,景気後退期には低下するという動
きであるが,これは次に述べる歳入との相関を反映したものと考えることが
できる。
次に,相関係数の観察結果によれば,自己相関はあると認められる。食糧
管理費など個別の経費について伸び率変動は激しく,その結果全体としても
伸び率の変動は大きいが,増分主義的メカニズムは,ある程度働いているも
のと考えられる。増分主義とはいっても制度的に固定されていることに基づ
くものではなく,前年度の値が意思決定の標準とされることによるものであ
る。
また,その他経費は普通歳入との相関が高い。その他経費は,補助金的性
格が強く,税収との関係で裁量可能な余地が大きかったためと判断される。
この意味で,その他経費は税収変動に対するバッファー的な役割をはたし
ているとも考えられる。なお,歳入との相関が高い経費として他に人件費が
あるが,人件費の場合は,景気後退期には,下方硬直的な傾向がみられ,裁
量可能性の度合において,その他経費とは若干異なっているのではないかと
思われる。
§11. 剰 余
(1)
金
歳入予算における税収見通しは,安全度をみて低めに抑えられるため,
実際の歳入は予算額を上回るのが通常である。他方,歳出においては,あら
かじめ予算で定められた限度をこえて支出することはできない。
このため,決算においては,通常,歳入が歳出を上回り,剰余金が発生す
る(剰余金が発生する原因としては,この他に歳出で不用や繰越しがあるこ
と,予算編成時では確定していない前年度新規剰余金が決算時点で受入れら
れることなどがある。これらについては後述する)。
− 115 −
昭和30年代においては,好況期の剰余金はしばしば予算総額の一割程度に
まで達した。公債発行下では,税収の推移をみつつ公債発行額を調整し,剰
余金の発生をできる限り抑えるべきであるが,それでも,47,48年度におい
てはかなりの額の剰余金が発生している。
(2)
ところで,われわれの分析の目的からみて,歳入,歳出の両面において
剰余金は他の費目とは区別する必要がある。その理由は次のとおりである。
(i)
歳入面においては,過年度剰余金は先決変数であること。すなわち,
当該年度で受入れる過年度剰余金は,その年度の意思決定の結果ではなく,
過年度の財政運営の結果として既に定まってしまっていること。
(ii)
歳出面においては,通常剰余金の1/2以上について使途が制度的に定
まっていること。(後記(5)参照)
そこでこの分析においては歳入歳出の両面における剰余金を別掲し,そ
の動きをフォローすることとした。
t 年度に発生する新規剰余金は,通常( t +1)年度予算編成時には確定
していないため,剰余金関連の歳出は( t +1)年度歳出予算には計上でき
ず,( t +2)年度歳出予算に計上され,そこで支出される。
他方,歳入面では,( t +1)年度予算において,( t −1)年度に発生し t
年度に使用されなかった剰余金が計上される。( t +1)年度決算において
はさらに, t 年度に新規に発生した剰余金も「前年度剰余金」に含めて受
入れられる。したがって,当初および補正後歳入には前々年度剰余金受入
れを,決算には前年度剰余金受入れを計上している。(なお「新規剰余
金」等の厳密な定義は後記(3)を参照。)
(3)
以上の説明で,剰余金についていくつかの概念が登場した。ここでこれ
らの厳密な定義について述べておこう。
まず,次の記号を定義する。
補正後予算歳出総額
EX t
〃
租税及び税外収入
TRt
〃
公債金収入
BI t
〃
剰余金受入れ
Ŝt
− 116 −
第3章 一般会計予算編成過程の実態分析
決算ベース支出済歳出額
EX t
〃
収納済税および税外収入 TRt
〃
公債金収入
BI t
決算ベース剰余金受入れ
St
予算においては,歳出と歳入は必ず一致しているから次式が成り立つ。
EX t = TRt + BI t + Sˆt ····················································· ①
決算においては歳出と歳入は必ずしも一致しない。この差は「歳計剰余
金」(または「決算上の剰余金」)とよばれる。これを SAt と書くと
SAt = TRt + BI t + St − EX t ··············································· ②
①式を参照すると,これは次のように分解できる。
SAt = ΔTRt − ΔBI t + ΔSt + ΔEX t ······································· ③
ここで
ΔTRt ≡ TRt − TRt
ΔBI t ≡ BI t − BI t
ΔSt ≡ St − Sˆt
ΔEX t ≡ EX t − EX t
ΔTRt は,実際の税収額と補正後予算における税収見込額との差であり,
前に述べたように通常は正の値をとる。 ΔBI t は補正後予算における公債発
行予定額と実際の公債発行額との差である。公債を予算に定められた限度を
こえて発行することはできないから, ΔBI t は負の値をとることはありえず,
通常は正の値をとる。
次に ΔEX t は,補正後予算の歳出額と支出済歳出額との差である。 t 年度か
ら( t +1)年度への繰越額を DEt , t 年度における不用額を UEt とすると,
支出済歳出額の定義は,
EX t ≡ EX t + DEt −1 − DEt − UEt
であるから,
ΔEX t ≡ − DEt −1 + DEt + UEt
である(なお, EX t + DE t −1 は t 年度の「予算現額」とよばれる)。したがっ
て,
− 117 −
SAt = ΔTRt − ΔBI t + ΔSt + DEt − DEt −1 + UEt ······················ ④
最後に ΔSt は,決算における過年度剰余金受入額と補正後予算における過
年度剰余金受入額の差額である。この差額が生ずるのは次のような事情によ
る。
まず, t 年度決算作成時においては,当然( t −1)年度決算は終了してお
り,歳計剰余金も確定している。そして,この剰余金は,翌年度の歳入とし
て受入れる他はない。したがって, t 年度決算においては,( t −1)年度の歳
計剰余金 SAt −1 を「前年度剰余金受入」として計上する。すなわち,
St = SAt −1
となっている。
ところが, t 年度の当初予算を作成する時点では,( t −1)年度の歳計剰
余金は確定していない。なぜなら, t 年度当初予算の編成は,通常( t −1)
年の暮に行われるが,この時点では( t −1)年度予算は執行中だからであ
る。そこで,当初予算における「前年度剰余金受入れ」は,決算時における
受入れ額 St より低めの額を計上する。なお,( t −1)年度の決算は, t 年の
秋頃に作成される。そこで, t 年度の最終補正予算をこれより後の時点で作
成し,( t −1)年度の歳計剰余金をそこで受入れることは不可能ではない
が,通常は補正予算では当初予算における剰余金受入額を修正しない。(た
だし,40,49,50,51,52年度は例外:表3−32参照)
それでは,当初予算での剰余金受入れ額 Ŝt が決算時点での剰余金受入れ額
Sˆt = SAt −1 を上回らないようにするには, Ŝt をいかに定めればよいであろう
か。それには,
Sˆt = ΔTRt − 2 − ΔBI t − 2 + UEt − 2
とすればよい。その理由は次のとおりである。いま,
SX t ≡ ΔTRt − ΔBI t + UEt ················································· ⑤
と定義すれば
S t = SAt −1 = SX t −1 + ΔSt −1 + DEt −1 − DEt − 2 ··························· ⑥
Sˆt = SX t − 2
であるから,
− 118 −
第3章 一般会計予算編成過程の実態分析
表3−29 各種剰余金概念の関連
(単位:億円)
剰余金の発生
歳入における「前年度剰余金受入」
歳 計 新規発生 当初予算 補正後予算 決
剰余金 剰 余 金
t
SAt
SX t
Ŝ ' t
算
参
考
t 年度へ
繰越し
t 年 度
不 用
DEt
UEt
St
Ŝ t
35
2,179
1,251
168
168
1,021
415
146
36
4,525
2,627
512
512
2,179
647
208
37
3,910
761
1,251
1,251
4,524
523
189
38
1,869
697
2,627
2,627
3,910
412
236
39
1,358
240
761
761
1,859
422
276
40
501
21
697
883
1,358
426
212
41
930
517
53
53
501
391
215
42
1,864
274
21
21
930
1,073
222
43
1,228
230
517
517
1,860
735
136
44
1,914
958
274
274
1,228
726
127
45
2,715
995
230
230
1,906
762
210
46
4,097
2,197
958
958
2,715
905
835
47
8,617
4,554
995
995
4,097
1,866
907
48
19,837
9,669
2,197
2,197
8,617
5,614
1,196
49
―
―
4,554
7,245
19,837
―
―
50
―
―
6,978
7,717
12,793
―
―
51
―
―
291
2,833
6,125
―
―
52
―
―
699
3,744
―
―
―
53
―
―
127
―
―
―
―
注) 1 原則として以下の式がなりたつ
Sˆ = SX
t −2
t
St = SAt −1
S − Sˆ = SX
+ DEt −1
SAt = SX t + SX t −1 + DEt
t
t
t −1
2 「財政統計」より作成
ΔSt = St − Sˆt = SX t −1 + ΔSt −1 + DEt −1 − DEt − 2 − SX t − 2
となる。上式を t , t − 1, t − 2, L について加えあわせれば,
ΔSt = SX t −1 + DEt −1 ························································ ⑦
が得られる。前に述べたことによって SX t −1 , DE t −1 はともに非負であるか
ら, ΔSt は必ず非負の値となる。したがって,上記のような計上法をとれ
ば,当初予算での剰余金受入額が決算時点での剰余金受入額を上回ることは
− 119 −
ない。⑤,⑥式を④式に代入すると,
SAt = SX t + SX t −1 + DEt ·················································· ⑧
が得られる。
なお,⑤式で定義された額は, t 年度の「新規発生純剰余金」とよばれ
る。これがそのようによばれる理由は,⑧式をみるとはっきりする。すなわ
ち, t 年度の歳計剰余金 SAt のうち,まず DEt は,歳出を翌年度に繰越すこ
とに伴って財源も繰越したものであるから,後年度に自由に使用しうる額を
みるにはこれを控除する必要がある。これが「純」の意味である。次に SAt
のうち, SX t −1 は t 年度の財政運営の結果生じたものでなく,( t −1)年度の
剰余金であるから, t 年度の剰余金をみるにはこれを控除する必要がある。
これが「新規発生」の意味である。
実際には,上記の諸項目は次の手順で計算される。
まず, EX t + DEt −1
によって予算現額を算出する。次に,
EX t + DEt −1 − DEt − UEt = EX t
によって支出済歳出額を算出する。次に,
EX t − (TRt + BI t + St ) = SAt
によって歳計剰余金を算出する。そして
SAt − SX t −1 − DEt = SX t
によって新規純剰余金を算出する。
(4)
次に,(2)で定義した普通歳入と,普通歳出の差額は,一定の条件の下で
新規純剰余金に等しくなることを述べる。(3)で用いた記号を用いれば,
普通歳入: TRt
普通歳出: REt = EX t − SX t − 2
であるから,
TRt − REt = TRt − EX t + SX t − 2 = SAt − BI t − St + SX t − 2
(②を代入)
= SX t + SX t −1 + SX t − 2 + DEt − BI t − St
(⑧を代入)
− 120 −
第3章 一般会計予算編成過程の実態分析
= SX t + SX t − 2 + DEt − DEt −1 − DEt − 2 − BI t − Δ St −1
(⑥を代入)
= SX t + DEt − DEt −1 − BI t
(⑦を代入)
ところで, TRt > REt のときは公債は発行されないから,
SX t =〔TRt − REt 〕−〔DEt − DEt −1〕···································· ⑨
だけの新規純剰余金が発生する。
公債発行下では,原則的には,剰余金の発生をゼロとすべきであり,した
がって,
BI t =〔REt − TRt 〕+〔DEt − DEt −1〕····································· ⑩
だけの公債を発行すべきである。実際には前に述べたように公債発行下でも
剰余金が発生しているが,その額は
SX t =〔TRt + BI t − REt 〕−〔DEt − DEt −1〕···························· ⑪
によって与えられる。
いま仮に繰越し額が毎年度等しいと仮定し,かつ,公債発行下では剰余金
は発生しないものとしよう。すると,⑨,⑩から
TRt − REt = SX t ,
= − BI t ,
if
TRt − REt ≥ 0
if
TRt − REt < 0
となる。すなわち,普通歳入と普通歳出の差額は,その正負に応じて,新規
純剰余金,または,公債発行額となる。
(5)
すでに述べたように t 年度に発生した新規純剰余金は( t +2)年度に支
出されるが,その使用に関しては,次のような制約が課されている(表3−
30参照)。
(i)
まず, t 年度の地方交付税交付金の精算がなされる。 t 年度地方交付
税交付金は,( t 年度の国税三税収納額)×(交付税率)によって算出される
が,収納額は, t 年度最終補正予算作成時には確定していないため,収納
見込額によって交付金額を算定し,残りは( t +2)年度に精算するのであ
る。この財源が,剰余金であることはいうまでもない。なお精算額は,し
ばしば交付金額の一割程度にまで達している。
(ii)
上と同じ理由により,特定財源をもつ道路整備費及び交通安全対策特
− 121 −
表3−30 剰 余 金 の 使 用
(単位:億円)
国債整 一 般
地方交付 道路整備 うち
うち
年度 税交付金 事業費等 交通安全 空港整備 理基金
対策特別
財 源
精算
精算
交付金 事業費等 に繰入
計
30
0
0
―
―
204
204
408
31
12
54
―
―
157
157
381
32
0
―
―
―
96
96
191
33
118
11
―
―
436
436 1,002
34
144
―
―
―
330
330
805
35
0
11
―
―
79
79
168
36
56
17
―
―
219
219
512
37
175
80
―
―
498
498 1,251
38
488
5
―
―
1,067
1,067 2,627
39
32
5
―
―
362
362
761
40
41
5
―
―
130
520
697
41
0
5
―
―
47
187
0
187
53
42
0
5
―
―
8
8
21
43
187
102
―
―
114
114
517
44
31
14
―
―
114
114
274
45
0
77
―
―
77
77
230
46
174
86
(
4)
―
349
349
958
47
193
71
( 56)
―
366
366
995
48
289
92
( 92)
―
907
907 2,197
49初
1,672
24
( 16)
―
1,429
1,429 4,554
49補
2,691
―
―
―
―
50初
―
87
( 87)
―
1,378
50補
―
534
(
0)
―
―
203
737
51初
0
88
( 40)
( 48)
203
―
291
51補
―
374
(
0)
(
0) 2,168
52初
596
103
( 100)
(
3)
52補
―
―
―
―
0 2,542
戻し税
― 財源
699
45 3,000 3,045
53初
―
2,340
―
―
―
―
2,691
5,514 6,978
(当初)+
(補正)
(当初)+
(前年度補正)
884
240
7,245
9,669
7,715
1,028
2,833
3,241
3,744
5,385
127 2,340
別交付金について, t 年度の精算が( t +2)年度に行われている。
(iii)
上記を差引いた残額の1/2は,公債償還財源として国債整理基金特別
会計に繰入れるべきこととされている(但し,40,41,50の各年度におい
ては,特例法により1/5のみを繰入れている)。
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第3章 一般会計予算編成過程の実態分析
(iv)
残額は一般財源として使用される。第4章のモデルは,普通歳出のみ
を分析対象としているため,や一般財源として使用される剰余金の使途に
関しては,説明を放棄していることになる。
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