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米国住宅市場の最新状況 ~ 本格的な市場回復への動き

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米国住宅市場の最新状況 ~ 本格的な市場回復への動き
ニッセイ基礎研究所
基礎研
レポート
2013-03-27
米国住宅市場の最新状況
~ 本格的な市場回復への動き ~
篠原 二三夫
(03)3512-1791 [email protected]
社会研究部門 上席主任研究員
1――はじめに
日銀・政府によるインフレターゲットを2%に置くというアナウンスメントにより、どれだけ将来期待が高まり持
続していくかに注目が集まっている。不動産投資市場のひとつの指標である東証 REIT 指数の動きをみると、
2012 年秋口から大きく上昇し、2013 年 3 月 15 日時点では 1,542.52 と約 4 年 9 ヶ月ぶりに 1,500 を超え
ている。不動産証券化協会の J-REIT Report によると、昨年来の J-REIT ファンドへの資金流入額は 3,500
億円を超え、J-REIT 市場の回復に大きく寄与しているという。平成 25 年地価公示では「全国的に依然として
下落を示したが、下落率は縮小し、上昇・横ばいの地点も大幅に増加し、一部地域において回復傾向が見ら
れる」としている。国土交通省が公表している住宅価格指数をみると、マンション価格は漸減から横ばいを続
ける更地価格を尻目に上昇基調にある(1)。
さて、長期の資産デフレやデフレからの脱却には、株式市場のみならず、今後の不動産市場の本格的な
回復が重要な役割を果たす。しかし、欧米市場の悪化がわが国の不動産、住宅市場の回復に負の影響を与
えたように、グローバル経済下では、国内に加え、欧米や東アジア諸国の動向にも注目しておく必要がある。
これまで米国については拙稿「米国住宅市場及び住宅ローン市場の動向(その3)」(基礎研 REPORT(冊子
版) Vol.147、2009 年 6 月号)、EU 諸国については拙稿「欧州住宅市場の現状と今後」(基礎研レポート、
2012 年 6 月 29 日 web 版)などで、筆者は住宅市場の動向を再生・回復への兆しを見いだすことに重点を
置いて分析してきた。加えて、筆者は、この 2 月から 3 月にかけて、ロサンゼルス、ラスベガス、ニューヨーク、
ワシントン DC、ロンドン、デュッセルドルフ、ベルリンの住宅投資市場を訪ねる機会に恵まれた。そこで、これ
までのデータを見直すとともに、現地の有力投資アドバイザーや不動産流通業者、業界団体などから聴取し
た住宅市場の現状や今後の見通しを加え、居住用投資物件を中心に、各国の不動産投資市場の動向につ
いて報告することとしたい。
最初に、わが国経済にも大きな影響を及ぼす米国市場について本稿で報告し、次回以降は米国市場に
続いて懸念が残る EU 諸国の動向と見通しを報告する。
(1) 拙稿「中古マンション価格が上昇 !!~ 期待される不動産価格指数の一層の整備~」ニッセイ基礎研究所「研究員の眼」2013 年 2 月 14 日参照。
1|
|ニッセイ基礎研レポート 2013-03-27|Copyright ©2013 NLI Research Institute
All rights reserved
2――米国住宅市場の最新動向
1|家計のバランスシートと債務負担の改善
住宅需要の担い手である家計の総資産残高は、住宅価格等の下落により、リーマンショック後の 2009 年
第 1 四半期には 65.3 兆ドルまで落ち込んでいたが、その後は回復基調をとり、2012 年の第 4 四半期には
79.5 兆ドルまで回復した。これはピーク値である 2007 年第 3 四半期の 81.5 兆ドルに迫る水準である(図表
1)。2012 年第 3 四半期からは住宅資産が多くを占める家計不動産の残高が上昇に転じており、マクロベー
スでみると、家計におけるネガティブ・エクィティの状況は次第に回復に転じていくものと考えられる。
図表1 回復基調を続ける家計資産
90,000,000
30,000,000
80,000,000
25,000,000
70,000,000
1
0
億
ド
ル
60,000,000
20,000,000 1
50,000,000
0
億
15,000,000 ド
ル
40,000,000
30,000,000
10,000,000
20,000,000
5,000,000
10,000,000
0
2000Q1
2000Q2
2000Q3
2000Q4
2001Q1
2001Q2
2001Q3
2001Q4
2002Q1
2002Q2
2002Q3
2002Q4
2003Q1
2003Q2
2003Q3
2003Q4
2004Q1
2004Q2
2004Q3
2004Q4
2005Q1
2005Q2
2005Q3
2005Q4
2006Q1
2006Q2
2006Q3
2006Q4
2007Q1
2007Q2
2007Q3
2007Q4
2008Q1
2008Q2
2008Q3
2008Q4
2009Q1
2009Q2
2009Q3
2009Q4
2010Q1
2010Q2
2010Q3
2010Q4
2011Q1
2011Q2
2011Q3
2011Q4
2012Q1
2012Q2
2012Q3
2012Q4
0
金融資産残高(左軸)
非金融資産残高(左軸)
不動産残高(右軸)
(資料)FRB, Flow of Funds Accounts of the United States, B.100 Balance Sheet of Households and Nonprofit より作成。
家計の可処分所得に対する住宅ローンと消費者金融への合計返済額の比率(DSR)や、同返済額に家賃
や保険料、固定資産税、リース料などを加えて計算した比率(FOR)は、利子率の低下を受けていずれも低
下しており(図表2)、今後の家計消費を促す好材料となっている。
図表2 軽減する家計の債務・支払負担
20
20
18
18
16
16
14
14
12
12
10
10
8
8
6
6
4
4
2
2
0
0
D
S
R
返
済
負
担
額
/
可
処
分
所
得
2000Q1
2000Q2
2000Q3
2000Q4
2001Q1
2001Q2
2001Q3
2001Q4
2002Q1
2002Q2
2002Q3
2002Q4
2003Q1
2003Q2
2003Q3
2003Q4
2004Q1
2004Q2
2004Q3
2004Q4
2005Q1
2005Q2
2005Q3
2005Q4
2006Q1
2006Q2
2006Q3
2006Q4
2007Q1
2007Q2
2007Q3
2007Q4
2008Q1
2008Q2
2008Q3
2008Q4
2009Q1
2009Q2
2009Q3
2009Q4
2010Q1
2010Q2
2010Q3
2010Q4
2011Q1
2011Q2
2011Q3
2011Q4
2012Q1
2012Q2
2012Q3
2012Q4
F
O
R
債
務
負
担
額
/
可
処
分
所
得
FOR計(左軸)
FOR持家小計(左軸)
FOR持家住宅ローン小計(左軸)
FOR持家消費者金融(左軸)
DSR(右軸)
(注) DSR(Debt Service Ratio)は、可処分所得に対する債務支払額(住宅ローン返済額と消費者金融返済額の合計)の比率。FOR(Financial
Obligations Ratio)は、DSR の考え方に、持家と賃貸居住に必要なローン・消費者金融以外の費用支払額(家賃や保険料、税金、リース料)を
加算し計算したもの。「FOR 持家小計」は住宅ローン返済額と持家保険料支払額、固定資産税支払額、消費者金融返済額、自動車リース料支
払額を含む。このうち「FOR 持家住宅ローン小計」は消費者金融返済額と自動車リース料支払額を除いている。「FOR 持家消費者金融」は逆に
住宅ローン返済額を除いている。
(資料)FRB, Household Debt Service and Financial Obligations Ratios より作成。
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2|回復する住宅市場
新設住宅着工は 2009 年 4 月に年換算 47.8 万戸で底を打った後、2013 年 2 月では年換算 91.7 万戸と
倍近くまで回復して、裾野の広い経済波及効果を生み、厳しい労働・雇用環境を支えている。
既存住宅取引は 2010 年 7 月に 345 万戸で底を打った後、徐々に回復基調を続け、2013 年 1 月には 492
万戸と 4 割以上も増加した(図表3)。
既存住宅取引の増加は不動産業や住宅金融業への寄与のみならず、取引に伴う住宅改修投資を促し、
改修工事に携わる零細建設業者の継続的な雇用や経営を支えている(図表4)。
図表3 回復基調を続ける住宅取引・住宅着工
10,000,000
9,000,000
8,000,000
7,000,000
6,000,000
5,000,000
4,000,000
3,000,000
戸 2,000,000
1,000,000
・
0
年
既存住宅販売戸数(年換算値)
2012年7月
2012年12月
2012年2月
2011年9月
2011年4月
2010年6月
2010年11月
2010年1月
2009年8月
2009年3月
2008年5月
2008年10月
2007年7月
2007年12月
2007年2月
2006年9月
2006年4月
2005年6月
2005年11月
2005年1月
2004年8月
2004年3月
2003年5月
2003年10月
2002年7月
2002年12月
2002年2月
2001年9月
2001年4月
2000年11月
)
2000年1月
換
算
値
2000年6月
(
販
売
戸
数
・
着
工
戸
数
新設住宅着工戸数(年換算値)
(資料) National Association of Home Builders 及び National Associations of Realtors のデータより作成。
図表4 零細建設業者を支える住宅改修投資
5,000 4,335 4,500 住宅改修投資額
住宅建設投資額
3,500 1 3,000 0
億 2,500 ド 2,000 ル
1,500 1,000 4,160 3,776 4,000 3,106 1,623 646 1,535 567 1,708 664 1,752 1,994 724 666 2,238 2,368 2,491 3,052 2,659 1,858 750 811 850 979 1,003 1,154 1,311 1,449 1,391 1,201 1,053 1,126 1,082 1,120 1,116 1,140 500 0 1994
1995
1996
1997
1998
1999
2000
2001
2002
2003
2004
2005
2006
2007
2008
2009
2010
2011
(注) 住宅建設投資は戸建てのみでコンドミニアムや賃貸住宅建設投資を除く。住宅改修投資額は賃貸住宅の改修投資を除く。
(資料) National Association of Home Builders のデータより作成。
既存住宅取引に含まれている不良債権処理のための差し押さえや任意売却取引の件数は、多少の変動
はあるものの、ピーク時の 2009 年 3 月における 49.1%から減少傾向にあり、2013 年 1 月時点では差し押さ
えで約 14%、任意売却で約 9%と、合計で 23%強まで減少している。
住宅バブル崩壊後は、こうした処理のための取引が既存住宅取引の主体であったが、最近では実需の増
加により相対的に不良債権処理取引のウェイトは低下し安定しつつある。これは既にサブプライムなどの組
み直し後の再破綻を含め、住宅バブル期において組成した破綻リスクの高い住宅ローンの現物処理が一巡
したためである(図表5)。
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2008年10月
4|
2008年12月
総取引数に占める差押さえ件数の比率
総取引数に占める任意競売数の比率
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(資料) National Associations of Realtors のデータより作成。
図表6 住宅購入者・投資家の動向
(資料)National Association of Realtors, REALTORS® Confidence Index (RCI)により作成。
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総取引数に占める不良資産処理件数の比率
2013年01月
2012年12月
2012年11月
2012年10月
2012年09月
2012年08月
2012年07月
2012年06月
2012年05月
2012年04月
2012年03月
2012年02月
2012年01月
2011年12月
2011年11月
2011年10月
2011年09月
2011年08月
2011年07月
2011年06月
2011年05月
2011年04月
2011年03月
2011年02月
2011年01月
2010年12月
2010年11月
2010年10月
2010年09月
2010年08月
2010年07月
2010年06月
2010年05月
2010年04月
2010年03月
2010年02月
2010年01月
2009年12月
2009年11月
2009年10月
2009年09月
2009年08月
2009年07月
2009年06月
2009年05月
2009年04月
2009年03月
2009年02月
2009年01月
総
取
引
数
に
占
め
る
不
良
債
権
処
理
件
数
の
比
率
2008年11月
図表5 住宅ローンにおける不良債権処理の進行
60%
50%
40%
30%
20%
10%
0%
全米リアルター協会(NAR)が会員の流通業者(リアルター)に対して実施している住宅販売の現況と見通
しに関する REALTORS® Confidence Index (RCI 調査)によると、現金購入者の比率がピーク時の 2011
年 3 月には 35%であったものが徐々に縮小し、2013 年 1 月では 28%まで低下している(図表6左上)。ただ
し、NAR の見解と分析では、米国融資機関の状況は見かけよりも悪いためか、頭金条件を含めた住宅ロー
ンの与信供与は引き続いて非常に厳しく行われており、住宅取引は年間で現状でも 30~50 万戸ほど抑制さ
れているとのことである。需要は回復してはいるものの、住宅取得資金の確保が今後の住宅市場の一層の回
復に向けた課題となっている。
住宅購入者の内訳をみると(図表6)、「住宅一次取得者」は住宅需要の多くを占めている。住宅ローンの
与信管理が厳しいにも関わらず、このシェアは 30%前後の横ばいで維持されている点は興味深い。加えて、
最近では「投資家」への売却が 20%近くまで回復していることや、「住み替え購入者」(2013 年 1 月:15%)
が取引市場の回復に寄与している状況がうかがえる。別荘等の「セカンドホーム」の購入者は 2013 年 1 月で
は 10%を切ったが、従来は 10~12%のシェアで推移している。「海外購入者・投資家」の比率は 2013 年 1
月時点で 2%弱であるが、NAR に問い合わせたところ、「海外」なのか「国内」なのかの区分は、各リアルター
の判断によるため、実際のところあまり明確ではなく、「海外」の購入者や投資家は、実際には「(国内)投資
家」にも含まれているようである。
また、実際に住宅取引の現場で購入者と接触しているリアルターへの RCI 調査の結果(2)では、今後の取
引の見通しとして、現在及び 6 ヶ月先でも、市況は回復に向かうとの判断が強い。具体的には取引の主流を
占める一戸建てで市況横ばいの基準である 50 を超え、タウンハウスや高額投資物件のコンドミニアムでは 50
未満であるものの、市況は回復基調にあるとみている(図表7)。
図表7 流通業者(リアルター)による住宅販売見通し(6ヶ月先)の動向
80
5
0
を
基
準
と
し
た
場
合
の
取
引
景
況
感
70
60
50
40
30
20
10
0
一戸建て
タウンハウス
コンドミニアム
(資料)National Association of Realtors, REALTORS® Confidence Index (RCI)により作成。
この背景として、従来は危機的水準にあった住宅在庫月数が新築及び既存住宅のいずれにおいても、住
宅バブル崩壊前どころか、住宅価格が上昇をし始めた 2005 年下期以前の 4~5 ヶ月前後の水準まで大きく
回復したことがあげられる。今回米国各地でインタビューしたリアルターは、いずれも現場の取引を通じて、需
要の強さを実感し始めている。この在庫の改善は、2012 年に入り大きく進んでいる。元々投資物件の主流で
あるため変動幅は大きいものの、既存コンドミニアムの在庫は特に大きく減少した(図表8)。
(2) NAR 会員であるリアルターに対し、現在と今後の取引市況をアンケート調査した指数。市況は上昇するとみる場合は 100、横ばいは 50、下降は
0 と回答するものとし、サンプル数約 3 千のリアルターの回答結果を得て各々で加重平均し合計したもの。つまり、指数=(100*回答者数 a+50*回
答者数 b+0*回答者数 c)/(a+b+c)である。
5|
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しかし、新設住宅着工の拡大は融資資金の手当てや地方自治体の疲弊により開発負担金が著しく高額化
している実情(3)があり、需要に対して供給が追いつかない状況が生じているという。このため、住宅価格は今
後横ばいから上昇に転ずるとの見方がリアルターの間では支配的になっている(図表9)。
在庫が大きく減少した背景として、景気回復を見越した投資家の動向は気になるところであるが、賃貸と持
家のいずれにおいても、空き家率は縮小傾向にあり、現状では投機的というよりも、実需に対応した投資が行
われていると見るべきであろう(図表 10)。
図表8 住宅在庫月数の推移(新築・既存住宅)
18 16 14 住
宅
在
庫
月
数
12 10 8 6 4 2 1999年1月
1999年4月
1999年7月
1999年10月
2000年1月
2000年4月
2000年7月
2000年10月
2001年1月
2001年4月
2001年7月
2001年10月
2002年1月
2002年4月
2002年7月
2002年10月
2003年1月
2003年4月
2003年7月
2003年10月
2004年1月
2004年4月
2004年7月
2004年10月
2005年1月
2005年4月
2005年7月
2005年10月
2006年1月
2006年4月
2006年7月
2006年10月
2007年1月
2007年4月
2007年7月
2007年10月
2008年1月
2008年4月
2008年7月
2008年10月
2009年1月
2009年4月
2009年7月
2009年10月
2010年1月
2010年4月
2010年7月
2010年10月
2011年1月
2011年4月
2011年7月
2011年10月
2012年1月
2012年4月
2012年7月
2012年10月
2013年1月
0 新築住宅計
既存住宅計
既存戸建て
既存コンドミニアム
(資料)National Association of Home Builders 及び National Associations of Realtors のデータより作成。
図表9 RCI 調査による住宅価格上昇見通し
価格は横ばいないし上昇
2012年12月
2012年10月
2012年08月
2012年06月
2012年04月
2012年02月
2011年12月
2011年10月
2011年08月
2011年06月
2011年04月
2011年02月
2010年12月
2010年10月
2010年08月
2010年06月
2010年04月
2010年02月
2009年12月
2009年10月
2009年08月
2009年06月
2009年04月
2009年02月
2008年12月
2008年10月
回
答
者
の
比
率
100%
90%
80%
70%
60%
50%
40%
30%
20%
10%
0%
価格は下落
(資料)National Association of Realtors, REALTORS® Confidence Index (RCI)により作成。
図表10 空家率の動向
12
10
8
%
4
( )
空
家
率
6
2
3月
6月
9月
12月
3月
6月
9月
12月
3月
6月
9月
12月
3月
6月
9月
12月
3月
6月
9月
12月
3月
6月
9月
12月
3月
6月
9月
12月
3月
6月
9月
12月
3月
6月
9月
12月
3月
6月
9月
12月
3月
6月
9月
12月
0
2002年
2003年
2004年
2005年
2006年
2007年
持家空家率
2008年
2009年
2010年
2011年
2012年
賃貸空家率
(資料)National Association of Home Builders のデータより作成。
(3) 全米ホームビルダー協会(NAHB)によると、通常の開発負担金(Impact Fee)は住宅開発に伴う学校や上下水道等のインフラ整備のために、郡
にもよるが、2 千$/戸程度までであるが、メリーランド州のモンゴメリーでは 3 万$/戸、カリフォルニア州の一部では 12 万$/戸という異常な状
況が出ているという。
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3|課題が残る住宅ローン市場
全住宅ローンに占める差し押さえ手続き中の件数比率の推移と、差し押さえ開始件数比率の推移とを見る
ことによって、不良債権の実物処理の進み具合を間接的にみることができる。
米国銀行が抱える全住宅ローン件数に占める差し押さえ手続き中件数の比率は、2011 年 12 月の 4.38%
から四半期毎に縮小する傾向にあり、2012 年 12 月には 3.74%まで低下している。サブプライムローンを除く
プライムローンだけの場合は、これが 3.28%から 2.62%となった。
さらに、差し押さえ開始物件の比率は、厳格な与信管理を反映し、2011 年 12 月には全住宅ローンに対し
0.99、プライムローンに対しては 0.78 であったものが、2012 年 12 月には各々0.70 と 0.46 まで低下し、ほぼ
バブル崩壊以前の水準まで回復している(図表 11)。
図表11 差し押さえ物件の動向
全住宅ローンに占める
差し押さえ手続き中
件数比率%
2011 年 12 月
2012 年 3 月
2012 年 6 月
2012 年 9 月
2012 年 12 月
全住宅ローンに占める
差し押さえ開始
件数比率%
4.38
4.39
4.27
4.07
3.74
プライムローンに
占める差し押さえ
手続き中件数比率%
0.99
0.96
0.96
0.90
0.70
プライムローンに
占める差し押さえ
開始件数比率%
3.28
3.34
3.12
2.97
2.62
0.78
0.77
0.66
0.66
0.46
(資料)Mortgage Bankers Association, 4th Quarter 2012, National Delinquency Survey of 1-to-4 units, First-lien Mortgage Loan より作成。
しかしながら、住宅ローンの組成状況をみると、新規組成額は 2008 年に入ってから四半期あたり 1,000 億
ドル強の水準で低迷しており、2012 年第 3 四半期は 1,290 億ドルにとどまっている。現在、主流となっている
のは、住宅ローンの借換えであり、これを含めて 2012 年第3四半期の組成額は 4,710 億ドルである(図表
12)。この状況から、新規組成が停滞していることが住宅ローン市場の大きな課題であることが分かる。これを
ひとつの背景として、新設住宅着工が伸び悩んでいる様子がうかがえよう(図表3)。
図表12 住宅ローン組成動向(新規と借換組成)
1,1871,199
900
800
774
632 627
579
507
518
869
825
794
800
646 675
552
729 697
718
640
610
690
573
594
577
491 520
481 465
418
369 390
378
302 312 287
297
378 395
445
480
474
405
246
311
471
373 395
400
組
成
額
1
0
億
ド
ル
)
)
238
800
675
(
739
(
組 700
成
額 600
1 500
0 400
億
ド 300
ル 200
1,200
1,010
100
0
2000 ‐ Q1
2000 ‐ Q2
2000 ‐ Q3
2000 ‐ Q4
2001 ‐ Q1
2001 ‐ Q2
2001 ‐ Q3
2001 ‐ Q4
2002 ‐ Q1
2002 ‐ Q2
2002 ‐ Q3
2002 ‐ Q4
2003 ‐ Q1
2003 ‐ Q2
2003 ‐ Q3
2003 ‐ Q4
2004 ‐ Q1
2004 ‐ Q2
2004 ‐ Q3
2004 ‐ Q4
2005 ‐ Q1
2005 ‐ Q2
2005 ‐ Q3
2005 ‐ Q4
2006 ‐ Q1
2006 ‐ Q2
2006 ‐ Q3
2006 ‐ Q4
2007 ‐ Q1
2007 ‐ Q2
2007 ‐ Q3
2007 ‐ Q4
2008 ‐ Q1
2008 ‐ Q2
2008 ‐ Q3
2008 ‐ Q4
2009 ‐ Q1
2009 ‐ Q2
2009 ‐ Q3
2009 ‐ Q4
2010 ‐ Q1
2010 ‐ Q2
2010 ‐ Q3
2010 ‐ Q4
2011 ‐ Q1 2011 ‐ Q2
2011 ‐ Q3
2011 ‐ Q4
2012 ‐ Q1 2012 ‐ Q2
2012 ‐ Q3
0
新規組成額(左軸)
借換組成額(左軸)
住宅ローン組成総額(右軸)
(資料)Mortgage Bankers Association,Mortgage Origination Estimates as of October 2012 より作成。
3――米国の住宅投資の今後の見通し
総括すると、米国における住宅需要はデータと現場感覚の双方からみて、従来以上に高まっていると言え
よう。ニューヨーク、ワシントン DC、ロサンゼルス、ラスベガスなどを訪問し、現地の物件を視察した際にも、マ
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ルチプル・リスティング・サービス(MLS)(4)を用いて現地リアルターが検索してくれる不動産物件の流動性は
高水準にあることが実感された。物件を視察できても、既に当該物件には他のリアルターが先行して手続きを
進めていたり、取引完了に向けたエスクロー(5)手続きが開始されたりしている場合が多かったからである。
投資家の視点からみると、ニューヨークやロサンゼルスなどの大都市中心部では、元々物件価格自体が高
止まりしていることから、リターンは非常に低い状況にある。しかし、ロサンゼルスや DC などの都市周辺部や
ラスベガスなどでは、賃料収入に加えてキャピタルゲインをねらう投資家が物件を探し回っている状況という。
こうした環境下では、負担金などを考慮しつつうまく開発認可を得ることが大きな課題であるが、新設物件
では、機関投資家や REIT 向けに 200~300 戸単位で投資適格なコンドミニアムや賃貸アパートを開発する
事業も再び動き出している。
個人投資家向けには、従来はなかった取引として、わが国の買取仲介に近いビジネスがロサンゼルスで動
き出しているのを見ることができた。立地等がよく建物構造が適している物件を流通業者が自ら探し、建築士
や施工業者と連携し、内部のみならず家屋の外観にも一定の修繕・改修を加えることによって魅力付けを行
い、十分な利ざやをとって買い手につなげようとしていた。
図表13 米国における移民数、短中期滞在者数、総人口の推移
700
2.876 600
2.928 2.901 2.955 3.116 3.093 3.068 3.041 3.012 2.984 3.139 億人
3.5 3.0 608万人
500
(
400
339
100
278
147
106
271
70
37 25
66
96
36 25
291
66
36 28
66
195
193
105
74
38 29
344
317
171
127
157
112
151
143
69
280
43 29
111
84
49
30
282
170
113
92
51
31
179
160
1.5 億
人
1.0 106
104
95
合
計
)
200
369
357
300
2.0 (
)
万
人
2.5 534
54
46 32
38
0.5 53 38
0.0 0
2002
2003
2004
2005
合法的移民者計(グリーンカード取得者)
交換訪問者
短期・中期滞在入国者計
2006
2007
仮雇用・研修入国者
外交官等
2008
2009
2010
2011
2012
学生
米国人口推移(右軸)
(資料)U.S. Dept. of Homeland Security, 2011 Yearbook of Immigration Statistics 及び Census Bureau, Population Estimate より作成。
米国住宅市場は巨大であり、背後には大きな実需が控えている。過去 10 年間の移民統計や人口統計を
みると、年平均で 100 万人を超える水準で合法的な移民が続き、自然増を含めると年平均で 260 万人という
人口増加(6)を背景に、新規世帯や住み替え世帯、投資家などによる住宅需要が形成されている(図表 13)。
しかも、仮雇用・研修や就学のための入国者が急増し、観光目的以外に、2010 年には 534 万人、2011 年に
は 608 万人もの海外からの短期・中期の滞在者が生まれ、賃貸や既存住宅需要につながっている。
(4) 米国の不動産流通業者は、MLS ないし類似の流通システムを取引情報ツールとして活用している。これを利用する限り、個人でも大手の流通業
者でも、ほぼ同様の売却物件リストを同時に入手でき、物件の所在や建物(間取りや写真)、土地情報、周辺情報は勿論のこと、その他にも世帯主
名、過去の売買価格や経緯、納税状況、差し押さえや競売の有無が立ちどころに分かる。他の流通業者が既に取引に入っているかどうかも確認
可能である。消費者もこれに準じた情報にアクセス可能であるため、米国の住宅取引市場の透明性は非常に高い。MLS によって、リアルタイムで
物件の取引状況を誰でもみることができるため、市場の効率性も高く、需給に対する市場の反応も敏感である。
(5) 不動産取引の安全を、売り手と買い手の間に立ち、融資機関、登記所、保証会社と連携し、中立的な第三者として成立させる民間運営の仕組み。
すべての要件を満たした上で、同時に権原の移転や代金の授受、登記などを成立させる。
(6) Census Bureau の人口推計(2012)によると、米国人口は、2010 年から 2030 年までの 20 年間に 4,912 万人も増える見込みである。最近のシ
ェールガス革命によりテキサスと北米ロッキー山脈東方からミシシッピー川に至る大平原地帯(Great Plains)を中心に人口が急増している。
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最近の住宅在庫の急激な減少は、こうした実需が背景にあると考えられ、この状況が続く限り、新築住宅に
対する需要は次第に高まり、在庫不足から住宅価格は再び上昇を続ける可能性が見込まれよう。新規の住
宅供給が進まない場合、逆に住宅価格が地域的に必要以上に高騰する懸念もあり、今後は、住宅ローン市
場の抜本的改革(7)や地方自治体における土地利用規制や開発負担金のあり方を見直し、住宅開発を促すよ
うな対応も政策面では大変重要になってくるものと判断される。これらの課題の解消により、米国住宅市場や
不動産投資市場は、実需によって、回復から力強い成長に転じることとなろう。
わが国の経済や不動産市場の回復には、米国市場の動向も大きな影響を与えることから、引き続き、米国
住宅市場の様々な動きに注目していきたい。
図表14 ニューヨーク・ロサンゼルス・ワシントン DC・ラスベガス・ホノルルの投資物件
(ニューヨーク・マンハッタン北東部のコンドミニアム: 内装改修済み) 2 月 27 日(水)
(ロサンゼルスの戸建て物件: 既に成約済み、内外装は改修済み) 2 月 11 日(月)
(ワシントン DC のコンドミニアム) 3 月 1 日(金)
(ワシントン DC のタウンハウス) 3 月 1 日(金)
(7) 従来の住宅ローン破綻者や破綻懸念世帯に対する支援策のあり方から、制度全体としては円滑な住宅ローン供給に向けたファニーメイやフレデ
イマックなど GSE の改革、住宅ローン付けの現場では身の丈にあった適切な住宅ローン供給(Ability-to-Repay Rule and Qualified
Mortgages)の普及など、米国住宅ローン市場の課題はまだ多い。
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(ラスベガス) タウンハウス・ゲーテッドコミュニティと共同スイミングプール 2 月 10 日(金)
(ホノルル) ワイキキ・TRUMP ホテル型コンドミニアム、Allure コンドミニアム・プール 2 月 13 日(水)
(資料)筆者が 2013 年 2~3 月にかけて撮影。
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