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ANNUAL REPORT 2 0 1 0 - 京都大学iPS細胞研究所 CiRA(サイラ)

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ANNUAL REPORT 2 0 1 0 - 京都大学iPS細胞研究所 CiRA(サイラ)
ht t p : / / w w w.cira.k yoto - u. ac .jp /
CiRA
A N N U A L
R E P O R T
2 0 1 0
CiR A A N N U A L
c
o
n
t
e
n
t
4
所長からのメッセージ 山中 伸弥
6
組織図
REP O RT
s
主任研究者と研究の紹介
8
初期化機構研究部門
34 臨床応用研究部門
8
山中 伸弥
34
中畑 龍俊
10
山田 泰広
36
井上 治久
12
吉田 善紀
38
櫻井 英俊
14
中川 誠人
16
沖田 圭介
40 規制科学部門
18
高橋 和利
40
木村 貴文
20
クヌート ウォルツェン
42
青井 貴之
22
山本 拓也
44
浅香 勲
24
堀田 秋津
26
増殖分化機構研究部門 26
戸口田 淳也
28
髙橋 淳
30
山下 潤
32
長船 健二
2
46
CiRAが関わる大型研究プロジェクト
48
CiRAの知的財産
50
論文プレスリリースピックアップ
51
受賞リスト
52
メディアで紹介されたCiRAの活動
54
2010年度に開催したイベント
58
刊行物の紹介
59
CiRAの運営
60
iPS細胞研究基金
62
用語説明
64
CiRAの研究棟紹介・交通案内
2
0
1
0
ヒト iPS 細胞から分化した平滑筋と横紋筋
ヒト iPS 細胞から分化した神経細胞
ヒト iPS 細胞
ヒト iPS 細胞から分化した平滑筋
ヒト iPS 細胞から分化した神経細胞
3
所長からのメッセージ
京都大学は、物質−細胞統合システム拠点iPS細胞研究センターを
改組し、2010年4月1日にiPS細胞研究所
(Center for iPS Cell Research and Application: CiRA=サイラ)
を、
世界初のiPS細胞(人工多能性幹細胞:induced pluripotent stem cells)
の
研究に特化した研究所として設立しました。
現在、約200人の教職員や学生が、
iPS細胞技術の一日も早い医療応用を目指して
研究活動に取り組んでいます。
CiRAでは、19人の主任研究者が初期化機構研究部門、
増殖分化機構研究部門、臨床応用研究部門、
規制科学部門に分かれて研究を実施しています。
2010年2月に完成した研究棟では、
オープンラボ形式の採用や活発なセミナー活動を通して、
研究者間の情報・意見交換を促進し、
基礎研究から前臨床研究、臨床研究へとスムーズで
効率的な連携を図るための工夫を施しています。
本アニュアルレポートは、主に 2010 年 4 月 1 日から
12 月 31 日までの活動について報告するものです。
4
2010年度は、CiRAでの研究活動を効果的に推進する体
iPS細胞技術の普及のための活動も加速化しています。
制を構築するとともに、研究においても着実な進展が見
iPS細胞関連特許については、海外での権利取得に向けて、
られました。基礎研究に関しては、安全性の高いiPS細胞
欧米の専門家による対策チームを作り、特許戦略を策定・
樹立方法を見出しました。また、ヒトiPS細胞と霊長類疾
遂行しています。また、研究材料となるiPS細胞はもとよ
患モデルを用いた前臨床試験でその効果と安全性を検証
り、プラスミドなど、iPS細胞樹立に必要なマテリアルを
するための準備や、iPS細胞バンク構築の準備も開始して
技術普及のために国内外の分配機関に順次提供を行いま
います。疾患特異的iPS細胞を用いた病態解明や治療薬探
した。さらに、iPS細胞樹立・維持培養講習会および実技
索も軌道に乗りつつあります。
トレーニングも積極的に開催しました。
CiRA研究者は、文部科学省「再生医療の実現化プロジェ
2006年のマウスiPS細胞樹立報告以来、国内外の研究の進
クト」などiPS細胞研究を推進するいくつかの国のプロジ
展には目覚ましいものがありますが、iPS細胞の安全性の
ェクトに参加していますが、2010年3月から内閣府最先端
確立、分化誘導法の確立、移植法の開発など、創薬や医
研究開発支援プログラム「iPS細胞再生医療応用プロジェ
療応用の実現には越えなければならないハードルがいく
クト」も開始しました。このプロジェクトでは、iPS細胞
つもあります。一日も早くiPS細胞技術を確立し、患者さ
の医療応用を実現するために必要不可欠なiPS細胞樹立技
んのご期待に応えられるよう、引き続き研究活動に邁進
術の標準化を目指しています。また、国内外の研究機関
してまいります。これまで、多くの方々から京都大学iPS
や企業との連携も推進しました。
細胞研究基金にご寄附をいただき、心より感謝申し上げ
ます。今後とも、皆さまのより一層のご支援をお願い申
し上げます。
山中伸弥 京都大学iPS細胞研究所長 5
京都大学 iPS 細胞研究所[CiRA]
CiRA = Center for iPS Cell Research and Application
組織図
所長
2011 年 3 月 1 日現在
山中伸弥
副所長
中畑龍俊
戸口田淳也
協議員会
研究部門
初期化機構研究部門
増殖分化機構研究部門
臨床応用研究部門
規制科学部門
部門長
部門長
部門長
部門長
山中伸弥
戸口田淳也
中畑龍俊
山中伸弥
山田泰広
髙橋淳
井上治久
木村貴文
吉田善紀
山下潤
櫻井英俊
青井貴之
中川誠人
長船健二
斎藤潤
浅香勲
沖田圭介
加藤友久
高橋和利
豊田太郎
クヌート・
ウォルツェン
山本拓也
堀田秋津
渡辺亮
6
CiRA 研究棟(2010 年 2 月竣工)
CiRA 研究棟オープンラボ
教授会
研究戦略本部
事務部
動物実験施設
本部長
事務長
施設長
林秀也
小山房男
研究統括室
総務担当
契約管理室
財務担当
山田泰広
知的財産管理室
国際広報室
細胞調製施設
施設長
木村貴文
7
初期化機構研究部門
山中伸弥 M.D.,Ph.D.
プロフィール
1962 年大阪 市生まれ。神戸大学医学 部 卒 業、
大阪市立大学大学院医学研究科修了。医学博士。
所長・部門長・教授
奈良 先 端 科学技 術大学院大学助 教 授、教 授を
経て、2004 年に京都大学再生医科学研究所教
授。2006 年にマウス iPS 細 胞、2007 年にヒ
ト iPS 細 胞の樹立の成 功を報告した。2008 年
に同大学物質−細胞統合システム拠点 iPS 細胞
研究センター長。改組により、2010 年から現職。
同大学物質−細胞統合システム拠点教授及び米
国グラッドストーン研究所上席研究者兼務。
ヒト iPS 細胞
研究スタッフ
●
教授
山中伸弥
太田 章(特任)
永井啓一(特任)
●
講師
佐藤美子
中村美千子
市川あゆみ
宮下一糸
●
大学院生
吉田善紀
中川誠人
沖田圭介
岩渕久美子
梶原正俊
高橋和利
田中孝之
●
研究員
小柳三千代
前川桃子
Sarita Panula
佐藤崇裕
●
テクニカルスタッフ
一阪朋子
成田 恵
瀧澤奈々子
岡田亜紀
與倉みどり
渋川 蘭
小田中育美
玉置和代
飯塚當近
小西 制
松村泰子
西川美里
大内美佳
大石晶子
8
福原晶子
中村友紀
洪炫禎
田邊剛士
大貫茉里
島本 廉
我々は2006年に世界で初めてマウス
(Oct3/4、Sox2、Klf4、c-Myc)の導入
iPS細胞の樹立を報告して以来、2007年
にはヒトiPS細胞樹立を、2008年には、
プラスミドDNAを用いた染色体への遺
伝子挿入のないマウスiPS細胞の樹立を
報告した。iPS細胞は、創薬のツールや
法としてレトロウィルスベクターを用い
再生医療の資源としても期待され、現在
おり、導入した遺伝子に起因する悪影響
では、世界中の多くの研究者がiPS細胞
など、さまざまな問題が指摘されていた。
を用いて研究に取り組んでいる。しかし
その後、プラスミドを因子導入法に利用
ながら、大きく期待されている医療応用
することでゲノムへの遺伝子挿入のない
につなげるには、分化した細胞が未分化
iPS細胞を樹立できることを示すととも
な状態に初期化されるメカニズムの解明
に、マウスの実験において、細胞の安全
ていたため、ゲノムへの無作為な遺伝子
挿入に起因する腫瘍化が懸念されていた。
また、多能性誘導因子の一つのc-Mycは
がんの原因遺伝子としてもよく知られて
に基づく、iPS細胞の最適な作製方法の
性は導入因子や樹立方法よりも、由来と
確立や樹立した細胞の安全性評価技術の
なる細胞の種類が大きく影響することを
西澤正俊
安田勝太郎
確立が必要である。CiRAでは、今後10
見出した。その他にも、ヒトiPS細胞を
年間の目標として、①基盤技術の確立と
再生医療への応用を考えたときには、異
村松万里江
知財確保、②患者由来iPS細胞による治
種由来物質の混入を避ける必要があるこ
山川達也
療薬開発、③再生医療用iPS細胞バンク
とから、iPS細胞の培養条件の検討を進
の構築、④前臨床試験から臨床試験の実
めている。これまでヒトiPS細胞の樹立・
横田日高
望月裕司
杉山逸未
池田宏輝
●
秘書
加藤理絵
西川絵里
竹島清佳
大津優子
波佐場春香
施、という4項目を掲げて研究を進めて
維持培養にはマウス由来のフィーダー細
いく方針である。
胞を使ってきたが、自己由来の線維芽細
胞からフィーダー細胞とiPS細胞の両方
再生医療に応用できるiPS細胞の
基盤技術の開発
iPS細胞技術を開発した当初、iPS細
胞の作製に用いる多能性誘導因子
を作り出す方法を開発し、前述の問題の
解決法の一つを提示できたと考えている。
2010年度は、腫瘍形成の原因と考え
られていたc-Mycの代替となる遺伝子と
CiRA ANNUAL REPORT 2010
し て Myc フ ァ ミ リ ー の 一 つ で あ る
世界標準となる iPS 細胞の
樹立方法・評価方法の開発を医療につなげる
L-Mycを用いることで、より高効率に
iPS細胞を誘導でき、さらに腫瘍原性を
低下できることを明らかにした。このよ
iPS 細胞を創薬や再生医療に用いるには、その初期化メカニズムの解明、高効率で安
うなことから臨床応用に用いるiPS細胞
全な作製方法や評価方法の開発、利用しやすくするためのシステム作りが欠かせない。
を 樹 立 す る 際 は、c-Myc に 替 わ り
山中研究室では、2010 年度、iPS 細胞の作製に用いる多能性誘導因子で、がんの原因
L-Mycを用いるのが有用と考えられた。
また現在、世界各国でiPS細胞を作る
遺伝子でもある c-Myc を同じ Myc ファミリーの L-Myc に代替すると、樹立した iPS 細胞の
がん化率を低下でき、樹立の効率も上げられることを明らかにした。
ための技術開発が進められているが、由
また、医療応用に向けてマウス由来のフィーダー細胞を使わず、自己由来の線維芽細胞
来組織や誘導因子の組み合わせ、因子導
からフィーダー細胞と iPS 細胞を作る方法も開発した。さらにマウス iPS 細胞の詳細な分
入法など、iPS細胞の作製技術は多様性
析から、iPS 細胞の安全性は由来細胞の種類の影響が大きいことも報告している。
このような iPS 細胞の由来細胞や作製方法の比較から、世界標準となる iPS 細胞の樹立
に富んでおり、この樹立方法の違いによ
を目指す一方で、疾患特異的 iPS 細胞による病態解明や薬剤候補物質の探索も始めている。
ってiPS細胞の性質や安全性が異なるこ
細胞移植治療に用いることのできる iPS 細胞バンクの構築も視野に入れており、細胞の
とがわかってきている。そこで創薬・再
HLA(Human Leukocyte Antigen)型のうち、他の HLA 型との拒絶反応が低い 3 座ホ
モ型を持つ人からの iPS 細胞をバンク化する計画を進めている。
生医療への応用を目指し、多能性誘導因
子の組み合わせ、体細胞の由来や樹立方
法の違いによる作製したiPS細胞の比較
解析を行い、世界標準と呼べる最適な
iPS細胞の樹立技術の確立を進めている。
再生医療用iPS細胞バンクの構築
自己細胞由来のiPS細胞から作成した
進めている。HLA3座ホモの細胞が50
細胞を用いれば、拒絶反応のない細胞移
株あれば、日本人の約8割への細胞移植
再生医療用iPS細胞バンクを作る計画を
ヒト疾患特異的iPS細胞を用いた
疾患病態解析と治療薬の開発
患者の体細胞からiPS細胞が作成でき
れば、そのiPS細胞を基に、疾患に関連
植治療が可能になると考えられているが、
が可能という試算もあり、すぐに50株
iPS細胞の樹立には時間がかかる上、樹
立したiPS細胞の性状の確認にさまざま
を揃えることはできなくとも、3座ホモ
のHLA型を持つ人を探してiPS細胞を作
な検査が必要となり、急性期の傷病の治
製し、医療用iPS細胞バンクの構築を進
した種々の細胞や組織の誘導が可能にな
療に用いるには事前に準備しておくこと
めたいと考えている。
ると考えられている。特に神経細胞や心
が重要となる。また、ヒトの治療に安全
臓の細胞など、生体からの入手が困難な
に利用できるiPS細胞を作るためには、
組織のモデル細胞の作成やモデル細胞を
多 額 の 費 用 も 必 要 で あ る。 細 胞 に は、
利用した病態解明、治療薬の開発への利
用が期待できる。また、薬剤開発におけ
HLA(Human Leukocyte Antigen)と
呼ばれるABO式血液型のような型があ
る毒性検査への利用が進められている。
り、これが自他を区別するマーカー分子
CiRAでは、以上のことを目標に、疾
として機能し、細胞移植時に拒絶反応を
患特異的iPS細胞を樹立し、試験管内に
起 こ す こ と が わ か っ て い る。 し か し
おいて病態をモデル化した系を構築して、
HLA型の中には、まれに3座ホモの型が
病因の形成機序や病態進行のメカニズム
あ り、 こ の 型 に 対 し て、 あ る 系 統 の
解明を推進している。また、疾患を制御
HLA型のタイプは拒絶反応が低いこと
が 知 ら れ て い る。 そ こ で、3座 ホ モ の
HLA型を持つ人からiPS細胞を樹立して、
する薬剤候補物質の探索を同時に進めて
いる。
CiRA 10 年間の達成目標
①基盤技術の確立、知財確保
②患者由来 iPS 細胞による治療薬開発(難病、希少疾患など)
③再生医療用 iPS 細胞バンク構築
④前臨床試験から臨床試験へ(パーキンソン病、糖尿病など)
最近の主な論文のリスト
1. Nakagawa M, Takizawa N, Narita M,
Ichisaka T, Yamanaka S.
Promotion of direct reprogramming
by transformation-deficient Myc.
Proc Natl Acad Sci U S A. 107(32),
14152-14157, 2010.
2. Takahashi K, Narita M, Yokura M,
Ichisaka T, Yamanaka S.
Human induced pluripotent stem
cells on autologous feeders.
PLoS One 4, e8067, 2009.
3. Hong H, Takahashi K, Ichisaka T, Aoi
T, Kanagawa O, Nakagawa M, Okita
K, Yamanaka, S.
Suppression of induced pluripotent
stem cell generation by the p53-p21
pathway.
Nature 460, 1132-1135, 2009.
4. Miura K, Okada Y, Aoi T, Okada A,
Takahashi K, Okita K, Nakagawa M,
Koyanagi M, Tanabe K, Ohnuki M,
Ogawa D, Ikeda E, Okano H,
Yamanaka S.
Variation in the safety of induced
pluripotent stem cell lines.
Nat Biotechnol. 27, 743-745, 2009.
9
初期化機構研究部門
山田泰広 M.D.,Ph.D.
プロフィール
1972 年 岐阜市生まれ。岐阜大学 医学 部 卒 業、
岐阜大学大学院 医学 研 究科中退。岐阜大学医
動物実験施設長・教授
学部助手となり、医学博士号と病理専門医を取
得。マサチューセッツ工科大学ホワイトヘッド研
究 所 博士研 究 員、岐阜大学大学院 講 師、准 教
授を 経て 2010 年より現 職。2008 年より科 学
技術振興機構 さきがけ研究員兼任。
奇形腫
研究スタッフ
細胞初期化のメカニズムを理解するこ
前段階状態を解析するためには、より効
とは、臨床応用を目指した高品質なiPS
率的なiPS細胞樹立システムの開発が必
細胞の作製に非常に有用であると考えら
要である。また、iPS細胞樹立過程にお
れる。
けるトランスジーンのランダムインテグ
遺伝子の発現制御には、DNAメチル
レーション、およびトランスジーンコピ
鵜飼智代
化やヒストンの修飾などによる、DNA
ー数、発現量の変化は、詳細なiPS細胞
大杉聖子
塩基配列とは独立したエピジェネティク
樹立過程の解析において障害となること
●
教授
山田泰広
●
助教
渡辺 亮
●
テクニカルスタッフ
大学院生
ス制御機構が重要な役割を果たしている
が予想されている。本年度は、Woltjen
大西紘太郎
有岡祐子
橋本恭一
ことが明らかになっている。細胞初期化
研究室とともに、より効率的で安定的な
の過程は、エピゲノム修飾状態のダイナ
iPS細胞樹立システムの構築を目標に、
ミックな改変を伴い、エピジェネティク
ドキシサイクリンによる遺伝子発現制御
共同研究員
ス制御が、iPS細胞樹立に重要であるこ
システムを用いたsecondary
とがわかってきた。しかしながら、その
立システムの開発を始めた。今後、これ
詳細な制御メカニズムに関しては、大部
らのシステムを積極的に用いてエピジェ
分が不明のままである。山田研究室では、
ネティクス関連因子がどのように細胞初
エピジェネティクス制御機構の理解を通
期化に関与しているのかを検証していく
じて、細胞初期化のメカニズムを解明す
予定である。
●
●
松田 穣
●
エピジェネティクスワーキンググループ
鈴木美有紀
西本聖子
●
秘書
西本奈生
iPS細胞樹
ることを目指している。
エピゲノム修飾状態を
効率的で安定的な
iPS細胞樹立システムの構築
iPS細胞の樹立には週単位の時間を必
10
同定する技術の確立
細胞の初期化メカニズムの解明には、
iPS細胞樹立過程でのエピゲノム修飾変
要とする一方で、リプログラミング因子
化を具体的に同定することが不可欠であ
が導入されても大部分の細胞ではリプロ
る。渡辺 亮助教が中心となり、エピゲ
グラミングに失敗することが明らかにな
ノム修飾状態を網羅的に同定する技術の
っている。従って、iPS細胞樹立に至る
確 立 を 試 み て い る。 現 在、 メ チ ル 化
CiRA ANNUAL REPORT 2010
細胞の初期化のメカニズムを解明し、
効率よい iPS 細胞樹立を目指す
山田研究室では、細胞の初期化におけるエピゲノム修飾の改変を制御するメカニズムを
解 明することで、iPS 細 胞を 効 率よく樹 立するシステムの 構 築を目指している。現 在、
secondary iPS 細胞樹立システムの開発と、それを用いた iPS 細胞樹立過程でのエピゲノ
ム変化の同定を研究している。また、次世代シーケンサーを用い、エピゲノム解析技術(特
にメチル化された DNA の配列)の開発を進めている。
また、家族性大腸腺腫症のモデルマウスの大腸がんの細胞をリプログラミングして iPS
細胞に似た細胞を作製し、がん細胞特有の DNA の異常なメチル化が起こっていないこと
を確認した。これは、がん細胞であっても、そのメチル化修飾を大きく改変しうることを
示唆しており、エピゲノム修飾の改変が、がんの治療につながる糸口を見出したことになる。
今後は、他のがん腫の細胞でもリプログラミングを行い、がん細胞におけるエピゲノム修
飾の意義を研究していく。
キメラマウス
DNA断片をメチル化DNA結合タンパ
ノム制御状態を変化させるツールとして
試み、形態的に多能性幹細胞に類似した
ク質で回収し、次世代シーケンサーによ
の利用が期待される。古くからがん細胞
ってメチル化領域の配列の決定を進めて
では、遺伝子配列の異常とともにDNA
いる。これによって体細胞とiPS細胞で
メチル化異常に代表されるエピゲノム修
異なるDNAメチル化を示す領域をゲノ
飾異常が検出されてきた。近年の研究に
ムワイドに同定することが可能になった。
より、DNAメチル化が発がんに機能的
今後、まずはOct3/4をはじめとするリ
に重要な役割を果たしていることが明ら
iPSC-like cellsを樹立した。腫瘍由来
iPSC-like cellsのDNAメチル化解析に
より、腫瘍特異的な異常DNAメチル化
が見られないことや、腫瘍由来iPSClike cellsに 分 化 を 誘 導 す る こ と で、
DNAメチル化状態が変化することが明
プログラミング因子の結合部位とDNA
かとなってきた。しかしながら、未だが
らかにした。このことは、遺伝子配列異
メチル化の変化を捉えることでiPS細胞
んにおけるエピゲノム修飾の重要性につ
常を有する腫瘍細胞であっても、DNA
樹立過程におけるエピゲノム変化の同定
いては未知の部分が多い。山田研究室で
メチル化修飾状態は大きく改変可能であ
を目指す予定である。
は、iPS細胞作製技術を積極的にがん細
ることを示しており、エピゲノム修飾を
なお、網羅的エピゲノム修飾変化の解
胞に応用することで、がん細胞のエピジ
標的としたがん治療の可能性を示唆する
析は、iPS細胞のクオリティーコントロ
ェネティック制御状態を強制的に変化さ
ものと考えられる。一方で、腫瘍細胞を
ールにも有用であることが期待される。
せ、がん細胞におけるエピゲノム修飾異
完全に初期化することが困難であること
常の意義や由来を明らかとすることを目
も明らかとなりつつある。今後、他のが
指している。本年度は、家族性大腸腺腫
ん種にも対象を広げて腫瘍細胞のリプロ
症のモデルマウスであるApc
グラミングを試みる予定である。
がん由来iPSC-like cell樹立による、
がんのエピゲノム修飾状態の解明
iPS細胞作製技術は、積極的にエピゲ
Minマウ
スの大腸腫瘍細胞のリプログラミングを
HDF
ESC1
ESC2
ESC3
iPSC1
iPSC2
iPSC3
iPSC4
次世代シーケンサーを用いた DNA メチル化解析の一例
最近の主な論文のリスト
1. Yamada Y, Aoki H, Kunisada T,Hara A.
Rest promotes the early
differentiation of mouse ESCs but is
not required for their maintenance.
Cell Stem Cell 6(1):10-15, 2010.
2. H. Tomita, A. Hirata, Y. Yamada,
K. Hata, T. Oyama, H. Mori,
S. Yamashita, T. Ushijima, A. Hara.
Suppressive effect of global DNA
hypomethylation on gastric
carcinogenesis.
Carcinogenesis 31(9):1627-1633, 2010.
11
初期化機構研究部門
吉田善紀 M.D.,Ph.D.
プロフィール
1973 年京都府生まれ。京都大学医学部卒業後、
同大学大学院医学研究科修了、医学博士号取得。
講師
循環器内科医師として心カテーテル検査及びカ
テーテルインターベンション治療のトレーニング
の後、2002 年より京都大学大学院にて心臓の
発 生再生の研究を行い、2007 年より再生医科
学研究所、iPS 細胞研究所にて iPS 細胞の研究
を行っている。iPS 細胞を用いた心筋再生医療
の実現が目標。
ヒトiPS 細胞由来心筋細胞の細胞外電位の測定
研究スタッフ
ヒトやマウスの胚から樹立されたES
細胞は分化誘導時にサイトカインを投与
吉田善紀
細胞は、分化多能性を維持しつつ増殖す
することにより心筋細胞などの細胞に分
大学院生
ることが可能である。体細胞にリプログ
化誘導できることが知られている。私た
横田日高
ラミング因子(c-Myc、Oct3/4、Sox2、
ちがこの定方向性心筋分化誘導をES・
西澤正俊
Klf4)を導入することにより、ES細胞の
ような分化多能性を持つiPS細胞を誘導
できることが明らかになった。iPS細胞
によって心筋分化誘導の効率が異なって
は現在、再生医療などへの応用が期待さ
の違いが生じるメカニズムを明らかにす
れている。
るために研究を進めている。
iPS細胞はさまざまな種類の体細胞か
また同時に、同じく側板中胚葉由来の
ら樹立することが可能で、また樹立する
細胞である血液細胞への定方向性分化誘
方法も多様な方法が報告されている。し
導においても細胞株間の分化指向性の違
かしこれらのiPS細胞とES細胞はその性
いがあることを確認し、これらのメカニ
質が全く同一ではなく、また細胞株間で
ズムについても研究している。
●
●
講師
iPS細胞に対して行ったところ、細胞株
いた。現在、この細胞株間の分化指向性
も性質は異なると考えられる。
12
iPS細胞の心筋細胞、血液細胞へ
リプログラミング効率を改善する
ための細胞培養環境や因子の探索
の定方向性分化誘導における
体細胞から多能性幹細胞へのリプログ
細胞株間の指向性の違いの解析
ラミングの効率は、さまざまな因子や培
心筋細胞などの中胚葉への分化誘導に
養環境に影響される。私たちは酸素濃度
おけるES・iPS細胞のふるまいを細胞株
5%の低酸素環境下で細胞培養を行うこ
間で比較解析することにより、多能性幹
とにより、ヒトおよびマウスにおいて
細胞のふるまいを規定しているメカニズ
iPS細胞の樹立効率が改善することを見
ムの解明、さらに再生医療などの臨床応
出した。低酸素培養化でリプログラミン
用に最適なiPS細胞の樹立法、培養法の
グを行うことによりマウス胎仔繊維芽細
確立に向けて取り組んでいる。ES・iPS
胞においてはOct3/4、Klf4の2つの因子
CiRA ANNUAL REPORT 2010
ヒトiPS 細胞より分化誘導した心筋細胞(左 : 位相差、中 : DAPI 染色、右 : 心筋トロポニン T 染色)
でiPS細胞誘導が可能であること、また
iPS細胞研究の臨床応用のための
2. iPS細胞由来心筋細胞を用いた心筋再
リプログラミング細胞においてOct3/4
生医療の実現
やNanogなどの多能性幹細胞に特異的
取り組み
1. 疾患特異的iPS細胞研究
な遺伝子の発現が低酸素培養により上昇
京都大学循環器内科との共同研究によ
て、開胸手術による心外膜側からのアプ
することを明らかにした。低酸素培養に
り、遺伝性不整脈疾患及び心筋疾患患者
ローチに加えて、カテーテルを用いた心
よる初期化効率の改善のメカニズムにつ
より採取した体細胞を用いた疾患特異的
内膜側からの細胞移植は、侵襲が低く繰
いてはまだ十分には解明できていないが、
り返し施行可能であるため、重要なアプ
経路がリプログラミング効率に与える影
iPS細胞研究を行っている。これまでに
遺伝性不整脈疾患20症例、心筋疾患20
症例の計37症例の患者から線維芽細胞
を採取して、順次iPS細胞を樹立してい
る。現在これらのiPS細胞から誘導した
響についても現在解析を進めている。
心筋細胞を用いた機能解析を行っている。
これらの遺伝子発現の変化が関与してい
ると考えられる。
さらに、さまざまな細胞内のシグナル
多能性幹細胞の分化誘導の解明、
体細胞からのリプログラミングの効率改善を
心筋再生医療に
循環器内科出身である吉田善紀講師は、心筋細胞を用いた再生医療を目指して研究を
続けている。今年度は ES 細胞や iPS 細胞が分化する際にどんな細胞になるのかを規定す
るメカニズムの解明に取り組み、細胞株間で分化誘導の効率が異なることを明らかにした。
また、低酸素環境下では、細胞のリプログラミングやリプログラミング細胞の遺伝子発
現が効率的になることを見出している。今後は、リプログラミングの効率に関わる細胞内
のシグナル伝達経路を解析していく予定だ。
遺伝性不整脈や心筋疾患の患者由来の体細胞を用いた iPS 細胞の樹立と心筋細胞への
分化誘導も進めている。カテーテルによる低侵襲の細胞移植医療のための動物モデルの
研究も始めたところだ。
細胞移植治療のためのアプローチとし
ローチとなると考えている。京都大学循
環器内科との共同研究により中型動物を
用いたカテーテルによる細胞移植モデル
の作成の研究を始めている。
最近の主な論文のリスト
1. Yoshida Y, Yamanaka S.
iPS cells: A source of cardiac
regeneration.
J Mol Cell Cardiol. 50(2):327-332,
2010.
2. Yoshida Y, Yamanaka S.
Recent stem cell advances: induced
pluripotent stem cells for disease
modeling and stem cell-based
regeneration.
Circulation 122(1):80-87, 2010.
3. Yoshida Y, Takahashi K, Okita K,
Ichisaka T, Yamanaka S.
Hypoxia enhances the generation of
induced pluripotent stem cells.
Cell Stem Cell 5(3):237-241, 2009.
13
初期化機構研究部門
中川誠人 Ph.D.
プロフィール
1975 年 兵 庫 県 芦屋市生まれ。1997 年上智大
学理工学部化学科卒業、2002 年奈良先端科学
講師
技 術 大学院 大学バイオサイエンス研 究科修了。
バイオサイエンス博士。大学院時代は細胞間接
着とそれに関わるシグナル伝達系を研究し、細
胞間接着分子カドヘリンのホモフィリックな結合
と 細 胞 内 で 分 子スイッチとして働く低 分 子 量
GTPase の Rac1 の 活 性化を明らかにした。そ
の 後、ES 細胞の分子機 能 解明に取り組み、現
在は安全で高効率な iPS 細胞樹立方法の研究を
行っている。
マウス L-Myc iPS 細胞で germline transmission
が確認されたマウス
研究スタッフ
ス体細胞よりMycマイナスiPS細胞の樹
中川誠人
多能性幹細胞の再生医療への応用
ヒトES細胞は我々の体のすべての細
大学院生
胞に分化できる能力(=多能性)を持つ
来のキメラマウスではほとんど腫瘍形成
中村友紀
ことから再生医療に応用可能な資源と考
が認められなかった。しかしながら、最
杉山逸未
えられてきたが、受精卵の使用といった
近の研究結果からMycマイナスiPS細胞
運用上の問題と移植後の拒絶反応という
の性質がc-Mycを用いて樹立したiPS細
課題がある。解決方法の一つとしては、
胞に比べてよくないことがわかった。つ
体細胞から直接多能性を持った細胞を作
まり、MycマイナスiPS細胞は安全性は
ることである。我々は4つの転写因子
高いが、質がよくないということが考え
●
●
講師
(Sox2、Oct3/4、Klf4、 お よ びc-Myc)
立に成功した。MycマイナスiPS細胞由
られた。
をレトロウイルスを用いて体細胞に導入
功した。iPS細胞はES細胞とよく似た性
L-Mycによる安全性の高い
iPS細胞の樹立
質を持つことが確認されている。
腫瘍化リスクは将来の臨床応用を考え
することでiPS細胞を樹立することに成
たときに大きな問題となる。そこで我々
iPS細胞の腫瘍形成リスクと
c-Mycの関わり
できる因子としてc-Myc代替因子を探索
マウスiPS細胞由来のキメラマウスに
した。
おいては高頻度で腫瘍形成が認められた。
まずMyc遺伝子の機能解析を行った。
詳細な解析の結果、染色体に挿入された
の再活性化によるものと判明した。この
Mycにはファミリー遺伝子が存在し、マ
ウ ス・ ヒ ト 両 方 に c-Myc、N-Myc、
L-Mycが存在している。ファミリー遺伝
ままでは臨床応用への適用は非常に危険
子間で主要な機能ドメインは保存されて
である。そこで我々はレトロウイルスの
いるが、それ以外の領域には違いが見ら
c-Mycを用いずにiPS細胞を樹立するプ
れるため、これらMyc遺伝子のiPS細胞
ロトコールを作り上げ、ヒトおよびマウ
樹立における機能を解析し、c-Myc以外
レトロウイルス由来原がん遺伝子c-Myc
14
は腫瘍形成リスクのないiPS細胞を樹立
CiRA ANNUAL REPORT 2010
iPS細胞樹立に用いる
原がん遺伝子の
代替遺伝子を探索し、
がんの発生を抑える
中川誠人講師は、iPS 細胞樹立のメ
カニズムを明らかにする研究、中でも
iPS 細胞の安全性についての検証と問
題点の解決を重要視している。
iPS 細胞の樹立には 4 つの転写因子
の一つとして原がん遺伝子 c-Myc が用
いられるため、当初からがんの発生が
懸念された。実際、マウス iPS 細胞由
来のキメラマウスには染色体に挿入さ
れた c-Myc の再活性化によって高頻度
にがんが発生する。そこで、中川講師
らは c-Myc の代替となる因子の探索を
行った。そして、Myc のファミリー遺伝
L-Myc を用いて樹立したヒト iPS 細胞
子のうちの L-Myc を用いて iPS 細胞を
の遺伝子が代替因子となり得ないかを検
行える可能性がある。また、大規模スク
討した。その結果、Mycファミリー遺伝
リーニングにより新薬の開発にも非常に
子の中から同定したL-Mycを用いると、
有用な資源と考えられる。
マウスiPS細胞樹立においてc-Mycに比
iPS細胞の再生医療への応用には多く
べ効率がよいことがわかった。さらに
の期待があり、国内外での研究競争は激
L-Myc iPS細胞を用いてキメラマウスを
作製し、c-Mycの場合と同様に長期観察
化している。しかしながらiPS細胞樹立
を行ったところ、ほとんど腫瘍形成が認
ず、そういった基礎的な部分を明らかに
められなかった。つまり、L-Mycは安全
する研究が今後は重要になってくると考
性の高いiPS細胞を誘導できることが明
えている。特にiPS細胞の安全性につい
らかとなった。ヒトiPS細胞樹立におい
て事実を明らかにし、それらを解決する
ては、出現するiPS細胞のコロニー数も
ことが大切と考える。
のメカニズムはあまりよくわかっておら
樹立する方法が効率がよく、この細胞
由来のキメラマウスではほとんどがん
ができないことを確認した。これによ
って iPS 細胞の臨床応用が一歩近づい
たといえる。
iPS 細胞にはまだまだ隠された秘密
がたくさんある。iPS 細胞研 究の基 礎
部分を極めることで、それらを明らか
にし、臨床応用の発展に寄与したいと
考えている。
効率もL-Mycの方がc-Mycよりよかった。
以上の結果より、L-Mycを用いること
で効率よく、安全性の高いiPS細胞が樹
立 で き る こ と が 示 さ れ た。 つ ま り、
L-Mycを用いて樹立したiPS細胞は臨床
応用へ向けて有用な細胞であると考えら
れる。
iPS細胞研究の今後
iPS細胞の有効な利用方法として患者
由来の疾患特異的iPS細胞がある。脳神
経に遺伝的疾患を持った患者から皮膚の
線維芽細胞を採取し、そこからiPS細胞
を樹立する。このiPS細胞から神経細胞
を分化誘導すれば患者由来の遺伝子異常
を持ったモデル細胞ができたことになる。
このモデル細胞を用いて薬効の検討、毒
性試験、など今までは難しかった試験を
最近の主な論文のリスト
1. Nakagawa M, Takizawa N, Narita M, Ichisaka T, Yamanaka S.
Promotion of direct reprogramming by transformation-deficient Myc.
Proc Natl Acad Sci U.S.A. 107(32), 14152-14157, 2010.
2. Miura K, Okada Y, Aoi T, Okada A, Takahashi K, Okita K, Nakagawa M, Koyanagi
M, Tanabe K, Ohnuki M, Ogawa D, Ikeda E, Okano H, Yamanaka S.
Variation in the safety of induced pluripotent stem cell lines.
Nat Biotechnol. 27:743-745, 2009.
3. Hong H, Takahashi K, Ichisaka T, Aoi T, Kanagawa O, Nakagawa M, Okita K,
Yamanaka S.
Suppression of induced pluripotent stem cell generation by the p53-p21 pathway.
Nature 460, 1132-1135, 2009.
4. Okita K, Nakagawa M, Hyenjong H, Ichisaka T, Yamanaka S.
Generation of mouse induced pluripotent stem cells without viral vectors.
Science 322:949-953, 2008.
5. Nakagawa M, Koyanagi M, Tanabe K, Takahashi K, Ichisaka T, Aoi T, Okita K,
Mochiduki Y, Takizawa N, Yamanaka S.
Generation of induced pluripotent stem cells without Myc from mouse and
human fibroblasts.
Nat Biotechnol. 26:101-106, 2008.
15
初期化機構研究部門
沖田圭介 Ph.D.
プロフィール
1975 年奈良県御所市生まれ。北海道大学獣医
学部 卒業、熊本大学大学院 医学 研 究科博士課
講師
程修了。科学技術振興機構 研究員、日本学術
振興会 特別研究員、京都大学 物質 - 細胞統合
システム拠点 iPS 細胞研究センター 特定拠点助
教、同特定拠点講師を経て現職。
キメラマウス
研究スタッフ
●
講師
沖田圭介
●
大学院生
岩渕久美子
洪炫禎
島本 廉
山川達也
ゲノム改変を伴わない
iPS細胞の樹立方法の開発
iPS細胞の作製技術はいまだ発展途上
多数の外来性c-Mycが挿入されるために
の段階である。例えば、初期化遺伝子の
c-Mycを用いない方法や、ゲノム改変を
伴わないマウスiPS細胞作製方法をこれ
までに開発してきた。2010年はこの技
術をさらに発展させ、安全なヒトiPS細
一つであるc-Mycはがん原遺伝子として
も知られており、レトロウイルスベクタ
ーにより作製したiPS細胞のゲノムには
ヒト iPS 細胞
16
安全面に問題があることを、私たちは明
らかにしている。この点を改良すべく
CiRA ANNUAL REPORT 2010
胞の樹立方法の開発を進めた。そして、
初期化遺伝子の組み合わせや導入方法を
検討し、複数の細胞株からiPS細胞を樹
立した。臨床応用を考えたときには再現
性の高さが非常に重要となるため、複数
の研究者が容易にiPS細胞樹立を行える
プロトコールの確立を目指している。一
方で、RNAやタンパク質の直接導入や、
センダイウイルスベクターによるiPS細
細胞のがん化を避け、安全で効率的、
低侵襲な iPS 細胞の樹立法を開発中
沖田研究室では、iPS 細胞の樹立において、がん原遺伝子を使わない方法やゲノムにが
ん原遺伝子を挿入しない方法を研究している。今年度は、初期化遺伝子の組み合わせや
導入方法を検討し、複数の細胞株から iPS 細胞を樹立した。侵襲の少ない細胞からの樹
立も目指しており、大阪大学大学院歯学研究科との共同研究で歯肉の細胞からの iPS 細
胞の樹立にも成功した。
iPS 細胞は由来となった組織のエピジェネティクス状態を一部引き継いでおり、DNA メ
胞の樹立方法も報告されているので、こ
チル化やヒストンアセチル化を阻害すると分化効率がよくなることから、エピジェネティッ
れらの方法についても追試を行っていく
クス状態の制御が iPS 細胞の分化に影響することが示唆されている。2009 年、東京大学
予定である。さらに、これらの作製方法
の違いが、樹立されたiPS細胞の性質に
与える影響についても明らかにしていき
たいと考えている。
大学院農学生命科学研究科との共同研究でマウス iPS 細胞のメチル化プロファイルを報告、
今後の iPS 細胞樹立の効率化への下地を築いているところだ。
iPS 細胞の樹立効率を左右する細胞内シグナルの解析、初期化遺伝子導入後の遺伝子
発現の経時的な変化も研究中で、iPS 細胞のクローン間の差異が起こる理由を調べ、最も
安全で効率的な iPS 細胞の樹立方法を探っている。
侵襲の少ない細胞からの
樹立を目指して
iPS細胞の樹立には多くの場合、線維
処理によって、神経細胞に由来するiPS
芽細胞が用いられている。疾患iPS細胞
細胞の分化効率が改善されることから
初期化のメカニズムの解明
2009年、私たちはp53-p21経路の抑
制によってiPS細胞の樹立効率が上昇す
の作製、さらにはiPS細胞バンクの作製
DNAメチル化やヒストンアセチル化が
ることを明らかにした。現在はこれらの
に向け、より低侵襲に得られる多種類の
由来細胞の記憶に関わっていると考えら
シグナルの下流因子の解析を進めている。
組織からiPS細胞の樹立方法を確立して
れている。私たちは特にDNAメチル化
また、初期化遺伝子導入後の遺伝子発現
おくことが望ましいと考えられる。今年
に着目して研究を行っており、東京大学
を経時的に調べることでリプログラミン
度、私たちは大阪大学大学院歯学研究科
大学院農学生命科学研究科の塩田邦郎教
グの機構を解明しようとしている。こう
の江草宏助教、矢谷博文教授との共同研
授との共同研究でマウスiPS細胞のメチ
した研究からiPS細胞が誘導される過程
究により、歯肉の細胞からiPS細胞を作
ル化プロファイルを報告した。細胞起源
が 少 し ず つ 明 ら か に な っ てきている。
製できることを報告した。この結果から、
による、あるいはクローン間に認められ
iPS細胞のクローン間の差異がなぜ起こ
これまで歯周病やインプラント(人工歯
るiPS細胞の性質の違いをDNAメチル
るのか、またどのような作製方法が最も
根)などの歯科治療後に廃棄されていた
化パターンから理解できないかと研究を
安全なiPS細胞の樹立につながるのかを
組織からiPS細胞を樹立するという可能
進めている。
明らかにしていきたいと考えている。
アセチル化阻害剤(trichostatin
A)の
性が見えてきた。このほか、国内外から
は親知らず内部にある歯髄幹細胞、皮下
脂肪組織から得られる間葉系幹細胞、ケ
ラチノサイト、臍帯血や末梢血からの
iPS細胞樹立も報告されている。こうし
た報告を追試しつつ、現実的な樹立方法
の開発につなげていこうと考えている。
エピジェネティクス解析
最近の研究から少なくともマウスiPS
細胞が、その由来となった組織のエピジ
ェネティクス状態を一部引き継いでいる
ことがわかってきた。例えば、血球細胞
に由来するiPS細胞は血球細胞へ容易に
再分化するものの、神経細胞に由来する
iPS細胞は血球細胞への分化効率が悪い
ことが示されている。DNAメチル化阻
害剤(5-azacytidine)およびヒストン脱
最近の主な論文のリスト
1. Egusa H, Okita K, Kayashima H, Yu G, Fukuyasu S, Saeki M, Matsumoto T,
Yamanaka S, Yatani H.
Gingival fibroblasts as a promising source of induced pluripotent stem cells.
PLoS One 5(9):e12743, 2010.
2. Sato S, Yagi S, Arai Y, Hirabayashi K, Hattori N, Iwatani M, Okita K, Ohgane J,
Tanaka S, Wakayama T, Yamanaka S, Shiota K.
Genome-wide DNA methylation profile of tissue-dependent and differentially
methylated regions (T-DMRs) residing in mouse pluripotent stem cells.
Genes Cells. (6):607-618, 2010.
3. Okita K, Hong H, Takahashi K, Yamanaka S.
Generation of mouse-induced pluripotent stem cells with plasmid vectors.
Nat Protoc. 5(3):418-428, 2010.
4. Yoshida Y, Takahashi K, Okita K, Ichisaka T, Yamanaka S.
Hypoxia enhances the generation of induced pluripotent stem cells.
Cell Stem Cell 5(3):237-241, 2009.
5. Hong H, Takahashi K, Ichisaka T, Aoi T, Kanagawa O, Nakagawa M, Okita K,
Yamanaka S.
Suppression of induced pluripotent stem cell generation by the p53-p21 pathway.
Nature 460, 1132-1135, 2009.
17
初期化機構研究部門
高橋和利 Ph.D.
プロフィール
1977 年広島市生まれ。同志社大学工学部卒業、
奈良先端科学技術大学院大学バイオサイエンス
講師
研究科修了。バイオサイエンス博士(2005 年)。
日本 学 術振 興会 特別研 究 員、京都大学 再生医
科学研究所助手、京都大学 iPS 細胞研究センタ
ー助教を経て、2010 年 4 月より現職。
浮遊培養によりヒトES 細胞から分化した神経細胞
研究スタッフ
●
講師
高橋和利
●
大学院生
田邊剛士
田中孝之
大貫茉里
村松万里江
当グループはiPS細胞の標準化及び多
経 細 胞 へ の 分 化 誘 導 を 行 っ た とこ ろ、
能性幹細胞の自己複製に関する分子機構
14日間の分化誘導後にすべてのクロー
の解明を目標として研究を進めており、
ンは大部分がPSA-NCAM陽性の神経細
本年は以下のような研究を行った。
胞へと分化した。さらにES細胞を含む
ほとんどの株では未分化細胞の指標であ
1. 分化抵抗性を示す
iPS細胞の解析
将来iPS細胞を臨床応用するためには
るOct3/4が陽性である細胞の割合が1%
程度であった。しかし、試験を行った
安全性の確保が最優先課題である。マウ
iPS細胞株のうち4クローンは再現よく
10%以上のOct3/4陽性未分化細胞が残
スiPS細胞を用いた研究において、一部
存することがわかった。
のクローンは分化誘導に対して抵抗性を
今後はこれら分化抵抗性を示す株を詳
示し、残存した未分化細胞は移植後の腫
細に解析することで分子機構の解明を目
瘍形成の原因となることがわかっている。
指す。
そこで本研究では、ヒトiPS細胞におけ
複数のES細胞株と20株以上のヒトiPS
2. 臨床応用を目指した
iPS細胞の樹立
細胞株をマイクロアレイで比較解析した
臨床応用を視野に入れたiPS細胞の作
結果、統計学的に有意な差は見られなか
製、維持法を開発する目的で、本年は2
った。そこで、実際に分化誘導後の残存
つの試みを行った。第一に、これまでヒ
る分化抵抗性について解析を行っている。
18
未分化細胞数を定量する系を新規に構築
トiPS細胞の樹立にはマウス由来のフィ
し、各クローンの評価を行った。その結
ーダー細胞を利用してきた。しかし、臨
果、残存未分化細胞数が多いクローンと、
床応用の観点からすると、可能な限り動
ES細胞と同等に少ないクローンの2群に
物由来の不確定な成分は除去されるべき
大別できることがわかった。これらの結
である。そこで、ヒト皮膚由来線維芽細
果がiPS細胞の安全性と相関するのかを
胞をiPS細胞のソースとしてのみならず、
確認するために、各クローンについて神
樹立、維持におけるフィーダー細胞とし
CiRA ANNUAL REPORT 2010
て利用することを試みた。結果として、
試験に用いた4株の皮膚由来線維芽細胞
すべてにおいて、自己フィーダー上での
iPS細胞の樹立、維持が可能であった。
しかし一方で、14株中3株の線維芽細胞
はフィーダー細胞としてES細胞の未分
化状態を維持することができなかった。
以上の結果から、動物成分を減らす目的
において自己フィーダー細胞の利用は有
多能性幹細胞の分化誘導の分子機構の解明から、
iPS 細胞の標準化を目指す
マウス iPS 細胞の未分化細胞では移植すると、がんの原因になることが明らかになって
おり、iPS 細胞の臨床応用には確実な分化誘導が必要になる。そこで、高橋研究室では、
分化誘導後に残る未分化細胞の数を測定するシステムを作り、ES 細胞と iPS 細胞の株に
よる差を検証、iPS 細胞株のうち残存数の多い 4 クローンを特定した。今後はそれらのク
ローンが分化抵抗性を示す分子機構を解明していく。
また、ヒト iPS 細胞の樹立・維持に際して培養の下地として使うフィーダー細胞をマウス
効であると考えられた。
由来からヒト iPS 細胞のもとにもなる皮膚由来線維芽細胞に替え、動物成分を減らせる可
第二に、岐阜大学との共同研究で歯髄
能性を報告した。岐阜大学との共同研究で、歯髄幹細胞由来の高効率高品質の iPS 細胞
幹細胞由来のiPS細胞作製を試みた。歯
髄幹細胞は親知らず等廃棄される組織か
ら樹立できるため侵襲が少ないという利
の樹立にも成功した。
さらに、遺伝子 LIN28 を導入するとマイクロ RNA との相互作用でリプログラミング効率
が上がることを示唆する実験結果を得ており、現在、解析を進めている。
点がある。由来の異なる6株の歯髄幹細
胞からiPS細胞を樹立したところ、分化
3. リプログラミングの
することが確認できた。しかし、試験を
度合いの未熟な株においては皮膚線維芽
効率を上げる因子の機能解析
行った10株の線維芽細胞中5株において、
iPS細胞コロニー数の増加が見られなか
っ た。LIN28 タ ン パ ク 質 中 の Coldshockドメインを欠損させた変異体は野
生 型LIN28と 同 等 の 効 果 を 示 し た が、
Zinc fingerドメインを欠損した変異体
細胞よりもiPS細胞の樹立効率が高い傾
本グループではリプログラミング効率
向にあった。これら歯髄幹細胞由来の
を上昇させる複数の因子を同定している。
iPS細胞はES細胞や皮膚線維芽細胞由来
のiPS細胞と比較して遜色のない遺伝子
本年はそのうちの一つであるLIN28が
発現パターン、分化多能性を示した。こ
を す るの か に つ い て 詳 細 に 検 討 し た。
れらの結果は、将来的な細胞バンクのソ
Oct3/4、Sox2、Klf4、c-Mycに 加 え て
LIN28をヒト線維芽細胞に導入するこ
とでiPS細胞コロニーの出現効率が向上
ースとして歯髄幹細胞が有望な候補の一
つとなりうることを示している。
リプログラミング過程でどのような働き
は効果を示さなかった。これらの結果は、
リプログラミング途中におけるLIN28
の働きはマイクロRNAとの相互作用が
重要であることを示唆している。一方で、
LIN28を発現させた場合、対称群と比較
して形成されるiPS細胞のコロニーが有
意に大きいことがわかった。この現象を
説明しうる複数の可能性が考えられるた
め、現在解析を進めている。
最近の主な論文のリスト
ヒト iPS 細胞の免疫染色写真。赤は未分化細胞の指標である Oct3/4 、緑は増殖の指標である BrdU を示す。
1. Tamaoki N, Takahashi K, Tanaka T,
Ichisaka T, Aoki H, TakedaKawaguchi T, Iida K, Kunisada T,
Shibata T, Yamanaka S, and Tezuka K.
Dental Pulp Cells for Induced
Pluripotent Stem Cell Banking.
J Dent Res. 89(8):773-778, 2010.
2. Takahashi K.
Direct reprogramming 101.
Dev Growth & Differ. 52(3): 319-333,
2010.
3. Takahashi K, Narita M, Yokura M,
Ichisaka T, Yamanaka S.
Human induced pluripotent stem
cells on autologous feeders.
PLoS ONE 4(12): e8067, 2009.
19
初期化機構研究部門
クヌート・ウォルツェン Ph.D.
助教
プロフィール
1976 年カナダ・アルバータ州エドモントン生ま
れ。アルバータ大学分子遺伝学部卒業、カルガ
リー大学大学院医学部にて生物化学・分子生物
学 科 を専 攻し、2006 年に博 士 号取 得。2001
∼ 03 年に九州大学への留学。トロントのサミュ
エ ル・ル ネン フェ ルド 研 究 所 研 究 員 を 経 て、
2009 年オンタリオ・ヒト iPS 細胞研究施設主任
研究員。2010 年 4 月より現職。
研究スタッフ
●
助教
クヌート・ウォルツェン
●
テクニカルスタッフ
廣畑糧子
持田瑠美
●
秘書
森口永里加
iPS細胞研究は医学研究や再生医療に
作製し、このシステムを用いた初期化プ
おいて非常に大きな影響をもたらすと考
ロセスにおける転写ネットワークや細胞
えられる。細胞治療のような医療応用の
同士の相互作用の変化を調べるとともに、
前に、疾患特異的iPS細胞の樹立、及び
iPS細胞誘導法の改良に取り組んでいる。
iPS細胞から分化した細胞を用いたヒト
く貢献すると考えられる。我々の研究室
正確なゲノム改変のための
技術開発
では、技術開発と体細胞の初期化や細胞
相同組換え技術は、ヒトやマウス幹細
の可塑性を解明するための研究ツールの
胞のゲノム改変や新たな機能評価を可能
開発、そして、ゲノム工学などを利用し
とする。そのようなゲノム改変によって、
たヒト疾患モデルの改良に焦点を当てて
正常遺伝子の機能をなくしたり、変異遺
研究を進めている。
伝子を修正したりできるようになる。ま
の病態モデルや、薬剤探索の方法に大き
た、ピギーバック・トランスポゾンは、
20
細胞の初期化機構の分析と
初期化因子の導入方法としての利用だけ
技術開発
ではなく、ゲノムを傷つけない独自の遺
これまでの研究で、ピギーバック・ト
伝子改変方法として応用できると考えて
ランスポゾンを用いてゲノムへの遺伝子
いる。我々の研究室では、この特徴を利
挿入が起こらないベクターの研究を行っ
用した新規の遺伝子改変法を開発するこ
てきた。そして現在は、この手法と薬剤
とで、より正確な病態機構の再現、将来
誘導性の導入遺伝子を用いて、初期化と
的には自己細胞移植治療への応用を目指
分化を繰り返すことができるiPS細胞を
して研究を進めている。
CiRA ANNUAL REPORT 2010
ゲノムへの遺伝子挿入を回避できる
「遺伝子の運び屋」を使い、
細胞の初期化や分化を制御
DNA 上のある部分からある部分に転位する DNA であるピギーバック・トランスポゾン
を「運び屋」として細胞に遺伝子を導入すると、細胞が元々持っているゲノムへの遺伝子
挿入を避けることができる。
クヌート・ウォルツェン助教は、このピギーバック・トランスポゾンによって体細胞の初
期化と分化をコントロールする方法を開発し、iPS 細胞の樹立方法の改良、細胞の初期化
機構や細胞同士の相互作用の研究を行っている。また、ピギーバック・トランスポゾンを
ゲノムを傷つけない新たな遺伝子改変に使う方法も研究している。これらの成果を疾患特
異的 iPS 細胞の樹立、ヒト疾患モデルにつなげ、自己細胞移植治療に応用するのが目標だ。
最近の主な論文のリスト
1. Monetti C, Nishino K, Woltjen K and
Nagy A.
PhiC31 integrase facilitates genetic
approaches combining multiple
recombinases.
Methods 2010. in press
2. Samavarchi-Tehrani P, Golipour A,
David L, Sung H-K, Beyer T A, Datti A,
Woltjen K, Nagy A, Wrana J L.
Functional Genomics Reveals a BMP
Driven Mesenchymal-to-Epithelial
Transition in the Initiation of Somatic
Cell Reprogramming.
Cell Stem Cell 7(1):64-77, 2010.
3. O'Malley J, Woltjen K, Kaji K.
New strategies to generate induced
pluripotent stem cells.
Curr Opin Biotechnol. 20(5):516-521,
2009.
4. Kaji K, Norrby K, Paca A, Mileikovsky
M, Mohseni P, Woltjen K.
Virus-free induction of pluripotency
and subsequent excision of
reprogramming factors.
Nature 458, 771-775, 2009.
5. Woltjen K, Michael I P, Mohseni P, Desai
R, Mileikovsky M, Hämäläinen R,
Cowling R, Wang W, Liu P,
Gertsenstein M, Nagy A.
piggyBac transposition reprograms
fibroblasts to induced pluripotent stem
cells.
Nature 458, 766-770, 2009.
ピギーバック転移因子由来蛍光色素を発するヒト iPS 細胞
カリウムチャンネル遺伝子(KCNQ1)の SNP(一塩基多型)解析データ
21
初期化機構研究部門
山本拓也 Ph.D.
プロフィール
1977 年大 阪 市生まれ。京都大学 理 学 部 卒 業、
京都大学大学院生命科学研究科、博士(生命科
助教
学)。京都大学大学院生命科学研究科統合生命
科学専攻シグナル伝達学分野
(西田栄介研究室)
にて、MAP キナーゼ関連シグナル 伝 達制御機
構の研究およびバイオインフォマティクスを用い
た細胞周期制御機構の研究に従事。2009 年 4
月より現職。
研究スタッフ
iPS細胞の誘導プロセスの制御機構を
数個生み出す選択的スプライシングは、
山本拓也
解明することは、iPS細胞を再生医療等
哺乳類の場合、95 %以上の遺伝子で行
研究員
の応用へつなげていくための重要なステ
われていると報告されている。また、発
曽根正光
ップの一つである。現在までの研究によ
生の各段階や組織ごとに選択的スプライ
って、転写制御やエピジェネティック制
シング機構が制御され、一つの遺伝子か
蒲田未央
佐藤登志子
御といった核内で起こる現象が、iPS細
ら活性の異なるタンパク質が生成される
胞の誘導プロセスで鍵を握ることが明ら
例も多い。現在まで、多くの研究により
大学院生
●
●
●
助教
テクニカルスタッフ
かになっている。また、近年、生命科学
多能性幹細胞におけるトランスクリプト
太田 翔
の分野においては、マイクロアレイや次
ーム解析が行われているが、そのほとん
池田宏輝
世代シーケンサーに代表される解析装置
どでマイクロアレイが用いられている。
の目覚ましい進歩によって、膨大なデー
マイクロアレイの技術は、遺伝子領域
タを短時間で入手することが可能になっ
の一部分のみの発現量を測定するので、
●
●
秘書
森口永里加
た。当研究グループでは、全ゲノムにわ
選択的スプライシングによって生み出さ
たる網羅的解析を多角的なアプローチに
れる複数のスプライシングバリアントの
よって行い、統合的にiPS細胞の誘導プ
発現量を区別して解析することは困難で
ロセスを解明することを第一義的な目標
あった。近年登場した次世代シーケンサ
としている。本年度は、次世代シーケンサ
ーは、そのようなマイクロアレイの欠点
ーを用いて、iPS細胞、ES細胞におけるト
を克服し、転写の全体像をとらえるトラ
ランスクリプトーム解析、及び種々のiPS
ンスクリプトーム解析を可能にする。
細胞のレトロウイルス挿入部位の迅速な
我々のグループは、多能性幹細胞(iPS
同定方法の開発とその評価を行った。
細胞、ES細胞)および体細胞の完全長
cDNAライブラリーをオリゴキャッピ
22
1. 次世代シーケンサーを用いた
多能性幹細胞における
トランスクリプトーム解析
ム解析を行っている。これまでにスプラ
一つの遺伝子から異なる転写産物を複
イシングバリアントを効率的に同定でき
ング法により構築し、次世代シーケンサ
ー SOLiDを用いたトランスクリプトー
CiRA ANNUAL REPORT 2010
MEF
iPS
ES
iPS 細胞、ES 細胞特異的なスプライシングバリアントの同定
部位は存在しないこと、転写開始点近傍
幹細胞特異的なスプライシングバリアン
2. 次世代シーケンサーを用いた
iPS細胞におけるレトロウィルス
トを数十個同定することに成功した。ま
挿入部位の迅速同定法の開発
入される割合が多いこと、挿入部位に存
た、組織ごとのcDNAと比較することに
近年、レトロウイルスベクターを用い
在する遺伝子の発現量はES細胞と比べ
よって、それらスプライシングバリアン
ないiPS細胞誘導法が続々と報告されて
て、少なくともmRNAレベルでは有意
トの半分程度が精巣において多能性幹細
いるが、誘導効率の点から、レトロウイ
な 差 が な い こ と が 示 唆 さ れ た。 今 後、
胞と同様のスプライシングパターンを示
ルスベクターを用いた樹立方法が選択さ
iPS細胞の分化能がウイルスの挿入箇所
すことを明らかにした。さらに、バイオ
れる機会がまだまだ多いのが現状である。
によって影響を受けるのかを調べる予定
インフォマティクス的手法を用いて、多
レトロウイルスベクターによる誘導法は
である。
能性幹細胞特異的なスプライシングを特
ウイルスゲノムの挿入を伴うため、iPS
徴づけると示唆されるエキソンのコンセ
細胞株を用いた病態解析や治療法の開発
ンサス配列を見出した。今後、多能性幹
といった研究を行うには、ウイルス挿入
細胞での選択的スプライシング制御機構
部位を考慮する必要がある。我々のグル
を解明し、それら制御機構がiPS細胞誘
ープは、次世代シーケンサー GS
導にどのように関与するのかを明らかに
したいと考えている。また、エピジェネ
Titaniumを 用 い て、 数 十 ク ロ ー ン の
iPS細胞株のウイルス挿入部位を一度に
ティック制御やクロマチン構造がスプラ
精度よく同定できる方法を開発し、複数
イシングに与える影響も検討し、RNA
の疾患iPS細胞株においてウイルス挿入
制御機構の観点からiPS細胞誘導プロセ
部位の同定を行い、その評価を行った。
スの解明を目指す。
その結果、各疾患特異的なウイルス挿入
る独自のアルゴリズムを考案し、多能性
FLX
次世代シーケンサーを用いて、
iPS 細胞の誘導プロセスを解明する
山本研究室では、次世代シーケンサーを駆使して、iPS 細胞や ES 細胞の mRNA やその
転写産物を解析するトランスクリプトーム解析、iPS 細胞におけるレトロウィルス挿入部位
の迅速同定を行い、iPS 細胞の誘導プロセスを探っている。
細胞核内では DNA の遺伝情報の必要な部分を切り取ってつなぐスプライシングが行わ
れ、それによってさまざまな mRNA(スプライシングバリアント)ができる。山本研究室
では、iPS 細胞、ES 細胞、体細胞のそれぞれの完全長 cDNA(mRNA の全長を反映した
人工的な DNA)を作成してライブラリー化し、比較することで、iPS 細胞や ES 細胞にし
かないスプライシングバリアントを数十個同定した。
また、iPS 細胞を樹立する際にレトロウイルスベクターによって遺伝子導入を行った場合
のウイルスゲノムの挿入部位を同定する方法を開発し、ウイルスゲノムが挿入されやすい部
位を明らかにした。さらに、疾患特異的 iPS 細胞間の比較では疾患によるウイルスゲノム
挿入部位の特異性に違いはないこと、挿入部位に存在する mRNA の発現量は iPS 細胞と
ES 細胞で差がないことを報告している。
や1番目および2番目のイントロンに挿
最近の主な論文のリスト
1. Sunadome K, Yamamoto T, Ebisuya M,
Kondoh K, Sehara-Fujisawa A, Nishida
E.
ERK5 Regulates Muscle Cell Fusion
through Klf Transcription Factors.
Dev Cell. 20, 192-205, 2011.
2. Endo T, Kusakabe M, Sunadome K,
Yamamoto T, and Nishida E.
The Kinase SGK1 in the Endoderm and
Mesoderm Promotes Ectodermal
Survival by Down-Regulating
Components of the Death-Inducing
Signaling Complex.
Science Signal. 4, ra2, 2011.
3. Honjoh S, Yamamoto T, Uno M, and
Nishida E.
Signalling through Rheb mediates
intermittent fasting-induced longevity
in C. elegans.
Nature 457, 726-730, 2009.
4. Ebisuya M, Yamamoto T, Nakajima M,
and Nishida E.
Ripples from neighbouring
transcription.
Nature Cell Biol. 10, 1106-1113, 2008.
5. Yamamoto T, Ebisuya M, Ashida F,
Okamoto K, Yonehara S, and Nishida E.
Continuous ERK activation
downregulates antiproliferative genes
throughout G1 phase to allow cellcycle progression.
Curr Biol. 16, 1171-1182, 2006.
23
初期化機構研究部門
堀田秋津 Ph.D.
プロフィール
1978 年名古屋市生まれ。名古屋大学工学部卒業、
同工学研究科修了。工学博士。その後、トロント
助教
小児病院の発生・幹細胞部門で博士研究員。途中、
オンタリオ・ヒト iPS 細胞研究施設の研究員も兼
務する。2010 年 3 月より現職。2010 年 10 月より
科学技術振興機構 さきがけ研究員も兼任。
遺伝子治療では外来遺伝子が安定して長期間発現
を維持することが重要である。ヒト iPS 細胞へ緑
色蛍光タンパク質(GFP)遺伝子を導入後、胚様体
(EB)へと分化させても、GFP 遺伝子の発現が高
いレベルのまま持続している。
研究スタッフ
●
助教
堀田秋津
●
テクニカルスタッフ
iPS細胞を用いた細胞移植療法を実現
子導入技術やエピジェネティクス制御機
させるためには、iPS細胞誘導過程の均
構を制御することで、これらの課題に挑
質化、樹立した細胞株の品質管理、先天
戦している。
藤本直子
性疾患が存在する場合には遺伝子治療を
笹川典子
白井紗矢
施したiPS細胞の作成、及び細胞移植後
●
大学院生
李 紅梅
●
を克服する必要がある。私の研究室では、
核内環境制御による
高品質iPS細胞の誘導法開発
高品質で安全なiPS細胞を再現性よく
遺伝子治療の分野で用いられている遺伝
樹立する方法を開発するために、不完全
の腫瘍化予防等々、さまざまなハードル
秘書
野田 桂
iPS 細胞はその作成方法等によって品質が大きく異なる。マウス iPS 細胞において免疫染色を行い、核内で
発現しているタンパク質の量と局在を共焦点顕微鏡で解析する。
24
CiRA ANNUAL REPORT 2010
なiPS細胞に注目した。この不完全で低
核内環境制御による新規の iPS 細胞樹立法と、
iPS 細胞による細胞治療法を研究中
品 質 なiPS細 胞 を、ES細 胞 や 高 品 質 な
iPS細胞と比較する過程において、核内
染色体構造やエピジェネティクス修飾の
工学博士ながら、キャリアの当初から臨床に近い現場で研究を続けて来た堀田秋津助
多様な違いが明らかとなって来た。また、
教は、遺伝子治療に使われる遺伝子導入技術やエピジェネティクス制御機構の制御方法
特殊な薬剤の処理によって低品質iPS細
を iPS 細胞の樹立や選別に生かし、細胞移植療法への応用を目指す。
胞から高品質な状態へ変換すると、核内
これまでの研究で、iPS 細胞樹立の際に現れる低品質な iPS 細胞を ES 細胞や高品質な
染色体構造も変化することがわかって来
iPS 細胞と比較することで、核内の染色体の構造やエピジェネティクス修飾の違いが顕在
た。このような核内染色体構造の違いは、
化したことから、この差を調べることで、iPS 細胞の品質がチェックできる可能性を見出し
iPS細胞の品質チェックに利用可能であ
ている。新たな iPS 細胞の作製方法として、核内構造を人為的に操作して核内環境を ES
細胞に近づける研究も行う予定だ。
ることが示唆される。今後、これらの核
現在、先天性遺伝子異常の一つである血友病 A に注目しており、患者由来の iPS 細胞へ
内構造変化を目印に、数々の候補因子を
遺伝子導入技術を用いて血液凝固因子を導入し、細胞移植によって患者体内で血液凝固
用いて核内構造を人為的に操作すること
因子を分泌させる治療を目標に、iPS 細胞からのターゲット細胞種への分化誘導や血液凝
を試みる。そして核内環境をES 細胞に近
固因子の発現に関する研究も進めている。
づけることで、将来的には実用化に耐え
得る新規iPS細胞作製法の開発を目指す。
さらに、不均一なiPS細胞誘導過程に
おいて高品質なiPS細胞だけを選び出す
め、ターゲット細胞種へのiPS細胞から
ために、ゲノム改変技術と幹細胞で特異
の分化誘導法の確立も目指したいと考え
的に発現するマーカーを利用したヒト
ている。
iPS細胞の選別・精製法の改良を進める。
当研究室では、長期間にわたって血液
凝固因子を高発現させるために、ウイル
iPS細胞を用いた血友病の
スベクターや非ウイルス型ベクターの開
新規遺伝子治療戦略
発を行っており、EGFPレポーター遺伝
先天的に遺伝子異常を持つ患者由来の
子の発現を指標にしてヒトiPS細胞にお
iPS細胞に対して効率的な遺伝子治療が
ける長期発現安定性を解析している。さ
行えるようになれば、病態の解明や、発
らにこれらの技術を応用し、移植された
生・分化経路の解明のみならず、臨床応
iPS細胞から奇形種が形成されるのを予
用を目指したiPS細胞による細胞移植療
防するシステムの開発にも取り組みたい。
法の可能性を大きく広げることができる。
将来的には開発したベクターシステムを
例えば、血友病Aは血液凝固因子第Ⅷ
臨床試験へも応用できるよう、安全性お
因子(遺伝子)の異常によって引き起こ
よび有効性を一つずつ確認して行きたい
される先天性の血液凝固異常症である。
と考えている。
重度の血友病Aでは血液凝固第Ⅷ因子活
性が健常者の数%以下であり、出血が止
まらなくなるため、高価な血液凝固因子
製剤を頻繁に注射で補充する因子補充療
105
法が広く行われている。しかし、数日ご
とに繰り返し製剤を注射し続けることは
きいため、新しい治療法の開発が期待さ
PE-GR-A
患者にとって肉体的・経済的な負担も大
10 4
103
れている。血友病患者由来のiPS細胞へ
遺伝子導入技術を用いて血液凝固因子を
102
導入し、高いレベルで分泌できるように
0
すれば、患者体内での血液凝集機構を長
期にわたって正常に戻せる可能性がある。
また、生体内では主に肝臓で血液凝固第
Ⅷ因子が生産されており、第Ⅷ因子生産
と移植の療法に適した細胞種の検討を進
0
102
103
FITC-A
10 4
105
最近の主な論文のリスト
1. Kattman SJ, Witty AD, Gagliardi M,
Dubois NC, Niapour M, Hotta A, Ellis J,
Keller G.
Stage-specific optimization of Activin/
Nodal and BMP signaling promotes
efficient cardiovascular differentiation
of mouse and human pluripotent stem
cell lines.
Cell Stem Cell 8 (2): 228-240, 2011.
2. Hotta A, Cheung AY, Farra N, Garcha K,
Chang WY, Pasceri P, Stanford WL, Ellis J.
EOS lentiviral vector selection system for
human induced pluripotent stem cells.
Nature Protocols 4 (12):1828-1844,
2009.
3. Rastegar M, Hotta A, Pasceri P,
Makarem M, Cheung AY, Elliott S, Park
KJ, Adachi M, Jones FS, Clarke ID, Dirks
P, Ellis J.
MECP2 isoform-specific vectors with
regulated expression for Rett syndrome
gene therapy.
PLoS ONE 4 (8) : e6810, 2009.
4. Hotta A, Cheung AY, Farra N,
Vijayaragavan K, Seguin CA, Draper JS,
Pasceri P, Maksakova IA, Mager DL,
Rossant J, Bhatia M, Ellis J.
Isolation of human iPS cells using EOS
lentiviral vectors to select for
pluripotency.
Nature Methods 6 (5): 370-376, 2009.
5. Hotta A, Ellis J.
Retroviral vector silencing during iPS cell
induction: an epigenetic beacon that
signals distinct pluripotent states.
J Cell Biochem 105 (4): 940-948, 2008.
iPS 細胞へ緑色蛍光タンパク質(GFP)と 赤色蛍
光タンパク質(RFP)を導入し、フローサイトメト
リーで蛍光細胞を検出した。それぞれ高い効率で
発現し、よく分離している。
25
増殖分化機構研究部門
戸口田淳也 M.D.,Ph.D.
プロフィール
1956 年米 子市生まれ。1981 年京 都大 学 医 学
部卒業。1989 年京都大学大学院医学研究科修
副所長・部門長・教授
了、医学博士。大学院では、がん抑制遺伝子の
研究に従事。1995 年京都大学生体医療工学研
究センター・助教授に就任、医工学から再生医
学の研究を展開するとともに附属病院での診療
に従事。2003 年より年京都大学再生医科学研
究所教授。2010 年 4 月より CiRA 教授を兼務。
研究スタッフ
●
教授
戸口田淳也
●
講師
研究の背景:骨軟部肉腫の研究・
診療が間葉系幹細胞研究と融合
現在、CiRAだけではなく、京都大学
委員会での審査承認という多段階のプロ
の他部局においても業務を行っており、
ター(Center
セスを要する。私たちは、附属病院の整
形外科、CPCである分子細胞治療セン
研究員
本務は、再生医科学研究所(以下、再生
池谷 真
研)組織再生応用分野の教授である。再
for Cell and Molecular
Therapy:CCMT)及び探索医療センタ
ーとの共同研究として、MSCを用いた
金永 輝
生研では間葉系組織の再生に関連するい
骨再生治療の開発を目指し、上記のプロ
くつかの研究を行っており、その一つが
セスを経て2008年より臨床試験を開始
加藤友久
●
●
テクニカルスタッフ
小林由紀子
骨、軟骨、脂肪のような間葉系細胞に分
している(右ページ上左図)。中間成績
永田早苗
化する能力をもつ組織幹細胞である間葉
の評価では、有効性を示す結果が得られ
系 幹 細 胞(Mesenchymal
ており、それに基づいて次の段階である
平賀理香
●
大学院生
stem cell:
MSC)の生物学的本態の解明及び臨床応
用である。特に近年では、MSCを用い
先進医療へと進みたいと考えている。
た細胞治療の実践を目指して研究を展開
病院整形外科における診断治療であり、
してきた。幹細胞を用いた細胞治療を実
骨軟部組織に発生する腫瘍、特に悪性腫
Elalaf Hassan
践するためには、「ヒト幹細胞を用いた
瘍である肉腫を対象としている。私の研
松本佳久
臨床研究に関する指針」に記載されてあ
究者としてのキャリアは大学院時代の肉
横山宏司
る事項を遵守する必要がある。従って細
腫の研究から始まっており、現在でも再
胞の単離、培養そして品質保証の過程か
生研で遺伝子診断の応用や治療の標的と
らスタートし、動物を用いた前臨床試験、
なる分子の同定などのプロジェクトを附
GMP(Good Manufacturing Practice:
属病院のスタッフとの共同研究として進
製造管理及び品質管理規則)レベルの細
めている。大学院時代から私の最も興味
胞調整施設(Cell
Processing Center:
CPC)を用いてバリデーション、製品に
あるところは、肉腫の発生機構、特に細
関する概要書の作成、それを用いた計画
細胞と呼称される一部の細胞によるもの
書の作成、所属機関及び厚生労働省倫理
であるとの仮説が提唱され、腫瘍学と幹
那須 輝
早川和男
小林恭介
玉置さくら
澤野貴之
●
秘書
安田尚代
芳野麻里絵
26
二つ目の業務は、臨床医としての附属
胞起源だが、近年、腫瘍の本態が腫瘍幹
CiRA ANNUAL REPORT 2010
細胞生物学の接点としてMSCが注目さ
れており、再生研における私の二つの研
究領域が融合しつつある。
iPS細胞を用いて骨・軟骨系の
疾患の解明と創薬を目指す
以上の背景をもつ私のCiRAにおける
研究業務は大きく分けて二つある。一つ
は、iPS細胞から間葉系細胞への分化誘
導法の開発と、それを応用した難治性疾
患の病態解明と創薬である。具体的には
進行性骨化性線維異形成症とCINCA症
間葉系幹細胞を用いた骨再生医療の臨床研究
iPS 細胞からの分化誘導。骨髄間質細
胞( A)から樹立した iPS 細胞(B)を
用いて、骨細胞(C)及び軟骨細胞(D)
を誘導した。
候群という、骨及び軟骨の異常分化増殖
病態を対象としている。それぞれの疾患
用可能な細胞を調整できる施設として稼
の患者の体細胞からiPS細胞を樹立し、
働させることである。そのための具体的
骨あるいは軟骨細胞へと分化誘導し、そ
な目標として、医学部附属病院のCPC
の過程における現象を健常人由来のiPS
で あ るCCMT を 使 用 し て 施 行 中 の
細胞を用いた場合と比較検討し、病態理
MSCを用いた臨床試験の細胞調整を、
FiTを用いて行うことを計画している。
そのためのFiTの環境整備、CCMTにお
け る 標 準 作 業 手 順 書(Standard
Operating Procedure、SOP)のFiTへ
解につながる知見を得ることを目的とし
ている。iPS細胞から骨あるいは軟骨細
胞の分化誘導に関しては、方法を確立し
つつあり(上右図)
、in
vitroで病態を再
現させ、ハイスループット・スクリーニ
の移行、そしてスタッフの教育訓練等の
ングシステムを応用した創薬への展開を
作業を進めており、2011年度内にFiTに
目指す。興味深いことには、それぞれの
おけるGMPレベルの細胞調整を開始す
研究の展開には、骨肉腫及び軟骨肉腫と
る予定である。
いう悪性腫瘍の研究で得られた知見がヒ
このように私の研究領域は多岐にわた
ントになっており、これも、がんと再生
っているが、いずれも何らかのキーワー
の接点の一つかと考えている。
ドで結びついており、有機的に連携させ
も う 一 つ の 業 務 は、CiRAに お け る
ることで、それぞれの領域の研究の進展
CPCであるFacility for iPS Cell Therapy
(FiT)
を、将来のiPS細胞を用いた細胞治
に貢献できると考えている。意欲に富む
研究者の参画を希望している。
療を遅滞なく実践させるために、臨床応
整形外科医として、骨・軟骨の細胞治療の
実現に挑む
戸口田淳也教授は、京都大学再生医科学研究所組織再生応用分野教授を兼任し、附
属病院整形外科の臨床医でもある。大学院時代から肉腫の発生機構を研究し、骨、軟骨、
脂肪のような間葉系細胞に分化する間葉系幹細胞(Mesenchymal stem cell:MSC)の
本態の解明と細胞治療への応用を目指している。2008 年からは同附属病院で骨再生治
療の臨床試験を開始している。
CiRA では、進行性骨化性線維異形成症と CINCA 症候群の疾患特異的 iPS 細胞を樹立
して、骨あるいは軟骨細胞へと分化誘導し、健常人由来の iPS 細胞との比較検討から、
病態解明や創薬を目指す。
また、iPS 細胞のプロセッシング施設である Facility for iPS Cell Therapy(FiT)の稼
働も担っている。同附属病院で行われている MSC を用いた臨床試験の細胞調整を手本に、
環境や作業手順の整備、スタッフの教育訓練等を進めて、2011 年度内に臨床試験に使え
るレベルの細胞調整を始める。
最近の主な論文のリスト
1. Nishigaki T, Teramura Y, Nasu A,
Takada K, Toguchida J, Iwata H.
Highly efficient cryopreservation of
human induced pluripotent stem
cells using a dimethyl sulfoxide-free
solution.
Int J Dev Biol. 2011. in press.
2. Aoyama T, Okamoto T, Fukiage K,
Otsuka S, Furu M, Ito K, Jin Y, Ueda
M, Nagayama S, Nakayama T,
Nakamura T, Toguchida J.
Histone modifiers, YY1 and p300,
regulate the expression of cartilagespecific gene, chondromodulin-I, in
mesenchymal stem cells.
J Biol Chem. 285(39): 29842-29850,
2010.
3. Ito K, Aoyama T, Fukiage K, Otsuka
S, Furu M, Jin Y, Nasu A, Ueda M,
Kasai Y, Ashihara E, Kimura S,
Maekawa T, Kobayashi A, Yoshida S,
Niwa H, Otsuka T, Nakamura T,
Toguchida J.
A novel method to isolate
mesenchymal stem cells from bone
marrow in a closed system using a
device made by non-woven fabric.
Tissue Eng Part C Methods. 16(1):
81-91, 2010.
4. Jin Y, Kato T, Furu M, Nasu A, Kajita Y,
Mitsui H, Ueda M, Aoyama T,
Nakayama T, Nakamura T, Toguchida J.
Mesenchymal stem cells cultured
under hypoxia escape from
senescence via down-regulation of
p16 and extracellular signal
regulated kinase.
Biochem Biophys Res Commun. 391(3):
1471-1476, 2010.
5. Toguchida J, Nakayama T.
Molecular genetics of sarcomas:
Applications to diagnoses and
therapy.
Cancer Sci. 100(9): 1573-1580, 2009.
27
増殖分化機構研究部門
髙橋 淳 M.D.,Ph.D.
プロフィール
1961 年兵庫県伊丹市生まれ、京都大学医学部
卒業、
同大学大学院医学研究科修了。博士
(医学)
。
准教授
脳 神 経 外科 専門医。1995 年から 2 年間米国ソ
ーク研 究 所(Fred Gage 博士)に留学。2008
年から現職。
ヒト iPS 細胞からの浮遊培 養によるドーパミン神
経 細胞誘導。バラバラにしたヒト iPS 細胞を浮遊
培養で神経分化させ、その後、接着培養を行うと
神経突起を伸展させる。緑は Tuj1(神経細胞で特
異的に発現するタンパク質)陽性の神経細胞全般、
赤はその中の TH(ドーパミンを合成するチロシン
水酸化酵素)陽性ドーパミン神経細胞。
研究スタッフ
准教授
我々はiPS細胞を用いた神経再生医療
報告ではマウスのフィーダー細胞が使わ
髙橋 淳
の実現化を目指している。対象疾患は進
れている。しかし、実際の臨床では原則
行性の神経難病であるパーキンソン病で、
としてマウスの細胞を用いることはでき
森実飛鳥
中脳黒質から線条体に投射するドーパミ
ない。そこで我々はフィーダー細胞を用
土井大輔
ン神経細胞が脱落するために脳内のドー
いずに神経細胞を効率よく誘導する技術
西村周泰
パミン量が減少し、体がこわばって動き
を開発し、今年度の成果として発表した。
にくくなったり、手足が震えたりする病
気である。そこで我々はiPS細胞からド
iPS細胞はさまざまな種類の細胞に分
化することができるが、
1種類の細胞(我々
ーパミン神経細胞を誘導し、これを脳内
の場合は神経細胞)だけを誘導したい場
に移植して失われたドーパミン神経細胞
合には、他の細胞になろうとするのを抑
を外から補充することを考えている。ヒ
制する必要がある。そのために我々は2種
トiPS細胞を用いた神経再生を臨床応用
類の低分子化合物を用いている。一つは
するためには、以下に述べるようないく
(1)
安全かつ効率的な神経分化誘導
ヒトのES細胞やiPS細胞からドーパミ
BMPシ グ ナ ル の 阻 害 剤 で あ る
dorsomorphin、 も う 一 つ はTGFβ/
Activin/Nodalシグナルの阻害剤である
SB431542である。これら二つのシグナ
ルを阻害することでiPS細胞の自己増殖や
ン神経細胞を誘導する場合、これまでの
筋肉・内臓への分化を抑え、結果的に神
●
●
●
研究員
テクニカルスタッフ
窪田 慶
勝川美都子
元野 誠
山嵜絵海
●
大学院生
五味正憲
鷲田和夫
菊地哲広
つかの課題がある。
北村彰浩
吉川達也
小倉 綾
佐俣文平
●
医学部学生
中島悠介
●
秘書
五味淵淑子
マウス ES 細胞由来神経前駆細胞のマトリゲルとの脳内同時移植。4週間後の免疫染色(C)では移植片のサ
イズ、生着した TH 陽性細胞(赤色)数とも細胞単独移植( A)と比べて増加していることが確認された。
28
CiRA ANNUAL REPORT 2010
iPS 細胞を用いる、
パーキンソン病の再生医療を研究
パーキンソン病は手足の震えや運動障害があらわれる進行性の神経の病気で、高齢化
に伴い、患者が増加している。脳内神経伝達物質のドーパミンを分泌する神経細胞が脱
落し、ドーパミンの量が減ることが大きな原因と考えられている。髙橋研究室では、iPS
細胞からドーパミン神経細胞を誘導し、これを脳内に移植する治療法を開発中だ。
ヒト iPS 細胞を誘導する際の培養に現在よく使われるマウス由来のフィーダー細胞は臨
床応用を見据えると使えないため、フィーダー細胞を用いずに神経細胞を効率よく誘導す
る技術を開発した。また、神経細胞のみに分化させるために、細胞分化のシグナルを低
分子化合物で阻害する方法、バラバラにした iPS 細胞を U 型底の培養皿で培養して球状に
する方法を組み合わせて、誘導の効率を上げる方法も見出した。さらに移植時に細胞外マ
トリクスであるマトリゲルを一緒に移植することでドーパミン神経細胞の生着率が上がり、
炎症を抑える可能性があることも報告している。また、ES 細胞を用いたカニクイザルの疾
患モデルを使った運動量の定量評価や PET-CT 検査なども行っている。
[11C]-CFT によるポジトロン CT 結果とビデオ解析
による自動運動定量評価との関係。人工的にパー
(1-methylキンソン病様症状を起こさせる MPTP
4-phenyl-1,2,3,6-tetrahydropyridine)を投与
したカニクイザルパーキンソン病モデルにおいて、
中脳のドーパミン神経機能が自動運動量と正の相
関関係にあることが明らかになった。
着することを明らかにした(左ページ下
評価法として、手足の震えや歩行時の安
図)。この場合、マトリゲルは移植細胞
定性などを各項目ごとに点数評価を行っ
生存のための足場となるだけでなく、炎
た。より客観的な評価法として、我々は
症細胞が移植細胞を攻撃するのを物理的
ビデオ撮影による自動運動量の定量評価
に防いだり、液性因子を供給したりする
を行い、今年度の成果として発表した。
役目も果たしていると考えられる。
このビデオ解析の結果は従来のスコア評
価やポジトロンCT(PET-CT)による脳
(3)
霊長類疾患モデルを用いた解析
内ドーパミン神経機能とも相関関係があ
しばしば動物実験に用いられるマウス
り、今後の前臨床試験に有用であると思
われる(左上図)。
経分化を促進する。ヒトES細胞、ヒト
やラットはヒトとはサイズや神経解剖が
iPS細胞からの神経誘導では細胞株によ
違うので、臨床応用を考えると前臨床試
これらの成果をもとに、現在は上記3
ってその効率にばらつきがあるが、この
験として霊長類を用いた実験が必要であ
点について、さらに条件の至適化を行っ
方法を用いると、どの細胞株でもほぼす
ると考えられる。我々はES細胞を用い
ており、近い将来ヒトiPS細胞と霊長類
べての細胞を神経系に誘導することがで
てカニクイザルパーキンソン病モデルに
疾患モデルを用いた前臨床試験でその効
きる。また、iPS細胞をいったんバラバラ
対する移植実験を行ってきた。その行動
果と安全性を検証したいと考えている。
にしてU型底の培養皿で培養し、球状の
細胞塊を形成させて神経分化を促進する
方法も開発した。この培養法と2種類の低
分子化合物を組み合わせることによって
フィーダー細胞を用いずに効率的な神経
細胞誘導が可能になった(左ページ上図)
。
(2)
ホスト脳環境の改善
移植細胞を効率よく生着させるには、
ホスト側の脳の環境を至適化することも
重要である。脳には移植用の針を刺入す
ると炎症が起こり、他家移植の場合には
免疫反応も起こる。我々は炎症・免疫反
応が移植細胞の神経分化を抑制すること
を明らかにしてきたが、今年度の成果と
しては、基底膜マトリクスであるマトリ
ゲルと細胞を一緒に移植することによっ
て、より多くのドーパミン神経細胞が生
最近の主な論文のリスト
1. Morizane A, Doi D, Kikuchi T, Nishimura K, Takahashi J.
Small molecule inhibitors of BMP and Activin/Nodal signals promote highly
efficient neural induction from human pluripotent stem cells.
J Neurosci Res.89:117-126,2011.
2. Saiki H, Hayashi T, Takahashi R, Takahashi J.
Objective and quantitative evaluation of motor function in a monkey model of
Parkinson s disease.
J Neurosci Methods 190: 198-204, 2010.
3. Uemura M, Refaat MM, Shinoyama M, Hayashi H, Hashimoto N, Takahashi J.
Matrigel supports survival and neuronal differentiation of grafted embryonic
stem cell-derived neural precursor cells.
J Neurosci Res. 88: 542-551, 2010.
4. Hayashi H, Morizane A, Koyanagi M, Ono Y, Sasai Y, Hashimoto N, Takahashi J.
Meningeal cells induce dopaminergic neurons from embryonic stem cells.
Eur J Neurosci. 27: 261-268, 2008.
5. Koyanagi M, Takahashi J, Arakawa Y, Doi D, Fukuda H, Hayashi H, Narumiya S,
Hashimoto N.
Inhibition of the Rho/ROCK pathway reduces apoptosis during transplantation of
embryonic stem cell-derived neural precursors.
J Neurosci Res. 86: 270-280, 2008.
29
増殖分化機構研究部門
山下 潤 M.D.,Ph.D.
プロフィール
1965 年京都市生まれ。90 年に京都大学医学部
を卒業し、93 年同大学大学院医学 研 究科博士
課程(生理系専攻)入学、
98 年博士号取得(医学)、
准教授
日本学術振興会特別研究員となる。同大学大学
院医学研究科分子遺伝学助手、同助教授を経て、
2003 年から同大学再生医科学研究所 幹細胞分
化制御研究領域 助教授として独立。2008 年同
大学物質−細胞統合システム拠点 iPS 細胞研究
センター・准教授(兼任)
、2010 年から現職。
薬 剤処理により分裂増殖した心筋細胞。ES 細胞
から誘導・純化した心筋細胞(赤)において、薬
(DNA
剤処理により多数の EdU の核への取り込み
複製)
(緑)を認める。
研究スタッフ
●
准教授
山下 潤
●
研究員
武田匡史
山水康平
藤原正隆
星野託広
●
テクニカルスタッフ
志野瑞穂
片山志織
●
大学院生
魚崎英毅
楢崎元太
松永太一
土井健人
升本英利
松尾武彦
福島弘之
熊本博美
●
研究生
劉
●
秘書
村山千里
今年度は、以下の5項目に関して、種々
のアプローチを行った。
用する強力な心筋誘導物質を同定した。
3)効率的ヒトiPS細胞心筋分化誘導法の
1. ES・iPS細胞の心筋分化誘導
開発:これらの成果をもとに新しい高効
1)心筋の増殖制御:心筋は分化後早期
率分化誘導法の開発を行っている。CSA
に増殖を止めてしまうが、その機構は不
法をヒトiPS細胞分化誘導法(END2細
明である。心筋の増殖抑制機構の解明と
胞法; Mummery,
由来早期心筋細胞を用いて心筋細胞の増
Circulation, 2003)
に適用することにより、従来の約4倍余
の効率でヒトiPS細胞からの心筋分化が
殖を誘導する低分子化合物を探索した。
誘導された。誘導されたヒト心筋細胞は
現在までに四つの異なるシグナル経路を
心拍数の変動やQT時間延長など種々の
制御する化合物を同定した。適切な化合
薬剤応答性を示し、ヒト心筋モデル細胞
心筋増殖の制御を目的として、ES細胞
物の組み合わせにより、誘導後の純化心
筋細胞の細胞数を最大14倍に増加でき
として利用できると考えられた
(Fujiwara, PLoS ONE , 2011)。
ている(投稿中;特許出願済)。
(上図)
的な心筋分化誘導を可能にすること及び
2. 心筋再生に関する
新しい細胞治療戦略
将来的な心筋再生薬としての利用を目指
心組織シートによる細胞移植法の開発:
して、ケミカルライブラリーから心筋分
我々は、マウスES及びiPS細胞から血管
化誘導活性物質のスクリーニングを行っ
内皮細胞・壁細胞、心筋細胞、血球細胞
ている(早稲田大学と共同研究)。2009
といった循環器系細胞を系統的に誘導す
年我々は、免疫抑制薬のサイクロスポリ
る新しい方法の構築に成功した
2)新規心筋分化誘導物質の同定:効率
ンA(CSA)が強力な心筋分化誘導作用
(Yamashita,
る こ と を 明 ら か に し た が(Yan,
Nature, 2000; FASEB J,
2005; Narazaki, Circulation, 2008他)。
現在、ES・iPS細胞から誘導した細胞と
Biochem Biophys Res Commun., 2009;
温度感受性培養皿を用いた細胞シート技
を有し、心筋分化効率を約10倍促進す
30
特許出願済)、CSAの1/1000の濃度で作
CiRA ANNUAL REPORT 2010
術(東京女子医大と共同研究)を組み合
わせた新しい細胞移植技術を開発してい
る。ES細胞から誘導した細胞で構成し
た拍動心組織シートを積層化し、ラット
心筋梗塞モデルへの移植実験を行ってい
る(京都大学心臓血管外科と共同研究)
(投稿準備中)
。(下図)
心筋細胞の増殖・分化、治療への応用を目指し、
遺伝子、分子、細胞、組織を幅広く研究
山下研究室では、心筋が早期に増殖を止める機構の解明や、増殖・分化のコントロー
ルによる心筋細胞の再生医療を目指している。ES 細胞由来の心筋細胞を使って増殖を抑
制する化合物を見つけたほか、心筋再生薬となる可能性のある薬剤をスクリーニングし、
免疫抑制薬サイクロスポリン A(CSA)がその候補となることを報告した。さらに、これ
らの成果をヒト iPS 細胞の心筋分化誘導に応用し、分化効率を上げている。
3. 血管分化多様化機構の解析
1)動静脈分化機構の解明:我々はこれ
まで、動脈・静脈・リンパ管の3種類の
内皮細胞の分化誘導に成功してきたが
( Yurugi-Kobayashi,
Arterioscler
Thromb Vasc Biol., 2006; Kono,
Arterioscler Thromb Vasc Biol., 2006)、
また、マウスの ES 細胞と iPS 細胞から血管や心筋、血球の細胞を系統的に誘導する方
法を構築し、マウス ES 細胞由来の心筋細胞をシート状に加工して心筋梗塞モデルのラッ
トの患部に貼り、心機能を回復させることにも成功した。
血管の動脈と静脈の分化、血管内皮細胞への分化に関する分子機構の解明にも取り組
んでおり、新しいシグナルやその制御機能を持つ薬剤も発見している。
ES 細胞や iPS 細胞の分化に関わる遺伝子の発現を抑制・誘導できる細胞ツールも開発
中で、心血管分化再生研究の基礎から応用まで幅広く取り組んでいる。
動静脈内皮細胞分化の分子機構をさらに
詳 細 に 検 討 し、cAMPシ グ ナ ル 下 で
4. 幹細胞分化の
5. 幹細胞分化研究の
PI-3 キ ナ ー ゼ を 介 し て Notch と β
-cateninシグナルが同時に活性化される
基本的分子機構の解析
新しい基本ツールの開発
幹細胞初期分化制御機構の解析:未分化
遺伝子ノックダウン−レスキュー ES・
ことにより動脈内皮細胞が誘導される新
ES細胞から三胚葉への分化の制御に関
し い 分 子 機 構 を 明 ら か に し た
し、エピジェネティックスを中心とした
iPS細胞システム:誘導性shRNA(また
はmicroRNA)と誘導性cDNA発現系を
分子機構を解析している。
組み合わせて、標的遺伝子の恣意的遺伝
(Yamamizu, J Cell Biol., 2010)。
子発現抑制と発現誘導が可能な細胞シス
2)cAMP/PKAの内皮分化促進機構の解
明:我々はこれまで、cAMPシグナルが
血管前駆細胞(Flk1陽性細胞)からの内
テムの構築を行っている。
皮分化を促進することを見出していたが、
cAMPの下流でPKA(protein kinase
A)がVEGF(血管内皮増殖因子)の受容
体であるFlk1及びneuropilin1の発現を
増加させることにより、血管前駆細胞の
VEGFへの反応性を亢進させていること
を 明 ら か に し た(Yamamizu, Blood,
2009)。
積 層 化したマウス ES 細 胞 由 来 心 筋 組 織 シート。
ES 細 胞から誘 導・純 化した心血管 細 胞を温 度 感
受性培養皿上で再培養して作製。肉眼的にも拍動
が観察される。
最近の主な論文のリスト
1. Fujiwara M, Yan P, Otsuji TG, Narazaki G, Uosaki H, Fukushima H, Kuwahara K,
Harada M, Matsuda H, Matsuoka S, Okita K, Takahashi K, Nakagawa M, Ikeda T,
Sakata R, Mummery CL, Nakatsuji N, Yamanaka S, Nakao K, Yamashita JK.
Induction and enhancement of cardiac cell differentiation from mouse and
human induced pluripotent stem cells with cyclosporine-A.
PLoS ONE 6 : e 16734, 2011.
2. Yamamizu K, Matsunaga T, Uosaki H, Fukushima H, Katayama S, Hiraoka-Kanie M,
Mitani K, Yamashita JK.
Convergence of Notch and β -catenin signaling induces arterial fate in vascular
progenitors.
J Cell Biol. 189:325-338, 2010.
3. Yamamizu K, Kawasaki K, Katayama S, Watabe T, Yamashita JK.
Enhancement of vascular progenitor potential by protein kinase A through dual
induction of Flk-1 and Neuropilin-1.
Blood 114:3707-3716, 2009.
4. Yan P, Nagasawa A, Uosaki H, Sugimoto A, Yamamizu K, Teranishi M, Matsuda H,
Matsuoka S, Ikeda T, Komeda M, Sakata R, Yamashita JK.
Cyclosporin-A potently induces highly cardiogenic progenitors from embryonic
stem cells.
Biochem Biophys Res Commun. 379:115-120, 2009.
5. Narazaki G, Uosaki M, Teranishi M, Okita K, Kim B, Matsuoka S, Yamanaka S,
Yamashita JK.
Directed and systematic differentiation of cardiovascular cells from mouse
induced pluripotent stem cells.
Circulation 118:498-506, 2008.
31
増殖分化機構研究部門
長船健二 M.D.,Ph.D.
プロフィール
1971 年兵庫県たつの市生まれ。京都大学医学
部 卒業。腎臓 内科医。東 京 大学大学院 理学系
准教授
研 究 科博士課 程 修了。理学 博士。2000 ∼ 05
年東京大学(浅島 誠教授)で腎臓の発生と再生
を研 究。05 ∼ 08 年 ハーバード大 学 幹 細 胞 研
究 所 幹 細 胞 再 生 生 物 学 教 室(Douglas A.
Melton 教授)でヒト ES 細胞および iPS 細胞を
用いた膵臓再生を研究。08 年より現所属。
ヒト iPS 細胞から分化誘導された膵臓前駆細胞
研究スタッフ
●
准教授
長船健二
●
助教
グループの目標:腎・膵・肝の
再生医療用細胞や治療薬の開発
慢性腎臓病、糖尿病、肝不全などの難
本年度の進捗報告
1. 低分子化合物スクリーニング系の立
ち上げ
本年10月にBecton
豊田太郎
治性腎、膵、肝疾患は、医学的のみなら
研究員
ず医療経済面からも依然として世界的な
荒岡利和
問題である。さらに、その根治的な治療
Dickinson(BD)
社 製 の HTS(High-Throughput
Screening)オプションを導入し、当研
豊原敬文
法の一つである腎移植、膵島移植、肝移
究所に設置されているフローサイトメー
小髙真希
植も、深刻なドナー臓器不足となってい
ター FACS
る。この問題を解決するために、当研究
ローサイトメトリーを用いた低分子化合
グループでは、iPS細胞を用いた試験管
物の高速スクリーニング系を立ち上げた。
内での腎臓、膵臓、肝臓の再生を行い、
そして、ヒトiPS・ES細胞から腎臓を派
移植に提供できる薬としての細胞を作る
生させる胎生初期の組織である中間中胚
●
舩戸道徳
安野哲彦
●
テクニカルスタッフ
新井沙弥香
西村奈々香
Fortessa機に装着して、フ
ことや、新しい治療薬の開発を研究して
葉への分化誘導能を有する低分子化合物
黒瀬裕子
いる。発生生物学の知見に基づき、iPS
のスクリーニングを開始した。また、抗
大学院生
細胞からこれら三つの臓器の構成細胞を
体染色とイメージアナライザー GEヘル
塩田文彦
高効率に分化誘導する方法の確立を行っ
スケア社のIN
前 伸一
ており、増殖因子を用いて分化誘導を行
いた画像解析による高速スクリーニング
近藤恭士
うとともに、分化誘導能を有する低分子
系も立ち上げ、ヒトiPS・ES細胞から内
化合物を高速スクリーニングにより網羅
胚葉への分化誘導能を有する化合物スク
的に探索する。そして、これらの分化系
リーニングも開始した。
を用いて、(1)ヒト発生生物学の解析、
2. 腎臓再生
須藤智美
●
●
秘書
森口永里加
(2)細胞移植療法の開発、(3)難治性疾
ヒトおよびマウスiPS・ES細胞から主
患に対する新規疾患モデル作製、(4)新
に増殖因子の組み合わせを用いて腎臓を
しい治療薬の開発等の研究に発展させる
派生させる中間中胚葉を分化誘導する方
ことを目指している。
法の開発を開始した。
3. 膵臓再生
32
Cell Analyzer 2000を用
CiRA ANNUAL REPORT 2010
ヒト iPS 細胞から分化誘導された肝細胞
既存のヒトiPS・ES細胞から膵臓や肝
常染色体優性多発性嚢胞腎の患者体細胞より樹立された疾患特異的 iPS 細胞
確立した(上左図)。
臓を派生させる胎生初期の組織である胚
5. 疾患特異的iPS細胞を用いた新規試験
体内胚葉への分化誘導法を改良し、京都
管内疾患モデル作製
大学iPS細胞研究所が樹立したヒトiPS
腎臓をはじめとする全身の多数の臓器
株(201B6、201B7、253G1、
に嚢胞を形成し、嚢胞による腎臓構造の
253G4) 及 び ヒ ト ES 細 胞 株(H9、
KhES1、KhES3)にて70%以上の効率で
破壊などにより末期慢性腎不全に至る難
内胚葉を分化誘導する方法を確立した。
多発性嚢胞腎」の患者7例から疾患特異
そして、既存の方法を基にして内胚葉か
的iPS細胞を樹立した(上右図)。うち3
ら膵臓前駆細胞を約50 %の効率で分化
症例の原因遺伝子の変異を同定し、同疾
誘導することに成功した(左ページ上図)。
患にて傷害される罹患臓器への分化誘導
4. 肝臓再生
を開始した。また、腎臓を含む全身の臓
細
胞
治の遺伝性腎疾患である「常染色体優性
前述のヒトiPS・ES細胞から内胚葉へ
器の血管に炎症を起こす難治性疾患であ
の高効率の分化誘導を用いて、ヒトiPS
る「血管炎症候群」に属する「顕微鏡的
細胞から肝臓前駆細胞を経て、約30 %
多発血管炎」3例からの皮膚生検を完了
の効率にて肝細胞へ分化誘導する方法を
し、疾患特異的iPS細胞樹立を開始した。
腎臓・膵臓・肝臓の難治性疾患の治療を見据えた
細胞誘導や治療薬のスクリーニング
腎臓や肝臓、膵臓の難治性の病気を診療してきた内科医として、長船健二准教授はこ
れらの臓器の再生医療の必要性を痛感し、iPS 細胞や ES 細胞の試験管内での臓器再生を
ベースに、それらの分化誘導の効率を高める増殖因子や化合物の探索を行っている。
今年度は、分化誘導効率を定量的に評価できるフローサイトメトリーや画像解析を用い
て、ヒト ES 細胞やヒト iPS 細胞から腎臓を分化誘導する化合物のスクリーニングのシステ
ムを構築し、運用を始めた。
また、ヒトやマウスの iPS 細胞、ES 細胞から、腎臓、膵臓、肝臓の細胞を誘導する方
最近の主な論文のリスト
1. Osafune K. In vitro regeneration of kidney from
pluripotent stem cells.
Exp.Cell Res. 316(16) : 2571-2577, 2010.
2. Lau F, Ahfeldt T, Osafune K, Akutsu
H, Cowan CA. Induced pluripotent stem (iPS) cells:
an up-to-the-minute review. F1000 Biology Reports 1: 84, 2009.
3. Chen S, Borowiak M, Fox J, Maehr R,
Osafune K, Davidow L, Lam K, Peng
L, Schreiber S, Rubin L, Melton DA. A small molecule that directs
differentiation of human embryonic
stem cells into the pancreatic
lineage.
Nature Chem Biol.5(4):258-265, 2009.
4. Huangfu D, Osafune K, Maehr R,
Guo W, Eijkelenboom A, Chen S,
Muhlestein W, Melton DA. Induction of pluripotent stem cells
from primary human fibroblasts
with only Oct4 and Sox2.
Nature Biotechnol. 26(11):1269-1275,
2008.
5. Osafune K, Caron L, Borowiak M,
Martinez RJ, Fitz-Gerald CS, Sato Y,
Cowan CA, Chien KR, Melton DA. Marked differences in
differentiation propensity among
human embryonic stem cell lines.
Nature Biotechnol. 26(3):313-315,
2008.
法の開発・改良を進めており、特に膵臓では 70%以上の高率で内胚葉を分化誘導し、そ
こから約 50%の効率で膵臓前駆細胞を分化誘導することに成功している。
さらに、常染色体優性多発性嚢胞腎や血管炎症候群の患者から疾患特異的 iPS 細胞も
樹立し、現在、腎臓などへの分化誘導を始めている。
33
臨床応用研究部門
中畑龍俊 M.D.,Ph.D.
プロフィール
1945 年東京都狛江市生まれ。70 年信州大学医
学部医学科卒業後、昭和伊南総合病院、市立甲
副所長・部門長・教授
府病院、国立東信病院などを経て、信州大学医
学部附属病 院 助手(小児科)、飯田市立病 院小
児科医長を務める。80 年から 2 年間アメリカ合
衆国南カロライナ医科大学 research fellow。
83 年から信州大学医学部の助手、講師、助教
授を歴任し、93 年東京大学医科学研究所癌病
態学研究部教授、99 年京都大学大学院医学研
究 科 発 生 発 達 医 学 講 座 発 達 小 児 科 学 教 授、
2009 年京都大学物質−細胞統合システム拠点
iPS 細胞研究センター特定拠点教授副センター
長兼務。2010 年より現職。
研究スタッフ
我々の研究室では、iPS細胞を臨床研
天性筋疾患 2 について興味を持って研究
究と結びつけるために、さまざまな疾患
を進めており、これらの疾患の解析を進
助教
を持つ患者からiPS細胞を樹立し、これ
めている。
斎藤 潤
を用いて病態や病因を解析する研究を行
●
教授
中畑龍俊
●
1.疾患特異的iPS細胞の樹立
研究員
っている。疾患特異的iPS細胞研究を効
丹羽 明
率的に行うためには、1)疾患特異的iPS
我々の研究室では、本年までに血液・
大嶋宏一
細胞の樹立、2)病態を反映しうる適切
免疫・神経疾患8種20例以上の患者及び
な分化系の構築、3)分化させた細胞の
その家族からのiPS細胞を樹立している
解析、の三つの実験系を適切に構築し、
(現在樹立中のものも含む)3 。これらの
組み合わせる必要がある。我々は、主に
疾患の中には、疾患特異的な生物学的特
造血不全などの血液疾患、免疫不全症、
徴のため、iPS細胞樹立が非常に困難な
小児難治性神経疾患、先天性難聴 1
疾患が含まれる。このような疾患のiPS
●
春山宗忠
●
テクニカルスタッフ
佐々木裕子
山根真由
島悠香里
冨田翔太
、先
小柳ひろし
●
大学院生
田中孝之
加藤 格
柳町昌克
杉峰啓憲
伊木健浩
吉田路子
前川直也
●
秘書
渡邊春水
ヒト iPS 細胞から分化させた血球細胞。さまざまな種類の血球細胞に分化させることができる。
34
CiRA ANNUAL REPORT 2010
細胞を樹立することは、初期化機構の解
明にも寄与することが考えられるため、
iPS細胞樹立のためのさまざまな検討を
行っている。樹立したiPS細胞は、未分
化マーカー発現・導入遺伝子のサイレン
シング・奇形腫形成能・核型などを解析
疾患特異的 iPS 細胞を用いて小児の血液・免疫・
神経疾患の原因と治療を研究
小児科医でもある中畑龍俊教授は、長年子どもの難病の治療に取り組み、現在は疾患
特異的 iPS 細胞を用いて病因や病態を解析する研究を行っている。対象は造血不全などの
血液疾患、免疫不全症、小児難治性神経疾患、先天性難聴、先天性筋疾患などで、これ
し、適切なクローンを選別している。ま
まで 8 種 20 例以上の患者及びその家族からの iPS 細胞を樹立した。そして、樹立した疾
た、京都大学での疾患特異的iPS細胞研
患特異的 iPS 細胞を免疫不全マウスに移植して定着・再構築させる研究を進めている。さ
究の取りまとめを行っているほか、他の
らに、薬剤・化合物のスクリーニングや安全性の検証のための創薬ツールとして使うこと
文部科学省iPS細胞研究拠点とも連携し、
も計画している。これらの研究を細胞が初期化される機構の解明に役立てるのも目標だ。
樹立したiPS細胞株の理化学研究所バイ
オリソースセンターへの積極的な寄託を
推進している。
2.分化系の構築
また、中畑研究室は、疾患特異的 iPS 細胞のライブラリ構築の要として、京都大学内で
の疾患特異的 iPS 細胞株とその研究のとりまとめ、理化学研究所バイオリソースセンター
への寄託の推進も担っている。
や、新しい治療薬の探索にも有用である。
質の高い解析を行うためには、適切な
来年度以降の展望
患者由来のiPS細胞は、既定の遺伝的
分化系の構築が必要不可欠である。我々
病因をもつ疾患について、細胞レベルで
細胞は、遺伝子治療との組み合わせで患
の研究室では、主に血球分化系の改良に
病態を解明する上で有用である。なお、
者固別の細胞移植治療を提供し得ると考
取り組んでおり、生体内での分化系路を
疾患特異的iPS細胞は、未知の遺伝的病
えられる。
適切にトレースできる独自の系を構築し
因を持つ患者からさまざまな体細胞を得
ている。この血球分化系を用いると、赤
ることにより、細胞間の相互作用や、多
1. 京都大学医学 研 究科 耳鼻咽 喉 科学 教 室 伊藤 壽 一 教
血球・好中球・血小板など、さまざまな
様な疾患の病因形成に影響を及ぼす環境
2. 京都大学医学研究科 発達小児科学 平家俊男教授との
機能的な血球細胞を作成することができ
因子について理解するうえで手掛かりと
るため、これを用いて疾患解析を行って
なるだろう。また、薬剤の安全性の検証
いる。また、in vitroで分化させた血球を、
我々の研究室で開発したNOGマウスな
どの免疫不全マウスに移入し、in
vivoで
の血球系を再構築する研究を進めている。
3.分化細胞の解析
疾患特異的iPS細胞を用いると、一つ
の疾患に対して複数の種類の細胞や組織
を横断的に解析し、疾患の全体像をとら
えることができる。我々が興味を持って
いる小児先天性疾患では、しばしば血球
系と軟骨系、血球系と神経系など、複数
の組織に異常がまたがって発生するため、
これらを包括的に解析することは、疾患
の理解に非常に有用である。現在いくつ
かの疾患でin
vitroでの病態再現に成功
しているが、これをさらに推し進め、疾
患の病因・病態に迫る研究へと発展させ
たいと考えている。また、疾患特異的
iPS細胞は難治性疾患の創薬ツールとし
ても非常に有用であると考えられており、
in vitroでの表現型を解析する薬剤・化
合物のスクリーニングを行って、難病に
苦しむ患者の診療に貢献できる研究を目
指す。
安全性が確保されれば、患者由来のiPS
授との共同研究
共同研究
3. 京都大学 iPS 細胞研究所 浅香勲准教授・井上治久准教授・
沖田圭介講師との共同研究を含む
最近の主な論文のリスト
1. Mizuno Y, Chang H, Umeda K, Niwa A, Iwasa T, Awaya T, Fukada SI, Yamamoto H,
Yamanaka S, Nakahata T, Heike T.
Generation of skeletal muscle stem/progenitor cells from murine induced
pluripotent stem cells.
FASEB J. 24(7)2245-2253, 2010.
2. Chang H, Yoshimoto M, Umeda K, Iwasa T, Mizuno Y, Fukada SI, Yamamoto H,
Motohashi N, Suzuki YM, Takeda S, Heike T, Nakahata T.
Generation of transplantable, functional satellite-like cells from mouse embryonic
stem cells.
FASEB J. 23(6) 1907-1919, 2009.
3. Yokoo N, Baba S, Kaichi S, Niwa A, Mima T, Doi H, Yamanaka S, Nakahata T, Heike T.
The effects of cardioactive drugs on cardiomyocytes derived from human induced
pluripotent stem cells.
Biochem Biophys Res Com. 387(3) 2482-2488, 2009.
4. Niwa A, Umeda K, Chang H, Saito M, Okita K, Takahashi K, Nakagawa M,
Yamanaka S, Nakahata T, Heike T.
Orderly Hematopoietic Development of Induced Pluripotent Stem Cells via Flk-1+
Hemoangiogenic Progenitors.
J Cell Physiol. 221(2):367-377, 2009.
5. Higashi AY, Ikawa T, Muramatsu M, Economides AN, Niwa A, Okuda T, Murphy AJ,
Rojas J, Heike T, Nakahata T, Kawamoto H, Kita T, Yanagita M.
Direct hematological toxicity and illegitimate chromosomal recombination caused
by the systemic activation of CreERT2.
J Immunol. 182(9):5633-5640, 2009.
6. Kato M, Sanada M, Kato I, Sato Y, Takita J, Takeuchi K, Niwa A, Chen Y, Nakazaki
K, Nomoto J, Asakura Y, Muto S, Tamura A, Iio M, Akatsuka Y, Hayashi Y, Mori H,
Igarashi T, Kurokawa M, Chiba S, Mori S, Ishikawa Y, Okamoto K, Tobinai K,
Nakagama H, Nakahata T, Yoshino T, Kobayashi Y, Ogawa S
Frequent inactivation of A20 in B-cell lymphomas.
Nature 459:712-716,2009.
35
臨床応用研究部門
井上治久 M.D.,Ph.D.
プロフィール
1967 年京都市生まれ。1992 年京都大学医学部
卒業。京都大学大学院で医学博士号取得。京都
准教授
大学医学部附属病院神経内科、財団法人住友病
院神経内科、国立精神・神経センター神経研究
所、ハンガリー・ペイチ医科大学神経病理学教
室を経て、99 年から理 化学 研 究 所脳科学総合
研究センター、ハーバード大学医学部マクリーン
病院に勤務後、2005 年京都大学大学院医学研
究科脳病態生理学講座臨床神経学へ。2009 年
京都大学 物質 - 細胞 統合システム拠 点 iPS 細胞
研究センターを経て、現職。
研究スタッフ
発見によって作り出すことが可能になっ
研究員
神経変性疾患特異的iPS細胞の
樹立と分化誘導、解析
筋萎縮性側索硬化症(ALS)やパーキ
北岡志保
ンソン病、アルツハイマー病など、中枢
可能であった患者由来の細胞を用いるこ
八幡直樹
神経系の細胞が変性・消失することで引
とによって、分子機構のさらなる理解に
江川斉宏
き起こされる難治性神経変性疾患の治療
基づく、ALSなど難治性神経変性疾患の
法開発は、特に高齢化社会では喫緊の課
制圧を目指している。
●
准教授
井上治久
●
●
テクニカルスタッフ
月田香代子
川田三代
唐津歓子
岩本由美子
足立史彦
●
リサーチアシスタント/
題の一つである(Protein
Folding and
M i s f o l d i n g : Ne u r o d e g e n e ra t i v e
Diseases, Focus on Structural Biology
series vol. 7, Springer, New York,
97-110,2009)。分子生物学的研究等の
私達の研究室では、iPS細胞作製技術の
た、これまでは手に入れることが全く不
神経変性疾患特異的iPS細胞は、
「疾
患モデリング」、
「疾患材料」、
「移植治療」
の三つの方向性に用いることができる
(Exp Cell Res. 316; 2560-2564, 2010)
。
「疾患モデリング」は培養皿の中で病態を
京都大学医学部神経内科、大学院生
進展により、神経変性疾患の分子機構の
再現し、病因メカニズムを明らかにし、
近藤孝之
理解は深まりつつある。しかしながら、
家族性のみならず孤発性疾患の病態をも
未だ根本的な予防・治療法は確立されて
解明する可能性を生み出す。さらに創薬
いない。 ALS において、病変の首座は、
スクリーニングのプラットフォームとし
運動ニューロンといわれる、体の随意運
ての使用や、神経変性イメージングとい
動をコントロールする神経細胞にある。
った新世代の研究ツールとなる。通常で
運動ニューロンは、頭蓋骨や脊椎骨で囲
あれば入手困難な「疾患材料」を用いた
まれた体深部に位置するため、直接に病
分子生物学的解析を行うことによって新
態を解析するには限界があった。そのた
たな病因が解明される可能性があり、
「移
め、遺伝学的解析、病理組織・遺伝子改
植治療」に用いる神経細胞•グリア細胞を
変動物・細胞モデルなどの生化学的・組
作出することも可能になる。
●
秘書
村井和美
36
織学的解析を中心にこれまで研究が進め
本年度、私達の研究室では、ALS等の
られてきた。すなわち、患者の病態を間
神経変性疾患特異的iPS 細胞を体系的に
接的にしか解析することができなかった。
樹立を進め、神経系譜に分化誘導し、in
CiRA ANNUAL REPORT 2010
中枢神経系の難病の解明に挑む
井上研究室では、根本的な予防法や治療法が見つかっていない筋萎縮性側索硬化症
(ALS)やアルツハイマー病などの難治性神経変性疾患の制圧を研究テーマとしている。
疾患由来の細胞から iPS 細胞を樹立して、運動ニューロンなどの中枢神経系の細胞へ分化
させ、その過程を詳しく調べることで、病気の本態や予防法・治療法を探っている。
本年度は、ALS などの患者由来の皮膚細胞から iPS 細胞を作成し、その細胞を運動ニ
ューロンに分化誘導して、病気と似た状態を作り出すことを目標とした。そして、疾患特
異的 iPS 細胞を効率よく体系的に樹立して、神経細胞に分化させる方法の開発に取り組ん
だ。これによって、これらの病気に関係すると考えられている異常タンパクが蓄積した状
態や、病気に関連する分子や薬効の鍵となりうる分子も見出しつつある。
筋萎縮性側索硬化症( ALS)患者由来 iPS 細胞
vitro で神経変性疾患微小環境(ニッチ)を
性疾患細胞において明らかになると考え
再現することを目指した研究を推進した。
ている。また変異SOD1による家族性
これまで、疾患特異的 iPS細胞から疾
なることを観察した。そこで、疾患標的
ALSに対しては複数の既存治療薬候補を
選定するプラットフォームを作製し(J
Biomol Screen. in press)、同定した既
存治療薬候補の治療効果をiPS細胞を用
細胞であるニューロンを迅速に分化誘導
いた疾患再現モデル及び動物モデルを用
し、純化入手する方法を開発した。その
いて検証している。
患標的細胞への分化誘導効率が、同一人
物由来であっても、iPS細胞株により異
ことにより、トランスクリプトーム解析
iPS細胞作製技術を用いた疾患解析は
をはじめとした網羅的解析を行い、これ
その知見が蓄積しつつある。現状では、
まで全く知られていなかった分子病態•
「疾患モデリング」は、疾患発症に対する
新たな創薬ターゲットを明らかにしつつ
遺伝的要因の寄与が高い一部の疾患に限
ある。また神経変性疾患の病因に深く関
られていたが、今後、加齢要因や環境因
与していると考えられてきた異常タンパ
子等の研究により、神経変性疾患を含む
ク質の蓄積と神経細胞死の明確な関係が
より広い疾患への応用が可能になると考
iPS細胞より分化誘導したヒトの神経変
えられる。
最近の主な論文のリスト
1. Murakami G, Inoue H, Tsukita K, Asai
Y, Amagai Y, Aiba K, Shimogawa H,
Uesugi M, Nakatsuji N, Takahashi R.
Chemical library screening identifies
a small molecule that downregulates
SOD1 transcription for drugs to treat
ALS.
J Biomiol Screen. in press.
2. Inoue H.
Neurodegenerative disease-specific
induced pluripotent stem cell
research.
Exp Cell Res. 316(16);2560-2564, 2010.
3. Inoue H, Kondo T, Lin L, Mi S, Isacson
O, Takahashi R.
Protein misfolding and axonal
protection in neurodegenerative
diseases.,
Protein Folding and Misfolding:
Neurodegenerative Diseases, Focus
on Structural Biology series vol. 7,
Springer, New York, 97-110, 2009.
4. 八幡直樹、井上治久
疾患特異的 iPS 細胞を用いた神経変性疾患
の研究
日本生物学的精神医学会誌 2010. 印刷中
5. 近藤孝之、井上治久、松本理器、池田昭夫、
高橋良輔
iPS 細胞を用いたてんかん研究
Epilepsy 4(2), 29-33, 2010.
ALS 脊髄運動ニューロン内の封入体(写真提供:京都大学大学院医学研究科脳病態生理学講座臨床神経学
伊東秀文講師)
37
臨床応用研究部門
櫻井英俊 M.D.,Ph.D.
プロフィール
1973 年 岐阜県 池 田 町生まれ。1998 年 名古屋
大学医学部医学科卒業後、名古屋掖済会病院で
講師
研 修し、腎臓内科医 員として勤 務。2001 年∼
05 年名古屋大学大学院医学系研究科博士課程、
医学博士号取得。この間、理化学研究所・発生
再生科学総合研究センター・幹細胞グループ(西
川研究室)にて学外研究。2005 年から長寿科
学振興財団リサーチ ・レジデントとして、名古屋
大学大学院医学系研究科・分子細胞免疫学講座
で研究。2008 年 6 月から京都大学物質−細胞
統合システム拠点 iPS 細胞研究センター特定研
究員、2009 年 11 月から現職。
マウス ES 細胞由来のサテライト細胞から分化した
成熟骨格筋
研究スタッフ
当研究室では、難治性筋疾患、特に筋
サテライト細胞に分化し生着させること
ジストロフィー症の治療法の確立を目指
を目指している。この移植細胞由来サテ
している。我々が目指している治療への
ライト細胞が生体内で増殖し、再生に寄
槇 いづみ
プロセスは二つある。一つは細胞移植治
与して、Dystrophinを発現する正常な
西野永希子
療であり、もう一つは薬剤の開発である。
筋繊維が増加し、治療効果を生むと考え
近藤潤一
前者においては、iPS細胞から分化させ
ている。
大学院生
た前駆細胞を細胞移植のソースとして利
酒井大史
田中章仁
庄子栄美
これまでのマウスES細胞を用いた研
用し、モデル動物への移植実験により治
究 で、 血 小 板 由 来 成 長 因 子 受 容 体 α
●
講師
櫻井英俊
●
●
●
テクニカルスタッフ
秘書
野田 桂
療効果を研究している。後者においては、
(PDGFR-α)が沿軸中胚葉(骨、軟骨、
患者から樹立されたiPS細胞を用いて、
骨格筋の前駆組織)のマーカーとして活
in vitroの疾患モデル構築を研究し、薬
用できることがわかっている(論文3)
。
剤開発のツールとしての利用を目指して
また、このPDGFR-α陽性細胞を筋損
いる。
傷モデルマウスの骨格筋に移植すると、
骨格筋の幹細胞であるサテライト細胞に
1.細胞移植治療
38
分化することも報告している(論文2)
。
筋ジストロフィー症の中でも重症
さらに、マウスの初期発生において沿軸
で 患 者 数 も 多 い Duchenne 型 筋 ジ ス
中胚葉形成に重要な因子を、無血清培養
ト ロ フ ィ ー 症(Duchenne
muscular
系に添加してES細胞の分化誘導を行う
dystrophy:DMD)は、X染色体優性遺
と、高い効率でPDGFR-α陽性の沿軸
伝の致死的な筋疾患である。その原因は
中胚葉細胞が分化することも明らかにし
タンパク質Dystrophinが欠損すること
た(論文1)。マウスiPS細胞においては、
により筋細胞膜の脆弱性を生み、慢性炎
ES細胞と比べ成長因子の要求性に違い
症が惹起され、著明な筋萎縮を生じるた
が あ っ た が、 ほ ぼ 同 程 度 の 効 率 で
めである。そこで、筋ジストロフィー症
PDGFR-α陽性細胞を誘導することに
に対する細胞移植治療の戦略として、移
も成功している。そして、赤色蛍光タン
植された生体内で骨格筋の幹細胞である
パク質DsRedを恒常的に発現している
CiRA ANNUAL REPORT 2010
マウスiPS細胞を分化させ、PDGFR-α
陽性細胞を分離しDMDモデルマウスの
骨格筋に移植すると、一部の細胞はサテ
ライト細胞に分化することを確認してい
る。またDystrophin陽性、DsRed陽性
の筋繊維も認め、筋再生に寄与している
ことも明らかにしてきた。しかしながら
筋ジストロフィー症への治療戦略:iPS 細胞による
細胞移植治療と疾患 iPS 細胞による薬剤開発
骨格筋の慢性の炎症と萎縮が起こる難病の筋ジストロフィー症には、有効な治療法が
確立されていない。そこで、櫻井研究室では、正常な iPS 細胞を骨格筋の幹細胞に分化さ
せて移植し、骨格筋を増やす細胞治療を目標としている。
すでにマウス ES 細胞を用いた研究で、血小板由来成長因子受容体α (PDGFR- α ) を持
その生着効率は今のところ非常に低いた
つ細胞では、筋損傷モデルマウスの骨格筋内で骨格筋幹細胞に分化させることに成功し、
め、生着の良い移植方法を検討している。
マウス iPS 細胞でも PDGFR- α陽性細胞の誘導や DMD モデルマウスの骨格筋での幹細胞
また、ヒトiPS細胞からの骨格筋前駆
細胞誘導も研究を進めている。これまで
ヒトES細胞で報告されてきた方法もい
くつか試験したが、再現性が得られない
への分化も報告している。筋繊維の増加も確認しているが、生着効率を上げるべく、移植
方法を検討中だ。また、ヒト iPS 細胞を段階的に分化誘導する方法も研究している。
また、これまで開発してきた患者由来の疾患特異的 iPS 細胞を筋ジストロフィーの病態
解明や薬剤開発に応用することを目指して、細胞内の分子を可視化できるシステムを構築
する研究も開始した。
ものも多くあった。その原因は、段階的
に誘導していないため、どの時点で分化
できていないのかがわからないことにあ
する方法がある。現在マーカーとなる転
り、機序としてはDysferlin欠損により筋
ると考える。そのため我々はまず沿軸中
写因子に緑色蛍光タンパク質GFPをノ
細胞膜の再生の遅延が生じるためと考え
胚葉を誘導し、次に体節そして皮筋節へ
ックインしたヒトiPS細胞を作成してい
られている。DMDほど病態研究が進ん
と段階的に分化誘導する方法を試みてい
る。もう一つの戦略は、転写因子の強制
でいないため、まずは病態解明のための
る。現在のところ体節レベルの細胞群を
発現により分化誘導させる方法である。
ツールとして貢献できればと考えている。
分離することには成功している。そこで、
この細胞が皮筋節へと分化しサテライト
細胞への分化能を有するかどうかの解析
を進めている。
2.In vitro疾患モデルの構築
対象疾患としては重症で患者数も多い
DMDをまず考えている。当研究所の中
畑研究室と共同研究で、DMD患者由来
の繊維芽細胞から作成されたiPS細胞を
使用する予定である。DMDに対する創
薬の作用点としては炎症の慢性化を想定
In vitroで筋ジストロフィー症を再現
しおり、慢性炎症が再現でき、可視化で
し、薬剤開発のツールとして用いるため
きるようなシステムの構築を目指す。ま
には、非常に高い効率で成熟骨格筋を分
た、熊本大学神経内科との共同研究で、
化誘導する必要がある。そのための戦略
として、一つはPDGFR-αよりももっ
Dysferlin欠損によって起こる三好型筋ジ
ストロフィー症の患者由来iPS細胞も解析
と骨格筋特異的なマーカーを用いて純化
する。こちらは遠位筋が病理の中心であ
マウス iPS 細胞から試験管内で分化させた成熟骨格筋
最近の主な論文のリスト
1. Sakurai H, Inami Y, Tamamura Y,
Yoshikai T, Sehara-Fujisawa A, Isobe K.
Bidirectional induction toward
paraxial mesodermal derivatives
from mouse ES cells in chemically
defined medium.
Stem Cell Res. 3(2-3):157-169, 2009.
2. Sakurai H, Okawa Y, Inami Y, Nishio
N, Isobe K.
Paraxial mesodermal progenitors
derived from mouse embryonic stem
cells contribute to muscle
regeneration via differentiation into
muscle satellite cells.
Stem Cells 26(7) :1865-1873, 2008.
3. Sakurai H, Era T, Lakt LM, Okada M,
Nakai S, Nishikawa S, Nishikawa SI.
In vitro modeling of paraxial and
lateral mesoderm differentiation
reveals early reversibility.
Stem Cells 24(3): 575-586, 2006.
4. Tada S, Era T, Furusawa C, Sakurai H,
Nishikawa S, Kinoshita M, Chiba T,
Nishikawa SI.
Characterization of mesendoderm: a
diverging point of the definitive
endoderm and mesoderm in
embryonic stem cell differentiation
culture.
Development 132(19): 4363-4374,
2005.
39
規制科学部門
木村貴文 M.D.,Ph.D.
プロフィール
1961 年大阪府堺市生まれ。奈良県立医科大学
卒業。医学博士。大阪大学医学部第三内科及び
細胞調製施設長・教授
関連病院での臨床経験(内科)の後に京都府立
医科大学衛生学講座でヒト造血幹細胞の増殖・
分化の研究に着手。関西医科大学衛生学講座、
大阪府赤十字血液センター研究部を経て 2010
年 4 月より現職。
開放型細胞調製室
研究スタッフ
●
教授
木村貴文
●
テクニカルスタッフ
谷 美穂
●
秘書
角谷素代子
が発足すると同時に、所内に附置された
施設・設備のバリデーションと
性能評価試験
細 胞 調 製 施 設(FiT:Facility
空調やセキュリティーシステムには
2010年4月にiPS細胞研究所(CiRA)
Cell Therapy)でのiPS細胞作製に向け
た 取 り 組 み を 開 始 し た。FiTの 使 命 は
「iPS細胞を用いた再生医療(細胞治療)
じまり、四つの従来型開放系細胞培養
の実現化」に不可欠な「安全かつ高品質
付けられたすべての機器についてバリ
の細胞を調製すること」である。それに
デーションや性能評価試験を行い、細
室(上図)とアイソレータが設置された
二つの閉鎖系細胞培養室(下図)に備え
は「施設・設備」と「システム」という
胞調製を無菌的かつ安全に行えること
FiTを構成する2つの大きな要素の整備
を確認した。
が前提条件となる。
閉鎖型細胞調製室
40
for iPS
CiRA ANNUAL REPORT 2010
組織作り
FiTの運営に必須のシステムとは組織
と文書体系のことである。まず組織の構
築に着手し、内規の制定と運営委員会の
設置を実現した。これでFiT運営管理の
透明性の担保や第三者による評価が可能
となる。GMP(Good
Manufacturing
Practice: 製造管理及び品質管理規則)に
準拠した業務を行う組織として施設長の
下に製造部門と品質管理部門を設置し、
それぞれ製造管理責任者と品質管理責任
者を置いた。運営委員会では、FiTで行
わ れ る 研 究 内 容 や 予 算 及 び SOP
(Standard
Operating Procedures:標
再生医療実現の鍵を握る、安全で高品質な
iPS 細胞作製
医療現場で使うことを想定すると、iPS 細胞には、医薬品と同様、安全の担保が不可欠
で、GMP(Good Manufacturing Practice: 製造管理及び品質管理規則)に準拠した作
製や安定的な供給が求められる。しかも、 生きている細胞 として 鮮度 を保ったまま
臨床現場に届けなければならない。木村貴文教授は、新棟に誕生した細胞調製施設(FiT:
Facility for iPS Cell Therapy)の責任者として、iPS 細胞を用いる細胞治療の実現に欠か
せない、安全で高品質な iPS 細胞作製に取り組む。
これまで FiT の細胞培養室の機器の設置、調整、機能の評価を行い、空調やセキュリテ
ィーを確認、同時に、運用のための組織やルールも整備してきた。
また、製造や利用の過程で手続き上必要となる多数の書類や手順書も用意している最
中だ。近く、京都大学医学部附属病院での骨髄採取から搬送、FiT での iPS 細胞樹立、そ
して病院への出荷までのプロセスをたどる仮運用実験を行う予定で、現在その準備に追
われている。
準作業手順書)を含む各種文書体系とそ
れに基づいた業務の実施状況などが審議
される。特に、研究課題の実施について
その新たな枠組み作りと併行してヒト骨
作業工程を実施することにより、SOP
は運営委員会による審議を経て所長によ
髄細胞(間葉系幹細胞を含む)の培養を
やプロセスそのものの見直しを繰り返し
る承認が必要である。培養方法や品質試
仮運用実験として開始予定である。京都
行うことが可能である。培養以外にも品
験方法の検討など、より実務的な内容に
大学医学部附属病院での骨髄採取から搬
質試験や凍結保存に用いる多くの機器や
ついては運営委員会の下部組織である実
送に続き、FiTへの受け入れ、細胞分離、
試験法のバリデーションやベリフィケー
務者会議で検討することとした。
培養、凍結保存、最終的には解凍の後に
ションが不可欠であるが、早期にこれを
再び培養し病院に出荷するまでの一連の
解決し骨髄細胞の培養に着手したい。
文書体系の整備
京都大学医学部附属病院では、これま
で膵頭細胞移植や樹状細胞移植あるいは
無腐性骨壊死症に対する骨髄間葉系幹細
胞移植などの細胞治療が数多く行われて
きた。これらの臨床研究における細胞調
製の実績を持つ分子細胞治療センター
(前川平センター長)のスタッフの方々に
当初より多くの協力を得て、GMPの要
求する三管基準書(製造管理基準書、品
質管理基準書、衛生管理基準書)及びバ
リデーションに関する手順書、文書管理
に関する手順書、自己点検に関する手順
書など、優先度の高い文書の作成から着
手した。現在、60あまりの各種基準書
及び手順書からなるFiT文書体系バージ
ョン1の完成に向けて校正作業を繰り返
しながら、仮運用実験に向けた準備を進
めている。
仮運用実験
ヒトiPS細胞(及びiPS細胞由来組織
細胞)の作製や臨床応用を目的として、
安全で高品質な細胞を作製するための培
養法や品質評価法に関する新たな枠組み
が形成されようとしている。FiTでは、
最近の主な論文のリスト
1. Yagita M, Yasui K, Hori Y and Kimura T.
Reversible IgA deficiency after severe Gram-negative bacteria infection in a case
with systemic sclerosis.
Mod Rheumatol. 20, 2010. in press.
2. Yasui K, Angata T, Matsuyama N, Furuta RA, Kimura T, Okazaki H, Tani Y, Nakano
S, Narimatsu H and Hirayama F.
Detection of anti–Siglec-14 alloantibodies in blood components implicated in
nonhemolytic transfusion reactions.
Transfusion in press.
3. Kimura T, Matsuoka Y, Murakami M, Kimura T, Takahashi M, Nakamoto T, Yasuda K,
Matsui K, Kobayashi K, Imai S, Asano H, Nakatsuka R, Uemura Y, Sasaki Y, and Sonoda Y.
In vivo dynamics of human cord blood-derived CD34- SCID-repopulating cells
using intra-bone marrow injection.
Leukemia 24:162-168, 2010.
4. Matsuyama N, Hirayama F, Wakamoto S, Yasui K, Furuta RA, Kimura T, Taniue A,
Fukumori Y, Fujihara M, Azuma H, Ikeda H, Tani Y, Shibata H.
Application of the basophil activation test in the analysis of allergic transfusion reactions.
Transf Med. 19:274-277, 2009.
5. Matsuyama N, Hirayama F, Yasui K, Kojima Y, Furuta RA, Kimura T, Taniue A,
Fukumori Y, Tani Y, Shibata H.
Non-HLA white cell antibodies in nonhemolytic transfusion reactions.
Transfusion 48:1526-1528, 2008.
6. Yasui K, Furuta RA, Matsuyama N, Fukumori Y, Kimura T, Tani Y, Shibata H,
Hirayama F.
Possible involvement of heparin-binding protein in transfusion-related acute lung injury.
Transfusion 48:978-987, 2008.
7. Kimura T, Asada R, Wang J, Kimura T, Morioka M, Matsui K, Kobayashi K, Henmi
K, Imai S, Kita M, Tsuji T, Sasaki Y, Ikehara S, Sonoda Y.
Identification of long-term repopulating potential of human cord blood-derived
CD34-flt3- severe combined immuno-deficiency-repopulating cells by intra-bone
marrow injection.
Stem Cells 25:1348-1355, 2007.
41
規制科学部門
青井貴之 M.D.,Ph.D.
プロフィール
1973 年 神戸 市生まれ。神戸大学医学 部 卒 業、
京都大学大学院医学研究科博士課程修了。医学
教授
博士。大学卒業後、消化器内科医として診療及
び 臨 床的研 究を行っていたが、2005 年より山
中伸弥研究室にて、iPS 細胞に関する基礎研究
を開 始した。2009 年 より、iPS 細 胞 の 臨 床 応
用に向けた規制対応等に従事しており、その一
日も早い実現を目指している。
ヒト iPS 細胞から肝細胞への分化誘導。
肝分化マーカー( AFP)に対する免疫染色。
核は Hoechist にて青色に染色。
研究スタッフ
●
教授
青井貴之
●
研究員
大亀登紀子
1. iPS細胞の臨床応用に向けた
が厚生労働省を中心に行われている。こ
規制への対応
1)科学的現状に適合するための規制の
れには、医師法の元に行われる臨床研究
調整
トラックがあるが、当研究グループでは、
と、薬事法の元に行われる治験の二つの
iPS細胞を用いた細胞移植治療の実現
前者に関する「ヒト幹細胞を用いた臨床
松川ゆかり
が期待されており、それを適切に行うた
研究指針の見直しに関する専門委員会ワ
伊藤朋美
めの規制が必要となっている。iPS細胞
ーキンググループ」、後者に関する「平
●
テクニカルスタッフ
大学院生
は従来の医療の材料にはない種々の特性
成22年度 ヒト幹細胞を用いた細胞・
梶原正俊
があるため、既存の規制をそのまま援用
組織加工医薬品等の品質及び安全性確保
福原晶子
できない部分も多い。そこで、iPS細胞
のあり方に関する研究班(早川班)班会
を用いた細胞治療に関する指針等の整備
議」の両方に参加しており、科学的現状
●
望月裕司
大嶋野歩
●
秘書
樋口由美
左は conventional Giemsa による核型の観察、右は G-band による核型の観察。ヒト iPS・ES 細胞に最適
化した条件で検査を行っている。
42
CiRA ANNUAL REPORT 2010
臨床応用に向けて重要な規制の構築と
iPS 細胞の評価を担当
iPS 細胞を用いた細胞治療を行う場合、iPS 細胞は新しいコンセプトの医用材料となる
ため、既存の規制と調整しながらの、新しい規制の整備が始まっている。
青井貴之教授は、厚生労働省主宰の「ヒト幹細胞を用いた臨床研究指針の見直しに関
する専門委員会ワーキンググループ」と「平成 22 年度 ヒト幹細胞を用いた細胞・組織加
工医薬品等の品質及び安全性確保のあり方に関する研究班(早川班)班会議」のメンバ
CiRA で は、conventional Giemsa と G-band
法による観察で異常所見が認められたものについ
て、必要に応じてマルチカラー FISH(mFISH)を
行っている。
ーとして、規制の構築に参画している。
また、CiRA 内でのワーキンググループにおいては、新旧の規制に合う iPS 細胞の調整
や利用に向けての提案、コンサルテーションを行い、実際に樹立された iPS 細胞の染色体
の変化や核型を解析して、iPS 細胞を評価する役割を担う。
一方、青井研究室では、ヒト iPS 細胞から肝細胞への分化誘導の研究を通じ、未分化
状態や分化途中段階の遺伝子発現やエピゲノムも解析して、iPS 細胞の分化特性のあらわ
や今後の見通しに関する報告を行うなど、
れ方の違いにもアプローチしている。
適切な規制の構築に参画している。
2)規制に適合するための研究の調整
一方、既存の規制やその背景となって
既報と当研究所で得られたデータの比較
3. ヒトiPS細胞からの
いる考え方をiPS細胞を用いた再生医療
検討等も可能となった。
肝細胞分化誘導
に適用できる部分もあり、それらについ
2)ヒトiPS・ES細胞核型解析
梶原正俊が中心となり、ヒトiPS細胞
ては、研究側をそれに合致するように調
大亀登紀子、松川ゆかりにより、核型
から肝細胞への分化誘導の研究を行って
整する必要がある。CiRAではiPS細胞
解析室のセットアップ及び稼働が行われ
いる。新たに開発した分化誘導法により
の応用にむけて研究グループの枠を超え
た。ヒトiPS・ES細胞の核型解析を行う
安定的に再現性をもって、形態、遺伝子
た研究推進を目的として各種ワーキング
のに、最適な条件設定を行った。通常の
発現、機能において肝細胞様の性質を持
グループが設置されている。これらのワ
つ細胞が作製できるようになった。その
ーキンググループに参加し、iPS細胞技
conventional Giemsa染色とGバンド法
に加え、mFISH法、Qバンド法を行う
術を規制に適合させるための目標設定や
ことが可能となった。さらに、細胞分裂
来する細胞から同一の方法で樹立した
実施計画案を提示している。
中期自動検索装置を設置、稼働させ、迅
iPS細胞株であっても、株ごとに肝細胞
手法を用いて、たとえ同一のドナーに由
速かつ高効率に核型検査を実施すること
への分化特性が異なることがわかった。
2. ゲノム安定性の評価
iPS細胞の樹立・維持において、ゲノ
が可能となった。研究所全体の研究者か
このような違いを生ずる分子メカニズム
らの依頼を受けて上記の解析を行うのに
の解明を目指して、未分化状態及び分化
ム安定性は重大な関心事項である。当グ
加え、その結果に関するコンサルテーシ
途中段階における遺伝子発現及びエピゲ
ループでは、二つの手法を用いて、この
ョンにも答えている。
ノム等の解析を行っている。
問題にアプローチしている。
1)高解像度SNPアレイを用いたゲノム
安定性の評価
本研究は福原晶子が中心となり、東京
大学の小川誠司特任准教授との共同研究
として行っている。さまざまな樹立方法、
すなわち、由来細胞、因子導入法、導入
因子により樹立したヒトiPS細胞に関し
て、高解像度SNPアレイを用いて、染
色体変化(コピー数の変化)を調べてい
る。また、同時に、継代培養による染色
体変化への影響を調べるため、同一のク
ローンについて、継代数の異なるサンプ
ルを評価している。
データ解析の手法も導入し、イン・ハ
ウスでの解析が可能となり、web上で生
データを入手可能な他の研究機関からの
最近の主な論文のリスト
1. Imamura M, Aoi T, Tokumasu A, Mise N, Abe K, Yamanaka S, Noce T.
Induction of primordial germ cells from mouse induced pluripotent stem cells
derived from adult hepatocytes.
Mol Reprod Dev. 77(9):802-811, 2010.
2. Terao S, Acharya B, Suzuki T, Aoi T, Naoe M, Hamada K, Mizuguchi H, Gotoh A.
Improved gene transfer into renal carcinoma cells using adenovirus vector
containing RGD motif.
Anticancer Res. 29(8):2997-3001, 2009.
3. Hong H, Takahashi K, Ichisaka T, Aoi T, Kanagawa O, Nakagawa M, Okita K,
Yamanaka S.
Suppression of induced pluripotent stem cell generation by p53-p21 pathway.
Nature 460, 1132-1135, 2009.
4. Miura K, Okada Y, Aoi T, Okada A, Takahashi K, Okita K, Nakagawa M, Koyanagi
M, Tanabe K, Ohnuki M, Ogawa D, Ikeda E, Okano H, Yamanaka S.,
Variation in the safety of induced pluripotent stem cell lines.
Nat Biotechnol. 27(8):743-745, 2009.
5. Aoi T, Yae K, Nakagawa M, Ichisaka T, Okita K, Takahashi K, Chiba T, Yamanaka S.
Generation of pluripotent stem cells from adult mouse liver and stomach cells.
Science 321(5889):699-702, 2008.
43
規制科学部門
浅香 勲 Ph.D.
プロフィール
1959 年東京都大田区生まれ。北里大学薬学部
卒業、北里大学大学院薬学研究科修 士課程 修
准教授
了。博士(薬学)。1986 年滋慶学園東京医薬専
門学校講師、1989 年から 2008 年まで AGC テ
クノグラス株式会社にて就業、その間北里大学
薬学部講座研究員、東 京大学医科学研究 所客
員研究員等を兼任。2008 年 10 月より科学技術
振興機構 山中 iPS 細胞特別プロジェクト研究員
兼 京都大学物質 - 細胞 統合システム拠点 iPS 細
胞 研 究センター講 師を 経て、2010 年 4 月京都
大学 iPS 細胞研究所准教授(現職)就任。
研究スタッフ
●
准教授
浅香 勲
iPS細胞技術の普及活動
iPS細胞技術の普及活動の一環として、
して国内外に広めるため、第1回の講習
会と第2回の実技トレーニングは英語で
研究員
座学によるヒトiPS細胞樹立・維持培養
実施した。第1回講習会は、初期化機構
伊倉宏一
技術の講習会を年に2回、実技トレーニ
研究部門の中川誠人講師、高橋和利講
師、増殖分化機構研究部門の長船健二
永橋文子
ン グ を 年 間4回 程 度 定 期 的 に 開 催 し、
CiRA外の研究者にiPS細胞の樹立及び
楠木俊江
維持培養技術を伝達している。各教育プ
岸田 綾
矢野小代里
ログラムにおいて、毎回アンケートを実
G e n e r a t i o n、 c u l t u r i n g、 a n d
maintenance of human iPS cells(浅
香)、 Development and recent trend
of generation of human iPS cells(中
川講師)、 Evaluation of human iPS
cells( 高 橋 講 師 )、 Generation and
analysis of disease specific iPS cells
(長船准教授)の各タイトルでヒトiPS細
胞技術の解説を行った。参加者は38名
で、15名が外国人研究者であったが、7
●
●
テクニカルスタッフ
村上モニカ
●
秘書
野田 桂
施し、技術の理解度を確認する他、定期
的に教育プログラム参加者の所属機関で
のiPS細胞技術利用状況をアンケート調
査し、必要なフォローアッププログラム
も企画する。本年度はCiRAのiPS樹立
法を、創薬や疾患研究における標準法と
准教授ら各 PI(研究室長)の協力を得て、
割以上は日本の大学の留学生または研究
員であった。終了後のアンケートの集計
結果では、講習会全体について86 %の
参加者が「大変満足」または「満足」
と記
入していた。なお、平成21年度の実技
トレーニング参加者に対し、iPS研究実
施のためにさらに必要な講習項目をフォ
ローアップアンケートで調査した結果、
作成されたヒトiPS細胞の品質チェック
疾患特異的 iPS 細胞保管装置
44
や、分化誘導法について講習希望が多か
CiRA ANNUAL REPORT 2010
ったため、これらを盛り込んだ第2回講
習会を企画し、年度内に実施する。
実技トレーニングについては、iPS細
胞研究棟が竣工してiPS細胞培養トレー
ニング用のスペースが確保されたため、
実技トレーニングを所内で実施する準備
iPS 細胞の樹立法や扱い方を広める講習会や
実技トレーニングを開催
浅香研究室では、iPS 細胞の基礎研究や臨床応用に欠かせない、ヒト iPS 細胞株の樹
立や維持培養技術、品質チェック法などの普及を担当している。今年度は座学の講習会 2
回、実技トレーニングを 4 回定期的に開催した。対象は、主に CiRA 外の研究者で、アン
を進め、6月末より本年度の実技トレー
ケートによる理解度や応用範囲のチェックも同時に実施したところ、参加者の満足度が高
ニングを開始した。これまでに延べ24
いことが明らかになった。また、フォローアッププログラムやさらに進んだプログラムも企
名の参加者に対し、レトロウィルス法に
画する。
よるヒトiPS細胞の樹立と、維持培養の
実習を実施した。実技トレーニング終了
時のアンケートの集計結果では、参加者
の67%がトレーニング全体について「大
一方、種々の疾患の患者検体からの疾患特異的 iPS 細胞の樹立や選別も行い、CiRA 内
あるいは外部の研究機関に提供している。今年度は 12 月までに 30 名以上の患者の皮膚
細胞から線維芽細胞株を作成し、約 10 名分から疾患特異的 iPS 細胞を樹立した。また、
高効率な樹立方法の検討も続けている。
変満足」
、33%が「満足」と記入していた。
なお、実技トレーニングについては、平
提供される種々の疾患の患者検体より、
株作成、及び線維芽細胞株からの疾患特
成21年度の参加者に対してフォローア
当初は線維芽細胞を調製して各患者10
異的iPS細胞株作成をシステマティック
ップアンケートを実施し、トレーニング
本以上の凍結バイアルを作成する。確保
に行う体制を構築した。12月までに30
後のiPS細胞技術の利用状況を調査した。
された患者由来の線維芽細胞ストックを
名以上の患者より皮膚を採取し、線維芽
その結果、回答者の40 %は何らかの形
材料として疾患特異的iPS細胞を樹立し、
細胞株を作成して凍結保存した。そして、
で研究にヒトiPS細胞を利用しており、
CiRA内のPIや外部の研究機関に疾患研
その内約10名分の線維芽細胞株より疾
利用者の75%は自己で樹立したヒトiPS
究や創薬研究の材料として提供する。樹
患特異的iPS細胞を樹立している。また、
細胞を使用していたため、実技トレーニ
立された疾患特異的iPS細胞は、継続的
高効率な疾患特異的iPS細胞の樹立を目
ングに一定の成果があったことが示され
に詳細な解析が可能なよう元の線維芽細
指して、初期化因子の導入に使用するレ
た。残りの回答者の40 %は現在準備中
胞とともに保管管理する。また、初期化
ンチウィルスやレトロウィルス液のtiter
で、20 %は利用を断念していた。利用
機構研究部門や臨床応用研究部門とも連
を断念した理由としては、予算の制限や
携して、血液細胞等線維芽細胞以外の体
プロジェクトの状況変化等が挙げられて
細胞試料を材料としてiPS細胞の樹立を
check法を検討し、レンチウィルスでは
p24-ELISA法、 レ ト ロ ウ ィ ル ス で は
q-PCR法である程度titer checkが可能
おり、トレーニング内容に起因するもの
検討し、より安全に入手できる疾患特異
であることが見出された。
ではないことが確認された。
的iPS細胞の体細胞材料を選別する。本
年度は、iPS細胞研究棟内が竣工したた
疾患特異的iPS細胞の樹立
医学研究科やCiRAの他のPIを通じて
め、疾患特異的iPS細胞樹立専用の培養
室を確保し、患者皮膚からの線維芽細胞
最近の主な論文のリスト
1. 浅香 勲 「脂肪細胞分化培養 - 分化過程の
経時的解 析法 -」 『改訂 培養細胞実験ハン
ドブック』
(許 南浩・中村幸夫編)羊土社 125-130, 2008.
2. 浅香 勲 『細胞培養標準技術』(日本組織培
養学会編:編集責任者 鈴木崇彦・浅香 勲)
実技トレーニング風景
日本組織培養学会 10-23, 2007.
3. 浅 香 勲 「カニクイザル ES 細 胞 」『 細 胞 』,
36(2) 22-23, 2004.
45
CiRA が関わる大型研究プロジェクト
iPS 細胞再生医療応用プロジェクト
内閣府が世界トップを目指す先端研究を推進するために創設した
内閣府が世界トップを目指した先端研究を推進するために創設した
「最先端研究開発支援プログラム(FIRST プログラム)」の採択
「最先端研究開発支援プログラム(FIRST)」の採択 30 プロジェクト
の一つです。山中伸弥所長を中心研究者として、由来となる細胞や
30 プロジェクトの一つです。山中伸弥教授を中心研究者として、
由来となる細胞や樹立方法の違いによる iPS 細胞の性質を比較
検討し、iPS 細胞技術の国際標準化を早期に実現することを目
の国際標準化を早期に実現することを目指します。
指します。
Web サイト: http://www.cira.kyoto-u.ac.jp/ips-rm/
樹立方法の違いによる iPS 細胞の性質を比較検討し、iPS 細胞技術
Web サイト:http://www.cira.kyoto-u.ac.jp/ips-rm/
iPS 細胞医療応用加速化プロジェクト
内閣府が設 置した先端医療開発 特区(スーパー特区)として
率的運用を促進し、医療規制当局との連携を深め、iPS 細胞研
2008 年 11 月に採択されたプロジェクトの一つです。文部科学省
「再生医療の実現化プロジェクト」iPS 拠点事業の参加研究機関
究の成果を迅速に実用化する環境を整えています。参画機関は
(京都大学拠点、慶応義塾大学拠点、東京大学拠点、理化学研
を活用した新薬候補探索開始、細胞移植治療に向けた臨床研究
iPS 細胞の誘導法の標準化、毒性評価の規格化、疾患 iPS 細胞
究所拠点)と、アステラス製薬株式会社、株式会社島津製作所、
のシステム化を目指します
武田薬品工業株式会社の研究者で構成されており、山中伸弥教
Web サイト:http://www.ips-tokku.cira.kyoto-u.ac.jp/
授が代表者です。特区内で、試料の共有化、公的研究資金の効
戦略的創造研究推進事業の iPS 細胞関連プロジェクト
独立行政法人科学技術振興機構(JST)による iPS 細胞研究支
CREST「人工多能性幹細胞(iPS 細胞)作製・制御等の医療
援事業「山中 iPS 細胞特別プロジェクト」
「CREST(人工多能性
基盤技術」研究領域では、細胞リプログラミングのメカニズム
「さきがけ
(iPS
幹細胞
(iPS 細胞)作製・制御等の医療基盤技術)」
解明、新たな iPS 細胞作製技術・リプログラミング技術の探索、
細胞と生命機能)」の三つのプロジェクトで、iPS 細胞研究の裾
幹細胞・組織細胞への分化誘導技術の開発などによって、新
野拡大、研究推進に伴う知的財産の確保、国際シンポジウムの
たな技術シーズの創出を目指しています。CiRA からは、平成
開催などを支援しています。
21 年度に井上治久准教授の研究課題が採択されて研究を進め
ています。
Web サイト:http://www.ipscc.jst.go.jp/
山中 iPS 細胞特別プロジェクトでは、京都大学、滋賀医科大学、
さきがけ「iPS 細胞と生命機能」研究領域は、細胞のリプログ
岐阜大学、自治医科大学と連携しながら、① iPS 細胞の安全
ラミング、分化転換、幹細胞生物学などを対象にした研究プ
性の検証、②ヒト疾患特異的 iPS 細胞を用いた疾患病態解析、
ロジェクトです。CiRA からは、山田泰広教授と長船健二准教
③ヒト疾患特異的 iPS 細胞を用いた薬剤探索、といった三つ
授の研究課題が平成 20 年度に採択され、平成 22 年度には堀
の研究を推進します。
田秋津助教の研究課題が採択されています。
Web サイト:http://y-ips.jst.go.jp/
Web サイト:http://www.ips-s.jst.go.jp/
46
CiRA ANNUAL REPORT 2010
再生医療の実現化プロジェクト
文部科学省による標題プロジェクトのヒト iPS 細胞等研究拠点整
ステム拠点(iCeMS)及び人文科学研究所と、また、大阪大学や、
備事業として、京都大学、慶應義塾大学、東京大学、理化学研
その他の学外機関と連携し、iPS 細胞の本態の解明、安全かつ
究所を中核拠点として、ヒト iPS 細胞などの研究を推進すること
効率的な iPS 細胞作製技術の開発、分化誘導技術開発、疾患
で、難病や生活習慣病等の治療を目指し、治療技術の開発(安
特異的 iPS 細胞を用いた治療技術開発などに取り組んでいます。
全性の検討等)を総合的に行います。京都大学では、CiRA を
Web サイト:http://www.stemcellproject.mext.go.jp/
中心に再生医科学研究所、医学部附属病院、物質−細胞統合シ
文部科学省 iPS 細胞等研究ネットワーク
文部科学省と JST が支援する iPS 細胞研究等に関わる事業の研
れた共通ルールの元、最新の研究情報、知的財産権及び成果有
究機関・研究者を包含するオールジャパンの研究推進体制として、
体物をあたかも一つの研究所のように共有することで、iPS 細胞
2008 年 4 月に構築されました。現在では、内閣府が支援する
iPS 細胞再生医療応用プロジェクトが加わっています。
「文部科学省 iPS 細胞等研究ネットワーク規約」によって定めら
等研究の総合的な推進を目指しています。山中伸弥教授が運営
委員会の委員長を務めており、CiRA が事務局を担っています。
Web サイト:http://www.ips-network.mext.go.jp/
47
CiRA の知的財産
京都大学では、iPS細胞の適切な普及や利用を促進するため
京都大学の iPS 細胞技術に関する知的財産管理体制
に、iPS細胞技術に関する知的財産権(特許権)の取得に努め
ています。CiRA知的財産管理室が中心となり、iPS細胞の樹
立方法、分化誘導法等、さまざまな発明の特許出願を国内外で
京都大学
行っており、京都大学は2010年12月31日までに、日本国内で
以下のような特許権を取得しました。
1) 4種の遺伝子(Oct3/4、Klf4、c-Myc及びSox2)を体細胞に
導入する工程を含むiPS細胞の製造方法(2008年9月12日成
立)
2)3種の遺伝子(Oct3/4、Klf4、及びSox2)を体細胞に導入し、
bFGFの存在下で培養する工程を含むiPS細胞の製造方法 (2009年11月20日成立)
3)3種の遺伝子(Oct3/4、Klf4、及びSox2)を体細胞に導入し、
bFGFの存在下で培養、もしくは4種の遺伝子(Oct3/4、 Klf4、c-Myc及びSox2)を体細胞に導入し、iPS細胞を製造
する工程、およびこのiPS細胞を分化誘導する工程を含む体
細胞の製造方法(2009年11月20日成立)
CiRA
知的財産
管理室
協力体制
産官学
連携本部
出願・権利化
特許法の規定により、これらの方法により製造された細胞に
もその権利が及びます。特許権利期間は、3件とも出願日であ
る2006年12月6日から20年間です。京都大学のiPS細胞関連特
許は、iPSアカデミアジャパン株式会社より特許権の実施許諾
を行っています。
研究者の実験ノートをチェックする CiRA 知的財産管理室 高須直子室長(左)と高尾幸成室長補佐
48
iPS アカデミアジャパン株式会社
企業とのライセンス契約
第 1 号の特許証
CiRA ANNUAL REPORT 2010
ハイライト
京都大学は米バイオ企業から iPS 細胞関連特許を譲り受け、
iPS アカデミアジャパン社を通じて
iPS 細胞関連特許のライセンスを許諾
京都大学は、米国バイオベンチャー企業
詳細
係争の場合、実験ノートなどの証拠提出
の iPierian 社が保有する iPS 細胞製造に
2010年12月、iPierian社 か ら、 世 界
や証人尋問など、膨大な時間と多額の費
関する特許(特許出願を含む)を、2011
に先駆けてiPS細胞樹立に成功した山中
用がかかります。
年 1 月 27 日付で譲り受ける契 約を締 結
伸弥教授の発明を尊重し、将来想定され
京 都 大 学 は、CiRAを 中 心 に 世 界 の
しました。同時に、iPS アカデミアジャパ
ていた京都大学との特許係争を回避する
iPS細胞研究をリードする研究機関とし
ン株式会社を通して、京都大学が保有す
ために、同社が保有する特許を京都大学
て、国内外の多くの学術機関や企業が
る iPS 細胞製造に関する基本特許の非独
に譲渡したいという申し出がありました。
占的ライセンスを iPierian 社に許諾しま
京都大学とiPierian社は、3因子(遺伝子)
iPS細胞技術を安心して使用できるよう
に、iPS細胞に関連する特許の権利化を
した。この契約締結については、2 月 1
を用いたiPS細胞の樹立方法に関して、
図ってきました。今回の譲渡契約は、京
日に記者発表を行っています。
類似した発明の特許出願を米国特許商標
都大学のみならず、iPS細胞研究に関わ
庁に申請していたため、数カ月以内に、
る機関や企業にとっても大きな意義を有
どちらの出願人に特許権を付与するかを
すると考え、この申し出を受け入れるこ
決める係争に入る可能性があったのです。
とにしました。なお、契約全体の枠組み
の中で検討し、京都大学からiPierian社
への金銭の授受なしに、譲渡を受けてい
ます。
この契約締結により、京都大学は両者
間の特許係争が回避でき、iPS細胞技術
の普及や、研究者が研究活動に専念でき
る環境の整備につながるものと考えてい
ます。
京都大学がiPierian社から譲渡された
特許は、バイエル薬品株式会社神戸リサ
ーチセンターの研究から生まれたもので、
2008年に独国Bayer Schering Pharma
AG(バイエル社)からiPierian社の前身
であるiZumi Bio, Inc.に譲渡されたも
のです。これには、2010年に英国で成
立した3因子を導入するiPS細胞作製方
法に関する特許も含まれています。具体
的 に は、 日 本 国 特 許 出 願 第 2007-
159382号に基づき世界各国に出願され
た特許が今回の譲渡の対象となります。
2011 年 2 月 1 日特許譲渡・ライセンス許諾契約締結 記者会見(京都大学本部棟)
49
論文プレスリリース ピックアップ
2010 年に掲載された CiRA の論文から、1 報を選んで紹介します。
「形質転換活性を欠損した Myc によるリプログラミング促進効果」
− L-Myc を用いた効率的な iPS 細胞の樹立 −
iPS細胞は、マウスやヒトの線維芽細胞にOct3/4、Sox2、
しました。また、L-Mycを用いて作製した
iPS細胞は、生殖系
列に寄与する割合がc-Mycを用いて作製した iPS細胞と同様に
Klf4、c-Mycといった四つの転写因子を導入することで作製で
きます。しかし、c-Mycは、がんの原因遺伝子としてもよく知
られており、iPS細胞由来のキメラマウスの実験結果から腫瘍
形成に働くことが示されていました。その後、c-Mycを除いた
三つの転写因子だけでもiPS細胞が作製できることが示されま
したが、c-Mycには、iPS細胞の樹立効率の促進に寄与するこ
技術を臨床応用に用いる際にL-Mycの使用が有用であること
とも同時に示されていました。
が考えられます。
中川誠人講師と山中伸弥教授らの研究グループは、Mycファ
この研究成果は、7月26日に『米国科学アカデミー紀要』に
ミリーによるiPS細胞誘導のメカニズムを詳細に解析し、Myc
掲載されました。
ファミリーの一つであるL-Mycが、c-Mycよりも効率よくiPS
論文
細胞を誘導することを見出しました。さらに、キメラマウスを
用いた実験においても、L-Mycを用いて作製したiPS細胞由来
のキメラマウスにはほとんど腫瘍形成が起こらないことを確認
Cumulative mortality (total) (%)
100
良いことも明らかにしました。
この研究成果により、Mycファミリーは、形質転換や初期化
に関する異なる機能を持っていることが示唆されました。また、
効率の良いiPS細胞の誘導および低い腫瘍原性から、iPS細胞
Promotion of Direct Reprogramming by Transformationdeficient Myc.
Proc Natl Acad Sci U.S.A. 10: 14152-14157, 2010.
c-Myc (47)
control (61)
L-Myc (100)
wo Myc (39)
80
60
40
20
0
0
Cumulative mortality with tumor (%)
100
100
200
300
400
500
Observation period (days)
600
700
c-Myc (47)
control (61)
L-Myc (100)
wo Myc (39)
80
中川誠人 初期化機構研究部門 講師
60
40
20
0
0
100
200
300
400
500
Observation period (days)
L-Myc iPS 細胞を用いて作製したキメラマウスの解析
上:iPS 細胞作製時の Myc の違いや有無による死亡率
下:死亡個体における腫瘍形成率
50
600
700
(P14 ∼ 15参照)
受賞リスト(2010 年 4 月∼ 12 月)
CiRA ANNUAL REPORT 2010
月
賞の名前
名前
研究室
4月
第 14 回日本心血管内分泌代謝学会学術総会 若手研究者奨励賞
山水康平
山下ラボ
東京テクノ・フォーラム 21 第 16 回ゴールド・メダル賞
高橋和利
高橋ラボ
大阪市長特別表彰
山中伸弥
山中ラボ
2010 March of Dimes Prize in Developmental Biology
山中伸弥
山中ラボ
社団法人日本整形外科学会 特別学術会員賞
山中伸弥
山中ラボ
平成 22 年度日本学士院 恩賜賞・日本学士院賞
山中伸弥
山中ラボ
The 8th International Society for Stem cell Research (ISSCR) Travel Award
岩渕久美子
沖田ラボ
The 8th International Society for Stem cell Research (ISSCR) Travel Award
山水康平
山下ラボ
The 16th International Vascular Biology Meeting (IVBM) Travel Award
山水康平
山下ラボ
Travel Award, the Global COE project "Center for Frontier Medicine",
Kyoto University Graduate School of Medicine
魚崎英毅
山下ラボ
7月
The 8th Metabolic Syndrome Conference 若手研究者奨励賞
山水康平
山下ラボ
8月
日本炎症・再生医学会 優秀発表演題
魚崎英毅
山下ラボ
京都市市民栄誉賞
山中伸弥
山中ラボ
東北大学辛酉優秀学生賞
豊原敬文
長船ラボ
平成 22 年度日本医師会医学賞
山中伸弥
山中ラボ
平成 22 年度文化功労者 顕彰
山中伸弥
山中ラボ
第 26 回(2010)京都賞 先端技術部門
山中伸弥
山中ラボ
2010 Balzan Prize for Stem Cells: Biology and Potential Applications
山中伸弥
山中ラボ
AHA BCVS International Travel Grant
魚崎英毅
山下ラボ
第 18 回日本血管生物医学会学術集会 若手研究奨励賞優秀賞
山水康平
山下ラボ 5月
6月
10月
11月
12 月
51
メディアで紹介されたCiRAの活動
(2010 年 4 月∼ 12 月)
掲載月
4
月
内容
媒体名
放送日・掲載日
高橋和利講師が 「ゴールド・メダル賞」受賞
読売新聞
特許庁の HP で山中伸弥所長を紹介
日刊工業新聞
4.15
4.16
「関西力」のコラムで研究所の使命について
山中所長がコメント
5
月
読売新聞
山下潤准教授らのチームが動脈形成のしくみを解明
日本経済新聞、産経新聞
高橋和利講師 「ゴールド・メダル賞」受賞者の横顔
読売新聞
iPS 細胞研究所がニュースレター第 1 号を発行
日刊工業新聞
山中教授アイスランドの火山噴火で
スウェーデンで足止め
読売新聞
特集「iPS の今」その 1
読売新聞
特集「iPS の今」その 2
読売新聞
iPS 細胞研究所の研究員らが、
日本の規制の問題点をまとめて米科学誌に発表した
京都新聞、毎日新聞、共同通信
日刊工業新聞、産経新聞、読売新聞
iPS アカデミアジャパンは
米バイオベンチャー「CDI」とライセンス契約を結んだ
毎日新聞、読売新聞、産経新聞、日本経済新聞、京都新聞
iPS 細胞研究所の開所式典が行われた
日本経済新聞
朝日新聞
日刊工業新聞
京都新聞、毎日新聞、読売新聞、産経新聞、中日新聞
日刊工業新聞
山中教授は、臨床指針改正案を
「iPS 細胞の長所を生かせない」と批判
読売新聞
CiRA は、希少疾患の新薬開発研究プロジェクトを開始、 日本経済新聞
武田薬品工業が協力の意向
特集「iPS の今」その 3
読売新聞
「気ニナルことば」の欄で、幹細胞を使った治療について 京都新聞
iPS 細胞研究所が完成。新研究棟の特長を紹介
読売新聞
京都新聞
毎日新聞
6
月
特集「iPS の今」その 4
読売新聞
特集「iPS の今」その 5
読売新聞
特集「iPS の今」その 6
読売新聞
山中教授ら 3 氏が京都賞を受賞
日本経済新聞、読売新聞、朝日新聞
毎日新聞、京都新聞、中日新聞、
日刊工業新聞
7
薬事日報
月
iCeMS と CiRA は 8 月に高校生向け
読売新聞、毎日新聞
実験教室を開催する
京都新聞、産経新聞
慶應大学の岡野栄之教授、CiRA の山中教授らは、
健全な iPS 細胞で脊髄損傷の治療効果が上がることを
マウスの実験で突き止めた
京都新聞、日本経済新聞、化学工業新聞
日経産業新聞、産経新聞、毎日新聞、日刊工業新聞
大阪日日新聞
薬事日報
読売新聞
目指すは 世界最高 iPS 細胞・山中教授に聞く
日本の理系 一番の男たち
NHK クローズアップ現代
CiRA の中川講師らが従来とは違う因子を使って、
より高品質の iPS 細胞を
作製できることを米科学誌に発表した
産経新聞、毎日新聞、読売新聞、朝日新聞
日本経済新聞、日刊工業新聞、日経産業新聞
化学工業日報、京都新聞、大阪日日新聞
動き始めたオールジャパン体制
日経サイエンス
iPS 細胞研究所 本格始動 !
iCeMS と CiRA は高校教員向け研修会を開催した
講談社 Health & Beauty
KBS 京都 ニュース
講談社 週刊現代
京都新聞
毎日新聞
iCeMS と CiRA が開催した
高校教員向け研修会に記者が参加し、体験記を掲載
52
中日新聞
4.20
4.21
4.18
4.23
4.23
4.26
5.3
5.7
5.14
5.8
5.10
5.8
5.9
5.10
5.9
5.9
5.10
5.10
5.15
5.18
5.25
5.17
5.24
5.31
6.19
6.21
6.25
7.4
7.6
7.7
7.8
7.9
7.16
7.26
7.15
7.17
7.27
7 月号
7 月号
8.2
8.3
8.25
8.5
CiRA ANNUAL REPORT 2010
掲載月
内容
媒体名
放送日・掲載日
iPS 細胞の特許管理会社 iPS アカデミアジャパンは
ドイツのアキシオゲネシス AG とライセンス契約を結んだ
日経産業新聞、産経新聞、毎日新聞
日刊工業新聞、日本経済新聞、
8.4
化学工業日報
一般市民対象シンポジウムが 10 月 2日に東京で開催される 毎日新聞
9
月
角淳一 関西の最先端を訪ねて 京都大学編
MBS ちちんぷいぷい
山中教授バルザン賞受賞
京都新聞、読売新聞、朝日新聞
大阪大学の江草宏助教と山中教授らは、
ヒトの歯茎から iPS 細胞作製に成功
毎日新聞、日本経済新聞、京都新聞
読売新聞、朝日新聞
日本経済新聞、毎日新聞、Japan Times
日刊工業新聞、産経新聞、日経産業新聞
生命 の未来を変えた男 ~ 山中伸弥・iPS 細胞革命 ~
京都市は山中教授に市民栄誉賞を贈ると発表した
NHK スペシャル
読売新聞、毎日新聞
朝日新聞、産経新聞、日刊工業新聞
10
月
iPS 細胞の企業への提供業務を
iPS アカデミアジャパンに移管
立花隆 iPS 細胞に迫る 対談
文藝春秋
「あの人に迫る」欄に山中教授が登場
中日新聞
読売新聞、日刊工業新聞、日経産業新聞
iPS 細胞研究所は東京都内で講演会を開催した
日本経済新聞、NHK
京都市は山中教授に市民栄誉賞を贈った
日本経済新聞、京都新聞
朝日新聞、毎日新聞、産経新聞
山中教授が京都賞受賞
Japan Times
iPS アカデミアジャパンは、フランスのセレクティスに
iPS 細胞の特許をライセンス供与したと発表した
日本経済新聞、毎日新聞、産経新聞、読売新聞
朝日新聞
月
9.30
9 月号
10.1
10.3
10.15
10.16
10.18
10.18
10.19
10.23
講談社 週刊現代
日本経済新聞、産経新聞
すべては患者のために 山中伸弥
日経ビジネス
10.26
山中教授が文化功労者に選ばれた
毎日新聞、読売新聞、京都新聞
日本経済新聞、産経新聞
10.26
日本の顔 山中伸弥 グラビア
文藝春秋
iPS 細胞研究所をちびっこ記者が取材
NHK 週刊こどもニュースの子ども記者が取材
山中教授ら 3 氏に京都賞が授与された
中日新聞
山中教授が、
「iPS バンク」構築に向けた
安全基準づくりに着手
日本経済新聞
山中教授らが京都賞記念ワークショップで講演
京都新聞
山中教授が「第 26 回京都賞高校フォーラム」で
高校生に特別授業
京都新聞、日刊工業新聞
イタリア大統領府でバルザン賞授与式
毎日 Jp、La Stampa、Il Sole 24 Ore、
「京都賞受賞者に聞く」山中教授のインタビュー
12
9.16
9.18
9.29
9.30
iPS 細胞研究所はフランスのセレクティスと
朝日新聞、日刊工業新聞
月
9.15
本当の勇気とは ? 平尾誠二×山中伸弥 対談
共同研究を始めると発表
11
8.5
8.10
9.1
9.7
9.8
「山中 - バルザン基金」を創設
京 bizW ターニングポイント
米科学誌サイエンスで過去 10 年間の 10 大研究分野に
「細胞の初期化の研究」がトップ 10 入りした
NHK 週刊こどもニュース
読売新聞、産経新聞、日刊工業新聞
日本経済新聞、京都新聞
Corriere della Sera
10.25
10.27
10 月号
11.7
11.7
11.11
11.16
11.16
11.17
11.19
朝日新聞
11.23
読売新聞、京都新聞、朝日新聞
日本経済新聞、日刊工業新聞
12.2
KBS 京都
12.3
読売新聞、日本経済新聞、時事通信、共同通信
京大 iPS 細胞研究所が
iPS バンク創設へ来年度研究本格化
京都新聞、読売新聞、日本経済新聞
サイエンス ZERO スペシャル 科学ニュース 2010
NHK サイエンス ZERO
12.19
12.23
12.25
53
2010 年度に開催したイベント
研究者対象のイベント
iPS 細胞樹立・維持培養講習会、実技トレーニング
iPS 細胞研究の普及のために、樹立・維持・培養に関する講習会や
実技トレーニングを主催しています。2010 年度には、計 7 回開催しました。
2010 年 ヒト iPS 細胞樹立・維持培養講習会
Date
2010.8.30
2011.1.31
Title
第 1 回ヒト iPS 細胞樹立・維持培養講習会
第 2 回ヒト iPS 細胞樹立・維持培養講習会
2010 年 ヒト iPS 細胞樹立・維持培養実技トレーニング
Date
2010.6.28-30
2010.8.30-9.1
2010.11.29-12.1
2011.1.26-28
2011.3.23-25
54
Title
第 1 回ヒト iPS 細胞樹立・維持培養実技トレーニング
第 2 回ヒト iPS 細胞樹立・維持培養実技トレーニング
第 3 回ヒト iPS 細胞樹立・維持培養実技トレーニング
第 4 回ヒト iPS 細胞樹立・維持培養実技トレーニング
第 5 回ヒト iPS 細胞樹立・維持培養実技トレーニング
CiRA ANNUAL REPORT 2010
CiRA セミナー
最新の研究内容や世界の情報をいち早く共有することを目的に、世界中から研究者を招いたセミナーを
不定期に開催しています。2010 年 4 月から12 月末までに 17 回開催しました。
CiRA Seminar 2010
Date
Title
Speaker
4.26
Direct Reprogramming of Cardiac Fibroblasts
into Functional Cardiomyocytes by Defined Factors
Masaki Ieda
5.28
薬事法と生物由来製品の取り扱いについて
平山佳伸
7.14
Modeling leukemogenesis and hematopoiesis in transgenic mice and zebrafish
Pu Paul Liu
7.27
トランスレーショナルリサーチ促進の課題
豊島聰
8.26
Transcriptional and epigenetic regulation of T cell differentiation
John Joseph O Shea, Jr.
9.22
From Development to Pathology – Hedgehog Signaling
in Osteoarthritis and Chondrosarcoma
Benjamin Alman
10.12
Stem cell tourism: Treatments with little scientific-basis
Douglas Sipp
10.14
Cell therapy for Parkinson's disease - Clinical perspectives
Deniz Kirik
10.14
Cell therapy for Parkinson's disease - Reporter mice as research tools
Lachlan Thompson
10.14
Cell therapy for Parkinson's disease - WNT signaling and DA neurons
Clare Parish
10.21
Expansion and Differentiation of Pluripotent Stem Cells in Stirred Suspension
Derrick E. Rancourt
11.2
FGF-Erk signaling in pluripotency and lineage commitment
Tilo Kunath
11.4
組織を活性化するコミュニケーション術 - メール、会議、対話 -
塩瀬隆之
11.29
Transient activation of c-MYC expression is critical for efficient platelet generation
from human induced pluripotent stem cells: heterogeneity of iPS cells reveals molecular
implication of normal platelet generation
Koji Eto
11.30
Directed induction of chondrogenic cells from mouse adult dermal fibroblast culture
by defined factors
Noriyuki Tsumaki
12.1
Engineering pluripotent stem cell differentiation to lineage-specific chondrocytes
Naoki Nakayama
12.20
Role of CD44v in cancer stem cells and metastasis
Hideyuki Saya
55
2010 年度に開催したイベント
主に一般の方を対象とするイベント
(2010 年 4 月∼ 12 月)
竣工式・開所式(5 月 8 日)
iPS 細胞研究所(CiRA)が 4 月 1 日に設立され、研究所の開所式と 2 月に完成した研究棟の竣工式を開催しました。
政府関係者、研究者、患者団体の代表者、寄附者など約 350 人が参加しました。
iCeMS/CiRA クラスルーム 2010:幹細胞研究やってみよう!(8 月 4 ∼ 5 日)
高校生を対象とした実験教室「iCeMS/CiRA クラスルーム 2010:幹細胞研究やってみよう!」を、
物質−細胞統合システム拠点(iCeMS)と共同で開催しました。
56
CiRA ANNUAL REPORT 2010
一般の方対象 CiRA シンポジウム 2010「iPS 細胞研究の最前線」(10 月 2 日)
一般の方対象 CiRA シンポジウム 2010「iPS 細胞研究の最前線」を
東京都新宿区で開催しました。患者さんやそのご家族など、約 650 人が参加しました。
CiRA Ground Floor Activity /サイラ・グラウンドフロア・アクティビティ(10 月 18 ∼ 29 日)
研究棟 1 階のギャラリーで、CiRA Ground Floor Activity /サイラ・グラウンドフロア・アクティビティ Part1 として、
米国で活躍中のイラストレーター・奈良島知行さんの作品を展示したサイエンス・イラスト展を開催しました。
57
刊行物の紹介
① CiRA 概要パンフレット
研究概要、知的財産から沿革
やイベントまで CiRA の活動に
ついて簡 潔に紹介しています。
CiRA ホームページから無 料で
ダウンロードできます。
② CiRA ニュースレター(季刊)
4 月、7 月、10 月、1 月に発行
しています。CiRA の研究活動
やイベントなどについて、特 集
記事やコラムで、一般の方々向
けにさまざまな情報を提供しま
す。CiRA ホームページから無
料でダウンロードできます。
③『幹細胞ハンドブック−からだの再生を担う細胞たち』
幹細胞とは何か、iPS 細胞と
ES 細胞の違い、幹細胞研究と
社会との関わりなど、幹細胞に
ついて基本的な情報をわかりや
すく説明しています。CiRA ホー
ムページから無料でダウンロー
ドできます。
58
CiRA ANNUAL REPORT 2010
CiRA の運営
2010 年度 財務報告
iPS 細胞研究基金
0.4
iPS細胞研究所の2010年度予算は合計
約41.8億円です。そのうち運営費交付金
を含む基盤的運営資金が約2.7億円、そ
して、主に各省庁が公募する競争的資金
民間助成金
と呼ばれる研究費が約38億円です。そ
0.7
の他に、民間財団による公募で獲得した
基盤的運営資金 2.7
研究助成が約7千万円になります。寄附
金である
iPS細胞研究基金 が約4千万円
です。(2010年12月31日現在)
科学研究費補助金 6.6
Total
産学連携等研究費 7.1
41.8
(億円)
最先端研究開発支援 PG 24.3
CiRA の人員構成
iPS細胞研究所には、教授、准教授、
講師、助教の他に各研究室に所属する研
究員、研究支援員や研究戦略本部、及び、
大学の事務部があり合計153名のスタッ
フが働いています。この他、各研究室に
は大学院生などの学生が所属して研究を
行っています。
構成員
教授
(人)
…………………………………………………………………………
6
……………………………………………………………………
5
講師
…………………………………………………………………………
6
助教
…………………………………………………………………………
6
准教授
研究員
…………………………………………………………………
39
研究支援員 …………………………………………………………58
研究戦略本部 …………………………………………………… 21
事務部
…………………………………………………………………
合計
12
153
(2011 年 3 月 1 日現在)
59
iPS 細胞研究基金
2008年1月22日に、iPS細胞研究所の
前身であるiPS細胞研究センターが京都
大学物質−細胞統合システム拠点内に設
立されて以来、多くの方々からご支援を
いただいております。2009年4月1日に
は、 研 究 活 動 を 一 層 推 進 す る た め に、
「iPS細胞研究基金」を設置しました。こ
れまでのあたたかいご支援に心より感謝
を申し上げますとともに、2010年12月
31日までに、ご寄附をくださった方々
で、公表の同意をいただいた方のお名前
を記載させていただきます。
iPS 細胞研究基金等にご寄附いただいた方々
平成 20 年度寄附者
平成 21 年度寄附者
田中 憲二 様
白川 侑子 様
相浦 英征 様
豊田 健治 様
安平 哲太郎 様
安部 香与子 様
中根 由紀子 様
(株)大和証券グループ本社
天野 芳子 様
仁王頭 陽一 様
(株)三井住友銀行
石原 愛子 様
西田 恭子 様
石原 ユキ 様
野村 和史 様
市原 定子 様
原 勝之 様
井上 園子 様
原 幸代 様
岩橋 久子 様
原 聰一郎 様
上田 靖子 様
尾藤 保子 様
内田 喜之 様
平田 久美子 様
浦久保 寿彦 様
星川 哲也 様
大石 寛子 様
堀部 左知子 様
大岩 晃代 様
前地 敏子 様
大久保 京子 様
松岡 芳江 様
大越 重治 様
水鳥 真和 様
大迫 徹 様
三宅 美保子 様
小川 昭江 様
向川 敏 様
小野 隆 様
森田 晴子 様
楫眞様
守山 久子 様
加藤 豊子 様
萬木 彰子 様
河野 勝好 様
横山 廣子 様
高水 和美 様
吉澤 孝子 様
小高 とし子 様
吉田 茂 様
斎藤 久江 様
吉村 淳郎 様
斉藤 ふじ子 様
渡辺 五重 様
坂口 昇 様
埼玉県パーキンソン病
友の会
匿名・未回答(5 名)
佐々木 哲彦 様
佐野 馥子 様
椎本 和雄 様
須賀 康子 様
高畑 かずこ 様
武田 由美子 様
武田 仁彦 様
CiRA 研究棟 1 階に掲示されている寄附者のお名前
60
田中 きくの 様
(株)大平堂
(株)日本カルタ
ユサコ(株)
(株)三井住友銀行
匿名・未回答(33 名)
CiRA ANNUAL REPORT 2010
平成 22 年度寄附者
山本 育海 様
粟崎 高行 様
若狭 宏子 様
井沢 茂 様
伊藤 嘉信 様
今泉 正徳 様
上木 強 様
上田 靖子 様
内田 喜之 様
大西 健夫 様
「iPS 細胞研究基金」について
(有)アポブレーンセンター
大木建設(株)
(株)京都銀行
高島国際特許事務所
(株)ナガタ薬品
■
設置目的
iPS 細胞技術は、新しい薬の探索や治療法の開発に役
立ちます。しかし、実用化までには、数多くの課題を解
決するための地道な研究を続けていく必要があります。
そのため、国内外から優秀な研究者や研究支援者を集
NPO 法人 網膜変性研究基金
め、知的財産権を取得・確保するとともに、研究を計画
匿名・未回答(50 名)
通りに推進するために安定した財政基盤が必要となりま
岡野 かおり 様
す。本基金は、多くの方々からのご寄附による支援体制
を整え、研究所の安定的な運営を図ることを目的として
小野 章子 様
います。
香取 龍平 様
■
鎌田 守人 様
寄附者の特典
同意をいただいた寄附者のお名前を iPS 細胞研究所エン
川原 康洋 様
トランスホールに掲示します。また、CiRA が発行する
ニュースレター(季刊)、概要パンフレット、
『幹細胞ハン
国谷 史朗 様
ドブック』等の刊行物、主催イベントのご案内をお送り
熊澤 保夫 様
します。
向後 建 様
税控除について
小島 基嗣 様
■
栄 博昭 様
iPS 細胞研究基金へのご寄附に対しましては、所得税法、
法人税法による税制上の優遇措置が受けられます。
佐用 博重 様
個人からのご寄附の場合:2 千円を超える部分について、
白井 豊 様
当該年総所得金額等の 40%を限度に、所得控除対象と
杉戸 重行 様
なります。別途お送りする「寄附金領収書」を添えて確
定申告によりお手続きください。また、京都府、京都市
髙田 幸子 様
在住の方は、住民税について、5 千円を超え総所得金額
武田 仁彦 様
等の 30 %までの寄附金額に対して、府民税は税率 4%、
立川 邦洋 様
市民税は税率 6%を乗じた額が控除されます。
辻 宏幸 様
法人からのご寄附の場合:寄附金の全額が損金算入で
きます。
中川 忠昭 様
申し込み方法・問い合わせ
中田 裕久 様
■
丹羽 康三 様
iPS 細胞研究基金事務局
TEL(075)366-7000 FAX(075)366-7023
野村 和史 様
〒 606-8507 京都市左京区聖護院川原町 53
溝口 史朗 様
京都大学ホームペーシ:
http://www.kikin.kyoto-u.ac.jp/univ.html
南谷 セツ子 様
毛利 久男 様
森 崇英 様
森脇 慎也 様
注)
「未回答」とは、寄附者のお名前
の公表の同意に関して、未回答の個人
及び法人を含みます。
CiRA ホームペーシ:
http://www.cira.kyoto-u.ac.jp/j/about/
fund.html
61
用語説明
あ
できる。もともと体の中に存在している神経
次世代シーケンサー
アイピーエス細胞(iPS細胞)
幹細胞、上皮幹細胞、肝幹細胞、生殖幹細胞、
ゲノムDNAの塩基配列の超高速での大量解
人 工 多 能 性 幹 細 胞(iPS 細 胞 :induced
造血幹細胞などと、iPS細胞やES細胞など人
読に加え、さまざまな働きをするRNA の検
pluripotent stem cell)。体細胞に特定因子
を導入することにより樹立される、ES細胞
に類似した多能性幹細胞。2006年に山中伸
工的に作製された幹細胞がある。
出、ゲノム上の転写開始点の特定や分布の検
弥教授の研究により世界で初めてマウス体細
タンパク質合成の際に遺伝子として働く部分
胞を用いて樹立に成功したと報告された。
出、DNA-タンパク質相互作用の検出などを
完全長cDNA
(情報)だけを写し取ったmRNAの塩基配列
高速に行うことができる自動分析機器。
ジャームライントランスミッション
情報を、完全に写し取った相補鎖DNAのこ
多能性幹細胞が生殖細胞系列へ分化し、多能
イーエス細胞(ES細胞)
と。完全長cDNAは、全長のタンパク質を合
性幹細胞由来の遺伝情報がキメラマウスなど
胚性幹細胞(ES細胞:embryonic stem cell)
成するのに必要な設計情報を含むため、完全
を経て、次世代へ伝承されること。ジャーム
のこと。ES細胞は受精後6、7日目の胚盤胞
な長さのタンパク質が合成できる。
ライントランスミッションが起こった個体の
子孫から、iPS細胞が全身に寄与したキメラ
から細胞を取り出し、それを培養することに
よって作製される多能性幹細胞の一つで、体
キメラマウス
のあらゆる組織の細胞に分化することができ
異なるゲノムを持つ二つ以上の胚またはその
マウスが生まれる。
る。しかし、作製には受精卵を破壊する必要
一部からできた個体をキメラという。例えば、
SNPアレイ(スニップ・アレイ)
があり、倫理的な問題がある。また、患者自
iPS細胞やES細胞を初期胚に移植して作製し
遺伝子の基本的な塩基配列が同じであっても
身の細胞から作製することができないため、
たマウスのことをキメラマウスという。
一つの塩基が他の塩基に置き換わっている箇
細胞移植治療に利用する際には免疫拒絶の問
所があり、この部分のことをSNPs( 一塩基
題が指摘されている。
QT時間(キュー・ティ時間)
QT時間は心室筋の活動電位持続時間(APD)
多型)と呼ぶ。SNPsの違いが体質などに個性
in vitroとin vivo
の平均的な長さのこと。心室筋の細胞内活動
このSNPsの検出に用いる実験用ツール。
(イン・ビトロ と イン・ビボ)
を生むと考えられている。SNPアレイは、
の状態を示す。
in vitro(イン・ビトロ)は、実験条件をあら
スプライシング
かじめ決めた試験管内のような環境条件で行
クローン
う実験を示す用語で、in vivo(イン・ビボ)は、
同じ遺伝情報を持つ集団のことを、生物学的
一般的な真核生物のDNAから転写された
mRNA前駆体には、イントロンと呼ばれる
マウスのような実験動物の体の中の条件での
な用語として「クローン」と呼ぶ。一つの細
直接タンパク質のアミノ酸配列に関わらない
実験ということを示す用語。
胞から増えた同じ遺伝情報を持つ細胞の集団
領域が在る。このイントロンを除き、残った
は「クローン」や「細胞株」と呼ばれる。
エクソンと呼ばれる領域からなるmRNAが
作られる過程はスプライシングと呼ばれる。
エピゲノム
ある細胞内で起こっているエピジェネティク
継代培養
な修飾(DNAメチル化、ヒストン修飾など)
培養した細胞を培養皿から取り出し、新しい
全体のことを指す言葉。
培養皿に移し、再び培養すること。
線条体
大脳皮質の下部に位置し、大脳皮質と視床、
脳幹を結びつけている部位にあたる大脳基底
エピジェネティクス
ゲノム
核の構成要素の一つ。運動機能や意思決定な
DNAの塩基配列の変化に依存せず、表現型
生き物の遺伝情報全体のことを「ゲノム」と
どに関わっていると考えられている。
や遺伝子発現量を変化させる仕組みのこと。
呼ぶ。通常、ゲノムは生き物の種類ごとの単
DNAとタンパク質の複合体であるクロマチ
位で表現され、人間(ヒト)であればヒトゲ
相同組換え技術
ンへの後天的な化学的修飾(DNAメチル化
ノム、マウスならマウスゲノムと呼ばれる。
相同組換えとは,DNAの塩基配列がよく似た
やヒストン修飾)によって起こる。
領域(相同部位)で起こる組換え。二本鎖の
DNAには、切断や変異が起こっても相補鎖
さ
を元に修復する機能が備わっており、これら
か
サイクリックAMP
の性質を応用して目的の場所の遺伝情報を変
核型
細胞内シグナル伝達や遺伝子調節など細胞内
える技術。
生物の染色体の数、大きさ、形態などによっ
の仲介物質として働き、さまざまな生体機能
てあらわされる染色体の構成。
に重要な役割を持つ化合物。
た
幹細胞
三胚葉
体細胞
生殖細胞以外の体の細胞の総称。
人間の体は約60兆個の細胞が集まってでき
受精後の胚からできる細胞の塊で、内胚葉、
ているが、その中には「細胞を生む」ことが
中胚葉、外胚葉に分けられる。内胚葉は、そ
できる細胞があり、それを幹細胞という。幹
の後消化器官や呼吸器官を形成する。中胚葉
DNAのメチル化
細胞は分裂して「自分と同じ幹細胞」と「他
は骨、心筋、赤血球などに分化する。外胚葉
哺乳類の場合、DNAのシトシン塩基の5位
の細胞に変化する細胞」を同時に作ることが
は、神経や感覚器官を形成する。
末端の水素(-H)がメチル基(-CH3)に置
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き換わることをいう。遺伝子の働きを調整す
は
る領域がメチル化されると遺伝子の発現が抑
ハイスループット・スクリーニング
制され、逆にメチル基が外れる(脱メチル化)
多種多様な化合物を収納したカタログ(化合
と、遺伝子の発現が活発になることが知られ
物ライブラリー)の中から、ロボットなどの
Wntシグナル の構成分子として重要なタン
ている。塩基配列の変化に依らない遺伝子発
自動装置を利用して、目的の化合物を選び出
パク質。Wnt/β-カテニン経路は、脊椎動物
現の機構(エピジェネティクス)の一つ。
す技術のこと。
や無脊椎動物の発生における細胞運命の決定
低分子化合物
胚様体(embryoid body : EB)
β-cateninシグナル
(ベータ・カテニン・シグナル)
シグナル伝達経路の一つとしてよく知られる
の調節や細胞の増殖、分化の制御に働いてい
ることが知られている。
分子量の少ない化合物のことであり、酵素阻
ES細胞やiPS細胞などを浮遊培養すると形成
害活性などの生理機能をもつ。一部の低分子
されるボール状の細胞塊。この状態で2週間
ポジトロンCT(PET-CT)
化合物の中にはiPS細胞の樹立を促進する効
程度培養すると、様々な細胞種への分化が観
プラスの電気を帯びた電子を放出する同位元
果があるバルプロ酸などが見出されている。
察される。胚様体の観察は細胞の分化多能性
素(アイソトープ)で標識された薬剤を注射
を調べる一般的な方法として用いられている。
し、体内分布を特殊なカメラで断層撮影する
装置。がんの性質などの検査に有用な診断機
テラトーマ(奇形腫)
ES細胞やiPS細胞を免疫不全マウスの皮下な
ピギーバック・トランスポゾン
どに注射すると、腫瘍を形成する。この腫瘍
転位性遺伝因子の一つ。DNA上のある部分
器。
はテラトーマと呼ばれ、様々な種類の組織が
からある部分に転位するDNA。これを利用
混在している。テラトーマを観察し、様々な
して遺伝子を細胞に導入すると外来遺伝子の
ま
組織に分化していることを確認することは、
ゲノム挿入を回避できる。
マイクロアレイ
細胞の分化多能性を調べる一般的な方法の一
一度に膨大な数のDNAやたんぱく質を網羅
つである。
p53
p53遺伝子は代表的ながん抑制遺伝子の一つ。
的に検査することができる解析技術。
トランスクリプトーム
細胞の恒常性の維持やアポトーシス(細胞死)
未分化細胞マーカー
一つの細胞中に存在する全てのmRNAなど
誘導といった重要な役割を持つ。細胞のがん
未分化なES細胞やiPS細胞において特異的に
の一次転写産物の総体を示す言葉。基本的に
化には複数のがん遺伝子とがん抑制遺伝子の
発現する遺伝子。これらの遺伝子が発現して
同じ個体中の細胞のゲノムは同じである一方、
変化が必要だが、p53遺伝子は悪性腫瘍にお
いることは、細胞が未分化状態であることの
機能の異なる細胞や組織では、同じ個体であ
いて最も高頻度に異常が認められている。
指標となる。逆に神経、筋肉、血液といった
分化した細胞にもそれぞれ分化細胞マーカー
っても組織によって働く遺伝子が異なるため
トランスクリプトームは異なる。
フィーダー細胞
が存在する。
目的の細胞を培養する際、培養条件を整える
トランスジーン
補助的な役割をもつ細胞。通常は薬剤処理に
次世代の個体に受け継がれるなど、安定的に
よって分裂できないように処理されている。
ら
導入されたDNA(あるいは遺伝子)を指す言
iPS細胞の培養の際には、マウス胎仔由来の
ランダムインテグレーション
葉。
線維芽細胞などがフィーダー細胞として用い
外来遺伝子が染色体上の不特定な位置に導入
られている。
されることを示す言葉。
な
プラスミドベクター
リプログラミング(初期化)
ニューロスフェア
プラスミドベクターは、試薬や電気穿孔など
分化した体細胞の核がリセットされ受精卵の
神経幹細胞を含む球状の神経系細胞の塊。
の方法で宿主の細胞に導入され、外来遺伝子
ような発生初期の細胞核の状態に戻り、多能
ES 細胞やiPS 細胞から分化させて一次ニュ
を染色体外で発現させる。導入効率は、一般
性幹細胞などに変化すること。
ーロスフェアを作成し、それをさらに継代培
にレトロウイルスベクターなどのウイルスベ
養したものを二次ニューロスフェア
クターの方が高いとされる。プラスミドベク
レトロウイルスベクター
(secondary neurosphere)という。神経幹
ターは安定で、一度作製すると長期間にわた
ベクターとは、細胞外から内部へ遺伝子を導
細胞を浮遊培養で継代培養する方法として用
って保存できる。また通常の実験室で作成で
入する際の「運び屋」を指す。ウイルス由来
いられる。
きる。
のベクターは、遺伝子導入効率の高さから盛
Notchシグナル
フローサイトメトリー
に組み込み、細胞に感染させることにより遺
多くの多細胞生物で共通に持っている、発生
流動細胞計測法。レーザー光を用いて光散乱
伝子を導入する。レトロウイルスベクターは、
過程や幹細胞における細胞運命決定を調節す
や蛍光測定を行うことにより、水流の中を通
このウイルスベクターの一種で、宿主の細胞
るシステム。特に神経や心臓、内分泌腺の発
過する単一細胞の大きさ、DNA量など、細
に感染した後、宿主のDNAのなかに入り込
生などにおいて、細胞運命の決定に関わる多
胞の生物学的特徴を解析することができる。
んで自らのDNAを増殖させる性質を持つこ
んに開発されてきた。目的遺伝子をウイルス
様な調節に関わっている。
とから、この働きを遺伝子導入に利用する。
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CiRA の研究棟紹介・交通案内
CiRA の研究棟紹介
2010 年 2 月に CiRA 研 究 棟 が 京 都
大学吉田キャンパス内に竣工しまし
た。 地 上 5 階、 地下1階 の 建 物 で、
延床面積は 12,000 平方メートルです。
オープンラボを採用し、動物実験施
設、細胞調製施設を設置しました。
1 階のギャラリーは一般の方に公開し
ています。
住所
〒 606-8507
京都市左京区聖護院川原町 53
交通案内
各交通機関からのアクセス
●
JR 各線・近鉄京都駅から
市バス 206 系統
「東山通り 北大路 バスターミナル行き」
熊野神社前下車 徒歩 6 分
JR (Japan Railway) Line
Shinkansen Line
阪急電車
Keihan Demachiyanagi Sta.
琵琶湖
Lake Biwa
梅田
Umeda
近衛通 Konoe St.
南西病棟
再生医科学研究所
(西館)
South West Wards
Institute for Frontier
Medical Sciences
(West Bldg.)
京阪神宮丸太町駅
Keihan Jingu-Marutamachi Sta.
関西国際空港
Kansai Int’l Airport
64
天王寺
Tennoji
Kyodai Seimon-mae
近衛通
Konoedori
病院構内
University
Hospital
再生医科学研究所
(東館)
Institute for Frontier
Medical Sciences(East Bldg.)
大阪
Osaka
Osaka Bay
京大正門前
Higashi -Oji St.
三宮
Sannomiya
大津
Otsu
百万遍
Hyakumanben
東大路通
京都
Kyoto
駅
Train Station
今出川通 Imadegawa St.
Marikoji St.
河原町
Kawaramachi
新大阪
Shin-Osaka
Kawabata St.
Kyoto City Subway
Kamogawa River
神宮丸太町
Jingu-Marutamachi
烏丸御池
Karasuma Oike
三条京阪
Sanjo Keihan
京都市営地下鉄
鴨
川
バス停
Bus Stop
鞠小路
Keihan Railway
京阪出町柳駅
川端通
出町柳
Demachiyanagi
Hankyu Railway
京阪電車
大阪湾
京阪神宮丸太町駅から
徒歩 5 分
N
Yoshida Campus,
Kyoto Univ.
新幹線
新神戸
Shin-Kobe
●
京都大学
吉田キャンパス
N
JR
阪急河原町駅から
市バス 201 系統
「東山通り 北大路 バスターミナル行き」
熊野神社前下車 徒歩 6 分
31 系統「東山通り 高野・岩倉行き」
熊野神社前下車 徒歩 6 分
●
iPS細胞研究所
Center for iPS Cell Research
and Application(CiRA)
丸太町通 Marutamachi St.
春日通 Kasuga St.
熊野神社
Kumanojinja
熊野神社前
Kumanojinja-mae
発行
京都大学 iPS 細胞研究所(CiRA)
企画・制作
川上雅弘、中村朱美
(京都大学 iPS 細胞研究所 研究戦略本部 国際広報室)
制作協力
田村早紀、水口すみえ
(京都大学 iPS 細胞研究所 研究戦略本部 国際広報室)
釜野一行、福田美紀、藤本佳人、渡邊真理
(京都大学 iPS 細胞研究所 事務部)
Douglas Sipp
*「主任研究者と研究の紹介」(p.8-p.45) の本文は、
各研究室によって執筆されました。
編集
小島あゆみ
撮影
Jussi Panula
(京都大学 iPS 細胞研究所 研究戦略本部 国際広報室)
写真提供
(表・裏表紙、p.3):
菊地哲広、高橋和利、山中伸弥
(京都大学 iPS 細胞研究所)
デザイン
八十島博明、井上大輔(GRID CO., LTD)
印刷
株式会社 新晃社
CiRA ANNUAL REPORT 2010
発行日 2011 年 3 月 31 日
京都大学 iPS 細胞研究所(CiRA)
研究戦略本部 国際広報室
〒 606-8507 京都市左京区聖護院川原町 53
TEL 075-366-7005
FAX 075-366-7024
URL http://www.cira.kyoto-u.ac.jp/
Copyright © 2011 Center for iPS Cell Research and
Application, Kyoto University.
Printed in Japan
本書の収録内容の無断転載、複写、引用等を禁じます。
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