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試聴室兼ホームシアター
SIA Case Study No.2 試聴室兼ホームシアター by SIA ソフトウェアカンパニー サム・バーコウ みなさん、こんにちは。 願わくば続けていきたいと思っているケーススタディの 2 つ目は、試聴室兼ホームシアターだ。ハイエンドの機器がそろっ ていて設備も整っており、最新のホームシアター用映像機器も備わっている。しかし音響面では多くの問題を提起していた現 場だ。私はそんな部屋の評価を依頼されたのだ。その部屋について私は、オーナーが音に満足していないとだけ聞いていた。 さて、それでは私の作業と結果をいくつか、さらにその解釈を紹介しよう。 評価を始めるにあたって私はその部屋の図面を研究した。本質的には長方形の部屋で、幅 15 フィート 4 インチ ( 約 4.6 m )、 奥行き 26 フィート ( 約 7.8 m )、高さ 9 フィート ( 約 2.7 m ) だった。床はカーペット敷きで天井は音を拡散する要素のある堅 い素材で覆われ、壁面には控えめに ( つまり薄く ) 音響的な処理がしてあった。 私は測定を始める前にいつも数分間音楽を聴くことにしている。私にとって重要なステップだと確信している。耳を過小評 価するなかれ、だ。今年は重要な試聴のためにディスクを数枚持ち歩いている。そのときのお気に入りはショーン・コルヴィ ンの「Steady On」だ。1 曲目はキックドラムとベルから始まる。低域の残響が多すぎる部屋では、キックのダブルタップが 聞こえなくなることもしばしばだ。またドラムやベルのバランスは聞き分けやすいため、私にとってすぐれたリファレンスであ ることがわかっている。 私は最初にインパルス応答を測定した。伝達関数測定に必要なディレイを算出できるし、じゃまになり得る反射や不均衡な 残響減衰も見られるからだ。この測定のために小さな測定用ミキサーを設置し、L と R の出力をパソコンに接続して AUX バ スのラインレベル出力を部屋のステレオスピーカーのうち 1 本だけに接続した。最初の測定ソースはピンクノイズだ。 私はインパルス応答を測定するために Smaart Pro のディレイロケーターを使った。サンプリング周波数を 44100、FFT を 65536 ポイントにして平均化数を5に設定した。このサンプリング周波数と FFT サイズから FFT 時定数は 1.48 秒になった。 その測定結果を図 1 に示そう。 直接音 初期反射音 残響の減衰 ノイズフロア 図 1:ピンクノイズをリファレンス信号にしたときのインパルス応答。マイクは部屋の中央にあるリスニ ングポジションに耳の高さで設置した。 Case Study 2 - Critical Listening Room, Home Theater インパルス応答は一見したところまあふつうの結果だった。直接音がはっきり見え、反射がいくつかばらばらと続き、最後 は残響が減衰して行く。しかしマイクがスピーカーから 11msec しか離れていないので、直接音対残響音のエネルギー比が 広い帯域でもっと大きくなるだろうと予測していた。明らかに問題になるような反射は見当たらないものの、最初の 2 つは望 ましい状態よりやや高い。 図 2 はインパルス応答と同じ場所で測定した伝達関数だ。ここでは FPPO を選び、リファレンスファイルとして保存してお いた。平均化数は 35 でソース信号はピンクノイズだ。 伝達関数プロットには目立つ点があった。 a) 低域に大きな共鳴 ( ピーク ) がある b)600Hz にディップがある c)5kHz 以上がロールオフしている 低域の共鳴 5kHz の ロールオフ 600Hz のディップ 図 2:図 1 と同じ場所で測定した伝達関数。平均化数35、FPPO 分解能で測定した。ソースにはピンクノイズを使っ たが音楽でも同じ結果が出るだろう。この種のプロットでは、0dB ラインより上の値は増幅や共鳴を表す。0dB より下の値はある種のアッテネートや打ち消し効果を表している。 一般的に考えれば、低域の共鳴は音響に原因があるように思える。600Hz のディップは測定時に「床ではね返った」か、 スピーカーに入っているクロスオーバーの問題だろう。最後の 1 つ (5kHz でのロールオフ ) は音響的なものとは考えにくく、 最初は相対的なゲインかユニットの能率が原因ではないかと考えた。最初の問題、低域での共鳴を調査するため、次のステッ プに進んだ。 低域の共鳴を追求するため、私はまずこの部屋の予測されるモード周波数を計算した。きちんと長方形になっている小さな 部屋だから計算が簡単だ ( バルコニーがなくて良かった !)。部屋の幅、奥行き、高さがわかっていれば、予測されるモード 周波数は次の方程式から計算できる。 Pi =(565/ 長さ)× i Qi = (565/ 幅 ) × i Ri = (565/ 高さ ) × i この部屋は、長さ 26 フィート、幅 15.3 フィート、高さ 9.0 フィートだ。方程式の 565 という値は音速 1130 フィート / 秒の 2 分の 1 から来ている。 Case Study 2 - Critical Listening Room, Home Theater “i” P モード (Hz) 奥行きから算出 Q モード (Hz) 幅から算出 R モード (Hz) 高さから算出 1 21.7 36.9 62.8 2 43.5 73.9 125.6 3 65.2 110.8 188.3 4 86.9 184.6 251.1 5 108.7 221.6 313.9 図 2( またはリファレンスファイル ) を注意深く観察すると、低域の共鳴は 43Hz、66Hz、109Hz で発生している。 極めておもしろいことに、これらの周波数が ( 部屋の奥行きから ) 予測した P モードにも現れているではないか。この関係か らスピーカーがルームモードを刺激していることを暗示している。この結果はまた、最初に部屋を見回したとき壁面に使われ ているのが薄い吸音材だけのように見えたこととも一致しているようだ。薄い素材は低域特性を、特に 200Hz 未満で貧弱に する。これを確認するため、私は図 1 のインパルス応答を周波数領域に変換し、時間スライスとスペクトログラフの両方で表 示した。変換時のパラメーターは 1024 ポイントの FFT でオーバーラップを 85% に設定した。 125Hz オクターブの減衰 500Hz と 1kHz オクターブ 図 3:時間スライス表示。1000Hz、500Hz、125Hz を中心にした 3 つのオクターブバンドで減衰を表示したもの。 x 軸は dB、y 軸は秒だ。1kHz や 500Hz のオクターブに比べて 125Hz のオクターブは減衰が遅くなめらかで はないことがわかる。 ほとんどの吸音材は高めの周波数でより効果を発揮するため、中高域と低域の減衰率が不均衡になることは予測していた。 しかしこのケースでは 125Hz の減衰率が 500Hz の半分にもならない (500Hz での残響時間は最長 0.2sec と測定されたのに 125Hz の減衰は最長 0.55 秒だ )。私はカーソルを使って各周波数範囲の減衰率を見た。 さらに低域問題を調査するため ( 最初の試聴で低域のサウンドが鈍かったことを書いただろうか ?)、スペクトログラフを見た。 スペクトログラフは 3D プロットで、x 軸で時間、y 軸で周波数、色で振幅を表示する。 Case Study 2 - Critical Listening Room, Home Theater 低域の減衰。レベルの減衰が赤から黄色、そ して緑から青へと変わり、また黄色に戻ってい る。カラースケールはグラフの下に表示され た通りで、赤が最もエネルギーが大きい。 図 4:スペクトログラフ。20Hz から 22kHz までの帯域で音の減衰を表示している。x 軸は時間を秒で表し、y 軸は対数周波数スケールになっている。赤は最もレベル ( 信号の大きさ ) が高いものだ。高めの周波数に比べ ると、低域エネルギーの減衰は遅いしむらがある。 すでに試聴を行い、伝達関数、時間スライス、スペクトログラフを見てきて、私たち ( 実はこのとき悪名高きジョン・ストラ イクと一緒だったのだ ) が出した結論は、この部屋が低域をきちんと吸収していないということだった。事実、小さなリスニン グルームやホームシアター、コントロールルームの多くでみられる問題だ。低域にある 3 つの大きな共鳴はすべて部屋の奥 行きから予測されるモードに現れていたし、部屋の長い方の軸と垂直に交わる壁に低域を吸収するか拡散する処理をすれば 効果があると思われた。 ここで重要なことをメモしておこう。このケースで私は室内で起きている問題を特定するために Smaart を使った。この結果 はそのルームモード通りの作用をしていたことを強く暗示していると思う。さらに測定の結果を簡単な予測モード周波数と比べ てみると、極めて近い結果が出たではないか。私はこれがとても貴重なプロセスだと思うし、提案した処理に使う素材の種 類や量、さらに施工法まで含めて完全な解決法を提案して行こうと思う。美観、コスト、耐久性に配慮して最終的にどう処置 するか決まるだろう。 くり返すが、このケーススタディがみなさんのお役に立つことを願っている。最後に小さな部屋における残響時間という用 語について脚注を入れた。私のような音響オタクにだけお読みいただきたい。 * 残響時間はかなり一般的な用語で、実際にはそれほど有用なものではない。このパラメータは拡散音場を持つ 部屋には最適だ。残念ながらほとんどのコントロールルームやホームシアター、さらには多くのコンサートホール にもあてはまらない。残響時間や RT60 は音量と吸音の関係を示すとても不思議なパラメーターだが、少々主観 的な好みも関係してくる。2 つの部屋で残響時間スペクトル ( さまざまな周波数バンドでの残響時間 ) が同じでも、 反射の配分によって音は徹底的に違うことを指摘しておきたい。そんなわけでこの手短な非難演説の最後にこう申 し上げよう。残響時間とは、音響というパズルの大量なピースのうちの ( そして事実ならさほど重要ではない )1 つとして扱うべきだ。 Case Study 2 - Critical Listening Room, Home Theater