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CFT 圧縮抵抗ブレースによる耐震補強を施した実在 RC 造学校校舎の弾
CFT 圧縮抵抗ブレースによる耐震補強を施した実在 RC 造学校校舎の弾塑性性状 佐藤 竜彦 1,800 RF 3F 2F 1F B×D 上端 下端 B×D 上端 下端 B×D 上端 下端 B×D 上端 下端 □ □ 2 22.1 22.8 71.4 2 2,950 1,900 200 2,950 1C 2,950 2,750 2,750 2C 1C 850 2C 200 3,600 7 ヤング係数(× 10 N/mm ) 4 上階 切断位置 D 0.69 0.68 0.83 0.82 53-1 上階 切断位置 補強箇所 0 0 ,2 5 W150 C 0 0 ,0 4 1 B 0 0 5 , 2 2 0 0 ,3 6 1.89 2.29 4.22 W150 補強箇所 Y方向 419 454 489 485 8 図2 試験対象部分の軸組図 A 2 0.17 0.20 0.20 斜線部 実験用スリット 850 1,000 600 圧縮強度 (N/mm ) ブレース 1C 8 表3 コンクリートの圧縮強度試験結果 1F 2F 2C 3,600 7 降伏強度 降伏ひずみ 引張強度 降伏比 (%) (N/mm ) (N/mm ) 290 308 405 400 1C 3F 2F 1F 450×550 500×550 550×550 3-19φ 3-22φ 3-22φ 3-19φ 3-22φ 3-22φ 9φ@240 9φ@240 9φ@240 B×D X方向 主筋 Y方向 帯筋 1,800 GL 表4 鋼材の引張試験結果 φ9 SR235 φ22 -175×175×6.0 STKR400 -200×200×6.0 CFTブレース □200*200*6 1FL 表2 柱リスト Y方向 端部 中央 300×700 3-19φ 2-19φ 2-19φ 3-19φ 300×700 4-19φ 2-19φ 2-19φ 4-19φ 300×700 4-22φ 2-22φ 2-22φ 4-22φ 350×900 3-22φ 3-22φ 3-22φ 3-22φ 規格 CFTブレース 2C □175*175*6 2FL 本研究で対象とする文献 3)の建物の実験対象部分の 1 階の伏図を図 1,軸組図を図 2 に示す.実験架構は,4 つの構面から成る 3 層 1 スパン(実験対象は一階と二階 X方向 端部 中央 300×650 3-19φ 2-19φ 2-19φ 3-19φ 300×650 3-19φ 2-19φ 2-19φ 3-19φ 300×650 4-19φ 2-19φ 2-19φ 4-19φ 350×1000 3-19φ 3-19φ 3-19φ 3-19φ 1,800 850 200 3FL 2 実験概要 表1 梁リスト 1,800 RFL 3,600 3) 3,600 1),2) 11,800 当研究室では,これまでに圧縮抵抗型の CFT ブレー スを用いた RC 構造建物の耐震補強法を提案してきた . 提案補強法は,従来頻用されてきた鉄骨枠付きブレー ス補強法と同等の耐震性能を保持しつつも,簡易施工 が可能であることが特徴である.この補強効果につい ては,2006-2009 年にかけて,既存不適格学校校舎の桁 行き方向を想定し,1 層 1 スパンを取り出した 1/2 縮約 モデルによる実験および解析 ,2010 年にはこの提案 補強法を実在文教施設に施し,静的水平加力実験 を実 施することで検証してきた. 本研究では,2010年の実験の水平耐力評価法を示す. さらに荷重-変形関係を追跡できる解析モデルを示し, 実験と解析の比較・検討を行う.この対応を確認した上 で,提案補強を施した当該建物の地震時の挙動を調べ ている.最後に,設計に必要な事項について検討を行っ ている.本報では,実験概要を示した後,水平耐力の評 価法と実験と解析の荷重-変形関係ついて示す. 部分とした.)で,B-C 区間が 2,500mm の廊下であり,AB 区間,C-D 区間がそれぞれ 6,300mm,5,200mm の教室 となる中廊下型の平面プランを有している.7 軸 A-B 通 り間および C-D 通り間には,壁が存在している.この壁 は,厚さ 150mm(W150)の 3 連層耐震壁である.A,D 通り構面は垂壁・腰壁を持つラーメンであるが,脆性的 な挙動を避けるため,腰壁に実験用スリットを設け靭 性の改善を図った.実験架構には既存 RC フレームの補 強として,A, D構面の 1 階と 2 階にそれぞれ□ 200 × 200 × 6 と□ 175 × 175 × 6 の角形鋼管にコンクリートを充 填して作成した CFT ブレースを設置した. 3,600 1 はじめに 1,800 1,800 3,600 X方向 7 8 図1 試験対象部分の伏せ図 実験試験体の柱,梁リストを表 1,2,コンクリート の圧縮強度結果を表 3,鋼材の引張試験結果を表 4 に示 す. 実験試験体への載荷は,2 階床および 3 階床において 等しい水平力を与え,2階の床レベルにおける変位で制 御した.加力は図 1 の伏せ図の X(桁行)方向に行った. 全構面風上柱 引張降伏時計算耐力:4027kN 最大計算耐力:3279kN 3000 ) N k ( Q 試験体の実験耐力の推定を試みる.まず,無補強構面 と補強構面のそれぞれの耐力算定方法について述べる. 図 3 に B 通りの無補強架構の断面力図を示す(紙面の 都合上 B 構面のみ記載).図の Q ・M は,柱のせん断力・ 曲げモーメントである.図の純フレームは柱が曲げ降 伏するとして計算しており,柱断面の曲げ終局強度 M が分かれば,崩壊メカニズム時の水平耐力を特定でき る.M は柱端部(ブレース接合部がある場合は,その 上下端部)より D/4 離れた断面において,診断基準 の 終局曲げ耐力式で算定した.D は柱せいである.なお, 上階の梁のせん断力は,容易に推定できないので,これ は考慮していない. 補強架構周辺の力の釣合いを図4に示す.1層の柱が 引張降伏すると連層耐震壁同様,補強架構が全層にわ たり回転すると考えられる.図4の破線で切り出した自 由体について,A 点を回転中心とし,鉛直荷重 W と柱 の降伏軸力N と風下柱のせん断力Q による力のモーメ ントと水平荷重 P による力のモーメントの釣合いによ り,風上柱引張降伏時の補強架構の計算耐力を求めた. 図 5 に正側加力時の Q - R の包絡線を示す.図 5 に補 強架構の風上柱引張降伏時計算耐力(以下,引張降伏時 計算耐力と呼ぶ)1 を実線で示す.引張降伏時計算耐力 1 は,補強架構の風上柱が引張降伏する時の耐力と無補 強構面の耐力を累加して算定した.なお,補強架構の風 上柱が引張降伏した時点では,無補強構面の柱は曲げ 降伏していなかったと考えられるため,無補強構面の 計算耐力は,当該架構の柱が曲げ降伏する時の耐力に 強度寄与係数 を乗じて求めた. は,以下の式(1) で求めた. 0.3 0.7 R R (1) ここで,R は補強架構の風上柱引張降伏時変形角,R は柱の曲げ降伏時変形角で 1/100rad. としている.これ は,過去の実験 において無補強架構の柱の曲げ降伏変 形角が R=1/100rad. 以上であった結果を参照した.引張 降伏時の実験耐力は引張降伏時計算耐力 1 より 9%大き い値となった.これは直交梁による押さえ効果による 影響だと考えられる. c c u u 4) i y c C c y 補強架構の風上柱 引張降伏 時耐力:2886kN 補強架構の風上柱 引張降伏時 計算耐力1:2636kN 2000 0 0 0.3 0.6 0.9 1.2 1.5 R (×10-2rad.) 図5 正側加力時の包絡線 直交梁による押さえ効果を考慮した場合の引張降伏 時計算耐力 2 を図 5 に点線で示す.図 4 の中で()で示 す直交梁のせん断力 Q を W に加算して,A 点回りの モーメントの釣り合いより求めた.なお,Q は,以下 (2)の式で算定した. o bi i o o Qbi 3Ei I i l 2 i 3 bi 2 (2) ここで,E はコンクリートのヤング係数(表 3),I は 直交梁の断面二次モーメント(全せい有効の長方形断 面), は補強架構の風上柱と隣接する無補強架構の風 上柱の鉛直変位の差,l は直交梁の内法長さとする.本 実験では,B8 柱の鉛直変位は測定していないため,C8 柱の鉛直変位と同一と仮定した.スラブおよび鉄筋の 影響は無視している. 直交梁の押さえ効果を考慮した場合の引張降伏時計 算耐力 2 は,実験値との誤差は 3% となった.直交梁の 抵抗を考慮することにより,実験耐力の評価精度が僅 かではあるが向上した. 正側加力時の最大耐力の実験 値と計算値の比較を行う.図 5 に,直交梁が曲げ降伏したと仮 定した場合の計算耐力を一点鎖 線で,全構面の風上柱が引張降 i i i 8W3W(+ 3+cQob3 Qb3) 7W3 8W2(+oQb2) 7W2 P 8W1(+oQb1) 7W1 N=478kN P N=387kN my y 補強架構の風上柱 引張降伏時 計算耐力2:2808kN 1000 3 実験結果と計算結果の評価 c 最大耐力:3552kN 4000 Qc Mu =323kNm Mu =204kNm Qc=246kN Qc=155kN Mu =323kNm Mu =204Nm Ny=937kN Pn=401kN my 1) 53-2 7 A L 8 図4 補強架構周辺の力 図3 無補強架構の断面力図 の釣り合い (B構面) (風上柱の引張降伏時) 5 2 6 4.2 実験試験体の解析結果 図 9 に実験と解析により得られた試験体の水平力 Q‐ 層間変形角 R 関係を示す.点線が実験値で,実線が解析 値である.図9には補強架構の風上柱が引張降伏した点 を(解析では■ , 実験では●でそれぞれ)プロットして いる.試験体の正側加力時における補強架構の風上柱 補強架構の風上柱引張 降伏時のブレース軸力 最大耐力時の ブレース軸力 軸力 軸力 軸力 P P P P 3775 表5 CFTブレース負担軸力の比較 軸力 3600 3) 圧縮剛性を有する無筋コンクリート断面を用いており, ブレースに引張力が作用しない接合部の詳細を模擬し ている.また,直交梁による押さえ効果を模擬するため に,図 7 に示すモデルを加えた.これは,柱の鉛直方向 変位の差により発生する梁のせん断力を伝達する機能 を持っている.A ~ D の構面は,剛床仮定が成り立つも のと仮定して,それぞれの柱端において,剛体によりピ ン接合している. コンクリートおよび鋼材の材料構成則を図 8 に示す. コンクリートは耐力劣化を考慮しない Popovics モデル ),鋼材はバイリニア型でひずみ硬化を考慮したモデル とした. 3600 伏したと仮定した場合の計算耐力を二点鎖線で示して いる.なお,直交梁の曲げ耐力は,診断基準 の終局曲 げ耐力式により求めた.ここでもスラブの影響は無視 している.前者は,実験値を 8% 過小評価し,後者は, 12% 過大評価した.このことは,正側加力時の最大水平 耐力は,直交梁の負担可能な最大せん断力が,無補強構 面である B,C 構面の風上柱の負担軸力よりも小さいた めに,全構面の風上柱が引張降伏するまでに至らず直 交梁が曲げ降伏することで決定したと考えられる. 表5にブレースの負担軸力の実験値と計算値の比較を 示す.実験値は,ブレースの材中央部4面に貼付したひ ずみゲージにより測定したひずみの平均に軸剛性をか けて求めた.コンクリートのヤング係数は,表3の値を, 鋼材のヤング係数は一律 2.05 × 10 N/mm とした.計算 値は,図 4 におけるブレースの軸力である. 補強架構の風上柱引張降伏時の両者の値の比は,0.99 から 1.03 となり高い精度で一致している.これは,計 算において仮定した補強架構と無補強架構の水平力分 担が妥当であることを示しており,式(1)の強度寄与 係数と,直交梁の押さえ効果の評価が適切であったこ とを示している. 最大耐力時の計算の誤差は3%以内で実験値を評価し ており,この時点においての補強構面の負担水平力も 精度良く評価出来ていることが分かる.これは,直交梁 のせん断耐力が精度良く評価できていることを示して いる. 実験値 計算値 実/計 A 1059 1031 1.03 D 1085 1093 0.99 A 1227 1249 0.98 D 1309 1339 0.98 7 3600 8 A,D通り 3600 7 剛域 ヒンジ領域 8 B,C通り 図6 解析モデル σ 4 弾塑性挙動解析 解析により,実験挙動の追跡を試みる.解析にはファ イバーモデルで断面の応力状態を表現する手法を用い て,梁要素の剛性マトリックスを組み込んだ非線形の2 次元骨組解析プログラム を使用した. c 剛棒 4.1 解析モデル 53-3 B E 5) 図6に試験体の解析モデルを示す.解析モデルではス ラブ筋を考慮して,梁主筋の断面積を2倍として梁の剛 性と耐力を上昇させている.柱梁接合部内は,剛域と し,ヒンジ領域長さは柱については柱せいの半分,梁に ついては梁せいとした.補強ブレースは,1 階と 2 階に 設置したそれぞれの角形 CFT ブレースとほぼ同等の軸 σ εco B8(C8) 柱頭 図7 直交梁のモデル εr a)コンクリート E pin接合 pin 接合 A8(D8) 柱頭 εr /2 E y b)鋼材 図8 材料構成則 ε 4000 3000 Q (kN) 2000 1000 1.4 C構面 (無補強構面) 1.2 1 0.8 (%) 1 0.8 0.6 0.4 0.2 0.2 -0.5 0 0.5 R(×10-2rad.) 1 1.5 2 解析 実験 D構面 (補強構面) 0.6 0.4 0 -2 -1.5 -1 0 -2 -1.5 -1 -0.5 0 0.5 R(×10-2rad.) 1 1.5 2 図10 風上柱の鉛直ひずみ -層間変形角 R 関係 表6 正側耐力比較 補強架構の風上柱 引張降伏時耐力( kN) 正側最大耐力(kN) 実験値 解析値 実/解 2886 2866 1.01 3552 3627 0.98 5 まとめ 本研究から,以下の結論を得た. (1)本報で示す簡便な計算手法により実験の水平耐力 およびブレースの負担軸力を精度良く評価するこ とが可能である. (2)本報で示す解析手法により補強架構の風上柱引張 降伏時耐力および正側最大耐力それぞれの誤差を 1%,2% で推察できた.各種の挙動の特徴につい ても概ね模擬することが示された. < 参考文献 > ) 北島幸一郎,中原浩之,崎野健治:CFT 圧縮ブレースを用 いたRC造架構の耐震補強法に関する実験的研究,コンク リート工学年次論文報告集,Vol.30,No. 3,pp.1573-1578, 2008.7. 2) 中原浩之,西田裕一,崎野健治,北島幸一郎:圧縮抵抗型 CFTブレースにより耐震補強したRC造建物の地震応答 性状に関する解析的研究,コンクリート工学論文集, Vol.22, No. 2, pp.1-10, 2011.5. 3) 高畑陽一,中原浩之,他:CFTブレースにより補強した実 在3 階建て文教施設の繰返し載荷実験(その1-5),日本建 築学会大会学術講演梗概集,C-2,pp.305-314, 2011.8. 4) 日本建築防災協会:2001年改訂版既存鉄筋コンクリート造 建築物の耐震診断基準・同解説,2005.2. 5 ) Kawano, A., Griffith, M.C., Joshi, H.R. and Warner, R.F. 1 :Analysys of the Behavior and Collapse of Concrete Frames 0 Subjected to Seismic Ground Motion, Research Report No.R163, 解析 実験 解析(R=0.32/100rad.) 実験(R=0.56/100rad.) -1000 -2000 -3000 1.4 解析 実験 wc (%) 1.2 wc 引張降伏時と最大耐力時の実験値と解析値を表6にまと め,実験と解析の比較を行った. 図9に示すように解析は,補強架構の風上柱の引張降 伏が先行し,その後変形と共に水平力が漸増する実験 の挙動を精度良く追跡出来ていることが分かる.表1に 示すように,実験で得られた補強架構の風上柱引張降 伏時耐力および正側最大耐力それぞれの推定誤差は2% 以内であり高い精度の耐力評価が可能であった. 実験と解析について初期剛性を比較する.解析値は 実験値の約 1.7 倍の過大評価となった.実験対象は, 1963 年竣工の実物であり乾燥収縮等によるひび割れが 多数観察されている.また,実験では,特にブレース接 合部分に加力に伴うひび割れが発生し軟化現象を示す. 解析では,このようなひび割れによる剛性と強度低下 を考慮しておらず,実験との相違が見られる.剛性の不 一致により,解析による風上柱の引張降伏時の変形角 が実験のそれに比して小さくなっている. 図 10 に風上柱の鉛直ひずみ ‐層間変形角 R 関係を実 験と比較して示す.点線が実験値で,実線が解析値であ る.図 10 には柱主筋の降伏ひずみ =0.17% を一点鎖線 で示している. 補強構面である D 構面の風上柱は,図 10 に示すよう に,正側加力時に降伏ひずみに達し,その後も鉛直ひず みが増大していく実験の挙動を追跡できていることが 分かる.しかしながら,解析の最大ひずみは実験のそれ よりも大きくなっていることが分かる.一方,無補強構 面である C 構面の風上柱は,図 10 に示すように正側負 側共に鉛直ひずみを精度良く模擬出来ている. 補強架構の風上柱引張降伏時と最大耐力時のブレー ス軸力の実験値と解析値の比較を行う.解析のブレー スの負担軸力は実験のそれに比して約 1.2 倍となり,実 験値を過大評価した. -2 -1 0 1 Department of Civil and Environmental Engineering, The University of Adelaide, Australia, Nov.1998. 6 ) Popovics, S. :Numerical Approach to Complete Stress-Strain Curve of Concrete, Cement and Concrete Research, Vol.3, pp.583-599, 1973. 2 -2 R (×10 rad.) 図9 水平力 Q-層間変形角 R 関係 53-4