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Interactive Writing Community における

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Interactive Writing Community における
Interactive Writing Community における
「学びの共同体創り」と「ライティング能力」の育成
研究発表者名: 水野 邦太郎・慶應義塾大学 外国語教育センター
共同研究者名: 杉浦 学・慶應義塾大学 環境情報学部
住所: 〒223-8521 神奈川県横浜市港北区日吉 4-1-1
TEL/ FAX : 045-563-1111,E-mail : [email protected]
[授業科目名]
Writing for the TOEFL test
[学部,学年,授業形態]
全学部,全学年,半期 2 単位
[受講者数,レベル]
20 人,TOEFL ITP 平均 520
1. 問題の所在
インターネット や E メール の使用が大衆化され,英語
を話すだけでなく,英語を書いてコミュニケーションする
ことの必要性がこれまで以上に求められている.また,第
二言語習得研究では「書く(文字にする)」という行為は,
一瞬のうちに消えてしまう音声によるアウトプットよりも,
自分の持つ「言語知識」に対する様々な「気づき」を促進
し,言語習得において大きな力を発揮することが指摘され
ている(Swain, 1998).
高校のライティングの教科書の多くは,前半は,文法事
項・機能表現等を簡単なものから段階的に提示していくか
たちで構成されている.生徒たちはそれらを「いつか,何
かに役立てる」ために,次々と「貯蓄」していく.教科書
の後半は,パラグラフやエッセイの書き方が説明されてい
るが,高校時代にまとまった文章を書いた経験がない,と
いう大学生がほとんどである.こうした高校での「銀行預
金型」の授業に対して,大学のライティングの教科書は,
パラグラフやエッセイの書き方を丁寧に説明し,まとまっ
た文章を書くことを促そうとしているが,以下に示すよう
な 4 つの問題点があると考える.
(1) About What?: 教科書の「練習問題」によって書く内
容が予め決められているため,1人ひとりが自由に自分の
書きたいことが書けない.
(2) For What?: 学生たちは,試験合格,単位,資格を取
得するために書く.「社会的に通じ合う」ために英語を書く
という目的は意識されない.
(3) To Whom?: 「先生」という「評価者」に向かって書
き,採点・添削される.
「教師1人」対 「学生 20~60 人」
になるため,教師の添削の負担が大きくなり,学生たちが
英語を書く量が少なくなる.
(4) Why in English?: 日本語ではなく「英語」で書かな
ければならない状況(urgent needs)がない.そのため,英
語で書くことに対する動機が低下する.
2. 改善内容と方法
2.1. Interactive Writing Community (IWC)の概要と特徴
前述した(1)から(4)の問題点を解決するため,1998 年に
Interactive Writing Community 1 という英語学習のため
の Web サイトを立ち上げた.この 10 年間,学期が終わる
ごとにアンケートをとり,学生たちの要望に応えながらサ
イトの機能とデザインの改善を重ねてきた.
IWC には約 100 のトピックの BBS が設置されており,
学生たちの知性を刺激し,様々な興味・関心に応えられる
ようになっている.それらは,大きく 5 つのカテゴリーに
分類される(Global Issues, For & Against, Intercultural
1
Classroom
Connections,
Writing
for
Pleasure,
Introspection)<問題点(1)の解決>.
各 BBS は,そのトピックに関心や問題,熱意をもつ人
たちが集まる「場(実践コミュニティ)」としての役割を果
たす.BBS には「エッセイ」が投稿され,他のメンバーた
ちによって読まれ「コメント」がつき,そのコメントにさ
らに「コメント」がついていく.そうした連鎖―
Interactive な「出会い」と「対話」― によって1人ひと
りの思想や知識が「再構築」され,全人格的な意味での「自
分づくり」を行っていく.単位や資格のためではなく,コ
ミュニティの仲間に対して自分の意見を伝えるためにエッ
セイやコメントを投稿する<問題点(2)(3)の解決>.
一方,教員は世界中の教師たちが参加する様々なメーリ
ングリストに参加し国内外の教師たちと出会い,IWC の理
念を伝え参加を誘ってきた.学期前に教員たちとメールで
綿密な打ち合わせをし,10 年間に国内から 8,国外から 10
の高校・大学が参加してきた.必然的に英語を使ったコミ
ュニケーションが求められる場を提供することにより,参
加者は「英語」を人と人との絆を結ぶ言葉として使いなが
ら自文化を伝え,他文化を理解する「異文化間コミュニケー
ション」を実践することができる<問題点(4)の解決>.
IWC には,エッセイの投稿・コメント機能だけでなく,
ピア・ラーニングを促進するための機能がある.以下にそ
れらの 6 つの機能について述べる.
(1) Email notification
投稿したエッセイ/コメントに誰かがコメントをつける
と,すぐに読めるようにコメント通知メールが個人のアド
レスに届く.
(2) “Comment Olympics”Page
読者からのコメントの数が多い人順に名前がランキング
される.コメントを1つもらうと 3 ポイント追加されグラ
フが伸びる.名前をクリックするとその人がもらった全て
のコメントの履歴が表示される.コメントを読むことを通
して,「読者」から反応を多くもらうにはどのような工夫を
したらよいか,書き方のヒントを得ることができる.
(3) “Writing Marathon”Page
IWC に投稿した(書いた)量がグラフで示される.エッセ
イは 6km,コメントは 3km 追加される.距離数が多い人
順に名前がランキングされる.書いた量を可視化すること
によって,達成感と多く書くことを促進する効果を狙った.
(4) “My”Page
1人ひとりの投稿したエッセイとコメントの履歴が時系
列で表示される.また,
「1 週間」ごとに,自分が投稿した
距離数がグラフで表示される.
(5) “Peer Essay Evaluation”Page
エッセイの画面下に,読者がエッセイの質を評価する質
問項目が 9 つある.項目ごとに点数がつけられる.自分の
書いた全エッセイに対する読者からの評価の合計点が計算
されランキングされる.名前をクリックすると,その人の
http:// http://ilc.eknowhow.jp/iwc/IWC/
1
社団法人 私立大学情報教育協会
平成20年度 全国大学IT活用教育方法研究発表会
るかどうか,2008 年春学期の受講生 18 人にアンケートを
行った.全ての学生が「解決している」という意見であっ
た.代表的意見を以下にまとめる.
(1) About What?: 自由に選べるだけの多様なトピック
が用意されているので,自発的にリラックスして書けた.
(2) For What?: 相手の意見を知ること,自分の意見を伝
え,それに反対・同意をしてもらうこと,これは,社会的
に通じ合うことを目的としてやっていたと思う.
(3) To Whom?: IWC には自分の文章を読んでコメント
をくれる「読者」がいる.
「読者」は「先生」よりも厳しい.
自分が書いた「内容」への様々なコメントを読むうちに,
「読む人の存在」を強く意識するようになった.
(4) Why in English?: 海外の学生たちとの対話は,英語
で伝えることに対して強い動機づけになった.
また「様々なランク付けの競争システムは,IWC 上で英
語 を 書 く 動 機 づ け を 与 え て く れ た 」,「 教 室 で TOEFL
Writing で高得点を取るために学んだ知識を,授業時間外
に IWC 上で文章を書くときに積極的に活用することがで
きたことは,知識の定着を図るのに大変役立った」といっ
た意見があったことから,
「教室内」と「教室外」の学習の
相乗効果が確認でき,IWC と TOEFL Writing による
Blended-Learning の教育効果が示されたと考える.
3.2. TOEFL Writing のスコアがなぜアップするのか
学期始めの学生のスコアの平均点は 3.5 である.毎学期,
9 割の学生が,学期末までに 5.0 以上のスコアに到達する.
ETS が示す 5.0 以上の採点基準を,授業で学ぶメタ知識と
関連づけて“Can do statements”で具体的にリストする
と,5.0 以上の能力は,以下のことが「できる」ことを意
味する.An essay at this level: (1) effectively addresses
the writing task(問題のタイプに応じたアウトラインが書
ける).(2) is generally well organized and developed (問
題のタイプに応じて,エッセイ全体を論理的に構成する英
語表現の「型」を活用することができる).(3) uses details
to support a thesis or illustrate an idea(自分の意見を,異
なる観点から重層的に論じられる.具体的な事例とそれを
一 歩 抽 象 化 し た 論 を 組 み 合 わ せ て 論 じ ら れ る ) . (4)
demonstrates syntactic variety and appropriate word
choice, though it may have occasional errors. (文法の規
則を頼りに日本語的発想で知っている単語を組み合わせて
「不自然な響きがする英文」を作るのではなく,
Native-like な「既製表現(ready-made expressions)」を借
りて自分の言いたいことを表現することができる).
3.5 から 5.0 以上のエッセイを書けるようになるのは,
“Can do”リストで目標が具体的に示され,目標に到達す
るための「学び方」を学び自律的な学びが促され,BBS を
活用した「協調学習」を通じて「発達の最近接領域」での
学びが行われるからだと考える.
4. 成果の発展性
2005 年には千葉大学付属中学校で,IWC Junior(中学生
版 ) が 誕 生 し , 2000 年 に IWC の 姉 妹 サ イ ト と し て
“Interactive Reading Community(IRC)”が慶應大学に誕
生した.本一冊につき BBS を一つ設置し,学生たちは本
の Reaction Report を投稿し,本の内容についてクラス・
学校の壁を越えて語り合う中で読書をしている.2008 年秋
には,慶應中等部で IRC Junior が誕生し,
「国語科」で使
われる IRC も誕生する.BBS を活かした IWC のシステ
ムは汎用性があり,小中高大を通じた「学びの共同体創り」
と自律的な読み手・書き手の育成に貢献することができる.
エッセイのどの点が高く評価され,低く評価されているか
がわかるよう,質問項目ごとに点数が示される.自分の項
目別点数を参考に,書き方の改善の手掛かりが得られる.
(6) “Peer Comment Evaluation”Page
コメントを読んだ後,コメント画面の下にある 3 つの質
問項目に答え,コメントの質を評価する.項目ごとに点数
がつけられる.自分の書いた全コメントに対する評価の合
計点が計算されランキングされる.上位にランキングされ
ている「コメント力」が高い人たちのコメントを読むこと
を通して,コメントの書き方を学ぶことができる.
2.2. IWC と TOEFL Writing の Blended-Learning
IWC を利用する学生の多くが海外に留学する夢を描い
ていることから,IWC を授業と連携させた取り組みとして,
"Writing for the TOEFL test"という授業科目を 2001 年か
らスタートさせた.IWC には授業時間外の「教室外」に参
加する.「教室内」では TOEFL のエッセイ・ライティン
グで高得点を取るために,さらに,留学してアカデミック
なレポートを書くために必要な「ライティングに関するメ
タ知識」を学ぶ.そうして,
「教室内」と「教室外」での学
びの「相乗効果」を狙った.以下,“Writing for the TOEFL
test”の授業内容と方法の概要を説明する.
TOEFL のエッセイ・ライティングの採点は 0.5 点きざ
みで 0~6 点の幅があり,2 人の採点者の平均点でつけられ
る.授業でも同じ方法をとり,筆者とアメリカで英語教師
をしているアメリカ人の平均点が,インターネットを介し
て表示される新しいサイト“Writing for the TOEFL test”
を構築した.このサイトには,TOEFL の公式ホームペー
ジで公表されている 185 題一つひとつに対して BBS が設
置されており,それらが問題の「トピック別」に,さらに
「4 種類の問題のタイプ」ごとに整理されている.
学 期 の 前 半 は , 問 題 の タ イ プ ご と に “ Introduction ”
“Body”“Conclusion”のそれぞれを論理的に構成する
「型」があることを,様々なモデルを読みながら学ぶ.そ
して,基本的な「型」を「模倣」し「なぞり」ながら自ら
の思考の「かたどり」を遂行し,
「型」を自分流にアレンジ
して活かすことが,最も効率的にコンスタントにライティ
ングの力をつけていく「学び方の秘訣」であることを学ぶ.
学期の後半は,サイト上の BBS を活かしながら毎週テ
ストを行い実践を重ねていく.学生はエッセイを BBS に
投稿すると,まず,互いに読みあい Peer Feedback を BBS
に書き込む.数日後,各エッセイにスコアが表示される.
自分のスコアより高い仲間のエッセイを読むことを通して,
それらを鏡にして自分のエッセイを「再吟味(reflection)」
する.そして,上手なエッセイから多くのヒントを得て次
回のエッセイでまねる.自分と同じくらいのスコア,自分
より低いスコアのエッセイを読むことも,自らのエッセイ
を客観的に振り返るよい機会となる.そのような「省察」
と「反省」は Reflective Report として執筆し, 同じ BBS
に投稿され互いに「分かち持つ」ことができるようにする.
教室での教師による直接的な「教える」という行為を超
えた BBS 上での「まなび=まねび」― 多くの仲間のエ
ッセイを 「足場かけ」にして,自ら課題を発見し自己との
対話を重ね,仲間の技を盗み取ること―を通して自己のス
コアを引き上げていくことが,この授業における何よりも
の「学びの実践」となる.
3. 実践による改善効果
3.1. IWC の存在意義
「1. 問題の所在」で指摘した 4 つの問題点を解決してい
2
社団法人 私立大学情報教育協会
平成20年度 全国大学IT活用教育方法研究発表会
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