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土骨格の構成式SYS Cam-clay model
SYS Cam-clay Model Super/subloading Yield Surface Modified Cam-clay Model 土の骨格構造の働きを記述する弾塑性モデル はじめに SYS カムクレイモデルは、カムクレイモデルを土台に、土の骨格構造の働きを記述する弾塑性モデ ルで、名古屋大学地盤力学研究グループにより開発されました。 カムクレイモデルは、イギリス・ケンブリッジ大学の土質力学研究グループにより 1960 年代に開 発された土の構成モデルです。限界状態理論に基づき、土の圧密特性とせん断特性を統一的に表現する 有名なモデルですが、よく練り返して正規圧密状態にした土(言うならば「死んだ土」)のデータから 作られたものですから、自然の土(「生きた土」)には十分適用できませんでした。 SYS カムクレイモデルでは、 「死んだ土」と「生きた土」の違いを、土の骨格構造の働きとして説明 し、カムクレイモデルの上に骨格構造として異方性・過圧密・構造の3項目を付け加えることで、あら ゆる種類・あらゆる状態の土の力学挙動を、同一理論的枠組で表現しています。 骨格構造とは 「骨格構造」とは 1960 年代に三笠正人先生が述べられた言葉です。土の力学的性質は、土の「種 類」と「状態」から決まり、さらに「状態」を規定する3つの因子の中で、密度・含水比以外のものを 一括して「骨格構造」と定義されました(飽和土を対象とすれば、密度と含水比は同義)。 名古屋大学地盤力学研究グループは、 「骨格構造」として、①関口秀雄先生による「異方性」、②橋口 公一先生による「過圧密」の土の再負荷時に塑性変形が生じること、さらに③名古屋大学地盤力学研究 グループによる「構造」の概念を取り入れています。 土の種類 土の力学的性質 土の状態(密度・含水比・骨格構造) 異方性 過圧密 構造 1 構造・過圧密とは 自然の土は、いずれも過圧密状態にあり構造が発達した状態にあります。ここではまず、 「構造」 「過 圧密」とは何かを紹介します。 まずは「過圧密」について、下の図で説明しましょう。銅の棒を引張りで降伏状態に入ってから(○)、 いったん荷重をゼロにして(●)再び載荷すると、○にはもどらず「塑性変形」を伴い■の状態になり ます。粘土についても同じように考えると、正規圧密から過圧密にもどして、再度正規圧密にかえすと、 必ず塑性変形が生じます。除荷後の再負荷では、土も弾塑性挙動するわけです。 また、過圧密とは、土粒子がインターロッキング・ボンドでぐっと絡み合っているイメージですが、 これがせん断したり圧縮したりすることで、土の強いかみ合わせがはずれていき、土は必ず塑性的に膨 張します。過圧密状態の喪失(過圧密から正規圧密へもどる)では、土が塑性膨張する方向に働くわけ です。 引張力 大 弾塑性状態(正規降伏状態) :平均有効応力 正規圧密状態(正規降伏状態) 過圧密状態 銅の棒の 引張り試験 塑性変形 伸び 0 小 塑性 膨張 塑性変形 つぎに「構造」についてです。十分に練り返した土に比べ、自然に堆積した土は嵩張った状態にあり ます。つまり、間隙比が同じなら自然の土はより大きな力に耐え、また力が同じなら大きな間隙比のま までいられるわけです。 「構造」とはこの嵩張りの度合いを表します。 土の構造というのは、トランプで作ったカードハウスのようなものですから、構造の破壊は、土が塑 性圧縮する方向に働くわけです。 :平均有効応力 大 間隙比の減少 嵩張り 大 自然に堆積した 構造の発達した粘土 構造の破壊 塑性圧縮 構造の壊れた 練返し粘土 構造が ほとんど壊れた粘土 小 小 2 SYS カムクレイモデル 「死んだ土」のモデル(カムクレイモデル) に、上記の「過圧密」「構造」の概念を取り入 q q = Ma p ~ q~ p — , 0→R*→1 R* = — = – q– p 上負荷面 上負荷面 れることで、 「生きた土」のモデル(SYS カム クレイモデル)となります。具体的な定式化は、 ~ ~ (p, q) – – (p, q) 異方性の軸 異方性の軸 参考文献を見ていただくことにして、ここでは q = p 概略だけを示します。 ■3 つの負荷面で表現 (p, q ) 正規降伏面 正規降伏面 0 SYS カムクレイモデルでは、3つの降伏面 と R*と R という2つの相似比を導入していま p ~ p 0 下負荷面 下負荷面 p q R=— , 0→R→1 – =— p q– 3 つの負荷面 –q す。R*は構造の撹乱度を表わし、0~1 の間で 変化して、R*=1.0 は完全撹乱を意味します。 一方 R のほうは 1/ R がいわゆる過圧密比で 0 塑性膨張を伴う硬化 構造が変化する(R*→1)と上負荷面が正規降伏 面に重なります。モデル名の“SYS”とは、 上・下の 負 荷面(Super/subloading yield surface)を指しています。 300 せん断応力 (kPa) Deviator stress q (kPa) =1)下負荷面は上負荷面に重なります。また、 せん断応力 (kPa) Deviator stress q (kPa) ~1 の間を変化します。過圧密が解消すると(R 1/R=1.22 1/R=1.05 200 1/R=3.40 100 1/R=24.0 10 0 20 (a) では具体式は省略しますが、その良否が構成則 の良否を決定するといっても過言ではありま ■動く限界状態線 右の図は、SYS カムクレイモデルで計算し た (1)超過圧密粘土の排水せん断挙動、(2) て限界状態線の上側での硬化、すなわち「塑性 e CSL 0.4 0 100 200 300 Mean effective stress p' (kPa) 平均有効応力 (kPa) (d) 1400 700 構造の発達した正規圧密粘土の非排水せん断 挙動です。(1)では、水色で示した部分におい NCL (1)超過圧密粘土の排水せん断挙動 1400 せん断応力 q q(kPa) ( ) えます。 0.6 10 20 Shear (%) Shear strain Strain ε ss(%) せん断ひずみ (%) (c) るか、粘土的であるかも、発展則が与えます。 まさに「生きた土」の構成式研究の中心とも言 0.8 10 0 せん。あとで述べるように、その土が砂的であ 100 Void ratio 間隙比 きます。これを支配するのが発展則です。ここ 0 0 10 せん断ひずみ (%) 20 せん断応力 q (kPa) Deviator stress q (kPa) い、すなわち塑性変形と共に状態が変化してい –10 Volumetric Strain (%) Volumetric strain ε (%) 体積ひずみ vv(%) 「構造」も「過圧密」も元の状態には戻らな q=Mp' 200 100 200 300 0 Mean effective stress p' (kPa) 平均有効応力 (kPa) (b) 1.0 Shear strain εss(%) (%) せん断ひずみ (%) ■発展則 300 塑性圧縮を 伴う軟化 700 q=Mp' * R =0.29 * R =0.44 * R =0.78 * R =0.20 0 700 1400 平均有効応力 (kPa) (2)構造の発達した正規圧密粘土の非排水せん断挙動 膨張を伴う硬化」を、また(2)では限界状態の 3 下側での軟化、すなわち「塑性圧縮を伴う軟化」を示していることが分かります。カムクレイモデルで は、塑性圧縮/膨張と硬化/軟化の境界(限界状態線)は常に一定のため、このような「生きた土」の挙 動を表現することができませんでした。限界状態線の傾きからイメージされる土の定数は内部摩擦角 φ’ですが、これが、構造が劣化する時には大きく、また逆に過圧密が解消すると小さくなっていくこ とは、実験的にも確認されています。 砂と粘土の違い 土を大きく分類する両極端に砂と粘土があって、その間に粘土の含有量の多寡によって砂質土から粘 性土までいろいろあります。いわゆる中間土です。自然界に存在する砂も粘土も過圧密の状態にあるし、 また構造をもっています。これに塑性変形を与えていくと、構造が壊れ過圧密がなくなっていきますが、 その土が砂的であるか、粘土的であるかは、構造が壊れる方が早いか、過圧密が壊れて正規状態にいく のが早いかでわかります。 粘土 砂 構造高位な 急激な構造の 破壊による圧縮が 締固め (非排水条件では 液状化) 過圧密状態 構造劣化した(練返し) 過圧密状態 液状化後の 砂の圧密 塑性変形 構造の壊れた 練返し正規圧密状態 構造を有する 正規圧密状態 構造の緩慢な 劣化による 2次圧密 粘土ではわずかな塑性変形で過圧密が先に消えて正規圧密状態になりますが、構造を壊そうとすると 大変な力で練り返さなければなりません。構造が壊れるときには圧縮側に働きますので、排水のために とても時間がかかります。これがいわゆる「二次圧密」と呼ばれるものです。 砂では逆に、わずかな塑性変形で構造はたやすく壊れ、しかし過圧密の解消には大塑性変形が必要と なります。急激な構造の破壊による圧縮が「締固め」です。また、締固めが非排水条件で起こると 、 それは「液状化」となります。さらに、砂の緩慢な過圧密の解消は大変形を起こし、「液状化後の砂の 圧密」が起こります。 このように、構造の劣化と過圧密の解消のどちらが早いかを発展則で与えることにより、典型的な砂、 粘土の挙動を表現することができます。もちろん、構造の劣化と過圧密の解消が同じような速度で進行 していく土も想像でき、これらが Clayey sand や Sandy clay などの中間土に当たるでしょう。粘土 と砂を明確な 1 つの線で区分けすることは難しいし、その必要もないのです。 4 SYS カムクレイモデルができること 最後に構造や過圧密の発展則の導入によって、SYS カムクレイモデルが「生きた土」の挙動をどの ように記述することができるのか、例を紹介しましょう。 計算 ■砂の締固め 高密度化 緩い砂 1.2 砂は、間隙比の違いで非排水せん断挙動が大きく異なります。 [1] Void ratio e 間隙比 緩い砂は軟化して強度も小さく、一方密な砂は硬化をして大きな 強度を発揮します。既存の研究では、砂の密度に応じてモデル・ 材料定数を変えて説明してきました。しかし、SYS カムクレイモ 1.0 [1] 0 10 Axial strain 1(%) せん断ひずみ (%) 20 [4] 200 400 [5] [3] [2] [1] 0 200 400 Mean effective stress p' (kPa) 400 [5] せん断応力 Deviator stress q(kPa) (kPa) [2] 計算 q=Mp' Deviator stress (kPa) q (kPa) せん断応力 せん断応力 Deviator stress q(kPa) (kPa) Deviator stress q(kPa) (kPa) せん断応力 200 [4] [3] 200 [2] [1] 0 平均有効応力 (kPa) 10 Axial strain 1(%) 20 せん断ひずみ (%) すべて同じ砂 0.8 [5] [3] [2] [1] 平均有効応力 (kPa) [2] [3] [4] [1] [2] [3] [4] [5] NCL CSL [5] 0 200 400 Mean effective stress p' (kPa) 平均有効応力 (kPa) : : : : : 緩い砂 中くらいに緩い砂 中くらいに密な砂 密な砂 とても密な砂 [1] e [1] 1.0 [4] 200 1.2 Void ratio 間隙比 緩い砂 中くらいに緩い砂 中くらいに密な砂 密な砂 とても密な砂 Void ratio e 間隙比 : : : : : q=Mp' 0 200 400 Mean effective stress p' (kPa) 1.2 [1] [2] [3] [4] [5] 400 緩い砂の排水せん断(締固め) 回数が多いほど密になる 400 [3] [4] 200 Mean effective stress p' (kPa) 平均有効応力 (kPa) 実験と計算の比較を示します。 [5] 密な砂 [5] 0 じモデル・同じパラメータで説明することができます。下には、 400 CSL [4] えて、密度が異なる砂を作ることで、緩い砂から密な砂までを同 実験 NCL [3] 0.8 デルでは、緩い状態から締固め(繰返し排水せん断)の回数を変 [2] 1.0 [2] [3] [4] 0.8 NCL CSL [5] 0 200 400 Mean effective stress p' (kPa) 同じモデル・パラメータ 平均有効応力 (kPa) ■砂の液状化と揺すりこみ沈下 と、ブルブルっと揺すった後のスーッという圧密沈下(揺 すりこみ沈下)を計算することができます。 砂の締固めと液状化は、排水条件の違いだけで、どちら も“構造の劣化”と“過圧密の蓄積”で表現できるのです。 計算 せん断応力 (kPa) Deviator stress q (kPa) が起こります。また、液状後に再び「排水条件」に変える せん断応力 (kPa) Deviator stress q (kPa) 緩い砂を「非排水」条件で繰返しせん断すると「液状化」 100 –100 –10 100 –100 0 Shear strain (%) せん断ひずみs (%) 10 0 100 200 300 Mean effective stress p(kPa) 平均有効応力 (kPa) 砂の液状化とサイクリックモビリティ 5 計算 1500 [5] せん断応力 Deviator stress q (kPa) (kPa) 1500 密な砂 1000 用意する研究では、共通して砂の「排水せん断」 については扱わない傾向が見られますが、SYS 1000 500 カムクレイモデルでは、もちろん同じパラメータ 緩い砂 0 であらゆる密度の砂の排水せん断挙動を表すこ とができます。例として、右の図は側圧一定三軸 [1] 10 20 Shear strain εs (%) せん断ひずみ (%) (a) 0 500 1000 1500 Mean effective stress p' (kPa) 平均有効応力 (kPa) (b) Volumetric strain (%) εv (%) 体積ひずみ –5 排水せん断での計算例を示します。 500 0 0 2.1 [5] 0 [4] [3] [2] 5 Specific volume v 間隙比 密度が変わると別のモデル・別のパラメータを Deviator stress q (kPa) せん断応力 (kPa) ■砂の排水せん断 2.0 [1] [2] 1.9 [3] [4] 1.8 [5] [1] 10 0 10 20 Shear strain εs (%) せん断ひずみ (%) (c) 1.7 0 500 1000 1500 Mean effective stress p' (kPa) 平均有効応力 (kPa) (d) ■自然堆積粘土の乱れ・鋭敏比 「鋭敏比」は、土の構造の本質にかかわる重要な要素です。試料の乱れというのは、理論と計算があ わなくなる最大の原因とされてきましたが、理論的な研究の対象として取り上げられてきませんでした。 わが国では、鋭敏比に関する学会の基準もなく、いまだに計る必要がないとさえ言う人が多いのが現状 です。SYS カムクレイモデルは、鋭敏比も「乱れ」も理論上大切な話題で、計算にも載ることを明らか にしています。 計算 計算 鋭敏比 〔4〕 100 Specific volume v (=1+e) 比体積(=間隙比+1) 大 〔5〕 3.6 〔3〕 〔2〕 〔1〕 0 〔1〕 〔2〕 〔3〕 大 3.2 10 せん断ひずみ Shear strain s(%) (%) 2.8 2.4 2.0 20 6 初期構造が 高位なほど 最急勾配が 大きい 小 乱れの程度 NCL 〔1〕 1 / R * 〔2〕 1 / R * 〔3〕 1 / R * 0 3.24 0 10.0 0 20.0 低位 〔4〕 1 / R *0 45.5 〔5〕 1 / R *0 70.0 小 〔4〕〔5〕 初期構造 せん断応力 Deviator stress(kPa) q (kPa) 200 初期構造が 高位なほど ピーク強度が 大きい 10 1 高位 2 10 10 Vertical鉛直有効応力 effective stress(kPa) σ'v (kPa) 3 参考文献 ■骨格構造概念 ・ 三笠正人(1962):土の力学における構造の概念の定義について,第 17 回土木学会年次学術講演会, pp.35-38. ・ 三笠正人(1964):土の工学的分類表とその意義,土と基礎,Vol.12, No.4, pp.17-24. ■異方性 ・ Sekiguchi, H. and Ohta, H. (1977): Induced anisotropy and time dependency in clays, Constitutive Equations of Soils(Proc. 9th Int. Conf. Soil Mech. Found. Eng., Spec. Session9) ,Tokyo,p.229-238. ・ Hashiguchi, K. and Chen, Z. P. (1998): Elastoplastic constitutive equations of soils with the subloading surface and the rotational hardening, Int. J. Numer. Anal. Meth. Geomech., Vol.22, pp.197-227. ■過圧密 ・ Hashiguchi, K. and Chen, Z. P. (1989): Subloading surface model in unconventional plasticity, Int. J. of Solids and Structures, Vol.25, pp.917-945. ■構造 ・ Asaoka, A., Nakano, M. and Noda, T. (2000) : Superloading yield surface concept for highly structured soil behavior, Soils and Foundations, Vol.40, No.2, pp.99-110. ・ Asaoka, A., Nakano, M., Noda, T. and Kaneda, K. (2000): Delayed compression/ consolidation of naturally clay due to degradation of soil structure, Soils and Foundations, Vol.40, No.3, pp.75-85. ■SYS カムクレイモデル ・ Asaoka, A., Noda, T., Yamada, E., Kaneda, K. and Nakano, M. (2002): An elasto-plastic description of two distinct volume change mechanisms of soils, Soils and Foundations, Vol.42, No.5, pp.47-57. ・ Asaoka A. (2003): Consolidation of Clay and Compaction of Sand -An elasto-plastic description-, Keynote lecture, Proc. of 12th Asian Regional Conf. on Soil Mechanics and Geotechnical Engineering, Leung et al. Singapore, Aug., Vol.2, pp.1157-1195. 7 おわりに 本誌では、「構造」「過圧密」の働きを中心に、SYS カムクレイモデルの概略をご紹介しました。も うひとつの骨格構造である「異方性」については一寸ややこしくなるので、今回は説明をはぶきました が、ご興味のある方はぜひ参考文献をご覧下さい。 SYS カムクレイモデルを Engine(エンジン)として、慣性力対応の水~土骨格連成の有限変形解析 ® SOILS ALL STATES からなる Chassis(シャーシ)に搭載すれば、新しい地盤解析技術 GEOASIA(ALL ALL ROUND GEOANALYSIS INTEGRATION)が動き始めます。こちらについては、別紙でご紹介いた しますので、あわせてご覧いただけますと幸いです。 平成 23 年 10 月 1 日 発行 編集:一般社団法人 GEOASIA 研究会 事務局 〒464-8603 名古屋市千種区不老町 名古屋大学大学院工学研究科社会基盤工学専攻地盤工学講座内 TEL: 052-789-3834 FAX: 052-789-3736 E-mail: [email protected] URL: http://www.geoasia.jp 8