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熱水処理した木質材料の熱流動と成形

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熱水処理した木質材料の熱流動と成形
研究ノ ー ト
熱水処理した木質 材料の熱流 動と成形
高須恭夫 * 1 、高橋 勤子 * 2 、福田徳 生 * 3
来川保紀 * 4 、太田 幸伸 * 4 、福田聡 史 * 4
Therm al Fl uid B eha vior a nd M ol di ng C ha ra ct eris ti cs of
Hot Compress ed Wat er-Trea ted Wood
Yasuo TAKASU* 1 , Iso ko TAK AHASHI *2 , No r io FUKUDA *3
Yasun or i K ITAG AWA *4 , Yuk ino bu O HTA* 4 an d Satosh i FUK UTA* 4
Rese a rc h a nd Dev elo pme nt Di vi sio n, AIT E C* 1 * 2* 3
I ndustr i al Te c hnol og y D iv isio n, AI TE C
*4
スギ木粉 の熱水処 理生成物 を原料と して、成 形用粉末 の調製、 熱流動性 の測定お よび熱プ レス成形 を行
った。熱水 処理固形 残渣試料 は乾燥・ 粉砕によ り微細粉 末となっ た。この 粉末につ いて熱流 動性の測 定を
行ったとこ ろ、熱水 処理温度 が高い場 合、熱流 動性を示 すことが 分かった 。また、 この粉末 を用いて 加熱
加圧成形を 行った結 果、熱流 動性を示 した粉末 からは黒 色のプラ スチック 様成形物 が調製で きた。
1.はじめに
と 固形残渣 を示す 。それぞ れから成 形用の 乾燥粉末 を得
二酸化炭 素の過 剰な排出 による地 球温暖 化や石油 資源
る ために乾 燥方法 を検討し た。その 結果、 可溶分に つい
の 枯渇等の 問題が 深刻化す る中、循 環型資 源である 木質
て は、濃縮 されて 粘調な濃 褐色の状 態には なるもの の乾
系 資源の新 しい利 用技術の 開発が求 められ ている。 筆者
燥 粉体の調 製は困 難であっ た。一方 、固形 残渣は、 風乾
ら はこれま でに、 蒸気処理 した木質 材料を 加熱加圧 成形
あ るいは加 熱乾燥 で容易に 乾燥粉体 化する ことがで きた 。
し て調製す る自己 接着成形 体(木質 成形体 )の開発 を進
よ って、実 験には 固形残渣 を用いる ことと した。
1)
。 ここでは 、この 手法を 木質材料 の熱水 処理
固 形残渣 を 60℃ の送風乾 燥器内で 乾燥し た後、実験 用
物 に適応し 、プラ スチック 様成形物 の調製 を試みた 。具
小 型粉砕器 を用い て粉砕し て熱流動 性の測 定および 成形
体 的には、 ①木材 の熱水処 理物は熱 流動性 を示すか 、②
実 験に供し た。供試 試料の 種別は、 試験結 果ととも に表
熱 水処理物 の成形 は可能か 、③熱水 処理物 から調製 され
に 示す。
た 成形物は どのよ うな物性 を示すか 、の3 点を明ら かに
2.2 熱流動性の評価
め てきた
す ることを 目的に 検討を行 った。
細 管式 レ オメ ータ ( 島津 製作 所 製フ ロー テ スタ
CFT-500 型 )を用 いて熱流 動性の 評価を行 った。用 いた
2.実験方法
ノ ズルは直 径 1mm、長 さ 1mm である 。試料粉 体 1.2g
を 断面積 1cm2 の シリンダ 内に充填 し、そ の上にピ スト
2.1 試料 粉体の 調製
木材の熱 水処理 液化生成 物は、名 古屋大 学から提 供を
ン を挿入し 、 80℃ で 5 分間 予熱した 後、 3.92kN の 荷重
受 けた。原 料はス ギであり 、熱水処 理物は 可溶分と 固形
を 加え、 2℃/min の 昇温条 件下で流 出し始 める温度 を調
残 渣 で あっ た 。可 溶 分は 水 溶 液、 固 形残 渣 は含 水 率約
べ た。
100%の 含水固 形物 であ った 。図 1 に提供 され た可 溶分
2.3 成形 物の調 製と物性 試験
成 形は、試 料粉体を 成形金 型に充填 し、熱 プレスで 加
熱 ・加圧し た。金 型は2種 類用いた 。成形 性の確認 には
直 径 36mmの 円 筒型金 型を用い 、
成 形条件は 温度 160℃、
圧力 20MP a、
加圧 時間 3 分とし た。
物 性試験 用として は、
80×100mm の 金 型を用 い、成形 条件は温 度 180℃、 圧力
30MP a、加圧 時間 10 分と した。成 形物の 目標厚さ は 4mm
図1
*
熱水処理木 材の可溶 分と固 形残渣
1基盤技術部(現企画連携部)
4工業技術部 応用技術室
*
*
と した。物 性試験 用の成形 物から試 験片を 切り出し 、曲
げ 試験およ び耐水 性試験に 用いた。
2基盤技術部(現工業技術部
材料技術室)
*
3基盤技術部
表
固形残 渣の熱 水処理条 件と流出 開始温 度および 成形物 の性状と 物性
処理温度 処理時間 流出開始温度 成形物
密度
曲げ強さ 吸水率
試料
No.
1
2
3
4
5
6
℃
180
210
220
230
240
240
min
3.6
3.6
3.6
3.6
3.6
16.0
℃
流出せず
210(噴出)
217
218
149
158
の外観
茶色
茶褐色
黒色
黒色
黒色
黒色
3.実験結果及び考察
g/cm
1.34
1.35
1.37
1.42
1.42
1.42
3
MPa
29.8
51.4
48.2
-
%
39.2
21.3
2.2
-
吸水厚さ
膨張率 %
33.5
17.6
1.4
-
物 の外観と 熱流動 の結果を 考慮する と、流 出開始温 度が
3.1 固形 残渣の 熱流動性
低 い試料粉 体から は、十分 な流動に よりプ ラスチッ ク様
細 管式レオ メータ による試 験の結果 、固形 残渣から 調
の 黒色化し た成形 物が調製 でき、流 出開始 温度が高 い試
製 した試料 粉体は 、熱水処 理の程度 に応じ 、昇温に 伴っ
料 粉体や流 出しな い試料粉 体では成 形時に 十分な熱 流動
て 熱流動を 起こし ノズルか ら糸状に なって 流出した 。図
が 起きず、 茶褐色 の成形物 であった 。
2 に流出の 様子を 示す。ま た、各試 料粉体 の流出開 始温
度 を表に示 す。熱 水処理温度 180℃ の試料 (No.1) では
流 出がなく 、210℃ の試料( No.2)で はノズ ルから粉 体が
噴 出した。熱水処理 条件 240℃ 、3.6 分の 試料( No.5)は
シ リンダ内で 149℃まで加 熱された とき糸 状の流出 物が
No.1
図3
No.2
No.5
No.6
固形残渣か ら調製し た成形 物
観 察された 。この 試験から 、木材の 熱水処 理残渣が 熱流
動 を起こす こと、 熱流動を 起こすた めには 一定温度 以上
の 熱水処理 が必要 であるこ と、の2点が 明らかと なった 。
3.3 成形 体の物 性
曲げ強さ につい ても流動 性が関係 してい ると考え られ 、
熱 水処理残 渣が熱 流動を起 こすこと につい ては、今 回
黒 色化した 成形物 は曲げ強 さが大き い傾向 を示した 。ま
初 めて実証 された ものであ る。蒸気 処理木 粉に対す る熱
た 、熱 水処理温 度 210℃ 、220℃の 試料では 、吸 水率 、吸
2)3)
か ら、熱 流動
水 厚さ膨張 率がと もに大き く、自己 接着が 不十分で 、耐
性 の発現に 寄与す るのは、 ヘミセル ロース およびリ グニ
水 性が低い と考え られた。一 方で、230℃の 試料は非 常に
ン の分解物 と推定 できた。 一方、こ の熱水 処理残渣 は、
耐 水性が高 かった 。
流 動性につ いて筆 者らが検 討した結 果
水 可溶性成 分すな わちヘミ セルロー ス分解 物の多く が失
4.結び
わ れている にもか かわらず 熱流動性 を有し ており、 熱流
動 にリグニ ンの寄 与を示唆 するもの で極め て興味深 い。
本研究で は、熱 水処理残 渣が熱流 動する こと、こ れを
利 用して熱 水処理 残渣から プラスチ ック様 の成形物 が調
製 できるこ とが明 らかにな った。今 後、適 切な熱水 処理
条 件と成形 条件を 探ること により、 木質材 料の新し い活
用 方法の一 つとな る可能性 を有して いると 考えられ る。
付記
図2
本研究は 平成1 7年度地 域新生コ ンソー シアム研 究開
流出の様子
発 事業によ り行っ た。試料 の提供お よびご 助言をい ただ
い た名古屋 大学工 学研究科 森滋勝教 授、小 林信介助 手に
3.2 成形 物の調製
このよう な熱水 処理木粉 の流動性 を利用 して、試 料粉
感 謝いたし ます。
体 を熱プレ スで加 熱・加圧 成形する ことに よりプラ スチ
文献
ッ ク様の強 固な成 形物を作 製するこ とがで きた。図 3 に
成形物の 外観を示す。流出 しなかった熱水処 理温度
180℃の 試料( No.1)か ら調製 した成形 物は茶色 であり 、
噴 出した 210℃の 試料( No.2)の成 形物は 茶褐色で あっ
た 。一方、 流出開 始温度が 低かった 処理温 度 240℃の 試
3
料 (No.5、 6) からは、 密度 が 1.4g/cm 以上の黒 色化し
た プラスチ ック様 成形物を 調製する ことが できた。 成形
1)高須ほか :第 53 回日 本木材 学会大会 研究発表 要旨集 ,
P281(2003)
2)高橋ほか :愛知 県産業技 術研究所 研究報 告,3,2
(2004)
3)高橋ほか :第 54 回日 本木材 学会大会 研究発表 要旨集 ,
P244(2004)
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