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3,4-DHBA (µg/ml)
梅の不妊治療成績改善効果と その作用メカニズム ―梅成分3,4-DHBAは酸化ストレスを抑制し卵質を改善する― 発表者: 和歌山県立医科大学 機能性医薬食品探索講座 和歌山高等工業専門学校 うつのみやレディースクリニック 准教授 宇都宮 洋才 助教 河野 良平 准教授 奥野 祥治 院長 宇都宮 智子 平成26年8月28日 和歌山県立医科大学 和歌山県に伝わる梅の言い伝え 我々はこれまで和歌山に伝わる梅の言い 伝えを、科学的に検証してきた。 これらの研究活動により、言い伝えは人々 の間で長い間の経験的に実証されてきたも のであると確信した。 更に近年、新たな言い伝えも生じてきてお り、これら新たな言い伝えも検証を進めてい る。 これまでの梅の言い伝え 1. 制菌作用 2. 胃潰瘍 3. 動脈硬化 4. 糖尿病 5. 免疫系に対する影響と効果 6. ガンに対する影響と効果 7. 骨粗鬆症予防効果 梅の言い伝えの変化 1. 制菌作用 2. 胃潰瘍 3. 動脈硬化 4. 糖尿病 5. 免疫系に対する影響と効果 6. ガンに対する影響と効果 7. 骨粗鬆症予防効果 8. 鶏卵が美味しい 梅は難治性不妊患者の治療成績を改善する ~卵子老化の観点からの考察~ うつのみやレディースクリニック 宇都宮 智子 平成26年8月28日 記者発表 和歌山県立医科大学 卵子数は加齢とともに着実に減少する 閉経の5年前にはほぼ卵子は喪失している 64% 卵子数の変化 思春期30万個 35歳:安全生殖限界 不 妊 率 ( % ) 30% 20代 15万個 15% 40歳 3万個 女性の生殖能力は20代後半から低下し始め、 30代後半になると加速度的に低下する 卵子のほとんどは 排卵されず 閉鎖卵胞になり 失われる 卵巣の構造 卵子を包み込み栄養する エストラジオールを分泌する 卵胞顆粒膜細胞 成熟卵胞 卵子 30代前半正常卵巣 成熟卵胞 排卵後の出血黄体 40代後半卵巣 卵胞は失われている 一般不妊治療 人工授精 ・タイミング療法 ・人工授精 精子を子宮内に注入する方法 原理は自然妊娠とほぼ同じ 精子の洗浄濃縮 スイムアップ 生殖補助医療 ART(assisted reproductive technologies) 難治性不妊症に対する不妊治療 ・体外受精―胚移植 ・顕微授精 ・凍結融解胚移植 体外受精ー胚移植(IVF-ET) 出生児の37人に1人は IVF-ET, ICSIでの妊娠 重症男性不妊、重症受精障害に対する最終手段 生殖補助医療 242,017周期 生殖補助医療 約29000人/年 37人に1人が ART児 総ETあたりの妊娠率 流産率 総治療あたりの妊娠率 生産率 研究の背景 ・晩婚化にともなう不妊率の上昇 10組に1組から6組に1組の時代 ・不妊治療患者の高齢化 ・加齢にともなう卵巣の老化、卵子数の減少が無視できない 不妊治療の大きな障害になっている 卵子の老化は卵子の質の低下、染色体数の異常につながり 妊娠率の低下、流産率の上昇を引きおこす 卵子の老化は酸化ストレスによるところが大きいとされている (卵子も錆びつく) →抗酸化作用のある梅がヒト卵子にも有益ではないか? 対象・方法 以前から当院や他院でARTを施行し、良好胚の得られない 反復不成功例18例(33歳~43歳、平均年齢39.2歳)に対して、 DHEA(dehydroepiandrosterone)を50mg/dayでART周期の2 か月前から連日投与し、IVFまたはICSIを施行した。 上記18例のうちDHEAを服用後も妊娠に至らなかった症例 のうち同意の得られた9例に対し、DHEA 50mg/dayと脱塩濃 縮梅酢(梅:UMU®)12ml/dayをART周期前の2か月間服用さ せ、IVFまたはICSIを施行した。 何も服用しなかった周期とDHEA服用周期、DHEAと梅服用 周期、それぞれの採卵前HCG投与日の血清estradiol (E2)値、 採卵数、受精率、妊娠率について検討した。 治療成績 ①無添加周期 ②DHEA周期 ③DHEA/梅周期 症例数(例) 18 18 9 IVF周期(周期) 24 21 14 ICSI周期(周期) 5 6 3 妊娠周期/治療周期 治療周期あたり妊娠率 1/29 3.4% 7/27 25.9% 5/17 29.4% (妊娠数/症例数) 症例あたり妊娠率 (1例/18例) 5.6% (7例/18例) 38.9% (5例/9例) 55.6% 個 pg/ml 10 4000 8 3000 6 2000 4 2 1000 0 0 無添加 DHEA 図1 採卵数の比較 100 80 無添加 DHEA梅 DHEA DHEA梅 図2 血清estradiol 値の比較 % p<0.05 30 p<0.05 60 20 40 10 20 0 0 DHEA 無添加 図3 受精率の比較 40 % DHEA梅 無添加 DHEA DHEA梅 図4 治療周期あたりの妊娠率比較 無添加周期 DHEA梅周期 顆粒膜細胞の変性 採卵後1日目 受精卵の形成 受精せず 採卵後3日目 8細胞期胚の形成 無添加 顆粒膜細胞と 受精卵細胞質変性 DHEA 梅 採卵後 1日目 変性胚 採卵後 3日目 変性胚 採卵後 5日目 正常受精卵 8細胞期胚の形成 胚盤胞の形成 梅単独周期の臨床研究も進行中 10症例:29歳~41歳(平均年齢 35.6歳)に対し 治療周期の2か月前から梅(梅:UMU®)12ml/dayを 投与の後、体外受精を施行 10症例中6例が妊娠成立、4例が無事出産成功 結果・考察 ・難治性不妊患者にDHEAと梅を投与することにより平均受精率、 妊娠率が有意に向上した。 ・梅投与によりDHEA単独投与で妊娠しなかった9症例中5症例に 妊娠が成立した。 ・別の不妊患者集団でも梅単独で10症例中6例に妊娠成立した。 難治性不妊患者に対して梅を投与することにより卵の質が改善 し不妊治療成績を改善させる可能性がある。 梅に含まれる不妊症に有効な活性成分を探索する 発表者: 和歌山県立医科大学 機能性医薬食品探索講座 和歌山高等工業専門学校 うつのみやレディースクリニック 准教授 宇都宮 洋才 助教 河野 良平 准教授 奥野 祥治 院長 宇都宮 智子 平成26年8月28日 和歌山県立医科大学 目的:卵巣顆粒膜細胞(培養細胞)を使用し、 梅に含まれる不妊症に有効な活性成分を探索する 顆粒膜細胞(ヒト卵巣顆粒膜細胞:COV434) 卵の形成に重要な役割を果たす 酸化ストレス 加齢に伴い増加 顆粒膜細胞にダメージを与える (アポトーシスを起こす) 酸化ストレスから顆粒膜細 胞を保護する効果を指標と して梅から活性成分を探索 ウメ 卵 ウメ 抽出物 ウメの種から抽出 同定された梅活性成分の顆粒膜細胞 自身に及ぼす機能性評価 (エストラジオール分泌能の評価) 酸化ストレスによる細胞死に対する梅抽出物の保護効果を 指標として有効成分の探索を行った 梅種抽出物 [48.8 g] Hexane Dichloromethane Ethyl acetate [6.3 g] [1.5 g] [1.7 g] Fr. 1 梅抽出物 Fr. 2 Fr. 3 Water SiO2 column chromatography Fr. 4 Fr. 5 酸化ストレス(過酸化水素) 細胞生存率測定 5 min ヒト顆粒膜細胞(COV434) 培養細胞 18 hr 酸化ストレスを細胞に与え ると細胞死が起きる 梅抽出物があるとどうか? 細胞死を抑制する物質をウメ種から単離・同定した 梅種抽出物 [48.8 g] Hexane Dichloromethane [6.3 g] [1.5 g] Ethyl acetate* [1.7 g] Water SiO2 column chromatography Fr. 1 Fr. 2 Fr. 3* Fr. 4 Fr. 5 [6.8 mg] [12.5 mg] [185 mg] [143 mg] [370 mg] *活性画分 C18 column chromatography Fr. 6 Fr. 7 [44 mg] [17 mg] * Fr. 8 [2.4 mg] Fr. 9 Fr. 10 Fr. 11 Fr. 12 Fr. 13 Fr. 14 [6.9 mg] [9.0 mg] [2.9 mg] [2.4 mg] [8.7 mg] [90 mg] Compound 1 酸化ストレス下における 細胞生存率 100 3,4-dihydroxybenzaldehyde (3,4-DHBA) 酸化ストレス 80 60 40 20 0 0 5 25 3,4-DHBA (µg/ml) 50 梅から同定された梅成分3,4-DHBAを用いて、 酸化ストレスによる細胞死に対する効果を検討 酸化ストレス(過酸化水素) 酸化ストレスによって・・・ カスパーゼ活性上昇 顆粒膜細胞 DNA酸化損傷 アポトーシス(細胞死) 梅成分3,4-DHBA 酸化ストレス(過酸化水素) 5 min ヒト顆粒膜細胞(COV434) 培養細胞 18 hr カスパーゼ活性測定 DNA酸化損傷マーカー測定 アポトーシス細胞検出 梅成分3,4-DHBAはカスパーゼ3/7の活性化を抑制する 60000 生細胞数 カスパーゼ活性 50000 3000 40000 2000 30000 20000 1000 10000 0 0 0 酸化ストレス (過酸化水素) 25 50 3,4-DHBA (µg/ml) 未処理 Control カスパーゼ -3/-7 (相対発光強度) 生細胞 (相対蛍光強度) 4000 3,4-DHBAはDNA酸化損傷を抑制する 8-OHdG (% of control) DNA損傷マーカー 400 未処理 0.5 mM 過酸化水素 300 酸化ストレス * 200 * * 100 0 未処理 Control 0 5 25 3,4-DHBA (µg/ml) 50 P<0.05 0.5 mM 過酸化水素 3,4-DHBAはアポトーシスを抑制する 3,4-DHBA 0 Green: Annexin V : アポトーシス細胞 Red: PI :死細胞 Blue: Hoechst33342 :核 50 µm 5 25 酸化ストレスなし 酸化ストレスあり 50 (µg/ml) アポトーシスに典型的な細胞の萎縮、核の凝集を、 梅成分3,4-DHBAは抑制する 0.5 mM過酸化水素 0.5 mM 過酸化水素 + 3,4-DHBA bar = 20 m bar = 20 m 3,4-DHBAのみ 未処理 10 μm 10 μm 梅成分3,4-DHBAは酸化ストレスから 顆粒膜細胞を保護する 顆粒膜細胞 卵の形成に重要 な役割を果たす 酸化ストレス 加齢に伴い増加 顆粒膜細胞にダメージを与える (アポトーシスを起こす) 卵 梅成分3,4-DHBAは 酸化ストレスから顆粒膜細胞 を保護する 3,4DHBA ウメ ウメの種から抽出 他に機能性はないか? 梅成分3,4-DHBAのもう一つの機能性として エストラジオール分泌と遺伝子発現に対する効果を検討 梅成分3,4-DHBA 細胞からエストラジオール が分泌される 細胞から分泌されるエストラジ オール量の測定 (化学発光免疫測定法) 18 hr ヒト顆粒膜細胞(COV434) 培養細胞 ヒト顆粒膜細胞(COV434) 培養細胞 遺伝子発現解析 (リアルタイムPCR法) 培養液に3,4-DHBAを添加すると エストラジオール分泌が促進される エストラジオール分泌量 (相対値) 200 * * 150 100 50 0 0 5 25 3,4-DHBA (µg/ml) 50 P<0.05 エストラジオール産生に関わるsteroidogenic factor 1(SF-1) 遺伝子のmRNA発現量は3,4-DHBA添加によって増加する 2.5 * SF-1/GAPDH 2 1.5 * 1 0.5 0 0 25 3,4-DHBA (µg/ml) 50 P<0.05 考察:梅成分3,4-DHBAは酸化ストレスから顆粒膜細胞を保 護し、顆粒膜細胞をより活性化することで質の良い卵形成 に寄与する可能性がある 顆粒膜細胞 卵の形成に重要 な役割を果たす 酸化ストレス 加齢に伴い増加 顆粒膜細胞にダメージを与える (アポトーシスを起こす) 梅成分3,4-DHBAは酸化スト レスから顆粒膜細胞を保護 する 卵 3,4DHBA ウメ ウメの種から抽出 梅成分3,4-DHBAは顆粒膜細胞 を活性化する 梅に含まれる不妊症に有効な活性成分を探索する 発表者: 和歌山県立医科大学 機能性医薬食品探索講座 和歌山高等工業専門学校 うつのみやレディースクリニック 准教授 宇都宮 洋才 助教 河野 良平 准教授 奥野 祥治 院長 宇都宮 智子 平成26年8月28日 和歌山県立医科大学 実験 • 有効成分の構造を質量分析装置付き高速液体クロ マトグラフィー(LC/MS)および核磁気共鳴スペクトル (NMR)により解析した。 39 活性成分の構造解析1 質量分析装置付き液体クロマトうラフィーによる分析 UV BPC 分子量:137.0257 組成式:CH7HO 5O3 組成式:C 7 5 3 40 活性成分の構造解析2 核磁気共鳴スペクトル(NMR)による分析 3,4-dihydroxybenzaldehyde(3,4-DHBA)とは 3,4-dihydroxybenzaldehydeはプロトカテクアルデヒ ドとも呼ばれ、抗酸化作用が強い、フェノール性ア ルデヒドの一種 梅には香りの主成分としてベンズアルデヒドが含 まれるなど、多種類のフェノール性アルデヒドが含 まれている。 3,4-dihydroxybenzaldehyde (3,4-DHBA) 3,4-DHBAには活性酸素種(ROS)が関与する疾患 に対して、その高い抗酸化力のため、医学的有効 性があると報告されている。 例えば、3,4-DHBAは、血小板由来増殖因子が発 生させるROSによる血管平滑筋細胞の増殖と遊走 を抑制する[1]。また、3,4-DHBAは抗炎症作用[2]、 酸性ストレスからの神経保護効果[3]、抗がん活性 [4]を持つと報告されている。 [1] Moon, et. al. (2012) Biochem. Biophys. Res. Commun. 423; 116–121. [2] Chang, et. al. (2011) J. Nutr. Sci. Vitaminol. 57; 118–122. [3] Gao, et. al. (2011) J. Pharmacol. Sci. 115; 36–44. [4] Jeong, et. al.(2009) Phytomedicine, 16; 85–94. 実験 • 梅酢に含まれる3,4-DHBA量を高速液体クロマトグラ フィー(HPLC)で定量した。 サンプル調整 梅酢、脱塩梅酢:0.45μmのフィルターでろ過し、そのままHPLCへ HPLC条件 カラム :Shim-pack VP-ODS 4.6×150mm 移動相 :0.1%ギ酸含有H2O(A):0.1%ギ酸含有MeOH(B) A:B= 0- 3分 90:10、 3- 15分 90:10→60:40 15-20分 20:80 20-30分 90:10 検出(UV):320nm 結果 定量結果は梅酢、脱塩梅酢の1mL中に含まれる3,4-DHBA量を求めた。 43 梅酢に含まれる3,4-DHBA量の分析 44 実験 3,4-DHBAをマウスに経口投与 投与5, 10, 20, 30, 60 分後に採血 血清中の3,4-DHBA量をHPLCにより定量 梅成分3,4-DHBAは経口摂取による血中への移行を確認 採血 経口摂取 分析 3,4-DHBA (mg/mL) 3,4-DHBA 血清中濃度 0.05 0.04 3,4-DHBA 0.03 0.02 5 min 0.01 0 0 20 40 60 摂取後経過時間(min) 10 min 20 min 梅の言い伝え 1. 制菌作用 2. 胃潰瘍 3. 動脈硬化 4. 糖尿病 5. 免疫系に対する影響と効果 6. ガンに対する影響と効果 7. 骨粗鬆症予防効果 8. 受精率向上