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第3章 移動補助具について

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第3章 移動補助具について
第3章 移動補助具について
本校は肢体不自由児が通う特別支援学校であり,児童生徒の多くは車椅子等で
学校生活を送っています。したがって,車椅子の機能は学校生活を充実させる上で
重要な要素です。
本章では,車椅子や座位保持装置,ウォーカー等の移動補助具について紹介し
ています。
1 車椅子,座位保持(姿勢保持)装置について
2 車椅子等使用の留意点
3 ウォーカー(歩行器)類について
- 35 -
1
車いす等,座位保持(姿勢保持)装置について
ア 車いす等について
車いすは,移動を主たる目的に利用されるもので,自走タイプと介助タイプに分類されます。自走タイプは車輪の径
が大きく,ハンドリムが装着されており,自力で移動することができるように作られています。片方のハンドリムのみで両
輪を駆動するタイプや,簡易のモーターユニットとバッテリーを装着した簡易型電動車いすというタイプもあります。介
助タイプはリムが無く,利用者の手が車輪に届かないように小径化したり,車輪カバーで覆うなど,安全に配慮してあり
ます。ブレーキは自走タイプでは利用者自身が操作しますが,介助タイプでは介助者のみが操作できるようにしてあ
るものがほとんどです。
実際に子供が利用するには,完成された規格品では子供のニーズに応ずることが難しいために,各種パーツを組
み合わせて作るモジュール型車いすといわれるタイプをベースに,個人のニーズに応じたオーダーメイドで製作され
ています。
自走タイプ
イ
介助タイプ
簡易型電動車いす
モジュール型車いす
座位保持(姿勢保持)装置について
一定の姿勢(座位等)を自力では保つことが困難な人が,適切な姿勢を保持するための装置です。これらの活用に
より心肺機能の活性化を図ることや,様々な反射や筋緊張を抑制しリラックスした状態を保ちやすくし,身体各部の変
形や拘縮を予防することができます。また適切な姿勢を保つことにより,運動感覚機能の向上や平衡反応をはじめ,
姿勢反射の維持,認知や上肢の操作性の向上等が期待されます。
車いすと同様に既製品もありますが,大半は,子供の状態に応じた多くのオーダーメイドパーツの組み合わせから
構成されたモジュールタイプで製作されています。構造的には座面背面が一体成形されたモールドタイプと,布張り
で構成されたスリングタイプ,両方の要素を兼ね備えたもの等に分類されます。モールド,スリングとも一長一短があり,
状況に応じて適切な構造を選択することが重要です。リクライニングやティルト機能を備えているものがほとんどで,長
時間,快適に姿勢を保持し続けることができるように工夫されています。また屋内での使用を前提としており,金属が
多用されている車いすとは異なり,木製の部品が使われることが多いことも特徴のひとつです。従来は土台となるフレ
ームはいす状の形しか認められていませんでしたが,現在は車いすを土台として座位保持装置を製作することも可能
になりました。
また,平成 13 年度には交付基準の大幅な改革が行われ,座位に類似した姿勢(立位,膝立ち,臥位など)を保つ姿
勢保持装置も座位保持装置として認定されることになりました。
- 36 -
2 車いす等使用の留意点・・・子どもが,学校で一番長く時間を過ごす乗り物
車いすとは移動を主たる目的に利用されるもので,手押し(介助)タイプと自走タイプに分類されます。本校で
は,一人一人のニーズに応じて,オーダーメイドの“姿勢(座位)保持機能付き車いす”を利用される方が大半を
占めます。従来は座位保持装置としては“イス型”のみでしたが,現在は座位に類似した姿勢(立位,膝立ち,
臥位など)を保つ姿勢保持装置も車いすとして認定されることになり,様々な形の車いすが活用されています。
車いす
手押し(介助)タイプ
自走タイプ
安全のため車輪が小さい
後方ブレーキ
車輪の径が大きい
ハンドリムを装着
前方ブレーキ
姿勢保持機能あり
姿勢保持機能無し
姿勢(座位)保持機能付き車いす ← 移動+姿勢保持機能
姿勢保持機能により長時間の利用も可能となり,日常生活での様々
こんな形も OK
な場面での活動が高まります。一定の姿勢(座位等)を自力では保つこ
とが困難な人が,適切な姿勢を保持するための装置です。この保持機
能により,心肺機能の活性化を図ることや,様々な反射や筋緊張を抑
制しリラックスした状態を保つことで,身体各部の変形や拘縮を予防す
ることができます。また適切な姿勢を保つことにより,運動感覚機能の
向上や平衡反応をはじめ,姿勢反射の維持,認知や上肢の操作性の
向上等が期待できます。
本校で一般的な姿勢(座位)保持機能付き車いすの各部の名称
☆ 休むから支持へ ☆
従来は各部の名称には,安
静・休息を意味するレスト(rest)
が多用されていましたが,現在
は,支援・支持を意味するサポ
ート(support)が一般的になりつ
つあります。
車いすを単なる移動手段で
はなく,活動を支援する観点で
とらえることが大切です。
バックサポート
(バックレスト)
点滴ポール
肘受けクッション(パッド)
ヘッドサポート
(ヘッドレスト)
テーブル
グリップ
シート
アームサポート
(アームレスト)
レッグサポート
(レッグレスト)
主輪
フットレスト→フットサポート
ヘッドレスト→ヘッドサポート
フットサポート
(フットレスト)
- 37 -
ティッピングレバー
キャスター
吸引器台
姿勢保持のためのベルトやサポートの名称
※車いす・シーティング用語委員会,2005 より
☆こんなことになっていませんか?これでは本来の力が発揮できません!
いつも,床ばっかり・・・
支えて欲しいなあ・・・
胸ベルトがきついよ
周りがよく見えるよ
呼吸も楽だよ
長時間だって
へっちゃらだよ
らくちんだよ
集中できるね
足はベルトで
止めて欲しい
なあ・・・
この車いす
きついなあ・・
よ
左も見たいなあ・・
緊張緩まないかなあ
なんか傾くなあ・・・
しっかり支えて
欲しいなあ・・・
フラフラするよ
天
井
し
か
見
え
な
い
お尻がずれるなあ・・・
- 38 -
サイズは適切ですか?ベルト類の位置・張りは適切ですか?
身体の成長や日々の体調の変化によって,姿勢は大きく変化します。また季節によって服の厚みも異なりま
す。さらには製作後暫く時間が経過すると,車いすのスポンジが劣化して潰れたり,生地が伸び縮みすることも
あります。また分解清掃後に組み立ててみると,大きく位置関係が変わっていることも珍しくありません。体に合
っているかを常にチェックしましょう。
調整や分解清掃前にはデジタルカメラ等で何枚かの写真を撮っておいて,部品や位置関係を確認しておく
ことを薦めます。
骨盤が後傾し,前方向にずれる
骨盤が回旋する
骨盤の位置に気を配りましょう
座位姿勢では腰で体重を受けとめています。楽に長時間
座るためには,できるだけ正しい骨盤の位置を保つことが必
一方へ傾く
要です。使っていると,姿勢や緊張,地面からの振動によっ
ても骨盤の位置は変わっていきます。
骨盤の位置が変わると(後傾,回転,傾き・・・),すべり座
出所:「高齢者の車いす座位能力分類と座位保持装置」
Rehabilitation Engineering (13) 2
りや,肩の位置が下がり,左右に傾いたりもします。常に骨
盤の位置に気を配り,直してあげましょう。
長時間の同じ姿勢(角度)は避けましょう
長時間の同一角度の座位姿勢は,車いすの姿勢保持機能のために,同じ場所に同じ方向の圧力が加わり
続けます。特定の場所に力が加わり続けると,褥瘡(じょくそう)[床ずれ]の原因にもなります。
長く安楽に過ごすためにも最大でも 30 分,できれば 15 分程度で,姿勢の転換をはかりましょう。車いす上で
はティルトを多用して,起こしたり寝かせたりするだけでも,重力の向きが変わり,同一場所への負
担が減ります。さらに時々は,車いす上でも腋に手を入れて体幹を引き上げたり,左右にねじった
りして接触面を変えると効果的です。
車いす上でリラックスできることが基本です—目的動作のために
抱っこされたリラクゼーション状態を車いす上で再現できることが理想です。抱
っこはソファのようにふわりと受け止めているだけではありません。実際には常に
子供の動きに合わせて,体をしっかり抱きしめることで筋力を補い,座位姿勢を保
持させています。この安定した座位姿勢から動作の支持面が生まれ,「見つめる」,
「周囲を見回す」,「声を出す」,「手を伸ばす」といった様々な動作が育まれてき
ます。
一見,きつそうに見えるベルトを活用した方が,かえってリラックスできたりする
理由はここにあります。動作の基底面を作り,姿勢保持の筋力を補うために,しっ
かり包み込むように体幹を保持し,リラックスした状態を維持して,自由に動かし
たい部位をしっかり開放してあげることが大切ではないでしょうか?
活動に応じた姿勢が無理なくできていますか?
学校では色々な活動の場面があります。テーブルをつけて体をしっかり起こ
し,肩の上に頭をのせ,手を胸の前に置き,目と手の距離が 30cm 以内にある
ことが,高い活動を支える姿勢となります。反対にティルトやリクライニングを深
く倒して,ヘッドサポートに頭を預けて仰向けになる姿勢は休息姿勢となります。
車いす上で,様々な活動(活動・休息・介助・・・)に応じて,適切な姿勢を保持
できることは,とても重要なことです。
- 39 -
2
ウォーカー(歩行器)類について
ウォーカー(歩行器)は,ある程度自力での移動が可能な人を対象として自力歩行を支援するタイ
プと,自力での座位や立位が困難な人の立位姿勢を保持し移動を支援する2種類に大別されます。
ここでは本校で活用されているSRCウォーカーとPCウォーカーについて解説します。
名称
使
ウォーカー
用
例
SRC ウォーカー【Spontaneous(自発的)Reaction(反応)Control(調節) Walker(歩
行器)】は,下肢で十分に体重を支えることができない子供でも立位姿勢が可能と
(SRC ウォーカー)
なる移動補助具です。サドルと体幹パッドで上半身を支えることにより,安定した
体幹直立前傾姿勢を維持することが可能となり,様々な抗重力姿勢を経験するこ
とができます。従来の歩行器が下半身で体重を支え,上肢でバランスを取ることが
求められていたのに対して,臥位レベルの子供であっても,これを活用することに
より,両下肢を後方に蹴り出して移動する体験ができます。多くの子供がこれに跨
ると,移動の手段ばかりではなく,生活や学習に対して意欲が高まり,全般的に自
発的な活動が高まります。また身体を起こした姿勢を維持することによる様々な刺
激が,精神的,身体的に良好な影響をもたらします。
SRC ウォーカーのメリットとしては次のようなことが考えられます。
・
容易に体幹直立前傾姿勢を保持することができ,様々な抗重力姿勢を経験
することができる。
・
立位の刺激により覚醒レベルが向上し,周囲へ対しての認知力が高まる。
・
頭部が正中の状態を支援することで,視覚が有効に活用しやすくなり,注視
が可能となり,意識集中して外部の情報を取り込むことが可能となる。
・
頭部が正中に保たれることで,前後左右上下,傾斜水平といった周囲位置
環境の知覚が正常化する。
・
下肢の屈伸による移動体験は,成功体験となり,自発的な移動をすること
で,生活や学習に対する意欲が高まる。
・
肩甲帯,上肢の肢位を改善し,上肢の操作性が向上する。
・
頚部の後方への伸展が改善され,正常な嚥下運動を可能にする。
・
頭部や上肢などに随意の動きが表出しやすい。
・
認知力の向上,上肢の操作性向上などの相乗効果により,学校での教育活
動全般において,課題を遂行する能力が向上する。
しかし,その一方で,地面を蹴ることにより移動することから,下肢の筋緊張が
高くなりがちで,強い緊張や過伸展の状態に陥りやすく,股関節へ悪影響を与え
たり,足首の変形や痛みの要因となったりすることも考えられるので,使用にあた
っては医療関係者と連携し,その指示に従うことが必要です。
(PC ウォーカー)
PCウォーカー【Posture(姿勢)Control(調節) Walker(歩行器)】
は,従来の前方支援による歩行器の前にもたれかかった丸まっ
た姿勢を改善し,後方と左右のサポーチにより
歩行に適した姿勢を保つことができます。 イラ
ストのように手で左右の支持バーを持つことによ
り丸まりがちな上体(胸回り)を伸ばし,安定した
立位姿勢を保ちながら歩行することが できま
す。
保管場所
小学部
中学部
高等部
その他
計
数(台)
5
1
2
5
13
- 40 -
~SRC ウォーカー足置き台~
本校では多くの児童生徒がSRCウォーカー
を校内の移動用に活用していますが,その一
方で,教室内では体幹前傾姿勢の姿勢保持
装置として使っているケースが多く見られます。
その際,僅かな力でも動き出すため,教室内で
は安全に配慮し,常にブレーキをかけていま
す。
しかし,予期せぬ緊張で下肢が後方に伸展
してしまい,大きく動いて周囲にぶつかったり
する危険な場面もあります。そこで,学習時に
安全な姿勢保持装置として活用するために,SRCウォーカー足元に下肢を置けるように,木製の足置き台を製
作しました。上の写真のようにSRCウォーカー足置き台の上に足を置いてサドルと体幹パッドで上半身を支える
ことにより,安定して体幹直立前傾姿勢を維持することが可能となります。
製作にあたっては,サドルの高さを変更する必要が無いように,足置き面が地面より数センチの位置になるよ
うにコの字型の構造にしました。また取り外した際には,SRCウォーカーの前側にカバーのように装着できるよう
に工夫することで,使用状況を問わず,常に携えて移動することが可能です。
また,この足置き台を装着することで,下肢の動きが乏しい子供であっても,移動式の姿勢保持装置として活
用することができます。
床面から数センチ
の位置に足置き面
がある。
前面に装着する
ための突起。
結束バンドで縦フレ
ームに固定する。
足置き台をウォー
カー前面に装着
し,自力移動用に
使う。
保管場所
数(台)
小学部
2
中学部
高等部
その他
計
0
1
0
3
- 41 -
コラム
自立活動室の紹介
本校には光や音,揺れや振動をはじめ,様々な感覚刺激を活用した指導のために自立活動室を設けています。
ここには子供の興味関心を高める多くの玩具や遊具,イルミネーション等を備えています。
また,一段高い床には ROMPA 社(英)のスヌーズレン機器である,音楽で振動するベッド
「バイブレーションフロア」Vibrating Floor by ROMPA®を埋め込んでおり,床に寝転んだ状
態で,耳からだけではなく全身で震える振動として音楽を楽しむことができます。
本来は右のイラストのように使用するものですが,スピーカーに天板が載せてあるだけの構造のため,とても不安定
で転落等の懸念があり,この状態では一人しか使用することができないという,利用上の制約があります。ベッド全体
を床に埋め込む改造を施すことで,約3畳分の振動する床を作ることができ,安全に数名での同時利用が可能です。
自立活動室全体
床をくり貫きます
体
玩具やライト類,振動ベッドの操作もここで行います
バイブレーションフロア本体
2つの台に大きなスピーカー
が埋め込まれています
自立活動部員で
ベッド周辺の段差
を建築用断熱材
で埋めていきます
暗幕を閉めて,イルミネーションやライト
類を用いて視覚的な感覚遊びや,注視
を促す指導の場にも活用しています。
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