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第三章 ヤツガタケトウヒとヒメバラモミの保全 第一節 八ヶ岳におけるヤツ

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第三章 ヤツガタケトウヒとヒメバラモミの保全 第一節 八ヶ岳におけるヤツ
第三章
ヤツガタケトウヒとヒメバラモミの保全
第一節
八ヶ岳におけるヤツガタケトウヒの天然更新
1.はじめに
マ ツ 科 ト ウ ヒ 属 の ヤ ツ ガ タ ケ ト ウ ヒ ( Pic ea koy a ma e Sh i r a s .) と ヒ メ バ ラ モ ミ ( P.
m ax imo w ic zi i Re g e l) は 個 体 数 が 尐 な い こ と か ら 世 界 お よ び 国 の 絶 滅 危 惧 種 と し て リ ス ト
されており、適切な保全対策が求められている。野生植物を保全する手法として、自生し
て い る 野 生 集 団 を 維 持 す る 現 地 保 全 が 理 想 的 で あ り 、優 先 し て 検 討 さ れ な け れ ば な ら な い 。
ヤツガタケトウヒとヒメバラモミの現地保全について考えると、单アルプスの石灰岩地で
は比較的大面積の自生地が残されており、この地域ではこのまま人為を加えることなく天
然 更 新 が 可 能 で あ る と 考 え ら れ る( 第 二 章 )。一 方 、秩 父 と 八 ヶ 岳 山 域 で は 分 断 化 と 小 集 団
化が進行しており、放置すると集団が消失、さらには地域絶滅となる危険が高いと考えら
れ る( 第 二 章 )。ヒ メ バ ラ モ ミ は す で に 卖 木 的 に 残 さ れ て い る こ と か ら 天 然 更 新 の 可 能 性 は
低いものの、ヤツガタケトウヒは比較的個体数が多い集団が残されており、天然更新によ
って集団が維持されることが期待される。しかし八ヶ岳のヤツガタケトウヒ集団の多くは
後継樹が存在せず、このままでは集団が消失する危険性が高い。
そこで、ヤツガタケトウヒとヒメバラモミに対する保全対策のなかで、もっとも効果が
期待される人為的な保全活動の対象として、八ヶ岳地域のヤツガタケトウヒの天然更新に
ついて検討することとした。八ヶ岳地域のヤツガタケトウヒ 2 集団に対して、開花から結
実・種子散布・発芽・実生定着にいたる生活史の過程について調査をおこない、天然更新
で集団を維持していく可能性について明らかにした。さらに天然更新が困難である場合、
天然更新を促進する技術について実証試験をおこない、その効果について検討した。
2.材料と方法
2-1.調査地
調 査 は 長 野 県 富 士 見 町 の 西 岳 国 有 林 1310 林 班 (カ ラ マ ツ 沢 集 団 : 北 緯 35º56’29” 東 経
1 3 8º 1 9’ 0 9 ” 標 高 1 7 0 0 m WG S 8 4 測 地 系 ) と 、 山 梨 県 北 杜 市 大 泉 の 山 梨 県 有 林 ( 天 女 山 第 1
集 団:北 緯 3 5 º 5 6 ’ 0 8 ” 東 経 1 3 8º 2 3 ’ 3 3” 標 高 1 7 4 0m W G S 8 4 測 地 系 ) に お い て お こ な っ た 。
カ ラ マ ツ 沢 集 団 は お よ そ 1 0 ha に 樹 齢 約 1 40 年 の 母 樹 サ イ ズ の ヤ ツ ガ タ ケ ト ウ ヒ 1 3 5 個 体
が 生 育 し て お り 、国 有 林 の 林 木 遺 伝 資 源 保 存 林 に 指 定 さ れ て い る 。天 女 山 第 1 集 団 に は 4 ha
ほ ど の 範 囲 に 62 本 の ヤ ツ ガ タ ケ ト ウ ヒ が 生 育 し て お り 、 こ れ ま で 八 ヶ 岳 で 確 認 さ れ た 3
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番目に大きな集団である。まず、これらの林分全体の状態を把握するために、ヤツガタケ
ト ウ ヒ の 密 度 が 高 い 場 所 に そ れ ぞ れ 2h a( 1 0 0 × 2 0 0m ) と 1 h a( 1 00 × 1 0 0 m) の 固 定 試 験 地 を 設
定 し 、 固 定 試 験 地 内 の 樹 高 1 .3 m 以 上 の 木 本 個 体 の 樹 種 と 胸 高 直 径 を 2 0 0 5 年 に 測 定 し た 。
こ の 測 定 結 果 か ら 、 樹 種 別 に 1 0cm 毎 の 胸 高 直 径 階 個 体 数 を 求 め る と と も に 、 胸 高 断 面 積
合 計 ( B A) を 算 出 し 、 各 調 査 区 の 林 況 と と も に 、 ヤ ツ ガ タ ケ ト ウ ヒ の 更 新 状 況 に つ い て 検 討
した。
2-2.開花・結実ステージの調査
開 花 状 況 を 調 べ る た め 、カ ラ マ ツ 沢 で は 1 9 9 3- 2 0 1 0 年 に 、天 女 山 で は 2 0 05 - 20 1 0 年 に 毎
年 6 月の開花時期に双眼鏡によって開花状況を観察した。個体によっては雄花だけ、ある
いは雌花だけ咲く個体もあるほか、開花量にも大きな差が見られたが、もっとも簡便な開
花 状 況 を 示 す 指 標 と し て 、雌 花 あ る い は 雄 花 が 確 認 さ れ た 開 花 個 体 の 割 合 を 求 め た 。な お 、
1 9 9 4、 1 9 98 、 1 99 9 年 の カ ラ マ ツ 沢 の 観 測 に つ い て は 、 す べ て 未 開 花 と 考 え 個 々 の 個 体 の
観 察 を お こ な わ な か っ た 。 ま た 、 1 9 9 3- 2 00 0 年 の カ ラ マ ツ 沢 は 欠 測 個 体 数 が あ る た め に 総
個体数と観察個体数が一致していない。
カ ラ マ ツ 沢 で は 種 子 生 産 量 を 調 べ る た め 、 シ ー ド ト ラ ッ プ ( 面 積 0 .5 m 2 ) を ヤ ツ ガ タ ケ ト
ウ ヒ の 密 度 が 高 い 樹 冠 下 1 2 ヶ 所 に 設 置 し 、1 9 9 3 年 か ら 2 0 0 5 年 ま で 冬 季 を 除 く 期 間 中 1- 2
ヶ月ごとにトラップ中の落下物を回収した。回収物は自然乾燥させた後、ヤツガタケトウ
ヒの成熟種子、未成熟種子、雄花、雌花、未成熟球果、球果に区別し、それぞれの数を集
計 し た 。 短 径 が 1 . 4 m m 以 下 の 種 子 に は ほ と ん ど 充 実 種 子 が な い ( 勝 木 1 9 9 4) の で 、 ふ る い
で 分 け た 1 . 4 mm 以 上 の 種 子 を 成 熟 種 子 、 1. 4 mm 以 下 の 種 子 を 未 成 熟 種 子 と し た 。 成 熟 種
子には充実種子、しいな、虫害種子が含まれるが、外観からは判別できないことからこれ
らを区別せずに集計した。また、ヤツガタケトウヒは通常開花した年の秋から翌年春に種
子が散布される。そこで、種子や球果などは生産した翌年以降も数年にわたって計測され
る場合、何らかの原因で樹上の球果などに残されていたものと判断し、次の開花・結実が
観察される年まで前回の開花結実年に生産されたものとして集計した。
さらに成熟種子の内容について検討するため、カラマツ沢からは 2 母樹について
1 9 9 3- 2 00 5 年 に 、天 女 山 に つ い て は 2 0 0 5 年 に 6 母 樹 か ら 球 果 を 採 取 し 、短 径 が 1. 4 m m 以
上の成熟種子を軟X線写真で撮影し、1 球果あたりの充実種子数と、しいな数、虫害種子
数、および充実率について求めた。また、参考として同じ八ヶ岳の フウキ沢集団の 1 母樹
に つ い て も 、 1 9 9 3- 2 0 0 5 年 の 球 果 を 採 取 し 、 充 実 種 子 数 と 、 し い な 数 、 虫 害 種 子 数 、 お よ
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び充実率について求めた。
2-3.実生ステージの調査
実生密度の年変動を調べるため、カラマツ沢固定試験地内のヤツガタケトウヒ樹冠下で
1 0 ヶ 所 の 実 生 調 査 区 ( 1 × 1 m) を シ ー ド ト ラ ッ プ の 脇 に 設 置 し 、 1 9 93 年 か ら 2 0 1 0 年 ま で
冬 季 を 除 く 期 間 に 3- 8 回 /年 、個 体 識 別 を し た 実 生 の 生 死 を 観 察 し た 。こ う し て 林 床 の 実 生
密度の変化について明らかにするとともに、種子トラップで得られた種子数との関係につ
い て 検 討 し た 。 ま た 、 天 女 山 の 固 定 試 験 地 内 で も 合 計 12 ヶ 所 の 実 生 調 査 区 ( 1×2m) を 設
置 し 、 20 0 5 年 か ら 20 1 0 年 ま で 7 月 に 実 生 数 を 観 察 し 、 林 床 の 実 生 密 度 の 変 化 を 明 ら か に
した。
2-4.実生定着試験
カラマツ沢・天女山試験地ともに母樹サイズの個体は高い密度で存在するが、若木・稚
樹 サ イ ズ の 個 体 が ほ と ん ど 見 ら れ ず( 第 二 章 )、天 然 更 新 を 阻 害 す る な ん ら か の 障 害 が あ る
と考えられる。カラマツ沢では数年生の実生は比較的高い密度で見られることから、実生
定着後の光環境が暗いことが天然更新を妨げる大きな原因のひとつと予想した。そこで明
る い 光 環 境 下 で の 実 生 の 生 育 に つ い て 検 討 す る た め 、2 00 3 年 に 固 定 試 験 地 内 に 伐 採 実 生 定
着 試 験 区 ( 4 0× 4 0 m) を 設 置 し 、 中 央 部 の 20 × 2 0 m の 範 囲 内 の カ ラ マ ツ 植 栽 木 ( 5 7 年 生 ) を 全
て 伐 採 し た 。試 験 区 内 に は 1 0 m グ リ ッ ド 毎 に 2 × 2m の 実 生 調 査 枞 を 計 2 9 ヶ 所 設 置 し 、2 0 0 3
年 か ら 2 0 1 0 年 ま で 5- 11 月 に 実 生 を 観 察 し 、 消 長 及 び サ イ ズ を 測 定 し た 。 実 生 調 査 枞 内 の
ヤツガタケトウヒの実生には個体識別をおこなうとともに、毎年秋に樹高を測定し、伐採
区と林縁区、樹冠下区との間で樹高を比較することで光環境の実生定着への影響について
検 討 し た 。な お 、伐 採 実 生 定 着 試 験 区 で は 獣 害 が 激 し く 観 察 さ れ た こ と か ら 、2 0 0 7 年 に 獣
害対策ネットで周囲を囲い、以降は毎年 7 月に手刈りによる下草刈りをおこなった。
一方、天女山の調査地では若木・稚樹サイズに加え、実生もまったく見られなかった。
ヤツガタケトウヒ集団の多くはコケ林床をもつ森林にあり、種子生産が見られる母樹の周
囲 で は ほ と ん ど 実 生 が 存 在 す る ( 第 二 章 )。 し か し 天 女 山 集 団 が あ る 森 林 の 林 床 は 高 さ 1 m
ほ ど の シ ナ ノ ザ サ ( Sa s a se n ane n si s ( F r an ch . & S av. ) R e h de r ) が 繁 茂 し て い る 点 が 他 集 団
と異なる特徴となっている。樹木の天然更新に対して一般にササ類は悪影響を及ぼしてい
る と 考 え ら れ る の で 、サ サ を 除 去 す る こ と で 実 生 が 定 着 す る か 試 み た 。1 2 ヶ 所 の 無 処 理 区
のほか、毎年夏に下刈りをおこなう下刈り区と、毎年の下刈りに加え熊手などによって落
葉 や 枝 条 を 取 り 除 く 地 搔 き 区 そ れ ぞ れ 1 2 ヶ 所 を 設 置 し た 。こ の 合 計 3 6 ヶ 所 の 調 査 区 に そ
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れ ぞ れ 実 生 調 査 区 ( 1 × 2 m) を 設 置 し 、2 0 0 5 年 か ら 2 0 1 0 年 ま で 7 月 に 実 生 数 を 観 察 す る と と
も に 、シ ナ ノ ザ サ の 高 さ と 被 度 を 測 定 し た 。高 さ は 実 生 調 査 区 内 の シ ナ ノ ザ サ の 最 大 高 を 、
被 度 は 目 測 に よ り 5%き ざ み で 測 定 し た 。 こ の 結 果 か ら 、 実 生 が 発 芽 し た 年 の シ ナ ノ ザ サ
の高さ・被度と発芽実生密度の関係について検討した。なお、天女山試験地では胸高直径
約 2 0c m の 植 栽 と 推 測 さ れ る カ ラ マ ツ と 胸 高 直 径 5 0 cm を 超 え 天 然 生 と 推 測 さ れ る カ ラ マ
ツが混在し、その区別は明瞭ではなかった。また植栽の記録も得られなかった。
以上の結果から、ヤツガタケトウヒの天然更新を阻害する要因および天然更新を促進す
る技術について検討した。
3.結果
3-1.試験地の林況
カ ラ マ ツ 沢 の 毎 木 調 査 の 結 果 ( 表 3 - 1 ) 、固 定 試 験 地 内 は カ ラ マ ツ や ヤ ツ ガ タ ケ ト ウ ヒ 、
ミズナラが優占する天然林であるが、一部はカラマツの植林地となっていた。全ての樹種
を 合 計 し た 胸 高 直 径 階 を み る と 、サ イ ズ が 大 き く な る と 個 体 数 が 次 第 に 尐 な く な る L 字 型
の 分 布 を 示 し て い た が 、ヤ ツ ガ タ ケ ト ウ ヒ に 限 る と 胸 高 直 径 3 0- 4 0 cm の 個 体 数 が も っ と も
多 い 一 山 型 の 分 布 を 示 し た 。 ヤ ツ ガ タ ケ ト ウ ヒ の 最 大 サ イ ズ は 胸 高 直 径 6 3 . 2c m 、 樹 高
3 1. 4m で あ っ た 。 ま た 、 胸 高 直 径 が 0- 1 0c m の 個 体 は わ ず か 3 個 体 / ha と 後 継 樹 が き わ め
て尐ない状態であることが改めて示された。
天 女 山 の 固 定 試 験 地 は 、 植 栽 木 を 含 む カ ラ マ ツ が 優 占 し て い た (表 3 - 2 )。 そ の 他 ヤ ツ
ガ タ ケ ト ウ ヒ や ヤ ハ ズ ハ ン ノ キ ( Al nu s m a tsu mu ra e C a l l ie r ) 、 コ メ ツ ガ な ど の 天 然 生 の 樹
木も混在していた。なお、天女山においては天然生と植栽されたカラマツが混在していた
が、明瞭に区分することは困難であったので、区別せずに集計した。全ての樹種を合計し
た 胸 高 直 径 階 を み る と 、カ ラ マ ツ 沢 と 同 様 に L 字 型 の 分 布 を 示 し て い た が 、ヤ ツ ガ タ ケ ト
ウ ヒ に 限 っ て み る と 胸 高 直 径 3 0- 4 0 cm の 個 体 数 が も っ と も 多 い 一 山 型 の 分 布 を 示 し た 。ヤ
ツ ガ タ ケ ト ウ ヒ の 最 大 サ イ ズ は 胸 高 直 径 8 0 . 9c m 、樹 高 24 . 8 m で あ っ た 。一 方 、直 径 2 0c m
以 下 の 若 木 サ イ ズ の 個 体 は わ ず か に 5 本 で あ り 、1 0 c m 以 下 だ と 1 本 、樹 高 1 . 3 m 以 下 の サ
イズ稚樹・実生はまったく確認されなかった。
3-2.開花結実調査
カ ラ マ ツ 沢 の 開 花 状 況 を 観 察 し た と こ ろ 、 1 9 9 5、 1 99 7 、 2 0 0 2、 2 0 0 3、 2 0 05 、 20 0 9 年 に
半 数 以 上 の 個 体 で 雄 花 あ る い は 雌 花 の 開 花 が 見 ら れ た (図 3 - 1 )。 も っ と も よ く 開 花 し た
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1 9 9 5 年 に は 観 測 し た 1 0 7 個 体 中 9 2 個 体 と 8 6 %の 個 体 で 雄 花 あ る い は 雌 花 の 開 花 が 観 察 さ
れ た 。 な お 、 も っ と も 小 さ な 開 花 サ イ ズ は 胸 高 直 径 9. 8 cm で あ っ た が 、 1 0c m 以 下 の 階 級
で 開 花 す る 個 体 は 稀 で 、直 径 2 0 c m を 超 え た 階 級 で は 半 数 以 上 が 開 花 し て い た 。一 方 、1 9 9 6 、
2004 年 な ど ま っ た く 開 花 木 が 観 察 さ れ な い 年 も あ っ た 。
天 女 山 の 開 花 状 況 を 観 察 し た と こ ろ 、 2 0 0 5 、 2 0 0 6、 2 0 0 9 年 は 半 数 以 上 の 個 体 で 雄 花 あ
る い は 雌 花 の 開 花 が 見 ら れ 、 も っ と も よ く 開 花 し た 2009 年 は 68 個 体 中 47 個 体 と 69%の
個 体 で 開 花 が 観 察 さ れ た 。 た だ し 、 2006 年 は 開 花 し た 42 個 体 の 中 、 雌 花 が 開 花 し た も の
は 1 4 個 体 に 過 ぎ ず 、 4 1 個 体 で 雌 花 が 観 察 さ れ た 2 0 0 5 年 や 、 40 個 体 で 雌 花 が 観 察 さ れ た
2 0 0 9 年 と 比 較 す る と 、開 花 状 況 に 大 き な 違 い が 見 ら れ た 。ま た 、カ ラ マ ツ 沢 と 天 女 山 の 集
団 間 に お い て 開 花 個 体 の 割 合 は 比 較 的 と 似 て い る 傾 向 が 見 ら れ た が 、20 0 8 年 の よ う に 集 団
間でまったく異なる結果を示す年も見られた。
カ ラ マ ツ 沢 に お い て 、ヤ ツ ガ タ ケ ト ウ ヒ の 種 子 は 1 9 9 3 、1 9 9 5 、1 9 9 7、2 0 0 1 、20 0 2 、2 0 03 、
2 0 0 5 年 に 生 産 さ れ た こ と が 確 認 さ れ た ( 図 3 - 2 )。 1 99 3 - 19 9 8 年 は 隔 年 周 期 で 結 実 が 見
ら れ た も の の 、 2 00 1 年 か ら は 3 年 連 続 で 結 実 し 、 明 瞭 な 周 期 性 は 見 ら れ な か っ た 。 ま た 、
種 子 落 下 量 は 年 に よ っ て 0 - 1, 7 3 6 個 / m 2 と 大 き く 変 化 し た 。 な お 、 2 0 0 0 年 は 開 花 個 体 が 観
察されたが、その多くの個体は雄花だけであり、シードトラップ中に種子は得られなかっ
た。
各母樹から採取した成熟種子を軟X線写真で撮影し、分析したところ、カラマツ沢の母
樹 2 本 の 充 実 種 子 数 は 0. 8 - 4 7 . 1 粒 / 球 果 と 年 に よ っ て 大 き な 変 動 が あ る こ と が 示 さ れ た ( 表
3 - 3 )。 特 に 2005 年 は 充 実 種 子 数 が 尐 な く 虫 害 種 子 数 が 多 い 傾 向 が 見 ら れ 、 カ ラ マ ツ 沢
の P- 0 4 6 個 体 と フ ウ キ 沢 の YD 0 08 個 体 は 有 意 ( P < 0. 0 1) に 2 0 0 5 年 の 充 実 種 子 数 が 尐 な く 虫
害 種 子 数 が 多 か っ た 。 一 方 、 天 女 山 は 20 0 5 年 に 採 取 し た 母 樹 だ け し か 分 析 し て い な い た
め 年 比 較 は 出 来 な い も の の 、 充 実 種 子 数 は 0. 0- 0 . 1 粒 /球 果 に 対 し 、 虫 害 種 子 数 は 3 . 5- 6 1 . 0
粒 /球 果 と 大 部 分 が 虫 害 種 子 で あ っ た 。
3-3.実生ステージの調査
カラマツ沢の林床においてヤツガタケトウヒの実生は、種子生産が確認された翌年の
1 9 9 4、 1 9 96 、 1 99 8 、 2 0 0 2、 2 0 0 3、 2 0 04 、 2 0 0 6 年 に 0. 1- 1 9 . 7 本 / m 2 の 密 度 で 発 生 し た こ と
が 観 察 さ れ た( 図 3 - 3 )。6 - 8 月 に 発 芽 し た 実 生 は そ の 後 ほ ぼ 一 定 の 生 存 率( 5 0 - 7 0 % /年 )
で 減 尐 し た 。 1996 年 に 19.7 本 /m2 と も っ と も 多 く 発 生 し た 実 生 は 、 全 調 査 期 間 中 の 実 生
の 4 8 % で あ り 、1 0 年 後 の 2 0 0 6 年 現 在 で も 0 . 4 本 /m 2 が 生 存 し て い た が 、2 01 0 年 に は す べ
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て 消 失 し た 。 こ の 1 9 9 6 年 と 2 0 0 3 年 は 実 生 発 生 密 度 が 1 0 本 /m 2 を 超 え 、 調 査 期 間 中 の 大
豊作年であった。
またカラマツ沢における平均の成熟種子落下量と翌年の実生密度を分析したところ、相
関 係 数 は 0 . 76 と 相 関 が あ っ た ( P < 0 . 01 , 図 3 - 2 )。 も っ と も 、 2 0 01 年 に カ ラ マ ツ 沢 で
1 ,1 3 5 個 /m 2 と 1 9 9 5 年 に つ ぐ 種 子 生 産 量 が 見 ら れ た が 、 翌 年 に 発 芽 し た 実 生 は 1. 1 本 / m 2
と 低 密 度 で あ っ た 。さ ら に 翌 2 0 0 2 年 は 7 0 5 粒 / m 2 と 20 0 1 年 よ り も 低 い 種 子 生 産 量 で あ っ
た が 、 発 芽 し た 実 生 密 度 は 11. 7 本 / m 2 と 1 9 9 5 年 に つ ぐ 発 生 密 度 と な り 、 年 に よ っ て は 必
ずしも比例しない場合もあることが示された。なお、種子落下量と実生発生密度の回帰直
線 の 傾 き は 0 . 01 0 で あ り 、 散 布 さ れ た 種 子 が 発 芽 す る 確 率 は お よ そ 1 . 0 %で あ っ た 。
天 女 山 で は 、 地 表 に お け る 種 子 発 芽 密 度 を 観 察 し た と こ ろ 、 2006-2009 年 は 当 年 生 を 含
む 実 生 は ま っ た く 観 察 す る こ と が 出 来 な か っ た 。2 0 0 8 年 は 実 生 調 査 を お こ な わ な か っ た が 、
林 分 内 を 観 察 す る 限 り 発 芽 し た 実 生 は ま っ た く 見 ら れ な か っ た 。一 方 、2 0 1 0 年 7 月 に 無 処
理 の 林 床 の 実 生 を 調 査 し た と こ ろ 、0- 1 . 5 本 / m 2 ( 平 均 0 . 7 本 / m 2 ) の 当 年 生 の 実 生 が 観 察 さ れ
た ( 図 3 - 4 ) 。 た だ し 、 翌 2 0 11 年 に は 平 均 0 .0 4 本 /m 2 と ほ ぼ 消 失 し た 。
3-4.カラマツ沢伐採実生定着試験区
カ ラ マ ツ 沢 伐 採 試 験 区 に お け る 実 生 は 、20 0 6 年 ま で は お お む ね 順 調 に 生 育 し ( 図 3 - 4 ) 、
2 0 10 年 現 在 、 最 大 サ イ ズ は 樹 高 7 5 cm に ま で 成 長 し た 。 光 環 境 で 比 較 す る と 、 1 9 9 6 年 発
芽 の 実 生 の 2 0 1 0 年 の 平 均 高 は 伐 採 区 が 23 . 1 cm 、林 縁 区 が 1 7 . 4c m 、樹 冠 下 区 が 11 . 4 c m と 、
光 環 境 に よ り 有 意 ( P < 0 . 05 ) に 差 が 生 じ た 。ま た 、2 0 0 3 年 発 芽 お よ び 2 0 0 6 年 発 芽 の 実 生 も 、
よ り 明 る い 環 境 で は 大 き く 育 つ 傾 向 が 見 ら れ 、 伐 採 区 の 2 00 3 年 発 芽 実 生 は 発 芽 2 年 後 に
は 平 均 6 . 7c m に で 成 長 し た 。 し か し 、 実 生 の 樹 高 が 1 0 cm を 超 え る サ イ ズ に な る と シ カ や
ウ サ ギ な ど に よ る 獣 害 を 受 け る 頻 度 が 高 く な り 、 2 00 7 年 春 に は 樹 高 1 0c m 以 上 で あ っ た
5 4 個 体 中 1 5 個 体 が 被 害 を 受 け 、樹 高 が 低 く な っ た 個 体 も あ っ た 。そ の 後 、 2 0 0 7 年 末 に 獣
害防止ネットを設置しシカによる食害対策をおこない、一定の防護効果が見られたが、
2 0 1 0 年 に は 再 び ウ サ ギ に よ る 被 害 を 受 け 、 樹 高 1 0c m 以 上 の 1 5 0 個 体 中 の 1 3 6 個 体 の 先
端 部 あ る い は 側 枝 が 切 断 さ れ た 。 そ の た め 、 2 0 10 年 の 実 生 平 均 高 に つ い て み る と 、 1 9 9 6
年 発 芽 の 林 内 区 を 除 き 、す べ て の 調 査 区 に お い て 前 年 度 よ り 減 尐 し て い た 。20 0 3 年 発 芽 実
生 の 2 0 1 0 年 の 伐 採 区 の 平 均 高 は 8 8 . 2m m と 前 年 の 1 3 9 . 4m m か ら 明 ら か に 低 下 し て い た 。
ま た 、1 9 9 6 年 発 芽 実 生 の 2 0 1 0 年 の 伐 採 区 の 平 均 高 も 2 3 1. 6 m m と 、前 年 の 2 8 2. 1 m m か ら
顕著ではないが低下していた。
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3-5.天女山地表処理試験区
天 女 山 の 地 表 処 理 試 験 区 に お い て 、ヤ ツ ガ タ ケ ト ウ ヒ の 実 生 は 2 0 0 5- 2 0 0 9 年 の 間 は ま っ
た く 観 察 さ れ な か っ た 。し か し 、20 1 0 年 は 下 刈 り 処 理 区 で 1 . 8 本 / m 2 、地 搔 き 処 理 区 で 1 . 7
本 / m 2 の 密 度 で 実 生 が 発 生 し た ( 図 3 - 5 )。 こ の 時 点 で 無 処 理 区 と 有 意 な ( P < 0 .0 5 ) 差 は な
か っ た が 、 2 0 11 年 ま で 生 存 し た 実 生 数 は 、 無 処 理 区 が 0 .0 本 / m 2 に 対 し 、 下 刈 り 処 理 区 は
0 .6 本 / m 2 、 地 搔 き 処 理 区 は 0. 9 本 /m 2 と 有 意 な ( P < 0 . 0 5) 差 が 生 じ た 。 ま た 、 各 処 理 区 の シ
ナ ノ ザ サ の 被 度 と 最 大 高 の 2 0 1 0 年 の 平 均 は 、対 照 区 は 8 7 %・5 8 cm 、下 刈 り 処 理 区 は 4 9 %・
3 5c m 、 地 搔 き 処 理 区 は 3 9 %・ 3 4c m で あ っ た 。 こ れ ら の 平 均 値 に つ い て 有 意 差 を 検 定 し た
と こ ろ 、サ サ の 被 度 と 高 さ に つ い て は 、対 照 区 と 下 刈 り・地 搔 き 処 理 区 の 間 で 有 意 ( P < 0 . 0 5)
な差が見られた。
4.考察
4-1.種子生産
開 花 個 体 の 観 測 か ら 示 さ れ る (図 3 - 1 )よ う に 、 ヤ ツ ガ タ ケ ト ウ ヒ は 毎 年 同 様 に 開 花 す
るのではなく、ほぼ隔年周期で開花していた。こうした周期性は同じ風媒の針葉樹である
スギやヒノキと同様であり、開花前年の気象要因と結実量などが影響していると考えられ
る ( 矢 田 ・ 小 谷 20 0 6) 。開 花 ・ 結 実 に 必 要 な 資 源 の 蓄 積 に は 年 数 が か か る た め 、最 適 な 気 象
環 境 と 蓄 積 資 源 量 が 一 致 し た 年 が 大 豊 作 年 と な る 。 カ ラ マ ツ 沢 に お け る 13 年 間 の 観 測 で
大 豊 作 年 と 考 え ら れ る 年 は 2 回 し か な く 、こ う し た 尐 な い 大 豊 作 年 が 天 然 更 新 の 阻 害 要 因
のひとつになっていると考えられる。
採 取 し た 母 樹 の 種 子 に 対 す る 虫 害 率 は 3 - 7 4 %( 表 3 - 3 ) と 、 全 て の ケ ー ス で 虫 害 が 認 め
ら れ た 。 こ の 虫 害 は 、 種 子 中 に エ ゾ マ ツ モ ン オ ナ ガ コ バ チ ( Me ga stig mu s ez om a tsu a nu s
Hu s s . & K a m . ) に 近 似 の タ ネ バ チ の 幼 虫 が 寄 生 す る も の で あ り 、 寄 生 さ れ た 種 子 は 発 芽 し
な い 。北 海 道 の エ ゾ マ ツ に お け る エ ゾ マ ツ モ ン オ ナ ガ コ バ チ の 虫 害 率 は 0 . 2- 2 .2 % で あ り ( 小
川 ら 2 0 0 5) 、 ヤ ツ ガ タ ケ ト ウ ヒ の 虫 害 率 は こ れ と 比 較 す る と 極 め て 高 い 。 さ ら に 、 西 岳 に
お い て も 20 0 5 年 の 虫 害 率 は 有 意 に 高 い こ と が 示 さ れ て い る 。 し た が っ て 、 2 0 0 5 年 の 天 女
山のヤツガタケトウヒはタネバチによってほとんど充実種子がなくなる深刻な被害を受け
たと考えられる。年変動はあるものの、タネバチはヤツガタケトウヒの重要な天然更新阻
害要因のひとつと考えられる。
4-2.実生定着環境
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開花・結実の豊凶やタネバチの被害は種子生産量に大きな影響を与えているものの、年
によって変動し、大豊作年には天然更新に充分な量の種子が生産される可能性がある。実
際 に カ ラ マ ツ 沢 で は 1 9 9 6 年 に 1 0 個 体 / m 2 以 上 、天 女 山 で も 2 0 1 0 年 に は 平 均 0 . 7 本 /m 2 の
密 度 で 実 生 が 発 芽 し て い る (図 3 - 3 ; 5 )。 し た が っ て 、 豊 凶 や タ ネ バ チ と は 別 に 、 実 生
定着後の環境も、天然更新の阻害要因として重要と考えられる。カラマツ沢の樹冠下にお
け る 実 生 の 消 長 か ら は 、 10 本 /m2 の 密 度 で 実 生 が 発 生 し て も 15 年 ほ ど で す べ て 消 失 す る
こ と が 示 さ れ た ( 図 3 - 3 ) 。 し か も こ の 間 最 大 で も 5c m 程 度 に し か 成 長 し て お ら ず 、 樹 冠
下で長期間実生が生存し、稚樹バンクを形成することは期待できない。一方、カラマツ沢
の 伐 採 区 で は 発 芽 2 年 後 で 6c m 以 上 に も 成 長 す る こ と が 示 さ れ て お り 、実 生 の 成 長 に は 樹
冠外の明るい光環境が必要であると考えられる。
また、天女山の地表処理試験の結果からは、対照区と処理区で実生密度におよそ倍の違
いがあった。各実生調査区間の種子落下量にも差がある可能性があるので、卖純な比較は
困難であるが、シナノザサがヤツガタケトウヒの実生の発芽、あるいは発芽直後の生存に
影響を与えていることが示唆される。さらに、ササ林床では翌年の生存率は極めて低いこ
と が 示 さ れ て お り (図 3 - 5 )、 サ サ 林 床 は ヤ ツ ガ タ ケ ト ウ ヒ の 天 然 更 新 の 阻 害 要 因 と 考 え
られる。実際に第二章で示したようにヤツガタケトウヒの自生地の多くはコケ林床である
ことも、この考えを支持する。
これらのことを総合すると、ヤツガタケトウヒの実生の定着にはササがなく、明るい光
環境の立地条件が必要と考えられた。八ヶ岳山域では岩礫地や崩壊地などに適切な立地条
件をもつ場所が見られ、過去にはヤツガタケトウヒがそうした環境で天然更新してきたこ
と が 推 測 さ れ る 。カ ラ マ ツ 沢 の お よ そ 1 0 0 年 前 の 写 真 ( Wi l so n 1 9 1 6 ) は 、ヤ ツ ガ タ ケ ト ウ ヒ
若木の周囲に高木がない疎林状態であったことを示しており、明治時代の森林簿にも当時
は山火事や盗伐が頻繁に起こり、成熟した森林ではなかったことが記録されている。ただ
し、現在の八ヶ岳のヤツガタケトウヒ自生地の周囲は、大部分が成熟したカラマツ人工林
であり、天然更新に最適な環境は存在しない。この現在の植生状況が現在の八ヶ岳におけ
るヤツガタケトウヒの天然更新の大きな阻害要因であると考えられる。
そこで、伐採、あるいは下刈り・地掻きなどの人為的な施業によって更新適地を形成す
ることが、天然更新を促進させる手法のひとつとして考えられる。カラマツ沢の伐採実生
定 着 試 験 区 で 実 際 に 樹 高 7 5c m の 稚 樹 が 生 育 し て い る こ と は 、 こ の 手 法 が 有 効 で あ る こ と
を示している。また、ササ林床であっても下刈り・地掻きなどの地表処理によって実生の
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定着に効果があることが示された。今後はより大規模に天然更新を促進する施業をおこな
い、検証していくことが期待される。
4-3.獣害
これまでの結果から、光環境を改善することでヤツガタケトウヒの天然更新を促進させ
ることが可能であることが示された。しかし稚樹の生育段階において、獣害が大きな更新
阻害要因となっている点も検討しなければならない。年変動が大きいが、カラマツ沢の伐
採 更 新 試 験 区 で は 2010 年 に 9 割 以 上 の ヤ ツ ガ タ ケ ト ウ ヒ 稚 樹 が ウ サ ギ に よ る 被 害 を う け
た。また、ヤツガタケトウヒとヒメバラモミの自生地の大部分でシカによる被害痕を確認
しているうえ、実際にシカ害により枯死した成木サイズの個体も観察されている。天女山
の ヤ ツ ガ タ ケ ト ウ ヒ 林 に 接 し た カ ラ マ ツ 人 工 林 で も 深 刻 な 被 害 が 報 告 さ れ て い る (長 池 ら
2 0 0 8a , 2 0 0 8 b) 。ニ ホ ン ジ カ や カ モ シ カ な ど の 獣 害 は 单 八 ヶ 岳 で は 現 在 深 刻 な 問 題 と な っ て
お り ( 諏 訪 地 域 野 生 鳥 獣 被 害 対 策 プ ロ ジ ェ ク ト チ ー ム 2 00 8 ) 、ヤ ツ ガ タ ケ ト ウ ヒ の 天 然 更 新
に対する阻害要因として重要と考えられる。
しかし獣害に対する対応策には様々な問題がある。大規模な柵の設置によって、シカ害
に 対 す る 効 果 が あ る こ と は 本 研 究 で も 確 認 さ れ た 。 し か し 、 天 然 更 新 が 想 定 さ れ る 数 ha
の面積に対して獣害防止柵を設置することは、莫大な費用がかかることに加え、メンテナ
ンスも常に必要であり、現実的な対応策として最適であるとは考えられない。またこうし
た大規模な柵は、ウサギ害に対する効果が低い。相応の資材費や人件費などの費用が必要
となる が、現状 では 1 本ごと に獣害 防止 用の 不織布 やネッ トな どの を設置 するこ とが もっ
とも効果的であると思われる。将来的にはシカの頭数調整によってシカ害そのものが減尐
していくことに期待したいが、当面は費用がかかっても個体ごとに獣害防止用の措置をお
こなう方法が次善の手法であると考えられる。
4-4.効果的な現地保全手法
これまで、天然更新を阻害する要因として、種子生産量や光環境、獣害などが重要であ
ることを述べた。同じ針葉樹の希尐種であるヤクタネゴヨウは種子生産に大きな障害があ
る ( 金 指 ら 1 9 9 8) こ と に 対 し 、ヤ ツ ガ タ ケ ト ウ ヒ と ヒ メ バ ラ モ ミ は 、十 分 な 量 の 種 子 を 生 産
した際に、光環境を改善させる施業をおこない、その後の獣害対策をおこなうことで、稚
樹を生育させることが可能と考えられた。しかし、現実的な保全対策の手法として天然更
新を考えた場合、天然下種更新はもっとも効果的な保全手法とはいえないだろう。稚樹が
天然更新に必要なほど高密度で生育する保証はなく、確実性に欠ける手法と考えられる。
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ま た 、サ サ 林 床 で あ っ た 場 合 、下 刈 り や 地 掻 き に 多 く の 費 用 が 必 要 と な る こ と も 予 想 さ れ 、
費用対効果が疑問視される。現状でもっとも効果的で安価な現地保全の手法としては、種
子を採取して育苗し、現地に植え戻すことではなかろうか。次節で述べるように、ヤツガ
タケトウヒの種子から育苗し、造林した事例もあり、育苗・造林に技術的な障害はない。
こ の 手 法 で あ れ ば 種 子 生 産 量 が 尐 な い 場 合 で も 、確 実 に 増 殖 す る こ と が 可 能 で あ る 。ま た 、
増殖した苗木を現地外保全の素材としても活用することもできる。今後は天然下種更新だ
けではなく、種子からの育苗と、植え戻す対策を平行しておこなう保全対策が必要と考え
られる。
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第二節
ヤツガタケトウヒとヒメバラモミの保全活動とその評価
1.はじめに
ヤ ツ ガ タ ケ ト ウ ヒ と ヒ メ バ ラ モ ミ は 第 二 章 で 示 し た よ う に 、 と も に 総 母 樹 数 が 約 1, 6 0 0
個 体 と 推 定 さ れ 、絶 滅 の 危 険 が 増 大 し て い る 絶 滅 危 惧 I I 類 と 考 え ら れ る 。い ず れ も 最 大 樹
齢 は 100 年 を 超 え る 長 寿 の 樹 木 で あ る こ と か ら 、 数 十 年 の 間 に 絶 滅 す る 危 険 性 は 低 い が 、
将来にわたって多様性をもった健全な集団・集団群を維持していくためには適切な保全活
動が必要である。保全生態学においては、常に現状を把握しながら、管理計画も見直して
い く 順 応 的 管 理 が 求 め ら れ る ( 松 田 2 0 0 2) 。ヤ ツ ガ タ ケ ト ウ ヒ と ヒ メ バ ラ モ ミ に つ い て は 現
在、中部森林管理局を中心にいくつかの保全対策がおこなわれているが、個々の活動は独
立しておこなわれており、種としての総合的な保全計画は進められていない。そこで、本
節では現在おこなわれているヤツガタケトウヒとヒメバラモミの保全活動について述べ、
その評価をおこなうことで、今後のより適切な保全計画の指針を示したい。
2.保全に関わる制度・活動
ヤツガタケトウヒとヒメバラモミの保全に関わる制度・活動などを表3-4に示した。
おもな制度・活動などについて以下に概要を述べる。
2-1.天然記念物
ヤツガタケトウヒ2件、ヒメバラモミ5件と計7件の県や市・村など各自治体が指定す
る 天 然 記 念 物 が 確 認 さ れ た ( 長 野 県 教 育 委 員 会 2 0 0 0) 。こ の ほ か 、山 梨 県 北 杜 市 須 玉 町 に 県
指 定 の 天 然 記 念 物 「 諏 訪 神 社 の ヒ メ バ ラ モ ミ 」 が あ っ た が 、 1 99 9 年 に 枯 死 し た 。「 樋 沢 の
ヒメバラモミ」が2本、原村の「ヒメバラモミ」が4本であった他、いずれも卖木であっ
た。第二章で示したように「アズサバラモミ」は近くに自生集団があることから自生個体
と 考 え ら れ た が 、残 り の 個 体 は い ず れ も 推 定 樹 齢 が 100 年 を 越 え 、そ の 由 来 な ど は 明 ら か
ではなかく、植栽したものと判断した。なお、いずれの個体も天然記念物として表示があ
り、相応の管理はおこなわれており、個体の存続に大きな問題はないと判断された。
2-2.自然公園
ヤツガタケトウヒとヒメバラモミの生育地は、中部山岳地の山地帯上部から亜高山帯で
あるため、秩父多摩甲斐国立公園と单アルプス国立公園、八ヶ岳中信高原国定公園と環境
省管轄の国の自然公園にその一部が含まれている。しかし、これらの自然公園が設定され
ている区域は高山帯が中心で標高が高い場合が多く、実際に含まれている産地はそれぞれ
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梓山、戸台川、八ヶ岳と限定されていた。八ヶ岳の山梨県部分は比較的広い自生地が国定
公園内に含まれていたが、その区域の大部分は第 3 種特別地域であり、手続きをおこなえ
ば木材生産目的の伐採・植林が可能な地域となっていた。
2-3.保護林
ヤツガタケトウヒとヒメバラモミの自生地の多くは国有林や県有林など公的な所有とな
っており、それぞれ独自の保護林が設定されている。国有林では遺伝資源林や特定地理等
保護林、植物群落保護林など、様々な目的の保護林にヤツガタケトウヒとヒメバラモミの
自 生 地 が 指 定 さ れ て い た 。た だ し 、
「 白 岩 岳 特 定 地 理 保 護 林 」や「 燕 岩 植 物 群 落 保 護 林 」な
ど、ヤツガタケトウヒとヒメバラモミの保全以外の目的で設定されていたものも多く含ま
れている。2 種の保全のために設定された保護林としては、まず八ヶ岳のヤツガタケトウ
ヒ等林木遺伝資源保存林がある。この林分はは発見当初からヤツガタケトウヒの自生地と
し て 知 ら れ た 集 団 で あ り 、 1 96 7 年 に 学 術 参 考 保 護 林 、 1 9 87 年 に 林 木 遺 伝 資 源 保 存 林 と し
て 再 設 定 さ れ 、 現 在 5 . 9 2h a が 遺 伝 資 源 保 存 林 に 設 定 さ れ て い る ( 技 術 開 発 室 1 9 8 9) 。 こ の
保護林は後述する遺伝子保存林や人工林の母樹林としても活用されている。一方、フウキ
沢ヤツガタケトウヒ植物群落保護林、尾勝谷ヤツガタケトウヒ・ヒメバラモミ植物群落保
護林、丸山谷ヤツガタケトウヒ・ヒメバラモミ植物群落保護林、小瀬戸谷・東風巻谷ヤツ
ガタケトウヒ・ヒメバラモミ植物群落保護林、風巻峠ヤツガタケトウヒ・ヒメバラモミ植
物 群 落 保 護 林 は 、2 0 0 9 年 に 新 た に 設 定 さ れ た 2 種 の 保 全 の た め の 保 護 林 で あ る 。後 述 す る
ヤツガ タケト ウヒ 保護 管理調 査事業 の一 環と して 2 種 の分布 調査 が おこな われ 、明 らかに
された国有林内のおもなヤツガタケトウヒとヒメバラモミの自生地に対し、これまで保護
林などによって対策がとられていなかった区域に設定された。また、山梨県大平の学術参
考 林 は 新 た に 確 認 さ れ た ヤ ツ ガ タ ケ ト ウ ヒ と ヒ メ バ ラ モ ミ の 自 生 地 ( 勝 木 ・ 清 藤 1 9 99 ) に 対
し、山梨県が保全のために設定した保護林である。なお、これらの保護林は原則として伐
採など人為的な活動に対して一定の規制をおこなうものである。
2-4.保全事業
これまであげた保護制度は為的な活動に対して規制する従来のタイプで、伐採などから
保護することがもっとも大きな目的である。これに対して、種の保全に対する積極的な対
策が次の事業でおこなわれている。まず、ヤツガタケトウヒ等林木遺伝資源保存林に対し
て 、 1 96 6 ・ 1 9 6 7 年 に 計 71 本 の ヤ ツ ガ タ ケ ト ウ ヒ ( ヒ メ マ ツ ハ ダ を 含 む ) の 穂 木 が 採 取 さ
れ 、 接 ぎ 木 ク ロ ー ン 苗 が 育 苗 さ れ た 。 こ の ク ロ ー ン 苗 は 西 岳 国 有 林 1329 林 班 と 長 野 県 小
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諸 市 に あ る 森 林 総 合 研 究 所 林 木 育 種 セ ン タ ー 長 野 増 殖 保 存 園 に 1969 年 に 植 栽 さ れ て お り 、
現 在 で は 開 花 結 実 を み せ る ま で 成 長 し て い る 。西 岳 国 有 林 に 植 栽 さ れ た 計 1 h a は 、 遺 伝 子
保存林に指定されている。また、同じ集団から採取した種子由来の苗木を育苗し、同じ西
岳 国 有 林 1 3 2 9 林 班 に 約 4 4 ha と 大 規 模 に 植 林 し た ほ か 、長 野 県 下 諏 訪 町 の 東 俣 国 有 林 11 6 2
林 班 や 埼 玉 県 秩 父 市 の 中 津 川 国 有 林 67 林 班 な ど に も 植 林 さ れ て い る 。 中 津 川 国 有 林 の 林
分は遺伝子保存林に指定されているが、西岳国有林の遺伝子保存林がクローン苗であるこ
とに対し、中津川国有林の遺伝子保存林は種子から増殖された苗であり、由来が異なって
いる。現在、西岳の種子由来の人工林は一般の人工林として管理・施業され、数万本以上
のヤツガタケトウヒが生育し、すでに開花・結実も観察されている。これらの事業によっ
て、カラマツ沢集団のヤツガタケトウヒは 4 ヶ所以上に外部保全されていることになる。
一方、近年の国有林の野生動植物への取り組みの変化にともない、中部森林管理局では
ヤツガタケトウヒとヒメバラモミに対する積極的な保全対策事業を進めている。ヤツガタ
ケ ト ウ ヒ 保 護 管 理 調 査 事 業 は 2 0 03 年 よ り お こ な わ れ 、 ヒ メ バ ラ モ ミ 保 護 管 理 調 査 事 業 は
2 0 0 4- 2 01 0 年 度 に お こ な わ れ た 。 ヤ ツ ガ タ ケ ト ウ ヒ 保 護 管 理 調 査 事 業 は お も に 西 岳 国 有 林
の遺伝資源保存林の集団を維持・管理することを目的とし、天然更新を補助するための技
術開発などを中心におこなっている。遺伝資源保存林の天然更新については前節で詳細に
検討したように、天然更新は可能であるもの獣害対策が必要であることが明らかにされて
いる。獣害対策などに費用がかさむこともあり、今後の施業方針についてはまだ定まって
い な い 。 そ の ほ か 、 こ の 事 業 に お い て 、 2006-2008 年 度 に ヤ ツ ガ タ ケ ト ウ ヒ と ヒ メ バ ラ モ
ミの分布調査をおこない、これまで保護林指定がなされていないヤツガタケトウヒとヒメ
バ ラ モ ミ の 自 生 地 を 明 ら か に し 、主 な 産 地 の 保 護 が 必 要 な 部 分 に 対 し て 、2 0 0 9 年 に 植 物 群
落保護林として保護林指定をおこなった。さらに管理をおこなうことでより適切に個体群
が維持されると判断されたフウキ沢ヤツガタケトウヒ植物群落保護林については、ヤツガ
タ ケ ト ウ ヒ 母 樹 育 成 の た め に 加 圧 木 の 伐 採 事 業 を 2010 年 度 よ り 開 始 し て い る 。
一方、ヒメバラモミについてはこれまで積極的な保護活動はなかった。そこでヒメバラ
モミ保護管理調査事業では、種としてのヒメバラモミ全体の遺伝子を出来る限り後世に伝
えることを目的とし、分布地全体から穂木を採取して接ぎ木クローン苗を増殖し、遺伝資
源 林 の 造 成 を お こ な っ た ( 勝 木 ら 2 0 0 8 b; 塩 崎 2 0 1 0) 。2 0 0 4- 2 0 0 6 年 に 採 取 個 体 の 調 査 お よ
び 接 ぎ 木 手 法 の 検 討 、 2 0 0 7 年 に 1 4 3 個 体 か ら 採 穂 ( 勝 木 ら 2 00 8 b ; 図 3 - 6 )、 接 ぎ 木 苗
の 増 殖 を お こ な っ た 。2 0 1 0 年 に 13 4 ク ロ ー ン 、7 4 4 本 の 接 ぎ 木 苗 を 西 岳 国 有 林 1 3 3 3・1 3 3 4
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林 班 に 遺 伝 資 源 林 と し て 植 栽 し た 。 20 11 年 現 在 、ま だ 樹 高 5 0 cm 程 度 で は あ る が 、順 調 に
生育している。
こ の ほ か 、 山 梨 県 で は 近 年 の シ カ 害 へ の 対 策 と し て 、 不 織 布 (商 品 名 ザ バ ー ン )な ど を 幹
に ま く 対 策 事 業 を 進 め て い る 。20 0 9 年 に 八 ヶ 岳 の ヤ ツ ガ タ ケ ト ウ ヒ・ヒ メ バ ラ モ ミ に 対 し
て も 不 織 布 を 設 置 し 、 シ カ 害 へ の 対 策 を お こ な っ て い る ( 長 池 私 信 )。 ま た 、 森 林 総 合 研
究所林木育種センターでは、長野増殖保存園と同様の手法でヤツガタケトウヒの单限の産
地 で あ る 天 主 岩 か ら 採 穂 し 、 接 ぎ 木 ク ロ ー ン を 育 苗 し て 保 存 し て い る ( 板 鼻 私 信 )。
2-5.そのほか
八 ヶ 岳 の 山 麓 な ど で は 植 え ら れ て い る ヤ ツ ガ タ ケ ト ウ ヒ や ヒ メ バ ラ モ ミ が 見 ら れ る (植
松 1 9 8 7) 。 と く に ヒ メ バ ラ モ ミ は 神 社 な ど に 植 え ら れ て い る 事 例 が 多 い 。 こ う し た 植 栽 木
も遺伝資源として利用対象とすることが可能である。実際に前述したヒメバラモミ保護管
理 調 査 事 業 で は 、 こ う し た 植 栽 木 30 本 以 上 か ら 採 穂 を お こ な っ て い る 。 八 ヶ 岳 ・ 秩 父 山
域では自生木の個体数が極めて尐なかったために貴重な資源となった。特に長野県单牧村
の 農 家 に 植 栽 さ れ て い る ヒ メ バ ラ モ ミ は 重 要 で あ っ た 。 お よ そ 90 年 前 に 近 く の 西 川 (二 ツ
山 ) に 自 生 し て い た ヒ メ バ ラ モ ミ 若 木 を 山 取 し 、防 風 林 と し て 列 状 に 植 え た と 伝 え ら れ て お
り 、4 1 本 が 残 さ れ て い る 。現 在 、二 ツ 山 集 団 で は 母 樹 サ イ ズ の 野 生 個 体 は 7 個 体 し か 確 認
されておらず、貴重な現地外保全の成功事例となっている。また、植物園などに植栽され
て い る 個 体 も 同 様 に 貴 重 な 遺 伝 資 源 と な る 。 森 林 総 合 研 究 所 多 摩 森 林 科 学 園 (浅 川 実 験 林 )
に 1 9 4 4 年 植 栽 の 林 ( 1 9 6 9) に よ っ て 「 ヒ メ マ ツ ハ ダ 」 と さ れ た ヤ ツ ガ タ ケ ト ウ ヒ 2 6 個 体
(2005 年 現 在 )が あ っ た 。 八 ヶ 岳 産 と し か 記 録 さ れ て い な か っ た が 、 DNA を 用 い た 解 析 に
よ り 、 八 ヶ 岳 の 千 枚 岩 集 団 に 由 来 す る こ と が 推 定 さ れ た ( 勝 木 ら 2 0 0 8 a) 。 現 在 千 枚 岩 で は
42 個 体 し か 確 認 さ れ て お ら ず 、 こ れ も 貴 重 な 現 地 外 保 全 の 成 功 事 例 と な っ て い る 。
3.保全への効果
ヤツガタケトウヒとヒメバラモミに対する保全活動の評価を表3-5にまとめた。保全
活 動 は 現 地 保 全 と 現 地 外 保 全 に 区 分 し 、現 地 保 全 は 秩 父・八 ヶ 岳 山 域 と 单 ア ル プ ス 山 域 に 、
現 地 外 保 全 は 種 の 保 全 と 多 様 性 の 保 全 に 細 分 化 し た 。 そ の れ ぞ れ の 項 目 に つ い て A-D の 4
段階評価をおこなった。
3-1.現地保全
ヤツガタケトウヒとヒメバラモミの現地保全に関しては、現在の分布状況や対策のあり
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方も異なることから、秩父・八ヶ岳山域と单アルプス山域に区分して検討する。ヤツガタ
ケトウヒもヒメバラモミも秩父・八ヶ岳山域において、野生集団は分断化・小集団化して
お り 、 消 失 の 危 機 に あ る と 考 え ら れ る 。 特 に ヒ メ バ ラ モ ミ は 10 個 体 以 上 の ま と ま っ た 集
団 は 梓 山 だ け で 、大 部 分 は 孤 立 し て お り 、天 然 更 新 が 期 待 で き ず 地 域 絶 滅 の 可 能 性 が 高 い 。
現在この地域のヒメバラモミに対しては、わずかに梓山の産地の一部が国立公園に含まれ
ているだけであり、積極的な保全活動はまったくない。この地域の自生集団に対して現地
保全を講ずるのであれば、早急に対策事業をおこなわなければならない。
一方、秩父・八ヶ岳山域のヤツガタケトウヒに関しては国有林によるヤツガタケトウヒ
保護管理調査事業がおこなわれているほか、前節で述べたように天女山において天然更新
についての調査が進められている。いずれも天然更新は不可能ではないことが示されてい
るが、実際に更新を補助する保全事業をおこなうのであれば多額の費用と労力が必要にな
ることが想定されている。このまま放置するとそれぞれの集団はいずれ消失する危険性が
高く、前節で提案した種子からの増殖と植え戻しを含め、どのような形で現地保全を進め
るのか、関係者の間で対策を決定していく必要がある。
单アルプス山域については、ヤツガタケトウヒもヒメバラモミも個体数が多い地域にお
いて天然更新が見込めることから、現状の保護林制度によって、一定の個体数は保たれ、
保全効果があると考えられる。ただし、北杜市白州町や大鹿村などの分断化・小集団化し
た集団については個々の保全対策をおこなうことが望まれる。
3-2.現地外保全
ヤ ツ ガ タ ケ ト ウ ヒ の 遺 伝 資 源 保 存 林 に 対 し て 1960 年 代 に お こ な わ れ た 保 全 事 業 は 、 現
地外保存が成功した事例として考えられる。大規模な人工林を造成したことで種の絶滅の
危 険 性 は 著 し く 低 下 し て い る 。た だ し ひ と つ 問 題 が あ る 。ア イ ソ ザ イ ム や 核 S S R の 変 異 を
調べたところ、カラマツ沢の集団が保有する遺伝的多様性は他集団と比較すると低いこと
が 示 さ れ て い る (第 一 章 )。 つ ま り 、 ひ と つ の 集 団 の 現 地 外 保 全 と し て は 成 功 し て い る が 、
保全された遺伝子は種がもつ変異のごく一部でしかなく、ヤツガタケトウヒ全体の多様性
を保全するためには、不充分であると考えられる。しかし現在、現地外保全の対象とされ
ているのは、他に天主岩集団からクローン苗が育成されている事例だけである。また、カ
ラマツ沢集団のヤツガタケトウヒについてはさび病による著しい被害が報告されている
( 浜 1 9 70 , 1 9 7 2 , 1 9 8 7) が 、 他 の 集 団 で は そ う し た 被 害 は 確 認 さ れ て お ら ず 、 遺 伝 的 な 务 化
の事例である可能性が疑われる。種の多様性を保全するためには、より多くの集団に対し
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て現地外保全がおこなわれることが必要と考えられる。
一方、ヒメバラモミについては、ヒメバラモミ遺伝資源林によって種全体の多様性を集
中的に保全していくことが期待される。秩父・八ヶ岳山域のヒメバラモミに対しては現在
確 認 さ れ て い る 母 樹 サ イ ズ の 自 生 木 58 個 体 を 上 回 る 75 個 体 か ら ク ロ ー ン 苗 木 を 増 殖 し て
いる。これは植栽個体や若木サイズの個体からも採穂したためであるが、きわめて効果が
高い現地外保全の事例と考えられる。ただし、まだ植栽したばかりであり、開花結実する
よ う に な る ま で 20 年 以 上 か か る こ と が 予 想 さ れ て い る 。 そ の 間 に こ の 遺 伝 資 源 林 を ど の
ように活用するのか、検討していくことが今後の課題である。
また、ヒメバラモミ遺伝資源林を除くと、ヒメバラモミは植栽・管理されている個体の
絶対数が尐なく、また由来が不明である場合が多い。他の由来が明らかなヒメバラモミ植
栽個体は单牧村の農家の防風林だけではなかろうか。種の多様性を保全するためには、由
来が明らかな個体を増殖していく必要がある。なお、ヒメバラモミの種子からの育苗は難
しいものではなく、東京都の小石川植物園や神代植物園ではヒメバラモミの成木が育って
おり、暖温帯での生育も可能である。今後は由来が明瞭な個体を多くの場所に植栽し、さ
らに増殖していくことが望まれる。
4.保全への提言
ヤツガタケトウヒとヒメバラモミに対する現在の保全活動は自生地を管理する中部森林
管理局が中心となって進め、森林総合研究所など公的な研究機関などが協力している体制
となっている。もちろん、実際に保全活動を実施することが可能な予算や人手を擁してい
る国有林が今後も中心となって保全活動を継続していくことが望ましいが、将来的には地
元 の 市 町 村 や N PO な ど の 市 民 活 動 と も 連 携 し 、 多 く の 関 係 者 が 保 全 活 動 に 関 わ っ て い く
ことも重要である。国有林だけに依存した活動は、予算に限界があり、活動が停止する恐
れ が あ る 。 実 際 に 1960 年 代 に お こ な わ れ た ヤ ツ ガ タ ケ ト ウ ヒ 遺 伝 資 源 保 存 林 に 対 す る 増
殖事業は、記録が散逸しており、消失する危険すらあった。この増殖事業への評価は筆者
らがいわば外部の立場からおこなったものである。このように多くの人が関わることで活
動が活性化し、国有林中心の活動では扱うことが難しい私有地での保全活動や、多様な人
材を活用することも可能となる。
一方、ヤツガタケトウヒとヒメバラモミの保全がこれまで進んでいなかったことの原因
のひとつとして、認知度が低いことが考えられる。実際に両種の樹木が存在していてもそ
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の木をヤツガタケトウヒ、あるいはヒメバラモミとして認識しなければ存在しないも同然
である。本研究において分布調査をおこなう段階で自生地の関係者に問い合わせても存在
す ら 知 ら な い 場 合 も 多 く 、 遠 山 ら (1993)の よ う に 誤 っ た 同 定 結 果 が 報 告 さ れ て い る 例 も あ
った。また、前述したような市民活動に発展させていくためにも、一般の市民にヤツガタ
ケトウヒとヒメバラモミの正確な情報を広めていく必要がある。そこで、直接的に個体群
を維持・増殖していく保全活動と平行して、ヤツガタケトウヒとヒメバラモミの認知度を
あげる観察会や講演会などの普及活動をおこなっていくことも、保全活動の一環としてき
わめて重要と考えなければならない。
さらに、ヤツガタケトウヒとヒメバラモミの植林について今後は本格的に検討していく
必要があると思われる。トウヒ類の木材は良質であり、ドイツトウヒやエゾマツなど植林
されている樹種も多い。ヤツガタケトウヒの木材の性質は、ドイツトウヒやエゾマツとほ
ぼ 同 等 で あ る こ と が 確 認 さ れ て い る ( 久 保 島 ら 2 0 1 0 ; Yam a s h i ta e t a l. 2 0 1 0) 。 経 済 的 な 人
工林の造林樹種としての評価は今後の検討課題であるが、その可能性はある。また楽器材
のような高品質材としての利用も考えられる。種の保全の観点からは、人工林によって多
くの個体が存在している状況は望ましく、小規模ではあっても、西岳国有林にあるような
人工林が今後も造成されていくことが期待される。その際は、実生増殖だけではなく、組
織培養を利用した増殖法も検討するべきであろう。現在、種子の胚組織から植物体を再生
で き る こ と が 確 認 さ れ て お り ( 丸 山 ら 2 0 07 ) 、大 量 の 苗 木 を 生 産 す る こ と は 技 術 的 に 可 能 で
ある。種の多様性を保全するためには、どのような器官からも増殖できることが理想的で
はあり、今後の研究の進展に期待する。
- 108 -
表3-1.カラマツ沢固定試験地(1ha)における主な出現種の2005年の直径階個体数と胸高断面積合計(BA)
Table 3-1. The diameter class density and basal area (BA) of major species in the Karamatsu-sawa survey area (2ha) in 2005.
Diameter (cm) class density
sp.
BA(cm2ha-1)
0-10 - 20 - 30 - 40 - 50 - 60 - 70 - 80 - 90 - 100 Total
Larix kaempferi
カラマツ
1
4
2
10
23
19
7
2
2
1
70
144912
Larix kaempferi (planted) カラマツ(植栽)
1
32
60
34
4
130
72535
Picea koyamae
ヤツガタケトウヒ
3
2
6
17
11
10
2
50
64144
Quercus mongolica
ミズナラ
28
46
47
16
2
1
139
54102
Pinus densiflora
アカマツ
3
12
2
1
16
16166
Clethra barbinervis
リョウブ
293
3
295
7314
Acer pictum
エンコウカエデ
19
8
6
32
5598
Acer japonicum
ハウチワカエデ
16
8
3
1
27
4150
Aria japonica
ウラジロノキ
11
5
3
2
20
3531
Cerasus maximowiczii
ミヤマザクラ
17
3
2
1
22
2981
Acer rufinerve
ウリハダカエデ
13
6
1
20
2284
Acer ukurunduense
オガラバナ
2
3
2
6
2274
Populus maximowiczii
ドロノキ
1
1
1853
Enkianthus campanulatus サラサドウダン
76
1
1
77
1764
1545
Aria alnifolia
アズキナシ
8
6
1
14
other
その他
247
24
5
1
276
10064
Total
732 147 138
92
41
29
9
2
2
1 1230
395218
- 109 -
表3-2.天女山固定試験地(1ha)における主な出現種の2005年の直径階個体数と胸高断面積合計(BA)
Table 3-2. The diameter class density and basal area (BA) of major species in the Tenyo-san survey area (1ha) in 2005.
Diameter (cm) class density
sp.
BA(cm2ha-1)
0-10 - 20 - 30 - 40 - 50 - 60 - 70 - 80 Total
Larix kaempferi
カラマツ
27 115
71
40
18
2
273
131436
Picea koyamae
ヤツガタケトウヒ
6
12
17
11
1
1
48
47107
Alnus matsumurae
ヤハズハンノキ
4
24
29
7
1
65
29220
Enkianthus campanulatus サラサドウダン
135
36
1
172
21197
Tsuga diversifolia
コメツガ
16
18
5
2
41
9318
Aria japonica
ウラジロノキ
12
8
5
1
1
27
8316
Betula ermanii
ダケカンバ
4
5
5
1
2
17
8299
Rhododendron wadanum
トウゴクミツバツツジ
263
263
8192
Cerasus maximowiczii
ミヤマザクラ
7
5
8
1
1
22
8057
Quercus mongolica
ミズナラ
4
2
1
1
8
5185
Fraxinus apertisquamifera ミヤマアオダモ
115
9
124
4623
Abies homolepis
ウラジロモミ
7
6
2
1
16
4602
Cerasus nipponica
タカネザクラ
3
2
1
6
3018
Pinus densiflora
アカマツ
1
4
5
1754
Picea jezoensis
トウヒ
1
1
1576
other
その他
86
10
1
97
5641
Total
679 249 141
73
39
3
0
1 1185
297541
- 110 -
表3-3.1993-2005年のヤツガタケトウヒの分析された球果数(Nc)と分析種子数(Ns)、球果あたりの充実種子
数(Nf)と虫害種子数(Np)・しいな数(Ne)・充実率( Pf = Nf / (Nf + Np + Ne) )および虫害率( Pp = Np / (Nf + Np +
Ne) ).
Table3-3. Numbers of analayzed corn (Nc), number of analayzed seed (Ns), full seed number (Nf), parasitized
seed number (Np), empty seed number (Ne), proportion of full seed ( Pf = Nf / (Nf + Np + Ne)), and proportion of
parasitized seed ( Pp = Np / (Nf + Np + Ne)) in Picea Koyamae collected in 1993-2005.
Population
Mother
tree
P013
P016
P018
P056
P060
P074
year
2005
2005
2005
Tennyo-san-A
2005
2005
2005
1993
1995
P-046 1997
2001
Karamatsu-sawa
2005
1995
P-B
1997
2005
1993
1995
1997
Fuki-sawa
YD008
1999
2001
2005
Nc
Ns
20.0
443
6.9
468
4.1
43
1.9
201
10.3
416
17.3
618
3.0
296
4.4 2162
7.4
707
21.4
757
16.4
832
13.0 1626
11.3
520
3.8
533
79.0 10712
9.7
960
20.5
611
4.9
415
31.9 1019
11.2
775
Nf
0.0
0.1
0.0
0.0
0.0
0.0
19.0
47.1
16.7
8.8
0.8
9.4
6.2
8.7
4.9
2.3
0.4
0.8
0.8
1.0
Np
7.4
32.7
3.5
61.0
11.4
8.1
23.7
33.6
18.6
9.1
64.6
21.5
5.3
6.6
8.2
63.0
18.0
31.8
10.9
131.1
*
Ne
14.8
34.5
7.2
43.8
29.0
27.7
56.0
413.7
60.6
17.4
26.1
94.4
34.4
125.6
122.5
33.4
11.4
52.5
20.2
19.9
0.00
0.00
0.00
0.00
0.00
0.00
0.15
0.08
0.15
0.22
0.00
0.06
0.11
0.04
0.03
0.02
0.01
0.00
0.02
0.00
Confidence interval of proportion ( 95% )
++:The proportion is higher (P<0.01) than that in same mother tree at 2005
--:The proportion is lower (P<0.01) than that in same mother tree at 2005
- 111 -
Pf*
- 0.01
- 0.01
- 0.07
- 0.01
- 0.01
- 0.00
- 0.24
- 0.11
- 0.20
- 0.28
- 0.01
- 0.09
- 0.17
- 0.09
- 0.04
- 0.03
- 0.03
- 0.02
- 0.04
- 0.01
++
++
++
++
++
++
++
++
0.29
0.44
0.20
0.51
0.24
0.19
0.19
0.06
0.17
0.23
0.44
0.15
0.09
0.03
0.06
0.61
0.56
0.33
0.31
0.67
Pp*
- 0.38
- 0.53
- 0.47
- 0.65
- 0.33
- 0.26
- 0.29
- 0.08
- 0.22
- 0.29
- 0.51
- 0.19
- 0.15
- 0.07
- 0.07
- 0.67
- 0.64
- 0.42
- 0.37
- 0.74
----++
++
------
表3-4. ヤツガタケトウヒとヒメバラモミの保全に関わる制度・活動など
Table 3-4. The legal system and actibity for conversation of Picea koyamae and P. maximowiczii .
種類
名称
樋沢のヒメバラモミ
アズサバラモミ
井富のヒメバラモミ
天然記念物 ヒメバラモミ
高烏谷のマツハダ
ヒメマツハダ
ヒメバラモミ
秩父多摩甲斐国立公園
自然公園
南アルプス国立公園
八ヶ岳中信高原国定公園
ヤツガタケトウヒ等林木遺伝資源保存
林
学術参考林
フウキ沢ヤツガタケトウヒ植物群落保護
林
尾勝谷ヤツガタケトウヒ・ヒメバラモミ植
物群落保護林
丸山谷ヤツガタケトウヒ・ヒメバラモミ植
物群落保護林
小瀬戸谷・東風巻谷ヤツガタケトウヒ・ヒ
メバラモミ植物群落保護林
保護林
風巻峠ヤツガタケトウヒ・ヒメバラモミ植
物群落保護林
白岩岳特定地理等保護林
千丈岳特定地理等保護林
巫女淵特定地理等保護林
西岳カラマツ植物群落保護林
白岩岳カラマツ植物群落保護林
燕岩植物群落保護林
歌宿シラベ等林木遺伝資源保存林
林木遺伝子保存林(西岳・中津川国有
林)
接木クローン採種園
接木クローン採種園
保全事業
シカ害対策(2009-)
ヤツガタケトウヒ保護管理調査事業
(2003-)
ヒメバラモミ保護管理調査事業(20042010)
ヒメバラモミ遺伝資源林
主体
長野県
川上村
北杜市
原村
伊那市
大鹿村
泰阜村
環境省
環境省
環境省
国有林
山梨県
国有林
産地
川上村(植栽?)
梓山
北杜市(植栽?)
原村(植栽)
伊那市(植栽?)
大鹿村(植栽)
泰阜村(植栽)
梓山
戸台川
八ヶ岳
八ヶ岳
大平
八ヶ岳
対象
ヒメバラモミ
ヒメバラモミ
ヒメバラモミ
ヒメバラモミ
ヤツガタケトウヒ
ヤツガタケトウヒ
ヒメバラモミ
ヒメバラモミ
ヤツガタケトウヒ・ヒメバラモミ
ヤツガタケトウヒ・ヒメバラモミ
ヤツガタケトウヒ
ヤツガタケトウヒ・ヒメバラモミ
ヤツガタケトウヒ
国有林
戸台川
ヤツガタケトウヒ・ヒメバラモミ
国有林
丸山谷
ヤツガタケトウヒ・ヒメバラモミ
国有林
奥三峰川
ヤツガタケトウヒ・ヒメバラモミ
国有林
奥三峰川
ヤツガタケトウヒ・ヒメバラモミ
国有林
国有林
国有林
国有林
国有林
国有林
国有林
国有林
林木育種
センター
林木育種
センター
山梨県
戸台川
戸台川
奥三峰川
八ヶ岳
戸台川
天主岩
戸台川
八ヶ岳
ヤツガタケトウヒ・ヒメバラモミ
ヤツガタケトウヒ・ヒメバラモミ
ヤツガタケトウヒ・ヒメバラモミ
ヤツガタケトウヒ・ヒメバラモミ
ヤツガタケトウヒ・ヒメバラモミ
ヤツガタケトウヒ
ヤツガタケトウヒ・ヒメバラモミ
ヤツガタケトウヒ
八ヶ岳
ヤツガタケトウヒ
天主岩
ヤツガタケトウヒ
八ヶ岳
ヤツガタケトウヒ・ヒメバラモミ
国有林
全域
ヤツガタケトウヒ
国有林
全域
ヒメバラモミ
国有林
全域
ヒメバラモミ
- 112 -
表3-5. ヤツガタケトウヒとヒメバラモミに対する保全活動の評価.
Table 3-5. The assessment for the conversation activity of Picea koyamae and P. maximowiczii .
ヤツガタケトウヒ
内容
評価
一部の集団が保護指定さ
C れているが、更新しておら
秩父・八ヶ岳山域
ず対策が必要
保全対象
現地保全
#
評価
#
ヒメバラモミ
内容
D
自生集団を保全する対策
がなく、早急な対策が必要
南アルプス山域
B
コア地域では保護林の設
定が効果的 分断化した小
集団では対策が望まれる
B
コア地域では保護林の設
定が効果的 分断化した小
集団では対策が望まれる
種の保全
A
人工林造成に成功
C
個体保護が中心の保全で
あり、種を維持するための
対策が必要
多様性の保全
C
一部の集団だけが対象と
なっており、多くの集団に対
する対策が必要
B
遺伝資源林が効果的に機
能することが期待される
現地外保全
#
評価A, 充分に効果的な活動がおこなわれている; B,一定の効果が見込める活動はある; C, 活動
の効果が低く、見直しが必要; D, 活動がない
- 113 -
160
Karamatsu-sawa plot
Obseerved number
140
120
100
80
60
40
20
Obseerved number
0
1993 1995 1997 1999 2001 2003 2005 2007 2009
80
60
Tennyo-san plot
40
20
0
no-flowering
flowering
1993 1995 1997 1999 2001 2003 2005 2007 2009
図3-1. カラマツ沢と天女山の固定試験地におけるヤ
ツガタケトウヒの開花と未開花の観察個体数.
Fig. 3-1. The observed number of flowering and noflowering individuals in Picea koyamae at Karamatsusawa and Tenyo-san survey plot.
- 114 -
Seedling density (number m-2)
1995
10
2002
1993
2005
1
2001
1997
0.1
2003
0.01
10
100
Seed dispersal density (number m-2)
1000
図3-2.カラマツ沢における1993-2005年のヤツガタケトウヒの種子(成熟種子)生産量と翌年の実生発生密度.
Fig3-2. The seed (mature seed) pdispersal density and seedling density of Picea koyamae
at Karamatsu-sawa in 1993-2005.
- 115 -
100
1993
1994
1996
Seedling density (number m-2)
10
1998
2002
2003
2004
2006
1
2008
2010
0.1
1993
1995
1997
1999
2001
2003
2005
2007
2009
図3-3.カラマツ沢におけるヤツガタケトウヒ実生の各発芽年ごとの密度変化.
Fig. 3-3. The change of seedling density for each production year of Picea koyamae in Karamatsu-sawa
during 1993-2010.
- 116 -
320
2003
280
2004
2005
Average height (mm)
240
2006
2007
200
2008
2009
160
2010
120
80
40
0
Cutting stand Forest edge
1996 G
Under
canopy
Cutting stand Forest edge
2003 G
Under
canopy
Cutting stand Forest edge
Under
canopy
2006 G
図3-4.カラマツ沢伐採試験区における各発芽年・区分ごとのヤツガタケトウヒ実生の高さの変化.
Fig3-4. The change of seedling height for each germination(G) year and condition at Karamatsu-sawa
survey plot during 2003-2010.
- 117 -
Coverage(%)and height (cm)
100
80
60
height of Sasa
40
20
0
8
Seedling density (number m-2)
coverage of
Sasa
control
weeding
surface scarification
2010
6
2011
4
2
0
control
weeding
surface scarification
図3-5. 天女山第1集団における2010年の各処理区(下刈り区; 地掻き区; 無処
理区)のシナノザサの被度(%)と高さ(cm)およびヤツガタケトウヒ実生の発生数と
2011年の実生数の平均値と最大値、最小値.
Fig. 3-5. The average of coverage (%) and height (cm) of Sasa senanensis
in 2010 and the average, maximum and minumum seedling density of
Picea koyamae in 2010 and 2011 for each management type (weeding
plot; surface scarification plot; control plot).
- 118 -
N
N36°00’
川上
梓山
八ヶ岳
釜無山
大武川
大平
戸台川
丸山谷
N35°40’
奥三峰川
豊口山
除山
20km
N35°20’
E138°
E139°
図3-6. ヒメバラモミ保護管理調査事業で採穂されたヒメバラモミの位置 ( 赤丸 ) と産地 ( 青丸 ).
Fig. 3-6. The location (red circle) and locatity (blue circle) of Picea maximowiczii collected for
the conservation management and cexamination project of Picea maximowiczii .
- 119 -
おわりに
ヤツガタケトウヒとヒメバラモミは、名前だけは森林学や植物学など一部の関係者の間
で知られた存在であったが、実物を知る人は尐なく、自生状況についてもほとんど実態が
明らかにされていなかった「幻の植物」であったと思われる。本研究を含めた最近の研究
によって、ようやく分類や分布の実態が明らかになってきており、2 種に対する本格的な
研究は今後の課題である。本研究では、基本的な情報を明らかにすることに終始したが、
保全指針については一定の内容を示すことが出来たと自負する。
なお、第三章でも述べたように、ヤツガタケトウヒとヒメバラモミがこれまで「幻の植
物」であった理由のひとつは、その認知度の低さにあると思われる。本研究がそうした認
知度の改善に役立ち、さらには実際の保全に役立つことを期待したい。
謝辞
研究を進めるにあたり、森林総合研究所の吉丸博志氏と金指あや子氏、津村義彦氏、宇
都宮大学の谷本丈夫教授、九州大学の白石進教授、東北大学の鈴木三男教授、千葉大学の
松 本 み ど り 氏 、 U ni v e r s i ty o f M a ine の C. C a mp be l l 教 授 、 に は 有 益 な 助 言 ・ 指 導 を い た
だいた。また現地調査にあたっては森林総合研究所の前田武彦氏、吉村研介氏、島田和則
氏 ・ 島 田 健 一 氏 、 森 林 総 合 研 究 所 多 摩 森 林 科 学 園 の 西 山 嘉 彦 氏 (当 時 )、 大 中 み ち る 氏 ・ 別
所康次氏、宇都宮大学の逢沢峰昭氏、山梨県森林総合研究所の西川浩己氏・長池卓男氏、
清藤城宏氏、中部森林管理局の元島清人氏、東京農業大学の勝田柾教授、武内俊一氏、菅
谷貴志氏ほかの学生の皆様、山梨植物研究会の田中智氏、飯田美術博物館の明石浩司氏な
どの多くの皆様に多大な協力をいただいた。また中部森林管理局单信森林管理署、長野県
の富士見町、单牧村、川上村、大鹿村、山梨県には調査の便宜を計っていただいた。関係
した皆様に心からお礼を申し上げます。
- 120 -
引用文献
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Ai z aw a , M . & M . K a j i 2 0 0 6 Tax o no m i c re v ie w o f Pi ce a a lc oq u i an a v a r. ref le x a ( P i na ce a)
b a se d o n co ne mo rp ho lo g y. Ac t a . Phy t o ta x . G e o bo t. 5 7 : 1 6 7- 1 7 4 .
逢 沢 峰 昭 ・ 勝 木 俊 雄 ・ 梶 幹 男 2002 秩 父 山 地 西 部 に お け る ヤ ツ ガ タ ケ ト ウ ヒ の 新 産 地 . 分
類 2 : 7 7- 7 8.
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学位論文
本州産希尐トウヒ属樹木の保全に関する研究
勝木俊雄
東京大学大学院農学生命科学研究科
第 17624 号
平 成 24 年 2 月 29 日
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