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OPEN/SHORT/LOAD補正による 高確度インピーダンス測定

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OPEN/SHORT/LOAD補正による 高確度インピーダンス測定
OPEN/SHORT/LOAD 補正による
高確度インピーダンス測定
アプリケーション・ノート346-3
ご注意
2002 年 6 月 13 日より、製品のオプション構
成が変更されています。
カタログの記載と異なりますので、ご発注の
前にご確認をお願いします。
はじめに
一般にインピーダンス測定器ではフロ
ントパネルのUNKNOWN端子が測定
確度の基準面になっています。アジレ
ント・テクノロジー製インピーダンス
測定器の場合はさらにケーブル長補正
機能を備えており、アジレント・テク
ノロジー製の1m(2mまたは4m)測定
ケーブルの先端を基準面に設定できま
す。しかし実際の測定では基準面から
先にテストフィクスチャ等を接続する
ため、その残留インピーダンスにより
全体としての測定確度が劣化する場合
があります。この劣化を改善するため
には誤差補正を行う必要があります。
最近のインピーダンス測定器が備えて
いる最も一般的な補正方法としては
OPEN/SHORT補正が挙げられます。し
かし複雑な残留インピーダンスが存在
する場合(例えば自動機やスキャナを
用いる場合)や、測定器のケーブル長
補正機能では補正できない長さの延長
ケーブルを補正したい場合などには、
OPEN/SHORT補正では誤差を十分に除
去できない場合があります。これらの
誤 差 を 除 去 す る た め に は
OPEN/SHORT/LOAD補正が非常に有効
です。本アプリケーションノートでは、
OPEN/SHORT/LOAD補正を用いた高確
度インピーダンス測定についてご紹介
します。
OPEN/SHORT補正とOPEN/
SHORT/LOAD補正の違い
ここではOPEN/SHORT/LOAD補正の原
理を、OPEN/SHORT補正と比較しなが
ら示します。
1. OPEN/SHORT補正
OPEN/SHORT補正ではテストフィクス
チャによる残留インピーダンスを図1
のような等価回路で仮定します。
浮遊アドミタンスYOは、ZS≪1/YOより
テストフィクスチャの測定端子を
OPEN(開放)状態にして測定するこ
とができ、残留インピーダンスZ S は
SHORT(短絡)状態にして測定する
ことができます。これらの補正データ
を用いてDUT(Device Under Test:被測
定試料)の測定値Zmを次式の補正式
で補正し、テストフィクスチャの残留
成分を取り除いた真値Z dut を得ること
ができます。
Zdut=
Zm − ZS
1−(Zm − ZS) YO
Zdut : DUTの真値
Zm : DUTの測定値
YO : OPEN(開放)状態での
アドミタンス値
ZS : SHORT(短絡)状態での
インピーダンス値
(各パラメータは全て複素数)
アジレント・テクノロジー製のテスト
フィクスチャを測定確度の基準面
(UNKNOWN端子、あるいはケーブル
長補正されたアジレント・テクノロジ
ー製延長ケーブルの先端)に直結して
測定を行うような場合には、
OPEN/SHORT補正によって十分に誤差
を取り除くことができます。
しかし次のような測定では、図1のよ
うな簡単な等価回路で表せない複雑な
残留インピーダンスが存在し、
OPEN/SHORT補正では十分に誤差を補
正できない場合があります。
・自動機、スキャナを用いる場合。
・自作のテストフィクスチャを用いる
場合。
・測定器のケーブル長補正機能では補
正できない長さの延長ケーブルを用
いる場合。
・測定器とDUTの間に回路(バルント
ランス、フィルタ、アンプ、アッテ
ネータ、外部DCバイアス用の保護
回路など)が接続されている場合。
また次のような要求に対してOPEN/
SHORT補正では不十分な場合があり
ます。
・異なる測定器による測定値の相関を
とりたい場合(器差をなくしたい場
合)
・測定の再現性を向上させたい場合
このような問題を解決するためには、
次に示すOPEN/SHORT/LOAD補正が必
要になります。
図1 OPEN/SHORT補正のモデル
1
2. OPEN/SHORT/LOAD補正
OPEN/SHORT/LOAD補正では測定端子
を開放状態、短絡状態にしたときの測
定データに加え、標準DUT(値付けさ
れたワーキング・スタンダード)を接
続したときのデータを用います。テス
トフィクスチャ等の残留インピーダン
スを図2のようにA、B、C、Dパラメー
タ(F行列)で表される2端子対回路と
仮定します。
測定端子にインピーダンスZ2のDUTを
接続したとき、測定値がZ1になると考
えるとZ 1=V 1/I 1、Z 2=V 2/I 2より次式が
成り立ちます。
AV2+BI2
AZ2+B
Z1= =
CZ2+D
CV2+DI2
測定端子を開放状態にしたときの測定
値をZO、短絡状態にしたきの測定値を
ZS、真値Zstdの標準DUTを接続したと
き の 測 定 値 を Z Sm、 そ し て 真 値 Z dutの
DUTの測定値をZ Xmとすると、上式の
パラメータA、B、C、Dが消去され次
のような補正式が求められます。
Zdut=
Zstd (ZO−ZSm) (ZXm−ZS)
(ZSm−ZS) (ZO−ZXm)
OPEN/SHORT/LOAD補正の
注意点
OPEN/SHORT/LOAD補正を実行するに
あたり、以下の注意点を考慮する必要
があります。
1. OPEN補正の注意点
OPEN補正ではテストフィクスチャ等
の浮遊アドミタンスを正確に測定する
ことが大切です。そのためにはOPEN
補正データ取得時に、測定端子間の距
離をDUTを保持するときの距離と等し
くする必要があります。
2. SHORT補正の注意点
SHORT補正ではテストフィクスチャ
等の残留インピーダンスを正確に測定
することが大事です。SHORT補正デー
タを取得する際には、測定端子を直接
接続するか、あるいは測定端子に短絡
板を接続します。短絡板を用いる場合
には、残留インピーダンスがDUTのイ
ンピーダンスよりも十分に小さいもの
を用います。
3. LOAD補正の注意点
LOAD補正では標準DUTの選び方、お
よび値付け方法に注意する必要があり
ます。
(1) 標準DUTの種類
標準DUTを選ぶ場合に、インダク
タ測定にはインダクタを用いなけ
ればならない、あるいはコンデン
サ測定にはコンデンサを用いなけ
ればならない−という制約はなく、
既知の値を持つデバイスならば何
でも用いることができます。ただ
温度、磁界等の測定環境の影響を
受けにくい安定したDUTを用いな
ければなりません。その点では測
定環境の影響を受け易いインダク
タより、コンデンサまたは抵抗の
方が適しています。
特に低損失(低D、高Q、低ESR)
のDUTを測る場合には、なるべく
損失の小さい標準DUTを用いる必
要があります。損失の小さなイン
ダクタを入手するのは難しく、コ
ンデンサの方が入手しやすいので、
低損失コンデンサを用いることを
お奨めします。
ZO : OPEN(開放)状態の測定値
ZS : SHORT(短絡)状態の測定値
Zstd : 標準DUTの真値、ZSm: 標準DUTの
測定値
ZXm : DUTの測定値、ZDUT: DUTの真値
OPEN/SHORT/LOAD補正機能は4263A
(GPIBによって可能)、4278A、4279A、
4284A、4285A等のインピーダンス測
定器に装備されています。
図2 OPEN/SHORT/LOAD補正のモデル
2
(2) 標準DUTのインピーダンス値
様々なインピーダンス値のDUTを
測定する場合には、インピーダン
ス測定器が確度良く測れ、テスト
フィクスチャの接触抵抗や残留イ
ンピーダンスの影響を受けにくい
100∼1kΩ程度の標準DUTを選ぶこ
とをお奨めします。
一つの決まったインピーダンス値
のDUTを測定する場合には、DUT
のインピーダンス値に近い標準
DUTを用いることをお奨めします。
これによって、その値付近の非線
形誤差を減らすことができます。
ただしDUTがあまり低インピーダ
ンスや高インピーダンスの場合に、
それに近いインピーダンスを持つ
標準DUTを用いると、測定器やテ
ストフィクスチャの誤差によって
標準DUTの値付け確度が悪くなっ
てしまいます。このような場合に
はやはり、100∼1kΩ程度の標準
DUTを用いることをお奨めします。
(3) 標準DUTの値付け
OPEN/SHORT/LOAD補正を行うた
めには、標準DUTに値付けする必
要があります。値付けの際には高
確度インピーダンス測定器を用意
し積分時間、アベレージング回数
等の測定条件をできる限り高確度
に測れるように設定します。また
誤差を最小限にするために、直結
型テストフィクスチャを用い、
OPEN/SHORT補正を実行した後に
値付けを行います。
4. OPEN/SHORT/LOAD補正
データ測定時のインピーダンス
測定器の設定
実際のOPEN/SHORT/LOAD
補正例
図3に示すように4285Aから16048E
インピーダンス測定器にOPEN/SHORT/ (4mケーブル)を用いて測定端子を延
長する場合、ケーブル長補正機能では
LOAD補正機能が装備されている場合
補正できないので(4285Aは1m/2mケ
には、最高の確度で補正データを測定
ーブルの補正が可能)、OPEN/SHORT/
できるように、自動的に積分時間やア
ベレージング回数等が設定されます。 LOAD補正を行う必要があります。図
4にこの構成による100pFのコンデンサ
装備されていない測定器で外部コント
測定において、OPEN/SHORT補正を行
ローラを用いて補正する場合には、で
った場合とOPEN/SHORT/LOAD補正を
きるだけ高確度に補正データを測定で
行った場合の誤差の比較を示します。
きるように積分時間、アベレージング
ここでは47pFのコンデンサを標準DUT
回数等を設定する必要があります。
として用いています。この測定結果よ
りOPEN/SHORT補正では十分補正でき
ないケーブル延長による誤差が、
OPEN/SHORT/LOAD補正によって補正
されていることが分かります。
図3 16048Eによる延長
図4 OPEN/SHORT補正とOPEN/SHORT/LOAD補正での誤差の比較
3
外部コントローラによる
OPEN/SHORT/LOAD補正
OPEN/SHORT/LOAD補正はその機能を
装備しているアジレント・テクノロジ
ー製インピーダンス測定器であれば、
簡単なキー操作で実現できます。一方、
OPEN/SHORT/LOAD補正機能を装備し
ていない測定器でも、外部コントロー
ラを用いて補正計算を行えば、
OPEN/SHORT/LOAD補正を実現するこ
とができます。ただしこの場合、測定
器単体で行う場合に比べ
・操作が煩雑である
・データ転送時間等のため測定スピー
ドが遅くなる
などの問題点があります。
図5は4194Aによるコンデンサ測定にお
いて、OPEN/SHORT/LOAD補正を行う
ためのプログラム例です。このプログ
ラムではマニュアルトリガモードを用
い、一つの周波数点で測定を行います。
130-190行
測定条件を設定
210-270行
R-Xモードで開放状態の
インピーダンスを測定
300-330行
G-Bモードで短絡状態の
インピーダンスを測定
350-610行
値付けされた標準DUT
のC S -D値あるいはC P -D
値を入力した後、標準
DUTのインピーダンス
を測定
660-690行
D U T の モ ー ド ( C S- D 、
CP-D)を選択
710-1010行
DUTのインピーダンス
を測定した後、補正計
算を行い結果を表示
おわりに
本アプリケーションノートではOPEN/
SHORT/LOAD補正の原理と、いくつ
かの注意点を示しました。適切な
OPEN/SHORT/LOAD補正を行うことに
より高確度なインピーダンス測定が実
現できます。
参考文献 インピーダンス測定ハンド
ブック(P/N 11565)
4
図5 4194AでOPEN/SHORT/LOAD補正を実行するプログラム
5
6
付録 アジレント・テクノロジー製インピーダンス測定器の補正機能
モデル名
補正機能
ケーブル長補正
4284A
OPEN/SHORT/LOAD補正
マルチチャネル補正(OPT301)
0m/1m
0m/1m/2m/4m(OPT006)
4285A
OPEN/SHORT/LOAD補正
マルチチャネル補正(OPT301)
0m/1m/2m
4278A
OPEN/SHORT/LOAD補正
マルチチャネル補正(OPT301)
0m/1m/2m
4279A
OPEN/SHORT/LOAD補正
マルチチャネル補正
0m/1m/2m
4263A
OPEN/SHORT補正
0m/1m/2m/4m
OPEN/SHORT/LOAD補正(GPIB使用)
4274/75A
OPEN/SHORT補正
0m/1m
4276/77A
OPEN/SHORT補正
0m/1m
4192A
4194A
OPEN/SHORT補正
OPEN/SHORT補正
0m/1m
0m/1m
4195A
41951A付
OPEN/SHORT補正
1A344
070001303-H
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