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メキシコ、キンタナ・ロー州マヤ教会における祈りの再領土化について
メキシコ、キン タナ・ロー州マヤ 教会に おける祈りの再領土化について 初谷譲次(天理 大学) キーワード:日 常的実践、マ ヤ言説、再 領土 化 報告要旨: メキシコ南東 部キンタナ・ ロー州トゥ ルム 市といえばカリ ブの美しい海 岸に面した マヤ 遺跡が有名であ り、遺跡公園 はつねに観 光客 であふれている 。しかし、ト ゥルム遺跡 のす ぐそばにあるト ゥルム市につ いて、そこ がク ルソー・マヤと 呼ばれた反乱 マヤの聖地 だっ たということは ほとんど知ら れていない 。カ スタ戦争(1847-1901 年 )の末裔で あるこの地域 の人びとは、祭 祀センターで あり聖域で ある 教会を輪番制で 護衛するシス テムを維持 して いる。マヤ役職 者たちは、研 究者にメモ 帳、 筆記用具、録音 機器、カメラ およびビデ オな どの情報機器の 使用を禁じる 。しかし、 だか らと言って順路 的経験をいっ しょにする こと を拒否すること はない。むし ろ積極的に 参加 をうながす。た だし、その順 路的経験を 地図 的知識に整理し ようとするそ ぶりに対し ては 強い拒絶の態度 を示す。この ような態度 を、 情報操作の優劣 による他者化 を防いだう えで 、儀礼への参加 は認めること で研究者を 他者 化することもし ないという日 常的実践に おけ る近代と伝統の 境界線上を生 きるという 戦術 であると定義し た。 ついで、同マ ヤ教会におい て実践され てい るミサと呼ばれ る祈りをテク スト化し、 再領 土化という観点 から考察した 。資本主義 はあ らゆるモノを脱 領土化して、 一元的価値 を付 与して市場に流 通させ、私的 所有権によ って 再領土化するシ ステムである 。このメカ ニズ ムから自由でい られる人間は 地球上には いな い。しかしなが ら、その再領 土化のやり 方は 一律ではない 。近代的個 人は再領土 化するさ いには、再 -脱領土化 を想定して モノの市場 価 値をモニタリン グする。それ が祈りであ れば 、 「正しい」かど うかを確認 する。しかし 、マ ヤの 人び とは 祈 りを 再 -脱 領土 化を 想 定す る こと なし に、 日 常的 空間 に埋 め 込む 。再 -脱 領 土化する必要の ないものは市 場的価値と いう 意味において「 正しい」必要 はなく、何 世紀 にもわたってブ リコラージュ されながら 受け 継がれてきた。 「征服 」と植民 地化によっ て押 し付けられたカ トリックの祈 りを、マヤ の人 びとはブリコラ ージュによる 摸倣と継承 を繰 り返しながら、自 らの日常的 実践の資産 とし て再領土化して きた。かれら の日常的実 践は 、 かたくなに伝統 を守りながら マヤ文化の 復興 をはかるという 本質主義的語 りのなかに 回収 されてしまいが ちである。し かし、彼ら の祈 りのなかには、 いわゆる「マ ヤ的要素」 は見 あたらない。ミ サの祈りのス ペイン語部 分に もマヤ語部分に も、カトリッ クを逸脱す るよ うな要素は見ら れなかった。 つまり、古 来の 伝統的なマヤ言 説を再領土化 するという こと ではなく、出自 にかかわりな く何らかの 文化 資本を日常的実 践のなかで再 領土化する こと によって自らの 語りにしてい く戦術に光 をあ てた。そして、 それを「マヤ 言説」と呼 ぶと すれば、それは 再領土化の結 果に対する 評価 にすぎないので ある。マヤの 人びとがと きに は経験知をとき には科学的リ テラシーを 使い 分けて、秩序あ る条理空間と 顔の見える ロー カルな日常的平 滑空間の両方 を生きてい ると すれば、まごう ことのない近 代的自我を 確立 して科学的=合 理的リテラシ ーのみを駆 使し て生きていると 錯覚している われわれの やっ ていることとさ ほど変わらな いのかもし れな い。 〔主要参考文献 〕 青山和夫 2005 『古代マヤ―石器時代の都市文明―』京 都大学出版部. 小田亮 2003 「越境から、 境界の再領土 化へ:生活の 場での〈顔〉のみえ る想像」杉島敬 志[編]『人 類学的実践の再構築』世界思想社、pp. 297−321. 櫻井三枝子 1998 『祝祭の民族誌―マヤ村落見聞録―』社 団法人全日本学士会. 鈴木裕之 2000 『ストリートの歌―現代アフリカの若者 文化―』世界思想社. 杓谷茂樹 2004 「メキシコ、キンタナ・ロー州における 観光開発の過去・現在・未来」南山大学ラテンア メリカ研究センター『ラテンアメリカの諸相と展 望』行路社. 来住英俊 2006 『目からウロコ、ロザリオの祈り再入門 』女子パウロ会. セルトー・ミシェル・ド 1987 『日常的実践のポイエティーク』国文社 . トムリンソン、ジョン 2000 『グローバリゼーション―文化帝国主義 を超えて―』青土社. 初谷譲次 2005 「マヤ・イメ ージの形成と 消費に関する 歴史学的研究―カネ クの反乱(1761 年)を中心 に―」、 『マヤ・イメージの形成と消費に関する人類学および歴史学的研究』、平成 14∼16 年度科学研究 費補助金 ・基礎研究 B‐1(課題 番 号 14401009)研究報告書、 東北大学、 研究代表者 吉田栄人、pp. 105-131. 2008 「メキシコ、キンタナ・ロー州トゥルム 市マヤ教会の護衛制度と伝統的ノベナ―近代と伝 統の境界線上を生きるという戦術―」、『天理大学 学報』第 219 輯. 2009a 「再領土化される祈り―メキ シコ、キン タナ・ロー州マヤ教 会における日 常的実践―」、 『天理大学学報』第 222 輯. 2009b 『アメリカス世界を 生きるマヤ人―向こ う岸からのメキシコ史―』、天 理大学出版社(む さし書房). 2010 「メキシコ、キンタナ・ロー州マヤ教会 の日常的実践―歴史のなかのトゥルム村と再領土 化されるマヤ語の祈り―」、『天理大学学報』第 225 輯(印刷中). 北條ゆかり 2006 「メキシコにおける先住民族のための開 発政策の変遷―INI から CDI へ―」、 『滋賀大学経 済学部研究年報』Vol.13. 吉田栄人 1998 「宗教的シン クレティズム 研究における 民族的カテゴリー― ユカタン・マヤ の場合―」、 日本ラテンアメリカ学会第 19 回定期大会(神戸大学、1998 年 6 月 6 日)における研究報 告ペーパー. レヴィ・ストロース、クロード 1976 『野生の思考』大橋保夫[訳]、みすず 書房.