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ュー - 建築設備技術者協会
博物館・美術館特集 ミュージアムにおけるマルチメディア 鎌田隆志伊藤好之 TAKAS川KAMATAYOS川YUKIITO (盟鑑等悪業部) (曇 はじめに 近年のIT技術の発展により,博物館・美術館・ S l > > ソニーマ-ケテイング触) 三友放送シス 人文約4,700館,美術1,550館,理工560館,自然 520館,植物200館,動物170館,水族120館,総合 科学館など全てのミュージアムで情報化を余儀な それらの中で,近年に 120館などとなっている)0 新築あるいは全面的な改築を行っていないミュー くされ,いま,博物館などはその転機を迎えてい ジアムの施設が抱える共通の,そして最大の悩み 従来型のミュージアムが抱える問題を解決す る。 るべく,情報システムが導入され,さらには新時 は,展示の陳腐化による入館利用者の減少である。 そのおもな原因として,以下のことが考えられる。 代に向けてのミュージアムのあり方が求められて (1)展示の多くが改変することが難しく,また, いる。 ここでは,おもにミュージアムにおける現在の 改変を想定された構造となっていない。 問題点,情報システムの必要性,そしで晴報シス ト性が低い。 テム導入後の将来の効果などついて考えてみる。 (3)学芸員など,ミュージアムスタッフが陰の また,情報システム導入の具体事例としては,ジ 存在であり,展示と観客との仲立ちをする ョン・レノン・ミュージアムの音楽・映像システ 人的サービスが少ない。 ムを紹介する。 (4)入館者のみに対する自己完結的な展示に終 1. ミュージアムの役割 (2)展示への参加性,体験性,アミューズメン 始し,地域社会における生涯学習施設とし ての市民・教育機関などとの積極的な交流 一般的にミュージアムは,教育や研究,レクリ や,そのための情報発信があまりされずに エーションなどを目的として,文化的,歴史的, 閉鎖的である。 または科学的に意義のある資料や生物などを調査 このような問題点を踏まえ,近年,新たに建築 研究・収集・保存または飼育し,広く一般市民へ されるミュージアムは,地域住民の文化活動の場, 普及させる機関である。 また,利用者側の立場から考えると,展示や体 または街づくりの一環として計画されるケースが 験を通じて,必要な情報をわかりやすく得ること 多い中,最近では,住民(個人)や企業主導の計 ができ,理解を促進する場でもあり,近年はアミ 画が増加している。 中でも情報システムを導入し, ューズメント施設として楽しめるような工夫がさ 館内さらには地域とのネットワーク作りを構築し れているところもある。 ようとしている動きが増えてきている(図-1)。 2. 従来型施設の現状と問題点 3. 情報システムの導入効果と課題 さて,日本におけるミュージアムの現状はどう では,情報システムを導入すると,どのような なっているのだろうか。 効果が期待できるのだろうか。 国内では現在,約8,000館のミュージアムが設 のミュージアムなどが,どのような方法で前記の 立されている(丹青研究所の1999年度の調査では, ような問題点を解決し,生き残り策を模索してい ∫β建築設備士2001・9 増えてきている。 従来の施設は,官主導のものが 従来型そして最新 蝣? 図-1 博物館情報ネットワーク概念図 るのだろうか。 閉館案内など) 既存施設では,個別の施設ごとに情報のデータ ・収蔵資料管理・検索システム ベース化,ネットワークによる情報提供に取り組 んでいる。しかし,開館後に館内の人員体制やシ ・図書資料管理システム ステムを整えることが困難であり,他館とのネッ ・展示映像情報システム トワーク整備や,最新情報を利用者に提供するた 3.インターネットシステム めの更新システムなどの整備が不足しているのが ・HP管理更新システム 現状である。 一方,最新施設や今後の改築・新設計画では, ・メール配信など管理システム 本来情報システムの持ち得る「蓄積・受発信・創 造」という基本システムに加え,それぞれの地域・ 施設ごとの要望や特徴を踏まえた構築が試されて ・研修・体験機能管理システム(工房など) 4.全館ネットワークシステム 4. ミュージアムにおける情報システムの導 入事例 ro* ここで昨年の秋に埼玉県にオープンした「ジョ 通常のミュージアム,特に博物館や美術館で情 ン・レノン・ミュージアム」における情報システ 報システムを導入した場合に考えられるシステム ムの導入事例を具体的に紹介しよう。 ジョン・レノンという世界的なアーチストをテ には,以下のようなものがあげられる。 1.事務管理システム ・来館者大過館・予約管理 ・貸室・資料貸し出し管理システム ーマにしたミュージアムということで,ここには 先進的なシステムが導入されている。 4,1システムの概要 本ミュージアムの最大の特徴は,音楽と映像が ・名簿管理 展示の一部として溶け込み,新たな展示のデザイ ・緊急案内 学芸員支援システム ン・コンテンツとして,ミュージアムで過ごす時 多くの来館 間と空間を構築していることである。 2. ・インフォメーションシステム(イベント案内・ 2001・9・建築設備士59 図-2 BVSシステム概念図(BVS:バーコード・ビデオ. ストリーミングの略) 者が,これらの「ジョンのメッセージ」に期待し レノン・ミュージアム向けにカスタマイズし,使 て訪れるため,画質,音質,耐久性などに高い信 用している(図-2)t 頼性が要求される。 計画時,すでにデジタル化, ネットワーク化などがあらゆる分野でかなり進行 従来,ネットワーク上で映像情報を送出する方 しており,今のブロードバンド時代の幕開けを予 れているが,サーバー部のほか,端末にもパソコ 感させるような技術も実験的には確立されつつあ ンが必要であり,システム・インテグレーション った。 そこで,理想的な展示映像・情報システムとし が複雑になることから,イニシャルコストが掛か 法としてビデオオンデマンド(VOD)が良く知ら て,まず想定されるのは,デジタル化したすべて り過ぎる難点があった。 これに比べBVSシステムは,VODのツリー構造 の情報をセンターのサーバーで一元管理し,ネッ の検索機能をよりシンプルな1階層にすることで トワークを通じて各コーナーに配信する方法であ しかし,運営的には信頼性の確保のほか, った。 イニシャルコストやランニングコストの削減も重 コスト削減を可能にしており,またパッケージ化 により取り扱いやすさと信頼性の確保も実現して 要な要素であったため,現実的には従来のローカ mm. (1BVSシステム ルシステムとネットワークシステムの使い分けを パッケージ化したBVSシステムのおもな特徴 し,コストとのバランスを考えたシステムになっ は,以下の通りである。 ている。ローカルシステムはハードの分散を避け, 送出部を集中化し,ネットワーク化システムとの ①検索方法はバーコードリーダー方式,選択ボタ 融合を図っている。 再生などに対応。 4.2システムの特徴 (彰標準4端末を最高12端末まで増設可能。 システムは,大きく分けて ③画像圧縮方式は,MPEGl/2に対応しファイル ・導入シアターシステム の混在も可能のため,必要により圧縮方式を変 ・4階映像・音響システム ン方式,赤外線センサースタート方式,繰返し えて,ハードディスクを効率よく利用できる。 ④映像記録容量は,MPEG2/6Mbpsの圧縮レー ・5階映像・音響システム トで26時間蓄積可能 の3つで構成されている。 4階と5階の映像送出の中心は,PCベースのビ ⑤端末の運用状況をセンターで確認 デオサーバーシステムBVSシステム)をジョン・ ⑥利用状況のデータ集計が可能 60建築設備士2001・9 図-3 シアターシステム概念図 ⑦リモートメンテナンスに対応可能 スを行い,約10分間隔でシアター-の入場が行わ ⑧端末までは,カテゴリー5で100m延長可能 れるため,ゆったりとした見学ができるようにな ⑨オプションで複数チャンネルの同時頭出が可能。 (フレーム合わせは不可) ⑲オプションでUPSのスケジューラー機能により っている(図-3 上映方法は,あらかじめプログラム化して自動 ジョン・レノン・ミュージアムでは,以上の機 上映する方法と,来館者の混み具合に応じて手動 手動上映の場合で で上映する方法が選択できる。 も,シアター入り口に設置した操作盤でスタート 能特徴を一部カスタマイズし,運用を行っている。 ボタンを押すだけで,調光から上映開始終了まで (2)設計上のコンセプト 自動で行われる。 システム設計上の大きな柱としては,以下のこ シアターの番観は,7分で構成されており, とがあげられる。 ①情報の集中化 100インチ,左右2画面のマルチ映像となっている。 送出映像は,2台の液晶プロジェクターと,2 ②センターデータベースによるスケジュール管理 台のDVDプレーヤーでフレーム同期を取ってス 送出 クリーン上で合成を行っている。 左右連続の大画 ③メンテナンス性の向上 面とマルチ映像で構成し,多彩な演出を行っている。 ④情報のタイムリーな更新 音響は,マルチスピーカーで構成され,現在は ⑤耐久性と信頼性のあるシステム構築など 2チャンネル音響で聴取しているが,コンテンツ 4.3シアタ-システム によってはサラウンドでの送出も可能である。 計時には,音響シミュレーションも行なわれ,与 サーバーの自動起動,終了が可能 ジョン・レノン・ミュージアムは,ジョン・レノ ンの生涯を,時系列に沿った9つの展示ゾーンで 紹介している。このゾーニングは,見学ルートを えられた条件・環境の中で最適な音場となるよう 想定して行われている。 エンディングでは「LOVE」の曲とともに,場 たとえば,導入部のシアターは,入場人員数調 内が明るくなり,来館者はゾーン1へ誘導される。 整の役割とジョン・レノンへの関心を高める重要 同時にゾーン1のBGMも「LOVE」に変わり,シ な役割を持っている。エントランスホールでは, アターと同期させることで自然なつながりを持た 入場に先立ちワイヤレス・マイクによりガイダン せている。 配慮されている。 2001蝣9蝣建築設備士61 設 図-4 4階映像・音響システム概念図 音響機器,DVDプレーヤー,コントローラーな また,サーバーは万一ハードディスクが破損し どは,一括してシアター隣の機器室のラックに収 た場合でも,送出が停止しないようRAIDを構成 納し管理が行われている。 また,プロジェクター しており,データの再構築が可能である。 はクーリング時間の関係で,独自に開館時に合わ リニューアルなど映像の更新を行う場合は,映 せ電源自動切断を行っている。 それ以外は,館全 像をMPEG2でエンコードしたCD-Rにより可 体の電源管理に連動している。 能である。さらに,サーバーにはUPS非常用電 今後,シアターのシステムアップを想定した場 源)が装備されており,停電時のバックアップと 合,現在のDVDから同期運転可能なサーバー方式 スケジューラー機能により,館の運営に合わせ本 (ビデオストアー)も見逃せない。 更新が手軽にできるほか,混み具合に応じて上映 体の起動と終了を自動化している。 今後の技術的可能性として,ブロードバンドネ 時間の違う複数イベントをプログラム化したり, ットワークが整備されると更新もネット上で行う ネットワーク上から更新も可能になる。 ことが可能であり,イベント中継の記録などタイ 4.44階における映像・音響システム ゾーニングは,4階と5階の2フロアにわたっ ムリーな情報の取り込みにも発展できる。 その他の繰返し映像は,半導体メモリーによる て配置されている。 まず,4階におけるシステム メモリースティックプレーヤーから送出する。 について説明する(図-4)0 MPEGl圧縮の映像データをあらかじめメモリー まず,送出部はすべて4階機器室のラックに収 スティックに書込み,プレーヤーに差し込むこと 納し,ネットワークでゾーン1-3の端末に送っ でリピート再生が可能となっている。 gfSE* ティックの書込み可能時間は,64MBの容量で約 映像系はサーバー方式の3系統と,半導体メモ これ 6分可能であり,128MBも開発されている。 らは,ゾーン2「ロックンロール」のキャパンクラ リー方式の3系統となっている。 これは,映像の また,音楽はす メモリース べてMDプレーヤーのリピート再生となっている。 ブ出演映像など小型モニターへのリピート映像に サーバーの2系統は同期を取り,29型テレビ横2 適している。 画面マルチ映像によりビートルズ時代の映像演出 4. 5階における映像・音響システム を行っている。 次に,5階部分の映像・音響システムについて さらに,もう1系統は,40型プラズマディスプ 説明する(図-5)。 レーに送出し,ともにリピート再生となっている。 のラックに収納し,ネットワークでゾーン4-9, サーバーの映像はMPEG2の圧縮方式で行ってお り,高画質が得られる8Mbpsの圧縮レートで記 およびファイナルルームの端末に送っている。 映像系は,サーバー方式の3系統,DVDのセン 録している。 サースタート方式4系統,DVD4チャンネル音声 62建築設備士2001・9 送出部は,すべて5階機器室 i* 7*.." "- 、 Mli-1 -T- ニ - - ・ - . _ "/蝣f那 . . - 1 拝SAW鯨可 : ・轟aat二戸 スピーか- × 2 Llul-'I-ト 5¥*! lトLも1 1和蝣'It' -1こ7 15インチ液晶モニター DVDTV-t一映紛配器 :憲粟 DVDルーヤー 5分リピー摘生(テロップ付) 非常放送用CUT-OFF信号 図-5 5階映像・音響システム 仕様1系統,半導体メモリー方式2系統となって 液晶モニターに繰返し放映されている。 mm. サーバーの3系統映像音声は,ゾーン6「イマ 4チャンネル音声は,スクロール文字に同期し ジン」の150インチ大型プロジェクター始め,ゾ され,周辺8台のマルチスピーカーとモニタース ーン7「ニューヨーク・シティー」,ゾーン9「ハ ピーカーから流れてきて,メッセージ空間の独特 ウス・ハズバンド」で大型高画質の映像が見られ もちろん,サーバーには4階と同様UPS(非 る。 常用電源)を装備し,液晶プロジェクターの電源 の雰囲気を演出している。 ジョン・レノンが語りかける声と詩と音楽だけ 制御も館の運営時間に合わせ自動的に行っている。 「オノ・ヨーコ」氏を始め,4名のインタビュー の「ジョン・レノン」への想いをさらに深く浸透 映像は,DVDのセンサースタート方式で15インチ の液晶モニターで視聴ができる。 ゾーン5「ラブ・アンド・ピース」ではテレビ カメラのファインダー映像として,ゾーン8「失 われた週末」では繰り返し映像として,半導体メ モリー方式を使用しメンテナンスフリーを可能に ゾーン5およびゾーン6は広い空間と している。 なっており3種類の音が混在しているため,「イ ジョン・レノンのメッセージと歌がプログラム化 の真っ白な空間は,来館者の方それぞれにとって させ,自分自身を見つめ直し色をつけていく空間 として,好評を得ている。 ジョン・レノン・ミュージアムを一巡して,音 楽そのものが展示,映像そのものが展示と感じて もらえるだろう。 ハードを感じさせない映像・情 報ネットワークシステム,それはコンテンツなく してはあり得ないともいえる。 4.6保守メンテナンス さて,これだけの音と映像を融合した巨大シス マジン」の演出が待機映像から本編映像に切り替 テムを快適に稼動させるには,保守が必要になっ ると,ほかの音声を自動的に絞るようコントロー てくる。 できるだけ機器を集中管理し,メンテナンス性 ルを行っている。 また,ファイナル・ルームのメッセージ空間に には充分配慮しているが,定期保守整備は,機器 は,DVDによるスクロール文字が3台の20インチ の快適な動作のためには欠かすことはできない。 2001・9・建築設備士63 開館時間中は,連続運転となっているため,年 特に液晶プロ 間動作時間は,約3,000時間となる。 その中でも関心が高まりつつあるのが,館内 る。 外を結ぶ情報ネットワークシステムである(図-6c ジェクターはランプの発熱のため,空冷フアンが 昨年6月に東京で開催された世界水族館会議に 取り付けてある。 さらに防塵フィルターのクリー おいても,未来型水族館セッションにおいて水族 ニングが不可欠であり,1カ月に1回は実施して ランプ寿命は約1,000時間で4カ月ごとの いる。 交換となっている。 館情報ネットワークシステムおよびソフトの採用 また,映像の送出を担うサーバーとメモリース び一般利用客と館を結ぶネットワークの必要性と, ティックプレーヤーは,基本的にほぼメンテナン スフリーとなっている。 DVDプレーヤーは,光学 それらによる水族館の教育施設・自然保護拠点な ピックアップ部のクリーニングと3,000時間ごと なった。 これらの情報面での新システムの採用は,旧来 の交換などが必要となるが,高画質を維持するた についての研究発表がなされ大きな関心を集めた。 そして,会議各部会においても,内外水族館およ どとしての役割の向上への期待が大いなる議論と めに,年ごとの点検整備を実施する計画である。 音楽送出のMDプレーヤーもほぼDVDと同様とな の水族館においても可能であり,21世紀に向けて っている。 4. 7今後の展望 ると考えられる。 現在,水族館に採用されている情報システムお 今日,ブロードバンド・ネットワークのインフ ラが急速に整備されてきている。 従来はコストが 今後我が国の水族館でも加速的にその採用が高ま よびその延長線上にある発展的なシステムの利用 により,従来の水族館にはない以下の活動が可能 課題であったため,クローズの世界でしか快適な となり,全てのミュージアム-応用できるもので 映像を扱えなかったが,今後はリアルタイムでの もある。 (1)観客の時代的惰報希求への対応 必要な情報が 映像情報発信,受信が可能となる。 世界のどこからでも受け取ることができるように 21世紀は,児童から大人までパソコンなどによ なり,情報の発信場所にかかわらず,情報そのも る情報利用がますます盛んになり,ミュージアム のに大きな価値が発生することになる。 たとえば, ジョン・レノン・ミュージアムに行けば,世界各 においても検索可能な情報の提供がより強く求め 地のジョン・レノンに関するイベント,映像情報 られる0 情報システムの採用により,従来型の固定的な が見られる,となれば大きな注目を集めることに 魚名解説板や展示映像のさまざまな一方通行の限 なるだろう。 られた情報提供ではなく,魚名板端末・魚類情報 また,それらの情報の発信権利を持つことによ 検索端末などで興味の対象に応じた幅広い情報の り,ジョン・レノンに関する全ての情報の世界の 検索利用が可能となる。 中心となる。今後ますますコンテンツを持つこと (2)観客への新鮮な情報提供 が施設の存在価値を高める大きな柱になるといえる。 従来の展示映像・音声情報はスタンドアローン 5. 情報システム導入で聞かれる新時代 型独立固定情報であり,館員などによる情報の変 更・追加などが困難であった。 情報システムを導 次に,さまざまなミュージアムの中で集客性が 入することで,制御室CPU卓において情報を随時 高く,かつ運営負担の大きい水族館を例に,情報 蓄積・作成・編集・提供が可能となり,検索可能 システムを導入することによる将来のミュージア な情報量がスタンドアローン型に対して飛躍的に ム像や可能性について考えてみたい。 今日,我が国で今世紀初頭に開館を予定し,新 向上し,展示情報の陳腐化を防ぎ,常に更新可能 築・リニューアル中(設計も含む)の水族館は, に来館リピーター獲得にも貢献できる。 福島県,茨城県,岐阜県,下関市など数館あるが,そ (3)各種データのシステマテイツクな管理と れらの多くが前述の問題点への答えとして観客が 利用 参加体験できる展示手法の採用や,情報性を高め 水族館員の日常的で重要な仕事は,生物の収集・ るさまざまなハード・ソフトの採用を予定してい 飼育・研究である。 飼育生物リスト・各生物デー 64建築設備士2001蝣9 で新鮮な情報提供が可能になる。 これは,結果的 .嵐闇管理傭ギ茂供サー/M ANPO W ER洲 モデル蝣 サ (拍) .ビデオサ】バ‥ GRAN P0 W ER5脚)モデルォ 1台) .ト サl)ング端末:FM V棚 ITX2U台) .映像式魚名恥 よび情報検索端末:FM V胡I66DX2C (35台) M PEGデコーダ▼ 電源制御カード付き (イ ンタ ーわト 検索端末3台を除く32台) 図-6 海洋型ミュージアムシステム構成図 タ・飼育環境データ・研究データなどの整理蓄積 員独自の情報の制作・蓄積・提供が可能となり, などの効率化は,館員の省力化およびデータの効 従来のミュージアムにはない館員・観客のコミュ 果的な利用,より創造的活動への時間の有効利用 ニケーションの向上,館員の展示参加意識の向上 のために必要であり,情報システム導入は,まさ によるモラルアップおよび独自の情報作りによる にそのために必要不可欠な手段である。 かのミュージアムにも共通している。 これはほ (4)観客ガイドシステムへの発展 21世紀に向かい水族館は自然環境に関する生涯 近年,ミュージアムにおいてポータブル音声ガ イド機器の採用(貸出式)が普及しつつある。 来は電子ノートブック機器の小型化やメモリ能力 の向上により,映像音声検索のポータブルガイド 他館との差別化を図ることができる。 (6)インターネットによる情報基地化 学習施設としての役割はますます高まり,単に来 将 館者のみならず,日常的に地域社会の幅広い層に 積極的に情報を発信し,求めに応じて情報を提供 するなど,"問か. れた水族館としての機能"が必 システムの普及も予測され,その利用効果が期待 情報システムを利用すれば,ポータブル される。 要となる。 端末-の情報提供も可能である。 る情報システムの導入は,館のホームページ開設 (5)館員・観客のコミュニケーション向上と に始まり,パソコンネットワークを利用した友の 館員のモラルアップ 会,国内外ミュージアム情報収集機能を利用した 従来の水族館では,館員は展示生物の維持管理 さまざまな情報提供,ボランティアネットワーク, が主な業務であり,観客との直接交流は少なかっ 学校教育との連携,生涯学習活動の場としての利 また,さまざまなミュージアムに共通してい た。 えることだが,各種展示物・展示情報においても 用促進など,市民への開かれたミュージアムとし ての幅広い活動が可能になる。 その結果,将来, 自らの手作りによる提供は行われず,館員はあく ミュージアムが陳腐化せず,地域社会に根ざした まで陰の存在だった。情報システム導入により館 息の長い集客施設として機能することになると思 水族館を始めとした全てのミュージアムにおけ 2001蝣9・建築設備士65 われる。 本来,マルチメディア化された情報システムの (7)国内外水族館との交流 もち得る「蓄積・受発信・創造」という基本シス 昨年の世界水族館会議のテーマは,グローバル テムに加え,地域・施設ごとの要望や特徴,運営 チャレンジ「共生・水の惑星」であり,その意図 サポート機能,使い勝手など,さまざまなソフト するところは,21世紀に向かって人類共通のテー コンテンツ面を充分考慮したシステムこそ,それ マである「地球環境共生」に対して水族館がいか ぞれのミュージアムにおける個性を生かしたソフ なる役割を今後果たしていくかであった。 情報システムの採用により,ミュージアムは, トハード一体型の理想的な情報システムといえよ 今後そのような新時代に遅れをとることなく,む う。 (平成13年7月7日原稿受理) しろ積極的に独自の情報を発信し,国内外施設と の交流を深め,社会的役割を高めることが可能と なる。 -7ij-7,・-Iこ. おわりに 鎌田隆志(かまた・たかし) このように,ミュージアムにおける情報システ ㈱丹青社公共空間事業部公共空間1部2課 ムを始めとしたマルチメディアは,最新技術を次 課長/1965年東京都生まれ/学習院大学経済 々に応用していくことで,今後のミュージアムに 学部経営学科卒業/博物館・美術館・科学館 おけるさらなる可能性を引き出すものといえる0 などにおける計画∼設計∼施工のマネジメン このシステムを活かしていくには,単にハードと トサポートに携わる。 担当案件「ジョン・レ してのシステムではなく,それぞれのミュージア ノン・ミュージアム」「日本新聞博物館」「日 従来から, ムのあり方を考慮していく必要がある。 資料(モノ)に加え,地域文化(コト)や先達の 本科学未来館」ほか。 軌跡(ヒト)などを研究・紹介することが多いミ 伊藤好之(いとう・よしゆき) ュージアム相当施設では,ソフト情報の保存・整 三友㈱放送システムネットワーク営業本部 理・検索活用・展示について,その内容や来館者 課長/1945年埼玉県生まれ/芝浦工業大学電 の要望に応じたコンテンツ開発と内容にマッチし 換言す た使いやすいシステムが求められている。 子工学科卒業/ソニーマーケテイング在籍中 れば,ソフトコンテンツによってそれぞれのシス 報システムの設計・施工に携わる。 《プロフィール》 「ジョン・レノン・ミュージアム」における情 テムが構築されるということになる。 ◇ ◇ ◇ 66 建築設備士 2001蝣9 ◇ ◇ ◇