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ワシントン周辺の産業動向について - Sunrock Institute
平成 11 年度 アメリカ合衆国 経済報告 「ワシントン周辺の産業動向について」 ワシントン 多 田 幸 雄 平成 11 年 9 月 30 日 【 目 次 】 (1)最近の米国経済・社会事情 (2)米国の首都ワシントンと「大ワシントン圏」の説明 ①Greater Washington Initiative / Greater Washington Board of Trade ―NHK ビデオ ②最低の失業率 ―テク産業の雇用人口連邦政府のそれに迫る ―Help Wanted ③建築ブーム ―オフィスパーク(住宅建設全米をリード ④金融事情 ―女性による女性のためのヴェンチャー・キャピタル・ファンド ワシントン DC に誕生 (3)GWI 理事長で地元大手銀行頭取の Mr. Peter F. Nostrand 氏に聞く (4) GWI 初代理事長で企業育成コンサルタントの Jack Mclean 氏に聞く (5) GWBT 理事長でハイテク企業会長の Mr. Clifford M. Kendall 氏に聞く。 (6) ワシントン周辺の成長産業その1 ARINC (Aerospace) 省略 (7) ワシントン周辺の成長産業その2 Human Genome (Biotech) 省略 2 (1)最近の米国経済・社会事情 9月 18 日付けの日本経済新聞一面「日米2つの実像/亀裂と補完」という特集で日本企 業が米国企業の補完役を演じるのは日常的であるという内容が紹介されていた。NTT や ソニーの具体例から、米国の首都『ワシントンに隣接するバージニア北部。通信やインタ ーネット関連のベンチャー企業が、続々と誕生しているこの地域は「日米技術同盟の展示 場」といえる。米ベンチャー企業の多くは最先端技術や基本技術の開発に走り過ぎ、それ を消費者に役立つ商品にする技術は未熟である。以前ならばそのせいで消えたかもしれな いベンチャーが日本企業と組んで成功、新たな競争を雇用を生んでいる。』という前向き な記述である。 冒頭から長々と引用したが、筆者は昨年からワシントンに滞在しておりワシントンは今回 が 2 度目である。前回は 1989 年から 90 年にかけてで、丁度、景気後退期にあった国内 経済を立て直すために、米国政府が規制緩和を推進し企業も必死にリストラを行っていた 時期であった。また国際環境でも冷戦体制が崩壊して、イデオロギーの対立から拡大した 自由市場での大競争時代を迎えつつあった。WTO、NAFTA といった新しい国際経済の 枠組みが合意されたのはその数年後である。そして情報通信革命が静かに進行していた。 7 年ぶりに戻ってきた感想は、好調な米国経済を象徴するようにこの街周辺も 89 年後半 から大きく変容し、従来の米国政治及び世界政治の中心という伝統的な役割に加えて、健 康・医療機器、コンピューター、通信技術、生化学などハイテク関連で世界的な新事業創 設の場になりつつあるということである。上記の日経記事の記述はそうした流れが定着し、 新しい日米経済関係も芽生えてきている好例といえよう。アジア、旧ソ連、ラ米地域とい ったエマージングマーケットに経済危機懸念があるなか、米国という世界最大の自由市場 でとりわけ、外国大手企業だけでなく中小企業にも参入可能な成長分野がここワシントン 周辺には見られる。この急激に開けてきたビジネス機会を(当社・在大阪企業)がどのよ うに取り込んでいけばいいか、その概況と問題点について以下報告したい。 (はじめに) 80 年代後半は米国政府が大胆な規制緩和を推進し、企業も必死にダウンサイジング、ア ウトソーシングそして業種転換すら厭わない大リストラを行っていた時期であった。その 過程を経て米国がどのように再生し、90 年代の経済好調を維持しているのか、元 USTR・ 農務長官のクレイトン・ヤイター氏が推薦された講演録『米国の強み』を初めにご紹介し たい。 英語タイトル The American Advantage 3 講演者 (Allied Signal 社会長兼 CEO Lawrence A. Bossidy 氏) 【要旨】 現在米国の景気は失業率 5%未満、インフレ上昇率 2.2%、経済成長率 3.6%と快進撃を 目続けている。基幹産業である米製造業が国際競争力を失い、日本に追い越されるたかに 見えていたのはつい 10 年程前である。日本が安い労働力を求めて海外へ工場を移転し国 内は空洞化し、欧州では福祉政策の結果労働コストが世界最高となり、投資資金が海外へ流 れて行く間に、米国は①品質の向上②顧客優先③全社員一丸となったチームワーク④欠陥 品比率の低下⑤構造改革により非能率部門の削減⑥組織改革等を実施し、世界一の生産性 を回復するに至った。欧州・日本がそれぞれの問題を解決し、戦列に復帰した後も,果た してこの好景気は続くだろうか?また開発途上国が米国製品の輸入を永久に続けるとは 考えられない。そうなった場合米国の将来はどうなるだろうか?その答えとして以下、米 国の強さを上げたい。 ①創造性(creative thinking) ②移民の混合体(melting pot society of immigrants) ③テクノロジー志向(物質的)(fascination with technology) ④窮地に陥った場合の柔軟性(ingenuity or resourcefulness and determination to circumvent setbacks) ⑤短期間に富を獲得できる仕組み(get-rich-quick schemes) ⑥自由放任主義(laissez faire) これらの特性は、外国がまねのできない米国固有の特性であり、マイナス面もあるが、経 済成長にとってはすべてプラスに働く要因である。しかしこの強さを持ってしても、なお 景気が阻害される可能性は残されている。その主な要因として①財政赤字②経済に配慮し ない環境規制③労使紛争等が考えられる。産業構造の再構築、企業のダウンサイジングは市場 の変化に従い労働コストと労働力を管理する企業努力の一端であるが、その結果 UPS ストに見 られたような賃金格差を生じさせては労使の信頼関係が薄れるもとになる。従業員側から 見れば職はますます不安定となっている。失業率は史上最低であっても希望する職へ就き、 希望する報酬を得ているとは限らない。そのような環境で従業員にやる気を出させるには 職を価値あるものにする必要がある。当社では ①他社より高い給与、 ②部下から恐れら れるのではなく、尊敬される管理者になるような管理者教育、 ③可能な限り従業員のラ イフスタイルに沿った職場環境造り、 ④福利厚生資金の多様化、⑤持ち株制度などを実 施している。とりわけ自社株所有制度と“金銭的”安定は、終身雇用による“職”の安定 4 に代わる最善の方法である。 (2)米国の首都ワシントンと「大ワシントン圏」の説明 大ワシントン圏とは? (NHK 番組ビデオ要点) 大ワシントン圏 ―規制緩和の成功例を米国に見るー アメリカでは、自由でフェアな競争の下で、政府は規制をせず、逆にベンチャー企業を 後押しするから、マイクロソフト社のビル・ゲイツ氏のように、アイデアと努力次第で億 万長者にもなれる。その良い例がワシントン特別区(DC),ヴァージニア州北部、メリー ランド州の一部で構成される大ワシントン圏にある。 昨年 9 月、東芝と IBM は合弁によりヴァージニア州マナサスに64Mb.DRAM専用の 半導体工場を建設した。ヴァージニア州はこの 12 億ドル(1600億円)、1200 人の雇 用を創出する事業の誘致に成功した。その背後には地元の大きな協力があった。マナサス には南北戦争時代の交通の要所という史跡以外、さしたる産業は無かった。10 年程前、 企業誘致のアイデアが生れ、地元商工会による手厚い協力により、それが現実のものとな った。地元政府は不動産税の減税措置、工業団地の造成、マナサス空港の滑走路の一部を 企業自家用飛行機に開放する措置等で後押しした。 大ワシントン圏はもはや米国の首都というだけではない。成長の著しいハイテク企業の 集まるこの地域を、カリフォルニア州(西)のシリコンバレーに比し、東のシリコンバレ ーと呼ぶ人もある。 GWI (Greater Washington Initiative)は、大ワシントン圏を政治の町からハイテク地域 へ変えた仕掛け人集団である。半官半民(70%地元企業、30%地方自治体)のこの組織は、 1000 万ドルを投資し、今世紀中にこの地域をハイテク地域に変えようと狙っている。 同地域売り込みのセールスポイントは、 ①25 歳以上で大卒以上の学歴を持つ人口の比率 が全米一である②科学技術系の技術者が 14 万人と比率が高い③政治の町の利点もある。 政府に勤める高技能ワーカーはハイテク企業にとって人材供給源であると同時に、ハイテ ク製品の潜在的バイヤーでもある。 シリコンバレーは先端技術の集積地として有名だが、大ワシントン圏の方が優秀な部門 もある。インターネット産業はその成功例である。インターネット接続会社大手の AOL は 16 億ドル(2000 億円)の売上げを上げ、株価は 6 年前の 25 倍に上昇した。 インターネット関連企業の半数が同地域に本拠を構え、インターネット通信の半数以上が 5 この地域を通過し、ここは世界のインターネット市場の中心地である。 インターネット は 20 年前に政府の予算で育成されたが、今では政府規制も無く、完全に商業化されてい る。 地元商工会議所の主催する起業セミナーには多くの若い技術者が集まる。ハイテク産業 はアメリカンドリームを実現する近道なのである。 マシュー・ビテンスキーさんは、半年前、大学の友人と 2 人でパソコンソフトウエアの 会社を始めた。教育関係のデータを検索するソフトの開発事業である。オフィスはタウン ハウスの一室。最近プログラマーを 6 人に増やし、今年は 60 面ドルの利益を見込んでいる。 将来は会社を経営しながら、学校の先生になることが夢である。「アメリカでは失敗して も誰も責めたりしない。だから失敗しても逃げたりしないで、経験を生かし、あらたな事 に挑戦できる」のだ。 現在、米国の情報通信関連産業は、GDP の2%を越える。10%を越えたのは軍需産 業しかないと言われるから、情報関連産業の比率がいかに高いかが分かる。 2 年前に 60 年ぶりに放送・通信分野の規制緩和が行われ、マルチメデイアの本格的発展 の基礎作りができた。それによって 70 年代の規制緩和の流れが加速されたことが現在の 米国の強みである。 ●低失業率とハイテク人口 全米の失業率は 4%台の半ばと低率を誇っているが、大ワシントン圏のそれは更に低く、 約 3%と驚異的な低さである。とりわけ情報技術関連の雇用の伸び率が激しい。最近行わ れた Potomac Knowledgeway による調査結果では、同地区の電気通信、インターネット 関連企業の年間総売上げは900億ドル(全米合計の10%強に相当)に上っており、 大 ワシントン圏が technology powerhouse となったことが分かる。更に、同分野の雇用人口 は 328,000 人と、長年首都ワシントンの経済基盤とされていた連邦政府の地元雇用数 340,000 に迫る勢いだ。この 328,000 人の内訳は、Systems Integration/Computing 224,000 人、 Communications 70,000 人、 Content Providers 33,00 人だが、全米の同 分野雇用数の 11%に当たる。大ワシントン圏全体の雇用数は全米の 2%だから、この分野 がいかに急成長を遂げているかが分かる。(WP 9/14/98) 1997 年度、大ワシントン圏では 40,000 人の雇用が創出されたが、その内の 4 分の 1 が テクノロジー関連であった。このように需要は急激に増えたが、需要は僅か1割しか満た されなかった。テクノロジー関係全体では 25,000 人の雇用(金額にして10億ドルの労働 収入)が満たされいない勘定だ。そこで雇用者側は、鐘や太鼓ならぬ、アメ、服、ボーナ ス、ヘリコプターツアーなど有りとあらゆる手段をもって人集めに必至の状況だ。 6 (WP8/3/98) この状況に地方自治体も協力を惜しまない。Fairfax County は 600 万ドルを掛け、本年 6 月 22~24 日、同 County 内の George Mason University を会場として、”1998 World Congress on Information Technology”を開催した。この情報技術世界大会には 93 カ国か ら 1,700 人の参加者があり、情報交換、取り引きが行われた。(WP 6/23/98) ●建築ブーム 住宅建設 ハイテク産業の急成長を反映して、ワシントン地域の住宅建設の伸びも急速である。米 Census Bureau によると、1990~1997年のワシントン・ボルチモア地域における 住宅許可件数は 330,000 件に上り、ロサンゼルス、フェニックス等急成長の都市をも凌い でいる。その中でも、最近では Loundon, Calvert,, Prince William 等大ワシントン圏の中 心から更に離れた、市・カウンテイでの伸び率が特に著しい。(WP 7/24/98) オフィス建設 『 ハイテク起業家、ヴァージニア州にオフィス・パークを建設』(WP 8/7/98) Richard L. Adams 氏は地元のインターネット産業でも最も成功した UUNet Technologies Inc.の創立者だ。インターネットについて、誰よりも早くその将来性を見通 し、Fairfax County の自宅で事業を起こし、急成長を遂げた後、大きな会社に売却した。 UUNet は電気通信分野の巨人に成長し、現在は、地元の MCI Communications Corp の 買収を計画している WorldCom Inc が所有している。. 同氏はインターネット事業で得た資金をもって、今度は活性化したオフィスビル開発事 業に乗り出した。ちなみに北部ヴァージニア州では現在数10軒のオフィスタワーが建設 途上 若しくはほぼ完成の状況である。同氏は新たな事業でも、急成長を遂げたハイテ ク企業の元 CEO としての経験をハイテクオフィスビルのデザインに生かしている。 オフィスタワー建設予定地は、ベルトウェイとルート50に最寄りのオフィス団地であ る Fairfax Park の中に残っていた111エーカーすべてを、昨年地元不動産会社 Fairview Property Investments とのパートナーシップにより取得している。ここに 10 軒のビルが建設される予定だ。実現すれば、200 万 sq フィート、4,000~5,000 人を収用 できるオフィス・スペースとなる。 青写真では、オフィススペース以外に、会議センター、高級フランス料理店、ヘルスク ラブが建設予定となっている。Adams 氏は、レストラン、デイケア・センターを擁する 周辺の低層小売店舗ビルから建設を開始したいと考えている。 7 オフィスビル設計は、Boggs & Parners(アナポリスの建築会社)と Bohlin, Cywinski, Joackson of Philadelphia(パートナーの一人 Peter Bohlin はビル・ゲイツの6000万 ドル、20,000sq フィートの豪邸の設計者の一人)が担当し、Fairview Park オフ 2941 Fairview Park Dr. ィス・ビル開発責任者はOrr Cos.である。最初のオフィスビルは、 in the Fairview Park office park に、11 月着工、15 階建て、350,000sq フィート、Fairfax County の中では最高の高層ビルとなる予定だ。現在見込みテナント 3 社と交渉中、建設 開始前にテナント契約の多くが決まる見通しという。 金融事情 女性による女性のためのヴェンチャー・キャピタル・ファンドが誕生 急成長を遂げるここ大ワシントン圏では、地元の大手銀行 Riggs National Corp., First Virginia Banks をはじめ、全米から数多くの大手銀行が投資の機会を狙って進出しており、 金余りの状況の中、熾烈な競争が繰り広げられている。 起業家にとって有利な状況になったとは言え、女性の起業家にとってまだまだ障害は高 い。その障害を自分達で乗り越えようと、Patricia Abramson は800万ドルの基金で、 女性だけで経営する女性のためのヴェンチャー・キャピタル・ファンド、Woman’s Growth CapitalFund を誕生させた。女性経営のヴェンチャー・キャピタル・ファンドとしては全 米一だ。これまでに、McLean の Women’s Connection on Line とマサチュセッツ州の Physicians Quality Care が融資を受けている。今年 6 月には米中小企業庁による 2000 万ドルの融資が認められ、将来の女性起業家への融資に大きく道が開けた。 (3)GWI 理事長で地元大手銀行頭取の Mr. Peter F. Nostrand に聞く First Union, Citibank、Riggs Bank 等が軒を連ねる銀行街のビルの5階がオフィス。 ホワイトハウスを見下ろす角部屋。直下を大統領就任パレードが見下ろせる絶好のロケー ション。銀行街でも最高層ビル。 フランスの高等政治大学院(L'Ecole Science Politiques)に留学。夫人ともパリで巡り合 い結婚した。芸術の街パリは大好きだが、不潔なので、そこで就職して住むきにはなれな い。元ブルッキングズ研究所所長ブルース・マックローリー氏とも同時期フランス留学し、 面識がある。同行したスタッフ Pendleton の名をヴァージニア名とすぐに指摘。(スタッ フの夫の Edmund Pendleton の先祖はヴァージニア州の独立宣言を起草した法律家で、 米国初代大統領ジョージ・ワシントンから初代司法長官への要請があったが、断ってい る。)元パートナーの一人が同じく Edmund Pendleton の子孫だったという。 8 GWI 民間と 19 の地方自治体とのパートナーシップにより、目標分野のそれぞれのアセットを 大ワシントン圏に売り込むことを目的とする。大ワシントン圏は、世界最大の民主主義国 の首都と言う事実に隠れ、まだ認知されていないが、ワールドクラスのビジネスセンター になりつつある。世界には数千年の歴史を持つ古いビジネスセンターがあるが、米国の歴 史は僅か 200 年。それでも現在、ニューヨーク、フィラデルフィア、ロサンゼルス、シカ ゴ等は世界のビジネスセンターに成長した。ニューヨークが 20 世紀の金融・ビジネスセ ンターとすれば、大ワシントン圏は 21 世紀の金融・ビジネスセンターとなることは間違 いない。この動きは早ければ早いほど当地域のビジネスに有益であるとの認識に基づき、 それを加速させるための活動を行うために GWI が組織された。 大ワシントン圏 当地で成長著しい、コミュニケーション、生化学、航空・宇宙の3分野は元はと言えば、 それぞれ DOD, NIH, NASA と、連邦政府の後押しで民間部門が成長したが、今では政府 依存度がどんどん軽減している。 その他、大ワシントン圏の利点としては、テクノロジーばかりでなく、 大学数 95、2800以上の研究施設、477の政府研究所 全米一の大学卒人口、 質の高い連邦政府ワーカー 巨大な博物館群、劇場等文化施設 緑豊な環境 等と、種々魅力が備わっている。 ワシントン特別区は犯罪が多いかのように報道されるが、実際の犯罪発生率は報道される よりは低い。当地は米国の首都であるため、世界中のマスコミが支社を置いており、成り 行きとして、記者が住む地元の記事はニュースとして誇張されて伝わることが多いためで ある。(ちなみに同氏はナショナル・プレス・クラブのメンバーで、この点でも多田店長 との共通点があった。)不評であったマリオン・バリー市長が再出馬を断念したため、新 しい市長が生れることになり(予備選では民主党から Chief Financial Officer として DC の財政立て直しに成功した Anthony Williams が選ばれている)、DC の環境も改善され ることが期待される。大ワシントン圏は world class の都市であり、徐々にそれが認知さ れてきている。政府のみならず、民間人にとっても、質の高い文化、教育、人の集まった 都市、Small Paris, コスモポリタン都市である。 大ワシントン圏は21世紀の金融センター 21世紀に金融センターになり得る兆しとして、既に米国の主要銀行がセンターとしての 機能を当地区に置き(Nations Bank,First Union,Citibank,Crestar Bank, etc.)、 9 投資の機会を狙っている。確かに、現在株式市場はニューヨークが中心であるが、物理的 な取り引きのフロアーがニューヨークにあるということに過ぎない。株式市場は取り引き の手段であって、ウオールストリートは20世紀の手段。21世紀にはインターネットが ウオールストリートに取って代わり、当地が株式市場でも中心地となり得る。 大ワシントン圏におけるビジネス上の障害 法律的な問題はないが、DC, ヴァージニア州、メリーランド州をリンクさせようとすると、 政治的問題が発生する可能性はある。選挙区が、州、カウンテイで線引きされているため、 政治家は自分の選挙区に利するように動き、大ワシントン圏全体の利益のために動く仕組 みではないため。 Financial Assistance の状況 日本企業が当地域に進出する場合の融資は、もちろんリスクにもよるが、可能性は大いに あるだろう。2種類(①資本参加②単なる貸し付け)の可能性があるが、①の資本参加の 場合は、新規ビジネスに参加したがっている金融機関は沢山あり、リスク条件次第。 Subordinated debt としてパートナーへの融資が可能だろう。②の伝統的な貸し付けにつ いては、通常通りの条件審査によって決まる。 日本企業の100%子会社の場合は親会社親会社の状態を判断基準とする。日本企業が一 部所有の会社であれば、equity 参加でなくとも、担保がない場合、親会社が損失を計上し ておれば、貸し付けは行われない。資本金が充分にあり、長年信用度の高い会社であれば 問題ない。当地の金融事情は liquidity 過剰で、金余り状態にある。債権も積まれたまま、 民間ビジネスへの投資が待たれる状況。当地で外国企業の数は急速に伸びているが、ほと んどの企業は海外の親会社から融資を受けており、当地の支店は柔軟性に乏しく、地元の 金融機関はビジネスの機会に恵まれず、残念だ。 雇用状況 現在大ワシントン圏の失業率は約1%だが、一時的な現象だろう。 1990年には年間35,000の技術者の雇用が必要であった。2000年のコンピュ ーター問題のため、98~99年にかけて、60,000~70,000人が必要とされ、 現在その分野の技術者が大きく不足している。2000年問題が解決した後は、優秀な技 術者が大量に余ることになろう。 米国経済をどう見る? 経済成長他ファンダメンタルズは以前よりずっと良くなっている。株式市場は揺れている が、ロシア、ブラジル等外の市場が不振なため、米国市場にも影響が及んでいる。今日、 世界経済はリンクしており、一緒に動いている。 10 2000年問題で不測の事態(unknown impact)が発生しない限り、米国経済は今後1 0年間繁栄を続けるだろう。2000年問題は解決できなければ、世界の金融界の金の動 きが停止してしまう大問題。戦争準備に匹敵する巨額の資金を解決のために注入している。 米政府は心配すれど無策。 11 (4) GWI 初代理事長で企業育成コンサルタントの Mr.Jack McLean に聞く 同氏の事務所について 1997 年、GWI を辞職して以来、起業家として、現在は Old Town Alexandria 在の広告 代理店 Williams & Whitter の1部屋を間借りしている。 この建物は 1773 年に建設され、米国初代大統領ジョージ・ワシントンの教会として知ら れる Christ Church の牧師館として 1783 年に建設された歴史的建物で、1950 年から法 律事務所として使われた後、1983 年から現在の広告代理店が事務所として使用している。 Old Town Alexandria は、200 年前米国第 3 位の大きな港町として栄えた。ジョージタウ ン港は Alexandria より早く開かれたが、大型化した船舶の需要に合わず衰退した。十数 年前、Alexandria の市を上げての再建運動の甲斐があって、今では、その同市の繁栄ぶ りはジョージタウンを凌ぐ勢いである。 GWI の成果について GWブランド化のプロセス (1)北部ヴァージニア、メリーランド、DCを商品化するとして、商品の属性決定。 ① 高学歴人口の集中 ② 交通の便(3 国際空港他) ③ 快適な住環境 ④ 連邦政府の首都 (2)米国内でビジネスにとって最も魅力的な土地 ①シリコンバレー ②ボストン ③ニューヨーク これらの土地の属性をGWに重ね合わせた。 (3)世界中でビジネスにとって尤も魅力的な土地 ① カナダ ② 西欧、特にドイツ ③ 日本 GWI での成果について 活動した 4 年間の内、最初の 1994 年と 1995 年はリサーチとブランド作成に掛かったの で、実質 2 年間とマーケテイング期間は短期間だった。日本は人が財産で人間関係を重視 する商習慣があるため、開始までとりわけ時間がかかるが、米国と異なり、GWI をやめ 12 てもそれで終わりということなく、関係が続く。そろそろ成果が見え始めてきた。 当初日本での障害は GW の認知度。ハイテクはシリコンバレーとの認識が定着しており、 いくらGWのメリットを説明してもなかなか信じてくれない。皆、2 番手になりたがり、 先頭を切る人がいなかった。マナサスに IBM と東芝のチップ工場が建設された事と三菱 が AOL と提携した事で、漸く突破口が開かれた。 最近の世界経済と GW のビジネスについて 世界的経済の沈滞を受け、マスコミの報道にも変化が見られる。ビル/モニカからビジネ スに比重が移ってきた。ビジネスも一昔前はホテルビジネス等が主流だったが、今ではハ イテクに移っている。10 年前のように、不況から脱出しようとする時期にはビジネスで あればなんでも良かったが、今日、GWの高学歴人材は慎重に職を選択している。 会社設立の動機について 1994 年から 4 年間、非営利組織の GWI で体験したマーケテイング手法をビジネスとして 生かしたいと考え、会社を設立した。即ち、GW をブランド化したように、起業家の夢を ブランド化(emerging brand)して、商品のようにマーケテイングする。1997 年 12 月 の設立当時はクライアントの数はゼロ。その見込みすらなかったが、現在は 3 社に増えた。 この種のビジネスでは、創立後 1 年間はクライアント無しというのが相場だが、9 ヶ月で 3 社は上出来と言える。 目標達成のステップ ステップー1: 問題点の理解 “過去に辿ってきた道ではなく、これから向かおうとする方向へ先行する。” ―Wayne Gretzky― ステップー2: 資源の開発 “自分のばかりではなく、借用できる頭脳はすべて活用する。” ―Woodrow Wilson― ステップー3: 問題の解決実行 潜在的 Emerging Brands の対象分野 ① テクノロジー ② 日本: 広大な機会があることと、日本人が好きなため 日本との関係について * 父親が第 2 次対戦後ジョン・ロックフェラーの下で日本再建の活動を行って いた関係で日本で育った。 13 * 父親が国際文化会館創立者の一人であった関係で、同館館長の松本家の家族 とは親しい関係。 GWの進む方向について 単純化して言えば、シリコンバレーは主として情報通信産業のボックス(入れ物)を製造 する場所。GWは DOD が開発の口火を切ったネットワーク・ソフトが主力。つまり応用・ 製造が得意な日本人にとって苦手の分野である。政府との関係は今後も続くであろうし、 その間の穴を埋める役割として同社は適任では? ――現状認識は正しいが、その先が間違い。 今後はバイオと情報通信技術の統合が目玉となる。 (5) GWBT 理事長でハイテク企業会長の Mr. Clifford M. Kendall に聞く BOT 会長として 前任者の時代、大ワシントン圏は、連邦政府の閉鎖、DC市長の問題等不安定な時期を過 ごしたが、私が引き継いだ本年はすべてが前向きに進んでいる。例えば、①Ronald Reagan Building and International Trade Center オープン(5 月初) ②International World Technology Conference(??)では世界中から最先端技術分野のリーダーが集まり、世界の架 け橋の役割を果たせた。 大ワシントン圏のメリーランド州、ヴァージニア州にはそれぞれハイテク企業が集中して いるが、角突き合わせて競争するのではなく、教育、ビジネス、政治の分野で協力態勢を 敷き、共通の問題に対処する体勢を整えた。共同して労働環境を整えることで、技術労働 者の流入を促進できるし、また、共同してロビー活動を行うことにより、投資家が入り易 い法規制を整えることができる。DC の環境も上向きになってきた。財政状況が向上して おり、今年は新たな市長が選出される予定であり、大学との協力も緊密である。 個人の例として 同氏はメリーランド州、モンゴメリー・カウンテイで育ち、大学もジョージ・ワシントン 大学に行った、生っ粋のワシントニアン。1968 年に 4 人で情報ビジネスを始めて以来、 従業員4000人の会社に育った。昨年 8000 人の会社と合併し、今では 13,000 人の会社 になった。このように僅か 30 年で大躍進が遂げられるのは、大ワシントン圏が起業家に とって成長し易い環境を作っているからだ。従い、モンゴメリー・カウンテイと北部ヴァ ージニアは情報・通信、生化学、インターネット産業が集積している。特に北部ヴァージ ニアには、今をときめくインターネット産業が集中しており、世界で最も高いインターネ ット交通量を誇っている。インターネットはビジネスのやり方を大きく変えた。その最先 14 端のインターネットビジネスは、投資家にとって最も魅力ある投資先として、資金が流入 を続けている。(①エンジェル②IPO 両方共に) 同氏は今年 67 歳で、間もなく CDSI 会長を引退する。家族の面倒をみる十分な財産はあ るが、(まだ極秘だが)引退後、余生の楽しみとして、インターネットを使った新ビジネ スを始める計画だ。若者の国アメリカだが、起業は若者だけの特権ではない。 現在の世界的不況が同地区に与える影響について 国内向けサービスを行う企業はさほど影響を受けていないが、海外向けサービスを行う企 業(Comsat?, AOL 等)は公開市場での資金調達にネガテイブな影響があり、企業の成長 率も低下しよう。 大ワシントン圏の失業率は全国平均(4.5%)より低い。その結果、同地区は全米でも最 低の貧困者人口を誇るが、問題は雇用の機会と人材の能力。より一層能力のある人材、よ り多くの雇用機会が必要である。そのため、その人材を養成する大学との関係が重要とな ってくる。今年からメリーランド州では、同州内の大学で情報関連科目を選考する学生に 州政府のローンの機会が設けられた。 大ワシントン圏の競争相手について シリコンバレー、ボストンが、考えられるが、分野が異なっており、実際には競争相手と は言えない。 シリコンバレー:チップ、ハートウエア、ソフトウエア ボストン: ハードウエア、エンジニアリング 大ワシントン圏:ソフトウエア、国防省から生れたインターネット、生化学 大ワシントン圏は競争を懸念せず、むしろ同地域の持っている強みを生かし、テクノロジ ーに利用する。連邦政府及び世銀、IMF 等の国際機関が地元にあることも中読みの一つ。, 国際金融機関については、常にビジネス機会を求めてコンタクトする必要がなくとも、海 外のビジネスでの紛争の場合、地元に世銀があるため、その見解を気軽に聞くことができ、 対策が容易になるというメリットもある。 日本のビジネスマンが大ワシントン圏に進出したい場合、 まず、GWBOT と連絡をとること。次に、①潜在顧客②必要な技術③資金調達の目処と、 ごく普通のことをきちんと行うこと。 15