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栄養教育に利用できるカルシウム摂取量の推定に関する研究

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栄養教育に利用できるカルシウム摂取量の推定に関する研究
山梨医大誌11(1),9∼13,1996
栄養教育に利用できるカルシウム摂取量の推定に関する研究
宮村季浩・浅香昭雄
山梨医科大学保健学H講座
抄録:骨粗懸症の予防には,食品から十分:量のカルシウムを摂取する必要がある。しかし,日本
人のカルシウム摂取量は栄養所要量に達しておらず,ここ数十年間ほとんど変化していない。カル
シウム摂取量を増加させるための栄養教育上,個々のカルシウム摂取量の把握が重要である。とく
に,臨床の場での栄養教育では簡便な栄養調査法が必要とされている。
本研究では,従来の定性的な摂取頻度法に,「1日の牛乳摂取量」という定量的な調査を加えた
質問紙票によるカルシウム摂取量の推定についての検討を行った。その結果,1994年の食品群の摂
取頻度と1日の牛乳摂取量を聞く質問紙票および3日間の秤量記録法の調査結果から求めたカルシ
ウム摂取量予測式に,1992年の質問紙票の結果を代入して求めた予測値と,1992年の秤量記録法に
よる摂取量との問に有意な相関関係が認められ,その有効性が証明された。食晶群の摂取頻度と1
日の牛乳摂取量を聞く質問紙票は,カルシウム摂取量の増加を目的とした栄養指導上の動機付けの
ための一つの資料として利用するには十分な精度があると評価できる。
キーワード 栄養調査,栄養教育,骨粗塗症,カルシウム
食事調査法にはいくつかあるが2)3>,簡便性を
求めると栄養素摂取量の算出の精度が悪くなる
緒 言
傾向がある。一方で,比較的精度の良い栄養調
査法として国民栄養調査にも用いられている秤
骨弓懸症や高血圧,糖尿病などの予防に対す
量記録法は,被験者自身が摂取する食物をすべ
る栄養教育の重要性は各分野から指摘されてい
て秤量して記録するもので非常に手間のかかる
る。豊:かな時代を反映して日本人の食生活は,
調査となる4)。
ほとんどの栄養素の摂取量が厚生省の示す栄養
食物摂取頻度法は一般に食物リストとして単
所要量を上回るようになってきた。その申で,
骨粗懸症予防に重要なカルシウム摂取量は1),
一の食品や食品群が採用されており,料理に含
栄養所要量に達していない。そこで,カルシウ
答えなくてはならない。また,1回の摂取量が
まれている食品を思い出し,それらを合計して
ム摂取量の増加を目的とした栄養教育が盛んに
把握できない点も精度上の大きな問題である。
行われているが,ここ数十年間の日本人のカル
そこで,食物摂取頻度法に!回の摂取量の調査
シウム摂取量はほとんど変化していないのが現
状である。
を加えた調査が行われており,中村らは摂取頻
度・摂取量法と呼んでいる5)。摂取頻度・摂取
とくに,実際の臨床の場での栄養教育では,
量法は調査自体が簡便で,日頃の食生活に影響
個々の栄養素摂取量の把握が難かしく,各人に
を及ぼすことが少ないという特徴がある。つま
あった栄養教育を行うことを困難にしている。
り,摂取頻度・摂取量:法は,後ろ向きに過去の
受付:1995年12月1日
受理:1996年2月26日
食事について調査ができるのに対し,秤量記録
法などは前向きにしか調査できないため記録と
宮村季浩・浅香昭雄
10
実際の食事が同時期になり調査が食事内容に影
を行った。秤量記録法調査用紙の記入内容につ
響を与えてしまう場合が多い。
厚生省による骨粗懸症検診マニュアル6)には,
解析にあたっては,食品群摂取頻度調査にお
いて不明点の被験者への問い返しはしていない。
食品群の摂取頻度と1日の牛乳摂取量を聞く問
ける回答を(表1)のように点数化し「食品群
診票が示されている。
摂取頻度得点」として処理した。解析には統計
本研究では,骨二二症予防に重要な食品から
プログラムパッケージPGSASを使用した。
のカルシウム摂取量を推定するための簡便な指
標として,厚生省による骨粗懸症検診マニュア
結 果
ルの問診票をもととした「各食品群の摂取頻度
と1日の牛乳摂取量を聞く質問紙票」の開発を
(表2)には秤量記録法による各栄養素摂取
試み,それが有効であるかどうかの検討を行っ
量の2回の調査による変化を示している。2回
の調査の間に,栄養教育を行っているために,
た。
エネルギー,タンパク質,脂質,糖質,カルシ
対象と方法
ウムの摂取量が1992年に比べ1994年で有意に増
加している。
対象は,山梨県塩山市の各地域から数人ずつ
1日号牛乳摂取量は特に指定をしなかったが,
選出され,食生活の向上等を目的とした活動の
全員が,OmZ,100m∠,200m4400m♂,600
中心となる栄養改善推進員の中で1992年忌0月お
m♂のいずれかの数値で答えている。
よび1994年8月の2回の調査に連続して参加し
ているユ30名の女性で,年齢は22歳から66歳ま
!994年秤量記録法によるカルシウム摂取量を
で,平均は52.85歳,標準偏差は7.88歳である。
を選び重回帰分析を行った。乳製品以外の食品
130道中,閉経後の者73名,閉経前で生理が順
群摂取頻度得点は独立変数として,すべての組
調な者磯0名,不順な者17名である。さらに医療
み合わせで重回帰モデルを作成した。乳製品に
従属変数として,質問紙票の項目より独立変数
機関で治療を受けている者(歯科は除く),妊
関しては,「乳製品の摂取頻度得点」「1日の牛
娠中および出産後1年以内の者は対象から除外
乳摂取量」および「乳製品の摂取頻度得点と!
日の牛乳摂取量をかけた値」にこではこれを
している。
方法は,質問紙票として(表1)に示す食品
群摂取頻度および!日の牛乳摂取量の調査を自
数として,それぞれ1つずつを用いた重回帰モ
記式にて行った。また上記とは独立に,同時期
デルを作成した。その結果,各重回帰モデルの
に3日間の秤量記録法による栄養素摂取量調査
中でF値の最も大きい(表3>の最適モデル
「乳製品摂取推定値」とする)の3つを独立変
表1.質問紙票の内容
(1)食品群摂取頻度
①米飯 ②パン ③めん類 ④卵類
⑦菓子類 ⑧油もの ⑨豆類 ⑩果物類
⑫淡色野菜 ⑬ドレッシング,マヨネーズ
⑮海草類 ⑯肉類 ⑰魚介類 ⑱みそ汁
⑤無類 ⑥砂糖
⑪緑黄色野菜
⑭牛乳,乳製品
⑲清涼飲料水,ジュース
ほとんど食べない 0点
圓答カテゴリー
週に1∼3回食べる 1点
ほぼ毎B食べる 2点
︵
(2)1日の牛乳摂取量
ml)
11
栄養教育に利用できるカルシウム摂取量の推定に関する研究
表2.秤:量記録法による2回の調査における各栄養素摂取量の変化
標準偏差 半数
平均
エネルギー 1992年
(kcl) 1994年
翻:lll]***
蛋白質(9)
1992年
1994年
ll:ll;]***
脂質(9)
1992年
1994年
ll:lll]**
糖質(9)
1992年
1994年
;ll:811ゴ**
カルシウム 1992年
翻ll]***
(rng) !994年
最小値
最大値
1016。00
106L70
2593.70
2832.30
15.813
37.60
124.60
ig.698
37.67
194.03
296.276
120
312.354
120
13.161
19.10
83.30
13.077
24.70
100.97
40.111
!36.10
347.70
51.419
119.70
403.43
237.70
1927.00
1236.00
120
120
245.909
120
204.897
205.00
Wllcoxon signed.rank重est**:p<0.01***:p〈0.00!
表3.1994年秤量記録法によるCa摂取量を従属変数とした重回帰分析の結果
偏回帰係数
標準誤差
重信
P値
切片係数
乳製品摂取推定値
357.844
0.555
54.659
6,547 <0.000!
0.054
10.360 <0.0001
卵類
摂取頻
肉類
度得点
魚介類
64.027
2!.875
2.927
0。0040
−61.779
25.086
−2.463
0.0150
56.361
25.236
2.233
0.0271
n篇120,R2=0.496, F瓢35.136,({.f.−4, p<0.0001
表4.質問紙票によるカルシウム摂取量予測式
Ca摂取量予測値篇357.844
+0.555×(乳製品摂取頻度得点)×(1日の牛乳摂取量)
+64.027×(卵類摂取頻度得点)
一61.779×(肉類摂取頻度得点)
+56.361×(魚介類摂取頻度得点)
を得た。
(表3)より(表4)のカルシウム摂取量予
測式を求めた。
表5.1992年秤量記録法によるCa摂
土量と予測値との相関係数
相関係数
P値
0.586
<0.0001
(表4)の式に1992年の質問紙票の項目を代
入して1992年のカルシウム摂取量の予測値を求
めた。その予測値と,1992年の秤量記録法によ
るカルシウム摂取量との相関係数を(表5)に
宮村季浩・浅香昭雄
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らかにするためには,年齢分布の異なる他の集
示す。
団に対する調査が必要である。このことについ
ては今後の検討課題としたい。
考 察
結 論
1992年と1994年の2回の調査により得られた
各栄養素,とくにカルシウム摂取量が有意に増
加していたのは,この間の栄養教育によるもの
本研究で用いた食品群の摂取頻度と1日の牛
乳摂取量を聞く質問紙票は,栄養教育上必要な
と考えられる。1994年のデータから求めた予測
個々のカルシウム摂取量を把握するための方法
式より得た1992年のカルシウム摂取量の予測値
として有効であることが証明された。
と1992年忌秤量記録法による摂取量との間に有
文 献
意な相関関係が認められたことにより,この予
測式の再現性が証明されたと考えられる。今回
用いた質問紙票は,定性的な摂取頻度調査の結
1) Dawson−Hughes B, Dallal G£, Krall EA,6ごαム
果に加えて,1日の牛乳摂取量という定量的
Acontrolled trial of the effect of calcium sup−
データで補うという方法であり,有効であるこ
plementation of bone density i捻postme獄。−
pausal women. N EngJM:ed l990;323:878−
とが示された。また,この質問紙票は,カルシ
883.
ウム摂取量の増加を目的とした栄養指導上の動
2)Margetts BM, Nelson M. Design concepts ln
nutritional epidemiology. L・ondon: Oxford
機付けのためにも,十分精度のある方法である。
今回用いた質問紙票は,5分から!0分間ほどで
回答が得られ,他の方法7)よりも短時間で回答
が可能な簡便な方法であり,同時に!9の食品群
University Press 1991;153−191.
3) Block G A review of validations of dietary
assessment methods. Am J Epidemiol l982;
115:492−505.
に対する摂取頻度を知ることができるため,カ
4)伊達ちぐさ:栄養状態の判定と評価.田中平三
編.公衆栄養学.東京:南江堂,1995;221−
ルシウム以外の栄養素摂取量の推定といった汎
230。
用的利用の可能性もある。
5)中村美詠子,青木伸雄,那須恵子,他.食品摂
取頻度・摂取量法と7日間秤量記録法の比較.
しかし,本法の特徴である1日の牛乳摂取量
とカルシウム摂取量の関係では,著者らが以前
に指摘しているように8),乳製品からのカルシ
ウム摂取の割合は加齢とともに減少する傾向が
隣本公衛誌 圭994;41:682−691.
6)厚生省老人保健福祉局老人保健課監修.老人保
健法による骨粗懸症健診マニュアル.東京:日
本医事新報社,1995;15−51.
7) Nomura A, Hankin JH, Rhoads GG. The re−
ある。:本研究では,2回の調査に同じ対象者を
producibility of dietary intake (玉ata in a
用いているため,対象集団の年齢分布は2年忌
ずれたそれと同じとなる。そのために,質問紙
prospective study of gastrointestlnal cancer・
Am J clin Nutr 1976;29:1432−1436.
票によるカルシウム摂取量の予測式に対する年
齢の影響は明らかになっていない。これらを明
8)宮村季浩,山縣然太朗,飯島純失,他.骨粗懸
症危険因子の骨塩量に与える影響についての検
討.日本公衛誌 1994;41:1122−1130.
fliik asilEft fi e:*ij J!lil 'zs 8 6 twv i>・ v A {Il{ ]IS($ (D ?EE fE e: ee 'sl- 6 ilJl EXi
A Useful 9uestionnaire for Estimating Calcium Intake during Nutritional Counseling
Toshihiro Miyamura and Akio Asaka
DePartment ofHealth Sciences, Yamanashi Medical Unive7sity
Adequate calcium intake from food is necessary to prevent osteoporosis. Calcium intake in the Japanese
population has not yet reached an adequate level and has remained almost constant for several decades. For
nutritional counseling to promote calcium intake, an estimation of individual calcium intake is very important.
Simple method ofestimating calcium intake is, in particular, necessary in clinical situations.
In this study, we added a quantitative question concerning the average one day milk consumption to the
usual qua}itative intake frequency investigation. We developed a formula for estimating calcium intake using
the qualitative as well as quantitative items above mentioned such as:
Estimated calcium iRtake " 357,844
+ e.555 × (frequency score for dairy products) × (average daily milk consumption)
+ 64.e27 × (frequency score for eggs)
rm 61.779 × (frequency score for meat)
+ 56.361 × (frequency score for fish)
Keywords: nourishmentinvestigation,nutritionalcounseling,osteoporosis,calciumintake
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