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LEDで培養した餌料のアコヤガイ幼生に対する栄養価の評価試験
平成 24 年度 LED で培養した餌料のアコヤガイ幼生に対する栄養価の評価試験 結果報告書 三重県栽培漁業センター (公財)三重県水産振興事業団 平成 22∼23 年度にかけて,アコヤガイの餌料となるパブロバ Pavlova lutheri,キート セロス Chaetoceros neogracile,テトラセルミス Tetraselmis tetrathele,ナンノクロロプ シス Nannochloropsis oculata について LED を活用した餌料培養試験を実施し,従来の蛍 光灯に替えて十分使用することができ,かつ電気代の節減につながることが分かった。し かし,LED で培養した餌料藻類のアコヤガイに対する栄養価については,幼生期の主餌料 であるパブロバでは,稚貝と親貝に対しては栄養的に問題ないことを確認しているものの 幼生については未確認である。そこで,パブロバを用いて幼生の飼育試験を実施し,LED と蛍光灯で栄養価に差がないかどうかを比較した。また,LED での餌料培養試験は 30L 水 槽以上の水槽では実施していない。より大きな水槽での培養が可能になれば餌料培養の効 率化につながるので,100L パンライト水槽を用いて前記 4 種類の藻類について培養試験を 実施した。 I.100L 水槽での増殖比較試験 試験は,100L パンライト水槽を用いて,白色発光ダイオード(LED)と白色蛍光灯(FL) を光源とした場合の細胞増殖の比較を行った。また,この時の電力消費量を測定し,培養 に要するコストを比較した。 材料と方法 試験期間は 2012 年 4 月 2 日∼9 月 15 日とした。光源に は昨年度と同じ LED(40 形 LX-384TS ESL 27W,EPISTAR)と蛍光灯(40 形 3 波長形白色 FLR-40R-EX-N/M/36 36W 東芝)を用いた。光源位置は図1に示したように,LE D,蛍光灯共に側面に 8 本,上面に 2 本,光源から水槽まで の距離がそれぞれ等しくなるように設置した。また,培養藻 類への照射が均一になるよう通気により培養液を攪拌した。 図1 100L 水槽の光源配置 培養試験には LED 区、蛍光灯区それぞれ 100L パンライト水槽 8 個を用い,パブロバ, キートセロス,テトラセルミス,ナンノクロロプシスの 4 種類の微細藻類を培養した。こ れらの藻類を最初は 3L フラスコで増殖させ,これを元に 30L パンライト水槽で増殖させ たものを培養試験の元種として用い,培養開始時の濃度がパブロバは 2.0∼2.6×106 cells・ ml-1,キートセロスは 0.9∼1.3×106 cells・ml-1,テトラセルミスは 0.2∼0.3×106 cells・m l-1,ナンノクロロプシスは 6.6∼9.4×106 cells・ml-1 の濃度になるようそれぞれ接種した。 培養液は 0.5μm フィルターを通したろ過海水 80 L に KW-21(第一製網株式会社)を 0.5 ml・L-1 加えて調整し,キートセロスのみこれにゲルカルチャーを 0.75 g・L-1 加えたものを 用いた。照射条件は 24 時間明条件とした。細胞数は培養開始時から 24 時間おきにコール ターカウンター(マルチサイザー 3,ベックマン・コールター)で測定し,結果は開始時 の濃度(1ml 中の細胞数)に対する比率(増殖率)で示した。測定した藻類の粒径範囲は, パブロバ 3.4∼7.0 μm,キートセロス 4.0∼8.0μm,テトラセルミス 7.0∼15.1 μm,ナ ンノクロロプシス 2.1∼5.1 μm とした。 結果は平均値と標準偏差で示した。 電力消費量は, ワットチェッカーPlus(サンワサプライ株式会社)を用いて 30 日間測定を行った。 結果 増殖率(増殖濃度/開始時濃度×100)の推移を図 2,最大到達濃度を表 1 に示した。図 にみられるように,パブロバ,キートセロス,ナンノクロロプシスについては LED と蛍光 灯間で増殖率にほとんど違いは認められなかった。テトラセルミスについては 5 日目まで は同様の増殖率を示したが,6 日目には増殖率が低下し,有意差が認められた(t-test, p <0.05) 。また,4 種類の植物プランクトンの最大到達濃度の差を検定したところ LED と蛍 光灯の間に有意差は認められなかった(t-test, p <0.05)。 図 2.100L パンライト水槽で培養したパブロバ およびキートセロス,テト ラセルミス,ナンノクロロプシスの増殖率 ●FL ■LED 表1 4種類の藻類の最大到達濃度(平均値) 餌料種類 パブロバ キートセロス テトラセルミス ナンノクロロプシス LED (10 6 cells・ml-1 ) 9.0 10.4 1.7 56.2 蛍光灯 (10 6 cells・ml-1 ) 8.1 9.1 1.4 51.2 2 30 日間の電力消費量は,LED16 本で約 182kWh,蛍光灯 16 本で 387 kWh であった。1 日平均では 6.8 kWh の差が見られ,LED は蛍光灯の約 47%であった。 考察 4 種類の植物プランクトンを 100L パンライト水槽で培養した結果,テトラのみ LED の 増殖率が有意に高かったが,他の 3 種類については LED と蛍光灯の間に有意差は認められ ず,最大到達濃度においても LED と蛍光灯の間に有意差はみとめられなかった。このよう な結果は昨年までに実施した 3L フラスコや 30L パンライト水槽の結果とほぼ一致してお 100L り, 大量培養にも LED が蛍光灯の代替えとして十分使用できることが判明した。 また, 水槽での培養に要した LED の電力消費量は蛍光灯の約半分であり,電気料金の削減につな がる可能性が示唆された。更に,LED は赤外光を出さないため,餌料培養室内の温度上昇 が抑えられ,室内温度調整用の空調機(7.7kWh:冷房)の稼働率も低下することから,大 幅な節電効果が期待出来る。 II.アコヤガイ幼生の成長の比較 LED と蛍光灯で培養したパブロバを用いてアコヤガイ幼生を飼育し,幼生の成長を比較 することにより餌料価値を判断した。試験は 5 月 8 日より 7 月 27 日までの間で 3 回繰り返 し実施した。 材料と方法 幼生飼育用の餌料には,3L フラスコで LED と蛍光灯を光源として培養したパブロバを 用いた。飼育には 30L パンライト水槽を 4 個用い,LED 区と蛍光灯区にそれぞれ 2 水槽を 設定した。各水槽には 25 L のろ過海水を入れ,ウオーターバスにより水温を 25℃に調整し, 毎朝水温測定を行った。試験には同じ親から採卵して得られたアコヤガイ幼生を用いて, 1 水槽に 20 万個体となるように収容した。給餌は毎日午前 10 時に 1 回,飼育水中の残餌濃 度から摂餌状況を把握して十分量となるように与えた。飼育期間は 20 日間で,試験終了時 には殻長と生残率を測定した。 結果 試験期間中の水温は 23.9∼26.0 の範囲にあり,ほぼ設定水温を維持できた。餌料の給餌 直後の飼育水中濃度は 5,000∼20,000cells・ml-1,であった。3 回実施した各試験について, 試験終了時の殻長と生残率を図 3,図 4 にそれぞれ示した。まず殻長については図にみられ るように,LED 区と蛍光灯区はいずれも開始時の平均殻長 73.5μm から 2 倍以上に成長 した。LED 区と蛍光灯区を比較すると,1 回目は LED 区の殻長が蛍光灯区より大きかった 。次に生残率につ が,2、3 回目については,有意差は認められなかった(t-test, p<0.05) いてみると,図 4 にみられるように,1,2 回目は LED 区の生残率が蛍光灯区より劣った が,3 回目は差が認められなかった。また、試験終了時の幼生の形態については,LED 区 と蛍光灯区で奇形などの特異的な形態の違いは認められなかった。 3 殻長(μm) 250 200 150 100 50 0 第1回 第2回 LED区 第3回 FL区 図 3 20 日間飼育したアコヤガイ幼生の成長(殻長)比較 生残率(%) 80 60 40 20 0 第1回 第2回 LED区 第3回 FL区 図 4 20 日間飼育したアコヤガイ幼生の生残率の比較 考察 このように,パブロバをアコヤガイ幼生の餌料として用いた場合には,LED で培養した ものも蛍光灯で培養したものも成長に関しては餌料価値に遜色のないことが判った。生残 率は 3 回の試験のうち 2 回で,LED で培養した餌料の方が少し低下する結果となったが, 実際の生産規模においてはこの程度の生残率の変動はみられるので,正常に成長している ことや形態的にも異常が認められなかったことから,LED を光源として培養したパブロバ は,アコヤガイ幼生の餌料として十分に使用可能であると考えられる。 4