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水接触角 - 日本大学生産工学部

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水接触角 - 日本大学生産工学部
ISSN 2186-5647
−日本大学生産工学部第48回学術講演会講演概要(2015-12-5)−
4-32
表面構造と水接触角の関係に関する研究
-素地を変更した場合の比較-
日大生産工(院) ○小室 拓弥 日大生産工 永井 香織
日大生産工
湯浅 昇
日大生産工 松井 勇
1. はじめに
このような結果が得られた要因として、最もよご
環境問題への意識の高まりから、建築物の長寿命
れが促進されやすいとされる 90°前後では水滴が接
化が求められている近年において、景観維持・保全
触した際、水滴が試験体表面に残り水滴に含まれる
の観点から、建物外壁におけるよごれに対し問題意
よごれ物質が残留するため、よごれが促進される。
識が高まっている。よごれの中でも塵埃と雨水によ
これに対し、親水側では、水接触角が小さくなるこ
って形成される雨筋よごれが顕著であり、雨筋のよ
とで、水滴が接触した際、水滴が試験体とよごれの
ごれは外壁の表面性状の影響 1)を受ける。
間に入り込み、よごれを洗い流す、洗い出し効果に
塗膜の水接触角とよごれの関係については、塗料
よりよごれにくい。一方、撥水側では接触角が大き
により水接触角を変えて行った既往の研究結果 1)よ
くなるにつれ、水滴が接触した際、水滴がよごれ物
り把握することができる。
質を水滴に吸着させながら転がり落ちるロータス効
しかし、塗料等の化学的因子のみで水接触角を変
果 2)により、よごれが残留しにくいと考えられる。
えた場合、トリフルオロメチル基を用いた水接触角
これらのことから、一般に低汚染材料といわれる
約 120°が最大で超撥水性ほど水接触角を持たせるこ
とが難しい
2)。
材料は、光触媒などのように水接触角を小さくする
ことにより、低汚染性を得ている。
しかし、水接触角を 90°以上にすることによっても
このような背景から現在、光触媒などの超親水性
の研究が主に進められている現状がある。
同様に低汚染性を得られると推測される。
3.水接触角の角度による分類
本研究では、植物の葉の持つ撥水性に着目し、文
献 2)より植物の持つ撥水性の原理として挙げられて
水接触角は表1に示すように角度によって以下の
いる表面凹凸構造に基づき、材料表面に凹凸加工を
ように分類されている。
施すことにより水接触角をコントロールできるか否
5.0
か検討したものである。
南側
4.0
3.5
よごれの評価は JIS Z 8730 に準じて色彩色差計
(KM 社製 CR-400 測定口径 8mm)を用いた。表色系
は L*a*b*表色系はとし、暴露前の測定値との色差(⊿
E*ab)により評価している。
色差(⊿E*ab)
2.水接触角とよごれの関係
北側
4.5
1)
3.0
2.5
2.0
1.5
親水側
北側R=0.71
南側R=0.73
全体R=0.64
1.0
水接触角の測定には接触角計(KK 社製 CA-D)を
0.5
用い、静的接触角 3)が用いられている。
0.0
20
静的接触角とは、静止液体の自由表面が、固体壁
40
60
100
120
140
水接触角(°)
に接する場所で、液面と固体面とのなす角と定義 1)
されている。測定値は試験体表面に滴下した水滴の 1
図1水接触角と色差の関係
分後の値の平均値が用いられている。
表1水接触角の分類
超親水性
水接触角とよごれの関係は、図 1 に示すよう水接
触角が上昇とともに色差も上昇し、水接触角が約 90°
を境に色差は減少するという結果
80
撥水側
R=-0.69
R=-0.62
R=-0.61
親水性
撥水性
超撥水性
30°以下
10°以下
90°以上
1)が得られている。
A study on relation between surface structure and static contact angle of water
- Effect of kind of material -
Takuya
KOMURO,Kaori
NAGAI,Noboru
― 511 ―
YUASA,Isamu
MATSUI
150°以上
(1)超親水性
また、溝状加工の場合、滴下した水滴が溝に対し、
水滴が接触する表面に高い親水性があり水滴が接
平行方向に引っぱられ水滴が楕円形になる。
このことから溝状加工の測定は、平行と垂直の 2
触すると濡れ広がり、よごれの洗い流し効果がある。
(2)親水性
方向とした。イメージを図 2 に示す。
水滴が接触する表面に親水性があり、水滴が接触
加工表面の観察は、レーザ顕微鏡を用いた。
すると部分的な水たまりが生じる。よごれの洗い流
5.結果及び考察
し効果は超親水性と比較すると低下するが、良好な
5.1 各材料の表面構造の加工状況
状態である。
全体の傾向として、溝幅を狭くした状態で溝深さ
(3)撥水性
を深くすることは難しい。
水滴が接触する表面に撥水性があり、水滴が接触
ポリカーボネイトでは、加工による付着物は見ら
するとそのまま残るため付着したよごれが凝縮され
れなかった。傾向として溝幅が広くなると多少のズ
表面に残りやすい状態である。
レが生じるが目標とした値を得ることが可能である。
(4)超撥水性
ステンレスでは、細かい溝幅の加工の際、素地が
水滴が接触する表面に高い撥水性があり、水滴が
溶解し凸部に付着してしまい目標とした表面性状を
接触するとすぐに滑落する。表面に水滴が付着しな
加工するのが困難である。また、ステンレスの試験
い良好な状態である。
体は測定箇所によって水接触角のバラつきが大きい。
4.検討項目及び試験方法
このことから、加工にムラが生じていると考えられ
4.1 表面形状を変えた場合の水接触角
る。しかし、間隔の広い水準では、ポリカーボネイ
4.1.1 試験目的
ト同様に比較的目標とした値を得られた。
撥水性を持つ葉の表面は微細な凹凸構造により形
ガラスでは、加工による微細なクラックが発生し
成されている。そこで、表面凹凸構造によって撥水
ている。また、他の試験体と比較し凸部の角が丸み
性を得ているとされる蓮の葉、里芋の葉とし、また、
を帯びている。
表 2 表面構造の測定結果
塗料によって水接触角を変えた際、最も高い水接触
角となった市販シリコン塗料の表面構造を観察した。
表面幅
(μm)
蓮の葉
5.57
里芋の葉
13.59
撥水性塗料
7.3
試験体
その結果を基に、表面に微細な凹凸を形成するこ
とでフラクタル構造を再現し、物質の素地自体に撥
水性を持たせることが可能かを把握し、表面構造が
水接触角に与える影響を検討した。
溝幅 溝深さ 水接触角
(μm) (μm)
(°)
14.86 9.83
155.4
17.34 8.97
142.6
20.86 16.09
136.4
4.1.2 試験体概要
試験体は、ポリカーボネイト、ステンレス、ガラ
スの 3 種類を用いた。
加工方法は、レーザを用い上記の 3 種類の素地に
溝状、格子状に溝を形成し表面形状を変えた。
蓮の葉
デジタルマイクロスコープ(K 社製 VHX-5000)を
里芋の葉
撥水性塗料
写真 1 撥水性表面の表面構造(SEM 画像)
用いて蓮の葉、里芋の葉、市販シリコン塗料の凹凸
構造の表面幅、溝幅、溝深さの寸法の測定を行い、
その結果を基に加工を行った。目標寸法は、溝幅を
10μm、20μm、40μm の 3 水準、深さを 5μm、10μm、
図 2 測定箇所・加工形状と垂直・平行イメージ
20μm、40μm の 4 水準。計 12 水準、36 試験体を使
表 3 加工後の表面
用した。表面幅はすべての水準で 20μm とした。
表面凹凸構造の測定結果を表 2 に示し、表面構造
条件
の観察結果を写真 1 に示す。また、測定箇所、加工
溝
状
形状を図 2 に示し、加工後の表面を表 3 に示す。
4.1.3 試験方法
水接触角の測定は、接触角計(KK 社製 C-AD)を用
いて、試験体表面に水滴を滴下した 1 分後の値を 3
箇所測定し平均の値を用いた。このとき、水滴の直
格
子
状
径を 2mm とした。
― 512 ―
ポリカーボネイト
ステンレス
ガラス
溝幅20μm
160
溝幅40μm
120160
80
140
溝幅10μm
60
120
40
100
20
ポリカ
ステンレス
水接触角(°)
ガラス全条件
0
10
20
30
10
溝幅20μm
20
30
40
溝幅40μm
160
垂直
140
50
溝深さ(μm)
溝幅20μm
溝幅10μm
ポリカ
ステンレス
40
ガラス
20
ガラス全条件
0
0
10
20
60
30
40
50
溝深さ(μm)
40
0140
120
ガラス全条件
20
30
10
20
溝幅20μm
30
溝幅10μm
50
溝幅20μm
160100
140 80
溝幅40μm
ポリカ
60
ステンレス
40
ガラス
ガラス全条件
80 0
0
10
20
60
50
図 3.(b)溝幅と水接触角(平行)
深さ10μm
10
深さ20μm
20
30
垂直
40
50
溝深さ(μm)
30
40
50
深さ10μm
深さ5μm
深さ10μm
深さ40μm
深さ20μm
深さ5μm
ポリカ
60
120
40
100
20
ステンレス
ガラス
ガラス全条件
080
0
60
20
160
0
140
溝幅40μm
垂直
40
溝深さ(μm)
100 20
40
溝幅(μm)
0
10
20
30
40
50
溝幅(μm)
40
水接触角(°)
水接触角(°)
10
0
80
140
水接触角(°)
溝幅10μm
160
120
600
160
100
図 4.(a)溝深さと水接触角(垂直)
20
0
深さ40μm
120
60
80
80
ガラス
深さ20μm
深さ5μm
20
水接触角(°)
溝幅10μm
80
100
50
ステンレス
0
図 3.(a)溝深さと水接触角(平行)
120
160 100
120
ポリカ
深さ10μm
40
160
0
140 0
水接触角(°)
40
深さ10μm
深さ5μm
溝深さ(μm)
20
水接触角(°)
20
800
60
深さ20μm
100
140
80
60120
40100
ガラス
溝幅20μm
40
水接触角(°)
水接触角(°)
溝幅40μm
水接触角(°)
水接触角(°)
水接触角(°)
140
120
160
100
140
深さ40μm
160
140
図 4. (b)溝幅と水接触角(垂直)
深さ20μm
0
120
160
100
140
80
10
20
30
40
溝深さ(μm)
垂直
50
深さ20μm
深さ40μm
深さ40μm
ポリカ
深さ10μm
深さ5μm
60
120
ステンレス
40
100
20
80
0
ガラス
ガラス全条件
60 0
10
20
30
40
50
溝幅(μm)
溝深さ(μm)
40
40
図 5.(a)溝深さと水接触角(格子)
5.2 表面形状による比較
5.2.2 0垂直方向の場合
垂直
垂直方向の溝と水接触角の関係を図
4.(a)(b)に示す。
溝深さ(μm)
0
0
ガラスでは、すべての水準で超親水性となる結果
0
10
20
30
40
50
垂直
が得られた。
図 5. (b)溝幅と水接触角(格子)
20
20
溝深さ(μm)
10
20
30
40
50
ポリカーボネイトでは、溝深さと水接触角の関係よ
5.2.1 平行方向の場合
り、深さ 5μm では、撥水性の向上はあまり確認でき
平行方向の溝と水接触角の関係を図 3.(a)(b)に示す。
ず、深さ 20μm 以上で撥水性は向上し、水接触角の
ポリカーボネイトでは、表4に示すようにそれぞ
変動は収束する。このことから、深さ 20μm 以上で
れ異なった要因により水接触角が変化したと考えら
は、深さによる水接触角への影響は少ない。溝幅と
れる。
溝幅 10μm では Cassie-Baxter 理論。
溝幅 40μm
水接触角の関係より、垂直方向では、溝幅による影
ではピン止め効果により撥水性が強調されたと考え
響は少ないといえる。
られる。一方、溝幅 20μm では wenzel 理論により親
5.2.3 格子状の場合
格子の凹凸と水接触角の関係を図 5.(a)(b)に示す。
水性が強調されたため、このような結果が得られた
と考えられる。この結果より、ポリカーボネイトの
深さと水接触角の関係は、垂直方向同様、深さ 20μm
場合、水準を変更することで水接触角をコントロー
以上では、深さによる水接触角への影響は少ない。
ルすることが可能だと考えられる。
溝幅と水接触角の関係より、ポリカーボネイトで
ステンレスでは、溝幅 10μm、深さ 20μm の条件
は、すべての水準において、間隔 10μm で最大の水
以外で撥水性の向上がみられた。このことから、ス
接触角が得られた。
テンレスでは凹凸の寸法による大きな影響は少ない
といえる。
ステンレスでは水準による変化は見られず、すべ
ての水準において高い水接触角が得られた。
― 513 ―
表 4 撥水性のパターン 3)
Cassie-Baxter理論
Cassie-Baxter状態
Cassie-Baxter状態
Wenzel理論
wenzel状態
wenzel状態
表 5 加工前後の水接触角
種類
ピン止め効果
ピン止め効果
ピン止め効果
θθ
処理前
処理後(幅10μm×深さ40μm)
θθ
θ+α
θ+α
αα
ポリカ
毛管現象により水が溝の底まで
実表面積が見かけ表面積に比べ
接触角をθ
毛管現象により水が溝の底まで
実表面積が見かけ表面積に比べ表面の凹凸構造により液面の進行が阻
接触角をθとし、屈曲角をα
とし、屈曲角をαとするとこの液
とするとこの液
毛管現象により液体が溝 凹凸内に液体が入り込むこ
到達できず水滴の下に空隙が生
大きくなる、接触面積が増えれば
体は屈曲した先の面で接触角がθ
到達できず水滴の下に空隙が生
大きくなる、接触面積が増えれば止され、凹凸を乗り越えられない液面が
体は屈曲した先の面で接触角がθより小さく
より小さく
の底まで到達できず水滴 とにより、液体と部材の接触
じ、水滴と部材が点接触すること
じ、水滴と部材が点接触すること 界面自由エネルギーもそれだけ
界面自由エネルギーもそれだけ なってしまうためθ
なってしまうためθ+α
+αの角度に達ないと進
の角度に達ないと進
の下に空隙が生じ、液体 面積が増加し、それに伴い
通常の水接触角より大きい水接触角と
により撥水性が得られる。
増えるので濡れが強調される。
により撥水性が得られる。
増えるので濡れが強調される。 もうとしない現象。
もうとしない現象。
と部材が点接触することに 界面自由エネルギーも増加 なる。
よって撥水性が生じる。
する。これにより部材の元々
の濡れ性を強調される。
5.3 材料ごとの水接触角の比較
ステンレス
加工前後の水接触角の状態を表 5 に示す。素地と
水滴の境界を破線で示す。
5.3.1 ポリカーボネイトの場合
ポリカーボネイトのみ凹凸加工により親水性、撥
水性の両方の性質が確認された。ポリカーボネイト
の元々の素地約 80°と親水性、撥水性のどちらにも分
ガラス
類されていないことが要因として考えられる。
このことから、凹凸加工を施す際、わずかに水準
を変更することで材料の水接触角をコントロールす
また、ガラスにおいて親水性が向上した要因とし
ることが可能だと考えられる。
て、加工後の凸部の形状が他の試験体と異なり、丸
5.3.2 ステンレスの場合
み帯びた形状となったことも要因と考えられる。こ
ステンレスでは約 150°とステンレスでより高い撥
水性を確認できた。この要因として、ステンレスで
のことから、凸部の形状も素地の濡れ性同様、水接
触角に影響を与えると考えられる。
は無処理の状態の水接触角が約 100°と素地の水接触
最後に、微細な凹凸加工を施した場合、素地自体
角が撥水性を示している。このことにより、表面に
が持つ濡れやすさが加工後の水接触角に与える影響
微細な凹凸構造を形成することにより、濡れ性が強
が最も大きく、撥水性表面はより撥水性を示し、親
調されたためだと考えられる。
水性表面はより親水性を示し、撥水性、親水性の中
5.3.3 ガラスの場合
間の場合では、水準により撥水性、親水性をコント
ガラスにおいては、すべての条件において超親水
ロールできる。
6.まとめ
性を示した。
この要因として、ガラスは、表面張力が大きく、
1) 親水性の素地の表面形状は、水滴が付着した際の
水とガラスの間の界面張力が小さいことから、固体
濡れの広がり方に影響を及ぼす。
表面の表面張力に強く引っぱられるため、素地の水
2) 溝幅を狭くした場合、溝の深さを深くすることは
接触角が約 30°と小さい。
難しいが、溝幅を広くすることによって比較的精度
このことから、すべての条件において、超親水性
の高い加工が可能になる。
を示したと考えられる。
3) 凸部の形状も水接触角に影響を与える。
5.3.4 各試験体の比較
4) 水接触角は微細な凹凸加工を施す際、素地の持つ
ポリカーボネイト、ステンレス、ガラスの水接触
濡れ性によって決まる。
角の比較として、ステンレスの水接触角がポリカー
5) ポリカーボネイトは、水準により撥水性、親水性
ボネイトと比較しポリカーボネイトでは約 140°、ス
をコントロールできる。
テンレスでは約 150°とステンレスでより高い撥水性
6) ガラスでは、すべての水準において、超親水性の
を確認できた。この要因として、無処理の状態での
表面となることが確認された。
水接触角がポリカーボネイトでは約 80°であるのに
7) ステンレスでは、溝幅 10μm、深さ 20μm の水準
対し、ステンレスでは約 100°と素地の水接触角に差
以外で撥水性の向上が確認出来た。
があることがいえる。また、同様の理由により水接
参考文献
1) 野地高史、堀井大介:塗料の水接触角とよごれに関する
研究 2013 年度 第 84 回 日本建築学会関東支部研究発
表会 優秀報告集
2) 下村政嗣:生物の多様性に学ぶ新世代 バイオミメティ
ック材料技術の新潮流 科学技術動向 2010 年 5 月号
pp12
3) 辻井薫:超親水と超撥水-その仕組みと応用-、米田出版
p.25,pp.44-47,pp.60
触角の値が近似しているがステンレスの場合、傾け
ることにより水滴が転落していくのに対し、ポリカ
ーボネイトでは、垂直に立てても水滴が転落せず表
面に残留することが確認出来た。
― 514 ―
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