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迷走神経内の遠心性神経繊維の末梢

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迷走神経内の遠心性神経繊維の末梢
621
迷走神経内の遠心性神経繊維の末梢
分布に関する実験的研究
金沢大学医学部第一解剖学教室(主任 本陣良平教授)
泉 外 美
(昭和32年3月5日受付)
Experimelltal Studies on the Peripheral Distribution of
tlle Ef艶rellt Nerve Fibers ill the Vagus Nerve
Sotorlli Izumi
1)θμrご㎜θ剛(ゾ画αご・η・ン,8Cん・・∼(ゾ乃fθ粥πθ,Kαπα鴛αωαび7伽r吻
(1)‘rθCピ0,r : P3¶0」ノニ 1)グ● B・ 1i「oη」ブ‘π)
(本論文の要旨は第62回日本解剖学会総会に発表した.)
緒
言
迷走神経を構成する神経繊維の起始,走路,分布に
なる部位における切断の後,迷走神経核内に現われる
関しては多数の報告があるが,その詳細は現在なお充
逆行性変性を以て主たる検索手段としている.しかし
分明確とはいい難い.即ち一一般的には迷走神経の遠心
乍らこれらの実験方法に基づく場合,その切断部位又
性繊維は延髄内の迷走神経背側核及び疑核にその起冶
はある臓器に分布する神経下中に,迷走神経核に由来
細胞を有し,求心性繊維は頸静脈及び節状神経節の薦
する遠心性繊維又はこれに接続する繊維の存在するこ
単突起細胞に起始するといわれているが,遠心性繊維
とを知り得るが,個々の臓器内における遠心性繊維の
の末梢分布並びに介在神経細胞の存在部位に関しての
詳細なる分布並びに介在神経節の位置はこれを明確に
諸家の報告は必ずしも一致していない.
なし得ない.
今介在神経細胞についてこれを見ると,所謂終末神
これらの問題を解明するには,迷走神経をその両神
経節rterminal ganglion)の他に, MUIler(1911)は
経節の中枢側及び末梢側において,即ち頭蓋内及び頸
頸静脈神経節に,Gaskell(1886,1889), M6Ugaard
部において切断した後の,夫々の末梢部位に続発する
(1912),:Kidd(1914), Jones(1932), Morgan&
神経繊維の二次変性像の分布を追求比較し,両神経節
Goland(1932)等は節状神経節に, Kiss(1932),呉・
から起る繊維を延髄から起る繊維から区分することが
沖中及びその学派(1947)は両神経節に,夫々迷走神
最も適確な方法と考えられる,Heinbecker&O’Leary
経遠心路の介在神経細胞が存在すると述べている.こ
(1933a, b), DuBois&Foley(1936),呉・神中及び
れに反し,Langleyぐ1900,1903 a, b), Nordkemper
その門下(1947),Daly&Evans(i953), Mohiuddin
(192D,Heinbecker&0’Leary(1933 a, b),Ranson,
(1953),Evans&Murray(1954)等は猫・犬等につ
Foley&Alpert(1933), Evans&Murray(1954)等
いてその迷走神経根の切断実験を行っているが,彼等
は節状神経節内における遠心性繊維のsynapsisの存
の検索は個々の迷走神経の枝に限られ,臓器内部には
在を否定している,
及んでいない1これは彼等の実験に使用した動物が大
迷走神経遠心性繊維の末梢分布に手を染めた多数の
きいため,臓器全体に亘る連続切片による検索が不可
研究者の研究方法を通覧すると,その多くは延髄迷走
能なためと考えられる.
神経核又は根繊維の電気刺戟後の末梢部における生理
筆者はこれらの事柄を考慮し,容易に連続切片の作
学的応答,若しくは迷走神経幹又はその末梢枝の種々
製が可能な小動物として,廿日鼠を実験動物に選び,
【39】
622
泉
頭蓋内迷走神経切断実験を行い,切断後末梢側に現わ
状神経節並びに頸部・胸部及び腹部諸臓器内の遠心性
れる神経繊維の二次変性像を追求することにより,節
繊維の分布を検し,知見を得たので報告する.
実験材料及び実験方法
実験動物は成熟廿日鼠を用いた.正常動物の神経染
体・腎臓等の諸臓器を周囲組織と共に切り出し,固定
色を行うほか,次にあげるような種々の手術実験を行
液に投じた.正常及び変性神経繊維の染色法としては
った.(1)右又は左迷走神経の頭蓋内切断,(2)右
Cajal氏写真銀法の吾が教室の変法(Honjin 1951)を
又は左迷走神経の節状神経節下の頸部における切断,
使用した.材料は「パラフィン」又は「ツェルロイヂ
(3)上喉頭神経切断,(4)反回神経切断.頭蓋内切
ン」に包埋し,10∼15μの厚さでこれを連続切片と
断手術は次のように行った.動物を固定台上四位に固
した.
定し,背部正中線にて外後頭隆起より尾方約2cmに
切断された神経繊維は二次変性に陥るが,筆者は変
亘る皮膚切開を行い,背筋を分離後,第一頸椎後弓の
性像を日を追って観察し,神経繊維の変形像即ち陽性
一部を後環椎後頭膜と共に切除し,延髄の背側面を露
変性所見によって繊維の末梢分布を探究し,正常所見
出し,その右又は左外側縁で迷走神経を切断した.そ
及び上記各種切断実験後の変性繊維の分布所見の比較
の他の切断手術は動物を背位に固定し,頸部皮膚切開
検討によって,迷走神経内に存する繊維の起始分布終
後,ルーペで直視しつつ目的の神経を切断した.
末を決定した.
手術後1乃至15日間の後,動物を屠殺し,神経切断
上記神経繊維染色標本のほか,髄鞘染色標本(Hon・
手術の成功を確認した後,節状神経節。喉頭・気管・
肺・心臓・食道・胃・小腸・肝臓・脾臓・膵臓・腎上
jin 1956 b),「ヘムアラウン・エオジン」染色標本を
作製対照とした.
見
所
1廿日鼠迷走神経の走行(図1,A)
支の背側を斜に下行し,食道の右背側に達する.次で
右迷走神経(図1,A, r. v.)は後破裂孔(postefior
食道の背側を下り,横隔膜の食道孔を通って腹腔に入
lacerated foramen)を通り,頭蓋外に出て,こごで
る.その間胸部においては,気管・気管支・肺・心臓
径約1mm大の球形若しくは楕球形の節状神経節を有
及び食道に逐次枝を与える.腹部では右迷走神経は胃
する.この神経節と交感神経の押型神経節との間め交
の背測面で後帯神経叢を作った後,腹腔神経叢・肝神
通は廿日鼠においては常に存在し,甚だしい例ではこ
経叢・脾神経叢・上腸間膜動脈神経叢・腎上体神経叢・
れら両神経節が直接夫々の一端を以て結合している.
腎神経叢等に三枝を送る.
右上喉頭神経は直接節状神経節の尾端又は駅馬神経節
左迷走神経(図1,A,1. v.)は頸部では右迷走神経
直下の迷走神経幹より一乃至二根を以て起始し,始め
同様頭蓋を離れて直ちに節状神経節を作り,上喉頭神
迷走神経幹と共に下行し,後に甲状腺右回の首側端近
経を分枝した後,左総頸動脈に伴って下り,この動脈
くで内,外の二枝に分れる.迷走神経幹は西哲頸動脈に
と左鎖骨下動脈との間を通って,胸腔に達する.次で
沿って下行し,右鎖骨下動脈の腹側を通って胸腔に入
左鎖骨下動脈の起始部及び大動脈弓の腹側を背側方に
る.数理を以て迷走神経幹から起始する右反回神経
走り,左気管支の背側に至り,食道の左腹側面を下行
は,右鎖骨下動脈の起始部を廻ってその背側に至り,
し,腹腔に入る.左反回神経は上根を以て左迷走神経
途中気管神経叢i及び食道に繊維を送りながら,食道と
幹から起り,大動脈弓を背側に廻って,気管と食道と
気管との間の溝を上行する.輪状軟骨の尾側縁でこの
の間の溝を上行する.胸部で交感神経幹由来の左心臓
神経は下喉頭神経となる.下喉頭神経は喉頭の背側外
神経から交通枝をうけ,気管・気管支・肺・心臓及び
側部にて上喉頭神経内枝の一小枝と交通する.反回神
食道に繊維を送る.腹部では左迷走神経は胃の腹側面
経の分岐部の高さで右迷走神経幹は交感神経幹の右星
に達し,前胃神経叢を形成し,肝臓に走る枝を出した
状神経節から起る右心臓神経より交通枝をうける.胸
る後,右迷走神経と共に腹部の諸神経叢に走る.
腔に入った後,右迷走神経は気管分岐部に近い右気管
左右迷走神経幹は,腹腔に迷する迄の間に,肺門部
【40】
迷走神経内の遠心性神経繊維の末梢分布に関する実験的研究
623
及び食道下端において,交通枝によって互に結合され
く,黄褐色に染まる神経原繊維網を有する.核は円形
ている.
又は楕円形である.この細胞の突起は,小腸の銀嫌性
II節状神経節
細胞に比し,梢ぐ数が少なく,1乃至2本であること
廿日鼠迷走神経には,節状神経節と区分し得る独立
が多く,稀に3本又は4本の突起を有する.突起も細
した頸静脈神経節が存在しない.両神経節の構成分が
胞体同様に,嗜銀性に乏しい.
合して一つの神経節を形成している.筆者はこれを形
迷走神経幹は二二神経節の首側端より神経節内に入
から考えて節刀神経節と記述することにする.
り,その周辺部に存在する神経細胞群から発する突起
羽状神経節には,従来記載されている脊髄神経節型
をうけつつ,神経節の中心部を下行する.迷走神経繊
の偽単突起細胞の他に,かなりの数の二突起細胞,及
維の大部分は,単にこの神経節内を通過するにすぎな
びこれより梢ζ小型の植物性神経系に属すると考えら
いが,そのきわめて少数の繊維と上述の小肥嫌性神経
れる神経細胞が存在する.
細胞との間に密接な関係があることが認められた.即
偽単突起の神経細胞は一般に細胞体が大きく,形は
ち,これら少数の繊維は2乃至3本の細繊維に分岐
円形又は楕円形なるも多角形のものも少なくない.核
し,小銀嫌性細胞の外面を蛇行し,微細な桿状乃至紡
の形態は円形乃至楕円形で,胞体の中心部に位置す
錘状の腫脹を以て,小銀嫌性細胞の表面に終止するの
る.銀塩に対する噛好性は,個々の細胞により異な
り,強い細胞は黒褐色に,弱い細胞は黄褐色に染まっ
神経由来の繊維束は,この神経節の高さで,迷走神経
か認められる(写真2∼4).後に反回神経となる副
た神経原繊維網が見られる.突起には,始め1本の突
幹に合し,以後迷走神経幹中を下行する.
起として胞体を離れた後,直ちに中枢突起と末梢突起
の2本に分岐するもの}胞体から出た後細胞体を環状
III神経切断後の末梢神経
に囲統し,しかる後2本の突起に分岐するもの,細胞
迷走神経幹及びその枝の切断後,1乃至15日におい
体内でその一側に偏して特に粗大な網眼を有する網工
て,切断端より末梢部位の神経並びに迷走神経司配を
を形成せる神経原繊維束を有する2本の突起が出て,
うける諸臓器を検するに,その神経繊維の一部に著明
これが直ちに1本の突起に合し,突起の起部に丁半の
なる二次変性像を認める.この神経繊維の二次変性像
穴を示し,1本に合した突起は後再び二枝に分岐する
は,迷走神経幹及びその枝を何れの部位で切断する
もの(有窓型)等,種々の走行が認められる.
繊雛の二次変性像
も,同一である.
二突起細胞のなかには,紡錘形でその両端から夫々
切断後生存日数の短い資料,即ち二次変性の初期の
1本の突起を出すものの他に,種々の大きさの多角形
ものでは,変性に陥った神経繊維は正常なる繊維に比
乃至楕円形の細胞体を有し,2本の突起が互に近位に
し,多少なり共腫脹し且つその形態は平滑さを失い,
位置して,胞体の一側より発するものも少なくない.
嗜銀性がたかまっている(写真8,15).更に変性が
核は円形又は楕円形で,胞体の中心部に存するが,紡
進むと,繊維の静脈瘤様腫大及び穎粒状乃至桿状の不
錘形の細胞には稀に2個の核を有するものがある.銀
整形な断片への断裂を認めるようになる(写真10∼工2,
塩に対する嗜好性は,偽単突起細胞同様種々で,神経
14,15,20∼40).これらの繊維の形態的変化は,神
原繊維網は黄褐色から暗褐色迄の色々の色調を示す.
経繊維の二次変性を確認するのに,最も明確な像であ
これら種々の形態を有する神経細胞は,回状神経節内
り,この陽性変性所見により,二次変性に陥った神経
では,互に混然と入り混じって存在し,その突起は何
繊維をその末梢迄追跡し得た.変性の終期に至ると,
れも迷走神経の神経繊維東中に入り,中枢二又は末梢
変性に陥った繊維は消失する.即ち二次変性の所産で
側に走る.以上の偽単突起及び二突起細胞は知覚性の
ある神経繊維の断片は二二されSchwann三二の細胞
神経細胞と考えられる.
の増殖が認められる一に至.る一(写真32).上述のような
上記の知覚型と考えられる神経細胞の他に,Honjin
神経繊維の二次変性像は,太い有髄繊維では術後比較
(195Dが廿日鼠小腸の粘膜下層及び筋層の両神経叢
的早い日数に出現し,これに対し細い無髄繊維では前
に見出した銀嫌性神経細胞にきわめて類似した細胞
者に比して梢ζ遅れて現われるのを常とする.
が,節状神経節内で,他の神経細胞群の間に小集団を
IV 右迷走神経頭蓋内切断
なして存在する(写真1∼7).この細胞は比較的小
a 二言状神経節
さな胞体を有し,形は一般に円形で,嗜銀性に乏し
節状神経節の中心部を下行する迷走神経三内に認め
【41】
624
泉
ε.呪
写
6.駅
町14
’・泥・5
魏塗
鰹,
磁ダ
1謙i
欝
4
欝
l・
鞍.
亀ρ.
高卑
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曜 ’一
、
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ii
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縣
ノ/叫繁
.ノ
、
拷
ノ
図 1,B 右迷走神経頭蓋内切断及び左迷走神
経頸部切断後における変性繊維の分
布を示す模式図
図 1,A 正常廿日鼠における迷走神経の走行
模式図
略 号 説 明
co.g,:腹腔神経節 cr.m.p.:上腸間膜動脈神経叢 d.g.p.:後胃神経叢 h.p.;肝神経叢
1,c.b.3左迷走神経の心臓枝 Lcd.n.:左上喉頭神経 1.n.9.=嘉節状神経節 1.o.b.:
左迷走神経の食道枝 1.pJb.:左迷走神経の肺枝 1∫.:左反回神経 1ご.P.;左腎神経叢
1.s.r.P.:左腎上体神経叢i 1沈.b.:左迷走神経の気管枝 1.v.: 左迷走神経幹 r.c.b.:右迷
r.cd.n.:右上喉頭神経 r.n.9.:右詫状神経節 r.o.b.:右迷走神経の食道
走神経の心臓枝
右迷走神経の三枝 r.r,:右反回神経 r.r.P.:右腎神経i叢 r.s.r.P.:右腎上
枝f.P.b.3
蛤t.b.:右迷走神経の気管枝 r.v.=右迷走神経幹 sLp.:脾神経叢 v・g・P・:
体神経叢
前胃神経叢
られる変性繊維の大多数のものは,周辺の神経細胞と
わりに終止することを示すものである.
は何等関係がない.節状神経節内に,通常の知覚型の
節状神経節の高さで,迷走神経幹に合流する副神経
神経細胞の他に,小型の銀嫌性神経細胞があり,これ
内側枝の神経繊維は,すべて二次変性に陥る.上頸神
に終る神経繊維の存在することは既述の通りである
経節と節状神経節との間の交通枝には変性繊維は認め
が,迷走神経頭蓋内切断に際して,この種繊維が二次
られなかった.
変性に陥る(図1,B, r. n. g.,写真5∼8).このこ
b 右迷走神経幹
とは延髄に発する迷走神経繊維の一部がこの細胞のま
術後右迷走神経幹を検すると,比較的多数の太い神
【42]
625
迷走神経内の遠心性神経繊維の末梢分布に関する実験的研究
経繊維と少数の細い繊維が二次変性に陥るの
多
「%6.
v戯
が見られる(写真9∼12).これら変性繊維
は,節状神経節下の頸部における断面におい
て,迷走神経の全群群の約%乃至%程度を占
める.後に反回神経となる極めて太い神経繊
戚、幽
εcr重・払
ぎ熱 酵
銑鋸,
幅.
維は,既に頸部迷走神経内において,一側に
偏して束状に集合して存在し,すべて重篤な
二次変性に陥るのが認められる(写真9).
その他の迷走神経領野では,変性に陥った神
経繊維の数が少なく且つ散在性に存するた
懲
亀 峨
瓢麟
三傷
ザ
籔
薦 粉
聯惣
乙四ム
zヂ。ム
i幽
め,変性後時日を経て変性繊維が消失した後
以・1
鞭
でも,正常なるものに比べ繊維密度において
著明なる差異を認めない.しかし乍ら変性後
.繍
ミ
増殖したSchwann氏細胞の核が,傷害され
二
ノ
ない正常な神経繊維間に認められる.
上記のように,反回神経は数根を以て迷走
神経幹より起るが,そのうちの大なる一三は
二次変性に陥った太い神経繊維と少数の正常
な細い繊維とからなり,二,三の小根は細い
繊維のみから構成され,この根内には変性繊
維は少ない(写真11).続いて胸部迷走神経
は,少数の変性繊維を含む多数の枝を,逐次
気管・気管支・肺・心臓及び食道に送る(図
図 2 右迷走神経の頭蓋内切断及び左頸部迷走
神経・左上喉頭神経切断後の喉頭及び気
管内の変性繊維の分布を示す模式図
では二次変性に陥った神経繊維は頸部迷走神
略 号 説 明
g・i・b. 上喉頭神経内枝の走行中の神経節
i.c.b. 喉頭神経叢と気管神経叢との間の交通
枝 (内側交通枝)
LcaJ.n.:左下喉頭神経
経のそれに比べ更に少なくなる(写真12).
1.cr.1.n,:左上喉頭神経
c喉 頭
1c覚h.b.:左上喉頭神経外枝の輪状甲状筋枝
1.d.b. :左下喉頭神経背側枝
1,B,r. v.).その結果迷走神経幹は,肺門部
以下においては,主として食道下部及び腹部
内臓へ走る神経繊維のみからなり,この部分
喉頭は迷走神経の上喉頭神経・下喉頭二刀
及び交感神経幹の上頸神経節からの小枝であ
る喉頭咽頭下等によって司配される.
術後右上喉頭神経内の約%程度の神経繊維
Le.b. :左上喉頭神経外枝
Le・c・b.:左上喉頭神経と左下喉頭神経との間の
交通枝(左外側交通枝)
1・i.b・ 左上喉頭神経悪罵
小なる外枝と大なる内兜の二枝に分れる.こ
1⊥b. 左下喉頭神経毒側枝
1・m・b・ 左上喉頭神経内枝の粘膜枝
1.p. 喉頭神経叢
LP・o・b・ 左上喉頭神経外枝の咽頭,食道枝
の際に,上喉頭神経内に認められる変性繊維
1.r. 左反回神経
に二次変性が認められた.甲状腺門葉の首側
端の高さで,喉頭側壁に近く,上喉頭神経は
はすべて外枝に走り,他の正常に残存する繊
維は内子となる.従って内枝は全く無傷の神
1沈,b. 左迷走神経の気管枝
玩h.b. 左上喉頭神経外枝の甲状腺枝
1.th.g. 左甲状腺神経節
経繊維のみによって構成され,外枝は二次変
r・caJ瓜 右下喉頭神経
性に陥った繊維からなる(図2,r.CLl.n。,
r.cr.1.n. 右上喉頭神経
写真13).変性した外枝は,喉頭の等外側壁
r.c航h.b.:右上喉頭神経外枝の輪状甲状筋枝
r.d.b. 右下喉頭神経背側枝
に沿って交感神経の一小枝と共に下り,甲状
r.e.b. 右上喉頭神経外枝
軟骨の尾側縁に達し,その変性繊維の大部分
r.e.c.b. 右上喉頭神経内枝と右下喉頭神経との
【43】
626
泉
間の交通枝(右外側交通枝)
d気 管
r.i.b. 右上喉頭神経内枝
迷走神経の気管枝は,右側では上部は反回神経よ
r.Lb. 右下喉頭神経外側枝
r・m・b・ 右上喉頭神経内敵の粘膜枝
り,下部は直接迷走神経幹から分岐する.左側では梢
ヒ趣を異にし,気管枝はすべて左反回神経より起る
r.P.o.b. 右上喉頭神経外枝の咽頭,食道枝
r.r. 右反回神経
(図1,A,1. t. b., r. t. b.).気管に分布する交感性
r.t.b. 右迷走神経の気管枝
繊維は,左右の心臓交感神経から交通枝を介して両側
r.th.b. 右上喉頭神経外枝の甲状腺枝
r・th・g. 右甲状腺神経節
tr.g. 気管神経節
tr.P. 気管神経叢
至4本の枝の迷走神経の気管枝は,対側の迷走神経気
の迷走神経及び反回神経に入る繊維に由来する.3乃
管枝及び交感神経の枝と交通し,更に気管の背側壁に
存在する多数の小気管神経節とも結合して,気管背側
を以て右輪状甲状筋に分布する.その他の変性繊維は
面で気管神経叢を形成する(図2,tr.9., tr. P・)・
更に内背側に走り,咽頭喉頭筋及び上部食道の筋層に
術後二次変性に陥る繊維は,右迷走神経気管枝・気
入る.甲状腺右回と右輪状甲状筋との間の結合組織内
管神経叢内の少数の神経繊維及び気管神経節内で細胞
に,小神経節が認められるが,この神経節内の神経細
周囲終末を作る繊維の一部であり(図1,B, r・t・b・,
胞に終る神経繊維にも二次変性が見られる(図2,r.
図2,fr。9., tr. P.,写真20,23),気管粘膜・筋層・
e.b., r. th, g,).この変性実験で変性に陥らず正常
壁内血管等に分布する神経繊維は変性を示さない.気
な繊維のみからなる内枝(図2,r. i. b.)は,上喉頭
管神経叢内の変性繊維の一部が,気管背側壁に接する
動脈と交感神経の一小枝を伴い,甲状軟骨二二にある
食道の筋層内に入るのを認める.気管神経叢は,上方
小孔を通って喉頭内に入り,喉頭の粘膜及び喉頭腺に
は喉頭背側壁の粘膜下組織にある神経叢と(図2,1.
分布する数本の終枝に分枝する.そのうちの一小枝は
p.,i. c. b.),下方は肺神経叢と夫々交通しているが,
甲状軟骨音板の内側面に沿って下行し,同側の下喉頭
喉頭との交通枝内には変性繊維は認められなかった.
神経と交通する(図2,二e.c. b.).内枝の分岐部及
気管下部の二次変性に陥る神経繊維は,気管上部のも
び走行に沿って小神経節がある(図2,9・i・b.).
のに比し多い.
下喉頭神経は反回神経の上枝として,輪状軟骨と輪
e気管支及び肺
状甲状筋との間を上行し,喉頭内に入る.
迷走神経肺枝は多数の小枝として直接胸部迷走神経
手術後右下喉頭神経を検すると,極めて少数の非常
幹から起り,気管:支の腹側面と背側面に沿って,途中
に細い繊維を除き,他のすべての神経繊維が二次変性
気管支壁に繊維を与えつつ肺門部に至り,ここで心臓
に陥るのを見る(写真14).喉頭内で,下喉頭神経は
交感神経及び心房神経叢の肺枝と共に,前・後肺神経
外側枝及び背側枝の二枝に分れるが,右外側枝は下側
叢を形成する(H:onjin,1954).肺神経叢から出る神
の甲状披裂筋・外側輪状披裂筋及び披裂筋にその繊維
経繊維は,気管支枝・気管支動脈・肺静脈等の周囲に
を与え,素謡側枝は右後輪状披裂筋と咽頭下部及び食
神経叢を形成しつつ民力に入る(図1,A, r. p. b・,1
道上部の筋層内に分布する(図2,r. d. b., r.1. b.).
p.b.).肺神経叢内及びその肺内枝の所々に多数の小
これらの喉頭・咽頭及び食道の筋組織内に入る神経繊
神経節を認める.
維は,その終末部の運動性終板に至る迄変性に陥る
頭蓋内右迷走神経切断により二次変性に陥る神経繊
維は,三二の迷走神経肺枝を通り,三内に入る(図1,
(写真ig).
既述のように,喉頭の背側外側面に上喉頭神経内枝
と下喉頭神経との間の小交通枝が存在するが,この変
性実験においては交通枝内の神経繊維には変性が認め
られなかった(図2,で.e. c. b.).以上の所見からし
て,術後変性に陥る繊維は,同側の喉頭筋,咽頭下部
並びに上部食道の筋層に分布する繊維であり,喉頭の
B,r. p. b.).肺枝内に認められる変性繊維の数は,個
々の肺枝により異なり,少数の変性繊維を有するもの
多数有するもの等差異があるが,一般に少数である場
合が多い(写真21,24).かかる肺枝内の変性繊維の
一部は,前・後肺神経叢内神経細胞の周囲に終止し
(写真21),その他の変性繊維は更に心内に入り,気管
支枝周囲神経叢内の神経細胞に終るのが認められる
全粘膜・喉頭腺・喉頭内血管更に対側の喉頭筋等に分
(写真22,25).気管支,気管支枝の粘膜や筋層内に分
布する神経繊維は,全く変性に陥らぬことが明らかで
布する神経繊維には二次変性が見られなかった.更に
気管支,気管支枝等の壁に存する血管に分布する繊
ある.
【44】
627
迷走神経内の遠心性神経繊維の末梢分布に関する実験的研究
維,肺静脈周囲神経叢及び気管支動脈周囲神経叢内の
乍ら心房神経叢から出て,心房・心室の筋層・心内高
神経繊維には手術による影響は認められない.
等へ走る神経繊維及び心臓に出入する大小の動静脈に
f心 臓
伴行ずる神経繊維には,頭蓋内迷走神経切断の後,何
廿日鼠では,迷走神経心臓枝は,反回神経の分岐部
等の変化が認められなかった.
から食道に達する闇の迷走神経幹から2乃至3本の小
9 食 道
枝として分枝し,心房神経叢に入る(図1,A, r. c.
廿日鼠食道の筋層はその全長に亘り横紋筋繊維から
b.,1.c. b.).心房神経叢は心房の心外膜下組織内で,
構成される.食道に分布する迷走神経繊維は,頸部で
左心房の静脈洞隆起を取囲むが如くに,互に神経によ
は反回神経,上喉頭神経外枝の一部,胸部・腹部にお
って交通する多数の小神経節と迷走神経及び交感神経
いては迷走神経幹からの食道枝に由来する(図1,
の心臓枝によって構成される.
A,r. o. b.,1. o. b.)・これらの神経繊維は交感神経繊
手術後記側の迷走神経心臓山内の極めて少数の神経
維と共に,食道の外膜において,食道神経叢を形成す
繊維が頼粒状又は桿状に離断し,後消失するのを見る
る,神経叢から起る繊維は食道壁に入り,少数のもの
(写真26∼28).心房神経叢i内では静脈洞の左側,左右
は筋層内の銀嫌性神経細胞の周囲に細胞周囲終末を作
心房間溝,静脈洞隆起の右側,右肺静脈の基部等に存
って終り,他の大部分の繊維は両筋層内で運動性終板
在する心房神経節の神経細胞の周囲に終止する繊維の
に類似した形態の終末を以て筋細胞表面に終止する.
一部が二次変性に陥るのを認める(写真28).しかし
食道では筋層神経叢の神経節は転職性神経細胞のみか
図3, A
図3, B
刀』. 2括.
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ム1%.
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璽,、 ・
a鷹.
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図 3,A 頸部迷走神経切断後の食道内における変性繊維の分布を示す模式図
図 3,B 頭蓋内迷走神経切断後の食道内における変性繊維の分布を示す模式図
略 号 説 明
e.m.:外筋層 i.m.:内筋層 m.:粘 膜 m.p.:筋層神経叢 v.n.f,:迷走神経繊維
ら構成され,消化管の他の部に比し神経細胞が少なく
壁に多く認められ,対側においては殆んど見られな
且つ又小さい.粘膜下神経叢内には神経節が存在せ
い.
ず,その神経繊維の数も非常に少数である.
h 胃
頭蓋内切断により二次変性に陥る神経繊維は筋層神
廿日鼠の胃は,肉眼的にも顕微鏡的にも,二つの異
経叢内の績胞周囲終末(写真3D及び筋細胞に終る繊
なった部分からなる.胃の左上方の梢ヒ広い,白色を
維であり(写真29,30),粘膜下組織及び三内血管等に
呈する部即ち前払は組織学的に食道壁と同一の構造を
分布する繊維には変性は認められなかった(図3,B).
有する.この部では筋層神経叢は著明であるが,粘膜
個々の迷走神経食道回内の繊維も,その大部分のもの
下神経叢はその形成が不著明である.これに反し,前
が二次変性に陥る.かかる食道内の変性繊維は,手術
胃より末梢側に存し,これより梢ヒ小さい赤色を呈す
側の右反回神経及び右迷走神経の走行に従い,頸部・
る部,即ち腺胃は固有の胃の構造を有し,小さな漿膜
上胸部では右食道壁に,又下胸部・腹部では背側食道
下神経叢と大なる筋層神経叢iが存在し,これらの神経
【45]
628
泉
叢から胃壁は神経繊維の分布をうける.腺胃の粘膜下
れるが,その他の二二粘膜下では神経節を形成せず,
組織内の神経繊維は前記に比し多く,腺胃において始
散在性の神経細胞として認められる.前胃及び腺胃に
めてその中に粘膜下神経節が出現する.幽門に近い部
おいて,これらの神経叢の形成に参加せずに,直接筋
分では2乃至4個の神経細胞の集団として少数認めら
層内或いは粘膜下組織に走る少数の外来神経がある.
9¢・εき・
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図
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図 4,A 頸部迷走神経切断後の胃壁内変性繊維の分布を示す模式図
図齢4,B 頭蓋内迷走神経切断後の胃壁内変性繊維の分布を示す模式図
略
号 説 二
外筋層 91.st,: 腺
才 i.m.: 内筋層 m.: 粘
pr.v.:前 胃
筋層神経叢
v.n.f.:
迷走神経繊維
s.m.p.:粘膜下神経叢 s・s・P.
e.m. ’
膜 m.P.:
漿膜下神経叢
迷走神経頭蓋内切断後,前胃では食道におけると同
に見られる変性繊維(写真32)の少部分は,漿膜下神
様に,筋層神経叢内に限って,神経繊維の変性像が認
経叢内銀嫌性神経細胞の周囲に終止するも(図4,B,
められる(図4,B, pr, v., m, P.,写真33).即ち神経
gl, st, s. s. P.,写真34,35),他の大部分の変性繊維
叢内の神経繊維及び銀嫌性神経細胞の周囲に終る繊維
は胃壁の筋層内に入る.筋層神経叢内の神経繊維及び
の大部分は二次変性に陥る.腺胃では,漿膜内の神経
この神経叢の銀嫌性細胞の細胞周囲終末の大部分は二
【46】
629
迷走神経内の遠心性神経繊維の末梢分布に関する実験的研究
次変性に陥るが,なお少数の正常に残存する繊維を認
り,その大部分の繊維を以て腸筋神経叢及び粘膜下神
める(図4,B,91. st., In. P.,写貞36,37).頭蓋内
経叢の形成に参加する.両神経叢から起る繊維が小腸
右迷走神経切断後に二次変性を示す神経繊維は,前記
壁に分布する.又外来神経の一部のものが,両神経叢
においても追払においてもその背側壁に多く,腹側壁
と関係なしに,直接筋層内に分布する.
に少ない.又胃壁内に認められた変性繊維の数は,同
頭蓋内で右迷走神経切断後,小腸を検すると,食道
様な処置後消化管の他の部位に見出されるものよりも
や冑と同様に,腸筋神経叢内の少数の神経繊維が頼粒
多い.以上のように変性に陥る神経繊維は,筋層神経
状に離断し二次変性に陥るのを認めるが,粘膜下神経
叢に限られ,筋細胞に終止する繊維,粘膜下組織,壁
叢内の繊維及び粘膜・内外両筋層・腸壁内血管等に分
内血管等に分布する繊維等には二次変性像が認められ
布する神経繊維は正常に残存する.腸筋神経叢内の銀
なかった.
嫌性神経細胞の細胞周囲終末は,この変性試験では,
i小 腸
かなり多数のものが二次変性に陥っている(図5,B,
腸間腸を通り小腸壁に達した神経は,小腸壁に入
m.p.,写真38∼40).
図5, A
図5, B
_隅囎
⑳
糀.
1蹴。
. 甑ρ・
遷、響 ε.πし.
「
「
v:結ず・
凱κヂ
図
図
5,A 迷走神経頸部切断後の小腸内変性繊維の分布を示す模式図
5,B 迷走神経頭蓋内切断後の小腸内変性繊維の分布を示す模式図
略 号
e.m.=外筋層 i.m.●内筋層
s・m・P・:粘膜下神経叢 v.n.f.:
説 明
m.: 粘 膜 m.P.・ 筋層神経叢
迷走神経繊維
j その他の腹腔諸臓器
V 左迷走神経頭蓋内切断
胃・小腸の他に迷走神経繊維の分布をうけると考え
左迷走神経を頭蓋内で切断した後の末梢における変
られる肝臓・脾臓・膵臓・腎上体・腎臓等の腹腔諸臓
性繊維の分布は,右迷走神経の切断後の所見に略ヒ類
器内の神経を肝神経叢・脾神経叢・腎上体神経叢・腎
似するが,左右が逆位を示すほか,二,三の差異が見
神経叢等と共に検索した.連続切片を作り,入念に検
出される.その要点を列記すれば次のようである.
索したが,すべての変性試験において,これら臓器及
a.喉頭・気管・気管支及び肺では,二次変性はこ
び神経叢内に,二次変性に陥れるが如き像を示す繊維
れら各臓器に走る左迷走神経の枝の内に認められる.
を見出し得なかった(図1,B)
臓器内での変性繊維の分布は,右迷走神経切断の場合
【47コ
630
泉
の所見と全く一致する.
認められる(図2,1.cr.1, n.,1. m. b.,9. i. b.),喉
b.心臓では心房神経叢に走る左側迷走神経心臓枝
頭内で正常に残存する神経繊維は,上頸神経節からこ
内に,非常に少数の二次変性に陥る繊維を認める.変
こに来る交感性繊維と,局所神経節内神経細胞の末梢
性繊維は心房神経叢内の左肺動脈溝及び肺静脈棊部に
突起で,非常に細い繊維が固有層・血管周囲・喉頭半
ある神経節の神経細胞周囲に終止する.
死に分布している.外枝の神経繊維は切断部位の如何
c.食道内の変性に陥る神経繊維は,左迷走神経及
び左反回神経の走行に従い,頸部では左側の,下胸部
に関らずすべて変性し,常に同一の結果を示した(図
2, 1.e, b.),
下喉頭神経も外枝と同様に,神経節’ド頸部切断後,
・腹部では腹側の食道壁に多く認められる.
d,前胃・誉田共に変性に陥る神経繊維は,その腹
頭蓋内切断の場合と同一の二次変性所見を示す(図2,
Lca.1.n.).即ち少数の交感性繊維と考えられる細
側壁に多い.
e.小腸では右迷走神経変性実験の例に比べ,左迷
い繊維が正常に残存するのみで,他はすべて変性に陥
走神経頭蓋内切断後に腸筋神経叢内に認められる変性
る.喉頭筋内での変性繊維の分布も,頭蓋内切断の場
繊維は梢ζ少ない.
合と同様である.
VI 特配神経節下における迷走神経
頭蓋内迷走神経切断後変性に陥らない,内枝と下喉
幹,上喉頭神経,友回神経等の
頭神経との間の小交通枝内に,神経門下頸部切断及び
切断実験の所見及びこれと頭蓋
上喉頭神経切断後に二次変性に陥る神経繊維を認め,
内切断実験の所見との比較
変性繊維の一部は喉頭尾側縁で下喉頭神経に会した後
頭蓋内迷走神経切断後に各種臓器内に見られる変性
直ちにその末梢は上部食道壁に入る(図2,1.e. c.b.,
繊維の分布と,節状神経節下頸部で迷走神経を切断し
写真15).更に気管神経叢と喉頭神経叢との間の交通
た後の諸臓器内変性繊維の分布との比較は,この両切
枝管には,上喉頭神経,頸部迷走神経及び反回神経の
断部位間に位置する節状神経節に起姶細胞を有する神
夫々の切断後にはじめて変性が認められる(図2,i.
経繊維の末梢分布を明瞭ならしめるであろう(前述の
c.b.).上喉頭神経又は頸部迷走神経の切断後に交通
ように廿日鼠には独立した頸静脈神経節が存在しな
枝内に見られる変性繊維(写真16,17)は,反回神経
い).このために,既述のように,節状神経節下にお
切断後に認められるもの(写真18)に比べて少ない,
ける二又は左迷走神経切断,更に上喉頭神経,反回神
このことは反回神経の切断に際して,迷走神経繊維の
経の切断実験を行い,切断後1乃至10日に見られる変
他に星状神経節由来の交感性繊維も同時に切断される
性繊維の末梢分布を検索した.
ためと考えられる.上喉頭神経と反回神経とを同時に
a迷走神経幹
切断した後にも,なおかなりの数の正常に残存する神
迷走神経を頸部で切断した後には,切断部位より末
経繊維が認められる.これら正常に残存する繊維は,
梢の神経幹内の神経繊維は,きわめて少数の細い繊維
手術側と対側の上喉頭神経並びに反回神経に由来する
を除き,他は悉く二次変性に陥る.胸腔の上部で迷走
繊維及び気管や喉頭にある神経節細胞の突起と解され
神経から起る反回神経も少数の細い星状神経節由来の
る.上喉頭神経切断後,気管上部の粘膜に変性繊維が
交感神経繊維を除きすべて二次変性を示す.廿日鼠迷
見られ,頸部迷走神経・反回神経の切断後には変性繊
走神経は,既に述べたように,星状神経節の近くで
維は交通州内を上行し,喉頭下部の粘膜に達してい
心臓交感神経に由来する交感性繊維をうけ入れ,又
:H:onjin(1956 b)が報告しているように,頸部・胸部
る.
の迷走神経幹回にかなりの数の神経細胞が存在するた
c気 管
頸部迷走神経切断後,二二の迷走神経気管枝骨の繊
め(写真io),この切断実験を行った後でも,少数の
維は,伴行ずる交感性繊維を除き,殆んどすべて二次
神経繊維は変性に陥らず正常に残存する.
変性に陥る.これらの変性繊維は気管神経叢に走り,
b 喉 頭
気管神経節の神経細胞の周囲に終止する他に,気管の
神経節下頸部切断では,上喉頭神経内の繊維はすべ
粘膜にも分布する.これに反し,先の頭蓋内切断例で
て二次変性に陥る.先の頭蓋内変性試験で変性に陥ら
は,気管門内の変性繊維は少数であり,気管神経叢の
なかった喉頭粘膜に分布する繊維もこの実験では変1生
みに限ってその存在が認められ,粘膜には見られな
に陥る.喉頭内神経節の細胞周囲終末にも二次変性が
い.
【48】
迷走神経内の遠心性神経繊維の末梢分布に関する実験的研究
631
d気管支及び肺
叢内に認められる二次変性に陥った神経繊維は,同神
気管の場合と同様に,頸部迷走神経切断例の方が,‘
経頭蓋内切断例で認められるものに比べ,その分布及
頭蓋内切断例よりも,二次変性に陥る肺三内の神経繊
び数において大差は認められない(図4,A, B).し
維が多い.頸部切断の場合,二二内の大多数の繊維が
かし乍ら頸部で切断した場合には,腺胃に存在する少
変性する.二二では,この場合,気管支周囲の神経叢
数の粘膜下神経叢の神経細胞に終る神経繊維が更に変
及び気管支枝周囲神経叢内の多数の神経繊維・肺静脈
性に陥るのを認める.変性繊維が右側迷走神経切断の
周囲神経叢及び気管支動脈周囲神経叢内の少数の繊維
場合には背側壁に,左側切断後には腹側壁に多いこ
・肺門及び二二神経節の神経細胞周囲終末・気管支並
びに気管支枝の粘膜内神経繊維等に二次変性が認めら
と,又粘膜下層や壁内血管に分布する神経繊維が二次
変性に陥らぬことは,両変性実験において同一であ
れた.頭蓋内切断の際には,気管支及び気管支枝周囲
る.
の神経叢内の細胞周囲終末のみが変性に陥る.
h 小 腸
e 心 臓
Honjin(1951)は廿日鼠の頸部迷走神経を一側又は
頭蓋内迷走神経切断の時とは異なり,頸部で切断す
一側切断後一定時後対側で切断後,小腸内の二次変性
ると,迷走神経心臓枝は,少数の細繊維を除き,他は
に陥る神経繊維の分布を検索し,腸筋神経叢,粘膜下
すべて二次変性に陥る.変性繊維は心房神経叢に入
神経叢内の銀嫌性神経細胞に終る繊維に変性が認めら
り,神経叢中の種々の部位に存在する神経節の神経細
れ,その他の筋層内繊維,粘膜下層・門内血管等に分
胞周囲に終止する.又この場合心房神経叢より起り,
布する繊維は変性に陥らぬことを報告している.筆者
左右の肺静脈に伴擁して肺神経叢に走る小神経束に
の二二神経節下迷走神経切断後の小腸の所見は全くこ
も,少数の変性繊維を認める.両変性実験において,
れと一丁目ている.筆者の頭蓋内における切断後には
共に,心臓組織内では変性に陥った神経繊維を見出し
変性繊維の認められるのは腸筋神経叢内に限られてい
る(図5,A, B).
得なかった.
f食 道
食道に関しては,頭蓋内及び頸部での二つの迷走神
iその他の腹腔諸臓器
経切断実験に基づく所見の間に著しい差異を見出し得
部で切断後,肝臓・脾臓・膵臓・腎上体及び腎臓の神
なかった(図3,A, B).即ち何れの部位で迷走神経
経叢内並びにこれら臓器内の神経中に二次変性に陥っ
を切断しても,二次変性に陥る繊維は筋層内神経繊維
た繊維の存在を認め,左迷走神経と右迷走神経のこれ
Shimizu(1953)は廿日鼠の右又は左迷走神経を頸
のみで,粘膜下層及び山内血管に分布する繊維は正常
らの臓器に対する関係には,何等の本質的差異を見な
に残存する.又筋層内でも,正常に残存する少数の繊
いと述べている.筆者の頸部迷走神経切断実験の所見
維を認めるが,これらの繊維は極めて細い.
はSimizuのそれに略ζ一致する.筆者の頭蓋内切断
9 胃
実験例では,上述のように二次変性に陥った繊維を見
頸部で迷走神経切断後,漿膜下神経叢及び筋層神経
出し得なかった(図1,B).
按
考
迷走神経の構築に関する過去の報告を通覧すると,
存在部位としで,多くは節状神経節をあげているが,
迷走神経はその繊維構成上混合性であり,遠心性繊維
なお異論が多い.迷走神経の遠心性繊維を論ずるに当
は延髄迷走神経背側核及び疑核に起始細胞を有し,求
って,二二神経節及び頸静脈神経節内に遠心性繊維の
心性繊維はi頸静脈及び節状の両迷走神経幹神経節の細
起始細胞が存在するか否か,換言すれば迷走神経の個
胞より起始するといわれている.既に触れたように,
々の末梢枝内の植物性遠心性繊維申に,これら神経節
迷走神経の遠心性繊維の起始核から二二諸臓器に至る
内に起始細胞を有する所謂節後繊維が存在するか否か
迄の走行中に,終末神経節(terminal ganglion)の他
が,重要な論争点となっている.
に,なお介在神経細胞があると主張するもの,或いは
普通頸静脈及び節状の両神経節は,脊髄神経節型の
全く存在しないと述べているもの等種々な報告が見ら
偽単突起細胞のみから構成され,迷走神経の求心性繊
れる.介在神経細胞の存在を主張する研究者は,その
維はこの種細胞に起始して末梢及び中枢に走り,迷走
【49】
632
泉
神経遠心路はこれを通過するのみで何等特別の関係が
は節状神経節を交感性と考え,Morgan&Goland d 9
ないといわれている.しかし乍ら迷走神経中には両神
32)は迷走神経の心臓運動繊維はこの神経節に起ると
経節殊に節状神経節に起始細胞を有する運動繊維が存
述べている.H:einbecker&0’Leary(1933 a, b)は,
在するという変性実験及び生理学的方面からの示唆に
猫・家兎・犬等を用い,変性実験・電気刺戟・オッシ
応、じて,多数の研究者が多極神経細胞を求めて,両神
ョログラフ等による検索で,synapsisが弓状神経節
経節を検索した.Mu 11er(1911)は入の頸静脈神経節
に存在するという確証は得られなかったが,中枢突起
に少数の多極神経細胞を認め,その軸索突起は肺・心
と末梢突起とを有する運動性の細胞が二二神経節に存
臓・胃等に分布すると述べている.M廿11efによると,
在すると述べている.猫の回状神経節内の細胞数と,
迷走神経背側核に起り,気管・心臓・胃等を支配する
神経節より申枢及び末梢部位の迷走神経幹の総記丁数
自律神経路は,すべて頸静脈神経節内か又は各々の臓
を調べたJones(1935,1937)及びTomonaga(19
器周辺に存在する終末神経節内かの何れかにおいて中
41)は,それら相互の比から二二神経節の細胞の一
断されているという.K:iss(1932)はオスミューム酸
部は運動性であるとの推定を下し,Heinbecker&
法により,人及び種々の哺乳動物の両神経節を検索
O’Learyの見解を支持している.呉・神中及びその学
し,両神経節の細胞をその形態・大いさ及び染色性に
派(1947)は,副交感性の遠心性繊維が節状神経節に
より,交感性の多極神経細胞と通常の知覚型とに分類
介在神経細胞を有することを,頭蓋内迷走神経切断
した.そして神経細胞は頸静派神経節ではその大部分
実験及びsynapsis遮断剤を用いての電気刺戟実験に
が交感型であり,節状神経節ではその大部分が知覚型
基いて主張している.これに反し,Noon(1900),
からなり,その間に交感型が散在すると述べている.
Langley(1900,’1903 a, b), Richardson&Hinsey
これに対し,Levi(1932), Fisher&Ranson(1933)
(1933),Ranson, Foley&Alpert(1933), Daly&
等は,Kissの使用した方法が神経細胞の多極性を証
Evans(1953), Mohiuddin(1953), Evans&Murray
明するに不適当なることを述べ,Cala1並びにBiels・
(1954)等は,入及び各種脊椎動物の迷走神経の組織
chowsky等の染色法によると,神経節はT字形の神
学的検索及び種々の部位における切断による変性実験
経突起を有する知覚性neUfonからのみ構成されると
に加うるに,全く変性に陥った神経繊維の電気刺戟に
報告している.MUIIer(1911), Nordkemper(1921)
よる各種臓器の反応を検し,信心神経節内のsynapsis
等も剛節状神経節に多極神経細胞を認めないと記載
の存在を否定している,
し,Ranson, Foley&Alpert(1933)は,節状神経節
以上のように,諸家の報告には著しい差異が認めら
には通常の単極神経細胞の他に,多くの有窓型細胞や
れ今日なお定説とするものがない.その原因を考える
終末球に終る突起を有する若干の細胞を見るが,交感
と,第一に従来の神経繊維の変性試験は主に有髄繊維
神経節に見られるような多突起の細胞は見られないと
の髄鞘の変性を見たものが多く,従って変性所見は有
述べている.更に彼等は節前繊維によって形成される
髄繊維に限られ,軸索染色法によった場合でも軸索の
細胞間神経叢やsynapsisの存在をも否定している.
変性消失後の陰性所見によったので,軸索変性の陽性
これに反し,哺乳類の節状神経節に相当するAcan・
所見に欠けていること,第二に各種薬物又は電気刺戟
thias vulgarisの鰐溝神経節(Epibranchial Gang・
実験はその濃度及び刺戟閾値によって各種の動物の種
Iion)を検索したMd11gaard(1911,1912)は,その
々の神経繊維に対して同一の作用を示すかどうかが疑
中に迷走神経背側核からの繊維が入り,分枝した後神
問であること等が考えられる.少数の遠心性繊維が回
経節内の所々に小群をなして存在する特有の小型神経
状神経節内でsynapsisを作るとしても,上記諸家の
細胞の周囲に終るのを認めた.彼は更に猫の四丁神経
行った方法によってその存在が確認されるか否かは頗
節に通常の単突起細胞の他に少数の多極神経細胞を証
る疑問である.事実Langley(1903 a)も告白してい
明し,背側核摘出後節状神経節より末梢の迷走神経中
るように,synapsis遮断剤としての「ニコチン」の作
に変性繊維を認めないことから,遠心性繊維が節状神
用は,動物の種属更には同一三二でも個体により異な
経節内で中断されると考えた.Kidd(1914)は迷走神
り,同一の動物でも神経節が異なると作用が等しくな
経内の内臓運動繊維は,頸静脈及び節状の両神経節内
いから,これを使用した実験成績の判定には慎重を要
でsynapsisを形成するという点で, M611gaardの見
する.これに反し,筆者の行った変性実験検索は,軸
解を支持している.そのほかGaskell(1886,1889)
索の陽性変性所見に基くから,その結果は確実であ
【50】
迷走神経内の遠心性神経繊維の末梢分布に関する実験的研究
633
る.過去における陰性所見に基く推定は,従来の神経
としている.Langley(1900),McSwiney&SpurreU
繊維染色法がきわめて気紛れで恒常な成績を示さない
(1933)等は,有髄の節前繊維が弓状神経節を通過す
点から考えると,俄かにこれを信ずることは出来な
る際にその髄鞘を脱して無髄繊維になるとの推定を下
い.
している.筆者の所見によれば,交感性繊維は上頸神
廿日鼠の節状神経節の神経細胞の大多数は,従来か
経節との交通枝及び星状神経節との交通枝を介して,
ら知覚型とされている大型の偽判突起細胞と双極細胞
夫々頸部及び胸部にて迷走神経に入るも,その数は迷
であるが,これらの細胞間に小集団をなして小型の1
走神経全体の繊維数に比して非常に少なく,且つ頭蓋
乃至4本の突起を有する銀嫌性神経細胞が存在するこ
内で迷走神経を切断した後多数の無髄繊維が二次変性
とが筆者の検索によって示された.この細胞はHonjin
に陥ることは,大多数の無髄繊維が延髄に起始し,一
(1951)が迷走神経の節後繊維を出す細胞として廿日
部の無髄繊維が交感神経及び回状神経節内の小型細胞
鼠小腸の粘膜下及び腸筋神経叢内に認めた銀嫌性神経
に由来することを示している.頭蓋内切断後胸部迷走
細胞と同一性格の細胞であり,M6Ugaard(1912)が
神経内の無髄繊維に変性を見た筆者の検索結果は,最
猫の節状神経節に見出した多極神経細胞もこの細胞に
近のDaly&Evans(1953)及びEvans&Murray
他ならない.更にこの種細胞の表面に迷走神経の節前
(1954)の所見とも一致する.
繊維の一部が終止し,迷走神経を頭蓋内で切断する時
Ranson, Foley&Alpert(1933), DuBois&Foley
にはこの繊維及び終末が二次変性に陥ることが今回筆
(1936)は,切断実験に基いて,運動繊維と知覚繊維
者の実験によって明瞭となった.このことは延髄に発
の分布を検し,反回神経を除き,二二神経節より末梢
する迷走神経の遠心性繊維の大多数は,七三神経節の
部の迷走神経幹及びその頸部の枝においては,知覚繊
神経細胞とは何ら関係なくこれを通過するが,その一
維が圧倒的に多いことを示したが,胸部及び腹部の迷
部は掌状神経節内の小型銀嫌性細胞の周囲にsyna・
走神経には全く触れていない.猫の迷走神経の頭蓋内
psisを作って終止することを明示するものである.
切断実験を行ったHeinbecker&O’Leary(1933 a, b)
迷走神経幹内の無髄神経繊維が節状神経節より末梢
は,喉頭筋の運動三組及び心臓への自律神経繊維は変
部において急激に増加することは,諸家の…致した所
性に陥るが,肺及び腹部内臓へ走る運動及び知覚繊維
見であるが,この増加する無髄繊維の由来に関して
は二次変性に陥らないと記載している.筆者の所見か
は,必ずしも意見の一致を見ているわけではない.
らすると,H:einbecker&0’Learyの三枝及び腹部
入の迷走神経を検:索したKliss(1931)及びKiss&
内臓枝の所見はきわめて疑わしい.頭蓋内切断を行っ
MihaHk(1931)は,交感神経上弓神経節からの多数
た後の胸部及び腹部迷走神経の繊維構成に関しては,
の繊維が交通枝を介して頸部迷走神経に加わることが
Mohiuddin(1953)は猫で全繊維数の約5%が, Evans
増加の原因であると説明し,特にKissは迷走神経内
&Murray(1954)は家兎で約10%が二次変性に陥る
の無髄繊維はすべて交感性であるとした.鈴木(1935)
と報告している.筆者の所見はEvans&Murrayの
は犬で頸部交感神経節摘出後迷走神経の無髄繊維が殆
記載と略ζ一致し,頭蓋内切断後,頸回迷走神経では
んどすべて二次変性に陥り,丁丁神経節より中枢側で
神経領野の丁丁乃至%の繊維が二次変性に陥り,殊に
迷走神経を切断するも,無髄繊維は変性に陥らないと
著明な変性領域は反回神経となる繊維によって占めら
述べている.これに反し,Ranson(1914),Chase(19
れた部に見られ,その他の領野では散在性に認められ
16),Ranson&Mihalik(1932), Jones(1932),
た.胸部・腹部の迷走神経では頭蓋内切断後二次変性
Ranson, Foley& Alpert(並933), Heinbecker&
に陥る神経繊維はきわめて少ない.頭蓋内切断のこの
0’Leary(1933 a, b),長谷(1940)等は,頸部交感神
所見と同時に筆者が行った迷走神経の節状神経節下頸
経節摘出実験及び節状神経節上又は下における迷走神
部切断所見を比較し,更に繊維の終末形態とを考慮す
経の切断実験に基き,迷走神経内の無髄繊維の大多数
るならば,迷走神経核に由来する遠心性神経繊維は,
は迷走神経に属し,少数が当外神経節との交通枝に由
喉頭筋に分布する運動繊維と所謂副交感性節前繊維と
来する交感神経繊維であると述べ,GaskeU(1886,
からなり,後者の一部は節状神経節内の細胞に終止す
1889)は胸部迷走神経の無髄神経繊維が節状神経節の
るが,大部分は頸部・胸部及び腹部の諸臓器に走るこ
細胞に発する節後繊維であることを指摘し,呉・神中
とが明らかである.迷走神経根を切断後二次変性に陥
等(1947)も亦無髄繊維を副交感性の節後繊維である
る迷走神経繊維が,胸部及び腹部において少ないこと
【51】
634
泉
と,迷走神経の既知の広汎な内臓司配とを如何に調和
を示している.
させるかについては,Foley&DuBois(ユ937)もい
下喉頭神経に関しては,Heinbecker&0’:Leafy(1
うように,迷走神経においては知覚繊維に比して所謂
933b), DuBois&Foley(i936)は猫で,天木(194
節前繊維の数は少ないが,なおかなり多数のものが存
1)は犬で,Evans&Murray(1954)は家兎で,夫々
し,しかも一本の節前繊維が多数の節後繊維に連絡す
頭蓋内で迷走神経切断を行った後,下喉頭神経の繊維
ることによって容易に説明し得る.筆者の検索によっ
が少数の細い繊維を除いてすべて二次変性に陥ると述
て明らかにされた,一部の遠心性繊維が節状神経節内
べている.Evans&Murrayはこれら残存する繊維を
交感性節後繊維とみなし,DuBois&Foleyは知覚性
の小型細胞に終止し,この細胞の突起が節後繊維とし
て末梢に走るという事実は注目に値すると思う.
の細い有髄繊維と考えた.筆者等め廿日鼠についての
DuBois&Foley(1936)は猫で,天木(1941)は犬
切断実験では,頭蓋内切断後の所見と頸部切断後の所
で,夫々頭蓋内で迷走神経を切断後,上喉頭神経外枝
見とが全く一致し,常に少数の残存する繊維を認め
に多数の二次変性に陥った繊維を認めたが,猫で同じ
た.即ちこの種繊維は知覚性ではなく,交感性の繊維
実験を行ったRanson, Foley&Alpert(1933)は上
と考えられる.廿日鼠喉頭において輪状甲状筋を除く
喉頭神経に変性繊維を見出すことが出来なかった.廿
すべての喉頭内野が,その運動繊維を下喉頭神経から
日鼠における筆者の実験結果は,DuBois&Foley,
うけることは,他の動物における諸家の所見に一致す
天木の所見に略ζ一致し,上喉頭神経外枝にのみ二次
変性に陥る繊維を認めた.筆者の所見は更に外枝は輪
る.
上喉頭神経と下喉頭神経との間の交通枝について多
状甲状筋,咽頭喉頭筋及び上部食道の筋層に分布する
数の報告がある.K:andarazki(1881), Onodi(1902),
他に,甲状腺と輪状甲状筋との間に存在する小神経節
Lemere(1932 b), Voge1(1952)等の犬について検
の神経細胞とも関係する繊維を含み,この神経節の
索した結果によると,この交通枝即ち所謂Galen氏
節後繊維は,外枝に伴行ずる交感性繊維と共に,甲
吻合は,上喉頭神経内枝由来の繊維から構成され,上
状腺内に入ることを示している.筆者のこの所見は
喉頭神経気管枝及び副反回神経となって気管粘膜に分
Nonidez(1931), Lemere(1932 a)の推定を実証し
布するという.人のこの交通枝については,:Lemere
たものである.既にKakeshita(1927)は刺戟実験に
(1932b)はこれが比較的重要性に乏しいもので,食
よって上喉頭神経内に副交感性繊維の存在を暗示し,
道上部及び咽頭の粘膜に分布すると推定している.こ
Nonidez(1931),Lemere(1932 b)等も亦これに賛し
の交通枝(外側交通枝)の他に,Lemereは更に喉頭
たが,筆者の所見において,内枝の走路に沿って少数
粘膜面に神経叢状をなす上喉頭神経と反回神経との問
の小神経細胞が存在し,これに細胞周囲終末を形成し
の神経交通(内側交通枝)を認めているが,彼はこの
て終止する繊維が,上喉頭神経切断後はじめて変性に
交通枝が呼吸道の他の部位の粘膜面に認められる神経
陥ることは,この種神経細胞の節前繊維は,節状神経
叢と同様なもので,特異な章義をもたぬものと考え
節の銀嫌性神経細胞の突起と解することが妥当である
た.廿日鼠における吻合はHonjin(1954)によって
ことを示している.三枝の繊維の大部分が知覚性であ
指摘されたが,筆者の実験によって,外側のGalen
ることは,Kosaka&Yagita(1905)の研究でも明ら
氏吻合は上喉頭神経内枝の繊維より構成され食道上部
かであるが,なおこの他に上喉頭神経の変性実験,刺
に分布するものであり,内側の交通枝は気管上部の粘
戟実験及び臨床的所見に基いて,内枝が喉頭骨の横紋
膜に分布する内枝の少数の繊維と喉頭下部の粘膜に分
筋に分布する運動繊維を含むと主張する学者も多い.
布する知覚繊維及び交感性繊維から構成され,喉頭下
Ziegelman(1933), Imperatori(i935), R合thi(193
部並びに気管及び食道の上部が上喉頭神経と反回神経
6),Vogel(1952)等主に入め喉頭を検:附した研究者
の繊維の重複分布をうけることが明瞭となった.Du・
は,内兜を混合性と考え,運動繊維は主に横披裂筋に
Bois&Foley(1936)及びRさthi(1936)の夫々猫及
び犬の切断実験所見は,略ヒ筆者の所見を支持する結
分布すると述べている.Onodi(1go2)は犬で, Wil・
1ard(1928)は廿日鼠で,:Lemere(1932 a)は人及び
果を示している.
犬で,夫々外枝を純知覚性であるとし,Vogel(ig52)
猫で頭蓋内切断実験を行ったDuBois&Foley(19
も犬では運動繊維を含まないと記載している,筆者の
36)は,気管及び食道に分布する迷走紳経州内に二次
変性所見は,廿日鼠の内寸が運動繊維を有しないこと
変性を認めなかった.M611gaard(1912)は変性実験
【52】
迷走神経内の遠心性神経繊維の末梢分布に関する実験的研究
635
に基いて,犬及び猫の肺の神経分布を検索し、気管支
係がないと報告しているが.Morgan&Goユand(19
を司配する遠心路は節状神経節内の神経細胞によって
32)は,犬の抑制繊維は節状神経節に起始細胞を有す
中断されると言己載し,Heinbecker&0’Leary(王933
ると主張した.藤田(1942)は疑核に発するもその大
b)は,気管支筋に分布する運動繊維は節状神経節上
部分は節状神経節に介在神経細胞を有すると述べてい
で迷走神経切断後変性に陥らず,その起始細胞は節
る.この藤田の記載は,介在神経細胞を有する繊維の
状神経節にあると報告し,Ikegami&Yagita(董907)
数量:的関係は別として,略ヒ筆者の所見に一致する.
は,逆行性変性と二次変性との所見に基いて,・迷走神
鰐で研究したGaskell(1886)は,頸部の食道に達
経根の運動繊維は肺に達しないと述べ,小林(1941)
する迷走神経の運動繊維は節前繊維であるが,胸部及
は犬肺に分布する迷走神経の遠心性繊維の大部分は訴
び腹部の食道に分布する運動繊維は神経幹神経節内の
状神経節に介在神経細胞を有すると主張している.
細胞により介在され,無髄の節後繊維としてここに達
Honjin(1956 c)は廿日鼠迷走神経の頸部切断後,気
することを指摘し,DuBois&Foley(1936)は,副
管・気管支・気管三枝の部の神経節に細胞周囲終末を
神経根を切断するも頸部食道に分布する反回神経中の
形成して終止する繊維が変性に陥ることを報告した
細い有髄繊維は変性に陥らず,このことがこの繊維が
が,筆者の迷走神経の頭蓋内切断の後には,気管・気
知覚繊維であることを示すと報告している.これに反
管支及び気管支枝の神経節の細胞周囲終末の大部分が
し,犬の副神経延髄部の切断実験を行った桜井(1937)
二次変性に陥った.このことは迷走神経根二二がこれ
は,食:道の筋層に分布する迷走神経繊維は介在神経細
らの細胞に節前繊維として達することを示している.
胞なしに食道に達すると述べ,Evans&Murray(19
この所見はDaly&Evans(1953)が猫で, Evans&
54)も,迷走神経を頭蓋内又は回状神経節上で切断し
Murfay(1954)が家兎で,夫々気管支に達する運動繊
変性せしめた後,頸部迷走神経を刺戟するも,食道に
糸flが頭蓋内又は回状神経節上で迷走神経を切断した後
は何の反応も認められないと述べている.筆者の所見
変性に陥ることを示した実験とよく一致する.
によると,食道に分布する迷走神経繊維は所謂筋細胞
猫の迷走神経を節状神経節より中枢側で切断し,二
に終る運動繊維と,筋層内の神経細胞に終る繊維とか
次変性に陥った繊維が消失した時期に頸部迷走神経の
らなり,後者は二二神経節内に介在細胞を有せず,直
刺戟を行ったHeinbecker&0’Leary(1933 a, b)は,
i接筋層神経叢の神経細胞周囲に細胞周囲二二を作って
この刺戟が心臓に対し何らの作用をも及ぼさぬことを
終ることが明瞭となった.
認めたが,このことは,Richardson&Hinsey(193
冑・小腸・肝臓・膵臓・脾臓・腎上体・腎臓等の腹
3),Daly&Evans(1953), Evans&Murray(1954)
腔内諸臓器が,左右両側の迷走神経繊維の分布をうけ
等によっても確認され,心臓枝の運動繊維は節状神経
ることは,Honjin(1951,1956 a)及びShimizu(19
節と関係のないことを示した.同様な結果がGaske11
53)両老の廿日鼠における実験的研究により明らかに
(1886)により鰐で,Noon(1900)により亀で得られ
されたが,これら諸臓器に分布する迷走神経の遠心性
ているが,組織学的には,Heinbecker&0’Leary(1
繊維が,迷走神経幹神経節に介在神経細胞を有するか
933a, b)が,回状神経節上で迷走神経切断後に心臓
否かは,今日迄明白な解剖学的解明がななされていな
学内の少数の有髄繊維が消失するのを認め,Daly&
かった.
Evans(1953)は有髄繊維の著明な減少を, Evans&
生理学的実験によると,腹部における迷走神経は純
Murray(1954)は有髄及び無髄繊維の二次変性を認め
粋な運動神経で,大部分は節状神経節に起始細胞を有
ている.筆者の所見によると,迷走神経根切断後,心
する無髄繊維から構成され,迷走神経核から腹腔内臓
房神経節の神経細胞周囲に終る心臓枝内の少数の繊維
へ直達する繊維があるとしても,その数が少なく且つ
が変性に陥るが,頸部で迷走神経を切断した後では,
散在しているために,変性実験によってはその存在を
殆んどすべての二二が二次変性に陥る.両種の変性実
認め難いとHeinbecker&0’Leary(1933 a, b)は述
験は,廿日鼠の心臓枝内の遠心性繊維は,大部分迷走
べている.Mohiuddin(ig53)も,猫で頸部迷走神経
神経根に由来するが,一部:ま二二神経節の銀嫌性神経
切断後,腹部内臓へ行く繊維のみを有する下胸部迷走
細胞に由来する節後繊維であることを示している,犬
神経の繊維は殆んどすべて二次変性に陥るが,頭蓋内
の心臓枝について,K:osaka&Yagita(1907)は,心
迷走神経切断後では2μ以上の太さの繊維にのみに変
臓抑制繊維は疑核の細胞に起始し,二二神経節とは関
性が認められ,その数は全休の約5%であると報告し
【53】
636
泉
ている.更に彼は逆行性変性の所見との対比より,二
が抑制されるのを認めて,運動繊維の大部分のものは
次変性の陽性所見は得られぬが,下胸部迷走神経の遠
回状神経節に介在神経細胞を有すると述べている.筆
心性繊維の数は,二次変性所見の数の数倍であると推
者の廿日鼠の迷走神経の頭蓋内及び頸部での切断実験
定している.Evans&Murray(1954)は,家兎によ
の所見によると,胃に達する迷走神経遠心性繊維はそ
る実験で,腹部迷走神経中の約10%の繊維が運動繊維
の殆んどすべてが延髄に発する繊維であり,これらの
で,これだけの数では筋層内の神経叢に分布するだけ
繊維は漿膜下及び筋層神経叢の銀嫌性神経細胞の周囲
でもなお不足であると論じている.筆者の廿日鼠の迷
に終ることが明らかとなった、
走神経頭蓋内切断実験でも,下胸部・腹部迷走神経幹
猫で迷走神経を頭蓋内又は節状神経節上で切断し,
内の二次変性に陥る神経繊維はきわめて少ない.しか
神経繊維を変性に陥らしめた後,頸部迷走神経の刺戟
しこの頭蓋内迷走神経切断後,下胸部における迷走神
実験を行ったHeinbecker&0’Leary(1933 a, b)は,
経幹内に変性繊維が少ないということは,次のように
十二指腸の蠕動が促進又は抑制されるのを認め,十二
説明され得る.即ち第一に迷走神経の個々の腹腔内の
指腸の運動繊維は節状神経節の細胞に起始すると報告
枝殊に胃枝について観察するならば,かなりの数の変
した.Honjin(1951)は廿日鼠迷走神経頸部切断後小
性に陥った繊維が認められるので,神経繊維の配列が
腸の神経節内に変性繊維を見出した.筆者の研究によ
特に緻密な神経幹では変性繊維の確認が末梢血よりも
れば,腸筋神経叢内の銀嫌性神経細胞に終る繊維の一
困難であるということ,第二には節状神経節内に遠心
部は迷走神経の頭蓋内切断後変性に陥る遠心性繊維で
性繊維のsynapsisが認められ,腹部に遂する遠心性
あることが明らかである.このことは少なくとも小腸
繊維の一部は節状神経節に起始する繊維であるという
の神経節に達する遠心性繊維の一部が画虎神経節内に
こと,等をあげることによって充分理解され得る。
介在細胞を有せず,延髄より直達することを示すが,
胃の迷走神経運動繊維について,Gaskell(1886,
近状神経節内の銀嫌性細胞の節後繊維も亦多数存在す
1889)は鰐で,この種繊維か迷走神経幹神経節に発す
るものと推定される.
る節後繊維なりと記載している.これに反し,Noon(1
肝臓・脾臓・膵臓・腎上体・腎臓等に分布する迷走
900)は亀で節前繊維であると述べている.McSwiney
神経の遠心性繊維が,介在神経細胞を有するか否かに
&Spurre11(1933)は猫を用いて実験し,頸部迷走神
関しては,僅:かに膵臓摘出後延臓に延行性変性を言忍め
経の刺戟と迷走神経根の刺戟は,胃に対して全く同一
たというBrugsch, Drese1&Lewy(1921)の報告と,
の反応を起さしめ,頭蓋内で迷走神経を切断変性に陥
膵臓摘出後頸静脈及び節状の両神経節にのみ逆行性変
らしめた後,頸部迷走神経を刺戟しても,この反応が
性を見,延髄には認めなかったというHess&Pollak
起らぬことから,有髄の運動繊維はその走行中に髄鞘
(1926)の記載を見るに過ぎない.Shimizu(1953)の
を脱して無髄となり,迷走神経幹神経節とは何らの関
報告によると,これらの諸臓器はすべて迷走神経繊維
係なしに胃壁に達すると述べ,Evans&Murray(19
の分布をうけていることが明らかである.筆者の頭蓋
54)も家兎で同じ実験を行い同一の所見を得たが,伊
内迷走神経切断後には,変性に陥る繊維をこれらの髄
藤(1941)は犬で胃の運動繊維は画商神経節及び頸静
蚕豆に認め得なかった.このことはこれら臓器に達す
脈神経節に介在神経細胞を有すると主張し,沖中及び
る遠心性繊維は節状神経節内に起始細胞を有する繊維
武内(1953)は犬及び家兎の節状神経節に5%TEAB
であることを示すものである.
を塗布又は注射した後,胃に至る運動繊維の刺戟伝達
結
論
正常並びに迷走神経の頭蓋内切断,迷走神経の頸部
を得た.
切断,上喉頭神経切断,反回神経切断等の実験を行っ
1)節状神経節には,通常の知覚型神経細胞の他に,
た成熟汁日鼠の,節状神経節・喉頭・気管・肺・心臓
小型の銀塩に対する嗜好性の弱い1乃至4本の突起を
・食道・胃・小腸・肝臓・脾臓・膵臓・腎上体・腎臓
有する神経細胞が,他の神経細胞間に小集団をなして
等の諸臓器を,蟻酸銀法にて処置し,連続切片を作
存在する.迷走神経核に起始した遠心性繊維の一部
り,遠心性繊維の末梢分布を検索し,次のような結果
は,この種細胞の周囲でsynapsisを作って終る.迷
【54】
迷走神経内の遠心性神経繊維の末梢分布に関する実験的研究
637
走神経の頭蓋内切断後,この終末は二次変性に陥る.
終る.
2)節状神経節より末梢部の迷走神経幹には,上頸
5)心房神経叢に入る迷走神経心臓円内の遠心性繊
神経節及び星状神経節に由来する交感挫繊維が存在す
維は,その一部は延髄より心臓に直達する繊維であ
るが,その数は少なく,無髄繊維の大部分は迷走神経
り,一部は節状神経節の銀嫌性神経細胞に起始する繊
本来の繊維である.頸部及び上胸部の迷走神経の遠心
維である.両種の繊維は共に心房神経節の神経細胞周
性繊維は,その求心性繊維に比して数が少ない.
囲に終る.
3)上喉頭神経外枝は,輪状甲状筋・咽頭喉頭筋・
6)食道壁に分布する迷走神経の遠心性繊維は,途
上部食道の筋層等に分布する運動繊維と,甲状腺へ枝
中に介在神経細胞を有せず,食道壁内で筋層神経叢の
を送る小神経節に達する副交感婬繊維とから構成さ
神経細胞周囲に細胞周囲終末を,筋細胞表面に運動性
れ,下枝は喉頭粘膜に分布する知覚繊維と,喉頭内小
終板類似の終末を作って終る.
神経節に終る節状神経節内銀嫌性紳経細胞に起始する
7)胃壁に分布する迷走神経の遠心性繊維は,大部
繊維とから構成され,所謂喉頭内子に行く運動繊維は
分が延髄より直達し,漿膜下及び筋層神経叢の銀嫌性
存在しない.下喉頭神経は喉頭内筋の運動神経であ
神経細胞の周囲に終止する.
る.上喉頭神経と下喉頭神経又は反回神経との間に
8)小腸に達する迷走神経の遠心性繊維の一部は直
は,内野と下喉頭神経間の外側交通枝と,喉頭神経叢
接延髄から小腸に走る繊維であるが,一部は弓状神経
と気管神経叢との間の内側交通枝とがある.前者は食
節内の神経細胞に起始する繊維である.共に銀嫌性細
道上部に分布する内枝の繊維からなり,後者は気管上
胞に終る.
部の粘膜に分布する内枝の繊維と,喉頑下部の枯膜に
9)肝臓・脾臓・膵臓・腎上体・腎臓等に走る迷走
分布する気管神経叢からの知覚繊維及び交感1繊維と
神経の遠心性繊維は,節状紳経節内に介在神経細胞を
から構成されている.
有する.
4)気管・気管支:及び気管支枝に走る迷走神経の遠
1の右迷走神経と左迷走神経の遠心性繊維の末梢分
心性繊維は,その殆んどすべてが途中介在神経細胞を
布には何ら本質的な差異は認められない.
有せずして,気管・気管支・気管支枝の神経叢に達
稿を終るに臨み,本研究の遂fr二に御懇篤なる御指導と御校閲を
賜った恩師本陣教授に心から感謝の意を表します・
し,その中の神経細胞の周囲に細胞周囲終末を作って
献
文
J.0’Leary: Amer. J, Physio1.,106 :623
1)13rugsch, T., K:. Drese1&RH・Lewy:
Zeits. f. gesam. exp. Med.,25:262(1921).
(1933b). 13)H:ess, L&E. Pollak:
2)Chase, M. R=J, Comp. Neur.,26:421
Zeits. gesam, exp,]Med.,48:724(1926).
(1916), 3) Daly, M. de I≧urgh&
14)Honj in, R:Cytol. and Neurol. Stud.,
D.H. L. Evans: J. PhysioL,120:579
9 = 1 (1951). 15) H:onjin, R : J.
(1953). 4)Du130is, F. S.&J.0.
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Foley: Anat. Rec.,64:285(1936).
R:J.Comp. Neur.,104:372(1956 a).
5)Evans,1). H:. L&」. G. Murray:
J.
17)Honjin. R:J. Comp, Neur., iO5:587
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(1956b). 18)Honjin, R:J. Comp.
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[56】
(1)
泉論文附図(幻
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泉論文附図(5)
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泉論文附図(6)
迷走神経内の遠心性神経繊維の末梢分布に関する実験的研究
639
附 図 観明
Plate 1.
写 真 1
写真2∼4
写真5∼7
右節状神経節内の小型銀嫌性神経細胞
群(↑印)×965
右節状神経節内の小型銀嫌性神経細胞
とその表面に終る迷走神経遠心性繊維
(↑印)x965
右変状神経節内の小型銀嫌性神経細胞
の周囲に終る変性繊維 (↑印).右迷
走神経頭蓋内切断後2日×965
写 真 8
溢泌状神経節内で迷走神経幹から分れ
て銀嫌性神経細胞群にむかう変性繊維
束.右迷走神経頭蓋内切断後2日×965
Plate 2.
写 真 9
写 真 10
写真23右迷走神経頭蓋内切断後6日に認めら
れた気管神経叢内神経細胞周囲終末の
変牲(↑印)×770
写 真 24 右肺枝内の変性繊維.右迷走神経頭蓋
内切断後5日x770
写 真 25 右肺内気管整枝周囲神経繊維肝内の変
性繊維.右迷走神経頭蓋内切断後3日
×770
写 真 26 心房神経叢へ走る右迷走神経心臓学内
の変性繊維(↑印).右迷走神経頭蓋内
切断後3日×770
×770
切断後5日 x770
写 真 28 写真27の心臓枝が右肺静脈基部に存在
する神経節に入るところを示す.↑印
で神経節内の神経細胞周囲終末の変性
を示す.右迷走神経頭蓋内切断後5日
×770
写 真 29 右迷走神経頭蓋内切断後5日の食道筋
層内変性繊維x770
写 真 30 食道筋層の運動性終板類似の終末の変
尊像.右迷走神経頭蓋内切断後3日
×770
写 真 31 食道の筋層神経叢内の神経細胞周囲に
終る繊維の変性を示す.右迷走神経頭
蓋内切断後5日×770
写 真 32小網内胃に走る神経の変性.右迷走神
経頭蓋内切断後玉0日×770
右迷走神経頭蓋内切断後5日の胸部右
迷走神経幹.反回神経の起始部を示す
写 真 12
写真11と同じ標本で,肺門部より尾側
の胸部右迷走神経身内の変性神経を示
×150
す×770
Plate 3.
写 真 i3 右迷走神経頭蓋内切断後4日の右上喉
頭神経.外枝にのみ変性繊維を認める
(↑印)×300
写 真 14 右迷走神経頭蓋内切断後3日の右下喉
頭神経の変性像×3αU
写 真 15 右上喉頭神経切断後12時間の右外側交
通北内の変性繊維×770
写 真 16 右上喉頭神経切断後2日の内側交通枝
内変性繊維(↑印)×770
写 真 17 左頸部迷走神経切断後2日の内側交通
枝内の変性繊維(↑印)×770
写 真 18 左反回神経切断後18時間の内側交通技
内の変性繊維(↑印)x770
写 真 19 玉葱輪状披裂筋内の変性繊維を示す.
右迷走神経頭蓋内切断後3日x770
Plate 5.
写 真 27 心房神経叢へ走る右迷走神経心臓熱雷
の変性繊維(↑印).右迷走神経頭蓋内
Plate 6.
写 真 33 前胃筋層神経叢内の変性繊維.右迷走
神経頭蓋内切断後10日×770
写真34,35追落漿膜下神経叢内の銀嫌性神経細胞
周囲に終る変性繊維.右迷走神経頭蓋
内切断後10日×770
写真36,37 腺腎筋層神経叢i内の銀扇i性神経細胞周
囲終末及び神経繊維の変性を示す.L
Plate 4.
右気管枝の変性像.右迷走神経頭蓋内
切断後2日x770
写 真 21
イ麦3 日 ×770
右迷走神経頭蓋内切断後2日の頸部右
迷走神経幹×300
写真9と岡じ標本の一部拡大像.↑印
で示したのは迷走神経幹内の神経細胞
写 真 11
写 真 20
写 真 22右肺内気管支枝周囲神経叢内に認めら
れる変性繊維.右迷走神経頭蓋内切断
右肺枝及び右気管支周囲神経叢内の変
性繊維.↑印で神経細胞周囲終末の変
性を示す.右迷走神経頭蓋内切断後5
日 ×300
【57】
右迷走神経頭蓋内切断後10日(写真
36),11日(写真37)×770
写真38∼40 右迷走神経頭蓋内切断後10日(写真
39,40)及び11日(写真38)の小腸
腸筋神経叢内の神経繊維及び銀嫌性神
経細胞周囲終末の変性を示す×770
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