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1 憲 法 Ⅰ ( 人 権 ) 担当:柳瀬 昇 第 14 回 内心の自由( 1) 1.思想

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1 憲 法 Ⅰ ( 人 権 ) 担当:柳瀬 昇 第 14 回 内心の自由( 1) 1.思想
憲 法 Ⅰ ( 人 権 )
担当:柳瀬
第 14 回
昇
内 心 の 自 由 ( 1)
1.思想・良心の自由
・ 国民がいかなる思想をもっていようとも、それが内心の領域にとどまる限りは、絶対的
に自由であり、特定の思想をもつことについて、国家が禁止したり、それに基づいて不
利益を課すことはできない。また、国民がいかなる思想をもっているかを国家が強制的
に告白させることは許されない。
・ 民法 723 条に基づき、名誉毀損に対する名誉回復処分として、新聞や雑誌等に謝罪広告
を掲載するよう、名誉毀損の加害者に対して裁判所が命ずることは、単に事態の真相を
告白し陳謝の意を表明するにとどまる限り、良心の自由を侵害するものではない(謝罪
広告事件最高裁判決(最大判昭和 31 年 7 月 4 日民集 10 巻 7 号 785 頁))
。
○ 謝罪広告事件最高裁判決(最大判昭和 31 年 7 月 4 日民集 10 巻 7 号 785 頁)
Y は、1952(昭和 27)年 10 月に行われた衆議院議員総選挙に日本共産党の公認を得て徳島県
から立候補したが、その選挙運動に際し、ラジオの政見放送や新聞を通じて、対立候補である X
が徳島県副知事在職中にある発電所の建設に絡んで業者から「斡旋料」を受け取った旨を公表し
た。そこで、X は、虚偽の事実を発表されることによりその名誉を著しく毀損されたとして、そ
の名誉回復のために Y に対して謝罪文の放送及び掲載を求める訴訟を提起した。第 1 審(徳島
地判昭和 28 年 6 月 24 日下民集 4 巻 6 号 926 頁)は、X の請求は正当であるとし、Y に対して「…
…放送及び記事は真実に相違して居り、貴下の名誉を傷け御迷惑をおかけいたしました。ここに
陳謝の意を表します」という文面の謝罪広告を Y の名で新聞紙上に掲載することを命じ、控訴
審(高松高判昭和 28 年 10 月 3 日判例集未登載)も、これを支持した。これに対して、Y は、た
とえ自分の行為が不法行為に該当するとしても、Y の「全然意図しない言説を上告人の名前で新
聞に掲載」させることは、Y の良心の自由を侵害するもので日本国憲法 19 条に違反するとして
上告した。
最高裁判所は、
「単に事態の真相を告白し陳謝の意を表明するに止まる程度のもの」であれば、
名誉毀損に対する救済手段として謝罪広告の掲載を命じることは、19 条に違反しないと判示し、
Y の上告を棄却した(X の請求を認容した)。
1
(
年
月
日)
2.信教の自由
・ いかなる宗教を信仰するかどうか、宗教的行為を行うかどうか、宗教的結社を結成する
かどうかは、国民の自由であり、国家がこれを強制してはならない。
・ 信教の自由といえども絶対的なものではないので、他の精神的自由権と同様に、必要最
小限度の規制は認められる。
○ オウム真理教解散命令最高裁決定(最決平成 8 年 1 月 30 日民集 50 巻 1 号 199 頁)
宗教法人 Y(宗教法人オウム真理教)の役員らは、毒ガスのサリンによる大量殺人を計画し、
Y の施設内で準備をし、実行した。そこで、検察官は、Y が宗教法人法 81 条にいう「法令に違
反して、著しく公共の福祉を害すると明らかに認められる行為」と「宗教団体の目的を著しく逸
脱した行為」を行ったとして、裁判所に対して宗教法人の解散命令を請求した。
最高裁判所は、解散命令制度は、専ら世俗的目的によるものであって、宗教団体や信者の精神
的・宗教的側面に容喙する意図によるものではなく合理的であり、また、Y が行った行為への対
処として、Y を解散し、その法人格を失わせることは必要かつ適切であり、他方、本件解散命令に
よってオウム真理教やその信者らに生じる支障は間接的で事実上のものにとどまるため、本件解
散命令は憲法 20 条 1 項に違反しないと判示した。
○ 加持祈祷事件最高裁判決(最大判昭和 38 年 5 月 15 日刑集 17 巻 4 号 302 頁)
A が精神的に異常な言動を示すようになったため、その母や叔母は、僧侶 Y に A の治療を目
的とした加持祈祷を依頼した。Y は、A の家族らとともに、護摩を焚くなどの加持祈祷を A に
施し、A は火傷のショック等により死亡した。Y は傷害致死罪で起訴された。
最高裁判所は、憲法 20 条 1 項、2 項は信教の自由を保障しているが、およそ基本的人権は濫
用してはならず、公共の福祉に反しない限りで尊重される(12 条、13 条)ものであって、絶対
無制限ではないとしたうえで、Y らの行為は、医療上一般に承認された治療行為とは到底認めら
れず、著しく反社会的なものであって、憲法 20 条 1 項の信教の自由の保障の限界を逸脱するも
のであるから、これを処罰することは憲法に違反しないと判示した。
Q14 次のアからオまでの記述は、思想及び良心の自由に関するものであるが、そのうち、最高裁判所の
判例の趣旨に照らし、正しいものを組み合わせたものは、後記 1 から 5 までのうちどれか。
ア.憲法は、思想、信条の自由を保障するのと同時に、広く経済活動の自由をも保障しており、企業者は、
その経済活動の一環として、契約締結の自由を有し、労働者を雇用するに当たり、原則として、いかな
る者を雇い入れるかを自由に決定することができるのであるから、企業者が、労働者の採否決定に当た
り、労働者の思想、信条を調査し、これに関連する事項の申告を求めたとしても、それを当然に違法と
することはできない。
イ.公立中学校から提出される内申書は、高等学校において、学力検査の成績等とともに入学者の選抜の資
料とされるものであって、その目的に適合するように、生徒の学力ばかりでなく、その性格や行動の把握
に有用な事項も記載されるべきであるから、仮に、それらの事項に関する客観的事実の記載から生徒の思
想信条が容易に推し量られ、その思想信条が入学者選抜の資料に供されたとしても、違法ではない。
ウ.企業内においても、労働者の思想、信条等の精神的自由権は十分尊重されるべきであるが、企業秩序
を維持し、利益を守るために必要であったのであれば、雇用者が、労働者に対し、調査目的を明らかに
しないまま、政党所属の有無を尋ねることや、特定の政党に所属していないことを文書で表明するよう
に要求することも、強要にわたるものでなければ許される。
エ.労働組合の組合員といえども、各自の市民としての個人的な政治的思想、見解、判断ないし感情等に
基づいて、選挙において支持する政党又は候補者を自主的に決定すべきであるが、他方、労働組合が組
織として支持する政党又は候補者を決定し、その選挙運動を推進するための支援資金を組合員から徴収
することを決議した場合には、各組合員もこの決議に拘束され、これに協力すべき義務を負うから、支
援資金の負担に応じなければならない。
オ.税理士会が強制加入の法人である以上、これを構成する会員(税理士)の中には様々な思想信条・主
義主張の持ち主が含まれるものと当然に予定されているから、会員に要請される協力義務にはおのずか
ら限界がある。特に、政党等への寄附は、選挙における投票の自由と表裏をなし、会員各自が市民とし
ての個人的な政治的思想、見解、判断ないし感情等に基づいて自主的に決定すべき事柄であるから、こ
のような事柄について、多数決原理によって団体の意思として決定し、会員にその協力を義務付けるこ
とはできない。
1.ア、イ
2.イ、ウ
3.ウ、エ
4.エ、オ
5.オ、ア
(平成 20 年旧司法試験)
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