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安倍政権の「戦争する国」づくり 現・元自衛官が異議
しんぶん赤旗 2016 年 7 月 1 日(金) 安倍政権の「戦争する国」づくり 現・元自衛官が異議 家族のいる町、国を守るために命をかけると誓った。米国のために中東でたた かうと誓ったわけではない 歴代内閣が憲法違反としてきた「集団的自衛権」の解釈を安倍政権が「行使容認」に変 更した閣議決定から1日で2年となります。参院選で自民、公明両党は、問題をすりかえ て自衛隊問題を利用し、日本共産党攻撃を強めています。現職・元職の自衛官からは、安 倍自公政権がすすめる「戦争する国」づくりに異論、批判が出ています。 (山本眞直) 今、問われているのは海外での武力行使 元2等陸曹 末延隆成さん(54) 安倍首相や公明党が自衛隊問題でさかんに共産党や野党を攻 撃していますが、彼らが昨年強行した戦争法への国民的な批判 の高まりにあわてて参院選を乗り切るためのデマ宣伝でしかあ りません。 私は、北海道の第5旅団戦車部隊で弾薬補給陸曹として頑張 ってきました。入隊したのは米軍と海外で戦争するためではあ りません。あくまで外部からの侵略や自然災害から国民と国土 を守るためです。 昨年、退官しましたが、自民と公明が集団的自衛権の行使容 認、戦争法の強行で自衛隊員が地球の裏側まででかけ米軍とと もに憲法に反して武力行使をすることに私は実名で反対してき ました。つまり自衛隊が戦後70年間、人を相手に一発の銃弾も撃たず、 「殺し、殺される」 ことのなかった世界でもまれな実力組織から「国防軍」として戦場で武力行使することは 絶対に回避しなければとの思いからです。 共産党の志位委員長が指摘するように今、日本の政治で問われているのは自衛隊の解散 問題ではありません。自衛隊を海外で武力行使をさせるかどうかです。これは多くの国民 が反対しています。この事実を国民の目から覆い隠すために自民と公明が意図的に持ち出 しているのが自衛隊が違憲の存在だということと将来的な解散問題を混乱させる、ひきょ うな宣伝です。 問われるべきは自民・公明政権の平和外交での怠慢です。 9条は絶対守れ 空自幹部 安倍首相は、昨年強行した安保関連法で集団的自衛権を行使するつもりでいますが、自 衛隊員の中で、海外で武力行使する危険な任務を希望する隊員などいません。多くの隊員 がそれを覚悟していると安倍首相は言うがウソです。 確かに私たちは入隊時に危険をいとわず任務に就くと宣誓しました。それはアメリカの ために遠く中東やアフリカまででかけて「危険を顧みずにたたかう」ことを誓ったわけで はありません。あくまで家族のいる町、国を守るために命をかける専守防衛を誓ったので す。米国の都合で命を落とすのは「犬死に」です。 安保関連法成立で入隊者が減り、退職希望者が増えています。だから今、自衛隊が準備 しているのが隊員を監視し取り締まる憲兵隊、自衛隊の統制に逆らう隊員を処罰する軍法 会議(軍事裁判所)の復活です。 一般隊員ばかりか、同期の幹部でさえ「子どもの時代には徴兵制が間違いなくしかれる」 と公然と口にしています。石破茂・元防衛相が「海外派遣を拒否し敵前逃亡や任務放棄す るやつは極刑にする」と発言しましたが、彼らは本気で考えています。安倍首相、自民党 が掲げる「普通の国」 「国防軍」の完成です。こうした事実を国民に知ってほしい。憲法9 条は絶対になくしてはなりません。 米の下請け拒否 元1等陸尉 安保関連法については元防衛官僚、法律家や 最高裁裁判官、歴代の内閣法制局長官が反対を 表明しています。 集団的自衛権は世界の情勢からしても本当 に必要に迫られているのか疑問です。テロ対策 でのインド洋への海自派遣、イラクへの陸自派 遣の理由とされた大量破壊兵器も発見されず、 結局はアメリカの下請け、子会社としてうまく 使われただけではないか。海外重視が過ぎると、 逆に国土の守りが薄くなりリスクを招きます。 現場の自衛官や退官した隊員も、安倍政権の ご都合主義で海外での武力行使、 「殺し、殺され る」戦場に自衛隊を動員させることには「冗談 (写真)市街地で歩行訓練する自衛隊員 ではない」と反発しています。 に向けて、戦争法に反対し、「隊員の命 争点隠しやめよ 元3等海曹(60)=第4護衛隊群「ひ えい」乗員 を守ろう」などとプラカードを掲げる市 民たち=1月6日、北海道函館 安倍首相の共産党攻撃は受け入れられません。 自衛隊は憲法違反で将来は国民の意思と合意にもとづき、あり方を決めるが、今は自然 災害や急迫不正の侵害には頑張ってもらうという共産党の主張はなんら問題ありません。 それよりも安倍政権が、歴代内閣が憲法違反としてきた集団的自衛権の行使容認を国民 の信を問うこともなく、閣議決定だけで強行したことのほうが重大なルール違反です。 共産党などの野党が安保法廃止、集団的自衛権の閣議決定廃止、立憲主義の回復という 政策を問う選挙協力は民主主義の常道です。 むしろ安倍政権が憲法改正を主張して、選挙になると、「争点ではない」という争点隠し はいただけません。 これまでの政権は憲法違反にならないよう、まがりなりにも自衛隊の使い方で専守防衛 の折り合いをつけてきました。しかし安倍政権は、あいまいな法律や政治判断で姑息(こ そく)に海外派兵を強行しているのでこわい。 しんぶん赤旗 2016 年 7 月 1 日(金) 大企業栄えて税収は増えず 背景に法人実効税率引き下げ 安倍晋三政権が行ってきた法人実効 税率の引き下げで、企業が利益を上げて も税収が伸びない傾向が続いています。 財務省「法人企業統計」から資本金10 億円以上の大企業について、経常利益と 内部留保、税負担(法人税、住民税、事 業税)の3指標の推移をまとめました。 2007年度を1・00としたとき、 経常利益はリーマン・ショックで0・5 5まで落ち込んだ後、1・16まで増え ています。ところが税負担はリーマン・ ショック前を回復することなく、0・8 1にとどまっています。一方で内部留保 は3割以上も増えました。 「世界で一番企業が活躍しやすい国を めざす」との掛け声で、安倍政権が法人 実効税率を引き下げてきたからです。国 と地方を合わせた法人実効税率は、第2 次安倍政権発足時(12年末)の37・ 0%から16年度には29・97%へ 7・03ポイント低下。18年度にはさ らに29・74%まで下げるとしていま す。復興特別法人税を1年前倒しで終了 させており、法人実効税率の引き下げと合わせて、4兆円もの減税になります。 税収が増えなければ、穴埋めとして消費税が増税されたり、社会保障が削減されたりす るなど、国民負担がますます増えてしまいます。この流れに歯止めをかけることが求めら れています。 しんぶん赤旗 2016 年 6 月 25 日(土) 2016 焦点・論点 明治憲法と自民改憲案 一橋大名誉教授 乱発80回 「緊急事態」条項(上) 渡辺治さんに聞く 戦争の道へ 安倍改憲を許すのか、戦争法を廃止するのか は参院選の大争点です。自民党改憲草案は「現 行憲法の全ての条項を見直し」 (同草案Q&A) といっているように、9条を焦点にして憲法の 全面改定を狙っています。安倍晋三首相らがそ の突破口として言及しているのが「緊急事態」 条項(国家緊急権)の導入です。この問題につ いて、九条の会事務局の渡辺治一橋大学名誉教 授に聞きました。(山沢猛) (写真)わたなべ・おさむ 1947 年東京 都生まれ。一橋大学名誉教授。研究分野 明文改憲へ執念 ―安倍首相は、憲法改定を認めない世論が は政治学、憲法学。著書に『現代史の中 年々ふえているのに、明文改憲に執着していま の安倍政権』(かもがわ出版)など多数 すが。 撮影 縣章彦 安倍首相は、戦争法を通したものの、「憲法 は生きている、死んでいない」ことを実感したと思います。 なぜなら、戦争法に対して反対運動が歴史的高揚をみただけでなく、強行採決後も廃止 を求める運動が盛り上がり、参院選前には戦争法の発動ができない事態に陥ったからです。 参院選後に戦争法を発動しようとしても、国会では戦争法廃止のスクラムを組んだ野党 に憲法違反を追及され、違憲訴訟も多数起こるでしょう。9条がある限りこの“泥沼”はいつ まで続くかわからない。憲法そのものを改変しなければ「戦争する国づくり」はいつまで も完成しないというあせりが、明文改憲の執念につながっているのだと思います。 大震災を口実に ―改憲勢力は憲法に「緊急事態」規定が入っていないことを問題にしていますが。 3・11の東日本大震災などを口実にして自民党と改憲勢力は「緊急事態」条項の導入 をいっていますが、現行憲法にこの規定が入らなかった理由をふり返る必要があります。 緊急事態規定の危険性はナチス・ドイツの台頭を手助けした例などで指摘されています が、明治憲法下の日本ほど、緊急事態規定の乱用の危険性を示している国はありません。 実は明治憲法は緊急事態規定の“宝庫”でした。 天皇制の政府は、戦時、大震災、非常時を口実にこの規定を乱発し議会を通さずに国民 の自由を奪い、ついには日本を戦争への道に引きずり込んだのです。その反省から日本国 憲法はあえてこの規定を入れなかったのです。 明治憲法は、絶対君主制下にあったドイツのプロイセンや他のラント(州)の憲法をま ねてつくられたのですが、天皇制を守るために、そこにあった各種の緊急権をすべてとり いれた結果、二重三重の緊急権をもった特異な憲法になりました。 数えてみると、少なくとも明治・大正で70件、昭和には10件、国家緊急権条項が発 動されています。(つづく) しんぶん赤旗 2016 年 6 月 26 日(日) 2016 焦点・論点 明治憲法と自民改憲案 一橋大名誉教授 「緊急事態」条項(中) 渡辺治さんに聞く 政府命令で人権抑圧 乱用された8条 ―緊急権の内容はどんなものですか。 明治憲法には四つの緊急事態規定がありました。もっとも乱用されたのが、第8条の「緊 急勅令」です。 これは「公共の安全を保持し、またはその災厄を避くるため緊急の必要により帝国議会 閉会の場合において、法律に代えるべき勅令を発す」というもので、これを使えば、天皇 制政府は「公共の安全」のために緊急に必要だと判断したら議会を通さずに、人民の自由 を制限する命令をだすことができました。 同様に、第70条は、緊急時には政府が議会に諮らず「財政上必要な処分」ができる、 つまり財政出動したり税金をかけたりできるという規定です。財政を議会に諮ることは近 代市民革命の一番の原則ですが、それを天皇の命令で破れるというとんでもない規定です。 第14条は「戒厳大権」です。これは戦時、非常時のとき、軍の統帥権をもつ天皇が「戒 厳を宣告」して軍事独裁を敷くことができる規定です。軍事独裁の下であらゆる市民の自 由は禁圧されます。 第31条は「非常大権」で、政府が危機に陥ったときには天皇が憲法を停止できるとい うものです。 独裁への武器に 簡単にいうと、8条、70条は政府の独裁を、14条は軍部の独裁を、31条は天皇の 独裁を認めるもので、これら規定は議会の攻撃から政府を守る何重もの防壁となっただけ でなく、独裁政治をつくる便利な武器となったのです。 とくに、政府が緊急事態と認定したら議会に諮らず政府の命令で人民の自由を弾圧し人 権を抑圧できるという8条の緊急勅令は、政府には使い勝手がいいことから、国家緊急権 の核心になりました。 問題は、現在の自民党改憲草案の緊急事態の規定の中には、緊急事態の宣言を発したら 政府は「法律と同一の効力を有する政令を制定することができる」「財政上必要な支出その 他の処分を」行えるという形で、明治憲法の8条、70条が盛り込まれていることです(別 表) 。自民党は、戦前の明治憲法でどこが重要なのかを承知しているのです。 (つづく) しんぶん赤旗 2016 年 6 月 27 日(月) 2016 焦点・論点 明治憲法と自民改憲案 一橋大名誉教授 「緊急事態」条項(下) 渡辺治さんに聞く 治安維持法を死刑法に ―緊急勅令はどんな ときに使われましたか。 青年将校によるクー デター事件である2・2 6事件(1936年)は、 その後の軍部独裁のて こになりましたが、この 時、政府は、8条を使い 戒厳令を発動して東京 を軍事独裁下に置き、一 切の言論、政治活動を禁 圧しました。 大災害を口実にして 人民への弾圧をやった 例は、1923年9月1 日の関東大震災です。 「3・11のような大震 災には緊急事態規定が ないとたいへんだ」とい う自民党や改憲派の言 い分がいかにウソであ るかが経過からよくわ かります。 地震の翌2日、8条に より東京地域に戒厳令 が発動され戒厳司令官 のもとで軍事独裁が敷 かれました。戒厳令の下、 命令で治安維持令が出 され、 「暴動」が起きる かもしれないという口実で大勢の朝鮮人が虐殺されました。4日には南葛労働会の川合義 虎ら青年労働者が虐殺され、16日には大杉栄と伊藤野枝も虐殺されました。軍事独裁下 だからこそできた虐殺でした。 議会が反対しても また緊急勅令は、政府が、議会や国民の反対する悪法を通すためにも使われました。 1928年の治安維持法大改悪がそれです。 治安維持法(1925年制定)は「国体の変革」 、つまり戦前の絶対的天皇制の民主的改 革などをめざす結社をつくったり加入したりすること自体を重罰に処す、つまり共産党に 入るだけで処罰する悪法でした。政府は28年の3・15事件で日本共産党に対しこの法 を発動しましたが、その直後に、より弾圧を強化するために大改悪に乗り出したのです。 この改悪は、共産党の幹部に対し最高刑を死刑にしたこと、また党員でなくともその「目 的遂行ノ為ニスル行為」をおこなった人びとを2年以上の懲役にするとして労働組合や民 主団体に弾圧の手を広げるものでした。 ところが、この改悪案は当時の帝国議会でも反対が多く、議会で否決されました。しか し政府は議会が閉会したとたん、緊急勅令で改悪を強行したのです。8条がいかに乱用さ れるかの典型です。 植民地支配で猛威 8条の規定は植民地支配の道具としても猛威を振るいました。日本は1910年に韓国 を併合しましたが、このときにも緊急勅令で、韓国では議会にかけずに朝鮮総督の一存で 法律に代わる命令を出せると定めたのです。これが終戦まで半島の人民の自由を奪う手段 になったのです。 ―安倍改憲を許すかどうかが問われますね。 戦後の多くの改憲の動きの中でも、安倍政権の積極姿勢は際立っており、9条改定と表 裏一体で、明治憲法の緊急事態条項を形を変えてそっくり復活させようとしています。 戦争法廃止か、安倍改憲かが参院選のもっとも大きな争点です。 広範な共同の力を集めて安倍政権を包囲し、安倍改憲をストップしなければなりません。 (おわり)