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2013_05 リノベーションによる新たな賃貸住宅スタンダードへの挑戦 (暮
リノベーションによる新たな賃貸住宅スタンダードへの挑戦 (暮粋、MUJI×UR) 西日本支社 ストック事業推進部 ストック活用・ウェルフェアチーム 技術監理部 ストック技術チーム 土井 睦浩 長谷川 晋一 西日本支社では、この数年、住みつながれた団地の良さを伝えることを前面に出したリノ ベーションの展開を図っている。この展開を「暮粋(くら・しっく) 」と「MUJI×UR」 という新たなリノベーションブランドの企画から商品供給までの過程を通じて報告するとと もに、今後のリノベーションを通じたストック再生の可能性について述べる。 本報告の内容は、下記のとおりである。 1. 新たなリノベーションの潮流 2. リノベーションブランド「暮粋(くら・しっく) 」、 「MUJI×UR」の概要 1.新たなリノベーションの潮流 セプト「機能の継承」でも表れている。しかしな 1)公団~UR がら当該プロジェクトでは住戸の状況が千差万 URが管理・運営している「団地」は、昭和 30 別であったため、元々ある内装材を活かすことに 年の日本住宅公団設立以降、生み出されてきたも ついては均質な商品を量産するという観点から、 ので、URは現在、約 1700 団地 75 万戸を管理・ また、限られた検討時間という制約から見送られ、 運営している。 内装材、住設機器は一新されている。 その歴史を振り替えると、高度成長期の大規模 3)古いものを大切にしたリノベーションの量産化 住宅供給から始まり、その後の住宅数の充足・高 西日本支社では、この経験を新たな主要課題の 齢化という社会変化の中での再開発事業や団地 出現と捉え、団地の魅力をひき出し古いものを大 の建替事業、建替事業で生み出された敷地を利用 切に活かしながら、スタイリッシュな住宅に生ま した施設の導入による地域活性化など、単なる住 れ変わるリノベーションに取り組むこととなっ 宅供給でなく、時代ごとの社会的課題に取り組み た。その起点が郊外型大規模団地においてH24 続けてきたといえる。 年 4 月から新たに商品供給を開始した「暮粋(く 2)社会的要請 ら・しっく)」である。また、同じ考えのもとさ 現在、環境負荷低減など社会的要請が高まり、 団地の建替えから既存ストックの活用・再生に軸 らなる可能性の探求をめざして㈱良品計画の住 宅部門子会社ムジ・ネット㈱と連携したリノベー 足が移る中、築年数の古い住棟の住戸については、 ション「MUJI×UR」をH25 年 3 月から供給 設備機能の不十分さ、和室ばかりの間取り、古め し、リノベーションによる新たな賃貸住宅スタン かしい色味などマイナス要因で語られることが ダードへの挑戦が始まっている。 多いことから、住戸内を一新するような大規模な 2.リノベーションブランド「暮粋(くら・しっく)」 改修が住戸再生のおおきなトレンドとなってき 1)企画背景 た。しかし、更なる環境負荷低減が求められる中、 昭和 30 年代から 40 年代の比較的古い団地を多 団地資源を前向きに見つめ直し、今あるものに価 く管理している西日本支社では、観月橋団地と同 値を見出し、工事騒音低減の観点からも極力工事 様に香里団地E地区、向ヶ丘第2団地においても 量を抑えた住戸改修(ストック活用)が求められ 団地の集約事業を実施している。 るようになってきている。 両団地が立地するエリアは住宅需要が弱いた その芽吹きは、H23 年に京都府の観月橋団地で め、訴求度の高い商品を企画立案すること、更な 実施された民間事業者と連携した既存ストック るコスト低減を徹底することが要求され、この要 の再生である「観月橋プロジェクト」の設計コン 件を満たす商品開発を行う手段として、 ①今一 度、顧客目線の商品づくりにこだわる ②間取り 寧且つ頻繁に実施し、設定するよりほかの手立て の変更、洋室化など大規模な改修は行わない ③ はない。そもそも、標準設計による同団地、同型 現状の内装部材と調和のとれた新たな配色、デザ 式の住戸であっても、建設当時の施工業者によっ インを投入し一新感を出すという方針を打ち出 て、造作方法、スリーブ位置など各種配線・配管 した。 ルートに差異がみられることがあり、量産化に支 2)設計コンセプト 障をきたすことが多々あり注意が必要である。 上記方針のもと設定した設計コンセプトは以 下のとおりである。 ① レトロな魅力を伝えるメイキャップ(色目) ② 階層で分けたカラーコーディネイト ③ デザインと調和のとれた設備機能の更新 あえて古い内装材の手仕事感(レトロ感)を引 き立てる配色や、デザインを心掛けることにより、 室内空間だけでなく、緑豊かな屋外空間とも調和 のとれた空間を目指した。その中でも、下層(1、 下層階(1~2F)の暮粋住宅 2 階)は高齢者層を想定した落ち着いたカラーリ ングとし、上層(3~5 階)は若年層を想定し、白 4)PR を基調とした明るいカラーリングとすることで 当初は、現地の窓口販売のみでささやかなスタ 多様な層の入居を促し、団地の再活性化を図るこ ートを切ったが、販売が好調に推移したため、本 とを意図している。 格的な商品展開に向けてブランド化を図った。P 住設機器の更新については、現代の暮らしに合 RについてはWebでの効果を重視し、専用ペー う必要最小限の範囲にとどめた。というのも、新 ジを立てるとともに、名称、ロゴを確立し、より 築並みの設備更新を図ると空間にアンバランス 商品性の訴求に努めている。 感が発生し、それを矯正するためには結果的に大 商品名称:築年数の経った団地には新築マンショ 幅な改修が必要になると考えたためである。そこ ンの最新設備はないが、簡素であるからこそ「自 で、住空間が持つレトロなデザイン・雰囲気を活 分らしく暮らす」、自分らしく暮らすことが「粋 かすことに着目した設備更新を図ることとした。 な暮らし」につながると考え、このことを表現す ることばとして、「暮らし」とフランス語の「粋 (シック)」を掛け合わせ、商品名称を「暮粋(く ら・しっく) 」とした。 ロゴ:「目に留まり、こだわり感のある商品」と 感じてもらうことが重要との観点から、漢字を使 用。漢字を使うことで与えるレトロ感(懐かしさ) に加え、「洗練された雰囲気」を表現することを 意図した。 上層階(3~5F)の暮粋住宅 5)募集結果・成果 当初の2団地に加え、総持寺団地、観月橋団地、 3)試験施工~量産 金剛団地で順次展開し、月産約 20 戸のペースで 極力既存材を残しながらのリノベーションで 供給中(8月末時点で 338 戸供給済)であり、現 あるため、施工前調査及び設計を施工業者立会い 時点でも募集すればすぐにご入居いただける状 のもと、より入念に行う必要がある。また、住宅 況。7月に実施した居住者アンケートでも回収率 それぞれの内装の状態が従前居住者の住まい方 が 70%とお客様の反応が高く、頂いたご意見は商 や、以前の空家改修時期により大きく異なるため、 品のさらなる改善につなげる予定である。 量産化の観点からは、商品上の許容する幅を確定 することが重要となる。これは、現地立会いを丁 ②麻畳、③オリジナル木製引戸、④麦わらパネル (床材)の共同開発パーツが生み出された。 Before After 組合せキッチン 麻畳 オリジナル木製引戸 麦わらパネル(床材) 3.リノベーションブランド「MUJI×UR」 1)企画背景 「暮粋」ブランドの展開と同時に、団地の可能 性を探求するリノベーションのさらなる展開(バ リエーション化)を図ることとした。この展開に あたっては「永く使えるものは使いつつ、豊かな 暮らしを実現していく」というURと共通した考 3)プラン え方を持ち、設計デザインだけでなく、Web広 リバーサイドしろきた Re+001 ゆるやかに仕切る住まい 告等メディア機能に強みを持つムジ・ネット㈱と リバーサイドしろきた Re+002 ひとつながりの住まい 共同で推進することとした。 泉北茶山台二丁 Re+003 光と風が抜ける住まい 団地の歴史、団地の資産、団地の可能性をキー 新千里西町 Re+004 床に座ってのびのびと暮らす ワードに企画コンセプトを以下の通りに設定し 新千里西町 Re+005 シェアする住まい た。 ① 団地での暮らしの良さを新たなリノベーショ ンを通じて伝える。 ② 古いものを大切にしながら新しい価値を与え るリノベーションを提案する。 ③ 「賃貸=借りて住む」ことの楽しい選択肢を もっと増やす。 これらは、今後のURの「新たなリノベーショ ン」の方向性を示す軸となるものではないかと考 えている。 2)設計手法 Before After Re+001 プラン図 「暮粋」と比較すると大胆な間取の変更にも挑 戦しているが、それでも「こわしすぎず、つくり すぎない」ことを最大の柱とし、プランニングに おいては、それぞれの部位について、①生かすと ころ、②変えるところ、③自由にできるところに 分類し、また、それらを掛け合わせる、組合せる という作業を繰り返した。 最大の特徴は、色調・設えともプレーンにし、 押し入れ襖を取り払うことなどで、現代の様々な ライフスタイルに合わせられる(住まい手にゆだ ねられる)ようスタイリッシュかつ素地としての 住まいの提案を行っていることである。 そのような作業から、①組合せキッチン(新し Re+001 リビングダイニング 4)施工、施工管理 新しい価値を施工部門とも共有するために、 「このタイルは残そう。」、「このすき間は埋めよ い住まい方を提案するダイニングテーブル付き)、 う。」と現場での徹底した議論を実施した。この 作業は、計画・設計・施工部門が一丸となって新 迅速な商品投入や企画当初から効果的なPR たなリノベーションにおける施工精度のスタン が実現できたこと。 ダードをつくる作業でもあった。 ③ 既往の判断基準にとらわれず、コンセプトの 実現のため、大胆かつ合理的な商品につくり 5)PR 上げたこと。また、古いものを使いつつも、 共同プロジェクト開始以降、良品計画㈱の SNS 完成度にこだわっていること。 ネットワークを利用してお客様とのコミュニケ ーション(みんなで考える住まいのかたちアンケ ④ 組織全体が、新たな挑戦について非常に前向 きなこと。 ート)を行い、ご意見を設計に反映し、無印良品 店舗でのトークイベント(2回)、日本の暮らし 2)課題 方についてのトップ対談など Web 上での展開を重 ① 更なる環境負荷低減に向けたリノベーショ 視し、情報発信と設計・施工を常に並行して行う ン技術の向上。リノベーションのバリエーショ ことで一連の流れが生まれた。 ンを広げる各種パーツの独自開発。 Web や SNS は、団地の歴史的背景や社会的意義 の「物語」を伝えるのに非常に有効なツールであ ② 周期的に実施される修繕工事(外壁修繕、屋 外改修等)のデザインコントロール機能の確立。 3)ストック再生の行方 った。 個人主義的な住思想から、ともに暮らし、絆を 6)募集結果・成果 第1期募集では平均当選倍率 5.6 倍、低層階よ 重視する傾向が強まる中、ふたたび団地が果たす り高層階(4,5 階)の倍率が高い、申込者の 20 べき役割や期待、団地が我々の暮らしを豊かにし 代と 30 代の合計が約 8 割という結果となり、若 てくれる可能性が高まってきている。 年層への訴求、エレベーター増築を伴わない「住 また、大量消費社会の終焉に伴い、今あるもの 戸リノベーション」による高層階への入居促進と の価値を見出したうえで、新たな工夫をつけたし いう大きな成果を得た。 ていくトレンドは強まっていくものと考えられ る。 ① プランニングやパーツ開発技術からの展望 住まい手が住まい方の変化に応じてより手軽 に模様替えを選択できるリノベーションパーツ の開発や情報提供を進めることにより、賃貸住宅 でありながら、住まい方の幅を広げ、暮らしの中 に楽しみ・彩りの実現を目指すこと。そのベース として、古いものと新しいものをつなげるデザイ ン、見えないものをデザイン(=感受性や想像力 Re+004 リビング 4.まとめ 「暮粋(くら・しっく)」、「MUJI×UR」 を引き立てる空間をデザイン)するノウハウを高 めることが必要だと考えている。 ② 団地コミュニティからの展望 ともにふたたび団地に振り向いてもらうきっか デザイン密度の高い技術的な団地リノベーシ け、団地に活気を呼び戻す起点となることを企画 ョンにより若年層への訴求ができ、ミクスドコミ の大きな目標としている。ここまでの成果の要因、 ュニティのきっかけが形成された。これらに合わ 課題、今後の方向性について述べる。 せて、さらに、団地コミュニティのリノベーショ 1)成果の要因 ン(ミクスドコミュニティの育み)が待ち望まれ ① 団地の持つ歴史観、豊かな空間や緑を商品の ている。居住者をつなぐ様々なイベントのプロデ 重要な要素とし、それらを丁寧に伝え、価値 ュースを通じて、団地の記憶を未来へ住みつなぐ 向上、他商品との明確な差別化につなげたこ という視点での各種取り組みが始まろうとして と。 いる。 ② 企画段階から、営業、計画、設計、施工部門 が一体となり商品開発を行ったことにより、