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エノケンと村田英雄と下肢慢性動脈閉塞症

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エノケンと村田英雄と下肢慢性動脈閉塞症
血管の病気(3)
エノケンと
エノケンと村田英雄と
村田英雄と下肢慢性動脈閉塞症
エノケンは戦後の焼け野原の中から新しい日本の価値観を求める大衆に支持さ
れ活躍した喜劇王でありますが、1950 年、公演中に左足の激痛で突然倒れました。
右足を切断しましたが、二年後今度は右足に再発。62 年には右大腿切断となりまし
た。特発性脱疽、現在でいうバージャー病でした。「王将」「人生劇場」など男の世界
を豪快に歌い一世を風びした村田英雄さんは、閉塞性動脈硬化症で 96 年 6 月に
右下肢膝下切断、さらに 4 年後には左下肢も切断となりました。69 年には下肢切断
に先立ち心臓の冠動脈バイパス術を受けており、糖尿病も合併していました。
冒頭にエノケン(バージャー病)と村田さん(閉塞性動脈硬化症)に登場していただ
きましたが、末梢動脈のおもな慢性閉塞性疾患には閉塞性動脈硬化症(ASO)とバ
ージャー病があります。かつてわが国の慢性動脈閉塞症の中心はバージャー病で
した。特発性脱疽ともいわれ、欧米に少なく、青壮年男子を突然襲い肢切断に至る
難病とされ、恐れられてきました。全国の患者総数は 1 万人強で、現在では治療法
が確立され、禁煙を守れば肢切断に至ることはないことがわかっています。一方、わ
が国はこれまでにない高齢化社会に突入し動脈硬化が増え、閉塞性動脈硬化症が
増加の一途にあります。末梢血管疾患の加重有病率は加齢とともに増えますが特
に 60 歳代後半よりで急速に増加し有病率は 6%に達するとされます。また、村田英
雄さんの例に見たように ASO の患者さんは冠動脈疾患、脳動脈疾患を合併するこ
とが多く、生命予後も不良である(早死にする)ことが知られております。
慢性動脈閉塞症の症状で最も多いのは間欠性跛行(かんけつせいはこう)で、こ
の病気の患者さんの約 7 割にこのような症状が現れます。すなわち一定距離を歩行
した後に臀部や太もも後面、ふくらはぎなどに痛みが生じ、休息により消失します。
これを繰り返すため「間欠性」跛行とよばれます。病変が進行すると安静時にも痛み
が出てくるようになり、ついには皮膚の表面が崩れ潰瘍や壊死を生ずるようになりま
す。高度の虚血で放置することによりあしを切断する状態になるあしを重症虚血肢と
呼びます。
血管の病気は下肢血圧を測定することにより容易に症状の重症度が判断できま
す。血管に関係する手術を必要とするときは CT、MRI、動脈造影検査を行う必要
があります。
治療はたばこをやめる、すなわち禁煙の励行、生活習慣病の予防と改善をまず
行い、間欠性跛行の患者さんに対しては抗血小板剤(血液をサラサラにする薬)を投
与し運動療法を行います。患者さんの全身状態が良好で積極的な生活を希望する
場合には、バイパス術や PTA(特殊な風船による血管拡張術) 、ステントなどの血行
再建手術が行われ、良好な手術成績が得られるようになっております。重症虚血肢
における治療オプションの第一選択は血行再建術であります。従来治療法で改善
の見込みのないものに対してはあしの切断術も行われますが、新しい治療法として
細胞治療や遺伝子治療による血管新生療法が行われ臨床に導入される日も近いと
思われます。
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