...

「未来づくり協働プログラム 男鹿市プロジェクト」について考える

by user

on
Category: Documents
5

views

Report

Comments

Transcript

「未来づくり協働プログラム 男鹿市プロジェクト」について考える
「未来づくり協働プログラム 男鹿市プロジェクト」について考える
福留高明(男鹿市真山郷在住)
秋田県が進める「市町村未来づくり協働プログラム」がスタートし、各市町村は競ってプロジェクト案
を提出している。県からの補助額はすべての市町村に2億円づつと、緊縮財政のなか大規模な事業である。
すでに実施に移している自治体も少なくない。
わが男鹿市は先の市議会で、衰退著しい船川地区JR男鹿駅周辺市街地の再生に向け、「複合観光施設」
の建設を軸にした「男鹿の恵みを活かす観光振興プロジェクト(仮称)」案を提示した。延べ床面積717坪。
水産品冷凍加工場も附置される。総事業費は概算で約9億円。この新しい“箱物”へ市内外から観光客を
多く呼び集め、男鹿の農水産物を買って・食べて・お金を落としてもらって、「賑わいをとりもどしたい」
というもくろみだ。
しかし、駅前とはいっても駅から数百メートルも離れ、途中に幅員の広い産業道路が動線を妨げるよう
に位置するところに、しかもほとんどがJRではなくマイカーや大型バス利用という観光客が大勢押しかけ
てくるのだろうか? とくに悪天時、両手に荷物をかかえたままわざわざ土産物買いに足を運ぶのだろう
か? はたして、集客力ある強力なテナント(とくにレストラン)経営者を連れて来れるのだろうか? 魅
力ある農水産物を調達できるのか? もくろみ通りにゆくのかはなはだ疑問に思える。私には、閑散と廃墟
化した数年後の未来像しか浮かんでこない。
駅前再開発というとどうしても秋田駅前を思い出させる。活気にあふれていた「金座街(中小業者から
なる商店街)」をつぶして大型店「イトーヨーカドー」をもってきた。ところが、何年も経たないうちに
テナントが次々に撤退し、しまいにはヨーカドーも消えた。最近も同様のことが繰り返されつつある。赤
十字病院およびその来院者でもっていた周囲の食堂・小売店などの移転跡地に「エリアなかいち」という
複合商業施設を建てた。しかし、近年、再び同じようにテナントがどんどん撤退してしまうという事態に
陥っている。失敗した原因は、テナント料や冷暖房・照明など光熱費に過大なコストがかかること、イベ
ント的なものや特定の商品に偏っていることなどさまざま考えられるが、要するに、人びとの日々の地道
な暮らしとは無縁のハイコスト・ハイリスクのまちづくりをおこなったせいであると断言できる。この度
の男鹿駅前「複合観光施設」プログラムについても同じことが言えるのではないだろうか。
ちなみに、他の自治体のプログラムを見てみよう。私が注目したいのは東成瀬村と八郎潟町。いずれも、
くみ
「平成の大合併」には与さず、独自の路線を歩んでいる自治体である。東成瀬村は県内でも有数の豪雪地
帯。この“迷惑者”である雪を逆手にとって“味方”につけようという発想の下に、「親雪・利雪・克雪」
を基本コンセプトとする取り組みを展開している。すなわち、山村ツーリズムの一環としての冬季スポー
ゆきむろ
ツツーリズムの推進、雪室を活用した農産物の栽培・貯蔵や特産物の開発、高齢者の除排雪支援を通じた
コミュニティ体制の強化である。
一方、八郎潟町はJR八郎潟駅前に新しい図書館「えきまえ交流館・はちパル」を整備した。それまで町
の図書館は役場の一室を充てただけで、新しい施設を望む声が多く寄せられていた。図書館に加え、子育
て支援スペースやイベントホール、カフェなどが併設されており、読書や学習はもちろん、子供からお年
寄りまで楽しめ、交流の場としての役割も担っている。5月にオープンし、最初の1ヶ月間で延べ1万7
千人が訪れた。町の人口が約6千人だから、一人平均月に3回は足を運んでいるという勘定だ。地元紙も
「(駅前の)図書館を核にしたまちづくりは、にぎわい創出につながるばかりか、一人ひとりの暮らしに
潤いを与えてくれる。今後とも後押ししたい取り組みである」(秋田魁新報社説)とエールを送っている。
ところで、たとえば県都秋田市で、朝から夜まで一日を通して常時「賑わっている」場所は一体どこだ
ろうか? それはほかならぬ、「図書館」である。県立図書館・明徳館・土崎図書館…、いつ行っても利用
者でいっぱいである。いずれの図書館も相当数の閲覧席が用意されているにもかかわらず、席取り合戦は
熾烈である。床に座り込んで読書に耽っている人も見かけるぐらいだ。
- 1 -
図書館の蔵書数はそれを置く各自治体の「文化度を測るバロメータ」といっても過言ではない。では、
比較のために、秋田県内各自治体図書館の蔵書数(2015年7月現在)をランキング表にしてまとめてみよ
う(ただし、ここでは市のみをとりあげる)。
順位
自治体
蔵書数
1
秋田市
832,716
2
横手市
411,687
3
大仙市
230,316
4
大館市
224,696
5
能代市
171,472
6
湯沢市
151,645
7
鹿角市
150,251
8
潟上市
103,934
9
由利本荘市
80,690
10
男鹿市
73,125
11
仙北市
59,670
12
にかほ市
34,000
わが男鹿市立図書館の蔵書数は県内12市中第10位(というより最下位から3番目)である。県都秋田市
は別格としても、2位横手市の2割にも満たない貧弱さ。私が10数年前男鹿に移住してきた当時感じたこ
とのひとつが、皆さんの本好き・読書熱心である。とりわけ、入道崎部落など僻地に行くほどその傾向が
強いように思われた。しかるに、上記蔵書数はこの好印象を逆なでするような数字である。さりとて書店
の数が多いわけでもないのに(書店といえるのはわずか1軒だけ?)、まことに不思議に思った。
話を「複合観光施設」に戻そう。個人的な希望からいえば、ハード面(“大型箱物”)への税金投入はこ
れ以上はご免こうむりたい。ソフト面、しかもそれは次世代を担う若者(特に農林漁業後継者・Iターン
者)の人材育成につぎ込んでもらいたい。そのために、当局や議会(個々の職員や議員)には明確なビジ
ョンと高いコスト意識をもって主体的に取り組んでもらいたい。
どうしても、“箱物で賑わいをとりもどしたい”というのであれば、上に紹介した八郎潟町の例が参考
になる。つまり、「複合観光施設」ではなく「多機能交流施設」である。図書館整備を軸に、若者(未婚
世代・子育て世代など)の地域活動を支援する施設等々を加えるのはもちろんのこと、船川地区に絶対不
可欠な津波避難タワーを兼ねた、文字どおり多機能の役割を果たす“箱物”――それなら文句ない。その
中に一部観光部門もあっていい。場所は、計画案にある外ヶ沢では不便だ。現在の駅舎をJRと共同出資で
改築するか、あるいは駅舎に隣接する場所がふさわしいだろう。
(2015-07-24記)
- 2 -
Fly UP