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事例集 - 産業医学振興財団

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事例集 - 産業医学振興財団
中小規模事業場におけるメンタルヘルス対策
事例集
産業医学振興財団委託研究
「中小規模事業場におけるメンタルヘルス対策の進め方に関する研究」
目次
第0章 事例検索 Page 4~
0-1 「どういうメンタルヘルス対策があるのか全く分からない」という方に
0-2 「キーワード検索」
0-3 「サービス提供機関検索」
第1章 メンタルヘルス不調者個人に対する対応に重点を置いた事例:13例
Page 6~
No.1 海外赴任
海外赴任後に適応障害を発症した事例
No.2 アルコール
アルコール依存症の従業員が、本来の能力を発揮するようになった事例
No.3 病識なし
病識がない従業員を、医療につなぐことにより、就労継続している事例
No.4 業務内容の多様化
分社化、業務内容の多様化によって発症したメンタルヘルス不調者の事例
No.5 ギャンブル
不眠とギャンブルによる借金への対応事例
No.6 家庭問題
問題を抱える家族(妻、長男)への対応について電話相談を活用した事例
No.7 投薬なく改善
就業配慮などを行い、投薬せず徐々に回復していった例
No.8 職場で対応
メンタルヘルス不調者を疑わせる相談者の専門医受診を不要と判断した事例
No.9 すぐ泣いてしまう社員
すぐに泣いてしまう新入社員への対応事例
No.10 問題行動
上司が産業保健スタッフ・外部EAPと連携して早期に治療に結びついた事例
No.11 単身赴任
単身赴任後にうつ病を発症し、その後復職できた事例
No.12 パワーハラスメント(1)
パワーハラスメントを受け、公的機関と医療機関との連携で問題解決した事例
No.13 パワーハラスメント(2)
パワーハラスメントによりメンタルヘルス不調をきたした事例
No.14 休養開始困難
病気休養開始が困難であった事例
2
第2章 事業場におけるメンタルヘルス対策に重点を置いた事例:16例 Page 35~
No.15 安全衛生委員会で活性化(1)
衛生委員会に健康づくり部会を設けて職場が活性化した事例
No.16 安全衛生委員会で活性化(2)
安全衛生委員会を活性化させた一例
No.17 長時間労働面接(1)
長時間労働面接にてメンタルヘルス不調者に就業制限措置を実施した事例
No.18 長時間労働面談(2)
長時間労働の医師の面接指導制度を適用できた事例
No.19 自殺後の相談体制(1)
自殺のポストベンションを契機に相談体制を整備した事業場の事例
No.20 自殺後の相談体制(2)
自殺が発生した中規模事業場における同僚への支援事例
No.21 新入社員教育
新入社員受け入れ時の面談がその後の適応不全早期対応につながった事例
No.22 衛生教育(1)
上司と本人への衛生教育により、専門家への相談へつながった事例
No.23 衛生教育(2)
メンタルヘルス研修会をきっかけに自分の体調不良に気づき、対応できた例
No.24 職場復帰支援(1)
産業医交代を契機に職場復帰支援が充実、就業環境等を改善した事例
No.25 職場復帰支援(2)
職場復帰支援プログラムが導入されうまく活用されている事例
No.26 職場復帰支援(3)
産業医非選任の小規模事業場での労働衛生機関医師による復職支援事例
No.27 復職支援プログラム
外部の復職支援プログラムを利用した事例
No.28 定期健康診断(健診)
健診時のスクリーニングで継続相談を開始した事例
第3章 メンタルヘルス不調者への対応が困難であった事例 Page 64~
No.29 困難事例1:欠勤を続ける従業員
介護や体調不良を理由に欠勤を続ける部下の対応に苦慮した事例
介護や体調不良を理由に欠勤を続ける部下の対応に苦慮した事例
No.30 困難事例2:セクハラ後
セクシュアルハラスメントを受けた後に抑うつ状態となり休職となった事例
事例
3
第0章 事例検索
0-1 「どういうメンタルヘルス対策があるのか全く分からない」という方に
この事例集は、職場のメンタルヘルス対策について、なぜ大切なのか、どのようなことを行えば
よいのかを知っていただくためのツールです。
困った問題が発生した際に解決策を見つけることを狙いとしているのではないため、取り組みの
詳細までは掲載していません。
どこから読んでいただいても結構ですが、次の6例は、特に代表的なメンタルヘルス対策を示し
たものです。
休んでいる方への対応
○No.24 職場復帰支援(1) [独立労働衛生コンサルタント]
○No.25 職場復帰支援(2) [企業外労働衛生機関]
外部機関を利用した個人への対応
○No.11 単身赴任 [外部EAP機関]
○No.18 長時間労働面接 [地域産業保健センター]
事業場全体のメンタルヘルス対策
○No.15 安全衛生委員会で活性化(1) [企業外労働衛生機関]
○No.22 衛生教育(2) [外部EAP機関]
4
第0章 現状に合った事例は?
0-2 [キーワード検索]
あ
衛生教育 ・・・・・・・・・・・No.1, 8, 9, 13, 21, 22, 23
衛生委員会 ・・・・・・・・・No.15, 16
か
過重労働 ・・・・・・・・・・・No.24
家族介入 ・・・・・・・・・・・No.2, 5, 6
健康管理室 ・・・・・・・・・No.19
健康診断事後措置 ・・・No.13, 28
工場長 ・・・・・・・・・・・・・No.24
さ
小規模事業場 ・・・・・・・No.6, 18, 25, 26
職場調整 ・・・・・・・・・・・No.5, 7, 8
自殺後 ・・・・・・・・・・・・・No.19, 20
ストレス調査 ・・・・・・・・・No.17, 28
セクシュアルハラスメント No.30
早期治療 ・・・・・・・・・・・No.2, 3, 4, 9, 10, 14, 17, 21
早期発見 ・・・・・・・・・・・No.1, 4, 6, 7, 8, 13, 14, 17, 20, 21, 22, 23, 28
相談体制 ・・・・・・・・・・・No.19, 22
た
単身赴任 ・・・・・・・・・・・No.11
長時間労働面接 ・・・・・No.17, 18
統合失調症 ・・・・・・・・・No.3
は
パワーハラスメント ・・・・No.12, 13
復職支援 ・・・・・・・・・・・No.1, 3, 4, 7, 11, 12, 22, 24, 25, 26, 29, 30
復職支援プログラム ・・No.27
保健師面談 ・・・・・・・・・No.21
ま
問題行動 ・・・・・・・・・・・No.10
0-3 [サービス提供機関検索]
外部EAP機関・・・・・・・・・・・・・・・・・・No.1, 6, 10, 11, 13, 19, 22, 27, 29
企業外労働衛生機関・・・・・・・・・・・・No.2, 3, 4, 5, 7, 8, 14, 15, 16, 17, 20, 21, 23, 25, 26, 28
独立労働衛生コンサルタント(医師)・No.9, 24,
産業保健推進センター・・・・・・・・・・・No.12
地域産業保健センター・・・・・・・・・・・No.18
開業医・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・No.30
5
第1章 メンタルヘルス不調者個人に対する対応に重点
を置いた事例
No.1 海外赴任
海外赴任後に適応障害を発症した事例
No.2 アルコール
アルコール依存症の従業員が、本来の能力を発揮するようになった事例
No.3 病識なし
病識がない従業員を、医療につなぐことにより、就労継続している事例
No.4 業務内容の多様化
分社化、業務内容の多様化によって発症したメンタルヘルス不調者の事例
No.5 ギャンブル
不眠とギャンブルによる借金への対応事例
No.6 家庭問題
問題を抱える家族(妻、長男)への対応について電話相談を活用した事例
No.7 投薬なく改善
就業配慮などを行い、投薬せず徐々に回復していった例
No.8 職場で対応
メンタルヘルス不調者を疑わせる相談者の専門医受診を不要と判断した事例
No.9 すぐ泣いてしまう社員
すぐに泣いてしまう新入社員への対応事例
No.10 問題行動
上司が産業保健スタッフ・外部EAPと連携して早期に治療に結びついた事例
No.11 単身赴任
単身赴任後にうつ病を発症し、その後復職できた事例
No.12 パワーハラスメント(1)
パワーハラスメントを受け、公的機関と医療機関との連携で問題解決した事例
No.13 パワーハラスメント(2)
パワーハラスメントによりメンタルヘルス不調をきたした事例
No.14 休養開始困難
病気休養開始が困難であった事例
6
(メンタルヘルス不調者個人に対する対応に重点を置いた事例)
キーワード:衛生教育, 早期発見, 復職支援
No.1
海外赴任
~単身赴任後に適応障害*1を発症した事例~
<DATA>
サービスを提供した機関: 外部EAP*2機関
事業場: 従業員数200名(出向先は10名)
機関に相談した事業場担当者: 産業医・保健師
対象者(Aさん):40代女性、総務部、管理職、最近1カ月の残業時間は50時間
事例の経過
海外へ単身赴任
Aさんは昇進と同時に海外の関連会社へ赴任。代表者、Aさん、他の
日本人スタッフ5名、現地スタッフ3名、計10名の立ち上げ後間もない事業場であった。
細かな庶務から制度の構築、行政との交渉まで、多岐に亘る業務を僅
ストレスが蓄積
か3週間で前任者から全て引き継いだ。慣れない環境で仕事量が多い上に言葉や文化の
違いも大きく、ストレスが蓄積されていった。
行った活動の内容
① 本人の異変に気づいた上司が、本社産業保健スタッフに繋ぐ
赴任後2ヵ月頃より集中力・判断力が落ち、不眠(寝付けない,途中で目が覚めてその後
眠れない)、意欲の低下等が著しくなったため、現地の病院を受診した。しかし、その後も
症状は改善せず、自殺念慮も認められたため、上司の提案で、一時帰国した。
② 「治療や処遇を含む今後の対応」についてEAP機関に相談
帰国後、Aさんと面談した産業医はEAP機関へ相談、保健師に伴われたAさん本人が
EAP機関へ相談に出向いた。
③ 専門医療機関へ紹介
同日、EAPのネットワーク機関である心療内科へ紹介され、そこで「適応障害」にて休養加
療を要すると診断されたため、自宅で治療に専念することとなった。
④ 本人の回復に伴い、EAP機関にて「カウンセリング」を実施
約1ヵ月後、主治医の指示によりEAP機関でカウンセリング開始。休職中の過ごし方や再
発予防を焦点に、週1回の頻度(後に月1回に移行)で専門の臨床心理士が対応した。
⑤ 「復帰時~復帰後の環境調整」について相談
休職中~復帰後は、本人の了解を得て、EAP機関と産業保健スタッフが連携し、休職中
の経過や復職後の環境調整などについて情報交換を行った。
⑥ 職場復帰後、フォローアップ
休職3ヵ月を経て、赴任前に所属していた国内部署にて復職。復帰後もフォローアップの
ためのカウンセリングは継続された。
業務負荷は徐々に増やされていったが、症状の再燃などもなく、復帰3ヵ月でカウンセリン 7
グは終結となった。さらに6ヵ月目には主治医による治療も終了。以後、就業を継続している。 7
(メンタルヘルス不調者個人に対する対応に重点を置いた事例)
事例のポイントと解説
① 産業保健スタッフとEAP機関の連携体制
Aさんの事例だけでなく、以前から産業保健スタッフがケース対応について相談するなど
EAPを利用する機会が多かったため、連携がとりやすい基盤ができていた。このことが早期
発見、早期対応につながった。
その上で、一時帰国ではなく国内で本人に休養に専念してもらうという方針、職場復帰も
含めたサポート体制が早い段階で明確になった。
② 休職中の心理的サポート
メンタルヘルス不調で休養することになった場合、本人が状況を受け入れて心身ともに休
養に専念できるようになるまでは時間がかかる。また、休職が挫折体験として捉えられ、「も
う会わせる顔がない」「この先どうなるのか」と悲観したり、逆に「迷惑をかけたのだから早く
お返ししなくては」と焦りやプレッシャーを高めたりしてしまいがちである。
こうした揺れを上司や産業保健スタッフが理解し、適切な対応が行えるよう、EAP機関に
よるコンサルテーションを行われた。
なお、カウンセリングは、生活リズムの安定性、日中の活動性、集中力や判断力などの回
復、再発予防のためのふり返りと今後の見通しを立てること等を目標に進められた。
③ 復職時および復職後の環境調整
円滑な職場復帰、その後の再発予防、就業継続を維持するには、復帰に際しての環境
調整が肝要である。通常、復職は現職復帰が原則だが、本事例の場合は環境要因が主な
問題であったため、赴任前に本人が慣れ親しんでいた環境、業務が用意された。
復帰直後の業務は、量的にも質的にも負荷を軽減し、その後、本人の回復状況に応じて
元の負荷に戻していくことが重要である。負荷が高すぎる場合のみならず、低すぎる場合
にも、本人にとっては心理的負担となる。
本事例では、EAPのネットワーク機関である主治医とEAP担当者、EAP担当者と産業保健
スタッフが適宜連携し、状況確認がなされた。
対策に必要な資源
費用:50,000円(EAP契約による費用発生分)
時間:6ヵ月(本人との面談1時間×10回,産業保健スタッフとの電話30分以内×5回)
人員:産業保健スタッフ2名,EAP担当者2名(相談員1名,企業担当1名)
*1 適応障害
大きなストレス、あるいは継続的、反復的ストレスにうまく適応することができず、情緒面
や行動面の症状が現れ、職業または社会生活に支障をきたす状態。
*2 EAP: Employee Assistance Program(従業員支援プログラム)
米国生まれの職場のメンタルヘルスサービスで、事業場が内部で設置する場合と、外
部のEAP会社にアウトソースする場合とがある。
生産性の維持・向上を第一義的目標とし、それを損なう要因を分析して改善の働きかけ 8
を行うところに特徴がある。
8
(メンタルヘルス不調者個人に対する対応に重点を置いた事例)
キーワード:早期治療、家族介入
No.2
アルコール
~アルコール依存症の従業員が、本来の能力を発揮するようになった事例~
<DATA>
サービスを提供した機関:企業外労働衛生機関*1
事業場: 従業員数420人の製造業
機関に相談した事業場担当者:総務課
対象者(B氏):50代男性、技術職(正社員)
事例の経過
アルコール臭 B氏は、特殊な技術を持つ金型職人であったが、突然休むことが多かった。
優れた技術を持つため、職場では欠かせない人材であるが、突発の休みやアルコール臭
をさせての勤務が問題になっていた。
ある日、B氏は突然職場で倒れた。
行った活動の内容
① 産業医による本人との面接
上司からの依頼で健康状況確認のため産業医と面談の運びとなった。原因は前日の大
量飲酒であり、アルコール依存症が根本的な問題であることがわかった。
産業医から本人に、アルコール依存症の専門的治療*2を勧めたが、本人は治療に踏み
切れず、自力での禁酒を試みた。
しかし、結局アルコールを絶つことができず、再び職場で倒れた。
② 産業医、上司による治療勧奨
B氏の主な仕事は重量の重い金型を取り扱う作業であり、本人のみならず第三者を巻き
込んでの災害につながる危険があるため、産業医が本人同席で上司に専門的治療が必要
であることを伝えた。
本人は治療を拒否したが、上司は職場にとって必要な人材であり、今後も長く能力を発
揮してもらうため、治療を受けてほしいと説得した。
③ 産業医による家族へ説明
産業医、上司の説得にもかかわらず、本人は治療を拒んだため、上司が家族に協力を依
頼した。産業医からも家族に専門的治療の必要性を説明し、家族の説得でようやく専門医
を受診した。
3ヶ月の入院加療後も、B氏は断酒を続けることができ、無事復職した。
職場にとっても貴重な人材として本来の能力を発揮している。
9
9
(メンタルヘルス不調者個人に対する対応に重点を置いた事例)
事例のポイントと解説
① メンタルヘルス不調の不定期欠勤という事例化
アルコール依存症のため、休みがちであった。
② 職場の理解
アルコール依存症の治療に対する理解が職場で得られた。
③ 専門的医療との連携
産業医、上司、家族の説得でアルコール依存症の専門的治療に結びついた。
対策に必要な資源
費用:嘱託産業医契約活動内 (年間約60万 月1回訪問)
時間:3時間 面談(産業医、本人)×1時間
面談(産業医、上司、本人)×1時間
面談(産業医、上司、本人、家族)×1時間
人員:産業医、上司、家族、アルコール依存症専門医
*1 企業外労働衛生機関
健康診断とその後の指導・フォローアップ、健康測定とそれに基づく指導、健康づくりへ
のさまざまな支援、作業環境測定と作業環境の改善、メンタルヘルスサポート、産業医・
保健師などによる産業保健活動などを提供する機関。
*2 アルコール依存症の専門的治療
アルコール依存症とは、長年の大量飲酒の結果として飲酒をコントロールできなくなっ
てしまう病気であり、精神依存(酒がないと物足りなく感じる)と身体依存(体内からアル
コールがなくなると、ふるえや発汗などの症状が出現する)を生じる。いずれも何年断酒
しても、再飲酒すればもとの状態に戻ってしまう。しかし断酒を継続することで問題を軽
減・消失させ、依存症から回復することは可能である。治療は断酒の継続を援助するこ
とであり、本人の飲酒問題に対する自覚が前提となる。
「アルコール依存症治療の概念」久里浜アルコールセンター ホームページより抜粋、改変
10
10
(メンタルヘルス不調者個人に対する対応に重点を置いた事例)
キーワード:早期治療、統合失調症、復職支援
No.3
病識なし
~病識がない従業員を、医療につなぐことにより、就労継続している事例~
<DATA>
サービスを提供した機関: 企業外労働衛生機関
事業場: 従業員数330人の製造業
機関に相談した事業場担当者:総務課(衛生管理者)
対象者(C氏):30代男性、製造ラインの正社員
事例の経過
明朗快活、無遅刻無欠勤
あった。
C氏は、勤続10年、入社時から明朗快活で、無遅刻無欠勤で
突然の勤怠問題 数ヶ月前より、タイムカードの紛失、休日と出勤日を間違える、妄想的
な言い訳をする、人の話を聞かないなど、職場での問題行動がみられるようになった。一方
で、C氏には自らが不調に陥っているという意識がないようで、上司や同僚は対応に苦慮し
ていた。
C氏の通勤自家用車でのタバコの不始末をきっかけに、総務担当者(衛生管理者)は産
業医に相談した。
行った活動の内容
① 産業医による本人との面談
衛生管理者である総務担当者が産業医に相談し、C氏に対して産業医面接が実施され
た。そこで医療を必要(統合失調症*1)と判断されたため、総務担当者は家族に医療機関
を受診させるよう協力を求めた。
② 産業医による家族との面談
両親の説得によっても、C氏は病院受診を拒否したため、両親、総務担当者、産業医で
話し合いが行われ、総務担当者と産業医がC氏を再度説得することになった。C氏は、その
説得でも受診に拒否的であったが、根気強い働きかけにより、両親と同伴で医療機関を受
診することに同意した。その結果、統合失調症と診断され、入院加療となった。
③ 復職にあたっての主治医と産業医および総務担当者との協議
投薬・集団生活プログラムの治療により、7ヶ月間の休職期間を経て復職。主治医および
産業医の意見のもとに、復職後は手順の決まった定型的な作業に従事することとなり、問
題行動なく就業を継続している。
11
11
(メンタルヘルス不調者個人に対する対応に重点を置いた事例)
事例のポイントと解説
① 病識のない例への対応
本人に病職がなく、治療につながりにくい統合失調症の事例では、対応が難しいことが多
い。
② 連携の重要性
総務担当者が、労務上の問題点を整理し、産業医の意見も得て、業務上病院受診が必要
であることを本人に提示し、家族の協力のもと、病院受診につなげた。
③ 就業可能への配慮
主治医と産業医の意見に従い、復職後の仕事内容に配慮したことにより、就業可能な状態
を維持できている。
対策に必要な資源
費用:嘱託産業医契約の活動内(年間約60万 月1回訪問)
時間:3時間 面談(本人、産業医):1時間
面談(家族、産業医):1時間
協議(主治医と産業医および総務担当者):1時間
人員:総務担当者、嘱託産業医、主治医、家族
*1 統合失調症
統合失調症は、考えや気持ちがまとまりにくくなる、物事に対して誤った意味づけをする、
現実にはない体験をしているように感じる、奇異な行動を起こす、意欲が減退する、感情の
表現が乏しくなるなどを主な症状とする病気である。
およそ100 人に1 人がかかるといわれ、稀な病気ではない。原因はまだあまり分かってい
ないが、神経系の機能に障害があって起こる病気であることが明らかにされつつある。
治療には、薬物治療が有効であるが、入院して、心身を休めることが必要になることもある。
いったん症状が落ちついた後もストレスを受けて再燃することがあり、薬をきちんと飲むこ
とで激しい症状はやわらぎ、再燃を防ぐこともできる。治療や生活を支えていく上で、家族
の援助が有効であり大切である。
事業場内メンタルヘルス推進担当者テキスト(中央労働災害防止協会)より抜粋、一部改変 p96-97
12
12
(メンタルヘルス不調者個人に対する対応に重点を置いた事例)
キーワード:早期発見、早期治療、復職支援
No.4
業務内容の多様化
~分社化、業務内容の多様化によって発症したメンタルヘルス不調者の事例 ~
<DATA>
サービスを提供した機関:企業外労働衛生機関
事業場: 従業員数100人の製造業
機関に相談した事業場担当者:本社の保健師
対象者(D氏):40代男性 技術職の正社員(管理職)
残業時間:推定80時間以上/月
事例の経過
2度目の分社化と真面目な性格 過去2度(4年前と半年前)にわたり分社化を経験してい
る事業所。D氏はもともと情報システムの技術者として仕事をしていたが、半年前の分社化
後、管理的業務も担うようになった。
本社とのテレビ会議や仕事内容の多様化が、本人にとって大きな負荷となっていた。もと
もと真面目な性格で、自宅に持ち帰ってまで仕事をする状況が続いていた。
医務室へ相談に 最近、仕事がうまくいかず、不眠・食欲低下などの体調不良が生じた。
本人は上司に相談していたが、上司も業務に追われる毎日で、気にはかけていたものの、
対応を取れていなかった。
一か月ほど体調不良が続いた後、D氏は本社より出張してきた保健師を訪れ、「自分に能
力がないため、仕事が滞ってしまっている。周囲に申し訳ない。考えがまとまらず、午後か
らのテレビ会議をどうしたらよいかわからないが、欠席すると迷惑をかけるので休むわけに
はいかない。消えていなくなってしまいたい。この2、3日、会社の屋上に立ちとび降りること
を考えていた。妻に会社を辞めたいと漏らしたところ、妻も心配して明日一緒に心療内科を
受診する予定にしている。」と話した。
一人にさせず、産業医へ報告 保健師は、すぐに対応すべきだと判断し、本人同席のも
とでD氏の上司に連絡を取った。上司も以前から本人の体調不良を気に留めていたので、
会議の出席を交代し、午後から休むように指示を出した。
しかし、会議を欠席することへの強い罪悪感に加えて、自殺念慮がみられ、妻が仕事の
ため不在で夕方まで一人になってしまう状況もあったため、保健師は嘱託産業医に相談し
た。
行った活動の内容
①産業医面談の実施
保健師から報告を受け、産業医は緊急に産業医面接を実施した。
②療養の必要性についての判断
本人は休むことに対して罪悪感が強く、療養を拒んでいたが、産業医が上司とともにその13
必要性を説明し、療養に専念できる環境を整備した。
13
(メンタルヘルス不調者個人に対する対応に重点を置いた事例)
③ 休職中の対応
休職中の窓口を保健師とし、休職中も産業医との面接を設定して、仕事への不安を軽減
させた。
④ 復帰時の仕事の調整
復職に際し、産業医の意見のもと、本社の人事担当と上司が仕事の調整(管理的業務の
軽減)をはかった。
⑤ 仕事の段階的増量
復職後、産業医による健康状態の確認とともに、段階的に業務内容を増やしていく措置
がとられた。
事例のポイントと解説
① 仕事の変化がメンタルヘルス与える影響
分社化に伴う仕事の変化に対応できず、メンタルヘルス不調に陥る事例も多い。
② 連携の重要性
本社の保健師が、上司および嘱託産業医と適切な連携をとったことにより、本人は早急
に治療に専念することができた。
③ 復職にあたっての業務調整
休職、復職に当たって産業保健スタッフが関与することにより、職場の調整が行われた。
対策に必要な資源
費用:嘱託産業医契約活動内 (年間約60万 月1回訪問)
時間:3.5時間:本人初回面接 1時間
休職中面接 20分
職場との協議 30分
復職面接(本人、上司、総務) 1時間
復職後面接 20分×2回
人員:5人:本社保健師、嘱託産業医、現場上司、本社上司、本社総務
14
14
(メンタルヘルス不調者個人に対する対応に重点を置いた事例)
キーワード:職場調整, 家族介入
No.5
ギャンブル
~不眠とギャンブルによる借金への対応事例 ~
<DATA>
サービスを提供した機関:企業外労働衛生機関
事業場: 従業員数550人の情報通信業
機関に相談した事業場担当者:直属の上司
対象者(E氏):30代男性、システム対応の技術職
事例の経過
E氏は、数年前に交代性の勤務から日勤にかわって以降、ときどき遅刻、欠勤をするよう
になった。
上司が注意すると、しばらくは改善がみられたが、やがてまた、連絡もなく午前中欠勤し
がちになった。上司からの電話にも、出ないことがあるという。理由を聞いても、次から気を
つけると答えるのみであった。
一人暮らしであり、顔色も良くないようなので、上司は嘱託産業医に相談するよう勧めた。
<E氏の生活状況>
E氏は、学生時代より夜型の生活を送っており、もともと夜間、リズムの良い睡眠をとって
いた経験はなかった。就職後は交替性の勤務であったため、不規則な生活リズムが恒常
的に出勤に影響するという認識はあまり持てなかったようである。
不規則な日常生活は常日勤になってからも変わることはなく、不眠を自覚するようになっ
たという。一方で、これらを改善するために何らかの対処を行ったわけではなく、アパートは
万年床で、会社帰りにいつもパチンコに通い、夕食は弁当を買って帰る。空いた時間はな
んとなくごろごろしているという。
<今までの対応>
不眠改善のために何かに取り組もうという姿勢はなかったが、明らかな抑うつ状態を呈し
ているわけでもなかった。毎日のように退社後パチンコに通うことに関しては、「それほど負
けるわけではないので」と言い、睡眠リズム改善のためしばらく控えてみてはという薦めにも
応じず、パチンコに関しての話題には歯切れの良くない返答をしていた。
また、上司からの電話に出ないことに関しては 「その時間は寝ていたから」と答えていた。
行った活動の内容
① 上司が日ごろの様子を観察した。(気づき)
病気による睡眠リズムのズレも否定できないため、産業医は睡眠専門外来への受診を勧
め、紹介状を作成した。パチンコに関わる行動や電話に出ない行動に関しては、借金やそ
れにともなうトラブルが心配されたため、上司に日頃の行動を観察し、職場への個人的な電
15
話の有無(借金返済の催促など)がないか気をつけておくように伝えた。
15
(メンタルヘルス不調者個人に対する対応に重点を置いた事例)
一か月後 産業医が受診を確認するとまだ行っていないとのことであった。検査費用が気
になるという。 また、上司からも誰からかわからない電話がしばしばかかってきていること、
E氏に換わったときの様子がおかしかったことが確認された。このため改めて上司から、借
金などのトラブルがないかを確認することとした。
② 親身な態度で上司がE氏に接した。
上司からの、トラブルがあるのなら一緒に解決策を考えようという親身な問いかけに、E氏
は初めて、パチンコによる借金を抱えており、自宅に返済の催促電話がかかってきていた
ために上司からの電話にも出られなかったこと、両親にも相談できていないことを述べた。
睡眠リズムが整わないことは以前からであるが、借金への不安からひどくなっていることも述
べられた。
上司は、借金を整理するための会社関連の窓口と両親に相談することを勧めた。
③ E氏の同意のもと、家族の協力を得た。
会社関連の金融機関と両親からの手助けで、借金は整理された。 E氏は睡眠専門外来
も受診し、詳しい検査を受けたが、病的な睡眠リズムのズレはなく、睡眠剤の使用と生活リ
ズムの改善を指導された。
借金の原因になったパチンコを断つ*1こと、当面は起床を母親が電話などでサポートす
ることをE氏、上司、産業医の間で同意し、家族の協力も得られることとなり、その後大きな
問題もなく勤務している。
事例のポイントと解説
① 上司による経過観察
すべて病気のせいであるという前提に立たず、産業医と上司の連携で本人の様子を良く
観察し、情報共有することは様々な面で対応の多様性を確保することになる。
② 上司の親身な相談対応
借金、パチンコをやめることができないという、なかなか上司には伝えにくい内容を、上司
がともに問題解決をしようという姿勢で接したことで、初めて本人が口にできた。
借金をする者、パチンコを続ける者が悪いと、本人の責任を強調するばかりになりかねな
いが、このように、本人が困っていることをともに解決しようという(問題の外在化)態度により、
次の新たな方法を見出すことができることも少なくない。
対策に必要な資源
費用:嘱託産業医契約活動内 (年間約120万 月2回訪問)
時間:産業医の面談 1時間×6回(本人のみ、上司のみ含む)
上司と本人 1時間×4回(うち一回 家族を含む)
人員:4人(産業医、上司、本人、家族)
*1パチンコを断つこと
当事例のような健康や生活を脅かすギャンブルへののめり込みは、ギャンブル依存症(病
的賭博)という病気と考えるべき場合もある。その場合、精神科による専門的治療を受ける16
こともできる。GA(ギャンブラーズ・アノニマス)という自助グループもある。
16
(メンタルヘルス不調者個人に対する対応に重点を置いた事例)
キーワード:家族介入、小規模事業場、早期発見
No.6
家庭問題
~問題を抱える家族(妻、長男)への対応について電話相談を活用した事例 ~
<DATA>
サービスを提供した機関:外部EAP機関
事業場: 従業員数40人の運輸業
機関に相談した事業場担当者:本人と人事部長
対象者(G氏):40代男性の営業職(管理職)、最近1か月の残業時間50時間
事例の経過
単身赴任 G氏の家族は妻、長男(中1)、次男(小4)の4人家族であり、会社では入社以
来24年間営業の仕事に携わり、社内の評価も高く、地方の営業所所長(単身赴任)を任され
ていた。
仕事面では順調であったが、家庭内での問題から、G氏は会社が契約しているEAP機関
に自発的に相談することになった。(相談方法は電話相談のみという契約になっていた。)
妻の影響で仕事に支障をきたす
相談のきっかけは、妻の言動に対する対処法に関す
ることだった。
妻の言動は、例えば「新築の一軒家を購入した直後であるのに、よくわからない理由から
『引越ししたい』とG氏を困らせる」、「世間一般と比較して平均以上の収入があるにも関わら
ず『生活していけない』とG氏を非難する」というもので、単身赴任後、電話やメールが昼夜
を問わずあり、G氏は仕事に支障をきたすようになった。
その後、長男が不登校になり、妻は一層神経過敏となっているようであった。
行った活動の内容
① 相談機関の紹介(医療機関、カウンセリング機関、スクールカウンセラー)
妻はうつ症状も呈していたため、G氏とEAP機関は、医療機関につなげる方法を模索し
ていたが、数ヶ月経ってようやく睡眠の問題を改善するという目的で、心療内科に受診させ
ることができた。
② 相談者の心身の健康管理
G氏も仕事がままならなくなったため、人事と相談し休職して自宅に戻り、妻が受診してい
る医療機関でカウンセリングを受けた。
③ パーソナリティ(人格)に問題を抱える妻と、不登校の長男への関わり方をアドバイス
G氏は、メンタルヘルス不調者に対する関わり方を中心に、日常生活で発生している問題
に焦点を当ててアドバイスを受けた。
④ 相談者へのキャリア支援。
適切な対応ができ始めると、徐々に妻の状態が安定し、G氏は自宅から通勤可能な営業
所への異動という形で復職することになった。
その後も、妻の不安定な状態は続いているが、家族に対する対応力が高まったことと、必 17
要に応じて医療機関、EAP機関と相談できる体制が整ったことで、G氏は安定した就労を
17
継続できている。
(メンタルヘルス不調者個人に対する対応に重点を置いた事例)
事例のポイントと解説
① 労働者の家族が抱える問題がもたらす、労働者と組織のパフォーマンス低下
家庭内の様々な問題が労働者のメンタルヘルスに大きな影響を与えることは少なくない。
そのため、職場のメンタルヘルス対策の一環として、労働者が気軽に家族の問題を相談で
きる専門機関を確保することが望まれる。
また、労働者の問題について、その家族が気軽に相談できる体制を作っておくことも重要
である。
しかし、小規模事業場では身近に相談できる健康管理スタッフがいないことが多い。今回
の相談者は、電話相談を有効に活用し、問題解決にあたって支援者を獲得することができ
た。
② EAP機関による事例への対応
EAP機関は、相談者及び問題を抱える家族に、問題解決のために必要な専門機関を紹
介することを中心に対応を進めた。日々問題が発生していたため、電話相談で状況を伝え
てもらいながら、その都度、問題解決のプランを立て直していった。
③ 相談者のキャリアに関する相談対応
家族が抱える問題によって、労働者が休職や就労制限を余儀なくされた場合、本人の
キャリアへの不安や挫折感、やりきれなさを支援していくことが重要である。
今回の相談者では、仕事という枠組みからさらに拡げて、家族を含めた相談者の人生全
体のこと「いかに健康的な生活を送るか」が電話相談で話し合われた。
対策に必要な資源
費用:EAP契約料(会社負担)1人当たり、1,800円/年
時間:電話相談:当初約1年間は月に2~3回、各約30分程度を継続し、
その後問題が落ち着いてくるにつれて相談の頻度は減少
人員:上司、人事(※EAP機関と職場との連携はなし)
*1 パーソナリティ(人格)障害
パーソナリィティ障害は、人格上の偏りが強く、本人が苦痛を感じたり、社会生活上の問
題が生じたりする状態である。幼少時期の環境など様々な外的要因と生まれ持った気質と
が相まったものを考えられている。
典型的な人格障害ではなく、最近人格の未熟さ、社会性の未熟さが目立つ人が増えてき
ている。こうした人々は、ストレス要因に対する耐性が低く、対人葛藤や対人ストレス要因を
生じやすく、容易に不適応となることがある。その場合にも、他責(他人を責める)傾向が強
く、「上司が悪い」、「組織が悪い」と思いがちであり、目が自分に向くことが少ないのが対応
の難しいところである。
治療は心理療法が中心であり、必要に応じて薬物療法を併用する。
事業場内メンタルヘルス推進担当者テキスト(中央労働災害防止協会)より抜粋、一部改変 p95
18
18
(メンタルヘルス不調者個人に対する対応に重点を置いた事例)
キーワード:早期発見、復職支援、職場調整
No.7
投薬なく改善
~就業配慮などにより
、投薬なしで
徐々に回復していった例 ~
~就業配慮など
、投薬
<DATA>
サービスを提供した機関:企業外労働衛生機関
事業場:従業員数630人の製造業
相談者:上司
対象者(P氏):20代男性、パソコン管理をするシステムエンジニア(正社員)
事例の経過
8年目に仕事量増加
P氏は、コンピューター専門学校を卒業した後、20歳で現在の会社に入社し、8年勤続し
ている。仕事は社内のパソコンの管理で、それまで700台ほどを一人で管理していたが、会
社の合併があり、それが1000台に増えた。
残業時間も、合併の2か月前までは20時間程度だったものが、合併の準備で 30~50時
間に増加していた。
「会社を辞めたい」
合併して4カ月後、P氏は会社を休むようになり、「会社を辞めたい」と上司へ伝えた。
心配した上司は、産業医に相談を持ちかけた。
行った活動の内容
① 産業医面談を実施した。
P氏の自覚症状としては「不眠」「だるさ」「仕事への意欲の消失」があったが、産業医面談
時には既に3週間休養していたこともあり、病院にはかかっていなかったものの、疲れがとれ
て仕事を辞める気はなくなっていた。
P氏は、「ずっと休んでいるわけにはいかないので働かなくてはという気持ちはあるが、心
と体がいうことを聞かない。今すぐ復帰しろと言われると困る」と言う。
② 産業医による経過観察、休業措置とした
産業医は、専門医への受診勧奨も考えたが、その時点で症状は軽かったため、本人と上
司、人事課との相談の上、工場内の医務室から「抑うつ状態」の診断書を作成し、1か月間
の休養と産業医による経過観察で様子を見ることとした。
③ 復職面談と職場調整
産業医が、1か月後に復職面談を行ったところ、復職への意欲があり、不眠もだるさもなく
なっていたため、復職を検討することになった。
本人、上司、産業医で打ち合わせを行った結果、もとのパソコン管理の仕事ではなく、軽
微な作業から始めることで合意された。
当初2週間は終業を2時間早めたところ順調に勤務できていたため、その後は定時退社 19
(残業禁止)に変更された。
19
(メンタルヘルス不調者個人に対する対応に重点を置いた事例)
<その後の経過>
休みはあるものの、仕事上大きな問題には発展せず
復職後、倦怠感がひどいことなどにより、月に2~3日の欠勤があった。また週に1~2回、
1~2時間の早退もみられた。
しかし、上司や同僚の理解、配慮があり、仕事上は大きな問題にはならなかった。欠勤
の総時間は年休で何とか補える程度だった。
徐々に体調は改善し、就業制限解除へ
毎月一回の産業医面談が続けられ、徐々に欠勤日や早退日は減ってきた。
復職から1年経過した産業医面談時に、「早退した日の穴埋めをするために、調子が良
い日に残業をしたい」という希望が出てきたため、上司と相談の上、残業禁止が解除された。
一時期は体調不良を訴えることもあったが、徐々に慣れ、軽微にしていた仕事が単調
で面白くないと訴えたため、仕事量が増やされた。
積極性がみられるようになる
その後も時々体調が悪くなり休むものの、調子はまずまずであった。本人は、「全盛期が
100%なら60%くらい」と言っている。
仕事で空いた時間は、システム関連の本を読んで勉強している。上司の評価も、「会議
でも積極的な発言も出てきた。病気前の本人に戻ってきた気がする」と高まっている。
事例のポイントと解説
① 産業医による病状の確認と診断
② 産業医と上司による経過観察
③ 同僚や上司の理解
対策に必要な資源
費用:嘱託産業医契約活動内 (年間約240万 週1回訪問)
時間:毎月15分の面談
人員:4人(上司、人事課、看護師、産業医)
20
20
(メンタルヘルス不調者個人に対する対応に重点を置いた事例)
キーワード:早期発見、衛生教育、職場調整
No.8
職場で対応
~専門医受診は不要と判断された事例 ~
<DATA>
サービスを提供した機関:企業外労働衛生機関
事業場: 従業員数45人の小売業(A営業所)
機関に相談した事業場担当者:衛生管理者(総務)、営業部長(B氏)
対象者(H氏):52歳男性の営業職
事例の経過
本社の営業部長のB氏より衛生管理者(総務)に、A営業所のH氏の様子がおかしいので
産業医に面談してほしいとの依頼があった。
ミスが増えた
B氏によると、2~3年前から異動が頻繁にあり、考えられないようなミスが多くなったという。
例えば、納品の日時を忘れる。期限を守れないなどである。業績も落ちている。顧客からも
おかしいと言われている。もともと明るい性格だったが、2年頃前から人が変わった。会社の
中で他の社員と話をしなくなった。無口で昔のような家族的な雰囲気はなくなった。以前は
他県の営業部長も勤めたこともあるのに。本人は気力がなくなったと言っている。
受診の必要性 今年4月からH氏の後輩が上司になった。また、その上司からかなり厳し
く叱られたこともあったようだ。B氏は「H氏が「心の病」ではないかと思う。早く病院を受診し
て治療したほうがいいのではないか。」と心配している。
行った活動の内容
① メンタルへルス不調のサインに上司が気づき、その依頼で本社の産業医が面談を
行った。
産業医との面談でのH氏の発言
自分は病気ではないので病院には行く必要はない。B氏は心配しすぎ。
以前は管理職だったが、2~3年前から役付きがなくなり顧客担当となった。そのため気
力が萎え、やりがいが薄れている。仕事をしたくないわけではないが、お客さんとの約束の
期限が切れてもまあいいかと流してしまう。成果が出ない。辞めたいと思ったことはある。
家庭内は全く問題ない。睡眠障害も食欲低下もない。欠勤・遅刻も一度もない。
本人の姿勢について 産業医が「そのような仕事の姿勢では会社からの評価が低くなり大
丈夫ですか」と尋ねると、「降格も経験していて異動も多いが、会社から辞めさせられること
はないでしょう、やる気が全くなくなっている」という、サボタージュ(怠慢)とも取れる返答で
あった。
21
21
(メンタルヘルス不調者個人に対する対応に重点を置いた事例)
② 産業医からH氏に、上司や同僚がH氏の勤務状況についてどのように感じているか、
また、周囲はH氏が「心の病」ではないかと心配していることを説明した
産業医は「最低限周囲や顧客に迷惑がかからないようには注意すべきではないですか。
それでも納品忘れ等が続いたら、病気の可能性もありますので必ず受診してくだい。」と告
げ、1ヵ月後の再面談を約束して、面談を終了した。
③ 産業医は、早急な受診は必要ないと判断し、1ヶ月後の面談を設定した。
産業医は、B氏、衛生管理者に、以下のように報告した。
「今回の面談では、H氏は早急な受診が必要ではないと思われました。来月もう一度面談さ
せてください。本人へはいくつか気をつけていただきたいことを伝えたので1ヶ月間注意し
て観察してください。」
1ヵ月後、H氏は産業医のもとに現れず、B氏より連絡が入った。
「前回の面談後、帰りにH氏といろいろ話をしたのですが、最近少し業績が上がってきて
元気にもなってきたようです。また心配な様子があったらご相談します。」
事例のポイントと解説
① 怠慢と労働意欲の低下
メンタルヘルス不調者の中には、周囲より「怠慢」と思われなかなか理解されず苦しむ場
合もあるが、今回の事例のように、悪意はなくとも労働意欲(モチベーション)が下がり仕事
の業績の低下やミスが多発して「集団からのズレ」*1が目立つこともある。
本事例では、睡眠障害や食欲低下等の、心の病気を思わせる症状がなかったため、専
門医を受診させるよりも、丁寧な相談対応が重要であると考えられた。
② 職場内コミュニケーションのきっかけと重要性
今回、本人は産業医面談を希望せず、仕方なく上司に連れられてきたという印象であっ
た。現在の状況に本人は全く困ることがなく、周囲がどのように接したらよいか悩んでいた。
しかし、産業医面談がきっかけとなって、H氏は少なくとも同行したB氏には自分の悩みを
相談できた。職場内のコミュニケーションや上司の相談対応が重要であると考えられた事
例である。
対策に必要な資源
費用:嘱託産業医契約活動内 (年間約72万 月1回の活動)
時間:1.5時間 産業医面談
人員:3人(衛生管理者、上司、産業医)
*1 集団からのズレ
管理監督者の役割として、「心の病気かどうかの判断」ではなく、労働者の「集団からのズ
レ」やその労働者の「常態(いつもの本人の状態)からのズレ」への気づきが重要である。 22
22
(メンタルヘルス不調者個人に対する対応に重点を置いた事例)
キーワード:早期治療、衛生教育
No.9
すぐ泣いてしまう社員
~すぐに泣いてしまう新入社員への対応事例 ~
<DATA>
サービスを提供した機関:独立労働衛生コンサルタント(医師)*1
事業場: 従業員数160人の情報通信業
機関に相談した事業場担当者:直属の上司
対象者(I氏):20代女性の一般職(正社員)
事例の経過
入社3ヵ月 Iさんは、専門学校を卒業した後システムエンジニアとしてIT企業F社に入社、
初期研修および業務のそれぞれがスタートした際に、急に不安が強くなって、その都度涙
がでてしまい、周囲が対応に戸惑っていたため、上司が産業医のもとに相談に訪れた。
行った活動の内容
① Iさんと産業医の面談
Iさんによると、「不安によってすぐに涙がでるのは学生時代からみられた。不安が強くなる
理由は思いつかない。自宅だけでなく学校でも涙が出ることはあった。職場では、顧客と話
をしていると急に不安が強くなり涙が出る。人前で話をしたりするときによく起こる。 特に治
療が必要と考えなかったため、これまで病院を受診したことはなかった。」とのことであった。
産業医は、職場での対応や業務上トレーニングに支障(上司が業務指導を行えない)が
出ているため、今後何らかの対応が必要ではないかと説明し、状況改善のために専門医に
アドバイスをもらうように勧めた。
② 専門医(精神科)紹介と受診:
Iさんがすぐに専門医を受診したところ、「社会不安障害」*2の診断の下に、薬物療法が開
始された。
職場での対応については、特段の配慮は必要なく、涙がでても通常の対応で問題がない
という助言が主治医からあった。
③ 職場での対応:
産業医は、主治医からの意見書に基づいて、本人と職場に求める対応について協議し、
上司および総務担当者に、治療が開始されたこと、就業上の配慮は当面不要であることを
伝えた。
④ その後の経過:
Iさんは、徐々に涙をみせる頻度が少なくなっていき、仕事への支障もほとんどなくなって
いった。
内服薬も段階的に減量が進み、やがて中止となった。現在、経過観察のための受診間隔23
が2週間から2カ月、3カ月へと延長している。
23
(メンタルヘルス不調者個人に対する対応に重点を置いた事例)
事例のポイントと解説
①上司からの相談窓口
産業医は、管理職研修において、メンタルヘルスの基本的対応について説明していた。
その中で、産業医への相談の重要性を強調したところ、今回の相談となった。
②職場での適切な対応
健康管理面で配慮が必要な点などを、産業医と上司が確認しあい、専門医による治療状
況と合わせ、その後継続的にフォローを行った。
対策に必要な資源
費用:嘱託産業医契約活動内 (年間約70万 月1回訪問)
時間:それぞれ10~20分程度8回の面談(初回、専門医受診後、毎月の経過フォロー)
人員:4名(上司、リーダー、総務人事担当、産業医)
*1 独立労働衛生コンサルタント
独立労働衛生コンサルタントとは、①労働安全衛生法第83条に基づく労働衛生コンサル
タント試験(国家試験)に合格し、②同法第84条に基づき厚生労働省に備える労働衛生コ
ンサルタント名簿に登録し、③独立開業してコンサルタント業に就いている者をいう。
*2 社会不安障害
社会不安障害は、これまで「あがり症」、「赤面恐怖」、「対人恐怖症」などと言われていた
状態である。
生涯有病率(一生の間にこの病気にかかる割合)は3~5%とされている。
人前で話をすることにより、その人達から悪い評価を受けるのではないか、失敗して恥ず
かしい思いをするのではないかという不安を抱き、震え、発汗、動悸などの身体症状が現
れて、社会的場面を避けるようになり、仕事や日常生活に支障をきたす。
かつては性格の問題であると思われてきたが、今は、「心の病」の一つであり、薬物療法
や心理療法によって症状は改善することが明らかにされてきた。
事業場内メンタルヘルス推進担当者テキスト(中央労働災害防止協会)より抜粋、一部改変 p93
24
24
(メンタルヘルス不調者個人に対する対応に重点を置いた事例)
キーワード:早期治療、問題行動
No.10
問題行動
~上司が産業保健スタッフ・外部EAPと連携して早期に治療に結びついた事例 ~
<DATA>
サービスを提供した機関:外部EAP機関
事業場(A事業場): 従業員数7人の不動産業
機関に相談した事業場担当者:本人直属の上司、企業統括の産業保健師
対象者(J氏):40代男性の営業職
事例の経過
個人個人に仕事 A事業所では、営業外回りの仕事が多く、個人個人に仕事が任されて
いた。
J氏は、昔からかなりの酒好きであった。また、気分の波が大きく、機嫌が良いと相手を問
わず電話して一方的に話すことがあった。上司は行き過ぎた行動には、注意をしていた。
それまでとは明らかに異なる様子 2ヵ月前よりイライラが強く攻撃的な様子で、大きな声
で一方的に話す姿が目につくようになった。それまでとは明らかに異なる様子であったため、
上司はしばらく休養をとるように指導した。本人も体調不良を認め、10日ほど休みをとった。
事件 復帰後は、業務軽減の措置がとられ、内勤となった。しかし20日ほど経って、J氏は
自宅で酒に酔って暴れ、警察に保護されるという事件を起こした。
行った活動の内容
① 上司が、態度の変化や問題行動の背景に精神的疾患の可能性があると考え、妻の
同席のもとで、受診を勧めた。
事件の報告を受けた上司は、妻も交えて面談を行った。妻によると、2ヶ月ほど前から眠
れていない様子で心配だったとのこと。上司は、本人に心療内科か精神科を受診するよう
に指導して、しばらく休むように命じた。 しかし、J氏は反省はしていたものの、受診には拒
否的であった。
② 受診に拒否的な本人への対応について、上司と産業保健スタッフ、EAPとが連携を
とった。
受診をどこまで勧めてよいか迷った上司が本社にいる保健師に相談し、保健師からEAP
が紹介された。
EAPと上司との話し合いにおいて、本人に対して、病気かどうかはともかく、行動の問題や
態度に注目して改善を求めるとともに、会社として勤務可能か判断する必要がある点も説
明し、受診を勧める方針が立てられた。
③ 適切な医療機関の紹介
25
EAPより連携のとれる医療機関が紹介された。上司から本人と妻に説明し、受診に至った。
25
(メンタルヘルス不調者個人に対する対応に重点を置いた事例)
事例のポイントと解説
① 企業内の相談体制の整備と外部EAPの活用
企業内で相談窓口を明示する、産業保健スタッフが巡回するなどの活動により、気軽に
相談できる体制にあった。また、産業保健スタッフは日頃からEAPをよく利用しており、連携
の取りやすい関係にあった。
このことが、「早期治療」につながり、事業場内での問題の抱え込みを防いだと考えられる。
② 職場での事例性に着目した受診勧奨
このケースでは、職場での態度の変化や問題行動が顕著であるにもかかわらず、本人が
無自覚で受診に拒否的であった。
このような場合、症状に焦点をあてるよりも、職場でどのような問題が起こっているか、すな
わち事例性に注目して対応することが重要である。上司は、以前からJ氏の行動の問題や
態度の変化に気づいており、注意を促していたため、対応がスムースであった。
勤怠や勤務態度の問題、職場での困った行動などは具体的に記録し(ドキュメンテー
ション)、客観的な情報をもとに本人に解決を求めて、専門家へつなげることが望まれる。
対策に必要な資源
費用:EAPとの年間契約費用: 従業員1人当たり年間約¥3,500
時間:事件発生から受診まで約2週間
上司による本人・妻との面談 : 3回
上司から産業保健スタッフの相談 : 2回(メール)
産業保健スタッフからEAPへの相談 : 2回(電話)
上司からEAPへの相談 : 2回(電話)
人員:3名(上司、産業保健スタッフ1名、EAP担当者1名)
26
26
(メンタルヘルス不調者個人に対する対応に重点を置いた事例)
キーワード:単身赴任、復職支援(休職中、復職前後)
No.11
単身赴任
~単身赴任後にうつ病を発症し、その後復職できた事例 ~
<DATA>
サービスを提供した機関:外部EAP機関
事業場: 情報通信業の支社(従業員数80人)
機関に相談した事業場担当者:産業医・保健師
対象者(A氏):40代男性の営業職(主任)、最近1カ月の残業100時間/月
事例の経過
単身赴任と期間延長 A氏は入社以来開発部でシステム開発の仕事に携わってきた。2
年前に異動命令が出て、ある地方の支社に単身赴任となり現在に至っている。赴任当初
の辞令内容は、「業務内容はシステム開発の応援、期間は3ヶ月」というものであった。
しかし、会社の事情が変わり、単身赴任期間が延びて、いつ元の職場に戻れるか知らせ
てもらえない状況となった。作業内容においても、システム開発の仕事は与えられず、この
2年間の主な業務は、営業やクレーム処理等の雑用、といった状態が続いている。
上司からメール・電話で叱咤激励 人事上の上司はこの2年間で4人も代わったが、どの
上司も滅多に赴任先の支社に来ることはなく、メール・電話でのやりとりばかりで、A氏には
現場の状況をわかってもらえないという不満が募った。
今の上司は、仕事のことで相談しても具体的な支援をしてくれないばかりか、ことあるごと
に「もっとやる気を出せ」等と叱咤激励や嫌味を返してくる。
これ以上頑張れない A氏は、赴任以来、毎日深夜まで必死で仕事をしてきたが、最近体
調・気分ともに今までの自分と違うように感じてきており、「仕事をやらないといけないと頭で
はわかっているが、もうこれ以上頑張れない」のが今の正直な気持ちである。
仕事内容が自分の得意とするところと異なることもさることながら、家族と離ればなれの生
活が続いていることも大きなストレスである。
行った活動の内容
① 相談のきっかけと相談内容
A氏は、EAPの電話相談の案内カードをみて電話をかけた。相談内容は主に2つである。
(1) 気分・体調の変化を自覚(睡眠リズムの乱れによる中途覚醒・日中の眠気、頭重感、イラ
イラ感、意欲や集中力の低下)しだし、仕事のパフォーマンスが落ちている。専門の医療機
関にかかったほうがよいか否か。また、かかったほうがよければ紹介してもらいたい。
(2) 現在の単身赴任状態がいつまで続くか等の見通しが知りたいことと、なるべく早く赴任
命令を解いてもらいたいことを会社に伝えたいが、どうしたらよいか相談に乗ってもらいたい。
今まで何度か上司に伝えたが、明確な返答がなかった。
② 専門医療機関へのリファー
専門医療機関を紹介され、受診したところ,うつ病と診断され、薬物療法開始、休職診断
書が発行された。主治医から「家族のもとにかえって休養に専念したほうがよい」と勧められ、
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本人も希望したため、家族宅近くの医療機関に転院となった。
27
(メンタルヘルス不調者個人に対する対応に重点を置いた事例)
③ 休職中の定期的フォローと、本人が安心して休養に専念できるようなサポート。
休職診断書が発行されて約半月後、EAP担当者が本人へフォローの電話をかけたところ、
「実はまだ休職していない。診断書を提出した時点で『引継ぎ等で一ヵ月後に休職してほし
い』と会社から言われた」とのことであった。
EAP担当者は、本人の了解を得た上で事業場の保健師へ連絡し、状況確認を行い、なる
べく速やかに休職に入れるよう、管理職と産業保健スタッフとで連携してもらいたいと依頼し
た。併せて、安全配慮義務違反による民事訴訟や労災訴訟の事例を紹介し、その対応が
事業場のリスクマネジメントしても重要であることを説明した。
その約1週間後、A氏はようやく休職に入ることができた。
④ 個別の復職トレーニングを提供した。
病状が回復期に移行してからは、主治医の了解を得て、EAPから「個別の復職トレーニン
グ」が提供された。
内容は、生活リズムの確立、軽作業、体力づくり、再発予防教育等である。
⑤ 主治医、産業医、保健師と連携し、復職前から復職後のサポートを行った。
トレーニング開始後、本人の了解を得て、EAPから保健師へ、本人の状況並びに復職意
欲が高まってきている旨が伝えられ、同時に「復職前から定期的に産業医面談を実施し、
現状把握と復職後の相談の場を設けてはどうか」と提案がなされた。
この提案を受けて、産業医・保健師・本人による面談が設定され、その場に途中から管理
職も同席した。
<結果>
A氏は、約10ヵ月間の休職期間を経て復職した。復職後は赴任命令が解かれ、勤務先は
赴任前の職場、作業内容も開発業務となった。EAP担当者によるフォローアップは、本人と
保健師に対して約3ヶ月続けられ、復職が順調に経過していることを確認後終了された。
事例のポイントと解説
① メンタルヘルス不調者の第一次予防から第三次予防に関する社内体制の確立
本例では、不十分であることが再認識され、休職者や復帰する社員への制度や対応を見
直すきっかけとなった。
② メンタルヘルス教育、特にラインケア研修の必要性
③ 安全配慮義務違反による民事訴訟や労災に関するリスク管理
対策に必要な資源
費用:1800円×従業員数/年間
(相談利用回数に制限はなく、何度でも利用可)
時間:EAPと本人との面談:30分×15回
産業医と(保健師と管理職と)本人との面談:30分×6回
人員:4名(上司、産業医、保健師、EAP担当者1名)
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(メンタルヘルス不調者個人に対する対応に重点を置いた事例)
キーワード:パワーハラスメント、復職支援
No.12
パワーハラスメント*1 (1)
~パワーハラスメントを受け、公的機関と医療機関との連携で問題解決した事例 ~
<DATA>
サービスを提供した機関(Dセンター):産業保健推進センター*2
事業場(B店舗): 従業員数70人の小売業
機関に相談した事業場担当者:家族
対象者(L氏):20代女性の販売員(アルバイト)
事例の経過
真面目に勤務 L氏は、2年前アルバイトとして大手の小売業のB店舗に採用され、販売
員として真面目に勤務していた。上司(Z氏)にその働き振りが認められ、繁忙期には時々
残業し、Z氏の仕事を手伝うことがあった。
暴行を受けた L氏は、収入が増えることもあり、残業を快く引き受けていたが、ある日Z氏
に残業中の職場で暴行を受けた。L氏は、翌日から会社を休むようになった。
数日後、会社からL氏へ「Z氏は他県に異動にしたので出勤してほしい」との連絡があった。
家族→労働基準監督署→産業保健推進センター L氏は、今回のことを警察に通報した
いことと、ショックが大きく今の状態では出勤できないことについて、家族を通じて所轄のC
労動基準監督署に相談した。
その労動基準監督署の担当者よりD産業保健推進センターに、このような場合、家族に
どのように回答すればよいか相談があった。
行った活動の内容
① 労働基準監督署担当者へアドバイス
センターの相談員は、C労動基準監督署の担当者に、仕事を休むためには診断書が必
要なことを伝え、メンタルヘルス関連の問題も含んでいるため、精神保健福祉センターの相
談窓口も紹介した。
その情報を受けた家族は、精神保健福祉センターの相談窓口に電話したが、精神保健
福祉センターでは診断書を書くことができないことを理由に対応を断われたため、C労動基
準監督署にその旨連絡した。
② 専門医紹介
C労動基準監督署よりDセンターに、上記経過についての報告と、今後の対応について
の問い合わせがなされた。相談員は、E精神科クリニックに事情を説明し、L氏を患者として
診察してほしいことを依頼し、了解された。
L氏は家族とともに、E精神科クリニックを受診した。
③ その後の経過
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L氏は、E精神科クリニックに通院し、治療を継続した。
暴行について警察に届け、Z氏が逮捕されたことより、L氏は精神的に安定してきている。 29
(メンタルヘルス不調者個人に対する対応に重点を置いた事例)
事例のポイントと解説
① 窓口相談・実施相談
産業保健推進センターでは、産業保健に関する様々な問題について、専門スタッフがセ
ンターの窓口又は電話、電子メール等で相談に応じ、解決方法を助言している。
② 適切な相談窓口の紹介の難しさ
現在、公的機関にも各種相談窓口が開設されているが、相談者からみると、どこに相談
すればよいか分かり難い。総合相談窓口が設置されればよいのであろうが、現在のところ
そうした動きはない。
今回は、労働基準監督署、産業保健推進センターおよび精神科専門医の連携が有効に
機能した。
③ 被害者の意見の尊重
会社は、職場で発生した暴力事件を被害者の意見を尊重することなく、加害者の異動で
解決を図ろうとして、結局双方に納得できない結果になった。
④ より適切な専門医への紹介
男性による女性被害者であることから、女性精神科医が紹介された。被害者が相談しや
すいと考えられる。
対策に必要な資源
費用:0円(産業保健推進センターの相談窓口)
時間:10分×2 (1回の電話相談は10分まで)
人員:相談員(産業医)
用語解説
*1 パワーハラスメント
職位や立場の違いなどを背景にして、本来の業務の範疇を超えて継続的 に人格と尊厳
を傷つける言動を行い、就労者の働く環境を悪化させる、あるいは雇用不安を与えること。
平成21年4月「心理的負荷による精神障害等に係る業務上外の判断指針」の一部改正に
よって、パワーハラスメントによる心理的負荷は、心の病気が業務上疾病と認められるかの
判断において重要視されるようになった。
*2 産業保健推進センター(http://www.rofuku.go.jp/sanpo/)
産業医、産業看護職、衛生管理者等の産業保健関係者を支援するとともに、事業主等に
対し職場の健康管理への啓発を行うことを目的として、全国47の都道府県に設置されてい
る機関。研修や相談窓口、広報・啓発など様々な業務を行っている。
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(メンタルヘルス不調者個人に対する対応に重点を置いた事例)
キーワード:パワーハラスメント、健康診断事後措置、衛生教育、早期発見
No.13
パワーハラスメント(2)
~パワーハラスメントによりメンタルヘルス不調をきたした事例 ~
<DATA>
サービスを提供した機関:企業外労働衛生機関
事業場(A社のB営業所) : 従業員数10人の小売業
機関に相談した事業場担当者:本人と人事部長
対象者(F氏):45歳男性、営業職
事例の経過
A社では本社の産業医が年1回各営業所を訪問し定期健康診断後の事後措置(保健指
導)と職場巡視を実施することになっている。
産業医の営業所訪問
産業医がB営業所を訪問し事務所内に入ると、10数人の従業員の中で、目立って表情に
覇気のないF氏が目についた。(事例のポイントと解説の①を参照)
行った活動の内容
① 産業医は、定期健康診断の事後措置の際に、F氏と面談を行った。
産業医は、F氏の面談で、一通り生活習慣病に関する指導を終え、「元気がないようだが」
と原因を尋ねてみた。F氏は、次のようなことを述べた。
転勤後の負担増:今年4月のB営業所への異動は、入社以来初めての転勤だった。半年
経って先月から夜眠れない日が続き、昼間眠いことも多かった。家に帰宅してからも体がき
つくて動きたくない。週末は家族と過ごすが、仕事のことが気になる。目標を達成するため
にどうしたらいいか、自分には負担が大きすぎる。会社には行きたくない。
怒鳴られること:自分は係長の立場なので過大な期待をされている。課長からはいつも叱
咤激励される、みんなの前で怒鳴られる。課長はやり手で、B営業所建て直しのために赴
任してきた。
② 受診勧奨、プライバシー保護への配慮を行った。
産業医は、F氏に病院受診を勧めた。また、F氏のことを本社の人事に報告してよいかと
聞いたが、拒否されたため、何かあれば人事部長に相談するようにと約束した。
面談によって、その原因が、異動後職場環境が変わり、業績も思わしくなく、さらに上司
(課長)との関係にも悩んでいる点にあることと推測された。
産業医は、F氏の意思を尊重しその個人情報は本社人事等に報告はしなかったが、何か
あったら必ず連絡するように約束した。
31
31
(メンタルヘルス不調者個人に対する対応に重点を置いた事例)
③ 産業医は課長との面談を行った。
産業医は、課長の保健指導を終えた後、F氏について「ご自分からは何も言われません
が、私には元気がないように感じます。どう思われますか」と尋ねた 。
課長は、「あれだけ営業数字が悪ければ元気も出ないでしょう。」と冷たい言い方だったた
め、注意の仕方に配慮し、あまり強い語調は避けたほうがいいと、さり気なく注意を促し面
談を終了した。
その後、一般論として「管理監督者が行うべきメンタルヘルスケア(気づきや相談対応
等)」について話をした。(しかし、これはあまり効果がなかったようである。)
④ 人事部長から産業医に面談依頼が入った。
1ヵ月後、B営業所から本社の人事部長に、「F氏の面談を行ってほしい」と相談があり、 F
氏と家族(妻)同席で産業医面談が実施された。
F氏は、「あれからも眠れない日が続いたため、メンタルヘルスクリニックを受診し、抗うつ
薬や抗不安薬を処方されたが、まだよく眠れない。ずっと体がきつい。人と話すと動悸がす
る。呼吸が苦しくなり汗もかく。電話がこわい。今週始め、課長から目標に達成できずこんな
数字じゃだめだと言われ、その場で立っていられなくなって、休憩室へ行きそこから出られ
なくなった。」と語った。
産業医は、現在の状況では就労不能であると判断し、F氏に再受診を勧め、休養の必要
があると説明した。
翌日、休業診断書が提出され、F氏は現在も休職中である(2ヶ月半)。本社人事部は、F
氏を復職後異動させることを検討している。
事例のポイントと解説
① メンタルヘルス不調者発見の機会
産業医は、定期健診後の事後措置として保健指導を行ったが、そこで初めて会う従業員
に対しても「集団からのズレ*1」に注意することによってメンタルヘルス不調者を発見するこ
とは可能である。また、本人から相談をもちかけられることもあり、定健後の事後措置もメン
タルヘルス不調者発見の貴重な機会となりうる。
② パワーハラスメントの発見の難しさ
本来であれば「ラインケア(管理監督者によるケア)」の役割を果たすべき管理監督者(上
司)がメンタルへルス不調の原因であることもまれでなく、その場合には、解決に向けての
対応が難しいものである。この事例では、本社人事部等の連携が問題解決のために重要
な役割を果たした。
対策に必要な資源
費用:本社産業医の活動範囲内(年間72万円、年間15回の活動)
時間:約1ヶ月
人員:2人(産業医、人事部長)
*1 集団からのズレ
管理監督者の役割として、「心の病気かどうかの判断」ではなく、労働者の「集団からのズ 32
レ」やその労働者の「常態(日常の状態)からのズレ」への気づきが重要である。
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(メンタルヘルス不調者個人に対する対応に重点を置いた事例)
キーワード:早期発見、早期治療
No.14
休養開始困難
~病気休養開始が困難であった事例 ~
<DATA>
サービスを提供した機関:企業外労働衛生機関(本社産業医)
事業場(D営業所): 従業員数40人の小売業
機関に相談した事業場担当者:総務課, 上司(部長)
対象者(M氏):46歳男性 営業 (正社員)
事例の経過
重圧による不眠と頭痛 M氏は、新年度より役職が変わり、チームリーダーとしての重圧
がかかっていた。それまでM氏のチームは好業績だったが5月以降は悪化に転じ、他の
チームと差がついてしまった。M氏は、その影響で多忙となり帰宅時間が遅くなった。
6月頃より不眠と後頭部痛が出現したため、病院(内科)を受診し頭部CTを受けたが、異
常なしであった。その際、抗不安薬と頭痛薬を10日分処方してもらい、眠れるようになった。
もっと自信を持ってほしい 7月中旬頃、M氏の部の部長より、「最近M氏が元気がなく、
一緒に酒を飲んだりしていたが、なかなかよくならない。M氏の直属の上司が厳しく、悩ん
でいるようだ。この上司はM氏より年下であり、折り合いも悪いようだ。以前は問いかけると歯
切れのよい返事がかえってきていたのに、最近はしどろもどろである。もっと自分に自信を
持ってほしいのだが」と、本社総務課の健康管理担当者に産業医面談を申し入れがあった。
部長は本社に勤務しており、M氏の職場とは離れている。
行った活動の内容
① 産業医とM氏との面談
M氏:「できるだけ薬を飲まないようにして眠ろうと思ったが、みんなに迷惑をかけてばかり
はいられない。思考力も低下していると思うので、病院を紹介してほしい。こんなことは初め
てだ。まさか自分がこんなふうになるなんて・・・家族には心配するので何も言っていない。
休まないで早く治りたい。会社は辞めたくない。」睡眠は3時間くらいで、眠りが浅く、夜中に
4~5回目が覚める状態であった。思考能力の低下のほか、体のだるさ、背中の痛みもあっ
た。
M氏は、産業医が紹介した病院の精神科を受診し睡眠剤を処方されたが、症状の改善が
思わしくないため、さらに別のメンタルヘルスクリニックを受診し、そこで会社を休むように助
言された。しかし、M氏は「眠ることさえできれば会社は休む必要はない。」と、なかなか休も
うとしなかった。
M氏より事情を聞いた部長は、対応に悩み再度産業医に相談した。
部長によると、M氏はほとんど仕事ができておらず、リーダーの役割も部下が代わって
やっている有様だった。
産業医との再面談では、M氏は「3箇所病院へ行ったが処方される薬も全て違う、先生は
休めと言うがそれは正しいのか、自分が休むとみんなに迷惑がかかるのだが・・・」とこぼし 33
た。
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② 産業医による休養開始の説得
産業医は、「自分の目から見ても休んだほうがいいと思う。Mさんの病状についてはこちら
から部長や総務に説明するので、今は十分に休養をとったほうがよい」と説得し、M氏は休
業することになった。
③ 復職時の就労環境調整
約3ヶ月の休養後、主治医の助言もあり復職となった。場所はD営業所から本社に配置転
換になり、あまり残業がないように配慮された。
その後は順調に経過している。
事例のポイントと解説
① 総務課(健康管理担当者)と産業医の連絡・相談体制
本社に選任されている産業医は、本社でメンタルヘルス不調者数名に対して相談対応を
行うとともに、その上司や人事担当者へ助言を行っていたため、分散した営業所(小規模
事業所)からも総務課(健康管理担当者)へ相談の申し入れが多くなり、今回D営業所のM
氏とも産業医面談を行うこととなった。
② 休業と復職時の就労環境の調整
社内で本社産業医の意見が尊重されることが多かったため、M氏の休業への説得や復
職後の配置転換についても尊重された。本人を営業へ戻すタイミングが次の課題である。
対策に必要な資源
費用:嘱託産業医契約活動内 (年間約60万 月1回の活動) と契約時間外(1万円)
時間:2時間(1時間ずつ2回の面談)
人員:3人;部長、総務課(健康管理担当者)、本社嘱託産業医
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第2章 事業場におけるメンタルヘルス対策に重点を置いた事例
No.15 安全衛生委員会で活性化(1)
衛生委員会に健康づくり部会を設けて活性化した事例
No.16 安全衛生委員会で活性化(2)
中小企業における安全衛生委員会活性化の一例
No.17 長時間労働面接(1)
長時間労働面接にてメンタルヘルス不調者に就業制限措置を実施した事例
No.18 長時間労働面談(2)
長時間労働の医師の面接指導制度を適用できた事例
No.19 自殺後の相談体制(1)
自殺のポストベンションを契機に相談体制を整備した事業場の事例
No.20 自殺後の相談体制(2)
自殺が発生した中規模事業場における同僚への支援事例
No.21 新入社員教育
新入社員受け入れ時の面談がその後の適応不全早期対応につながった事例
No.22 衛生教育(1)
上司と本人への衛生教育により、専門家への相談へつながった事例
No.23 衛生教育(2)
メンタルヘルス研修会をきっかけに自分の体調不良に気づき、対応できた例
No.24 職場復帰支援(1)
産業医交代を契機に職場復帰支援が充実、就業環境等を改善した事例
No.25 職場復帰支援(2)
職場復帰支援プログラムが導入されうまく活用されている事例
No.26 職場復帰支援(3)
産業医非選任の小規模事業場での労働衛生機関医師による復職支援事例
No.27 復職支援プログラム
外部の復職支援プログラムを利用した事例
No.28 定期健康診断(健診)
健診時のスクリーニングで継続相談を開始した事例
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(事業場におけるメンタルヘルス対策に重点を置いた事例)
キーワード:衛生委員会
No.15
安全衛生委員会で活性化(1)
~衛生委員会に健康づくり部会を設けて活性化した事例 ~
<DATA>
サービスを提供した機関:企業外労働衛生機関
事業場: 従業員数180人の製造業
機関に相談した事業場担当者:人事課(衛生管理者)
事例の経過
背景 平成18年度の労働安全衛生法の改正により、安全衛生管理体制の強化における衛
生委員会の調査・審議事項として、下記4項目が新たに加わった。
1) 危険性・有害性等の調査
2) 労働安全衛生システム(PDCA:計画の作成、実施、評価及び改善)
3) 長時間労働による健康障害防止を図るための対策の樹立
4) 労働者の精神的健康の保持増進を図るための対策の樹立
相談内容 嘱託産業医は、企業の安全衛生担当者から、「どのようにしたら法の改正要求
事項も満たし、効果的な安全衛生委員会を運営できるか」の意見を求められた。
実態 当該事業場の安全衛生委員会は、月1回開催されてはいるものの、形骸化して実質
的にはあまり機能していない。
委員長(議長)は工場長、委員の半数は組合からの選出で、衛生管理者と嘱託産業医も
委員になっている。
現状では、事務局からの報告に終始し、安全関連の事項が主であり、衛生面の議題は少
ない。委員長は欠席が多く、嘱託産業医も、ほとんど出席していない。
行った活動の内容
① 従来の安全衛生委員会の運営内容をチェック
議題、委員の出席状況・担当業務・任期・職責・組合選出議員の業務・事務局の陣容を
確認した。
② チェックした内容の問題点の洗い出し
議題を法的要求審議・調査事項を中心とすることに変更した。(安全衛生規定等の改定)
③ 安全衛生規定・委員会規定の改定・議事録の様式の改定(事業者の承認印・開示等)
安全衛生委員会規定を見直し、任期・委嘱の方法などを改定した。
④ 労働基準団体主催の経営者セミナーに参加⇒事業者の啓蒙
事業者を労働基準団体の開催する安全衛生セミナーに出席させた。
他社の例を参考に専門部会を設けた(ゼロ災部会・事前評価部会・健康づくり部会等)。 36
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(事業場におけるメンタルヘルス対策に重点を置いた事例)
⑤ 事務局スタッフに衛生管理者を追加
衛生管理者を中心とした健康づくり部会を設け、産業医とも連携の強化を図った。
安全衛生委員会の事務局に衛生管理者を入れた。
⑥ 労働組合との調整など
結果
1)法的要求事項中心の調査・審議が行われるようになった。
2)安全面だけでなく、衛生面の事項も議題としてあげられるようになった。
3)健康づくり部会を設けたことにより、メンタルヘルスに係る議題も取り入れられ、産業医の
活躍する場(出席)が増えた。
4)事業者(委員長)も安全衛生に理解を示し、委員会に積極的に関与するようになった。
事例のポイントと解説
① 危機感
安全衛生担当者が安全衛生管理に危機感を持っていた。
② 他社を参考
外部の機関に相談することによって、他社の事例など参考にすることができた。
③ 健康づくり部会
健康づくり部会を設けることによって、衛生管理者や産業医が活躍する場ができた。
④ メンタルヘルスケアの重要性
事業場にメンタルヘルス不調の労働者をかかえ、対応に苦慮していた。
⑤ セミナー参加
事業者が、外部の安全衛生セミナー等に参加した結果、安全衛生を危機管理の一環とし
てとらえ、遵法精神で臨むようになった。
⑥ 労働組合
労働組合の理解・協力があった。
対策に必要な資源
費用:外部のセミナー参加 10000円 (産業医・管理料80,000円/月 報酬規定)
時間:2時間ずつ5回
人員:6人(安全衛生担当・衛生管理者・人事担当・事業者・産業医・労組幹部)
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(事業場におけるメンタルヘルス対策に重点を置いた事例)
キーワード:衛生委員会
No.16
安全衛生委員会で活性化(2)
~中小企業における安全衛生委員会活性化の一例 ~
<DATA>
サービスを提供した機関:企業外労働衛生機関
事業場(B事業場): 従業員数60人の製造業
事例の経過
パターン化した安全衛生委員会
B事業場では、4年前の労働災害をきっかけに産業医を選任し、同時に安全衛生委員会
を立ち上げた。
当初、委員会は、産業医からの話題提供以外はパターン化した内容に終始し、安全衛生
活動自体も低調に推移していた。
行った活動の内容
① 役割とメンバーの変更
2年前より総務部長の発案で
・安全衛生委員会の司会を委員の持ち回りで担当する
・安全衛生委員でない社員がオブザーバーとして参加する(毎回5名)
の2点を開始した。
② 司会が勉強
持ち回りの司会は、自身で勉強して会社の活動向上につながると感じる、安全衛生につ
いての話題提供をすることが義務付けられており、委員の安全衛生活動への関心の上昇・
積極的関与につながっているものと期待される。
時にやや的外れな内容になることもあるため、必要に応じて産業医が補足説明や軌道修
正を行っている。
③ オブザーバーの感想
当初、オブザーバーの参加は、フォークリフトでスピード違反をした社員が反省の弁を述
べさせられるなど懲罰的側面が強かったが、現在は事務職なども含めて全員が順番に参
加する形に移行し、抵抗感のない活動として定着している。
委員会の最後に各オブザーバーが感想を述べているが、議題と関連した自身の業務や
生活への反映に対する意見が多く、会社全体の安全衛生活動活性化につながっている。
最終的に、各委員の安全衛生委員会への積極的姿勢、全社員の安全衛生活動への理
解・関心の高まりなどの効果が得られた。
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(事業場におけるメンタルヘルス対策に重点を置いた事例)
④ システムの導入
このような取り組みが浸透したこともあり、産業医の提案に経営層や安全衛生委員会が賛
同し、現在は労働安全衛生マネジメントシステムの構築に取り組んでいる。メンタルヘルス
不調者の復職支援システムは既に導入されており、円滑な復職達成の実績を複数上げて
いる。
事例のポイントと解説
① 自主的発案
社員の自主的発案に基づく安全衛生委員会活性化のための様々な工夫が、労働安全
衛生マネジメントシステム構築などの具体的取り組みにつながった。
② 専門家の助言
専門家である嘱託産業医の助言が、会社の自主的取り組みをよりよいものに導いた。
対策に必要な資源
費用:産業医の契約活動内(年間48万、月1回3時間の活動)
時間:1時間(安全衛生委員会)
人員:10名(産業医、安全衛生委員、オブザーバー)
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(事業場におけるメンタルヘルス対策に重点を置いた事例)
キーワード:長時間労働面接、ストレス調査、早期発見、早期治療
No.17
長時間労働面接(1)
~長時間労働面接にてメンタルヘルス不調者に就業制限措置を実施した事例 ~
<DATA>
サービスを提供した機関:企業外労働衛生機関
事業場:従業員数200人の製造業
対象者(C氏):39歳男性、機械の設計・設備保全等を担当する技術職の管理職
(残業時間:104時間)
事例の経過
順調な業務遂行と昇進 C氏は技術系の社員で、最近2年間は国内や海外への研修出張
も行ってきた。
社内の昇格試験にも合格し、課長職に抜擢された。
行った活動の内容
① 長時間労働面接(産業医)
C氏は、課長昇進後、100時間超の時間外労働が続き、2か月後の産業医による長時間
労働面接で、「前任者が異動になり、自分が課長職になってしまった。あまり知識がない部
署であるにもかかわらず、対外的な窓口にもなっている。もともとこつこつやるタイプで部下
をうまく使えない。自分はマネージメントに向かない。管理(マネージメント)することが負担
になっている。もう能力の限界で、頭の中に何も入っていかない。」と話した。
面接時の状態 睡眠時間は4~5時間で、中途覚醒(途中で目が覚める)や入眠障害(な
かなか寝付けない)があり、熟睡感もない。全身倦怠感(だるい)、全身のしびれ、動悸も自
覚しており、いつも頭がボーとしてもいる。「このまま自分はどうにかなってしまうのではない
か」という不安感も強い。
会社を辞めたい、出社したくない。最近は家族と話をするもの苦痛であるとのことだった。
② アンケート調査
「長時間労働による健康障害防止のための面接指導自己チェック票*1」(産業医学振興
財団)では、「自覚症状」が37点で判定は「評価Ⅳ」、「勤務状況」も6点で「評価D」であり、
「仕事による負担は非常に高い」と判定された。
③ 産業医から直ちに受診が促された(紹介状と意見書、診断書)
産業医が面接をしたところ、C氏はうつ病の可能性があり、「専門医受診」の必要性が示
唆された。産業医はその場で紹介状を書き、専門医の受診を促した。
④ 人事および衛生管理者へ説明
産業医は、「面接指導結果報告書および事後措置に係る意見書」に「就業の禁止」の判
定を記載し、本人に伝えるとともに人事および衛生管理者に対して説明を行い、以後その
ように取り計らう了承を得た。
翌日、主治医による「休業診断書」が提出された。
その後2ヵ月半休職後、C氏は元の職場に復職したが、職務内容は変更となり、順調に経40
過している。
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(事業場におけるメンタルヘルス対策に重点を置いた事例)
事例のポイントと解説
① 受診勧奨の重要性
昇格したばかりの慣れない業務を行う管理職は、時間外労働が多くなりがちであるばかり
でなく、精神的負担も強い場合があり、注意が必要である。
またメンタルヘルス不調が疑われるにもかかわらず、自責感があり休むことに抵抗感を示
す場合、受診等を本人任せにせず、産業医等が紹介状作成や受診予約の援助を行い、
確実に受診させることが重要である。
② 産業医の役割
「長時間労働面接の事後措置」にかかる「産業医の意見」は、会社(事業所)が行う措置に
直接的な影響を持つ。つまり、会社は、産業医の意見を尊重して、労働者の健康状態に合
わせた具体的な改善措置を実施する必要がある。
自分の意思での専門医受診に踏み切れない労働者や、主治医から療養を勧められても
「休業願い」をなかなか出せない労働者などは、長時間労働面接を機に「病気休業」を比
較的スムーズに開始することもある。
対策に必要な資源
費用:嘱託産業医契約活動内 (年間約192万 月2日の活動)
時間:1時間 : 長時間労働面接
人員:4人(産業医、主治医、衛生管理者、人事部)
*1 長時間労働による健康障害防止のための面接指導自己チェック票
産業医学振興財団が作成した「長時間労働者への面接指導チェックリスト(医師用)」の
別紙①に付属されているチェック票である。
厚生労働省ホームページ内の「過重労働による健康障害防止対策」のコーナーでは、こ
の他にも、「労働者の疲労蓄積度チェックリスト」や「長時間労働者への医師による面接指
導制度について(制度について解説したパンフレット)」などの様々なツール、マニュアル、
パンフレットを無料でダウンロードすることができる。
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(事業場におけるメンタルヘルス対策に重点を置いた事例)
キーワード:長時間労働面接、地域産業保健センター、小規模事業場
No.18
長時間労働面接(2)
~長時間労働の医師の面接指導制度を適用できた事例 ~
<DATA>
サービスを提供した機関:地域産業保健センター*1
事業場:従業員数30人のソフト開発企業
相談者:人事課
対象者(D氏): 30代男性、得意先でソフト開発とシステムメンテナンスをする主任
最近1カ月の残業時間:120時間超/月
事例の経過
快活な行動、高い勤務評価
D氏は、入社して7年目。今まで快活に行動し、担当業務を難なくこなし、勤務評価も高
かった。その実績が買われ、大手得意先の専従となった。事業場には、月に数回、業務報
告に戻る程度であった。
会話減少から遅刻・欠勤
専従となり6ヶ月を過ぎた頃から、業務報告の際に持ち前の明るさが消え、会話が少なく
なっていたために、上司も気にかけていた。
その後、得意先の企業から、D氏の業務遂行に支障が生じているとの連絡があった。
人事担当者が本人に接触したところ、「期待されて得意先に送りこまれ、孤軍奮闘したも
のの、思うような成果が上がらず、夜遅くまで残業が続いた。しかし空回りするばかりで、追
い込まれた精神状態となった。そのため不眠状態に陥り、定刻に出社できず、遅刻・欠勤
するようになった。」とのことであった。
行った活動の内容
① 地域産業保健センターの「健康相談窓口」の健康相談を利用した
事業場の人事責任者が、「地域産業保健センター」に、D氏の「メンタルヘルス不調」につ
いて相談をした。
② 問診票と健康診断個人票を持参させた
その際に受けた助言どおりに、D氏に「過重労働による問診票」を記入させ、過去6ヶ月間
の時間外労働の記録、直近の「健康診断個人票」と合わせて、センターに持参させた。人
事担当と上長も同行した。
③ 医師の面接指導を受けさせた
地域産業保健センターの「過重労働による医師の面接指導」を利用し、センターの協力
医師の面接指導を受けた。
その協力医師は心療内科医であり、軽い「うつ」と診断した。
④ 人事担当と上司もセンターに出向いた
職場スタッフからみた今までの経過、職場の現状を報告した。
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42
(事業場におけるメンタルヘルス対策に重点を置いた事例)
⑤ 協力医師から事業者へ、就業制限措置等の指導が行われた
協力医師による事業者に対する意見は、元の職場に戻し、当分の間は「残業禁止」、
という「就業制限措置」であった。企業側は、即、それを受け入れ、実行した。
⑥ 職場調整
得意先の代替としては、ベテラン社員を配置した。
D氏と上司・人事担当の面談を実施し、本人も納得した。
⑦ システム導入へ
事業場として、長時間労働に対する医師の面談のシステム化を検討した。
3ヶ月後には、D氏は快活さも取り戻し、元のように業務が遂行できるようになった。当面は
残業を月に20時間内と制限されている。
事例のポイントと解説
① 上司による気づき
上司が部下の行動の変化に早めに気づき、人事担当に相談した。
② 地域産業保健センターの利用
人事担当が、地域産業保健センターの事業内容を把握しており、この制度をスムーズに
利用できた。
③ 心療内科医の存在
人事担当が、労働時間を適切に把握していた。
④ 長時間労働の面接
地域産業保健センターの長時間労働の医師の面接指導はメンタルヘルス面も重視して
行われている。
⑤ 相手先企業の協力
相手先企業が的確な情報を与えてくれ、かつ積極的に協力してくれた。
⑥ 企業努力
再発防止のため、適正配置と長時間労働の削減に企業が努力している。
⑦ 産業医の意見の尊重
協力産業医である面接指導の結果の意見を事業者が尊重した。
対策に必要な資源
費用:0円
時間:1時間ずつ5回
人員:5人(上司、人事担当、事業者、地域産業保健センター医師、コーディネーター)
*1 地域産業保健センター
小規模事業場の事業者や労働者を対象に①各種健康相談、②個別訪問による産業保健
指導、③産業保健情報の提供、④長時間労働者への医師による面接指導の相談窓口、な43
どを無料で行っている。
43
(事業場におけるメンタルヘルス対策に重点を置いた事例)
キーワード:自殺後、相談体制、健康管理室
No.19
自殺後の相談体制(1)
~自殺のポストベンション*1を契機に相談体制を整備した事業場の事例 ~
<DATA>
サービスを提供した機関:外部EAP機関
事業場:従業員数100人の製造業
相談者:総務担当者
事例の経過
自殺の知らせ
製造ラインで交替勤務に従事する40歳代の男性社員(E氏)の突然の自殺の知らせが届
いた。E氏は、職人肌で頼りになる存在であり、周囲はショックを受けた。
行った活動の内容
① 自殺後の心理的ケアと、教育・研修
葬儀等が終わった段階で、総務担当者がEAP機関に職場への事後対応を依頼した。EA
P担当者が事業所を訪問し、まず関係者への個別面接が実施された。また、1ヵ月後に職
場の同僚に対して、グループ単位のケアが実施された。
事業場に対しては、EAP機関から一連のケアの結果が報告され、同時に今後のメンタル
ヘルス対策(教育・研修、相談体制づくり等)が提案された。
② 研修の実施、健康管理室の設置
2ヵ月後に管理者を対象としたラインケア研修が実施され、半年後には事業場内の相談
体制が見直された。社内相談室を整えて保健師を配置し、産業医との連携も強化された。
その結果、精神的問題に限らず、体調の問題や軽度の悩みの段階で相談につながる
ケースが増えた。また、専門的対応が必要な事例や復職支援については、産業保健スタッ
フとEAP機関との連携がとられるようになった。
③ メンタルヘルス支援体制の見直し、整備
産業保健スタッフが中心となり、事業場内のメンタルヘルス体制を見直し、整備する活動
に取り組むようになった。
44
44
(事業場におけるメンタルヘルス対策に重点を置いた事例)
事例のポイントと解説
① 自殺事例をきっかけに、教育・研修を実施、相談体制を整備した
外部EAPを利用し、自殺発生後の従業員への心理的なケアとその後の対策を検討し、事
業場内全体の危機意識が高いうちに、予防対策を実行した。
産業保健スタッフが窓口となることで、問題の早期発見が可能となった。
② メンタルヘルス支援体制の見直しが図られるようになった
産業医との連携が強化されたことにより、これまで職場で抱え込みがちであった対応か
ら、総務、産業保健スタッフ、事業場外資源が連携しながら対応できる体制となった。
対策に必要な資源
費用:EAP機関年間契約費用60万円
同僚へのグループでのケア1回10万円、 ラインケア研修1回10万円
社内相談室の設備費用、産業保健師の人件費
時間:自殺発生から相談室設置まで約1年間
人員:4人(総務担当者、産業医、産業保健師、EAP担当者)
*1 ポストベンション
自殺が起きた場合に、目撃者や職場など周囲の関係者に対して、2次的な自殺やメンタ
ルヘルス不調などを防ぐ目的で行う活動をいう。強い精神的ショックを受けている労働者に
対しては、産業保健スタッフや人事担当者が面談をし、自殺を防げなかったことに関して必
要以上に自分を責めないようなアドバイスや、必要時には専門医受診・カウンセリングなど
の奨めを行う。
45
45
(事業場におけるメンタルヘルス対策に重点を置いた事例)
キーワード:自殺後、早期発見
No.20
自殺後の相談体制(2)
~自殺が発生した中規模事業場における同僚への支援事例 ~
<DATA>
サービスを提供した機関: 企業外労働衛生機関
事業場(F事業場): 従業員数110人のサービス業
機関に相談した事業場担当者:総務課
事例の経過
自殺後の心配
F事業場で社員の自殺があった。発生の2日後に、産業医(非精神科医)は総務部長より、
同じ課の上司や同僚の精神状態が心配であるとの相談を受けた。
産業医は急遽、他の予定を調整し、同僚の心身の状態確認のため面談を行った。
行った活動の内容
①産業医面談の対象者の選定
面談は自殺発生後、1-2週間に実施した。対象は自殺者が所属していた、特定の顧客を
担当する部署(グループ)である。
一般に、自殺発生後の職場の反応として、職場への帰属感の低下や生産性の低下と関
連する「上司に対する怒り・不満」、「組織・体制に対する怒り・不満」、「自責感・無力感」、
「意欲低下」や、群発自殺と関連する「自殺者に対する共感」などがおこりうる。
②プライバシーの保護等
面談は、原因究明のための調査・犯人探しのための面談ではないこと、話したくなければ
話さない自由もあること、秘密は必ず守られることを、事前に関係者、対象者に説明し、理
解を得た上で行われた。
③産業医面談の実施
面談において産業医は、遺された者にしばしば見受けられるとされる症状(驚愕、茫然自
失、自責、抑うつ、不安や疑問、怒り、自責や他罰、原因の追及、周囲からの非難など)を
中心に状態の確認を行った。
最後に、少し時間が経ってから症状が出る場合もあるので、気になることがあれば遠慮な
く産業医まで申し出ることの伝達と周囲に強いショックを受けている方はいないかどうかの
質問をして面談を終了した。面談時間は一人約30分である。
④産業医面談の報告、再面談の必要性の検討
産業医は、面談の結果について、総務部長および担当部長に個人名は出さずに報告を
行った。精神状態に問題が疑われる社員がみられれば、経過観察のための面談を実施す
べきであるが、今回は該当者がなく、一度の面談で終了している。
46
自殺から6ヵ月が経過した時点で、上司、同僚らは特に支障なく、就業している。
46
(事業場におけるメンタルヘルス対策に重点を置いた事例)
事例のポイントと解説
① 産業医との関係
日常的に産業医と総務部長などの関係者が良好な関係を構築していたことで緊急事態へ
の速やかな対応が可能となった。
② 適切な面談時期
自殺発生後、時期を逸することなく1-2週間後に上司や同僚の面談を実施できた。
③ 効果的な面談
確認事項を事前に整理し、効果的に産業医面談を実施しえた。
対策に必要な資源
費用:追加分 90000円 (嘱託産業医契約活動 年間約60万 月1回訪問)
時間:6時間 面談対象の選定:30分
面談(30分)×10人:5時間
報告:30分
人員:3人(産業医、総務部長、担当部長)
47
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(事業場におけるメンタルヘルス対策に重点を置いた事例)
キーワード:保健師面談、衛生教育、早期発見、早期治療
No.21
新入社員教育
~新入社員受け入れ時の保健師面談が不適応の早期対応につながった事例 ~
<DATA>
サービスを提供した機関:企業外労働衛生機関
事業場(B工場):従業員数80人の製造業
相談者:総務課
対象者(G氏): 20代男性の製造管理 (正社員)
事例の経過
新入社員へ保健指導体制
B工場では従業員数が少なく、専属の産業保健スタッフはいなかったため、労働衛生機
関に月に一回の保健師訪問を依頼していた。
新入社員が新人研修ののち職場に配置された際は、必ず保健師による面談を受けるよう
になっていた。保健師からは日常生活での自己健康管理法や、ストレス対処の方法を指導
するようにしていた。
G氏は大学院卒業後、社内研修ののちB工場に配属された。
行った活動の内容
① 保健師による新入社員面談
G氏は、周囲が自分より年下の先輩であること、初めての土地での就労、自分の専門分野
とやや違う仕事などについての不安を口にした。
一方で、まず仕事に早く慣れ、必要な技術を習得しようとしているとも話し、時には実家な
どにかえり同年代の友人と過ごすことで、ストレス発散をしようと思っているとのことであった。
② 新入社員面談時の衛生教育、メンタルヘルス教育
保健師は、ストレスを強く感じたり、体調の変化があったりしたら、ひとりで対応しようとせず
早めに相談するように伝えた。
③ 上司への助言
上司に対しては、G氏にとって、同じような立場(学歴や年齢)のものがいないことから、職
場になじむかどうかを十分に観察してもらうように伝えた。
④ 労働衛生機関保健師による定期面談
半年後、上司からの勧めでG氏の保健師面談が実施された。上司からみて、元気がない
という。面談では病的な症状は明らかでなかったが、職場になじめない感じを自覚している
ようではあった。また、仕事上の先輩への接し方などの工夫についての相談もあり、日頃の
ストレス解消に運動を始めたことの報告もあった。
その後は、本人希望もあり、2-3か月に一度面談が繰り返され、その間の気持ちの振り返
りや整理が行われた。
しかし、さらに半年後、不眠が強まったため、G氏はみずから近くの開業医(内科医)のも 48
とを受診した。そこでは、睡眠剤の処方を受けたが、かえって業務に支障をきたした。
48
(事業場におけるメンタルヘルス対策に重点を置いた事例)
④ 早期の専門医紹介
保健師は面談でその経過を知り、精神科医への紹介を行った。抑うつ状態の診断で、新
たに投薬が開始となった。
事例のポイントと解説
① 新入社員時からの衛生教育、メンタルヘルス教育
職場不適応状態に対して早期からの介入を実施し、抑うつ状態の予防はできなかったが、
早期対応を円滑に進めることができた。
② 相談窓口の設置
中小規模事業場であっても、労働衛生機関と定期的なスタッフ派遣の契約を結び、健康
問題の窓口を設置することにより、効果的な心身両面の健康相談活動を実践することが可
能となる。
対策に必要な資源
費用:月1回(1日)の保健師活動内
(必要に応じてメンタル専門医が関わることを前提として年間約60万)
時間:1回30分の面談 × 8回
人員:保健師、上司、事業場衛生担当者、労働衛生機関メンタルヘルス専門医
49
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(事業場におけるメンタルヘルス対策に重点を置いた事例)
キーワード:衛生教育、相談体制、早期発見、復職支援
No.22
衛生教育(1)
~上司と本人への衛生教育により、専門家への相談へつながった事例 ~
<DATA>
サービスを提供した機関:外部EAP機関
事業場(A社):従業員数50人の電子部品製造業
相談者:総務担当者、直属の上司
対象者(O氏): 40代男性、開発技術職
事例の経過
確実な管理で信頼を得ていた
O氏は、仕様の決まったオーダーへの対応は確実で、得意先からの信頼も得ていた。し
かし一方で、臨機応変な対応を求められる業務に関しては苦手とする面があった。
入社から十数年が経過した頃より、事業場の業務拡大に伴って、仕事量が増加した他、
苦手な業務も増えてきたこともあってか、時折イライラ感が強く現れるようになった。
意欲・集中力が低下した
元々おだやかな性格で人付き合いもよかったが、この頃よりイライラ感が抑えられず怒
鳴ったり、一方では黙り込むなど、気分の波が大きくなっていった。
さらに数年後、特に業務量が増した時期に、連日深夜に及ぶ長時間労働が続いた。
その後不眠の症状が現れ、意欲・集中力の低下も顕著になっていった。業務量の多さに
加え、パフォーマンスの低下が影響して、残業時間が100時間を超える月が続くまま、1年
程が経過した。
行った活動の内容
① EAP機関と契約、メンタルヘルス研修を実施
そんな折に、会社がEAP機関と契約を結び、職場でメンタルヘルス研修(セルフケア・
ラインケア)が催された。
② 上司は異変に気づき、EAP機関への相談を勧めた
O氏は、セルフケア研修を受講し、みずから専門医を受診する必要性を感じたものの、受
診に対する抵抗感が強かった。しかしながら、O氏が職場の上司へつらい心境を吐露した
ところ、ラインケア研修を受けていた上司がEAP機関への相談を勧め、相談へとつながった。
③ EAP機関へ対応方法についてアドバイスを求めた
同時に、上司より総務担当者へ報告・相談がなされ、総務担当者よりEAP機関へアドバ
イスが求められた。
50
50
(事業場におけるメンタルヘルス対策に重点を置いた事例)
④ EAP機関からのコンサルテーションと、医師の診断を元に、休養を勧めた
EAP機関では即座に受診が必要と判断され、心療内科が紹介された。その結果、うつ病
との診断で投薬治療が開始され、O氏は約2ヵ月休職となった。服薬開始後、数週間で思
考力が回復し、不眠の症状も改善するなど、比較的短期間で休養と治療の効果がみられ、
順調に回復した。
⑤ 復職時には、業務負荷を軽減する配慮を行った
その後、客先との折衝業務からは当面外れるという配慮のもとに、元職場へ復帰し、就業
を継続している。
事例のポイントと解説
① 相談窓口の整備
本人が不調を感じていても、専門医療機関は敷居が高く、受診に至らないケースが少な
くない。当ケースでは、気軽に相談できるEAP機関の窓口があり、それらが周知されてい
たため、本人も周囲も相談先に迷うことなく相談へつながった。
② 不調の早期発見につながる衛生教育
上司等の周囲がメンタルヘルス不調に気づき、相談を促すためには、不調のサインを理
解しておく必要がある。当ケースでは、全管理職者に対してラインケア研修が実施されてい
たため、上司が不調のサインを理解し、その後の対応を基本通りに行うことができた。
③ 社内スタッフの役割分担
ラインケア研修において、事業場内のスタッフと連携することの必要性についても教育を
受けていたため、上司はケースへの対応を1人で抱え込まず、総務担当者と連携しながら
対応することができた。また、総務担当者がEAP機関へアドバイスを求めることによって、
担当者のケース対応能力が上がり、その後のケース対応がスムーズとなった。
対策に必要な資源
費用:メンタルヘルス研修実施費: 10万円
対象人数EAP契約料: 約3500円(年間1人あたり )※200人以上規模契約の場合
時間:3時間: メンタルヘルス研修 2時間
本人との面談 約1時間
人員:2人(上司+総務担当者)
51
51
(事業場におけるメンタルヘルス対策に重点を置いた事例)
キーワード:早期発見、衛生教育
No.23
衛生教育(2)
~メンタルヘルス研修会をきっかけに自分の体調不良に気づき、対応できた例 ~
<DATA>
サービスを提供した機関:企業外労働衛生機関
事業場:従業員数160人のイベント会社
相談者:対象者自ら
対象者(I氏):20代男性、事務職員(正社員)
事例の経過
転職後、仕事量増加
I氏は大学卒業後、病院事務職として2年間勤務した後、出身地企業の求人へ応募し、
試験を受けて合格、転職した。優秀な職員として期待されて、イベント企画部に配属された。
仕事の内容はイベントの企画、資材の購入や経理など多岐にわたる。仕事量は多く、8時
半出勤で退社は20時~22時頃であった。
上司には相談せず通院
就職して2ヶ月経った頃より、不眠や頭重感が出現、心療内科を受診し、「軽いうつ」とい
う診断で投薬治療を開始された。
上司に相談せず、社内に自分の体調や仕事のことを相談できるところがあることも知らな
かったため、内服をしながら我慢して仕事を続けていた。
行った活動の内容
① 産業医の講習会に参加した
就職から半年後、産業医による職員向けメンタルヘルス講習会に参加した。職場に産業
医という存在がいることを認識するとともに、講演を聞くうちに何らかの対応が自分に必要な
ことに気づき、健康管理室の保健師を通じて産業医面談を希望した。
② 産業医面談が実施された
I氏は、産業医を前に「通院は続けているが、毎日朝方4時まで眠れない。睡眠薬を飲ん
でも眠れない。頭重感も酷い。最近一ヶ月間は職場に足が向かず、休みを立て続けにとっ
ていた」と話した。
主治医にもそのことを相談していたが、「仕事は休めるなら休んだ方がいいけど・・・」
「仕事をやめないとよくならないかも」と言われたとのことだった。
③ 休業措置
産業医は、休養が必要と思われたため、上司と面談し、職場内の調整を行った。主治医
には本人の受診時に合わせて電話で連絡をとり、病休の必要性を確認して診断書の作成
を依頼した。I氏は診断書を提出し、業務引き継ぎの上病休となった。
④ 復職支援、配置転換
病休中、毎月一回の産業医面談で経過が確認された。同時に職場内調整も行われ、I氏
を複数人で業務を分担できる部署へ配置転換することが検討された。I氏は、3ヶ月間の休 52
52
業の後、配置転換の上、復職となった。
(事業場におけるメンタルヘルス対策に重点を置いた事例)
事例のポイントと解説
① 産業保健活動の周知
この職場は、これまで産業保健活動が活発でなく、職員に周知もされていなかった。
② 健康管理室の役割
健康管理室はあったが、職員への相談体制が不十分であった。
③ 研修会の開催とその意義
メンタルヘルス研修会をきっかけに、健康管理室と産業医の存在が周知され、職員が産業
医に相談する道筋が開けた。
④ 早期発見の重要性
I氏は、産業医面談時には、睡眠時間が一日2時間程度しか取れていない状態であったが、
幸い不調は重症化にまでは至っていなかった。
⑤ 職場の健康管理への理解
職員の不調が明らかになれば、産業医と相談のうえ真摯に対応する気風が職場にあった 。
対策に必要な資源
費用:嘱託産業医契約料、別途費用:講演料 60000円(=30000×2回)
時間:講演時間(1回90分)
面談時間(1回30分)
など
人員:産業医、保健師、総務課担当者、上司など
53
53
(事業場におけるメンタルヘルス対策に重点を置いた事例)
キーワード:復職支援、工場長、過重労働
No.24
職場復帰支援(1)
~産業医交代を契機に職場復帰支援が充実、就業環境等を改善した事例 ~
<DATA>
サービスを提供した機関:独立労働衛生コンサルタント(医師)*1
事業場(A社):従業員数140人の製造業
相談者:産業医
対象者(J氏): 50代男性の業務責任者(経営職)
事例の経過
J氏がA社の工場長になるまで
A社は、コンクリート製品を製造する企業(24時間操業)。
10年前に経営危機時に陥り、大手B社の資本援助をうけた。5年前にプロパー社員が社
長となり、4年前にはJ氏がプロパー社員として初の工場長となった。
しかし、6か月前よりJ氏はうつ病の診断で休業となった。休業後半年経過した現在、J氏は
社長から、強く職場復帰を望まれている。
なお、J氏の前の工場長2名も、うつ病で休業に至っている。
J氏の職務内容
工場長は、客先との折衝・製造計画作成・生産管理・トラブル対応・製品開発・製造改革
などを、一手に引き受けている。
24時間操業でコンクリート製品を作っているため、トラブルの度に、携帯電話での呼び出
しをうけ、休日や夜間でも恒常的に工場に駆けつける状況だった。
労働衛生コンサルタントへ相談
社長がJ氏の復職対応に困り、独立労働衛生コンサルタント(医師)に相談することになっ
た。
行った活動の内容
コンサルタントは、復職準備・体制整備・環境改善について、以下の支援を行った。
① 社長との面談
・状況確認:企業概要、J氏の業務・体調、現在の操業体制、今後の対応予定など
・助言・指導:基本的対応や一般的注意
・対応協議:主治医への状況確認、産業医との連絡
② 主治医からの情報の入手および産業医との協議
・主治医:「典型的な疲弊性うつ病で、本人の素因は極めてゼロに近い。就業環境改善が
望まれる。」
・産業医:「自分は専門外なので、本件の対応は無理である。産業医を辞めたい。別の医師
と契約し、対応してほしい。」その結果、当該コンサルタント(医師)が産業医となった。
54
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(事業場におけるメンタルヘルス対策に重点を置いた事例)
当該コンサルタントは、新しい産業医として、本人と面談し、状況を確認しつつ復職を支援
した(復職時の業務内容などのプランを練った)。
③ (新しい)産業医の対応
・本人との定期的な面談を開始した。休職11カ月後、体調の順調な回復を確認した。本人
と復職を目指すことで合意した。
・社長と協議を行った。就業環境の改善に関して、業務分担や24時間拘束解除などを依頼
した。
④ その後の経過
就業環境改善下に、J氏は事業改善プロジェクト担当として復職し、トラブル発生時対応
マニュアル作成に尽力した。体調は悪化することなく経過し、復職後3年目に、工場長に復
帰し、楽しく仕事を続けている。
工場長業務は、顧客対応、生産計画・進捗管理、現場対応、トラブル改善、商品開発・行
程改善などに分解され、各担当者が決定された。
産業医交代半年後
職場巡視時に、産業医は工場長下の各課課長から、業務体制の整備によるストレス軽減
について感謝され、管理職全体が過負荷を強いられていた状況が再認識された。
事例のポイントと解説
① 就労環境の整備
過負荷状況、過重労働状況が改善された。
② 復職支援
復職手順の確認、復職時配慮の事前協議と段階的復職が実施された。
対策に必要な資源
費用:嘱託産業医契約活動内 (年間約70万 月1回訪問)
時間:各1時間づつの面談(ほぼ毎月)やフォローならびに改善プラン立案ならびに事前協
議や業務進捗確認など
人員:代表取締役社長、本人、製造部長、産業医、主治医
*1 独立労働衛生コンサルタント
独立労働衛生コンサルタントとは、①労働安全衛生法第83条に基づく労働衛生コンサル
タント試験(国家試験)に合格し、②同法第84条に基づき厚生労働省に備える労働衛生コ
ンサルタント名簿に登録し、③独立開業してコンサルタント業に就いている者をいう。
55
55
(事業場におけるメンタルヘルス対策に重点を置いた事例)
キーワード:復職支援、小規模事業場
No.25
職場復帰支援(2)
~職場復帰支援プログラムが導入されうまく活用されている事例 ~
<DATA>
サービスを提供した機関:企業外労働衛生機関
事業場(E社):従業員数40人の情報通信業
相談者:衛生管理者、直属の上司
対象者(L氏): 40代男性、システムエンジニアのチームリーダー
(勤務形態は裁量労働制)
事例の経過
復職支援プログラムの導入
E社は単独企業分散型小規模事業場であり、本社作成の「復職支援プログラムの社内
規定」が各事業場に導入されていた。また本社で選任された産業医が、各事業場を月1回
巡視することになっており、巡視の際、随時個別面接等も行うことがあった。
復職支援の準備
「うつ病」の診断で6ヶ月間休職中のL氏より「よくなったので復職したい」との連絡があった。
「社内規定」に基づき、本人の同意を得て、所属部長(上司)と衛生管理者(人事労務管
理スタッフ)が主治医を尋ね、病状の改善の程度および業務面での配慮すべきことを確認
して、復職支援の準備を開始した。
行った活動の内容
① 復職後の業務プログラムの説明
産業医は、「復職診断書*1 」の提出を受けてL氏と面談し、症状の改善と主治医からの意
見(書面)を確認した。次に、上司と衛生管理者(人事労務管理スタッフ)を交え、本人に対
して復職後の業務プログラムの説明を行い、同意を得た。
② 産業医の意見書
産業医より提出された「就業上の措置等に関する意見書」をもとに、社内規定に記された
「試し出勤*2 」が適用され、その後、当面勤務形態を裁量労働制から普通勤務に変更する
こと、時間外労働をしないことを条件に復職が認められた。
③ 就業制限の解除
産業医は、復職後もL氏と毎月フォローアップ面談を行い、プログラムの順調な遂行を確
認した。その結果、就業制限(時間外労働制限等)も徐々に解除されていった。
④ 産業医による「柔軟な対応が必要」との判断
当初のプランでは、復職2ヵ月後より通常勤務に戻る予定であったが、本人の体調に波が
あったことから、就業制限をさらに1ヶ月間延長し、その後通常勤務とした。
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L氏は1年経過後も通院中であるが通常勤務を問題なくこなしている。
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(事業場におけるメンタルヘルス対策に重点を置いた事例)
事例のポイントと解説
① 職場復帰支援の社内規定、試し出勤制度の確立
E社には職場復職支援の社内規定(ルール)が設置されており、人事労務管理スタッフは
もちろん、管理監督者(上司)および従業員等にも周知されていた。人事労務管理スタッフ
や上司の役割分担も確立しており、適切に遂行されていた。
試し出勤制度(復職後2週間は半日勤務、次の2週間は6時間勤務)も導入されていた。
② 周囲の理解
社内規定が従業員にも周知されていることで、L氏に対する周囲の支援が得られていた。
③ 復職支援プランの修正
小規模事業場でありながら産業医が選任されており、フォローアップ面談が適宜行われ
たことで、本人の体調に合わせた復職支援プランの見直しや修正を細かく行うことが可能
であった。
対策に必要な資源
費用:嘱託産業医契約活動内 (年間約60万 月1回の活動)
時間:7ヵ月
人員:4人(人事労務スタッフ、職場上司、産業医、主治医)
*1 復職診断書
主治医による復職可能の判断が記載された診断書。
「職場復帰支援に関する情報提供依頼書」を作成の上、従業員を経由して主治医に提
出すると、より的確な意見・助言を受け取ることが期待できる。
*2 試し出勤(リハビリ出勤)
社内制度として、正式な職場復帰の決定の前に、試し出勤制度(職場復帰前に、職場復
帰の判断等を目的として、本来の職場などに試験的に一定期間継続して出勤する制度)を
設けている場合、より早い段階で職場復帰の試みを開始することができ、結果として早期の
復帰に結び付けることが期待できる。また、長期に休業している労働者にとっては、就業に
関する不安の緩和に寄与するとともに、労働者自身が実際の職場において自分自身及び
職場の状況を確認しながら復帰の準備を行うことができるため、より高い職場復帰率をもた
らすことが期待される。
ただし、この制度の導入に当たっては、この間の処遇や災害が発生した場合の対応、人
事労務管理上の位置づけ等について、あらかじめ労使間で十分に検討しておくとともに、
一定のルールを定めておく必要がある(「復職支援マニュアルの手引き」参照)。
こころの健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き(平成21年3月)より抜粋、一部改変
57
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(事業場におけるメンタルヘルス対策に重点を置いた事例)
キーワード:復職支援、小規模事業場
No.26
職場復帰支援(3)
~産業医非選任の小規模事業場での労働衛生機関医師による復職支援事例 ~
<DATA>
サービスを提供した機関:企業外労働衛生機関
事業場(A社):従業員数35人のサービス業
相談者:社長(B氏)
対象者(M氏): 50代男性、品質管理担当の正社員
事例の経過
復職への不安
A社社長B氏から、定期健診を担当している労働衛生機関の営業部長宛に、「うつ病で
6か月休職中の社員(M氏)について、主治医より復職可の診断書が提出されたが、家族か
ら本人が不安がっているとの申告があり、対応に苦慮している」との相談があった。
営業部長から機関所属医師Cが相談を受け、M氏との面談を実施した。
行った活動の内容
① 医師による当該労働者との面談
医師は面談の中で、本来業務であるISO認証取得に向けた作業に加えて組合業務を引
き受けたことで精神的負担を募らせ、不眠、朝の億劫さ、食欲低下などの症状が出現したこ
と、残業は過度ではなかったことなどを確認した。面談時には既に症状が概ね消失し、規
則正しい生活ができていた。
② 復職に向けての不安などの整理
医師は、B氏に対して、M氏の就業に関する不安(本来業務への意欲は高いが、組合へ
の抵抗が強い)を伝え、残業制限、組合業務担当除外など必要な就業上の配慮を提言し
た。
③ 上司(社長)との調整
即日、M氏、B氏、医師による協議が行われ、速やかな復職が実現した。
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(事業場におけるメンタルヘルス対策に重点を置いた事例)
事例のポイントと解説
① 小規模事業場の産業保健活動の実態
本来ならば、選任された産業医が、職場環境や会社の雰囲気を理解した上で復職のた
めの面談・助言を実施すべきである。しかし、小規模事業場では、時間的・費用的制約など
があり、今回の事例のように日常的な産業保健活動が全く行われていない例が少なくない。
その場合、事業者や管理者がメンタルヘルス不調者への対処方法を全く分からず、会
社・当該労働者双方に不利益がもたらされる可能性がある。
② 健診を通じた相談窓口
健診を通じて関与している労働衛生機関が相談窓口となり、対応することで今回のよう
にスムースな復職支援ができる場合がある。
対策に必要な資源
費用:50,000円
時間:3時間
人員:4人(社長、本人、労働衛生機関の医師と営業部長)
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(事業場におけるメンタルヘルス対策に重点を置いた事例)
キーワード:復職支援プログラム
No.27
復職支援プログラム
~外部の復職支援プログラムを利用した事例 ~
<DATA>
サービスを提供した機関:外部EAP機関
事業場:従業員数70人の製造業
相談者:人事課と直属の上司
対象者(N氏):50代男性、営業職の部長
事例の経過
人間関係から抑うつ状態
営業職のN氏は、営業所で部長職に就いていたが、反抗的な複数の部下との人間関係
から抑うつ状態となり、専門医を受診した。
主治医から就労の許可
N氏は「うつ病」と診断され、2カ月間の自宅療養と薬物療法を受けた。その後、仕事に対
する意欲を回復し、主治医からは就労の許可を得ることができた。
職場異動して復職
主治医からの意見をもとに、上司、人事担当者が復帰に当たっての勤務地、業務内容、
就業時間などの検討を行った結果、N氏の意向を踏まえて人間関係で問題のあった元職
場以外での復職が決まった。
再休職
しかし、その異動先の職場がちょうど繁忙期で、N氏も徐々に過重労働気味となり、うつ
が再発し再休職となった。
行った活動の内容
① EAP機関と連携
職場が契約しているEAP機関と人事、上司が連携し、休職者のスムーズな復職を目指
すことで合意した。
② EAP機関の復職支援プログラム
(うつ病の再発や再休職を防止するための休職者への復職支援プログラム)
その後、体調も回復傾向となったが、再休職や再発を防止するために、EAP機関からN
氏に対して、EAP機関内に併設されている復職支援プログラムに参加するよう働きかけが
なされ、N氏も同意した。
また、人事と上司は、EAP機関と連携しながら、N氏の適切な復職先や復職時の環境
調整を模索していくことになった。
③ 家族への支援
EAP機関から、N氏の同居家族への助言が行われた。
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(事業場におけるメンタルヘルス対策に重点を置いた事例)
事例のポイントと解説
① 休職を繰り返す従業員に対する外部の復職支援プログラムの紹介
復職を焦る従業員に対して、職場の安全配慮義務や従業員の健康管理責任を説明した
上で、労働意欲の回復のみならず、うつ病の再発、再休職予防の取り組みが重要であるこ
とを説明し、EAP機関が併設している復職支援プログラムへの参加を促した。
② 復職時の職場環境調整と試し出勤*1をめぐる職場とEAP機関の連携
休職者の意向を聞きながら、職場とEAP機関が連携しながら、安心して復職できる環境
を整えた。
③ 家族の不安の軽減と、休職者がゆっくり休養できる環境の整備。
EAP機関が、休職者の家族に対して、来所相談、電話相談、メール相談により、休職者
の状況を聴きつつ、家族が困っている状況がないかについても確認し、必要に応じて助言
を行った。
対策に必要な資源
費用:EAP契約料(会社負担):1人当たり、1,890円/年
復職支援プログラム参加費用(精神科ショートケア/本人負担3割):1,040円/日
時間:外部復職支援プログラムへの参加及び、復職時の異動先の選定:3ヶ月
人員:5人(EAPスタッフ1人、人事担当者2人、上司2人)
*1 試し出勤
事例25職場復帰支援(3)参照
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(事業場におけるメンタルヘルス対策に重点を置いた事例)
キーワード:定期健康診断、簡易ストレス調査、早期発見
No.28
定期健康診断(健診)
~健診時のスクリーニングで継続相談を開始した事例 ~
<DATA>
サービスを提供した機関:企業外労働衛生機関
事業場(G社):従業員数130人の製造業
対象者(O氏):33歳男性、資材管理で働く正社員
事例の経過
健診で簡易ストレス調査
O氏は、製品製造業(G社)の資材管理部署に勤務し、主な業務はフォークリフト運転、製
造現場への部品供給であった。
今年度よりG社では、健康診断時にアンケート形式の「簡易ストレス調査」を実施した。
O氏は、その回答内容から抑うつ状態が疑われたため、嘱託産業医の面談が実施された。
行った活動の内容
健診時のスクリーニングから早期の対応、受診。
① 産業医面談
面談の結果、O氏は睡眠が不十分であること、職場の人間関係に若干の負担があること
がわかった。また、不十分な睡眠が続くと、意欲の低下が生じるとともに、日中いらいらし、
周囲に対してぶっきらぼうになって、よけいに人間関係を悪化させることも、本人は感じて
いた。
② 紹介受診と就業制限
産業医は、睡眠確保のために専門医を受診することを勧め、本人も同意したため、受診と
なった。 主治医からは、睡眠剤と抗うつ薬が処方された。産業医は、本人の同意を得て、
上司に現状の報告を行なった。
薬の副作用で眠気が強いため、産業医の助言のもとに、当面フォークリフト運転は見合わ
されることとなった。
上司が理解を示し、本人とのコミュニケーションをはかった。
③ 随時職場調整
当初、上司はO氏への対応に戸惑っていたが、産業医との面談後は積極的に声掛けをし、
挨拶などもつとめてかわすようになった。O氏は、職場の人間関係に関しても、徐々に産業
医に相談を始めるようになった。しかし、睡眠剤の調整が困難で、焦燥感、不安感の改善も
乏しいため、主治医から休養を勧められた。
その後2か月の休業ののち、O氏は職場に復帰することになった。
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(事業場におけるメンタルヘルス対策に重点を置いた事例)
事例のポイントと解説
①スクリーニングの意義と留意点
メンタルヘルス不調では、本人からはなかなか相談に踏み出せず、スクリーニングをきっ
かけに対応を開始することができるようになることがある。また、早期発見につながるケース
もある。ただし、スクリーニングをする場合には、その事後措置(不調が疑われた者、疑われ
なかった者にどのような対応をするかなど)をあらかじめ決めておく必要がある。
②上司の関わり
本人の同僚とのコミュニケーションが良くないと感じていた上司が、面談をきっかけに、
本人への声掛けなどをおこなった。
また、病状に合わせた配慮を行うことができた。
対策に必要な資源
費用:嘱託産業医契約活動内 (年間約60万 月1回3時間訪問)
時間:産業医面談1回30分×5回
人員:3人(産業医、人事部、精神科医)
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第3章 メンタルヘルス不調者への対応が困難であった事例
No.29 困難事例1:欠勤を続ける従業員
介護や体調不良を理由に欠勤を続ける部下の対応に苦慮した事例
No.30 困難事例2:セクハラ後
セクシュアルハラスメントを受けた後に抑うつ状態となり休職となった事例
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(メンタルヘルス不調者への対応が困難であった事例)
キーワード:復職支援
No.29
欠勤を続ける従業員
~介護や体調不良を理由に欠勤を続ける部下の対応に苦慮した事例~
<DATA>
サービスを提供した機関:外部EAP機関
事業場: 従業員数250人の製造業
機関に相談した事業場担当者:直属の上司
対象者(D氏):50代男性、経理
事例の経過
D氏は勤続25年で、これまで予算の編成や管理に携わってきた。特に目立つところもな
いが問題を起こすようなこともなく淡々と業務をこなしてきたが、5年前に同居する実母が倒
れたことを機に,ほとんど出勤しない状態が続いている。
【経過】
5年前、実母が自宅にて倒れ、救急搬送された。1ヵ月の入院の後も、食事や排便など生
活全般に介助を要する状態であったため、D氏は2年間の介護休職をとった。
D氏は2年間の休職後、職場復帰した。復帰後は介護のための時短勤務を取得した。
2年前からは母親に軽い認知症の症状も出始めた。
年度が替わって間もなく有給休暇を使い果たし、今度はD氏本人の体調不良(内科医に
よる診断書)により傷病欠勤をとるようにもなった。
【現在】
1ヶ月平均20日前後の欠勤と上司による面談
実母の介護や本人の体調不良などを理由に1ヵ月平均20日前後の欠勤が続いていた。
上司はD氏と何回か面談を行った。上司はD氏のメンタルヘルス不調を懸念し、社内の相
談窓口に繋ごうとするが、D氏に拒否された。
介護と仕事の両立困難
母親の介護に関して、公的支援を利用してはいるものの、D氏は「身内のことは自分が何
とかするしかいない」と、抱え込んでしまっていた。一方で本人はまた、勤務状況が就業規
則上許されない事態にあることも理解はしていた。実際に、あまりにも欠勤が続き、D氏が担
当する業務が滞ってしまうため、他の社員が分担して処理をおこなっていた。診断書には
「症状がひどい時は休むこと」程度しか書かれていなかった。
(この直しで主旨があっているかどうか、自信がありません。)
上司はD氏を説得し、契約している社外のEAP機関の相談窓口を利用することとなった。
行った活動の内容
EAP担当者は、直属の上司に、以下の点を伝えた。
① 症状と業務上の配慮の明確化
・本人の症状について主治医に確認する。
・業務上の配慮として必要なことと、そうではないことを区別する。
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(メンタルヘルス不調者個人に対する対応に重点を置いた事例)
② 規則を改めて明示
就業規則や社内ルールを改めて本人に明示する。
③ 問題の共有
上記①②を基に、現在起きている問題は何か、本人と職場との間で共通認識を持つ。
④ 目標設定
問題改善のために本人が今できることを検討し、目標設定する。
⑤ 実施と約束
期限を決めて問題改善を実施する。期限内に改善が見られなければ産業医もしくはEA
P機関の面談を受けることを本人に約束させる。
その後の経過
本人にとっても会社側にとっても、ストレスとなることは減った
介入直後に本人の業務効率の飛躍的改善は認められなかったが、「何をすべきか」を明
確にすることで、上司や同僚のストレスは軽減された。
また、徐々にではあるが、本人と職場の間にコミュニケーションも生まれるようになった。
事例のポイントと解説
① 長年の温情処理
数年間にわたって勤怠の問題が放置されていたケースである。職場としても全く対応せ
ずにいたわけではないが、「母親の介護で大変だろうから」との“温情”により内々に処理し
ていた。また、「本人がメンタルヘルス不調に陥っているのではないか」との懸念から踏み
込んだことが言えず、及び腰になっていた面もあった。
② 悪循環
これでは、本人のモチベーションは下がる一方で、職場への適応がますます困難になる。
また、他の社員にとっても実質的な負担が増えるばかりでなく、「この状態でも許されるの
か」と不公平感が高まり、士気低下につながる。こうした状況を放置することは、本人、職場
の双方に悪影響を及ぼす恐れがある。
③ EAPの介入
EAP相談窓口の介入により、組織が行うべきことと本人が行うべきことが明確にされた。
特に本人が行うべきことを、本人自身が可能と考える範囲で約束したことで、上司としても
本人に毅然とした対応をとれるようになった。
対策に必要な資源
費用:EAP契約料(会社負担)1人当たり、1,800円/年
時間:1ヵ月:上司との電話30分以内 ×2回
上司との面談1時間 ×2回
人員:直属の上司
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(メンタルヘルス不調者への対応が困難であった事例)
キーワード:セクシュアルハラスメント、相談体制、復職支援
No.30
セクハラ後
~セクシュアルハラスメント*1を受けた後に抑うつ状態で休職となった事例~
<DATA>
サービスを提供した機関:開業医(個人契約)
事業場: 従業員数100人の製造業
機関に相談した事業場担当者:本人
対象者(E氏):30代女性、総務課
事例の経過
セクハラ後に休職
E氏は入社5年目から7年目まで直属の上司F氏からセクシュアルハラスメント(以下、セク
ハラ)を受けた。このセクハラへの対応*2は本社の人事労務担当者(以下、担当者)が実施
し、F氏を処分したものの、その後E氏はゆううつ感や不眠が強くなり、休職することになった。
担当者が連絡したところ、症状が悪化
担当者が、傷病手当金などの書類手続きについてE氏へ連絡した際に、セクハラを受け
てからの症状の経過を尋ねたところ、E氏は当時の恐怖感がよみがえり、不安・不眠などの
症状が悪化してしまった。
担当者はE氏への対応方法に困り、産業医へ相談した。
行った活動の内容
産業医は、今後の対応の対応について、以下の助言をした。
① 会社の事情で病状の経緯を急ぐのは適切でない
会社側が症状を心配しているのは十分理解できるが、今は症状の確認を控え、事務的な
連絡のみとすること。
② 書類などを簡易化すること
E氏は、まだ病状が不安定であると推測されるため、できるだけ会社や仕事のことを考え
ないでよい環境をつくるべきである。普段なら何でもないことでもひどく負担に感じる恐れも
あり、本人が記入することになっている休業に関する書類についても、できるだけ作業が軽
減できるように配慮することが望ましい。
③ 定期的な産業医面談とその報告
E氏の状態の確認は、もっぱら産業医が行うこととして、本人の希望を確認しながら、2カ
月に1回程度の面談を実施する。
しかし、1ヵ月後再び症状が悪化
本人が休業前に口にしていた労災申請について、担当者が手続きを進める予定がある
かどうかをメールで問い合わせたところ、E氏は再び症状が悪化してしまった。担当者は困 67
惑し、本人からも「今後同様のことが続くのでは」という不安の声が聞かれた。
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(メンタルヘルス不調者個人に対する対応に重点を置いた事例)
その後の経過
担当者が産業医へ相談しやすい体制へ
担当者と産業医が直接会ってその後の対応に関する打ち合わせを行った。
当面は、連絡しようとする内容を事前に産業医に送り、チェックを受けることになった。また、
これを機に、メンタルヘルス不調への対応については、産業医と関係者が十分な連携を図
る取り決めがなされた。
担当者もE氏も安心
産業医が連絡内容を確認することで、会社側は安心して手続き等を進めることができ、休
業している本人も安心してメールを見ることができるようになった。
事例のポイントと解説
① 休業者への連絡対応と配慮
本事例のように、休業者の状況確認は、本人の健康への影響を考慮して行われるべきで
あり、そのときの症状に合わせた配慮が必要である。産業医および保健師は、医療職として、
主治医への問い合わせや本人との接触を通して、その判断を行いやすい立場にある。
② メンタルヘルス不調に対する理解
メンタルヘルス不調者への対応は、過去に教育研修を受けていても、実際場面では、ど
のようにしたらよいかわからなくなることが多い。問題が発生した際に、必要に応じてその都
度、産業医や保健師に相談できる体制をつくれれば、関係者の心理的負荷が軽減され、よ
り適切な対応が可能となる。
対策に必要な資源
費用:嘱託産業医契約活動内 (年間約60万 月1回の活動) と契約時間外(1万円)
時間:2時間:30分ずつ4回の面談
E氏と産業医の面談:3回
産業医と本社担当者の面談:1回
人員:2人;本社相談窓口担当者、嘱託産業医
*1 職場におけるセクシュアルハラスメント
職場において行われる性的な言動に対するその雇用する労働者の対応により当該労働
者がその労働条件につき不利益を受け、又は当該性的な言動により当該労働者の就業環
境が害されること。(「男女雇用機会均等法」による)
男女雇用機会均等法においては、職場におけるセクシュアルハラスメント対策について、
雇用管理上必要な9項目の措置を講ずることが事業主に義務づけられている。
*2 セクシュアルハラスメントの対応
職場内のセクシュアルハラスメントが原因と考えられるメンタルヘルス不調を業務上疾病と
して労災認定するか否かに関しては、厚生労働省から指針「セクシュアルハラスメントによる
精神障害等の業務上外の認定について」が示されている。
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