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16.堤防材料としての土質安定処理土の適用性検討について

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16.堤防材料としての土質安定処理土の適用性検討について
堤防材料としての土質安定処理土の適用性検討
について
道津
1関東地方整備局
河川部
河川工事課
友弘1
(〒330-9724 埼玉県さいたま市中央区新都心2-1)
河川堤防の盛土材料として、石灰やセメント等の改良材を用いて土質改良を行った土(以下、
「土質安定処理土」という)を使用する場合の課題等に対応するため、試験施工及びモニタリ
ングにより盛土材料としての適用性の評価検証を行い、盛土材料として土質安定処理土を用い
る場合の基本方針(案)(以下、「方針(案)」という)のとりまとめを行うものである。
キーワード 河川堤防,盛土材料,改良材,土質安定処理土
②乾燥による含水比低下
③添加材による土質改良
この中で、添加材により土質改良を行う場合の調査の留
河川堤防は、材料の入手が容易で構造物としての劣化
意点として、以下の項目があげられている。
現象が起きにくいこと、地盤の変化に伴って生じる不同
・室内試験によって十分に効果を把握しておくことは
沈下への修復が容易なこと、将来の拡築等が容易で経済
当然であるが、試験施工を行って所定の品質が得
的であることなどから、土堤を原則としている。
られるかどうかを確認しておくことが重要である。
このため、河川堤防の盛土材料として、河道掘削土や
・改良を行ったところでは、洪水時には現地観察や観
建設発生土等を使用するが、そのままでは盛土材料とし
測を実施し、改良効果や安全性について十分確認
て適さない場合、過去より天日乾燥や良質土との混合に
するよう努める。
よる粒度・含水比調整を行い使用している。それでも盛
上記のことから、江戸川河川事務所等にご協力頂き、
土材料として適さない場合、石灰やセメント等の改良材
を用いて土質改良を実施することとなる。しかしながら、 複数の改良工法・仕様(原材料の土質、改良材の種類・
添加量)で試験盛土を行い、施工後一定期間のモニタリ
改良材を用いた土質改良を実施する場合、明確な基準が
ングを行った上で、試験盛土の開削調査を行い河川堤防
無い中で実施していることから、近年、施工後のクラッ
としての機能性の確認を行うこととした。
クの発生や、植生への懸念など課題が提起されている。
それらの課題に対応するため、複数の改良工法・仕様で
試験施工、及びモニタリングにより適用性の評価検証を
行った上で、堤防材料としての土質安定処理土の適用性
3. 試験盛土による試験施工
検討を行うものである。
1. はじめに
(1) 試験施工の概要
江戸川河川事務所では、河川整備計画において段階的
2. 土質安定処理土を使用する場合の考え方
な河道掘削により土砂が大量に発生するが、この河道掘
削土は、堤体材料として評価の低いもの(粒度分布及び
河川堤防の盛土材料として土質改良を必要とする場合、 含水比)が多く見られ、対策方法を検討する目的で試験
施工を行った。河道掘削土で土質改良を必要とする土質
「河川土工マニュアル」(平成21年4月 財団法人国土
として、以下の3種類の土砂を選定した。
技術センター)では、下記のような改良や対応策を講じ
①SS(浚渫砂):細粒分不足で締め固めが困難
て工事をすすめることとしている。
②C2(粘性土):含水比40%以上が多く、60%程度
①他の土質との混合
以上では泥土(qc<200kN/m2)相
当の性状
③C3(火山灰質粘土):粘性が強く、従来工法によ
る破砕・混合等の施工が困難
また、試験施工の条件として、右記のとおり設定を行
った。
・砂と粘性土の比率を変えて、含水比低下状況及び望
ましい粒度分布、強度が確保できる組み合わせを
確認するため、SS:C=1:1、2:1の配合
を設定
・混合工法として、バックホウ混合、スタビライザー
混合、土質改良機による混合を設定
・添加材として汎用性の高い石灰、セメントを選定
表-1 試験盛土の実施パターン・試験結果
混合工法
試験番号
SS
母 C2
材 C3
配合
添加量
養生日数
盛土仕様
qc(KN/m2)
含水比(%)
細粒分含有率(%)
バックホウ混合
スタビライザー混合
B1 B2 B3 B4 B5
S1
S2
S3
S4
●
●
●
●
●
●
●
●
●
●
2:1
1:1
単 2:1
L30
2
存置
1:1
●
●
●
●
2:1
●
1:1
無添加
●
2:1
●
1:1
591
237
523
421
231
349
370
568
434
19.2
26.6
20.3
25.0
39.6
23.7
25.5
19.4
27.2 止
6.6
26.1
12.9
20.9
46.1
17.8
20.3
16.6
34.3
写真-1 バックホウ混合
S6
S7
D1
D2
D3
D4
●
●
●
●
●
●
●
●
●
●
単
L30
2
無添加
土質改良機
S5
の自
た走
め不
中可
●
1:1 1:1 2:1
L30 L30
2
2
存置 存置
D5
D6
D7
D8
D9 D10 D11 D12 D13 D14 D15 D16
●
●
●
●
●
●
●
●
●
●
●
●
1:1
L70
2
存置
●
1:1
C10
5
存置
●
1:1
C30
5
存置
●
1:1
C50
5
存置
●
1:1
C70
5
存置
●
1:1
C30
0
存置
●
1:1
C30
1
存置
●
1:1
C30
2
存置
●
● ● ●
単 1:1 1:1 1:1
L30 L10 L30 L50
無添加
2
2
2
2
存置 存置 存置 存置 存置
1:1
●
2:1
●
1:1
348
671
715
268
719
392
270
543
807 1,052 1,081
671
967 1,080 1,008
568
688
725
28.4
26.4
18.3
28.7
17.2
22.3
42.7
27.1
22.5
17.6
15.2
22.7
19.7
20.5
18.5
18.0
20.1
18.8
24.3
17.3
14.3
25.5
12.8
22.4
56.9
28.4
21.3
23.3
16.1
21.9
17.1
19.9
16.3
13.2
18.4
17.2
写真-2 スタビライザー混合
写真-4 試験盛土の実施状況
写真-3 土質改良機による混合
(2) 試験施工の結果
第1段階として、土の配合率、混合工法、添加材組み
合わせによる27ケースの混合、盛土構築を行い、各種
土性の比較検討及び評価を行った。
a)土の配合率の評価
砂と高含水比粘性土、火山灰質粘土を1:1で混合す
ることで、効果的に含水比を低下させ、粒度分布の改善
を図ることができた。上記の配合率が2:1の場合は、
やや砂分が多くなる傾向が見られた。
b)混合工法の評価
・バックホウ混合では、粘土分と砂分が分離し盛土に
ムラがあり、良好な混合状態が確保できない。
・スタビライザー混合では、粘土分と砂分が分離し土
質改良機より混合性に劣る。
・土質改良機では、どの土質・配合においても良好な
混合具合となる。
第2段階として、第1段階での評価を受けて、土質改
良機による混合の盛土を試験施工箇所に存置して、開削
調査等のモニタリングを行った。その際に、バックホウ
混合及びスタビライザー混合の盛土も比較として存置し、
計16ケースのモニタリングを行った。
c)混合工法と添加材の組み合わせによる評価
・バックホウ混合による粘性土(C2)単体への石灰
30kg添加(B5パターン)では、深部まで多量のク
ラックが発生し、石灰水投入後の染みだしが多く
見受けられた。(クラックの開口幅最大2cm程度)
表層のクラックは発生しなかったが、改良材が低
配合の場合(10kg/m3)は、表層にクラックが発生
した。
写真-7 D7の状況
d)植生、土壌pHのモニタリング
試験盛土から180日経過後の植生状況、土壌pHにつ
いてモニタリングを行った。
植生状況は、無添加混合土や10~30kg/m3改良土には
雑草類の侵入が見られたが、石灰、セメントともに
50kg/m3以上改良土には、植生は全く侵入しなかった。
土壌pHは、石灰、セメントの改良土はpH10以上の
値を示し、石灰の方が相対的に高い値を示した。また、
180日経過後においても、石灰の土壌pHはほとんど低
下しない結果となった。
写真-8 D4の状況
写真-9 D6の状況
写真-10 D9の状況
写真-11 D13の状況
写真-5 B5の状況
拡大
・スタビライザー混合では、砂と高含水比粘性土を
1:1で混合し石灰30kg添加(S6パターン)でク
ラックが発生した。
改良土の物性(添加量/土壌pH)
14
土壌pH
13
12
無添加(3日)
11
石灰(3日)
10
石灰(180日)
9
セメント(3日)
セメント(180日)
8
7
6
0
写真-6 S6の状況
・土質改良機による混合では、石灰、セメントともに
10
20
30
40
50
改良材添加量( kg/m3)
60
70
80
図-1 改良材添加量と土壌pHの関係
第3段階として、改良工法の有効性が確認された土質
改良機による混合で石灰、セメント及び比較として無添
加の5ケースについて、堤防川裏への腹付け盛土による
実物大での試験盛土を施工しモニタリングを行った。本
試験施工では、1年間のモニタリングを行った後に試験
盛土箇所の開削調査を行った。開削調査時には、既設堤
防とのなじみなどの観察調査を行った。また、土壌pH
ならびに流出水pHについてもモニタリングを行った。
植生(芝)の活着状態については、雨期や夏期を通じた
モニタリングを行った。
開削調査において特に注目した点は、以下のとおりで
ある。
・各ケースとも、既設堤防との境界部や転圧面の密着性
はよく、なじみは良好である。
・土砂の固さは、無添加土は容易、セメント改良土は固
いがバックホウでの掘削が可能、石灰改良土は非常に
固く、バックホウの通常バケットでは掘削が困難で、
土塊が多く残る。
・無添加土、石灰改良土(50kg)には、鉛直クラックが
幅5~10mmで盛土内部まで連続して見られた。
・無添加土、セメント改良土では芝の根の状態が良好で、
築堤土内まで根が侵入しており、根の張り強度(トル
ク値)も同等である。石灰改良土では、根の侵入が困
難で根腐れ(枯死)しており根の張り強度も小さい。
・土壌pHは、石灰、セメント改良土共におおむね10~
11以上の高い値で、特に石灰改良土(70kg添加)では、
既設堤防への影響も大きい。
写真-12 実証盛土の施工状況
図-2 実物大盛土の開削調査状況
クラックの発生が抑えられる等の効果が得られている。
一方、50kg/m3の添加量では、バックホウで掘削できな
い程に固化してしまい、土堤としての機能に影響を与え
る恐れのある状態が確認された。
3. 土質安定処理土を用いる場合の留意事項
江戸川河川事務所での試験盛土の他に、利根川上流河
川事務所での試験盛土及び荒川上流河川事務所における
土質安定処理土を用いた築堤実施工箇所でのモニタリン
グから、土質安定処理土を用いる場合の基本方針(案)
のとりまとめを行った。以下に、方針(案)の概要と解
説を示す。
(1) 土質安定処理土の品質
土質安定処理土の品質は、以下の項目を満足するもの
とした。
①各工事現場条件に応じて確保できる養生期間完了時
点で施工機械のトラフィカビリティ等に応じた必要
コーン指数(最低目標値:400KN/m2以上)を満足す
ることとする。
②河川堤防の盛土材料に適する粒度分布であることと
し、下図の赤着色範囲に近い粒度分布の材料である
こととする。
ただし、河川の河床材料や周辺の地質特性から下図
範囲に入らない粒度分布の盛土材料を使用してきて
いる場合は、必ずしも下図の粒度分布による必要は
ない。
表-2 試験施工結果
発生土掘削箇所
改良し養生1日後 試験盛土のクラック等の
のコーン指数
状況
材料混合割合
改良材種類
改良材添加量
事例1 渡瀬遊水地第二調整池
砂:粘性土=1:1
石灰
10kg/㎡
400KN/㎡以上
事例2 江戸川河道
砂:粘性土=1:1
石灰
30kg/㎡
400KN/㎡以上
事例3 江戸川河道
砂:粘性土=1:1
石灰
50kg/㎡
400KN/㎡以上
pH
初期:11
90日後:9~10
初期:11.5
ほとんど発生が無く良好
180日後:10.5
バックホウでの掘削が不 初期:12.5
可能な程に硬化
1年後:9~10
ほとんど発生が無く良好
また、荒川上流河川事務所では、砂礫土と粘性土を
1:1、石灰を21kg/m3添加で混合した土で堤防盛土を
実施した箇所のモニタリングを実施した。オールコアボ
ーリングで築堤実施箇所のコアを確認した結果、硬化し
すぎている状態や有害なクラック等は発生しておらず、
現堤防土と比較しても問題ない状態であることが確認で
きた。張芝についても問題なく生育していることを確認
した。
表-3 築堤実施工箇所のモニタリング結果
工事名
事例1 H24荒川大芦築堤工事
図-3 堤防材料に適する粒度分布範囲
(出典:河川土工マニュアル)
③有害物質が含まれていてはならない。
有害物質については、土壌汚染対策法施行規則にお
ける環境基準項目及びダイオキシン類が基準値以
下であることを確認する。
上記のように、改良材の添加量を極力少なくするため
に、各工事現場で確保できる土質安定処理土の養生期間
も考慮して、必要最低限のコーン指数を検討し決定する
こととし、過度な改良は避けるよう配慮した。その上で、
改良材の添加量について、試験施工及び実施工箇所のモ
ニタリング結果等を勘案して、以下のように決定した。
④改良材(石灰、セメント)の添加量については
30kg/m3以下とし、施工に必要な最低限のトラフィ
カビリティ(最低目標値:コーン指数400KN/m2以上)
等を確保することを目的に配合試験を実施し決定す
る。
試験施工の結果から、石灰添加量が30kg/m3程度まで
であれば築堤材料としてのトラフィカビリティの確保や
材料混合割合
改良材種類
砂礫土:粘性土=1:1
石灰
改良材添加量 クラック等の発生
21kg/㎡
発生無い
植生の状況
張芝の生育も良好で問題
無い。
写真-13 実施工箇所で
のモニタリング状況
(2) 改良土の製作方法
改良土を製作する場合の方法は、以下のとおりとした。
①改良土の製作方法は、改良材の添加量が管理できる
プラント又は自走式の土質改良機によるものとする。
②改良する土量が少ない場合等、土質改良機で施工す
ることが不合理な場合においては、スタビライザー
等による攪拌工法も採用できるものとする。
既往の試験施工において、バックホウやスタビライザ
ーによる攪拌では、特に粘性土がほぐれずに塊になった
ままの状態となり、改良材との均一な混合が得られない
ことから、改良土としての品質に問題があった。一方、
土質改良機による施工では粘性土が砕かれながら改良材
と均一に攪拌されるため、品質の高い改良土が製作でき
ることが確認された。また、改良材の攪拌が均質にでき
るため脱水反応が進みやすくなり改良材の添加量を少な
くできるメリットもある。よって、改良土の製作にあた
っては、土質改良機を標準とした。
(3) その他
①石灰やセメントを混合した土質安定処理土は、土壌
pHが強アルカリ性になるが、試験施工において
改良材が低配合であれば植生の生育に大きな影響
が無いことも確認されていることから、盛土法面
の中和処理等は実施せずに植生工を施工すること
とする。
②改良土を使用した箇所については、養生期間内は表
面上のクラック発生状況や植生の生育状況等を日
常巡視や養生工施工時等に目視により十分モニタ
リングし記録するものとする。
芝の生育適正範囲はpH5~7であるが、試験施工で
は30kg/m3以下の土質安定処理土では発生土に含まれる
雑草の種子から植生が復元し、50kg/m3程度以上の土質
安定処理土では植生は全く復元しないことが確認されて
いる。また、石灰を21kg/m3配合した土質安定処理土
を用いて堤防盛土を実施した箇所においては、張芝が十
分に育成していることも確認されている。
よって、張芝の場合、ある程度の強アルカリ性の土で
あっても、土自体が硬化せず根の生育が妨げられなけれ
ば生育に問題はないものと考え、当面は法面の中和処理
等は実施せずに張芝工を施工することとする。
ただし、土質安定処理土については、築堤土としての
評価に未だ不解明な部分も残ることから、施工後、養生
期間の3年間は目視によるモニタリングを継続すること
とした。モニタリングについては、日常巡視や維持工事
における養生工施工時等に実施するものとし、表面上の
クラックの状態、ピンポール等を突き刺す等して硬化状
況の確認、植生の生育状況等の項目について観察し記録
することとした。
4. おわりに
改良材を過度に添加すると、クラックの発生や植生が
生育しないなどの不具合が生じることから、改良材の添
加量決定には十分な試験施工やモニタリングの必要があ
ると実感した。
本基本方針(案)及び河川土工マニュアル等の関連諸
基準と併せて運用を図るとともに、改良土を使用した現
場においては、圧密沈下による動態等について、継続的
なモニタリングを行うこととしている。また、現場での
施工の積み重ね、今後の技術開発、モニタリング結果等
により、必要に応じて方針(案)の見直しを図る必要が
あると考える。
参考文献
1)
2)
財団法人国土技術研究センター:河川土工マニュアル
社団法人日本河川協会:改定 解説・河川管理施設等構
造令
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