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保険業法逐条解説 (加) 準用)。 移転を受ける会社が相互会社である とき
保険業法逐条解説(淵Ⅲ) 準用)。移転を受ける会社が相互会社であるときは、移転される契約 の保険契約者は、その社員となる(118条準用)。移転に伴う解散登記 申請書の添付書類も任意移転の場合と同じである(120条準用)。 3.以上の準用条文に関する問題点は、各条文の説明において述べた。 (竹濱 修) 第127条(営業譲渡の禁止) 「保険会社ハ其ノ営業ノ譲渡ヲ為スコトヲ得ズ」 一 趣旨 本条は、保険会社による営業譲渡を禁止する規定である。 営業譲渡に際しては、各契約上の権利義務についてそれぞれ移転行 為を必要とするから、保険契約を多数有する保険事業では、営業譲渡 1) の方法をとることは困難である。一団として処理されるべき保険契約 2) について個々に移転をすることは適当でもない。そこで保険業法は、 保険事業にふさわしい保険契約移転の方法として、保険契約の包括移 転の制度を設けた(111条)。 保険会社に営業譲渡を禁ずる本条が設けられた立法趣旨として、① 保険契約の包括移転により営業譲渡と同一の目的を達することができ ること、②保険契約の包括移転の制度ができて以降(明治45年)、本 条創設(昭和14年)まで営業譲渡は一度も利用されたことがなかった 3) こと、が挙げられている。しかしこれらの理由だけならば、保険業法 は保険契約の包括移転の制度とともに営業譲渡の方法も併存させ、そ −166− 保険業法逐条解説(刃Ⅲ) の利用を保険会社の任意とすることもできたはずであり、・罰則まで付 してその利用を禁止したことを十分には説明できないであろう。本条 が営業譲渡を禁じた理由は、これらの点に加え、保険契約を個々に移 転することを認め、同種の契約のうち一部分だけが移転されることに なると、保険契約者の間に不公平を生じるなど、保険契約者を害する おそれがあるという点に求めるべきではないかと思う。 しかし立法論としては、このような弊害は、営業譲渡を全面的に禁 止しなくても、営業譲渡に主務大臣の認可を要求したり、あるいは同 種の契約はすべて移転すべきものとするなどの措置をとることにより、 除去することが不可能ではなかろう。平成7年の改正保険業法は、 「保険会社を全部又は一部の当事者とする事業の譲渡又は譲受けは、 大蔵省令で定めるものを除き、大蔵大臣の認可を受けなければ、その 効力を生じない」こととし(142条)、保険会社による営業譲渡の禁止 を緩和した。 注1)契約の多数性から、保険会社による営業譲渡は実行不可能であるとする見解もあ るが(三浦義道・改正保険業法解説264頁)、公告等の手段を設ければ、およそ技術 的に実行不可能とまではいえないだろう。銀行法30条参照。 2)大森忠夫・保険法[補訂版]380貢。 3)青谷和夫監修・コンメンタール保険業法(下)248頁[中野敬]。 二 解釈 1.「営業ノ譲渡」 商法総則(24条以下)にいう営業譲渡とは、通説によれば、一定の 営業目的により組織化された有機的一体としての機能的財産の移転を 4) 目的とする債権契約をいう。有機的な組織的一体という概念は、得意 一167− 保険業法逐条解説(刃Ⅱ) 先関係などの事実関係(暖簾)を中核とするものであり、この事実関 係の移転によって営業活動が承継され、その関係で原則として譲渡人 5) の競業避止義務が生ずる。商法245条1項1号にいう営業譲渡の意義 6) については、学説上見解が錯綜しているが、判例・多数説は、商法総 7) 則上の営業譲渡と同義であると解している。 次に見るように、本条の違反には罰則の適用があり、私法上も本条 違反の営業譲渡を無効とすべき場合があろうから、本条にいう営業譲 渡にあたるか否かの基準は明確であることが要請される。本条の営業 譲渡についても、商法総則上の営業譲渡と同義に解し、有機的一体性 のある組織的財産の譲渡であって、営業活動の承継および競業避止義 務の負担を伴うものをいうと考えるべきではないかと思う。営業用財 産(営業用施設など営業のために利用される個別の財産)の譲渡は、 その分量がいかに大きくても本条が禁止する営業譲渡にはあたらない。 2.本条違反の効果 本条に違反する営業譲渡には、過料の制裁がある(保険業法152条30 号)。本条に違反して営業譲渡がなされても、その私法上の効力に影 響はないという見解もありうるであろう。しかし本条違反の営業譲渡 がなされた場合、取引の安全とはいっても営業譲受人の保護は通常問 題とならないであろうから、考慮すべきは保険契約者の保護であり、 このような営業譲渡の効力は疑わしいのではないかと考える。少なく とも同種の契約のうち一部分だけが移転され、保険契約者の間に不公 平を生じたような場合、その営業譲渡は無効であると解する。 注4)たとえば、大隅健一郎・商法総則[新版]301貢。 5)組織的・有機的一体としての財産の譲渡(暖簾の移転)=営業活動の承継=競業 −168− 保険業法逐条解説(刃Ⅶ) 避止義務という三位一体構造が認められる。森本滋・会社法[第2版]367貢。 6)落合誠一・新版注釈会社法(5)263頁参照。 7)最大判昭和40年9月22日民集19巻6号1600貢、竹内昭夫・会社判例百選[第5版] 58貢参照。 (前田雅弘) 第128条(合併の手続) 「①保険会社ガ合併ノ決議ヲ為シタルトキハ其ノ決議ノ日ヨリ二道閣 内二合併契約ノ要旨及会社ノ貸借対照表ヲ公告スルコトヲ要ス ⑦第百十二条第二項乃至第四項、第百十六条及第百二十条ノ規定ハ 合併ノ場合二之ヲ準用ス (事前二項ノ規定こ依リテ為シタル合併ハ異議ヲ述べタル保険契約者 其ノ他保険契約こ困リテ生ジタル権利ヲ有スル者二対シテモ其ノ効 力ヲ有ス」 ー 趣旨 保険会社の合併については、保険株式会社につき商法56条および408 条以下の規定が適用され(商法416条は合名会社の合併に関する多く の規定を準用)、その多くが、保険業法73条1項により保険相互会社 に準用されている。さらに保険業法は、保険会社の特殊性を考慮して、 保険会社の合併に関する特則を設けている(18条・108条1項3号・ 109条・110条・128条以下参照)。本条はそのうち、保険会社の合併の 手続について定める。本条に違反して合併の手続をすれば、過料の制 裁がある(保険業法152条31号)。 なお平成7年の改正保険業法は、基本的に現行の合併制度を維持し −169− 保険業法逐条解説(刃Ⅱ) つつ、合併の認可基準を設け(改正法167条)、合併契約書の記載事項 を法律で定める(改正法160条∼165条)など、所要の整備を図ってい る。 二 解釈 1.合併契約の要旨・貸借対照表の公告 本条1項は、合併の当事会社である保険会社はそれぞれ、合併の決 議の日から2週間以内に、合併契約の要旨およびその貸借対照表を公 告しなければならない旨を定める。保険契約の包括移転に関する保険 業法112条に対応する規定であるが、契約の包括移転の場合には、移 転をしようとする会社だけが公告をするのに対し、合併の場合には、 合併の当事会社である保険会社がそれぞれ、公告をしなければならな い。 「合併契約」とは、会社の合併を目的とする当事会社間の契約であ り、各当事会社の代表機関(代表取締役)が合併契約書を作成・調印 することにより締結される。合併契約書の記載事項は法定されている (商409条・410条、保険業法130条4項・施行規則56条以下)。 合併契約については当事会社の承認決議を得なければならない(商 1、 408条1項、保険業法73条1項)。「合併ノ決議」とは、この承認決議 を意味し、保険株式会社については株主総会決議をいい、商法343条 の特別決議によらなければならない。相互会社については社員総会 (社員総代会)の決議をいい、社員(総代)の半数以上が出席し、そ の議決権の4分の3以上による特殊な決議によらなければならない (保険業法109条・39条2項)。 公告する貸借対照表は、合併の決議の日現在のものをいうと解され 2) ている。しかし合併決議後2週間という短期間内に新たに貸借対照表 −170− 保険業法逐条解説(刃Ⅲ) を作成することは困難であろうし、一般の株式会社の債権者とは異なっ た判断材料を保険会社の債権者に対して提供すべき理由も明らかでな 3) い。この貸借対照表は、合併決議の基礎となる合併貸借対照表(合併 承認総会の2週間前から本店に備え置く。商408条ノ2、保険業法73 4) 5) 条1項)でよいと解すべきではなかろうか。 2.合併の手続に関する準用規定 本条2項は、合併の手続について、保険契約の包括移転の手続に関 する規定を多く準用している。 前記の公告には、保険契約者が、合併に異議があれば、1カ月を下 らない一定の期間内に異議申立てができることを付記しなければなら ない(保険業法112条2項の準用)。この異議申立て期間内に異議を述 べた保険契約者の数またはその保険金額が、保険契約者総数または総 保険金額の10分の1を超えるときは、合併をすることができない(保 険業法112条3項前段の準用)。合併契約で保険契約の契約条項の変更 を定めた場合に(保険業法129条1項)、異議を述べた保険契約者のう ち契約条項の変更を受ける者の数または保険金額が、変更を受ける保 険契約者総数または保険金総額の10分の1を超える場合も同様に、合 併をすることができない(保険業法112条3項後段の準用)。これらの 異議申立てに関する規定は、保険相互会社が社員総代会によらず、社 員総会で合併決議をしたときには適用されない(保険業法112条4項 の準用)。相互会社の保険契約者は同時に社員であり、社員総会で厳 格な要件の特殊決議が成立している以上、重ねて保険契約者の異議を 問う必要はないからである。 保険契約の包括移転の場合と同様、保険会社が合併をしたときは、 遅滞なく、その旨を公告しなければならない(保険業法116条の準用)。 一171− 保険業法逐条解説(刃Ⅲ) 6) 「合併をしたとき」とは、合併期日をいうものと解する。合併の決議 はなされたが、合併をするに至らなかった場合も、同様にその旨を公 告しなければならない。保険契約者の異議申立てが一定割合を超えた ため合併をすることができない場合(保険業法112条3項)、あるいは 主務大臣の認可が得られないため合併の効力が生じない場合(保険業 法110条)も、これに含まれる。 合併により解散する会社の解散登記申請書には、保険契約の包括移 転による解散登記の申請書の場合と同様の書類を添付しなければなら ない(保険業法120条の準用)。 3.債権者保護手続の特則 本条3項は、以上の手続を踏んでなされた合併は、異議申立てをし た保険契約者に対してもその効力を有する旨を定める。保険契約者の ほか、保険契約にもとづいて生じた権利を有する者(たとえば生命保 険の保険金受取人、他人のためにする損害保険の被保険者)に対して も同様に効力を有する。 本条により、これらの者に対しては、保険会社の一般の債権者に対 する債権者保護手続(保険株式会社については商法416条1項が、保 険相互会社については保険業法73条1項が、それぞれ商法100条を準 用)は、とらなくてよいこととなる。保険契約の多数性から、保険契 約者等に個別的催告をしたり、これらの者が異議を述べたときに弁済、 7) 担保提供、または信託をすることは事務処理上困難であり、これらの 少数者の利益よりも合併の円滑な処理を促進しようという趣旨である。 なお信託業務を営む生命保険会社(保険業法5条1項但書参照)の合 併については、保険金信託の受益者に対し、商法上の債権者の異議申 く・ 立てにかかる個別的催告制度の適用はない(保険業法18条)。 −172− 保険業法逐条解説(刃Ⅲ) 注1)合併契約の締結は、承認決議の後でも差し支えない。龍田節・会社法[第5版] 375頁。 2)青谷和夫監修・コンメンタール保険業法(下)255貢[井上収]、大蔵省銀行局編・ 法律学体系コンメンタール篇・金融関係法II361頁。 3)昭和37年改正前の商法99条は、「会社ガ合併ノ決議ヲ為シタルトキハ其ノ決議ノ 日ヨリ2週間内二財産目録及貸借対照表ヲ作ルコトヲ要ス」と定めていた。昭和37 年改正法は、同条を削除するとともに、株式会社の合併について408条ノ2の規定 を新設した。商法408条ノ2(保険業法73条1項により相互会社にも準用)のもと で、合併当事会社の債権者は、株主に提供されるのと同じ資料(各当事会社の合併 貸借対照表)によって合併の当否を判断することとなる。今井宏・新版注釈会社法 (1)383貢参照。なお、商品取引所法(99条の3第1項)や各種協同組合法(農業 協同組合法65条4項・49条1項、中小企業等協同組合法63条2項・56条1項、水産 業協同組合法69条4項・53条1項)において、前記昭和37年改正前商法99条と同様 の規定が置かれている。 4)合併貸借対照表と決算貸借対照表との関係に?いては争いがあるが、少なくとも 両者に大差がなければ、前者に後者を代用できることに異論はない。今井宏・新版 注釈会社法(13)85頁参照。 5)資本減少にかかる保険業法17条1項(本条1項と同趣旨の規定)の解説において、 関西保険業法研究会・保険業法逐条解説(Ⅵ)・文研論集93号289頁[森本滋]は、 直近の決算期の貸借対照表を公告すればよいという。 6)合併の効力発生を問題とし、合併の登記の時点をいう(商416条1項・102条、保 険業法73条1項参照)と解する余地もあるが、合併は合併期日において実質的には 完了しているのであり、登記の時点まで公告させずにおく理由もないだろう。なお 平成7年の改正保険業法166条5項は、「合併後」遅滞なく公告することを要求す るが、同様に解してよいのではないか。 7)保険業法研究会編・最新保険業法の解説145頁。 一173− 保険業法逐条解説(刃Ⅲ) 8)関西保険業法研究会・前掲注5)293頁以下[森本]。 (前田雅弘) 第129条(合併の場合の保険契約の変更) 「①会社ガ合併ヲ為ス場合二於テハ合併契約ヲ以テ其ノ保険契約こ関 スル計算ノ基礎又ハ契約条項ノ変更ヲ定ムルコトヲ得 (む第百十三条及第百十五条第三項ノ規定ハ前項ノ規定二依り契約条 項ノ変更ヲ定ムル場合こ於テ其ノ変更ヲ為サントスル会社二之ヲ準 用ス」 一 趣旨 本条は、合併に際して保険の計算の基礎または契約条項の変更をな しうる旨を定めるとともに、契約条項の変更をする場合の新契約の停 止、財産処分の停止について規定する。 二 解釈 1.計算の基礎・契約条項の変更 本条1項は、保険会社が合併をする場合に、合併契約で合併当事会 社の保険契約に関する計算の基礎または契約条項の変更を定めること ができる旨を定める。本条は、強制管理の場合の保険業法104条、お よび保険契約の包括移転の場合の保険業法114条に対応する規定であ るが、保険金額の削減および将来の保険料の減額が認められない点が、 これらの場合と異なる。その理由として、保険金削減のような最悪の 1) 事態は合併の場合には回避すべきであるからといわれるが、それだけ では、強制管理や契約の包括移転の場合と区別すべき理由は必ずしも −174− 保険業法逐条解説(刃Ⅲ) 明らかでない。合併は、経営の悪化した保険会社の救済手段として利 用されることももちろんありうるが、強制管理および契約の包括移転 の制度ほどはその機能が強く期待されるわけでもないので、特に保険 契約者等に影響の大きい保険金削減までは認める必要はないという考 慮によるものではないかと思われる。 「計算の基礎の変更」「契約条項の変更」の意義については、保険 2) 業法104条および114条の本逐条解説を参照。 2.新契約の停止等 契約条項の変更を定める場合、その会社は、合併の決議がなされた ときから、合併をしたとき、または合併をしないことが確定したとき まで、契約条項の変更をしようとする保険契約と同種の保険契約をす ることができず、またその期間内、財産の処分および債務負担行為を 制限される(本条2項・113条・115条3項)。これに違反して保険契 約を締結し、財産を処分し、または債務を負担したときには、過料の 制裁がある(保険業法152条32号)。 計算の基礎を変更する場合には、これに対応する制限は設けられて いない。計算の基礎の変更(たとえば責任準備金の算出方法の変更) は、直接に保険契約の内容の変更をもたらすものではないからであろ 3) ナ つ。 4) 「合併をしたとき」とは、合併期日をいうものと解する。 新契約の停止、財産処分の停止については、保険業法113条・115条 5) についての本逐条解説を参照。 注1)大蔵省銀行局編・法律学体系コンメンタール篇・金融関係法II362頁、青谷和夫 監修・コンメンタール保険業法(下)260頁[青谷和夫]。 −175− 保険業法逐条解説(双Ⅲ) 2)保険業法104条については、関西保険業法研究会・保険業法逐条解説(刃冊)・文 研論集111号244頁以下[洲崎博史]、114条については本誌[竹濱修]の解説参照。 3)保険業法研究会編・最新保険業法の解説145頁。 4)128条2項についての本誌[前田雅弘]の解説参照。 5)本誌掲載の解説[竹濱修]参照。 (前田雅弘) 第130条(相互会社の合併) 「(D相互会社ハ他ノ保険会社ト合併ヲ為スコトヲ得 ⑦前項ノ場合二於テハ合併後存続スル会社又ハ合併二因リテ設立ス ル会社ハ相互会社ナルコトヲ要ス但シ合併ヲ為ス会社ノー方ガ株式 会社ナルトキハ合併後存続スル会社又ハ合併二困リテ設立スル会社 ハ株式会社ナルコトヲ得 ③相互会社ト株式会社トノ合併ノ場合こ於テハ各本法又ハ商法ノ合 併こ関スル規定二従フコトヲ要ス (り合併契約書二記載スベキ事項其ノ他合併二関シ必要ナル事項ハ命 令ヲ以テ之ヲ定ム」 一 趣旨 相互会社についても、株式会社の場合と同様、合併の制度が認めら れる。これにつき商法上の合併に関する多くの規定が準用され(保険 業法73条)、また保険株式会社と共通の特則が設けられているが(保 険業法18条・108条1項3号・109条・110条・128条・129条参照)、本 条および131条は、相互会社が合併当事者となる場合の特則である。 本条は、相互会社の合併可能性、存続会社・新設会社の形態、合併契 −176一 保険業法逐条解説(刃Ⅲ) 約書の記載事項等について定める。 二 解釈 1.合併可能性 本条1項は、保険相互会社が、保険株式会社についてと同様(商56 条1項)、他の保険会社と合併できる旨を定める。保険株式会社は、 保険会社でない会社との合併も可能であるが(商56条1項参照。ただ し保険業法5条の兼業制限)、保険相互会社が合併できるのは、他の 保険会社とだけである。保険会社の合併については、(イ)株式会社 相互間、(ロ)相互会社相互間、(ハ)株式会社・相互会社間の3つ の形態の合併がありうることとなる。 2.存続会社・新設会社の形態 相互会社と相互会社の合併の場合(前記(ロ))には、存続会社ま たは新設会社は相互会社でなければならない(本条2項本文)。相互 会社が株式会社と合併する場合(前記(ハ))には、存続会社または 新設会社は、相互会社または株式会社のいずれでもよい(本条2項但 書。商法56条2項の例外)。株式会社どうしの合併の場合(前記(イ)) には、存続会社または新設会社は株式会社でなければならず(商56条 2項)、これを相互会社とすることはできない。 3.保険業法・商法の規定の適用 本条3項は、相互会社が株式会社と合併する場合(前記(ハ))に、 保険業法または商法の合併に関する規定に従わなければならない旨を 定める。合併当事者である株式会社が保険業法の規定の適用だけを受 けるのではなく、商法の規定の適用を受けるという趣旨を注意的に定 一177− 保険業法逐条解説(刃Ⅲ) めるものではないかと思われるが(類似の規定として有限会社法60条 1項参照)、このような規定が必要なのかは疑問がある。ともかく、 この規定は、株式会社相互間の合併(前記(イ))には商法の規定だ けが適用され、相互会社相互間の合併(前記(ロ))には保険業法の 1) 規定だけが適用されることを意味するものではない。 4.合併契約書の記載事項 本条4項を受けて、保険業法施行規則の56条から59条までが合併契 2) 約書の記載事項を定める。存続会社・新設会社が相互会社となる場合 (前記(ロ)の場合、および前記(ハ)で相互会社を選択した場合) については、同規則56条・58条がこれを定める。株式会社・相互会社 間の合併で、存続会社・新設会社が株式会社である場合(前記(ハ) で株式会社を選択した場合)については、同規則57条・59条がこれを 定める。株式会社相互間の合併(前記(イ))については商法409条・ 410条が規定する。 注1)青谷和夫監修・コンメンタール保険業法(下)265頁[青谷和夫]。 2)平成7年の改正保険業法は、合併契約書の記載事項の重要部分を法律で定めるこ ととした(160条∼165条)。 (前田雅弘) 第131条(合併後の社員関係) 「(D前条ノ合併アリタル場合二於テ合併後存続スル会社又ハ合併こ因 リテ設立スル会社ガ相互会社ナルトキハ合併二困リテ解散スル会社 ノ保険契約者ハ其ノ会社二入社シ株式会社ナルトキハ相互会社ノ社 −178− 保険業法逐条解説(刃Ⅲ) 貞ハ其ノ地位ヲ失フ但シ保険関係二属スル権利義務ハ合併契約ノ定 ムル所こ従ヒ合併後存続スル株式会社又ハ合併二因リテ設立シタル 株式会社之ヲ承継ス (9前項ノ規定二依り合併後存続スル会社二入社スベキ者ハ商法第四 百十二条第一項ノ規定二依ル社貞総会二於テ社員ト同一ノ権利ヲ有 ス但シ合併契約二別段ノ定アルトキハ此ノ限二在ラズ ⑦第二十四条及第三十九条第二項第三項並こ商法第百八十二条、第 百八十三条及第百八十七条第二項ノ規定ハ合併二因リテ設立スル相 互会社ノ創立総会二之ヲ準用ス」 ー 趣旨 本条は、相互会社が当事会社となる合併が行われた場合の社員関係 について定めるとともに、相互会社が存続会社となる場合の報告総会、 および相互会社が新設会社となる場合の創立総会に関して規定する。 二 解釈 1.保険契約者の入社と合併報告社員総会 保険相互会社を当事会社とする合併が行われた場合において、存続 会社または新設会社が相互会社である場合には(相互会社相互間の合 併の場合、または相互会社・株式会社間の合併で相互会社形態を選択 した場合。保険業法130条2項本文参照)、合併によって解散する会社 (相互会社または株式会社)の保険契約者は、その相互会社の社員と なる(本条1項本文)。合併により消滅する株式会社の株主は、その 地位を失うこととなる。 吸収合併により存続会社に入社する者は、合併契約に別段の定めが ある場合を除き、その会社の合併報告社員総会(商412条1項、保険 −179− 保険業法逐条解説(淵Ⅲ) 業法73条1項)において、従前よりの社員と同一の権利を有する(本 条2項)。「合併報告社員総会」は、吸収合併の実質的な手続が完了 した段階で、合併手続が適法に行われ、消滅会社の財産が適正に存続 1) 会社に引き渡されたことを報告するために、招集される総会である。 本条2項により、存続会社に入社する消滅会社の保険契約者も、報告 総会において社員と同一の権利を有するものとされるから、この総会 に出席する権利を有し、したがって招集通知を受ける権利を有する。 この総会においては、合併に関する事項の報告のほか、定款変更や取 締役の選任などを決議することもでき、これらの事項につき、消滅会 社の保険契約者が議決権を有するか否かが問題となるが、この間題に 2) つき商法412条に関する学説は分かれている。 2.社員権の喪失と保険関係上の権利義務の承継 相互会社と株式会社との間の合併において、存続会社または新設会 社を株式会社とする場合には(保険業法130条2項但書参照)、解散す る相互会社の社員は、その社員たる地位を失うが(本条1項本文)、 その者に関する保険関係上の権利義務は、合併契約の定めるところに 従い、存続または新設の株式会社がこれを承継する(本条1項但書)。 解散した相互会社の社員は、この株式会社の保険契約者となるのであ る。 「保険関係二属スル権利義務」に、社員配当請求権が含まれるか否 かという問題がある。この間題を社員配当請求権の法的性格(社員関 係上の権利か保険契約上の権利かという二分論)から議論し、これは 社員関係上の権利であるから、株式会社に承継されないと解されてい 3) 4) る。社員配当請求権は、その法的性質をどう理解するにせよ、社員総 会(総代会)の決議がなければ具体化しないものであるから、そのま −180− 保険業法逐条解説(淵Ⅲ) ま株式会社に承継されるとの解釈をとるのは困難であろう。 3.新設合併の場合の創立総会 吸収合併の報告総会に相当するものとして、新設合併の場合には、 創立総会が招集される(商413条1項2項、保険業法73条1項)。本条 3項は、新設会社が相互会社である場合に、その創立総会に代えて、 保険契約者総会代行機関を設けることができるとし(保険業法24条の 準用)、また創立総会の決議方法につき、相互会社の通常の設立の場 合の創立総会に関する規定を準用する(保険業法39条2項3項)。本 条3項はさらに、設立委員が創立に関する事項を創立総会に報告しな ければならないものとし(商182条の準用)、創立総会において取締役・ 監査役を選任することを要求するとともに(商183条の準用)、この総 会においては、招集通知に記載がなくても、定款変更または設立廃止 の決議をすることができるものとする(商187条2項の準用)。 注1)商法412条に関する龍田節・会社法[第5版]376頁。承認決議をも要するとする 説もあるが、多数説は報告だけでよいとする。今井宏・新版注釈会社法(13)215 頁参照。 2)今井・前注220貢参照。 3)青谷和夫監修・コンメンタール保険業法(下)271貢[青谷和夫]。 4)社員配当請求権の法的性質については、たとえば関西保険業法研究会・保険業法 逐条解説(刃II)・文研論集107号214貢[竹濱修]。 (前田雅弘) ー181− 保険業法逐条解説(刃Ⅲ) 第131条ノ2(信託に関する権利義務の承継) 「①信託業務ヲ営ム保険会社ガ保険契約全部ノ移転又ハ合併ヲ為シタ ルトキハ保険契約ノ移転ヲ受ケタル保険会社又ハ合併後存続シ若ハ 合併二因リテ設立シタル保険会社ハ保険契約ノ移転又ハ合併二田リ テ消滅シタル保険会社ノ信託二関スル権利義務ヲ承継ス ⑦信託業法第十六条第二項ノ規定ハ前項ノ場合二之ヲ準用ス」 一 趣旨 本条は、信託業務を営む保険会社による保険契約の全部移転または 合併があった場合における、信託に関する権利義務の承継に関する規 定である。 二 解釈 1.信託に関する権利義務の承継 信託業務を営む保険会社が合併の消滅会社となるとき、合併後の存 続会社または新設会社は、消滅した当該保険会社の信託に関する権利 義務を承継する。保険契約全部の移転がなされた場合にも、同様の権 利義務の承継がある(本条1項)。 「信託業務ヲ営ム保険会社」とは、保険業法5条1項但書の規定に もとづき、主務大臣の認可を受けて、その支払う生命保険金について 信託の引受けを行う業務を営む生命保険会社をいう。 合併の場合には、存続会社または新設会社が消滅会社の権利義務を 承継するのは当然のことであり(商416条・103条、保険業法73条1項)、 1) 本条1項は合併についてはこれを確認したにすぎない。 2.受益者の異議申立て −182− 保険業法逐条解説(淵Ⅲ) 本条2項は、信託業法16条2項の規定を準用し、信託業務を営む保 険会社の合併についての受益者の異議申立てに関して定める。同規定 は、信託業務を営む保険会社の合併に異議を述べた受益者がある場合 には、その者の信託関係は終了することとするとともに(信託法42条 の準用)、信託行為で新たな受託者の選任につき別段の定めをしてい ない場合には、利害関係人が新受託者の選任を裁判所に請求すること ができるものとする(信託法49条1項3項の準用)。 信託業務を営む保険会社が合併決議をした場合、債権者のうちとく に金銭信託の受益者に対しては、商法上の債権者の異議申立てにかか る個別的催告制度の適用はなく、公告だけで足りる(保険業法18条・ ご、 73条1項)。本条2項はこれに加えて、これらの受益者が異議を述べ た場合においても特則を定めるものであり、一般の債権者に対する債 権者保護手続(商416条1項・100条、保険業法73条1項)をとる必要 はないこととなる。これらの受益者は通常多数であるため、これらの 者が異議を述べたときに、弁済、担保提供、または信託をすることは 事務処理上困難であることに配慮して、受益者の利益保護を図りつつ、 合併の円滑な処理を促進することを意図したものであろう。 注1)日本生命保険相互会社・保険業法コンメンタール503頁。青谷和夫監修・コンメ ンタール保険業法(下)274頁[青谷和夫]は、保険金信託に関する権利義務に関し ては、本条1項がなければ当然には合併により承継されないと言うが、その趣旨は 明らかでない。 2)関西保険業法研究会・保険業法逐条解説(Ⅵ)・文研論集93号293貢以下[森本滋]。 (前田雅弘) ー183−