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第5回 オープンソースと情報通信産業の発展(1)

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第5回 オープンソースと情報通信産業の発展(1)
情報産業論
情報技術の発達と情報産業の成立
第5回
オープンソースと情報通信産業の発展(1)
1、フリーソフトウェア運動とオープンソース
(1)UNIX から GNU へ
UNIXはAT&T Bell Laboratory(ベル研究所)のKenneth Thompson(1943-)
とDennis MacAlistair Ritchie(1941-)に開発されたOS(Operating System)
であった。ベル研究所の当時の親会社AT&Tは、独占禁止法によりコンピュータ
産業への進出を禁止されていたこともあって、UNIXのソース・コード(source
code) 1は世界中の大学や研究機関に非常に安価な値段(メディアのコピー代だ
け)で販売され、普及していった(第4回)。そのときの大学を中心に生まれた
オープン=公開の精神「ソフトウェアは人類共通の財産である」という考えが
広まり、UNIXやその上で動くソフトウェアもネットワーク経由で改良が加えら
れながら広まっていったのである。
UNIXが普及するにつれて多くの企業がAT&Tとライセンス契約を結んで
UNIXを販売・サポートするビジネスに乗り出し、1970~80 年代は各企業によ
るUNIXの主導権争いが生じるようになった。これに対し 1984 年にMIT
(Massachusetts Institute of Technology:マサチューセッツ工科大学)の
Richard Matthew Stallman(1953 年-)がソース・コードを公開する考え方を
進めたフリーソフトウェア運動・GNU 2プロジェクトを開始する。このプロジェ
クトの目標はUNIX互換OSを開発して、そのソース・コードを自由に利用でき
るよう公開することで、Stallman が考えたのはGNU General Public License
(GPL) 3というライセンス方式である。そしてコピーライト(copy right:著作
権)という知的所有権を認める法律の逆手に取りその思想のエッ
センスであるコピーレフトの概念を提唱した。
GNU プ ロジ ェ クト に よ っ て エ ディ タ であ る GNU
EmacsやコンパイラGCCとデバッガGDBなど多くのソ
フトウェアが開発・公開されたが、UNIXマシン自体が
まだ高価で、専門家が使うOSであったため、一般には
あまり関心をもたれなかった 4。
プログラミング言語によって書かれたもの(第2回参照)。Ritchie は UNIX の記述言語
として、Brian W. Kernighan と共に、C 言語を開発した。C 言語の原型は Thompson の B
言語であり、
Ritchie はこれにデータ型と新しい文法を追加し C 言語が出来上がった。
現在、
C 言語はあらゆるタイプのコンピュータ上で用いられている。
2 GNU=GNU is Not Unix の略で、Stallman による一種のジョークである。
3 GNU プロジェクトが作ったものをベースに新しいものを作るためには、新たに作った部
分についても同じ GPL 条件で次の利用者にも交換することを約束させるというライセンス
条件。GNU を利用してソフトウェアを作りながら公開をしないならばライセンス条件を認
めずに作ったとして著作権法違反として訴えられる仕組みになっている。
4 現在はフリーOS のカーネル GNU Hurd などの開発が進行中だが、Stallman 自身はフリ
1
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情報産業論
情報技術の発達と情報産業の成立
(2)Linux とオープンソース
フィンランドのヘルシンキ大学の学生 Linus
Benedict Torvalds(1969 -)は大学在学中の
1991 年、当時安価になりつつあったパーソナル
コンピュータ(Intel の 80386 CPU の 32bit
PC/AT 互換パソコン上)で動く UNIX 互換 OS
=Linux を開発した。Linux は GNU プロジェ
クトのコンパイラ GCC(GNU Compiler Collection)を利用して
開発されたので、Linus は Linux のソース・コードを自由に利用
できるように公開した。インターネットが本格的に普及し始めた
時期でもあり、Linux はインターネット経由で世界中の開発者を
引き付け、改良とバージョンアップが加え続けられている 5。
Linuxの普及以降、パソコン用のWebサーバアプリケーションApacheやプロ
グラム言語Perlなど、インターネットを活用した同様の開発スタイルのソフトウ
ェアが次々と開発された 6。そして 1997 年にはEric Steven Raymond(1957-)
によってこのような開発スタイルがオープン・ソース(Open Source)と名づけ
られた 7。Stallmanのフリーソフトウェア運動と異なり、ソフトウェアの開発の
スタイルとして企業の関心を集めるようになった。また、パソコンで動作する
ことで市場規模の拡大も期待できたため、オープン・ソースやこれによって開
発されたソフトウェア(OSS)を情報産業全体でも支援するようになり、多く
のベンチャー企業を生み出した 8。
ーソフトウェアにまつわるモラルの確立とそれを広めること、法的、政治的な枠組みの整
備などに専念しており、現在ソフトウェアの開発は行っていない。
5 Linus は現在アメリカで OSDL(OpenSource Development Labs)という NPO に所属
し、Linux カーネルの新バージョンの開発を続け、2005 年現在も、公式の Linux カーネル
の最終的な調整役(もしくは「優しい独裁者(終身)」)を務める。
6 現在ではプログラム(スクリプト)言語の Perl、PHP 、Ruby やリレーショナルデータ
ベースの MySQL、PostgreSQL、Web ブラウザの Mozilla FireFox、Thunderbird などの
他、Microsoft の Office とほぼ同等の機能を持った OpenOffice.org などもある。
7 「伽藍とバザール」(The Cathedral and the Bazaar)by Eric S. Raymond、山形浩生訳
http://www.tlug.jp/docs/cathedral-bazaar/cathedral-paper-jp.html で入手可能。
Raymond によって提唱され、1998 年の Freeware Summit というイベントで投票によっ
て決められた。
8 1998 年に Netscape 社はブラウザ Netscape Communicator のソース・コードを公開し、
また IBM や Oracle といった大手の IT 企業が Linux のサポートを発表した。日本でも現在
Linux ユーザ会会長を務める生越昌己氏らが早くから Linux に注目し、研究開発を続ける
と同時に、Linux を中心としたオープン・ソースによるサーバ構築などのビジネスをスター
トさせ、1996 年に松江市に NaCl(Network applied Communication Labolatory:ネット
ワーク応用通信研究所)を設立、インターネットの活用によって地域でもソフトウェア産
業を成立させることを証明している。なお NaCl にはプログラム(スクリプト)言語 Ruby
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情報産業論
情報技術の発達と情報産業の成立
アプリケーション・ソフトウェア
Linus が開発したのは OS のカーネル
(kernel:中核部分)だけであったので、
ユーザー・
ツール
API
インターフェース
ユーザが利用するためには API(アプリ
ケーションインターフェース)やユーザ
Linux カーネル
ドライバ
インターフェース、ツールや必要なアプリ
ケーションを組み合わせてOS全体を構築する必要があった。Linuxディストリ
ビューション(Linux distribution)はこれらをセットにして配布するもので、
商用ディストリビューションなども登場し、マニュアルやサポート、商用ソフ
トウェアなども付属して最も盛んなオープンソースビジネスにもなっている 9。
(3)TRON とオープン・アーキテクチャー
東京大学の坂村健教授(1951 年-)は 1984 年に、
将来のコンピュータ化された社会において協調動作
する分散コンピューティング環境の実現を目指し、
TRON(The Real-time Operating system Nucleus)
プロジェクトを開始した。TRON は情報処理用の
コンピュータではなく、車のエンジン制御、工場の産業用ロボッ
トの小型制御機器、携帯電話、ファクシミリ、デジタルカメラな
どの機器に組み込まれる制御用のコンピュータの、リアルタイム
性を重視したOS 10を中心としたアーキテクチャーである 11。
TRON プロジェクトはトロン協会によって運営されているが、
トロン協会は OS の仕様と、組み込み制御システムのアーキテクチャー(どう作
るか決めた仕様書などを含めて)を完全に公開している。そして TRON の実装
は企業にまかせられ、これを使って誰がどのようなソフトウェアを作ってもい
いし、また作ったものについて GPL のように公開を義務付けてもいないので、
企業が開発に参加しやすいスタイルになっている。
の開発でも世界的に有名なまつもとゆきひろ氏も在籍している。
9 例えば企業向けには Red Hat Linux という商用ディストリビューションが有名。
10 情報処理用コンピュータの OS が TSS(タイム・シェアリング)を基本としているのに
対し、TRON は制御機器用の OS なので実時間で待ったなしで対応する必要(例えば車の
エンジン制御ならピストンが上がるまでに点火タイミングのための計算が終わっていない
とエンストしてしまう)からリアルタイム(実時間)OS となっている。
11 TRON は組み込み制御用のコンピュータの OS だけでなく、コンピュータのハードウェ
アの規格や IC カード、非接触認証などの規格からコンピュータの人間の間のインターフェ
ースデザインまで含めた標準化とオープン化の取り組みになっている。そのため TRON プ
ロジェクトは、MTRON (TRON プロジェクトの目標とする分散コンピューティング環境)
、
ITRON (組み込みシステム向けのリアルタイム OS)
、BTRON(パソコン向けの OS)
、
eTRON(セキュリティ規格を定めたもの、IC カード、非接触認証などの規格)などの互い
に連携する多くのサブプロジェクトによって構成されている。
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情報産業論
情報技術の発達と情報産業の成立
2、オープンソースとソフトウェア産業
(1)ソフトウェア開発のオープン化
従来のソフトウェア開発の作業には膨大な時間、巨額の投資が必要であった 12。
そこでソフトウェアが簡単にコピーされるなら企業も望むだけの歳入を得るこ
とができなくなるので、企業はOSなどのソース・コードの技術情報を隠すよう
になり、法的にコンピュータの内部情報は知的財産であるとして著作権で守ら
れようになる 13。
また、コンピュータやソフトウェアの普及には互換性を進めていくために規
格の標準化が必要であるが、コンピュータの場合はこれが公的な場で決められ
るのではなく、Microsoft の Windows に典型的に見られるようによく売れたた
めにみながそれに従うというデファクト・スタンダードが力を持ち、結果とし
て一つの企業が市場を占有するとい覇権構造に直結してきた。
(2)オープンソースとディストリビューション・ビジネス
一方、Linuxに代表されるオープンソース・ソフトウェア(OSS)や、これに
よる新たなソフトウェアやシステムの開発はインターネットも利用して自主的
に参加する人材が集まり、自由に利用できるソース・コードと、迅速な対応が
可能となる 14。また統一した規格や標準化もオープンな場で議論し、決めるこ
とが可能である。
OSSは導入する企業にとってもコスト・ダウンのメリットがあり 15、楽天市
場などWebでサービスを行う多くのオンラインショップはOSSを組み合わせて
システムの構築を行っている 16。また開発においても中小企業であってもOSS
に機能を付加したり、システムを構築するなどのビジネス機会を広げることに
なる 17。
Raymond による「伽藍(大聖堂)型」の開発方式で、スケジュールと役割分担を明確に
し、高層ビルの建設のように作業を進める。
13 アメリカでは 1981 年に著作権法が改正され、ソフトウェアの著作権が認められた。その
翌年 FBI の「おとり捜査」で日立製作所の社員が IBM の情報をスパイしたとして摘発・逮
捕される事件が起こった。日本でもプログラムが著作物として著作権の保護対象になって
いる(著作権法2条1項10号)
。なお著作権法で保護されるプログラムはゲームのプログ
ラムからビジネスアプリケーションまで多様であるが、著作物として保護されるには創作
性が必要になってくる。この点についてプログラムは他の音楽や絵画等の伝統的な著作物
に較べて実用的な性格をもっているので、保護に値する創作性のレベルも高くなくてはい
けないと考えられている。現に日本の裁判例ではプログラムが保護を受けるための創作性
をかなり高いレベルで要求している。
14 Raymond は朝市ができるようなボトムアップ型として
「バザール(市場)型」と名づけ、
ソフトウェア開発の新しいスタイルとして提唱している。またウィルスやセキュリティー
ホールなどへの対応も世界中の開発者が瞬時に対応することで、迅速に行われている。
15 楽天市場など多くのオンラインショップは OSS を組み合わせてシステム構築がされて
いる。行政でも長崎県や兵庫県洲本市などのシステムが OSS で構築されている。
16 最近ではこのような Web サービスだけでなく、基幹系、銀行系企業などでの OSS 導入
が目立ってきている。
17 前述の NaCl はその代表例であり、地方(松江市)においてもソフトウェア産業を成立
12
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情報産業論
情報技術の発達と情報産業の成立
京都大学経済学部の末松千尋教授は、オープンソースの“どこで金銭を稼ぐ
か?”を問題として
「製品(ソフト)は無料でも、サービス(展示・説明、
受発注処理、決済、配送・伝送、品質保証、メンテナンス、
サポート、インテグレーション、コンサルティング、教育、
講演、およびそれらにより確立するブランドの活用など)
を事業として課金することは全く自由だし、逆に製品が無
料になれば、サービスがより重要となり発展することは十
分に起こり得ることである。現実に、ディストリビューションという、全く
新しいサービス業態が生まれ育っている。」
としている 18。
【参考文献】
・ AT&T ベル研究所 『UNIX 原典』 パーソナルメディア
・ リチャード・ストールマン他 『フリーソフトウェアと自由な社会』 アスキー
・ リーナス・トーバルズ他 『それがぼくには楽しかったから』小学館
・ まつもとゆきひろ他 『オブジェクト指向スクリプト言語 Ruby』 アスキー
・ 坂村健 『TRON を創る』 共立出版
・ 末松千尋 『オープンソースと次世代 IT 戦略』
、日本経済新聞社
させることを証明している。
18 末松千尋「オープンソース戦略を探る」
、CSNET Japan
http://japan.cnet.com/column/suematsu/ より。
また末松[2004]、
『オープンソースと次世代 IT 戦略』、日本経済新聞社。においてもオー
プンソースの価格ゼロによる普及力に着目し、オープンソースの優れた所有権開放戦略が
その普及する原動力であるとして「非常に短期間で世界的な普及を可能としたメカニズム
である。
」
(204 頁)としている。
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情報産業論
情報技術の発達と情報産業の成立
補論
ソフトウェアライセンスとオープンソース
オープンソースの定義
OSD(The Open Source Definition)19によるオープンソースの定義
1. 自由な再頒布ができること
2. ソースコードを入手できること
3. 派生物が存在でき、派生物に同じライセンスを適用できること
4. 差分情報の配布を認める場合には、同一性の保持を要求してもかまわない
5. 個人やグループを差別しないこと
6. 適用領域に基づいた差別をしないこと
7. 再配布において追加ライセンスを必要としないこと
8. 特定製品に依存しないこと
9. 同じ媒体で配布される他のソフトウェアを制限しないこと
10. 技術的な中立を保っていること
1、
著作権とソフトウェアライセンス
(1) 著作権(コピーライト)とは
 著作権は、知的財産権=人間の創作物に対する、創作者の持つ権利の一種で
ある(「著作権法第 2 条第 1 項」)。知的財産権には他に産業財産権(特許権、
実用新案権、商標権、意匠権)がある。
 著作権は、文書や音楽・美術・映画などの文化的な創作物に関する権利で、
著作権者に対してこれらの創作物=著作物を排他的に利用することを認め
る権利。
 日本の著作権法における著作権は、作者の人格的利益を保護する権利である
著作人格権と、著作物の利用を許諾したり禁止したりする著作財産権に分か
れている。
 著作権は、媒体ではなく内容に対する権利であり、著作権者がその所有物を
他人に譲渡した場合も、著作権は消滅しない。
 著作権者は著作物に対して利用をする権利を有する。コピーライト:
Copyright=コピーをする権利である 。c
○
原文は The Open Source Definition http://www.opensource.org/docs/definition.html
から読むことができる。1998 年、Debian の開発者、ブルース・ベレンスによって執筆さ
れたオープンソースの定義。その後ブルース・ベレンスはエリック・レイモンドと共にオ
ープンソースの認証マークを管理する団体である Open Source Initiative を結成し、
「オー
プンソース」の商標登録をしている。日本語版は八田真行氏が翻訳したものがある。
http://www.opensource.jp/osd/osd-japanese_plain.html
19
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情報産業論
情報技術の発達と情報産業の成立
(2) 著作権とソフトウェアライセンス
・ソフトウェアも著作物であり、著作権者がソフトウェア購入者に与えるのは
その利用だけであり(使用許諾:利用のためのライセンス)であり、著作権は
もちろん複製権は譲渡されていない。=利用者がソフトウェアを購入した際に
は、ソフトウェア本体ではなくその利用に対してライセンス料を支払っている。
・リバースエンジニアリングの禁止(Microsoft)
Microsoft社はソフトウェアの複製だけでなく、ソフトウェアの動作から内部
構造を研究する行為(リバースエンジニアリング)も禁止している 20。
20
リバースエンジニアリングの禁止は本来著作権の範囲には含まれない。なお、IPA(情報
処理推進機構)の「情報システム等の脆弱性情報の取扱いに関する研究会報告書」では、
リバースエンジニアリングの禁止行為を独占禁止法に抵触すると問題提起している。
39
情報産業論
情報技術の発達と情報産業の成立
2、オープンソースとライセンス
(1)ソースコードとバイナリーコード
プログラム=コンピュータに対する命令の列は論理化・数値化され計算機内
部の記憶装置に記憶されている。プログラムの表現は電子回路に対する形式論
理的な操作であるが、これを言語形式で表現したものがマシン語 21であり、こ
れによって組まれたものがオブジェクト・プログラム(バイナリーコード)と
呼ばれる。ところがマシン語のプログラムは 0 と 1 の無味乾燥な記号列にすぎ
ないので、人間にもっとわかりやすい言語=プログラミング言語 22が開発され
てきた。このプログラミング言語によって書かれたものがソース・プログラム
(ソースコード)と呼ばれる。
一方、ソースコードは人間に理解できるように作られているため、そのまま
ではコンピュータが実行することはできない。プログラミング言語で書かれた
ソースコードは、アセンブルやコンパイルなどの処理を行って、機械語の羅列
(バイナリーコード)に翻訳(コンパイル)されるのである。
21
マイクロプロセッサが直接解釈・実行できる言語。数字の列で表現され、人間が簡単に
理解できるような形式にはなっていない。マシン語は直接プロセッサが実行するコードで
あるため、ハードウェアを制御するデバイスドライバや、OS の基盤となる部分などではマ
シン語による開発が行なわれることが多い。
22 プログラミング言語は広義にはマシン語も含み、より機械が解釈しやすい低水準言語、
人間が解釈しやすい高水準言語に分かれ、マシン語はもっとも低水準の言語となる。
40
情報産業論
情報技術の発達と情報産業の成立
(2)クローズドソフトウェアとライセンス
オープンソースではないソフトウェア(クローズドソフトウェア)はバイナ
リーコードの利用許可(ライセンス)を販売している。購入者はソフトウェア
の動作に問題があっても自分では直せない。企業から修正プログラムが提供さ
れるか、バージョンアップを待つしかない。
また、無料で入手できる「フリーソフトウェア」も、利用許可が与えられて
いるが、ソフトウェアの著作権は著作権者が持っており、ソースコードも公開
されていない。
(3)オープンソースとライセンス
これに対して、オープンソースソフトウェアは、
1. 自由な再頒布ができること
「オープンソース」であるライセンスは、出自の様々なプログラムを集めた
ソフトウェア頒布物(ディストリビューション)の一部として、ソフトウェア
を販売あるいは無料で頒布することを制限してはなりません。
2. ソースコードを入手できること
「オープンソース」であるプログラムはソースコードを含んでいなければ
ならず 、コンパイル済形式と同様にソースコードでの頒布も許可されてい
なければなりません。何らかの事情でソースコードと共に頒布しない場合
には、ソースコードを複製に要するコストとして妥当な額程度の費用で入
手できる方法を用意し、それをはっきりと公表しなければなりません。
3. 派生物が存在でき、派生物に同じライセンスを適用できること
ライセンスは、ソフトウェアの変更と派生ソフトウェアの作成、並びに派
生ソフトウェアを元のソフトウェアと同じライセンスの下で頒布すること
を許可しなければなりません。
すなわち、オープンソースは無料でも(有料でも)配布・入手が可能である
が、その際にソースコードも合わせて含んでいなければいけない。
そして、ソースコードの変更と派生ソフトウェアの作成、並びに派生ソフト
ウェアを元のソフトウェアと同じライセンスの下で頒布することを許可しなけ
ればならない 23。
23
ただし、ここではコピーレフト条項、すなわち派生ソフトウェアは元と同じ条件で「公
開しなければならない」とはなっていない。
41
情報産業論
情報技術の発達と情報産業の成立
3、オープンソースライセンスとその課題
(1)オープンソースライセンスの種類
オープンソースには様々なライセンスがある 24。そして必ずしもGPLに代表
される「コピーレフト」の条項、すなわち派生ソフトウェアを元のソフトウェ
アと同じライセンスの下で頒布することを義務付けるものではない 25。
いくつかあるオープンソースのライセンスを4つのタイプに分類し、その特
徴を述べる(可知豊『ソフトウェアライセンスの基礎知識』Softbank Creative
参照)。
1.GPL(GNU General Public License)ライセンス型
コピーレフト条項を備えている。ソフトウェアの変更と派生ソフトウェアの
作成、並びに派生ソフトウェアを元のソフトウェアと同じライセンスの下で頒
布することが義務付けられている。
① GNU General Public License version 2.0(GPL v2.0)
コピーレフト条項を備える強い条件を持ったライセンスである。派生ソフト
ウェアは変更点を明示し、元のソフトウェアと同じライセンスの下で頒布す
ることが義務付けられている 26。GPL v2.0 による派生ソフトウェアとは、ソ
フトウェアの修正の他、他のソフトウェアのソースコード(その一部)の追
加、またソフトウェアのリンク(コンパイル時の静的リンクや実行時の動的
リンク)が含まれる。代表的なソフトウェアは、Linuxカーネル 27、Java、
MySQL(商用ライセンスとのデュアルライセンス)である。
② GNU Lesser General Public License version 2.0(LGPL v2.0)
GPL と同様に強い条件を持ったライセンスであるが、適用範囲を限定したコ
ピーレフト条項になっている。これはソフトウェアライブラリ(プログラム
の実行時に呼び出される標準的な機能:補助プログラム)に用意されたもの
詳しい分類は OSI によってまとめられている。http://opensource.org/licenses/category
OSI の「オープンソースの定義」も、いくつかのオープンソースのライセンスの共通項
を抽出する形で作成された。
26 ただし、ソースコードを改変して自社内や個人的に利用する場合はコピーレフトは適用
されない。
27 Linux の周辺機器のドライバを開発した場合、Linux と同じライセンス(GPL)でソー
スコードを公開する義務が生じる。ただし Linux には例外事項があり、Linux 上のアプリ
ケーションプログラムはコピーレフトの対象とはなっていない。
24
25
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情報産業論
情報技術の発達と情報産業の成立
で、そのため派生ソフトウェアには動的リンクが含まれない。これによって
LGPL v2.0 上で Linux などのオープンソースの OS で動作するクローズドな
アプリケーションの開発が可能となる。代表的なソフトウェアは、GNU C
ライブラリである。
③ GNU General Public License version 3.0(GPL v3.0)
GPL v3.0 では、GPL v2.0 に加えてライセンスの国際化対応(GPL が特定
の国の著作権法にしばられないようにする)、ソフトウェア特許への対応
(ソフトウェア特許の受け入れを一定の条件で認める)などの改訂がされ
た(2007 年 6 月公開)
。LGPL v2.0 も同様に LGPL v3.0 にバージョンアッ
プがされている。
2.BSD(Berkeley Software Distribution License)ライセンス型
コピーレフト条項を持たない。GPL と比較して制限の緩いオープンソースライ
センス。
① 修正 BSD ライセンス(New BSD License)
現状のまま配布する場合も、改変して配布する場合も、著作権表示と免責条
項を含めるだけでよい。バイナリ形式での配布にはこれらの表示を文書、資
料に必ず含める。改変後のソフトウェアを異なるライセンスで配布できる。
代表的なソフトウェアは、FreeBSD、NetBSD、OpenBSD、PostgreSQL
などである。
② MIT(Massachusetts Institute of Technology)ライセンス
修正 BSD ライセンスと同様に配布は著作権表示と免責条項を含めるだけでよ
い。ソース形式とバイナリ形式での配布に区別がない。代表的なソフトウェ
アは、X Windows System。
③ Apache ライセンス version 2.0
修正 BSD ライセンスとほぼ同じ内容を持っているが、「広告に Apache の名
前を勝手に使わないこと」「派生ソフトウェアに Apache の名前を勝手に使わ
ないこと」という条件を持っている。他に同じ内容を持っているものとして、
PHP ライセンスがある。
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情報産業論
情報技術の発達と情報産業の成立
3.MPL(Mozilla Public License)ライセンス型
限定的なコピーレフト条項を持っている、GPL ライセンス型と BSD ライセ
ンス型の中間に位置するライセンスである。
① Mozilla Public License(MPL)
修正 BSD ライセンスよりは強い条件=限定的なコピーレフト条項を持ってい
るが、ソフトウェアのリンク(コンパイル時の静的リンクや実行時の動的リ
ンク)には適用されない。そのため、新規に開発した追加モジュールは異な
るライセンスで公開できる。代表的なソフトウェアは、Firefox、Thunderbird
である。
② Common Public License(CPL)/Eclipse Public Lisense(EPL)
MPL 同様に限定的なコピーレフト条項を持っており、新規に開発した追加モ
ジュールには適用されない。CPL は IBM 社が開発したソフトウェア開発ツー
ル、Eclipse の管理を Eclipse 財団に移管する際に作成され、その後は EPL
が採用されている。
4.その他
① Artstic ライセンス v1.0
現状のまま配布する場合は著作権表示と免責条項を含めるだけでいいライセ
ンス。限定的なコピーレフト条項を持っており、派生ソフトウェアの配布に
は、自由に利用できる状態にするか、実行ファイルの名前を変更などする必
要がある。
② Ruby ライセンス
プログラミング言語 Ruby のためのライセンス。複製は制限無く自由であり、
Artstic ライセンス同様に、現状のまま配布する場合は著作権表示と免責条項
を含めるだけでいいライセンス。Ruby の処理系にこのライセンスが適用され
るが、Ruby の処理系の一部には GPL ライセンスが適用されたコードを含ん
だものがある。そのため Ruby 処理系の頒布には GPL ライセンスとのデュア
ルライセンス表示(後述)が必要になる。
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情報産業論
情報技術の発達と情報産業の成立
(2)コピーレフトとライセンスの異なるソフトウェアの混在
オープンソースには様々なライセンスがあるが、特に GPL は、派生ソフト
ウェアの配布時には元と同じ条件の配布を強制している(コピーレフト条項)。
一方、BSD ライセンスのように再配布に際して制限する条項を持っていな
いものもある。
最初にどちらのライセンスを選択するかはソフトウェアの著作権者に任さ
れているが、ライセンス条件の異なるソフトウェアを組み合わせて新しいソ
フトウェアを開発した場合、どちらのライセンスが適用されるかという問題
が起こる。
また、これを回避するために、2種類のライセンスを用意して利用者に選
択させる方法(デュアルライセンス方式)もある 28。
(3)著作権と特許、商標
オープンソースライセンスはソフトウェアの著作権によって制限されてい
る。一方、著作権以外の知的財産権、特許権や商標には範囲が及ばない。そ
のため、これらの権利に関しては別のルールに従う必要がある。
オープンソースのデータベース MySQL は GPL と有償の商用ライセンスをデュアルライ
センスで選択可能として、ユーザが商用ライセンスを選択した場合はコピーレフトを回避
できるようにしている。また Ruby は GPL とコピーレフト条項のゆるい Ruby ライセンス
のデュアルライセンスになっており、Ruby 処理系の頒布に対応している。
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