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神奈川Nutrition Seminar - 患者・一般の皆様

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神奈川Nutrition Seminar - 患者・一般の皆様
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NSJ22-表1_再校
/【L:】Server/17903‐NSJ‐22/巻頭言p02_F再校/巻頭言 2009年 3月11日
巻
Page 2
頭
言
岐阜大学大学院医学研究科腫瘍制御学講座消化器病態学教授
森脇
久隆
本誌の監修を岡田正先生から引継ぎ,今号から担当させていただくこととな
りました。もとより岡田先生とは比べるべくもない若輩ですが,皆さま方のご
指導を仰ぎながら本誌の格調を守り,また新しい展開も図りたいと思いますの
で,どうぞよろしくお願い申し上げます。
そこで今回の巻頭言は自己紹介を兼ね,小生のNutrition Support領域におけ
るこれまでの経歴を書き記したいと思います。師匠である武藤泰敏先生のもと
で臨床栄養を専攻し始めたのは1978年で,rapid turnover proteinの免疫定量か
ら入りました。肝硬変/肝癌を中心に臨床・研究を進めるうち,1991年には細
谷憲政先生が組織された米国NST視察に参加する機会を与えられ,1994年に
は武藤先生が岐阜で開催された栄養食糧学会で,現日本栄養士会会長の中村丁
次先生とNSTに関するシンポジウムを共同司会させていただきました。
1997年に岐阜大学医学部第1内科
(当時)教授を拝命し,附属病院内のNST
をまず単科型から立ち上げ,現在では畏友,村上啓雄教授のご尽力により,感
染対策も担当し安全管理とも密接に連携する生体支援センター(NST/ICT;
Nutrition Support Team/Infection Control Team)に育っています。この間,
2006年には岐阜の地で第21回日本静脈経腸栄養学会を主催させていただきまし
たが,参加人数が前年比5割増,5千人に達するという記念すべき大会となっ
たことも思い出です。
現在,栄養サポートの流れは諸学会の規模拡大や会場の熱気から,まさに上
げ潮にあることを皆さま実感していらっしゃると思います。一方,そろそろ明
確なアウトカムを広く一般に提示することが,この領域が次のステップに飛躍
するために必要な時期に来ていると,少なくとも小生は感じます。このジャー
ナルがそのような方向から栄養サポートの将来を考え,かつ議論する場になれ
ばと願っています。
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Nutrition Support Journal
2009年 3月13日
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NS T/A S S ES S MENT
NETWORK
患者の生活を救うために必要な専門家が
集まり協働する
――その毎日の繰り返しが摂食・嚥下リハビリテーション
の基本
聖隷三方原病院(写真1)における摂食・嚥下リハビリテーションの歴史は,約20年前,リハビリテーション
科が開設されたのを機に,脳外科医からリハビリテーション医に転向した藤島一郎先生
(現:浜松市リハビリ
テーション病院院長)(写真2)が戻ってきたことに始まる。以来,看護師,言語聴覚士,管理栄養士,歯科医
師,歯科衛生士のほか,理学療法士,作業療法士,医療ソーシャルワーカー,耳鼻咽喉科医など多岐にわたる
専門家が,必要なときに必要なところで協働し,摂食・嚥下リハビリテーションを展開─多くの患者の「口か
ら食べること」
,「生活するということ」を支え続けている。ここでは,聖隷三方原病院におけるここ2
0年間の
摂食・嚥下障害に対する取り組みを紹介するとともに,摂食・嚥下リハビリテーションの今後を展望する。
「命を救いたい」─
脳神経外科手術後に問題となる
誤嚥性肺炎の抑制方法を模索
藤島先生が摂食・嚥下リハビリテーションに尽力
するようになった経緯は,長野県厚生連佐久総合病
院ニュース『農民とともに』に掲載された第17回若
月賞受賞講演「嚥下障害との出会い−苦労と喜び」
に詳しく書かれ て い る(http://www.valley.ne.jp/∼
写真2
藤島一郎先生
sakuchp/news/no189/fujisima/fujisima..htm)
が,以
下にそれを簡単に紹介しよう。
先生にはリハビリテーションという考えはほとんど
藤島先生は「目の前で意識のない患者の命を救え
念頭になかったそうだ。当時,医学部にリハビリテー
る医者になろう」と脳神経外科医となる。当初,藤島
ションの講座はなく,リハビリテーションを専門と
している医師は皆無だったと思われることから,そ
れも当然のことだろう。
こうした中,藤島先生は,研修医としてはじめて
受け持った患者が誤嚥性肺炎で死亡するという経験
をする。この患者は肺がんからの転移性脳腫瘍の摘
出手術を施行した患者だった。手術は成功するもの
の,重度の嚥下障害から食べものを誤嚥し,誤嚥性
肺炎を繰り返し,ついに肺がんでも転移性脳腫瘍で
もなく誤嚥性肺炎で死亡する。
「手術はうまくいっ
たのに,いったいどうしてこんなことに……」─藤
島先生は脳神経外科医として「患者の命を救いた
写真1
病院外観
い」と,脳卒中や脳外科手術後に摂食・嚥下障害を
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合併する患者の誤嚥性肺炎併発を予防する方法を模
んと学んだわけではない。堺先生の許可を得てリハ
索するようになる。
ビリテーションのセミナーに参加した藤島先生は,
ところが,摂食・嚥下障害について図書館で文献
そこで東京大学リハビリテーション部の江藤文夫
を調べたり,ほかの医師に相談したりしたが,なか
先生と出会う。江藤先生から,嚥下障害の病態生理
なか有益な情報を得ることができない。しかも,丁
や嚥下障害患者への対応が詳細に記載されている
寧に注意深く診察すればするほど,摂食・嚥下障害
Michael E Groherの「Dysphagia Management and
を合併する患者と遭遇することが多く,「とにかく,
Treatment」を紹介されるとともに,リハビリテー
なんとかしなくては」との思いがますます強くなっ
ション医に転向することを強く勧められた。それに
たと藤島先生は話す。
応えるべく,藤島先生は東京大学リハビリテーショ
ン部に国内留学。江藤先生および上田敏先生から障
「命を救いたい」から「生活を救いたい」へ
脳神経外科医からリハビリテーション医に転向
害の医学としてのリハビリテーションについて教え
を受けた。すなわち,リハビリテーションとは「訓
練」ではなく病気から直接起こる麻痺などの機能形
幸い,藤島先生の思いが通じるかのように,少し
態障害に対する治療的アプローチ,機能形態障害が
ずつ摂食・嚥下障害への対応の道が開けていく。そ
原因で起こる日常生活の不自由・能力障害に対する
れとともに,藤島先生は脳神経外科医として命を救
代償的アプローチ,障害を持つことで背負うハンデ
う医療に取り組むのではなく,リハビリテーション
ィキャップに対する環境改善的アプローチだ。
医として生活を救う医療,特に摂食・嚥下障害に取
り組むようになっていったという。
脳神経外科は治療して治るか,治らないかの世界
だった。リハビリテーションの世界はそうではない。
2年間のローテイト方式の研修が終わり,聖隷三
「治らなくてもなんとかしよう。治らないマイナス
方原病院の脳神経外科に勤務した藤島先生は,当時
面でなくプラス面を見だしていこう」という世界で
の同科部長,現聖隷浜松病院院長の堺常雄先生から
ある。こうした世界に魅了された藤島先生は,命を
脳神経外科でのリハビリテーションの重要性を実地
救う脳神経外科医から生活を救うリハビリテーショ
臨床を通じて教わる。堺先生は腕のよい脳神経外科
ン医となり,1989年(平成元年),聖隷三方原病院に
医であるとともに,毎週,理学療法士(PT),作業療
戻ってきた。
法士
(OT)
,
言語聴覚士
(ST)
などの訓練スタッフとカ
ンファレンスを開催するなど,術後のリハビリテー
ションにも非常に熱心に取り組む医師でもあった。
そのため藤島先生もリハビリテーションに関わり
おのずと,訓練スタッフと連携するようになり,あ
るとき,摂食・嚥下障害への対応に関してSTの1
リハビリテーション医となった藤島先生は,病棟
人である小島千枝子さん
(現:聖隷クリストファー
で摂食・嚥下障害およびそのリハビリテーションに
大学教授)
から「喉を冷たいもので刺激してはどう
関する勉強会を開催するだけでなく,自ら摂食・嚥
か?」という意見をもらった。実際,食事前に,綿
下障害患者の摂食介助を積極的に実践した。そうし
棒を凍らせて水に浸し口からのどを刺激するアイス
た藤島先生の行動に,当初,病棟の看護師たちは「医
マッサージを試みたところ,それで嚥下反射が起こ
師が摂食介助するなんて……」といぶかしげに見て
る人はむせが減りスムーズに食事ができるようにな
いたそうだ。しかし,藤島先生がアイスマッサージ
った。同時に,アイスマッサージで嚥下反射が起こ
を施した後,スムーズに食事が食べられるようにな
らなければ食事の提供を控えるという対応をとるよ
る患者の姿を目の当たりにした看護師たちは徐々に
うにした。すると,食事ができる人が増え,誤嚥性
藤島先生のあとに続くようになる。なぜなら,24時
肺炎を起こす人が減った。こうした成功体験により,
間,患者のそばで生活を看てきた看護師たちは,摂
「どんどん,摂食・嚥下障害のリハビリテーション
にのめり込んでいった」と藤島先生は話す。
とはいえ,リハビリテーションとはなにかをきち
4
摂食介助,造影検査,嚥下訓練,嚥下食づくり…
自らが実践することで仲間を増やし,
摂食・嚥下リハビリテーションシステムを構築
食・嚥下障害のために口から食べることができない
患者の苦しみをよく知っており,看護師たちも患者
のQOLを向上させるべく摂食・嚥下障害に取り組ん
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でいたからだ。
また,藤島先生は,嚥下体操や呼吸訓練といった
間接訓練,および摂食介助し食べ物を実際に食べさ
せて摂食・嚥下障害を改善することをめざす直接訓
練も自ら先頭に立って実践し,STを指導した。そ
の1人が前出の小島さんだ。のちに,摂食・嚥下障
害に対する訓練を行うSTという条件で採用した北
條京子さん,柴本勇さん
(現:国際医療福祉大学大
学院准教授)
にも,藤島先生は直々に嚥下リハビリ
テーションのノウハウを指導している。
摂食・嚥下障害を評価するためのスクリーニング
テスト
(反復唾液飲みテスト,水飲みテストなど)
も
専門的な検査で あ る 嚥 下 内 視 鏡
(VE)
も嚥下造影
(VF)
(写真3)も,とにかく藤島先生はまず自分が
実践し,それを看護師,ST,放射線技師などに見
せた。嚥下食も管理栄養士の金谷節子さん(現:浜
松大学准教授)とともに“作っては,医師,看護師,
ST,管理栄養士みんなで食べて意見を出し合い,作
り直す”といった作業を繰り返し,試行錯誤を重ね
て,聖隷方式とよばれる5段階の嚥下食レシピを完
成させた。それを嚥下造影で用いる検査食(写真4)
写真3
嚥下造影検査
リハビリテーション医,放射線技師,歯科医,歯科衛生士,ST,
管理栄養士など,摂食・嚥下リハビリテーションチームのメンバ
ーができる限り同席して実施する。メンバーが一緒に,患者の摂
食・嚥下障害の病態を評価し,その場で治療プログラムを立案す
ることで情報を共有する。
にも応用した。
このように藤島先生は,摂食・嚥下障害患者の生
活を救うために,自らが先頭に立ち,検査も訓練も
食事作りも摂食介助も行うことで,その道の専門家
である看護師,ST,管理栄養士,放射線技師たち
にノウハウを伝え,患者が口から食べられるように
なったことを喜ぶ姿を一緒にみて(成功体験)
,摂
食・嚥下リハビリテーションの仲間を1人ずつ増や
してきたのだ。
さらに,藤島先生は,看護師,ST,管理栄養士,
放射線技師のみならず,患者の摂食・嚥下障害の程
度に応じて必要となる専門家の職能を院内外に強く
求めた。保存的なリハビリテーション治療のみでは
写真4
検査食
管理栄養士が開発した5段階の検査食
(ゼリー,ゼラチン,寒天,
クッキー,蒸しパン)。いずれも,検査後に下剤を必要としない
量のバリウムが含まれているが,非常に美味しい。検査で美味し
いものを食べることだけでも,患者は楽しみや喜びを得ると藤島
先生。
限界があり外科的手術が適応となる症例では耳鼻咽
喉科医と連携したり,排痰が必要な症例ではPTと
連携したり,摂食に自助具が必要となる症例ではOT
と連携したりといった具合だ。
「摂食・嚥下リハビ
リテーションチームをつくろう!といって立ち上げ
書籍の出版,ビデオの作成など
広く摂食・嚥下リハビリテーションの啓発に努める
たわけではないが,毎日,毎日,摂食・嚥下障害に
こうした聖隷三方原病院での5年間の取り組みか
対するアプローチを試行錯誤しながら繰り返してい
ら得た摂食・嚥下障害リハビリテーションに関する
るうちに,チーム医療のシステムが徐々にできあが
知 識 を 藤 島 先 生 は,『脳 卒 中 の 摂 食・嚥 下 障 害』
ってきた」と藤島先生は振り返る。
(1993年)という一冊の本にまとめ,出版した。同書
には,藤島先生らの経験をもとに,摂食・嚥下障害
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に対して具体的かつ実践的に何をすればいいのか,
いう非常に地味なもの。スタッフは,自分たちのや
摂食・嚥下障害はリハビリテーションでよくなり,
っていることが本当に正しいのか,評価に値するこ
患者さんの生活を救うことができるといったことが
となのか,自問自答することも少なくなかった。そ
示されており,医療関係者だけでなく,口から食べ
うしたとき,学会が成功裏に終わり,自分たちのし
られなくなった患者や家族からも大きな反響を得る
ていることは正しいことだ,評価されているという
こととなる。
自信を得ることができた」
(藤島先生)。院内でも,
かつて摂食・嚥下障害は治療対象として考えられ
ることがなく,生命維持を優先するあまり,安易に
経管栄養に走る傾向にあった。今もその傾向は少な
学会終了後から,摂食・嚥下障害リハビリテーショ
ンに対する評価と認知度が急に上昇した。
その結果,院内に嚥下センターの開設が認められ,
からず残っており,経口摂取が困難な場合,比較的
嚥下相談窓口が設置され,遠方からの摂食・嚥下障
簡便に造設可能な内視鏡的胃瘻造設術(PEG)による
害患者の紹介を積極的に引き受けるようになった。
胃瘻栄養法が行われることが多くなっている。こう
また,摂食・嚥下障害専門ナースを養成したり,摂
した流れを問題視する声が,多くの経管栄養患者を
食・嚥下障害のための歯科チームを設立したり,VE
ケアせざるを得ない状況にある看護・介護分野から
をルーチン化したり,従来の訓練のほかに新しく
挙がっていることも事実だ。藤島先生も,
「回復期
k-point刺激法,ゼラチンスライス丸飲み法,バルー
に適切な嚥下評価と訓練により経口摂取が可能とな
ン法といった新しい訓練手技を開発したりするな
った患者のなかには本当にPEGが必要であったかど
ど,相次いで摂食・嚥下障害リハビリテーションの
うかを疑う症例もいる」と苦言を呈する。なにより,
体制が整えられていった。
口から食べられなくなった患者や家族の苦悩は計り
知れないほど大きい。
たとえば,摂食・嚥下障害専門ナースの養成は,
看護部から専任で藤森まり子さんが藤島先生に1年
そうしたことから,同書の出版を契機に,藤島先
間ぴったりついて勉強するというかたちで行われ
生のもとには,全国から看護・介護分野,患者・家
た。藤森さんの実力は飛躍的に向上し,院内外でそ
族の問い合わせや相談が殺到するようになり,摂
の存在を知らしめることとなり,これがのちに看護
食・嚥下障害リハビリテーションについて広く啓発
協会の摂食・嚥下障害認定看護師へと繋がることに
する必要性を痛感したという。
なる。
以後,藤島先生は依頼に応じて全国各地で摂食・
歯科チームは,主に摂食・嚥下障害リハビリテー
嚥下障害リハビリテーションに関する講演活動を行
ションのチーム医療の一員となるべくリハビリテー
うほか,一般向けに平易に書いた解説本『口から食
ション科のなかに歯科が開設され,はじめに歯科医,
べるQ&A』の出版や,啓発ビデオ『口から食べる』
ついで歯科衛生士を採用して設立された。もちろん,
(全3巻)の作成などを通じ,摂食・嚥下障害リハビ
病院内歯科として一般病棟入院患者の歯科治療や口
リテーションに対する理解とその実践を広く世間一
腔ケアを行っているが,リハビリテーション科の一
般に求めていった。
部門として医師,ST,看護師,管理栄養士などと
連携をはかりながら摂食・嚥下障害患者に対する歯
第4回日本摂食・嚥下障害リハビリテーション学会
開催以後,聖隷三方原病院の摂食・嚥下
リハビリテーションは第二ステージへ
どの作製)
,誤嚥性肺炎予防・間接訓練のための嚥
下機能に対する口腔ケアなどの実践に力を注いでい
る。歯科チーム設立以後,院内の患者全体の口腔ケ
さらに5年経った1998年,リハビリテーション医
アが徹底されることはもちろん,従来,摂食・嚥下
となって10年を迎える節目の年に,藤島先生は第4
障害リハビリテーションに難渋していた患者におい
回摂食・嚥下障害リハビリテーション学会(浜松)の
てもその効果が得られるようになった。
会長を務めた。同学会には2300名もの会員が参加。
6
科的アプローチ
(舌摂食補助床,軟口蓋挙上装置な
藤島先生は,
「2000年前後に,聖隷三方原病院の
非常に大盛況だったそうだ。
「摂食・嚥下リハビリ
今の摂食・嚥下障害リハビリテーションシステムが
テーションは,ほんのちょっとした違いでうまくい
構築されたと思う」と説明。まさにその頃,聖隷三
ったり,いかなかったりを毎日,毎日,繰り返すと
方原病院のリハビリテーション科に赴任してきた
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片桐伯真先生
(写真5)が,現在,藤島先生の後を継
いでいる。
なお,当時,片桐先生は高次機能障害のリハビリ
テーションを専門としていたが,高次機能障害とと
もに摂食・嚥下障害のリハビリテーションにも積極
的に取り組み,2003年に聖隷浜松病院に赴任し,リ
ハビリテーション科および摂食・嚥下障害リハビリ
テーションチームを立ち上げた。
「こうした経験が
写真5
片桐伯真先生
あるからこそ,今の私があると思う」と片桐先生。
検査やカンファレンスに多職種が
参加することにより,共通認識のもと
摂食・嚥下リハビリテーションを展開
になるからだ」と説明する。また,もしVEだけで
は摂食の可能性や安全に摂食できる条件の設定,リ
ハビリテーション訓練効果などを勘案したゴール設
現在,聖隷三方原病院の摂食・嚥下リハビリテー
定などができなければ,VFが実施されるが,この
ションチームのコアメンバーは,片桐先生を含むリ
ときもできるかぎり多職種が参加するかたちで行わ
ハビリテーション医師6名(写真6),歯科医師2名,
れているそうだ(写真3)。
歯科衛生士3名
(写真7)
,ST5名(写真8),摂食・
以 上 の 流 れ で 摂 食・嚥 下 障 害 を 評 価 し た ら
嚥下障害認定看護師1名,および管理栄養士3名
(図1),次はそれに対するリハビリテーションのア
(写真9)
。また,前述したように必要に応じて,PT,
プローチ法を考える。先に述べたとおり,精査場面
OT,医療ソーシャルワーカー,病棟看護師,病棟
(VE,VF検査場面)
を参考に,自力摂取の可否などを
管理栄養士,耳鼻咽喉科医師などがサブメンバーと
加味して,実際に食事を摂取する環境や提供可能な
してチームに参加する。
食品の形態などを設定していく。STの北條さんに
20年間の歴史の中で,各病棟における摂食・嚥下
よると,通常,最も安全な条件設定
(表1)で直接訓
障害への対応レベルは格段と向上しており,今では,
練を開始するとともに,可能な限り間接訓練を並行
病棟において,摂食・嚥下障害認定看護師のフォ
(食事の形態や量,体位な
して行い,段階的に条件
ローを受けつつ,病棟看護師が中心となり,図1に
ど)を上げていく方法がとられるという。
示す手順で摂食・嚥下障害をスクリーニングし,そ
詳細な訓練手技や適応などは成書を参照していた
の結果に基づいて,STや管理栄養士などとともに
だくことにして,こうした摂食・嚥下リハビリテー
安全に摂食できる条件を設定し,ゴールをめざして
ションの実施にあたって大切なことは,患者に関わ
訓練を行うことが当たり前に行われるようになって
るスタッフの共通認識だと片桐先生は強調する。そ
いるという。したがって,リハビリテーション科が
のため,前述したように,VE,VFを実施する場面に
病棟から依頼を受け介入するケースは,病棟ではど
もできるだけ多職種が参加するよう配慮されている
うしても安全に摂食できる条件を設定できない症
わけだが,加えて,週1回のカンファレンス(写真1
0)
例,いわゆる摂食・嚥下リハビリテーションに難渋
の場が設けられている。同カンファレンスでは,摂
する症例に限られてきていると片桐先生は話す。
食・嚥下障害に対してリハビリテーション科に依頼
リハビリテーション科が介入する症例に関して
があった入院患者全ケースの現状・栄養状態の把
は,ベッドサイドでVEが実施される。片桐先生は,
握・ゴール設定・課題や退院後のフォロー体制など
「VEの実施にあたっては,医師やSTのほか,でき
が検討されるほか,その週に実施されたVFの結果
るかぎり病棟看護師,病棟管理栄養士などにも同席
の再検討などがなされ,職種間の情報共有がはから
してもらい,評価結果に基づいた治療プログラムを
れている。
その場で立案している」と述べ,その理由について
「これにより適切な食品を用いて,病棟対応可能な
条件下で,標準的に摂食訓練を実施することが可能
7
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写真8 ST
写真6
リハビリテーション医師
写真7
歯科医師および歯科衛生士
写真9 摂食・嚥下障害認定看護師,病棟看
護師,管理栄養士
主訴・病歴
!
"(むせ,咳,咽頭違和感,食事動作の変化,脳卒中の既往など)
"
↓
"
ス" 身体所見・神経学的所見
ク"
リ"(口腔・舌運動障害,湿声,構音障害など)
↓
ー"
ニ" 摂食・嚥下障害を疑う症状の把握,問診表
ン"
グ"(摂食場面での観察,肺炎の既往など)
↓
"
" スクリーニングテスト
#(反復唾液飲みテスト,水飲みテストなど)
↓
! 専門的検査
"
精"(嚥下内視鏡,嚥下造影)
査"
↓
# 総合評価・診断・治療方針・ゴール設定
図1
安全とされる摂食条件
摂食時はパルスオキシメータを装着し,SpO2が90%以下か初
期値よりも3%以上低下した時点で中止を原則。
①体位は体幹30度のリクライニング座位で,頸部は顎と前胸
部に3横指入る程度の前屈位をとる。
②食事前の準備運動,口腔ケア,アイスマッサージを実施。
③食形態はゼラチンゼリーを用い,スライス状にしたもの2
∼3g程度を丸呑みを指示して取り込む。
④嚥下後に空嚥下を指示し,さらにときどき発声させ,湿声
があれば随意的な咳を指示する。むせや咳き込み,嚥下反
射惹起の遅延,疲労感,傾眠などが出現したら中止を考慮
する。
⑤食後はリクライニング座位を1時間程度維持する。
嚥下障害における診断・評価の流れ
病院での摂食・嚥下リハビリテーションは
食べることのスタートライン
「地域で食べる」ができて初めて意味のあることになる
8
表1
藤島先生が,聖隷三方原病院で摂食・嚥下リハビ
リテーションに取り組みはじめて約20年が経った
今,同院の摂食・嚥下リハビリテーションに対する
世間の評価は高い。
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写真1
0 カンファレンス
表2
ただし,片桐先生は,「病院での摂食・嚥下リハビ
リテーションがどれほど成果をあげても,それは患
Ⅰ
重
症
嚥下のグレード
経
口
不
可
グレード1
グレード2
グレード3
嚥下困難または不能,嚥下訓練適応なし
基礎的嚥下訓練だけの適応あり
条件が整えば誤嚥は減り,摂食訓練が可
能
グレード4
グレード5
グレード6
楽しみとしての摂食は可能
一部(1∼2食)経口摂取
3食経口摂取プラス補助食品
グレード7
グレード8
嚥下食で,3食とも経口摂取
特別に嚥下しにくい食品を除き,3食経
口摂取
常食の経口摂取可能,臨床的観察と指導
要する
者にとって食べることのきっかけづくり,スタート
ラインでしかない」と話す。つまり,安全に摂食す
るためのどれほどよい条件を設定することができた
としても,その条件が病院でしか実施できず,家や
居宅系施設などの地域で実施できないのであれば,
患者にとって満足度が高いこととは言えないという
わけだ。たとえば,ある患者はミキサー食であれば
Ⅱ
中
等
症
補経
助
栄口
養と
Ⅲ
軽
症
経
口
正常
グレード9
グレード10
正常の摂食・嚥下能力
口から食べることが可能だったとしよう。しかし,
自宅や居宅系施設でミキサー食を提供することがで
きない。病院で口から食べられても,自宅や施設で
は口から食べられなくなれば,退院に際して,経管
栄養に切り替えるしかない。当然,これでは摂食・
嚥下リハビリテーションの意味がない。なんのため
の摂食・嚥下リハビリテーションなのか。
そこで,摂食・嚥下リハビリテーションチームは,
口から食べることにこだわり,栄養障害を
引き起こすことは本末転倒
必要ならば経管栄養を利用し,患者の生活を
サポートする
また,片桐先生は,摂食・嚥下リハビリテーショ
介入早期から,患者の退院後をみすえ,カンファレ
ンを行うにあたり,口から食べることのリスクを認
ンスで何度も話し合いながらゴールを設定している
識し,口から食べることにこだわり過ぎないことが
という。もし,患者が自宅に戻り,家族と一緒に住
重要であると指摘する。摂食・嚥下リハビリテー
むのであれば,管理栄養士が患者家族に食事形態を
ションをすれば,みんながみんな口から食べられる
含め栄養指導を行うといった介入も行う。最近は,
ようになって退院できると思われがちだが,現実は
摂食・嚥下障害認定看護師である藤森さんが訪問看
そうではない。実際,楽しみとしての摂食,たとえ
護師を兼任しており,病院内で設定された条件を地
ばゼリーをほんの一口だけ食べることが可能だがそ
域でも同様に設定可能となるように介入しているほ
れ以上を望むことができない患者もいれば,最初か
か,地域における摂食・嚥下障害の診療・ケアレベ
ら嚥下訓練すら適応にならず,経口不可の患者もい
ルの向上をはかるべく,隔月で『浜松摂食・嚥下懇
る(表2)。
話会』を開催し,藤島先生を含めコアメンバーによ
「摂食・嚥下障害患者の安全性を最優先するな
る講義のほかSTを中心としたスタッフによる訓練
ら,食べさせないことが一番だ。しかし,それでは
手技の指導,および症例検討などを行っている。
患者のQOLは著しく損なわれる。そこで,嚥下のグ
レード(表2)を正しく判断し,安全な条件(食事の
形態・量,体位など)を設定することで,摂食・嚥
下の安全性を担保しながら,QOLを少しでも向上さ
9
【L:】Server/17903‐NSJ‐22/NAN‐藤島p03‐10_F四校/本文
2009年 3月13日
Page 10
せる妥協ラインを見極め,適切なアウトカムをめざ
い病院や地域も少なからずある。なぜなら,摂食・
すことが大切だ」(片桐先生)。
嚥下リハビリテーションは非常に労働集約的なた
その上で,片桐先生は,経口からの食事摂取が可
め,成功の可否は各専門家ひとりひとりのスキル,
能といっても,それだけでは十分に栄養を確保でき
経験値に依存し,
「やろう!」といって簡単にでき
ない患者もおり,経口摂取にこだわっていると,栄
るものではないからだ。
養障害をまねく危険性が高くなることを危惧し,必
それに対して,藤島先生は,まず,摂食・嚥下リ
要に応じて経管栄養の適応の有無を判断することが
ハビリテーションに関わる個々のスタッフが,
「患
重要だと付け加えた。なにしろ,摂食・嚥下障害患
者になんとか食べてもらいたい,食べる喜びを感じ
者は低栄養状態に陥りやすく,水分・栄養管理を適
てもらいたい」と強い意志を持つことが大切だとア
宜実施しながら,摂食・嚥下リハビリテーションを
ドバイスする。それと同時に,摂食・嚥下リハビリ
進めていかなければならない。もし,栄養障害をき
テーションについてしっかりと勉強し,自分の知識,
たせば,筋力が低下し,嚥下訓練ができなくなる。
技術を磨く。幸い,今はさまざまなノウハウ本が出
それでは本末転倒だ。
版され,ビデオが作成されており,教材にはことか
ただし,経管栄養を実施する場合も,直接訓練中
かないはずだ。そして,1人でも多くの仲間をつく
であれば,間欠的留置による対応が可能であればま
り,比較的簡単な摂食・嚥下リハビリテーションに
ず実施し,それが困難であれば嚥下への影響を最小
より食べられるようになる症例(成功体験)の経験を
限にするためにできる限り細いチューブを留置する
重ねていく。こうしたことを毎日,毎日,地道に繰
ように配慮する。また,通常,4∼6週間以内に経
り返していけば,摂食・嚥下リハビリテーション
口摂取が確立されないケースでは胃瘻の適応が考慮
チーム,同システムは自然にできあがるはずだと
されるが,時間がかかっても経口摂取が確立される
藤島先生は話す。
可能性が高いと判断される場合は,胃瘻の適応を慎
ただ,摂食・嚥下リハビリテーションのリスクを
重に判断するといったことが大切になる。つまり,
管理し,同チームをマネジメントするリハビリテー
栄養確保の面では口から食べることにこだわらない
ション医が少ないのが問題だ。医師にはそもそも病
が,QOLの面では口から食べることにこだわるとい
気を根本的に治して患者を救いたいという思いがあ
ったわけだ。
る。だからこそ医師になったわけだ。とはいえ,現
実に,すべての病気を根本的に治すことなどできる
リハビリテーションの考え方を浸透させることで,
摂食・嚥下障害だけでなくあらゆる障害に
対するリハビリテーションを普及させたい
昨今,摂食・嚥下リハビリテーションに対する関
心が高まり,多くの病院で摂食・嚥下リハビリテー
ハビリテーションの考え方,健全なところを活用し,
工夫して生活していくといった発想だ。今後,高齢
者が増える世の中において,リハビリテーションの
考え方は非常に重要なものとなり,リハビリテー
ション医の必要度は増すと思われる。
ションチームの設立や同システムの構築がはから
藤島先生は,
「リハビリテーションの考え方を広
れ,たとえ急性期に嚥下障害を認め,経管栄養を必
く啓発し,リハビリテーション医を育成することを
要とする場合でも,回復期や地域での取り組みのな
介して,摂食・嚥下リハビリテーションのみならず,
かで経口摂取可能となるケースが増えてきた。
患者の生活を救うリハビリテーション医療を広く普
とはいえ,摂食・嚥下リハビリテーションチーム
の設立や同システムの構築がなかなかうまくいかな
10
わけではない。そこで,必要となってくるのが,リ
及させていきたい」と抱負を語った。
/【L:】Server/17903‐NSJ‐22/CT‐福島p11‐14_F三校/本文
Nutrition Support Journal
2009年 3月13日
Page 11
14
22
CURRENT TOPICS
日本人の糖尿病と食事療法のあり方につい
て:食後高血糖の重要性
先端医療センター健康情報研究グループグループリーダー*
京都予防医学センター**,関西電力病院院長***
福島
光夫*,谷口
中**,清野
裕***
ン抵抗性の両者を併せ持つが,民族や個人によってその
はじめに
重みが異なると考えられる。日本人と欧米人で,正常耐
糖尿病患者の人口は世界中で爆発的に増加している。
糖能(normal glucose tolerance:NGT)
から耐糖能異常
世界糖尿病連合(International Diabetes Federation:
(impaired glucose tolerance:IGT)を経て糖尿病(DM)
IDF)
の推計によると,アジアでは2025年までに糖尿病
に至るまで,インスリン抵抗性をHOMA-IR,インスリ
患者が2倍近く増加すると見込まれており,糖尿病対策
ン分泌能をInsulinogenic indexで比較すると,欧米人で
の最大関心地域ということができる。厚生労働省の2006
はインスリン抵抗性の増大が顕著であるが,日本人では
年の統計ではわが国の糖尿病およびその予備軍の数は
Insulinogenic indexの低下が著しく,NGTの段階からす
1,050万人となり,糖尿病とその合併症がもたらす健康
4)
。
でに欧米人より低いことがわかる(図2)
上の被害とともに,医療費の点でも深刻な社会問題とな
っている。現在,わが国における糖尿病患者数は米国と
ほぼ同程度であるが,わが国の糖尿病患者の肥満指数
(BMI)
の平均は約24であるのに対して米国では約30であ
1)
。
り,糖尿病の表現型には民族差が認められる(図1)
空腹時血糖値と2時間血糖値
による耐糖能障害の亜分類
1997年に米国糖尿病学会(ADA)
,1998年に世界保健
機構(WHO),1999年に日本糖尿病学会が診断基準を改
日本人糖尿病の欧米人との比較
訂し,空腹時血糖(FPG)
値110mg/dL未満を正常領域,
126以上を糖尿病領域,経口糖負荷試験(OGTT)
2時間
2型糖尿病は遺伝素因に加齢や栄養摂取の過剰,運動
血糖(2h-PG)
値140未満を正常型,200以上を糖尿病型
不足などの環境因子が加わり,膵β細胞からのインスリ
とし,それぞれその間を境界領域とする定義が統一され
ン分泌障害と肝や末梢組織におけるインスリン抵抗性が
た。これらのカットオフ値により境界領域の耐糖能異常
2)
3)
顕性化し,血糖値が上昇することにより発症する 。多
はIFG,IGT,IGT/FHの3群に,糖尿病領域は,空 腹
くの2型糖尿病患者ではインスリン分泌不全とインスリ
時高血糖糖尿病(DM/IFH),負荷後高血糖糖尿病(DM/
70
12
:BMI≧25
:糖尿病
:BMI≧30
10
50
percent population
percent population
60
40
30
20
6
4
2
10
0
USA
図1
8
India
China
Japan Singapore
0
USA
India
China
Japan Singapore
肥満と糖尿病の頻度比較
日本人はあまり肥満しないのに対し,糖尿病患者は欧米と同程度の頻度である。
(文献1より引用改変)
11
/【L:】Server/17903‐NSJ‐22/CT‐福島p11‐14_F再校/本文
2009年 3月11日
Page 12
Insulinogenic index
HOMA-IR
5.0
1.6
2.5
図2
インスリン分泌能とインスリン抵
抗性の比較
0
NGT
IGT
0
DM
NGT
IGT
◆−◆:Caucasian
●−●:Japanese
DM
(文献4より引用改変)
B
(mg/dL)
空腹時高血糖糖尿病
DM/IFH
空腹時・負荷後
両高血糖糖尿病
DM/FPH
126
FPG
単独空腹時
高血糖
Isolated IFG
空腹時高血糖
耐糖能異常
IGH/FH
110
正常耐糖能
NGT
0
単独耐糖能
異常
Isolated IGT
FPG
126
DM/IFH
負荷後高血糖糖尿病
DM/IPH
110
インスリン分泌能低下
インスリン抵抗性
A
(mg/dL)
Isolated
IFG
DM/FPH
IGH/FH
DM/IPH
NGT
Isolated
IGT
インスリン初期分泌能低下
140
200
(mg/dL)
0
OGTT 2h PG
140
200
OGTT 2h PG
(mg/dL)
図3
A:糖尿病,耐糖能異常の亜分類
(文献5より引用改変)
B:糖尿病,耐糖能異常の各亜群における耐糖能低下要因(文献4より引用改変)
IPH),空腹時・負荷後両高血糖糖尿病(DM/FPH)の3
5)
群に亜分類することができる(図3A)。
ルモデル法を用いてより詳細に検討すると,インスリン
抵抗性は欧米人で全例認められるのに対し,わが国では
著明な抵抗性を示すものから抵抗性の認められないもの
日本人2型糖尿病の特徴
コース静注によるインスリン初期分泌能は,わが国2型
NGTから境界領域を経てDMとなる過程で,2h-PG値
糖尿病患者ではほぼ全例で障害されているが,欧米人で
優位で血糖値が上昇して最終的にFPG値,2h-PG値の両
は障害されているものから正常なものまで幅広く分布し
方が高いDM/FPHに至る群と,FPG値優位で血糖値が
ている(図7)
。したがって,経静脈的糖負荷試験の結果
上昇してDM/FPHに至る群の2群に大別できる。これ
においても,日本人2型糖尿病ではインスリン分泌障害
までに我々はこの亜分類を用いて,IGTおよびDM/IPH
が,欧米人2型糖尿病ではインスリン抵抗性がその発症
はインスリン初期分泌能の障害が耐糖能低下要因の主体
と病態に大きな役割を果たすことが示された。特に日本
であるのに対し,IFGおよびDM/IFHはインスリン分泌
人2型糖尿病では,アルギニンやグルカゴン刺激に対す
障害とインスリン抵抗性の双方が血糖上昇要因であるこ
るインスリン分泌能は保たれていることをあわせて考え
6)
−8)
とを報告してきた(図4,5) 。これは,インスリン
ると,グルコースに対する選択的な障害,特に初期反応
抵抗性が主体で発症・進展する欧米の糖尿病とは異なる
の低下が特徴と考えられる。
日本人2型糖尿病の特徴である(図3B)
。
さらに,頻回採血経静脈的糖負荷試験の結果をミニマ
12
9)
10)
。一方,グル
まで,幅広い分布を示している(図6)
また,経口糖負荷後の平均インスリン濃度について比
較すると,DeFronzoら2)による米国白人では糖尿病初期
/【L:】Server/17903‐NSJ‐22/CT‐福島p11‐14_F三校/本文
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n.s.
10
0.6
5
0
NGT
Isolated
IGT
Insulinogenic Index
*
Insulin Resistance
ISI Composite
*
0.4
**
図4
インスリン抵抗性と
インスリン分泌能の
***
0.2
比 較:NGT→IGT→
DM/IPH
*
0
DM/IPH
:p<0.05,**:p<0.01,
:p<0.001vs. NGT,
n.s.:not significant
(文献6,7より引用改変)
***
NGT
Isolated
IGT
DM/IPH
10
Insulin Resistance
ISI Composite
****
5
0
NGT
Isolated
IGT
Insulinogenic Index
**
0.6
*
0.4
*
NGT
IFG
:p<0.05,**:p<0.01,
:p<0.00
1vs. NGT
(文献8より引用改変)
DM/IFH
***
16,000
0.55
初期インスリン分泌能
インスリン抵抗性指数
比 較:NGT→IFG→
DM/IFH
0
DM/IFH
インスリン抵抗性と
インスリン分泌能の
**
0.2
4
インスリン
抵抗性領域
0
Caucasian
図6
図5
Japanese
0
NGT
2型糖尿病におけるインスリン抵抗性の比較
(ミニマルモデル法)
(文献9,1
0より引用改変)
図7
DM
(Caucasian)
DM
(Japanese)
2型糖尿病におけるインスリン初期分泌能の
比較(ミニマルモデル法)
(文献9,10より引用改変)
には高インスリン血症があり,FPG値120mg/dLで最高
となるが,それ以上血糖値が上昇すると低下する。一方
日本人の成績では,この曲線は左下方にシフトして,
FPG
血糖値100mg/dLで最高となり,総分泌量も低くなった
11)
。日本人のピーク値は米国白人の約1/2であっ
(図8)
日本人糖尿病の病態に応じた
予防・診断・治療戦略
前述のように欧米人と比較すると,日本人ではNGT
たことから,日本人のインスリン分泌能は米国白人の1/2
の段階からインスリン初期分泌の予備能が低く,IGTを
程度といえる。
経てDMに至る際,insulinogenic indexで表されるイン
スリン初期分泌能がNGTからIGTに至るところですでに
0.4を下回り,その結果負荷後高血糖となってIFGよりも
13
おわりに
(μU/mL)
日本人が糖尿病になりやすいといわれるのは,日本人
100
はあまり肥満しないのに糖尿病患者は欧米と同程度の頻
80
度であるからと考えられる。日本人ではインスリン初期
60
米国白人(DeFronzo)
40
尿病に至る群が多い。したがって,負荷後や食後の血糖
図8
値をターゲットにした糖尿病の予防・治療戦略は日本人
日本人(清野)
20
0
分泌能が低下しており,負荷後血糖値優位に上昇して糖
の病態に応じたものであると考えられる。食後血糖値を
80
120
160
空腹時血糖
200
(mg/dL)
規定する因子としてGI値は重要なものであり,今後日
本人においてこの領域の研究の更なる発展が期待され
インスリン分泌能の比較
(文献11より引用改変)
る。
文
IGTを経てDMに至る群が多い。このような日本人の病
態に応じた糖尿病の予防・治療戦略を考えるなら,負荷
後高血糖に対応する方策を講じることが重要であるとい
える。過去の大規模スタディにおいて,心血管イベント
が負荷後高血糖群に多くみられることをあわせて考える
と,負荷後高血糖是正,実生活においては食後高血糖是
正を意識した戦略が,糖尿病と合併症の発症・進展阻止
に効率的と考えられる。
食後血糖値を規定する因子としてよく知られるものに
GI(glycemic index)値がある。Jenkinsらが1981年に発
表して以来,多くの食品のGI値が記載され,日常診療
にもある程度利用されるようになってきた。炭水化物食
摂取の比率が欧米より高いわが国においては,重要視す
る必要のある指標と考えられる。最近,我々は高オレイ
ン酸含有でGI値を低く抑えた食品
(グルセルナ�;アボ
ットジャパン株式会社)
を経口摂取し,同エネルギーの
通常食品とダブルブラインドのクロスオーバーデザイン
で食後血糖値を比較したところ,食後血糖値の明らかな
上昇抑制を観察している。今後このような低GI食の糖
上昇抑制を観察している
(図8)
。今後このような低GI
尿病と合併症の発症・進展やインスリン分泌能,インス
食の糖尿病と合併症の発症・進展やインスリン分泌能,
リン抵抗性,その他の要因に対する影響が日本人におい
インスリン抵抗性,その他の要因に対する影響が日本人
て検討され,日常診療においてさらに活用されることが
において検討され,日常診療においてさらに活用される
期待される。
ことが期待される。
14
献
1)Mandavilli A,Cyranoski D:Asia’s big problem.Nat Med
10:325-327,2004
2)DeFronzo RA:Lilly lecture 1987.The triumvirate:betacell,muscle,liver.A collusion responsible for NIDDM.Diabetes 37:667-687,1988
3)Porte D Jr:Banting lecture 1990.Beta-cells in type II diabetes mellitus.Diabetes 40:166-180,1991
4)Fukushima M,Suzuki H,Seino Y:Insulin secretion capacity
in the development from normal glucose tolerance to type 2
diabetes.Diab Res Clin Pract 66:S37-43,2004
5)Mitsui R,Fukushima M,Nishi Y,et al:Factors responsible
for deteriorating glucose tolerance in newly diagnosed type 2
diabetes in Japanese men.Metabolism 55:53-58,2006
6)Fukushima M,Usami M,Ikeda M,et al:Insulin secretion
and insulin sensitivity at different stages of glucose tolerance:a cross-sectional study of Japanese type 2 diabetes.Metabolism 53:831-835,2004
7)Suzuki H,Fukushima M,Usami M,et al:Factors responsible for development from normal glucose tolerance to isolated
postchallenge hyperglycemia.Diabetes Care 26:1211-1215,
2003
8)Nishi Y,Fukushima M,Suzuki H,et al:Insulin secretion and
insulin sensitivity in Japanese subjects with impaired fasting
glucose and isolated fasting hyperglycemia.Diab Res Clin
Pract 70:46-52,2005
9)Taniguchi A,Nakai Y,Fukushima M,et al:Pathogenic factors responsible for glucose intolerance in patients with
NIDDM.Diabetes 41:1540-1546,1992
10)Welch S,Gebhart SS,Bergman RN,et al:Minimal model
analysis of intravenous glucose tolerance test-derived insulin
sensitivity in diabetic subjects.J Clin Endocrinol Metab 71:
1508-1518,1990
11)清野 裕:2型糖尿病の病態と発症機構.日本内科学会雑誌
93:S48-51,2004
【L:】Server/17903‐NSJ‐22/REV‐望月p15‐18_F再校/本文
Nutrition Support Journal
2009年 3月12日
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22
NS CO- MEDIC AL
TNT.CTMを活用した
広域栄養セミナーの開催
――神奈川Nutrition Seminar
Profile もちづき
1)
2)
クローバーホスピタル消化器科 ,神奈川県立保健福祉大学保健福祉学部栄養学科
神奈川県立がんセンター麻酔科3),
横浜市立大学附属市民総合医療センターリハビリテーション科4),
昭和大学横浜市北部病院脳神経外科5),武庫川女子大学生活環境学部食物栄養学科6)
望月
弘彦1),鈴木
Key Words
博2),谷口
英喜3),若林
秀隆4),池田
尚人5),雨海
照祥6)
ひろひこ
’85年横浜市立大学医学部卒業後,同
大学第2外科学教室に入局。’04に横
須賀北部共済病院でNSTを立 ち 上
げ,院内および地域での栄養教育に
携わり,神奈 川TNT研 修 会 やPDN
(PEGドクターズネットワーク)
の講
師を務めている。現在は消化器科を
専門としている。
........
........
.........................................................................................................................................................................
栄養教育
TNT.CTM
.......................................................................................................................................
広域栄養セミナー
コメディカル
...........................................
コ メ デ ィ カ ル の ス キ ル ア ッ プ と 他 施 設NSTと の 情 報 交 換 を 目 的 と し て
TNT.CTMを用いた広域での栄養セミナーを開催した。2ヵ月ごとに6回のセミ
ナーを開催し,NST活動内容についての報告と2ケースプログラムを行った。
神奈川県全域の3
8施設から6職種1
18名の登録があり,延べ4
4
6名が参加した。
参加者の満足度は高く,特にグループワーク形式の評価が高かった。また,次
シリーズの開催を期待する声が多かった。
...................................
...................................
Summary
.......................................................................................................................................
........................................................................................................................................
表1
はじめに
神奈川県では医師向けのTNT研修会1)が2004∼2008年
に6回開催され,279名が受講した。TNT研修会受講医
セミナーの内容
第1回 2007年10月6日
(土) 望月弘彦
講義形式
TNT. CTMが配布され2),所属施設内や地域に向けた栄養
NSTの紹介:横須賀北部共済病院
No.1ー① 主観的包括的評価
(SGA)
No.1ー② 客観的栄養評価
(ODA)
と栄養必要量の算出
栄養アセスメント(身体計測の実技,活用)
勉強会に活用されてきた3)4)。今回,コメディカルのスキ
第2回 2007年12月1日
(土) 谷口英喜
ルアップと他施設NSTメンバーとの情報交換を目的と
して,TNT. CTMを用いた神奈川県全域を対象とした広
NSTの紹介:神奈川県立がんセンター
No.2ー④ 術前化学療法を施行する胃癌患者の栄養管理
No.2ー⑥ 多発性外傷患者の栄養管理
域栄養セミナーを開催した。
第3回
師には栄養療法実践のための症例検討ツールである
神奈川Nutrition Seminarの概要
曜日の15:00∼18:00に6回のセミナーを開催した。コ
メディカル・医師・歯科医師を対象とし,原則として6
回全部に出席可能であることを条件に事前登録制をとっ
2008年4月5日
(土) 池田尚人
第5回
2008年6月7日
(土) 若林秀隆
たが,施設内での出席者の交代は可とした。受講料は6
回で5,000円,初回出席時に徴収した。講師を務める医
第6回
師が所属する施設でのNST活動報告に続き,TNT. C
の2ケースプログラムを用いたセミナーを行った。セミ
グループ形式
NSTの紹介:昭和大学横浜市北部病院
No.2ー③ 脳血管障害を併発したⅡ型糖尿病患者の栄養療法
No.2ー① 褥瘡患者の栄養管理
No.3ー⑤ 摂食・嚥下障害患者の栄養管理
No.3ー① 経腸栄養管理における下痢対策
TM
グループ形式
NSTの紹介:済生会横浜市南部病院
No.1ー⑤ 慢性閉塞性肺疾患
(COPD)患者の栄養療法
No.3ー② 認知症の寝たきり高齢者の栄養管理
第4回
2007年10月∼2008年8月 に か け て,2ヵ 月 ご と,土
2008年2月2日
(土) 若林秀隆
講義形式
2008年8月2日
(土) 雨海照祥
グループ形式
講義形式
No.3ー③ 小児の栄養管理
特別講演 感染症と栄養ー古くて新しい関係
15
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2009年 3月12日
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100
90
80
70
■:職種不明
■:歯科衛生士
■:臨床検査技師
■:薬剤師
■:看護師
■:栄養士
■:医師
60
50
40
30
20
10
0
10月6日
12月1日
2月2日
4月5日
6月7日
8月2日
図1
職種別参加人数
多摩区
17
麻生区
相模原支部
愛川町
16
川崎支部
中原区
相模原市
青葉区
横浜第1支部
港
北
区
幸区
川崎区
鶴見区
緑区
神奈川区
座間市 大 瀬 旭区
県央支部
和 谷
47 西区
1 綾 市区
瀬
厚木市
海老名 市
南区 19
山北町
松
戸
市
田
伊勢原市
塚 港 磯
秦野市
セミナー会場
子
南
町
区
寒
藤
区 区
川
沢
小田原支部
町
栄区
市
横浜第2支部
平塚市
茅ヶ崎
開成町大井町
中井町
鎌倉市 金沢区
市
6
大磯町
南足柄市
二宮町
1
逗子市
清川村
小田原市
湘南支部
箱根町
湯河原町 真鶴町
葉山町
3
横須賀支部
横須賀市
三
浦
市
図2
地区別参加者数
ナーの形式は各講師に一任した。最終回は1ケースプロ
神奈川県全域の38施設からの参加があった(図2)
。参加
グラムと特別講演とし,終了後,参加者にアンケート調
した職種は栄養士,看護師,薬剤師,医師,臨床検査技
査を行った。
師,歯科衛生士の6職種であった(参加人数順)
。
セミナーの実施結果
セミナー後アンケート結果
6回の開催で11ケースを取り上げ,第1回,2回,6
回は講義形式,第3∼5回はグループワーク形式で運営
した(表1)
。
セミナーへの参加人数は事前登録者118名,実参加者
130名,延べ参加者446名で,各回の参加者は47∼94名,
すばらしい」
「なかなかよい」
「思ったよりよい」を合わ
せると86.8%の満足率と好評であったが,「期待はずれ」
という意見もあり,考えさせられた(図3)
。
平均74.3名であった。前半3回の平均参加者は91.7名で
運営形式ではグループ形式がよかったとする回答が
あったが,後半3回は57.0名に減少した。特に看護師の
66%と多く,「他の病院や職種の方と話をする機会がも
参加者数の減少が大きかった(図1)
。5回参加した受講
ててよかった」という意見が聞かれた(図4)
。各講師が
者が26名と最も多かったが,シリーズを通しての参加者
勤務する施設での「NST活動状況」についての講演に対しては
が20名おり,薬剤師と栄養士が多かった。
また,会場がある横浜市からの参加者が多かったが,
16
セミナー最終回終了後のアンケート調査では「非常に
「よかった」という声が多かったものの,グループワー
ク形式の時では,「むしろ演習・解説やディスカッショ
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2009年 3月12日
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Q1.神奈川Nutrition Seminar
プログラムのご評価は,
いかがですか?
■:非常にすばらしい
■:なかなかよい
■:思ったよりよい
■:普通
■:期待外れ
参加
回収
有効回答
43名
41名
38名
図3
アンケート結果1
図4
アンケート結果2
図5
アンケート結果3
Q3.講義スタイルは講義形式
orグループ形式のどちら
がよろしかったでしょう
か?
■:グループ形式
■:講義形式
■:無回答
Q8.講義の前に行った,各講師が
勤務する施設での「NST稼動
状況」についての講演は?
■:よかった
■:どちらでもない
■:必要ない
■:無回答
ンの時間を長くして欲しい」という声もあった(図5)
。
開催回数や間隔については2ヵ月ごとに6回という今
考 察
回の内容がよかったとする意見がほとんどであった。参
2001年に日本静脈経腸栄養学会がNST(Nutrition Sup-
加者の12.8%がすでにNST専門療法士の資格を持ってお
port Team)
プロジェクトの活動を開始して以来,全国
り,51.3%がNST専門療法士になりたいと答えた。次シ
でNST稼働施設が増加し,2008年7月には1,223施設に
リーズの開催については回答者の全員が,
「参加したい」
,
なった。このほかにも稼働しているが未認定もしくは稼
あるいは「所属施設の方にも受講を勧めたい」と答えて
働準備中という施設も少なくない。NSTの活動のため
いた。(図6)
。
に必要な知識を取得する場としては,医師向けのTNT
研修会1),日本静脈経腸栄養学会の医師教育セミナーや
コ・メディカル教育セミナー,NST専門療法士スキル
17
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2009年 3月12日
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Q9.本セミナーの次回シリーズを企画したら…
■:是非参加したい
■:都合がつけば
■:参加したくない
■:無回答
0
10
20
30
40
50
60
70
80
90
100(%)
Q10.これまでと同じ講義内容で新たにセミナーを開催するとしたら,所属施設の方に…
■:積極的に推薦
■:機会があれば推薦
■:推薦したくない
■:無回答
0
10
20
30
40
50
60
70
80
90
100(%)
図6
アンケート結果4
アップセミナー,LLL(Life Long Learning)
などがある。
た印象がある。看護師の参加が減少した原因として,年
神奈川県でもTNT研修会のほかに神奈川NSTフォーラ
度替わりによる職場の移動やNST担当者の交代が考え
ムやNST専門療法士連絡会での勉強会,県下各地での
られる。同一年度内に完結する形で開催し,各施設での
PDN
(PEGドクターズネットワーク)
セミナー,神奈川
NST新規メンバー向けの教育などを補完する形の内容
摂食・嚥下リハビリテーション研究会とさまざまな活動
にすれば,より多くの参加が見込めるであろう。
が行われている。しかし,具体的な症例についての実践
的な内容で初心者から中級者までをカバーしたものは少
ない。
シーズン2に向けて
TNT. CTMはTNT受講医師が自分の施設のコメディカ
TNT. CTMを用いた広域栄養セミナーは好評であり,次
ルに栄養教育を実施する際の教材としてアボットジャパ
シリーズを期待する声も多かった。そこで,今回使用し
ン社が開発し2),院内勉強会などの教材として活用され
なかった7ケースプログラムに復習及び新規受講者向け
3)
4)
ている 。本来は少人数でのグループワークを念頭に置
として「ODAと必要栄養量の算定」を加えた4回のNu-
いた教材であるが,著者の前任地である横須賀北部共済
trition Seminarに加え,TNT受講医師および本セミナー
病院で毎月開催していた栄養勉強会で使用したところ,
受講者を対象としてオリジナルの症例検討および特別講
30名前後の参加者でも講師と対話をしながら進めること
演を行う「Post TNTセミナー」でまとめる5回シリー
ができるために好評であった。今回,広域セミナーの教
ズで2009年度にも開催する予定である。
材として取り上げ,好感触であったが,やはり講義形式
よりもグループワーク形式の方が評価が高かった。講義
の進め方以上に,他施設でのNSTの進め方や悩みを聞
いたり,多職種と対話する機会があったことが好評であ
った理由と考えられる。アンケートの自由記述で「こん
なにあてられると毎回胃が痛くなる」という意見もあっ
たが,少人数でのグループワークではこういった心理的
な負担も減らすことができるかもしれない。
開催回数や間隔については今回の内容でよかったと思
われるが,2年度にまたがったために間延びしてしまっ
18
文
献
1)井上善文,小越章平:TNTプロジェクトとその活動状況,問
題点.静脈経腸栄養 17:49-58,2002
2)井上善文,雨海照祥,佐々木雅也,中村卓郎:TNT. CTMの意
義と使い方.臨床栄養 105:489-493,2004
3)三浦吉範,加藤章信,池田健一郎,他:PIXEによる必須微量
元素の測定.NMCC共同利用研究成果報文集 12,2004
4)太田誠志:カンファランス,セミナーを活用して栄養管理に
対するコンセンサスを得る.Nutrition Support Journal 19:811,2006
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Nutrition Support Journal
2009年 3月11日
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22
REVIEW
N U T R IT ION & D IS E AS E
NSTでの栄養剤の使い分けについて
Profile
大分大学医学部麻酔科学講座 准教授 岩坂日出男
Key Words
いわさか
ひでお
’84年宮崎医科大学卒業。
’84年大分医
科大学麻酔科助手,’89年Albert Einstein医科大学留学(文部省若手在外
研究員)
,’94年大分医科大学麻酔学
講座講師となる。’00年より現職(大
学統合,独法化により名称変更)
。
........
........
.........................................................................................................................................................................
人工濃厚流動食
成分経腸栄養剤
消化態経腸栄養剤
.......................................................................................................................................
病態別経腸栄養剤
半消化態経腸栄養剤
各種病態別経腸栄養剤が開発され,個々の病態に応じた経腸栄養剤の選択が
可能となっている。しかし,同一病態でも時期により必要なエネルギー量,成
分は変化してくる。静脈栄養との併用も考慮に入れ,少しでも腸管が利用可能
である場合には経腸栄養剤を使用することが望ましい。個々の経腸栄養剤の特
徴を理解し,常に患者の栄養評価を繰り返しながら綿密な栄養管理を実施する
ことが,患者の予後改善につながる。
.........................................
.........................................
.......................................................................................................................................
Summary
...........................................
........................................................................................................................................
はじめに
Nutritional Support Team(NST)
が注目されはじめた
期から慢性期まで代謝反応を理解し,少しでも腸が利用
できる場合は少量の経腸栄養剤でも静脈栄養と併用しな
がら利用したほうがよいと考えられている(図1)
。
当初は,栄養管理は必要カロリーの補充に焦点が当てら
れていた。その後,さまざまな栄養剤の開発により,カ
ロリー補充に加え,さらに綿密に病態に応じた栄養管理
経腸栄養剤の分類
が実施されるようになってきた。現在,極めて多種類の
一般的には経腸栄養剤は天然濃厚流動食と人工濃厚流
経腸栄養剤が使用可能であり,さらに糖尿病,慢性閉塞
動食に分類される。天然濃厚流動食は原料が天然の食品
性肺疾患,急性肺傷害などの病態に応じた栄養剤も開発
由来であるのに対して,人工濃厚流動食は人工的な処理
されてきた。それぞれの栄養剤の特徴を理解し,個々の
を加えられたものである。乳タンパクや卵タンパクを利
病態に応じたNSTにおける栄養剤の適切な選択は栄養
用した場合は天然濃厚流動食であり,乳タンパクをカゼ
状態の改善だけでなく,病態の治癒促進効果もあると考
インなどへ人工的に分解した場合は人工濃厚流動食とな
えられる。本稿では,病態別経腸栄養剤の基礎的知識,
る。人工濃厚流動食はさらに窒素源により成分栄養剤,
組成,実際の使用法,さらに使用上の注意点について概
消化態栄養剤,半消化態栄養剤に分けられる。成分栄養
説する。
剤では窒素源が結晶アミノ酸で構成され,消化態栄養剤
ではアミノ酸やタンパク水解物または小ペプチドで構成
経腸栄養剤の適応と禁忌
経腸栄養は経静脈栄養に比較して生理的な吸収である
され,半消化態栄養剤では多くは大豆タンパク,乳タン
パク,カゼインからなるタンパク質である。これらの選
択基準は消化管の消化能力を判断して決定する。さらに,
ため,基本的には腸管が使用できる疾患ではすべて適応
経腸栄養剤は薬事法の規制を受け,薬価基準に収載され
となる。絶対禁忌としては完全腸閉塞,重症の小腸イレ
ている医薬品と食品衛生法の規制を受ける食品とに分け
ウス,消化管からの吸収が全くできない場合であり,相
られる。医薬品は現在12種類であるが,成分栄養剤と消
対禁忌としては食後に激しい疼痛が生じる場合,短腸症
化態栄養剤は医薬品に含まれ,100種類を超える半消化
候群,難治性嘔吐,重症の下痢などが考えられる。急性
。
態栄養剤の大部分は食品に含まれる(表1)
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2009年 3月13日
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32
飢餓・損傷時の
窒素平衡
28
重度熱傷
24
窒素排泄量(g/日)
骨格筋外傷
20
重症敗血症
16
感染症
12
正常
範囲
8
待機手術
4
部分飢餓
完全飢餓
0
0
10
20
30
40
(日)
表1
病態別経腸栄養剤
50
図1
種々の急性期病態での窒素排泄量の変化
圧低下や酸化ストレスが惹起される可能性があり,重症
感染症時の使用は避けたほうがよい。
医薬品
肝不全用
消化器用
アミノレバンEN,ヘパンED,リーバクト
アミノレバンEN,へパンED
エレンタール,エンテルード
エイコサペンタエン酸(EPA),ドコサヘキサエン酸
食品
免疫強化
ARDS用
慢性閉塞性肺疾患
糖尿病用
褥瘡用
腎不全用
肝不全用
PEM用
消化器用
2.急性呼吸窮迫症候群
(ARDS)
用経腸栄養剤
インパクト,イムン,アノム
オキシーパ
プルモケアEx,ライフロンQL
グルセルナEx,インスロー,タピオン
アルジネード
リーナレン,レナウェル
ヘパス,リーバクト
ペムベスト
ジェビティEx,ハイ‐メイズゼリー
(DHA),γ‐リノレン酸(GLA)が含まれ,アラキドン酸
カスケードからの炎症性メディエータの産生を抑制する
(図2)
。さらに,EPAからは炎症反応収束に向かわせ
ると考えられるレゾルビンE1が,DHAからも同様の作
用のあるプロテクチンD1が産生されると考えられ,新
たな作用機序として注目されている1)。また,アルギニ
ンが強化されていないため炎症反応を助長,増悪させる
可能性が低い。さらに,抗酸化物質であるビタミンC,E
とβカロテンが含まれている。脂質含有量を増量してい
1.免疫強化経腸栄養剤
アルギニン,グルタミン,核酸,抗酸化物質,必須脂
るため炭水化物からの二酸化炭素生成が抑制され,人工
呼吸器からの離脱にも適していると考えられる。
肪酸などを含み,免疫システムを刺激する目的で作成さ
れた経腸栄養剤。アルギニンは条件付き必須アミノ酸で
あり,成長ホルモンの産生刺激や免疫細胞増殖を促し,
3.慢性閉塞性肺疾患
(COPD)患者用経腸栄養剤
COPD患者では栄養障害が高率に合併し,肺機能障害
さらに創傷治癒作用もある。グルタミンは腸管粘膜細胞
とは独立した予後因子である。エネルギー不足が認めら
の主要エネルギー源として必要であり,腸管防御機構の
れるため,栄養管理は重要な非薬物療法の1つである。
維持に重要である。ω3脂肪酸(α-リノレン酸)
,ω6脂肪
しかし,過剰な栄養投与は炭酸ガス産生の増加につなが
酸(リノール酸)
は必須脂肪酸であり,種々のプロスタグ
り換気系の負荷になるため注意が必要である。このため
ランジンとロイコトリエンが産生されるが,ω3系とω6
炭水化物含有量が少なく,脂質含有量の多い経腸栄養剤
系脂肪酸の配合比率により産生される炎症性メディエー
が利用される。また,呼吸筋の収縮力を維持するために
タの比率も異なってくる。核酸は消化管の統合性を維持
リンが必要であり,適切に供給してリン不足に注意する
する作用があり,抗酸化物質は炎症時に産生される各種
必要がある。
フリーラジカルによる酸化ストレスの亢進を軽減する作
用がある。これらの物質をさまざまに配合した免疫強化
栄養剤が使用可能となり,有効性も報告されてきている。
4.糖尿病患者用経腸栄養剤
糖尿病患者では血糖値の管理が最も重視されるが,血
しかし,アルギニンは一酸化窒素(NO)
の基質であるた
糖値の上昇を抑えるように標準的経腸栄養剤に比較して
め,炎症が亢進している状態ではNO産生亢進による血
炭水化物含有量を低くし,脂質含有量を高く調整されて
20
NSJ22_PDF再作成v5.indd 1
5/25/09 3:44:47 PM
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アラキドン酸代謝産物およびフリーラジカルの産性
γ-リノレン酸(GLA)
DGLAに伸長
アラキドン酸(AA)
(炎症性脂肪酸)
エイコサペンタエン酸
(EPA)
DGLAおよびEPAがAAと結抗
シクロオキシゲナーゼ
5-リポキシゲナーゼ
AAがDGLAに変換され
低炎症性エイコサノイド
(PGE1)が増加
炎症性エイコサノイド
(LTB4,TXA2,PGE2)
が減少
AAをEPAに
置き換えると
低炎症性エイコサノイド
(TXA3,PGE3,LTB5)
が増加
図2
炎症反応の開始
いる。炭水化物としてはインスリンを必要とせずエネル
ク質摂取に制限される。しかしいったん,血液透析や腹
ギー源になる果糖が使用され,脂質としてはコレステ
膜透析が導入された場合にはタンパク質も透析で除去さ
ロール値に影響しにくい単価不飽和脂肪酸が使用されて
れるため1.2∼1.3g/kg/日と必要タンパク質量が増加す
いる。しかし,糖尿病患者では胃内容排出が遅延してい
るので注意が必要である。
る場合が多く,脂肪や繊維成分は排出をさらに遅らせる
可能性がある。また,腎不全などを合併することが多い
ため,血糖値のみにとらわれず患者個々に主要栄養素の
調整を考える必要がある。
7.肝疾患用経腸栄養剤
慢性肝不全に関してはタンパクエネルギー栄養障害
(protein energy malnutrition:PEM)
が認められる。分
岐鎖アミノ酸を多く含有した製剤や分岐鎖アミノ酸のみ
5.褥瘡患者用経腸栄養剤
の製剤が長期予後の改善に有用であることが報告されて
褥瘡に限らず創傷治癒には多くの栄養素が関係してい
い る。ま た,PEMの 改 善 に 就 眠 前 軽 食(late evening
る。このため褥瘡患者の管理では圧の解除だけでなく,
snack)の使用も用いられてきている。欧米では脂肪製
低栄養の改善,創傷治癒に必要な栄養素であるタンパク
剤もよく使用されるが,わが国では使用量は少なく今後
質,アミノ酸,ミネラルの補充が重要となってくる。で
の検討が待たれる。
きるだけ高タンパク食とし窒素バランスを正に保つよう
にすることが大切である。さらに,アルギニンは創部で
のプロリン前駆体のオルニチンへの変換からコラーゲン
8.タンパクエネルギー栄養障害
(PEM)
用
経腸栄養剤
合成を促進し,インスリン様成長因子の分泌促進,さら
高齢者や担癌患者では,著しい体重減少と筋肉量の減
にリンパ球の免疫能の改善から創傷治癒を促進すると注
少によりPEM状態を呈する場合が多い。PEM状態にあ
目され,アルギニンが強化された褥瘡用の製品も発売さ
る患者は在院日数延長,医療費増加に関係しているとさ
れている。さらに,亜鉛,鉄,銅,カルシウムは創傷治
れている。このような場合には,
タンパク質とエネルギー
癒に必要なミネラルであり,補充して不足にならないよ
を豊富に供給し,欠乏しやすいビタミン,抗酸化物質や
う注意が必要である。
微量元素を多く含んだ栄養剤が必要となってくる。
6.腎不全用経腸栄養剤
9.消化器疾患用経腸栄養剤
慢性腎臓病患者は,軽度の腎不全から末期の透析療法
クローン病では小腸の広汎な病変を伴うことが多く,
を必要とする腎不全まで程度はさまざまである。腎不全
下痢,発熱,腹痛の臨床症状に加え,低アルブミン血症,
としての体内有害物質蓄積を防ぐためにタンパク,リン,
体重減少などの栄養障害が認められる。このため,栄養
カリウムの摂取を抑えるように考慮されている。また,
状態の改善,腸管の安静確保のために成分栄養剤を用い
水分量を減らすため高熱量で調整されている。よく管理
た管理が行われる。成分栄養剤では脂肪摂取量が減少す
されている透析前の状態では0.6∼0.8g/kg/日のタンパ
るため必須脂肪酸の欠乏に注意し,適宜,脂肪製剤を補
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2009年 3月11日
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充する必要がある。消化酵素で分解されない食物成分を
こだわり,早期栄養療法が開始できないことや,必要エ
一括して食物繊維と呼ぶが,多くの経腸栄養剤は易吸収
ネルギー量が投与不足になることである。EN不耐など
性で残渣がないため食物繊維が含まれていない。食物繊
により投与エネルギーが不足する場合には,直ちに不足
維には腸内フローラの改善作用もあり,放射線療法の腸
分をPNの併用で補う必要がある。PNのENに優る点は
粘膜障害や潰瘍性大腸炎,クローン病の下痢に対して有
確実に予定量のエネルギーが投与でき,早期に栄養学的
効とされている。
介入が可能であるが,PNによるブドウ糖の投与は高血
糖をきたしやすいため注意しなければならない。
その他,経腸栄養剤は投与量のおよそ80%が水分量で
経腸栄養剤使用の注意点
あり,水分量の不足やナトリウム含有量が低いため低ナ
重症患者への栄養学的介入は予後改善に必須である
トリウム血症,慢性期でのビタミン,ミネラル不足に注
が,どの時点で開始し,経静脈栄養(PN)と経腸栄養(EN)
意する必要がある。1つの経腸栄養剤のみで長期に管理
のどちらを選択するかが問題となる。一般にはENは安
することは現時点では不可能であり,個々の成分内容に
価で安全な生理的投与法であり,感染性合併症の減少,
十分注意し,いくつかを組み合わせたりして必要成分を
腸管粘膜萎縮とそれに伴うbacterial translocationの防
補充することが大切である。いずれにしても患者の栄養
2)
止,高血糖をきたしにくいことなどから推奨される 。
評価を常に行い,個人に合った栄養剤を選択することが
実際にはENとPNには死亡率,多臓器不全の頻度に有意
肝要である。
差は認められないが,10mL/時間程度のEN投与量でも
腸粘膜の保護作用があり腸管使用が可能で,血行動態が
安定している場合はENを優先すべきであると考える。そ
して,経口摂取が3日以内に開始できない重症患者では,
できるだけ早期(24時間以内に)
にENを開始し,初期に
は20∼25kcal/kg体重/日を超えない量,回復期には25∼
30kcal/kg体重/日を満たすようにする。EN重症患者で
は炎症反応に加え鎮静薬やカテコラミンの使用による腸
管運動抑制のため,ENによる目標投与エネルギーへの
達成率が50∼60%に低下するという報告もある3)。この
ような場合,最も注意しなければならないことはENに
22
文
献
1)Schwab JM,Chiang N,Arita M,et al:Resolvin E1 and protectin D1 activate inflammation-resolution programmes.
Nature 447:869-874,2007
2)Hagiwara S, Iwasaka H, Shingu C, et al:Comparison of
effects of total enteral versus total parenteral nutrition on
ischemic/reperfusion-induced heart injury in rats.Eur Surg
Res 40:361-367,2008
3)Heyland DK,Schroter-Noppe D,Drover JW ,et al:Nutritional support in the critical care setting:current practice in
Canadian ICUs- opportunities for improvement ? J Parenter
Enteral Nutr 27:74-83,2003
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Nutrition Support Journal
2009年 3月11日
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REVIEW
N U T R IT ION THE R A P Y
インパクト!を用いて経腸栄養を
行う際の投与量について
横浜市立大学付属市民総合医療センター高度救命救急センター
石川
Key Words
淳哉,松崎
昇一,田原
良雄,岩下
眞之,鈴木
範行
Profile いしかわ
じゅんや
’92年横浜市立大学医学部卒。秦野
赤十字病院外科,横浜労災病院麻酔
科などを経て’99年現勤務先へ。主
として救急・集中治療に従事。
........
........
.........................................................................................................................................................................
多発外傷
集中治療
.......................................................................................................................................
経腸栄養
Immunonutrition
窒素平衡
重症外傷患者に対するimmune-enhancing enteral therapyはコントロ
バーシャルであるが,当施設では症例を選んでインパクト!を用いることがあ
る。経管投与となることがほとんどであるが,当施設ではエンシュア・リキッ
ド!と1:1で混合して投与している。尿中窒素排泄量やBUNの変動から,こ
の1:1に混合する方法の安全性を検討したところ,高齢者や腎機能低下患者
に注意すれば安全に投与できると考えられた。
...................................
...................................
.......................................................................................................................................
Summary
...........................................
........................................................................................................................................
はじめに
方 法
インパクト!などのimmune-enhancing dietを重症外傷
患者へ投与することは,A.
S.
P.
E.
N.
のガイドラインで
1.DESIGN
Retrospective chart review
も勧められてはいるが1),ICUに収容するような重症病
態の患者には避けるべきであるという意見もある2)。当
施設のICUは入室患者の多くが鈍的多発外傷患者である
が,このような患者は繰り返し手術を行うことがしばし
2.対象
気管挿管されている成人鈍的多発外傷患者
(1)
study group
ばある。また,循環,呼吸,凝固能などを安定化させる
2007年5月∼2008年3月の間に当ICUに入室し,イン
ためにdefinitive therapyとしての手術を行うまでに時間
パクト!とエンシュア・リキッド!を1:1で混合したも
を要することがある。当施設ではこのような場合,経腸
のを投与した10名
!
栄養剤としてインパクト を用いることがある。インパ
!
(2)
control group
,高齢者や腎
クト はアミノ酸の配合が多いため(表1)
同時期に当ICUに入室し,エンシュア・リキッド!の
機能障害患者,あるいは若年者でも多めの量を漫然と投
みを投与した10名。インパクト!を混ぜた場合と差があ
与しているとBUNが上昇してくることをしばしば経験
るかどうかを検定するのが目的ではなく,安全性を検討
!
する。そこで我々は,インパクト をエンシュア・リキ
!
。今回,こ
ッド と1:1に混合して投与している(表1)
する上で標準的な経腸栄養剤の例として取り上げた。厳
密な意味での“対照群”ではない。
の1:1に混合する方法が窒素バランスの面で安全かど
うか検証した。
3.SETTING
大学付属病院併設救命救急センターICU
(10床)
。
4.投与方法
多くの場合は気管挿管されているため,enteral feeding tubeを経鼻または経口で空腸に留置し,専用ポンプ
23
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表1
2009年 3月11日
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経腸栄養剤の成分
(各1,000mL当たり)
control group
エンシュア・リキッド"
study group
エンシュア・リキッド":インパクト"=1:1
(参考)
インパクト"
炭水化物(g)
137.2
135.6
134.0
たんぱく質(g)
グルタミン(g)
アルギニン(g)
35.2
−
1.36
45.6
−
7.1
56.0
−
12.8
脂質(g)
ω3系脂肪酸(g)
ω6/ω3
35.2
0.33
44
31.6
1.8
4.7
28.0
3.3
0.8
−
0.65
1.29
152
30
123.5
18.4
95.0
6.7
1,006.4
5.5
157
1,009.2
7.2
113.7
1,012.0
8.9
87.2
核酸(g)
ビタミンC
(mg)
ビタミンE(mg)
総熱量(kcal)
窒素(g)
NPC/N*
*
NPC;non-protein calorie,非蛋白カロリー(kcal)
N:たんぱく質に含まれる窒素量
(g)
表2 Demographic data
(平均±標準偏差)
症例数
男/女
年齢(歳)
身長(cm)
体重(kg)
APACHE!*
ISS**
ICU入室から経腸栄養開始までの時間
(日)
経腸栄養実施期間(日)
1時間当たりの投与量(mL/時)
1日当たりの平均投与量(mL/日)
1日当たりの平均投与量 体重当たり(mL/日/kg)
control group
study group
10
9/1
42.0±18.9
170.2±3.8
70.8±11.7
16.3±5.9
22.7±8.4
2.7±0.9
15.9±11.9
76.2
1,692.2±299.7
24.0±3.2
10
9/1
38.3±22.1
171.0±7.8
60.2±9.0
15.9±5.5
27.9±6.0
3.2±1.7
17.5±8.5
71.6
1,658.9±288.8
27.6±2.8
p
−
0.76
0.69
0.78
0.04
0.88
0.15
0.39
0.73
−
0.80
0.02
*
:APACHE!;Acute Physiology and Chronic Health Evaluation Score!
:ISS;Injury Severity Score
男女比はFisherの直接確率計算法,他はt検定を用いた。
**
を用いて24時間持続投与した3)。投与量は原則として間
で多いという結果になった。
接熱量計を用いて決定した。初めから目標熱量を投与し
検討項目である尿中窒素排泄量,BUNともに腎機能
たが,その後の状態変化に応じて適宜増減した。経腸栄
の影響を受けると考えられるため,ここではCcrを用い
養は経口摂取可能になるまで継続した。手術が行われる
て腎機能の経時的変化を示した(図1)
。17日目のみ,両
場合は前日の24時で一旦中止としたが,術後は循環の安
。
群間に有意差を認めた(p=0.02)
定が確認されればすぐに(同日のうちにも)
再開した。
の経
図2に尿中窒素排泄量(体表面積1.73mm2当たり)
時的変化を示す。経腸栄養開始前(第0日目)
の値に有意
5.検討項目
差を認めなかった。
図3にBUNの経時的変化を示す。開始前(第0日目)
尿中窒素排泄量(BUN)
の値に有意差を認めなかった。
結 果
表2に各グループのdemographic dataを示す。体重
はstudy groupのほうが有意に低値であったため,のち
インパクト!に多く含まれるアルギニンは,創傷治癒
に示す尿中窒素排泄量(図2)
はクレアチニン・クリアラ
やT細胞の分化成熟を促進させる作用などから,周術期
2
24
考 察
ンス(Ccr)
と同様に,体表面積1.73mm に標準化して示
に用いることで感染性合併症を減少させると報告されて
した。経腸栄養剤の1日当たりの平均投与量は両グルー
いる。しかし,すでに過剰な炎症性サイトカインが産生
プで差を認めなかったが,study groupのほうが体重が
されている重症SIRS
(systemic inflammatory response
少なかったため,体重当たりに換算するとstudy group
syndrome)
患者に投与すると,種々の生体反応を異常に
【L:】Server/17903‐NSJ‐22/RNT−石川p23‐26_F再校/本文
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Page 25
300
Ccr(mL/分/1.73mm2)
250
200
150
100
:control group
50
0
:study group
0
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10
11
12
13
14
15
16
17
経腸栄養開始からの日数(日)
図1 Ccrの経時的変化
尿中窒素排泄量(g/日/1.73mm2)
30
25
20
15
10
:control group
5
:study group
0
0
1
2
3
4
5
6 7 8 9 10 11 12
経腸栄養開始からの日数(日)
13
14
15
16
17
図2
尿中窒素排泄量の経時
的変化
45
40
BUN(mg/dL)
35
30
25
20
15
10
:control group
5
0
:study group
0
1
2
3
4
5
6
7 8 9 10 11 12 13
経腸栄養開始からの日数(日)
14
15
16
17
図3 BUNの経時的変化
25
【L:】Server/17903‐NSJ‐22/RNT−石川p23‐26_F再校/本文
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Page 26
亢進させ,悪影響を及ぼす可能性も指摘されている4)。
や低下した73歳の患者のみが高値を取ったため,これが
当施設では,鈍的外傷患者で受傷時の侵襲が一段落し,
“はずれ値”となり6∼13日目の標準偏差が大きくなっ
!
かつ敗血症に陥っていない患者にインパクト を経管投
ている。しかし,この患者が経腸栄養の必要がなくなり,
与することがある。高齢者など腎機能低下のある患者や,
データに含まれなくなった14日目からは標準偏差は小さ
若年者でも投与量が過剰になるとBUNが上昇する例を
くなり,絶対値も少し低下した。たとえこの患者を含め
!
経験してきた。そこで現在はエンシュア・リキッド と
ても,平均値ではstudy groupも20∼25mg/dLで定常状
1:1に混合して用いている。1:1とした根拠は以下
態に達すると考えられる。Control groupでは14∼18mg/
の3点である。
dLで定常状態に達したと考えられる。
①わが国における待機的消化管手術での報告では,イン
!
当院のBUN正常上限は20mg/dLであるので,エンシ
パクト を1日に750∼1,000mLずつ,術前5∼7日間投
ュア・リキッド!を用いたcontrol groupは十分安全な範
与することで効果が得られている4)。当施設での1日当
囲にある。インパクト!とエンシュア・リキッド!を1:
たりの経腸栄養剤総投与量は1,500∼2,000mLであること
1で混合したstudy groupは20mg/dLは超えたものの,
が多いため,750∼1,000mLはちょうど半分に相当する。
それ以上増加する傾向はみられなかった。定常状態の値
②A.
S.
P.
E.
N.
の ガ イ ド ラ イ ン に よ れ ば1日1,200∼
も最高で25mg/dLであったので,体重当たりの投与量
1,500mL
(総 熱 量 の50∼60%)
を投与するとされてい
がcontrol groupよりやや多かったことも考慮すれば,お
1)
る 。絶対量として1,200∼1,500mLは日本人には多すぎ
おむね許容範囲とみなし得よう。さらに,微調整を行お
ると思われるので50%のほうを採用した。
うとすると混合の比率が複雑になり,臨床の現場には適
!
!
250
③インパクト もエンシュア・リキッド も1袋(缶)
さなくなると思われる。
インパクト!を経管投与するにあたり,エンシュア・
mLであるので,1袋(缶)
ずつ混ぜればよいことになり,
簡便で間違いが起きにくい。
Ccr
(図1)
に関してはstudy groupとcontrol groupの
間にほとんど差はなく,また絶対値もおおむね良好であ
リキッド!と1:1に混合する方法は臨床的には許容で
きる方法と考えられた。ただし,高齢者など腎機能低下
患者には十分なモニタリングが必要である。
った。しかしstudy groupには1人,73歳の高齢者が含
まれており,若干低値を取ることがあったため標準偏差
が大きくなった。
尿中窒素排泄量(図2)
は両群ともに6日目まで直線的
に増加している。その傾きはstudy groupで大きいが,10
日目以降はstudy groupで19∼20g/日/1.73mm2,control
groupで14∼15g/日/1.73mm2と両群とも定常状態に達し
ている。
BUN
(図3)
も尿中窒素排泄量と似た動きを示す。約
1週間は両群とも漸増するが,その傾きはやはりstudy
groupで大きい。study groupでは,前述の腎機能がや
26
文
献
1)A.
S.
P.
E.
N.
committee:Consensus Recommendations From
the U.S.Summit on Immune-Enhancing Enteral Therapy.JPEN 25:s61-62,2001
2)Hayland DK,Novak F,Drover JW,et al:Should Immunonutrition Become Routine in Critically Ill Patients? A Systematic
Review of the Evidence.JAMA 286:944-953,2001
3)石川淳哉,岩下眞之,松崎昇一,他:経鼻(経口)空腸チュー
ブによる経腸栄養の有用性およびその挿入法について.日本
集中治療医学会雑誌 14(Suppl.):210,2007
4)福島亮治:Immunonutritionとは.外科治療 94:665-673,2006
【L:】Server/17903‐NSJ‐22/RND−奥村p27‐30_F三校/本文
2009年 3月13日
Page 27
REVIEW
NUTRITION THERARY
NST症例におけるワルファリン治療に及ぼす
経腸栄養剤のビタミンK含有量の
影響の検討
Profile
徳島大学大学院ヘルスバイオサイエンス研究部臨床栄養学分野*,同脳神経外科学分野**
奥村
Key Words
仙示*,廣瀬
美和*,武田
英二*,宇野
昌明**,永廣
信治**
おくむら
ひさみ
’97年 徳 島 大 学 大 学 院 栄 養 学 科 修
了。’97年愛知医科大学栄養課,
’98年
より現職。
NST活動。肝硬変,肝移植患者のエ
ネルギー代謝に関する研究。食後高
血糖を抑制する食品の探索。臨床お
よび食品機能試験のヒト研究に従事
する。
........
........
.........................................................................................................................................................................
NST
ビタミンK(VK)
.......................................................................................................................................
ワルファリン
経腸栄養
栄養管理
ビタミンK
(VK)は,ワルファリンの作用を減弱させることが知られている。
VK摂取目安量は60∼75μg/日に対し,VK高含有経腸栄養剤のVK含有量は
62.5μg/100mLと高いため,ワルファリン投与時には慎重投与が求められて
いる。そこで,過去にワルファリンと経腸栄養剤が併用された症例について,VK
摂取量のワルファリン療法への影響について検討した。
...................................
...................................
.......................................................................................................................................
Summary
...........................................
........................................................................................................................................
はじめに
これまでに,ワルファリン投与患者におけるVK高含
有食品摂取時の影響について種々の報告がある。しかし,
現在,脳血管疾患は悪性新生物,心疾患に次いで日本
ワルファリン投与患者における経腸栄養剤投与に関し
人の死亡原因の第3位であり,そのうち脳梗塞は約60%
て,臨床的に検討した報告は少ない。今回,経腸栄養剤
を占める。ワルファリンは肝臓においてビタミンK
(VK)
に含まれるVKの量がPT-INRへ及ぼす影響について2症
依存性凝固因子の生合成を抑制することにより抗凝固作
例について検討したので報告する。治療目標は日本脳卒
用,血栓形成の予防作用を示し,脳梗塞の治療にも用い
中学会ガイドラインではPT-INRは1.6∼2.6を基準として
られている。
いるが,徳島大学病院では2.0前後を目標としている。
疾病の治癒回復のためには,より早い段階から腸管を
使った栄養供給に移行することが求められており,食事
摂取が難しい場合や摂取量の少ない場合に経腸栄養剤が
用いられる。VK高含有経腸栄養剤(VK経腸栄養剤)
は,
症例の経過
1.症例1
(図1,表1)
シソ油を配合し,たんぱく質を日本人の摂取パターンに
VK経腸栄養剤を使用し,観察期間中に嘔吐や下痢が
近づけた経腸栄養剤である。難渋する下痢もみられない
みられた症例である。発症当日,PT-INRは1.08であり,
ことから,臨床現場では頻回によく使用されている。し
ワルファリン3.0mgの投与を開始した。発症2日目,VK
かし,VK経腸栄養剤にはVKが62.5μg/100mLと高濃度
経腸栄養剤150mL/日(150kcal,VK 93.8μg)
の注入を開
に含有されており,ワルファリン使用時には慎重投与が
始し,4日間かけて600mL/日(600kcal,VK 375μg)
ま
求められている。
で増量した。発症4日目,PT-INRは1.53であり,今後
ワルファリンは,VKを多量に含む食物による作用減
の急激な上昇の可能性を考えてワルファリンは3.0mgで
弱や種々の薬剤と相乗あるいは拮抗作用を有しているほ
の継続とした。発症7日目,朝の注入時に吃逆があり,
か,年齢,全身状態,肝機能などによってもその効果が
VK経腸栄養剤200mLを嘔吐した。昼の注入時にも再度
左右されやすい。ワルファリンの副作用で最も頻度が高
吃逆がありVK経腸栄養剤を嘔吐したため,夕の注入は
いのは出血であり,それはしばしば致命的である。
中止とした。意識段階,生命徴候ともに異常はなく,発
27
Page 28
1,500
輸液
経腸栄養(VK高含有経腸栄養剤)
VK
2,000
1,600
下痢
1,200
吃逆・嘔吐
1,200
900
800
600
400
300
0
0
PT-INR
5.0
5.0
PT-INR
ワルファリン
4.0
4.0
3.0
3.0
2.0
2.0
1.0
1.0
0
病日
0
0 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 1920 21 22 23 24 25 26 27 28 29
併用薬剤
図1
表1
ラックビーR(+20∼+29)
症例1の臨床経過
症例の検査所見
年齢(歳)
性別
身長(cm)
体重(kg)
BMI
(kg/m2)
主疾患
合併症
既往歴
喫煙歴
飲酒歴
Glasgow Coma Scale
(E/V/M)
WBC
(103/μL)
RBC
(104/μL)
Hgb(g/dL)
Hct
(%)
PLT
(103/μL)
PT
(秒)
PT-INR
GOT
(U/L)
GPT
(U/L)
LDH
(U/L)
ALP
(U/L)
γ-GTP
(U/L)
T-Chol
(mg/dL)
TG
(mg/dL)
CK
(U/L)
TP
(g/dL)
ALB
(g/dL)
UA
(mg/dL)
BUN
(mg/dL)
Cr(mg/dL)
Na(mEq/L)
K
(mEq/L)
Cl
(mEq/L)
A/G比
血糖値(mg/dL)
HbA1c(%)
CRP
(mg/dL)
28
ワルファリン(mg)
エネルギ−(kcal)
2009年 3月13日
VK(μg)
【L:】Server/17903‐NSJ‐22/RND−奥村p27‐30_F三校/本文
症例1
症例2
76
M
155.0
55.0
22.9
心原性脳梗塞(左中大脳動脈領域)
心房細動,高血圧
なし
なし
あり
2/1/3
82
F
149.0
49.5
22.3
脳梗塞(右内頸動脈)
心房細動(若い頃より不整脈あり)
なし
なし
なし
4/5/6
11.5
3.63
9
27.9
257
12
0.98
15
8
218
174
14
80
−
271
6.6
3.6
5
16
0.76
135
4.2
101
1.2
163
6.1
0.05
6.5
3.98
11.5
35.3
161
11.2
0.92
27
19
247
308
21
−
116
95
6.9
−
−
14
0.67
142
3.4
105
−
167
6.2
2.07
【L:】Server/17903‐NSJ‐22/RND−奥村p27‐30_F三校/本文
2009年 3月13日
Page 29
熱も認めなかった。発症8日目,13:00 経鼻胃チュー
られたため止痢剤が処方された。また,夕の注入後には
ブを挿入し,夕よりVK経腸栄養剤を30mL/時の持続的
VK経腸栄養剤200mLを嘔吐した。発症11日目朝の注入
投与で開始した。また,PT-INRが4.84へと著明に上昇
時には嘔吐,下痢はなかったが,夕の注入前,胃内にVK
したためワルファリンを中止した。発症11日目,PT-INR
経腸栄養剤様の貯留が認められたため,注入速度を調節
は1.42となり,ワルファリンは1.5mgで投与を再開した。
し,時間をかけて施行した。また,発症12日目より排便
発症15日目,PT-INRは1.04と低下傾向のためワルファ
がないため,翌日,止痢剤を中止した。発症14日目朝の
リンを2.0mgに増量した。吃逆は消失しており,経管栄
注入後,多量の泥状便がみられた。PT-INRは発症12日
養を持続投与から間歇的投与に変更した。発症18日目,
目1.81,14日目2.07,16日目2.10と徐々に上昇しており,
PT-INR 1.25のため,ワルファリンを2.5mgに増量した。
ワルファリンは2.0mgの投与を継続とし,発症21日目に
発症23日目,多量の下痢があり,VK経腸栄養剤の注入
転院となった。
を一時中止した。発症25日目より,VK経腸栄養剤600mL
/日(600kcal,VK 375μg)
の注入を再開した。PT-INRは
3.11と上昇傾向のため,ワルファリンを中止した。その
後は嘔吐,下痢はなかった。発症28日目,ワルファリン
1.0mgにて再開となり,翌日転院となった。
症例の評価
ワルファリン服用中は,VKが多い納豆,クロレラ,青
汁などの食品の摂取は,ワルファリンの抗凝固作用を減
弱するため禁忌とされている。このことは,ワルファリ
2.症例2
(図2,表1)
ン服薬説明マニュアルやパンフレットにも記載されてお
心原性脳梗塞再発予防のためワルファリンを投与し,
り,指導も十分に行われ,注意されている。しかし,経
VK経腸栄養剤にて管理した症例である。発症5日目,経
腸栄養剤およびTPN用総合ビタミン剤に含まれている
鼻胃チューブよりVK経腸栄養剤300mL/日(300kcal,VK
VKとワルファリンの相互作用については,検討した報
187.5μg)
の注入を開始し,3日後600mL/日(600kcal,VK
告が少なく,マニュアル化されていない。Soranoらは,
375μg)
へ,さらに8日後1,200mL/日(1,200kcal,VK 750
ワルファリンの安定した効果を得るためにVK摂取量を
μg)
まで増量した。発症6日目,PT-INRは0.95であり,
20∼40μg/日にすることを勧めているが,その根拠は明
夕よりワルファリン1.0mgの投与を開始した。発症9日
確ではない。そこで,ワルファリン療法を行った症例に
目,PT-INRは1.01であり,ワルファリンを2.0mgに増量
おいて,ワルファリン投与量,VK摂取量とPT-INRの関
した。また,泥状から水様の排便があった。さらに,翌
係について検討した。
日には唾液様の嘔吐があり,酸性臭のある粘膜状便がみ
1,200
下痢
1,200
900
800
600
400
300
0
0
5.0
4.0
PT-INR
1,500
5.0
PT-INR
ワルファリン
4.0
3.0
3.0
2.0
2.0
1.0
1.0
0
病日
VK(μg)
1,600
輸液
経腸栄養(VK高含有経腸栄養剤)
VK
0 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21
ワルファリン(mg)
エネルギ−(kcal)
2,000
0
フラグミンR(0∼+13)
併用薬剤 クラビットR(+6∼+9)
図2
症例2の臨床経過
29
【L:】Server/17903‐NSJ‐22/RND−奥村p27‐30_F三校/本文
2009年 3月13日
Page 30
1.症例1
日未満は使用可,②100μg/日以上250μg/日未満は,TT
ワルファリン3.0mgを投与中,VK経腸栄養剤注入が
値あるいはPT-INR値を確認しながら慎重に投与する,③
開始された。その後吃逆によりVK経腸栄養剤を嘔吐し,
250μg/日以上は投与を避けるとしている病院もある1)。
VK摂取量が250∼375μg/日へ減少すると,PT-INRは1.53
50∼200μg/日のVKを連日摂取した場合では,ワルファ
から4.84へと著明に上昇した。ワルファリンの半減期は
リン治療域からPT-INR値が外れる可能性は少なく,ほ
約36時間であり,十分な効果が出現するまで2∼3日を
ぼ安心してワルファリンを使用できるという報告もあ
要するとの報告もあることから,本症例では3.0mgのワ
る2)。Karsonらの報告によると,VK 100μgの連日摂取
ルファリンが患者に対して多かった可能性があり,この
と250μgの単回摂取では,TT値の変動は約5%で治療
ことも重要な上昇の要因と考えられる。ワルファリンは
域からは逸脱しなかった。しかし,VK 250μgを連日摂
3日間休薬した後,1.5mgで再開した。VK経腸栄養剤
取した場合,2∼3日後にTT値の変動は約10%となり
投与も再開し,VK摂取量が750μg/日となると,PT-INR
治療域から逸脱し,ワルファリンの効果の明らかな減弱
は1.42まで低下した。しかし,その後下痢のためVK経
を認めた。症例2のように,VKの増量にもかかわらず
腸栄養剤が中止され,VKの吸収量が低下するとワルフ
PT-INRの影響を受けない患者もいる。しかし,日本人
ァリンへの抑制が解除され,PT-INRは1.92から3.11まで
の食事摂取基準や本検討からも安全面を配慮し,VK摂
上昇したと考えられる。
取量に注意を払うことが大切と考えられる。
ワルファリンの効果に対しては個人差が大きく,同様
2.症例2
VK経腸栄養剤を段階的に増量し,VKの最大摂取量
の病態であってもその量に差がある。また,ワルファリ
ンはさまざまな薬剤との相互作用が報告されている3)。
は750μg/日であった。VK 187.5μg/日,ワルファリン1.0
本症例の併用薬剤の中で,ワルファリンに影響する薬剤
mgでは,PT-INRは1.01と低く,ワルファリンは2.0mg
として,ラックビー!,フラグミン!,クラビット!があ
に増量された。VK 375μg/日,ワルファリン2.0mgでは,
げられる。本症例ではこれらの薬剤の使用は少量短期間
PT-INRが2.0前後でコントロールされた。その後,VK
であり,ワルファリンへの著しい影響はみられなかった
摂取量が750μg/日に増量されると,PT-INRは0.15程度
と考えられるが,併用するときは注意を払う必要がある。
の若干の低下がみられたが,PT-INRに対して大きな影
響を与えなかった。ワルファリンの維持量は個人差が大
きいが,本症例はワルファリン感受性が高く,VKを多
おわりに
多量のワルファリンは出血の危険性を増大させる。ま
量に摂取してもワルファリンの増量が必要な程の影響は
受けていない症例であると考えられた。
た,VKによる抗凝固抑制効果は数時間持続するため,ワ
ルファリンを増量させるVKの過剰摂取には注意し,ワ
ワルファリン使用時の
VK摂取量について
VKは体内蓄積が少ないため,食事からの摂取がない
ルファリン投与時のVK経腸栄養剤の使用は,第一選択
としては避け,ワルファリン投与時にはPT-INRの値お
よびVK摂取量を注意深く観察することが必要と考えら
れた。
とすぐにVKプールが減少する。また,VKが枯渇した
状態では,少量のVK
(25μg/日)
の4週間投与によりPTINRが有意に減少したとの報告もある。VK経腸栄養剤
にはVKが62.5μg/100mL含有されており,VK摂取目安
量が60∼75μg/日であるので,VK経腸栄養剤1パック
(VK 125μg/200mL)の使用により1日の目安量を十分摂
取できる。経腸栄養に加えて食事摂取が可能になった場
合は,VKを多く含む食品にも注意を払う必要がある。
VK摂取量の影響から,ワルファリン使用中は①100μg/
30
文
献
1)斉木明子,中村敏明,正田幹夫:ワーファリン!服用患者にお
けるビタミンK含有製剤の投与指針.医薬ジャーナル 39:186193,2003
2)小島基嗣:ワルファリンカリウムの薬効に影響を与えるビタ
ミンK摂取量.Nutrition Support Journal 5:20-22,2004
3)Hylek EM,Heiman H,Skates SJ,et al:Acetaminophen and
other risk factors for excessive warfarin anticoagulation.
JAMA 279:657-662,1998
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Nutrition Support Journal
2009年 3月13日
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14
22
MEETING REPORT
TNT全国会議レポート
2
0
0
8年1
1月1
5日
(土)に東京ミッドタウン・ホールで,日本静脈経
腸栄養学会
(Japanese Society for Parenteral and Enteral
Nutrition:JSPEN)
,TNT(TOTAL NUTRITION THERAPY)
プロジェクト実行委員会,アボットジャパン株式会社の共催にて
『TNT全国会議』が開催された。医師に対して臨床栄養法を普及さ
せるための独創的な教育プログラムとして開発されたTNTプロジ
ェクトは,1
9
9
6年6月にシカゴから全世界への展開が図られた。わ
が国は2
0
0
0年に同プロジェクトへ参加。以来,8年間に11,416名の医師がTNT研修会を受講
(2008年1
0月3
1日
現在)した。そこで今回,TNT受講者1
0,00
0名達成記念とTNTの更なる発展を期待して,
『TNT全国会議』が
開催されることになったという。本稿では,その模様をレポートする。
教育講演
「病態別栄養剤のサイエンス∼病態に応じた栄養管理の進め方」
(座長:TNTプロジェクト実行委員会 福島 亮治 先生)
米国Abbott Nutrition社から招かれたリサーチサイエ
ンティストのJeffrey L. Nelson先生
(Research Scientist,
Abbott Nutrition,Abbott Laboratories)
は,プレバイ
オティクスの1つである短鎖フラクトオリゴ糖(shortchain fructooligosaccharides:scFOS)
を含有した医家
向け経腸栄養剤の開発状況,および3つの特殊な経腸栄
養剤─Oxepa!,ProSure!,Abound!─の概要を紹介し
Jeffrey L. Nelson 先生
た。
腸内細菌叢を良好にし,消化器症状を改善する
経腸栄養剤の開発に取り組む
プレバイオティクスとは,腸内に常在するビフィズス
菌や乳酸菌などの善玉菌の食物源としてその増殖を促進
するとともに,短鎖脂肪酸を生成することを介して,腸
内細菌叢を良好な状態に維持し,免疫力を強化する働き
を有した生菌の総称だ。scFOSはプレバイオティクスの
福島
亮治 先生(座長)
1つである。
これまでに,scFOSの投与により腸内で善玉菌が増え
ることのみならず,短鎖脂肪酸生成による血流量の増加,
おり,今後,scFOSを含有した医家向け経腸栄養剤の開
腸内pHの低下を介して悪玉菌が育ちにくい環境が作り
発を目指す」とNelson先生は意気込みを語った。
上げられ,腸内環境が良好になることがわかっている。
また,短鎖脂肪酸は直接的な結腸粘膜のエネルギー源に
なることから,水分やミネラルなどの吸収効率が高まる
ことも確認されている。つまり,scFOSは消化管のあら
ゆる機能を改善,向上させるというわけだ。
ALIおよびARDS用の経腸栄養剤で
栄養状態と呼吸機能の改善目指す
また,Nelson先生は病態に応じた経腸栄養剤の使い
分けの有用性を強調した。その一例として,まず急性肺
「scFOSを高齢者に投与したところ,消化管運動機能
傷害(acute lung injury:ALI)および急性呼吸窮迫症候
障害や排便障害などが改善したというデータが得られて
群(adult respiratory distress syndrome:ARDS)
の患者
31
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2009年 3月11日
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Malignant Tumor Cells
EPA
EPA
↓ProteolysisInducing
Factor(PIF)
↓Proinflammatory Cytokine Production
IL-1,TNF-α,IL-6
↑Appetite
Acute Phase
Response
Initiated(↓CRP)
↑Food Intake
↓Resting
Energy
Expenditure(REE)
Metabolism of
Macronutrients
Normalized
↑Lean Body Mass
Attenuation of Cancer-Induced Weight Loss
図1
EPAの癌誘発性の体重減少に対する効果
向けにデザインされた経腸栄養剤であるOxepa!を紹介
した。
しかし,癌の病態下では,単純に食物摂取量を増やし
ても体重減少を抑制することはできない。癌患者の体重
ALIおよびARDSでは何らかのきっかけで肺炎を併発
減少には,腫瘍による物理的な要因(消化管の通過障害
し,しばしばそれが肺水腫へと進行するため,ガス交換
など)
や治療の副作用(悪心,嘔吐,下痢,口内炎など)
異常や酸素化不足を惹起して病態の重篤化をきたしやす
が原因となって生じる“癌関連性の体重減少”と,代謝
い。したがって,栄養療法を考えるとき,栄養状態の改
異常が原因となって生じる“癌誘発性の体重減少”があ
善とともに病態そのものの悪化(炎症)
の抑制を考慮しな
る。前者は物理的な要因の解除や副作用対策により食物
!
ければならない。そこで,Oxepa には,脂肪酸として
摂取量,カロリー摂取量を増加させることで是正できる
通常,アラキドン酸からシクロオキシゲナーゼやリポキ
が,後者は病態生理が非常に複雑なため,それを是正す
シゲナーゼを介して生成される炎症性エイコサノイドを
る有効な手段がないのである。
低炎症エイコサノイドに変換することで炎症反応の抑制
こうしたなかNelson先生らは,魚油中に含まれる長
に作用するといわれているγ−リノレン酸(gamma-lino-
鎖のω-3脂肪酸であるEPAに注目し,癌誘発性の体重減
lenic acid:GLA)とエイコサペンタエン酸(eicosapen-
少を是正できる経腸栄養剤の開発を試みた。すなわち,
taenoic acid:EPA)
が添加されている。
EPAの炎症性サイトカイン産生抑制効果を利用して,食
!
欲増進,食物摂取量増加,およびそれを介した急性期応
これまでにOxepa を用いた臨床試験が多数実施されて
!
おり,たとえばARDS患者にOxepa を7日間投与した
答の抑制,呼吸エネルギー消費の軽減,主要栄養素の代
群では非投与群に比べ,酸素化能が有意に高まり,人工
。
謝正常化を図ろうと考えたわけだ(図1)
呼吸管理日数,ICU在室日数が有意に減少したことが示
!
これまでの臨床試験では,膵癌,肺癌,食道癌,結腸
されている。最近では,メタアナリシスでもOxepa の
癌などの癌患者にProSure!を1日1.5∼2缶投与すると,
有効性と安全性が実証され,Nelson先生は「ALIおよび
お お む ね3∼4週 間 後 に 体 重,主 に 除 脂 肪 体 重(lean
!
ARDSに対するOxepa の有用性は明らかだ」と述べた。
body mass:LBM)
が有意に増加するほか,食物摂取量
の増加,エネルギー消費量の低下,食欲の増加,代謝マー
EPAを含有した経腸栄養剤で
癌誘発性体重減少の抑制を試みる
カーの正常化,QOLや身体活動レベルの改善・向上な
どが得られることが明らかにされている。
!
ProSure は,癌患者の体重減少の是正を目指してデ
ザインされた経腸栄養剤で,魚油由来のEPAを含有し
ている。
癌患者では,40%が診断時にすでに何らかの原因不明
の体重減少をきたしており,80%が癌の進行に伴い体重
32
創傷治癒,筋量維持を目的とした
経腸栄養剤にも期待膨らむ
Abound!は,創傷治癒と筋量維持のためにデザイン
された粉末の経腸栄養剤である。
減少を経験するという。わずか5%の体重減少でも治療
創傷治癒はLBMの減少による影響を受けやすい。創
反応性が低下し,体重減少のある癌患者では明らかに生
傷治癒はエネルギーを必要とする同化的なプロセスであ
存期間が短い。したがって,癌患者に対する栄養管理は
るがゆえに,再構築する組織に対してタンパク質とカロ
必須である。
リーの取り込みを増加させる必要があるからだ。LBM
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が10%減少すると,創傷治癒に必要なエネルギーと体重
ンパク質合成を増加させ,タンパク質分解を抑制し,筋
増加に必要なエネルギーとが拮抗するために創傷治癒が
肉のインスリン感受性とブドウ糖の取り込みを改善させ
遅延するといわれている。LBMが15%を超えて減少す
ることが確認されているほか,免疫機能を強化させる作
れば,エネルギーは体重増加に優先的に利用されるため,
用を有することも示唆されている。
創傷治癒は高度に障害される。こうした状況になれば食
これまでにNelson先生らは,70歳以上の高齢非喫煙
事のみでの改善は不可能となり,栄養療法による介入が
者を対象に無作為化二重盲検プラセボ対照試験を実施し
必要となる。
た。コラーゲン沈着マーカーの1つであるヒドロキシプ
そこでNelson先生らは,創傷治癒や筋量維持といっ
ロリンを創傷治癒の指標としてAbound!の有用性をみ
た身体の組織を再構築するのに役立つアルギニン,グル
たところ,Abound!投与群では2週間後に有意な創傷
タミン,β-ヒドロキシ-β-メチルブチレート(beta-hydroxy
治癒が認められた。また,Abound!の有用性を示唆す
beta-methylbutyrate:HMB)
を含んだ経腸栄養剤であ
る多くの症例報告もなされている。
!
るAbound を開発した。
以上の内容を一通り話した上で,Nelson先生は「ど
アルギニンとグルタミンは非必須アミノ酸であるが,
れほど重要な栄養素であっても,疾患を治癒させること
いずれもタンパク合成と保持の改善に働いて筋肉を健全
はできない。しかし,栄養療法は疾患プロセスや臨床転
にし,細胞増殖と複製を促進し,創傷治癒および筋量維
帰を改善することは可能だ」と述べ,病態に応じた経腸
持に有用な効果をもたらすことが明らかにされている。
栄養剤の選択を含め,栄養療法の必要性と重要性を強調
また,ロイシンからの代謝物であるHMBに関しては,タ
した。
特別講演
「臨床栄養管理法の進歩とJSPENおよびTNTの役割」
(座長:TNTプロジェクト実行委員会名誉顧問 小越 章平 先生)
TNTプロジェクト実行委員会の委員長である大柳治正
先生(近畿大学医学部外科学教授)
は,①栄養療法の歴史,
②栄養不良とその結果,③栄養療法におけるJSPENの
取り組み,④栄養療法におけるTNTの役割,⑤栄養療
法の将来展望の5項目についてレビューした。
栄養療法の考え方は古くからあるもの
大柳
栄養療法の歴史は古く,中国にはすでに3,000年も前
治正 先生
から,“食物が悪いと病気になる。食物がよいと健康に
なる”という考え方のもと,“医食同源”という言葉が
用いられていたそうだ。古代ヨーロッパでも,“病気を
治すためには栄養状態を考えなければならない”といわ
れていた。こうしたなか,1950年頃に経腸栄養療法が,
1960年頃に静脈栄養療法に関する研究が開始され,1960
年代後半より静脈から高カロリー栄養を投与するTPN
(高カロリー輸液,total parenteral nutrition)
が試みら
れるようになるなど,いわゆる近代的な栄養管理が行わ
小越
章平 先生(座長)
れるようになった。
現在,栄養過多のいわゆるメタボリック症候群も一部
り,学会では,蛋白あるいは熱量,またはその両者の不
JSPENは主に急性期低栄養状態の改善を目指し,
さまざまな活動を展開
足や不均衡に起因する病的状態を栄養不良(malnutri-
その一連の取り組みとして,JSPENでは,急性期の疾
tion)
と位置づけ,その改善が目指されている。JSPEN
病関連性低栄養状態の評価方法の統一を図った。疾患別
は,特に急性期の疾病関連性低栄養状態の栄養管理の重
の栄養不良の発生頻度に関する報告をみると,たとえば
要性や具体的な実践方法などの啓発に力を注いでいると
癌では5∼80%,外科/重症患者では0∼100%,消化
いう。
器疾患では3∼100%と幅が広く,それは低栄養状態の
問題になっているが,
入院患者の約1/3は低栄養状態であ
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定義が一定していないことによると考えられたからだ。
JSPENが推奨した栄養状態の評価方法は主観的包括
表1
看護師
・栄養スクリーニング
・栄養障害患者の抽出
・介入後の病状観察
・主治医への提言
・栄養器材の管理
・摂食状況の把握
栄養士
・栄養評価
・栄養投与量の決定
・経口・経腸栄養の管理
・食事指導
・新規製品の紹介
薬剤師
・薬剤情報の提供
・医薬品情報の提供
・服薬指導・静脈栄養の管理
的評価(subjective global assessment:SGA)。これは病
歴(体重変化,通常時と比較した場合の食物摂取量の変
化,消化器症状,身体機能,基礎疾患とストレス)
と身
体所見(皮下脂肪量の喪失,筋肉量の喪失,くるぶし浮
腫など)
から栄養状態を良好,中等度栄養不良,高度栄
養不良の3段階で評価するというもの。これまでの研究
コメディカルの職種別の役割
臨床検査技師 ・栄養アセスメント
・臨床データの解析
・身体計測
か らSGAがBMI(body mass index)や%AMC(上 腕 筋
囲)
,血清アルブミン値などの栄養状態指標と強く相関
することが明らかにされている。
「介入するか否かを判断するにあたり,栄養状態を評
価するための方法としてさまざまなものがあるが,ト
わが国では各部署から人材を持ち寄って(potluck party
method)
チームが構成され,急速な広がりをみせている。
レーニングを受けた医師であればSGAによる評価で臨
床上十分だ」と大柳先生。そのために,2000年から医師
に対して臨床栄養療法を普及するための独創的な教育プ
ログラムであるTNTプロジェクトを展開。栄養療法に
TNT,NSTコメディカル認定試験など
栄養療法に造詣が深い人材育成に尽力
こうした背景のもとJSPENは,2003年までに栄養管
理はTNT受講医師を中心にNSTが実践していくべきだ
造詣の深い医師の育成を始めた。
またJSPENは,手術患者や消化器癌患者だけでなく,
という方向性を明確に示し,栄養療法の専門的な知識や
臓器移植患者,整形外科系疾患患者,COPD
(chronic ob-
技術を有するコメディカルの育成にも力を入れるように
structive pulmonary disease,慢性閉塞性肺疾患)とい
なった。2003年にNSTコメディカル育成のための教育
った呼吸器系疾患患者などあらゆる疾患において,特に
施設を認定し,2004年に同認定試験を開始。さらに,2005
高齢者では低栄養の危険性が存在することを強調。同時
年からはインターネット上の教育プログラム「Virtual
に,栄養状態が悪ければ,合併症発症リスク,死亡リス
Nutrition College」の運営を始めた。
ク,褥瘡発生リスクが高まったり,創傷治癒期間や在院
2000∼2007年 末 にTNTは 全 国 で272回 実 施 さ れ て,
日数が遅延したりと,患者にとって大きくマイナスであ
TNT受講医師が10,125名誕生した。「Virtual Nutrition
ることを広く訴えた。
College」には,2008年8月末現在,20,808名(うちJSPEN
大柳先生は,「栄養状態によって予後が大きく変わっ
会員20%,医師16%)
が登録している。多くの医療関係
てしまう。疾患の種類,外来・入院にかかわらず,特に
者が栄養療法の重要性を認識し,その実践能力を身につ
高齢者に関しては,栄養状態をSGAできちんと評価し,
けようと研鑽を積んでいることがわかる。社会的にも,
必要に応じて栄養管理の早期介入をすべきだ」と述べ,
2006年の診療報酬改定で栄養管理実施加算(NST加算)
具体的な活動には栄養サポートチーム(nutrition sup-
が新設されたほか,医療機関機能評価でも栄養管理実践
port team:NST)が大きな役割を果たすと話した。
能力が問われる方向に進んでいるという。
NSTとは,低栄養状態にある患者を対象に医師,看
「今後も,JSPENはNSTとTNTのスキルアップを支
護師,薬剤師,管理栄養士,臨床検査技師,理学療法士
援し,栄養療法のさらなる質の向上を目指したい」と,
などがそれぞれの専門性を活かしてチーム医療を実践
大柳先生は意気込みを示し,講演を終えた。
。
し,その栄養状態の改善を目指すというものだ(表1)
特別企画セッション1
「各地区におけるTNTの遍歴」
(座長:TNTプロジェクト実行委員会 井上 善文 先生)
セッション1では,九州地区代表世話人の大熊利忠先
生(出水総合医療センター名誉院長)
,関東・甲信越代表
世話人の遠藤昌夫先生(さいたま市立病院院長)
,東海地
34
TNT受講者数は順調に増加
それとともにNST稼働認定施設も増加
大熊先生によると,九州地区では,できるだけ経費を
区代表世話人竹山廣光先生(名古屋市立大学消化器外科)
かけずに研修のレベルを高く保ち,かつ多くの医師(コ
の代理として谷口正哲先生(大隈病院副院長)
が各地区の
メディカル含む)
に参加してもらえるように工夫して
現状と課題,今後の展望について報告した。
TNTを開催しているという。具体的には,九州を10地
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区に分け,各地区で年1回以上のTNTを開催。講師は
栄養療法に関して10年以上の経験を有し,JSPENの会
員でTNT受講者とした。1回の定員は50名までとし,そ
れに満たない場合はオブザーバーのかたちでコメディカ
ルの参加を認める(正規受講料)
。2008年11月15日現在ま
でにTNTは72回開催され,受講者数は2,442名と全国ト
ップだ。また,2004年からはTNT受講修了者を対象に
大熊
『ポストTNT研修会』を年1回(4月)
開催している。
利忠 先生
活発に活動している九州地区だが,大熊先生は,講師
が不足している地区があることや,このところ受講者数
が減少傾向にあることを指摘した。新講師の養成には世
話人があたっているが,沖縄地区には4名しか講師がお
らず,他地区の講師が出向いてTNTを開催している状
況。「今後は沖縄地区の講師の育成が課題だ」と大熊先
生。また,2005∼2006年をピーク(約40名/回)
に減少し
ている受講者数(約30名/回)
を再び増加させるために,
研
遠藤
昌夫 先生
修内容の充足を図りたいと結んだ。
関東甲信越地区は,九州地区に続いてTNT受講者数
が多い地区(2007年末現在,35回開催で総受講者数1,347
名)
。遠藤先生によると,現在,TNTはセンター開催,
サテライト開催をとっているという。つまり,埼玉県大
宮(センター)
で年1回開催し,関東甲信越地区全体から
参加者を募集するほかに,各県はサテライトとしてTNT
を持ち回りで開催し,県内を中心に参加者を募集すると
谷口
正哲 先生
いうものだ。世話人会を年1回開催し,年間開催予定を
決定する。
「ワークショップの質を維持するために定員40
名を守るようにしているが,それをしばしば上回ること
がある」と遠藤先生。
師の育成に貢献していきたい」と結んだ。
しかし,当初は同地区のTNTは,世話人の多くが「参
東海地区のTNTは2000年に愛知県,三重県で初めて
加希望者は少ないはずだ」と思い,年1回程度の開催を
開催された。以後,2001年に静岡県で,2002年に岐阜
考えていたそうだ。
県で開催されるようになり,2007年末現在,30回開催さ
ところが,世話人を含めた講師は本当のところ,人に
れ,TNT受講者数は1,062名にのぼる。
ものを教えることが大好きな熱血漢ばかり。臨場感溢れ
谷口先生は,「私たちの地区では,TNTで決められた
る研修会場は熱気に包まれ,講師と参加者が一緒に考え
プログラム以外に自由プログラムを展開(岐阜県除く)
し
るかたちで進められた症例検討は大いに盛り上がった。
ているほか,終了後に毎回アンケート調査を実施してい
また,代表世話人は原則,すべての研修会に参加し,研
る」と,その特徴をあげた。また,谷口先生は累積受講
修内容の一貫性の維持に努めた。こうしたことから,
「関
者数,年間受講者数とも順調に増加し,受講者数と講師
東甲信越地区のTNTはおもしろい」との評判が立ち,一
とがほぼ同期している
数,NST稼働認定施設数(図2)
時期,同地区以外からの参加希望者で溢れかえったこと
ことを示し,「TNT開催がNST普及につながっている」
もあったと遠藤先生。「今後も,参加者の期待を裏切ら
と述べた。
ない質の高いTNTを開催し,栄養療法に造詣の深い医
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(人)
(施設)
160
1,200
1,062
:東海地区修了者数(累計)
1,000
142
893
:東海地区NST稼動認定施設数(累計)
800
127
730
570
600
425
400
120
100
96
96
140
80
60
59
295
40
193
200
20
62
0
2000
2001
2002
2003
2004
2005
2006
2007
0
2008
(年)
図2
東海地区のTNTへの取り組み
修了者数とNST稼動認定施
設数(JSPEN)
特別企画セッション2
「各診療科における栄養への取り組み」
(座長:TNTプロジェクト実行委員会 佐々木雅也 先生)
セッション2では,片多史明先生(亀田総合病院神経
内科部長代理)
から神経内科における,粟井一哉先生
(KKR高松病院呼吸器内科医長)
から呼吸器内科におけ
る栄養療法の実際を講演した。
∼神経内科領域∼
ワルファリンとビタミンKとの相互作用に注意
片多
片多先生からは,神経内科領域の代表的疾患である脳
史明 先生
血 管 障 害,パ ー キ ン ソ ン 病,筋 萎 縮 性 側 索 硬 化 症
(amyotrophic lateral sclerosis:ALS)について,それぞ
れの病態に応じた栄養管理のポイントの解説があった。
脳血管障害患者の栄養管理にあたっては,高齢で,高血
圧や糖尿病などの複数の合併症をもつマルチプロブレム
な患者であることを念頭に置き,麻痺や嚥下障害の程度
にも考慮し,複数の栄養投与経路を組み合わせて栄養療
法が行われることが多い。また,治療薬のワルファリン
粟井
一哉 先生
との
とビタミンK
(納豆,クロレラ,栄養剤(表2)
など)
相互作用は,しばしば見逃されがちであり,注意が必要
になるという。
パーキンソン病では,消化管運動の低下,自律神経障
害,治療薬の副作用,飲水量の低下などから便秘が多く,
治療薬の副作用による悪心,嘔吐もしばしば認められる。
また,晩期パーキンソン病の半数では,嚥下障害がみら
れる。無動,不随運動により食事準備困難,食事摂取困
難に陥ることも少なくない。「パーキンソン病患者の栄
佐々木
雅也 先生(座長)
養管理にあたっては,患者個々で栄養障害をもたらす原
因が何なのかをきちんと見極め,それに応じた栄養管理
を行わなければならない」と片多先生。
ALSに対しては人工呼吸器装着前ではできるだけ早期
に栄養療法を開始し,低栄養により症状進行が加速しな
36
いように配慮する一方,人工呼吸器装着後は筋肉量減少
に伴い,徐々にエネルギー消費量が低下するために,逆
に栄養過多にならないように留意すべきであると語った。
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経腸栄養剤
ラコール R 625μg/1,000kcal
ツインライン R 630μg/1,000kcal
輸液製剤 TPN用ビタミン剤
オーツカMV R ,ネオラミンマルチV R ,マルタミン注射用R ,
ソービタ R ,ビタジェクトR 2,000μg
1,000μg/1バッグ
フルカリックR
R 1,000μg/1バッグ
ネオパレン
(参考・納豆435μg/納豆50gパック)
表2
∼呼吸器内科領域∼
COPDにはプルモケア!,
急性呼吸不全にはオキシーパTM
病態に応じて栄養剤の使い分けを
ビタミンK含有量が多い経腸栄養剤,輸液製剤
こうしたことを背景に開発された経腸栄養剤がプルモ
ケア!-Ex。粟井先生は「プルモケア!-ExはCOPDガイド
ラインで推奨されている栄養管理に適した経腸栄養剤
だ」と述べ,同栄養剤を使用することで多くのCOPD患
粟井先生は,呼吸器領域ではCOPDや急性呼吸不全
(ARDS/ALIなど)
で栄養管理が重要になると述べた。
COPDでは,肺機能不全からカロリー摂取量の減少,
者のQOLが向上していることを自験例で紹介した。
一方,ARDS/ALIなどの急性呼吸不全に対しては,栄
養管理においても炎症反応の抑制を考えなければなら
カロリー消費量の増加によって,栄養不良をきたす。し
前出のオキシー
ず,
その場合はプルモケア!-Exではなく,
かし,COPDに炭水化物食を投与すれば二酸化炭素産生
パTMが有用だという。とはいえ,呼吸器系疾患の栄養管
量と貯蔵量が増加し,換気系に負担をもたらすことにな
理に関して,どの経腸栄養剤をどのように投与していく
る。したがって,COPDに対しては高脂肪食を投与する
のかのコンセンサスは今のところ得られていないのが現
よう推奨されている。なぜなら,効率のよい栄養補給と
状だ。「今後はそれを明らかにしていく臨床研究が必要
二酸化炭素産生量と貯蔵量の抑制を図ることができるか
だ」と粟井先生。
らだ。
特別企画セッション3
「TNTにおける効果分析と将来展望」
(座長:TNTプロジェクト実行委員会委員長 大柳 治正 先生)
セッション3では,井上善文先生(川崎病院外科総括
部長)
がTNT受講者,未受講者を対象にいくつかのアン
ケート調査を実施し,日本における栄養管理の現状と
TNTの意義,および今後の課題について考察した。
TNTの教育効果は認められるものの
臨床栄養全体の質の更なる向上に努めるべき
井上
井上先生らは,2002年にJSPENの全国栄養療法サー
善文 先生
ベイ委員会が実施した全国アンケート調査(TNT未受講
者515名)
と2004年3月にTNT受講者936名を対象に実施
されたアンケート調査を比較し,栄養管理の現状とTNT
(37.8%→63.9%)
こともわかった。以上から井上先生ら
の意義を検討した。TNTを受講すると,幽門側胃切除
は,「医師がTNTを受講することにより栄養管理レベル
術,結腸・直腸切除術,肝切除術をはじめとしたいずれ
は上がる」と結論し,TNTによる医師への栄養療法教
の消化器外科手術後においてもTPN施行率が低下し,胃
育は有用だと示唆した。
全摘術,食道亜全摘術,膵頭十二指腸切除術などの高度
そこで井上先生らは,2008年10∼11月にTNT受講者
侵襲手術後において空腸瘻造設術施行率および結腸栄養
123名,TNT未受講者211名を対象にインターネットを
療法施行率が上昇することが明らかになった。また,
用いてアンケート調査を実施し,同様の検討を行った。
TNT受講後は受講前に比べ,栄養管理が必要な場合の
その結果,TNT受講者はTNT未受講者に比べて栄養
第一選択に経腸栄養療法を選択する割合が増える
管理に対する関心が高いことが示され,NSTメンバー
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2009年 3月11日
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もTNT受講者では約70%を占めたが,TNT未受講者で
り,中心静脈高カロリー輸液をIVH,同カテーテルをIVH
は約10%であった。しかし,TNT受講者はTNT未受講
カテと呼んだり,栄養障害を診断する指標としてアルブ
者に比べ,①栄養管理が必要と判断した場合に経腸栄養
ミンを最重要と考えていたり,PEG施行や空腸瘻からの
療法を第一選択にする割合,②中心静脈高カロリー輸液
経腸栄養療法を経験していなかったりする人が少なから
の用語としてTPNを用いる割合,③中心静脈カテーテ
ずみられた。
ルの呼称としてCVカテを用いる割合,④中心静脈カテー
井上先生は,「TNTによる教育効果は確かにあると思
テルを挿入するときの用語としてCVCを入れるという
う。しかし,静脈栄養に関してはTNT受講者のレベル
割合,⑤栄養障害を診断する指標として体重/体重減少
が格段に上がっていると評価することは難しく,経腸栄
が最も重要だと考えている割合,⑥中心静脈カテーテル
養に関してはTNTを受講しなくても重要とする考え方
で一体型輸液ラインを用いている割合,⑦PEG施行経験,
が普及しつつある。TNTの効果がみえない点もある」と
⑧液体栄養剤の固形化経験,⑨空腸瘻からの経腸栄養療
指摘し,今後は,臨床栄養普及のためのTNTであるこ
法の経験いずれも高かったが,両者間に有意な差はなか
とを強く意識し,次の手を考えていきたいと結んだ。
った。TNT受講者でも,静脈栄養法を第一選択とした
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2008年5月作成
「効能・効果」、
「用法・用量」、禁忌を含む「使用上の注意」等については製品添付文書をご参照ください。
発 売 元 東 京 都 港 区 三 田3ー5ー27
東 京 都 江 東 区 新 砂1ー2ー10
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2009年1月作成
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