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穴守稲荷ハイテク村 都市における拡張された生活領域
穴守稲荷ハイテク村 都市における拡張された生活領域 はじめに 都市空間には、住居を中心とした個人の生活領 域と、その場の住民ではない人々の行き交う領域といった、 性格の異なる領域どうしが密接に絡み合い、公私の性格を 特定し難い状況が生じている場合がある。これらの事例は、 空間構成のみからその性質を理解することが難しく、また 社会的、計画学的な帰属を特定することの困難な場、いわば 「多義的な空間」であるといえる。こうした領域には、所有 関係の明確さや利便性といった価値でははかり得ない、場 を使用する上での意味の豊かさ、大らかさがあると思われ る。そこでこの計画では、働く場、学びの場、住むための場 などが少しずつ重なりながら、全体として拡張された生活 領域を形成するあり方を、建築プロジェクトとして提案する。 都市に流出した居住空間 図 1 の例は、都内のある路地の風 景である。ここでは、私有地である住居から自転車や鉢植え が通路にあふれ出し、公共の場所である通路が付近の住民 の庭や自転車置き場として使われている。このことから、こ こでは道路としての社会的な意味合いは通常に比べ弱まり 、いわば「私性」のにじみ出しによるある種の親しみ易さ が空間に生じていると思われる。図 2の例は、銭湯が併設さ れた集合住宅である。この集合住宅には各住戸に浴室があ るため、銭湯はこの建物の住民にはあまり利用されず、むし ろ建物の周辺に住んでいる住民に利用されている。つまり この建物では「住む」という行為が建物内で完結するので 図1.下町の路地 図3.ユニテ・ダビタシオン 図2.銭湯が併設された集合住宅 図4.300万人の現代都市 環状八 号線 羽田空港 穴守稲荷駅 京急 航空 首都 高速 道路 線 海老取川 図5.穴守稲荷駅周辺地図 設計対象地 0 20 50 100m 天空橋駅 出展:「 Le Corbusier Oeuvre Complete」 P180 Birkhauser 1994 BIRKHAUSER BOSTON 「ユルバニズム」 P175 ル・コルビュジェ 1967 鹿島出版会 戸建住宅エリア 職業訓練校エリア 工場・研究所エリア エントランスエリア 金型加工所 京急空港線 陶芸教室 半導体製造所 マリーナ 実習室 陶芸教室 カフェテリア 講義室 機械部品加工工場 海老取川 公園(既存) 託児所 釣具屋 ロビー 駐車場兼屋外広場 天空橋 海老取川 N 図6.配置図兼1F平面図 S=1:2000 駐車場 屋上菜園 職業訓練校 飲食店 研究所 マリーナ・釣具店 工場 戸建住居 職業訓練校用住居 工場用住居 研究所用住居 単身者用住居 図 7. 住居と施設の関わりについて N はなく、周辺住民を巻き込むかたちで成り立っているとみ なすことができる。このように、地域全体として成立する 機能をもたせることで、生活の行為が建物の外にあふれ出 たような拡張された生活領域を生むことができると思われ る。 3.建築・都市計画における凝縮された生活領域 図3の例は、 建築家の設計による集合住宅である。住宅の他に、郵便局や 保育園、商店など、生活に必要となる様々な施設が併設され ている。ここでは、個々の住居を単位としてではなく、生活 行為全般を一つの単位として設計されており、人がこの建 物内だけで暮らせることが想定されている。図4の例は、建 築家による都市計画である。ここでは、住居・交通・休息・娯 楽の大きく四つの機能単位が適当な大きさに分けられ、配 置されている。このように、図3の例は生活全体をひとつの 単位として想定し、その容器として建築を捉えたもの、また 図4の例は、人間の個々の行為を単位とし、それらごとに建 物を対応させたものと理解できる。しかし、図3の場合、全 ての生活における行為を包含している為に建物内での完結 性が強まり、内向的な構成となっている。図4の場合は、外部 を介してネットワークが形成されているが、建物と周辺との関係が 希薄で、均質な街並みになっていると思われる。 4.穴守稲荷ハイテク村 前章までの検討を踏まえ、生活に おける行為を私有地だけにとどめるのではなく、住宅と住 宅以外の要素を組み合わせることで、都市との積極的な関 係をもつ住まい方を提案していく。 4-1.対象敷地の設定 設計対象地である大田区羽田の穴守 稲荷駅周辺(図5)では、東京国際空港ターミナルビルの沖合移転に 伴う工事により、羽田空港駅跡地が、現在は大規模な貸駐車 場となっている。敷地付近には羽田空港や海老取川があり、 団地や戸建住宅、町工場などが密集している。 4-2.設計方針 建築のヴォリュームは、穴守稲荷駅から海老取川 に向かうにつれて、低層から序々に高層にする(図6)。同地 域は、交通機関・住居施設・町工場・河川に隣接する環境にあ る。このことに配慮し、それぞれの場所に応じて建築用途を 工場棟エリア 場所の用途に応じて上に開いていたり、 多方向に開いている。 戸建て住宅エリア 住民以外の人が四方から出入り出来る。 水平面に開いた状態になっている。 のこぎり屋根 トップライト スロープ レベル差 図8.全体構成ダイアグラム 羽田空港 町工場 穴守稲荷駅 生涯学習所 職業訓練所 工場 研究開発所 マリーナ・釣具店 海老取川 団地・住宅 敷地付近には羽田空港や海老取川があり、団地や戸建住宅、町工場などが密集している。ここを住 むための場としてだけでなく、駅や空港からも訪れる事が出来る場とすることで、多くの人に対し て開かれた地域となるように計画する。 図 9. 周囲との関係 適宜設定する。団地に近い所には生涯学習施設を兼ねた戸 建住宅を配置し、誰でも通り抜けることが出来るような水 平面に対して広がりをもつ構成とする。高層棟は建物だけ で完結せず、既存の公園や橋、駐車場と連動させながら内部 をつくることで都市との連続性のある構成とする。住戸と 施設の間に吹き抜けやトップライト、床の高低差を設けることで 、建物全体を緩やかに区切りつつ、街に対して開きながら住 むことができる住居とする。 空き工場を改修し陶芸教室のギャラリーとし て使い通行者の目を楽しませる。 片持ち梁の鳥居が住 宅のパーゴラとなりプライバ シーを確保する。 陶芸教室 託児所 料理教室 託 児 所 のジャングルジム が大きな庇を支える 柱や垣根となる。 図10.戸建住宅ダイアグラム 図.9戸建て住宅パース 都営団地 共同通路 託児所 料理教室 図11.断面図S=1/400 各住戸専用 屋上デッキ 住戸と工場に採光をとる事 が出来る。 高低差を設け 外部と距離をとる。 共同通路(2F) 工場(1F) 図13.工場住戸ダイアグラム EV 学生寮1 学生寮2 工場アパート1 講義室 3 N 図12.工場住戸パース 南 寝室 水回り 応接間 設計室 工場アパート2 図14.工場住戸平面図S=1/400 北 北側に機械設計室や実験 開発スペースを設け、南側に はプライベート性の高い寝室 等を設ける 図15.研究所用住戸断面ダイアグラム PS 機械室 設計スペース EV EV 研究所用 住居2 ゚ース 展示 スペース 部品組立て スペース 研究所用 住居1 N 図16.研究所用住戸平面図S=1/400 図17.研究所用住戸パース 料理教室 陶芸教室 貸し農地 学生寮1 ラウンジ カフェテリア 至 穴守稲荷駅 講義室2 京急航空線 至 天空橋駅 カ 2 図18.単身者用住戸パース 南 住戸と下の階にも採 光をとることが出来 る。 機械室 EV 303 荷物用 307 北 EV 301 吹き抜けの位置によって部屋の 明るさや大きさがかわる。 305 302 306 N 図20.単身者用住戸平面図 S=1:400 図19.単身者用住戸ダイアグラム 図21.職業訓練校パース 近隣住民 貸し農地 工場 実習室 料理教室 厨房 カフェテリア 公園 図22.職業訓練校ダイアグラム 図24.エントランス付近パース 貸し農地 駐車場兼 屋外広場 公園 研究所用 住居2 厨房 308 設計スペース マリンショップ 釣具店 図23.職業訓練校 断面図 S=1:800 図25.短手断面図 S=1:800 単身者用住戸 学生寮 工場用住戸 測定スペース ラウンジ 実習室 機械部品制作工場 半導体製造室 浄化処理ピット 実験・開発スペース 金型加工室 研究所用 住居1.2 部品組立て 展示スペース スペース ショップ・レンタル 機械室 ダイニングバー 天空橋 海老取川 図26.長手断面図S=1:1000