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ガリレオ温度計が割れて化学やけど

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ガリレオ温度計が割れて化学やけど
記者説明会資料
平成 19 年 12 月 7 日
独立行政法人
国民生活センター
ガリレオ温度計が割れて化学やけど
1.寄せられた事故の概要
【事例1】
自分は病院の医師である。1歳女児がガリレオ温度計を手に取っていたところ、転倒し
たため、ガリレオ温度計の中の液体を浴びてしまい、救急車で搬送されてきた。やけど(熱
傷)Ⅱ度、色素沈着があり、約5日間入院した。ガリレオ温度計は結婚式の引き出物だった
と聞いている。インターネットで販売店の広告を見ると、『無害・安全』と表示されてい
るが、何の液体か書かれておらず、どのような対応を取ればよいかわからない。問題と思
うので情報提供したい。
(事故発生年月:2007 年 1 月、受傷者:1 歳 女児、鹿児島県)
【事例2】
新車を購入した際、景品としてガリレオ温度計をもらったので、リサイクル店で売却し
ようと考えた。リサイクル店の机に置いた約30cmの高さのガリレオ温度計の先端を子ども
が触ったところ、割れてしまい、中に入っていたヌルヌルの液体を浴びた。手はすぐに洗
ったが、足などは洗わなかったところ、約1時間後に赤くただれてきた。服も灯油臭さが
取れなかった。救急病院に行って薬をもらい、販売店に液体の成分を聞くよう言われたが、
販売店はなかなか連絡をくれなかった。箱に注意表示はなかった。
(事故発生年月:2007 年 9 月、受傷者:5 歳 男児、千葉県)
(注)いずれも PIO-NET(全国消費生活情報ネットワーク・システム)に寄せられた事例である。
PIO-NETとは、国民生活センターと全国の消費生活センターをオンラインネットワークで結び、消費
生活に関する情報を蓄積しているデータベースのこと。
2.ガリレオ温度計とは
気温の変化に伴い、温度計内部の液体の比重が変化することを利用した温度計のことを
いう。温度計の内部に複数の球体が入っており、この球体にはそれぞれ温度を示すプレー
トがつけられている。
温度が高くなると透明な液体の重量は変わらないが、体積が膨張するため密度が小さく
なり、密度が大きな球体は下方に移動する。一方、温度が低くなると液体の体積が減少し
密度が大きくなるため、密度が小さな球体は上方に移動する。上方に浮いている球体のう
ち、一番下の球体に付けられたプレートに書かれている温度が気温を示すとされている。
1
値段は概ね数千円程度で販売されているが、高いものになると数万円する商品もある。
サイズも卓上用からかなり大きなものまでさまざまなサイズが見受けられる。また、温度
計として利用されるというより、インテリアや贈答品として利用されることが多いようで
ある。
3.テスト結果概要
インターネット等で購入できた 8 銘柄をテストした結果、シリンダー内の透明な液体は、
1 銘柄は水が主成分と考えられたが、多くの銘柄からは石油系ドライクリーニング溶剤や灯
油にも含まれている成分が検出された。これらの液体が数時間程度皮膚や衣服に付いたま
まにしておくと化学やけどを起こす危険性があると考えられた(参考資料参照)。
外箱(パッケージ)や添付文書の表示について調べたところ、中に入っている液体につい
て、「無害」「毒性のない」等と記載されているものが 5 銘柄、製品に使われているガラス
の破損に対する注意表示のないものが 4 銘柄あった。なお、液体の成分名とガラスが割れ
て中の液体に触れてしまったときの対処法が記載されていないものも 4 銘柄あった。
2
4.専門医の見解(島根大学医学部皮膚科学教室
辻野佳雄先生)
ガリレオ温度計の溶媒中からは、灯油に高濃度に含まれている物質(炭素数 10~13 の脂
肪族炭化水素)が検出されるものも多く、灯油皮膚炎と同じようなことが起こる可能性は充
分に考えられる。
灯油皮膚炎は一種の化学熱傷(やけど)である。発症の状況は灯油に曝露した直後は無症
状、しばらくして接触部位に熱感と痛みを感じ、数時間後に境界がはっきりとした紅斑・
水ぶくれ・びらん等が生じ、Ⅱ度程度のやけどとなる。一般には衣類に灯油がしみ込み、
そのまま長時間接触し続けたことによって接触部位に症状が出る場合が多い。灯油に曝露
後、すぐに衣類を着替えたり、大量の水で洗い流した場合には灯油皮膚炎は起こさない。
また、ガリレオ温度計には、上述以外の成分もたくさん含まれていると考えられる。そ
れら正体不明の物質がどのように作用するかは予想できないが、皮膚に傷害を及ぼすこと
も考えられ、ガリレオ温度計のどの成分が化学熱傷(やけど)を引き起こしたかについては
正確には分からない。しかし、一般に刺激が強いとされている灯油成分が含まれているこ
とにより、それらが、またその他の成分との相加あるいは相乗作用で灯油皮膚炎に似た症
状を来たした可能性は充分に考えられる。
5.問題点
今回の事故事例やテスト結果に見るように、ガリレオ温度計が割れて化学やけどの事故
が発生した際、中の液体に関する表示がないため、消費者はもちろん、医療機関でもどの
ような対応を取ればよいか判断できない点が最も問題となる。
表示をしている商品も少なからず見受けられるが、その多くは「パラフィンオイル」「炭
化水素溶液」などと記載しているだけであり、直接皮膚に触れるとどのような危険性があ
るのか、また、触れてしまった場合にどのような対応を取ればよいのかなどについて記載
しているものはほとんどない。
また、事故情報は入っていないが、可燃性の灯油成分が含まれているものがあるため、
ガリレオ温度計が割れて液体が絨毯などに染み込んでしまった場合、条件によっては引火
する危険性もある。
3
6.事業者への要望
メーカーや販売業者等は、液体の成分を表示することはもちろん、危険性や事故があっ
た際の対応方法についても明記すべきである。
また、消費者が液体を浴びてしまったとしても化学やけどを負わずにすむように、液体
をもっと安全なものに切り替えるなどの見直しについても検討されたい。
7.消費者へのアドバイス
・購入する際は液体の成分などの表示がきちんとされているものを選ぶこと
・子どもが触れないよう注意すること
・条件によっては引火する危険性があるので、火気や暖房機器の近くで使用しないこと
・転倒しないよう固定するなど、何らかの工夫をすること
・ガリレオ温度計が割れ、中の液体が皮膚に触れてしまったら、十分な流水ですぐに洗い
流すこと。もし、衣服にかかった場合は、速やかにかかった衣服を脱ぎ、十分な流水で
すぐに洗い流すこと。また、必要に応じて医療機関を受診すること
4
参考資料
1.化学やけどについて
化学やけどとは、強力な刺激性あるいは腐食性を有する物質による急性毒性接触性皮膚
炎である。原因となるのは強酸、強アルカリ、有機溶剤など種々の化学・工業薬品類であ
る。石油系ドライクリーニング溶剤や灯油の場合は、付着した衣類を着用し続けるなど長
時間の接触によって起こる。その症状は発赤、浮腫、水疱、びらん、壊死などである。治
療法としては、まず十分な洗浄が必要で、酸、アルカリに対しては中和も必要である。
(南山堂 医学大辞典 プロメディカより一部抜粋して加筆)
2.灯油等への接触による症状と処置法
石油系ドライクリーニング溶剤や灯油及びこれらに類する石油製品は原油から製造され
ており、吸入や眼、皮膚についた場合の症状や処置は(財)日本中毒情報センターの『原
油の毒性について』が参考になると考えられる。
中毒症状
1.高濃度蒸気を吸入した場合
吐き気、頭痛、めまいを生じる恐れがある
2.眼に入った場合
一過性の角膜刺激程度
3.皮膚に付いた場合
脱脂作用による一過性の痛みや紅斑、長時間接触すると灯油やガソリンの場合と同じ
ように化学熱傷を来す
4.誤って飲んだ場合(経口服用時)
誤嚥による咳、むかつき、呼吸困難、一過性の中枢神経抑制作用あるいは興奮作用、
嘔気、嘔吐、下痢、腹痛、不整脈などが起ることがある
治療法
[吸入]
(1)基本的処置
患者を新鮮な空気下に移動させる
咳や呼吸困難があれば上気道の刺激、気管支炎、肺炎を考慮して医療機関を受診する
必要に応じて気道確保や酸素吸入
(2)対症療法
症状に応じて治療を行う
5
[眼]
(1)基本的処置
眼痛が続く場合は大量のぬるま湯で少なくとも 15 分以上洗浄する
(2)対症療法
洗浄後も刺激感、いたみ、涙が出る、などの症状が残るなら、眼科的診療が必要であ
る
[経皮]
(1)基本的処置
汚染された衣類を取り除き、暴露部分を石鹸と水で 2 回洗浄する
ただれなどの皮膚症状がある場合は、熱傷に準じた治療を行う
☆特異的治療法
解毒剤、拮抗剤はない
排泄促進に有効な方法はない
(財)日本中毒情報センターホームページより一部抜粋(http://www.j-poison-ic.or.jp/)
3.テスト結果
1)シリンダー内の透明の液体について
シリンダー内の透明の液体について 8 銘柄のうち 7 銘柄は親油性の液体(水とは分離し、
油とは混和する液体)であった。残り 1 銘柄は親水性の液体(水と混和し、油とは分離す
る液体)で、水が主な成分であると考えられた。
また、シリンダー内の液体をアセトンで希釈し、ガスクロマトグラフ-質量分析計
(GC/MS)で測定したところ、ウンデカン、ドデカン、トリデカンといった直鎖炭化水素を
計 30 %以上含むものもあった(表 1 参照)。これらの成分は灯油にも含まれている成分で
ある。
表1
シリンダー内の液体の直鎖炭化水素の組成(単位:%)
銘柄
ノナン
デカン
ウンデカン
ドデカン
トリデカン
テトラデカン
ペンタデカン
ヘキサデカン
計
1
-
-
-
Tr
Tr
-
-
-
-
2
-
-
-
-
-
-
-
-
-
3
-
1
5
6
4
-
-
-
16
4
-
Tr
3
4
3
-
-
-
10
5
-
6
28
38
25
-
-
-
97
6
-
1
5
7
4
-
-
-
17
7
2
3
10
12
6
3
2
1
39
8
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-:検出せず Tr:わずかに検出
銘柄 1、2 には直鎖炭化水素とは構造の異なる炭化水素類が含まれていると考えられる。
6
2)注意表示等について
外箱(パッケージ)や添付文書の表示について、ガラスの破損に対する注意、シリンダ
ー内の液体の成分名、液体に触れてしまった場合の対処法、「無害」「毒性のない」等とい
った表示の有無を調べた(表 2 参照)。
表2
項目
\
銘柄
表示に関する調査結果
1
2
3
4
5
6
7
8
ガラス破損
有
無
有
有
無
有
無
無
液体成分、対処法
有
有
有
有
無
無
無
無
無害等
有
有
有
有
無
無
無
有
以上
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