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第 9 回:ダブル・トラック
清水永之:ボーカル・レコーディングを極める DTM で音楽を制作するにあたって、どうしてもマイクを使って録らざるを得ないもの……それがボーカル・パー トです。ボーカル・パートと言えば、もちろんボーカル・ナンバーでは主役。その出来がトラック全体の仕上が り具合を左右します。ここでは、ボーカル録音に不可欠な知識や、ノウハウの数々を紹介していきましょう。 第 9 回:ダブル・トラック ( 2009 年 2 月 14 日 ) このセミナーも第 9 回を迎えた。前回はメイン・ボーカルを録り上げるためのディレクションや、録音方法、編集を中心 に解説したが、今回は、メイン以外のボーカル・パートにスポットを当てていこうと思う。 ■ダブルの効果 前回解説したような手順で、基本となるようなメイン・トラックを作ったら、曲の中で一番盛り上がる場所(サビ)に同 じメロディを重ねて歌い、厚みを出す、ダブル(ダブリング)と呼ばれるトラックを録音してみみよう。 これは生演奏特有の手法で、コーラス・エフェクトをかけるのと似た効果だが、機械でかけた場合の正確な広がりとは異 なり、独特なニュアンスが得られる。これは、単純に左右に広がるだけではなく、タイミングが微妙にズレたり、デチュ ーン(音程の微妙なズレ)がかかったりするためだ。これが独特の味を演出してくれるわけだ。この時のポイントとして は、メイン・トラックの歌とこれからレコーディングする歌のパンを左右に振り分けておくということ。どのくらいの厚 みを付けるか、音がどの程度ズレているのかの確認がしやすくなる。 同様にして、3 回以上重ねる場合もある。とは言え、重ねれば良いというわけではなく、あまり重ね過ぎると音に芯がな くなり、音像がボヤけて細かなニュアンスがなくなってしまうので注意が必要だ。どのくらいの厚みを付けたいのか、し っかりとした構想を持っておくことが重要なのは言うまでもない。もちろん、たくさん重ねることで、メイン・ボーカル をよりゴージャスに、より派手に演出することもこともできる。このときに重要になってくるのがその“混ぜ具合”。ミッ クスに関しては、後述することにしよう。 ■ダブルのトラックを作る際の注意点 ダブルのパートを歌う際の注意点としては、メイン・ボーカルの歌い回し、ブレスの位置、音の長さなどをそろえて歌う ということが重要。歌詞の発音やアクセント、クレッシェンド、デクレッデェンドなどの抑揚にも十分に気を遣いたい。 そうしないと本来の効果が得られないだけでなく、メイン・ボーカルのニュアンスを殺してしまうので注意しなければな らない。 どうしてもうまくいかない場合は、ハーモナイザーやコーラス、ディレイなどで機械的に疑似ダブルを作り出す方法や、 メイン・ボーカル用に録音した、OK テイク以外の素材をダブルに使うといった方法も考えられる。ただ、ダブル独特のニ ュアンスを十分に生かすならば、やはり実際にダブルのパートを歌うのがベスト。コンディションに気を遣いながらボー カリストに頑張ってもらおう。 fig.1 ダブリング/コーラス/ハーモナイザーの効果の違い 今回はボーカルのダブルについて解説してきたが、このテクニックはアコースティック・ギターや、エレクトリック・ギ ターのパワー・コードなど、楽器パートにも応用することができる。通常はコーラス・エフェクトなどを使って空間的な 広がりを表現することが多いが、ダブルにすることで、コーラス・エフェクトでは得られない効果を作ることができるの で、ぜひ試してみて欲しい。