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九州大学 地球社会統合科学府大学院案内

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九州大学 地球社会統合科学府大学院案内
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九州大学大学院 地球社会統合科学府
01
スーコ学 科 境 環 物生 的 括 包
Message from the Dean
文理の枠を超えた幅広い知識と国際性豊かな視野を備えた
地球規模の課題を解決する人材に
九州大学大学院地球社会統合科学府(Graduate School of Integrated Sciences for Global Society:ISGS)が発足してちょうど2年が過ぎ、この3月には修士課
程の第1期生が多大な研究成果をあげて修了しました。九州大学の大学院学府の中で
は最も新しい組織であり、その分、極めてたくましく大きく飛躍しようとしている学府と
いえます。地球社会統合科学府は、4000名を越える修了生が学んだ比較社会文化学府(1994~)を前身とし、
「学
際性」・「国際性」・「総合化」という比較社会文化学府の教育・研究理念を受け継つぐとともに、それらを統合・深
化させて、
「地球社会的視野に立つ統合的な学際性」という新たな理念・目標を掲げ教育・研究を展開しています。
2013年度に文部科学省によって策定された国立大学改革プランによる「ミッションの再定義」においても、地球社
会統合科学府は、比較社会文化研究院とともに九州大学の中で唯一「学際部局」として認定されました。このこと
は、
「地球社会的視野に立つ統合的学際性」による教育・研究展開が大いに期待されていることを意味しています。
九州大学では、教員の所属組織として「研究院」があり、大学院生の所属組織として「学府」があります。この「研
究院」と「学府」という組織体系は、例えば「法学府」を担当する教員は「法学研究院」だけではなく他の「研究院」
の教員も参画することが認められています。
「地球社会統合科学府」には、
「比較社会文化研究院」のほか、
「言語文
化」、
「人文科学」、
「法学」の各研究院や総合研究博物館、熱帯農学研究センター、韓国研究センター、留学生セン
ターなどの多彩な教員が参画し、自然科学・社会科学・人文科学の広範な専門領域に対応できる体制が整えられて
います。このような多彩な教員メンバーは、個々の学問分野の枠を越えて相互に連携し、
「統合学際的」な教育・研
究の展開に対応できます。例えば、修士課程で「資源外交」を研究したいと思えば「天然鉱物資源」の基礎知識が必
要になるでしょうし、
「自然環境保全」を目指すのであれば「経済学」や「政治学」が必要な場合もあるでしょう。
「考
古学」には「化学・同位体分析」の先端技術が必要とされるようになってきており、
「インドネシアの資源開発」には
「イスラム文化」の習得も不可欠と思われます。このように、個々人の専門となるメインコースとともに学際性を高め
るためのサブコースを選択する地球社会統合科学府の修士課程教育では、いわゆる文・理の壁を無くすことを極め
て容易にし、高い専門性と統合的な学際性が育成されます。また博士課程では、学際的素養と高度な専門性に立脚
して世界レベルの独創的研究が行われることになり、他の大学院・学府では為し得ない新たな視点にたつ高度専門
職業人・卓越した研究者が養成されることになります。産業界の中枢である経団連の声明でも、
「地球的規模の課題
を分野横断型の発想で解決できる人材が求められていることから、理工系専攻であっても、人文社会科学を含む幅
広い分野の科目を学ぶことや、人文社会科学系専攻であっても、先端技術に深い関心を持ち、理数系の基礎的知識
を身につけることも必要である」と述べられているように、地球社会統合科学府の理念に基づいて統合的学際性を
身につけた人材は、産業界からも大きく期待されていると見なすことができます。
世間が期待する統合学際性に加え、今日の大学院教育では国際性(グローバル化)の強化も不可欠となります。そ
こで私たちは、地球社会統合科学府発足と同時に、2つの特別な経費による「統合的学際教育を基盤とする高度グ
ローバル人材養成プロジェクト」、および「フューチャーアジア創生を先導する統合学際型リーダープログラム」を機
能させ、海外の著名研究者をチーム単位で招へいし特別講義、ワークショップ、コロキアムなどを開催するほか、海外
フィールド調査や外国語論文執筆等の支援を行って、院生諸氏のグローバルな研究展開を推し進めています。この
度新しく入学された地球社会統合科学府第3期生にも、これら多くの国際的イベントやグローバル化支援を積極的
に利用して欲しいと思います。
さて、
「地球社会統合科学府で何を学ぶか?」。そもそも、大学院では講義・演習等はあるものの、自らが率先して
自身の研究を推進することが求められます。地球社会統合科学府に入学する前には、それぞれの専門学部で学んで
きた皆さんに、いきなり「専門以外の学問にも積極的に触れ、学際性を高めなさい」と言われても違和感を感じるこ
とでしょう。受講する講義、演習の選択にも迷うかも知れません。前学府長の古谷嘉章教授は、
「学際的な定食メ
ニュー」は存在しないと述べています。すなわち、学府が設定した「定食」的なカリキュラムなどはなく、院生自らが、
文・理の垣根を越えた多様な科目群(料理メニュー)の中から、将来目指す方向に沿って最大限の力を発揮できるよ
うな科目(料理)を選択し、各自がもっとも良いと思う独自の受講・研究計画(献立)を作成すれば良いのです。地球
社会統合科学府は、皆さんの研究活動を最大限支援します。自然科学・社会科学・人文科学の垣根を払い、地球的
規模で人類が抱える諸問題を解決するために、日々奮闘して欲しいと思います。そして、学問を、職場を、地域を、そ
して世界をリードする人材に育って欲しいと思います。期待しています。
地球社会統合科学府 学府長 902
1
九州大学大学院
府
学科合統 会社地球社会統合科学府
球地 院学大学大州九
小山内康人
包括的生物環境科学コース
教 育 理 念
我々が暮らす現代の世界は、様々な問題に直面しています。それは例えば気候変動、生物多様性の維持、エネル
ギー資源の管理、領土や宗教などをめぐる紛争、貧困、開発、都市化、政治制度の安定、感染症やテロ、越境犯罪な
どです。これらの問題の多くは、複数の要因が複雑に絡まりあっており、その根本的な原因の究明と、問題の解決の
ためには、単一の方法論ではなく複数の方法論を組み合わせた、統合的な学際性が必要とされます。地球社会統合
科学府は、現代の世界が直面する諸課題の根源(root cause)を解明し、問題を解決へと導く研究者、もしくは実
務家を養成することを目標としています。本学府では、以下に述べる三つの力を教育の中で涵養することにより、こ
の目標を達成します。
問題の全体像を俯瞰する統合的学際性
本学府は「統合的学際性」を備えた高度人材の養成を目的としています。そのために、学際的な研究方法の基礎
を体系的に学べるカリキュラムや、問題関心に応じて自由に複数の専門分野を組み合わせて履修できる方式を備え
ています。また、専門分野の異なる複数の指導教員団による指導体制を整えており、幅広い観点から研究指導を実
施し、統合的学際性の涵養を支援します。
問題の根源を見抜く高度な専門性
「統合的学際性」の基礎となるのは、高度な専門性です。国連や世界銀行などの国際機関への就職要件を見て
も、自分が得意とする専門領域を持っていることが求められています。また、現実社会の複雑な諸問題の根源を見抜
くためにも、高度な専門性に裏打ちされた分析能力が必要となります。本学府では、地球科学、生物学、政治学、歴
史学、考古学、文学、言語学、社会学、人類学、宗教学、国際関係論、経済学などを専門とする教員を備えており、研
究者としても、また実務家としても活躍するうえで要求される専門性を身につけることができます。
リーダーシップ
多様な人々と協働するためのコミュニケーション能力、
実社会において、もっとも必要とされる能力、それは専門や歴史的・社会的背景、そしてものの考え方などが異な
る人たちとの間で円滑にコミュニケーションをおこない、協働する力です。ここで言うコミュニケーション能力とは、
自分の考えを他者にわかりやすく伝えるだけではなく、相手の伝えようとしていることを適切に理解する力の双方を
指します。また、具体的な課題の解決のために専門の異なる人々を束ね、ゴールへと導いていくリーダーシップも必
要となります。本学府では出身や専門、問題関心の異なる学生間での議論やディベートなどを通じて、このコミュニ
ケーション能力を磨くほか、実務の世界で活躍できるリーダー育成のための特別なプログラムも用意しています。
地球社会統合科学府は、現代の世界が直面する諸問題を研究者として、もしくは実務家とし
て解決する意欲を持った方の受験を歓迎します
九州大学大学院 地球社会統合科学府
03
19
スーコ学 科 境 環 物生 的 括 包
カ リ キ ュ ラ ム・ポ リ シ ー
本学府は、地球社会の課題を相互に連関しあうkeywordのスペクトラムとして捉え直し、それを6つの対象領域に
まとめ、教育の基礎的な単位となる「コース」を編成しています。コースには、包括的地球科学コース、包括的生物環
境科学コース、国際協調・安全構築コース、社会的多様性共存コース、言語・メディア・コミュニケーションコース、包
括的東アジア・日本研究コースがあります。
博士課程前期(修士)においては、専門分野とするメインコースのほかに、サブコースの履修を必須としています。
サブコースの履修によって地球社会への視野を広げ、メインで学ぶ専門をより広いコンテクストに位置づけることが
できるようになるための幅広い知識と能力を身につけます。これにより、本学府が目標として掲げる総合的学際性の
涵養を目指します。
博士後期課程では、本学府の修士課程で身に
つけた学際的な素養を前提に専門性をより深化
させることを重 視し、学生は 各自の 専 門 領 域の
研究プロジェクトを推 進します。なお、博士後期
課 程 編 入者については、修 士 課 程で 開 講される
「共通科目」
(後述の科目編成を参照)の一部を
必修とすることで、統 合 的な学 際 性の 素 養を補
強します。
地球社会統合科学府の修士課程では、以下の3
つの科目を設定しています。
地球社会の諸題課題とそれを対象とする学問の研
究技法を包括的に修得するため、全ての学生が履
修する5つの共通科目を設けています。
「地球社会
統合科学」
「地球社会フィールド調査法」
「外国語
ライティング科目」では、実践的研究技法と国際
的発信力を学び、
「チュートリアル」と「個別研究
指導」は、独創的な研究能力の育成を目的として
います。
地球社会統合科学府のkeywordのスペクトラムとコース区分
904
1
九州大学大学院
府
学科合統 会社地球社会統合科学府
球地 院学大学大州九
包括的生物環境科学コース
カリキュラム・ポリシー
上の6つのコースの主題に即した学際的入門講義として基礎科目を置き、より特定的なコース主題から地球社
会の諸問題を捉え、アプローチの方法や、先行の理論や学説などの基礎的知識を学ぶことを目的とします。
共通・基礎の学習を土台に、コースの主題に即した各学問領域の実践的や専門性を深く究めるための科目とし
て4つの専門科目、
「フィールド調査実習(必修)」
「個別研究指導(必修)」
「総合演習」
「演習」を設けています。
共通科目
基礎科目
専門科目
2年
総合演習 IV
後期
( 国際協調・安全構築)
総合演習 III
2年
( 国際協調・安全構築)
総合演習 III
前期
個別研究指導 III
個別研究指導 II
( 包括的地球科学)
フィールド調査実習
1年
国際協調・安全構築 D
後期
個別研究指導 I
総合演習 II
国際協調・安全構築 C
( 国際協調・安全構築)
チュートリアル
包括的地球科学 A
総合演習 I
1年
地球社会統合科学
国際協調・安全構築 B
前期
地球社会フィールド調査法
( 国際協調・安全構築)
外国語ライティング
修士課程の履修例(国際協調・安全構築コースをメインコースに、包括的地球科学コースをサブコースとした場合)。
博士後期課程では、自立した研究者としてアカデミアや社会で活躍できるための高度な研究能力を養成していま
す。そのために、個々の教員による専門科目である「博士演習」に加えて、複数の教員が指導に参画する「博士総合演
習」によって、問題に対する多面的なアプローチを修得し、また、主指導教員による「博士個別研究指導」によって博
士論文の執筆を手厚く支援しています。
九州大学大学院 地球社会統合科学府
05
19
スーコ学 科 境 環 物生 的 括 包
共通科目
就学プロセス
学位取得プロセス
論文審査委員会による
審査・最終試験
カ リ キ ュ ラ ム・ポ リ シ ー
3年
学位論文審査願提出
後期
博士論文執筆
博士
計画書
個別
3年
計画書
研究
指導
前期
博士演習 I
博士演習 II
編入学者は
博士
これらも履修
個別
博士論文中間発表
博士論文執筆
個別
2年
後期
計画書
博士
後期
1年
博士論文執筆
指導
2年
予備調査(提出資格取得)
博士論文提出資格申請
研究
前期
(受理審査)
博士論文執筆
計画書
博士論文執筆
博士総合演習 II
計画書
博士総合演習 I
博士論文執筆
研究
1年
地球社会統合科学
前期
地球社会フィールド調査法
指導
計画書
博士後期課程の履修例
学生は、自分の研究を指導する教員を少なくとも3名選択し、指導教員団を構成します。これにより、指導教員団は
1名の主指導教員と2名以上の副指導教員から構成されることになります。主指導教員は学生がメインコースとして
履修するコースの担当教員から選択し、副指導教員の1名はサブコースのコース担当教員から、残り1名については標
準的にはメインコースのコース担当教員から選ぶこととしています。このようにして、多様な分野を専門とする指導教
員団を構成し、幅広い観点からの研究指導を実施することで、統合的な学際性の涵養を支援しています。
本学府の学位に付記する専門分野の名称の基本は修士(学術)または博士(学術)とします。ただし、
「包括的地球
科学コース」または「包括的生物環境科学コース」をメインコースとして履修した者、並びに「包括的東アジア・日本
研究コース」で理学分野の専門的素養を十分に身につけている者については、所定の審査の上、修士(理学)または
博士(理学)を授与します。
906
1
九州大学大学院
府
学科合統 会社地球社会統合科学府
球地 院学大学大州九
包括的生物環境科学コース
ア ド ミ ッ シ ョ ン・ポ リ シ ー
本学府では「地球社会的視野に立つ統合的な学際性」という理念・目標に基づき、人類社会の要請に答えうる高
度な専門的知識、地球社会的視野を有する人材を養成することを目標としています。そのために、グローバルな課題
に対して積極的に関与していこうとする態度と資質を有する学生を求めています。このような教育理念・目標にたち、
本学府での就学を目指す学生には次のことが期待されます。
1) 専門領域に限定されない地球社会への包括的な問題関心と幅広い基礎知識を有する学生
2) 国際的な場で活躍できるコミュニケーション能力を有する学生
3) アカデミアと現場の垣根を乗り越えて問題解決に立ち向かう強い意思を有する学生
以上のような学生を受け入れるために、複数の選抜方式を採用し、入学者の選抜においては、①専攻分野における
基礎的学力、②自己の問題関心や思考を他者に伝達できる的確な日本語(英語)能力、③積極果敢に新しい課題に
取り組もうとする態度や意欲を重視します。また、社会人と留学生も積極的に受け入れます。
複数の選抜方式として、夏季と冬季の一般選抜・社会人特別選抜・外国人留学生特別選抜並びに国際コース入学
試験(10月入学)、本学府にふさわしい特に優れた志願者を個別に審査する個別選考試験を実施しています。
筆記 試 験と口述 試 験からなります。筆記 試 験では、外国 語科目と専門科目を課します。外国 語科目は、外国
語による理 解力、並びにコミュニケーション力を評価します。専門科目では、それぞれの専門分野の知 識、能力
を評価します。口述試験では、問題意識の鋭敏さや課題設定の適切さ、問題解決能力など総合的能力を評価し
ます。
地球社会統合科学府にふさわしい特に優れた資質や実績を有する学生について、書類選考、及び当該受験生向け
に個別に設定した学力試験により評価します。
九州大学大学院 地球社会統合科学府
07
19
スーコ学 科 境 環 物生 的 括 包
英語の授業科目のみで学位を取得できる国際コースの志願者のために、事前インタビューによる指導と個別試験
ア ド ミ ッ シ ョ ン・ポ リ シ ー
を、九州大学伊都キャンパス並びに九州大学海外オフィス(カリフォルニア・オフィス等)において実施します。なお、
入学志願者が海外在住であり、特別の理由により規程の試験日に規程の試験場で受験できない場合は、ビデオ会議
システム(Skype等)による口述試験にかえることができます。
博士後期課程の入学者は4月、10月入学が可能です。一般選抜・社会人特別選抜・外国人特別選抜および国際コー
ス入学試験を夏と冬に年2回実施します。国際コース入学試験は九州大学伊都キャンパスならびに九州大学海外オ
フィス(カリフォルニア・オフィス等)を試験会場として実施します。
博士後期課程の選抜にあたっては、修士論文かそれに代わるもの、成績証明書等などの書類、学力試験及び口述
試験に基づき、課題設定能力、専門分野や周辺領域に関する知識、問題解決能力、語学力、表現力などを総合的に
判定します。なお、入学志願者が海外在住であり、特別の理由により規程の試験日に規程の試験場で受験できない
場合は、ビデオ会議システム(Skype等)による口述試験にかえることができます。
908
1
九州大学大学院
府
学科合統 会社地球社会統合科学府
球地 院学大学大州九
包括的生物環境科学コース
統合的学際教育を基盤とする高度グローバル人材養成プロジェクト
新学府「地球社会統合科学府」の開設にともなって、特別経費による「統合的学際教育を基盤とする高度グローバ
ル人材養成プロジェクト」がスタートしました。本プロジェクトは「学際教育の高度化」
「教育の国際化」という2つ
の大きな目標を掲げ、また社会的要請の高い課題に対応できる人材育成と教育のグローバルネットワークの構築を
図ることを目的としています。
地球社会統合科学府は、地球社会的視野に立つ統合的な学際性という理念・目標にもとづいて、グローバル社会
に対応できる基礎的資質の涵養さらに高度専門職業人ならびに卓越した研究者の養成を目指しています。本プロ
ジェクトの発足により、新学府の理念をさらにスピードアップして実現する推進力をつけるとともに、九州大学全体
の機能強化を果たすことを目指しています。学府の教育カリキュラムと密接に連動しつつ、トップレベルの海外研究
者チームとの強力な連携の基に「国際水準の教育グローバルネットワーク」を構築し、
「社会の要請に沿う地球規模
での課題解決」に向けた「統合的学際教育」を実施していきます。
本プロジェクトの主な取組みとして、
「専門分野の枠を超えた学際教育のコーディネート」、
「教育シス
テムの開発と支援」、
「教育・修学環境の充実」、
「海外研究者チームの招へい」、
「海外・国内実地調査」などが挙げ
られます。本プロジェクト独自の事業である「海外研究者チームの招へい」について特筆すると、海外の研究者チー
ムをユニットで招へいし、国際セミナーやシンポジウム、ワークショップなどを開催することを想定しています。学府
学生にも積極的な参画を呼びかけ、学生が国際感覚を高め、実践的なプレゼンテーション能力を磨く機会を与える
ことを目指します。平成26年度は、香港中文大学(香港)、フリンダース大学(オーストラリア)、エジンバラ大学(英
国)を中心とした3チーム7名の研究者を招へいし、平成27年度はアリゾナ大学(米国)、華東師範大学(中国)、
ハーバード大学(米国)の3大学から7名の研究者を招へいしました。プロジェクトではこのような取組みを実施する
ことにより、地球社会統合科学府設置による大学院教育システムの再編・強化を一層強力に推進し、学府および九
州大学全体の国際競争力の強化に寄与することを目指します。
九州大学大学院 地球社会統合科学府
09
19
スーコ学 科 境 環 物生 的 括 包
統合的学際教育を基盤とする高度グローバル人材養成プロジェクト
プロジェクトの実施体制
28
計画
特別経費として採択された「統合的学際教育を基盤とする高度グローバル人材養成プロジェクト」は、平成30年
度まで5年間の事業です。今年で3年目となるプロジェクトの事業について、簡単に紹介いたします。
プロジェクト運営体制の整備
平成26年度より、
「プロジェクト運営委員会」を設置し、
「グローバルネットワーク開発チーム」、
「教育システム
開発チーム」、
「実践教育支援チーム」の3チーム構成により「教育の国際化」と「学際教育の高度化」に向けた活動
を本格化させています。さらにプロジェクトの遂行に必要なスタッフの国際公募を実施し、外国人を含む採用スタッ
フにより「グローバル化プロジェクト推進室」を設置してプロジェクトの運営に参画しています。
「フューチャーアジア・プログラム」との連携
プロジェクトは、九州大学リーディングプログラム「フューチャーアジア創生を先導する統合学際型リーダープロ
グラム」
(略称「フューチャーアジア・プログラム」)とも深く連携しており、両者の有機的な連関の中で教育・研究機
能の拡充を図っています。
海外研究者チームの招へい
先に述べた通り、平成26年度と平成27年度で合わせて14名の研究者を欧米やアジアから招へいしました。平
成28年度は韓国、オーストラリア、米国の大学から研究者チームのユニット招へいを予定し、国際セミナーやシンポ
ジウム、ワークショップの開催を企画しております。
9101
九州大学大学院
府
学科合統 会社地球社会統合科学府
球地 院学大学大州九
統合的学際教育を基盤とする高度グローバル人材養成プロジェクト
包括的生物環境科学コース
海外実地調査チームの派遣
海外研究者チーム招へいの環境整備をおこなうため、比較社会文化研究院・地球社会統合科学府から海外実地
調査チームを派遣しています。平成26年度は5チームを、それぞれ韓国、スリランカ、タイ、中国、オーストラリアに、
平成27年度は1チームを米国に派遣し、招へい事業のプランニングや国際共同研究について打ち合わせを行いまし
た。その他、平成27年度はインドネシアやフィリピン、米国に研究者や学府の学生を派遣し、研究支援や国際共同
ワークショップを通して様々な角度からグローバルネットワークの構築に寄与しました。平成28年度も同様の事業
を行い、さらに強力なグローバルネットワークの構築を進める予定です。
これまでご紹介した通り、本プロジェクトは国際的人材養成、学際的実践力の強化、統合学際教育のグローバル
な展開、人類的問題を意識した高度専門的職業人・研究者の育成、研究成果発信と九州大学の国際的認知度向上
など、さまざまな目標を掲げ発足しました。平成27年度末には、2年間の成果を検証し、今後3年間におけるプロ
ジェクトの方向性を再検討するため、海外から委員を招いて中間評価を行いました。そこでの指摘や提示された可
能性をふまえ、新たな展望の下、さらに強力に新学府の理念実現に寄与すべく努めていきます。
「高度グローバル人材養成プロジェクト」の事業内容と事業終了後の取組み
九州大学大学院 地球社会統合科学府
19
11
スーコ学 科 境 環 物生 的 括 包
フューチャーアジア創生を先導する統合学際型リーダープログラム
九州大学は地理的優位性を活かして、開学以来アジアから多くの人材を受け入れ、それぞれのフィールドの
第一線で活躍する人材として社会に送り出してきました。本プログラムは、このような伝統をふまえ、未来のアジ
ア創生(Future Asian Innovation)に貢献する人材の育成を目的として開設されました。
いわゆる中東地域から内陸アジア・南アジアを経て西太平洋におよぶ「アジア」が21世紀の半ばまでに世界経
済のセンターに成長するという予想もあります。他方で、経済格差の拡大や高齢化の進行、国境紛争や資源獲得
競争の激化、気候変動や環境問題などの国境を超えた課題の深刻化など、さまざまな問題を抱えています。この
ような急激な変容の中で、将来におけるアジアの安定と繁栄を率先して担うリーダー人材が求められています。
本プログラムの学生は、地球社会統合科学府の教育によって「統合的な学際性」という基盤を養いながら、産
学官民連携で実施されるプログラム独自の科目の履修を通じて、アジア・イノベーション実現のための力を身につ
けていきます。
本プログラムが掲げる「フューチャーアジア創生」とは、複雑に絡み合うアジアの問題を解きほぐし、アジアに潜
んでいる可能性を引き出すこと。つまり、課題としてのアジアを、可能性としてのアジアへ転換することです。
アジアにおいていち早く近代化をなしとげた日本が果たすべきことは、アジアをめぐる諸課題の解決に中心と
なって取り組むこと、問題解決のための行動を率先して行うことではないでしょうか。本プログラムは、そのための
リーダーとなるアジア・イノベーション人材の育成を目指します。
複雑なアジアの課題に取り組むためには、背景にあるさまざまな問題を理解した上で、現場の具体的な課題に取
り組むリーダー、すなわち、
「現場で問題を把握し、さまざまな領域の知を活用して、取り組むべき課題を明らかに
するとともに、目指すべきヴィジョンを提示し、人々を牽引するリーダー」が必要です。私たちは、このようなアジア
のイノベーションに貢献するリーダーを「統合学際型リーダー」と呼びます。
本プログラムでは、産業界を含めた様々な国内外の機関と連携し、リーダーとして重要な6つの力(「統合学際
力」
「専門調査研究力」
「歩く力」
「伝える力」
「描く力」
「率いる力」)を涵養し、
「統合学際型リーダー」の育成を
目指します。
「統合学際型リーダー」の育成を実現するために、産学官民連携のもとで独自の教育プログラムを構築し、
アジアで活躍する実践力の養成を目指しています。
●アジアの現状を実見する現地研修「アジアフィールド研修」を必須とし、現場の生きた経験をもとに学修。
●地球社会統合科学府におけるチュートリアル制、集団指導体制を通した基礎力・俯瞰力の育成。
●Qualifying Examination (QE) により修学状況と成果を審査。
このような特徴を有するカリキュラムを本プログラムの学生に提供し、未来のアジア創生(Future Asian Innovation)に貢献する人材を育成します。
912
1
九州大学大学院
府
学科合統 会社地球社会統合科学府
球地 院学大学大州九
フューチャーアジア創生を先導する統合学際型リーダープログラム
包括的生物環境科学コース
フューチャーアジア・プログラムのカリキュラム
本プログラムは、文部科学省の補助事業の枠組みにとらわれない九州大学独自の自由な発想に基づく博士課程
教育プログラムとして、九州大学の特別な経費措置によって運営されており、支援期間は平成25年度~平成31
年度を予定しています。
プログラムでは毎年選抜採用されたプログラム生にプログラム独自科目を開講するとともに、
「フューチャーア
ジア創生フォーラム」を開催するなど、専門分野の枠を越えた教育システムのコーディネート、教育システムの開発
と支援、教育・修学環境の充実に取り組んでいます。
本プログラムにより、多文化共生社会の実現に向けて、課題としてのアジアを可能性としてのアジアへ転換する
リーダー育成に、地球社会統合科学府および九州大学の総力を結集して取り組んでいきます。
27
プログラムの開始から2年目となった平成27年度は新たに修士1年の新入生をプログラム2期生として迎え、修
士2年のプログラム1期生とともに事業を実施しました。平成27年度のプログラムの活動について、簡単に紹介い
たします。
プログラム科目の開講
平成27年度の前期は修士2年のプログラム生を対象として、
「フューチャーアジア研究Ⅱ」と「フューチャーアジア
連携プロジェクトⅡ」を、後期は修士1年のプログラム生を対象として、
「フューチャーアジア研究Ⅰ」と「フューチャー
アジア連携プロジェクトⅠ」の授業を開講しました。各科目の授業タイトルは以下の通りです。
九州大学大学院 地球社会統合科学府
13
19
スーコ学 科 境 環 物生 的 括 包
●平成27年度前期プログラム科目
フューチャーアジア研究Ⅱ
フューチャーアジア連携プロジェクトⅡ
フューチャーアジア創生を先導する統合学際型リーダープログラム
調査インタビュー手法実践ワークショップ
NPO法人東アジア共生文化センター見学
国連ハビタット福岡本部訪問
多様性理解に関する実践ワークショップ
アジアの都市間競争と都市のチャレンジ
生物学の視点からアジアの環境問題を考える
開発支援・人材育成事業における案件形成と事業
運営手法
発展途上国の経済開発は、どのように進めていく
べきだろうか?
国連ハビタット福岡本部訪問
生物学の視点からアジアの環境問題を考える
●平成27年度後期プログラム科目
フューチャーアジア研究Ⅱ
フューチャーアジア連携プロジェクトⅡ
国際協力概論と国際機関への就職方法
ファシリテーション、ビジュアルミーティング手法
アジアにおける非伝統的安全保障問題
演劇ワークショップ
海外での感染症対策
JICA九州訪問
国際協力概要・PCM研修
国際協力NGO訪問
NPO法人の設立・運営
グローバルコミュニケーション
歴史の視点からアジアの外来種問題を考える
ファシリテーション、ビジュアルミーティング手法
9141
九州大学大学院
府
学科合統 会社地球社会統合科学府
球地 院学大学大州九
演劇ワークショップ
フューチャーアジア創生を先導する統合学際型リーダープログラム
包括的生物環境科学コース
アジアフィールド研修
平成27年2月28日から3月8日にかけてプログラム1期
生を対象とした「アジアフィールド研修・オリエンテーション
合宿」を実施しました。研修場所としてはマレーシアのサバ
州が選ばれ、熱帯の生物多様性の保全やその持続的利用に
ついて実感することを目的として研修を行いました。研修で
はサバ大学、JICAオフィス、サバ州立博物館、オランウータ
ンリハビリテーションセンター、レインフォレスト・ディスカ
バリーセンター、キナバタンガン川保護区、アブラヤシ・プラ
ンテーションなどを訪問し、コタキナバル市内ではプログラ
ム生が各自のテーマ探求を行いました。
サバ州立博物館
フューチャーアジア創生フォーラム
今回で第三回目となるフューチャーアジア創生フォーラムを平成27年11月21日に開催しました。今回は「報道
されないアジアの真実」をテーマとし、プログラム生を中心とした地球社会統合科学府の学生が実際に世界を舞台
に活躍している一流の専門家と直接交流し啓発を受ける場を設けるとともに、その成果を広く市民に還元すること
を目的として、講演会とワークショップを行いました。
プログラム生は講演会の司会進行や、講演会後に実施した講演者と学生によるワークショップにおけるグループ
討論のファシリテーターを務めるなど、これまでプログラムを通して培ったスキルを存分に発揮しました。
第三回フューチャーアジア創生フォーラム講演会場の様子
講演者と学生によるワークショップ
これまでご紹介した通り、本プログラムでは国内外での様々な授業やフィールド研修を通して「統合学際型リー
ダー」の育成に取り組んでいます。3年目となる平成28年度ではプログラムとしては初めてとなる博士後期課程の
学生を迎えることとなるため、より実践的でそれぞれの専門に即した活動にプログラム生自身が主体的に取り組め
るよう、更なる内容の充実に努めていきます。
九州大学大学院 地球社会統合科学府
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包 括 的 地 球 科 学 コ ー ス
包括的地球科学コースの主な野外調査フィールド。これらのほかに多数の国内フィールドもあります。
包括的地球科学コースでは、固体地球という一つの惑星を様々な観点から見つめ、その変動過程を包括的に研究
しています。
“地球進化”・“生命進化”・“環境変動”を研究の骨格に据え、国内はもとより世界各地での野外調査
(フィールドワーク)を実施しています。フィールドワークは、一般的な車と徒歩での調査が主流ですが、時には掘削
船による海底ボーリングやスノーモービルとヘリコプターを使った極地調査、ラクダや馬を使った高地調査まで、そ
れぞれのフィールドにより調査方法は様々です。野外より採取した試料については、国際的にも屈指の精密解析装置
群を駆使して、データを採取・解析し、随時最先端の研究成果を公表しています。これらの野外調査~精密分析に
は、大学院生も積極的に参加し、フィールドワークやマネージメントの必要性、精密分析によるデータ取得とデータ
解析、そのための基礎能力習得の重要性を日々肌で感じています。また、大学院生も教員と同様に学会発表や論文
によって、数多くの成果を公表しています。このように、包括的地球科学コースは、世界屈指の精密分析装置を保有
しながらも、世界最前線の数多くのフィールドを調査し続けています。大学院生に対しては「やりたいことが見つか
る、やりたいことができる」を合い言葉に、コース全体で日々新しいテーマの開拓と分析手法の開発を行い、最先端
の地球科学研究集団としてあり続けることを目標としています。
包括的地球科学コースの分析装置と主な使用目的。ここの使用目的は一例で、その他様々な分析に対応できます。これらの装置を用いた精密分析の前
処理機器や岩石切断・粉砕・溶融、各種顕微鏡など実験環境も整っています。
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九州大学大学院 地球社会統合科学府
包括的地球科学コース
~地球深部から大気圏まで、地球46億年の軌跡を包括的に科学する~
地球誕生から45.6億年が経過し、現在私たちが見る山や谷は、様々な地質から構成され
ています。これらの地球表層に分布する地質は、半径6400kmを有する地球にとって、とて
もちっぽけなものではありますが、過去の地下深部~表層環境までの様々な変動過程の“痕
跡”を保持しています。私たちは、世界各地で野外地質調査を行い、最先端の精密分析装置
を駆使して、その“痕跡”から過去40億年の地球成長プロセスを解析しています。
地球物理学は、電気・磁気、重力や地震波などを道具として地球を調べる学問です。本
コースでは、岩石の磁気の分析から、過去数億年にわたる地球磁場の変動の歴史を読み取る
研究を行っています。さらに、深海底で掘削された試料の磁気の研究では、古生物学・鉱物
学などの他の分野と協力し、古環境変動の総合的研究を行っています。また、地球の表層や
内部の構造とその変動の歴史を明らかにするため、電気・磁気や重力の観測研究にも取り組
んでいます。
地球には火成岩・変成岩・堆積岩の大きく3種類の岩石が存在します。そのなかで火成岩
と変成岩の多くは、プレート境界の深部域で形成され、各時代の地球深部や地球表層との
物質循環の情報を記録しています。私たちが目指す岩石学は、時代変遷に伴う地球深部環
境の進化過程の解明です。そのために、私たちは世界各地で様々な時代をしめす地質体の調
査を実施し、極微細組織の観察、化学分析、放射性同位体元素分析を通して、各時代におけ
る地球深部の変動テクトニクスを解析しています。
鉱物には、過去の気候・環境の復元、未来の地球環境の予測、環境保全に役立つものがあ
ります。これらの応用研究は、ナノメーター・オーダーあるいは原子レベルでの分析・解析に
より鉱物の特性を詳細に理解する基礎研究の上に成り立っています。私たちは、種々の電子
顕微鏡、原子間力顕微鏡、顕微赤外分光分析、X線・中性子線結晶構造解析などを駆使し
て、ナノ・ミクロの世界から地球で起こる現象を捉えていきます。
約40億年前の誕生以来、生命は地球環境に適応する一方で、地球環境を変えてきまし
た。光合成微生物により酸素に富む環境が作られ、約5.4億年前、生命は爆発的に多様化
し、現存するほとんどの生物の祖先が誕生しました。このような地表環境の変動や生命進化
の痕跡は世界各地の堆積岩に記録されています。私たちは、精密な野外での地層や化石の
観察に加え、安定同位体や微量元素成分、さらに太古環境に繁栄した微生物の代謝様式か
ら、
“生命の進化プロセス”をキーワードに研究を行っています。
九州大学大学院 地球社会統合科学府
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人類は、今後どのような気候変動に直面するのか?それを予測するためには、過去の変動
プロセスを知る必要があります。私たちは、最新鋭の分析技術を駆使し、深海堆積物コアや
包 括 的 地 球 科 学 コ ー ス
鍾乳石の安定同位体等から、過去300万年間の氷床の消長、海洋循環の変化、東アジアモン
スーン強度等の長期的気候変動プロセスの解明を目指しています。
私たちにとって、最も身近な地球科学的試料である岩石、またそれを構成する鉱物はいつ
形成されたのだろう。それを調べるのが地質年代学分野です。私たちは、マルチコレクタICP
質量分析計・四重極型ICP質量分析計・電子プローブマイクロアナライザを用いて、様々な放
射性同位体を測定し、地球創生期から約1千万年前までの岩石や鉱物の年代測定を実施して
います。また、電子スピン共鳴装置を用いると、約数千年前、つまり人類史までの年代測定が
可能です。
アジアの開発途上国では近年農村地域の土壌や水環境が悪化し、特に熱帯アジアにおい
ては、農地の土壌汚染、土壌侵食、土壌塩類化、地表水・地下水の水質汚染などの問題が頻
発し、農業や住民生活に深刻な影響を与えています。このような問題について、私たちは、現
地調査により状況を把握するとともに、その発生原因を究明し、土壌・水環境の保全に資す
る研究を行っています。
東南極には、約40億年前から5億年前までの地質体が存在します。私たちは、そこでの過
酷な地質調査を行い、地質学的・岩石学的・地球物理学的・地球化学的手法により、地球誕
生直後の地殻形成過程や超大陸形成サイクルおよびその形成・分裂時のテクトニクスを包括
的に解析しています。また、包括的地球科学コースには、連携講座教員として国立極地研究
所より3名の客員教員が在籍しています。
地質学(左)と地球物理学(右)の野外実習の様子
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九州大学大学院 地球社会統合科学府
包括的地球科学コース
~フィールドワークと専門能力の習得を重視した教育、グローバル人材の礎へ~
包括的地球科学コースでは、大学院生のフィールドワーク能力と地球科学
に関する基礎知識や基礎解析能力の向上を目的とした教育を実施していま
す。年2回程度行われる野外実習では、地層の観察や岩石・鉱物の鑑定、残留
磁気の測定、水質観測など、各分野の基礎的な野外調査手法を学ぶことがで
きます。これらの実習の経験を生かし、国内外の自らのフィールドで調査を実
施することとなります。
教員に対する学生数が少なく、講義や実験、データ解析、論文執筆には、各
教員からの細やかな指導が行われています。また、包括的地球科学コースに
インドネシア・スマトラ島。生命の起源につな
は、数名の博士研究員や留学生が在籍し、より年齢の近い彼ら(彼女ら)との
積物を踏査する。
がる微生物現象を追い求め未調査の熱水堆
ディスカッションも大学院生の研究の進展や語学力の向上の助けとなってい
ます。
年間を通して毎週1回行われる演習では、コース全体の教員、研究員、大
学院生が出席し、研究に対する助言、時には厳しい指摘を受ける機会となり
ます。このような教育課程を通して、①フィールドワーク能力、②データ取
得・解析能力、③成果発表能力を養い、多くの大学院生は博士前期課程2年
で各分野の関連学会にて発表し、博士後期課程では成果を国際誌に報告し
ています。
博士前期・後期課程修了生や博士研究員は、本コース(昨年までは比較社
会文化学府・地球自然環境講座および地域資料情報講座)での研究・教育過
程を終え、大学の地球科学教室の教員や研究員、産業技術総合研究所の研
アルジェリア・サハラ砂漠。ゴンドワナ超大陸
の謎に迫る。
究員など、実際に専門分野を職業とする人も多くいます。また、石油天然ガ
ス・金属鉱物資源機構やマリンワークジャパンに就職し、養った語学力や
フィールドマネージメント能力を遺憾なく発揮している修了生、また、小・中学
校教員として若き地球科学者の卵を育成する人もいます。留学生は修了後、母
国の大学教員として本コースで学んだ事柄を学生に教育する責務を全うして
います。このように包括的地球科学コースでは、2~5年間という短期間にお
いて各界で活躍する地球科学者の育成を行っています。
ロシア・バイカル湖。凍った湖面を渡り、太古
代の大陸地塊を踏査する。
地球には、まだまだ解明されていない事柄がたくさん眠っています。というよりも、きっと私たちは地球の歩
んできた歴史の一部しか理解していません。人間の体についた深い傷が一生残るように、地球に生じた変動
過程はどこかしらの地質体にその“痕跡”が眠っています。包括的地球科学コースには、様々な学問分野があ
りますが、それぞれが、その“痕跡”の発見を目指し、日々研究・教育活動を行っています。私たちは、教員・大
学院生・博士研究員併せて20名程度の組織ですが、毎年多くの研究論文を発表し、これらにはたくさんの新
しい発見が含まれています。国内・海外のフィールドで実際に地球を観察し、最先端の分析装置を用いてデー
タを取得する。得られた解析結果を仲間や教員と時に楽しく、時にシビアにディスカッションし、自らの発見
を科学誌に残す。これを可能とするのが「多様なフィールド」
「最先端分析装置」
「少人数制」であり、地球社
会統合科学府・包括的地球科学コースにしかない大きな魅力です。また、本コースには国立極地研究所から、
3名の客員教員を迎えており、未だ謎だらけの南極をフィールドとした地質学的・地球物理学的・岩石学的・
鉱物学的な研究を行うことも可能です。
九州大学大学院 地球社会統合科学府
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包 括 的 生 物 環 境 科 学 コ ー ス
包括的生物環境科学コースでは、
“生物多様性”
“環境”
をキーワードに、生物多様性の創出・生物多様性保全・人の
環境への適応・環境保全政策をテーマに掲げ研究を行って
います。
“生物多様性”
“環境”に関わる多様な分野を包括
的に理解することにより、危急の課題である地球環境問題
の解決と新しい環境科学の追究に取り組んでいます。
本コースではフィールドワークを重視し国内、海外で様
々な調査活動をおこなっています。生物多様性科学、生物
インベントリー科学の分野では、伊都キャンパスから熱帯
に至るまでアジアを中心とした地域での調査を行っていま
す。調査対象は節足動物、鳥類、ほ乳類、樹木など幅広い
分類群に及び、様々なアプローチから生物多様性の解明を
目指します。また、ヒトの環境への適応に焦点をあてる文
化生態学分野では、アフリカの熱帯林や中国の半乾燥地
で、焼畑や狩猟、採集活動、乾地農業などの小規模な生業
を営む人々が暮らす地域をフィールドとして実地調査を行
っているほか、空中写真や衛星データの地理情報解析など
も活用しながら、ヒトの生活史と生業・資源利用との関係
を研究しています。そして熱帯林環境保全学分野では、東
南アジアや東アジアを中心に、森林とその周辺地域におけ
る自然資源管理のあり方を、村落へのフィールドワーク、
政策研究や文献調査をもとに行っています。さらに、環境
政策学分野では、地域、特に都市で生起する環境問題のう
節足動物を中心に鳥類、ほ乳類、植物を研究材料に、分類学、形
態学、系統学、集団遺伝学、系統地理学、生態学、保全生物学、
生物インベントリー科学など、様々なアプローチから生物多様性
の解明を目指しています。
ち、地球温暖化に焦点をあて、この問題を解決するための
各種の政策について先進的な取り組みを行っている欧州を中心に、政策研究を行っています。これまでにも多くの大
学院生がこのようなフィールドワークに立脚した研究を行い、その成果を国際的な学会や国際誌において発表してき
ました。本コースを選択した学生の皆さんには、国内外を問わず自ら調査に赴き、自らの手でデータを集め、自らの
発想を大切にしたオリジナリティのある研究を行ってもらうこと期待しています。
環境利用の実態調査(左上)、森林やその周辺地域で生計
を営む地域住民の聞き取り調査(右)、環境政策の実施状
況調査(左下)などの現地調査や地理情報システム(GIS)
を使った土地利用の動態解析通して環境問題の現状を把握
し、人類の環境適応、環境政策のあり方について研究して
います。
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九州大学大学院 地球社会統合科学府
包括的生物環境科学コース
~いきもの、環境、ヒトからひろがる多彩な興味を育てる~
分類学は生物がもつ特徴を調べて多様性を理解する学問分野です。生物は、同じ特徴を
もつ“種”に分けることができます。分類学ではその“種”を認識するために、あらゆる特徴
(外部や内部形態、生態、行動など)を比較検討して、地球上に存在する生物の多様性への
理解を深めることを目的とします。その際に未知の種があれば、新しく学名をあたえ、その
“種”に関する情報の集積をし、属や科などの高次カテゴリーの所属も明らかにして、分類
体系を構築していきます。
系統学は生物の個体や種の特徴による系統的な類縁関係を推定し、その歴史性を研究す
る学問分野です。この類縁関係とは個体や種の進化過程を表したものであり、系統樹として
示すことができます。生物に見られる多様な特徴は進化によってもたらされたものであり、系
統学ではそのような特徴の分化パターンを系統樹上で明らかにします。また、系統樹は分類
体系の再構成にも利用されており、近年では、形態情報だけでなくDNA情報が頻繁に用い
られるようになってきています。
系統地理学は、生物の系統・血統の地理的な分布がどのように形成されてきたかを研究す
る分野で、生態地理学とともに生物地理学を構成する研究分野です。DNA塩基配列の比較
研究によって近年10年余りの間にこの分野は飛躍的に進み、様々な生物で種の形成の歴史
を詳細に知ることができるようになってきました。さらに、DNAバーコーディングと呼ばれる
DNAの一断片の短い塩基配列を調べることで、種を同定することを目指すプロジェクトに
よって、多くの生物のDNA情報が蓄積し、互いに比較可能になってきました。
集団遺伝学は生物進化の機構を解明するのがその主たる目的の学問分野です。生物の進
化を「集団の遺伝子の頻度変化」ととらえることで、あらゆる生物の進化の問題に取り組む
ことができます。最近では、人を含めた様々な生物でDNA配列多型の解析が進められ、次
世代シークエンサーを用いた大規模な配列解析も行われています。集団遺伝学は生物の遺
伝的多様性創出や維持のメカニズムの理論的基盤となる分野であり、DNA配列多型データ
を用いた進化研究に様々な解析方法を提供しています。
行動生態学は、進化という観点から、動物の行動や生態、社会を考察する学問で、進化生
態学や社会生物学と呼ばれることもあります。行動生態学では、さまざまな種を対象にした
実証研究、現代遺伝学の知見、数理モデルによる検証などを通して、かつてダーウィンが提
唱した自然淘汰や性淘汰の概念を拡張し、科学的に理解することを可能にしました。
九州大学大学院 地球社会統合科学府
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群集生態学とは群集を構成する生物種間の相互作用(寄生-被寄生、捕食-被食、相利共
生など)を調べ、群集の安定性などの属性を抽出することにより、群集の構造と機能を解明
する学問分野です。この分野は分類学や生物インベントリー科学とも密接に関連し、その成
包 括 的 生 物 環 境 科 学 コ ー ス
果は保全生物学にも活かされます。
英語のinventoryはもともと「財産目録」のことで、商業では「棚卸し」を、また情報工学
では情報機器を集中管理するための「資産情報」をさしますが、生物学では「ある一定の地
域に生息する生物の総体を、種数や個体数を反映させた目録として記録する総合的な調査
研究」と定義されています。つまり生物の総体を、分類目録および生物相の解明を柱として、
個体群動態やエコシステムなどの生態学的様相、そして最新の進化生物学や系統地理学の
データを加えて総合的に判断する、生物の「総合記録科学」とでもいうべきものです。
地球規模での生物多様性の急速な減少が叫ばれる現在の状況にあって、保全生物学はよく
「締め切りのある分野」と呼ばれます。それは保全生物学が科学的な視点に立って生物の多
様性に対する人間活動の影響を明らかにするとともに、生物多様性を保全する実際の方策
を検討・発展させることを目標としているからです。この目標を達成するために、保全生物学
は、遺伝学や進化学、分類学、生態学などの基礎生物学分野を中核として、社会・経済学分
野を含むさまざまな学問分野の成果を応用しつつ発展してきました。
ヒトと環境との関係を扱うほか、さまざまな空間スケールにおける分布、距離、密度など
現象の空間的側面に焦点をあて、人間活動や社会の特性を明らかにする学問です。空間分析
に関しては、近年GISとそれに関連する地理情報の整備により研究の可能性が大きく変わり
ました。こうしたツールを用いつつも、人類の環境適応から現代の地球環境問題まで、きわ
めて広い研究対象を持つのも地理学の特徴のひとつです。
東南アジアを中心として熱帯諸国を中心に、森林と環境の相互関係について明らかにして
いく学問です。とくに森林やその周辺地域の農地・土地など自然資源管理のあり方を、その
地域で生計を営む地域住民に対するフィールドワークだけではなく、文献調査や政策研究と
いったデスクワークも行い、総合的なアプローチで解明していくことが特徴です。
環境政策学とは、種々の環境問題のメカニズムを解明した上で、これらの問題に対して有
効な政策手段を研究する学問分野です。これらの環境問題には、環境汚染、環境破壊、環境
劣化等が含まれ、これらに対して、理学、工学、経済学、法学、公共政策学等の多角的な視点
からアプローチし、実際に、どのような政策手法が実施可能かをまず考え、あるべき未来像
とその未来像を実現するために必要かつ最適な方策を示すことを目的とする問題解決型の
研究分野の一つといえます。
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九州大学大学院 地球社会統合科学府
包括的生物環境科学コース
~世界がフィールド。こだわりとオリジナリティのある研究を!~
地球環境問題が人類全体の問題として捉えられるようになり、多くのメディアで世界の危機的状況が伝えられる
中、
“生物多様性”
“環境問題”に関心をもつ人も増えつつあります。環境問題の多くが人間活動に起因する以上、こ
の問題を解決には、自然科学分野の研究だけでなく、環境と人間の関わりも含め多角的な視野をもって問題を捉え
ることが必要になります。本コースでは、学生のみなさんにそれぞれの研究の主軸となる分野の知識を深めるだけで
なく、生物学、地理学、政治学など幅広い分野の学問の基礎知識や理論を学べる機会を提供しています。もうひと
つ、重視しているのは、現場主義と対象へのこだわりです。研究にとって大切なのはオリジナリティです。オリジナリ
ティのある研究をするためには、自らの発想を大切にして研究を構想するとともに、フィールドに足を運び自ら対象を
観察してデータを集めることが不可欠です。フィールドワークを通じ、複雑な事象の中に潜む問題を発見する観察
力、想像力、洞察力を養い、問題を顕在化するために必要なデータ収集、分析のスキルを養ってもらいたいと考えて
います。
年間を通じて行っている総合ゼミでは、本コースを担当する教員、大学院生、博士研究員が集まり、それぞれの研
究について議論をかわします。ときには厳しい意見もあると思いますが、客観的に自分の研究を見つめ直すことがで
き、ときには新しいアイデアにもつながります。これまでも私たちの研究室で学んだ多くの学生が、世界中のフィール
ドにでかけ、重要な研究成果を挙げてきました。修了生の中には大学や企業、独立行政法人の研究施設などで実際
に研究職に就いた方を輩出しています。進化とは何か、あるいは種とは何か、実際に種をどのように分けるのがよい
かといった生物哲学に関わるような問題から、環境政策の実現可能性や地球環境の未来像を構想する問題解決型の
研究まで、生物多様性と環境、環境と人類から広がる多彩な興味を育みながら、自立したオリジナリティのある研究
者を育成したいと考えています。
伊都キャンパス多様性ゾーンでの学生による
インベントリー調査
包括的生物環境科学コースは、生物学の諸課題に主な焦点をあてながらも、同時に生物圏のなかの人間と
いう存在にも注目し、現代の環境問題や、人間とその他の生物との共存、人類の環境適応といった「人間く
さい」諸問題にも取り組むことができるコースです。生物学、地理学、森林科学などの学問分野のぶつかり
合いによって、従来はなかった独創的な研究が生まれることが期待されます。
また、本コースでは、3名の教員を独立行政法人国立科学博物館から迎えてい
ます。日本では数少ない「生物インベントリー科学」分野の専門家です。希望
すれば、同博物館の研究室で博物館の標本や資料を使って、研究を進めるこ
ともできます。大自然のなかで生物の系統分類や生物地理、行動や生態など
を研究したい人、生態系の保全に取り組みたい人、人と環境の関わり、環境政
策を学びたい人など、自ら積極的に研究していこうという意欲にあふれた方は
大歓迎です。私たちと一緒に研究生活を送りませんか?
国立科学博物館の鳥類標本庫
九州大学大学院 地球社会統合科学府
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国 際 協 調・安 全 構 築 コ ー ス
国際協調・安全構築コースでは、地球社会の安全という観点から、
公正で持続可能な世界の実現に寄与すべく、理論的、歴史的、ならび
に実践的な研究や教育を行っています。
現代世界のさまざまな問題に着目し、それをいかに解決し、公正か
つ平和で持続可能な世界秩序を実現していくか。本コースが重点を
置くのは、そうした「問題解決型アプローチ」です。人間社会はもとも
と多くの要素が絡まる多面的なものですし、特に、現代社会は非常に
著名な東アジア研究者、ハーバード大学 名誉教 授の
複雑化しています。それゆえ諸問題の解決のためには、様々な学問分
E・ヴォーゲル先生を囲んで(2013年9月)
野の連携や統合的知識が必要となってきます。
例えば、ある東アジアの新興国の産業を発展させ、豊かで平等な
社会を建設するという目的について考えてみましょう。この課題の実
現のためには、経済学や経営学だけでなく、その国の政治や福祉のあ
り方についても学ぶ必要があります。また、歴史や文化も関連してき
ますし、近隣諸国との国際関係に関する知識も必要です。科学技術
や環境について知ることも求められるでしょう。
それゆえ本コースで行われている研 究や 教 育は、詳しくは次の
「コースの研究」の項目をみていただければわかりますが、学問分野
ヴォーゲル先生のセミナーで、日・中への留学経験を
報告する元留学生OGと日本人院生
でいえば、政治学、国際政治学、公共政策学、福祉政策学、経済学、
産業経済論、地理学、科学技術論など多岐に渡っています。
また現代世界の問題について深く掘り下げるためには、複合的な
アプローチが求められる場合が少なくありません。つまり、さまざま
な理論や方法を学び、身につける必要があります。ある問題の解決
のためには、何よりまずその問題をよく知らなければなりません。
たとえばその問題を取り巻く具体的状況を知るには、フィールド調
査の方法を学ぶ必要があるでしょう。背景となる歴史を学ぶには、
それに関わる歴史資料を探索し、適切に評価し用いる能力が求めら
れます。また、その問題をいかなる方向に解決していくか適切に考
報告を聞きながら笑みをこぼすヴォーゲル先生
察するためには、多様
な哲学や思想、理論に
も親しむ必要があるかもしれません。
本コースでは、多様な学問分野、ならびにその有機的連関を学ぶこ
とができると同時に、具体的な社会調査の方法論から、文献や歴史資
料を扱った研究、加えて哲学や思想、規範理論に至る幅広いアプロー
チの方法を身に付けることも可能です。
中国と北朝鮮の国境地帯にある延吉高新技術産業開発
区の調査の際に(2014年8月)。調査に同行した大学
院生の李商益君(阿部康久先生提供)。
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九州大学大学院 地球社会統合科学府
国際協調・安全構築コース
~地球的視野から、公正で持続可能な世界秩序の実現を目指す~
「地球社会の安全という観点から公正で持続可能な世界の実現に寄与する」という理念のもと、各教員は、それぞ
れの分野で活発に研究を行っています。
「公正で持続可能な世界秩序の実現」のためには、
「公正」
「平和」
「民主主義」
「人権」な
どの規範的理念や思想、あるいはそれを体現した政治制度の研究が必要となってきます。
岡崎晴輝は市民自治や民主主義の理論や制度の研究を、施光恒はナショナリズム研究や
グローバル化と自由民主主義の政治との関係性についての研究を、それぞれ行っています。
大河原伸夫は、
「政治的言語」や「政治研究の言語」など政治や政治学と言語との結びつ
きについて探求しています。
清水靖久は、非暴力や不服従や民主主義などの理念の実現とその困難をめぐって日本政
治思想史を研究しています。
国際政治学や世界の各地域の政治や歴史に関する研究も、活発になされています。
松井康浩は、旧ソ連の市民・知識人による人権擁護活動とその越境的な影響を、冷戦体制
の変容およびグローバルな人権規範の確立の観点から分析しています。
益尾知佐子は、中国外交を研究しています。対外政策決 定をめぐる中国国内政治の変
動や、中国台頭をめぐる国際政治について分析しており、東アジア冷戦史にも関心があり
ます。
山尾大は、イスラーム主義を掲げる社会運動や紛争と国家建設に着目して中東地域の政
治や国際関係について研究しています。
稲葉美由紀は、ソーシャルワークと社会開発の視点から多様化・複雑化する福祉課題につ
いて、エンパワーメント実践、社会的包摂に向けた貧困予防と対策、地域福祉(コミュニティ・
プラクティス)、ジェロントロジーに焦点を当てて研究しています。
吉岡斉は、現代科学技術史、および科学技術政策を専門にしています。研究の主たる対象
分野は核エネルギー(原子力)ですが、特に、原子力問題では長年にわたり政府の審議会委
員を務めるなど研究だけでなく政策形成の現場でも第一線で活躍しています。原子力問題
以外にも、科学技術の歴史と政策について幅広く研究を進めています。
九州大学大学院 地球社会統合科学府
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現代世界の諸問題を考えるうえで、経済学や産業論の観点を欠かすことはできません。
阿部康久と堀井伸浩は、それぞれ地理学、産業経済論の観点から、成長著しい中国経済を
国 際 協 調・安 全 構 築 コ ー ス
分析しています。阿部は、電子部品・自動車部品などの日中間での国際的取引・生産分業や
製品流通に関する研究、および海外に留学・就職した日本人と中国人学生の動向や意識につ
いての研究を行っています。
堀井は、中国のエネルギーや環境産業に関して、産業経済論の枠組みとフィールドワーク
を用いて探求しています。
三輪宗弘は、経済、軍事、技術を絡めながら、エネルギー資源の観点から、特に第二次大
戦期の日米関係に焦点をあて、一次資料に基づく研究を展開しています。
~現代世界の問題解決に寄与する「統合的学際性」を備えた人材の育成~
国際協調・安全構築コースは、公正で持続可能な世
界の建設のために、ローカル、ナショナル、グロー
バルの各レベルで活躍しうる専門知識と幅広い視
野を兼ね備えた職業人の育成を目指します。なら
びに、各分野の第一線で学究を究めつつも、自身
の研究の他の学問分野との関わりや社会的脈絡を
見失うことのない統合的知性を備えた研究者の養
成も目的とします。
本コースには、大学院生の基礎的な研究能力の
向上と、それぞれのテーマに即した高度かつ実践的
な研究の進展をサポートする教育体制が整えられ
協定校の中国・華東師範大学との学術交流会
ています。
基礎科目の「国際協調・安全構築論」では、地球
社会の安全という視点を念頭に置きつつ、政治学や経済学、地理学、科学技術論、政策学などそれぞれのディシプリ
ンの大学院レベルの研究の基礎を身につけます。
他のコースでもそうですが、本コースでも一人の大学院生に対して、3人ないし4人の教員が「指導教員団」を組織
し、指導に当たります。指導教員団には、それぞれの研
究テーマに応じて、他コースの教員を加えることももち
ろん可能です。
各学生は、主に指導教員団に指定した教員が担当す
る「演習」
(教員が個人で担当)や、
「総合演習」
(複数
の教員で担当)を受講します。そこでは、各々の研究テ
ーマに即した研究の方法論や最新の学界動向などに
ついて学ぶことができます。また学生各自の研究につ
いて、助言や批判を受ける場ともなります。
英国の政治哲学者D・ミラー氏(オックスフォード大学教授)を招いたセミ
ナー後の懇親会で
26
九州大学大学院 地球社会統合科学府
国際協調・安全構築コース
そのほかに、修士課程、博士課程ともに、学生は、主たる指導教員の担当するものを中心に「個別研究指導」を受
け、修士論文、博士論文を執筆していくことになります。
修士課程の学生は2年目の夏に、また博士課程の学生は3年目の夏に「中間発表会」に臨み、そこで報告すること
により、研究の方向性や進捗具合について指導教員団の各々からチェックを受けます。
前身の比較社会文化学府時代のものですが、本コースの教員が過去に指導した修士論文や博士論文のテーマに
は、たとえば次のようなものがあげられます。
「地方都市における中国人元留学生の就業状況と継続意志--福岡県を事例にして--」
「中国自動車産業の発展にともなう発注方式とサプライヤー分布の変容-吉利汽車を事例として-」
「吉野作造の民本主義の形成と展開」
「『ネット右翼』現象から読み解く日本における新しい保守志向」
「科学技術史観点からみた韓国における優生思想史」
大学院の演習の後の一コマ
国際協調・安全構築コースには、多くの魅力があります。いくつか取り上げてみましょう。
例えば、これまで述べてきたように問題解決型アプローチをとり、既存の学問分野の枠に留まらない学際
的研究が進められる点です。複雑化した現代世界の諸問題は、政治学や経済学、地理学といった既存の一つ
の学問分野ではなかなか論じきることができません。また理論研究(文献研究)だけ、あるいはフィールドに
即した実践的研究だけといった限定的アプローチでは立ちいかず、複合的なアプローチをとる必要が生じる
場合が少なくありません。本コースでは、多様な学問分野やさまざまなアプローチを柔軟に学び、身につける
ことが可能です。
第二に、各分野の研究の第一線でそれぞれ活躍する個性豊かな教員が揃っていることです。複雑な現代世
界の問題を理解し考察するためには、ものごとを多面的にとらえる必要があります。本コースでは、様々な経
験を持ち、多様な考え方や強みを持つ教員の授業や研究指導を受けることが可能です。また実際に政策形成
の現場に関わっている教員や、論壇で積極的に発言している教員もおり、各自の研究の社会的意義を検討す
る機会にも恵まれています。
第三に、これは地球社会統合科学府全体にいえることですが、教育・研究をサポートするしっかりとした体
制が整っていることです。チュートリアル制度、指導教員団制度、
「ポートフォリオシステム」
(研究の進展具
合をオンラインで管理するシステム)、
「学会報告支援事業」
(学会報告の際の旅費等の一部経費を助成する
制度)などがあります。
この他にも、各教員がそれぞれ独自に教育上の工夫や取り組みを行っておりますので、各教員に直接問い
合わせてみて下さい。
九州大学大学院 地球社会統合科学府
27
社 会 的 多 様 性 共 存 コ ー ス
私たちが生を営むこの世界は、さまざま
なレベルの社会から成り立っています。それ
は地域、地方、国家といったレベルから、さ
らに経済圏、文化圏、そして地球社会のレベ
ルまであります。より広域的で抽象的な社
会ほど、その中に多様なレベルの社会を複
雑に含みます。それだけではありません。ど
んなに小さな社会でも、それは何ほどか多
様な人びとや集団によって構成されていま
す。社会的多様性とは、このように、さまざ
まなレベルの社会を構成する人びとや集団
のあいだにあるジェンダー、セクシュアリ
ティ、
「人種」、エスニシティ、文化、宗教、階
級、年齢などを指します。
グアテマラ共和国・マヤ系(カクチケル語系)の一家族
どの社会で、社会的多様性のどういった
側面が、どういった意味で顕在的になるかについては、
現実的にはいろいろな形があります。ある人びとにとっ
ては意味がない特徴や差異が、別の人びとにとってはと
ても重要な意味をもつようなことも起こります。社会的
多様性は、さまざまな思想や文化の交流を促して社会
の活力の源になることもあります。しかし一方で、それは
自他のあいだに境界線を引いて、権力や社会的資源を
奪い合うような紛争の源になったり、人権に関わるよう
な問題を引き起こしたりすることもあるのです。人文社
会科学の多くの課題は、個人のアイデンティティ形成か
ら、社会の不平等構造の問題まで、このような社会的多
様性をめぐるダイナミズムとそれを司る社会の仕組みに
軍艦島(三菱端島)への上陸見学にて
関係づけて、理 解する必要があるのです。グローバリ
ゼーションが世界の隅々まで浸透してきている現代社
会においてはとりわけ、社会的多様性は複雑な様態をと
り、また、急速に変化しますので、個別の学問の枠を越
えた取り組みが必要となっています。
本コースでは、経済学、社会学、ジェンダー研究、文化
人類学、カルチュラル・スタディーズ、社会思想等の学問
分野を足場にして、それらの学問分野の諸理論や分析視
角を柔軟に織り交ぜながら、多角的に社会的多様性の
様態を解明します。そして、社会的多様性が相克的な対
立・抗争・差別ではなく、互恵的な共存の基盤となるよ
うな、新たな理論と未来構想を提案していきます。
変わるジェンダーと家族のあり方「パパ、ぼくもワンピースを着てもい
い?」
28
九州大学大学院 地球社会統合科学府
社会的多様性共存コース
以上のコースの特色を生かして、本コー
スでは、人類存立の基盤を、社会的多様
性の互恵的な観点から分析し、それらの
共存する未来像を構想するために、人文
社会科学の総合化を牽引する研究者の育
成をめざします。また、そうした分析・構
想をグローバルならびにローカルなコン
テクストで活用すべく、総合的な課題発
見・調査・検証・解決の能 力を備えた高
度専門職業人の育成をめざします。
ぜひ皆さんも社会的多様性共存コース
に足場をおいて、私たちと一緒に、互恵的
な共存の基盤としての社会的多様性を探
求していきましょう。
原爆ドーム、秋葉原ホコ天、アニメフェア、コミケ。社会の論理(Sociology)は我々をどこ
に導こうとしているのだろうか
アマゾンでの祭り(左) 住友重機械工業(株)製の護衛艦(中) 現在も残るベルリンの壁(右)
~いきもの、環境、ヒトからひろがる多彩な興味を育てる~
もしもあなたが就職に失敗したら、自分は何がまずかったのか、と考えてみることになるだ
ろう。しかし、クラスの半数が就職できていなかったら、それはたぶん「あなた」の問題ではな
い。
「不況」かもしれないし、
「大学の教育課程が社会における求人と一致していない」という
問題かもしれない。問題は個人を超えたところ、
“社会”にある。社会学は、個人の日々の行
動、暮らし、考える事と、
“社会”の関わりを追求する研究である。三隅一百は、数理モデルを
軸に社会の論理・法則性を、直野章子は人々の記憶を通して戦争と平和の問題を、そして性差
別の問題を、杉山あかしは大衆文化、
マス・コミュニケーション、情報化といったものの分析を
通して新たな公共圏のあり方について、研究しています。
九州大学大学院 地球社会統合科学府
29
文化人類学は、
(しばしばテクスト分析と対立的に構想された)フィールド調査を手法と
し、
(海外の小規模社会を単位に)異文化を描写し、理解する学問であるといわれてきまし
社 会 的 多 様 性 共 存 コ ー ス
た。このイメージは、けっして間違いではありません。しかし、そのようなイメージに加えて、
本学府では、文化人類学の最終目的を異文化理解に限定せず、自己の世界に対する認識を
刷新するために必要な批判的精神の涵養においています。つまり、研究対象とは何か、対象を
どのようにして分析、解釈するか、分析、解釈の主体である文化人類学者の社会的、歴史的
被拘束性とは何か、という一連の反省を含め、学問に内在する暗黙の前提に挑む精神を育成
することです。本学府のカリキュラムをとおし、文化人類学と親しみ、思考の殻を破る喜びを
体験してください。
人々が社会生活を送る中にあって、経済的な側面は欠かすことができない要素です。そ
して経済社会には、大企業と中小企業、出資者と経営者と労働者、正規労働者と非正規労
働者、男性と女性、政府や中間組織などの多様な主体がおり、それぞれの行動によってドラ
スティックな変動が起こり続けています。本コースの経済パートでは、経済史学・経営史学
の手法に基づきながら、経済的事象、経営的事象についての分析を行っています。皆さん
が研究テーマを選ぶときは、経済・経営に関する実証分析であれば、時代やテーマを細か
く限定することはありません。しかし、経済学・経営学に関する論文執筆のためには豊富な
データが必要になります。大学院生の期間に、データ蒐集し、それを分析する手法を身に付
けましょう。
現代のグローバル化する世界のなかでは、エスニシティー、文化、宗教、ジェンダー、セク
シュアリティ、
「人種」、階級などさまざまなインターセクショナルなカテゴリーが、個人や社
会のあり方を形成し、変容させています。これらのカテゴリーがいかに社会的関係性を構築
しているかを分析し、そこに潜む問題を明らかにしていく必要があります。そのためには、現
代社会における理論的分析のみならず、思想史的な研究も必要となります。本コースでは、市
民社会における自由と平等や、公共的なものと私的なものの分離やその構築性を、思想史上
の問題、また、ジェンダーや人権などの問題として取り扱いながら、社会的多様性共存の途
を、政治思想・ジェンダー理論の観点から追究していきます。
アトランタにあるコカコーラ博物館の入り口
30
九州大学大学院 地球社会統合科学府
社会的多様性共存コース
~鋭い現場感覚と豊かな共感能力をもって互恵的社会を構想できる人を~
社会的多様性にはさまざまな側面があり、学問的な切り口も多様です。けれども、そこにおいて互恵的な共存の基
盤としての社会的多様性を探究するときに、共通して求められる素養があります。それは、現場感覚と共感能力で
す。これらの素養はただ本を読んだり、考えたりするだけで身につくものではありません。フィールドに出かけて当事
者の人たちの視点や語り方を学んだり、データを精査して隠れた事実や意味を見いだしたりする営みが重要です。さ
らに、そうして得られた知見について、考え方や見方の異なる人たちと議論することが重要です。本コースは、このよ
うにフィールドに根ざした学生の皆さんの研究を支援し、ゼミや個別の研究指導を通して、鋭い現場感覚と豊かな共
感能力を育成します。
本コースの教育の基軸になるのは、個々の教員が担当する演習科目と個別研究指導科目です。構成教員の学問分
野は、経済学、社会学、ジェンダー研究、文化人類学、カルチュラル・スタディーズ、社会思想等です。これらのゼミを
通して学生の皆さんは、上記の素養とともに、研究の主たる足場とする個別的な学問分野について基礎理論と調査
研究方法論をしっかりと学び、社会的多様性の問題に関わる対象とアプローチを定めていきます。これらの科目は個
別専門的ではありますが、社会的多様性の問題に焦点をおくことで互いの関係づけを考慮し、また、共通科目や基礎
科目とも関係づけて相対化した視点を重視します。加えて、学生の皆さんはサブコースの学習もありますので、幅広
い視野から専門を学ぶことができます。こうした幅広い視野は、より直接的には「総合演習(社会的多様性共存コー
ス)」を通して培われます。本コースの総合演習は、部分的に経済・社会・思想の3パートに分割しながら、構成教員
が全員参加して個別分野横断的な議論を行います。
本コースの学問分野(平成25年度までは比較社会文化学府)ではコンスタントに博士の学位取得者を出しており、
そのほとんどが国内外の大学で教員または研究員とし
て活躍しています。また、修士修了者のみならず博士修
了者を含めて数多くの人が、高度専門職業人としてさ
まざまな産業分野で活躍しています。今後は地球社会
総合科学府における社会的多様性共存コースの履修と
いうことになりますので、新たなアカデミック・ポジ
ションを開拓するとともに、多様なキャリアパスを切り
開いていくための絶好の契機だと期待しています。そ
のためにも教員スタッフ一同、全力で教育指導にあた
る所存です。
ソフトバンクホークス優勝時の筥崎宮
皆さんの身近な環境から遠く離れた地球の裏側まで、世の中には多様な人々がいます。そして、そこにいる個
人や集団には様々な属性が付与されています。社会的多様性共存コースでは、社会学・文化人類学・経済学・
政治思想・ジェンダー研究といった手法に基づきながら、それら属性を考察することも出来れば、それら属性
と他の属性との関係性を分析することも出来ます。
社会には、多様な人々や集団が共存しているからこそ、豊かであり、魅力的であり、影響を受けあい、変化をし
ていきます。まただからこそ、対立し、憎しみ合い、反発し、他者を自分たちに従わせようとします。そして社
会的な多様性が様々な反応を生み出すからこそ、我々はそれをより深く知るために探求してみたいという欲
求に突き動かされます。
本コースにいる教員も大学院生も、好奇心に満ち溢れた人々ばかりです。当然、その好奇心の方向性は千差
万別ですが、お互いの興味関心を尊重し合い、総体として多様な社会をより深く、より精緻に、より説得的な
視角で理解しようと努めています。世の中をもっと突き詰めて知ることができる、それが本コースの最大の魅
力です。
九州大学大学院 地球社会統合科学府
31
言 語・メ デ ィ ア・コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン コ ー ス
このコースでは、日本語・外国語・文芸・メディアに関する研究を行い
ます。そこから様々な問題が提起されます。文化の基盤をなす言語的・
非言語的コミュニケーションに関わる諸問題、異文化間の相互理解に関
わる諸問題、現代社会における情報伝達・コミュニケーションをめぐる諸
問題などです。それらを複眼的・総合的視野のもとに把握し、より豊か
なコミュニケーションのあり方を提案する能力の修得をこのコースは目
指しています。
メディアが 高度に細分化した現代において、情報伝達に関する知識は
不可欠であるばかりでなく、社会的共存に不可欠な相互理解の基盤であ
留学 生の 家 族 の日本 語クラス・日本 語ひろば
い としま 交 流 会( 日 本 語 教 育 実 習 の クラス 、
2013 年 度 前 期 )
り、未来のコミュニケーションのあるべき姿を模索することは、地球社
会レベルにおける異文化間の共生において重要になっています。これは
言語を媒介とする日常的なコミュニケーションにとどまらず、詩や小説、
映画、マンガ、アニメ、ドラマといった分野においても当てはまります。文
化が国家という枠を越えて受容されるプロセスは、現代だけでなく古い
時代からもみられる現象であり、こうした点を学際的に理解しているこ
とが求められています。
コースは主に「言語」と「文芸」、大きく二つの分野を専門とする教員
日 米 交 歓 ディベ ート:於 九 大 伊 都 キャン パ ス
(2013)
から構成されています。それぞれのフィールドにより調査方法は様々で
す。言語コミュニケーション・言語教育分野では文献調査のみならず、教
室活動や実践的活動の参与観察などを行うフィールド調査、国内外にお
ける各言語の母語話者や学習者を対象としたアンケート調査やインタ
ビュー調査、実験的調査、オーラルヒストリー研究、言語データベースや
談話資料等を使った計量的調査、談話分析等、幅広い分野にわたる調査
手法が用いられています。文芸分野では文庫ですぐに読めるような文芸
作品はもちろん、インターネット、古文書を通したテキストの講読、国内
言語・メディア・コミュニケーションコース
外の図書館、文学館、資料館などへの調査が主となり、日本、アジア、欧
言語教育セミナー『OJAD(Online Japanese
米の広範にわたる言語文化のあり方について検討します。
於九大西新プラザ(2014)
Accent Dictionary)とそれを用いた音声指導』
:
博士前期(修士)課程では、それぞれの研究課題に取り組むにあたっ
て、複眼的視野でコミュニケーションをとらえる能力を養うことに特に力
点を置いています。博士後期課程では、コミュニケーションについての総
合的理解に基礎を置いた斬新な視点からの研究を完成し、国際的に発
信していくことを主眼としています。
「中国の偉人・歐陽脩
(1007~72)の96篇書簡の発見」
( 国宝『歐陽文忠公集』
より)
」
「研究会・セミナー・学会誌の例
(文芸系)
」
32
九州大学大学院 地球社会統合科学府
言語・メディア・コミュニケーションコース
~より豊かな相互理解を実現するコミュニケーションのあり方を探る~
議論法は真理を探究するために問題を分析し、発見した蓋然的真理を伝達し擁護してい
く過程を指します。ディベートは議論法の一形態であり、対立する意見と理由を比較検討し
第三者が意思決定を行う方法です。そういった議論の諸相を研究するのが議論学です。
語用論とは言語を使用場面と関連づけて行う研究ですが、時制と相の研究のように意味論
に近い領域から、ポライトネス研究のように社会言語学的な領域まで広範囲に亘る研究を
行っています。
人間の認知と言語の関係、特に、時間に関わる言語の諸現象を研究しています。専門はス
ペイン語ですが、最近は日本語のように、スペイン語とは系統、類型ともに異なる言語にま
で対象を広げています。
日本語教育学の領域は幅広いですが、特に近年は「他領域との協働」
「社会参加」
「実践か
ら理論への還元」をコンセプトに、地域社会作りや社会の相互理解に資する実践研究や教
育研究を行っています。
人が最初に習得する言語(第一言語・母語)以外を広義には第二言語と言います。例えば
日本人が英語を習得したり外国人が日本語を習得したりする場合のように、第二言語を習
得する際にどのような問題があるのか、母語はどのように影響するのかを研究します。
外国語を学習する上で、マルチメディア教材は現実の言語生活を最も正確に描写できると
いう点で大きな可能性を持っています。マルチメディアを使った学習効果とは具体的にどのよ
うなもので、その効果はどこに起因するのかを研究しています。
一般に個人や社会における二つの言語を用いることをバイリンガリズムと言います。二つ
の言語を使用することは何を意味するか、言語の使用における言語と社会、文化、アイデン
ティティ、言語政策などとどう関係するかを考察します。
外国語としての英語の習得、特にライティング力の習得に関する研究を行っています。学
習者の言語的特徴の長期的な変化を質的量的に分析し、研究成果をカリキュラム開発や教
授法改善に還元することを目指しています。
九州大学大学院 地球社会統合科学府
33
言 語・メ デ ィ ア・コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン コ ー ス
中国語と他の言語、特に日本語と朝鮮語との対照、及びそれより見えてくる三言語それぞ
れの言語的特徴。現在は主に指示人称表現をテーマとして研究教育を行っています。
18世紀フランス思想を特にルソーの自伝的作品群を中心にしながら考察します。その研
究過程の中で現代にまで至る歩みを問い返しながら、現代思想の提起する諸問題も射程に
入れることを目指します。
18世紀ドイツの思想家ヘルダーの歴史哲学を当時のヨーロッパにおける啓蒙主義との関
連から考察するとともに日本におけるヘルダーの受容の問題を日本とヨーロッパの文化交流
史の中に位置づけることに取り組んでいます。
中国古典文学専攻。唐から宋にかけての文学、特に唐宋八大家の一人である歐陽脩を中心
とした宋代文学を主な研究テーマにし、あわせて日本漢字、中国少数民族(士家族)の文学
を研究対象としています。
研究分野は、魯迅を中心とした中国近現代文学、日中比較文学、台湾文学などで、また関
係文件の翻訳紹介などにも取り組んでいます。アジアにおいて文学の「近代」がどのように
獲得されていったのか、新たな視点で捉え直すことを目標とします。
日本近代文学・比較文学。とくに明治後期から大正にかけての象徴派詩人、昭和の実存主
義作家など。また、例えば作品における青色の意味といったモチーフ論、広く日本文学におけ
る外国文学の影響、翻案・翻訳なども研究対象とします。
専攻は日本近代文学研究。小説言説の特長を自在な言説編成にあると捉え、その編成の
様相を分析することで対象となる作品の共時的および通時的な位置を考えます。
昭和期のアヴァンギャルドに関する受容と変容について、安部公房を中心に研究してきま
したが、現在は、1930年代の東アジアにおけるモダニズムについて調査、検討しています。
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九州大学大学院 地球社会統合科学府
言語・メディア・コミュニケーションコース
~実践を通して、コミュニケーション能力の獲得と社会的相互理解の実現へ~
大学院全体の教育メニュー(個別研究指導や共通科目、基礎科目)のほかに、コースの教育は、複数の教員で
担 当する総合 演習と、教 員個々人 が 担 当する専門 科目から構成されています。総合 演習は、
「言 語とコミュニ
ケーション」、
「言語教育と言語実践」、
「文芸思潮」、
「表象・メディア・映像」といった主題を扱い、言語や多様
なメディア(映画、写真、マンガ、アニメ等)によるコミュニケーションのプロセスを学際的に解明します。そうし
た探求は、社会的共 存に不可欠な相互 理解を生み出す方法の開発をめざ すというコースの目標にそったものと
なっています。
コースの専門科目としては、
「言語コミュニケーション学」、
「多文化共生教育論」、
「文芸・文化交渉論」、
「文
芸・リテラシー論」などの教育メニューを提供しており、講義・演習のみならず、実践的な内容の教育手法も組み
込まれています。言語系ではたとえば、ディベート活動やテレビドラマの談話行動を分析することで、ディベート
やコミュニケーションストラテジーの指導方法を考えたり、様々な言語教育活動や人間の言語行動の分析・解明
を通して、外国語教育現場へ応用していくための実践的な方法を検討しています。そうした活動に加えて、大学
内で留学生の家族を対象とした日本語教室を開設し、実践から理論への統合をめざす日本語教育実習を実施し
ています。文芸系では、将来大学教員や文学館学芸員などを目指す際に必要なスキルを獲得するため、文献調
査や総目録の作成、各種雑誌の編集に関わる他、海外の部局間交流協定校と進める共同研究や、各種学会・研
究会の企画・運営にチャレンジすることになります。また、
「フィールド調査実習」が 新たに科目として設定され
ていて、たとえば、韓国釜慶大学 校で実施している日本語教育実習も「フィールド調査実習」の履修単位として
認められるようになりました。
日本語教育実習クラス
総合演習授業
本コースでは、人類共通の未来構想のためにはコミュニケーションを通して相互理解を深めることが重要で
あると考え、広義のコミュニケーション研究(文学・外国語学・日本語学・言語学・人文社会科学)の総合化を
牽引する研究者や、そうした方法を様々な現場で適切に実践すべく、総合的な課題発見・分析・解決能力を備
えた高度専門職業人の育成をめざしています。
修了者の多くは、国内外の大学、高等学校、日本語学校、国際交流基金、日本国内の大手企業や海外の日系
企業などに就職して活躍しています。言語・メディアの研究を通して、自分の関心に即したさまざまな領域へ
と進んで行くことで、将来の自分にとって必要となるコミュニケーションのスキルを習得してもらいたいと思
っています。
九州大学大学院 地球社会統合科学府
35
包 括 的 東 ア ジ ア・日 本 研 究 コ ー ス
本コースは、東アジアの歴史・社会・環境を包括的に究明し、東アジアの経験から人類社会の未来を構想すること
を目指しています。時間軸の幅としては人類の黎明期から現代まで、地域の幅としては日本を含む狭義の東アジア
地域だけではなく、東北アジア、東南アジア地域も対象にして、様々な方法論と視点から、地域の特徴と課題を解明
していきます。日本を含む東アジアの歴史や社会、環境について研究したい方や、この地域が現在抱えている諸課題
の解明と解決に関心がある方の受験を歓迎いたします。
このコースの最大の特徴は、学問的方法論ではなく「地域」を基盤にコース編成がなされていることにあります。
「地
域」を理解し、抱えている課題にこたえるためには、単一の方法論を身につけるだけでは十分ではありません。本コー
スでは東アジア地域を理解する上で基礎となる生態環境や歴史、政治や経済、社会の特性に関する知識を提供するだ
けではなく、文理の枠を越えて様々な方法論とアプローチから研究対象を分析する力を涵養します。このコースでは、
東アジア地域をベースに包括的な地域研究を牽引し、その成果を国内外に発信する能力を持った人材を養成するだけ
ではなく、この地域が直面している諸課題にたいして適切な処方箋を提供できる専門家を育成します。
コースAでは、総合人類史論をテーマとし、進化・環境・時空間多様性などをキーワードに、考古学分野を中心とし
て形質人類学など、文理を越えた多様な関心を含みこんだ総合的な人類史研
究について、具体的な方法論を提示し、研究の基盤となる視点を涵養します。日
本を含む東アジア諸地域の自然環境・社会環境と先史時代以来の歴史的特質
を融合的に修得することで、東アジア・日本における文化動態の基層についての
理解を深め、多元的な関心を培います。
コースBでは、日本を含む東アジアの歴史を、この地域に通底する共通性を
福岡県大刀洗町高樋辻遺跡の調査
意識しながら分析しています。具体的には、明治維新が日本や東アジア地域に
もたらしたインパクトや、帝国主義の問題、植民地統治、地域での人の交流など
をテーマに、東アジア地域の近現代と、その前史としての歴史過程を、歴史学や政治学、民俗学、地域研究などの方
法論を駆使して研究しています。このコースではまず、歴史研究の基本となる資料の分析方法や論理構築方法などを
身につけたうえで、東アジア地域共通の歴史的特性と、地域内の国や社会が持つ
特徴を理解することを目指します。そして東アジアの歴史過程を多元的に研究す
ることで、この地域を中心に生起する諸問題の本質を理解し、課題を的確に把握
する視座を養います。
コースCでは、日本を含む東アジア、東南アジア地域が現在直面している諸問
題を、多様な方法論を駆使して探求しています。国境を超えるヒトやモノ、カネ、
情報の流れが加速しているアジア地域では、ナショナリズムや宗教、感染症、観
光、移民労働、開発、ポップカルチャー、都市化、政治体制の在り方などのさまざ
台北市のリトルマニラのフィリピン人向
け食料品店。
まな問題が、相互に連動しながら生じています。これらの問題の本質をとらえ、適切に対処するためには、問題の背
後にある地域レベルで生じている変動を理解すると同時に、現場レベルでの具体的な
現象を分析することが不可欠です。そこで本コースでは、現場で生じている出来事を把
握する参与観察やインタビューなどの手法と、地域レベルで生じている変動を大きくつ
かまえるマクロ・データや理論の理解力、さらには歴史的変化を追いかける文献資料分
析の能力をバランスよく身につけられるよう、政治学、社会学、宗教学、歴史学、文化人
類学、国際関係論、地域研究などの専門家が協力して学生を指導します。教員が調査経
験のある国も、日本、韓国、中国、シンガポール、インドネシア、フィリピン、タイとバラエ
ティに富んでモリ、日本とアジアを広く深く知ることができます。
ミクロネシア連 邦チュック環礁
のサンゴ礁
36
九州大学大学院 地球社会統合科学府
包括的東アジア・日本研究コース
~東アジアの過去と未来 人・モノ・環境を包括的に科学する~
考古学は過去の人類活動をあらゆる手段を駆使して復元します。主なフィールドは東アジ
アを中心としますが、過去に人類が活動痕跡を残した範囲は全て可能です。考古学の研究手
法の徹底的な習得を通じて過去を明らかにし、隣接学問分野への幅広い関心を持って、これ
までにない新たな歴史像の復元を試みます。
遺跡から出土する人骨資料の形態的特徴を把握し、対象資料の背後にあった当時の自然
環境や親族関係などの復元を行い、過去の歴史を明らかにします。本コースでは発掘現場で
の人骨資料の基礎的な取り扱い方から、整理復元作業を通じて人骨資料の報告作業を習得
し、それらを素材に人類史の復元にせまります。
人類の起源と進化、人類の多様性、人類の適応を研究します。人類が多様な環境に適応
する過程、そして人類の多様性が形成された背景にある進化のメカニズムに焦点をあて、
文化や行動も関連させて人間を理解しようとする総合的な人間科学です。骨や歯の形態か
ら人類拡散・集団の人口構造の歴史を研究し、また、人類の成長・発達・活動様式・食性・
病気/健康/衛生状態・生活環境・社会構造などを明らかにし、人類史・人類誌の復元を試
みます。
人類活動の舞台となる地形・気候・海洋などの自然環境について、その成り立ちや人の生
活との関係を研究します。ここでは地理学と地球科学を起点として学際的視点から地域を見
る目を養い、地域性の形成とその変化について探求します。東アジアは自然環境においても
きわめて特徴的な地域です。テーマを設定してフィールドワークを行い、世界の諸地域と比
較しながら地域の特徴を明らかにしていきます。
日本を含む東アジア社会の歴史的推移を主に研究していきます。具体的には日本列島史、
韓国・朝鮮半島史、東アジア地域史などとなりますが、個々の地域を特徴付ける文化動態を
深く認識すると共に、表出する差異を貫き基層を形成する東アジア的共通性についても積
極的な関心を持ち、洞察する能力を涵養していきます。
現代の地球社会が直面する諸課題の本質を把握するため、前提となる近現代の東アジア・
日本史を研究します。たとえば、日本における前近代から近代への移行を考える場合、前近
代国家・社会の特質やナショナリズムの形成という関心を踏まえ、世界資本主義の東アジア
包摂における日本の対応を明らかにし、東アジアにおいて唯一日本が近現代化に成功したこ
との意味を地球社会規模で考えていきます。また、東アジアの近現代史を考えていく上で、
植民地論は不可欠の研究課題です。日本の海外植民地を中心にして、思想、政策、行政、経
済、文化など様々な視点から、宗主国側と植民地側とを双方向的に分析し、植民地論の今日
的意義についても考えていきます。
九州大学大学院 地球社会統合科学府
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「地域研究」の目的は研究対象とする「地域」を理解することにあり、特定の学問的方法
論に偏らず、対象を理解するために必要となる学知を活用することにその特色があります。
包 括 的 東 ア ジ ア・日 本 研 究 コ ー ス
「地域研究」のもう一つの特徴は、フィールドワークを通じて自分の研究対象の「土地感」
を養い、現場でデータを収集し、分析することで研究を進めるところです。本コースでは政
治学、国際関係論、歴史学、社会学、文化人類学の学知とフィールドワークを組み合わせ
て、
「地域」を理解する視座を養うことができます。
国境を越えた人の移動を研究する移民研究は、政策や制度、送り出し国や受け入れ国にお
ける社会領域の再編成、市民権やアイデンティティ、ジェンダーや市民社会など様々な問題
と連携する間口の広い分野です。留学生、難民、労働者、国際結婚、人身売買など人はさま
ざまな理由で越境します。本コースでは、人の移動に伴う社会変容や多様な他者と共存する
ための課題や仕組みについて、理論と実証研究の双方から学びます。
「宗教」といえば、キリスト教や仏教のような伝統的宗教を連想する人も多いと思います
が、現代世界における宗教研究は、政治的イデオロギー、無意識のうちに実践されているモ
ラル、ボランティア精神や環境保全思想など、広い意味での価値観の問い直しを含みます。
文献調査やフィールドワークを組み合わせ、私たち自身を含むさまざまな立場の人々が、特
にアジアにおける現代的状況のなかで、どのように生きる意味と価値を見いだしているのか
を探究します。
さまざまな状況を生きている個々人と親しく向き合い、その人たちと同じミクロな地平に
立ち、人間の生の多様性を学ぶ学問です。同時にそこから見上げるようにして近代化やナ
ショナリズム、グローバリゼーションなどの大きな問題群にもアプローチします。本コースで
は、日本を含むアジアのフィールド調査に重点を置いて研究します。
バンコク、国王誕生日の王宮前広場
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上海、南京路の夜景
包括的東アジア・日本研究コース
~アジアを中心に活躍できるフィールド重視の専門的人材育成~
コースAでは、考古学・人類学の基礎的な理論と方法を習得するため、年度初めに大学院生全員と教員団、研究員
をふくめた構成員で集中ゼミを実施します。これまで培ってきた学問的素養をもう一度基礎から振り返り、修士課程
の学生には修士論文への道筋を、博士課程の学生には研究者としての心構えを習得してもらいます。また、コースAで
はフィールド調査を重視しており、日本国内だけでなく、海外調査のフィールド調査へ行くことができます。学生には
毎週開催される演習において、半期に1回のペースで研究報告を発表してもらいます。演習には考古学や人類学に関
連する全ての教員、研究員、大学院生が参加し、活発な質疑・議論が行われます。修了後の卒業生達は、大学をはじ
めとする研究機関の教員や研究員、また各県市町村教育委員会などに就職し、各地で活躍しています。
包括的東アジア・日本研究コースは、人類の黎明期から現代までを視野に入れた学際的な視点から、東アジア及
び日本社会の歴史と現状を解明し、それを人類の未来構想へとつなげていくことをめざしますが、コースBでは儒
教・中国仏教・漢字文化・穀食文化などの共通基盤を有する東アジアの歴史を日本列島からの視点を主軸としつつ、
前近代・近現代といった時代区分を超えて総体的に考えていくことを目指します。オムニバス形式の講義では現代に
至る東アジア・日本の歴史を一国史な視野からではなく、
(東)アジア史という枠組みなかでヒト・モノ・文化の交流
について考え、さらに近代化・西洋化の意味を柔軟に再考していきます。また、演習・総合演習では実践的な研究ス
キルの獲得を期して、問題の本質を見極める能力、課題を解決に導く能力の涵養、歴史資料分析能力の高度化・緻
密化を主眼として展開していきます。
コースCでは、ミクロとマクロ両方の視点から日本とアジアを広く深く理解する能力を養うために、基礎知識を提
供するオムニバス講義、主に政治学、社会学、文化人類学、歴史学などの文献読解力を身に付ける演習、調査を実体
験するフィールド演習、論文や発表の構想力とディベート力を培う総合演習などを行ないます。学生の関心と意欲を
尊重し、随時相談にも応じます。また、こうした調査研究に必要な能力は、実社会において知力に裏打ちされた実行
力を発揮するのに役立ちます。将来研究者を目指す人ばかりでなく、グローバルな視点で就職や起業を考えている人
も大歓迎です。
人骨実習
中国雲南省徳宏州で、路上に新築された関
キリバス共和国タラワ環礁のサンゴ礁上に
帝廟に参拝するタイ族の人々。
設置された石干見(魚垣)
包括的東アジア・日本研究コースは東アジア諸地域の社会的特質を踏まえつつ、ヒトやモノの流れ、文化交流
の歴史を原始・古代に遡って解明することを目指しています。しかしながら、単なる地域間交流史を主眼にお
いている訳ではありません。東アジア諸地域に共通する文化的基層を強く意識し、現在の国境や国家概念の
相対化を射程にいれた研究・教育を目指しています。国家の存在を前提とするインターナショナルではなく、
むしろ地球社会(グローバル社会)を構成するひとつの、それも相対的ないし可変的単位として「東アジア・日
本」が存在するという考え方です。
さらに、本コースは他の五つのコースのようなディシィプリンの融合態ではなく、
「地域」を基盤にコース編成
が成されています。その意味で全体像を意識した「統合性」への模索が不断に行われていると言えます。グロ
ーバルな枠組みと様々なリージョンという多元的な関係構造を措定・構築し、教員と学生が相互に刺激を与
え合いながら、より豊かな東アジア・日本像を描き出していけるのではないでしょうか。
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教 員 紹 介
深海底で掘削された試料の磁気を分析し、古生物学・鉱物学などの他の分野と協力しながら、古
環境変動の総合的研究を進めている。さらに岩石の磁気の分析から、過去数億年にわたる地球磁場
の変動の歴史を読み取り、磁場の成因を探る研究を行っている。また、地球の表層や内部の構造と
その変動の歴史を明らかにするため、電気・磁気を用いた観測研究や地下の水やガスの化学分析な
どにも取り組んでいる。
南極、インド、マダガスカル、アフリカ等のゴンドワナ超大陸断片や日本・東アジア各地の高温~
超高温変成岩類を研究対象とし、フィールドワークと室内実験から、40億年以上に及ぶ地球創成期
からの花崗岩マグマの生成機構や大陸地殻進化テクトニクスの研究を行っている。
生命と地球環境の関わりに興味を持ち、温泉環境での堆積物や微生物群集と、数億年前の地層
や化石を比較することで、太古の地球環境と海洋生態系について研究を進めている。また、地球温
暖化の予測計算結果の正当性を検証するために、鍾乳石に記録された過去数万年間の古気候記録
の解読を試みている。詳しくは下記HPを参照してください。
http://www.scs.kyushu-u.ac.jp/earth/kano/
専攻は地水環境全学。アジアモンスーン地域を対象にしている。本地域では水田耕作に化学肥料
が大量に投与されるが、化学肥料中の窒素成分は水中で人体に有害な形態の窒素に変化するため、
水田やその周辺域では、地表水・地下水の水質汚染が起こる。また、山地部では人口圧のために斜
面が農地として開発されるが、本地域斜面では土壌侵食がよく発生する。このような水質汚染や土
壌侵食の発生について、諸要因の影響を明らかにする研究を行っている。
地球表層部における岩石・鉱物と水との反応に関心を持ち、結晶の成長・溶解過程における鉱物
の挙動を、結晶表面と内部の両方から原子レベルで追跡している。物質表面の凹凸情報を獲得でき
る原子間力顕微鏡を用いて、鉱物の表面構造緩和等の解明にも取り組んでいる。
講師
ユーラシア大陸の東半分をしめるアジア大陸の形成過程・形成時の地球深部の物理現象を、東南
アジア地域に分布する変成岩を対象として、地質学的・岩石学的に解析している。
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教員紹介
考古資料をX線分析装置や質量分析計などの地球科学的手法を用いて定量的に分析し、物質的
な特徴を明らかにすることで、原産地や製造過程などを解明する研究を行っている。また、南極や
中央アジア(モンゴル・ロシア)などを調査対象とし、主に変成岩岩石学や放射年代学的手法を用い
て、大陸の形成・成長過程や大陸衝突域における変動現象の解明する研究を行っている。
極域、特に南極海および南極大陸を研究対象として、地形、地磁気異常や重力異常等の地球物理
学的観測をもとに、超大陸の分裂および形成テクトニクスやそのメカニズムの解明等の研究を行っ
ている。また、観測船等による現場での観測を通して研究を行うことにより、実際の個体圏環境に
関する総合的な理解を深める。
東南極大陸昭和基地周辺のリュツォ・ホルム岩体、東方のレイナー岩体およびナピア岩体に分布
する高度変成岩類の岩石学的研究が主要な研究テーマである。とくに、鉱物間の反応組織の解析
から、岩石の経てきた物理条件の変化を定量的に復元し、それに鉱物の年代測定結果を加味して、
地殻の変動履歴を明らかにすることを目指している。
南極およびその周辺地域を対象として、フィールド調査と顕微鏡による岩石記載、X線分析装置
や質量分析を用いた岩石・鉱物試料の化学分析や年代測定等の解析手法によって、深部地殻での
高温~超高温変成作用のプロセス、副成分鉱物の挙動と年代論のリンク、コンドワナ超大陸の形成
機構、太古代の地殻形成発達史の研究をおこなっている。
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教 員 紹 介
昆虫(主な研究対象は膜翅目タマバチ科)の生物地理や種分化、生物間相互作用(共生や寄生な
ど)の研究、ならびにその基礎となる生物多様性を認識する研究(系統解析・分類)をおこなってい
る。外来昆虫(主な研究対象は羽翅目ハモグリバエ科)の生態とその生物的防除に関しても研究中
である。
クワガタムシを題材に生物の進化の問題に取り組んでいる。この問題を追及するため、日本国内
はもちろん世界各国に足をのばし、野外におけるクワガタムシの生態や行動を調査する一方、飼育
による幼虫の栄養生理や生活史の解明、実験室内での形態比較、核型やDNA分析に至るまで幅広
いアプローチを試みている。最終的にはクワガタムシそのものを歴史性をもった存在として総合的
にとらえることを目的としている。
都市部における持続可能な発展の進捗状況を測る持続可能性指標の開発も視野に入れ、国内外
の地域開発論・都市政策論を厚生・環境に留意して地域構造の視点から持続可能な都市を軸として
研究を進めている。さらに総合演習と地域調査論を通じて厚生、環境、社会、経済に留意した地域
づくりに関するセミナーを開催してゆく。
遺伝子レベルにおける生物の進化機構、遺伝的変異の維持機構の解明を目標に、分子進化学、集
団遺伝学的手法を用いた研究をしています。植物、特に樹木を主たる研究材料として研究を進めて
いますが、その他にも、植物に共生・寄生する昆虫も対象とし、共進化や生物間の相互作用の進化に
ついても興味をもって取り組んでいます。
双翅(ハエ)目の分類学・系統学の研究を、形態学および遺伝情報を基づいておこなっている。特
に、ヤドリバエ科の寄生戦略に進化の解明に取り組んでいる。近年、安定同位体による双翅類昆虫
の食性分析やIn vitroによるヤドリバエの飼育技術の開発にも興味を持って研究している。
アジアモンスーン地域では、生物多様性の喪失・地球温暖化へ対応、協働型の森林管理など、さ
まざまな自然資源管理策が導入・実施されるとともに、経済・社会のグローバル化にともない、森
林を含めた自然資源の位置づけが大きく変容しつつある。東南アジア大陸部を中心に、森林とその
周辺地域における人々の暮らしおよび自然資源管理のあり方を、村落へのフィールドワーク、政策研
究や文献調査をもとに研究を行っている。
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教員紹介
地球上に存在する目に見えない
「微生物」
の世界に着眼し、
「地球環境を守る微生物の役割と応用」
を
目的とした研究を展開しています。主に、熱帯農作物の栽培環境に生息する土壌病原菌類の検出・診断
に関する技術開発や、土壌微生物の遺伝的多様性の解析に関する研究を中心に行っています。さらに
は、ベイトトラップ法による微生物診断や微生物を利用した生物農薬の開発、製紙スラッジの低温熟成
発酵のメカニズム解明およびリサイクルシステムの開発に関する研究についても取り組んでいます。
植物の倍数性と種分化および植物におけるゴール形成に関する研究を主たるテーマとし、並行し
て大学博物館の開示法や科学コミュニケーションについてユーザー感性学的な視点を組み込んだ
実践研究にも取り組んでいる。
松尾 和典
助教
寄生蜂(コバチ類やクロバチ類)の分類学的研究を基盤に、興味深い生活史や形態を持つ種、農
業害虫の防除に役立つ種を探索しています。室内での形態観察やDNA解析、野外での生態観察を
主な研究手法としています。こうして得られた成果を足掛かりにして、国内外の研究者と連携し、環
境保全や食料生産に関する課題の解決に取り組んでいます。
国立科学博物館において、蛛形類(クモ、サソリ、ダニなど)、多足類(ムカデ、ヤスデ)および無
翅昆虫類(トビムシなど)を担当し、それらの自然史科学的な研究、標本の収集・管理および教育事
業や展示の立案や実施などに従事している。近年はクモ類化石の研究や、生物多様性認識の背景に
ある分類の思想やラテン語にも取り組んでいる。
鳥類の繁殖生態や種分化に関する研究をおこなっている。近年特に、南西諸島の生物地理学的
研究や東アジアの鳥類のDNAバーコーディングに取り組んでいる。鳥類集団の歴史を遺伝子から
探り、形態学および生態学的比較検討を加えることで、日本の鳥類の集団分化と種分化を解明し、
その結果を種分類学に適切に反映させることを目指している。
日本を含むアジア産アリヅカムシ類(昆虫綱コウチュウ目ハネカクシ科)の分類学的研究を主に
行っている。アリヅカムシは森林などの土壌中に生息する微小甲虫であり、これらを含む土壌生態
系における生物多様性の研究も行っている。
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教 員 紹 介
通念的な「政治」を成り立たせている概念(あるいは概念枠組み)の批判的な検討を課題として
います。特に「力」や「集合体(組織など)」といった概念に着目しています。
2004年に九州大学に着任しました。法学研究院に所属し、大学院レベルでは、比較社会文化学
府と法学府で教育活動に従事しています。研究者としは、市民自治という観点から政治理論を再編
する仕事に取り組んでいます。私のホームページ(http://wwwl.ocn.ne.jp/̃aktiv/)がありますの
で、ご笑覧ください。
日本の政治思想史、社会思想史。主に20世紀とくに第二次世界大戦後に日本について、非暴力、
不服従、民主主義などの理念の実現とその困難をめぐって、歴史的に研究している。
政治社会史・国際関係論。1960年代後半に登場したソ連の異論派の活動とそれが作り出したト
ランスナショナルな公共圏や市民社会を冷戦史の文脈で解明するとともに、国際倫理学などの規範
的な国際関係理論に関する研究にも従事している。
専攻は経営史と軍事史である。一次資料に準拠した歴史的なアプローチで、
「エネルギー問題」
を経済と軍事の両面から切り開いていきたい。あわせて「戦争」、
「秩序」とは何かという問に正面
から向き合いたい。
専攻分野は現代史です。とくに科学・技術に関連する活題を得意としております。核エネルギーを
はじめ「ハード」な分野が得意なのですが、最近は医学・医療など「ソフト」な分野にも研究関心を
深めています。現代史の研究は政策決定の基礎であるとの信念から、原子力政策論争などにも、深
く係っています。
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教員紹介
主に中国を対象にして経済地理学的研究を行っています。具体的には、国有企業改革に伴う企
業立地と就業構造の変化や人口移動等を研究しています。また、最近では大学院生に関心にあわ
せて、中国における外資系企業の立地や留学生の人口移動とキャリア形成に関する研究も行って
います。
社会福祉学・ソーシャルワーク、社会政策、ジェロントロジー。特に、少子高齢化に伴うケアシステ
ムの構築、生活困窮の原因と予防対策、エンパワーメント実践、福祉と社会開発、ビジネス、農業、
住宅などの異分野との連携を通して、インクルーシブな社会の実現に向けた研究実践に取り組んで
いる。
政治理論・政治哲学。特に現代リベラリズム論、ナショナリズム論、人権論。今後数年間は、リベ
ラルな国家におけるナショナリティや文化などの適切な理論的位置づけ、および日本文化に根差した
「自由民主主義」や「共生」のあり方などの問題について取り組みたい。
中国のエネルギー産業分析、中国の体制移行と産業構造研究。中国の環境(大気汚染)問題の研
究。中国の産業が市場経済への移行によってどのような影響を受け、変容してきたのかについて、特
にエネルギー産業(石炭、電力)をケースに実証分析を進めている。また中国の大気汚染問題の実態
と政策課題について、環境経済学が提示する政策手段の適用性の評価など、政策提言を念頭に置
いた実践的研究を志向している。
東アジアの国際政治(国際関係論)および中国研究(地域研究)。中華人民共和国と世界との関
係に関心がある。かつて北京大学留学時代に外交史的研究に親しんだが、現在は中国の台頭をめぐ
る世界と地域の政治経済秩序の変動の分析に取り組んでおり、中国だけでなく関係各国の視点を
踏まえながら、中国の海の顔と陸の顔を追っているところである。
中東諸国、とりわけイラクの政治を専門に研究している。これまで、イスラーム主義運動に着目
して、イラク政治を分析してきた。現在は、ポスト・コンフリクト期の国家建設に興味を持っている
具体的には、国際社会による国家建設支援と、国内の政治的ダイナミズムがどのように連関し、そ
れが 新たな国家を建設するうえでいかなる問題を生み出しているのかを、イラク事例を中心に検
討している。
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教 員 紹 介
専攻は文化人類学。私は、現代社会における文化の様態とそれを研究する文化人類学が直面してい
る諸問題について考察している。そのような考察は、まず近代・西欧というある特定の「時間・場所」
に編成された知として文化人類学を歴史化する視点によって開始する。しかし、歴史化することの目
的は、現在から過去を裁くことではなく、新たな文化人類学の姿を語るためのスペースを構築すること
であるから、同時に文化人類学と隣接科学と境界を曖昧にしてゆく作業も行っている。
専攻は政治思想史、ドイツ思想史。19世紀後半から20世紀初頭にかけての転換期ヨーローッパ
における思想を、主としてその政治思想的意味という観点から究明することを課題とし、これまでは
テリッヒ、ディルタイ、ニーチェを研究対象としてきた。最近は、これらの思想家から学んだ諸々の主
題(歴史論、道徳論、権力論、解釈学、人間科学の方法論等)について、現在の議論を視野に入れつ
つ、歴史的のみならず理論的にも考察していきたいと考えている。
文化人類学。東アフリカ海岸部社会のフィールドワークを通じて、グローバル化のもとでの周辺
社会における文化的想像力のあり方について考察する。特定社会における宗教的諸観念、政治的イ
デオロギーを、言説空間における多様な想像力とそれに根ざした多様な実践の交錯という角度から
とたえる生態的なアプローチを試みる。
文化人類学専攻。ブラジル・アマゾンをはじめとするラテンアメリカにおけるフィールドワークを通
じて、憑依、
アフリカ系文化、先住民と国民国家、民衆文化、異種混淆性
(hybridity)
、近代性、芸術、モ
ニダニズムなどについて研究してきた。近年は、
アマゾン先史土器の復興から日本における縄文文化
の活用まで、
「先史文化の現代的利用」
について調査研究すると同時に、物質性
(materiality)
を焦点
化する
「物質性の人類学」
によって文化人類学を根底から構築し直すことに挑戦している。
数理モデルによる社会学理論の構築のほか、量的・質的データ分析法に関心があります。公共財
問題、地域紛争、社会階層と移動、役割論などいろいろつまみ食いしていますが、ミクロとマクロを
つなぐ双方向的な社会的メカニズムを解き明かすことが目標です。
近現代日本経済・経営史を専攻している。具体的には、
戦前期の石炭産業史及び財閥史に関わる研究を
行ってきた。石炭産業史については、
北海道地方における個別企業経営、
石炭カルテルの実態等を分析し
ている。石炭産業の中心に位置したのが財閥系の企業であり、
その産業構造の特質を把握するために財閥
史の研究も進めてきた。主に石炭販売・金融について、財閥という組織内における企業間関係の分析を
行っている。総じて
「個別の事例分析の積み上げによって全体像の構築を目指す」
スタイルをとっている。
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教員紹介
My research focuses on the nexus of gender, nation and state in modern Japan; on Japanese women's history
and feminist historiography in comparative perspective with Western developments and with particular emphasis
on the lay historian Takamure Itsue; on discourses of the pre-war and post-war women's movements and feminist
theory. My most current project is a comparative study of visual propaganda in Japan and Germany during World
War・,in which I examine the visual representations of gender,‘race’
and
‘culture’
in both countries.
大きな枠組で言えば社会学、その中で特に、マス・コミュニケーション論、情報化と社会変動、社
会理論、文化的再生産論、カルチュラル・スタディーズといったところを主要研究領域としています。
批判的、葛藤理論的な立場から、
「軽く」見える様々な現実の背後に確固として存在する社会的必
然性(法則性あるいは理論)に迫りたいと考えておりいます。
社会学、
カルチュラル・スタディーズ。記念碑、博物館、証言集などのマテリアルカルチャーを手が
かりに、社会的な記憶が生成させる過程を、
“Nation”
の
(再)
生産との関係で分析。特にヒロシマの被
爆の記憶について研究しており、被爆者から聴きとり調査を行っている。また、
「記憶」
「補償」
「償い」
な
どをキーワードに、植民地支配や戦争の暴力に曝された人たちが、いかにして回復へと向かうことが
可能なのか、
もしくは不可能なのかを考えている。暴力と表象の関係、
トラウマ研究にも関心がある。
専攻は近現代日本を対象とした経済史・経営史・社会史。中小・小零細企業(主に陶磁器業)に注
目しつつ、歴史的な位置づけや、それらを対象とした経済政策、貿易商社の果たした役割、技術導入
の過程などを研究してきた。また、エネルギー産業(主に水力や火力を中心とした電力業や石炭産
業)を対象として、近現代日本の経済発展を支えたメカニズムの分析も行っている。
科学史と科学哲学が専門です。なかでも、量子力学の哲学および量子力学初期の歴史を研究して
います。量子力学の正しさは実験的に証明され、それを生かした科学技術は私たちに恩恵をもたら
していますが、その一方で、量子力学がなにを意味するのかは直感的に理解しがたいものであり、そ
れを解明するのは「哲学」の仕事になります。私個人は、
「未来の状態が現在の状態に影響を与える
」という解釈をとることで、さまざまな問題が解決できると考え、研究を進めています。
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教 員 紹 介
18世紀フランス文学・思想、特に、ジャン=ジャック・ルソーを主な研究対象とする。彼の作品の中
でも、自伝的著作とされるものの分析に関心をもっている。またそこに現れる「個」と「全体」との関
係を考える中で、フランス現代思想、とりわけフーコーの権力論に興味を抱くようになってきている。
ディベート(Argumentation and Debate)におけるコミュニケーションの特徴や議論教育
との関係について研究と実践活動を行っている。ディベートとは、意見の相違を理解し合理的な議
論によって意思決定を目指すコミュニケーションのプロセスである。議論における論証や談話構造
の分析、ディベートの歴史や文化間比較、効果的な教育方法開発、等を大学院生と一緒に研究して
いきたいと考えている。http://www.flc.kyushu-u.ac.jp/inouen/ 参照。
近年は、第二言語(外国語としての日本語)の習得における情意的要因や、多言語社会における
言語政策や母語の維持について研究を行っています。
専門はドイツ文学およびドイツ社会文化思想史。主要な研究領域はドイツ啓蒙主義。現在特に関
心を寄せているのは18世紀の思想家ヘルダーの主著『人類歴史哲学考』における歴史記述の問題
や人類史における文化ならびに知の交流形態といった問題である。また当時の情報伝達の重要な手
段であった翻訳の問題にも興味がある。
専攻分野は日本語と中国語の対照研究。特に指示詞や人称代名詞の体系の研究。たとえば日本
語の指示詞の体系は三系統で、これは韓国語と同じである。それに対して中国語や英語では二系統
となっている。どうしてこのような違いがあるのか、またどうして同じ系統であっても実際の用例か
らみると様々な違いがあるのか、ということを調べている。また日本語や中国語の指示詞の系統
が、歴史的に見てどのように変化してきたか、ということにも興味を持っている。
専門は中国文学、日本漢字。唐から宋にかけての文学、特に唐宋八大家の一人である歐陽脩を中
心とした宋代文学を主な研究テーマとしている。また、
『 漢学紀源』を中心とした日本漢学や中国少数
民族
(土家族)
の文学を研究対象としている。
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教員紹介
専門は教育史・日本語教育学・多文化共生教育論。近年は日本語教育・留学生教育における日本
型「知の技法」の活用に関する研究のほか、地域社会における日本語支援と多文化理解教育に関す
る研究を行っている。また、研究成果を地域社会に還元すべく、学校、行政、NPO等との連携を軸に
社会連携活動を展開している。子どもの多文化共生教育にも関心がある。
社会言語学、対照言語学、特に意味・語用論を中心に研究を行っています。具体的には様々の言
語事象に対して意味・語用論的な説明を与える研究、更に日本語と他言語の丁寧戦略の相違や男女
差を社会言語学的な観点から分析しています。言語教育に役立つ言語学を目指しています。
専攻は日本近代文学、とくに芥川龍之介を中心とした小説研究。小説が文学に限らず種々の言説領
域を摂取し、自らを編みなす言説編成の様相を具体的な作品に即して考える作業を続けている。たと
えば芥川の歴史小説は古典の焼き直しと称されることも多いが、その古典の焼き直しが、なぜ現代小
説足り得たのであろうか。そうした問題に応じるために、その小説を同時代言説のネットワークの中に
置いて眺めてみるといった作業をしている。
専門はスペイン語学。これまでスペイン語における時制体系のあり様を研究してきた。その結果、スペイン
語の時制選択にあっては、各事態の理解において話し手が
「変化」
を認識するか否かが一つのポイントになる、
ということが分かってきている。現在は、
このようなスペイン語の時制体系のあり様を、スペイン語と系統を同
じくする言語、
また日本語のようにスペイン語とは系統も類型も異なる言語の時制体系と比較対照しながら言
語と時間の関係を、人間がその環境をいかに認知していくのか、
というより広い視点から考察している。
研究分野は、魯迅を中心とした中国近現代文学、日中比較文学、台湾文学などで、また中国近現
代作家の文章の翻訳紹介などにも取り組んでいる。中国文学と日本や欧米の文学が“共振”するこ
とで獲得し、変化させていったその「近代」の問題を、原資料を子細に繙く作業を通じて新たな視
点で捉え直すことを目標とする。最近の研究対象として、魯迅の散文詩集『野草』、徐玉諾、頼和、
芥川龍之介、タゴール、
『中国文学(月報)』、北京『晨報副刊』など。
外国語教育における教育方法論、言語情報処理論、さらに教育工学に関する研究を行っている。具
体的にはマルチメディア外国語学習教材が学習過程に及ぼす学習効果を測定し、学習者のインタラ
クションを分析することで、外国語学習のモデルが備えなければならない要素の解明に取り組んでい
る。また、日本語教育や韓国語教育の分野では、e-learning教材を開発し、教育現場での実用化を図
っている。
専門は第二言語習得論および英語教育学。特に、日本語母語話者による英語の統語構造の習得
を普遍文法の枠組みで解明することや東アジアにおける英語教育に関心があります。これまで主に
英語を対象として研究が進んできた第二言語習得論や言語教育学が日本語教育に対してどの程度
有効であるのか、また日本語を対象とすることで新たな展開があり得るのかということを追究した
いと思っています。
九州大学大学院 地球社会統合科学府
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昭和期のアヴァンギャルドに関する受容と変容について、安部公房を中心に研究してきたが、現在
は、1930年代の東アジアにおけるモダニズムについて調査、検討している。
教 員 紹 介
比較文学。日本近代文学を、西洋文学からの影響に注目しながら、読んでいる。とくに、実存主義や
象徴主義の要素を感じさせる作品に興味がある。日本近代詩の形成、異文化間におけるモチーフや
テーマの表現方法のちがい、翻訳、翻案といった問題にも関心がある。
第二言語習得、英語教育学を専門としています。その中でも特に
「日本人学習者はどのように英語を書くのか」
「
、英
語で書く力はどのように変化するのか」
という
「書き言葉の習得」
に関する問題を研究テーマとしています。英語による
文章作成過程では、語彙や文法など英語力そのものに加えて、
トピックやジャンルに関する知識、読み手や目的、文脈
などの修辞意識、母語での作文力など様々な変数が関与しています。こうした変数が英語で書く力にどう影響してい
るのかについて縦断的に調査し、得られた知見を教授法改善やカリキュラム開発に還元することを目指しています。
言語文化の統合教育、多文化社会における知識創造について知識科学の視点から研究している。知識科学と
は、
「知はいかに創造・共有・活用されるのか」
を問う学問である。言語文化を人間社会のコミュニケーションを支え
るダイナミックな知として捉え、多文化理解プロセスにおける言語文化の変容について調べている。主に参加型の
教室における多文化グループワークの事例研究、アクションリサーチなど質的調査法によって研究を進めている
が、その他、日本人学生と留学生の相互作用を重んじる日本語の学習システムの構築など量的調査も行っている。
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九州大学大学院 地球社会統合科学府
教員紹介
研究主題は、弥生時代の金属器とくに青銅器を中心素材として弥生文化の特性とその成因を解
明すること。青銅器の機能変化と他の文化要素の時間的変化との連動関係の検討による社会・政
治組織の変容の解明。弥生時代以降の国家形成過程の解明。古代国家形成に決定的影響を及ぼし
た7世紀後半から8世紀の対外関係を、都市構造の変化や仏教美術様式の時間的変化などから解明
することなど。
サンゴ礁地形とその形成史、熱帯浅海域の環境変遷史に関する研究を行っています。具体的に
は、マルチビーム測深機を用いた高精度三次元海底地形測量やSCUBA潜水等による地形研究、水
中ボーリング機を用いた掘削調査と元素分析装置を擁する電子顕微鏡(SEM-EDS)およびX線回
折装置等を用いた掘削コアの分析による地形形成史の復元、サンゴ年輪を用いた環境史の復元等
を実施しています。
研究上の主たる関心は日本の中近世移行期、つまり戦国時代から江戸時代の前半くらいまでの政
治・社会の動きを身分制の再編などを視野に入れつつ、統一的に把握することにあります。また、歴史
叙述の基本となる史料についても構造的、多角的に議論を展開していきたいと
「念願」
しております
が……。
永 島 広紀
専門は東洋史(韓国・朝鮮史学)、日韓関係史。特に前近代から近代にかけての東アジアにまつわ
る歴史資料(文化財・文献・旧慣等)の調査事業と「修史」をめぐるその史学史的な意義に関して研
究を進めている。また、
「帝国大学」をはじめとする高等教育システムと官僚制の連環構造、福岡・
博多を中心とする日本人の外地移住から引揚げに至る過程に関する史料収集と、現地でのフィール
ドワークに基づく実証的な考察を行っている。
私の研究の専門領域は考古学、なかでも社会考古学とよばれる領野です。過去の人間が営んだ
社会生活の内容・構造とその変動を現在において社会生活を営んでいる人間が探求するのが考古
学です。そのような意味で、考古学の研究とは社会生活の一領野であり、そこには考古学を研究する
人間、またその成果を享受する人間が埋め込まれた社会のありかたが投影されます。過去と現在を
行き来しつつ、過去の人間・現在の人間と社会との関わりを、社会の安定維持・変化のメカニズムの
探求を通じて解明することが、私の研究の究極の課題です。日本の弥生時代、イギリスの新石器・青
銅器時代が具体的な研究材料です。また、2014年1月から世界考古学会議(World Archaeological Congress)の第6代会長をつとめています。ともに研究できることを楽しみにしています。
九州大学大学院 地球社会統合科学府
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中国における農耕民と遊牧民の成立過程ならびにその後の文化接触について、新石器時代から
殷周時代にかけて考古学的な研究を行っている。また、東アジア諸地域における狩猟採集社会から
教 員 紹 介
農耕社会の成立、その後の農耕社会の発展に関して、総合的な法則性と諸地域間の変異について比
較研究を行っている。著書に『中国古代北疆史の考古学的研究』
(中国書店、2000)がある。
研究テーマは、①東アジア、特に日本に関する前近代・近代移行論。②前近代国家論をふまえた幕
末・維新期の天皇の上昇のメカニズム研究と近代天皇制における「心性」研究。③アントニー・スミス
などの歴史主義をふまえた日本ナショナリズム形成論。④筑後・肥前などの中間身分を素材として日
本における主従制の再検討。
専門は東南アジア政治。とりわけ、インドネシアの華僑・華人政策を題材に、アジアの国家形成と
地域秩序の変容について研究をしている。
また、バンコクを中心に都市化のもたらす政治変容について研究を進めている。
12~16世紀における日本列島と東アジア諸地域との交流の諸相を、
交流を媒介した僧侶や海商、
取り
交わされる文物や情報などの視座から研究している。近年は、
特に15~16世紀中葉における西日本最大
の地域権力・周防大内氏と東アジアとのかかわり、
中世日本最大の国際貿易港・博多をめぐる問題、
東アジ
アをまたいで成立した禅宗世界のあり方などに注目している。また、
水陸交通の結節点である東アジア海
域の港町について、
文献史料のみならず、
現地踏査などの情報も加味しつつ考察しようと考えている。
アジア・太平洋地域におけるアメリカ合衆国の歴史、日米関係史、近現代日本を中心とした東アジ
アの歴史、近現代沖縄史、在日朝鮮人史などに関して幅広く研究を進めている。そのなかで、第二次
世界大戦後の帝国の崩壊と冷戦の展開、とりわけアメリカによる占領を中心的なテーマとし、戦後
日本と東アジア諸国との国際関係構造に与えた影響について研究している。
トランスナショナルな人の移動による社会の再編成過程を研究している。具体的には先進国や東
アジアの少子高齢化に伴うケア労働者の移動を、グローバリゼーション、エスニシティ、ジェンダー
等の観点から考えている。また、国際協力や市民社会にも関心がある。
19世紀から20世紀にかけてのアジア地域における国家形成・建設、植民地統治、地域秩序形成
とその変容について、主に政治学、歴史学、国際関係論、地域研究の手法を用いて研究している。近
年は19世紀末から20世紀初頭にかけてのアジアでの近代国家建設を、他地域との比較をおこない
ながら、治安秩序維持や公衆衛生、住民登録、土地の登記など行政分野における情報収集活動に焦
点を当てて検討している。
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九州大学大学院 地球社会統合科学府
教員紹介
主に古人骨を資料として、形態の多様性と自然・文化環境との関連とその進化的メカニズムの解
明、人類の拡散・移動の歴史・特に縄文人など東・北東アジア先史集団がどのように南北アメリカ
先住民の起源と形成に関与したかについて研究している。また、生物学的人種概念の無効性、人種
差別、性・ジェンダー差別、アイヌ民族問題にも取り組んでいる。現在、3次元レーザースキャナーの
導入と3次元画像解析開発を計画している。
先史時代の金属器生産に関する研究を行っている。特に弥生時代の青銅器生産について、鋳型と
製品の両面から生産と流通、鋳造技術の解明を進めている。近年は出土した考古資料の地球科学
的手法を用いた分析や、近代陶磁器生産なども研究対象にしている。
専攻は日本考古学。古墳時代の日本列島における地域間関係、社会組織の変化過程に関する考
古学的な研究を行っている。現在は特に東アジア世界の中の日本列島という視点から、古墳時代開
始期における列島規模での威信財システムの成立・展開過程について分析を進めている。
中国雲南省徳宏地域での民族と宗教に関する調査を通して、中国における近代化の意味を、市井
の人々の暮らしの視点から、主に文化人類学的手法で研究している。伝統芸能の近代的意味付けに
関する日中比較研究にも関心がある。
日本と東アジア近代史、特に植民地朝鮮と傀儡国家「満州国」の教育・言語政策を研究する。教
科書と教育雑誌の分析によって学校普及、日本語普及、同化政策の問題を検討する。また植民地社
会問題、内地の教育問題を検討する。
講師
専攻は人骨考古学。通過儀礼と社会進化の関係について研究を行っている。現在の研究課題は列
島を中心としたアジア地域における儀礼と社会変容についてである。古人骨やその出土状況から得
られる情報をもとに、身体加工を伴う通過儀礼や墓地遺跡から復元可能な葬送儀礼などの諸通過
儀礼と社会の時間的・空間的変容の関係について明らかにし、通過儀礼と社会変容に関するモデル
化を進めている。
九州大学大学院 地球社会統合科学府
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2016
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